説明

DAPKs阻害剤

【課題】脳梗塞等の細胞死を伴う疾患を予防及び/又は治療するために有用な医薬を提供する。
【解決手段】一般式(1)で表される置換ピリジン誘導体及びその薬理学上許容される塩を有効成分とする細胞死関連蛋白質リン酸化酵素阻害剤。


[式中、A及びBは一方が窒素原子で他方が炭素原子であり、D,E,FはO−C=N或いはN=C−Sの組み合わせを表し、Rは置換基を有してもよい低級アルキル基、置換基を有してもよい芳香族炭化水素低級アルキル基、置換基を有してもよい芳香族炭化水素低級不飽和アルキル基、置換基を有してもよいモノ又はジ低級アルキルアミノ基若しくはこれらのジ低級アルキルが環形成したアミノ基等を示す。]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、置換ピリジン誘導体若しくはその塩、又はそれらの溶媒和物若しくはそれらの水和物を有効成分として含む、細胞死関連蛋白質リン酸化酵素ファミリー(Death−associated protein kinase、DAPキナーゼファミリー;以下、DAPK(s)とも称する)の活性阻害剤に関する。また、本発明が該阻害剤を有効成分として含む、DAPKsの活性化亢進が病態に関与する疾患の治療に有用な医薬に関する。
【背景技術】
【0002】
中枢神経組織(脳ならびに脊髄)、心臓、腎臓は損傷時の自己再生能が極めて低い臓器である。様々な原因(循環器障害による虚血状態、外傷、薬物障害等)により一度損傷を受けると修復機構が乏しいため組織の完全な機能回復は難しいとされている。近年の救急医療は、脳梗塞、急性心筋梗塞、急性腎不全時の救命率を飛躍的に向上させた。しかしながら救命後の患者の日常生活における精神的・身体的な生活の質(クオリティ・オブ・ライフ:QOL)の維持には多くの解決すべき課題が残されている。
【0003】
脳梗塞、心筋梗塞、腎不全等の発症後のQOLを規定する要因の1つとして、障害時の当該組織中の細胞死の割合が考えられている。すなわち、障害時の1次損傷或いはその後に発生する炎症反応等による2次損傷に伴う細胞死をできるだけ食い止めることができれば、当該組織の機能を維持できる可能性が考えられている。
【0004】
外部刺激に応答した細胞死の分子生物学的機構が解明されつつあり、その機序に基づく治療薬(例えば、カスパーゼ阻害剤)が検討されているが、完成には至っていない。
【0005】
DAPKsは、Kimchiらによってテクニカルノックアウト(technical knock out)と言われる方法によって見出された蛋白質リン酸化酵素であるDAPK1とその類縁蛋白質リン酸化酵素(DAPK2=DRP1、DAPK3=ZIP kinase=Dlk、DARK1及びDARK2等を含む)ファミリーであり、細胞死、ガン抑制に関連する蛋白質リン酸化酵素(プロテインキナーゼ)として知られている(非特許文献1〜3参照)。
【0006】
DAPK1欠失マウス海馬神経細胞はセラミド誘発神経細胞死に対して抵抗性を示すこと、さらには、ラット脳虚血モデルにおいてDAPK1の亢進・活性化がなされる等、神経細胞死との関連が指摘されている(非特許文献4〜6参照)。DAPKsは種々の細胞における各種の細胞死に至る過程における関与が知られるに至った(非特許文献1〜3参照)。以上のことからDAPK1のみならずDAPKsを阻害する化合物は、細胞死を阻止する作用により、脳梗塞を初めとする各種の神経細胞死を伴う疾患の進行を阻止或いは遅らせることができることを強く示している(非特許文献2〜6参照)。また、神経細胞死のみならず他の細胞死を伴う疾患の進行を阻止或いは遅らせることができることを強く示している(非特許文献2〜3参照)。すなわち、その疾患の例として、心筋梗塞などの虚血性心疾患や虚血性腎障害及び多臓器不全を挙げるが、ここで例示した疾患に限定されない。酸素とグルコース欠乏状況条件下にある神経細胞培養の系において、カルシニューリン(calcineurin)阻害作用を有するFK506及びNMDA受容体拮抗作用を有するMK−801がDAPK1の脱リン酸化を阻害しその活性化を阻害することが知られている(非特許文献6参照)。DAPKを阻害する化合物としては、すでにアミノピリダジン誘導体が報告されており(非特許文献7参照)、脳虚血6時間後の投与において有意な虚血障害抑制効果を示している。また、ピロロカルバゾール誘導体の特許出願が為されている(特許文献1参照)。しかし何れもその活性を含め該化合物の性質は医薬に有用な成分として充分なものとはいえない。
【0007】
【特許文献1】特開2004−256498
【特許文献2】WO2003/083101
【非特許文献1】Shohatら,Biochimica Biophysica Acta,1600,45−50,(2002)
【非特許文献2】Gozuacikら,Autophagy,2(2),74−79,(2006)
【非特許文献3】Shaniら,Molec.Cell.Biol.,24(9),8611−8626,(2004)
【非特許文献4】Pelledら,J.Biol.Chem.,277(3).1957−1961,(2002)
【非特許文献5】Velentzaら,J.Biol.Chem.,276(42).38956−38965,(2001)
【非特許文献6】Shamlooら,J Biol.Chem.,280(51),42290−42299,(2005)
【非特許文献7】Velentzaら,Bioorg.Med.Cem.Lett.,13,3465−3470,(2003)
