説明

CBB試験方法及びこの方法に用いる試験治具

【課題】試験片に大きなき裂を発生させることができるCBB試験方法を提供する。
【解決手段】厚さ約10mm、幅約130mm、長さ約320mmの試験片1を用い、他方、その試験片1に1%ひずみを付与する試験治具8を、内面に試験片1に1%ひずみを付与すべく所定の曲率で曲げるための凹状の曲面2が形成された上下の抑え治具3と、その上下の抑え治具3の曲面2間に配置され上下に凸状の曲面4を有する中子5で形成し、試験片1を上下の抑え治具3の曲面2に通水性を有する隙間形成材10を介して配置すると共に、その間に中子5を挟んで上下の抑え治具3をプレス等にて押圧し、さらに上下の抑え治具3をボルト6・ナット7で固定して試験片1に所定の曲率を付与し、しかるのち、高温・高圧の純水中に浸漬してその試験片1の応力腐食割れを観察する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属材料に応力腐食割れを発生させるCBB試験(Creviced bent beam test)の方法及びこの方法に用いる試験治具に関する。
【背景技術】
【0002】
原子炉の圧力容器内の純水は溶存酸素を含み高温高圧であることから、圧力容器内で用いる金属材料には応力腐食割れが発生し易い。
【0003】
このため、圧力容器内やこれと同様の環境下で使用する壁材等に新しい材料を採用しようとするときは、CBB試験にて応力腐食割れが発生するか否かを事前に試験し、応力腐食割れ感受性を見てから採用するか否かを決定している。
【0004】
図6及び図7に示すように、CBB試験では採用しようとする材料で厚さ2mm、幅10mm、長さ50mmの試験片20を形成すると共に、比較材として既知の応力腐食割れを発生する材料で上記試験片と同寸法の試験片(図示せず)を形成し、これらの試験片20をその引張側表面20a上にグラファイトファイバーウール21を介在させてそれぞれ別々の試験治具22で挟み、試験片20を所定の曲率で曲げて1%の引張ひずみを付与した状態で試験片20を試験治具22ごとオートクレーブ(図示せず)内にて高温高圧の純水中に浸漬してこれら試験片20の応力腐食割れを観察する。
【0005】
それぞれの試験片20に発生した応力腐食割れの数、大きさを比較することで、それぞれの材料の応力腐食割れ感受性を評価することができる。
【0006】
【非特許文献1】明石正恒外1名、「ステンレス鋼の高温水応力腐食割れ感受性」、「石川島播磨技報」、石川島播磨重工業株式会社技術本部技術管理室、昭和52年9月1日発行、第17巻、第5号(通巻第70号)、p.472−478
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、圧力容器等の実機では目視確認できる長さ(数mm)のき裂が発生することがあるが、上記CBB試験は試験片が小型であるため発生させられるき裂は数百μmまでであった。また、応力腐食割れについては、未だ解明されていない事柄が多く、実機で発生するき裂の発生メカニズムも完全には解明されていないため、き裂発生のメカニズム解明や実機のき裂発生寿命評価方法の開発をするためには、実機と同程度の大きさのき裂を発生させることが可能である試験方法が必要とされている。
【0008】
このような状況の下、本願の発明者は、応力腐食割れを多数観察するうちに実機で発生する大きなき裂は沢山の小さなき裂が成長・合体して形成されるのではないかとの仮説を立てるに至ったが、大きなき裂を発生できる試験方法が存在しないという課題があった。
【0009】
