説明

ArFリソグラフィ用ミラー、およびArFリソグラフィ用光学部材

【課題】ArFリソグラフィ用ミラーに適した特性を有する光学部材、および、該光学部材を用いたArFリソグラフィ用ミラーの提供。
【解決手段】光学面が下記(1)〜(5)を満たし、22℃における熱膨張係数(CTE)が0±200ppb/℃であるArFリソグラフィ用光学部材。
1mm≦λ(空間波長)≦10mmにおけるRMSが0.1nm以上3.0nm以下 (1)
10μm≦λ(空間波長)≦1mmにおけるRMSが0.1nm以上3.0nm以下 (2)
250nm≦λ(空間波長)≦10μmにおけるRMSが0.05nm以上1.0nm以下 (3)
100nm≦λ(空間波長)≦1μmにおけるRMSが0.01nm以上1.0nm以下 (4)
50nm≦λ(空間波長)≦250nmにおけるRMSが0.01nm以上1.0nm以下 (5)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ArFリソグラフィ用ミラー、および該ミラーに好適なArFリソグラフィ用光学部材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、光リソグラフィ技術においては、ウェハ上に微細な回路パターンを転写して集積回路を製造するための露光装置が広く利用されている。集積回路の高集積化および高機能化に伴い、集積回路の微細化が進み、露光装置には深い焦点深度で高解像度の回路パターンをウェハ面上に結像させることが求められ、露光光源の短波長化が進められている。露光光源は、従来のg線(波長436nm)、i線(波長365nm)やKrFエキシマレーザ(波長248nm)から進んでArFエキシマレーザ(波長193nm)が用いられようとしている。
【0003】
露光光源としてArFエキシマレーザを用いたArFリソグラフィの光学系としては、従来、屈折光学系を用いることが検討されていた。
しかしながら、ArFリソグラフィに屈折光学系を用いた場合、(1)光線透過時の温度上昇により結像ムラが生じる、(2)開口数(NA)の関係で曲率を大きくすることができず光学部材のサイズが大きくなるが、サイズが大きい光学部材を均一組成で作成することは困難である等の問題があるため、反射光学系を用いることが検討されはじめている(特許文献1参照)。
【0004】
しかしながら、ArFリソグラフィの光学系として、従来は屈折光学系を用いることが検討されていたため、ArFリソグラフィ用の反射光学系に適した特性を有する光学部材、具体的には、ArFリソグラフィ用のミラーに適した特性を有する光学部材は存在しなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−017543号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記した従来技術の問題点を解決するため、本発明はArFリソグラフィ用ミラーに適した特性を有する光学部材、および、該光学部材を用いたArFリソグラフィ用ミラーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記の目的を達成するため、光学面が下記(1)〜(5)を満たし、22℃における熱膨張係数(CTE)が0±200ppb/℃であるArFリソグラフィ用光学部材。
1mm≦λ(空間波長)≦10mmにおけるRMSが0.1nm以上3.0nm以下 (1)
10μm≦λ(空間波長)≦1mmにおけるRMSが0.1nm以上3.0nm以下 (2)
250nm≦λ(空間波長)≦10μmにおけるRMSが0.05nm以上1.0nm以下 (3)
100nm≦λ(空間波長)≦1μmにおけるRMSが0.01nm以上1.0nm以下 (4)
50nm≦λ(空間波長)≦250nmにおけるRMSが0.01nm以上1.0nm以下 (5)
【0008】
本発明のArFリソグラフィ用光学部材は、TiO2、SnO2、ZrO2、HfO2、NおよびFからなる群から選択される少なくとも1つをドーパントとして含むシリカガラスであることが好ましい。
【0009】
本発明のArFリソグラフィ用光学部材は、該光学部材におけるH2濃度が5×1017分子/cm3未満であり、OH基濃度が700wtppm未満であり、O2濃度が5×1017分子/cm3未満であることが好ましい。
【0010】
本発明のArFリソグラフィ用光学部材は、該光学部材の比弾性率が29.0MNm/kg以上であることが好ましい。
【0011】
本発明のArFリソグラフィ用光学部材は、該光学部材のヤング率が65GPa以上であることが好ましい。
【0012】
本発明のArFリソグラフィ用光学部材は、該光学部材の22℃において1.2W/(m・℃)以上の熱伝導率を有することが好ましい。
【0013】
本発明のArFリソグラフィ用光学部材は、該光学部材の光学面のビッカース硬度Hvが6.5GPa以上であることが好ましい。
【0014】
本発明のArFリソグラフィ用光学部材は、該光学部材の仮想温度Tfが900〜1100℃であることが好ましい。
【0015】
また、本発明は、本発明のArFリソグラフィ用ミラー用光学部材の光学面に、反射膜としてアルミニウム薄膜を形成し、該反射膜上に保護膜として少なくとも1層の誘電体薄膜が形成してなるArFリソグラフィ用ミラーを提供する。
【0016】
本発明のArFリソグラフィ用ミラーは、波長193nmの光線反射率が80%以上であることが好ましい。
【0017】
本発明のArFリソグラフィ用ミラーは、20mJ/cm2/パルスでArFレーザ光を107ショット照射した際のArFレーザ光照射前後での波長193nmの光線反射率の低下量が2.0%以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明のArFリソグラフィ用ミラーは、ArFレーザ光の波長域(193nm)の光線反射率がきわめて高く、かつ、ArFレーザ光照射による該波長域の光線反射率の低下がきわめて低く、かつ結像ムラが小さいため、ArFリソグラフィ用ミラーとして好適である。
本発明のArFリソグラフィ用光学部材は、ArFリソグラフィ用ミラーにとって好適な特性を有している。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明について説明する。
本発明のArFリソグラフィ用光学部材は、ArFリソグラフィ用ミラーにとって好適な熱膨張特性を有している。具体的には、本発明のArFリソグラフィ用光学部材は、22℃における熱膨張係数(CTE)が0±200ppb/℃である。
ArFリソグラフィを実施する際、露光装置内のミラーの温度変化による寸法変化を防ぐ目的から、露光装置内の温度は22℃になるように厳密に管理されている。
該ミラーに用いるArFリソグラフィ用光学部材の22℃における熱膨張係数(CTE)が0±200ppb/℃であれば、ArFリソグラフィ実施時における該光学部材の熱膨張係数がほぼゼロであるので、露光装置内のミラーが温度変化によって寸法変化することを防止できる。