【非特許文献8】Protein Data Base [online]、<URL:http://www.rcsb.org/pdb/>、ID番号;1IG1、1JKK、1JKL、1JKS、1JKT、1P4F、1WVW、1WVX、1WVY
【非特許文献9】Lefranc,F.及びKiss,R.,Neurosurg.Focus,20(3)1−6,(2006)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、置換ピリジン誘導体若しくはその塩、又はそれらの溶媒和物若しくはそれらの水和物を有効成分として含む、細胞死関連蛋白質リン酸化酵素ファミリー(DAPKs)阻害剤の提供を目的とする。
また、本発明は、細胞死を伴う疾患の治療に有用な医薬を提供することを目的とする。より詳細には、脳梗塞、クモ膜下出血、脳底動脈瘤、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン舞踏病、てんかん、頭部外傷、脊髄損傷、心筋梗塞、虚血性心疾患、虚血性腎障害、急性腎不全、慢性腎不全、多臓器不全等の細胞死を伴う各種疾患においてDAPKs活性を阻害することに基づいて細胞死を阻止することにより、これらの疾患に対して根本的な治療を可能にする医薬を提供することを目的とする。
さらに、本発明は、上記医薬を用いた細胞死関連疾患の治療方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、DAPKsのリン酸化能に対する阻害作用を有する各種化合物を見出すべく、DPAK1の3次元立体(3D)構造情報に基づいたモデルを構築した上で化合物データべースに対してバーチャルスクリーニングを実施した(DPAK1の3D構造情報については、Protein Data Baseヘの登録がなされるなど既に知られている(非特許文献8、及び特許文献2参照))。その結果、下記の一般式(1)で表される化合物がDAPKsのリン酸化能に対する阻害作用を有することを見出し、さらに、該化合物が上記の疾患の治療のための医薬の有効成分として有用であることを明らかにした。本発明はこれらの知見を基にして完成されたものである。
【0010】
すなわち、本発明は、下記一般式(1)で表される置換ピリジン誘導体若しくはその塩、又はそれらの溶媒和物若しくはそれらの水和物を有効成分として含む細胞死関連蛋白質リン酸化酵素阻害剤。
【化3】


[式中、A及びBは一方が窒素原子で他方が炭素原子であり、D,E,FはO−C=N或いはN=C−Sの組み合わせを表し、Rは置換基を有してもよい低級アルキル基、置換基を有してもよい芳香族炭化水素低級アルキル基、置換基を有してもよい芳香族炭化水素低級不飽和アルキル基、置換基を有してもよいモノ又はジ低級アルキルアミノ基若しくはこれらのジ低級アルキルが環形成したアミノ基、置換基を有してもよい芳香族炭化水素基及び以下の置換基
【化4】


(ただしR1〜R5はそれぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基、低級アルキル基、低級アルコキシ基を示す)のいずれかである]
また、本発明は、下記一般式(1)で表される置換ピリジン誘導体若しくはその塩、又はそれらの溶媒和物若しくはそれらの水和物を有効成分として含む、細胞死関連蛋白質リン酸化酵素の異常亢進に起因する疾患の治療のための医薬。
【化5】


[式中、A及びBは一方が窒素原子で他方が炭素原子であり、D,E,FはO−C=N或いはN=C−Sの組み合わせを表し、Rは置換基を有してもよい低級アルキル基、置換基を有してもよい芳香族炭化水素低級アルキル基、置換基を有してもよい芳香族炭化水素低級不飽和アルキル基、置換基を有してもよいモノ又はジ低級アルキルアミノ基若しくはこれらのジ低級アルキルが環形成したアミノ基、置換基を有してもよい芳香族炭化水素基及び以下の置換基
【化6】


(ただしR1〜R5はそれぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基、低級アルキル基、低級アルコキシ基を示す)のいずれかである]
さらに、本発明は、上記医薬を用いた、DAPKsの活性化亢進が病態に関与する疾患の治療方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の化合物は、DAPKs活性を阻害することができる。その結果、DAPKsの異常亢進に起因する疾患を治癒せしめることができる。
【0012】
本発明の医薬は、DAPKsの亢進による細胞死に起因する疾患の治療のために用いることができる。
【0013】
本発明の医薬は、従来のDAPKsに対し阻害活性を有する化合物と比較して、よりDAPKsに対して高い選択性を有している。その結果、本発明の化合物を比較的長期に服用しても、既存化合物と比較して高い安全性が期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
一般式(1)において、A及びBは一方が窒素原子で他方が炭素原子であり、D,E,FはO−C=N或いはN=C−Sの組み合わせを表し、Rは置換基を有してもよい低級アルキル基、置換基を有してもよい芳香族炭化水素低級アルキル基、置換基を有してもよい芳香族炭化水素低級不飽和アルキル基、置換基を有してもよいモノ又はジ低級アルキルアミノ基若しくはこれらのジ低級アルキルが環形成したアミノ基、置換基を有してもよい芳香族炭化水素基及び式(2)で示される置換基である。
