説明

7,8−ジフルオロ−2−ナフトールの製造方法

【課題】 2,3−ジフルオロフェニル酢酸を原料として、7,8−ジフルオロ−2−ナフトールをより簡便な操作でかつ安価に製造できる方法を提供すること。
【解決手段】 2,3−ジフルオロフェニル酢酸を、ハロゲン化剤で酸ハロゲン化物とし、ルイス酸存在下でエチレンと反応させて7,8−ジフルオロ−2−テトラロンを得る工程、7,8−ジフルオロ−2−テトラロンを、酸無水物、硫酸により2−アセトキシ−7,8−ジフルオロナフタレンとし、精製する工程、およびこれを脱アセチル化する工程からなる7,8−ジフルオロ−2−ナフトールの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬、農薬、電子材料等の合成中間体として有用な7,8−ジフルオロ−2−ナフトールの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
7,8−ジフルオロ−2−ナフトールは、特に液晶化合物の中間原料として有用である。このような中間原料を製造する方法としては、対応するフェニル酢酸誘導体をハロゲン化剤により酸ハロゲン化物とした後に、ルイス酸存在下エチレンと反応させて2−テトラロン誘導体とするのが、一般的である。また、2−テトラロン誘導体から2−ナフトールへと誘導する方法としては、臭素等の臭素化剤で酸化的脱水素を行って1−ブロモ−2−ナフトール誘導体とし、接触還元や亜硫酸塩等により還元して2−ナフトール誘導体とする方法(特許文献1)や、臭化銅(II)等の酸化剤を用いて酸化的脱水素を行って2−ナフトール誘導体とする方法(特許文献2)や、貴金属触媒存在下に2−テトラロンと1,2−ジアリンオキサイドの混合物を反応させる方法(特許文献3)がある。
【0003】
しかし、特許文献1では、毒性が強く取扱いにくい臭素が2モル倍以上と多量に使用されており好ましくない。また、1位が臭素化されたものが生成するため、還元処理が必要となり、操作が煩雑となる。特許文献2でも、毒性の強い臭化銅(II)が2モル倍と多量に使用されており、また廃棄物処理面での負荷が大きいという欠点を有している。特許文献3では、1,2−ジアリンオキサイドの入手が困難である上に、2−テトラロールの副生が多く、収率が低いという欠点がある。
【0004】
一方で、脱水素触媒存在下に2−テトラロン誘導体を脱水素して2−ナフトール誘導体を合成する方法として、パラジウムカーボン触媒及びマレイン酸エステル等のオレフィン化合物存在下で反応させる方法(特許文献4)がある。しかし、特許文献4の方法では、2−テトラロン誘導体としてアルキル基またはアルコキシ基を有するものを原料として用いる場合には問題はないが、ハロゲン化された2−テトラロン誘導体を原料として用いた場合、この方法により脱水素反応すると、ハロゲンが水素化分解を受けて脱離し、目的物の純度・収率の低下や、脱離したハロゲン化水素による腐食問題が発生する。特に工業的に製造する場合には、水素が溜まりやすくなって、前記副反応が進行しやすくなり好ましくない。
【0005】
また、シクロヘキサノン誘導体を原料として酢酸溶媒、無水酢酸存在下、硫酸により脱水素を行った後に、塩基性条件下で加水分解してフェノール誘導体を合成するという方法(非特許文献1)がある。しかし、非特許文献1の方法は、脱水素法としては注目される技術ではあるが、記載されているのは単環の、しかもα位がアルキル化されたシクロヘキサノン誘導体のみであり、シクロヘキサノン誘導体とは物性も反応性も大きく異なる二環で、かつα位が無置換の2−テトラロン誘導体に適用された例はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−91361号公報
【特許文献2】特開2004−91362号公報
【特許文献3】米国特許第3890397号明細書
