説明

D級電力増幅器

【課題】信号入力端子が天絡、地絡した場合に、スピーカに流れる過大電流によって生じる劣化や破損を未然に防止することができるD級電力増幅器を提供する。
【解決手段】D級電力増幅器200はPWM変調回路240及びDC検出回路250を有する。PWM変調回路の出力端子244から出力されたPWM信号Pは、信号導出線246を介してDC検出回路250の第1の入力端子250a及びインバータ247を介して第2の入力端子250bに入力される。PWM変調回路からは信号導出線245を介して図示しないクロックパルスが入力される。DC検出回路は出力端子244に生じたデューティ比が0%又は100%のローレベル又はハイレベルの直流(DC)電圧が所定時間を越えたことを検出して作動し、PWM信号Pが所定時間の間ローレベル又はハイレベルを維持したときに制御信号を生成してD級ドライバー260の回路動作をオフにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はD級電力増幅器に関し、特にD級電力増幅器の信号入力端子が不意に天絡、地絡に陥った場合にスピーカに流れる直流(DC)電流や過大電流によって生じるスピーカの劣化や破損を未然に防止することができるD級電力増幅器に関する。
【背景技術】
【0002】
TV、パーソナルコンピュータ、AVレシーバ及びカーオーディオ等に使用される電力増幅器の最終段にはインピーダンスがたとえば4Ω、6Ω、8Ω又は16Ωという具合に比較的低いインピーダンスのスピーカが接続される。このため通常の使用条件下においてもパワートランジスタ及びそれに接続されるスピーカには比較的大きな負荷電流が流れる。また、電力増幅器は常に正規の使用条件下に置かれて作動するという保証はなく、何らかの状況の変化によって、通常の動作状態から逸脱した状態に置かれるということも少なくない。たとえば、電力増幅器を取り扱うユーザが電力増幅器の信号入力端子又は信号出力端子を電源電圧端子や接地端子に不意に接触させてしまうという不具合が生じ得る。
【0003】
電力増幅器の1つとしてブリッジ接続負荷タイプのD級電力増幅器が知られている。ブリッジ接続負荷は一般的にBTL(Bridge-Tied Load)とも称される。一般的に「D級」と称される電力増幅器の中にはいくつかの方式が知られている。たとえば、他励発振型PWM方式のD級電力増幅器が知られている。他励発振型PWM方式のD級電力増幅器は、アナログ信号を変調するためのキャリア信号として三角波信号が用いられる。このため三角波信号生成回路を用意しなければならない。他励発振型PWM方式のD級電力増幅器では、アナログ信号をパルス幅が時間とともに変化するパルス信号に変換し(これをPWMという:Pulse Width Modulation)、そのパルス信号によってパワートランジスタをオン/オフさせ、パワートランジスタから出力された信号をローパスフィルタによって積分し、スピーカを直接駆動する。他励発振型PWM方式と同じようによく知られた自励発振型PWM方式のD級電力増幅器は三波波信号生成回路を用いずに直接発振させる発振器を有する。こうしたPWM方式の他にはデルタシグマ変調方式を用いたD級電力増幅器もよく知られている。
【0004】
図7はBTL方式のD級電力増幅器を簡便に表示したブロック回路図である。D級電力増幅器100は主回路部110及びその外付電子部品で構成される。主回路部110は、信号入力端子120、プリアンプ130、PWM変調回路140、第1のD級ドライバー150、第2のD級ドライバー160、第1の信号出力端子152及び第2の信号出力端子162を有する。外付電子部品は、インダクタL1,L2、キャパシタC1,C2,C0及び負荷RLから成る。負荷RLはスピーカに相当する。
【0005】
信号入力端子120にアナログ入力信号Sinが入力されると、そのアナログ入力信号Sinはプリアンプ130に入力される。プリアンプ130又はその後段には利得調整機能をもたせたたとえば利得調整回路を設けてもよい。プリアンプ130から出力されたアナログ信号はPWM変調回路140に入力される。PWM変調回路140にはたとえば三角波信号をキャリア信号として用い、このキャリア信号によってアナログ信号を変調するいわゆる他励発振型のPWM方式を用いることができる。PWM変調回路140の第1の出力端子141には周期T0、ハイレベルの期間T1であるパルス幅変調信号(以下、PWM信号と称す)P1が出力される。PWM変調回路140の第2の出力端子142にはPWM信号P1とは極性が反転された、すなわちPWM信号P1と相補的な関係をもったPWM信号P2が出力される。PWM信号P1,P2のデューティ比PdはPd=T1/T0で表示される。デューティ比Pdは0%〜100の範囲である。PWM変調回路140には電源電圧E1が供給される。電源電圧E1はたとえば5Vである。もちろん、他励発振型のPWM方式ではなく、自励発振型PWM方式のD級電力増幅器を用いることもできる。
【0006】
第1の出力端子141及び第2の出力端子142から各別に出力されたPWM信号P1及びPWM信号P2は第1のD級ドライバー150及び第2のD級ドライバー160に各別に入力される。第1及び第2のD級ドライバー150,160には電源電圧E2が供給される。電源電圧E2はたとえば10V〜30Vであり、PWM変調回路140に供給される電源電圧E1よりも大きく設定されるのが一般的である。
【0007】
第1のD級ドライバー150の第1の信号出力端子152にはPWM信号P1aが、第2のD級ドライバー160の第2の信号出力端子162にはPWM信号P2aが各別に出力される。PWM信号P1aとPWM信号P2aは互いに極性が反転された信号であり、これらは互いに相補的な関係を有する。PWM信号P1aはPWM信号P1と同じ極性であるがそれらの振幅値は異なる。一般的にそれらの振幅値は電源電圧E1,E2にほぼ等しい。PWM信号P2aとPWM信号P2の関係についても同じことが言える。
【0008】
第1の信号出力端子152にはインダクタL1の一端が接続され、その他端にはキャパシタC1,C0及び負荷RLの一端が接続されている。インダクタL1とキャパシタC0はローパスフィルタを構成し、このローパスフィルタによってPWM信号P1aはアナログ出力信号Sout1として復調される。キャパシタC1はハイパスフィルタの機能を有する。負荷RLはスピーカに相当し、このスピーカはボイスコイルを有する。
【0009】
第2の信号出力端子162にはインダクタL2の一端が接続され、その他端にはキャパシタC2,C0及び負荷RLの他端が接続されている。インダクタL2とキャパシタC0はローパスフィルタを構成し、このローパスフィルタによってPWM信号P2aはアナログ出力信号Sout2として復調される。キャパシタC2はハイパスフィルタの機能を有する。アナログ出力信号Sout2とアナログ出力信号Sout1とは互いに相補的な関係を有する。
【0010】
図8は、図7に示すD級電力増幅器100の信号入力端子120が天絡又は地絡した場合を模式的に示す。信号入力端子120が、端子121に接続又は接触され、信号入力端子120に電源電圧Vccが印加された場合には天絡の状態に置かれる。信号入力端子120が端子122に接続又は接触し、信号入力端子120に接地電位が印加された場合には地絡の状態に置かれる。
【0011】
図8において、信号入力端子120が何らかの操作の不具合によって端子121に電気的に接続又は接触された場合、すなわち天絡した場合には、信号入力端子120には通常の動作電圧から大きく逸脱した電源電圧Vccが印加される。これによって、プリアンプ130及びPWM変調回路140の回路動作は通常状態から大きく逸脱してしまい、PWM変調回路140の第1の出力端子141にはデューティ比が100%に維持されたままのPWM信号P1が生じる。デューティ比が100%に維持されたPWM信号P1はPWM変調回路140に供給される直流(DC)電源電圧E1にほぼ等しくハイレベルに維持された状態に置かれる。
【0012】
信号入力端子120が天絡したときにPWM変調回路140の第2の出力端子142にはPWM信号P2が生じる。PWM信号P2はPWM信号P1とは逆極性すなわち相補的な信号であるのでデューティ比が0%に維持されたままの接地電位にほぼ等しいローレベルの直流(DC)電圧が生じる。
【0013】
信号入力端子120が天絡したときに、PWM変調回路140の第1の出力端子141及び第2の出力端子142に生じる電源電圧E1及び接地電位(GND)は、第1のD級ドライバー150及び第2のD級ドライバー160に各別に伝達され、第1の信号出力端子152及び第2の信号出力端子162から各別に導出される。このため、信号入力端子120が天絡したときには、第1の信号出力端子152と第2の信号出力端子162との間の電位差は第1のD級ドライバー150に供給される電源電圧E2にほぼ等しくなり、負荷RLすなわちスピーカには直流(DC)成分の過大電流ipが第1の信号出力端子152から第2の信号出力端子162に向かって流れる。過大電流ipによって、負荷RL(スピーカ)は劣化又は破損に至るという不具合が生じ得る。
【0014】
