説明

CO除去触媒とその製造方法

【課題】 COメタネーション活性が低いCO除去触媒及びその製造方法を提供する。
【解決手段】 耐火性酸化物担体に、前記耐火性酸化物担体の吸水量の1.1〜1.3倍容量のルテニウム化合物溶液を、含浸させることを特徴とするCO除去触媒の製造方法。この製造方法により得られることを特徴とするCO除去触媒。好ましくは、耐火性酸化物担体は、アルミナ、チタニア、シリカ、ジルコニア及びセリアから選ばれる少なくとも1種である。また好ましくは、ルテニウム化合物は、硝酸ルテニウムである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素製造システムや燃料電池システム等に使用されるCO除去触媒及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境問題から新エネルギー技術が脚光を浴びており、この新エネルギー技術の一つとして燃料電池が注目されている。この燃料電池は、水素と酸素を電気化学的に反応させることにより、化学エネルギーを電気エネルギーに変換するものであって、エネルギーの利用効率が高いという特徴を有しており、民生用、産業用あるいは自動車用等として、実用化研究が積極的になされている。
【0003】
水素源として石油系炭化水素を用いて水素を製造する場合、一般に、炭化水素を、改質触媒の存在下に水蒸気改質又は部分酸化改質処理する方法が用いられる。そして、これらの反応において得られる水素含有ガスには、通常、目的とする水素ガスとともにCOが含まれる。燃料電池中にCOがあるレベル以上含まれていると燃料電池の発電性能が低下したり、濃度によっては全く発電ができなくなってしまうという重大な問題が発生する。従って、このCOを無害なCO2
等に転化し、燃料電池の燃料中のCO濃度を減少させる技術の開発が強く望まれている。
【0004】
改質ガス中のCOの濃度を低減させる手段の一つとして、燃料ガス中に酸素又は酸素含有ガス(空気等)を導入し、COをCO2 に変換する方法が提案されている。この際、できる限り水素は酸化しないでCOだけを選択的に酸化する触媒を使用することが望ましい。COの選択的酸化触媒として、特許文献1〜3には、アルミナに硝酸ルテニウムを担持させた触媒が開示されている。
【0005】
ルテニウム化合物を担体に担持させる方法として、担体をルテニウム化合物の溶液に含浸させる方法がある。通常は、Incipient wetness法により、担体に、担体の吸水量とほぼ同量のルテニウム化合物溶液を含浸する。この方法では、含浸操作時に加熱操作や排気操作の必要がなく、簡便かつ、効率よく触媒を調製できる。
【0006】
一方、CO除去触媒は、主にCOを酸素で酸化してCOにする反応を触媒するが、副反応であるCOを水素で還元してメタン(CH)を生成する反応も触媒する(COメタネーション)。この副反応は水素製造システムの生成目的物である水素を消費するため好ましくない。
【特許文献1】特開2001−239169号公報
【特許文献2】特開2001−239170号公報
【特許文献3】特開2001−327868号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、COメタネーション活性が低いCO除去触媒及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、以下のCO除去触媒及びその製造方法等が提供される。
1.耐火性酸化物担体に、前記耐火性酸化物担体の吸水量の1.1〜1.3倍容量のルテニウム化合物溶液を、含浸させることを特徴とするCO除去触媒の製造方法。
2.前記耐火性酸化物担体が、アルミナ、チタニア、シリカ、ジルコニア及びセリアから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする1記載のCO除去触媒の製造方法。
3.前記ルテニウム化合物が、硝酸ルテニウムであることを特徴とする1又は2記載のCO除去触媒の製造方法。
4.1〜3のいずれか一項記載の製造方法により得られることを特徴とするCO除去触媒。