ここで「低級アルキル基」とは、C1〜C14、好ましくはC1〜C10の直鎖状、分枝鎖状、環状、又はそれらの組み合わせのいずれでもよく、限定はしないが、具体的には、直鎖状ではメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基等、環状ではシクロプロペニル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、アダマンチル基等が挙げられる。
【0015】
また、式(2)において、R1〜R5は同一でも異なっていてもよく、それぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基、低級アルキル基、低級アルコキシ基を示す。式(2)において、アルキル基又はアルキル部分を含む置換基(例えばアルコキシ基)におけるアルキル部分はアルキル基又はアルキル部分について低級という場合には、例えば炭素数1ないし6個、好ましくは炭素数1ないし3個程度であることを意味する。本明細書において、ハロゲン原子という場合にはフッ素原子、塩素原子、臭素原子、又はヨウ素原子のいずれでもよい。本明細書において、ある官能基について「置換基を有していてもよい」と言う場合には、その置換基の個数又は置換位置は特に限定されない。
また、本発明に係る細胞死関連蛋白質リン酸化酵素阻害剤及び医薬の有効成分として含まれる一般式(1)で表される置換ピリジン誘導体には、特に断らない限り、その幾何異性体(例えば、E体、Z体など)及び光学異性体も含まれる。
【0016】
一般式(1)で示される化合物及びその塩としては、限定はしないが、例えば次のものが挙げられる。
2−アダマンチル−4−(ピリジン−3−イルメチレン)オキサゾール−5(4H)−オン及びその許容される塩、
4−(ピリジン−3−イルメチレン)−2−スチリルオキサゾール−5(4H)−オン及びその許容される塩、
2−(ピペリジン−1−イル)−5−(ピリジン−3−イルメチレン)チアゾール−4(5H)−オン及びその許容される塩、
2−(2−クロロ−5−ヨードフェニル)−4−(ピリジン−4−イルメチレン)オキサゾール−5(4H)−オン及びその許容される塩、
2−(4−クロロ−3−ニトロフェニル)−4−(ピリジン−3−イルメチレン)オキサゾール−5(4H)−オン及びその許容される塩、
2−(3−メチルフェニル)−4−(ピリジン−3−イルメチレン)オキサゾール−5(4H)−オン及びその許容される塩。
【0017】
本発明の一般式(1)で表わされる置換ピリジン誘導体は、いずれも公知の文献又は通常の化学的合成方法を用いて得ることができ、例えば国際特許US−20040180943に記載された合成方法により合成することができる。あるいは、Enamine社、Pharmeks社、Labotest社、ChemDiv社等から市販されているものを購入することもできる。
【0018】
本発明は、一般式(1)で表される本発明の化合物が細胞死関連蛋白質リン酸化酵素(又はDAPK(s))の活性を阻害することを初めて見出したことに基づいて完成されたものである。
ここで、本発明における「細胞死関連蛋白質リン酸化酵素(又はDAPK(s))」とは、配列番号2、4、6、8又は10で表されるアミノ酸配列と同一又は実質的に同一のアミノ酸配列を含む蛋白質のことである。細胞死関連蛋白質リン酸化酵素(又はDAPK(s))は、その蛋白質リン酸化活性を示すドメーンの配列類似性及びその生理学的関与即ち細胞死との係わりによって細胞死関連蛋白質リン酸化酵素(又はDAPK(s))ファミリーと呼ばれている。ここで、「実質的に同一のアミノ酸配列を含む蛋白質」とは、配列番号2、4、6、8又は10で表わされるアミノ酸配列と約60%以上、好ましくは約70%以上、より好ましくは約80%,81%,82%,83%,84%,85%,86%,87%,88%,89%,90%,91%,92%,93%,94%,95%,96%,97%,98%,最も好ましくは約99%のアミノ酸同一性を有するアミノ酸配列を含み、かつ、蛋白質リン酸化酵素活性を有し、該活性が細胞死を誘導させしめる蛋白質である。
あるいは、配列番号2、4、6、8又は10で表わされるアミノ酸配列と実質的に同一のアミノ酸配列を含む蛋白質としては、配列番号2、4、6、8又は10で表わされるアミノ酸配列中の1又は数個(好ましくは、1〜30個程度、より好ましくは1〜10個程度、さらに好ましくは1〜5個)のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、蛋白質リン酸化酵素活性を有し、該活性が細胞死を誘導させしめる蛋白質である。
【0019】
また、配列番号2、4、6、8及び10に示される「細胞死関連蛋白質リン酸化酵素(又はDAPK(s))」は、夫々、death−associated protein kinase 1(DAPK1)、death−associated protein kinase 2(DAPK2)、death−associated protein kinase 3(DAPK3)、DAP kinas−related apoptosis−inducing protein kinase 1(DRAK1)、DAP kinase−related apoptosis−inducing protein kinase 2(DRAK2)と呼ばれている。しかし、現時点でこれらを統合的に命名する方式が確立していると言い難い状況にある。参考のため以下に代表的名称の下にその類縁名或いは別名を列挙する。それ故、以下に列挙された名称以外の名称であっても「細胞死関連蛋白質リン酸化酵素(又はDAPK(s))」を指称している場合には、これを排除するものではない。
