説明

ALCパネルの切削工具及び外壁目地の補修方法

【課題】 ALCパネルを用いた建物外壁における目地補修の方法において、単純な手動操作で目地溝をきれいに再生させることが可能となり、有機酸等の各種薬品を用いることなく既存のシーリング材の残留薄層に起因する漏水と補修後の美観悪化の問題を解決し、簡単な補修作業で修復を可能にする工具と補修方法を提供する。
【解決手段】 目地溝の側壁を削る切削刃と該側壁の面取部を切削する面取刃を具備しているALCパネルの切削工具を提供する。この工具を使用して1回の罫描きでALCパネルの目地溝の一部をシーリング材と塗料と共に切削除去し、新たな目地溝を再生してそこにシーリング材充填と塗料の塗布を施す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ALCパネル製の建物外壁の目地材の補修方法に関し、さらに詳しくは、目地溝に充填されているシーリング材を更新する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
軽量気泡コンクリート(ALC)は、軽量で耐火性、耐熱性及び施工性に優れているために、建材用パネルに成形されてショッピングセンター等の大型建築物から戸建住宅のような小規模建築物まで幅広く使用されている。
ビルなどの建物外壁におけるALCパネル接合部の目地溝には、シリコン又は非シリコン系シーリング材を充填して漏水防止が図られている。これらシーリング材の経年劣化に際しては、該シーリング材をカッター等で除去し、新たなシーリング材を充填する補修工事を施す必要がある。
目地部の補修方法としては、例えばメチルアルコール等の溶剤をシーリング材をカッターで除去した後の残留薄層に塗布し、拭き取って新たなシーリング材を充填する方法が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
また、有機酸からなるシーリング材溶解液をシーリング材をカッターで除去した後の目地溝に充填し、シーリング材の残留薄層を溶解除去後に、新たなシーリング材を充填する方法も提案されている(例えば、特許文献2参照。)。
【特許文献1】特開平6−146614号公報
【特許文献2】特開平2001−140365号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上述した従来例におけるシーリング材の補修にあっては、既設のシーリング材をカッター等で除去しているが、目地溝内面に除去しきれないシーリング材の薄層が残留するのを回避するのが難しく、また、外壁ALCパネル間におけるシーリング材と界面にあたる面取部に付着した塗料の除去も困難であるため、これらシーリング材の残留薄層、界面の付着塗料等が新たに充填したシーリング材との界面に介在して漏水の原因となったり、また、除去後のシーリング材新設用の加工部の形を整えることが困難なため、新設したシーリング材が美観的に問題となる可能性があった。
【0004】
殊に既存のシーリング材がシリコン系シーリング材で、新たなシーリング材が非シリコン系シーリング材であった場合両者は親和性に欠け、シリコン系シーリング材の残留薄層と非シリコン系シーリング材との界面に接着不良を来たし、同様に漏水を招来する危険がある。
【0005】
上記特許文献1に開示された如く、溶剤を残留薄層に塗布する方法では残留薄層を膨潤する作用は有するが、溶解する機能を有さず、拭き取っても残留薄層基層部の残留を回避することが難しく、これが新たに充填されるシーリング材との界面に介在して、接着不良(防水瑕疵)を来たす恐れを有している。
また、上記特許文献2に開示された如く、有機酸からなるシーリング材溶解材の充填を行う場合には、シーリング材の残留薄層のみならずALCパネル母材が侵食される恐れを有している。
【0006】
本発明は上記問題を適切に解決する、ALCパネルを用いた建物外壁における目地シーリング材除去用工具と同工具を用いた目地補修方法を提供することを目的とする。
本発明は、上記のようにALCパネルを用いた建物外壁における目地溝に充填されているシーリング材及び塗料を、ALCパネルの持つ非切削性の良さを利用してパネルと共に切削除去することにより、新たな目地溝を作成した上で新たなシーリング材を充填し接着を確実にする方法を採るものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明では目地溝の側壁を削る切削刃と該側壁の面取部を切削する面取刃を具備している切削工具を使用することとした。
本発明の切削工具では、前記切削刃は所定の幅を保持した2枚の刃が切削工具本体の底部に傾斜して突出しているものを使用することができる。