そこで、本発明の目的は、上記課題を解決し、試験片に大きなき裂を発生させることができるCBB試験方法及びこの方法に用いる試験治具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために本発明は、試験片を所定の曲率で曲げて1%ひずみを付与させた状態で高温高圧の純水中に浸漬してその試験片の応力腐食割れを観察するためのCBB試験方法において、厚さ5〜15mm(約10mm)、幅60〜150mm(約130mm)、長さ150〜350mm(約320mm)の試験片を用い、他方、その試験片に1%ひずみを付与する試験治具を、内面に試験片に1%ひずみを付与すべく曲げるための凹状の曲面が形成された上下の抑え治具と、その上下の抑え治具の曲面間に配置され上下に凸状の曲面を有する中子で形成し、上記試験片を上下の抑え治具の曲面に通水性を有する隙間形成材を介して配置すると共に、その間に上記中子を挟んで上下の抑え治具をプレス等にて押圧し、さらに上下の抑え治具をボルト・ナットで固定して試験片に所定の曲率を付与し、しかるのち、高温・高圧の純水中に浸漬して応力腐食割れ試験を行うものである。
【0011】
上記試験片を挟んだ試験治具を純水中に浸漬したのち、試験治具から試験片を取り外し、これにより回復される試験片の曲げ形状を上記試験治具で挟んでいるときの形状に戻すべく、上記抑え治具の曲面よりも小さな半径の曲面を有する曲げ治具で上記試験片をプレスするとよい。
【0012】
また、試験片を所定の曲率で曲げて1%ひずみを付与させた状態で高温高圧の純水中に浸漬してその試験片の応力腐食割れを観察するためのCBB試験で用いる試験治具において、試験片に1%ひずみを付与すべく曲げるための凹状の曲面が内面に形成された上下の抑え治具と、その上下の抑え治具の曲面間に配置され上下に凸状の曲面を有する中子と、上記上下の抑え治具を固定する固定手段とを備えて試験治具を構成したものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、試験片に大きなき裂を発生させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の好適実施の形態を添付図面を用いて説明する。
【0015】
大型CBB試験を行う場合、厚さ10mm、幅130mm、長さ320mmの板状の試験片を2枚用意する。
【0016】
また、図1、図2及び図3に示すように、上記試験片1に1%ひずみを付与すべく曲げるための凹状の曲面2が内面に形成された上下の抑え治具3、3と、その上下の抑え治具3、3の曲面2間に配置され上下に凸状の曲面4、4を有する中子5と、上下の抑え治具3、3を固定する固定手段たるボルト6・ナット7とを備えた試験治具8を用意する。
【0017】
試験治具8について説明する。
【0018】
抑え治具3は、熱処理を加えていない金属ブロックに半径略505mmの凹状の円弧曲面2を少なくとも試験片1の長さ以上の周長に形成すると共に、円弧曲面2の両端近傍に上下方向(厚さ方向)に貫通するボルト挿通孔9を複数形成したものであり、上下同形状に形成されている。金属ブロックは、平面視長方形に形成されると共に、長さを試験片1の長さより長く、幅を試験片1の幅と略同寸法に形成されている。抑え治具3の円弧曲面2は、金属ブロックの長手方向の中央を最も窪ませると共に、幅方向(図1の紙面奥行き方向)に深さが等しい溝状に形成されている。ボルト挿通孔9は、抑え治具3の長手方向の両端に幅方向に延びる短辺に沿って複数等間隔に形成されている。具体的には、抑え治具3は長さ390mm、幅130mm、長手方向中央の厚さ25mmに形成されている。
【0019】
中子5は、抑え治具3の長手方向のボルト挿通孔9間に収まる長さに形成されると共に、幅を試験片1と略同寸法に形成されており、上下両面を全面に渡って半径495mmの凸状の円弧曲面4、4に形成されている。中子5の円弧曲面4、4は、それぞれ長手方向の中央を最も突出させると共に、幅方向の高さが等しくなるように形成されている。
【0020】
試験治具8と試験片1を用意したら、試験治具8に試験片1をセットし、試験片1に1%ひずみを付与する。試験片1のセットは、図4(a)に示すように、まず、上下の抑え治具3、3の円弧曲面2、2に通水性を有する隙間形成材10を介して試験片1をそれぞれ配置すると共に、これら試験片1の間に中子5を挟む。隙間形成材10には、グラファイトファイバーウールを用いる。次に、図4(b)に示すように、上下の抑え治具3、3をプレス等にて所定の力で押圧する。これにより、それぞれの試験片1、1が抑え治具3、3の円弧曲面2、2に沿って湾曲されると共に中子5が試験片1の湾曲形状に沿って適宜微小移動し、その円弧曲面4、4を抑え治具3、3の円弧曲面2、2と同軸上にするように自動調芯される。これにより、試験片1はそれぞれ抑え治具3及び中子5の円弧曲面2、4に沿うように湾曲され、試験片1の外周面に1%の引張ひずみが均等に付与される。この後、図4(c)に示すように、上下の抑え治具3、3をプレス等にて押圧しながら上下の抑え治具3、3のボルト挿通孔9にそれぞれボルト6を挿通し、ボルト6の先端側にナット7を螺合させ、上下の抑え治具3、3をボルト6・ナット7で固定する。