上述は信号入力端子120が天絡した場合であるが、次に信号入力端子120が地絡した場合について簡単に述べる。図8において、信号入力端子120が端子122(GND)に接続又は接触した場合には地絡の状態に置かれる。信号入力端子120が地絡した場合には天絡の場合とは電気的に逆の動作状態が起こる。すなわち、PWM変調回路140の第1の出力端子141には接地電位(GND)にほぼ等しいローレベルの電圧が、第2の出力端子142にはPWM変調回路140の電源電圧E1にほぼ等しいハイレベルの直流(DC)電圧がそれぞれ生じる。
【0015】
PWM変調回路140の出力側に生じたこうした直流(DC)電圧は、第1のD級ドライバー150及び第2のD級ドライバー160に伝達され、第1の信号出力端子152及び第2の信号出力端子162から各別に導出される。第1の信号出力端子152にはローレベルのDC電圧が第2の信号出力端子162には第2のD級ドライバー160に供給される電源電圧E2とほぼ等しい直流(DC)電圧が生じる。第1のD級ドライバー150と第2のD級ドライバー160には同じ大きさの電源電圧E2が供給されているので、信号入力端子120が地絡した場合に流れる過大電流ipは、天絡した状態とは逆の方向、すなわち、第2の信号出力端子162から第1の信号出力端子152に向かって流れる。いずれにしても信号入力端子120が地絡した場合にも負荷(スピーカ)RLには天絡した場合と同様の過大電流ipが流れる。これによって、負荷RL(スピーカ)は劣化又は破損に至るという不具合が生じ得る。
【0016】
特許文献1は、入力ショートに起因するスピーカの破壊や焼損を防止する電力増幅回路を提案する。すなわち、信号入力端子が地絡した場合、スピーカの劣化及び破損を未然に防止するための電力増幅回路を提案する。その段落番号0018を参照すると、BTL増幅回路の入力端がショートされると電力増幅回路の出力にオフセットが常に発生するようになること、また、ショートによりBTL増幅回路はあたかも負の過大入力が印加されたような状態になり、BTL増幅器において出力電流が(−)出力端子から負荷を介して(+)出力端子に流れることを示唆する。
【0017】
特許文献2は、DC出力がスピーカに印加されることを防止するためのD級増幅器を提案する。その段落番号0005を参照すると、増幅器からDC出力がスピーカに印加され、スピーカのコーン紙がDC的に駆動された状態が継続すると、スピーカが破損するおそれがある旨指摘する。
【0018】
特許文献2は、アナログ入力信号をパルス幅変調してアナログ信号の信号レベルに応じてデューティ比が相補的に変化する第1及び第2のパルス信号を生成して出力するように構成されたD級電力増幅器であって、第1及び第2パルス信号をアナログ入力信号の信号レベルに応じて相補的に所定レベルとなる第1及び第2信号に変換する信号変換部と、第1及び第2信号の何れかが所定時間にわたって所定レベルを維持したことを検出するための計時部とを備える。ここで、「所定レベル」とは所定時間以上にわたって維持されるローレベル又はハイレベルを指す。また、「所定時間」とは計時部で計時されるたとえば25msといった具合の時間である。所定時間のたとえば25msは周波数が40Hzの周期に当たるとしている。
【0019】
特許文献2に開示された技術的思想の特徴は特に信号変換部と計時部とを備えることにあるものと思料する。計時部に関する技術的思想は後述の本発明と少し類似していることをあらかじめ申し添えておく。
【特許文献1】特開2000−151297号公報
【特許文献2】特開2008−17353号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
本発明のD級電力増幅器は、上記各特許文献に提起された各種の問題点や不具合を克服するものであり信号入力端子が天絡、地絡した場合に、スピーカに流れる過大電流によって生じる劣化や破損を未然に防止することができるD級電力増幅器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明のD級電力増幅器は、アナログ信号をローレベル及びハイレベルの2値化信号に変調するパルス幅変調回路を備えたD級電力増幅器であって、パルス幅変調回路から出力された2値化信号の前記ハイレベル又はローレベルが所定時間維持されたときにパルス幅変調回路の後段に接続された回路動作をオフにする。これによって、D級電力増幅器の信号出力端子をローレベルに維持し、信号出力端子に接続されるスピーカに流れる電流を零に設定することがきるのでスピーカの劣化や破損を未然に防止することができる。
【0022】
本発明の別のD級電力増幅器は、パルス幅変調回路の後段に接続される回路はデッドタイム生成回路である。こうした回路構成によれば、デッドタイム生成回路は一般的にパルス幅変調回路と同じ大きさの電源電圧が供給されるので両者の回路接続が容易となる。
【0023】
本発明の別のD級電力増幅器は、三角波信号生成回路又は矩形波パルスを生成する発振器を有し、三角波信号又は矩形波パルスを基にして生成されたクロックパルスを入力信号とし、2値化信号をリセット信号として作動する第1のカウンター及び第2のカウンターを有し、第1のカウンターはパルス幅変調回路から出力された2値化信号のローレベルが所定時間維持されたときに作動し、第2のカウンターはパルス幅変調回路から出力された2値化信号の前記ハイレベルが所定時間維持されたときに作動して、第1のカウンター又は第2のカウンターが作動したときにデッドタイム生成回路の回路動作をオフにする。これによれば、本来、三角波信号は他励発振型PWM変調方式のD級電力増幅器には不可欠な構成要件であるから、回路規模をあまり増大させることなくD級電力増幅器を提供することができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明のD級電力増幅器は、信号入力端子が天絡、地絡した場合に、PWM信号のデューティ比が100%又は0%になることを検出し、あらかじめ設定された所定時間の間デューティ比が100%又は0%維持された場合にPWM変調回路の後段に接続されるD級電力増幅器を構成する回路をオフさせてスピーカに過大電流が流れることを未然に防止するものであるから、スピーカの劣化や破損を未然に防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
図1に本発明の一実施の形態にかかるD級電力増幅器200のブロック回路図を示す。本発明にかかる技術的思想の特徴を端的に述べるならば、デューティ比が0%又は100%のPWM信号が所定時間の間維持された場合に作動するDC検出回路250を設け、DC検出回路250によって、PWM変調回路240の後段に接続される回路の動作をオフにすることである。すなわち、アナログ信号をパルス幅変調した場合、デューティ比が0%又は100%に変調されたPWM信号が出力されるのは通常の動作状態の範疇ではあるが、それらの状態が所定時間維持された場合は正常状態から逸脱した、いわゆる異常状態であると判定する。正常状態から逸脱した異常状態は、たとえば信号入力端子が天絡、すなわち、信号入力端子が不意に電源電圧端子に接触又は接続された場合である。又、信号入力端子が地絡、すなわち、信号入力端子が不意に接地電位に接触又は接続された場合も正常状態から逸脱した異常状態であると判定する。こうした異常状態の場合はPWM変調回路の出力にはデューティ比が0%又は100%、すなわち、ローレベルとハイレベルの直流(DC)電圧が生じる。本発明はPWM変調回路が異常状態に陥った場合に、PWM変調回路の後段に接続される回路動作をオフさせ、スピーカに直流電流が流れ続けるという不具合を未然に防止するというものである。
【0026】
なお、図1に示すD級ドライバー260は従前のD級電力増幅器に設けられているものであって、本発明の特有の構成要件ではないことを申し添える。
【0027】
図1に示すD級電力増幅器200は、D級増幅部210を主回路として構成されている。D級増幅部210は、PWM変調回路240、DC検出回路250、D級ドライバー260及び信号出力端子295を有する。D級ドライバー260はデッドタイム生成回路270、レベルシフト回路280、ハイサイドゲートドライバー290H、ローサイドゲートドライバー290L、パワートランジスタTR1、パワートランジスタTR2及び信号出力端子295を有する。信号出力端子295には図示しないスピーカが接続される。
【0028】
PWM変調回路240、DC検出回路250及びデッドタイム生成回路270に供給される電源電圧E1は相等しくたとえば5Vに設定される。レベルシフト回路280、ハイサイドゲートドライバー290H、ローサイドゲートドライバー290L、パワートランジスタTR1及びパワートランジスタTR2に供給される電源電圧E2は電源電圧E1よりも一般的に大きく設定されている。なお、説明の都合上、レベルシフト回路280、ハイサイドゲートドライバー290H、ローサイドゲートドライバー290L、パワートランジスタTR1及びパワートランジスタTR2には同じ電源電圧E2が供給されるものとして示したが、こうした電源電圧の条件は1つの実施の形態に過ぎないことを申し添える。したがって、たとえばレベルシフト回路280とパワートランジスタTR1に供給する電源電圧が互いに相違する場合もあり得る。
【0029】
図1に示すD級電力増幅器200はいわゆるシングルエンドタイプのものであって、BTL方式の電力増幅器を構成する場合は別のもう1つのD級電力増幅器200を用意し、これら2つのD級電力増幅器200の信号出力端子295の間に図示しないスピーカを接続することになる。
【0030】
