説明

4ストロークエンジン用の低灰分潤滑剤組成物

【課題】4ストロークエンジン用の低SAPSおよび省燃費性を備えた潤滑剤組成物およびそのパッケージ添加剤を提供する。
【解決手段】本発明の潤滑剤組成物は、a)API分類のグループ1〜5の基油類と、b)100℃での動粘度が75〜3000cStである重質ポリαオレフィン系化合物および/またはポリイソブテン系化合物と、c)式:R(OH)(COOR’(OH)で表されるエステルまたはそのホウ酸誘導体(式中、mは0〜8;nは1〜8;pは0〜8;p+mは少なくとも0を超えており;RおよびR’は、互いに独立して、炭素数1〜30の飽和性または不飽和性の直鎖または分岐鎖の炭化水素基であり、任意で、少なくとも1種の芳香族基で置換されている)とを含み、ASTM規格に従い測定される硫酸灰分が0.5%以下、リン分が500ppm以下、さらに、硫黄分が0.2%未満である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた清浄性を有し、かつ、燃費の向上に貢献する4ストロークエンジン用の低灰分潤滑剤組成物に関するものであり、この低灰分潤滑剤組成物は、少なくとも1種のヒドロキシ化されたエステルまたはその誘導体を含む。
【背景技術】
【0002】
環境に対する懸念により、車両からの汚染物排出の低下および燃料の節約がますます求められている。エンジンの潤滑剤の性状は、これらの要件のいずれにも影響する。
【0003】
また、摩擦軽減を担う潤滑剤の挙動は、燃費に影響する。これは、主に、潤滑剤基剤単独の品質か、または潤滑剤基剤と添加剤の組合せ(粘度指数を改良するポリマーと潤滑剤に《省燃費》性を付与する摩擦調整剤)の品質に起因する。
【0004】
また、エンジン潤滑剤の一部は燃料と混ざるので、燃焼後の車両の排気ガスには潤滑剤のある種の成分が含まれることがある。これらの成分(詳細には、ある種の添加剤)は、硫黄、リン、硫酸灰分など、車両に搭載された後処理システムを損傷する物質を形成しかねない。灰分は、粒子フィルタにとって有害であり、さらに、リンは触媒システムの触媒毒となる。
【0005】
したがって、エンジンの用途に応じて、潤滑剤の配合(潤滑剤基剤の選択や添加剤の選択)を適宜変更する必要がある。自動車エンジンの場合、ある種の規格に準じて特別に配合された潤滑剤、特に、欧州自動車工業会(ACEA)によって定められた、低灰分(いわゆる《低SAPS》)のACEA−C4規格や(いわゆる《低SAPS》且つ《省燃費》の)ACEA−C1規格に準じて特別に配合された潤滑剤を使用するのが好ましいとされる。これらの規格は、潤滑剤における硫酸灰分(金属の存在で生じる)、硫黄およびリンの限界含有量を課すものである。ここで、《低SAPS》とは、《硫酸灰分、リン、硫黄》の含有量が低いことを表す。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、エンジン用の潤滑剤において、必要とされる高水準の性能を維持しながら灰分、硫黄およびリンの含有量を減少させるのは困難である。というのも、これらの物質は、今日使用されているほとんどの基油および添加剤に含まれているからである。
【0007】
例えば、二次的な酸化生成物や燃焼生成物を溶解することで金属部品の表面にデポジットが形成するのを防ぎ、エンジンオイルを配合する際の重要な化合物とされる清浄剤は金属を含んでおり、そのため灰分を生じる。一般的な清浄剤として、アルカリ土類金属(カルシウム、マグネシウムなど)を有するスルホネート系、フェネート(フェノラート)(フェノキシド)系やサリチレート系の清浄剤またはこれらの過塩基性清浄剤が挙げられる。
【0008】
エンジン部品への十分な清浄性を維持しながらも、灰分を低下させるために潤滑剤組成物中の清浄剤の含有量を減らしたい場合、潤滑剤に含まれる他の成分の、デポジット形成を最小限に抑える能力に注目する必要がある。
【0009】
清浄剤の含有量を減らしつつも良好な清浄性を維持し、優れた省燃費性を達成することのできる低灰分潤滑剤を得る1つの可能性として、特殊な鉱物系基油または合成基油を使用することが挙げられる。
【0010】
これらの基油は、一般的な基油に比べて、優れた耐温度性及び耐酸化性の利点を備えているので、デポジットの形成を最小限に抑えることができる。したがって、潤滑剤中の清浄剤による処理レベルを下げることができ、これと共に灰分も減少する。
【0011】
また、これらの基油は高い粘度指数(VI)を自然に有しているので、優れた省燃費性を持つ潤滑剤を得ることができ、それにより、潤滑剤のデポジットを形成するとともに、粘度指数を改良するポリマーの量を減らすこともできる。
【0012】
さらに、前記特殊な鉱物系基油は、集中的な水添処理を受けるので、一般的な鉱物系基油よりも硫黄分が比較的低い。また、前記特殊な合成基油の場合は硫黄を含まない。よって、これらの基油は、ACEA規格が課す硫黄の限界含有量を容易にクリアすることができる。
【0013】
前記《特殊な鉱物系基油》とは、米国石油協会(API)の分類に基づくグループ3の基油に属し且つ高い粘度指数(一般的に130を超える)を有する基油(一般的に《グループ3+基油》と規定されている)か、または、GTL(ガストゥリキッド)プロセスで得られた基油のことをいう。
【0014】
いわゆる《グループ3+基油》の特殊な鉱物系基油は、低温特性が改善し、低揮発性が得られ、かつ、粘度指数が130を超えるように調製される。
【0015】
前記特殊な鉱物系基油は、水素化異性化基油である。この水素化異性化基油は、水素化分解処理の残渣から調製されてもよく、任意で蝋(ろう)または粗ろう(スラックワックス)が添加され、触媒を用いた集中的な脱パラフィン処理に供したものとしてもよい。以降の説明において、特記しない限り、《グループ3の基油類》はAPI分類に基づくグループ3の任意の種類の鉱物系基油を指し、「グループ3の特殊な基油」または「グループ3の基油」は、グループ3の基油類であって粘度指数が130を超えるものを指す。
【0016】
前記合成基油は、例えば、ポリαオレフィン(PAO)、エステル、ポリ内部オレフィン(それぞれ、API分類に従うと、グループ4、グループ5、グループ6に属する)である。
【0017】
しかしながら、前述した利点を有する一方、前記グループ3+基油の基油には多段階の複雑な精製工程が必要であり、また、グループ4および5の基油には合成工程が必要なことから、コストおよび入手容易性に対する影響は否めない。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明は、4ストロークエンジン用の低SAPSおよび省燃費性を付与できる潤滑剤に関するものであり、この潤滑剤に含まれる一連の添加剤により、使用可能な潤滑剤基油類の数が増加する(特に、一般的なグループ3の基油類を使用できるようになる)。
【0019】
本発明の目的は、複数の種類の添加剤を含んだ4ストロークエンジン用の潤滑剤組成物を提供することであり、前記複数の種類の添加剤は、灰分、硫黄およびリンを最小限に抑えることができ、この種の用途で一般的に利用されている添加剤に部分的にまたは完全に取って替わることができる。また、その添加剤同士の共同作用により、最適な清浄性および省燃費性を維持しつつ、灰分、硫黄分、リン分などを低くまたは極めて低く抑えることができる。なお、本明細書において、潤滑剤の清浄性を《維持》する、または潤滑剤の清浄性が《向上》するとは、特に、清浄剤の含有量を変えずとも、潤滑剤中の他の成分によるデポジットの形成(特に、高温デポジットの形成)を抑えることができるということを意味する。
【0020】
