COX阻害薬の心血管系リスク因子の改善方法
【課題】
【解決手段】COX阻害薬またはCOX−2選択的阻害薬の使用に伴う心血管系事象のリスクの増大を抑制する方法は、COX阻害薬またはCOX−2選択的阻害薬の使用により生じるコレステロール代謝機能の異常を修復する工程と、これにより引き起こされる泡沫細胞の生成を抑制する工程と、を備える。コレステロール代謝機能の異常の修復および泡沫細胞の生成の抑制は、COX阻害薬またはCOX−2阻害薬を投与された患者に対する活性の閾値レベルが0.1μMであるアデノシンA2A受容体作用薬を投与する工程により実現される。アデノシンA2A受容体作用薬は、A2A受容体を飽和状態にするのに十分な量およびコレステロール代謝機能の修復を維持するのに十分な時間間隔で、経口投与される。
【解決手段】COX阻害薬またはCOX−2選択的阻害薬の使用に伴う心血管系事象のリスクの増大を抑制する方法は、COX阻害薬またはCOX−2選択的阻害薬の使用により生じるコレステロール代謝機能の異常を修復する工程と、これにより引き起こされる泡沫細胞の生成を抑制する工程と、を備える。コレステロール代謝機能の異常の修復および泡沫細胞の生成の抑制は、COX阻害薬またはCOX−2阻害薬を投与された患者に対する活性の閾値レベルが0.1μMであるアデノシンA2A受容体作用薬を投与する工程により実現される。アデノシンA2A受容体作用薬は、A2A受容体を飽和状態にするのに十分な量およびコレステロール代謝機能の修復を維持するのに十分な時間間隔で、経口投与される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[クロスリファレンス]
本出願は、2008年5月5日に出願された仮出願番号第61/050,499号および2008年11月17日に出願された仮出願番号第61/115,289号に基づく優先権を主張する本出願である。前記出願の開示内容は、参照することによりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、COX−2選択的阻害薬を含むシクロオキシゲナーゼ(COX:Cyclooxygenase)阻害薬の悪影響から、ヒトを含む哺乳類の心血管系を守る方法に関する。
【背景技術】
【0003】
COX−2阻害薬を含むCOX阻害薬NSAIDs(非ステロイド系抗炎症薬:non-steroidal anti-inflammatory drugs)と心筋梗塞や脳卒中のリスク増大の関連性は、大きな公衆衛生上の懸念となっている。心血管系有害事象のために、COX−2選択的阻害薬であるロフェコキシブ(rofecoxib)(バイオックス(Vioxx)(登録商標)、メルク(Merck)社)の世界規模での使用中止により、疼痛や炎症に苦しむ患者を治療する医師にとって、複雑な臨床的判断を迫られるようになっている。COX−2阻害薬(俗称として「コキシブ(coxib)」とも称される)や他のCOX阻害薬NSAIDsの便益が心血管系のリスクに勝るか否かに関する議論が続いている。
【0004】
COX−2選択的阻害薬は、非常に効果の高い抗炎症性鎮痛薬であり、プロスタノイドの形成を妨害することによりその作用を発揮する。COX−2選択的阻害薬は、変形性関節炎や関節リウマチの症状を緩和し、月経困難症を治療する目的で、臨床上用いられている。
【0005】
プラシーボ対照群と比較して、ロフェコキシブ治療群で、心血管系有害事象、特に致命的な心筋梗塞(心臓発作)の発生率が有意に増大するという臨床試験の結果を受けて、2004年9月に、ロフェコキシブは市場から撤退した。続いて、心臓発作と脳卒中のリスクが有意に増大するという臨床試験の結果を受けて、バルデコキシブ(valdecoxib)(ベクストラ(Bextra)(登録商標)、ファイザー(Pfizer)社)も市場から撤退した。COX−2阻害薬群が有意に心臓発作や脳卒中の発生率を増大させることが一般に知られるようになった。
【0006】
COX−2選択的阻害薬により患者の心臓病や脳血管障害(脳卒中)の罹患率が増大する正確な作用機序はわかっていない。COX−2により生成されるプロスタサイクリンが心臓保護効果を発揮するため、実際のリスクの増大は、その発現の減少に関係しているとも考えられる。実際、COX−2阻害と心血管系リスクの増大との関連性を説明する仮説の一つは、プロスタサイクリンレベルの減少により、動脈に血栓が生じやすくなるというものである。ただし、心血管系リスクの出現前に「潜伏期」が存在する。たとえば、メルク(Merck)社が資金援助をしたAPPROVe試験において、ロフェコキシブ治療群における心臓発作や脳卒中の出現率が顕著に増大するまで18カ月の潜伏期があった。このため、上記仮説は十分に関連性を説明するものとはいえない。
【発明の概要】
【0007】
我々は、COX−2阻害薬を含むCOX阻害薬NSAIDsの使用が、正常なコレステロール代謝機能を乱し、動脈壁からのコレステロールの効果的な除去を妨害する効果があることを見出した。残留コレステロールの増大は、動脈壁に付着する有害な脂質含有泡沫細胞の生成の増大を伴い、アテローム性動脈硬化や心臓発作を含む心血管障害や脳血管障害(脳卒中)につながる。アテローム性動脈硬化は経時的に悪化するため、心血管系リスクの出現前に「潜伏期」が存在することが説明できる。
【0008】
コレステロール代謝機能には、マクロファージ・シトクロムp450・コレステロール27−ヒドロキシラーゼ(水酸化酵素)(以下、「27−OHアーゼ」)およびコレステロールの排出を促進することによりコレステロールの蓄積を妨げる他のコレステロール逆輸送系(RCT)タンパク質が関わっている。さらに、抗動脈硬化内在性膜タンパク質であるABC輸送体(ATP結合カセットトランスポーター)A1(以下、「ABCA1」)も、RCTプロセスに関わる因子である。
【0009】
我々は、COX阻害薬NSAIDsおよびCOX−2選択的阻害薬がRCTタンパク質27−OHアーゼおよびABCA1の発現を抑制することにより、コレステロール代謝を乱し、コレステロールの排出を低下させて、コレステロールを残留させ、脂質含有泡沫細胞を生成させることを見出した。脂質含有泡沫細胞は、動脈壁に付着してプラークを形成して、アテローム性動脈硬化という心血管系に有害な状況を引き起こし、心臓発作や脳卒中という心血管系有害事象のリスク増大につながる。したがって、我々は、COX阻害およびCOX−2阻害がアテローム発生効果をもたらし、この薬剤群を長期間使用することにより、アテローム性動脈硬化症(ASCVD)が進行するリスクを高める役割を果たすという結論に達した。
【0010】
本発明は、COX−2選択的阻害薬または他のCOX阻害薬NSAIDsの使用によると考えられる心血管障害および脳血管障害やアテローム性動脈硬化に関係するものを含むヒト等の哺乳類における有害事象のリスク増大を抑制する方法に関する。本発明は、また、このような方法に有用な医薬組成物に関する。本明細書において用いられる用語「心血管系事象」は、ASCVDおよび/またはコレステロール代謝の異常に起因する心筋梗塞や脳卒中等の有害事象を意味する。
【0011】
本発明の方法は、COX阻害薬またはCOX−2選択的阻害薬の使用により生じるコレステロール代謝機能の異常を修復する工程と、COX阻害薬またはCOX−2選択的阻害薬の使用により引き起こされる脂質含有泡沫細胞の生成を抑制する工程と、を備える。医薬的に許容可能なアデノシンA2A受容体作用薬を投与することによって、コレステロール代謝機能の異常を修復し、脂質含有泡沫細胞の生成を抑制する。COX阻害薬またはCOX−2選択的阻害薬を投与された患者に対するアデノシンA2A受容体作用薬の活性または受容体親和性の閾値レベルは、初期濃度0.1μMであり、最適濃度1μMである。アデノシンA2A受容体作用薬は、A2A受容体を飽和させるのに十分な量、また、コレステロール代謝機能の修復を維持するのに十分な時間間隔で投与される。本明細書において用いられる用語「アデノシンA2A受容体作用薬の投与」には、アデノシンA2A受容体作用薬の効果的なin situ(その場)生成を可能にする物質の投与も含まれる。
【0012】
本発明の方法は、正常なコレステロール代謝機能を乱し、脂質含有泡沫細胞の生成につながるCOX阻害薬またはCOX−2選択的阻害薬を使用することに起因するヒトのアテローム性動脈硬化型心血管障害や脳血管障害のリスクの増大を抑制する。本発明の方法は、COX阻害薬またはCOX−2選択的阻害薬により生じるコレステロール代謝機能の異常を修復する工程と、COX阻害薬またはCOX−2選択的阻害薬の使用により引き起こされる脂質含有泡沫細胞の生成を抑制する工程と、を備える。
【0013】
本発明の方法は、さらに、ヒトを含む哺乳類にアデノシンA2A受容体作用薬を投与することにより、哺乳類におけるアテローム発生を改善する。この場合、アデノシンA2A受容体作用薬は、必要に応じて、ヒトのA2A受容体を飽和するのに実質的に十分な量を投与する。これにより、投与された被験者のアテローム発生が抑制または妨害される。
【0014】
本発明の医薬組成物は、医薬的に許容可能なCOX阻害薬またはCOX−2選択的阻害薬と、医薬的に許容可能なA2A受容体作用薬であって、COX阻害薬またはCOX−2選択的阻害薬によって乱されたコレステロール代謝機能を修復するのに十分な量のA2A受容体作用薬と、を備える。あるいは、本発明の医薬組成物は、COX阻害薬またはCOX−2阻害薬とアデノシンA2A受容体作用薬またはアデノシンA2A受容体作用薬の効果的なin situ(その場)生成を可能にする物質との混合物を備える。本発明の医薬組成物は、鎮痛剤または抗炎症薬として有効量、たとえば、これに限定されるものではないが、標準的な薬剤投与量(たとえば、市販されているCOX−2阻害薬であるセレブレックス(Celebrex)の標準的な投与量は、50、100、200および400mgである)のCOX阻害薬またはCOX−2阻害薬と、A2A受容体を飽和するのに十分な量のアデノシンA2A受容体作用薬と、を備える。医薬組成物にアデノシンA2A受容体作用薬の効果的な生成を可能にする物質(たとえば、アデノシンA2A受容体作用薬のin situ(その場)生成を介在するメトトレキサート(MTX))を備える場合には、A2A受容体を飽和するのに十分な量のアデノシンA2A受容体作用薬が効果的に生成されるだけの量を含有する必要がある。本発明の医薬組成物は、さらに、担体や賦形剤、COX阻害薬またはCOX−2阻害薬の医薬組成物に通常用いられるような、その他医薬的に許容可能な物質を備えるようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1a】種々の投与量レベルでCOX−2選択的阻害薬であるセレコキシブ(celecoxib)(セレブレックス(Celebrex)(登録商標)、ファイザー(Pfizer)社)を用いた場合のABCA1の遺伝子発現(図1a)およびタンパク質発現(図1b)に及ぼす抑制効果を示す棒グラフ。
【図1b】種々の投与量レベルでCOX−2選択的阻害薬であるセレコキシブ(celecoxib)(セレブレックス(Celebrex)(登録商標)、ファイザー(Pfizer)社)を用いた場合のABCA1の遺伝子発現(図1a)およびタンパク質発現(図1b)に及ぼす抑制効果を示す棒グラフ。
【0016】
【図2a】種々の投与量レベルでCOX−2選択的阻害薬であるNS−398を用いた場合の27−OHアーゼ(図2a)およびABCA1(図2b)の減少度合いを示す棒グラフ。
【図2b】種々の投与量レベルでCOX−2選択的阻害薬であるNS−398を用いた場合の27−OHアーゼ(図2a)およびABCA1(図2b)の減少度合いを示す棒グラフ。
【0017】
【図3a】種々のA2A受容体作用薬およびCOX−2阻害剤の組み合わせを用いて調べた27−OHアーゼのレベルに及ぼすアデノシンA2A受容体作用薬の効果およびそれらの組み合わせに及ぼすA2A拮抗薬の効果(図3bおよび図3c)を示す棒グラフ。
【図3b】種々のA2A受容体作用薬およびCOX−2阻害剤の組み合わせを用いて調べた27−OHアーゼのレベルに及ぼすアデノシンA2A受容体作用薬の効果およびそれらの組み合わせに及ぼすA2A拮抗薬の効果(図3bおよび図3c)を示す棒グラフ。
【図3c】種々のA2A受容体作用薬およびCOX−2阻害剤の組み合わせを用いて調べた27−OHアーゼのレベルに及ぼすアデノシンA2A受容体作用薬の効果およびそれらの組み合わせに及ぼすA2A拮抗薬の効果(図3bおよび図3c)を示す棒グラフ。
【図3d】種々のA2A受容体作用薬およびCOX−2阻害剤の組み合わせを用いて調べた27−OHアーゼのレベルに及ぼすアデノシンA2A受容体作用薬の効果およびそれらの組み合わせに及ぼすA2A拮抗薬の効果(図3bおよび図3c)を示す棒グラフ。
【0018】
【図4a】A2A作用薬であるCGS-21680およびA2A作用薬であるメトトレキサート(MTX)のABCA1レベルに及ぼす効果がアデノシンA2A受容体拮抗薬により抑制されることを示す棒グラフ。
【図4b】A2A作用薬であるCGS-21680およびA2A作用薬であるメトトレキサート(MTX)のABCA1レベルに及ぼす効果がアデノシンA2A受容体拮抗薬により抑制されることを示す棒グラフ。
【0019】
【図5】種々の濃度レベルでMTXを用いた場合の27−OHアーゼのレベルに及ぼすNS−398およびMTXの効果を示す棒グラフ。
【0020】
【図6a】27−OHアーゼのレベルおよびABCA1のレベルに及ぼすMTX、A2A拮抗薬、アテローム性動脈硬化を促進するサイトカイン、IFN−γ、NS−398およびこれらの組み合わせの効果を示す棒グラフ。
【図6b】27−OHアーゼのレベルおよびABCA1のレベルに及ぼすMTX、A2A拮抗薬、アテローム性動脈硬化を促進するサイトカイン、IFN−γ、NS−398およびこれらの組み合わせの効果を示す棒グラフ。
【発明を実施するための形態】
【0021】
我々は、ぜんそくおよび炎症治療法の開発や心筋イメージングに現在用いられているものを含むアデノシンA2A受容体作用薬に、RCTタンパク質の発現を増大させることによって、COX阻害薬またはCOX−2選択的阻害薬により生じるRCTプロセスの異常を実質的に抑制する予期せぬ効果があることを見出した。A2A受容体作用薬は、さらに、動脈壁に付着して、プラークの沈着やアテローム性動脈硬化を引き起こす有害な脂質含有泡沫細胞の生成を阻害する。
【0022】
RCTプロセスの異常を抑制するために有効なA2A受容体作用薬の量はごく微量であり、ぜんそくや炎症の治療やイメージングの目的に必要な投与量のほんの一部に過ぎない。A2A受容体作用薬は、ナノモルレベルのA2A受容体作用活性を備え、かつ、高親和性A2A受容体部位を飽和するのに十分な量が存在している必要がある。[3H]NECAを用いて飽和分析を行なったところ、ヒトA2Aアデノシン受容体のKD値は20nMであった。
【0023】
所定のA2A受容体作用薬の活性半減期が、COX阻害薬またはCOX−2阻害薬と同時にA2A受容体作用薬を投与する決定要因となる。すなわち、所定のA2A受容体作用薬活性半減期により必要な投与回数が決まる。A2A受容体作用薬の投与は、A2A受容体部位を飽和状態に保つために必要な時間間隔で行なう必要がある。CGS−21680(0.3mg/kg)の静脈内投与後のラットにおける終末相半減期は非常に短い(19±4分)が、新しい薬剤は先行する薬剤に比べてより長い半減期を持つ。
【0024】
A2A受容体の飽和状態を保つために必要な量および受容体の飽和状態を保つために必要な(A2A作用薬の半減期に応じた)期間を許容可能なリスクレベルに応じたものにすることにより、COX阻害薬またはCOX−2阻害薬の投与と同時にA2A作用薬を長期間にわたって投与した場合に考えられる副作用を最小限に抑える。
【0025】
アデノシンA2A作用薬は他の受容体部位に対する活性も持つことが多いが、A2A受容体に特異的なA2A作用薬は、効率が高く、コレステロール代謝機能の修復に関係しない他のアデノシン受容体の活性により生じる副作用を最小限に抑えることができる可能性が高い。現在のところ、別の受容体に対する活性も有する既存のA2A作用薬に加えて、新しい特異的A2A作用薬の開発が進められており、ヒトへの使用が承認される様々な段階にある。他に特に規定しない限り、「A2A受容体作用薬」には、A2A受容体作用薬のin situ(その場)生成を介在する役割を果たす物質が含まれる。
【0026】
現在知られているアデノシン受容体サブタイプとしては、A1、A2A、A2BおよびA3があるが、本発明に従うRCT修復に効果があるのは、A2A受容体部位の活性のみである。アデノシン自体の半減期は非常に短く、直接投与しても効果を発揮することはできない。本発明に従うRCT修復にA2A受容体作用薬として効果のある適当な物質を以下に挙げる。メトトレキサート(MTX)は、ヒトへの使用が承認されており、がんの治療に大量投与で、また、関節リウマチ(RA)の治療選択薬としてより少量の投与で用いられる。MTXは、それ自体がA2A作用薬なのではなく、A2A作用薬としての活性を有するアデノシン放出を介在する。したがって、MTXは、本明細書で言うところのA2A作用薬としての活性を持つ。実験的に利用可能な(ヒトへの使用は未承認)CGS-21680は、(他の受容体に対する活性を有してはいるが)主にA2A作用薬として働き、コレステロール代謝機能の修復に有効な物質である。
【0027】
開発されたおよび/またはヒトへの使用が承認された本発明に有用な他のA2A受容体作用薬としては、ビノデノソン(binodenoson)(CorVue(登録商標))、MRE−0094、UK−371104、ATL313、レガデノソン(regadenoson)(レキスキャン(Lexiscan)(登録商標))、アパデノソン(apadenoson)、APECおよび2HE−NECAが挙げられる。
【0028】
以下、本明細書で用いた実験方法、物質および結果を詳述する。
【0029】
THP−1ヒト単球およびマクロファージにおけるコレステロール排出に関係するいくつかのタンパク質の発現に及ぼすCOX阻害剤の効果を評価した。我々は、COX−1および/またはCOX−2の薬理学的阻害作用が、27−OHアーゼおよびABCA1の発現を低下させて、泡沫細胞形成の増大とアテローム性動脈硬化を引き起こすことを見出した。
【0030】
図1aおよび図1bに、10μMおよび50μMの投与濃度でセレコキシブを用いた場合にABCA1遺伝子発現とタンパク質発現が減少する様子を示す。この結果から、少なくとも部分的に、COX阻害に伴うアテローム生成性向を説明することができる。COX−2選択的阻害薬であるNS−398は、図2aおよび図2bに示すように、THP−1単球およびマクロファージにおける27−OHアーゼおよびABCA1のメッセージおよびタンパク質を用量依存的に著しく減少させた。NS−398は、THP−1における27−OHアーゼのmRNAを対照群の62.4±2.2%まで減少させた(50μM、n=3、p<0.001)。NS−398で処理したTHP−1マクロファージ群は、未処理細胞群と比べて、脂質含有泡沫細胞形成に対するぜい弱性が増大し、THP−1マクロファージ群では、対照群と比べて、NS−398の存在下で泡沫細胞形質転換の著しい増加がみられた(42.7±6.6%対20.1±3.4%、p=0.04)。
【0031】
我々は、また、免疫反応物質が、コレステロールを循環系を介して最終的に排出させるための細胞外への逆輸送に関係する二つのタンパク質、すなわち、コレステロール27−OHアーゼおよびABCA1、の発現を低下させることによって、コレステロール過負荷に対する細胞防御を阻害することを見出した。図6aおよび図6bに示すように、アテローム性動脈硬化促進サイトカインIFN−γが、ヒトTHP−1単球/マクロファージにおける27−OHアーゼおよびABCA1のメッセージおよびタンパク質の発現を減少させることも見出した。
【0032】
さらに、IFN−γ処理したTHP−1マクロファージ群では、未処理細胞の対照群と比べて、泡沫細胞の形成速度および割合が増大した。THP−1単球/マクロファージにおけるシクロオキシゲナーゼ(COX)阻害は、用量依存的に27−OHアーゼおよびABCA1を減少させることにより、アテローム生成を促進させる作用がある。THP−1マクロファージ群は、対照群と比較して、COX−2選択的阻害薬であるNS−398の存在下で泡沫細胞形質転換を著しく増大させた。これは、コレステロール逆輸送系(RCT:Reverse cholesterol transport)の低下または異常が、COX−2阻害剤で治療した患者における周知の心血管系のリスクの増大に寄与していることを示す。
【0033】
我々は、これらのタンパク質が、CGS−21680およびMRE−0094を含む特異的A2A作用薬を用いたアデノシンA2A受容体の活性を介して、コレステロール代謝機能の正常化に向けての上方制御が可能であることを見出した。A2A受容体のライゲーション(連結反応)は、コレステロール負荷条件下でマクロファージの泡沫細胞形質転換を阻害した。我々は、メトトレキサート(MTX:methotrexate)が、コレステロール代謝および泡沫細胞形成に対するぜい弱性を変化させて、IFN−γまたはCOX−2選択的阻害薬に暴露させたTHP−1単球/マクロファージにおけるコレステロール過負荷性向を低下させることを見出した。MTXは、アデノシンを放出させることによって、アテローム性動脈硬化症(ASCVD:atherosclerotic cardiovascular disease)を防ぐ役割を果たす。MTXは、アデノシンA2A受容体作用薬自体ではないが、A2A受容体作用活性を有するアデノシン供給源となるため、本発明の範囲内においてA2A受容体作用薬に含まれる。
【0034】
以下に詳述するように、我々は、COX−2阻害薬類がRCTプロセスの周知のコレステロール代謝機能を乱し、その結果、コレステロールの残留および脂質含有泡沫細胞の形成を引き起こすことを立証した。図1aおよび図1bに、セレコキシブには、対照群と比べて、ABCA1遺伝子およびタンパク質の発現を低下させる効果があることを示す。図2aおよび図2bに、COX−2阻害薬NS−398により、THP−1における27−OHアーゼが用量依存的で連続的に減少する様子(図2a)およびTHP−1におけるABCA1が用量依存的で連続的に減少する様子(図2b)を示す。