【0021】
しかるのち、溶存酸素量を所定量に調整した純水を収容するオートクレーブ(図示せず)内に一対の試験片1を試験治具8ごと入れ、純水の温度・圧力を所定の高温・高圧に設定し、試験片1を純水に所定時間浸漬する。このとき、純水の設定温度は288℃とし、設定圧力は8MPaとし、実機と同じ環境にする。また、溶存酸素量は、実機より多くし、応力腐食割れを促進する。これにより試験時間を短縮できる。試験片1を純水に所定時間浸漬する。試験片1を純水に浸漬している間、試験片1と抑え治具3との間には隙間形成材10が挟まれており、隙間が形成されているため、試験片1の外周面を純水にさらすことができ、外周面全面を均一な環境にできる。試験片1を十分厚く、面積の広いものに形成しているため、従来の試験片20よりも深く長いき裂を発生させることができる。
【0022】
この後、オートクレーブから試験片1及び試験治具8を取り出し、試験治具8のボルト6・ナット7を外してそれぞれの試験片1を取り出す。このとき、試験片1は従来よりも厚くしてあり、曲げ半径を大きくするように形状を回復して外周側表面に発生したき裂を塞いでしまうため、試験片1に開口処理を施す。図5に示すように、開口処理は、試験片1の曲げ形状を試験治具8で挟んでいるときの形状に戻すものであり、抑え治具3の曲面2よりも小さな半径の曲面11を有する曲げ治具12で試験片1をプレスすることで行う。
【0023】
金属材料の評価は、2つの試験片1、1に発生したき裂の数と大きさとを比較することで容易にできる。
【0024】
また、応力腐食割れの発生過程を観察したい場合、同材料で形成した複数の試験片1を、純水に浸漬する時間を変えて上記のCBB試験を行うとよい。き裂発生初期の微小き裂から進展性の大きなき裂まで観察でき、初期の微小き裂、微小き裂の成長・合体、き裂の進展等の応力腐食割れの発生過程を観察できる。
【0025】
このように、厚さ約10mm、幅約130mm、長さ約320mmの試験片1を用い、他方、その試験片1に1%ひずみを付与する試験治具8を、内面に試験片1に1%ひずみを付与すべく曲げるための凹状の曲面2が形成された上下の抑え治具3、3と、その上下の抑え治具3、3の曲面2、2間に配置され上下に凸状の曲面4、4を有する中子5で形成し、試験片1を上下の抑え治具3、3の曲面2、2に通水性を有する隙間形成材10、10を介して配置すると共に、その試験片1同士の間に中子5を挟んで上下の抑え治具3、3をプレス等にて押圧し、さらに上下の抑え治具3、3をボルト6・ナット7で固定して試験片1に所定の曲率を付与し、しかるのち、高温・高圧の純水中に浸漬して応力腐食割れ試験を行うため、き裂長さが数mmに及ぶ進展性の大きなき裂を容易に発生させることができる。
【0026】
そして、試験片1を挟んだ試験治具8を純水中に浸漬したのち、試験治具8から試験片1を取り外し、これにより回復される試験片1の曲げ形状を上記試験治具8で挟んでいるときの形状に戻すべく、抑え治具3の曲面2よりも小さな半径の曲面11を有する曲げ治具12で試験片1をプレスすることで塞がるき裂を再び元に戻すことができ、き裂の観察を容易なものにできる。
【0027】
また、試験片1に1%ひずみを付与すべく曲げるための凹状の曲面2が内面に形成された上下の抑え治具3、3と、その上下の抑え治具3、3の曲面2、2間に配置され上下に凸状の曲面4、4を有する中子5と、上下の抑え治具3、3を固定するボルト6・ナット7とを備えて試験治具8を構成したため、従来の試験治具をそのまま大きくする場合と比べて試験治具8を小型・軽量なものにできる。このため、大型化が困難なオートクレーブ内に最大限大きな試験片1を入れることができ、大きなき裂を容易に発生させることができる。また、試験片1を2枚同時にセットできるため、評価対象となる金属材料と比較対象となる金属材料等、任意の組み合わせで同時にき裂を発生させることができ、CBB試験を容易に精度良く行うことができる。