本発明にかかる組成物は、4ストロークエンジン用の潤滑剤組成物であって、a)API分類のグループ1〜5のオイル、好ましくは、グループ3または4のオイルから選択される少なくとも1種の基油類と、b)100℃での動粘度が75〜3000cStである重質ポリαオレフィン(PAO)からなる群から選択される少なくとも1種のPAO化合物(b)および/またはポリイソブテン(PIB)系の高分子化合物からなる群から選択される少なくとも1種のPIB化合物(b)と、c)式:R(OH)(COOR’(OH)で表されるエステルからなる群から選択される少なくとも1種のエステルまたはそのホウ酸誘導体(式中、mは0〜8、好ましくは1〜4の整数であり;nは1〜8、好ましくは1〜4の整数であり;pは0〜8、好ましくは1〜4の整数であり;p+mは少なくとも0を超えており;RおよびR’は、互いに独立して、炭素数1〜30の飽和または不飽和の直鎖または分岐鎖の炭化水素基であり、任意で、少なくとも1種の芳香族基で置換されている)とを含み、ASTM D874規格に従い測定される硫酸灰分が0.5%以下であり、ASTM D5185規格に従い測定されるリン分が500ppm以下であり、ASTM D5185規格に従い測定される硫黄分が0.2%未満である。
【0021】
好ましい一実施形態において、エステル(c)は、R基に、少なくとも1つの遊離のヒドロキシ残基を有しており、前記OH基は、R基が結合するエステル部位のCO官能基の炭素原子から数えて前記R基のα位、β位またはγ位に位置しており、および/またはR’基に、少なくとも1つの遊離のヒドロキシ残基を有しており、前記OH基は、R’基が結合するエステル部位のCOO基の酸素原子から数えて前記R’基のβ位、γ位またはδ位に位置している。
【0022】
好ましくは、エステル(c)のR’基はC〜C10、より好ましくは、C〜Cである。
【0023】
一実施形態において、pは少なくとも0を超えており、エステル(c)のR基はC〜C25、より好ましくは、C12〜C18である。
【0024】
好ましくは、少なくとも1種のエステル(c)は、グリセロールのモノエステル、ジエステルまたはそれらのホウ酸誘導体から選択され、好ましくは、グリセロールモノオレート類、グリセロールステアレート類、グリセロールイソステアレート類またはそれらのホウ酸誘導体から選択される。
【0025】
一実施形態において、nは1〜4の整数であり、エステル(c)のR基はC〜C、好ましくは、C〜Cである。
【0026】
好ましくは、少なくとも1種のエステル(c)は、シトレート類、タルトレート類、マレート類、ラクテート類、マンデレート類、グリコレート類、ヒドロキシプロピオネート類、ヒドロキシグルタレート類またはそれらのホウ酸誘導体から選択される。
【0027】
好ましくは、本発明にかかる組成物は、M111FE試験で測定される最低燃費向上率が少なくとも2.5%であり、かつ、欧州自動車工業会が定めるACEA−C1規格を満たしている。
【0028】
好ましい一実施形態において、前記組成物は、ASTM D445規格で測定される100℃での動粘度が5.6〜16.3cSt、好ましくは、9.3〜12.5cStである。
【0029】
好ましい一実施形態において、前記組成物は、SAE J300分類によると5W30グレードに相当する。
【0030】
好ましい一実施形態において、前記組成物は、粘度指数が130以上、好ましくは150を超えており、より好ましくは、160を超えている。
【0031】
好ましい一実施形態において、前記組成物中の基油類または基油類の混合物(a)(基油類(a)または基油類(a)の混合物)は少なくとも70重量%に達する。
【0032】
好ましい一実施形態において、前記組成物中の基油類または基油類の混合物(a)は、少なくとも1種のグループ3の基油類を、当該潤滑剤組成物の総重量に対して少なくとも60重量%、および少なくとも1種のグループ4の基油類を、当該潤滑剤組成物の総重量に対して少なくとも10重量%を含んでいる。
【0033】
好ましい一実施形態において、前記組成物中の少なくとも1種の化合物(b)は、重質ポリαオレフィン(PAO)からなる群から選択されるPAO化合物と、ポリイソブテン(PIB)系の高分子化合物からなる群から選択されるPIB化合物とで構成される。
【0034】
好ましい一実施形態において、前記組成物は、少なくとも1種の化合物(b)を0.1〜6%、好ましくは2〜4%含み、少なくとも1種の化合物(c)を0.1〜2.5%、好ましくは0.5〜1.5%含んでいる。
【0035】
好ましい一実施形態において、前記組成物は、さらに、少なくとも1種のジチオリン酸亜鉛系の耐摩耗剤化合物、および、任意で、アミンリン酸塩類を含んでいる。
【0036】
好ましい一実施形態において、前記組成物には、少なくとも1種のジチオリン酸亜鉛系の耐摩耗剤化合物が1%以下、好ましくは0.5%以下含まれている。
【0037】
好ましい一実施形態において、前記組成物は、アミンリン酸塩系の添加剤を含まない。
【0038】
好ましい一実施形態において、前記組成物は、モリブデン系の摩擦調整剤を含まない。
【0039】
好ましい一実施形態において、前記組成物は、さらに、少なくとも1種の酸化防止剤化合物を含み、前記酸化防止剤化合物は、好ましくは灰分を形成せず、また好ましくはフェノール系またはアミン系である。
【0040】
好ましい一実施形態において、前記組成物には、少なくとも1種の酸化防止剤が0.01〜5%含まれている。
【0041】
好ましい一実施形態において、前記組成物は、ASTM D−2896規格に従い測定される塩基価(BN)が組成物中8mgKOH/g、好ましくは6.5mgKOH/gである。
【0042】
好ましい一実施形態において、前記組成物は、さらに、粘度指数改良ポリマー(粘度指数向上ポリマー)を0〜3%、好ましくは0〜2.5%含み、前記粘度指数改良ポリマーは、高分子エステル;オレフィン系コポリマー(OCP);スチレン、ブタジエンまたはイソプレンのホモポリマーまたはコポリマー;およびポリメタクリレート(PMAs)からなる群から選択されたものである。
【0043】
本発明の他の目的は、本発明にかかる組成物を製造する方法に関し、この製造方法では、基油類または基油類の混合物(a)に、少なくとも1種の化合物(b)および少なくとも1種の化合物(c)を含むパッケージ添加剤を希釈して、任意で、粘度指数改良ポリマーを添加する。
【0044】
好ましい一実施形態において、パッケージ添加剤は潤滑剤組成物の10〜30重量%、好ましくは15〜20重量%になるように希釈され、粘度指数改良ポリマーが潤滑剤組成物の0〜3重量%添加される。
【0045】
本発明のさらなる他の目的は、4ストロークエンジン用の潤滑剤に使用されるパッケージ添加剤に関する。このパッケージ添加剤は、前記潤滑剤が、ASTM D874規格に従い測定される硫酸灰分が0.5%以下であり、ASTM D5185規格に従い測定されるリン分が500ppm以下であり、ASTM D5185規格に従い測定される硫黄分が0.2%未満であるパッケージ添加剤であって、前記パッケージ添加剤は、
重質ポリαオレフィン(PAO)からなる群から選択される少なくとも1種の化合物(b)および/またはポリイソブテン(PIB)系からなる群から選択される少なくとも1種のPIB化合物(b)と、
少なくとも1種のヒドロキシ化されたエステル(c)とを含み、
さらに、任意で、耐摩耗・極圧剤、摩擦調整剤、清浄剤または過塩基性の清浄剤、酸化防止剤、流動点降下剤、分散剤、消泡剤、増ちょう剤、粘度指数改良ポリマーが含まれている。
【0046】
好ましくは、前記パッケージ添加剤は、重質ポリαオレフィン(PAO)からなる群から選択され、任意で、ポリイソブテン(PIB)が含まれる少なくとも1種の化合物(b)を0.5〜30重量%、より好ましくは10〜25重量%含み、少なくとも1種のヒドロキシ化されたエステル(c)を0.5〜15重量%、より好ましくは2.75〜8.75重量%含んでいる。
【0047】
本発明のさらなる他の目的は、本発明にかかる潤滑剤組成物の、4ストロークエンジン用の潤滑剤としての使用に関する。
【0048】
本発明のさらなる他の目的は、式:R(OH)(COOR’(OH)で表されるエステルからなる群から選択される少なくとも1種のエステルまたはそのホウ酸誘導体の、4ストロークエンジン用の潤滑剤組成物を調製する上での摩擦調整剤としての使用(式中、mは0〜8、好ましくは1〜4の整数であり;nは1〜8、好ましくは1〜4の整数であり;pは0〜8、好ましくは1〜4の整数であり;p+mは少なくとも0を超えており;RおよびR’は、互いに独立して、炭素数1〜30の飽和または不飽和の直鎖または分岐鎖の炭化水素基であり、任意で、少なくとも1種の芳香族基で置換されている)に関し、当該使用において、前記潤滑剤組成物は、ASTM D874規格に従い測定される硫酸灰分が0.5%以下であり、ASTM D5185規格に従い測定されるリン分が500ppm以下であり、ASTM D5185規格に従い測定される硫黄分が0.2%以下である。
