説明

8‐ヒドロキシデオキシグアノシン生成抑制剤

【課題】本発明は、がん、アテローム性動脈硬化および糖尿病において、危険因子であると指摘されている8‐ヒドロキシデオキシグアノシン(8‐OHdG)の生成を効果的に抑制する物質を見出すことを課題とする。
【解決手段】非発酵型ルイボスに含まれる成分の内、アスパラチンに8‐OHdG生成抑制作用を認めた。特に紫外線などのストレスから皮膚組織細胞を保護することができることを確認した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は8‐ヒドロキシデオキシグアノシン(8‐OHdG)生成抑制物質に関する。
【背景技術】
【0002】
DNAを構成する核酸の一つグアノシンは酸化されやすく、がんや動脈硬化などの原因とされる活性酸素によって、8‐ヒドロキシデオキシグアノシン(8‐OHdG)に変化し、アデニンと結合し結果的に遺伝子情報が書き換えられる(酸化損傷)ことになる。
【0003】
8‐OHdGはDNA損傷研究においてマーカーとして利用されるが、また8‐OHdGは、尿中でも検出可能であり、一般的な細胞酸化ストレスのバイオマーカーとしても利用される(Clin Chim Acta. 2004 Jan;339(1-2):1-9.非特許文献1)。更に、紫外線は皮膚細胞にストレスを与える要因であるが、その際にDNAは損傷し、8‐OHdGが生成することが知られており、ヒト正常表皮および皮膚線維芽細胞に対して紫外線を照射し、皮膚細胞へのダメージを評価する方法が考案されている(Photochem Photobiol. 2005 Jul-Aug;81(4):837-42.非特許文献2)。
【0004】
がん、アテローム性動脈硬化および糖尿病において、8‐OHdGが危険因子である可能性も指摘されている。例えば、尿中8‐OHdGの上昇を種々のがん患者で認め、ヒトアテローム性動脈硬化斑において、酸化修飾されたDNAと8‐OHdG量の上昇を認めている。高血糖糖尿病患者においては、尿中8‐OHdGと白血球DNAの上昇を認め、糖尿病性腎症の重症度と尿中8‐OHdG量の相関性を認めている(非特許文献1)。
【0005】
しかしながら、この8‐OHdGの生成を抑制する効果的な方法が見出されておらず、有効な8‐OHdG生成抑制剤の開発が望まれているところである。
【0006】
【特許文献1】特開2007−197409号公報
【特許文献2】特開平06−199694号公報
【特許文献3】特開平06−199692号公報
【特許文献4】特開平05−271090号公報
【非特許文献1】Clin Chim Acta. 2004 Jan;339(1-2):1-9.
【非特許文献2】Photochem Photobiol. 2005 Jul-Aug;81(4):837-42.
【非特許文献3】J Agric Food Chem. 2003 Dec 3;51(25):7472-4.
【非特許文献4】J. Clin. Biochem. Nutr. 2007 Nov;41(Sup):129.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、皮膚細胞へダメージを与える8‐ヒドロキシデオキシグアノシン(8‐OHdG)の生成を効果的に抑制する物質を見出すことを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意研究を行った結果、非発酵型ルイボスに含まれる成分、アスパラチンに8‐OHdG生成抑制作用を認め、特に紫外線などのストレスから皮膚組織細胞を保護することができることを確認し本発明を完成した。
【0009】
すなわち本発明は、
(1)アスパラチンを有効成分として含有する8‐ヒドロキシデオキシグアノシン(8‐OHdG)生成抑制剤、
(2)アスパラチンが非発酵型ルイボス茶由来であることを特徴とする(1)記載の8‐ヒドロキシデオキシグアノシン(8‐OHdG)生成抑制剤、
(3)アスパラチンを有効成分として含有する皮膚組織保護剤、
(4)アスパラチンが非発酵型ルイボス茶由来であることを特徴とする(3)記載の皮膚組織保護剤
に関するものである。
【0010】
本発明のアスパラチンは、下記の構造式を有している。
【化1】