【0035】
さらに、我々は、アデノシンA2A受容体作用薬が、コレステロール代謝機能を修復することを証明した。図3aにA2A作用薬であるCGS−21680を用いた場合にTHP−1における27−OHアーゼレベルが改善する様子を示す。図3c、図3dおよび図5に、MTXを用いた場合に、NS−398によって減少したレベルから27−OHアーゼレベルが改善する様子を示す。図4bに、MTXを用いた場合に、MS−398によって減少したABCA1メッセージが改善する様子を示す。
【0036】
また、我々は、アデノシンA2A受容体の活性がコレステロール代謝機能の異常および修復の制御に関与していることを証明した。図3bに、A2A作用薬であるATL313に、THP−1における27−OHアーゼレベルを上昇させる効果があることを示す。ATL313がTHP−1マクロファージにおける27−OHアーゼのメッセージを増大させる役割を果たす一方、ZM−241385(ZM)は逆の働きを示す。図3bの4本の棒グラフが示すTHP−1マクロファージの処理条件は、左から右にそれぞれ以下の通りであった。1)0.5nMのDMSO(賦形剤)に18時間、2)10nMのATL313に18時間、3)10-5MのZMで1時間予備培養後、さらに10nMのATL313に18時間、4)10-5MのCGS−21680で18時間。総RNAを抽出させて、QRT−PCR(定量ポリメラーゼ連鎖反応)で27−OHアーゼのmRNAに対する評価を行なった。GAPDHメッセージ増幅を内部コントロールとして用いた。
【0037】
様々な組み合わせのCOX−2選択的阻害薬およびアデノシンA2A受容体作用薬を用いた場合の27−OHアーゼおよびABCA1のレベルを定量した(MTXはA2A受容体作用薬特性を有するアデノシンの生成を介在するため、本明細書では説明を簡単にするために、A2A作用薬の一つとみなす)。
【0038】
上述したように、試験に用いたNS−398(利用可能なCOX−2選択的阻害薬)およびセレコキシブ(米国において唯一市販されているCOX−2選択的阻害薬)は、いずれも、コレステロール代謝機能の異常を引き起こした。特異的A2A受容体作用薬であるMTX、CGS−21680、MRE−0094およびATL313は、すべて、コレステロール代謝機能を修復させた。
図3bないし図3d、図4a、図4b、図6aおよび図6bに示すように、A2A受容体部位をブロックする周知のA2A拮抗薬であるZM−241385を用いた場合に、A2A作用薬によるコレステロール代謝機能の修復が妨害されることは、A2A受容体活性が修復に関係していることの証拠となる。
【0039】
MTXは、アデノシンの放出と心血管系のリスクの両方に影響を与えることが知られているため、MTXを用いて、コレステロール代謝および泡沫細胞形成に対するぜい弱性に変化が生じたか否かを判定した。我々は、MTX処理が、IFN−γまたはCOX−2選択的阻害薬に暴露させたTHP−1単球/マクロファージにおけるコレステロール過負荷性向を低下させることを見出した。したがって、MTXは、コレステロール流出に関与する坑アテローム生成分子の発現を増大させることによって、アテローム性動脈硬化症(ASCVD)を防ぐ役割を果たす。
【0040】
MTXは、単球性細胞株に加えて、末梢血から単離した正常単球において、27−OHアーゼを増加させる。直接的な生理作用の証拠となるように、末梢血単球として、人体から直接採取した一次細胞を用いた。
【0041】
セレコキシブすなわちセレブレックス(ファイザー(Pfizer)社の登録商標)は、直接、培養THP−1単球に採用して、ABCA1を減少させる。これは、COX−2阻害薬であるNS−398を用いた結果は、ヒトに用いられる他のCOX阻害薬にも一般化できることを示している。COX−2サイレンシングの研究により、非薬理学的方法によるCOX−2遺伝子のスイッチオフも同様に作用することがわかった。
【0042】
セレコキシブは、THP−1マクロファージにおける泡沫細胞形成を増大させるため、セレコキシブは、遺伝子発現に影響を与えるのみではなく、アデノシンの放出に関与する経路を介して、コレステロールを除去し、脂質の過負荷(アテローム性動脈硬化につながるプラーク形成を開始する重要なプロセス)を防御する細胞の能力を弱める。
【0043】
MTXに加え、A2A作用薬であるCGS−21680も、マウス単球およびヒト単球における27−OHアーゼおよびABCA1のメッセージを増大させることが見出された。
【0044】
アデノシンの効果を再現するまたはブロックする数多くの様々な受容体特異性の高いアデノシン受容体作用薬および拮抗薬が開発されている。我々は、選択的A2A受容体作用薬である2−(4−(2−カルボキシエチル)フェネチルアミノ)−5’−N−エチルカルボキサミドアデノシン(CGS−21680)を10-5Mの濃度(3時間、37℃、5%CO2条件)で用いたところ、Balb/cマウスマクロファージにおける27−OHアーゼのmRNA発現が47±6.2%(各群n=3、スチューデントのt検定、p<0.002)増大した。これは、内因性物質による27−OHアーゼのmRNA発現の上方制御を最初に実証したものであると考えられる。CGS−21680に暴露させたマウス細胞における27−OHアーゼの上方制御に基づいて、ヒト単球様細胞における同様の効果を実証した。THP−1細胞において、ABCA1のmRNAは27−OHアーゼに合わせて増加した。A2A受容体拮抗薬であるZM−241385の存在下および非存在下で、THP−1細胞をCGS−21680に暴露させたところ、図4aに示すように、拮抗薬の存在下では、27−OHアーゼおよびABCA1のメッセージレベルがいずれも増加しないことがわかった。
【0045】
THP−1細胞において、CGS−21680は、用量依存的に1.8倍まで27−OHアーゼのメッセージを増大させた。より選択的なA2A受容体作用薬であるMRE−0094は、THP−1における27−OHアーゼ(2倍)およびABCA1(1.8倍)のmRNA発現を増大させた。A2A受容体拮抗薬であるZM−241385は、これら27−OHアーゼおよびABCA1のメッセージを増大させるMRE−0094の効果を抑制した。
【0046】
最近まで、静脈内投与が必要であることと、化合物の半減期が短いことが、A2A受容体作用薬の臨床的使用の大きな障害となっていた。新しく開発された持続性経口活性A2A受容体リガンドには、新しい有望な作用薬であるATL313が含まれている。ATL313は、培養下のTHP−1マクロファージにおいて強力な抗アテローム生成効果を発揮し、この結果は、CGS−21680を用いた結果と合致する。図3bに示すように、ATL313は、THP−1マクロファージにおける27−OHアーゼおよびABCA1のmRNAおよびタンパク質を増加させ、一方、ZM−241385は、これらの効果をブロックする。
【0047】
RCT修復にA2A受容体の身が特異的に関わっていることを実証するために、以下の試験を行なった。
【0048】
CGS−21680は、アデノシンA2A受容体の活性剤として用いたところ、27−OHアーゼレベルに対するNS−398の効果が抑制された。ただし、CGS−21680はA1受容体に結合する等他の作用を行なう可能性があるため、A2A受容体のライゲーションがCOX−2効果の抑制に関与していると結論付けることはできない。
【0049】
効果にA2Aが介在していることを確認する重要な局面として、A2A受容体をブロックしてオンできないようにするA2A拮抗薬であるZM−241385を加えてA2A受容体をブロックした場合に、効果の喪失が生じた。COX−2阻害薬を(アデノシンの放出を引き起こす)MTXと混ぜた場合、MTXは、ZM−241385の存在下でCOX−2阻害薬が27−OHアーゼおよびABCA1を減少させることを妨げられなかった。これにより、MTXすなわちA2A作用薬は、一般的にA2A受容体にアクセスできない状態では作用不能であることがはっきりと示された。
【0050】
ヒトに投与可能な経口投与および経口活性薬剤であるMTXおよびATL313を以下に説明するようにテストした。
【0051】
A2A受容体作用薬CGS−21680の効果を調べたが、CGS−21680は注入による投与が必須があり、現在のところ、ヒトではなく動物に実験的に用いられるものであるため、CGS−21680の使用が不都合な可能性があることに注目する必要がある。メトトレキサートおよび特異的A2A薬剤であるATL313(アデノシンセラピューティクス(Adenosine Therapeutics)社により開発)は、いずれも経口活性があり、一連のATLアデノシンA2A作用薬は、臨床試験中であるか、様々な疾患に対してヒトへの使用承認が近い状態である。ATL313を、餌に混ぜて、最初は6時間ごとに5μg/kgの量で、敗血症のマウス検体に対して投与した。餌に混ぜるATL313の投与量を、その後、30μg/kg/日とした。ヒト関節リウマチに対する典型的なMTXの投薬処方は、10mg/週のMTX投与量で開始して、第8週目までに20ないし25mg/週に用量増加させる。
【0052】
A2A作用薬としてMTXを、また、COX−2阻害薬としてNS−398を用いた試験を以下に説明するように実施したところ、泡沫細胞形成が減少した。
【0053】
脂肪過負荷マクロファージ由来の泡沫細胞は、アテローム性動脈硬化のすべての段階で基本的な役割を果たす。NS−398へのマクロファージの暴露とコレステロール過負荷を防御する細胞の能力との間に、直接的な生理学的因果関係があることが示された。一連の実験を行なった結果、アセチル化LDLの存在下でNS−398に暴露することによりTHP−1マクロファージからの泡沫細胞形成が顕著に増大すること、ならびに、この泡沫細胞形成増大効果がMTXにより軽減されることが実証された。MTXによる増大効果の軽減は、A2A受容体の活性に起因するものであるため、ZM−241385がMTXによるNS−398誘導泡沫細胞形成の低下を妨害することがわかった。コレステロール27−OHアーゼおよびABCA1に対するMTXおよびNS−398の効果は、脂肪暴露THP−1マクロファージで見られる生理学的現象と密接に関係している。
【0054】
方法:材料およびソース
このセクションでは、a)COX阻害薬によるコレステロール代謝異常、b)27−OHアーゼおよびABCA1レベルにより測定したコレステロール代謝の修復、およびc)27−OHアーゼおよびABCA1レベルにより測定したコレステロール代謝の異常および修復の両方にA2A受容体のみが関わっていることを示すために行なわれる、以下のすべての実験に用いられる生体物質(生物材料)を含む材料の概要を示す。
【0055】
細胞および試薬
THP−1単球は、アメリカ合衆国培養細胞系保存機関(American Type Culture Collection:ATCC、バージニア州マナッサス)から入手した。Oil Red O染色色素およびOptiPrep密度勾配遠心分離媒体は、シグマ(Sigma)社から購入した(ミズーリ州セントルイス)。トリゾール(TRIzol)試薬は、インビトロジェン(Invitrogen)社(ニューヨーク州グランドアイランド)から購入した。逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT−PCR)試薬は、すべてアプライド・バイオシステムズ(Applied Biosystems)社、ロシュ(Roche)社から購入した。組み換えヒトIFN−γは、R&Dシステムズ(R&D Systems)社(ミネソタ州ミネアポリス)から購入した。NS−398は、RBIシグマ(RBI−Sigma)社(マサチューセッツ州ナティック)から購入した。MTXは、ベッドフォード・ラボラトリーズ(Bedoford Laboratories)社(オハイオ州ベッドフォード)から購入した。アセチル化LDLは、イントラセル(Intracel)社(ワシントン州イサクアー)から購入した。抗コレステロール27−OHアーゼ抗体は、コレステロール27−OHアーゼタンパク質の15−28残基に対するウサギのアフィニティー精製抗ペプチドポリクロナール抗体である。
【0056】
生体物質の調整
細胞培養
THP−1単球を5%CO2雰囲気下37℃で細胞106個/mlの密度まで増殖させ。THP−1細胞の増殖培地として、10%ウシ胎児血清(FBS:Fetal Bovine Serum)(GIBCO BRL社、ニューヨーク州グランドアイランド)、50ユニット/mlのペニシリンおよび50ユニット/mlのストレプトマイシンを加えたRPMI1640(GIBCO BRL社)を用いた。マクロファージへの分化を促進するために、12ウェルプレートでTHP−1単球(細胞106個/ml)を100nMのPMA(シグマ(Sigma)社)で37℃4日間処理した。
【0057】
PBMC(末梢血単核細胞、peripheral blood mononuclear cell)単離
健康なドナーから採取した血液をEDTA処理管に入れて、プール処理し、4℃で保持する。メーカーの使用説明書に従って、OptiPrep密度勾配遠心分離媒体(シグマ(Sigma)社)を加えて、プール処理した血液の濃度を1.120g/mlに調整した。次に、10%FSBおよびOptiPrep媒体を含有する完全RPMI培地から成る1.074g/ml濃度の溶液を血液に重層した。その上に10%FSBを含有する完全RPMI培地を重層して、単球がプラスチック管にくっつかないようにした。血液を750G、4℃で30分間遠心分離した。遠心分離後、1.074g/ml濃度の溶液層とRPMI培地層の間から、間期単球を採取した。採取した細胞を2容量の完全RPMI培地で希釈して、遠心分離により採取した。得られたペレットを完全RPMI培地に再懸濁させた。血球計で単球の数を計測し、2×106個/ウェルの細胞密度で6ウェルプレートを作成した。
【0058】
方法:COX阻害剤とアデノシンA2A作用薬および拮抗薬との組み合わせ
THP−1細胞
THP−1細胞を106個/mlまで増殖させた後、培地を吸引し、カルシウムとマグネシウムを含まないダルベッコ・リン酸緩衝生理食塩水(DPBS:Dulbecco’s Phosphate Buffered Saline)で細胞を2回洗浄した。次に、以下の条件下で単球を6ウェルプレートで24ないし48時間培養した(37℃、5%CO2)。a)RPMIコントロール、b)MTX(5mM)含有RPMI、c)NS−398(50μM)含有RPMI、d)NS−398(50μM)およびMTX(含有量を0.1μM、0.5μM、5μMと増加)含有RPMI、e)IFN−γ(500U(ユニット)/ml)含有RPMI、およびf)IFN−γ(500U(ユニット)/ml)およびMTX(5μM)含有RPMI。
【0059】
THP−1マクロファージを以下の条件で処理した。a)RPMIコントロール、b)ZM−241385(10μM)含有RPMI、c)MTX(5μM)含有RPMI、d)IFN−γ(500U(ユニット)/ml)含有RPMI、e)IFN−γ(500U(ユニット)/ml)およびMTX(5μM)含有RPMI、f)ZM−241385(10μM)およびMTX(5μM)含有RPMI、g)IFN−γ(500U(ユニット)/ml)、ZM−241385(10μM)およびMTX(5μM)含有RPMI、およびh)NS−398(50μM)、ZM−241385(10μM)およびMTX(5μM)含有RPMI。
【0060】
培養期間後直ちに、細胞を採取して、室温で1500RPMで遠心分離した。培地を吸引して、細胞タンパク質およびRNAを単離した。図6aおよび図6bに得られた27−OHアーゼおよびABCA1レベルの測定値を示す。
【0061】
PBMC
5μMの濃度でMTXを添加したまたは添加しない10%FBS含有RPMI培地で18時間PBMCを培養した。細胞を採取して、RNAを単離した。
【0062】
THP−1およびPBMCの他の実験条件として、以下のパラメータおよび条件を採用した。THP−1単球を細胞106個/mlまで増殖させた後、培地を吸引し、カルシウムとマグネシウムを含まないダルベッコ・リン酸緩衝生理食塩水(DPBS)で細胞を2回洗浄した。次に、以下の条件下で単球を6ウェルプレートで培養した(37℃、5%CO2)。a)RPMIコントロール、b)10μMのNS−398(18時間)、c)50μMのNS−398(18時間)、d)10μMのセレコキシブ(18時間)、e)50μMのセレコキシブ(18時間)、f)IFN−γ(500U(ユニット)/ml)、g)50nMのsiRNA(24時間)、およびh)50nMのmock siRNA(24時間)。
【0063】
THP−1マクロファージに、50μg/mlのアセチル化LDLでコレステロールを負荷し、Oil Red O染色を行なう前に、さらに48時間培養した。培養期間後直ちに、細胞を採取して、室温で1500RPMで遠心分離した。培地を吸引して、細胞タンパク質およびRNAを単離した。
【0064】
50μMの濃度でセレコキシブを添加したまたは添加しない10%FBS含有RPMI培地で18時間PBMCを培養した。細胞を採取して、RNAを単離した。
【0065】
結果
RNA単離および定量
106個の細胞に対して1mlのトリゾール試薬を用いて、RNAを単離して、ヌクレアーゼを含まない水に溶解させた。紫外分光光度法(日立U2010分光光度計)によりクオーツキュベットを用いて、260nmおよび280nmの波長の吸収から、各条件におけるRNAの総量を測定した。
【0066】
27−OHアーゼのRT−PCR分析
リアルタイムPCRで27−OHアーゼおよびABCA1のmRNAを定量した。オリゴdTに感作されたM−MLV逆転写酵素を用いて、cDNAを5μgの総RNAから複製した。コレステロール27−OHアーゼ特異的プライマーまたはABCA1特異的プライマーならびにグリセルアルデヒド3リン酸脱水素酵素(GAPDH:glyceraldehyde-3-phosphate dehydrogenase)コントロールプライマーを用いたPCR増幅を行なうために、各RT(逆転写酵素)反応混合物から同量のcDNAを採取した。コレステロール27−OHアーゼ特異的プライマーは、ヒトコレステロール27−OHアーゼのcDNA(24)のヌクレオチド491−802を包含する311塩基対配列から成る。ABCA1プライマーは、234塩基対増幅断片から成る。サイバーグリーン(SYBR Green)PCR試薬キット(アプライド・バイオシステムズ(Applied Biosystems)社)を用いて、ストラタジーン(Stratagene)MX3005P QPCR(定量PCR)システムでリアルタイムPCR分析を行なった。
【0067】
以下の手法でPCRを行なった。各PCR反応には、2.5μlの10xグリーンフルオレッセント(緑色蛍光)バッファと、3μlの25mM MgCl2、2μlのdNTP混合物(2500μMのdCTP、2500μMのdGTP、2500μMのdATPおよび5000μMのdUTP)、0.15μlのポリメラーゼ(5U/μl、AmpliTaq Gold、アプライド・バイオシステムズ(Applied Biosystems)社)、0.25μlのウラシル−N−グリコシラーゼ(UNG)(1U/μlUNG、AmpErase、アプライド・バイオシステムズ(Applied Biosystems)社)、0.5μlのフォワード(順方向)およびリバース(逆方向)プライマー(10μM濃度)、および4μlのcDNAを用いて、水で最終的な容量を25μlに調整した。温度サイクルパラメータとして以下の条件を用いた。95℃で5分間保持することによりポリメラーゼ(AmpliTaq Gold、アプライド・バイオシステムズ(Applied Biosystems)社)を活性化させた後、95℃で30秒間、58℃で45秒間、72℃で45秒間のサイクルを45サイクル繰り返す。各反応を3回ずつ(triplicateで)行なった。
【0068】
メーカー(ストラタジーン(Stratagene))から提供されたソフトウェアを用いて、PCR生成物の量を推定した。PCRサイクルの完了後、60℃から95℃まで35℃の温度勾配で、反応物質を熱変性させた。検体間のcDNA量の差を補正するために、ターゲットPCRを内在性ハウスキーピング遺伝子であるグリセルアルデヒド3リン酸脱水素酵素(GAPDH)およびβアクチンを用いたリファレンスPCRで正規化した。有意なレベルの汚染物質の有無をチェックするために、各プライマー対にはテンプレートではないコントロールを含有させた。蛍光発光スペクトルを監視し、分析した。特定の蛍光が検出可能な閾値サイクル(CT値)を用いて、PCR生成物を測定した。CT値は、動態解析に用いられ、検体における目標複製量の初期値に比例する。融解曲線解析を行ない、PCR増幅生成物の特異性の評価を行なった。連続希釈CT値を対照群と比較後、検体の量を算出した。精製したPCR生成物を1:10に連続希釈することにより、QRT−PCR標準を調整した。
【0069】
ウエスタンブロット
RIPA(放射性免疫沈降法)溶解バッファ(98%PBS、1%Igepal CA−630、0.5%デオキシコール酸ナトリウム、0.1%ドデシル硫酸ナトリウム[SDS:sodium dodecyl sulfate])を用いて、ウエスタン免疫ブロット用に全細胞溶解物を調整した。100μlのRIPA溶解バッファと10μlのプロテアーゼ・インヒビター・カクテル(シグマ(Sigma)社)を各条件下の細胞ペレットに加えて、5分ごとにボルテックスを行ないながら、氷上で35分間培養した。エッペンドルフ(Eppendorf)5415C遠心分離機を用いて、10分間、4℃、10,000Gで遠心分離後、上澄みを採取した。日立U2010分光光度計を用いて、560nmの波長の吸収から、各上澄みに含まれるタンパク質の量を測定した。
【0070】