【発明を実施するための形態】
【0049】
本発明にかかる4ストロークエンジン用の潤滑剤組成物は、ASTM D874規格に従い測定される硫酸灰分が0.5%以下であり、ASTM D5185規格に従い測定されるリン分が500ppm以下であり、ASTM D5185規格に従い測定される硫黄分が0.2%未満である。
【0050】
好ましくは、本発明にかかる組成物は、軽量車両用のガソリンエンジンオイルおよびディーゼルエンジンオイルに関して欧州自動車工業会が定めたACEA−C4規格に属し、好ましくはACEA−C1規格に属する。
【0051】
以下の表は、ACEA規格によって要求される硫黄分、リン分、硫酸灰分および省燃費性能をまとめたものである。
【0052】
【表1】

【0053】
一実施形態において、本発明にかかる組成物は、硫酸灰分が0.30%以下、好ましくは0.25%以下であり、リン分が300ppm以下、好ましくは200ppm未満である。
【0054】
[1)基油類または基油類の混合物(a)]
本発明にかかる潤滑剤組成物は、少なくとも1種の基油類を一般的に少なくとも約50重量%、好ましくは約70重量%超、さらに好ましくは90重量%以上含む。
【0055】
本発明にかかる組成物に用いられる少なくとも1種の基油類は、API分類に定められたグループ1〜5(またはATIEL(欧州潤滑油協会)分類に基づく等価物)もしくはこれらの混合物の鉱物由来のオイル(鉱物油)または合成オイル(合成油)としてもよい。
【0056】
【表2】

【0057】
前記基油類は、植物由来、動物由来または鉱物由来であってもよい。本発明にかかる鉱物系の基油類には、原油を常圧蒸留や減圧蒸留し、その後、溶剤抽出、脱アスファルト、溶剤脱ろう、水添処理、水素化分解・水素化異性化、水素化仕上げなどの精製工程に通すことで得られるあらゆる種類の基油類が含まれる。
【0058】
本発明にかかる組成物の基油類は、カルボン酸類とアルコール類とのエステル、ポリαオレフィンなどの合成油であってもよい。ポリαオレフィン(本発明にかかる組成物に含まれる重質ポリαオレフィン(b)とは異なる)を基油類として用いる場合、前記ポリαオレフィンは、例えば、炭素数が4〜32(例えば、オクテン、デセンなど)であるモノマーから得られ100℃での動粘度が1.5〜15cStである。一般的に、前記ポリαオレフィンの重量平均分子量は250〜3000である。
【0059】
合成油と鉱物油の混合物を用いてもよい。
【0060】
本発明にかかる組成物を調製するために用いられる基油類としては、その量および性状の調整しだいで、前記組成物がASTM D5185規格に従い測定される硫黄分0.2%未満且つ4ストロークエンジンオイルの用途に適合した粘度グレード(粘度等級)および粘度指数を具備できるかぎり、制限はない。
【0061】
好ましくは、本発明にかかる組成物は、ASTM D445規格で測定される100℃での動粘度が5.6〜16.3cSt(SAEグレード20、30および40に相当)、好ましくは、9.3〜12.5cSt(SAEグレード30に相当)である。特に好ましい一実施形態において、本発明にかかる組成物は、SAE J300分類によると5W30グレード(等級)に相当する。
【0062】
好ましくは、本発明にかかる組成物の粘度指数は130を超え、好ましくは150を超えており、より好ましくは、160を超えている。
【0063】
潤滑剤の硫黄分は、使用する基油類の硫黄分に大きく影響される。よって、硫黄分が0.3%未満の鉱物油(例えば、グループ3の鉱物油)や硫黄分を含まない合成基油(好ましくはグループ4の基油類)の使用、またはこれらの混合物の使用が好都合である。
【0064】
以上を踏まえて、本発明にかかる組成物は、基油類を少なくとも70%、好ましくは、少なくとも1種のグループ3の基油類を少なくとも約60重量%、および少なくとも1種のグループ4の基油類を少なくとも約10重量%含むものとされてもよい。
【0065】
[2)化合物(b):《重質》ポリαオレフィン(PAO)またはポリイソブテン(PIB)]
本発明にかかる組成物に配合される《重質》ポリαオレフィン(PAO)系の化合物、すなわち《高粘度》ポリαオレフィン系のPAO化合物(b)は、ASTM D445に従い測定される100℃での動粘度が75〜3000cSt、好ましくは150〜1500cSt、より好ましくは300〜1200cStであるポリαオレフィンからなる群から選択される。
【0066】
好ましくは、前記《重質》ポリαオレフィンの数平均分子量Mnは2500を超え、より好ましくは3000〜20000であり、さらに好ましくは3000〜10000であり、なおいっそう好ましくは3000〜7000である。
【0067】
一般的に、前記《重質》ポリαオレフィンの重量平均分子量Mwは約4000〜約50000であり、その多分散度(分子量分布)Mw/Mnは約1.1〜5またはそれ以上である。
【0068】
前記《重質》ポリαオレフィンは、例えば、オクテン、デセン、ドデセン、テトラデセン、ヘキサデセンなどのモノマーから得られるホモポリマーまたはコポリマーか、または他の種類のオレフィンとのコポリマーである。
【0069】
本発明にかかる組成物において、前記《重質》ポリαオレフィンは単独でも混合物としても用いられてよい。
【0070】
(ポリイソブテン(PIB)系の化合物(b))
本発明にかかる組成物に配合されるポリイソブテン(PIB)系のPIB化合物(b)は、油溶性の液状高分子化合物である。一般的に、その重量平均分子量Mwは800を超え、好ましくは800〜8000であり、通常1500〜7000である。好ましくは、100℃での動粘度は1000〜6000cSt(ASTM D445に従い測定)である。
【0071】
一般的に、本発明にかかるポリイソブテン(PIB)は、重量平均分子量が2000〜5000であり、かつ、100℃での動粘度が3000〜4500cStである。
【0072】
本発明にかかる組成物は、上述した重質ポリαオレフィン(PAO)からなる群から選択される少なくとも1種のPAO化合物および/または上述したポリイソブテン(PIB)系の高分子化合物からなる群から選択される少なくとも1種のPIB化合物を含む。
【0073】
これらの化合物(b)は、単独でまたは組合せで、従来の基油類が配合されたエンジン用潤滑剤中のデポジットを通常形成する粘度指数改良ポリマーと完全にまたは部分的に置き換わることができる。これにより、清浄剤の含有量を減らすことが可能になる。ただし、低温挙動に乏しいので、省燃費性は若干低下する。
【0074】
[3)ヒドロキシ化されたエステル]
本発明にかかる組成物は、さらに、式:R(OH)(COOR’(OH)で表されるエステルからなる群から選択される少なくとも1種のエステルまたはそのホウ酸誘導体(式中、mは0〜8、好ましくは1〜4の整数であり;nは1〜8、好ましくは1〜4の整数であり;pは0〜8、好ましくは1〜4の整数であり;p+mは少なくとも0を超えており;RおよびR’は、互いに独立して、炭素数1〜30の飽和または不飽和の直鎖または分岐鎖の炭化水素基であり、任意で、少なくとも1種の芳香族基で置換されている)を含む。
【0075】
好ましい一実施形態において、前記エステル(c)は、R基に、少なくとも1つの遊離のヒドロキシ残基を有しており、前記OH基は、R基が結合するエステル部位のCO官能基の炭素原子から数えて前記R基のα位、β位またはγ位に位置しており、および/またはR’基に、少なくとも1つの遊離のヒドロキシ残基を有しており、前記OH基は、R’基が結合するエステル部位のCOO基の酸素原子から数えて前記R’基のβ位、γ位またはδ位に位置している。
【0076】
好ましくは、前記R’基はC〜C10、好ましくは、C〜Cである。