本発明のArFリソグラフィ用光学部材は、22℃における熱膨張係数(CTE)が0±6ppb/℃であることが好ましく、0±5ppb/℃であることがより好ましく、0±4ppb/℃であることがさらに好ましい。
【0020】
22℃における熱膨張係数(CTE)が上記範囲を満たす光学部材としては、TiO2、SnO2、ZrO2、HfO2、NおよびFからなる群から選択される少なくとも1つをドーパントとして含むシリカガラスが挙げられる。
【0021】
シリカガラスにおけるドーパント含有量は、ドーパントの種類によって異なる。ドーパントとしてTiO2を含む場合、TiO2含有量が3〜9質量%であることが好ましく、5〜8.5質量%であることがより好ましく、6〜7.5質量%であることがさらに好ましい。
ドーパントとしてSnO2を含む場合、SnO2含有量が0.001〜5質量%であることが好ましく、0.01〜3質量%であることがより好ましく、0.1〜1.5質量%であることがさらに好ましい。
ドーパントとしてZrO2を含む場合、ZrO2含有量が0.001〜5質量%であることが好ましく、0.01〜3質量%であることがより好ましく、0.1〜1質量%であることがさらに好ましい。
ドーパントとしてHfO2を含む場合、HfO2含有量が0.001〜5質量%であることが好ましく、0.01〜3質量%であることがより好ましく、0.1〜1質量%であることがさらに好ましい。
ドーパントとしてNを含む場合、N含有量が0.001〜5質量%であることが好ましく、0.01〜3質量%であることがより好ましく、0.1〜2質量%であることがさらに好ましい。
ドーパントとしてFを含む場合、F含有量が0.01〜3質量%であることが好ましく、0.1〜2質量%であることがより好ましく、0.5〜1質量%であることがさらに好ましい。
ドーパントとしてFを含む場合、通常は他のドーパント、例えば、TiO2とともに含有させることが好ましい。この場合、両者の含有量の合計が4〜9質量%であることが好ましく、5〜8.5質量%であることがより好ましく、6〜8質量%であることがさらに好ましい。
【0022】
これらの中でも、ドーパントとしてTiO2を上記の含有量で含むシリカガラス(TiO2−SiO2ガラス)が、後述するガラスの製造方法において、原料ガスが気化しやすい、均質なガラスを得やすい等の理由から好ましい。
【0023】
本発明のArFリソグラフィ用光学部材は、ArFリソグラフィ用ミラーとして好適な表面特性を有している。具体的には、本発明のArFリソグラフィ用光学部材は、その光学面が下記(1)〜(5)を満たす。
1mm≦λ(空間波長)≦10mmにおけるRMSが0.1nm以上3.0nm以下 (1)
10μm≦λ(空間波長)≦1mmにおけるRMSが0.1nm以上3.0nm以下 (2)
250nm≦λ(空間波長)≦10μmにおけるRMSが0.05nm以上1.0nm以下 (3)
100nm≦λ(空間波長)≦1μmにおけるRMSが0.01nm以上1.0nm以下 (4)
50nm≦λ(空間波長)≦250nmにおけるRMSが0.01nm以上1.0nm以下 (5)
上記(3)〜(5)は、原子間力顕微鏡(AFM)にて、それぞれ1μm□領域、2μm□領域、10μm□領域の表面粗さを測定し、所定の空間領域となるバンドパスフィルタをかけた結果から算出する事ができる。上記(2)は、非接触表面形状測定機(例えば、ZYGO社製NewView)にて2mm□領域の表面粗さを測定し、所定の空間領域となるバンドパスフィルタをかけた結果から算出することができる。上記(1)は、非接触表面形状測定機(例えば、ZYGO社製NewView)にて30〜40mm幅のライン状の領域の表面粗さを測定し、所定の空間領域となるバンドパスフィルタをかけた結果から算出することができる。
なお、光学面が上記(1)〜(5)を満たすようにするための手段については後述する。
【0024】
各λ(空間波長)におけるRMSが上記の範囲であると、光学面の表面粗さが適度な大きさとなるため、以下の効果が得られると期待される。
パーティクル汚染の抑制
該光学部材を用いてミラーを作成する際や、作成されたミラーを用いてArFリソグラフィを実施する際には、該光学部材が帯電してパーティクルが付着したり、パーティクル発生の原因になることが問題となる。通常、このような光学部材の帯電は、接触剥離帯電であり、該保持面と金属等の他材料との接触面積に依存することが知られている。したがって、例えば、光学部材の表面粗さが適度に大きい場合には、光学部材と金属等の他材料との接触面積は小さくなり、光学部材の帯電量も小さくなる。これにより静電気で付着するパーティクルを抑制することができ、同様に液体中でのパーティクル付着を抑制することができると考えられることから、光学部材の洗浄効果が増すと考えられる。
膜密着性の向上
後述する手順でArFリソグラフィ用光学部材の光学面にアルミニウム薄膜および誘電体薄膜を形成する際に、光学部材の光学面の表面粗さの大きさが適度に大きい場合、これら薄膜の密着性を向上させることができる。
多層反射膜から光学部材への熱伝達の促進
ArFリソグラフィ用光学部材の光学面の表面粗さが適度に大きい場合、該光学面の表面積が大きくなるため、後述する手順で光学面にアルミニウム薄膜および誘電体薄膜を形成した際に、これら薄膜から光学部材への熱伝導が促進される。
側面からの迷光の透過抑制
ArFリソグラフィの実施時に光学部材の側面(光学面および保持面に対して)に迷光が侵入した場合、侵入した光は光学部材の表面での反射を繰り返してから外部に放出される。この際、光学面の表面粗さが適度に大きい場合、該光学面で入射光が散乱されるため、直進性が損なわれる。その結果、一部の光は光学部材の保持面に入射し、該保持面と接している静電チャック(静電チャックを構成する金属体あるいは静電チャックに形成された金属膜)に吸収される。その結果、光学部材の内部から迷光として放出される光が減少する。
【0025】
本発明のArFリソグラフィ用光学部材は、光学面が下記(6)〜(10)を満たすことが好ましい。
1mm≦λ(空間波長)≦10mmにおけるRMSが0.3nm以上2.0nm以下
(6)
10μm≦λ(空間波長)≦1mmにおけるRMSが0.3nm以上2.0nm以下
(7)
250nm≦λ(空間波長)≦10μmにおけるRMSが0.1nm以上0.5nm以下 (8)
100nm≦λ(空間波長)≦1μmにおけるRMSが0.01nm以上0.1nm以下
(9)
50nm≦λ(空間波長)≦250nmにおけるRMSが0.01nm以上0.1nm以下 (10)
【0026】
本発明のArFリソグラフィ用光学部材は、ArFリソグラフィの実施時、該光学部材から放出されるガスの量がきわめて少ないことがArFリソグラフィ時のパターン精度に悪影響を及ぶことがないので好ましい。
【0027】