全細胞溶解物を用いて、ウエスタンブロットを行なった。タンパク質検体(20μg/レーン)を5分間沸騰させて、10%ポリアクリルアミドゲル上に載せて、100Vで1.5時間電気泳動を行なった後、半乾きのトランスブロット装置内のニトロセルロース膜に移して、100Vで1時間処理した。ニトロセルロース膜は、4℃で4時間ブロッキング溶液(3%脱脂粉乳の1xTween20トリス緩衝食塩水[TTBS:1xTween20-tris-buffered saline]溶解液)でブロッキングした後、4℃で一晩、一次抗体(18.7μg/ml)とブロッキング溶液の1:300希釈液に浸漬した。一次抗体として、コレステロール27−OHアーゼタンパク質の15−28残基に対するウサギのアフィニティー精製抗ペプチドポリクロナール抗体を用いた。次の日に、膜をTTBSで5分間ずつ5回洗浄したのち、ECLロバ抗ウサギIgG西洋わさびペルオキシダーゼ結合種特異全抗体(アマシャム・バイオサイエンス(Amersham Biosciences)社、製品コードNA934)の1:3000希釈液で室温で培養した。TTBSで5回洗浄を繰り返したのち、ECLウエスタンブロット検出試薬(アマシャム・バイオサイエンス(Amersham Biosciences)社、カタログ番号RPN2106)およびSRX−101A(コニカミノルタ(Konica Minolta))を用いたフィルム現像により、免疫反応性タンパク質を検出した。
【0071】
対照群として、同じ膜上で、マウス抗βアクチン(1:1000希釈液、アブカム(abCam)社、製品コードab6276)およびECLヒツジ抗マウスIgG西洋わさびペルオキシダーゼ結合種特異全抗体(1:2000希釈液、アマシャム・バイオサイエンス(Amersham Biosciences)社、製品コードNA931)を用いて、上記と同様の工程で、βアクチンを検出した。
【0072】
ABCA1検出
ABCA1の検出は、マクロファージ細胞溶解物を100Vで1.5時間電気泳動(10%ポリアクリルアミドゲル)した後、ニトロセルロース膜に移した。膜は、4℃で4時間ブロッキング溶液でブロッキングした後、ウサギ抗ABCA1抗体(サンタクルーズ・バイオテクノロジー(Samta Crus Biotechnology)社)の1:200希釈液で4℃で一晩培養した。次の日に、膜をTTBSで5分間ずつ5回洗浄したのち、ECLロバ抗ウサギIgG西洋わさびペルオキシダーゼ結合種特異全抗体の1:5000希釈液で室温で培養した。27−OHアーゼ抗体に関して上述したものと同様に検出を行った。
【0073】
泡沫細胞分析
マクロファージへの分化を促進するために、12ウェルプレートでTHP−1ヒト単球(細胞106個/ml)を100nMのPMA(シグマ(Sigma)社)で37℃4日間処理した。分化したマクロファージをリン酸緩衝生理食塩水(PBS:phosphate-buffered saline)で3回洗浄した後、以下の条件下でさらにRPMI培地(37℃、5%CO2)で48時間培養した。a)アセチル化LDL(50μg/ml)、b)アセチル化LDL(50μg/ml)およびIFN−γ(500U/ml)、c)アセチル化LDL(50μg/ml)およびIFN−γ中和抗体(1.2μg/ml)、d)アセチル化LDL(50μg/ml)、IFN−γ(500U/ml)およびIFN−γ中和抗体(1.2μg/ml)、e)アセチル化LDL(50μg/ml)およびIFN−γ受容体抗体(125ng/ml)、およびf)アセチル化LDL(50μg/ml)、IFN−γ受容体抗体(125ng/ml)およびIFN−γ(500U/ml)。
【0074】
培養後直ちに、培地を吸引して、4%パラホルムアルデヒド水溶液を用いて、2ないし4分間、培養に用いたものと同じ12ウェルプレートに細胞を固定した。0.2%Oil Red Oメタノール溶液を用いて、1ないし3分間、細胞を染色した。光学顕微鏡(Axiovert 25−Zeiss)を用いて、100倍の倍率で、細胞を観察した後、コダック(Kodak)社DC290ズームデジタルカメラで撮影した。各条件で形成された泡沫細胞の数を手作業で計算して、泡沫細胞形成率とした。
【0075】
データ解析
GraphPadバージョン4.02(グラフパッド(GraphPad)社カリフォルニア州サンディエゴ)を用いて統計分析を行った。すべてのデータを一元配置分散分析(one−way ANOVA)で分析し、ボンフェローニ法でコントロール条件と処理条件との一対多重比較を行った。
【0076】
追加実験:THP−1
THP−1ヒト単球−マクロファージ細胞株は、アメリカ合衆国培養細胞系保存機関(American Type Culture Collection:ATCC、バージニア州マナッサス)から購入した。THP−1細胞を、10%FBS、50U/mlのペニシリンおよび50U/mlのストレプトマイシンを加えたRPMI1640培地に懸濁させて、単球形態で、5%CO2雰囲気下37℃で増殖させた。
【0077】
THP−1単球を細胞1×106個/mlの密度まで増殖させた後、カルシウムとマグネシウムを含まないリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で2回洗浄した。その後、以下の条件下で新鮮培地を用いて、6ウェルプレートで培養した(18時間、37℃、5%CO2)。a)RPMIコントロール、b)NS−398(10ないし100μM:18時間)、c)CGS−21680(10-5M、18時間)およびd)NS−398(50μM18時間)+CGS−21680(10-5M、18時間)。
【0078】
リアルタイムPCRで27−OHアーゼおよびABCA1のmRNAを定量した。オリゴdTに感作されたM−MLV逆転写酵素を用いて、cDNAを5μgの総RNAから複製した。コレステロール27−OHアーゼ特異的プライマーまたはABCA1特異的プライマーならびにグリセルアルデヒド3リン酸脱水素酵素(GAPDH)コントロールプライマーを用いたPCR増幅を行なうために、各RT(逆転写酵素)反応混合物から同量のcDNAを採取した。コレステロール27−OHアーゼ特異的プライマーは、ヒトコレステロール27−OHアーゼのcDNAのヌクレオチド491−802を包含する311塩基対配列から成る。ABCA1プライマーは、234塩基対増幅断片から成る。サイバーグリーン(SYBR Green)PCR試薬キット(アプライド・バイオシステムズ(Applied Biosystems)社)を用いて、メーカーの使用説明書に従ってストラタジーン(Stratagene)MX3005P QPCR(定量PCR)システムでリアルタイムPCR分析を行なった。
【0079】
RIPA溶解バッファ(98%PBS、1%Igepal CA−630、0.5%デオキシコール酸ナトリウム、0.1%SDS)を用いて、ウエスタン免疫ブロット用に全細胞溶解物を単離した。100μlのRIPA溶解バッファと10μlのプロテアーゼ・インヒビター・カクテル(シグマ(Sigma)社)を各条件下の細胞ペレットに加えて、5分ごとにボルテックスを行ないながら、氷上で35分間培養した。エッペンドルフ(Eppendorf)5415C遠心分離機を用いて、10分間、4℃、10,000Gで遠心分離後、上澄みを採取した。日立U2010分光光度計を用いて、560nmの波長の吸収から、各上澄みに含まれるタンパク質の量を測定した。
【0080】
対照群として、同じ膜上で、マウス抗βアクチン(1:1000希釈液、アブカム(abCam)社、製品コードab6276)およびECLヒツジ抗マウスIgG西洋わさびペルオキシダーゼ結合種特異全抗体(1:2000希釈液、アマシャム・バイオサイエンス(Amersham Biosciences)社、製品コードNA931)を用いて、上記と同様の工程で、βアクチンを検出した。
【0081】
SigmaStatバージョン2.03(SPSS社、イリノイ州シカゴ)を用いて、統計分析を行った。階数別一元配置分散分析Kruskal−Wallis検定によりデータを解析した。Holm−Sidak法で一対多重比較を行った。
【0082】
追加実験:泡沫細胞形成
マクロファージへの分化を促進するために、12ウェルプレートでTHP−1ヒト単球(細胞1×106個/ml)を300nMのホルボール二酪酸(シグマ(Sigma)社)で37℃48時間処理した。分化したマクロファージをPBSで3回洗浄し、その後、単独で、または、10μMのNS−398の存在下で培養した(37℃、5%CO2、18時間)。アセチル化LDL(50μg/ml)を用いて細胞にコレステロールを負荷した後、さらに、RPMI培地で48時間培養した(37℃、5%CO2)。実験は3回ずつ(triplicateで)行った。
【0083】
培養後直ちに、培地を吸引して、4%パラホルムアルデヒド水溶液を用いて、2ないし4分間、培養に用いたものと同じ12ウェルプレートに細胞を固定した。0.2%Oil Red Oメタノール溶液を用いて、1ないし3分間、細胞を染色した。光学顕微鏡(Axiovert 25−Zeiss)を用いて、100倍の倍率で、細胞を観察した後、コダック(Kodak)社DC290ズームデジタルカメラで撮影した。各条件で形成された泡沫細胞の数を手作業で計算して、泡沫細胞形成率とした。
【0084】
COX−2選択的阻害薬NS−398(50μM)を用いて、または、用いることなく、特異的A2A受容体作用薬CGS−21680(10μM)の存在下で、または、非存在下で、THP−1単球細胞(106個/ml)を培養した(18時間、37℃、5%CO2)。トリゾール試薬を用いて、培養皿から直接RNAを採取し、オリゴdTプライマーを用いた逆転写の条件ごとに5μgの総RNAを用いて、27−OHアーゼおよびABCA1に関してRNAの定量的リアルタイムPCRを行った。
【0085】
培養したTHP−1ヒト単球において、NS−398は、コレステロール代謝27−OHアーゼ酵素のmRNA発現を容量依存的に、顕著に低下させた。NS−398に暴露させることにより、コレステロール流出タンパク質ABCA1のメッセージレベルも低下した。これらの結果を免疫ブロット法で確認した。抗炎症性アデノシンA2A受容体作用薬を加えることにより、27−OHアーゼとABCA1の低下が抑制された。NS−398処理THP−1細胞にCGS−21680を加えることにより、27−OHアーゼ発現が184%増大し、ABCA1発現が141%増大した(27−OHアーゼに関して、NS−398単独群で58.9±2.3%に対してCGS−21680+NS−398群で167.2±8.57%、n=3、p<0.001、ABCA1に関して、NS−398単独群で60.49±4.42%に対してCGS−21680+NS−398群で146.0±3.15%、n=3、p<0.001、100%=未処理THP−1細胞における基準発現量)。
【0086】
結果に関する議論
COX−2阻害薬を用いた場合に心血管系リスクが増大する原因は、少なくとも部分的に、コレステロール流出の乱れに帰することができ、特定のアデノシン受容体の活性によりこの乱れを抑制することができる。これらの知見に基づき、関節炎やその他の炎症性疾患に対して持続的な鎮痛を必要とする患者にCOX−2阻害薬を用いた治療を行うことによる心血管系のリスクを減少させるA2A受容体を標的とした新しい治療法を提供する。
【0087】
これは、広く用いられている薬物療法が、抗アテローム生成27−OHアーゼまたはABCA1の発現を増大させ、COX−2阻害またはIFN−γ暴露が遺伝子発現に及ぼす効果を軽減することができるという証拠を初めて示すものである。MTXが脂肪過負荷条件下で泡沫細胞形成を阻害することが実証された。関節リウマチの患者におけるアテローム性動脈硬化症(ASCVD)のリスクを軽減させるMTXの能力は、アデノシンA2A受容体の活性を媒介としたコレステロール・ホメオスタシスの望ましい変化に部分的に帰することができる。したがって、アデノシン受容体のライゲーションは、ASCVD患者に長期的な効果をもたらす有望な治療パラダイムに適した機序を与えるものである。
【0088】
市販のCOX−2阻害薬によるコレステロール代謝異常に及ぼすA2A作用薬の効果を実証するために、COX−2阻害薬であるセレコキシブを用いた実験を行った。
【0089】
セレコキシブの例および試験
セレコキシブ(celecoxib)は、米国において、関節炎痛および炎症の治療に利用可能なCOX−2阻害薬として唯一残された薬剤である。バルデコキシブ(valdecoxib)およびロフェコキシブ(rofecoxib)、心血管系のリスクが増大するという証拠に基づき、市場から撤退した。
【0090】
COX−2阻害がアテローム生成を増大させる正確な作用機序は解明されておらず、そのリスクがクラス効果である可能性に対する不安が残っている。我々は、NS−398を用いた場合COX−2の選択的阻害が、コレステロール蓄積細胞の除去に関わる重要な調整因子であるコレステロール逆輸送系(RCT)タンパク質ABCA1を下方制御することを見出した。他のCOX−2阻害薬を用いた場合と同様に、セレコキシブは、THP−1マクロファージにおけるRCTを低下させることによりアテローム生成を促進させる性質を示し、泡沫細胞形成に対するぜい弱性を増大させた。セレコキシブおよびNS−398は、いずれもCOX−2阻害を介してRCTを抑制するため、COX−2遺伝子サイレンシングがRCTに悪影響を及ぼすと思われる。
【0091】
方法
THP−1単球(RPMI1640、37℃、5%CO2)を細胞106個/mlの密度まで増殖させた。増殖したTHP−1細胞を以下に説明する実験条件に暴露した、あるいは、付着マクロファージに分化させた(ホルボール二酪酸、300nM、48時間)
【0092】
培地を吸引し、Ca2+とMg2+を含まないダルベッコ・リン酸緩衝生理食塩水(PBS)で細胞を3回洗浄した。次に、以下の条件下で細胞を6ウェルプレートで時間培養した。実験は3回ずつ(triplicateで)行った。(1)培地のみ、(2)10μMのNS−398(18時間)、(3)50μMのNS−398(18時間)、(4)10μMのセレコキシブ(18時間)、(5)50μMのセレコキシブ(18時間)、(6)500U/mlのIFN−γ(12時間)、(7)50nMのsiRNA(24時間)、(8)50nMのmock siRNA(24時間)。 THP−1マクロファージに、50μg/mlのアセチル化LDLでコレステロールを負荷し、Oil Red O染色を行なう前に、さらに48時間培養した。
【0093】
細胞を採取して、室温1500RPMで遠心分離をし、培地を吸引し、細胞のタンパク質およびRNAを単離した(トリゾール試薬)。紫外(UV)分光光度法(Beckman Coulter DU800)によりクオーツキュベットを用いて、260nmの波長の吸収から、各条件におけるRNAの総量を測定した。
【0094】
エッペンドルフ(Eppendorf)マスターサイクラ―・パーソナルで逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT−PCR)を行った。各アッセイにおいて、10U(ユニット)のRNアーゼ阻害薬および1μMのオリゴdTプライマーの存在下で、Omniscript逆転写酵素を用いて、1μgのmRNAを逆転写した。ABCA1特異的プライマーおよびグリセルアルデヒド3リン酸脱水素酵素(GAPDH:glyceraldehyde-3-phosphate dehydrogenase)コントロールプライマーを用いたPCR増幅を行なうために、各RT(逆転写酵素)反応混合物から同量のcDNAを採取した。ABCA1プライマーは、234塩基対(bp)から成り、GAPDHプライマーは357塩基対(bp)増幅断片から成る。PCR生成物を2%アガロースゲル上に直接載せて、5V/cmで1.5時間電気泳動を行った。DNAをエチジウムブロマイド染色した後、コダック(Kodak)トランスイルミネーターを用いて紫外線の下で可視化させて、撮影した。ゲル画像を写真で記録し、コダック・デジタルサイエンス電気泳動ドキュメンテーション解析システム120(Kodak Digital Science Electrophoresis Documentation and Analysis System120)で撮像後、コダック(Kodak)デジタルサイエンス1Dバージョン2.0.3で強度を測定した。実験結果は、すべて、GAPDHの平均密度で正規化した。
【0095】
細胞トランスフェクションおよびCOXサイレンシング
細胞をPBSで3回洗浄した。新鮮培地RPMI1640(100ml)を適当な各8チャンバプレートに加えた。トランスフェクションの前に、細胞を短時間培養した。24ウェルプレートの各チャンバウェルに対して、以下の操作を行った。375ngのsiRNA(PTGS2_5HP有効siRNA、キアゲン(Qiagen)社)を100mlの無血清培養培地で希釈した(最終的な濃度:50nM)。6mlのHiPerFectトランスフェクション試薬を、希釈したsiRNAに加えたのち、ボルテックスミキサーで混合した。検体を室温で5ないし10分間培養して、トランスフェクション複合体を形成させた。形成された複合体を細胞に滴下した後、回転させて、一様に分布させた。次に、通常の増殖条件下で細胞を6時間培養した。400mlの血清含有培養培地および抗生物質を加えた後、さらに、細胞を24ないし72時間培養した。
【0096】
培養後、培地を吸引して、4%パラホルムアルデヒド水溶液を用いて、2ないし4分間、細胞を固定した。0.4%トリパンブルーで、1ないし3分間、細胞を染色し、PBSで洗浄した後、0.2%Oil Red Oメタノール溶液を用いて、1ないし3分間、細胞を染色した。光学顕微鏡(ニコンエクリプス(Nikon Eclipse)TE300)を用いて40倍の倍率で細胞の観察を行い、ソニー(SONY)プログレッシブ3CCDカラービデオカメラを用いて細胞の撮影を行った。各条件で形成された泡沫細胞の数を手作業で計算して、泡沫細胞形成率とした。
【0097】
ウエスタンブロット
全細胞溶解タンパク質検体(10μg/レーン)を5分間沸騰させて、7.5%ポリアクリルアミドゲル上に載せて、100Vで1.5時間電気泳動を行なった後、半乾きのトランスブロット装置内のニトロセルロース膜に移して、100Vで1時間処理した。ABCA1検出のために、一次抗体として、ウサギ抗ヒトABCA1抗体(1:2000希釈液、サンタクルーズ・バイオテクノロジー(Samta Crus Biotechnology)社)を用いた。また、二次抗体として、ECLロバ抗ウサギIgG西洋わさびペルオキシダーゼ結合種特異全抗体(1:4000希釈液)を用いた。
【0098】
Graphpad Prismバージョン5.01およびSigmaStatバージョン2.03を用いて、統計分析を行った。両側95%の信頼区間およびp<0.05の有意性で不対t検定により、コントロール条件と処理条件との一対多重比較を行った。階数別一元配置分散分析Kruskal−Wallis検定により泡沫細胞形成を解析した。Holm−Sidak法で一対多重比較を行った。
【0099】
結果
セレコキシブは、ABCA1メッセージを有意に減少させた。対照群に対して50μM群では、65.1±1.5%の減少、p=0.003。セレコキシブは、ABCA1タンパク質発現を容量依存的に減少させた(p=0.0002)。COX−2siRNAを用いたトランスフェクションにより、ABCA1メッセージが有意に減少した。mock群に対して22.9±4.9%の減少、p=0.03。
【0100】
図1aおよび図1bに示すように、セレコキシブは、ABCA1タンパク質発現を減少させた。対照群に対して50μM群では、25.6±1.3%の減少、p<0.0001。50μMセレコキシブ群では、脂質含有泡沫細胞の形成が増大した。対照群における泡沫細胞の形成率が39.1±5.4%であったの対して、50μMセレコキシブ群では、95.0±0.7%であった(p=0.003)。
【0101】
COX−2遺伝子サイレンサーでトランスフェクションを行ったTHP−1マクロファージは、mockでトランスフェクションを行った細胞と比べて、脂質含有泡沫細胞の形成性向が高かった。58.3±1.6%の増大、p=0.003。
【0102】
アセチル化LDLのみでコレステロール負荷を行った場合の顕微鏡写真を撮り、次に、50μMのセレブレックス処理細胞の後にアセチル化LDLでコレステロール負荷を行った場合の顕微鏡写真を撮った。さらに、mockトランスフェクションCOX−2siRNA処理細胞の後にアセチル化LDLでコレステロール負荷を行った場合の顕微鏡写真を撮った。
【0103】
MTXおよびCGS−21680の試験結果
MTX(5μM、18時間)は、27−OHアーゼのmRNA発現を増大させ(113.9±6.4%)、NS−398に誘導される27−OHアーゼメッセージの下方制御を完全にブロックした(未処理群を100%とした場合、NS−398単独群で71.1±4.3%、NS−398+MTX群で112.8±13.1%、n=3、p<0.01)。NS−398による27−OHアーゼ発現の低下を抑制するMTXの能力は、タンパク質およびメッセージレベルの両方に関して、MTX投与量が0.1μM群、0.5μM群および5μM群で観察された(図5参照)。
【0104】
MTXは、また、COX−2阻害薬により介在されるTHP−1単球におけるABCA1メッセージの下方制御のブロックに有効であった。ZM−241385によるアデノシンA2A受容体遮断は、27−OHアーゼ(図3cおよび図4b参照)とABCA1の両方に及ぼすCOX−2阻害薬の効果を抑制するMTXの能力を無効化した。同様に、上述したTHP−1単球におけるIFN−γによる27−OHアーゼとABCA1の下方制御も、MTXにより妨害され、MTXのこの効果はZM−241385により無効化された(図6aおよび図6b参照)。
【0105】