【0011】
ところで、従来から南アフリカで育ち健康によい成分をもつというルイボスという植物を発酵させた発酵型ルイボス茶が知られているが、近年、非発酵型ルイボス茶が開発され、この非発酵型ルイボス茶は、従来の発酵型ルイボス茶よりも抗酸化力が強く、特異的な成分として糖化フラボノイドの一種、アスパラチンを多く含むことが報告されている(J Agric Food Chem. 2003 Dec 3;51(25):7472-4、非特許文献3)。
【0012】
非発酵型ルイボス茶とは、従来のルイボス茶が発酵と呼ばれる酸化プロセスを経て製造されるのに対し、この酸化プロセス、すなわち発酵を経ないで製造される茶を示す。非発酵型ルイボス茶は、グリーンルイボス茶として市販されている。
【0013】
発酵してできるルイボス茶は、欧米では美容と健康のために飲用されている。成分としては、鉄、カルシウム、銅、亜鉛、マンガンなどのミネラルや、抗酸化作用,活性酸素除去作用のあるSOD様物質といわれるフラボノイドを含んでいる。炎症や細胞の老化防止に効果があり、肌荒れ、口内炎、アトピー性皮膚炎、高血圧の改善、がん予防作用などが報告されている。
【0014】
この従来の発酵型ルイボスにはアスパラチンは0.1%程度であり(非特許文献3)、アスパラチンの生体内での作用についてはまったく不明と言って良い状態であった。
【0015】
本発明者らは、アスパラチンを非発酵型ルイボス茶より精製し、アスパラチンに肝癌細胞の増殖抑制活性と癌細胞の転移抑制活性を見出し、2006年度の日本農芸化学会で発表し、特許出願も行っている(特開2007−197409号公報、特許文献1)。また、インスリン分泌促進作用、筋管組織によるグルコース取込み促進作用を認め、糖尿病モデルマウスを用いた試験により血糖値抑制作用を見出した(J. Clin. Biochem. Nutr. 2007 Nov;41(Sup):129.非特許文献4)。
【0016】
上記のほか、アスパラチンは血圧安定化治療剤(特開平06−199694号公報、特許文献2)として、白内障改善治療剤(特開平06−199692号公報、特許文献3)として、また活性酸素消去・除去剤(特開平05−271090号公報、特許文献4)として有効であるとの開示もある。
【0017】
本発明者らは、このアスパラチンを更に有効活用すべく研究を行ったところ、アスパラチンはストレスにより生成されるとされる8‐OHdG生成を抑制し、特に皮膚へのダメージを緩和する作用を有することを見出した。
【0018】
本発明に係る8‐ヒドロキシデオキシグアノシン(8‐OHdG)生成抑制剤及び皮膚組織保護剤の剤形は、特に限定されるものではないが、例えば、クリーム、乳液、パック、軟膏、浴用剤等の外皮用剤、内服剤、注射剤、座剤等が挙げられる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によって、皮膚細胞へダメージを与える8‐ヒドロキシデオキシグアノシン(8‐OHdG)の生成を抑制し、特に紫外線などのストレスから皮膚組織細胞を保護することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明をより具体的に説明するために実施例を示す。
【実施例1】
【0021】
(アスパラチンの取得)
非発酵型ルイボス茶より、アスパラチンを精製した。アスパラチンは、287nmに特異的な極大吸収を示すが、これを指標としてHPLCで分析し精製を行った。アスパラチンをエタノールにてソックスレー抽出し、濃縮、ヘキサンを添加し、ヘキサン層と含水エタノール層を形成するまで脱イオン水を攪拌しながら添加した。含水エタノール層を濃縮、脱エタノール後、吸着樹脂にアスパラチンを吸着させた。吸着樹脂を脱イオン水で洗浄後、吸着したアスパラチンをエタノールで溶出させ、これをさらにシリカゲル、HP20SS吸着樹脂、ウィンタリング、結晶化などで精製し、純度96.3%のアスパラチンを得た。
【実施例2】
【0022】
(8‐OHdG生成抑制の検討)
ヒト正常線維芽細胞による8‐OHdG生成抑制作用は以下のように実施した。
【0023】
[維持培養]
ヒト皮膚組織より分離したヒト正常線維芽細胞は、10%ウシ胎児血清(FBS)含有DMEM培地を使用し、CO2インキュベーター(5%CO2、37℃)内で、週2回の培地交換で培養した。
【0024】
[8‐OHdG生成抑制作用検定のための培養]
ヒト正常線維芽細胞を10%ウシ胎児血清(FBS)含有DMEM培地(10%FBS/DMEM) で培養増殖させ、4 x 105細胞/mlに調製し、5mlを6cmディッシュに播種した(2 x 106細胞/ml)。15時間後、アスパラチンを含まない10%FBS/DMEM(陰性コントロール)、0.1μM、1μM及び10μMアスパラチンを含む10%FBS/DMEM、10μM DL‐α‐トコフェロール(VE)と1μM亜セレン酸(SA)を含む10%FBS/DMEM(陽性コントロール)に交換し、1時間培養後、UV‐Aを70分間照射した(UV‐A強度;10J/cm2)。UV‐A照射後直ちに培養上清を除去し、トリプシン処理により細胞を回収した。
【0025】
[8‐OHdG測定法]
回収した細胞から、DNA Extractor WB Kit(和光純薬)を用いてDNAを抽出した。抽出したDNAは加水分解し、加水分解処理後のDNA中に含まれる8‐OHdG を、高感度8‐OHdG check(日本老化制御研究所)を用いて、ELISAにより測定した。マイクロプレートリーダーで450nmにおける吸光度を測定した。8‐OHdGの標準曲線はY= -0.3291Ln(X) + 1.4526 (Y: 8‐OHdGの量、X:吸光度)、r=0.9939であった。
【0026】
図1から分かるように、陰性コントロールを100%とし、相対生成量を求めたところ、陽性コントロールでは、58.5%、1μMアスパラチンでは、94.7%、10μMアスパラチンでは、62.9%であった。
【0027】
すなわち、アスパラチンは、10μMで陽性コントロールのVE+SA(トコフェロール+亜セレン酸)と同等の効果を奏することができる。このことによって、アスパラチンはヒト正常線維芽細胞の8‐OHdGに対して生成抑制の効果を奏し、紫外線照射に対して皮膚組織細胞を保護できることを確認した。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】UV照射で生成するヒト正常線維芽細胞の8‐OHdGに対するアスパラチンの影響を示す図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アスパラチンを有効成分として含有する8‐ヒドロキシデオキシグアノシン(8‐OHdG)生成抑制剤。
【請求項2】
アスパラチンが非発酵型ルイボス茶由来であることを特徴とする請求項1記載の8‐ヒドロキシデオキシグアノシン(8‐OHdG)生成抑制剤。
【請求項3】
アスパラチンを有効成分として含有する皮膚組織保護剤。
【請求項4】
アスパラチンが非発酵型ルイボス茶由来であることを特徴とする請求項3記載の皮膚組織保護剤。

【図1】
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【公開番号】特開2009−263243(P2009−263243A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−111237(P2008−111237)
【出願日】平成20年4月22日(2008.4.22)
【出願人】(000108812)タマ生化学株式会社 (19)
【Fターム(参考)】