該光学部材から放出されるガスの量を上記の範囲とするためには、該光学部材におけるH2濃度が5×1017分子/cm3未満であることが好ましく、1×1017分子/cm3未満であることがより好ましく、5×1016分子/cm3未満であることがさらに好ましく、1×1016分子/cm3未満であることが特に好ましい。
また、該光学部材におけるOH基濃度が700wtppm未満であることが好ましく、200質量ppm未満であることがより好ましく、100wtppm未満であることがさらに好ましく、50wtppm未満であることが特に好ましい。
加えて、該光学部材におけるO2濃度が5×1017分子/cm3未満であることが好ましく、1×1017分子/cm3未満であることがより好ましく、5×1016分子/cm3未満であることがさらに好ましく、1×1016分子/cm3未満であることが特に好ましい。
【0028】
光学部材のH2濃度の測定は、特許第3298974号明細書に基づく電子科学株式会社製の昇温脱離分析装置(Thermal Desorption Spectrometer;TDS)を用いて以下の手順で行うことができる。
測定対象となる光学部材(測定サンプル)を昇温脱離分析装置内に入れ、その測定室内部を所定の真空度まで真空引きした後、光学部材を加熱し、発生したガスの質量数を分析装置内部に設置された質量分析計にて測定し、H2の昇温脱離プロファイル(H2の検出量を温度との関係でプロットしたもの)を作成する。次に光学部材と同一の材料で作成した標準サンプルであってH2濃度が既知のものについて、H2の昇温脱離プロファイルを作成する。作成したH2の昇温脱離プロファイルに基づいて、測定サンプルと標準サンプルとのH2の脱離ピークの積分強度比より、測定サンプルから脱離したH2の数を算出することで測定サンプルに含まれるH2濃度を求めることができる。
【0029】
光学部材のOH基濃度は以下のように測定できる。赤外分光光度計による測定から光学部材の吸収スペクトルを測定し、そのスペクトルの2.7μm波長での吸収ピークからOH基濃度を求める。本法による検出限界は、通常約0.1wtppmである。
【0030】
光学部材のO2濃度の測定方法は以下の通りである。波長1064nmもしくは765nmのレーザで励起し、1272nmピークの発光を測定する。測定には1272nmの波長をもつ光を測定できる検出器を用いて行う(L. Skuja and B. Guttler、“Detection of Interstitial Oxygen Molecules in SiO2 Glass by a Direct Photoexcitation of the Infrared Luminescence of Singlet O2” Physical Review Letters、(アメリカ)、1996年、第77巻、第10号、P.2093−2096))。
2濃度は発光スペクトルのピーク強度Iに比例するため、予めO2濃度の既知な標準試料の発光ピーク強度との比から平均O2濃度を算出することが出来る。標準試料が無い場合は、Raman shift= 490cm-1の固有なラマン線のピーク強度IRが試料に依らず一定となることから、発光スペクトルのピーク強度Iと、ラマンピーク強度IRの比I/IRから、平均O2濃度≒5×1017I/IR [cm-3]の関係式により、平均O2濃度を算出することが出来る。
【0031】
本発明のArFリソグラフィ用光学部材は、比弾性率が29.0MNm/kg以上であることが、後述する手順でArFリソグラフィ用光学部材の光学面にアルミニウム薄膜および誘電体薄膜を形成する際やArFリソグラフィ実施時に、静電チャックで保持することによる光学部材の変形量が少なくなるため好ましい。本発明のArFリソグラフィ用光学部材は、比弾性率が30.0MNm/kg以上であることがより好ましく、30.5MNm/kg以上であることがさらに好ましく、31.0MNm/kg以上であることが特に好ましい。
【0032】
本発明のArFリソグラフィ用光学部材は、ヤング率が65GPa以上であることが、該光学面上に形成されるアルミニウム薄膜および誘電体薄膜の膜応力による変形を防止するうえで好ましい。本発明のArFリソグラフィ用光学部材は、ヤング率が67GPa以上であることがより好ましく、67.5GPa以上であることがさらに好ましく、68GPa以上であることが特に好ましい。
【0033】
ArFリソグラフィは窒素雰囲気下で実施されるため、本発明のArFリソグラフィ用光学部材は熱伝導率が高いことが、ArFエキシマレーザ照射時の該光学部材の温度変化を防止するうえで好ましい。具体的には、該光学部材の22℃における熱伝導率が1.2W/(m×℃)以上であることが好ましく、1.3W/(m×℃)以上であることがより好ましく、1.35W/(m×℃)以上であることがさらに好ましい。
【0034】
光学面のビッカース硬度Hvが低いと、該光学面を研磨する際にピット状の欠点(すなわち、凹欠点)が生じやすいので、本発明のArFリソグラフィ用光学部材は、光学面のビッカース硬度Hvが高いことが好ましい。具体的には、ビッカース硬度Hvが6.5GPa以上であることが好ましく、6.7GPa以上であることがより好ましく、6.8GPa以上であることがさらに好ましい。
【0035】
本発明のArFリソグラフィ用光学部材がTiO2、SnO2、ZrO2、HfO2、NおよびFからなる群から選択される少なくとも1つをドーパントとして含むシリカガラスで構成される場合、光学面のビッカース硬度Hvを高めるためには、該シリカガラスの仮想温度Tfが高いことが好ましい。具体的には、該シリカガラスの仮想温度Tfが900℃以上1100℃以下であることが好ましく、930℃以上1070℃以下であることがより好ましく、950℃以上1050℃以下であることがさらに好ましい。
TiO2、SnO2、ZrO2、HfO2、NおよびFからなる群から選択される少なくとも1つをドーパントとして含むシリカガラスの仮想温度は公知の手順で測定することができる。後述する実施例では、以下の手順でドーパントとしてTiO2を含むシリカガラスの仮想温度を測定した。
【0036】
鏡面研磨されたシリカガラスについて、吸収スペクトルを赤外分光計(後述する実施例では、Nikolet社製Magna760を使用)を用いて取得する。この際、データ間隔は約0.5cm-1にし、吸収スペクトルは、64回スキャンさせた平均値を用いる。このようにして得られた赤外吸収スペクトルにおいて、約2260cm-1付近に観察されるピークがシリカガラスのSi−O−Si結合による伸縮振動の倍音に起因する。このピーク位置を用いて、仮想温度が既知で同組成のガラスにより検量線を作成し、仮想温度を求める。あるいは、表面の反射スペクトルを同様の赤外分光計を用いて、同様に測定する。このようにして得られた赤外反射スペクトルにおいて、約1120cm-1付近に観察されるピークがシリカガラスのSi−O−Si結合による伸縮振動に起因する。このピーク位置を用いて、仮想温度が既知で同組成のガラスにより検量線を作成し、仮想温度を求める。なお、ガラス組成の変化によるピーク位置のシフトは、検量線の組成依存性から外挿することが可能である。