5.4記載のCO除去触媒を充填したCO除去装置を備えたことを特徴とする水素ガス製造システム。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、COメタネーション活性が低いCO除去触媒及びその製造方法が提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明のCO除去触媒は、耐火性酸化物担体にルテニウム化合物を担持させたものである。
本発明のCO除去触媒に用いられる耐火性酸化物担体としては、例えば、アルミナ、チタニア、シリカ、ジルコニア及びセリアから選ばれるものを挙げることができる。これらは単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。この中でも、触媒活性の点からアルミナが好ましく用いられる。さらに好ましくは、γ−アルミナが用いられる。
【0011】
本発明のCO除去触媒に用いられるルテニウム化合物としては、例えば、Ru(NO、Ru(NO)(NO、Ru(OH)Cl・7NH・3HO、(Ru(NH14)Cl6・HO、(NH(RuCl(HO))、K(RuCl(NO))、K(Ru(CN))・nHO、K(Ru(NO(OH)(NO))、(Ru(NH)Cl、(Ru(NH)Br、(Ru(NH)Cl、(Ru(NH)Br、(Ru(NO)(NH)Cl、(Ru(OH)(NO)(NH)(NO、RuCl・nHO、K(RuCl(HO))、RuBr・nHO、NaRuO、(RuO(OAc)(HO))OAc・nHO、RuCl(PPh、RuCl(PPh、(RuClH(PPh・C、RuH(PPh、RuClH(CO)(PPh、RuH(CO)(PPh、(RuCl(cod))n、Ru(CO)12、Ru(acac)、(Ru(HCOO)(CO))n、Ru(p−cymene)等が挙げられる。上記化学式で、Acはアセチル基、Phはフェニル基、codはシクロオクタジエン基、acacはアセチルアセトナトイオン、p−cymeneはp−シメン基である。これらのルテニウム化合物のうち、調製、入手の容易さの点から好ましくはRu(NO、RuCl・nHO、(Ru(NH)Cl、(Ru(NH)Cl、より好ましくはRu(NOを用いる。
【0012】
本発明のCO除去触媒は、耐火性酸化物担体にルテニウム化合物溶液を含浸させ、その後、通常、乾燥/焼成させる。
まず、上記のルテニウム化合物を水、エタノール、硝酸等に溶解させて、ルテニウム化合物溶液を作成する。ルテニウム化合物溶液において、ルテニウム化合物の含有量は、通常、10重量%以下であり、好ましくは6重量%以下である。ルテニウム化合物の担持量は特に制限はないが、通常、担体に対してRuとして0.05〜10重量%が好ましい。
本発明では、耐火性酸化物担体に、耐火性酸化物担体の吸水量の1.1〜1.3倍容量のルテニウム化合物溶液を、含浸させる。ここで、耐火性酸化物担体の吸水量とは、1gの耐火性酸化物担体を、イオン交換水に15℃で5分間漬けた後、取り出して重量の増加を計ることにより算出した値である。1.1倍容量未満であるとCOメタネーション活性が低くならず、1.3倍を超えると担体にルテニウム化合物溶液が完全に吸収されない場合がある。
このように耐火性酸化物担体の吸水量の1.1〜1.3倍容量のルテニウム化合物溶液を含浸させると、得られるCO除去触媒のCOメタネーション活性が低くなる。
耐火性酸化物担体にルテニウム化合物溶液を含浸させる方法として、例えば、担体が入っている容器に、担体を撹拌しながらルテニウム化合物溶液を滴下する。滴下後、容器にルテニウム化合物溶液が残っている場合は、担体に完全に吸収されるまで撹拌を繰り返す。
【0013】
接触後、好ましくは、担体を乾燥させる。乾燥方法としては、例えば自然乾燥、蒸発乾固法、ロータリーエバポレーターもしくは送風乾燥機による乾燥がいずれも使用可能である。通常乾燥は50〜200℃で、0.5〜24時間実施する。乾燥後、場合によっては350〜550℃で、2〜6時間焼成する。
【0014】
次に、本発明の触媒を用いて、水素を主成分とするガス中の一酸化炭素を酸素により酸化し、一酸化炭素の低減された水素含有ガスを製造する水素製造システムについて説明する。