図1において、信号入力端子120にアナログ入力信号Sinが入力されると、そのアナログ入力信号Sinはプリアンプ130に入力される。プリアンプ130の後段には利得調整機能をもたせたたとえば利得調整回路を設けてもよい。プリアンプ130から出力されたアナログ信号はPWM変調回路240に入力される。PWM変調回路240には図示しないたとえば三角波信号を生成する三角波信号生成回路が設けられている。三角波信号によってアナログ信号を変調する方式は他励発振型PWM方式として知られている。他励発振型PWM方式のほかには自励発振型PWM方式も知られている。自励発振型PWM方式は他励発振型PWM方式と異なり三角波信号生成回路を用意する必要がなく、積分増幅器の出力側から三角波信号を出力することができる。また、他励発振型PWM方式ではコンパレータが用意されるが自励発振型PWM方式はたとえばシュミットトリガ回路が用意される。
【0031】
図1において通常動作時は、PWM変調回路240の出力端子244には周期T0、ハイレベルの期間T1であるPWM信号Pが出力される。PWM信号Pのデューティ比PdはPd=T1/T0で表すことができる。通常動作時とは信号入力端子120が天絡又は地絡していない状態である。
【0032】
DC検出回路250はPWM変調回路240及びD級ドライバー260との間で信号の授受を行う。DC検出回路250の第1の入力端子250aにはPWM変調回路240の出力端子244から出力されたPWM信号Pが信号導出線246を介して入力される。第2の入力端子250bにはPWM信号Pがインバータ247によって極性反転されたPWM信号が入力される。したがって、第1の入力端子250a及び第2の入力端子250bには互いに極性が反転されたすなわち、相補的な関係をもったPWM信号が各別に入力される。第2の入力端子250bにはインバータ247を介さずにPWM変調回路240に図示しない出力端子を設け、この出力端子からPWM信号Pと極性が反転された図示しない別のPWM信号を取り出してこのPWM信号を入力するようにしてもよい。
【0033】
DC検出回路250には、PWM変調回路240から信号導出線245を介して図示しないクロックパルスが入力される。クロックパルスはDC検出回路250に内蔵されたカウンターの回路動作の基準となる信号となる。クロックパルスはPWM変調回路240に設けた三角波信号生成回路を矩形波パルスに波形整形して生成することができる。なお、信号導出線245の信号経路に分周器を設けてDC検出回路250を作動させるに好適なクロックパルスに波形整形してもよい。たとえば、PWM変調回路240に用いるキャリア信号の周波数は通常、百数十KHzから1MHzであり周期に置き換えると10μs〜1μsとなり比較的周期は小さなものになってしまうが、分周器を用いてこれらの周期の数十倍から数百倍の大きさのたとえば周期を256μsまで大きくしてもよい。
【0034】
なお、本発明にかかるD級電力増幅器200の通常動作状態においては、DC検出回路250は作動しないような回路構成と適切な信号処理がなされる。
【0035】
図2は図1に示したD級増幅部210,210Aを2つ用意し、BTL方式D級電力増幅器400を構成した一実施の形態を示す。BTL方式D級電力増幅器400は、図1に示すシングルエンドタイプのD級電力増幅器200と同様に、信号入力端子120及びプリアンプ130を有する。信号入力端子120にはアナログ入力信号Sinが入力される。プリアンプ130から出力される図示しないアナログ信号はD級増幅部210に直接入力されるとともに、インバータ135を介してもう1つのD級増幅部210Aに入力される。D級増幅部210及び210Aはほぼ同じ回路構成と同じ回路機能を有する。D級増幅部210及び210Aの出力側には信号出力端子295及び295Aが各別に接続されている。
【0036】
信号出力端子295にはインダクタL1の一端が接続され、その他端にはキャパシタC1,C0及び負荷RLの一端が接続されている。インダクタL1とキャパシタC0はローパスフィルタを構成し、このローパスフィルタによってPWM信号P1はアナログ出力信号Sout1に復調される。キャパシタC1はハイパスフィルタの機能を有する。負荷RLはスピーカに相当し、このスピーカはボイスコイルを有する。
【0037】
信号出力端子295AにはインダクタL2の一端が接続され、その他端にはキャパシタC2,C0及び負荷RLの他端が接続されている。インダクタL2とキャパシタC0はローパスフィルタを構成し、このローパスフィルタによってPWM信号P2はアナログ出力信号Sout2に復調される。キャパシタC2はハイパスフィルタの機能を有する。アナログ出力信号Sout2とアナログ出力信号Sout1とは互いに逆極性の関係に置かれている。
【0038】
図3は、図2に示す本発明にかかるBTL方式D級電力増幅器400が天絡又は地絡される場合を模式的に示す。図3に示すD級増幅部210及び210Aは図2に示すものに対応し、両者には同じ回路が内蔵されている。たとえば、D級増幅部210のPWM変調回路240はD級増幅部210AのPWM変調回路240Aと同じである。同様にインバータ247はインバータ247Aと同じである。以下同様に、同じ回路機能を有する構成要件を括弧内に併記すると次のとおりになる。DC検出回路250(250AA)、D級ドライバー260(260A)、レベルシフト回路280(280A)、ハイサイドゲートドライバー290H(290HA)、ローサイドゲートドライバー290L(290LA)、パワートランジスタTR1(TR1A)、パワートランジスタTR2(TR2A)、信号出力端子295(295A)となる。
【0039】
図3において、信号入力端子120が端子121に接続又は接触し、信号入力端子120に電源電圧Vccが印加された場合には天絡の状態に置かれる。信号入力端子120が端子122に接続又は接触し、信号入力端子120が接地電位GNDに接続又は接触した場合には地絡の状態に置かれる。
【0040】
図3において、信号入力端子120が何らかの操作の不具合によって端子121に接触又は接続された場合、すなわち天絡した場合には、信号入力端子120には通常の動作電圧から大きく逸脱した電源電圧Vccが印加される。これによって、プリアンプ130及びPWM変調回路240,240Aの回路動作状態は通常の回路動作状態から大きく逸脱してしまい、PWM変調回240,240Aの出力端子244,244Aにはそれぞれデューティ比が100%,0%に維持されたままのPWM信号P1及びP2が各別に生じる。
【0041】
信号入力端子120が天絡したときであって、DC検出回路250,250AAが作動していない場合、PWM変調回路240,240Aの出力端子244,244Aに生じたハイレベル及びローレベルの直流(DC)電圧はそのまま伝達される。すなわち、D級ドライバー260の信号出力端子295にハイレベルのDC(直流)電圧が、D級ドライバー260Aの信号出力端子295Aにはローレベルの直流(DC)電圧がそれぞれ生じる。このため信号出力端子295と信号出力端子295Aの間の電位差は電源電圧E2に等しくなり、負荷RL、すなわちスピーカには直流(DC)成の分過大電流ipが流れ、この過大電流ipによってスピーカは劣化又は破損に至るという不具合が生じ得る。
【0042】
上述は信号入力端子120が天絡した場合であるが、次に信号入力端子120が地絡した場合について簡単に述べる。図3において、信号入力端子120が端子122に接続又は接触した場合には地絡の状態に置かれる。信号入力端子120が地絡した場合には天絡の場合とは電気的に逆の動作状態が起こる。すなわち、PWM変調回路240の出力端子244には接地電位(GND)にほぼ等しいローレベルの電圧が生じ、PWM変調回路240Aの出力端子244Aにはハイレベルの直流(DC)電圧E1が生じる。
【0043】
PWM変調回路240の出力端子244がローレベルに維持されPWM変調回路240Aの出力端子244Aがハイレベルに維持されたときであって、DC検出回路250,250AAが作動していない場合にはD級ドライバー260の信号出力端子295はローレベルに、D級ドライバー260Aの信号出力端子295Aはハイレベルの状態にそれぞれ置かれる。すなわち、信号入力端子120が天絡したときとは電気的に逆転した状態に置かれる。このため、負荷RL、すなわちスピーカに流れる直流(DC)成分の過大電流ipは信号出力端子295Aから信号出力端子295に向かって流れる。この過大電流ipによってスピーカは劣化又は破損に至るという不具合が生じ得る。
【0044】
BTL方式のD級電力増幅器において、信号入力端子120が天絡又は地絡したときにスピーカ(RL)に流れる電流の向きは逆転するが、いずれにしても前の状態と同じ程度の過大電流ipが流れるという異常状態に置かれる。本発明にかかるDC検出回路250,250AAはこうした不具合を排除するために設けられている。
【0045】
DC検出回路250,250AAは、PWM変調回路240,240Aの信号入力端子120が天絡又は地絡したときに、PWM変調回路240,240Aの出力端子244及び出力端子244Aに出力されるローレベル及びハイレベルのDC電圧によって作動するカウンターを有する。このカウンターにおいてDC電圧(ローレベル,ハイレベル)を検出するための所定時間を設定し、DC電圧が所定時間まで維持されたとき、すなわち所定時間に達したときに初めてDC検出回路250,250AAが作動する。
【0046】