【0037】
ArFリソグラフィ用光学部材がTiO2、SnO2、ZrO2、HfO2、NおよびFからなる群から選択される少なくとも1つをドーパントとして含むシリカガラスで構成される場合、該シリカガラスは、仮想温度のばらつきが50℃以内であることが好ましく、より好ましくは30℃以内である。仮想温度のばらつきが上記範囲を超えると、場所により、熱膨張係数に差を生じるおそれがある。
本明細書では、「仮想温度のばらつき」を少なくとも1つの面内における30mm×30mm内での仮想温度の最大値と最小値の差と定義する。
仮想温度のばらつきは以下のように測定できる。所定のサイズに成形したシリカガラス体をスライスし、50mm×50mm×6.35mmのガラスブロックとする。このガラスブロックの50mm×50mm面について、10mmピッチの間隔で前述の方法に従い仮想温度の測定を行うことで成形シリカガラス体の仮想温度のばらつきを求める。
【0038】
ArFリソグラフィ用光学部材がTiO2、SnO2、ZrO2、HfO2、NおよびFからなる群から選択される少なくとも1つをドーパントとして含むシリカガラスで構成される場合、該シリカガラス中において、ドーパント(例えば、TiO2)と、SiO2と、の組成比を均一にすることは、該シリカガラス内での熱膨張係数のばらつきを小さくするという点で重要である。具体的には、該光学部材におけるドーパント濃度のPV(Peak to Valley)値が0.15質量%以下であることが好ましく、0.10質量%以下であることがより好ましい。
なお、該光学部材におけるドーパント濃度のPV値は以下の方法で求めることができる。 該光学部材の表面の中心点を通る線上において、表面50mm×50mmの領域を含むように端から端まで連続して切断し、50mm×50mm(厚さは任意であるが、例えば、厚さ10mm)のブロックを複数得る。このガラスブロックの50mm×50mm面を平面に研削研磨後、蛍光X線分析により組成分析を行い、該光学部材の表面の中心点を通る線上におけるドーパント濃度の変動を求めてドーパント濃度のPV値を得る。
あるいは、同様に切断したブロックの組成をICP発光分析等の湿式分析法にて組成分析を行い、該光学部材の表面の中心点を通る線上におけるドーパント濃度の変動を求めてドーパント濃度のPV値を得る。
【0039】
上述したように、本発明のArFリソグラフィ用光学部材は、ドーパントとしてTiO2を上記の含有量で含むシリカガラス(TiO2−SiO2ガラス)であることが好ましい。
TiO2−SiO2ガラスの製造方法としては、下記(a)〜(e)工程を含む製法が採用できる。
【0040】
(a)工程
スート法により、ガラス形成原料であるSiO2前駆体およびTiO2前駆体を火炎加水分解もしくは熱分解させて得られるTiO2−SiO2ガラス微粒子(スート)を基材に堆積、成長させて多孔質TiO2−SiO2ガラス体を形成させる。スート法にはその作り方により、MCVD法、OVD法、およびVAD法などがある。これらの中でもVAD法が大量生産性に優れ、基材の大きさなど製造条件を調整することにより大面積の面内において組成の均一なガラスを得ることができるなどの理由から好ましい。
【0041】
ガラス形成原料としては、ガス化可能な原料であれば特に限定されないが、SiO2前駆体としては、SiCl4、SiHCl3、SiH2Cl2、SiH3Clなどの塩化物、SiF4、SiHF3、SiH22などのフッ化物、SiBr4、SiHBr3などの臭化物、SiI4などのヨウ化物といったハロゲン化ケイ素化合物、またRnSi(OR)4-n(ここにRは炭素数1〜4のアルキル基、nは0〜3の整数。複数のRは互いに同一でも異なっていてもよい。)で示されるアルコキシシランが挙げられ、またTiO2前駆体としては、TiCl4、TiBr4などのハロゲン化チタン化合物、またRnTi(OR)4-n(ここにRは炭素数1〜4のアルキル基、nは0〜3の整数。複数のRは互いに同一でも異なっていてもよい。)で示されるアルコキシチタンが挙げられる。また、SiO2前駆体およびTiO2前駆体として、シリコンチタンダブルアルコキシドなどのSiとTiの化合物を使用することもできる。
基材としては石英ガラス製の種棒(例えば特公昭63−24973号公報記載の種棒)を使用できる。また棒状に限らず板状の基材を使用してもよい。
【0042】
(b)工程
(a)工程で得られた多孔質TiO2−SiO2ガラス体を不活性ガス雰囲気中あるいは減圧雰囲気下で緻密化温度まで昇温して、TiO2−SiO2緻密体を得る。本発明において、緻密化温度とは、光学顕微鏡で空隙が確認できなくなるまで多孔質ガラス体を緻密化できる温度をいい、1250〜1550℃が好ましく、特に1350〜1450℃であることが好ましい。不活性ガスとしては、ヘリウムが好ましい。このような雰囲気下、圧力10000〜200000Pa程度で処理を行うことが好ましい。なお、本明細書における「Pa」は、ゲージ圧ではなく絶対圧を意味する。
また(b)工程においては、TiO2−SiO2緻密体の均質性が上がることから、多孔質TiO2−SiO2ガラス体を減圧下(好ましくは13000Pa以下、特に1300Pa以下)に置いた後、ついで、不活性ガスを導入して所定の圧力の不活性ガス雰囲気とすることが好ましい。
さらに(b)工程においては、TiO2−SiO2緻密体の均質性が上がることから、多孔質TiO2−SiO2ガラス体を不活性ガス雰囲気下、室温、あるいは緻密化温度以下の温度にて保持した後に、緻密化温度まで昇温することが好ましい。
また、減圧雰囲気下で緻密化温度まで上昇してTiO2−SiO2緻密体を得る場合、圧力は13000Paとすることが好ましく、1300Pa以下とすることがより好ましい。
なお、(a)工程終了後、(b)工程に入る前に、得られた多孔質TiO2−SiO2ガラス体を1000℃以上、緻密化温度以下となる温度域で一定時間以上熱処理することで、ハンドリングしやすくすることができる。これにより、(b)工程にて得られるTiO2−SiO2緻密体にクラックが生成することを抑制できるだけでなく、TiO2−SiO2緻密体に溶存するガス濃度を下げることができる。ガス濃度を下げる目的の場合、熱処理雰囲気が減圧であることが好ましい。
【0043】
(c)工程
(b)工程で得られたTiO2−SiO2緻密体を、透明ガラス化温度まで昇温して、透明TiO2−SiO2ガラス体を得る。本明細書では、透明ガラス化温度は、光学顕微鏡で結晶が確認できなくなり、透明なガラスが得られる温度をいい、1350〜1750℃が好ましく、特に1400〜1700℃であることが好ましい。
雰囲気としては、ヘリウムやアルゴンなどの不活性ガス100%の雰囲気、またはヘリウムやアルゴンなどの不活性ガスを主成分とする雰囲気であることが好ましい。圧力については、減圧または常圧であればよい。減圧の場合は13000Pa以下が好ましい。