【0077】
好ましくは、前記R基はC〜C25、好ましくは、C12〜C18である。
【0078】
一実施形態において、前記pは少なくとも0を超えており、前記エステル(c)のR基はC〜C25、好ましくは、C12〜C18である。
【0079】
一実施形態において、前記nは1〜4の整数であり、前記エステル(c)のR基はC〜C、好ましくは、C〜Cである。
【0080】
前記ヒドロキシ化されたエステル(c)は、グリセロールのモノエステル、ジエステルまたはそれらのホウ酸誘導体から選択されてよく、例えば、グリセロールモノオレート類、グリセロールステアレート類、グリセロールイソステアレート類またはそれらのホウ酸誘導体から選択されてよい。
【0081】
前記ヒドロキシ化されたエステル(c)は、シトレート類、タルトレート類、マレート類、ラクテート類、マンデレート類、グリコレート類、ヒドロキシプロピオネート類、ヒドロキシグルタレート類またはそれらのホウ酸誘導体から選択されてよい。
【0082】
驚くべきことに、従来の基油類に対して化合物(b)および化合物(c)を配合することにより、たとえ清浄剤の含有量が抑えられていても、優れた清浄性及び省燃費性を達成可能なエンジン用潤滑剤を処方できることが判明した。このようにして、良好な清浄性を維持したまま、省燃費性および低SAPSを有するエンジン用潤滑剤を得ることができる。
【0083】
本発明にかかる組成物は、例えば、少なくとも1種の化合物(b)を0.1〜6%、好ましくは2〜4%含み、少なくとも1種の化合物(c)を0.1〜2.5%、好ましくは0.5〜1.5%含むものとしてもよい。
【0084】
本発明にかかる式:R(OH)(COOR’(OH)で表されるエステルは、当業者に公知の方法によって調製され、特に、式:R(OH)(COOH)で表されるカルボン酸と式:R’(OH)で表されるアルコールとを反応させることで調製される(置換基RおよびR’ならびに係数mおよびnについては前述を参照されたい)。
【0085】
[4)他の添加剤]
本発明にかかる組成物は、さらに、4ストロークエンジンオイルの用途に適したあらゆる種類の添加剤を含んでいてもよい。これらの添加剤は、当業者にとって周知のACEA(欧州自動車工業会)および/またはAPI(米国石油協会)が定める性能レベルを具備した4ストロークエンジン用の潤滑剤であってよく、これらの添加剤は別々に投入してもよいし、および/または予め配合されたパッケージ添加剤としてもよい。
【0086】
つまり、本発明にかかる組成物には、特に、耐摩耗・極圧剤、摩擦調整剤、清浄剤または過塩基性の清浄剤、酸化防止剤、粘度指数改良ポリマー、流動点降下剤、分散剤、消泡剤、増ちょう剤などが含まれてよいが、これらに限定されない。
【0087】
(耐摩耗・極圧剤)
耐摩耗・極圧剤は、摩擦面に吸着されて保護膜を形成してその摩擦面を保護する。今日最もよく利用されている耐摩耗・極圧剤は、ジチオリン酸亜鉛(DTPZn)類である。耐摩耗・極圧剤として、他にも、様々なリン化合物、硫黄化合物、窒素化合物、塩素化合物およびホウ素化合物が挙げられる。
【0088】
豊富な種類の耐摩耗剤が存在するが、エンジン用オイルで最もよく利用されているのは、アルキルチオリン酸金属塩(特に、アルキルチオリン酸亜鉛類、特には、ジアルキルジチオリン酸亜鉛類またはDTPZn)などのリン−硫黄系の耐摩耗剤である。好ましいジアルキルジチオリン酸亜鉛類は、式:Zn((SP(S)(OR1)(OR2))2(式中、R1およびR2はアルキル基であり、好ましくは炭素数1〜18のアルキル基である)で表される化合物である。DTPZnは、一般的に、エンジン用オイルに対して約0.1〜約2重量%存在する。
【0089】
今日利用されている耐摩耗剤として、他にも、アミンリン酸塩類が挙げられる。
【0090】
しかしながら、これらの耐摩耗剤中のリンは、自動車の触媒システムの触媒毒となるのみでなく、灰分も形成する。これらの影響は、そのような耐摩耗剤を、リンを含まない添加剤(例えば、ポリスルフィド、特に、硫黄含有オレフィン類)に部分的に置き換えることで最小限に抑えることができる。
【0091】
また、潤滑剤組成物では、灰分を形成する窒素および硫黄を含有する耐摩耗・極圧剤も一般的に利用されており、例えば、ジチオカルバミン酸金属塩類、特に、モリブデンジチオカルバメート類が挙げられる。
【0092】
グリセロールのエステルも、耐摩耗剤である。例えば、モノオレエート類、ジオレエート類、トリオレエート類、モノパルミテート類、モノミリステート類などが挙げられる。
【0093】
耐摩耗・極圧剤は、エンジン用潤滑剤組成物において、例えば、0.01〜6%、好ましくは0.01〜4%含まれる。
【0094】
本発明にかかる組成物では、ヒドロキシ化されたエステルまたは多価アルコール系エステル(c)により、硫黄含有添加剤、リン/硫黄含有添加剤、窒素含有添加剤、チオリン酸塩系添加剤の量およびリン酸塩の量が抑えられるので、4ストロークエンジン用オイルの用途に耐えうる性能を維持したまま、ACEA−C規格やACEA−C2規格に沿うかたちで、硫酸灰分、硫黄分、リン分を減少させることができる。
【0095】
本発明にかかる潤滑剤組成物は、DTPZnおよび/または他種の耐摩耗・極圧剤を含んでいてもよく、その場合、その量は、潤滑剤組成物全体で、ASTM D874規格に従い測定される硫酸灰分が0.5%未満であり、ASTM D5185規格に従い測定されるリン分が500ppm未満であり、ASTM D5185規格に従い測定される硫黄分が0.2%未満となるような量であればよい。
【0096】
本発明にかかる潤滑剤組成物がDTPZnを含む場合、前記DTPZnの量は、1重量%以下、好ましくは0.5重量%以下でもよい。また、本発明にかかる潤滑剤組成物は、リンを有する添加剤、(例えば、アミンリン酸塩)を全く含まないものであってもよい(すなわち、0重量%)。
【0097】
(摩擦調整剤)
4ストロークエンジン用の潤滑剤組成物に摩擦調整剤を配合する場合、前記摩擦調整剤は、金属元素を含む化合物であってもよいし、灰分を形成しない化合物であってもよい。モリブデンスルフィド類、グラファイトまたはポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などの固体化合物も挙げられる。
【0098】
金属化合物系の摩擦調整剤として、Mo、Sb、Sn、Fe、Cu、Znなどの遷移金属の錯体が挙げられ、前記錯体は、酸素原子、窒素原子、硫黄原子またはリン原子を含む炭化水素化合物を配位子とし得る。詳細には、例えば、モリブデンジチオカルバメート、モリブデンジチオフォスフェートなどのモリブデン含有化合物が特に効果的である。
【0099】
灰分を形成しない摩擦調整剤として、例えば、脂肪アルコール、脂肪酸、エステル、脂肪アミンなどが挙げられる。
【0100】
前記摩擦調整剤は、一般的に、エンジン用潤滑剤に0.01〜5%、好ましくは0.01〜1.5%含まれる。
【0101】
本発明にかかる組成物では、ヒドロキシ化されたエステルまたは多価アルコール系エステル(c)により、硫酸灰分、リンおよび硫黄を形成する摩擦調整剤の量を抑えられるので、4ストロークエンジン用オイルの用途に耐えうる性能を維持したまま、例えば、ACEA−C1規格やACEA−C4規格に沿うかたちで、硫酸灰分、硫黄分、リン分を減少させることができ、好ましくは、ACEA−C1規格を満たすように省燃費性または燃費向上を達成することができる。
【0102】
本発明にかかる組成物は、灰分を形成する摩擦調整剤(例えば、モリブデン系の摩擦調整剤)を含まないものであってもよい。
【0103】
しかしながら、本発明にかかる潤滑剤組成物は、あらゆる種類の摩擦調整剤を含んでいてもよく、かつ、その量は、潤滑剤組成物全体で、ASTM D874規格に従い測定される硫酸灰分が0.5%以下であり、ASTM D5185規格に従い測定されるリン分が500ppm以下であり、ASTM D5185規格に従い測定される硫黄分が0.2%以下となるような量であればよい。
【0104】
(酸化防止剤)