アデノシンA2A受容体作用薬CGS−21680をNS−398に暴露されたTHP−1単球に加えることにより、27−OHアーゼ発現の低下が抑制された。これを免疫ブロットおよびQRT−PCRで実証した。NS−398で処理したTHP−1細胞にCGS−21680を加えることにより、27−OHアーゼのmRNAに184%の増加が見られた(NS−398単独群が58.9±2.3%であったのに対して、CGS+NS−398群では167.2±8.5%、n=3、p<0.001)。
【0106】
泡沫細胞レベルに対するMTXの作用
アセチルLDL処理THP−1マクロファージにおいて、対照群と比べて、MTXの存在下では、泡沫細胞の形質転換が有意に低下した(対照群の39.3±5.0%に対してMTX群29.7±2.0%、p<0.001)。NS−398処理群における泡沫細胞が72.7±4.9%であったのに対して、NS−398+MTX併用群では、泡沫細胞が36.3±3.2%に過ぎなかった(n=3、p<0.001)。アセチル化LDLによるコレステロール負荷前にIFN−γ処理をした群では、泡沫細胞が71.0±5.0%であったのに対して、IFN−γ+MTX群では、泡沫細胞が46.0±7.2%に過ぎなかった(n=3、p<0.001)。MTX処理前に選択的A2A受容体拮抗薬(ZM−241385)を加えて前培養を行なったTHP−1マクロファージでは、MTXのアテローム生成効果が抑制され、その結果、泡沫細胞の有意な増加がみられた(62.1±1.5%)。
【0107】
COX−2阻害薬に仲介される27−OHアーゼのmRNAの減少は、MTXにより抑制される。4本の棒グラフが示すTHP−1ヒト単球の処理条件は、(図3dの左から右に)それぞれ以下の通りであった。(1)対照群としてRPMI1640培地、(2)MTX(5μM、18時間)、(3)NS−398(50μM、18時間)および(4)MTX(5μM、18時間)+NS−398(50μM、18時間)。細胞から総RNAを抽出し、QRT−PCRで27−OHアーゼのmRNA発現の評価を行った。GAPDHメッセージ増幅から得られた信号を内部コントロールとして用いた。対照群対NS−398群は*p<0.05であり、NS−398+MTX群対NS−398群は#p<0.01であった(ここで、*pおよび#pの表記は、いずれのp値がいずれの棒グラフに適合するかを示すために棒グラフで用いられるp値を示す)。
【0108】
NS−398処理THP−1細胞へのMTXの投与量を変えてコレステロール27−OHアーゼの検出および定量を行ったところ、COX−2阻害薬NS−398で処理したTHP−1単球において、27−OHアーゼタンパク質の減少が見られたが、これはMTX濃度の増大により抑制された。培養したTHP−1単球細胞を未処理のまま、または、NS−398(50μM、18時間)に暴露後、未処理にした、または種々の投与量のMTXに24時間暴露させた。総細胞タンパク質を単離した後、特異的ウサギポリクロナール抗ヒト27−OHアーゼ抗体を用いて、27−OHアーゼを検出した。抗βアクチン抗体を用いたウエスタンブロットを行って、タンパク質負荷が等しいことを確認した。
【0109】
COX−2阻害薬が仲介するTHP−1単球における27−OHアーゼのmRNA発現の低下は、MTXにより抑制される。培養したTHP−1単球細胞をNS−398(50μM、48時間)で培養後、未処理にした、または種々の投与量のMTXに24時間暴露させた。総RNAの単離後、上述したように、RNAを逆転写して、cDNAをQRT−PCRで増幅させた。GAPDHメッセージ増幅から得られた信号を内部コントロールとして用いた。MTX群対対照群(C)は*p<0.05、**p<0.01であり、NS+MTX群対NS−398(NS)群は#p<0.01であった。
【0110】
A2A受容体拮抗薬であるZM−241385の存在下または非存在下でMTXに暴露したNS−398処理THP−1細胞におけるコレステロール27−OHアーゼおよびABCA1のmRNAの検出および定量の結果から、NS−398によるTHP−1細胞における27−OHアーゼメッセージの低下がMTXにより抑制され、この抑制効果が、ZM−241385によりブロックされることを立証した。4本の棒グラフが示すTHP−1単球の処理条件は、(図3cの左から右に)それぞれ以下の通りであった。(1)対照群としてRPMI1640培地、(2)NS−398(50μM、24時間)、(3)NS−398(50μM、24時間)後にMTX(5μM、24時間)、(4)NS−398(50μM)およびZM−241385(10μM)で24時間処理後にMTX(5μM、24時間)。細胞から総RNAを抽出し、QRT−PCRで27−OHアーゼのmRNA発現の評価を行った。GAPDHメッセージ増幅から得られた信号を内部コントロールとして用いた。
【0111】
NS−398によるTHP−1細胞におけるABCA1メッセージの低下がMTXにより抑制され、この抑制効果が、ZM−241385によりブロックされることをさらに立証した。4本の棒グラフが示すTHP−1単球の処理条件は、(図5の左から右に)それぞれ以下の通りであった。(1)対照群としてRPMI1640培地、(2)NS−398(50μM、24時間)、(3)NS−398(50μM、24時間)後にMTX(5μM、24時間)および(4)NS−398(50μM)およびZM−241385(10μM)で24時間処理後にMTX(5μM、24時間)。細胞から総RNAを抽出し、QRT−PCRで27−OHアーゼのmRNA発現の評価を行った。GAPDHメッセージ増幅から得られた信号を内部コントロールとして用いた。MTX群対対照群(C)は*p<0.05、**p<0.01であり、NS−398+MTX群対NS−398群は#p<0.01であった。
【0112】
A2A受容体拮抗薬であるZM−241385の存在下または非存在下でMTXに暴露したIFN−γ刺激THP−1細胞におけるコレステロール27−OHアーゼのmRNAおよびタンパク質ならびにABCA1のmRNAの検出および定量の結果から、IFN−γによるTHP−1細胞における27−OHアーゼメッセージの低下がMTXにより抑制され、この抑制効果が、ZM−241385によりブロックされることを立証した。8本の棒グラフが示すTHP−1単球の処理条件は、(図6aおよび図6bの左から右に)それぞれ以下の通りであった。(1)対照群としてRPMI1640培地、(2)ZM−241385(10μM、24時間)、(3)MTX(5μM、24時間)、(4)IFN−γ(500U/ml、24時間)、(5)IFN−γ(500U/ml、24時間)後にMTX(5μM、24時間)、(6)ZM−241385(10μM、24時間)後にMTX(5μM、24時間)、(7)ZM−241385(10μM)およびIFN−γ(500U/ml)で24時間処理後にMTX(5μM、24時間)および(8)ZM−241385(10μM)およびNS−398(50μM)で24時間処理後にMTX(5μM、24時間)。細胞から総RNAを抽出し、QRT−PCRで27−OHアーゼのmRNA発現の評価を行った。GAPDHメッセージ増幅から得られた信号を内部コントロールとして用いた。
【0113】
IFN−γによるTHP−1細胞における27−OHアーゼタンパク質の低下がMTXにより抑制され、この抑制効果が、ZM−241385によりブロックされることをさらに立証した。図6aの左から右に8本の免疫ブロットで示したものと同様に、THP−1単球を上述した条件(1)ないし(8)と同じ条件で処理した。総細胞タンパク質を単離した後、特異的ウサギポリクロナール抗ヒト27−OHアーゼ抗体を用いて、27−OHアーゼを検出した。抗βアクチン抗体を用いたウエスタンブロットを行って、タンパク質負荷が等しいことを確認した。
【0114】
IFN−γによるTHP−1細胞におけるABCA1メッセージの低下がMTXにより抑制され、この抑制効果が、ZM−241385によりブロックされることをさらに立証した。図6aの左から右に8本の棒グラフで示したものと同様に、THP−1単球を上述した条件(1)ないし(8)と同じ条件で処理した。細胞から総RNAを抽出し、QRT−PCRで27−OHアーゼのmRNA発現の評価を行った。GAPDHメッセージ増幅から得られた信号を内部コントロールとして用いた。
【0115】
CGS−21680
THP−1単球における27−OHアーゼ発現のNS−398による抑制に及ぼすA2A作用薬CGS−21680の効果を調べたところ、COX−2阻害薬NS−398(50μM)により27−OHアーゼのメッセージレベルの低下が見られたが、この低下はアデノシンA2A作用薬であるCGS−21680(10μM)を加えることにより抑制された。4本の棒グラフ(図3a)が示すTHP−1単球の処理条件は、左から右にそれぞれ以下の通りであった。(1)対照群としてRPMI1640培地、(2)CGS−21680(10μM、18時間)、(3)NS−398(50μM、18時間)および(4)NS−398(50μM、18時間)およびCGS−21680(10μM、18時間)。細胞から総RNAを抽出し、QRT−PCRで27−OHアーゼのmRNA発現の評価を行った。GAPDHメッセージ増幅から得られた信号を内部コントロールとして用いた。対照群対NS−398群は*p<0.01であり、NS−398+CGS−21680群対NS−398群は#p<0.01であった。
【0116】
さらに、THP−1単球を以下の条件(1)対照群としてRPMI1640培地、(2)CGS−21680(10μM、18時間)、(3)NS−398(50μM、18時間)および(4)NS−398(50μM、18時間)およびCGS−21680(10μM、18時間)で処理した後、免疫ブロットを行なって、27−OHアーゼタンパク質の発現を評価した。この結果から、かなり有益な結果が得られた。対照群対NS−398群は*p<0.01であり、NS−398+CGS−21680群対NS−398群は#p<0.01であった。この低下は、アデノシンA2A作用薬であるCGS−21680を加えることにより抑制される。したがって、27−OHアーゼのタンパク質レベルがCOX−2阻害薬であるNS−398により低下し、この低下は、アデノシンA2A作用薬であるCGS−21680を加えることにより抑制されることが実証された。
【0117】
脂肪負荷THP−1マクロファージにおけるNS−398およびIFN−γに誘導される泡沫細胞形質転換に対するMTXの作用
Oil Red Oで染色した脂質含有マクロファージの代表的な顕微鏡写真を40倍の倍率で撮り、以下の知見が得られた。(a)アセチル化LDL処理THP−1マクロファージでは、対照群と比較して、MTXの存在下で、泡沫細胞形質転換の有意な減少がみられた。(b)MTXは、THP−1マクロファージにおけるNS−398に誘導される泡沫細胞形成の増大を抑制した。(c)MTXは、THP−1マクロファージにおけるIFN−γに誘導される泡沫細胞形成の増大を抑制した。(d)泡沫細胞形成を低下させるMTXの効果は、A2A受容体拮抗薬であるZM−241385を用いることにより抑制される。
【0118】
NS−398は、THP−1細胞におけるコレステロール27−OHアーゼのメッセージを容量依存的に著しく低下させた。この結果を、ウエスタン免疫ブロット法により確認した。27−OHアーゼのタンパク質発現は、COX−2阻害剤であるNS−398の存在下で減少した。
【0119】
ABCA1メッセージは、NS−398暴露により、対照群の約70%まで低下した(50μM、対照群の71.1±3.9%、n=3、p<0.01)。この結果をウエスタン免疫ブロット法により確認した。
【0120】
アデノシンA2A受容体作用薬であるCGS−21680を加えることにより、27−OHアーゼおよびABCA1の発現の両方が抑制された(図3a参照)。NS−398処理THP−1細胞にCGS−21680を加えることにより、27−OHアーゼのmRNAが184%増加し、ABCA1のmRNAが141%増加した(27−OHアーゼに関して、NS−398単独群で58.9±2.3%に対してCGS−21680+NS−398群で167.2±8.57%、n=3、p<0.001、ABCA1に関して、NS−398単独群で60.49±4.42%に対してCGS−21680+NS−398群で146.0±3.15%、n=3、p<0.001、100%=未処理THP−1細胞における基準発現量)。
【0121】
COX−2選択的阻害薬であるNS−398で処理したTHP−1マクロファージは、アセチル化したLDLを用いたコレステロール負荷条件下で、未処理の細胞と比べて、脂質含有泡沫細胞形成に対するぜい弱性が高かった。THP−1マクロファージでは、対照群と比べて、NS−398の存在下で、泡沫細胞形質転換の有意な増大がみられた(20.1±3.4%に対して42.7±6.6%、p=0.04)。
【0122】
COX−2選択的阻害薬NS−398(50μM)を用いて、または、用いることなく、特異的A2A受容体作用薬CGS−21680(10μM)の存在下で、または、非存在下で、THP−1単球細胞(106個/ml)を培養した(18時間、37℃、5%CO2)。トリゾール試薬を用いて、培養皿から直接RNAを採取し、オリゴdTプライマーを用いた逆転写の条件ごとに5μgの総RNAを用いて、27−OHアーゼおよびABCA1に関してRNAの定量的リアルタイムPCRを行った。
【0123】
要するに、培養したTHP−1ヒト単球において、NS−398は、コレステロール代謝27−OHアーゼ酵素のmRNA発現を容量依存的に、顕著に低下させた。NS−398に暴露させることにより、コレステロール流出タンパク質ABCA1のメッセージレベルも低下した。これらの結果を免疫ブロット法で確認した。抗炎症性アデノシンA2A受容体作用薬を加えることにより、27−OHアーゼとABCA1の低下が抑制された。NS−398処理THP−1細胞にCGS−21680を加えることにより、27−OHアーゼ発現が184%増大し、ABCA1発現が141%増大した(27−OHアーゼに関して、NS−398単独群で58.9±2.3%に対してCGS−21680+NS−398群で167.2±8.57%、n=3、p<0.001、ABCA1に関して、NS−398単独群で60.49±4.42%に対してCGS−21680+NS−398群で146.0±3.15%、n=3、p<0.001、100%=未処理THP−1細胞における基準発現量)。
【0124】
上述の実施例は、本発明を例示するものであって、コレステロール代謝機能を乱す様々なCOX−2阻害薬またはその他NSAIDSや、その機能を修復するA2A作用薬も、本発明の要旨の範囲に含まれる。本発明を利用した治療は、以下に限定されるものではないが、たとえば、中枢投与、全身投与、末梢投与、静脈内投与、皮下投与、経口投与、鼻腔内投与および/または経皮投与等、様々な投与ルートのいずれを用いて実行されるものでもよい。当該技術分野における通常の技術を有する者であれば、有効な投与ルートを容易に決定および実行可能であると考えられる。絶対的な値か相対的な値かに関わらず、投与量や投与回数等は、以下の特許請求の範囲に従って、条件やリスクに対する患者の感受性等に応じて変更できる。当該技術分野における通常の技術を有する者であれば、適当な投薬料や治療計画を容易に理解し、実現することが可能であると考えられる。また、A2A作用薬は、同時にまたは連続的に、COX−2阻害薬と一緒にまたは別に投与可能である。
【0125】
以上、特定の実施態様に関して本発明を詳述したが、当業者には明らかなように、様々な変形、変更、使用が可能であり、本発明は何ら上述の特定の実施態様に限定されるものではない。
【技術分野】
【0001】
[クロスリファレンス]
本出願は、2008年5月5日に出願された仮出願番号第61/050,499号および2008年11月17日に出願された仮出願番号第61/115,289号に基づく優先権を主張する本出願である。前記出願の開示内容は、参照することによりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、COX−2選択的阻害薬を含むシクロオキシゲナーゼ(COX:Cyclooxygenase)阻害薬の悪影響から、ヒトを含む哺乳類の心血管系を守る方法に関する。
【背景技術】
【0003】
COX−2阻害薬を含むCOX阻害薬NSAIDs(非ステロイド系抗炎症薬:non-steroidal anti-inflammatory drugs)と心筋梗塞や脳卒中のリスク増大の関連性は、大きな公衆衛生上の懸念となっている。心血管系有害事象のために、COX−2選択的阻害薬であるロフェコキシブ(rofecoxib)(バイオックス(Vioxx)(登録商標)、メルク(Merck)社)の世界規模での使用中止により、疼痛や炎症に苦しむ患者を治療する医師にとって、複雑な臨床的判断を迫られるようになっている。COX−2阻害薬(俗称として「コキシブ(coxib)」とも称される)や他のCOX阻害薬NSAIDsの便益が心血管系のリスクに勝るか否かに関する議論が続いている。
【0004】
COX−2選択的阻害薬は、非常に効果の高い抗炎症性鎮痛薬であり、プロスタノイドの形成を妨害することによりその作用を発揮する。COX−2選択的阻害薬は、変形性関節炎や関節リウマチの症状を緩和し、月経困難症を治療する目的で、臨床上用いられている。
【0005】
プラシーボ対照群と比較して、ロフェコキシブ治療群で、心血管系有害事象、特に致命的な心筋梗塞(心臓発作)の発生率が有意に増大するという臨床試験の結果を受けて、2004年9月に、ロフェコキシブは市場から撤退した。続いて、心臓発作と脳卒中のリスクが有意に増大するという臨床試験の結果を受けて、バルデコキシブ(valdecoxib)(ベクストラ(Bextra)(登録商標)、ファイザー(Pfizer)社)も市場から撤退した。COX−2阻害薬群が有意に心臓発作や脳卒中の発生率を増大させることが一般に知られるようになった。
【0006】
COX−2選択的阻害薬により患者の心臓病や脳血管障害(脳卒中)の罹患率が増大する正確な作用機序はわかっていない。COX−2により生成されるプロスタサイクリンが心臓保護効果を発揮するため、実際のリスクの増大は、その発現の減少に関係しているとも考えられる。実際、COX−2阻害と心血管系リスクの増大との関連性を説明する仮説の一つは、プロスタサイクリンレベルの減少により、動脈に血栓が生じやすくなるというものである。ただし、心血管系リスクの出現前に「潜伏期」が存在する。たとえば、メルク(Merck)社が資金援助をしたAPPROVe試験において、ロフェコキシブ治療群における心臓発作や脳卒中の出現率が顕著に増大するまで18カ月の潜伏期があった。このため、上記仮説は十分に関連性を説明するものとはいえない。
【発明の概要】
【0007】
我々は、COX−2阻害薬を含むCOX阻害薬NSAIDsの使用が、正常なコレステロール代謝機能を乱し、動脈壁からのコレステロールの効果的な除去を妨害する効果があることを見出した。残留コレステロールの増大は、動脈壁に付着する有害な脂質含有泡沫細胞の生成の増大を伴い、アテローム性動脈硬化や心臓発作を含む心血管障害や脳血管障害(脳卒中)につながる。アテローム性動脈硬化は経時的に悪化するため、心血管系リスクの出現前に「潜伏期」が存在することが説明できる。
【0008】
コレステロール代謝機能には、マクロファージ・シトクロムp450・コレステロール27−ヒドロキシラーゼ(水酸化酵素)(以下、「27−OHアーゼ」)およびコレステロールの排出を促進することによりコレステロールの蓄積を妨げる他のコレステロール逆輸送系(RCT)タンパク質が関わっている。さらに、抗動脈硬化内在性膜タンパク質であるABC輸送体(ATP結合カセットトランスポーター)A1(以下、「ABCA1」)も、RCTプロセスに関わる因子である。
【0009】
我々は、COX阻害薬NSAIDsおよびCOX−2選択的阻害薬がRCTタンパク質27−OHアーゼおよびABCA1の発現を抑制することにより、コレステロール代謝を乱し、コレステロールの排出を低下させて、コレステロールを残留させ、脂質含有泡沫細胞を生成させることを見出した。脂質含有泡沫細胞は、動脈壁に付着してプラークを形成して、アテローム性動脈硬化という心血管系に有害な状況を引き起こし、心臓発作や脳卒中という心血管系有害事象のリスク増大につながる。したがって、我々は、COX阻害およびCOX−2阻害がアテローム発生効果をもたらし、この薬剤群を長期間使用することにより、アテローム性動脈硬化症(ASCVD)が進行するリスクを高める役割を果たすという結論に達した。
【0010】
本発明は、COX−2選択的阻害薬または他のCOX阻害薬NSAIDsの使用によると考えられる心血管障害および脳血管障害やアテローム性動脈硬化に関係するものを含むヒト等の哺乳類における有害事象のリスク増大を抑制する方法に関する。本発明は、また、このような方法に有用な医薬組成物に関する。本明細書において用いられる用語「心血管系事象」は、ASCVDおよび/またはコレステロール代謝の異常に起因する心筋梗塞や脳卒中等の有害事象を意味する。
【0011】
本発明の方法は、COX阻害薬またはCOX−2選択的阻害薬の使用により生じるコレステロール代謝機能の異常を修復する工程と、COX阻害薬またはCOX−2選択的阻害薬の使用により引き起こされる脂質含有泡沫細胞の生成を抑制する工程と、を備える。医薬的に許容可能なアデノシンA2A受容体作用薬を投与することによって、コレステロール代謝機能の異常を修復し、脂質含有泡沫細胞の生成を抑制する。COX阻害薬またはCOX−2選択的阻害薬を投与された患者に対するアデノシンA2A受容体作用薬の活性または受容体親和性の閾値レベルは、初期濃度0.1μMであり、最適濃度1μMである。アデノシンA2A受容体作用薬は、A2A受容体を飽和させるのに十分な量、また、コレステロール代謝機能の修復を維持するのに十分な時間間隔で投与される。本明細書において用いられる用語「アデノシンA2A受容体作用薬の投与」には、アデノシンA2A受容体作用薬の効果的なin situ(その場)生成を可能にする物質の投与も含まれる。
【0012】