【0044】
(d)工程
(c)工程で得られた透明TiO2−SiO2ガラス体を、型に入れて軟化点以上の温度に加熱して所望の形状に成形し、成形TiO2−SiO2ガラス体を得る。成形加工の温度としては、1500〜1800℃が好ましい。1500℃以上では、透明TiO2−SiO2ガラスが実質的に自重変形する位に十分粘性が下がる。またSiO2の結晶相であるクリストバライトの成長、または、TiO2の結晶相であるルチルもしくはアナターゼの成長が起こりにくく、いわゆる失透の発生を防止できる。1800℃以下では、SiO2の昇華が抑えられる。
なお、上記の手順を複数回繰り返してもよい。すなわち、透明TiO2−SiO2ガラス体を型に入れて軟化点以上の温度に加熱した後、得られた成形体を別の型に入れて軟化点以上の温度に加熱する2段階の成形を実施してもよい。
なお、(c)工程と(d)工程を連続的に、あるいは同時に行うこともできる。また、(c)工程で得られたガラスの大きさが十分大きい場合は、(d)工程を行わずに(c)工程で得られた透明TiO2−SiO2ガラス体を所定の寸法に切り出すことで、成形TiO2−SiO2ガラス体とすることができる。
【0045】
(e)工程
(c)工程で得られた透明TiO2−SiO2ガラス体、あるいは(d)工程で得られた成形TiO2−SiO2ガラス体を、1100℃以上の温度に昇温後、100℃/hr以下の平均降温速度で700℃以下の温度まで降温するアニール処理を行い、ガラスの仮想温度を制御する。あるいは、ガラス化工程や成形工程における1100℃以上の温度からの降温過程において、得られる透明TiO2−SiO2ガラス体や成形TiO2−SiO2ガラス体を1100℃から700℃まで100℃/hr以下の平均降温速度で降温するアニール処理を行い、ガラスの仮想温度を制御する。これらの場合における平均降温速度は10℃/hr以下であることがより好ましく、5℃/hr以下であることがさらに好ましく、2.5℃/hr以下であることが特に好ましい。また、700℃以下の温度まで降温した後は放冷できる。なお、雰囲気は特に限定されない。
【0046】
また、(e)工程の前に、透明ガラス化後のガラス体をT1+400℃以上の温度で20時間以上加熱することもできる((d’)工程)。ここで、T1は製造されるTiO2−SiO2ガラス体の徐冷点(℃)である。これにより、TiO2−SiO2ガラス体におけるストリエが軽減される。
ストリエとは、TiO2−SiO2ガラス体の組成上の不均一(組成分布)である。ストリエを有するTiO2−SiO2ガラス体にはTiO2濃度の異なる部位が存在することになる。ここで、TiO2濃度が高い部位は線熱膨張係数(CTE)が負になるので、TiO2−SiO2ガラス体の製造過程で実施される徐冷工程の際には、TiO2濃度が高い部位は膨張する傾向がある。この際、TiO2濃度が高い部位に隣接してTiO2濃度が低い部位が存在すると、TiO2濃度が高い部位の膨張が妨げられて圧縮応力が加わることとなる。この結果、TiO2−SiO2ガラス体には応力の分布が生じることとなる。以下、本明細書において、このような応力の分布のことを、「ストリエによって生じる応力の分布」という。
【0047】
ArFリソグラフィ用光学部材として用いられるTiO2−SiO2ガラス体にこのようなストリエによって生じる応力の分布が存在すると、該光学部材の光学面を仕上げ加工した際に加工レートに差が生じて、仕上げ加工後の光学面の表面平滑度に影響が及ぶこととなる。
上記した(d’)工程を実施すれば、続いて実施する(e)工程を経て製造されるTiO2−SiO2ガラス体で、ストリエによって生じる応力レベルの分布がArF反射光学系光学部材として使用するうえで問題とならないレベルまで低減されるので好ましい。
具体的には、ストリエによって生じる応力の標準偏差(dev[σ])が、0.05MPa以下であることが好ましく、0.04MPa以下であることがより好ましく、0.03MPa以下であることがさらに好ましい。
また、ストリエによって生じる応力の最大値と最小値との差(Δσ)が0.23MPa以下であることが好ましく、0.2MPa以下であることがより好ましく、0.15MPa以下であることがさらに好ましい。
なお、ガラス体の応力は、公知の方法、例えば、複屈折顕微鏡を用いて1mm×1mm程度の領域を測定することでレタデーションを求め、以下の式から求めることができる。
Δ=C×F×n×d
ここで、Δはレタデーション、Cは光弾性定数、Fは応力、nは屈折率、dはサンプル厚である。
上記の方法で応力のプロファイルを求め、そこから応力の標準偏差(dev[σ])、応力の最大値と最小値との差(Δσ)を求めることができる。より具体的には、透明TiO2−SiO2ガラス体から、例えば40mm×40mm×40mm程度の立方体を切り出し、立方体の各面より厚さ1mm程度でスライス、研磨を行い、30mm×30mm×0.5mmの板状ガラスブロックを得る。複屈折顕微鏡にて、本ガラスブロックの30mm×30mmの面にヘリウムネオンレーザ光を垂直にあて、脈理が十分観察可能な倍率に拡大して、面内のレタデーション分布を調べ、応力分布に換算する。脈理のピッチが細かい場合は測定する板状ガラスブロックの厚さを薄くする必要がある。
なお、TiO2−SiO2ガラス体では、少なくとも上記の測定方法で測定される応力の場合、ストリエによって生じる応力に比べると他の要因によって生じる応力は無視できるレベルである。したがって上記の方法によって得られる応力は、実質的にストリエによって生じる応力と実質的に等しい。
【0048】
(d’)工程は、透明ガラス化後のガラス体をT1+400℃以上の温度で20時間以上加熱することができる限り、その具体的な手順は特に限定されないが、ガラス体を加熱する温度が高すぎると、TiO2−SiO2ガラス体での発泡や昇華が問題となるので好ましくない。このような理由から、(d’)工程における加熱温度の上限はT1+600℃未満であることが好ましく、T1+550℃未満であることがより好ましく、500℃未満であることが特に好ましい。すなわち、(d’)工程における加熱温度は、T1+400℃以上T1+600℃未満であることが好ましく、T1+400℃以上T1+550℃未満であることがより好ましく、T1+450℃以上T1+500℃未満であることがさらに好ましい。
【0049】
(d’)工程における加熱時間の上限も特に限定されないが、加熱時間が長すぎる場合、TiO2−SiO2ガラス体におけるストリエの軽減にはもはや寄与せず、TiO2−SiO2ガラス体の歩留まりを低下させる、加熱によるコストが増加する等の理由から、240時間以下であることが好ましく、150時間以下であることがより好ましい。また、加熱時間の下限も特に限定されないが、加熱時間が短すぎる場合、TiO2−SiO2ガラス体におけるストリエの軽減効果が得られにくい。そのため、加熱時間は24時間超であることが好ましく、48時間超であることがより好ましく、96時間超であることが特に好ましい。