【特許文献4】特開2007−320932号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】J. Org. Chem., 39, 2126 (1974)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者らは前記した従来技術の問題点を解決すべく、7,8−ジフルオロ−2−ナフトールをより簡便な操作でかつ安価に製造することができる製造方法の開発に鋭意研究を重ねた結果、本発明を完成するに至ったものである。
すなわち、本発明の目的は、2,3−ジフルオロフェニル酢酸を原料として、7,8−ジフルオロ−2−ナフトールをより簡便な操作でかつ安価に製造することができる製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、2,3−ジフルオロフェニル酢酸を、ハロゲン化剤で酸ハロゲン化物とした後、ルイス酸存在下でエチレンと反応させて7,8−ジフルオロ−2−テトラロンを得る工程、7,8−ジフルオロ−2−テトラロンを、酸無水物、硫酸により2−アセトキシ−7,8−ジフルオロナフタレンとし、これを精製する工程、および2−アセトキシ−7,8−ジフルオロナフタレンを脱アセチル化して7,8−ジフルオロ−2−ナフトールとする工程からなる7,8−ジフルオロ−2−ナフトールの製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、高純度の7,8−ジフルオロ−2−ナフトールを煩雑な操作が無く、かつ効率良く製造する方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0011】
まず、本発明における2,3−ジフルオロフェニル酢酸を、ハロゲン化剤で酸ハロゲン化物とした後、ルイス酸存在下でエチレンと反応させて7,8−ジフルオロ−2−テトラロンを得る工程を説明する。
【0012】
2,3−ジフルオロフェニル酢酸を酸ハロゲン化物にする反応において、酸ハロゲン化剤としては、塩化チオニル、三塩化リン、五塩化リンなどを用いることができるが、中でも塩化チオニルが好ましい。
酸ハロゲン化剤の使用量は2,3−ジフルオロフェニル酢酸に対して、モル比で1〜20倍、好ましくは1.1〜10倍であることが望ましい。
【0013】
酸ハロゲン化物にする反応には、必要に応じて触媒を用いることもできる。触媒としては、ピリジン、ジメチルホルムアミドなどを例示できるが、好ましくはピリジンである。触媒の使用量は2,3−ジフルオロフェニル酢酸に対するモル比で、0.0005〜0.1倍、好ましくは0.001〜0.05倍であることが望ましい。
【0014】
2,3−ジフルオロフェニル酢酸を溶解するために有機溶媒を用いることが好ましいが、用いる有機溶媒としては、反応条件下で安定であれば特に限定はされないが、塩化メチレン、クロロホルムなどのハロゲン炭化水素、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタンなどの脂肪族炭化水素など、水と混和しない有機溶媒を挙げることができる。これらの有機溶媒は単独でも、また混合して用いることもできる。有機溶媒としては、ハロゲン炭化水素が好ましく、中でも塩化メチレンが好ましい。
【0015】
有機溶媒の使用量は、2,3−ジフルオロフェニル酢酸に対して重量比で0.5〜20倍、好ましくは1〜5倍である。
酸ハロゲン化物にする反応の反応温度は、通常0℃〜溶媒の還流温度の範囲を例示できるが、好ましくは20〜60℃の範囲がよい。また、反応時間は、原料がほぼ消失するまで持続すればよいが、通常0.1〜24時間程度である。
反応終了後は有機層をそのままもしくは所定の量になるまで有機溶媒を留去する。
【0016】
2,3−ジフルオロフェニル酢酸の酸ハロゲン化物を7,8−ジフルオロ−2−テトラロンにする反応で使用されるルイス酸としては、塩化アルミニウム(III)、フッ化アルミニウム(III)、臭化アルミニウム(III)、塩化亜鉛(II)、塩化すず(IV)、塩化鉄(III)、塩化チタン(IV)、塩化ガリウム(III)、塩化ジルコニウム(IV)などを用いることができるが、収率面を考慮すると塩化アルミニウム(III)が好ましい。
ルイス酸の使用量は、2,3−ジフルオロフェニル酢酸に対して、モル比で1〜5倍、好ましくは1.1〜3倍であることが望ましい。