本発明の方法は、正常なコレステロール代謝機能を乱し、脂質含有泡沫細胞の生成につながるCOX阻害薬またはCOX−2選択的阻害薬を使用することに起因するヒトのアテローム性動脈硬化型心血管障害や脳血管障害のリスクの増大を抑制する。本発明の方法は、COX阻害薬またはCOX−2選択的阻害薬により生じるコレステロール代謝機能の異常を修復する工程と、COX阻害薬またはCOX−2選択的阻害薬の使用により引き起こされる脂質含有泡沫細胞の生成を抑制する工程と、を備える。
【0013】
本発明の方法は、さらに、ヒトを含む哺乳類にアデノシンA2A受容体作用薬を投与することにより、哺乳類におけるアテローム発生を改善する。この場合、アデノシンA2A受容体作用薬は、必要に応じて、ヒトのA2A受容体を飽和するのに実質的に十分な量を投与する。これにより、投与された被験者のアテローム発生が抑制または妨害される。
【0014】
本発明の医薬組成物は、医薬的に許容可能なCOX阻害薬またはCOX−2選択的阻害薬と、医薬的に許容可能なA2A受容体作用薬であって、COX阻害薬またはCOX−2選択的阻害薬によって乱されたコレステロール代謝機能を修復するのに十分な量のA2A受容体作用薬と、を備える。あるいは、本発明の医薬組成物は、COX阻害薬またはCOX−2阻害薬とアデノシンA2A受容体作用薬またはアデノシンA2A受容体作用薬の効果的なin situ(その場)生成を可能にする物質との混合物を備える。本発明の医薬組成物は、鎮痛剤または抗炎症薬として有効量、たとえば、これに限定されるものではないが、標準的な薬剤投与量(たとえば、市販されているCOX−2阻害薬であるセレブレックス(Celebrex)の標準的な投与量は、50、100、200および400mgである)のCOX阻害薬またはCOX−2阻害薬と、A2A受容体を飽和するのに十分な量のアデノシンA2A受容体作用薬と、を備える。医薬組成物にアデノシンA2A受容体作用薬の効果的な生成を可能にする物質(たとえば、アデノシンA2A受容体作用薬のin situ(その場)生成を介在するメトトレキサート(MTX))を備える場合には、A2A受容体を飽和するのに十分な量のアデノシンA2A受容体作用薬が効果的に生成されるだけの量を含有する必要がある。本発明の医薬組成物は、さらに、担体や賦形剤、COX阻害薬またはCOX−2阻害薬の医薬組成物に通常用いられるような、その他医薬的に許容可能な物質を備えるようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1a】種々の投与量レベルでCOX−2選択的阻害薬であるセレコキシブ(celecoxib)(セレブレックス(Celebrex)(登録商標)、ファイザー(Pfizer)社)を用いた場合のABCA1の遺伝子発現(図1a)およびタンパク質発現(図1b)に及ぼす抑制効果を示す棒グラフ。
【図1b】種々の投与量レベルでCOX−2選択的阻害薬であるセレコキシブ(celecoxib)(セレブレックス(Celebrex)(登録商標)、ファイザー(Pfizer)社)を用いた場合のABCA1の遺伝子発現(図1a)およびタンパク質発現(図1b)に及ぼす抑制効果を示す棒グラフ。
【0016】
【図2a】種々の投与量レベルでCOX−2選択的阻害薬であるNS−398を用いた場合の27−OHアーゼ(図2a)およびABCA1(図2b)の減少度合いを示す棒グラフ。
【図2b】種々の投与量レベルでCOX−2選択的阻害薬であるNS−398を用いた場合の27−OHアーゼ(図2a)およびABCA1(図2b)の減少度合いを示す棒グラフ。
【0017】
【図3a】種々のA2A受容体作用薬およびCOX−2阻害剤の組み合わせを用いて調べた27−OHアーゼのレベルに及ぼすアデノシンA2A受容体作用薬の効果およびそれらの組み合わせに及ぼすA2A拮抗薬の効果(図3bおよび図3c)を示す棒グラフ。
【図3b】種々のA2A受容体作用薬およびCOX−2阻害剤の組み合わせを用いて調べた27−OHアーゼのレベルに及ぼすアデノシンA2A受容体作用薬の効果およびそれらの組み合わせに及ぼすA2A拮抗薬の効果(図3bおよび図3c)を示す棒グラフ。
【図3c】種々のA2A受容体作用薬およびCOX−2阻害剤の組み合わせを用いて調べた27−OHアーゼのレベルに及ぼすアデノシンA2A受容体作用薬の効果およびそれらの組み合わせに及ぼすA2A拮抗薬の効果(図3bおよび図3c)を示す棒グラフ。
【図3d】種々のA2A受容体作用薬およびCOX−2阻害剤の組み合わせを用いて調べた27−OHアーゼのレベルに及ぼすアデノシンA2A受容体作用薬の効果およびそれらの組み合わせに及ぼすA2A拮抗薬の効果(図3bおよび図3c)を示す棒グラフ。
【0018】
【図4a】A2A作用薬であるCGS-21680およびA2A作用薬であるメトトレキサート(MTX)のABCA1レベルに及ぼす効果がアデノシンA2A受容体拮抗薬により抑制されることを示す棒グラフ。
【図4b】A2A作用薬であるCGS-21680およびA2A作用薬であるメトトレキサート(MTX)のABCA1レベルに及ぼす効果がアデノシンA2A受容体拮抗薬により抑制されることを示す棒グラフ。
【0019】
【図5】種々の濃度レベルでMTXを用いた場合の27−OHアーゼのレベルに及ぼすNS−398およびMTXの効果を示す棒グラフ。
【0020】
【図6a】27−OHアーゼのレベルおよびABCA1のレベルに及ぼすMTX、A2A拮抗薬、アテローム性動脈硬化を促進するサイトカイン、IFN−γ、NS−398およびこれらの組み合わせの効果を示す棒グラフ。
【図6b】27−OHアーゼのレベルおよびABCA1のレベルに及ぼすMTX、A2A拮抗薬、アテローム性動脈硬化を促進するサイトカイン、IFN−γ、NS−398およびこれらの組み合わせの効果を示す棒グラフ。
【発明を実施するための形態】
【0021】
我々は、ぜんそくおよび炎症治療法の開発や心筋イメージングに現在用いられているものを含むアデノシンA2A受容体作用薬に、RCTタンパク質の発現を増大させることによって、COX阻害薬またはCOX−2選択的阻害薬により生じるRCTプロセスの異常を実質的に抑制する予期せぬ効果があることを見出した。A2A受容体作用薬は、さらに、動脈壁に付着して、プラークの沈着やアテローム性動脈硬化を引き起こす有害な脂質含有泡沫細胞の生成を阻害する。
【0022】
RCTプロセスの異常を抑制するために有効なA2A受容体作用薬の量はごく微量であり、ぜんそくや炎症の治療やイメージングの目的に必要な投与量のほんの一部に過ぎない。A2A受容体作用薬は、ナノモルレベルのA2A受容体作用活性を備え、かつ、高親和性A2A受容体部位を飽和するのに十分な量が存在している必要がある。[3H]NECAを用いて飽和分析を行なったところ、ヒトA2Aアデノシン受容体のKD値は20nMであった。
【0023】
所定のA2A受容体作用薬の活性半減期が、COX阻害薬またはCOX−2阻害薬と同時にA2A受容体作用薬を投与する決定要因となる。すなわち、所定のA2A受容体作用薬活性半減期により必要な投与回数が決まる。A2A受容体作用薬の投与は、A2A受容体部位を飽和状態に保つために必要な時間間隔で行なう必要がある。CGS−21680(0.3mg/kg)の静脈内投与後のラットにおける終末相半減期は非常に短い(19±4分)が、新しい薬剤は先行する薬剤に比べてより長い半減期を持つ。
【0024】
A2A受容体の飽和状態を保つために必要な量および受容体の飽和状態を保つために必要な(A2A作用薬の半減期に応じた)期間を許容可能なリスクレベルに応じたものにすることにより、COX阻害薬またはCOX−2阻害薬の投与と同時にA2A作用薬を長期間にわたって投与した場合に考えられる副作用を最小限に抑える。
【0025】
アデノシンA2A作用薬は他の受容体部位に対する活性も持つことが多いが、A2A受容体に特異的なA2A作用薬は、効率が高く、コレステロール代謝機能の修復に関係しない他のアデノシン受容体の活性により生じる副作用を最小限に抑えることができる可能性が高い。現在のところ、別の受容体に対する活性も有する既存のA2A作用薬に加えて、新しい特異的A2A作用薬の開発が進められており、ヒトへの使用が承認される様々な段階にある。他に特に規定しない限り、「A2A受容体作用薬」には、A2A受容体作用薬のin situ(その場)生成を介在する役割を果たす物質が含まれる。
【0026】
現在知られているアデノシン受容体サブタイプとしては、A1、A2A、A2BおよびA3があるが、本発明に従うRCT修復に効果があるのは、A2A受容体部位の活性のみである。アデノシン自体の半減期は非常に短く、直接投与しても効果を発揮することはできない。本発明に従うRCT修復にA2A受容体作用薬として効果のある適当な物質を以下に挙げる。メトトレキサート(MTX)は、ヒトへの使用が承認されており、がんの治療に大量投与で、また、関節リウマチ(RA)の治療選択薬としてより少量の投与で用いられる。MTXは、それ自体がA2A作用薬なのではなく、A2A作用薬としての活性を有するアデノシン放出を介在する。したがって、MTXは、本明細書で言うところのA2A作用薬としての活性を持つ。実験的に利用可能な(ヒトへの使用は未承認)CGS-21680は、(他の受容体に対する活性を有してはいるが)主にA2A作用薬として働き、コレステロール代謝機能の修復に有効な物質である。
【0027】
開発されたおよび/またはヒトへの使用が承認された本発明に有用な他のA2A受容体作用薬としては、ビノデノソン(binodenoson)(CorVue(登録商標))、MRE−0094、UK−371104、ATL313、レガデノソン(regadenoson)(レキスキャン(Lexiscan)(登録商標))、アパデノソン(apadenoson)、APECおよび2HE−NECAが挙げられる。
【0028】
以下、本明細書で用いた実験方法、物質および結果を詳述する。
【0029】
THP−1ヒト単球およびマクロファージにおけるコレステロール排出に関係するいくつかのタンパク質の発現に及ぼすCOX阻害剤の効果を評価した。我々は、COX−1および/またはCOX−2の薬理学的阻害作用が、27−OHアーゼおよびABCA1の発現を低下させて、泡沫細胞形成の増大とアテローム性動脈硬化を引き起こすことを見出した。
【0030】
図1aおよび図1bに、10μMおよび50μMの投与濃度でセレコキシブを用いた場合にABCA1遺伝子発現とタンパク質発現が減少する様子を示す。この結果から、少なくとも部分的に、COX阻害に伴うアテローム生成性向を説明することができる。COX−2選択的阻害薬であるNS−398は、図2aおよび図2bに示すように、THP−1単球およびマクロファージにおける27−OHアーゼおよびABCA1のメッセージおよびタンパク質を用量依存的に著しく減少させた。NS−398は、THP−1における27−OHアーゼのmRNAを対照群の62.4±2.2%まで減少させた(50μM、n=3、p<0.001)。NS−398で処理したTHP−1マクロファージ群は、未処理細胞群と比べて、脂質含有泡沫細胞形成に対するぜい弱性が増大し、THP−1マクロファージ群では、対照群と比べて、NS−398の存在下で泡沫細胞形質転換の著しい増加がみられた(42.7±6.6%対20.1±3.4%、p=0.04)。
【0031】
我々は、また、免疫反応物質が、コレステロールを循環系を介して最終的に排出させるための細胞外への逆輸送に関係する二つのタンパク質、すなわち、コレステロール27−OHアーゼおよびABCA1、の発現を低下させることによって、コレステロール過負荷に対する細胞防御を阻害することを見出した。図6aおよび図6bに示すように、アテローム性動脈硬化促進サイトカインIFN−γが、ヒトTHP−1単球/マクロファージにおける27−OHアーゼおよびABCA1のメッセージおよびタンパク質の発現を減少させることも見出した。
【0032】
さらに、IFN−γ処理したTHP−1マクロファージ群では、未処理細胞の対照群と比べて、泡沫細胞の形成速度および割合が増大した。THP−1単球/マクロファージにおけるシクロオキシゲナーゼ(COX)阻害は、用量依存的に27−OHアーゼおよびABCA1を減少させることにより、アテローム生成を促進させる作用がある。THP−1マクロファージ群は、対照群と比較して、COX−2選択的阻害薬であるNS−398の存在下で泡沫細胞形質転換を著しく増大させた。これは、コレステロール逆輸送系(RCT:Reverse cholesterol transport)の低下または異常が、COX−2阻害剤で治療した患者における周知の心血管系のリスクの増大に寄与していることを示す。
【0033】
我々は、これらのタンパク質が、CGS−21680およびMRE−0094を含む特異的A2A作用薬を用いたアデノシンA2A受容体の活性を介して、コレステロール代謝機能の正常化に向けての上方制御が可能であることを見出した。A2A受容体のライゲーション(連結反応)は、コレステロール負荷条件下でマクロファージの泡沫細胞形質転換を阻害した。我々は、メトトレキサート(MTX:methotrexate)が、コレステロール代謝および泡沫細胞形成に対するぜい弱性を変化させて、IFN−γまたはCOX−2選択的阻害薬に暴露させたTHP−1単球/マクロファージにおけるコレステロール過負荷性向を低下させることを見出した。MTXは、アデノシンを放出させることによって、アテローム性動脈硬化症(ASCVD:atherosclerotic cardiovascular disease)を防ぐ役割を果たす。MTXは、アデノシンA2A受容体作用薬自体ではないが、A2A受容体作用活性を有するアデノシン供給源となるため、本発明の範囲内においてA2A受容体作用薬に含まれる。
【0034】
以下に詳述するように、我々は、COX−2阻害薬類がRCTプロセスの周知のコレステロール代謝機能を乱し、その結果、コレステロールの残留および脂質含有泡沫細胞の形成を引き起こすことを立証した。図1aおよび図1bに、セレコキシブには、対照群と比べて、ABCA1遺伝子およびタンパク質の発現を低下させる効果があることを示す。図2aおよび図2bに、COX−2阻害薬NS−398により、THP−1における27−OHアーゼが用量依存的で連続的に減少する様子(図2a)およびTHP−1におけるABCA1が用量依存的で連続的に減少する様子(図2b)を示す。
【0035】
さらに、我々は、アデノシンA2A受容体作用薬が、コレステロール代謝機能を修復することを証明した。図3aにA2A作用薬であるCGS−21680を用いた場合にTHP−1における27−OHアーゼレベルが改善する様子を示す。図3c、図3dおよび図5に、MTXを用いた場合に、NS−398によって減少したレベルから27−OHアーゼレベルが改善する様子を示す。図4bに、MTXを用いた場合に、MS−398によって減少したABCA1メッセージが改善する様子を示す。
【0036】
また、我々は、アデノシンA2A受容体の活性がコレステロール代謝機能の異常および修復の制御に関与していることを証明した。図3bに、A2A作用薬であるATL313に、THP−1における27−OHアーゼレベルを上昇させる効果があることを示す。ATL313がTHP−1マクロファージにおける27−OHアーゼのメッセージを増大させる役割を果たす一方、ZM−241385(ZM)は逆の働きを示す。図3bの4本の棒グラフが示すTHP−1マクロファージの処理条件は、左から右にそれぞれ以下の通りであった。1)0.5nMのDMSO(賦形剤)に18時間、2)10nMのATL313に18時間、3)10-5MのZMで1時間予備培養後、さらに10nMのATL313に18時間、4)10-5MのCGS−21680で18時間。総RNAを抽出させて、QRT−PCR(定量ポリメラーゼ連鎖反応)で27−OHアーゼのmRNAに対する評価を行なった。GAPDHメッセージ増幅を内部コントロールとして用いた。
【0037】
様々な組み合わせのCOX−2選択的阻害薬およびアデノシンA2A受容体作用薬を用いた場合の27−OHアーゼおよびABCA1のレベルを定量した(MTXはA2A受容体作用薬特性を有するアデノシンの生成を介在するため、本明細書では説明を簡単にするために、A2A作用薬の一つとみなす)。
【0038】
上述したように、試験に用いたNS−398(利用可能なCOX−2選択的阻害薬)およびセレコキシブ(米国において唯一市販されているCOX−2選択的阻害薬)は、いずれも、コレステロール代謝機能の異常を引き起こした。特異的A2A受容体作用薬であるMTX、CGS−21680、MRE−0094およびATL313は、すべて、コレステロール代謝機能を修復させた。
図3bないし図3d、図4a、図4b、図6aおよび図6bに示すように、A2A受容体部位をブロックする周知のA2A拮抗薬であるZM−241385を用いた場合に、A2A作用薬によるコレステロール代謝機能の修復が妨害されることは、A2A受容体活性が修復に関係していることの証拠となる。
【0039】
MTXは、アデノシンの放出と心血管系のリスクの両方に影響を与えることが知られているため、MTXを用いて、コレステロール代謝および泡沫細胞形成に対するぜい弱性に変化が生じたか否かを判定した。我々は、MTX処理が、IFN−γまたはCOX−2選択的阻害薬に暴露させたTHP−1単球/マクロファージにおけるコレステロール過負荷性向を低下させることを見出した。したがって、MTXは、コレステロール流出に関与する坑アテローム生成分子の発現を増大させることによって、アテローム性動脈硬化症(ASCVD)を防ぐ役割を果たす。
【0040】
MTXは、単球性細胞株に加えて、末梢血から単離した正常単球において、27−OHアーゼを増加させる。直接的な生理作用の証拠となるように、末梢血単球として、人体から直接採取した一次細胞を用いた。
【0041】
セレコキシブすなわちセレブレックス(ファイザー(Pfizer)社の登録商標)は、直接、培養THP−1単球に採用して、ABCA1を減少させる。これは、COX−2阻害薬であるNS−398を用いた結果は、ヒトに用いられる他のCOX阻害薬にも一般化できることを示している。COX−2サイレンシングの研究により、非薬理学的方法によるCOX−2遺伝子のスイッチオフも同様に作用することがわかった。
【0042】
セレコキシブは、THP−1マクロファージにおける泡沫細胞形成を増大させるため、セレコキシブは、遺伝子発現に影響を与えるのみではなく、アデノシンの放出に関与する経路を介して、コレステロールを除去し、脂質の過負荷(アテローム性動脈硬化につながるプラーク形成を開始する重要なプロセス)を防御する細胞の能力を弱める。
【0043】
MTXに加え、A2A作用薬であるCGS−21680も、マウス単球およびヒト単球における27−OHアーゼおよびABCA1のメッセージを増大させることが見出された。
【0044】
アデノシンの効果を再現するまたはブロックする数多くの様々な受容体特異性の高いアデノシン受容体作用薬および拮抗薬が開発されている。我々は、選択的A2A受容体作用薬である2−(4−(2−カルボキシエチル)フェネチルアミノ)−5’−N−エチルカルボキサミドアデノシン(CGS−21680)を10-5Mの濃度(3時間、37℃、5%CO2条件)で用いたところ、Balb/cマウスマクロファージにおける27−OHアーゼのmRNA発現が47±6.2%(各群n=3、スチューデントのt検定、p<0.002)増大した。これは、内因性物質による27−OHアーゼのmRNA発現の上方制御を最初に実証したものであると考えられる。CGS−21680に暴露させたマウス細胞における27−OHアーゼの上方制御に基づいて、ヒト単球様細胞における同様の効果を実証した。THP−1細胞において、ABCA1のmRNAは27−OHアーゼに合わせて増加した。A2A受容体拮抗薬であるZM−241385の存在下および非存在下で、THP−1細胞をCGS−21680に暴露させたところ、図4aに示すように、拮抗薬の存在下では、27−OHアーゼおよびABCA1のメッセージレベルがいずれも増加しないことがわかった。
【0045】
THP−1細胞において、CGS−21680は、用量依存的に1.8倍まで27−OHアーゼのメッセージを増大させた。より選択的なA2A受容体作用薬であるMRE−0094は、THP−1における27−OHアーゼ(2倍)およびABCA1(1.8倍)のmRNA発現を増大させた。A2A受容体拮抗薬であるZM−241385は、これら27−OHアーゼおよびABCA1のメッセージを増大させるMRE−0094の効果を抑制した。
【0046】
最近まで、静脈内投与が必要であることと、化合物の半減期が短いことが、A2A受容体作用薬の臨床的使用の大きな障害となっていた。新しく開発された持続性経口活性A2A受容体リガンドには、新しい有望な作用薬であるATL313が含まれている。ATL313は、培養下のTHP−1マクロファージにおいて強力な抗アテローム生成効果を発揮し、この結果は、CGS−21680を用いた結果と合致する。図3bに示すように、ATL313は、THP−1マクロファージにおける27−OHアーゼおよびABCA1のmRNAおよびタンパク質を増加させ、一方、ZM−241385は、これらの効果をブロックする。
【0047】
RCT修復にA2A受容体の身が特異的に関わっていることを実証するために、以下の試験を行なった。
【0048】
CGS−21680は、アデノシンA2A受容体の活性剤として用いたところ、27−OHアーゼレベルに対するNS−398の効果が抑制された。ただし、CGS−21680はA1受容体に結合する等他の作用を行なう可能性があるため、A2A受容体のライゲーションがCOX−2効果の抑制に関与していると結論付けることはできない。
【0049】
効果にA2Aが介在していることを確認する重要な局面として、A2A受容体をブロックしてオンできないようにするA2A拮抗薬であるZM−241385を加えてA2A受容体をブロックした場合に、効果の喪失が生じた。COX−2阻害薬を(アデノシンの放出を引き起こす)MTXと混ぜた場合、MTXは、ZM−241385の存在下でCOX−2阻害薬が27−OHアーゼおよびABCA1を減少させることを妨げられなかった。これにより、MTXすなわちA2A作用薬は、一般的にA2A受容体にアクセスできない状態では作用不能であることがはっきりと示された。
【0050】