なお、(d’)工程は(e)工程と連続的に、あるいは同時に行うこともできる。また、(d’)工程は、(c)工程および(d)工程と連続的に、あるいは同時に行うこともできる。
【0050】
製造されるTiO2−SiO2ガラスから異物や泡などのインクルージョンを排除するためには、先述した製造工程において、特に工程(a)でコンタミネーションを抑制すること、さらに工程(b)〜(d)の温度条件を正確にコントロールすることが必要である。
上記では、スート法によりTiO2−SiO2ガラス体を製造する手順を示したがこれに限定されず、直接法によってもTiO2−SiO2ガラス体を製造することができる。この場合、上記(a)工程で、ガラス形成原料となるシリカ前駆体とチタニア前駆体を1800〜2000℃の酸水素火炎中で加水分解・酸化させることで、直接、透明TiO2−SiO2ガラス体を得る。すなわち、上記(a)工程によって、(b)工程、(c)工程を行わずに透明TiO2−SiO2ガラス体を得ることができ、上記(d)工程により成形TiO2−SiO2ガラス体とした後、上記(e)工程を実施すればよい。また、上記(a)工程で得られた透明TiO2−SiO2ガラス体を所定の寸法に切り出すことで、成形TiO2−SiO2ガラス体とした後、上記(e)工程を実施してもよい。得られる透明TiO2−SiO2ガラス体はH2やOHを含んだものとなる。このとき、火炎温度やガス濃度を調整することで、透明TiO2−SiO2ガラス体のOH濃度を調整することができる。さらに、直接法で製造されたガラスを真空中、減圧雰囲気または常圧の場合、H2濃度が1000体積ppm以下、かつO2濃度が18体積%以下である雰囲気で、700℃から1800℃の温度で、10分から90日間保持することによって脱ガスを行う方法も採用できる。
【0051】
ArFリソグラフィ用光学部材の光学面が下記(1)〜(5)を満たすためには、該光学面に対して、以下に述べる3段階の機械研磨工程を施せばよい。
1mm≦λ(空間波長)≦10mmにおけるRMSが0.1nm以上3.0nm以下 (1)
10μm≦λ(空間波長)≦1mmにおけるRMSが0.1nm以上3.0nm以下 (2)
250nm≦λ(空間波長)≦10μmにおけるRMSが0.05nm以上1.0nm以下 (3)
100nm≦λ(空間波長)≦1μmにおけるRMSが0.01nm以上1.0nm以下 (4)
50nm≦λ(空間波長)≦250nmにおけるRMSが0.01nm以上1.0nm以下 (5)
【0052】
[第1研磨工程]
第1研磨工程は、該光学面の大よその形状を与えることを目的で行うものであり、主として上記(1)の達成に寄与する。第1研磨工程実施後の光学面の表面粗さの目標値は、原子間力顕微鏡(AFM)にて10μm□領域を測定した場合の表面粗さRMSで2nmである。
ArFリソグラフィ用光学部材の用途がArFリソグラフィ用ミラーの場合、第1研磨工程で研磨パッドを用いてドレスを行って所定の曲面形状とした後、所定の光学面とする。このとき研磨剤としては、酸化セリウム系の研磨砥粒を含むものが好ましく用いられるが、研磨砥粒の平均粒径は、500〜2000nmであることが好ましく、1000〜1500nmであることがより好ましい。
研磨パッドとしては、ポリエステル繊維を使用した不織布にポリウレタンを結合させた硬質研磨パッドを用いることが好ましい。
【0053】
[第2研磨工程]
第2研磨工程は、第1研磨工程の実施後の光学面を原子間力顕微鏡(AFM)にて10μm□領域を測定した場合の表面粗さRMSが0.4nm以下となるように機械研磨する工程であり、主として上記(2)〜(4)の達成に寄与する。
研磨剤としては、酸化セリウム系の研磨砥粒を含むものが好ましく用いられるが、該研磨剤の平均粒径は、100〜1500nmであることが好ましく、500〜1000nmであることがより好ましい。
研磨剤の循環流量を上げることが上記(2)〜(4)の達成に寄与するので好ましく、具体的には、循環流量1〜20L/分で実施することが好ましく、2〜15L/分で実施することがより好ましい。
研磨パッドとしては、ポリウレタンで結合された不織布またはPETシートの上にNAP層を形成したスウェード系研磨パッドが用いられるが、硬度が高いもの、具体的には、日本ゴム協会標準規格(SRIS) アスカーC(ASKER C)が55以上であるものが好ましい。
【0054】
[第3研磨工程]
第3研磨工程は、第2研磨工程の実施後の光学面を原子間力顕微鏡(AFM)にて10μm□領域を測定した場合の表面粗さRMSが0.2nm以下となるように機械研磨する工程であり、主として上記(5)の達成に寄与する。
研磨剤としては、コロイダルシリカの研磨砥粒を含むものが好ましく用いられるが、研磨砥粒の平均粒径は、100nm以下であることが好ましい。
研磨剤の循環流量を上げることが上記(5)の達成に寄与するので好ましく、具体的には、循環流量1〜20L/分で実施することが好ましく、2〜15L/分で実施することがより好ましい。
研磨パッドとしては、ポリウレタンで結合された不織布またはPETシートの上にNAP層を形成したスウェード系研磨パッドが好ましく用いられる。
【0055】
上記した3段階の研磨工程に加えて、特開2006−240977号公報や特開2007−22903号公報に記載されているような、ガスクラスターイオンビーム等のドライエッチングプロセスを用いた研磨処理を第2研磨工程と第3研磨工程との間、または、第3研磨工程の実施後に行うことが、上記(1)の達成に寄与するので好ましい。なお、第3研磨工程の実施後に本段落に記載の研磨処理を実施した場合、研磨処理の実施後、第3研磨工程を再度実施することが好ましい。
【0056】
本発明のArFリソグラフィ用ミラーは、上記した本発明のArFリソグラフィ用ミラー用光学部材の光学面に、反射膜としてアルミニウム薄膜を形成し、該反射膜上に保護膜として少なくとも1層の誘電体薄膜を形成したものである。
アルミニウムは、ArFレーザ光の波長域(193nm)において優れた反射率を有する材料である。但し、アルミニウムは非常に活性な金属であり、空気中では速やかに表面が酸化され酸化アルミニウムを生成する。アルミニウム薄膜を空気中に放置すると、表面に生成した酸化アルミニウムによる光吸収のため、光線反射率、特にArFレーザ光の波長域(193nm)の光線反射率が急激に低下してしまう。この傾向はArFレーザ光照射時において特に顕著である。ArFレーザ光照射時には、アルミニウム薄膜の酸化が特に急速に進行するためである。このため、アルミニウム薄膜の酸化を抑制する目的で、保護膜をアルミニウム薄膜上に形成する。保護膜を形成することにより、アルミニウム薄膜で空気中の酸素や水分が拡散することが抑制され、アルミニウム薄膜の酸化が抑制される。
【0057】