また、前記面取刃は、所定の面取角を有する刃が前記切削刃の後方に、底部に傾斜して突出してなるものを使用することができる。
切削工具をこのような構成にしていけば、1回の操作で古いシーリング材の除去と塗料の剥離とを同時に行うことができる。
【0008】
本発明の切削工具では、前記切削刃及び面取刃が共に刃の突出長さを調整可能に取り付けられてなることが好ましい。
また、前記切削工具本体にタイヤが装着されていることが好ましい。
切削工具本をこのように構成しておけばいかなる形状・大きさの目地溝のも適用させることが可能となり、楽な手動操作で目地溝をきれいに再生させることが可能となる。
【0009】
本発明の外壁目地の補修方法は、上記の本発明の各切削工具のいずれかのALCパネルの切削工具を用い、目地溝に充填されているシーリング材を切除するとともに、目地溝の面取部に付着している塗料を切除したて新たな目地溝を露出させた後、目地溝に新たなシーリング材を充填し面取部を含むシーリング材に塗料を塗布するALC建築物における外壁目地の補修方法とした。
この補修方法によれば、1回の操作で古いシーリング材の除去と塗料の剥離とを同時に行うことができ、シーリング材と面取部界面との接着を確実なものとして漏水の原因となる要因を排除し、補修部シーリング材の形を整え美観的にも美しい目地を得ることができる。
【発明の効果】
【0010】
以上説明したように、本発明によればALCパネルを用いた建物外壁における目地補修の方法において、単純な手動操作で目地溝をきれいに再生させることが可能となり、有機酸等の各種薬品を用いることなく既存のシーリング材の残留薄層に起因する漏水と補修後の美観悪化の問題を有効に解消し、健全なる補修作業を簡単に実施することができる。
さらに、新たに充填するシーリング材がシリコン系であっても非シリコン系であっても新たなシーリング材の接着は良好であり、漏水を生じることのない目地補修が行える。
また、手動による装置の採用により、補修時の騒音や粉塵の飛散などを最小限に抑えることが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下図面に基づき、本発明の実施形態について具体的に説明する。
図1は本発明の構成を説明する外観図であって、(a)は正面図、(b)は側面図である。
図1(a)に示すように、本発明の切削工具10は切削工具本体9の底面9aに、2枚の切削刃4a、4bが所定の幅を保って突出して取り付けられている。2枚の切削刃4a、4bの幅は、切除すべき古いシーリング材の幅よりも若干広く、ALCパネルを少し削り取る幅に設定されている。
さらに、切削工具本体9の底面9aには、面取刃5a、5bが前記切削刃4a、4bの後方に切削刃より外側に突出して取り付けられている。面取刃5a,5bは、目地溝の面取角度に合わせて傾斜した刃先を有している。
横から見ると、図1(b)に示すように切削刃4のやや後方に面取刃5が取り付けられている。
【0012】
切削刃4a、4bの長さは目地溝の底部、すなわち古いシーリング材の深さよりも僅かに長く設定されており、そこから目地溝の面取部まで上がった位置に面取刃5a、5bの先端がくるように設定されている。
切削刃4a、4bは、ALCパネル目地溝の側壁を削るものであり、また切削刃5a、5bは外壁パネルの欠け落ち防止のために設けられている、パネル4周りの面取り加工部に付着している塗料を削るためのものであり、加工部の深さに合わせそれぞれ出入り寸法を調整できる仕組みとなっている。
切削刃4a、4b及び面取刃5a、5bの位置関係をこのように設定することにより、古いシーリング材及び目地溝の面取の塗布された塗料を、一度操作するだけで同時に切削除去することができる。
【0013】
本発明の切削工具10の切削工具本体9には、タイヤ7が装着されている。タイヤ7は切削時の直進性を安定させるためのものであり、例えばゴム製などのある程度弾力を持つ素材を使用することにより、パネル表面塗装材8の凹凸にも無理なく転がるものであり、切削作業の省力化を図ることができる。
【0014】
次に、上述の本発明の切削工具を用いた目地の補修の手順を示す。
図2(a)に示すように、ALCパネルを用いた建物外壁1の目地溝11には、シーリング材2aが充填されている。また、ALCパネルの欠け防止のために設けられているパネル4周りの面取部12には、仕上げ塗材3aが付着している。
【0015】
このシーリング材2a及び仕上げ塗材3aを、図1に示す構造の切削治具10で図2(b)〜図3(d)に示すように、ALCパネル1の目地溝11の一部と共に同時に切削して除去し、図3(e)に示すように、目地溝11も含めたALCパネルの新たな目地部11’を得る。