ヒトに投与可能な経口投与および経口活性薬剤であるMTXおよびATL313を以下に説明するようにテストした。
【0051】
A2A受容体作用薬CGS−21680の効果を調べたが、CGS−21680は注入による投与が必須があり、現在のところ、ヒトではなく動物に実験的に用いられるものであるため、CGS−21680の使用が不都合な可能性があることに注目する必要がある。メトトレキサートおよび特異的A2A薬剤であるATL313(アデノシンセラピューティクス(Adenosine Therapeutics)社により開発)は、いずれも経口活性があり、一連のATLアデノシンA2A作用薬は、臨床試験中であるか、様々な疾患に対してヒトへの使用承認が近い状態である。ATL313を、餌に混ぜて、最初は6時間ごとに5μg/kgの量で、敗血症のマウス検体に対して投与した。餌に混ぜるATL313の投与量を、その後、30μg/kg/日とした。ヒト関節リウマチに対する典型的なMTXの投薬処方は、10mg/週のMTX投与量で開始して、第8週目までに20ないし25mg/週に用量増加させる。
【0052】
A2A作用薬としてMTXを、また、COX−2阻害薬としてNS−398を用いた試験を以下に説明するように実施したところ、泡沫細胞形成が減少した。
【0053】
脂肪過負荷マクロファージ由来の泡沫細胞は、アテローム性動脈硬化のすべての段階で基本的な役割を果たす。NS−398へのマクロファージの暴露とコレステロール過負荷を防御する細胞の能力との間に、直接的な生理学的因果関係があることが示された。一連の実験を行なった結果、アセチル化LDLの存在下でNS−398に暴露することによりTHP−1マクロファージからの泡沫細胞形成が顕著に増大すること、ならびに、この泡沫細胞形成増大効果がMTXにより軽減されることが実証された。MTXによる増大効果の軽減は、A2A受容体の活性に起因するものであるため、ZM−241385がMTXによるNS−398誘導泡沫細胞形成の低下を妨害することがわかった。コレステロール27−OHアーゼおよびABCA1に対するMTXおよびNS−398の効果は、脂肪暴露THP−1マクロファージで見られる生理学的現象と密接に関係している。
【0054】
方法:材料およびソース
このセクションでは、a)COX阻害薬によるコレステロール代謝異常、b)27−OHアーゼおよびABCA1レベルにより測定したコレステロール代謝の修復、およびc)27−OHアーゼおよびABCA1レベルにより測定したコレステロール代謝の異常および修復の両方にA2A受容体のみが関わっていることを示すために行なわれる、以下のすべての実験に用いられる生体物質(生物材料)を含む材料の概要を示す。
【0055】
細胞および試薬
THP−1単球は、アメリカ合衆国培養細胞系保存機関(American Type Culture Collection:ATCC、バージニア州マナッサス)から入手した。Oil Red O染色色素およびOptiPrep密度勾配遠心分離媒体は、シグマ(Sigma)社から購入した(ミズーリ州セントルイス)。トリゾール(TRIzol)試薬は、インビトロジェン(Invitrogen)社(ニューヨーク州グランドアイランド)から購入した。逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT−PCR)試薬は、すべてアプライド・バイオシステムズ(Applied Biosystems)社、ロシュ(Roche)社から購入した。組み換えヒトIFN−γは、R&Dシステムズ(R&D Systems)社(ミネソタ州ミネアポリス)から購入した。NS−398は、RBIシグマ(RBI−Sigma)社(マサチューセッツ州ナティック)から購入した。MTXは、ベッドフォード・ラボラトリーズ(Bedoford Laboratories)社(オハイオ州ベッドフォード)から購入した。アセチル化LDLは、イントラセル(Intracel)社(ワシントン州イサクアー)から購入した。抗コレステロール27−OHアーゼ抗体は、コレステロール27−OHアーゼタンパク質の15−28残基に対するウサギのアフィニティー精製抗ペプチドポリクロナール抗体である。
【0056】
生体物質の調整
細胞培養
THP−1単球を5%CO2雰囲気下37℃で細胞106個/mlの密度まで増殖させ。THP−1細胞の増殖培地として、10%ウシ胎児血清(FBS:Fetal Bovine Serum)(GIBCO BRL社、ニューヨーク州グランドアイランド)、50ユニット/mlのペニシリンおよび50ユニット/mlのストレプトマイシンを加えたRPMI1640(GIBCO BRL社)を用いた。マクロファージへの分化を促進するために、12ウェルプレートでTHP−1単球(細胞106個/ml)を100nMのPMA(シグマ(Sigma)社)で37℃4日間処理した。
【0057】
PBMC(末梢血単核細胞、peripheral blood mononuclear cell)単離
健康なドナーから採取した血液をEDTA処理管に入れて、プール処理し、4℃で保持する。メーカーの使用説明書に従って、OptiPrep密度勾配遠心分離媒体(シグマ(Sigma)社)を加えて、プール処理した血液の濃度を1.120g/mlに調整した。次に、10%FSBおよびOptiPrep媒体を含有する完全RPMI培地から成る1.074g/ml濃度の溶液を血液に重層した。その上に10%FSBを含有する完全RPMI培地を重層して、単球がプラスチック管にくっつかないようにした。血液を750G、4℃で30分間遠心分離した。遠心分離後、1.074g/ml濃度の溶液層とRPMI培地層の間から、間期単球を採取した。採取した細胞を2容量の完全RPMI培地で希釈して、遠心分離により採取した。得られたペレットを完全RPMI培地に再懸濁させた。血球計で単球の数を計測し、2×106個/ウェルの細胞密度で6ウェルプレートを作成した。
【0058】
方法:COX阻害剤とアデノシンA2A作用薬および拮抗薬との組み合わせ
THP−1細胞
THP−1細胞を106個/mlまで増殖させた後、培地を吸引し、カルシウムとマグネシウムを含まないダルベッコ・リン酸緩衝生理食塩水(DPBS:Dulbecco’s Phosphate Buffered Saline)で細胞を2回洗浄した。次に、以下の条件下で単球を6ウェルプレートで24ないし48時間培養した(37℃、5%CO2)。a)RPMIコントロール、b)MTX(5mM)含有RPMI、c)NS−398(50μM)含有RPMI、d)NS−398(50μM)およびMTX(含有量を0.1μM、0.5μM、5μMと増加)含有RPMI、e)IFN−γ(500U(ユニット)/ml)含有RPMI、およびf)IFN−γ(500U(ユニット)/ml)およびMTX(5μM)含有RPMI。
【0059】
THP−1マクロファージを以下の条件で処理した。a)RPMIコントロール、b)ZM−241385(10μM)含有RPMI、c)MTX(5μM)含有RPMI、d)IFN−γ(500U(ユニット)/ml)含有RPMI、e)IFN−γ(500U(ユニット)/ml)およびMTX(5μM)含有RPMI、f)ZM−241385(10μM)およびMTX(5μM)含有RPMI、g)IFN−γ(500U(ユニット)/ml)、ZM−241385(10μM)およびMTX(5μM)含有RPMI、およびh)NS−398(50μM)、ZM−241385(10μM)およびMTX(5μM)含有RPMI。
【0060】
培養期間後直ちに、細胞を採取して、室温で1500RPMで遠心分離した。培地を吸引して、細胞タンパク質およびRNAを単離した。図6aおよび図6bに得られた27−OHアーゼおよびABCA1レベルの測定値を示す。
【0061】
PBMC
5μMの濃度でMTXを添加したまたは添加しない10%FBS含有RPMI培地で18時間PBMCを培養した。細胞を採取して、RNAを単離した。
【0062】
THP−1およびPBMCの他の実験条件として、以下のパラメータおよび条件を採用した。THP−1単球を細胞106個/mlまで増殖させた後、培地を吸引し、カルシウムとマグネシウムを含まないダルベッコ・リン酸緩衝生理食塩水(DPBS)で細胞を2回洗浄した。次に、以下の条件下で単球を6ウェルプレートで培養した(37℃、5%CO2)。a)RPMIコントロール、b)10μMのNS−398(18時間)、c)50μMのNS−398(18時間)、d)10μMのセレコキシブ(18時間)、e)50μMのセレコキシブ(18時間)、f)IFN−γ(500U(ユニット)/ml)、g)50nMのsiRNA(24時間)、およびh)50nMのmock siRNA(24時間)。
【0063】
THP−1マクロファージに、50μg/mlのアセチル化LDLでコレステロールを負荷し、Oil Red O染色を行なう前に、さらに48時間培養した。培養期間後直ちに、細胞を採取して、室温で1500RPMで遠心分離した。培地を吸引して、細胞タンパク質およびRNAを単離した。
【0064】
50μMの濃度でセレコキシブを添加したまたは添加しない10%FBS含有RPMI培地で18時間PBMCを培養した。細胞を採取して、RNAを単離した。
【0065】
結果
RNA単離および定量
106個の細胞に対して1mlのトリゾール試薬を用いて、RNAを単離して、ヌクレアーゼを含まない水に溶解させた。紫外分光光度法(日立U2010分光光度計)によりクオーツキュベットを用いて、260nmおよび280nmの波長の吸収から、各条件におけるRNAの総量を測定した。
【0066】
27−OHアーゼのRT−PCR分析
リアルタイムPCRで27−OHアーゼおよびABCA1のmRNAを定量した。オリゴdTに感作されたM−MLV逆転写酵素を用いて、cDNAを5μgの総RNAから複製した。コレステロール27−OHアーゼ特異的プライマーまたはABCA1特異的プライマーならびにグリセルアルデヒド3リン酸脱水素酵素(GAPDH:glyceraldehyde-3-phosphate dehydrogenase)コントロールプライマーを用いたPCR増幅を行なうために、各RT(逆転写酵素)反応混合物から同量のcDNAを採取した。コレステロール27−OHアーゼ特異的プライマーは、ヒトコレステロール27−OHアーゼのcDNA(24)のヌクレオチド491−802を包含する311塩基対配列から成る。ABCA1プライマーは、234塩基対増幅断片から成る。サイバーグリーン(SYBR Green)PCR試薬キット(アプライド・バイオシステムズ(Applied Biosystems)社)を用いて、ストラタジーン(Stratagene)MX3005P QPCR(定量PCR)システムでリアルタイムPCR分析を行なった。
【0067】
以下の手法でPCRを行なった。各PCR反応には、2.5μlの10xグリーンフルオレッセント(緑色蛍光)バッファと、3μlの25mM MgCl2、2μlのdNTP混合物(2500μMのdCTP、2500μMのdGTP、2500μMのdATPおよび5000μMのdUTP)、0.15μlのポリメラーゼ(5U/μl、AmpliTaq Gold、アプライド・バイオシステムズ(Applied Biosystems)社)、0.25μlのウラシル−N−グリコシラーゼ(UNG)(1U/μlUNG、AmpErase、アプライド・バイオシステムズ(Applied Biosystems)社)、0.5μlのフォワード(順方向)およびリバース(逆方向)プライマー(10μM濃度)、および4μlのcDNAを用いて、水で最終的な容量を25μlに調整した。温度サイクルパラメータとして以下の条件を用いた。95℃で5分間保持することによりポリメラーゼ(AmpliTaq Gold、アプライド・バイオシステムズ(Applied Biosystems)社)を活性化させた後、95℃で30秒間、58℃で45秒間、72℃で45秒間のサイクルを45サイクル繰り返す。各反応を3回ずつ(triplicateで)行なった。
【0068】
メーカー(ストラタジーン(Stratagene))から提供されたソフトウェアを用いて、PCR生成物の量を推定した。PCRサイクルの完了後、60℃から95℃まで35℃の温度勾配で、反応物質を熱変性させた。検体間のcDNA量の差を補正するために、ターゲットPCRを内在性ハウスキーピング遺伝子であるグリセルアルデヒド3リン酸脱水素酵素(GAPDH)およびβアクチンを用いたリファレンスPCRで正規化した。有意なレベルの汚染物質の有無をチェックするために、各プライマー対にはテンプレートではないコントロールを含有させた。蛍光発光スペクトルを監視し、分析した。特定の蛍光が検出可能な閾値サイクル(CT値)を用いて、PCR生成物を測定した。CT値は、動態解析に用いられ、検体における目標複製量の初期値に比例する。融解曲線解析を行ない、PCR増幅生成物の特異性の評価を行なった。連続希釈CT値を対照群と比較後、検体の量を算出した。精製したPCR生成物を1:10に連続希釈することにより、QRT−PCR標準を調整した。
【0069】
ウエスタンブロット
RIPA(放射性免疫沈降法)溶解バッファ(98%PBS、1%Igepal CA−630、0.5%デオキシコール酸ナトリウム、0.1%ドデシル硫酸ナトリウム[SDS:sodium dodecyl sulfate])を用いて、ウエスタン免疫ブロット用に全細胞溶解物を調整した。100μlのRIPA溶解バッファと10μlのプロテアーゼ・インヒビター・カクテル(シグマ(Sigma)社)を各条件下の細胞ペレットに加えて、5分ごとにボルテックスを行ないながら、氷上で35分間培養した。エッペンドルフ(Eppendorf)5415C遠心分離機を用いて、10分間、4℃、10,000Gで遠心分離後、上澄みを採取した。日立U2010分光光度計を用いて、560nmの波長の吸収から、各上澄みに含まれるタンパク質の量を測定した。
【0070】
全細胞溶解物を用いて、ウエスタンブロットを行なった。タンパク質検体(20μg/レーン)を5分間沸騰させて、10%ポリアクリルアミドゲル上に載せて、100Vで1.5時間電気泳動を行なった後、半乾きのトランスブロット装置内のニトロセルロース膜に移して、100Vで1時間処理した。ニトロセルロース膜は、4℃で4時間ブロッキング溶液(3%脱脂粉乳の1xTween20トリス緩衝食塩水[TTBS:1xTween20-tris-buffered saline]溶解液)でブロッキングした後、4℃で一晩、一次抗体(18.7μg/ml)とブロッキング溶液の1:300希釈液に浸漬した。一次抗体として、コレステロール27−OHアーゼタンパク質の15−28残基に対するウサギのアフィニティー精製抗ペプチドポリクロナール抗体を用いた。次の日に、膜をTTBSで5分間ずつ5回洗浄したのち、ECLロバ抗ウサギIgG西洋わさびペルオキシダーゼ結合種特異全抗体(アマシャム・バイオサイエンス(Amersham Biosciences)社、製品コードNA934)の1:3000希釈液で室温で培養した。TTBSで5回洗浄を繰り返したのち、ECLウエスタンブロット検出試薬(アマシャム・バイオサイエンス(Amersham Biosciences)社、カタログ番号RPN2106)およびSRX−101A(コニカミノルタ(Konica Minolta))を用いたフィルム現像により、免疫反応性タンパク質を検出した。
【0071】
対照群として、同じ膜上で、マウス抗βアクチン(1:1000希釈液、アブカム(abCam)社、製品コードab6276)およびECLヒツジ抗マウスIgG西洋わさびペルオキシダーゼ結合種特異全抗体(1:2000希釈液、アマシャム・バイオサイエンス(Amersham Biosciences)社、製品コードNA931)を用いて、上記と同様の工程で、βアクチンを検出した。
【0072】
ABCA1検出
ABCA1の検出は、マクロファージ細胞溶解物を100Vで1.5時間電気泳動(10%ポリアクリルアミドゲル)した後、ニトロセルロース膜に移した。膜は、4℃で4時間ブロッキング溶液でブロッキングした後、ウサギ抗ABCA1抗体(サンタクルーズ・バイオテクノロジー(Samta Crus Biotechnology)社)の1:200希釈液で4℃で一晩培養した。次の日に、膜をTTBSで5分間ずつ5回洗浄したのち、ECLロバ抗ウサギIgG西洋わさびペルオキシダーゼ結合種特異全抗体の1:5000希釈液で室温で培養した。27−OHアーゼ抗体に関して上述したものと同様に検出を行った。
【0073】
泡沫細胞分析
マクロファージへの分化を促進するために、12ウェルプレートでTHP−1ヒト単球(細胞106個/ml)を100nMのPMA(シグマ(Sigma)社)で37℃4日間処理した。分化したマクロファージをリン酸緩衝生理食塩水(PBS:phosphate-buffered saline)で3回洗浄した後、以下の条件下でさらにRPMI培地(37℃、5%CO2)で48時間培養した。a)アセチル化LDL(50μg/ml)、b)アセチル化LDL(50μg/ml)およびIFN−γ(500U/ml)、c)アセチル化LDL(50μg/ml)およびIFN−γ中和抗体(1.2μg/ml)、d)アセチル化LDL(50μg/ml)、IFN−γ(500U/ml)およびIFN−γ中和抗体(1.2μg/ml)、e)アセチル化LDL(50μg/ml)およびIFN−γ受容体抗体(125ng/ml)、およびf)アセチル化LDL(50μg/ml)、IFN−γ受容体抗体(125ng/ml)およびIFN−γ(500U/ml)。
【0074】
培養後直ちに、培地を吸引して、4%パラホルムアルデヒド水溶液を用いて、2ないし4分間、培養に用いたものと同じ12ウェルプレートに細胞を固定した。0.2%Oil Red Oメタノール溶液を用いて、1ないし3分間、細胞を染色した。光学顕微鏡(Axiovert 25−Zeiss)を用いて、100倍の倍率で、細胞を観察した後、コダック(Kodak)社DC290ズームデジタルカメラで撮影した。各条件で形成された泡沫細胞の数を手作業で計算して、泡沫細胞形成率とした。
【0075】
データ解析
GraphPadバージョン4.02(グラフパッド(GraphPad)社カリフォルニア州サンディエゴ)を用いて統計分析を行った。すべてのデータを一元配置分散分析(one−way ANOVA)で分析し、ボンフェローニ法でコントロール条件と処理条件との一対多重比較を行った。
【0076】
追加実験:THP−1
THP−1ヒト単球−マクロファージ細胞株は、アメリカ合衆国培養細胞系保存機関(American Type Culture Collection:ATCC、バージニア州マナッサス)から購入した。THP−1細胞を、10%FBS、50U/mlのペニシリンおよび50U/mlのストレプトマイシンを加えたRPMI1640培地に懸濁させて、単球形態で、5%CO2雰囲気下37℃で増殖させた。
【0077】
THP−1単球を細胞1×106個/mlの密度まで増殖させた後、カルシウムとマグネシウムを含まないリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で2回洗浄した。その後、以下の条件下で新鮮培地を用いて、6ウェルプレートで培養した(18時間、37℃、5%CO2)。a)RPMIコントロール、b)NS−398(10ないし100μM:18時間)、c)CGS−21680(10-5M、18時間)およびd)NS−398(50μM18時間)+CGS−21680(10-5M、18時間)。
【0078】
リアルタイムPCRで27−OHアーゼおよびABCA1のmRNAを定量した。オリゴdTに感作されたM−MLV逆転写酵素を用いて、cDNAを5μgの総RNAから複製した。コレステロール27−OHアーゼ特異的プライマーまたはABCA1特異的プライマーならびにグリセルアルデヒド3リン酸脱水素酵素(GAPDH)コントロールプライマーを用いたPCR増幅を行なうために、各RT(逆転写酵素)反応混合物から同量のcDNAを採取した。コレステロール27−OHアーゼ特異的プライマーは、ヒトコレステロール27−OHアーゼのcDNAのヌクレオチド491−802を包含する311塩基対配列から成る。ABCA1プライマーは、234塩基対増幅断片から成る。サイバーグリーン(SYBR Green)PCR試薬キット(アプライド・バイオシステムズ(Applied Biosystems)社)を用いて、メーカーの使用説明書に従ってストラタジーン(Stratagene)MX3005P QPCR(定量PCR)システムでリアルタイムPCR分析を行なった。
【0079】
RIPA溶解バッファ(98%PBS、1%Igepal CA−630、0.5%デオキシコール酸ナトリウム、0.1%SDS)を用いて、ウエスタン免疫ブロット用に全細胞溶解物を単離した。100μlのRIPA溶解バッファと10μlのプロテアーゼ・インヒビター・カクテル(シグマ(Sigma)社)を各条件下の細胞ペレットに加えて、5分ごとにボルテックスを行ないながら、氷上で35分間培養した。エッペンドルフ(Eppendorf)5415C遠心分離機を用いて、10分間、4℃、10,000Gで遠心分離後、上澄みを採取した。日立U2010分光光度計を用いて、560nmの波長の吸収から、各上澄みに含まれるタンパク質の量を測定した。
【0080】
対照群として、同じ膜上で、マウス抗βアクチン(1:1000希釈液、アブカム(abCam)社、製品コードab6276)およびECLヒツジ抗マウスIgG西洋わさびペルオキシダーゼ結合種特異全抗体(1:2000希釈液、アマシャム・バイオサイエンス(Amersham Biosciences)社、製品コードNA931)を用いて、上記と同様の工程で、βアクチンを検出した。
【0081】
SigmaStatバージョン2.03(SPSS社、イリノイ州シカゴ)を用いて、統計分析を行った。階数別一元配置分散分析Kruskal−Wallis検定によりデータを解析した。Holm−Sidak法で一対多重比較を行った。
【0082】
追加実験:泡沫細胞形成