酸化防止剤は、デポジットの形成、スラッジの発生やオイル粘度の上昇などといった、使用の際のオイルの劣化を遅延させるものである。酸化防止剤は、ラジカル阻害剤またはヒドロペルオキシド分解剤として作用する。現在利用されている酸化防止剤として、アミノ基を有するフェノール系の酸化防止剤が挙げられる。一部の酸化防止剤(例えば、リン−硫黄系の酸化防止剤)は灰分を形成し得る。
【0105】
フェノール系の酸化防止剤は、灰分を形成しないものであってもよいし、中性金属塩または塩基性金属塩の形態のものでもよい。一般的に、フェノール系の酸化防止剤は、立体障害を生じるヒドロキシ基を含む化合物であり、これは、例えば、2つのヒドロキシ基が互いにオルトまたはパラの位置に存在する場合、またはフェノールが、炭素数が少なくとも6のアルキル置換基を有する場合に発生する。
【0106】
酸化防止剤はアミン系化合物であってもよく、任意で、フェノール化合物との組合せとして使用することもできる。典型的な例として、式:R10Nで表される芳香族アミンが挙げられる(式中、Rは脂肪族基または任意で置換基を含む芳香族基であり、Rは任意で置換基を含む芳香族基であり、R10は水素、アルキル基、アリール基または式:R11S(O)12で表される基(式中、R11はアルキレン基、アルケニレン基またはアラキレン基(aralkylene group)であり、xは0、1または2である)である)。
【0107】
硫化アルキルフェノール類、硫化アルキルフェノール類のアルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩も、酸化防止剤として使用できる。
【0108】
さらに別の酸化防止剤として、油溶性の銅化合物、例えば、チオリン酸銅類またはジチオリン酸銅類、カルボン酸の銅塩類、ジチオカルバミル酸銅、スルホン酸銅類、銅フェネート(銅フェノラート)(銅フェノキシド)類、アセチルアセトン銅類などが挙げられる。コハク酸銅(I)、コハク酸銅(II)、またはコハク酸無水物の銅(I)塩もしくは銅(II)塩も用いられ得る。
【0109】
これらの酸化防止剤化合物は、一般的に、単独でまたは混合物として、4ストロークエンジン用潤滑剤組成物に0.1〜5重量%含まれる。
【0110】
本発明にかかる潤滑剤組成物は、当業者にとって公知なあらゆる種類の酸化防止剤を含んでいてもよく、かつ、その量は、潤滑剤組成物全体で、ASTM D874規格に従い測定される硫酸灰分が0.5%以下であり、ASTM D5185規格に従い測定されるリン分が500ppm以下であり、ASTM D5185規格に従い測定される硫黄分が0.2%以下となるような量であればよい。灰分を形成しない耐酸化物が好ましい。
【0111】
(清浄剤)
清浄剤は、二次的な酸化生成物や燃焼生成物を溶解することで金属部品の表面にデポジットが形成するのを低減する。本発明にかかる組成物に用いられる清浄剤は、当業者に周知のものである。
【0112】
潤滑剤組成物に一般的に配合される清浄剤は、典型的に、親油性を有する長い炭化水素鎖と親水性の頭部とを含むアニオン系化合物である。これに組み合わされるカチオンは、典型的に、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の金属カチオンである。
【0113】
好ましくは、前記清浄剤は、アルカリ金属およびアルカリ土類金属のカルボン酸塩、スルホン酸塩、サリチル酸塩、ナフテン酸塩ならびにフェネート塩(フェノラート塩)(フェノキシド塩)からなる群から選択される。
【0114】
好ましくは、前記アルカリ金属およびアルカリ土類金属は、カルシウム、マグネシウム、ナトリウムまたはバリウムである。
【0115】
これらの金属塩は、おおよそ化学量論量または余剰量(化学量論量よりも多い量)の金属を含み得る。後者の場合は、いわゆる過塩基性清浄剤として扱われる。
【0116】
清浄剤に過塩基性を付与する前記余剰量の金属は、油に対して不溶性を示す金属塩として存在し、例えば、炭酸塩、水酸化物塩、シュウ酸塩、酢酸塩、グルタミン酸塩の形態であり、好ましくは、カルボン酸塩である。
【0117】
過塩基性清浄剤の不溶性金属塩に含まれる金属は、油溶性の清浄剤の金属と同一であってもよいし、異なるものであってもよい。好ましくは、前記不溶性の金属塩に含まれる金属は、カルシウム、マグネシウム、ナトリウムまたはバリウムから選択される。
【0118】
つまり、過塩基性清浄剤は、潤滑剤組成物中において、不溶性の金属塩で構成されたミセルの形態で懸濁状態に維持されて存在する。よって、一見、過塩基性清浄剤は、油溶性の金属塩のようにも見える。
【0119】
前記ミセルは、1種以上の清浄剤において安定化された、1種以上の不溶性金属塩を含み得る。
【0120】
過塩基性清浄剤が清浄剤で可溶な金属塩を一種類有している場合、この過塩基性清浄剤は、一般的に、その清浄剤の金属塩の疎水性の鎖の性質に従って名付けられる。
【0121】
つまり、前記過塩基性清浄剤は、フェネート塩、サリチレート塩、スルホネート塩およびナフテネート塩のいずれかであるかに応じて、フェネート系、サリチレート系、スルホネート系またはナフテネート系と称される。
【0122】
疎水鎖の性質が互いに異なる複数の種類の清浄剤がミセルに含まれる場合、前記過塩基性清浄剤は混合型と称される。
【0123】
本発明にかかる潤滑剤組成物は、当業者に公知である、中性、過塩基性または超塩基性のあらゆる種類の清浄剤を含んでいてもよい。
【0124】
清浄剤の過塩基性の程度は、ASTM D2896規格に従い測定されるBN(塩基価)によってmgKOH/g単位で表される。中程度の過塩基性清浄剤のBNは、約0〜約80である。一般的な過塩基性清浄剤のBNは約150以上、約250以上、さらには約450以上に達する。清浄剤を含有する潤滑剤組成物のBNは、ASTM D2896規格に従い測定され、mgKOH/g(潤滑剤のグラム)単位で表される。
【0125】
エンジン用の潤滑剤組成物では、燃焼やオイルに由来する酸不純物を中和するために、清浄剤は少なくとも部分的に過塩基性であるのが一般的に望ましい。
【0126】
この点を踏まえ、さらに、清浄剤化合物には灰分を形成する金属塩が含まれることから、本発明にかかる低灰分潤滑剤を配合するには、清浄剤(特に、過塩基性清浄剤)の量を、良好な清浄性を維持しながら調整することが必要となる。
【0127】
したがって、本発明にかかる潤滑剤組成物は、当業者にとって公知な、中性、過塩基性または超過塩基性のあらゆる種類の清浄剤を含んでいてもよいが、その量は、潤滑剤組成物全体で、ASTM D2896規格に従い測定される硫酸灰分が0.5%以下となるような量に設定される。
【0128】
好ましくは、本発明にかかる潤滑剤組成物に含まれる過塩基性清浄剤の量は、ASTM D2896に従い測定される当該組成物のBNが、8mgKOH/潤滑剤g以下、好ましくは6.5mgKOH/潤滑剤g以下、より好ましくは3〜6mgKOH/潤滑剤gとなるように調整される。
【0129】
(粘度指数改良ポリマー)
粘度指数改良ポリマーにより、低温時には優れた強度(低温強度)を確保でき、高温時には粘度を確実に抑えることができる(詳細には、マルチグレードオイルを配合することができる)。このような粘度指数改良化合物を潤滑剤組成物に添加することにより、粘度指数が改善し、潤滑剤組成物に省燃費性を付与できるか、または燃費向上につながる。
【0130】
以上の点を踏まえ、本発明にかかる潤滑剤組成物の、ASTM D2270規格に従い測定される粘度指数は、好ましくは130以上、より好ましくは150を超えており、さらに好ましくは160を超えている。
【0131】
粘度指数改良化合物として、例えば、高分子エステル;オレフィン系コポリマー(OCP);スチレン、ブタジエンまたはイソプレンのホモポリマーまたはコポリマー;ポリメタクリレート(PMAs)などが挙げられる。前記粘度指数改良化合物は、一般的に、4ストロークエンジン用潤滑剤組成物に約0〜約40重量%、好ましくは0.01〜15重量%含まれる。
【0132】
