説明

CMT溶接法による質量構成部品のバランス調整方法

本発明の目的は、高度なバランス品質を備えた回転を行う質量構成部品を提供することであり、このバランス調整は、できる限り自動化され、チップの形成なしに実施されなければならない。このために、質量構成部品への溶接点のビルドアップ溶接による、回転を行う質量構成部品、特にローター(1)のバランス調整方法が提供され、それによって、回転軸に関して質量の対称性が改善される。このビルドアップ溶接はコールド・メタル・トランスファー溶接、特に複数の個別の質量溶接点(4)によって行われる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、質量構成部品への溶接点のビルドアップ溶接による、回転する質量構成部品のバランス調整方法に関し、質量構成部品の回転軸に関して質量の対称性が改善される。
【背景技術】
【0002】
高速で回転する構成部品は、製造後、スムーズな回転のため又は振動を防止するために精密なバランス調整を行う必要がある。それによって、特に車両駆動系における必要な快適性と、構成部品及び取付け部品の望ましい寿命とを達成することができる。
【0003】
ハイブリッド自動車及び電気自動車の電気モーターには、とりわけ高度なバランス品質を要求されることが多い。このバランス品質を達成するためには、場所に関してフレキシブルに、また、質量に関して正確に計量しながら、その都度、特定の質量を加えるか、又は取り除くことが必要である。
【0004】
基本的に、バランス調整の方法には2つのバリエーションがある。第1のバリエーションは「ネガティブなバランス調整」であり、この場合は特定の質量が取り除かれる。第2のバリエーションは「ポジティブなバランス調整」であり、この場合は特定の質量が加えられる。
【0005】
とりわけ高度なバランス品質を得るためには、例えば穴あけなどによるネガティブなバランス調整を行うのが一般的である。穴の深さ並びに穴の数又は直径を特定することにより、それぞれ個々のバランス要求に対し、完全に自動的に、フレキシブルに、そして精密に対応することができる。
【0006】
しかし、このネガティブなバランス調整の課題は、除去する材料が、構造的に十分に、あらかじめ確保されていなければならないことである。さらに、このネガティブなバランス調整は、除去する箇所における構成部品の弱化とチップの形成を引き起こす。特に電気機械においては、削りくずなどの汚れが機能障害を引き起こす可能性があることから、極めて複雑かつ慎重な製造工程が必要となる。
【0007】
ポジティブなバランス調整の場合、高度なバランス品質を得るためには、明らかにより多くのコストが必要となる。ポジティブなバランス調整は、多くの方法によって実施することができる。例えばバランスプレートの溶接などが可能である。このことは、例えば抵抗溶接又はレーザー溶接によって可能である。不利な点は、極めて多くの種類のプレートの重さが必要であることと、バランスプレートの取扱いが特殊なことである。
【0008】
その他に、従来のMIG/MAG溶接を用いるビルドアップ溶接によって、ポジティブなバランス調整を行うことも可能である。特許文献1に従って、様々な溶接方法を互いに組み合わせることもできる。溶接方法としては、MIG/MAGの他に、コールド・メタル・トランスファー(CMT)溶接法も挙げられる。
【0009】
さらに、ポジティブなバランス調整では、バランスプレートを貼り付けることも可能であり、あるいは接着剤を計量して取り付けることもできる。しかし、これらの塗布される質量では、劣化が早いこと、密度が小さいこと、油脂及び燃料に対する耐性が低いことが課題である。
【0010】
特許文献2から、溶接装置の制御及び/又は調整方法、並びに溶接装置が知られている。この溶接装置は1つの溶接ワイヤーを有し、アークの点火後にコールド・メタル・トランスファー溶接法(CMT)を実行し、その際、溶接ワイヤーを工作物の方向に送り、工作物に接触させる。続いて、短絡形成後、短絡段階の間にワイヤーのフィード方向が反対方向に転換され、溶接ワイヤーは短絡が終了するまで工作物から離される。この場合、溶接時の電流は、アーク段階中に溶接ワイヤーの初期溶融、すなわち液滴生成が行われるように調整される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】欧州特許出願公開第01704014A1号明細書
【特許文献2】欧州特許出願公開第01850998A1号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の課題は、回転を行う質量構成部品のバランス調整を、チップの形成及び構成部品の弱化を生じることなく、できる限り高度なバランス品質と高いレベルの自動化とを伴って達成することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に基づき、この課題は、請求項1による方法によって解決される。本発明の有利な発展形態は、従属請求項に示されている。本発明に基づき、質量構成部品への溶接点のビルドアップ溶接による、回転をする質量構成部品のバランス調整方法が提供され、それによって、回転軸に関する質量の対称性が改善される。このビルドアップ溶接はコールド・メタル・トランスファー溶接によって行われる。
【0014】
従って、有利な方法では、非常にフレキシブルに使用できるポジティブなバランス調整が可能である。さらに、このコールド・メタル・トランスファー溶接(CMT)は、取り付ける質量と個々の溶接点の位置とを自動的に計算することができるため、非常にうまく自動化することができる。さらに、CMT溶接によって、特に高度なバランス品質を得ることができる。その他の利点として、CMT溶接法の場合、チップの形成がなく、さらに構成部品の弱化も起こらないことがある。とりわけ、ネガティブなバランス調整の場合のように、あらかじめ材料を確保しておく必要がないため、全体として重量の削減につながる。