図3において、DC検出回路250,250AAが作動すると、PWM変調回路240の後段に接続されたD級ドライバー260の回路動作をオフにする。とりわけ、D級電力増幅器においてはPWM変調回路240,240Aのすぐ後段には、PWM変調回路240,240A及びDC検出回路250,250AAと同じ電源電圧E1が供給されるデッドタイム生成回路270,270Aが接続されているのが一般的である。こうしたことに鑑み本発明の一実施の形態にいては、デッドタイム生成回路270の回路動作をオフさせるというものである。電源電圧が同じであればそれらの間の信号授受は比較的容易となる。デッドタイム生成回路270がオフされるとその後続のレベルシフト回路280,280A、ハイサイドゲートドライバー290H,290HA、パワートランジスタTR1,TR1A及びパワートランジスタTR2,TR2Aのすべてをオフさせることができる。これによって、信号出力端子295,295Aの電位はローレベルとなり、負荷RL、すなわちスピーカに印加される電位差は零となり、過大電流ipはもちろんのこと、電流の流れをほぼ零にすることができ、スピーカの劣化や破損を未然に防止することができる。
【0047】
図4は本発明の一実施の形態にかかるD級電力増幅器200の主要回路部を示す。特にDC検出回路250の具体的な回路構成を表す。なお、図4の主要部の信号波形については後述の図5に示す。
【0048】
プリアンプ130から出力されたアナログ信号はPWM変調回路240に入力される。前にも述べたが、本発明にかかるD級電力増幅器200のPWM変調方式は、周波数が固定され周期が変わらない三角波信号をキャリア信号とする他励発振型PWM変調方式を採用している。もちろん、本発明にかかるD級電力増幅器200には前にも述べたが自励発振型PWM方式を用いることもできる。
【0049】
PWM変調回路240は、積分回路241、VCO242及びコンパレータ243を有する。積分回路241の主回路は図示しない演算増幅器と積分用キャパシタとで構成されている。VCO242は、積分回路241から出力されるアナログ信号をPWM信号に変調するためのいわゆるキャリア信号としての三角波信号Ps及び矩形波パルスPrを生成する。三角波信号Psは他励発振型PWM変調回路には用意しなければならない信号源ではあるが、矩形波パルスPrは後述のDC検出回路250を作動させるために用意されている。本発明においてVCO242は電圧制御型発振器だけを指すのではなく汎用性のある一般的によく知られた発振器であると理解すべきである。当業者には三角波信号を矩形波パルスに波形整形することは比較的容易なことであり、又この逆の波形整形操作も比較的容易なことである。したがって、矩形波パルスPrは用意されているが三角波信号Psを生成するための三角波生成回路が用意されていない場合には、矩形波パルスPrを信号源としてたとえば、スイッチング回路、電流源及びキャパシタ等を用意して、三角波信号Psを生成することは当業者にとっては容易なことである。
【0050】
本発明の一実施の形態において三角波信号Psの周波数は500KHzとし、その振幅値は3Vに設定した。三角波信号Psの周波数は可聴音声信号の周波数帯域である20Hz〜20KHzよりも十分に大きなたとえば、20KHzの20倍以上の周波数に設定されるのが一般的である。また、その振幅値の設定においてはPWM変調回路240に供給される電源電圧E1の大きさ及びPWM変調回路240の電圧利得を考慮して決定するのが一般的である。本発明においてはPWM変調回路240に供給する電源電圧E1は5Vとし、ダイナミックレンジ及び電源電圧E1が12VのときのPWM変調回路240の電圧利得を4倍(12V/3V=4)に設定するために三角波信号の振幅値は3Vの大きさに設定するものとした。
【0051】
コンパレータ243は積分回路241から入力されたアナログ信号を三角波信号Psによってパルス幅変調するために用意されている。コンパレータ243から出力されパルス幅変調された2値化信号のデューティ比は0%から100%の範囲である。デューティ比が0%のときに2値化信号はほぼ完全にローレベルとなり、このローレベルはほぼ接地電位すなわち0Vに相当する。デューティ比が100%のときに2値化信号は完全にハイレベルとなり、このハイレベルはほぼ電源電圧E1に等しい。2値化信号にパルス幅変調されたPWM信号PはD級ドライバー260に入力される。D級ドライバー260は前にも述べたように従前よく知られたデッドタイム生成回路270、レベルシフト回路280及びハイサイドドライバー290H、ローサイドドライバー290L、パワートランジスタTR1及びパワートランジスタTR2を有する。
【0052】
パワートランジスタTR1,TR2はそれぞれハイサイドドライバー290H、ローサイドドライバー290Lによってそれぞれ駆動される。パワートランジスタTR1はハイサイドトランジスタに相当しトランジスタTR2はローサイドのトランジスタに相当する。これら両者トランジスタは縦続接続されている。パワートランジスタTR1及びTR2の2つのトランジスタを同じタイミングでオンからオフ、オフからオンに切り替えると両トランジスタがどちらもオンになる期間が生じる。このため、ハイサイド及びローサイドの両トランジスタをどちらもオフする期間を設ける必要があるが、この期間をデッドタイムと称している。デッドタイムの期間を生成するのがデッドタイム生成回路270である。
【0053】
レベルシフト回路280はハイサイドトランジスタ、すなわちパワートランジスタTR1のゲートに印加する電圧を、ソース電位を基準とする振幅電圧を生成するために用意されている。ローサイドゲートドライバー290L及びローサイドトランジスタであるパワートランジスタTR2側には不要な回路である。
【0054】
パワートランジスタTR1及びTR2は前にも述べたように縦続接続されており、両トランジスタの共通接続点は信号出力端子295に接続されている。信号出力端子295にはローパスフィルタを介してスピーカが接続される。
【0055】
本発明の特徴の1つであるDC検出回路250は通常動作状態では作動しないような回路構成を採用し、かつ、そのための信号処理が行われる。ここで、「通常動作状態」とは、PWM変調回路240にデューティ比が0%〜100%の2値化信号が所定時間の範囲で出力されている場合を指す。もちろんアナログ信号が何ら入力されていない、すなわち無信号時の場合はデューティ比が50%の2値化信号出力されるから「通常動作状態」である。「通常動作状態」から逸脱した場合、すなわち異常状態とは、デューティ比が0%又は100%の状態が所定時間以上続く場合である。その多くは、信号入力端子120が電源端子又は接地端子に接続された場合に生じる。信号入力端子120が電源端子又は接地端子に所定時間を越えて接続されると、PWM変調回路240の回路動作点は正常状態から大きく逸脱し、PWM変調回路240の出力にはデューティ比が0%又は100%の直流(DC)電圧が長時間に渡って維持された状態が続く。こうした直流(DC)電圧が所定時間を越えて出力される場合が「通常動作状態」から逸脱した状態、すなわち異常状態であり、天絡又は地絡された状態である。
【0056】
本発明にかかるDC検出回路250の回路機能は概括的に述べると2つの回路機能を有する。1つは、「通常動作状態」と「異常動作状態」とを判別するために「所定時間」なるものを設定することである。すなわち、DC検出回路250はこの「所定時間」を設定するためのいわば「所定時間」を設定するための回路機能を有する。もう1つはこの「所定時間」を越えたときにPWM変調回路240の後段に接続された回路部の回路動作をオフさせるための制御信号を生成する制御信号生成部としての回路機能を有する。
【0057】
図4を正視して、DC検出回路250はほぼ中央部から下半部にかけて配置されている。DC検出回路250は、フリップフロップCN01〜CN08で構成された第1のカウンターCd0と、フリップフロップCN11〜CN18で構成された第2のカウンターCd100を有する。第1のカウンターCd0は図4を正視して下半部に配置されている。第1のカウンターCd0はPWM変調回路240の出力端子244に出力された2値化信号のローレベルが所定時間維持されたときに作動する。ローレベルはデューティ比がほぼ0%のときに生じる。「通常動作状態」において、第1のカウンターCd0の回路動作は常時オフに置かれている。
【0058】
第1のカウンターCd0の初段のフリップCN01の入力端子CPにはVCO242で生成された矩形波パルスPrが分周器248によって分周された、クロックパルスCLKが入力される。フリップフロップCN01のQバー出力は次段のフリップフロップの入力端子CPに入力されている。フリップフロップCN01のD端子はそのQバー端子と共通接続され、その共通接続点は次段のフリップフロップCN02の入力端子CPに接続されている。
【0059】
フリップフロップCN01のQ出力及びQバー出力にはその入力端子CPに入力されたクロックパルスCLKを1/2に分周した分周信号が出力される。したがって、クロックパルスCLKの周期Tclkがたとえば256μsとすればフリップフロップCN01のQ出力及びQバー出力には周期が526μsの分周信号が出力される。フリップフロップCN01のQ出力は分周信号Q01として出力され、否定論理積(NAND)回路251の1つの入力端に入力される。なお、否定論理積(NAND)回路251は論理積(AND)回路で構成することもできる。同様にフリップフロップCN02〜CN08も順次同様の分周動作を行い、最終段のフリップフロップCN08のQ出力及びQバー出力にはクロックパルスCLKを2の8乗倍、すなわち、クロックパルスCLKの周期Tclkを基準にするとその256倍の大きさに分周した分周信号Q08が出力される。たとえば、クロックパルスCLKの周期Tclk=256μsとすると、フリップフロップCN08の分周信号Q08の周期Twは、Tw=256×256=65.536msとなる。この周期Twは上述の「所定時間」に相当する。