しかしながら、粘度指数改良化合物はデポジットを形成するという短所があるので、粘度指数改良化合物を潤滑剤配合物(特に、省燃費性潤滑剤配合物)に含めた場合、清浄剤の含有量を増加させる必要が生じる。すると、清浄剤により灰分が形成され、ACEA−C1またはACEA−C2などの、低SAPSおよび省燃費性の双方を要求する規格を満たすことができなくなる。本発明にかかる潤滑剤では、粘度指数改良ポリマーを、ポリイソブテン(b)を任意で混合させた重質ポリαオレフィン(b)で完全にまたは部分的に置き換えることができ、かつ、ヒドロキシ化されたエステル(c)が含まれているので、清浄剤による処理レベルを低減させることができ、灰分の形成も減らすことができる。
【0133】
これにより、燃費が向上し且つ従来のものと変わらない清浄性を備えた低SAPSエンジン用潤滑剤を得ることができる。
【0134】
本発明にかかる潤滑剤組成物は、粘度指数改良ポリマーを約0.0〜約10重量%含んでいてもよい。
【0135】
好ましくは、本発明にかかる組成物は、粘度指数改良ポリマー(デポジット形成する)を最大3重量%、好ましくは、最大2.5重量%含んでいるかまたは全く含まず、前記粘度指数改良ポリマーは、例えば、高分子エステル;オレフィン系コポリマー(OCP);スチレン、ブタジエンまたはイソプレンのホモポリマーまたはコポリマー;およびポリメタクリレート(PMAs)からなる群から選択されるポリマーである。
【0136】
(流動点降下剤)
流動点降下剤は、パラフィン結晶の形成を遅らせることで、オイルの低温挙動を改善する。流動点降下剤として、例えば、アルキルポリメタクリレート類、ポリアクリレート類、ポリアリールアミド類、ポリアルキルフェノール類、ポリアルキルナフタレン類、アルキル化ポリスチレン類などが挙げられる。
【0137】
(分散剤)
分散剤(例えば、コハク酸イミド類(スクシンイミド類)、ポリイソブテンコハク酸イミド類(ポリイソブテンスクシンイミド類)、マンニッヒ塩基類など)は、エンジンオイルの使用時に形成される二次的な酸化生成物に由来する、不溶性の固体不純物を懸濁状態に維持して分散(排出)させる。
【0138】
本発明にかかる潤滑剤組成物を調製する際、重質ポリαオレフィン(PAO)および/またはポリイソブテン(PIB)で構成される化合物(b)と、ヒドロキシ化されたエステル(c)とを、別々に投入してもよい。
【0139】
複数の種類の添加剤の全てまたは一部を、基油類または基油類の混合物(a)に希釈される添加剤の濃縮物の一部、またはパッケージ添加剤の一部としてもよい。つまり、一部の添加剤はパッケージ添加剤としてまとめて配合し、それ以外の添加剤は別々に配合するようにしてもよい。特に、粘度指数改良ポリマーはパッケージ添加剤とは独立して添加するようにしてもよい。
【0140】
本発明の他の目的は、このような調製方法を提供することであり、特に、パッケージ添加剤を潤滑剤組成物の重量に対して10〜30重量%、好ましくは15〜20重量%希釈し、粘度指数改良ポリマーを潤滑剤組成物の重量に対して0〜3重量%添加する調製方法を提供する。
【0141】
本発明のさらなる他の目的は、4ストロークエンジン用の潤滑剤に使用されるパッケージ添加剤を提供することであり、前記潤滑剤は、ASTM D874規格に従い測定される硫酸灰分が0.5%以下であり、ASTM D5185規格に従い測定されるリン分が500ppm以下であり、ASTM D5185規格に従い測定される硫黄分が0.2%以下とされ、
重質ポリαオレフィン(PAO)からなる群から選択される少なくとも1種のPAO化合物(b)および/またはポリイソブテン(PIB)系からなる群から選択されるPIB化合物と、
少なくとも1種のヒドロキシ化されたエステル(c)とを含み、
さらに、任意で、耐摩耗・極圧剤、摩擦調整剤、清浄剤または過塩基性の清浄剤、酸化防止剤、流動点降下剤、分散剤、消泡剤、増ちょう剤、粘度指数改良ポリマーなどが含まれている。
【0142】
好ましくは、本発明にかかるパッケージ添加剤は、重質ポリαオレフィン(PAO)からなる群から選択された少なくとも1種のPAO化合物(b)と、任意で、ポリイソブテン(PIB)とを合計して0.5〜30重量%、好ましくは10〜25重量%含み、少なくとも1種のヒドロキシ化されたエステル(c)を0.5〜15重量%、好ましくは2.75〜8.75重量%含んでいる。
【0143】
本発明のさらなる他の目的は、前述の潤滑剤組成物の、4ストロークディーゼルエンジンまたは4ストロークガソリンエンジン用の潤滑剤としての使用を提供することであり、好ましくは、前記潤滑剤組成物は、軽量車両で使用される。
【0144】
最後に、本発明は、前述のヒドロキシ化されたエステル(c)の、4ストロークエンジン用の潤滑剤組成物を配合する上での摩擦調整剤としての使用に関するものであり、前記潤滑剤組成物は、ASTM D874規格に従い測定される硫酸灰分が0.5%以下であり、ASTM D5185規格に従い測定されるリン分が500ppm以下であり、ASTM D5185規格に従い測定される硫黄分が0.2%以下である。
【0145】
勿論、本発明は明細書の実施例および実施形態に限定されず、当業者が想到可能な数多くの変形や変更も含み得る。
【実施例】
【0146】
[実施例1:ポリイソブテン(b’)および重質ポリαオレフィン(b)による清浄性の向上]
(組成物および調製の説明)
複数の種類の組成物を以下の表1に示す。
【0147】
組成物Aは、粘度指数改良ポリマーとしてオレフィン系コポリマー(OCP)を含んだ5W30グレードの参考組成物である。
【0148】
組成物B、組成物Cおよび組成物Dは、参考組成物Aと異なり、粘度指数改良ポリマーとしてのオレフィン系コポリマー(OCP)の一部をポリイソブテン(PIB)または重質ポリαオレフィン(PAO)に置き換えたものである。
【0149】
【表3】

【0150】
粘度指数改良ポリマーとしてのオレフィン系コポリマー(OCP)を重質ポリαオレフィンおよびポリイソブテン(本発明において、それぞれ、化合物b、化合物b’と称する)に置き換えた際の影響を調べるために、オイル組成物A、B、CおよびDに対し、清浄性に関する2つの室内試験を実行した。
【0151】
(MCT マイクロコーキング試験)
MCT(マイクロコーキング試験)は、高温表面(コーキング)におけるデポジットの形成傾向を評価するための試験である。
【0152】
MCTの試験条件は以下のとおりである:
「MCT(GFC Lu-27-A-03 v.2基準)」
−60μLのオイル(消泡剤10ppmを添加)
−試験時間:90分
−オイル載置箇所を有するプレートを1〜2%傾かせる
−230〜280℃の温度勾配
−プレートのワニスを評価する(0〜10で評価)(いわゆる《二乗したものを除算する》メソッド2)
【0153】
(ECBT試験)
ECBT(エルフコーキングベンチ試験)は、ベンチにおける熱強度に関するコーキングテストである。ECBTでは、クランクケースからのオイルが放射・付着したエンジンピストンの、高温時の状態をシミュレーションする。潤滑剤は、超高温の表面に達して変質し、デポジットを形成する。この試験を用いることにより、ピストンの上部(クラウン、第一溝、ピストンの凹所)に形成されたデポジットの性質を調査することができ、かつ、オイルの耐変質性に関する推測を行うことができる。MCTと比べて、この試験はダイナミック(動的)である。この試験の詳細については、2000年3月29〜30日にアムステルダムで開かれたMotorship Marine Propulsion Conference 2000で発表された、JP. Romanによる《実性能シミュレーションと室内試験の結果との関連性》の内容を参照されたい。
【0154】
ECBTの試験条件
−約400gのオイル
−試験時間:1時間 温度を様々に変化(掃引)させる
−温度:290℃、300℃および310℃
−アルミニウム製ビーカー
−冷却中は掃引を行わない
−アルミニウム製ビーカーにおける掃引適用領域の評価(0〜100で評価)
【0155】
(F9Q清浄性エンジン試験)
さらに、F9Qエンジン試験により、清浄性を以下の条件で評価する。
−1.9リッターコモンレール式ディーゼルエンジン
−試験時間:96時間
−4000回毎分の全負荷運転
−ピストンのファウリング(ワニス/カーボン/総合)の評価