【0020】
DAPK1とその類縁名或いは別名
“DAP kinase 1” 、“DAP kinase”、“DAPK”、“DAPK1”、 “DAPK(−)1”又は“death(−)associated protein kinase 1”
【0021】
DAPK2とその類縁名或いは別名
“DAP kinase 2”、“DAP(−)kinase−related protein 1”、“DRP(−)1”、“DRP1”、“DAPK2”、“DAPK(−)2”、“DRP(−)1 protein (kinase)”又は“death(−)associated protein kinase 2”
【0022】
DAPK3とその類縁名或いは別名
“ZIP”、“ZIPK”、“FLJ36473”、“ZIP(−)kinase”、“Zipper(−)Interacting protein kinase”、“death(−)associated protein kinase 3”、“DAPK3”、“DAPK(−)3”、“DAP(−)like kinase”、“DAP like kinase”、“Dlk”又は“Death(−)associated protein(−)Like Kinase”
【0023】
DRAK1とその類縁名或いは別名
“DRAK”、“Serine/threonine(−)protein kinase 17A”、“serine(−)threonine kinase 17a”、“serine(−)threonine kinase 17a(apoptosis−inducing) protein”、“DAP kinase(−)related apoptosis(−)inducing protein kinase 1”、“STK17A”、“STK(−)17A”、“DRAK1”、“DRAK(−)1”又は“death(−)associated protein kinase(−)related protein 1”
【0024】
DRAK2とその類縁名或いは別名
“Serine/threonine(−)protein kinase 17B”、“serine(−)threonine kinase 17b”、“serine(−)threonine kinase 17b(apoptosis−inducing) protein”、“DAP kinase(−)related apoptosis(−)inducing protein kinase 2”、“STK17B”、“STK(−)17B”、“DRAK2”、“DRAK(−)2”又は“death(−)associated protein kinase(−)related protein 2”
【0025】
また、「細胞死関連蛋白質リン酸化酵素(又はDAPK(s))」は、いかなる細胞又は組織に由来するものであってもよく、また、ヒト以外の動物種、限定はしないが、例えば、好ましくは、霊長類、ラット、マウス、ウシ、ウマ、ウサギ、ヒツジ、トリ、イヌ、ネコなどの細胞又は組織等に由来するものであってもよい。
【0026】
本発明の好ましい態様によれば、一般式(1)で表される置換ピリジン誘導体若しくはその塩、又はそれらの溶媒和物若しくはそれらの水和物を有効成分として含む細胞死関連蛋白質リン酸化酵素阻害剤が提供される。さらに、本発明の他の好ましい態様によれば、細胞死関連蛋白質リン酸化酵素の異常亢進に起因する疾患、細胞死を伴う疾患、即ち、脳梗塞、クモ膜下出血、脳底動脈瘤、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン舞踏病、てんかん、頭部外傷、脊髄損傷、心筋梗塞、虚血性心疾患、虚血性腎障害、急性腎不全、慢性腎不全、多臓器不全等の治療のための医薬が提供される。
【0027】
本発明における「細胞死」とは、様々な細胞死誘発刺激によって引き起こされる細胞死関連蛋白質リン酸化酵素(又はDAPK(s))が関与する様々な様態の細胞死を意味する。いわゆるアポプトーシス(apoptosis)に関しては、一例を挙げれば、線維芽細胞に過剰発現された細胞死関連蛋白質リン酸化酵素のモデル系において、DNAのフラグメント化現象を伴うカスパーゼ(caspase)活性化によるカスパーゼ依存的細胞死が観察される。他方、細胞死関連蛋白質リン酸化酵素を過剰発現させたHEK293或いはMCF−7細胞株では、電子顕微鏡下で小胞及び自己消化リソゾーム(autolysosome)が観察されるカスパーゼ非依存的細胞死即ち、オートファギー(autophagy)が見られる。以上の如く、I型及びII型に分類される典型的なプログラムされた細胞死(programmed cell death)に限らず、一般的に受動的且つエネルギー非依存的な細胞死であるとされている壊死(ネクローシス、necrosis)も細胞死関連蛋白質リン酸化酵素関与の細胞死に含まれる(非特許文献9)。
【0028】
ここで細胞死を伴う疾患としては、限定はしないが、例えば、神経細胞、心血管細胞、腎臓細胞の死に伴う疾患などを挙げることができる。そして、神経細胞の死に伴う疾患のうち、中枢、末梢神経細胞死に伴う疾患としては、運動機能障害等の身体機能障害などを例示することができる。
【0029】