【0017】
エチレンは、2,3−ジフルオロフェニル酢酸に対して、モル比で1〜10倍、好ましくは1.1〜5倍の量で使用することが望ましい。
【0018】
酸ハロゲン化物を7,8−ジフルオロ−2−テトラロンにする反応では有機溶媒を使用することが好ましい。使用される有機溶媒は、反応条件下で安定であれば特に限定はされず、2,3−ジフルオロフェニル酢酸の酸ハロゲン化反応で用いた前記有機溶媒を単独又は混合して使用するのが好ましい。特に好ましい溶媒として塩化メチレンなどを例示することができる。有機溶媒の使用量は、2,3−ジフルオロフェニル酢酸に対して、重量比で0.5〜20倍、好ましくは1〜10倍であることが望ましい。
【0019】
反応温度は20℃以下、好ましくは−20〜10℃であることが望ましい。反応としては、有機溶媒とルイス酸の混合物を20℃以下、好ましくは−20〜10℃に冷却した後、この温度で2,3−ジフルオロフェニル酢酸ハロゲン化物を含有する溶液を滴下し、滴下終了後にエチレンを反応容器に吹き込んで行うのが好ましい。反応時間は、原料がほぼ消失するまで持続すればよいが、通常1〜24時間程度である。
【0020】
7,8−ジフルオロ−2−テトラロンを得る反応が終了した後、反応に水と混和しない有機溶媒を使用した場合は、水を添加することにより有機層と水層に分離するため、有機層を分液して、必要であれば水または重曹水で洗浄し、有機層をそのままもしくは所定の量になるまで有機溶媒を留去して、次の工程である7,8−ジフルオロ−2−テトラロンを2−アセトキシ−7,8−ジフルオロナフタレンとする工程に使用する。
【0021】
次に7,8−ジフルオロ−2−テトラロンを、酸無水物、硫酸により2−アセトキシ−7,8−ジフルオロナフタレンとする工程を説明する。
【0022】
この工程は、7,8−ジフルオロ−2−テトラロンを脱水素化する反応である。使用される酸無水物としては、無水酢酸、無水プロピオン酸などを挙げることができるが、中でも無水酢酸が好ましい。酸無水物の使用量は、7,8−ジフルオロ−2−テトラロンに対して、モル比で1〜30倍、好ましくは3〜20倍である。
【0023】
本反応に使用される硫酸の濃度は、特に限定されないが、90%以上であることが好ましく、特に98%の濃硫酸が好ましい。硫酸濃度が低すぎるとその分過剰の無水酢酸が必要となる。硫酸の使用量は、7,8−ジフルオロ−2−テトラロンに対して、モル比で0.8〜5倍、好ましくは1〜3倍程度であることが望ましい。
【0024】
本反応には、水と混和しない有機溶媒を使用することができる。使用される有機溶媒は、反応条件下で安定であれば特に限定はされないが、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタンなどの脂肪族炭化水素、塩化メチレン、クロロホルムなどのハロゲン化炭化水素などを挙げることができる。これらの有機溶媒は、単独でも、また混合して使用してもよい。
【0025】
溶媒の使用量は、7,8−ジフルオロ−2−テトラロンに対して、通常、重量比で0.5〜30倍、好ましくは1〜15倍程度である。
反応温度は、通常20〜160℃、好ましくは40〜140℃であり、反応時間は、原料がほぼ消失するまで持続すればよいが、通常0.1〜24時間程度である。
【0026】
脱水素化反応終了後は、水と混和しない有機溶媒を使用した場合、水を添加することにより、有機層と水層に分離するため、有機層を分液して、必要であれば水または食塩水で洗浄し、有機層を所定の量になるまで有機溶媒を留去する。
【0027】
本発明において高純度の7,8−ジフルオロ−2−ナフトールを得るためには、2−アセトキシ−7,8−ジフルオロナフタレンの段階で精製することが重要である。精製は、蒸留、再晶析、晶析後洗浄、抽出などの常套の手段で行ってよい。2−アセトキシ−7,8−ジフルオロナフタレンで精製を行わないと、比較例に示す様に最終的に得られる7,8−ジフルオロ−2−ナフトールの純度が低いばかりでなく、2,3−ジフルオロフェニル酢酸を基準とした7,8−ジフルオロ−2−ナフトールの全収率も低下する。