上述のように調製された触媒は通常焼成されているので担持金属は酸化物の状態で存在する。通常は、この触媒を使用前に水素還元により還元する。水素還元は、通常、水素気流下、250〜550℃、好ましくは300〜530℃の温度で、1〜5時間、好ましくは1〜2時間行う。以上のようにして得られる触媒により、水素を主成分とし、かつ少なくともCOを含有する水素含有ガスに酸素を添加して、COの酸素による選択的酸化反応を行う。本発明のCO除去触媒は、水素製造用原料を改質または部分酸化することによって得られる水素を主成分とするガス(改質ガス)中のCOを選択的に除去するのに好適に利用される。
【0015】
水素含有ガスの原料として炭化水素を用いて水素を製造するシステムは、通常、脱硫装置、改質装置、変成装置、CO除去装置からなる(脱硫装置、変成装置は省略し得る)。
ここで、脱硫装置は炭化水素原料に含まれる硫黄分を除去する装置であり、改質装置は脱硫処理した炭化水素原料から水素を得る装置である。改質の際、水素と共にCOが発生するので、変成装置でCOをCOに変成させる。CO除去装置は変成装置で変成されなかったCOを除去する装置であり、本発明のCO除去触媒はこの装置に用いられる。
本発明の方法で処理されたCO除去触媒は、水素製造用原料を改質又は部分酸化することによって得られる水素を主成分とするガス(改質ガス)中のCOを選択的に除去するのに好適に利用される。
このようにして製造される水素は燃料電池に好適に利用されるが、これに限定されるものではない。
【実施例】
【0016】
実施例1
硝酸ルテニウム溶液(小島化学薬品製、ルテニウムの含有率=(ルテニウム金属として)50g/リットル。溶媒は硝酸である)7mlをビーカーにとり、これにイオン交換水1.2mlを入れ、均一になるまで攪拌した。
別のビーカーにγ−アルミナ担体KHD24(住友化学製、直径2〜4mmの球状)20gをはかりとった。尚、このアルミナ担体1gが吸収できる水分量(1gのアルミナを水に5分間漬けた後、取り出して重量の増加を計ることにより算出した値)は0.37mlであった。従って、イオン交換水で希釈した硝酸ルテニウム溶液の容量は、アルミナ担体20gが吸収できる水分量の1.1倍であった。
ガラス棒でアルミナ担体をよくかき混ぜながら、このアルミナ担体に上記希釈硝酸ルテニウム溶液を滴下した後、さらに1分間程度よくかき混ぜた。さらに硝酸ルテニウム溶液のほとんどがアルミナ担体に吸収されるまで5分間隔で1分間合計6回撹拌を繰り返した。
硝酸ルテニウム溶液を吸収したアルミナ担体を焼成皿に回収し、これを120℃で3時間静置乾燥することによりCO除去触媒を得た。
【0017】
実施例2
実施例1において、硝酸ルテニウム溶液に混合するイオン交換水容量を1.9mlに変更した以外は同様にして触媒を得た。ここで使用した希釈硝酸ルテニウム溶液の容量は、アルミナ担体20gが吸収できる水分量の1.2倍であった。
【0018】
実施例3
実施例1において、硝酸ルテニウム溶液に混合するイオン交換水容量を2.6mlに変更した以外は同様にして触媒を得た。ここで使用した希釈硝酸ルテニウム溶液の容量は、アルミナ担体20gが吸収できる水分量の1.3倍であった。
【0019】
比較例1
実施例1において、硝酸ルテニウム溶液に混合するイオン交換水容量を0.4mlに変更した以外は同様にして触媒を得た。ここで使用した希釈硝酸ルテニウム溶液の容量は、アルミナ担体20gが吸収できる水分量の1.0倍であった。
本比較例では、このアルミナ担体をガラス棒でよくかき混ぜる中に上記希釈硝酸ルテニウム溶液を滴下した後、さらに1分間程度よくかき混ぜた。その後1時間室温に放置するだけで、硝酸ルテニウム溶液はアルミナ担体にほとんど吸収された。
【0020】
比較例2
硝酸ルテニウム溶液をイオン交換水により希釈せず、その代わりに70〜80℃のウォーターバスにより硝酸ルテニウム溶液を5.9mlにまで濃縮した。この濃縮した硝酸ルテニウム溶液を使用する以外は実施例1と同様にして触媒を得た。ここで使用した希釈硝酸ルテニウム溶液の容量は、アルミナ担体20gが吸収できる水分量の0.8倍であった。
本比較例では、アルミナ担体をガラス棒でよくかき混ぜる中に上記希釈硝酸ルテニウム溶液を滴下した後、さらに1分間程度よくかき混ぜた。その後1時間室温に放置するだけで、硝酸ルテニウム溶液はアルミナ担体にほとんど吸収された。
【0021】
比較例3