本明細書において脳における神経細胞死に起因する身体機能障害としては、限定はしないが、例えば、神経の物理的損傷(脳挫傷等の脳組織損傷、頭部外傷等により生じる神経損傷)、虚血若しくは虚血再灌流後における神経損傷(脳卒中、脳梗塞、脳出血、脳虚血、クモ膜下出血、動脈瘤出血、心筋梗塞、低酸素症、無酸素症による外発作/大脳虚血等により生じる神経損傷)、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン舞踏病、てんかん等により生じる身体機能障害が挙げられる。
【0030】
本明細書において脊髄における神経細胞死に起因する身体機能障害としては、限定はしないが、例えば、神経の物理的損傷(椎体関節の脱臼や亜脱臼や脊椎骨折による脊髄損傷、脊髄圧迫による障害、椎間板ヘルニア等により生じる神経損傷)、虚血若しくは虚血再灌流後における神経損傷(脊髄虚血、脊髄出血、髄外血管障害による脊髄麻痺等により生じる神経損傷)、又は腫瘍(脊髄腫瘍、脊椎腫瘍等)等により生じる神経損傷が挙げられる。また自己免疫機能亢進に伴う神経損傷(筋萎縮性側索硬化症)により生じる神経損傷が挙げられる。
【0031】
本明細書において末梢神経における神経損傷としては、例えば、外傷(殴打、挫傷等)等による神経の切断、圧迫、又は挫滅等の神経の物理的損傷が挙げられる。又は、高血糖状態における末梢神経障害が挙げられる。
【0032】
本明細書において心血管細胞死に伴う疾患としては、限定はしないが、例えば、冠状血管の動脈硬化症に由来する閉塞、スパズム、心臓外科手術時の人工心肺装置の使用、経皮冠動脈形成術(バルーンカテーテル)、冠動脈バイパス術に起因して発生する虚血若しくは虚血再灌流後における急性心筋梗塞、無症候性心筋虚血、不安定狭心症等が挙げられる。又は、急性或いは慢性心不全、心筋炎、高血糖状態における末梢血管障害、閉塞性動脈硬化症、バージャー病などが挙げられる。又は感染に対する全身性炎症反応症候群(SIRS)に起因する多臓器不全などが挙げられる。
【0033】
本明細書において腎臓細胞死に伴う疾患としては、限定はしないが例えば、心臓外科手術、移植に起因して発生する虚血若しくは虚血再灌流後における虚血性腎障害があげられる。また腎臓組織の様々な外的要因による腎障害(急性腎炎症候群、急速進行性腎炎症候群、慢性腎炎症候群、IgA腎症、紫斑病性腎炎、ネフローゼ症候群、糖尿病性腎症、
尿細管間質性腎炎、腎盂腎炎、急性腎不全、慢性腎不全)などが挙げられる。
【0034】
本発明の医薬の有効成分としては、上記一般式(1)で表される化合物のほか、生理学的に許容されるその塩を用いてもよい。塩としては、例えば、酸性基が存在する場合には、リチウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム等のアルカリ金属及びアルカリ土類金属塩;アンモニア、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、ジシクロヘキシルアミン、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、N,N−ビス(ヒドロキシエチル)ピペラジン、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール、エタノールアミン、N−メチルグルカミン、L−グルカミン等のアミンの塩;又はリジン、δ− ヒドロキシリジン、アルギニンなどの塩基性アミノ酸との塩を形成することができる。塩基性基が存在する場合には、塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸等の鉱酸の塩;メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸、酢酸、プロピオン酸塩、酒石酸、フマル酸、マレイン酸、リンゴ酸、シュウ酸、コハク酸、クエン酸、安息香酸、マンデル酸、ケイ皮酸、乳酸、グリコール酸、グルクロン酸、アスコルビン酸、ニコチン酸、サリチル酸等の有機酸との塩;又はアスパラギン酸、グルタミン酸などの酸性アミノ酸との塩などを挙げることができる。
さらに、本発明の医薬の有効成分として、一般式(1)で表される化合物又はその塩の溶媒和物若しくは水和物を用いることもできる。
【0035】
本発明の医薬は、有効成分である一般式(1)で表される化合物及び薬理学的に許容されるその塩、又はそれらの溶媒和物若しくはそれらの水和物自体を投与してもよいが、一般的には、有効成分である上記物質と1又は2以上の製剤用添加物とを含む医薬組成物の形態で投与することが望ましい。本発明の医薬の有効成分としては、上記の物質の2種以上を組み合わせて用いることができ、上記医薬組成物には、DAPKsの異常亢進に伴う疾患、細胞死を伴う疾患などに対する他の医薬の有効成分を配合することも可能である。
【0036】
医薬組成物の種類は特に限定されず、剤型としては、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、シロップ剤、懸濁剤、座剤、軟膏、クリーム剤、ゲル剤、貼付剤、吸入剤、注射剤等が挙げられる。これらの製剤は常法に従って調製される。尚、液体製剤にあっては、用時、水又は他の適当な溶媒に溶解又は懸濁する形であってもよい。また錠剤、顆粒剤は周知の方法でコーティングしてもよい。注射剤の場合には、本発明の化合物を水に溶解させて調製されるが、必要に応じて生理食塩水或いはブドウ糖溶液に溶解させてもよく、また緩衝剤や保存剤を添加してもよい。経口投与用又は非経口投与用の任意の製剤形態で提供される。例えば、顆粒剤、細粒剤、散剤、硬カプセル剤、軟カプセル剤、シロップ剤、乳剤、懸濁剤又は液剤等の形態の経口投与用医薬組成物、静脈内投与用、筋肉内投与用、若しくは皮下投与用などの注射剤、点滴剤、経皮吸収剤、経粘膜吸収剤、点鼻剤、吸入剤、坐剤などの形態の非経口投与用医薬組成物として調製することができる。注射剤や点滴剤などは、凍結乾燥形態などの粉末状の剤形として調製し、用時に生理食塩水などの適宜の水性媒体に溶解して用いることもできる。また、高分子などで被覆した徐放製剤を脳内に直接投与することも可能である。