【0028】
有機溶媒を留去して得られた2−アセトキシ−7,8−ジフルオロナフタレンを再結晶方法で精製する場合に使用される溶媒は、精製条件下で安定であれば特に限定はされないが、水や、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタンなどの脂肪族炭化水素、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素、塩化メチレン、クロロホルムなどのハロゲン化炭化水素、メタノール、エタノール、2−プロパノールなどのアルコール、tert−ブチルメチルエーテル、シクロペンチルメチルエーテルなどのエーテル、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、1、4−ジオキサンなどの環状エーテル、ギ酸、酢酸、プロピオン酸などの脂肪族カルボン酸、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸イソプロピルなどのカルボン酸エステル、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン、アセトニトリルなどのニトリルを例示することができるが、好ましくはメタノール、エタノール、2−プロパノールなどのアルコールやtert−ブチルメチルエーテル、シクロペンチルメチルエーテルなどのエーテルである。これらの溶媒は、単独でも、また混合して使用してもよい。
【0029】
溶媒の量は、2−アセトキシ−7,8−ジフルオロナフタレンに対して、重量比で0.5〜20倍、好ましくは0.8〜5倍程度である。
溶媒を添加して冷却することで晶析するため、それらを分離することで2−アセトキシ−7,8−ジフルオロナフタレンの結晶を得ることができる。また、必要に応じて上記記載の溶媒を用いて2−アセトキシ−7,8−ジフルオロナフタレンの再結晶を行うこともできる。
【0030】
次に2−アセトキシ−7,8−ジフルオロナフタレンを脱アセチル化して7,8−ジフルオロ−2−ナフトールとする工程について説明する。
【0031】
2−アセトキシ−7,8−ジフルオロナフタレンの脱アセチル化は、酸又は塩基触媒の存在下で、加溶媒分解により実施するのが好ましい。
加溶媒分解に使用される溶媒としては、水や、メタノール、エタノールなどのアルコールなどを挙げることができる。溶媒の使用量は2−アセトキシ−7,8−ジフルオロナフタレンに対して、モル比で1〜50倍、好ましくは1.1〜20倍程度であることが望ましい。
【0032】
脱アセチル化の触媒としては、硫酸、塩化水素などの酸、また水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニアなどの塩基である。
【0033】
触媒濃度は特に限定されないが、酸触媒については、硫酸は90%〜98%の濃硫酸が好ましい。
これら触媒の使用量は、2−アセトキシ−7,8−ジフルオロナフタレンに対して、モル比で0.005〜10倍、好ましくは0.01〜2倍程度であることが望ましい。
【0034】
また、脱アセチル化には、必要に応じてトルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素やヘキサン、ヘプタンなどの脂肪族炭化水素なども使用することができる。これらの溶媒は、単独でも、また混合して使用してもよい。
溶媒の使用量は、2−アセトキシ−7,8−ジフルオロナフタレンに対して、重量比で0.5〜20倍、好ましくは1〜10倍程度であることが望ましい。
【0035】
脱アセチル化の反応温度は、通常20℃〜溶媒の還流温度の範囲を例示できるが、好ましくは40℃〜80℃の範囲であることが望ましい。
反応時間は原料が消失するまで持続すればよいが、通常0.1〜24時間であることが望ましい。
【0036】