実施例1において、硝酸ルテニウム溶液に混合するイオン交換水容量を4.2mlに変更した以外は同様にして触媒を得た。ここで使用した希釈硝酸ルテニウム溶液の容量は、アルミナ担体20gが吸収できる水分量の1.5倍であった。
本比較例では、アルミナ担体をガラス棒でよくかき混ぜながら、上記希釈硝酸ルテニウム溶液を滴下した後、さらに1分間程度よくかき混ぜ、その後適度な時間間隔で撹拌を繰り返しても、十分に硝酸ルテニウム溶液を吸収できなかった。そこで、吸収しきれなかった溶液(約1ml)をそれ以上アルミナ担体に吸収させることは止め、可能な範囲で硝酸ルテニウム溶液を吸収したアルミナ担体に120℃乾燥処理を施した。
【0022】
評価例
[反応評価条件と性能]
以下の条件下で、触媒に原料ガス(多量のH中に微量のCOを含む)を通じた。その結果、表1に示すように、実施例1、2の触媒は比較例1,2の触媒と比較して、CO除去活性は同等であるがメタネーション活性が抑制されていた。
比較例3の触媒は、担体に硝酸ルテニウム溶液を十分吸収できず、少ない量のルテニウム化合物しかアルミナ担体に担持できなかったことから、十分のCO除去活性が得られなかった。
1.触媒前処理還元条件
温度:500℃
圧力:大気圧
時間:1時間
GHSV:24,000hr−1
2.反応条件
温度:140℃
圧力:大気圧
GHSV:20,000hr−1
原料ガス組成(容量%):CO/CO/O/N/HO/H
=0.6/15/0.9/3.5/20/Balance
尚、上記条件中のGHSVとは、供給ガスの標準状態における供給体積速度を使用する触媒層のみかけの体積で割った値をいい、この値をガス空間速度とする。
【0023】
【表1】

【0024】
以上の結果より、実施例ではCOは80ppm以下でかつメタン濃度も700ppmに抑えられていた。
水素に含まれる微量のCOを酸化する反応(COの選択的除去反応)において、本発明の実施例の触媒は、比較例の触媒よりも、同じCO転化率条件において、COメタネーション活性が低かった。
そのため、本発明では水素を余分に消費すること無く水素中のCOを低減することができる。また、発熱量の多いメタネーション活性が低くなることにより、反応の暴走を防止し反応条件を制御しやすくすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明のCO除去触媒は、燃料電池等に使用される水素を製造するシステムに利用できる。
また、本発明のCO除去触媒によって得られる水素含有ガスは、各種のH2 燃焼型燃料電池の燃料として好適に使用することができ、特に、少なくとも燃料極(負極)の電極に白金(白金触媒)を用いるタイプの各種のH2 燃焼型燃料電池(リン酸型燃料電池、KOH型燃料電池、固体高分子型燃料電池をはじめとする低温作動型燃料電池等)への供給燃料として利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐火性酸化物担体に、
前記耐火性酸化物担体の吸水量の1.1〜1.3倍容量のルテニウム化合物溶液を、
含浸させることを特徴とするCO除去触媒の製造方法。
【請求項2】
前記耐火性酸化物担体が、アルミナ、チタニア、シリカ、ジルコニア及びセリアから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1記載のCO除去触媒の製造方法。
【請求項3】
前記ルテニウム化合物が、硝酸ルテニウムであることを特徴とする請求項1又は2記載のCO除去触媒の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項記載の製造方法により得られることを特徴とするCO除去触媒。
【請求項5】
請求項4記載のCO除去触媒を充填したCO除去装置を備えたことを特徴とする水素ガス製造システム。

【公開番号】特開2006−142240(P2006−142240A)
【公開日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−337632(P2004−337632)
【出願日】平成16年11月22日(2004.11.22)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【Fターム(参考)】