【0037】
医薬組成物の製造に用いられる製剤用添加物の種類、有効成分に対する製剤用添加物の割合、又は医薬組成物の製造方法は、組成物の形態に応じて当業者が適宜選択することが可能である。製剤用添加物としては無機又は有機物質、或いは固体又は液体の物質を用いることができ、一般的には、有効成分重量に対して1重量%から90重量%の間で配合することができる。具体的には、その様な物質の例として乳糖、ブドウ糖、マンニット、デキストリン、シクロデキストリン、デンプン、蔗糖、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム、合成ケイ酸アルミニウム、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシプロピルデンプン、カルボキシメチルセルロースカルシウム、イオン交換樹脂、メチルセルロース、ゼラチン、アラビアゴム、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、軽質無水ケイ酸、ステアリン酸マグネシウム、タルク、トラガント、ベントナイト、ビーガム、酸化チタン、ソルビタン脂肪酸エステル、ラウリル硫酸ナトリウム、グリセリン、脂肪酸グリセリンエステル、精製ラノリン、グリセロゼラチン、ポリソルベート、マクロゴール、植物油、ロウ、流動パラフィン、白色ワセリン、フルオロカーボン、非イオン性界面活性剤、プロピレングルコール、水等が挙げられる。
【0038】
経口投与用の固形製剤を製造するには、有効成分と賦形剤成分例えば乳糖、澱粉、結晶セルロース、乳酸カルシウム、無水ケイ酸などと混合して散剤とするか、さらに必要に応じて白糖、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルピロリドンなどの結合剤、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウムなどの崩壊剤などを加えて湿式又は乾式造粒して顆粒剤とする。錠剤を製造するには、これらの散剤及び顆粒剤をそのまま或いはステアリン酸マグネシウム、タルクなどの滑沢剤を加えて打錠すればよい。これらの顆粒又は錠剤はヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、メタクリル酸− メタクリル酸メチルポリマーなどの腸溶剤基剤で被覆して腸溶剤製剤、或いはエチルセルロース、カルナウバロウ、硬化油などで被覆して持続性製剤とすることもできる。また、カプセル剤を製造するには、散剤又は顆粒剤を硬カプセルに充填するか、有効成分をそのまま或いはグリセリン、ポリエチレングリコール、ゴマ油、オリーブ油などに溶解した後ゼラチン膜で被覆し軟カプセルとすることができる。
【0039】
注射剤を製造するには、有効成分を必要に応じて塩酸、水酸化ナトリウム、乳糖、乳酸、ナトリウム、リン酸一水素ナトリウム、リン酸二水素ナトリウムなどのp H 調整剤、塩化ナトリウム、ぶどう糖などの等張化剤と共に注射用蒸留水に溶解し、無菌濾過してアンプルに充填するか、更にマンニトール、デキストリン、シクロデキストリン、ゼラチンなどを加えて真空凍結乾燥し、用事溶解型の注射剤としてもよい。また、有効成分にレチシン、ポリソルベート80 、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油などを加えて水中で乳化せしめ注射剤用乳剤とすることもできる。
【0040】
直腸投与剤を製造するには、有効成分をカカオ脂、脂肪酸のトリ、ジ及びモノグリセリド、ポリエチレングリコールなどの座剤用基材と共に加湿して溶解し型に流し込んで冷却するか、有効成分をポリエチレングリコール、大豆油などに溶解した後、ゼラチン膜で被覆すればよい。
【0041】
皮膚用外用剤を製造するには、有効成分を白色ワセリン、ミツロウ、流動パラフィン、ポリエチレングリコールなどに加えて必要ならば加湿して練合し軟膏剤とするか、ロジン、アクリル酸アルキルエステル重合体などの粘着剤と練合した後ポリアルキルなどの不織布に展延してテープ剤とする。
【0042】
本発明の医薬の投与量及び投与回数は特に限定されず、治療対象疾患の悪化・進展の防止及び/又は治療の目的、疾患の種類、患者の体重や年齢、疾患の重篤度などの条件に応じて、医師の判断により適宜選択することが可能である。一般的には、経口投与における成人一日あたりの投与量は0.01〜1000mg(有効成分重量)程度であり、一日1回又は数回に分けて、或いは数日ごとに投与することができる。注射剤として用いる場合には、成人に対して一日量0.001〜100mg(有効成分重量)を連続投与又は間欠投与することが望ましい。
【0043】