マクロファージへの分化を促進するために、12ウェルプレートでTHP−1ヒト単球(細胞1×106個/ml)を300nMのホルボール二酪酸(シグマ(Sigma)社)で37℃48時間処理した。分化したマクロファージをPBSで3回洗浄し、その後、単独で、または、10μMのNS−398の存在下で培養した(37℃、5%CO2、18時間)。アセチル化LDL(50μg/ml)を用いて細胞にコレステロールを負荷した後、さらに、RPMI培地で48時間培養した(37℃、5%CO2)。実験は3回ずつ(triplicateで)行った。
【0083】
培養後直ちに、培地を吸引して、4%パラホルムアルデヒド水溶液を用いて、2ないし4分間、培養に用いたものと同じ12ウェルプレートに細胞を固定した。0.2%Oil Red Oメタノール溶液を用いて、1ないし3分間、細胞を染色した。光学顕微鏡(Axiovert 25−Zeiss)を用いて、100倍の倍率で、細胞を観察した後、コダック(Kodak)社DC290ズームデジタルカメラで撮影した。各条件で形成された泡沫細胞の数を手作業で計算して、泡沫細胞形成率とした。
【0084】
COX−2選択的阻害薬NS−398(50μM)を用いて、または、用いることなく、特異的A2A受容体作用薬CGS−21680(10μM)の存在下で、または、非存在下で、THP−1単球細胞(106個/ml)を培養した(18時間、37℃、5%CO2)。トリゾール試薬を用いて、培養皿から直接RNAを採取し、オリゴdTプライマーを用いた逆転写の条件ごとに5μgの総RNAを用いて、27−OHアーゼおよびABCA1に関してRNAの定量的リアルタイムPCRを行った。
【0085】
培養したTHP−1ヒト単球において、NS−398は、コレステロール代謝27−OHアーゼ酵素のmRNA発現を容量依存的に、顕著に低下させた。NS−398に暴露させることにより、コレステロール流出タンパク質ABCA1のメッセージレベルも低下した。これらの結果を免疫ブロット法で確認した。抗炎症性アデノシンA2A受容体作用薬を加えることにより、27−OHアーゼとABCA1の低下が抑制された。NS−398処理THP−1細胞にCGS−21680を加えることにより、27−OHアーゼ発現が184%増大し、ABCA1発現が141%増大した(27−OHアーゼに関して、NS−398単独群で58.9±2.3%に対してCGS−21680+NS−398群で167.2±8.57%、n=3、p<0.001、ABCA1に関して、NS−398単独群で60.49±4.42%に対してCGS−21680+NS−398群で146.0±3.15%、n=3、p<0.001、100%=未処理THP−1細胞における基準発現量)。
【0086】
結果に関する議論
COX−2阻害薬を用いた場合に心血管系リスクが増大する原因は、少なくとも部分的に、コレステロール流出の乱れに帰することができ、特定のアデノシン受容体の活性によりこの乱れを抑制することができる。これらの知見に基づき、関節炎やその他の炎症性疾患に対して持続的な鎮痛を必要とする患者にCOX−2阻害薬を用いた治療を行うことによる心血管系のリスクを減少させるA2A受容体を標的とした新しい治療法を提供する。
【0087】
これは、広く用いられている薬物療法が、抗アテローム生成27−OHアーゼまたはABCA1の発現を増大させ、COX−2阻害またはIFN−γ暴露が遺伝子発現に及ぼす効果を軽減することができるという証拠を初めて示すものである。MTXが脂肪過負荷条件下で泡沫細胞形成を阻害することが実証された。関節リウマチの患者におけるアテローム性動脈硬化症(ASCVD)のリスクを軽減させるMTXの能力は、アデノシンA2A受容体の活性を媒介としたコレステロール・ホメオスタシスの望ましい変化に部分的に帰することができる。したがって、アデノシン受容体のライゲーションは、ASCVD患者に長期的な効果をもたらす有望な治療パラダイムに適した機序を与えるものである。
【0088】
市販のCOX−2阻害薬によるコレステロール代謝異常に及ぼすA2A作用薬の効果を実証するために、COX−2阻害薬であるセレコキシブを用いた実験を行った。
【0089】
セレコキシブの例および試験
セレコキシブ(celecoxib)は、米国において、関節炎痛および炎症の治療に利用可能なCOX−2阻害薬として唯一残された薬剤である。バルデコキシブ(valdecoxib)およびロフェコキシブ(rofecoxib)、心血管系のリスクが増大するという証拠に基づき、市場から撤退した。
【0090】
COX−2阻害がアテローム生成を増大させる正確な作用機序は解明されておらず、そのリスクがクラス効果である可能性に対する不安が残っている。我々は、NS−398を用いた場合COX−2の選択的阻害が、コレステロール蓄積細胞の除去に関わる重要な調整因子であるコレステロール逆輸送系(RCT)タンパク質ABCA1を下方制御することを見出した。他のCOX−2阻害薬を用いた場合と同様に、セレコキシブは、THP−1マクロファージにおけるRCTを低下させることによりアテローム生成を促進させる性質を示し、泡沫細胞形成に対するぜい弱性を増大させた。セレコキシブおよびNS−398は、いずれもCOX−2阻害を介してRCTを抑制するため、COX−2遺伝子サイレンシングがRCTに悪影響を及ぼすと思われる。
【0091】
方法
THP−1単球(RPMI1640、37℃、5%CO2)を細胞106個/mlの密度まで増殖させた。増殖したTHP−1細胞を以下に説明する実験条件に暴露した、あるいは、付着マクロファージに分化させた(ホルボール二酪酸、300nM、48時間)
【0092】
培地を吸引し、Ca2+とMg2+を含まないダルベッコ・リン酸緩衝生理食塩水(PBS)で細胞を3回洗浄した。次に、以下の条件下で細胞を6ウェルプレートで時間培養した。実験は3回ずつ(triplicateで)行った。(1)培地のみ、(2)10μMのNS−398(18時間)、(3)50μMのNS−398(18時間)、(4)10μMのセレコキシブ(18時間)、(5)50μMのセレコキシブ(18時間)、(6)500U/mlのIFN−γ(12時間)、(7)50nMのsiRNA(24時間)、(8)50nMのmock siRNA(24時間)。 THP−1マクロファージに、50μg/mlのアセチル化LDLでコレステロールを負荷し、Oil Red O染色を行なう前に、さらに48時間培養した。
【0093】
細胞を採取して、室温1500RPMで遠心分離をし、培地を吸引し、細胞のタンパク質およびRNAを単離した(トリゾール試薬)。紫外(UV)分光光度法(Beckman Coulter DU800)によりクオーツキュベットを用いて、260nmの波長の吸収から、各条件におけるRNAの総量を測定した。
【0094】
エッペンドルフ(Eppendorf)マスターサイクラ―・パーソナルで逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT−PCR)を行った。各アッセイにおいて、10U(ユニット)のRNアーゼ阻害薬および1μMのオリゴdTプライマーの存在下で、Omniscript逆転写酵素を用いて、1μgのmRNAを逆転写した。ABCA1特異的プライマーおよびグリセルアルデヒド3リン酸脱水素酵素(GAPDH:glyceraldehyde-3-phosphate dehydrogenase)コントロールプライマーを用いたPCR増幅を行なうために、各RT(逆転写酵素)反応混合物から同量のcDNAを採取した。ABCA1プライマーは、234塩基対(bp)から成り、GAPDHプライマーは357塩基対(bp)増幅断片から成る。PCR生成物を2%アガロースゲル上に直接載せて、5V/cmで1.5時間電気泳動を行った。DNAをエチジウムブロマイド染色した後、コダック(Kodak)トランスイルミネーターを用いて紫外線の下で可視化させて、撮影した。ゲル画像を写真で記録し、コダック・デジタルサイエンス電気泳動ドキュメンテーション解析システム120(Kodak Digital Science Electrophoresis Documentation and Analysis System120)で撮像後、コダック(Kodak)デジタルサイエンス1Dバージョン2.0.3で強度を測定した。実験結果は、すべて、GAPDHの平均密度で正規化した。
【0095】
細胞トランスフェクションおよびCOXサイレンシング
細胞をPBSで3回洗浄した。新鮮培地RPMI1640(100ml)を適当な各8チャンバプレートに加えた。トランスフェクションの前に、細胞を短時間培養した。24ウェルプレートの各チャンバウェルに対して、以下の操作を行った。375ngのsiRNA(PTGS2_5HP有効siRNA、キアゲン(Qiagen)社)を100mlの無血清培養培地で希釈した(最終的な濃度:50nM)。6mlのHiPerFectトランスフェクション試薬を、希釈したsiRNAに加えたのち、ボルテックスミキサーで混合した。検体を室温で5ないし10分間培養して、トランスフェクション複合体を形成させた。形成された複合体を細胞に滴下した後、回転させて、一様に分布させた。次に、通常の増殖条件下で細胞を6時間培養した。400mlの血清含有培養培地および抗生物質を加えた後、さらに、細胞を24ないし72時間培養した。
【0096】
培養後、培地を吸引して、4%パラホルムアルデヒド水溶液を用いて、2ないし4分間、細胞を固定した。0.4%トリパンブルーで、1ないし3分間、細胞を染色し、PBSで洗浄した後、0.2%Oil Red Oメタノール溶液を用いて、1ないし3分間、細胞を染色した。光学顕微鏡(ニコンエクリプス(Nikon Eclipse)TE300)を用いて40倍の倍率で細胞の観察を行い、ソニー(SONY)プログレッシブ3CCDカラービデオカメラを用いて細胞の撮影を行った。各条件で形成された泡沫細胞の数を手作業で計算して、泡沫細胞形成率とした。
【0097】
ウエスタンブロット
全細胞溶解タンパク質検体(10μg/レーン)を5分間沸騰させて、7.5%ポリアクリルアミドゲル上に載せて、100Vで1.5時間電気泳動を行なった後、半乾きのトランスブロット装置内のニトロセルロース膜に移して、100Vで1時間処理した。ABCA1検出のために、一次抗体として、ウサギ抗ヒトABCA1抗体(1:2000希釈液、サンタクルーズ・バイオテクノロジー(Samta Crus Biotechnology)社)を用いた。また、二次抗体として、ECLロバ抗ウサギIgG西洋わさびペルオキシダーゼ結合種特異全抗体(1:4000希釈液)を用いた。
【0098】
Graphpad Prismバージョン5.01およびSigmaStatバージョン2.03を用いて、統計分析を行った。両側95%の信頼区間およびp<0.05の有意性で不対t検定により、コントロール条件と処理条件との一対多重比較を行った。階数別一元配置分散分析Kruskal−Wallis検定により泡沫細胞形成を解析した。Holm−Sidak法で一対多重比較を行った。
【0099】
結果
セレコキシブは、ABCA1メッセージを有意に減少させた。対照群に対して50μM群では、65.1±1.5%の減少、p=0.003。セレコキシブは、ABCA1タンパク質発現を容量依存的に減少させた(p=0.0002)。COX−2siRNAを用いたトランスフェクションにより、ABCA1メッセージが有意に減少した。mock群に対して22.9±4.9%の減少、p=0.03。
【0100】
図1aおよび図1bに示すように、セレコキシブは、ABCA1タンパク質発現を減少させた。対照群に対して50μM群では、25.6±1.3%の減少、p<0.0001。50μMセレコキシブ群では、脂質含有泡沫細胞の形成が増大した。対照群における泡沫細胞の形成率が39.1±5.4%であったの対して、50μMセレコキシブ群では、95.0±0.7%であった(p=0.003)。
【0101】
COX−2遺伝子サイレンサーでトランスフェクションを行ったTHP−1マクロファージは、mockでトランスフェクションを行った細胞と比べて、脂質含有泡沫細胞の形成性向が高かった。58.3±1.6%の増大、p=0.003。
【0102】
アセチル化LDLのみでコレステロール負荷を行った場合の顕微鏡写真を撮り、次に、50μMのセレブレックス処理細胞の後にアセチル化LDLでコレステロール負荷を行った場合の顕微鏡写真を撮った。さらに、mockトランスフェクションCOX−2siRNA処理細胞の後にアセチル化LDLでコレステロール負荷を行った場合の顕微鏡写真を撮った。
【0103】
MTXおよびCGS−21680の試験結果
MTX(5μM、18時間)は、27−OHアーゼのmRNA発現を増大させ(113.9±6.4%)、NS−398に誘導される27−OHアーゼメッセージの下方制御を完全にブロックした(未処理群を100%とした場合、NS−398単独群で71.1±4.3%、NS−398+MTX群で112.8±13.1%、n=3、p<0.01)。NS−398による27−OHアーゼ発現の低下を抑制するMTXの能力は、タンパク質およびメッセージレベルの両方に関して、MTX投与量が0.1μM群、0.5μM群および5μM群で観察された(図5参照)。
【0104】
MTXは、また、COX−2阻害薬により介在されるTHP−1単球におけるABCA1メッセージの下方制御のブロックに有効であった。ZM−241385によるアデノシンA2A受容体遮断は、27−OHアーゼ(図3cおよび図4b参照)とABCA1の両方に及ぼすCOX−2阻害薬の効果を抑制するMTXの能力を無効化した。同様に、上述したTHP−1単球におけるIFN−γによる27−OHアーゼとABCA1の下方制御も、MTXにより妨害され、MTXのこの効果はZM−241385により無効化された(図6aおよび図6b参照)。
【0105】
アデノシンA2A受容体作用薬CGS−21680をNS−398に暴露されたTHP−1単球に加えることにより、27−OHアーゼ発現の低下が抑制された。これを免疫ブロットおよびQRT−PCRで実証した。NS−398で処理したTHP−1細胞にCGS−21680を加えることにより、27−OHアーゼのmRNAに184%の増加が見られた(NS−398単独群が58.9±2.3%であったのに対して、CGS+NS−398群では167.2±8.5%、n=3、p<0.001)。
【0106】
泡沫細胞レベルに対するMTXの作用
アセチルLDL処理THP−1マクロファージにおいて、対照群と比べて、MTXの存在下では、泡沫細胞の形質転換が有意に低下した(対照群の39.3±5.0%に対してMTX群29.7±2.0%、p<0.001)。NS−398処理群における泡沫細胞が72.7±4.9%であったのに対して、NS−398+MTX併用群では、泡沫細胞が36.3±3.2%に過ぎなかった(n=3、p<0.001)。アセチル化LDLによるコレステロール負荷前にIFN−γ処理をした群では、泡沫細胞が71.0±5.0%であったのに対して、IFN−γ+MTX群では、泡沫細胞が46.0±7.2%に過ぎなかった(n=3、p<0.001)。MTX処理前に選択的A2A受容体拮抗薬(ZM−241385)を加えて前培養を行なったTHP−1マクロファージでは、MTXのアテローム生成効果が抑制され、その結果、泡沫細胞の有意な増加がみられた(62.1±1.5%)。
【0107】
COX−2阻害薬に仲介される27−OHアーゼのmRNAの減少は、MTXにより抑制される。4本の棒グラフが示すTHP−1ヒト単球の処理条件は、(図3dの左から右に)それぞれ以下の通りであった。(1)対照群としてRPMI1640培地、(2)MTX(5μM、18時間)、(3)NS−398(50μM、18時間)および(4)MTX(5μM、18時間)+NS−398(50μM、18時間)。細胞から総RNAを抽出し、QRT−PCRで27−OHアーゼのmRNA発現の評価を行った。GAPDHメッセージ増幅から得られた信号を内部コントロールとして用いた。対照群対NS−398群は*p<0.05であり、NS−398+MTX群対NS−398群は#p<0.01であった(ここで、*pおよび#pの表記は、いずれのp値がいずれの棒グラフに適合するかを示すために棒グラフで用いられるp値を示す)。
【0108】
NS−398処理THP−1細胞へのMTXの投与量を変えてコレステロール27−OHアーゼの検出および定量を行ったところ、COX−2阻害薬NS−398で処理したTHP−1単球において、27−OHアーゼタンパク質の減少が見られたが、これはMTX濃度の増大により抑制された。培養したTHP−1単球細胞を未処理のまま、または、NS−398(50μM、18時間)に暴露後、未処理にした、または種々の投与量のMTXに24時間暴露させた。総細胞タンパク質を単離した後、特異的ウサギポリクロナール抗ヒト27−OHアーゼ抗体を用いて、27−OHアーゼを検出した。抗βアクチン抗体を用いたウエスタンブロットを行って、タンパク質負荷が等しいことを確認した。
【0109】
COX−2阻害薬が仲介するTHP−1単球における27−OHアーゼのmRNA発現の低下は、MTXにより抑制される。培養したTHP−1単球細胞をNS−398(50μM、48時間)で培養後、未処理にした、または種々の投与量のMTXに24時間暴露させた。総RNAの単離後、上述したように、RNAを逆転写して、cDNAをQRT−PCRで増幅させた。GAPDHメッセージ増幅から得られた信号を内部コントロールとして用いた。MTX群対対照群(C)は*p<0.05、**p<0.01であり、NS+MTX群対NS−398(NS)群は#p<0.01であった。
【0110】
A2A受容体拮抗薬であるZM−241385の存在下または非存在下でMTXに暴露したNS−398処理THP−1細胞におけるコレステロール27−OHアーゼおよびABCA1のmRNAの検出および定量の結果から、NS−398によるTHP−1細胞における27−OHアーゼメッセージの低下がMTXにより抑制され、この抑制効果が、ZM−241385によりブロックされることを立証した。4本の棒グラフが示すTHP−1単球の処理条件は、(図3cの左から右に)それぞれ以下の通りであった。(1)対照群としてRPMI1640培地、(2)NS−398(50μM、24時間)、(3)NS−398(50μM、24時間)後にMTX(5μM、24時間)、(4)NS−398(50μM)およびZM−241385(10μM)で24時間処理後にMTX(5μM、24時間)。細胞から総RNAを抽出し、QRT−PCRで27−OHアーゼのmRNA発現の評価を行った。GAPDHメッセージ増幅から得られた信号を内部コントロールとして用いた。
【0111】
NS−398によるTHP−1細胞におけるABCA1メッセージの低下がMTXにより抑制され、この抑制効果が、ZM−241385によりブロックされることをさらに立証した。4本の棒グラフが示すTHP−1単球の処理条件は、(図5の左から右に)それぞれ以下の通りであった。(1)対照群としてRPMI1640培地、(2)NS−398(50μM、24時間)、(3)NS−398(50μM、24時間)後にMTX(5μM、24時間)および(4)NS−398(50μM)およびZM−241385(10μM)で24時間処理後にMTX(5μM、24時間)。細胞から総RNAを抽出し、QRT−PCRで27−OHアーゼのmRNA発現の評価を行った。GAPDHメッセージ増幅から得られた信号を内部コントロールとして用いた。MTX群対対照群(C)は*p<0.05、**p<0.01であり、NS−398+MTX群対NS−398群は#p<0.01であった。
【0112】
A2A受容体拮抗薬であるZM−241385の存在下または非存在下でMTXに暴露したIFN−γ刺激THP−1細胞におけるコレステロール27−OHアーゼのmRNAおよびタンパク質ならびにABCA1のmRNAの検出および定量の結果から、IFN−γによるTHP−1細胞における27−OHアーゼメッセージの低下がMTXにより抑制され、この抑制効果が、ZM−241385によりブロックされることを立証した。8本の棒グラフが示すTHP−1単球の処理条件は、(図6aおよび図6bの左から右に)それぞれ以下の通りであった。(1)対照群としてRPMI1640培地、(2)ZM−241385(10μM、24時間)、(3)MTX(5μM、24時間)、(4)IFN−γ(500U/ml、24時間)、(5)IFN−γ(500U/ml、24時間)後にMTX(5μM、24時間)、(6)ZM−241385(10μM、24時間)後にMTX(5μM、24時間)、(7)ZM−241385(10μM)およびIFN−γ(500U/ml)で24時間処理後にMTX(5μM、24時間)および(8)ZM−241385(10μM)およびNS−398(50μM)で24時間処理後にMTX(5μM、24時間)。細胞から総RNAを抽出し、QRT−PCRで27−OHアーゼのmRNA発現の評価を行った。GAPDHメッセージ増幅から得られた信号を内部コントロールとして用いた。
【0113】
IFN−γによるTHP−1細胞における27−OHアーゼタンパク質の低下がMTXにより抑制され、この抑制効果が、ZM−241385によりブロックされることをさらに立証した。図6aの左から右に8本の免疫ブロットで示したものと同様に、THP−1単球を上述した条件(1)ないし(8)と同じ条件で処理した。総細胞タンパク質を単離した後、特異的ウサギポリクロナール抗ヒト27−OHアーゼ抗体を用いて、27−OHアーゼを検出した。抗βアクチン抗体を用いたウエスタンブロットを行って、タンパク質負荷が等しいことを確認した。
【0114】
IFN−γによるTHP−1細胞におけるABCA1メッセージの低下がMTXにより抑制され、この抑制効果が、ZM−241385によりブロックされることをさらに立証した。図6aの左から右に8本の棒グラフで示したものと同様に、THP−1単球を上述した条件(1)ないし(8)と同じ条件で処理した。細胞から総RNAを抽出し、QRT−PCRで27−OHアーゼのmRNA発現の評価を行った。GAPDHメッセージ増幅から得られた信号を内部コントロールとして用いた。
【0115】
CGS−21680