2−アセトキシ−7,8−ジフルオロナフタレンを脱アセチル化する反応終了後は、所定の量になるまで有機溶媒を留去する。留去後、必要に応じて水で洗浄又は7,8−ジフルオロ−2−ナフトールが溶解しないようなヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタンなどの脂肪族炭化水素などの溶媒で洗浄し、溶媒と分離させることによって7,8−ジフルオロ−2−ナフトールを得ることができる。
【0037】
また、必要に応じて7,8−ジフルオロ−2−ナフトールの再結晶を行うことも可能であり、用いる溶媒の種類は再結晶の条件で安定ならば特に限定されないが、水や、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタンなどの脂肪族炭化水素、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素、塩化メチレン、クロロホルムなどのハロゲン化炭化水素、メタノール、エタノール、2−プロパノールなどのアルコール、tert−ブチルメチルエーテル、シクロペンチルメチルエーテルなどのエーテル、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、1、4−ジオキサンなどの環状エーテル、ギ酸、酢酸、プロピオン酸などの脂肪族カルボン酸、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸イソプロピルなどのカルボン酸エステル、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン、アセトニトリルなどのニトリルを例示することができるが、好ましくは、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素とヘキサン、ヘプタンなどの脂肪族炭化水素の混合溶媒である。
【0038】
再結晶で必要な溶媒量は、重量比で0.5〜30倍であるが、好ましくは1〜15倍の組み合わせである。再結晶をすることで高純度の7,8−ジフルオロ−2−ナフトールを得ることができる。
【実施例】
【0039】
以下、実施例について、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0040】
純度分析はガスクロマトグラフィーを用いて行い、7,8−ジフルオロ−2−テトラロン、2−アセトキシ−7,8−ジフルオロナフタレンおよび7,8−ジフルオロ−2−ナフトールの定量は、ナフタレンを内部標準物質とした内部標準法により実施した。
尚、純度は重量%で、収率はモル%である。
【0041】
(実施例1)
攪拌機、温度計、還流冷却器及び塩化カルシウム管を備えた500mlガラスフラスコに、2,3−ジフルオロフェニル酢酸150g (純度98%、0.85モル)、ピリジン0.41g (0.005モル)及び塩化メチレン375gを仕込んで窒素雰囲気にした後、この混合溶液中に塩化チオニル124g (1.04モル)を滴下した。その後、還流温度まで昇温し、還流下で5時間保持した。反応終了後、反応液を冷却した後、2,3−ジフルオロフェニル酢酸塩化物を含む塩化メチレン溶液649gを得た。
次に攪拌機、温度計、還流冷却器を備えた1Lガラスフラスコに、塩化メチレン750gと塩化アルミニウム140g(1.05モル)仕込み、−5℃まで冷却した。この混合溶液中に、塩化メチレン75gと2,3−ジフルオロフェニル酢酸塩化物を含む塩化メチレン溶液649gの混合液を滴下し−10〜5℃になるように滴下速度を調節した。その後、同温度で1時間保持した。その後、−5〜5℃に維持しながらエチレンガスを100mL/分の速度で5時間かけて吹き込み、1時間保持した。反応終了後、水697gを2Lガラスフラスコに仕込み0℃まで冷却した後、エチレンと反応させた混合物を0〜20℃に維持しながら滴下して過剰の塩化アルミニウムを失活させた。これを分液して得られた有機層を水洗し、溶媒を留去し、7,8−ジフルオロ−2−テトラロンを含む溶液を190g得た。
この溶液をガスクロマトグラフィーを用いて分析したところ、7,8−ジフルオロ−2−テトラロンを62%含有していた。2,3−ジフルオロフェニル酢酸に対する7,8−ジフルオロ−2−テトラロンの収率は76%であった。