本発明の医薬は、植込錠及びマイクロカプセルに封入された送達システムなどの徐放性製剤として、体内から即時に除去されることを防ぎ得る担体を用いて調製することができる。例えば、エチレンビニル酢酸塩、ポリ酸無水物、ポリグリコール酸、コラーゲン、ポリオルトエステル、及びポリ乳酸などの、生物分解性、生物適合性ポリマーを用いることができる。このような材料は、当業者によって容易に調製することができる。また、リポソームの懸濁液も薬剤的に受容可能な担体として使用することができる。有用なリポソームは、限定はしないが、ホスファチジルコリン、コレステロール及びPEG誘導ホスファチジルエタノール(PEG−PE)を含む脂質組成物として、使用に適するサイズになるように、適当なポアサイズのフィルターを通して調製され、逆相蒸発法によって精製される。
【0044】
本発明の医薬は、医薬組成物としてキットの形態で、容器、パック中に投与の説明書と共に含めることができる。本発明に係る薬剤組成物がキットとして供給される場合、該薬剤組成物のうち異なる構成成分が別々の容器中に包装され、使用直前に混合される。このように構成成分を別々に包装するのは、活性構成成分の機能を失うことなく長期間の貯蔵を可能にするためである。
【0045】
キット中に含まれる試薬は、構成成分が活性を長期間有効に持続し、容器の材質によって吸着されず、変質を受けないような何れかの種類の容器中に供給される。例えば、封着されたガラスアンプルは、窒素ガスのような中性で不反応性ガスの下において包装されたバッファーを含む。アンプルは、ガラス、ポリカーボネート、ポリスチレンなどの有機ポリマー、セラミック、金属、又は試薬を保持するために通常用いられる他の何れかの適切な材料などから構成される。他の適切な容器の例には、アンプルなどの類似物質から作られる簡単なボトル、及び内部がアルミニウム又は合金などのホイルで裏打ちされた包装材が含まれる。他の容器には、試験管、バイアル、フラスコ、ボトル、シリンジ、又はその類似物が含まれる。容器は、皮下用注射針で貫通可能なストッパーを有するボトルなどの無菌のアクセスポートを有する。
【0046】
また、キットには使用説明書も添付される。当該医薬組成物からな成るキットの使用説明は、紙又は他の材質上に印刷され、及び/又はフロッピー(登録商標)ディスク、CD−ROM、DVD−ROM、Zipディスク、ビデオテープ、オーディオテープなどの電気的又は電磁的に読み取り可能な媒体として供給されてもよい。詳細な使用説明は、キット内に実際に添付されていてもよく、或いは、キットの製造者又は分配者によって指定され又は電子メール等で通知されるウェブサイトに掲載されていてもよい。
【0047】
さらに、本発明には、DAPKs活性の異常亢進によって発症する疾患又は疾病に罹患した哺乳動物の該疾患に関する治療方法も含まれる。
ここで「治療」とは、疾患に罹患するおそれがあるか又は罹患した哺乳動物において、該疾患の病態の進行及び悪化を阻止又は緩和することを意味し、此れによって該疾患の諸症状等の進行及び悪化を阻止又は緩和することを目的とする治療的処置の意味として使用される。
【0048】
また、「疾患」とは、DAPKs活性の異常亢進に起因して発症する疾患全般のことを意味し、特に限定されるものではなく、例えば、脳梗塞、クモ膜下出血、脳底動脈瘤、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン舞踏病、てんかん、頭部外傷、脊髄損傷、心筋梗塞、虚血性心疾患、虚血性腎障害、急性腎不全、慢性腎不全、多臓器不全等を含む概念である。
【0049】
治療の対象となる「哺乳動物」は、哺乳類に分類される任意の動物を意味し、特に限定はしないが、例えば、ヒトの他、イヌ、ネコ、ウサギなどのペット動物、ウシ、ブタ、ヒツジ、ウマなどの家畜動物などのことである。特に好ましい「哺乳動物」は、ヒトである。
【0050】
次に本発明を具体例によって説明するがこれらの例によって本発明が限定されるものではない。
【実施例】
【0051】
置換ピリジン誘導体のDAPK阻害作用
DAPK1 (INVITROGEN社 No.PV3969) 2.6μg/mL若しくはDAPK3(INVITROGEN社 catNo.PV3686)6.0μg/mLと、当該化合物のDMSO溶液、0.1μg/mL、0.03μg/mLを混合し、室温で15分間反応させた。溶媒対照としては、2% DMSOを用いた。Z’−LYTE Kinase Assay Kit−Ser/Thr 13 Peptide(INVITROGEN社 cat No.PV3793)を用いて、添付書類の方法に従ってDAPK1、DAPK3の酵素活性を測定した。
【0052】
溶媒対照での酵素活性を100%として、各化合物による阻害率を算出した。表1は各化合物による阻害率を示す。
【表1】

【0053】
HeLa細胞に、ヒト インターフェロンγ(IFNγ)10ng/mLを含む培地を加えて、2日間インキュベートした。試験当日に当該化合物の DMSO 溶液を含む培地に交換し、15分間インキュベートした。溶媒対照としては、0.2% DMSOを使用した。そこに、ヒト腫瘍壊死因子α(TNFα)10ng/mLとシクロヘキシミド10μg/mLを加え、4時間インキュベート後にHeLa細胞を回収した。細胞はAnnexin V−FITC/7−AAD Kit(BECKMAN COULTER社 cat No.IM3614)を用いて染色し、フローサイトメーターでAnnexin V陽性を示す細胞の割合を測定した。表2は、表1に示す4−(ピリジン−3−イルメチレン)−2−スチリルオキサゾール−5(4H)−オンを細胞に添加した場合の例を示す。当該化合物は細胞死を有意に阻害することが明らかになった。
【0054】
【表2】

【0055】