【0156】
以下の表2は、オイル組成物A、B、CおよびDについて得られる清浄性試験の結果を示すものである。清浄剤の含有量が一定(全塩基価が一定)の状態で、オレフィン系コポリマー(OCP)の一部をポリイソブテン(PIB)または重質ポリαオレフィン(PAO)に置き換えたオイル組成物B、CおよびDのほうが、オレフィン系コポリマー(OCP)のみを含む参考オイル組成物Aよりも清浄性に優れていることが分かる。
【0157】
【表4】

【0158】
[実施例2:ポリイソブテン(b’)の存在下でのFMトリエチルシトレート(c)による省燃費性の向上]
(組成物および調製の説明)
組成物A’は、5W30グレードの、灰分、硫黄分およびリン分が極めて低い参考組成物であり、また、粘度指数改良ポリマーが組成物Aとは異なる。オイル組成物A’の質量%組成およびその特性を以下の表3に示す。組成物B’を、組成物A’にトリエチルシトレートを1質量%添加して調製した。
【0159】
(省燃費性)
オイル組成物A’およびB’の省燃費性を、キャメロン=プリント室内摩擦試験で判断した。この室内試験は、M111FE(CEC L54-T-96基準)エンジン試験と相関性がある。この試験のテストベンチは、試験対象のオイルに浸った平坦円筒型の摩擦計で構成される。加熱された表面に対し、法線方向の力を可変に印加し、その結果生じる摩擦力を測定する。M111FE(CEC L54-T-96基準)エンジン試験から得られる参考オイルについての測定結果と比較することにより、試験対象のオイルの燃費向上率を算出することができる。
【0160】
以下の表3に示す測定結果は、トリエチルシトレートの添加に由来する省燃費性の向上を示したものである。
【0161】
【表5】



【0162】
[実施例3:重質ポリαオレフィン(b)とトリエチルシトレート(c)の組合せ、および重質ポリαオレフィン(b)とグリセロールモノイソステアレート(c)の組合せによる省燃費性および清浄性の向上]
(組成物および調製の説明)
組成物Eは、粘度指数改良ポリマーとしてのオレフィン系コポリマーとパッケージ添加剤を含有する5W30グレードの参考組成物である。前記パッケージ添加剤は、分散剤、清浄剤[弱塩基性のスルホン酸カルシウムおよび超過塩基性のカルシウムフェネート(カルシウムフェノラート)(カルシウムフェノキシド)]DTPZn、摩擦調整剤、アミン系およびフェノール系の酸化防止剤、消泡剤、流動点降下剤を含む。
【0163】
以下の表4および表5に示す組成物F、組成物Gおよび組成物Hは、参考組成物Eと異なり、粘度指数改良ポリマーとしてのオレフィン系コポリマーの一部が、エクソンモービル社によって上市されている、100℃での動粘度が1000mm/sのSpectrasyn Ultra 1000という重質ポリαオレフィン系製品で置き換えられている。
【0164】
以下の表4および表5に示す、本発明にかかる組成物Gおよび組成物Hは、粘度指数改良ポリマーの一部が、上記と同じく重質ポリαオレフィン(化合物(b))で置き換えられており、かつ、化合物(c)として、組成物Gにはトリエチルシトレートが1重量%、組成物Hにはグリセロールモノイソステアレートが1重量%含まれている。
【0165】
以下の表4に、組成物E、F、GおよびHの組成(質量%)および物理化学的特性を示す。
【0166】
(《省燃費性》または燃費向上性)
組成物E、F、GおよびHの《省燃費性》または燃費向上性を、M111FEエンジン試験およびキャメロン=プリント室内試験によって評価した。
【0167】
清浄性については、ECBT試験を280℃で行うことにより評価した。
【0168】
以下の表5に、その結果をまとめる。
【0169】
(M111FE(CEC L54-T-96基準)省燃費性エンジン試験の条件)
2Lガソリンエンジンを100kWで動作させる。
街乗りに対応する車両サイクル:
−エンジン速度750〜3070回毎分
−馬力0〜49KW
−オイル温度20〜75℃
【0170】
燃費向上率を、15W40グレードの参考オイル(RL191)との比較で測定した。
【0171】
(キャメロン=プリント省燃費性室内摩擦試験の条件)
この室内試験は、M111FE(CEC L54-T-96基準)エンジン試験と相関性がある。この試験のテストベンチは、試験対象のオイルに浸った平坦円筒型の摩擦計で構成される。加熱された表面に対し、法線方向の力を可変に印加した。その結果生じる摩擦力を測定する。M111FE(CEC L54-T-96基準)エンジン試験から得られる参考オイルについての測定結果と比較することにより、試験対象のオイルの燃費向上率を算出することができる。
【0172】
【表6】

【0173】
【表7】

【0174】
(清浄性の結果)
いずれの組成物も清浄剤処理レベルが均一な状態において、組成物Fでは、オレフィン系コポリマー(OCP)の一部が重質ポリαオレフィン(PAO)で置き換えられていることにより、デポジットの形成が抑えられており、参考組成物Eよりも清浄性が向上している。なお、ヒドロキシ化されたエステルの添加による影響はなく、清浄剤の優れた性能は維持されたままである。
【0175】
(省燃費性の結果)
粘度指数改良ポリマーとしてのオレフィン系コポリマー(OCP)の一部が重質ポリαオレフィン(PAO)で置き換えられることにより、清浄性に関して良い影響(ECBT280℃で25.30から34.20に上昇)が得られる一方、省燃費性に関して望ましくない影響(キャメロン=プリント試験で1.97から1.78に低下、かつ、M111FEエンジン試験で2.57から1.90に低下)も生じる。組成物Gおよび組成物Hのようにヒドロキシ化されたエステルを添加することにより、省燃費性の低下を補償することができ、さらには、参考組成物よりも省燃費性が向上し得る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
4ストロークエンジン用の低灰分潤滑剤組成物であって、
a)API分類のグループ1〜5のオイル、好ましくは、グループ3または4のオイルから選択される少なくとも1種の基油類と、
b)100℃での動粘度が75〜3000cStである重質ポリαオレフィン(PAO)からなる群から選択される少なくとも1種のPAO化合物(b)および/またはポリイソブテン(PIB)系の高分子化合物からなる群から選択される少なくとも1種のPIB化合物(b)と、
c)式:R(OH)(COOR’(OH)で表されるエステルからなる群から選択される少なくとも1種のエステルまたはそのホウ酸誘導体(式中、mは0〜8、好ましくは1〜4の整数であり;nは1〜8、好ましくは1〜4の整数であり;pは0〜8、好ましくは1〜4の整数であり;p+mは少なくとも0を超えており;RおよびR’は、互いに独立して、炭素数1〜30の飽和または不飽和の直鎖または分岐鎖の炭化水素基であり、任意で、少なくとも1種の芳香族基で置換されている)と、
を含み、
ASTM D874規格に従い測定される硫酸灰分が0.5%以下であり、ASTM D5185規格に従い測定されるリン分が500ppm以下であり、ASTM D5185規格に従い測定される硫黄分が0.2%未満である低灰分潤滑剤組成物。
【請求項2】
請求項1において、エステル(c)が、R基に、少なくとも1つの遊離のヒドロキシ残基を有しており、前記OH基は、R基が結合するエステル部位のCO官能基の炭素原子から数えて前記R基のα位、β位またはγ位に位置しており、および/またはR’基に、少なくとも1つの遊離のヒドロキシ残基を有しており、前記OH基は、R’基が結合するエステル部位のCOO基の酸素原子から数えて前記R’基のβ位、γ位またはδ位に位置している低灰分潤滑剤組成物。
【請求項3】
請求項1または2において、エステル(c)のR’基がC〜C10、好ましくは、C〜Cである低灰分潤滑剤組成物。
【請求項4】
請求項3において、pが少なくとも0を超えており、エステル(c)のR基がC〜C25、好ましくは、C12〜C18である低灰分潤滑剤組成物。
【請求項5】