反射膜をなすアルミニウム薄膜は、真空蒸着法、イオンビームアシスト蒸着法、スパッタリング法、CVD法など任意の方法により成膜することが可能である。これらのうちアルミニウム薄膜の成膜に最適な方法は、光学部材を加熱しない真空蒸着法である。光学部材を加熱しない真空蒸着法によれば、アルミニウム薄膜が成膜中に酸化せず、高い反射率が得られるためである。他の方法によりアルミニウム薄膜を成膜することも可能であるが、その場合には比較的反射率の低いミラーとなるおそれがある。
【0058】
保護膜をなす誘電体薄膜の材料としては、紫外線に対して透明な公知のフッ化物材料を特に制限無く用いることができる。具体的に例を挙げれば、フッ化イットリウム(YF3)、フッ化ランタン(LaF3)、フッ化ガドリニウム(GdF3)、フッ化ネオジム(NdF3)、フッ化ディスプロシウム(DyF3)、フッ化マグネシウム(MgF2)、フッ化アルミニウム(AlF3)、フッ化リチウム(LiF)、クライオライト(Na3AlF6)、チオライト(Na5Al314)等である。これらのうち特にフッ化イットリウムおよびフッ化アルミニウムは、詳細な理由は不明であるが緻密で充填密度の高い構造が容易に得られ、かつ適当な光学特性を有するため、誘電体薄膜を構成する材料として最も好ましい。
【0059】
保護膜をなす誘電体薄膜は、2層以上積層させてもよい。例えば、誘電体薄膜を高屈折率層と低屈折率層との交互多層膜とし、それぞれの屈折率と膜厚を最適化することによって、反射率の入射角依存性や偏光依存性を制御することができる。
上記フッ化物材料のうち、高屈折率物質としては、フッ化イットリウム(YF3)、フッ化ランタン(LaF3)、フッ化ガドリニウム(GdF3)、フッ化ネオジム(NdF3)およびフッ化ディスプロシウム(DyF3)が挙げられる。一方、低屈折率物質としては、フッ化マグネシウム(MgF2)、フッ化アルミニウム(AlF3)、フッ化リチウム(LiF)、クライオライト(Na3AlF6)、チオライト(Na5Al314)が挙げられる。
誘電体薄膜を2層以上積層する場合、誘電体薄膜の全層数に特に制限はなく、ミラーに要求される反射率や角度特性などの光学特性に応じて層数を設計すればよい。
【0060】
誘電体薄膜の充填密度が90%以上であることが、酸素または水の拡散に対する抑制効果が特に優れており、ArFレーザ照射時のアルミニウム薄膜の酸化を抑制する効果が特に優れていることから好ましい。なお、誘電体薄膜を2層以上積層する場合、少なくとも1層の充填密度が90%以上であれば良い。
本明細書における充填密度とは、薄膜を構成する材料の単結晶が有する密度を100%とし、これに対して実際の薄膜が有する密度を相対値で表した値をいう。薄膜の密度測定法としてはX線反射率測定によるものが簡便である。X線に対する物質の屈折率は1より小さいので、薄膜に臨界角ψcより浅い角度ψでX線を入射させると全反射が起こる。このとき薄膜の屈折率をnとすると、
n=1−δ
ψc=(2δ)1/2
の関係があり、臨界角の測定から屈折率を求めることができる。さらに薄膜の組成が既知であれば屈折率から密度が求められる。試料が多層膜の場合は臨界角よりも深い入射角に対して反射率−入射角曲線を測定する。反射率−入射角曲線には各層の膜厚・屈折率・表面粗さ情報を含む干渉縞が現れるため、これらをパラメータとしたカーブフィッティングにより各層の屈折率を算出する。屈折率が求まれば各層の組成から密度を計算できるのは上述のとおりである。
【0061】
保護膜をなす誘電体薄膜は、真空蒸着法、イオンビームアシスト蒸着法、スパッタリング法、CVD法など任意の方法により成膜することが可能である。なお、充填密度が90%以上の誘電体薄膜を成膜する方法としては、成膜温度150℃以上で行う真空蒸着法、イオンビームアシスト蒸着法、スパッタリング法のいずれかの方法を用いることが好ましい。これらの方法によれば誘電体薄膜の充填密度を高めることができ、90%以上の充填密度を達成可能なためである。
【0062】
アルミニウム薄膜または誘電体薄膜の成膜に用いる真空蒸着装置には、抵抗加熱式や電子ビーム加熱式などの一般的な装置をそのまま使用することができ、特別な機構は不要である。
【0063】
アルミニウム薄膜または誘電体薄膜を、イオンビームアシスト蒸着法を用いて成膜する場合には、一般的な蒸着装置にイオンビームを発するイオン源を付加したイオンビームアシスト蒸着装置を使用すれば良い。イオン源としてはカウフマン型やエンドホール型など、任意の形式のものを用いることができる。一般にイオンビームアシスト蒸着におけるイオン電流密度は0〜10mA/cm2、加速電圧は10〜100eV程度とされることが多い。またスパッタリング法を用いてアルミニウム薄膜または誘電体薄膜を成膜する場合には、直流スパッタリング、高周波スパッタリング、反応性スパッタリングなど、任意の形式のスパッタリング装置を用いることができる。
【0064】
本発明のArFリソグラフィ用ミラーは、波長193nmの光線反射率が80%以上であり、好ましくは85%以上であり、より好ましくは90%以上である。
なお、ここで言う光線反射率とは、入射角度10度で波長193nmの光線、具体的には、ArFレーザ光を照射した際の光線反射率を指す。
【0065】
本発明のArFリソグラフィ用ミラーは、アルミニウム薄膜の酸化を抑制する効果に優れており、ArFレーザ光の照射による光線反射率の低下が少ない。この傾向は、少なくとも1層の誘電体薄膜の充填密度を90%以上とした場合に特に言える。
具体的には、20mJ/cm2/パルスでArFレーザ光を107ショット多層反射膜表面に照射した際の、ArFレーザ光照射前後での波長193nmの光線反射率の低下量が2%以下であり、好ましくは1%以下であり、より好ましくは0.5%以下である。
【実施例】
【0066】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されない。
なお、例1は実施例である。
[例1]
TiO2−SiO2ガラスのガラス形成原料であるTiCl4とSiCl4を、それぞれガス化させた後に混合させ、酸水素火炎中で加熱加水分解(火炎加水分解)させることで得られるTiO2−SiO2ガラス微粒子を基材に堆積・成長させて、多孔質TiO2−SiO2ガラス体を形成した((a)工程)。
得られた多孔質TiO2−SiO2ガラス体はそのままではハンドリングしにくいので、基材に堆積させたままの状態で、大気中1190℃にて3時間保持した後、基材から外した。
その後、減圧下にて加熱を行い、1100℃から1300℃まで3時間かけて加熱後、
1300℃から1360℃まで12時間で昇温し、1360℃で2時間保持して、TiO2−SiO2緻密体を得た((b)工程)。
得られたTiO2−SiO2緻密体を、カーボン型に入れて1680℃にて4時間保持することにより透明TiO2−SiO2ガラス体を得た((c)工程)。