THP−1単球における27−OHアーゼ発現のNS−398による抑制に及ぼすA2A作用薬CGS−21680の効果を調べたところ、COX−2阻害薬NS−398(50μM)により27−OHアーゼのメッセージレベルの低下が見られたが、この低下はアデノシンA2A作用薬であるCGS−21680(10μM)を加えることにより抑制された。4本の棒グラフ(図3a)が示すTHP−1単球の処理条件は、左から右にそれぞれ以下の通りであった。(1)対照群としてRPMI1640培地、(2)CGS−21680(10μM、18時間)、(3)NS−398(50μM、18時間)および(4)NS−398(50μM、18時間)およびCGS−21680(10μM、18時間)。細胞から総RNAを抽出し、QRT−PCRで27−OHアーゼのmRNA発現の評価を行った。GAPDHメッセージ増幅から得られた信号を内部コントロールとして用いた。対照群対NS−398群は*p<0.01であり、NS−398+CGS−21680群対NS−398群は#p<0.01であった。
【0116】
さらに、THP−1単球を以下の条件(1)対照群としてRPMI1640培地、(2)CGS−21680(10μM、18時間)、(3)NS−398(50μM、18時間)および(4)NS−398(50μM、18時間)およびCGS−21680(10μM、18時間)で処理した後、免疫ブロットを行なって、27−OHアーゼタンパク質の発現を評価した。この結果から、かなり有益な結果が得られた。対照群対NS−398群は*p<0.01であり、NS−398+CGS−21680群対NS−398群は#p<0.01であった。この低下は、アデノシンA2A作用薬であるCGS−21680を加えることにより抑制される。したがって、27−OHアーゼのタンパク質レベルがCOX−2阻害薬であるNS−398により低下し、この低下は、アデノシンA2A作用薬であるCGS−21680を加えることにより抑制されることが実証された。
【0117】
脂肪負荷THP−1マクロファージにおけるNS−398およびIFN−γに誘導される泡沫細胞形質転換に対するMTXの作用
Oil Red Oで染色した脂質含有マクロファージの代表的な顕微鏡写真を40倍の倍率で撮り、以下の知見が得られた。(a)アセチル化LDL処理THP−1マクロファージでは、対照群と比較して、MTXの存在下で、泡沫細胞形質転換の有意な減少がみられた。(b)MTXは、THP−1マクロファージにおけるNS−398に誘導される泡沫細胞形成の増大を抑制した。(c)MTXは、THP−1マクロファージにおけるIFN−γに誘導される泡沫細胞形成の増大を抑制した。(d)泡沫細胞形成を低下させるMTXの効果は、A2A受容体拮抗薬であるZM−241385を用いることにより抑制される。
【0118】
NS−398は、THP−1細胞におけるコレステロール27−OHアーゼのメッセージを容量依存的に著しく低下させた。この結果を、ウエスタン免疫ブロット法により確認した。27−OHアーゼのタンパク質発現は、COX−2阻害剤であるNS−398の存在下で減少した。
【0119】
ABCA1メッセージは、NS−398暴露により、対照群の約70%まで低下した(50μM、対照群の71.1±3.9%、n=3、p<0.01)。この結果をウエスタン免疫ブロット法により確認した。
【0120】
アデノシンA2A受容体作用薬であるCGS−21680を加えることにより、27−OHアーゼおよびABCA1の発現の両方が抑制された(図3a参照)。NS−398処理THP−1細胞にCGS−21680を加えることにより、27−OHアーゼのmRNAが184%増加し、ABCA1のmRNAが141%増加した(27−OHアーゼに関して、NS−398単独群で58.9±2.3%に対してCGS−21680+NS−398群で167.2±8.57%、n=3、p<0.001、ABCA1に関して、NS−398単独群で60.49±4.42%に対してCGS−21680+NS−398群で146.0±3.15%、n=3、p<0.001、100%=未処理THP−1細胞における基準発現量)。
【0121】
COX−2選択的阻害薬であるNS−398で処理したTHP−1マクロファージは、アセチル化したLDLを用いたコレステロール負荷条件下で、未処理の細胞と比べて、脂質含有泡沫細胞形成に対するぜい弱性が高かった。THP−1マクロファージでは、対照群と比べて、NS−398の存在下で、泡沫細胞形質転換の有意な増大がみられた(20.1±3.4%に対して42.7±6.6%、p=0.04)。
【0122】
COX−2選択的阻害薬NS−398(50μM)を用いて、または、用いることなく、特異的A2A受容体作用薬CGS−21680(10μM)の存在下で、または、非存在下で、THP−1単球細胞(106個/ml)を培養した(18時間、37℃、5%CO2)。トリゾール試薬を用いて、培養皿から直接RNAを採取し、オリゴdTプライマーを用いた逆転写の条件ごとに5μgの総RNAを用いて、27−OHアーゼおよびABCA1に関してRNAの定量的リアルタイムPCRを行った。
【0123】
要するに、培養したTHP−1ヒト単球において、NS−398は、コレステロール代謝27−OHアーゼ酵素のmRNA発現を容量依存的に、顕著に低下させた。NS−398に暴露させることにより、コレステロール流出タンパク質ABCA1のメッセージレベルも低下した。これらの結果を免疫ブロット法で確認した。抗炎症性アデノシンA2A受容体作用薬を加えることにより、27−OHアーゼとABCA1の低下が抑制された。NS−398処理THP−1細胞にCGS−21680を加えることにより、27−OHアーゼ発現が184%増大し、ABCA1発現が141%増大した(27−OHアーゼに関して、NS−398単独群で58.9±2.3%に対してCGS−21680+NS−398群で167.2±8.57%、n=3、p<0.001、ABCA1に関して、NS−398単独群で60.49±4.42%に対してCGS−21680+NS−398群で146.0±3.15%、n=3、p<0.001、100%=未処理THP−1細胞における基準発現量)。
【0124】
上述の実施例は、本発明を例示するものであって、コレステロール代謝機能を乱す様々なCOX−2阻害薬またはその他NSAIDSや、その機能を修復するA2A作用薬も、本発明の要旨の範囲に含まれる。本発明を利用した治療は、以下に限定されるものではないが、たとえば、中枢投与、全身投与、末梢投与、静脈内投与、皮下投与、経口投与、鼻腔内投与および/または経皮投与等、様々な投与ルートのいずれを用いて実行されるものでもよい。当該技術分野における通常の技術を有する者であれば、有効な投与ルートを容易に決定および実行可能であると考えられる。絶対的な値か相対的な値かに関わらず、投与量や投与回数等は、以下の特許請求の範囲に従って、条件やリスクに対する患者の感受性等に応じて変更できる。当該技術分野における通常の技術を有する者であれば、適当な投薬料や治療計画を容易に理解し、実現することが可能であると考えられる。また、A2A作用薬は、同時にまたは連続的に、COX−2阻害薬と一緒にまたは別に投与可能である。
【0125】
以上、特定の実施態様に関して本発明を詳述したが、当業者には明らかなように、様々な変形、変更、使用が可能であり、本発明は何ら上述の特定の実施態様に限定されるものではない。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
COX阻害薬またはCOX−2選択的阻害薬を使用することに起因するヒトのアテローム性動脈硬化型心血管障害および脳血管障害のリスクの増大を抑制する方法であって、
COX阻害薬またはCOX−2選択的阻害薬により生じるコレステロール代謝機能の異常を修復する工程と、
前記COX阻害薬またはCOX−2阻害薬の使用により引き起こされる脂質含有泡沫細胞の生成を抑制する工程と、を備える方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法であって、
前記コレステロール代謝機能の異常の修復および前記脂質含有泡沫細胞の生成の抑制は、前記COX阻害薬またはCOX−2阻害薬を投与されたヒトに対する活性の閾値レベルが約0.1μMであるアデノシンA2A受容体作用薬を投与する工程により実現される、方法。
【請求項3】
請求項2に記載の方法であって、
前記アデノシンA2A受容体作用薬は、A2A受容体を実質的に飽和状態にするのに十分な量だけ、前記ヒトに投与される、方法。
【請求項4】
請求項2に記載の方法であって、
前記アデノシンA2A受容体作用薬は、前記COX阻害薬またはCOX−2阻害薬が投与される際に、前記コレステロール代謝機能の修復を維持するのに十分な時間間隔で、前記ヒトに投与される、方法。
【請求項5】
請求項2に記載の方法であって、
前記アデノシンA2A受容体作用薬は、メトトレキサート、CGS−21680、ATL313、ビノデノソン(binodenoson)、MRE−0094、UK−371104、レガデノソン(regadenoson)、アパデノソン(apadenoson)、APECおよび2HE−NECAからなる群から選択される、方法。
【請求項6】
請求項2に記載の方法であって、
前記阻害薬は、COX−2選択的阻害薬である、方法。
【請求項7】
請求項6に記載の方法であって、
前記COX−2選択的阻害薬は、セレコキシブ(celecoxib)、バルデコキシブ(valdecoxib)およびロフェコキシブ(rofecoxib)からなる群から選択される、方法。
【請求項8】
請求項5に記載の方法であって、
前記COX−2阻害薬は、セレコキシブ(celecoxib)、バルデコキシブ(valdecoxib)およびロフェコキシブ(rofecoxib)からなる群から選択される、方法。
【請求項9】
請求項2に記載の方法であって、
前記A2A受容体作用薬は、A2A受容体に特異的である、方法。
【請求項10】
請求項2に記載の方法であって、
前記A2A受容体作用薬は、前記ヒトに経口投与される、方法。
【請求項11】
医薬組成物であって、
医薬的に許容可能なCOX−2選択的阻害薬と、
医薬的に許容可能なA2A受容体作用薬であって、前記COX−2選択的阻害薬によって乱されたコレステロール代謝機能を修復するのに十分な量のA2A受容体作用薬と、を備える医薬組成物。
【請求項12】
請求項2に記載の方法であって、
前記阻害薬は、COX阻害薬である、方法。
【請求項13】
請求項10に記載の医薬組成物であって、
経口投与用に製剤される医薬組成物。
【請求項14】
COX阻害薬またはCOX−2選択的阻害薬が投与されるヒトにおける心筋梗塞および脳卒中のリスクを低下させる方法であって、
前記ヒトにアデノシンA2A受容体作用薬を投与する工程、を備える方法。
【請求項15】
ヒトを含む哺乳類におけるアテローム発生を改善する方法であって、
哺乳類にアデノシンA2A受容体作用薬を投与する工程であって、アデノシンA2A受容体作用薬を、必要に応じて、ヒトのA2A受容体を飽和するのに実質的に十分な量を投与し、これにより、投与された被験者のアテローム発生を抑制または妨害する工程、を備える方法。
【請求項16】
請求項15に記載の方法であって、
前記アデノシンA2A受容体作用薬は、メトトレキサート、CGS−21680、ATL313、ビノデノソン(binodenoson)、MRE−0094、UK−371104、レガデノソン(regadenoson)、アパデノソン(apadenoson)、APECおよび2HE−NECAからなる群から選択される、方法。
【請求項17】
請求項15に記載の方法であって、
前記アデノシンA2A受容体作用薬は、前記ヒトのコレステロール代謝機能を維持するのに十分な回数投与される、方法。
【請求項18】
請求項15に記載の方法であって、
前記投与は経口投与である、方法。
【請求項19】
請求項15に記載の方法であって、
さらに、治療に有効な量のCOX−2選択的阻害薬が前記ヒトに投与される工程を備える、方法。
【請求項20】
請求項19に記載の方法であって、
前記COX−2選択的阻害薬の投与は、前記COX−2選択的阻害薬の投与と同時にまたは連続的に行なわれる、方法。
【請求項21】
請求項19に記載の方法であって、
前記COX−2選択的阻害薬の投与と前記COX−2選択的阻害薬の投与は、前記ヒトのコレステロール代謝機能を維持するのに十分な回数行なわれる、方法。
【請求項22】
請求項19に記載の方法であって、
前記COX−2選択的阻害薬と前記COX−2選択的阻害薬は経口投与される、方法。
【請求項23】
請求項19に記載の方法であって、
前記COX−2阻害薬は、セレコキシブ(celecoxib)、バルデコキシブ(valdecoxib)およびロフェコキシブ(rofecoxib)からなる群から選択される、方法。
【請求項24】
医薬組成物であって、
医薬的に許容可能なCOX−2選択的阻害薬と、
医薬的に許容可能なA2A受容体作用薬であって、被験者におけるアテローム発生を抑制または防止するのに十分な量存在するA2A受容体作用薬と、を備える医薬組成物。
【請求項25】
請求項24に記載の医薬組成物であって、
経口投与用に製剤される医薬組成物。
【請求項26】
正常なコレステロール代謝機能を乱すCOX阻害薬またはCOX−2選択的阻害薬を使用することに起因する哺乳類における影響を抑制する方法であって、
COX阻害薬またはCOX−2選択的阻害薬により生じるコレステロール代謝機能の異常を修復する工程、を備える方法。
【請求項27】
COX阻害薬またはCOX−2選択的阻害薬を使用することに起因するヒトのアテローム性動脈硬化型心血管障害および脳血管障害のリスクの増大を抑制する方法であって、
COX阻害薬またはCOX−2選択的阻害薬により生じるコレステロール代謝機能の異常を修復する工程、を備える方法。
【請求項28】
請求項15に記載の方法であって、
前記哺乳類はヒトである、方法。
【請求項29】
請求項1に記載の方法であって、
前記COX阻害薬またはCOX−2選択的阻害薬は、正常なコレステロール代謝機能を乱し、脂質含有泡沫細胞を生成する、方法。
【請求項1】
COX阻害薬またはCOX−2選択的阻害薬を使用することに起因するヒトのアテローム性動脈硬化型心血管障害および脳血管障害のリスクの増大を抑制する方法であって、
COX阻害薬またはCOX−2選択的阻害薬により生じるコレステロール代謝機能の異常を修復する工程と、
前記COX阻害薬またはCOX−2阻害薬の使用により引き起こされる脂質含有泡沫細胞の生成を抑制する工程と、を備える方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法であって、
前記コレステロール代謝機能の異常の修復および前記脂質含有泡沫細胞の生成の抑制は、前記COX阻害薬またはCOX−2阻害薬を投与されたヒトに対する活性の閾値レベルが約0.1μMであるアデノシンA2A受容体作用薬を投与する工程により実現される、方法。
【請求項3】
請求項2に記載の方法であって、
前記アデノシンA2A受容体作用薬は、A2A受容体を実質的に飽和状態にするのに十分な量だけ、前記ヒトに投与される、方法。
【請求項4】
請求項2に記載の方法であって、
前記アデノシンA2A受容体作用薬は、前記COX阻害薬またはCOX−2阻害薬が投与される際に、前記コレステロール代謝機能の修復を維持するのに十分な時間間隔で、前記ヒトに投与される、方法。
【請求項5】
請求項2に記載の方法であって、
前記アデノシンA2A受容体作用薬は、メトトレキサート、CGS−21680、ATL313、ビノデノソン(binodenoson)、MRE−0094、UK−371104、レガデノソン(regadenoson)、アパデノソン(apadenoson)、APECおよび2HE−NECAからなる群から選択される、方法。
【請求項6】
請求項2に記載の方法であって、
前記阻害薬は、COX−2選択的阻害薬である、方法。
【請求項7】
請求項6に記載の方法であって、
前記COX−2選択的阻害薬は、セレコキシブ(celecoxib)、バルデコキシブ(valdecoxib)およびロフェコキシブ(rofecoxib)からなる群から選択される、方法。
【請求項8】
請求項5に記載の方法であって、
前記COX−2阻害薬は、セレコキシブ(celecoxib)、バルデコキシブ(valdecoxib)およびロフェコキシブ(rofecoxib)からなる群から選択される、方法。
【請求項9】
請求項2に記載の方法であって、
前記A2A受容体作用薬は、A2A受容体に特異的である、方法。
【請求項10】
請求項2に記載の方法であって、
前記A2A受容体作用薬は、前記ヒトに経口投与される、方法。
【請求項11】
医薬組成物であって、
医薬的に許容可能なCOX−2選択的阻害薬と、
医薬的に許容可能なA2A受容体作用薬であって、前記COX−2選択的阻害薬によって乱されたコレステロール代謝機能を修復するのに十分な量のA2A受容体作用薬と、を備える医薬組成物。
【請求項12】
請求項2に記載の方法であって、
前記阻害薬は、COX阻害薬である、方法。
【請求項13】
請求項10に記載の医薬組成物であって、
経口投与用に製剤される医薬組成物。
【請求項14】
COX阻害薬またはCOX−2選択的阻害薬が投与されるヒトにおける心筋梗塞および脳卒中のリスクを低下させる方法であって、
前記ヒトにアデノシンA2A受容体作用薬を投与する工程、を備える方法。
【請求項15】
ヒトを含む哺乳類におけるアテローム発生を改善する方法であって、
哺乳類にアデノシンA2A受容体作用薬を投与する工程であって、アデノシンA2A受容体作用薬を、必要に応じて、ヒトのA2A受容体を飽和するのに実質的に十分な量を投与し、これにより、投与された被験者のアテローム発生を抑制または妨害する工程、を備える方法。
【請求項16】
請求項15に記載の方法であって、
前記アデノシンA2A受容体作用薬は、メトトレキサート、CGS−21680、ATL313、ビノデノソン(binodenoson)、MRE−0094、UK−371104、レガデノソン(regadenoson)、アパデノソン(apadenoson)、APECおよび2HE−NECAからなる群から選択される、方法。
【請求項17】
請求項15に記載の方法であって、
前記アデノシンA2A受容体作用薬は、前記ヒトのコレステロール代謝機能を維持するのに十分な回数投与される、方法。
【請求項18】
請求項15に記載の方法であって、
前記投与は経口投与である、方法。
【請求項19】
請求項15に記載の方法であって、
さらに、治療に有効な量のCOX−2選択的阻害薬が前記ヒトに投与される工程を備える、方法。
【請求項20】
請求項19に記載の方法であって、
前記COX−2選択的阻害薬の投与は、前記COX−2選択的阻害薬の投与と同時にまたは連続的に行なわれる、方法。
【請求項21】
請求項19に記載の方法であって、
前記COX−2選択的阻害薬の投与と前記COX−2選択的阻害薬の投与は、前記ヒトのコレステロール代謝機能を維持するのに十分な回数行なわれる、方法。
【請求項22】
請求項19に記載の方法であって、
前記COX−2選択的阻害薬と前記COX−2選択的阻害薬は経口投与される、方法。
【請求項23】
請求項19に記載の方法であって、
前記COX−2阻害薬は、セレコキシブ(celecoxib)、バルデコキシブ(valdecoxib)およびロフェコキシブ(rofecoxib)からなる群から選択される、方法。
【請求項24】
医薬組成物であって、
医薬的に許容可能なCOX−2選択的阻害薬と、
医薬的に許容可能なA2A受容体作用薬であって、被験者におけるアテローム発生を抑制または防止するのに十分な量存在するA2A受容体作用薬と、を備える医薬組成物。
【請求項25】
請求項24に記載の医薬組成物であって、
経口投与用に製剤される医薬組成物。
【請求項26】
正常なコレステロール代謝機能を乱すCOX阻害薬またはCOX−2選択的阻害薬を使用することに起因する哺乳類における影響を抑制する方法であって、
COX阻害薬またはCOX−2選択的阻害薬により生じるコレステロール代謝機能の異常を修復する工程、を備える方法。
【請求項27】
COX阻害薬またはCOX−2選択的阻害薬を使用することに起因するヒトのアテローム性動脈硬化型心血管障害および脳血管障害のリスクの増大を抑制する方法であって、
COX阻害薬またはCOX−2選択的阻害薬により生じるコレステロール代謝機能の異常を修復する工程、を備える方法。
【請求項28】
請求項15に記載の方法であって、
前記哺乳類はヒトである、方法。
【請求項29】
請求項1に記載の方法であって、
前記COX阻害薬またはCOX−2選択的阻害薬は、正常なコレステロール代謝機能を乱し、脂質含有泡沫細胞を生成する、方法。
【図1a】
【図1b】
【図2a】
【図2b】
【図3a】
【図3b】
【図3c】
【図3d】
【図4a】
【図4b】
【図5】
【図6a】
【図6b】
【図1b】
【図2a】
【図2b】
【図3a】
【図3b】
【図3c】
【図3d】
【図4a】
【図4b】
【図5】
【図6a】
【図6b】
【公表番号】特表2011−519926(P2011−519926A)
【公表日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−508499(P2011−508499)
【出願日】平成21年5月5日(2009.5.5)
【国際出願番号】PCT/US2009/002795
【国際公開番号】WO2009/137052
【国際公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【出願人】(500262544)ウィンスロップ−ユニバーシティー ホスピタル (1)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年5月5日(2009.5.5)
【国際出願番号】PCT/US2009/002795
【国際公開番号】WO2009/137052
【国際公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【出願人】(500262544)ウィンスロップ−ユニバーシティー ホスピタル (1)
【Fターム(参考)】
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