より具体的には、図2(b)に示すように、切削刃4a、4bを目地溝11に合わせ、罫描いてシーリング材2aの両側に切れ目を入れる。
これと同時に、図2(c)に示すように、切削刃4の後方にある面取刃5a,5bで仕上げ塗材3aを切削除去する。
最後に、図3(d)に示すように、新しい面取部12’が露出した目地溝11に残留しているシーリング材2aを取り除くと、図3(e)に示すような、ALCパネルの新たな目地溝11’が得られる。
【0016】
次に、図4(f)に示すように、新たなALCパネルの目地溝11’に、新設時と同様にシラン系、合成ゴム系、エポキシ系等のプライマーを塗布した後、新たなシーリング材2bを充填する。新たなシーリング材2bは、シラン系、合成ゴム系、エポキシ系等公知の各種シーリング材を使用することができる。
新たなシーリング材2b充填後、図4(g)に示すように、新たなシーリング材2bを含む面取部12’に新たな仕上げ塗材3bを塗布する。
このようにしてALCパネルを用いた建物外壁の目地を補修する。
【0017】
次に、図5(a)から図7(g)に、目地溝にバックアップ材を充填した例を説明する。
この例では図5(a)に示すように、ALCパネルを用いた建物外壁1の目地溝11には、バックアップ材6を充填し、その上にシーリング材2aが充填されている。また、ALCパネルの欠け防止のために設けられているパネル4周りの面取部12には、仕上げ塗材3aが付着している。バックアップ材6は、シーリング材2aを目地溝と2面で接着させるための裏当ての役目をしているものであって、市販の専用材料を用いている。
目地溝の補修手順については、前述の図2(b)から図4(g)に示す手順と同様であるので、詳しい説明は省略する。
この場合も切削刃4の長さはシーリング材2aの深さと同じにすればよい。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の切削装置の構造を示す図であって、(a)は正面図、(b)は側面図を示す。
【図2】本発明のALC建築物における外壁目地の補修方法の手順を示す工程図である。
【図3】図2に続く補修方法の手順を示す工程図である。
【図4】図3に続く補修方法の手順を示す工程図である。
【図5】本発明のALC建築物における外壁目地の別の補修方法の手順を示す工程図である。
【図6】図5に続く補修方法の手順を示す工程図である。
【図7】図6に続く補修方法の手順を示す工程図である。
【符号の説明】
【0019】
1 ALCパネル
2a、2b シーリング材
3a、ab 塗料
4 切削刃
5 面取刃
6 バックアップ材
7 タイヤ
9 切削装置本体
10 切削工具
11 目地溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ALCパネル製の建物外壁の目地溝に充填されているシーリング材を切除するための工具であって、前記目地溝の側壁を削る切削刃と該側壁の面取部を切削する面取刃を具備してなることを特徴とするALCパネルの切削工具。
【請求項2】
前記切削刃は、所定の幅を保持した2枚の刃が切削工具本体の底部に傾斜して突出してなることを特徴とする請求項1に記載のALCパネルの切削工具。
【請求項3】
前記面取刃は、所定の面取角を有する刃が前記切削刃の後方に、底部に傾斜して突出してなることを特徴とする請求項1または2に記載のALCパネルの切削工具。
【請求項4】
前記切削刃及び面取刃が、共に刃の突出長さを調整可能に取り付けられてなることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載のALCパネルの切削工具。
【請求項5】
前記切削工具本体にタイヤが装着されてなることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載のALCパネルの切削工具。
【請求項6】
前記請求項1から5のいずれか1項に記載のALCパネルの切削工具を用い、目地溝に充填されているシーリング材を切除するとともに、目地溝の面取部に付着している塗料を切除したて新たな目地溝を露出させた後、目地溝に新たなシーリング材を充填し面取部を含むシーリング材に塗料を塗布することを特徴とするALC建築物における外壁目地の補修方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−95347(P2008−95347A)
【公開日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−276992(P2006−276992)
【出願日】平成18年10月10日(2006.10.10)
【出願人】(399117730)住友金属鉱山シポレックス株式会社 (195)
【Fターム(参考)】