【0028】
なお、抑え治具3、3は上下に配置するものとしたが、試験治具8を立てたときは左右に配置されるものとなるのは勿論である。
【0029】
また、試験片1はサイズを統一するために、厚さ10mm、幅130mm、長さ320mmとしたが、これに限るものではない。試験片1のサイズはオートクレーブ内に収容可能であれば他のサイズであってもよい。
【0030】
固定手段は、ボルト6、ナット7に限るものではなく、抑え治具3、3同士を固定でき、オートクレーブ内に収容可能な程度に小さなものであれば他のものであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の好適実施の形態を示す試験片と試験治具の正面図である。
【図2】図1の平面図である。
【図3】図1の側面図である。
【図4】試験治具に試験片をセットする手順を示す説明図であり、(a)は抑え治具と中子の間に試験片と隙間形成材を挟んだ状態を示し、(b)は上下の抑え治具をプレスした状態を示し、(c)は上下の抑え治具をプレスしつつボルト・ナットで固定した状態を示す。
【図5】試験片の曲げ形状を試験治具に挟んだ状態に戻す曲げ治具の正面図である。
【図6】従来の試験治具の正面図である。
【図7】図6の側面図である。
【符号の説明】
【0032】
1 試験片
2 円弧曲面(曲面)
3 抑え治具
4 円弧曲面(曲面)
5 中子
6 ボルト
7 ナット
8 試験治具
10 隙間形成材
11 曲面
12 曲げ治具

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試験片を所定の曲率で曲げて1%ひずみを付与させた状態で高温高圧の純水中に浸漬してその試験片の応力腐食割れを観察するためのCBB試験方法において、厚さ5〜15mm(約10mm)、幅60〜150mm(約130mm)、長さ150〜350mm(約320mm)の試験片を用い、他方、その試験片に1%ひずみを付与する試験治具を、内面に試験片に1%ひずみを付与すべく曲げるための凹状の曲面が形成された上下の抑え治具と、その上下の抑え治具の曲面間に配置され上下に凸状の曲面を有する中子で形成し、上記試験片を上下の抑え治具の曲面に通水性を有する隙間形成材を介して配置すると共に、その間に上記中子を挟んで上下の抑え治具をプレス等にて押圧し、さらに上下の抑え治具をボルト・ナットで固定して試験片に所定の曲率を付与し、しかるのち、高温・高圧の純水中に浸漬して応力腐食割れ試験を行うことを特徴とするCBB試験方法。
【請求項2】
上記試験片を挟んだ試験治具を純水中に浸漬したのち、試験治具から試験片を取り外し、これにより回復される試験片の曲げ形状を上記試験治具で挟んでいるときの形状に戻すべく、上記抑え治具の曲面よりも小さな半径の曲面を有する曲げ治具で上記試験片をプレスする請求項1記載のCBB試験方法。
【請求項3】
試験片を所定の曲率で曲げて1%ひずみを付与させた状態で高温高圧の純水中に浸漬してその試験片の応力腐食割れを観察するためのCBB試験で用いる試験治具において、試験片に1%ひずみを付与すべく曲げるための凹状の曲面が内面に形成された上下の抑え治具と、その上下の抑え治具の曲面間に配置され上下に凸状の曲面を有する中子と、上記上下の抑え治具を固定する固定手段とを備えたことを特徴とする試験治具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−271526(P2007−271526A)
【公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−99471(P2006−99471)
【出願日】平成18年3月31日(2006.3.31)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】