【0060】
フリップフロップCN01〜CN08のリセット端子は共通接続されている。それらの端子の表示は文字「R」の上部に線(バー)を付したいわゆるRバー端子として表示する。フリップフロップのリセット端子がRバーで表示されている場合は、リセット端子がローレベルのときにフリップフロップがリセットされる回路構成であることを表す。フリップフロップCN01〜CN08のRバー端子にはインバータ236を介してPWM変調回路240の出力端子244に生じたPWM信号Pが入力される。PWM信号Pはデューティ比が0%〜100%の範囲でパルス幅変調され、ローレベル及びハイレベルが繰り返された信号であるので、フリップフロップCN01〜CN08は通常動作状態ではリセット状態に置かれ、第1のカウンターCd0の回路動作は常時オフしている。
【0061】
第1のカウンターCd0が作動するのは、出力端子244に出力されるPWM信号Pのデューティ比が0%になったときである。すなわち、出力端子244がローレベルになると、そのローレベルはインバータ236によって反転されてハイレベルとなり、フリップフロップCN01〜CN08のリセット端子にはハイレベルが印加されリセット状態が解除された状態すなわちセット状態に入る。セット状態に入ると、非同期式で作動する第1のカウンターCd0は所期の分周動作を行う。
【0062】
フリップフロップCN01,CN02,CN03及びCN04の各分周信号Q01,QN02,QN03及びQN04は否定論理積回路(NAND)251に設けられた4つの入力端に各別に入力されている。同様にフリップフロップCN05,CN06,CN07及びCN08の各分周信号Q05,QN06,QN07及びQN08は否定論理積(NAND)回路252に設けられた4つの入力端に各別に入力されている。入力端の数の関係上、否定論理積(NAND)回路を2つ用いたが、フリップフロップの段数だけの入力端が確保できるならば1つの否定論理積(NAND)回路又は論理積(AND)回路を用意すれば足りる。
【0063】
否定論理積(NAND)回路251,252の出力は否定論理和(NOR)回路256の2つの入力端に入力されている。否定論理積(NAND)回路251の出力端及び否定論理和(NOR)回路256の一方の入力端はノードN1で表示され、否定論理積(NAND)回路252の出力端及び否定論理和(NOR)回路256の他方の入力端はノードN2で表示されている。否定論理和(NOR)回路256の出力端は論理和(OR)回路258の一方の入力端と共通接続され、この共通接続点にはノードN3が表示されている。なお、否定論理積(NAND)回路251,252を論理積(AND)回路で構成し、否定論理和(NOR)回路256,257を論理和(OR)回路で構成してもよい。論理和(OR)回路258の出力端にはノードN7が表示され、ノードN7に出力される制御信号は信号導出線259を介してラッチ回路275に入力されている。
【0064】
第2のカンウターCd100は図4を正視するとほぼ真ん中に配置されている。第2のカンウターCd100は第1のカウンターCd0と基本的に同じ回路動作を行う。第2のカウンターCd100は、フリップフロップCN11〜CN18の8段のフリップフロップで構成されている。初段のフリップCN11の入力端子CPにはVCO242で生成された矩形波パルスPrが分周器248によって分周されたてクロックパルスCLKが入力されている。フリップフロップCN11のQ出力は否定論理積(NAND)回路253の1つの入力端に入力されている。フリップフロップCN11のQバー出力は次段のフリップフロップCN12の入力端子CPに入力されている。フリップフロップCN11のD端子はそのQバー端子と共通接続され、共通接続点は次段のフリップフロップCN12の入力端子CPに接続されている。
【0065】
フリップフロップCN11のQ出力及びQバー出力には入力端子CPに入力されたクロックパルスCLKを1/2に分周した分周信号が出力される。したがって、クロックパルスCLKの周期Tclkがたとえば256μsとすればフリップフロップCN11のQ出力及びQバー出力には周期が526μsの分周信号が出力される。同様にフリップフロップCN12〜CN18も順次同様の分周動作を行うので、最終段のフリップフロップCN18のQ出力及びQバー出力にはクロックパルスCLKを2の8乗倍、すなわち、クロックパルスCLKの周期Tclkを基準にするとその256倍の大きさの分周信号が出力される。たとえば、クロックパルスCLKの周期Tclk=256μsとすると、フリップフロップCN08の分周出力Q08の周期Twは、Tw=256×256=65.536msとなる。この周期Twは本明細書において「所定時間」に相当する。
【0066】
フリップフロップCN11〜CN18のリセット端子は共通接続されている。それらの端子の表示は文字「R」の上部に線(バー)を付したいわゆるRバー端子としている。フリップフロップのリセット端子がRバーで表示される場合は、リセット端子がローレベルのときにフリップフロップがリセットされる回路構成であることを表す。フリップフロップCN11〜CN18のRバー端子にはPWM変調回路240の出力端子244に生じたPWM信号Pが入力される。PWM信号Pはデューティ比が0%〜100%のパルス幅変調された、ローレベル及びハイレベルが繰り返された信号であるので、フリップフロップCN11〜CN18は、PWM変調回路240が通常に動作しているときはリセット状態に置かれ、第2のカウンターCd100の回路動作はオフされている。
【0067】
第2のカウンターCd100が作動するのは、PWM変調回路240の出力端子244に出力されたPWM信号Pのデューティ比が100%になったときである。すなわち、出力端子244がハイレベルになると、フリップフロップCN11〜CN18のリセット端子であるRバー端子にはハイレベルの信号が印加されてリセット状態が解除されセット状態に入る。セット状態に入ると、非同期式で作動する第2のカウンターCd100は所期の分周動作を行う。
【0068】
フリップフロップCN11,CN12,CN13及びCN14の各分周信号Q11,QN12,QN13及びQN14は否定論理積(NAND)回路253に設けられた4つの入力端に各別に入力されている。同様にフリップフロップCN15,CN16,CN17及びCN18の各分周信号Q15,QN16,QN17及びQN18は否定論理積(NAND)回路254に設けられた4つの入力端に各別に入力されている。入力端の数の関係上、否定論理積(NAND)回路を2つ用いたが、フリップフロップの段数だけの入力端が確保できるならば1つの否定論理積(NAND)回路を用意すれば足りる。
【0069】
否定論理積(NAND)回路253,254の出力は否定論理和(NOR)回路257の2つの入力端に各別に入力されている。否定論理積(NAND)回路253の出力端及び否定論理和(NOR)回路257の一方の入力端はノードN4で表示され、否定論理積(NAND)回路254の出力端及び否定論理和(NOR)回路257の他方の入力端はノードN5で表示されている。なお、否定論理積(NAND)回路253,254を論理積(AND)回路で構成し、否定論理和(NOR)回路257を論理和(OR)回路で構成してもよい。否定論理和(NOR)回路257の出力端は論理和(OR)回路258の他方の入力端と共通接続され、この共通接続点にはノードN6が表示されている。論理和(OR)回路258の出力端にはノードN7が表示され、ノードN7に出力される制御信号は信号導出線259を介してラッチ回路275に入力されている。
【0070】
論理和(OR)回路258の一方側の入力、すなわちノードN3には第1のカウンターCd0から出力された制御信号Pcd0が、論理和(OR)回路258の他方側すなわちノードN6には第2のカウンターCd100から出力された制御信号Pcd100が入力されている。したがって、論理和(OR)回路258の出力には、第1のカウンターCd0又は第2のカウンターCd100から出力された制御信号のいずれかがハイレベルのときにハイレベルの制御信号が出力される。論理和(OR)回路258の出力にいずれかの制御信号が出力されると、その制御信号によってラッチ回路275が作動し、D級ドライバー260の回路動作を完全にオフさせる。D級ドライバー260にはいくつかの回路機能が内蔵されている。回路動作をオフにする対象としてはPWM変調回路240のすぐ後段に接続されているデッドタイム生成回路270が適切である。その理由は2つあり、1つはデッドタイム生成回路270に供給される電源電圧は一般的にPWM変調回路240、DC検出回路250及びラッチ回路275に供給される電源電圧E1と同じであるので回路接続又は信号の授受が容易になるからである。
【0071】