【0042】
次にこの有機層にトルエン284g、無水酢酸285g(2.79モル)を仕込み、溶液が20〜40℃になるように、98%硫酸を91.2g滴下した。この溶液を、100℃に昇温したトルエン溶液511gに1時間かけて滴下し、同温で2時間保持した。反応終了後、反応混合物を10℃に冷却した水227gの中に添加して失活させ、分液した有機層を10%食塩水で洗浄し、溶液1100gを得た。
この反応溶液をガスクロマトグラフィーを用いて分析したところ、2−アセトキシ−7,8−ジフルオロナフタレンの含有量は11.6%で、収率は89%であった。
次にこの溶液からトルエンを留去し、2−プロパノール256gを添加し、70℃まで昇温して溶解させたのち、10℃まで冷却して溶媒を分離し、2−プロパノール128gで洗浄し、乾燥後、2−アセトキシ−7,8−ジフルオロナフタレンの結晶93.1gを得た。この結晶をガスクロマトグラフィーを用いて分析したところ、2−アセトキシ−7,8−ジフルオロナフタレンの純度は98.6%で、晶析収率は72%であった。
これを再結晶するため、2−プロパノール184gと2−アセトキシ−7,8−ジフルオロナフタレン91.8gを仕込み、70℃まで昇温して溶解させた後、20℃まで冷却して溶媒を分離し、2−プロパノール61.4gで洗浄して乾燥することで、2−アセトキシ−7,8−ジフルオロナフタレン82.4gを得た。この結晶をガスクロマトグラフィーを用いて分析したところ、2−アセトキシ−7,8−ジフルオロナフタレンの純度は99.6%で、晶析収率は89%であった。
【0043】
次に得られた2−アセトキシ−7,8−ジフルオロナフタレン82.4gとトルエン409gを仕込んで溶解させた後、98%硫酸2.06gとメタノール35.4gの混合溶液を添加し、還流温度になるまで昇温した後、同温度で2時間保持した。反応終了後、室温まで冷却して水で2回洗浄し、有機層から溶媒を留去した後、トルエン123gとヘプタン280gを添加した。70℃まで昇温させて溶解し、50℃まで冷却したところでヘプタン294g添加し、室温まで冷却して水を82.1g添加した。溶媒を分離して水で洗浄し、乾燥後、7,8−ジフルオロ−2−ナフトール52.5gを得た。
この結晶をガスクロマトグラフィーを用いて分析したところ、7,8−ジフルオロ−2−ナフトールの純度は99.9%で、2−アセトキシ−7,8−ジフルオロナフタレンを基準とした収率は79%であった。また、2,3−ジフルオロフェニル酢酸を基準とした全収率は38%であった。
【0044】
(比較例1)
攪拌機、温度計、還流冷却器及び塩化カルシウム管を備えた1Lガラスフラスコに、2,3−ジフルオロフェニル酢酸142g (純度98%、0.81モル)、ピリジン0.20g (0.003モル)及び塩化メチレン425gを仕込んで窒素雰囲気にした後、この混合溶液中に塩化チオニル118g (0.99モル)を滴下した。その後、還流温度まで昇温し、還流下で4時間保持した。反応終了後に反応液を冷却し、溶媒留去後、2,3−ジフルオロフェニル酢酸塩化物を含む塩化メチレン溶液を得た。
次に攪拌機、温度計、還流冷却器を備えた2Lガラスフラスコに、塩化メチレン828gと塩化アルミニウム128g(0.96モル)仕込み、−10℃まで冷却した。この混合溶液中に、2,3−ジフルオロフェニル酢酸塩化物を含む塩化メチレン溶液601gの混合液を滴下し−10〜5℃になるように滴下速度を調節した。その後、同温度で1時間保持した。その後、−5〜5℃に維持しながらエチレンガスを50mL/分の速度で6時間かけて吹き込み、1時間保持した。反応終了後、水642gを2Lガラスフラスコに仕込み0℃まで冷却した後、エチレンと反応させた混合物を0〜20℃に維持しながら滴下して過剰の塩化アルミニウムを失活させた。これを分液して得られた有機層を水洗し、溶媒を留去して、7,8−ジフルオロ−2−テトラロンを含む溶液を184g得た。
この溶液をガスクロマトグラフィーを用いて分析したところ、7,8−ジフルオロ−2−テトラロンを61.1%含有していた。2,3−ジフルオロフェニル酢酸に対する7,8−ジフルオロ−2−テトラロンの収率は76%であった。