DAPK阻害化合物の各種キナーゼに対する阻害特異性は、Profiler Pro kit(キャリパーライフサイエンス社製)を用い、添付書類の方法に従って調べた。表1に示す化合物について、3μg/mlが最終濃度となるように各種キナーゼと15分間反応させた。反応後、残存酵素活性を検討した。その結果、酵素阻害による副作用発現が懸念される各種セリンスレオニンキナーゼ(プロテインキナーゼA、プロテインキナーゼC、AKT、AurA、Erk1)に対する有効(阻害活性として25%以上)なキナーゼ阻害活性は見出されず、当該化合物はDAPKにより選択性の高い阻害化合物であった。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明の細胞死関連蛋白質リン酸化酵素の阻害剤及び該阻害剤を有効成分として含有する医薬は、細胞死に伴う各種疾患を治療するための薬剤又は医薬として、利用価値が高く、さらなる効果を持つ化合物及びそれを含有する医薬の開発に大きく貢献するものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される置換ピリジン誘導体若しくはその塩又はそれらの溶媒和物若しくはそれらの水和物を有効成分として含む細胞死関連蛋白質リン酸化酵素阻害剤。
【化1】


[式中、A及びBは一方が窒素原子で他方が炭素原子であり、D,E,FはO−C=N或いはN=C−Sの組み合わせを表し、Rは置換基を有してもよい低級アルキル基、置換基を有してもよい芳香族炭化水素低級飽和アルキル基、置換基を有してもよい芳香族炭化水素低級不飽和アルキル基、置換基を有してもよいモノ又はジ低級アルキルアミノ基若しくはこれらのジ低級アルキルが環形成したアミノ基、置換基を有してもよい芳香族炭化水素基及び以下の置換基
【化2】


(ただしR1〜R5はそれぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基、低級アルキル基、低級アルコキシ基を示す)のいずれかである]
【請求項2】
D,E,Fが、O−C=N或いはN=C−Sの組み合わせである請求項1に記載の細胞死関連蛋白質リン酸化酵素阻害剤。
【請求項3】
前記低級アルキル基の炭素数が1〜14である請求項1又は2のいずれかに記載の細胞死関連蛋白質リン酸化酵素阻害剤
【請求項4】
Rがアダマンチル基である請求項3に記載の細胞死関連蛋白質リン酸化酵素阻害剤。
【請求項5】
前記芳香族炭化水素低級飽和アルキル基の炭素原子数が1〜5である請求項1又は2のいずれかに記載の細胞死関連蛋白質リン酸化酵素阻害剤。
【請求項6】
前記芳香族炭化水素低級不飽和アルキル基の炭素原子数が1〜5である請求項1又は2のいずれかに記載の細胞死関連蛋白質リン酸化酵素阻害剤。
【請求項7】
Rがスチリル基である請求項6に記載の細胞死関連蛋白質リン酸化酵素阻害剤。
【請求項8】
前記モノ又はジ低級アルキルアミノ基の炭素原子数が1〜15である請求項1又は2のいずれかに記載の細胞死関連蛋白質リン酸化酵素阻害剤。
【請求項9】
前記ジ低級アルキルが環形成したアミノ基の炭素原子数が1〜15である請求項1又は2のいずれかに記載の細胞死関連蛋白質リン酸化酵素阻害剤。
【請求項10】
Rがピペリジンである請求項9に記載の細胞死関連蛋白質リン酸化酵素阻害剤。
【請求項11】
一般式(2)のR1が水素原子で、R2〜R5がそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基、低級アルキル基、低級アルコキシ基のいずれかである請求項1又は2のいずれかに記載の細胞死関連蛋白質リン酸化酵素阻害剤。
【請求項12】
一般式(2)のR1,R3,R4が水素原子で、R2がヨウ素原子、R5が塩素原子である請求項11に記載の細胞死関連蛋白質リン酸化酵素阻害剤。
【請求項13】
一般式(2)のR1,R2,R5が水素原子で、R3が塩素原子、R4がニトロ基である請求項11に記載の細胞死関連蛋白質リン酸化酵素阻害剤。
【請求項14】
一般式(2)のR1,R4,R5が水素原子で、R2又はR3がそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基、低級アルキル基、低級アルコキシ基のいずれかである請求項1又は2のいずれかに記載の細胞死関連蛋白質リン酸化酵素阻害剤。
【請求項15】
一般式(2)のR1,R3〜R5が水素原子で、R2がメチル基である請求項14に記載の細胞死関連蛋白質リン酸化酵素阻害剤。
【請求項16】
請求項1乃至15のいずれかに記載の細胞死関連蛋白質リン酸化酵素阻害剤を有効成分とする、細胞死関連蛋白質リン酸化酵素の異常亢進に起因する疾患の治療のための医薬。
【請求項17】
前記疾患が細胞死を伴う疾患であることを特徴とする請求項16に記載の治療のための医薬。
【請求項18】
前記細胞が神経細胞であることを特徴とする請求項17に記載の治療のための医薬。
【請求項19】
前記細胞が心血管細胞であることを特徴とする請求項17に記載の治療のための医薬。
【請求項20】
前記細胞が腎臓細胞であることを特徴とする請求項17に記載の治療のための医薬。

【公開番号】特開2009−155223(P2009−155223A)
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−331922(P2007−331922)
【出願日】平成19年12月25日(2007.12.25)
【出願人】(500386563)株式会社ファルマデザイン (9)
【出願人】(507420835)株式会社エヌビィー健康研究所 (2)
【Fターム(参考)】