請求項4において、少なくとも1種のエステル(c)が、グリセロールのモノエステル、ジエステルまたはそれらのホウ酸誘導体から選択され、好ましくは、グリセロールモノオレート類、グリセロールステアレート類、グリセロールイソステアレート類またはそれらのホウ酸誘導体から選択される低灰分潤滑剤組成物。
【請求項6】
請求項3において、nは1〜4の整数であり、エステル(c)のR基がC〜C、好ましくは、C〜Cである低灰分潤滑剤組成物。
【請求項7】
請求項6において、少なくとも1種のエステル(c)が、シトレート類、タルトレート類、マレート類、ラクテート類、マンデレート類、グリコレート類、ヒドロキシプロピオネート類、ヒドロキシグルタレート類またはそれらのホウ酸誘導体から選択される低灰分潤滑剤組成物。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか一項において、M111FE試験で測定される最低燃費向上率が少なくとも2.5%であり、かつ、欧州自動車工業会が定めるACEA−C1規格を満たしている低灰分潤滑剤組成物。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか一項において、ASTM D445規格で測定される100℃での動粘度が5.6〜16.3cSt、好ましくは、9.3〜12.5cStである低灰分潤滑剤組成物。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか一項において、SAE J300分類によると5W30グレードに相当する低灰分潤滑剤組成物。
【請求項11】
請求項1から10のいずれか一項において、粘度指数が130以上、好ましくは150を超えており、より好ましくは、160を超えている低灰分潤滑剤組成物。
【請求項12】
請求項1から11のいずれか一項において、基油類または基油類の混合物(a)が、組成物中少なくとも70重量%に達する低灰分潤滑剤組成物。
【請求項13】
請求項1から12のいずれか一項において、基油類または基油類の混合物(a)が、
−少なくとも1種のグループ3の基油類を、当該潤滑剤組成物の総重量に対して少なくとも60重量%、および
−少なくとも1種のグループ4の基油類を、当該潤滑剤組成物の総重量に対して少なくとも10重量%、
を含んでいる低灰分潤滑剤組成物。
【請求項14】
請求項1から13のいずれか一項において、少なくとも1種の化合物(b)が、重質ポリαオレフィン(PAO)からなる群から選択されるPAO化合物と、ポリイソブテン(PIB)系の高分子化合物からなる群から選択されるPIB化合物とで構成される低灰分潤滑剤組成物。
【請求項15】
請求項1から14のいずれか一項において、少なくとも1種の化合物(b)を0.1〜6%、好ましくは2〜4%含み、少なくとも1種の化合物(c)を0.1〜2.5%、好ましくは0.5〜1.5%含んでいる低灰分潤滑剤組成物。
【請求項16】
請求項1から15のいずれか一項において、さらに、
少なくとも1種のジチオリン酸亜鉛系の耐摩耗剤化合物、および
任意で、アミンリン酸塩類、
を含んでいる低灰分潤滑剤組成物。
【請求項17】
請求項1から16のいずれか一項において、少なくとも1種のジチオリン酸亜鉛系の耐摩耗剤化合物が1%以下、好ましくは0.5%以下含まれている低灰分潤滑剤組成物。
【請求項18】
請求項1から17のいずれか一項において、アミンリン酸塩系の添加剤を含まない低灰分潤滑剤組成物。
【請求項19】
請求項1から18のいずれか一項において、モリブデン系の摩擦調整剤を含まない低灰分潤滑剤組成物。
【請求項20】
請求項1から19のいずれか一項において、さらに、
少なくとも1種の酸化防止剤化合物、
を含み、
前記酸化防止剤化合物は、好ましくは灰分を形成せず、また好ましくはフェノール系またはアミン系である低灰分潤滑剤組成物。
【請求項21】
請求項1から20のいずれか一項において、少なくとも1種の酸化防止剤が0.01〜5%含まれている低灰分潤滑剤組成物。
【請求項22】
請求項1から21のいずれか一項において、ASTM D−2896規格に従い測定される塩基価(BN)が潤滑剤組成物中8mgKOH/g、好ましくは6.5mgKOH/gである低灰分潤滑剤組成物。
【請求項23】
請求項1から22のいずれか一項において、さらに、
粘度指数改良ポリマーを0〜3%、好ましくは0〜2.5%、
含み、
前記粘度指数改良ポリマーは、高分子エステル;オレフィン系コポリマー(OCP);スチレン、ブタジエンまたはイソプレンのホモポリマーまたはコポリマー;およびポリメタクリレート(PMA)からなる群から選択されたものである低灰分潤滑剤組成物。
【請求項24】
請求項1から23のいずれか一項に記載の潤滑剤組成物を製造する方法であって、
基油類または基油類の混合物(a)に、少なくとも1種の化合物(b)および少なくとも1種の化合物(c)を含むパッケージ添加剤を希釈して、
任意で、粘度指数改良ポリマーを添加する、潤滑剤組成物製造方法。
【請求項25】
請求項24において、パッケージ添加剤が潤滑剤組成物中10〜30重量%、好ましくは15〜20重量%になるように希釈され、粘度指数改良ポリマーが潤滑剤組成物中0〜3重量%添加される、潤滑剤組成物製造方法。
【請求項26】
4ストロークエンジン用の潤滑剤に使用されるパッケージ添加剤であって、
前記潤滑剤が、ASTM D874規格に従い測定される硫酸灰分が0.5%以下であり、ASTM D5185規格に従い測定されるリン分が500ppm以下であり、ASTM D5185規格に従い測定される硫黄分が0.2%未満であり、前記パッケージ添加剤は、
−重質ポリαオレフィン(PAO)からなる群から選択される少なくとも1種のPAO化合物(b)および/またはポリイソブテン(PIB)系からなる群から選択される少なくとも1種のPIB化合物(b)と、
−少なくとも1種のヒドロキシ化されたエステル(c)と、
を含み、さらに、
任意で、耐摩耗・極圧剤、摩擦調整剤、清浄剤または過塩基性の清浄剤、酸化防止剤、流動点降下剤、分散剤、消泡剤、増ちょう剤、粘度指数改良ポリマー、
を含むパッケージ添加剤。
【請求項27】
請求項26において、
−重質ポリαオレフィン(PAO)からなる群から選択され、任意で、前記群にはポリイソブテン(PIB)が含まれる少なくとも1種の化合物(b)を0.5〜30重量%、好ましくは10〜25重量%含み、
−少なくとも1種のヒドロキシ化されたエステル(c)を0.5〜15重量%、好ましくは2.75〜8.75重量%含んでいるパッケージ添加剤。
【請求項28】
請求項1から23のいずれか一項に記載の組成物の、4ストロークエンジン用の潤滑剤としての使用。
【請求項29】
式:R(OH)(COOR’(OH)で表されるエステルからなる群から選択される少なくとも1種のエステルまたはそのホウ酸誘導体の、4ストロークエンジン用の潤滑剤組成物を調製する上での摩擦調整剤としての使用であり(式中、mは0〜8、好ましくは1〜4の整数であり;nは1〜8、好ましくは1〜4の整数であり;pは0〜8、好ましくは1〜4の整数であり;p+mは少なくとも0を超えており;RおよびR’は、互いに独立して、炭素数1〜30の飽和または不飽和の直鎖または分岐鎖の炭化水素基であり、任意で、少なくとも1種の芳香族基で置換されている)、
前記潤滑剤組成物が、ASTM D874規格に従い測定される硫酸灰分が0.5%以下であり、ASTM D5185規格に従い測定されるリン分が500ppm以下であり、ASTM D5185規格に従い測定される硫黄分が0.2%以下である使用。

【公表番号】特表2011−505484(P2011−505484A)
【公表日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−536500(P2010−536500)
【出願日】平成20年12月2日(2008.12.2)
【国際出願番号】PCT/FR2008/001668
【国際公開番号】WO2009/101276
【国際公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【出願人】(505036674)トータル・ラフィナージュ・マーケティング (39)
【Fターム(参考)】