得られた透明TiO2−SiO2ガラス体をカーボン型に入れて、1700℃にて4時間保持することにより成形を行い、成形TiO2−SiO2ガラス体を得た((d)工程)。得られた成形TiO2−SiO2ガラス体を、1590℃にて120時間保持した後((d’)工程)、1000℃まで10℃/hrで冷却後、1000℃で3時間保持し、950℃まで10℃/hrで冷却後、950℃で72時間保持し、900℃まで5℃/hrで冷却後、900℃で72時間保持し、室温まで冷却して、成形TiO2−SiO2体を得た((e)工程)。なお、成形TiO2−SiO2体の徐冷点T1は1100℃であった。
得られた成形TiO2−SiO2体を内周刃スライサーを用いて縦約153.0mm×横約153.0mm×厚さ約6.75mmの板状に切断し、板材を作成する。次いで、面取りを行い、縦約153.0mm×横約153.0mm×厚さ約6.7mmの板材を得る。20B両面ラップ機(スピードファム社製)を使用し、研磨材として実質的にAl23からなるAZ#1000(平成サンケイ製商品名)を濾過水に18〜20質量%懸濁させたスラリーを用いて、厚さが約6.5mmになるまで前記板材の主表面(多層膜や吸収層を成膜する面)を研削加工する。その後、端面を鏡面加工する。
次に、第1研磨工程として、20B両面ポリシュ機を使用し、発砲ポリウレタン製の研磨パッドと、酸化セリウムを主成分とする研磨剤を用いて約50μm研磨する。
さらに、第2研磨工程として、24B両面ポリシュ機を使用し、ポリウレタンで結合された不織布の上にNAP層を形成したスウェード系研磨パッドで、日本ゴム協会標準規格(SRIS) アスカーC(ASKER C)が68となる研磨パッドと酸化セリウムを主成分とする研磨剤を用いて約15μm研磨する。
さらに、別の研磨機で第3研磨工程を行う。この第3研磨工程には、PETシートの上にNAP層を形成したスウェード系研磨パッドとコロイダルシリカを用いる。
その後、平坦度測定を行い、次の工程における研磨での平坦度変化分を加味して、最終的に平坦となるような分だけガスクラスターイオンビームによって形状を補正する。
最後に、PETシートの上にNAP層を形成したスウェード系研磨パッドとコロイダルシリカを用いて、研磨面の仕上げを行う。
【0067】
[例2](比較例)
例1において、(d)工程にて得られた成形TiO2−SiO2ガラス体をそのまま研磨加工した。さらに第2研磨工程の際、日本ゴム協会標準規格(SRIS) アスカーC(ASKER C)が55となる研磨パッドを用いた。それ以外の方法は例1と同様に行った。
【0068】
作製したガラスの表面形状測定結果は以下の通りである。
1mm≦λ≦10mmにおけるRMS
測定方法:ZYGO NewView
例1:0.9nm
例2:3.6nm
10μm≦λ≦1mmにおけるRMS
測定方法:ZYGO NewView
例1:0.43nm
例2:3.51nm
250nm≦λ≦10μmにおけるRMS
測定方法:AFM
例1:0.39nm
例2:1.20nm
100nm≦λ≦1μmにおけるRMS
測定方法:AFM
例1:0.023nm
例2:0.081nm
50nm≦λ≦250nmにおけるRMS
測定方法:AFM
例1:0.027nm
例2:0.052nm
【0069】
また、作製したガラスの物性を表1に示す。TiO2濃度は約7.1質量%、ドーパント濃度のPV値は0.15質量%以下である。例1の光学部材の仮想温度のばらつきは10℃である。
【表1】

【0070】
例1で得られた光学部材に対し、以下の方法で成膜を行い、ミラーを作成する。蒸着装置内に光学部材を設置し、アルミニウムを蒸着法にて150nm成膜する。次いで、光学部材を真空中で基板を200℃まで加熱し、フッ化マグネシウムを40nm成膜する。得られた膜の充填密度は92%となる。このようにして得られるミラーについて、20mJ/cm2/パルスで107ショットArFレーザ光を照射した際のArFレーザ光照射前後での波長193nmでの光線反射率は、それぞれ82%であり、反射率の低下はみられない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学面が下記(1)〜(5)を満たし、22℃における熱膨張係数(CTE)が0±200ppb/℃であるArFリソグラフィ用光学部材。
1mm≦λ(空間波長)≦10mmにおけるRMSが0.1nm以上3.0nm以下 (1)
10μm≦λ(空間波長)≦1mmにおけるRMSが0.1nm以上3.0nm以下 (2)
250nm≦λ(空間波長)≦10μmにおけるRMSが0.05nm以上1.0nm以下 (3)
100nm≦λ(空間波長)≦1μmにおけるRMSが0.01nm以上1.0nm以下 (4)
50nm≦λ(空間波長)≦250nmにおけるRMSが0.01nm以上1.0nm以下 (5)
【請求項2】
前記光学部材が、TiO2、SnO2、ZrO2、HfO2、NおよびFからなる群から選択される少なくとも1つをドーパントとして含むシリカガラスである請求項1に記載のArFリソグラフィ用光学部材。
【請求項3】
前記光学部材におけるH2濃度が5×1017分子/cm3未満であり、OH基濃度が700wtppm未満であり、O2濃度が5×1017分子/cm3未満である請求項1または2に記載のArFリソグラフィ用光学部材。
【請求項4】
光学部材の比弾性率が29.0MNm/kg以上である請求項1〜3のいずれかに記載のArFリソグラフィ用光学部材。
【請求項5】
光学部材のヤング率が65GPa以上である請求項1〜4のいずれかに記載のArFリソグラフィ用光学部材。
【請求項6】
光学部材の22℃における熱伝導率が1.2W/(m・℃)以上である請求項1〜5のいずれかに記載のArFリソグラフィ用光学部材。
【請求項7】
光学部材の光学面のビッカース硬度Hvが6.5GPa以上である請求項1〜6のいずれかに記載のArFリソグラフィ用光学部材。
【請求項8】
光学部材の仮想温度Tfが900〜1100℃である請求項1〜7のいずれかに記載のArFリソグラフィ用光学部材。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載のArFリソグラフィ用ミラー用光学部材の光学面に、反射膜としてアルミニウム薄膜を形成し、該反射膜上に保護膜として少なくとも1層の誘電体薄膜を形成してなるArFリソグラフィ用ミラー。
【請求項10】
波長193nmでの光線反射率が80%以上である請求項9に記載のArFリソグラフィ用ミラー。
【請求項11】
20mJ/cm2/パルスで107ショットArFレーザ光を照射した際のArFレーザ光照射前後での波長193nmでの光線反射率の低下量が2%以下である請求項10に記載のArFリソグラフィ用ミラー。

【公開番号】特開2012−181220(P2012−181220A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−157559(P2009−157559)
【出願日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】