【0045】
次に、得られた溶液にトルエン380g、無水酢酸252g(2.47モル)を仕込み、溶液が20−40℃になるように、98%硫酸を75.6g滴下した。この溶液を、100℃に昇温したトルエン溶液112gに1時間かけて滴下し、同温で3時間保持した。反応終了後、反応混合物を10℃に冷却した水225gの中に添加して失活させ、分液した有機層を10%食塩水で洗浄し得られた溶液をガスクロマトグラフィーを用いて分析したところ、2−アセトキシ−7,8−ジフルオロナフタレンの含有量は15.1%で、収率は82%であった。
【0046】
次に得られた2−アセトキシ−7,8−ジフルオロナフタレンを含む溶液を仕込んだ後、98%硫酸2.8gとメタノール48.6gの混合溶液を添加し、還流温度になるまで昇温した後、同温度で3時間保持した。反応終了後、室温まで冷却して水で2回洗浄して得られた溶液をガスクロマトグラフィーを用いて分析したところ、7,8−ジフルオロ−2−ナフトールの純度は11.6%で、収率は92%であった。得られた溶液から濃縮物が210gになるまで溶媒を留去し、ヘプタン542gを添加した。70℃まで昇温させて溶解し、室温まで冷却して水を335g添加した。溶媒を分離して水で洗浄して7,8−ジフルオロ−2−ナフトールをウエット状で60g得られた。一部乾燥し、ガスクロマトグラフィーを用いて分析したところ、7,8−ジフルオロ−2−ナフトールの純度は86%で、晶析収率は75%であった。
水分を共沸させるためトルエンを添加し、濃縮物が146gになるまで溶媒を留去し、これを精製するため、ヘプタン388gを仕込み、70℃まで昇温させて溶解し30分撹拌した。室温まで冷却して水を216g添加した。溶媒を分離して水で洗浄し、乾燥後、7,8−ジフルオロ−2−ナフトール38.6gを得た。
この結晶をガスクロマトグラフィーを用いて分析したところ、7,8−ジフルオロ−2−ナフトールの純度は92.0%で、精製収率は82%であった。また、2,3−ジフルオロフェニル酢酸を基準とした全収率は35%であった。
【0047】
(比較例2)
比較例1と同様に、2,3−ジフルオロフェニル酢酸を出発物質として調製した純度87%の7,8−ジフルオロ−2−ナフトール40gを、2−プロパノール15gに溶解させ、還流温度まで昇温させた後、0℃まで冷却して溶媒を分離し、0℃に冷やした2−プロパノールで洗浄、乾燥後、7,8−ジフルオロ−2−ナフトールの結晶3.2gを得た。この結晶をガスクロマトグラフィーを用いて分析したところ、7,8−ジフルオロ−2−ナフトールの純度は97.1%で、精製収率は8%であった。また、2,3−ジフルオロフェニル酢酸を基準とした全収率は3.5%であった。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明によって、7,8−ジフルオロ−2−ナフトールを、簡便かつ経済的に有利な方法で量産することができる製造方法が提供される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2,3−ジフルオロフェニル酢酸を、ハロゲン化剤で酸ハロゲン化物とした後、ルイス酸存在下でエチレンと反応させて7,8−ジフルオロ−2−テトラロンを得る工程、7,8−ジフルオロ−2−テトラロンを、酸無水物、硫酸により2−アセトキシ−7,8−ジフルオロナフタレンとし、これを精製する工程、および2−アセトキシ−7,8−ジフルオロナフタレンを脱アセチル化して7,8−ジフルオロ−2−ナフトールとする工程からなる7,8−ジフルオロ−2−ナフトールの製造方法。

【公開番号】特開2010−222302(P2010−222302A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−72010(P2009−72010)
【出願日】平成21年3月24日(2009.3.24)
【出願人】(000126115)エア・ウォーター株式会社 (254)
【出願人】(000002886)DIC株式会社 (2,597)
【Fターム(参考)】