【0015】
好ましくは、本発明に基づく方法は、回転を行う質量構成部品として、電気モーターのローターに使用することができる。特に、この電気モーターは、自動車の駆動モーターであり得る。さらに、バランス調整に必要な質量が、複数の個別の質量溶接点によって溶接される場合は有利である。この場合、個々の質量溶接点の数と位置とは自動的に特定することができる。
【0016】
本発明を、添付の図に基づき、さらに詳しく説明する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】従来技術による、ネガティブなバランス調整用のローターである。
【図2】本発明に基づくポジティブなバランス調整を行ったローターである。
【図3】図2のローターを別の角度から見た図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に詳しく説明されている実施例は、本発明の好ましい実施形態である。しかし、本発明を良く理解するために、まずは、図1を使ってネガティブなバランス調整を詳しく説明する。
【0019】
図1は、自動車の駆動用電気モーターのローター1を示している。この場合、ローター1は、マグネット構造2の軸方向の両方の端部に、それぞれ1つのバランスリング3を有している。バランス調整を行う場合、穴あけによってこれらのバランスリング3から材料の除去が可能な、バランスリング3の箇所が調査される。この場合、穴の位置だけではなく、その数及び/又は大きさも特定される。すでに冒頭で言及したように、ネガティブなバランス調整には、まずバランスリング3をローター1に取り付けなければならないという課題がある。すなわち、質量構成部品は、相応の質量をあらかじめ確保しておかなければならない。このことは、重量の大幅な増加につながる。次に、確保されている材料、ここではバランスリング3が、バランス調整において強く穴をあけられるため、状況によっては構成部品の危険な弱化を引き起こす。
【0020】
従って、上記の理由から、制御されたCMT溶接技術によるポジティブなバランス調整が提案される。この場合、バランス調整に必要な質量だけが、質量構成部品に取り付けられる。従って、ネガティブなバランス調整に比べて、大きな質量削減につながる。
【0021】
制御されたCMT溶接技術では、特定の質量溶接点を望ましい容量で溶接することが可能である。図2及び3には、ローター1の上に、溶接された質量溶接点のあるフィールド4がそれぞれ示されている。これらのフィールド4は、ローター1の全ての適切な箇所、特にローターキャリアに形成することができる。図2及び3の例では、質量溶接点をもつそうしたフィールド4の1つが外部周辺面にあり、別のフィールド4はローター1の正面にある。
【0022】
必要な重量に応じて、それぞれ必要な数の質量溶接点を該当する位置に取り付けることができる。質量溶接点の数と場所に関して融通性があることから、非常にうまく自動化することが可能である。さらに、CMT溶接技術で達成することのできる小さな質量溶接点により、非常に高度なバランス品質を得ることができる。さらに、CMT溶接方法における入熱は、従来のMIG/MAG溶接に比べ非常に低い。従って、例えば、構成部品の寿命が非常に長い、振動の極めて少ない電気モーターを実現することができる。
【符号の説明】
【0023】
1 ローター
2 マグネット構造
3 バランスリング
4 質量溶接点のあるフィールド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
− 回転を行う質量構成部品(1)のバランス調整方法であって、
前記質量構成部品(1)への溶接点のビルドアップ溶接によって、回転軸に関して質量の対称性が改善される、回転を行う前記質量構成部品(1)のバランス調整方法であって、
前記ビルドアップ溶接がコールド・メタル・トランスファー溶接によって行われることを特徴とする方法。
【請求項2】
回転を行う前記質量構成部品(1)が、電気モーターのローターであることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記電気モーターが、自動車の駆動モーターであることを特徴とする、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記バランス調整に必要な質量が、複数の個別の質量溶接点(4)によって溶接されることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
個々の前記質量溶接点の数と位置とが自動的に特定されることを特徴とする、請求項4に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2013−511669(P2013−511669A)
【公表日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−539205(P2012−539205)
【出願日】平成22年10月9日(2010.10.9)
【国際出願番号】PCT/EP2010/006175
【国際公開番号】WO2011/060854
【国際公開日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【出願人】(598051819)ダイムラー・アクチェンゲゼルシャフト (1,147)
【氏名又は名称原語表記】Daimler AG
【住所又は居所原語表記】Mercedesstrasse 137,70327 Stuttgart,Deutschland
【Fターム(参考)】