図5は本発明の一実施の形態にかかるD級ドライバー260を少し詳しく表したブロック回路図である。特にラッチ回路275と、D級ドラーバー260の中のデッドタイム生成回路270との回路接続を詳しく表す。なお、DC検出回路250については説明に必要な回路部分だけを表示し、その他の回路部は割愛している。前に述べた説明と一部重複するが再度これらの回路動作について説明する。
【0072】
図5において、プリアンプ130から出力されたアナログ信号はPWM変調回路240に入力される。前にも述べたが、本発明にかかるD級電力増幅器200にはPWM変調方式が、周波数を固定し周期が変わらない三角波信号をキャリア信号とする他励発振型PWM変調方式を採用している。なお、本発明にかかるDC検出回路250を自励発振型PWM変調方式に採用する場合は、少なくとも矩形波パルスPrを生成するための発振器を用意するとよい。
【0073】
PWM変調回路240は、積分回路241、VCO242及びコンパレータ243を有する。積分回路241の主回路は図示しない演算増幅器と積分用キャパシタとで構成する。VCO242は、積分回路241から出力されるアナログ信号をPWM信号に変調するためのいわゆるキャリア信号としての三角波信号Ps及び矩形波パルスPrを生成する。本発明においてVCO242は電圧制御型発振器だけではなく一般的によく知られた発振器を指すものとして理解されるべきである。当業者には三角波信号を矩形波パルスに波形整形することは比較的容易なことであり、又この逆の波形整形も比較的容易なことである。
【0074】
本発明の一実施の形態において三角波信号Ps及び矩形波パルスPrの周波数は500KHzとし、矩形波パルスPrはデューティ比が50%で周期は2μsである。ちなみに三角波信号Psの振幅値は3Vに設定した。三角波信号Ps及び矩形波パルスPrの周波数は可聴音声信号の周波数帯域である20Hz〜20KHzよりも十分に大きなたとえば、数百KHz〜1MHzに設定されるのが一般的である。また、その振幅値の大きさはPWM変調回路240に供給される電源電圧の大きさとともに、PWM変調回路240の電圧利得の設定に関わってくるが、本発明においてはPWM変調回路240に供給する電源電圧は5Vを採用し、ダイナミックレンジも考慮して三角波信号の振幅値は設計的事項の1つではあるがその振幅値は3Vの大きさとしてみた。
【0075】
コンパレータ243は積分回路241から入力されたアナログ信号を三角波信号Psにパルス幅変調するために用意されている。コンパレータ243から出力されたPWM信号PはD級ドライバー260に入力される。D級ドライバー260は前にも述べたように、従前よく知られたデッドタイム生成回路270、レベルシフト回路280、ハイサイドゲートドライバー290H、ローサイドゲートドライバー290L、パワートランジスタTR1及びパワートランジスタTR2を有する。
【0076】
VCO242で生成された矩形波パルスPrは分周器248によって分周される。分周器248は必ずしも必須の構成要件ではない。しかし、PWM変調回路240に採用される三角波信号Psの周波数は前にも述べたように比較的高く、その周期は短いものであること、そして、第1のカウンターCd0及び第2のカウンターCd100は所定時間の周期に設定された分周信号を生成しなければならないので分周器248を本発明の一実施の形態の1つとして加えてみた。分周器248から出力されるクロックパルスCLKはこの他に音声信号をミュートするためのいわゆるミュート信号として用いることもできる。
【0077】
分周器248の分周比の設定は設計的事項の1つではあるが、三角波信号Ps及び矩形波パルスPrの周波数がたとえば、500KHzであればその周期は2μsであり、それをたとえば、256μsまで拡張させるためには128倍、すなわち、フリップフロップを7段用意しこれらのフリップフロップで分周回路を構成すればよい
【0078】
第1のカウンターCd0はフリップフロップCN01〜CN08から成る8段で構成されている。これにより、第1のカウンターCd0の最終段のフリップCN08のQ出力には256μs×2=256×256=65.536ms、すなわちほぼ66msの周期の分周信号が出力される。
【0079】
また、第2のカウンターCd100はフリップフロップCN11〜CN18から成る8段で構成されている。これにより、第2のカウンターCd100の最終段のフリップCN18のQ出力には256μs×2=256×256=65.536ms、すなわちほぼ66msの周期の分周信号が出力される。
【0080】
論理和(OR)回路258の一方の入力端、すなわちノードN3には、第1のカウンターCd0で生成された制御信号Pcd0が入力されている。論理和回路(OR)258の他方の入力端、すなわちノードN6には第2のカウンターCd100で生成された制御信号Pcd100が入力されている。論理和(OR)回路258の出力端、すなわちノードN7に出力された制御信号Pcdは信号導出線259を介してラッチ回路275に入力される。ラッチ回路275はノードN7に制御信号Pcdが出力されたときに作動する。PWM変調回路240が通常動作状態、すなわち、信号入力端子120が天絡又は地絡されていない場合にはノードN7はローレベルであり、ラッチ回路275の回路動作はオフの状態を維持する。ラッチ回路275にはラッチ状態を解除するために信号導出線271を介して図示しないラッチ解除信号が入力される。
【0081】
ラッチ回路275によってデッドタイム生成回路270の回路動作が制御される。デッドタイム生成回路270は、インバータ272、否定論理積(NAND)回路274,276で構成されている。PWM信号Pは否定論理積(NAND)回路274の一方の入力端274aに入力されるとともに、インバータ272によって極性が反転されたPWM変調信号Pが否定論理積(NAND)回路274の一方の入力端274aに入力されている。否定論理積(NAND)回路274,276の他方の入力端274b及び276bは共通接続され信号導出線273を介して、ラッチ回路275の出力に接続されている。
【0082】
いまラッチ回路275がオンされると、否定論理積回路(NAND)274,276の一方の入力端274a,276aに入力される信号の状態に関わらず、否定論理積(NAND)回路274,276の出力端274c及び276cはローレベルに固定される。
【0083】
否定論理積(NAND)回路274,276の出力端274c及び276cがローレベルに固定されると、それらに接続されるハイサイドゲートドライバー290H及びローサイドゲートドライバー290Lの入力側はいずれもローレベルに固定される。なお、前にも述べたが否定論理積(NAND)回路274の出力端274cとハイサイドゲートドライバー290Hとの間にレベルシフト回路280が設けられている。ハイサイドゲートドライバー290H及びローサイドゲートドライバー290Lが共にローレベルに固定されると、それらに接続されるパワートランジスタTR1及びTR2のゲート側に生じる電圧はローレベルとなる。この結果、信号出力端子295はローレベルに固定され、信号出力端子295に接続される図示しないスピーカに交流電流及び直流電流が流れるという不具合を未然に防止することができる。これによりスピーカが劣化又は破損するという不具合を排除することができる。
【0084】
なお、ラッチ回路275が一度作動すると、何らかの解除処理を施さない限り信号出力端子295の出力電圧はローレベルのままである。このため、通常のPWM信号の受信状態に戻すにはラッチ回路275の回路動作を解除しなければならない。この解除操作はユーザが信号導出線271を介して図示しないラッチ解除信号をラッチ回路275に供給することによって成される。
【0085】
図6は図4に示すD級電力増幅器200の要部のタイミングチャートである。図6(a)はクロックパルスCLKを示す。クロックパルスCLKは分周器248から出力された信号であり、このクロックパルスCLKはフリップフロップCN01,CN11の入力端子CPに各別に入力される。クロックパルスCLKの周波数はVCO242で生成された矩形波パルスPrを分周器248で分周したものである。矩形波パルスPrの周波数をたとえば500KHzとし、分周器248の分周比をたとえば1/128とすると矩形波パルスPrの周期は2μsであるが、分周器248によって周期の大きさは128倍されるのでクロックパルスCLKの周期Tclkは256μsとなる。矩形波パルスPrの周波数が1MHzに調整された場合には分周器248の分周比が固定されているとすればクロックパルスCLKの周期Tclkは128μsとなる。なお、クロックパルスCLKの周期Tclkは設計的事項の1つであるが、後述の第1のカウンターCd0及び第2のカウンターCd100を構成するフリップフロップの段数等も勘案して決めるとよい。
【0086】
図6(b)は、第1のカウンターCd0及び第2のカウンターCd100の初段目を構成するフリップフロップCN01,CN11のQ端子に出力された分周信号Q01,Q11を表す。これらのQ端子に出力される分周信号は、クロックパルスCLKを1/2に分周したものに等しい。たとえば、クロックパルスCLKの周期Tclk=256μsとすると、図6(b)に示される分周信号の周期は512μsとなる。また、クロックパルスCLKの周期Tclk=128μsとすると、周期は256μsとなる。
【0087】
図6(c)は、第1のカウンターCd0及び第2のカウンターCd100の2段目を構成するフリップフロップCN02,CN12のQ端子に出力された分周信号Q02,Q12を表す。これらのQ端子に出力される分周信号は、クロックパルスCLKを1/4に分周したものに等しい。たとえば、クロックパルスCLKの周期Tclk=256μsとすると、図6(b)に示される分周信号の周期は1024μsとなる。また、クロックパルスCLKの周期Tclk=128μsとすると、分周信号の周期は512μsとなる。
【0088】
図6(d)は、第1のカウンターCd0及び第2のカウンターを構成する3段目のフリップフロップCN03,CN13のQ端子に出力された分周信号Q03,Q13を表す。これらのQ端子に出力された分周信号は、クロックパルスCLKを1/8に分周したものに等しい。たとえば、クロックパルスCLKの周期Tclk=256μsとすると、図6(d)に示される分周信号の周期は2048μsとなる。また、クロックパルスCLKの周期Tclk=128μsとすると、分周信号の周期は1024μsとなる。
【0089】
図6(e)は、第1のカウンターCd0及び第2のカウンターを構成する4段目のフリップフロップCN04,CN14のQ端子に出力された分周信号Q04,Q14を表す。これらのQ端子に出力された分周信号は、クロックパルスCLKを1/16に分周したものに等しい。たとえば、クロックパルスCLKの周期Tclk=256μsとすると、図6(e)に示される分周信号の周期は4096μsとなる。また、クロックパルスCLKの周期Tclk=128μsとすると、分周信号の周期は2048μsとなる。
【0090】
図6(f)は、第1のカウンターCd0及び第2のカウンターを構成する5段目のフリップフロップCN05,CN15のQ端子に出力された分周信号Q05,Q15を表す。これらのQ端子に出力された分周信号は、クロックパルスCLKを1/32に分周したものに等しい。たとえば、クロックパルスCLKの周期Tclk=256μsとすると、図6(f)に示される分周信号の周期は8192μsとなる。また、クロックパルスCLKの周期Tclk=128μsとすると、分周信号の周期は4096μsとなる。
【0091】
図6(g)は、第1のカウンターCd0及び第2のカウンターを構成する6段目のフリップフロップCN06,CN16のQ端子に出力された分周信号Q06,Q16を表す。これらのQ端子に出力された分周信号は、クロックパルスCLKを1/64に分周したものに等しい。たとえば、クロックパルスCLKの周期Tclk=256μsとすると、図6(g)に示される分周信号の周期は16384μsとなる。また、クロックパルスCLKの周期Tclk=128μsとすると、分周信号の周期は8192μsとなる。
【0092】
図6(h)は、第1のカウンターCd0及び第2のカウンターを構成する7段目のフリップフロップCN07,CN17のQ端子に出力された分周信号Q07,Q17を表す。これらのQ端子に出力された分周信号は、クロックパルスCLKを1/128に分周したものに等しい。たとえば、クロックパルスCLKの周期Tclk=256μsとすると、図6(h)に示される分周信号の周期は32768μsとなる。また、クロックパルスCLKの周期Tclk=128μsとすると、分周信号の周期は16384μsとなる。
【0093】
図6(i)は、第1のカウンターCd0及び第2のカウンターを構成する8段目のフリップフロップCN08,CN18のQ端子に出力された分周信号Q08,Q18を表す。本発明の一実施の形態において、8段目のフリップフリップは最終段としている。これらのQ端子に出力された分周信号は、クロックパルスCLKを1/256に分周したものに等しい。たとえば、クロックパルスCLKの周期Tclk=256μsとすると、図6(i)に示される分周信号の周期は65536μsとなる。また、クロックパルスCLKの周期Tclk=128μsとすると、分周信号の周期は32548μsとなる。
【0094】
図6(i)に示す分周信号Q08,Q18の周期Twの大きさの設定については本発明の技術的思想をD級電力増幅器200及びBTL方式のD級電力増幅器に反映させるために極めて重要なことである。なぜならば分周信号Q08,Q18の周期Twの設定はDC検出回路250が作動する基準となるいわゆる「所定時間」を設定することになるからである。信号入力端子120が天絡又は地絡したか否かの判定はまず第1にPWM変調回路240の出力端子244に出力されるPWM信号のデューティ比が0%であるか又は100%であるかによって検出する。しかし、端にデューティ比が0%であるか又は100%のPWM信号が出力されただけではDC検出回路250を作動させることはない。それらの状態が「所定時間」の間維持されて初めて天絡,地絡の状態が生じたものと判定するのである。この「所定時間」が周期Twの設定によって決定される。周期Twは第1のカウンターCd0及び第2のカウンターCd100が天絡、地絡であるか否かを判定するための所要時間であり、又、制御信号Pcd0,Pcd100及びpcdを出力するための待機時間に相当する。すなわち、この所定時間(待機時間)の間、第1のカウンターCd0及び第2のカウンターCd100は出力信号を出力することを待ち続ける。さらに、第1のカウンターCd0及び第2のカウンターCd100の少なくともいずれから一方から信号が出力された場合には、否定論理積(NAND)回路251,252,253,254及び否定論理和(NOR)回路256,257、及び論理和(OR)回路258によって構成されたいわゆる制御信号生成回路によって制御信号Pcd0,Pcd100及びPcdが出力される。
【0095】
図6(j)は、ノードN1,N4、すなわち否定論理積(NAND)回路251,253の出力信号である。ノードN1の出力信号は、フリップフロップCN01〜CN04の分周信号Q01〜Q04のいずれもがハイレベルのときの期間にローレベルが出力される。このため、実質的には分周信号Q04の周期に同期した分周信号Q01が出力される。分周信号Q01のパルス幅Tq01はクロックパルスCLKの2倍となるから、結果的にはクロックパルスCLKの周期Tclkに等しくなる。たとえば、クロックパルスCLKの周期Tclk=256μsとすると、図6(j)に示すパルスのパルス幅は256μsとなる。
【0096】
図6(k)は、ノードN2,N5、すなわち否定論理積(NAND)回路252,254の出力信号である。ノードN2の出力信号は、フリップフロップCN05〜CN08の分周信号Q05〜Q08のいずれもがローレベルからハイレベルに遷移するときに、ハイレベルからローレベルに遷移した信号が出力される。
【0097】
図6(l)は、ノードN3,N6、すなわち否定論理和(NOR)回路256,257の出力信号である。ノードN3の出力信号は、ノードN1,N2の両者がローレベルのときにハイレベルが出力される。このため図6(i)に示すフリップフロップCN08,CN18の分周出力Q08,Q18がハイレベルからローレベルに遷移する直前の期間にフリップフロップCN01,CN18の分周出力Q01,Q11に対応した分周信号が出力された制御信号Pcd0,Pcd100が出力される。制御信号Pcd0,Pcd100のパルス幅はクロックパルスCLKの周期Tclkに等しい。
【0098】
図6(m)は、ノードN7、すなわち論理和(OR)回路258の出力信号である。ノードN7の出力信号は、ノードN3及びN6の少なくともいずれか一方がハイレベルのときにハイレベルとなる。ノードN3,N6には同じ制御信号Pcd0,Pcd100が出力されるので、ノードN7には図6(l)に示したものと同じとなる。
【0099】
図6(n)は、ノードN7の出力信号である。図6(m)に示したノードN7の制御信号Pcd0,Pcd100はDC検出回路250が作動した場合、すなわち、信号入力端子120が天絡又は地絡された場合である。これに対して図6(n)に示したノードN7に出力される制御信号Pcd0,Pcd100はDC検出回路250の回路動作が停止している場合である。DC検出回路250はPWM変調回路240が通常に作動している場合は常時オフ状態に置かれている。
【0100】
本発明の一実施の形態において周期Twは三角波信号Tsが500KHzのときに65536μs、すなわち、Tw=65.53msに設定されることは前に述べたとおりである。また、第1のカウンターCd0及び第2のカウンターCd100が作動するのはPWM変調回路240の出力端子244にデューティ比が0%又は100%であってローレベル又はハイレベルのDC電圧が65.536ms、すなわちほぼ66msの時間の間維持された場合であることも前に述べたとおりである。
【0101】
ここで重要なことは周期Twの大きさは信号入力端子120に入力される可聴音声信号の周波数の範囲を考慮して決定することである。信号入力端子120に20Hz〜20KHzの音声信号が入力されるとすれば、PWM変調回路240には周期が50ms〜50μsのアナログ信号が入力される。したがって、信号入力端子120にたとえば20Hzの過大な音声アナログ信号が入力された場合にはPWM変調回路240の出力端子244には周期が50msの矩形波パルスが出力されることになる。特に低周波数の過大入力信号が入力された場合、PWM信号と区別することができなくなる。このために仮に周期Twを50msよりも小さく設定したとすると、低い周波数の音声アナログ信号が入力されたときに天絡、地絡との区別が困難となり、DC検出回路250はデッドタイム生成回路270をオフしてしまうという不具合が生じ得る。こうした不具合を排除するために周期Tw、すなわち、第1のカウンターCd0及び第2のカウンターCd100が作動するまでの待機時間を信号入力端子120に入力される最低の周波数の周期よりも大きくなるよう設定することが重要となる。
【0102】
なお、可聴音声周波数の最小値を仮に20Hzとみなすと、その周期は50msとなるが、ハイレベル及びローレベルのそれぞれの時間はその1/2であるから周波数20Hzを基準にする場合には、25msの時間を基準にして周期Twの大きさを設定すればよい。したがって、DC検出回路250は信号入力端子120が25ms以上天絡又は地絡された場合に作動させるとよい。
【0103】
なお、本発明の一実施の形態においてDC検出回路250が作動する待機時間はほぼ66msという具合に25msに比べて十分に大きな値に設定した。これは三角波信号Psの周波数が1MHzで使用される場合を考慮したものである。すなわち、三角波信号Ps=1MHzに設定された場合、分周器248の設定がPs=500KHzのときと同じとするならば、クロックパルスCLKはPs=500KHzのときの1/2となる。したがって、フリップフロップCN08,CN18の各Q端子に出力される分周信号Q08,Q18の周期TwはTw=32.768msとなり、Ps=500KHzの1/2となってしまう。しかし、本発明の一実施の形態ではPs=1MHzに設定された場合であっても25msよりも大きな32.768msになるよう設定している。
【0104】
また、周期Twを可変するにはいくつかの手段が考えられるが、クロックパルスCLKの周波数(周期)及び第1のカウンターCd0及び第2のカウンターCd100を構成するフリップフロップの段数を可変することによって比較的容易に得られる。
【0105】
なお、DC検出回路250が作動する待機時間をPs=500KHzのときに65.536msではなく、さらに大きな大きさに設定してもよいが、この時間が長くなればなるほど天絡又は地絡の状態に置かれる時間は長くなり、その分直流(DC)電流がスピーカに流れる時間も長くなることを配慮しなければならない。仮にパワートランジスタTR1,TR2に供給する電源電圧E2が比較的低く、かつ、信号出力端子295に接続されるスピーカのインピーダンスが比較的大きな低電力タイプのD級電力増幅器である場合は所定時間(待機時間)Twをできるだけ大きく設定するとよい。
【産業上の利用可能性】
【0106】
以上説明したように本発明のD級電力増幅器は信号入力端子が何らかの操作の不具合によって天絡又は地絡された場合、PWM変調回路の変調出力信号のデューティ比が0%又は100%になることを検出し、かつ、この状態が所定時間維持されたときにPWM変調回路の後段に接続される回路をオフさせ、スピーカが接続される信号出力端子に出力される直流電位をローレベルに維持するので、スピーカに流れる電流をオフにしスピーカの劣化や破損を未然に防止することができるのでその産業上の利用可能性は高い。
【図面の簡単な説明】
【0107】
【図1】本発明の一実施の形態にかかるD級電力増幅器を示す回路図である。
【図2】本発明の一実施の形態にかかるBTL形式のD級電力増幅器のブロック回路である
【図3】本発明の一実施の形態にかかるBTL形式のD級電力増幅器の信号入力端子が天絡及び地絡した状態を模式的に表したブロック回路図である。
【図4】本発明の一実施の形態にかかるDC検出回路の具体的な回路図である。
【図5】本発明の一実施の形態にかかるDC検出回路がD級ドライバーをオフにする回路動作を説明するための回路図である。
【図6】図5に示したDC検出回路要部のタイミングチャートである。
【図7】従来のBTL方式のD級電力増幅回路を示す図である。
【図8】従来のBTL方式のD級電力増幅回路の信号入力端子が天絡又は地絡したときに負荷(スピーカ)に流れる過大電流の流れを模式的に示す回路図である。
【符号の説明】
【0108】
100,200 D級電力増幅器
110 主回路部
120 信号入力端子
121,122 端子
130 プリアンプ
135,236,247,247A,272 インバータ
140,240,240A PWM変調回路
141,250a,25aA 第1の出力端子
142,250b,25bA 第2の出力端子
150 第1のD級ドライバー
152 第1の信号出力端子
160 第2のD級ドライバー
162 第2の信号出力端子
210,210A D級増幅部
241 積分回路
242 VCO
243 コンパレータ
244,244A 出力端子
245,246,259,271,273 信号導出線
248 分周器
250,250AA DC検出回路
250a,250aA 第1の端子
250b,250bA 第2の端子
251,252,253,254,274,276 否定論理積(NAND)回路
256,257 否定論理和(NOR)回路
258 論理和(OR)回路
260,260A D級ドライバー
270,270A デッドタイム生成回路
275 ラッチ回路
280,280A レベルシフト回路
290H,290HA ハイサイドゲートドライバー
290L,290LA ローサイドゲートドライバー
295,295A 信号出力端子
400 BTL方式D級電力増幅器
Cd0 第1のカウンター
Cd100 第2のカウンター
CN01,CN02, CN03,CN04, CN05,CN06, CN07,CN08 フリップフロップ
CN11,CN12, CN13,CN14, CN15,CN16, CN17,CN18 フリップフロップ
C0,C1,C2 キャパシタ
L1,L2 インダクタ
RL 負荷(スピーカ)
P PWM信号
P1 第1のPWM信号
P2 第2のPWM信号
TR1,TR2,TR1A,TR2A パワートランジスタ
Tw 所定時間(待機時間)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アナログ信号をローレベル及びハイレベルの2値化信号に変調するパルス幅変調回路を備えたD級電力増幅器であって、前記パルス幅変調回路から出力された前記2値化信号の前記ハイレベル又は前記ローレベルが所定時間維持されたときに前記パルス幅変調回路の後段に接続された回路動作をオフにすることを特徴とするD級電力増幅器。
【請求項2】
前記パルス幅変調回路の後段に接続される回路はデッドタイム生成回路であることを特徴とする請求項1に記載のD級電力増幅器。
【請求項3】
三角波信号生成回路又は矩形波パルスを生成する発振器を有し、前記三角波信号又は前記矩形波パルスを基にして生成されたクロックパルスを入力信号とし、前記2値化信号をリセット信号として作動する第1のカウンター及び第2のカウンターを有し、前記第1のカウンターは前記パルス幅変調回路から出力された前記2値化信号の前記ローレベルが前記所定時間維持されたときに作動し、前記第2のカウンターは前記パルス幅変調回路から出力された前記2値化信号の前記ハイレベルが前記所定時間維持されたときに作動して、前記第1のカウンター又は前記第2のカウンターが作動したときに前記デッドタイム生成回路の回路動作をオフにすることを特徴とする請求項2に記載のD級電力増幅器。
【請求項4】
前記第1及び第2のカウンターは各別にN(Nは零を除く整数)段のフリップフロップを有し、前記N段のフリップフロップは前段の分周信号が次段の入力信号となるよう縦続接続されており、前記第1及び第2のカウンターの初段の前記フリップフロップには前記クロックパルスが入力され前記第1及び第2のカウンターの前記N段目のフリップフロップの出力信号は前記クロックパルスの周期を2のN乗倍に拡張された分周信号を出力することを特徴とする請求項3に記載のD級電力増幅器。
【請求項5】
前記第1のカウンター及び前記第2のカウンターは同じ段数のフリップフロップを有し互いに同じ分周比に設定されていることを特徴とする請求項4に記載のD級電力増幅器。
【請求項6】
前記第1のカウンターの前記N段の各フリップフロップから出力される各分周信号は第1の論理積(AND)回路又は第1の否定論理積(NAND)回路に入力され、前記第2のカウンターの前記N段の各フリップフロップから出力される各出力信号は第2の論理積(AND)回路又は第2の否定論理積(NAND)回路に入力され、前記第1の論理積回路又は否定論理積回路から出力された第1の制御信号は論理和回路の第1の入力端子に入力され、前記第2の論理積回路又は否定論理積回路から出力された第2の制御信号は前記論理和回路の第2の入力端子に入力され、前記論理和回路から出力される前記第1の制御信号又は前記第2の制御信号はラッチ回路を介して前記デッドタイム生成回路の回路をオフさせることを特徴とする請求項4に記載のD級電力増幅器。
【請求項7】
前記クロックパルスの周期を2のN乗倍に拡張された分周信号の周期は25ms以上であることを特徴とする請求項4に記載のD級電力増幅器。
【請求項8】
前記分周信号の周期は32ms〜66msの範囲であることを特徴とする請求項7に記載のD級電力増幅器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−98623(P2010−98623A)
【公開日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−269272(P2008−269272)
【出願日】平成20年10月20日(2008.10.20)
【出願人】(000116024)ローム株式会社 (3,539)
【Fターム(参考)】