説明

DOE調整方法およびレーザ加工装置

【課題】光軸に対するDOEの傾きの調整を容易に行なうことができるDOE調整方法およびレーザ加工装置を得ること。
【解決手段】レーザ加工装置の光源から出射されたレーザ光を分光して被加工物側へ送るDOEを、当該DOEへ入射するレーザ光の光軸に対して位置調整するDOE調整方法において、DOEを配設したレーザ加工装置が実際にレーザ加工した後の加工穴の位置ずれを測定する位置測定ステップと、位置ずれの測定結果に基づいてレーザ光の光軸方向と垂直な方向の回転軸でDOEを回転させ、当該DOEの回転によってDOEの位置調整を行なう位置調整ステップと、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ加工による加工位置の位置ずれを調整するDOE調整方法およびレーザ加工装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、被加工物に対して複数の加工穴を迅速にレーザ加工する装置として、DOE(Diffractive Optical Element)を備えたレーザ加工装置が用いられている。このレーザ加工装置が備えるDOEは、回折型の光学素子であり、この光学素子の表面に施された回折格子によって光学素子に入射するレーザビームを所定のパターンに分光する。例えば3分光するように設計されたDOEをレーザ加工装置の光路系に設置すれば、1度のレーザビームの出射で3点の加工が可能となる。
【0003】
このようなDOEを備えたレーザ加工装置においては、レーザ発振器などの光源から出射されたレーザビームをDOEに入射し、このレーザビームをDOEによって所定の数、角度を持った複数のレーザビームに分光している。そして、分光後のレーザビームを所定の光路伝送系を介して被加工物に出射し、1度に複数の加工穴を穿孔している。
【0004】
DOEを備えたレーザ加工装置では、1度に複数の加工穴を穿孔できるので生産性を向上させることはできるが、複数の加工位置に対して位置ずれを防止する必要があり高精度なレーザ加工が困難になる。このため、加工の位置を精度良くレーザ加工を行なうことができるレーザ加工装置の開発が進められている。
【0005】
特許文献1に記載のレーザ加工装置は、レーザ光を発生させるレーザ発振器と、このレーザ発振器より出力されたレーザ光を被加工物に導く光路を形成するガルバノミラーとfθレンズとを有する光路系と、レーザ発振器とガルバノミラーとの間の光路中に設けられたDOEと、DOEの保持装置が光軸に対して垂直となるように調整できる調整手段を備えている。
【0006】
特許文献2に記載のレーザ加工装置は、回折光学素子または回折光学素子と集光レンズの組み合わせを用いて単一のレーザビームを複数のレーザビームに分割、集光し、複数のレーザビームにより複数のライン状の加工を同時に行なうレーザ加工装置において、光軸を中心に回折光学素子を回転させ、その回転角度の調整によって加工ラインのピッチ間隔を調整している。
【0007】
【特許文献1】国際公開第00/53365号パンフレット
【特許文献2】特開2004−268144号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
DOEを用いたレーザ加工装置において生産性を高めるためには、DOEによる分光数を増大させ、同時に穿孔する穴の数を増やすことが有効的である。しかしながら、分光数を増大させるとDOEによる加工範囲が広くなるので、DOEの取付精度が加工精度(位置精度)へ大きな影響を与える。例えば、DOEへの光軸の入射角度がDOE主面への垂直方向からずれている場合、光軸の中心から離れた加工位置(加工穴)ほど、加工穴本来の設計位置から大きくずれることとなり加工精度も悪化する。このようなDOEへの光軸の入射角度のずれに起因する加工の位置ずれを補正するためには、DOEが光軸に対して垂直になるようDOE保持装置の取付位置を調整する必要がある。
【0009】
上記前者の従来技術では、レーザビームをDOEに対して垂直に入射させるためにレーザビームの光軸の傾きを計測し、この計測結果に基づいてDOE保持装置の傾き角度を調整する必要がある。しかしながら、光軸とDOE保持装置の機械的な傾きは相互に独立したものであるため、DOEへの光軸の入射角度の調整は困難であるという問題があった。
【0010】
また、上記後者の従来技術では、スクライブラインなどの複数の直線を同時加工する際の加工ラインのピッチ間隔を調整することはできるが、DOEへの光軸の入射角度のずれに起因する加工の位置ずれを補正することはできないという問題があった。
【0011】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、光軸に対するDOEの傾きの調整を容易に行なうことができるDOE調整方法およびレーザ加工装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明は、レーザ加工装置の光源から出射されたレーザ光を分光して被加工物側へ送るDOEを、当該DOEへ入射するレーザ光の光軸に対して位置調整するDOE調整方法において、前記DOEを配設したレーザ加工装置が実際にレーザ加工した後の加工穴の位置ずれを測定する位置測定ステップと、前記位置ずれの測定結果に基づいて前記レーザ光の光軸方向と垂直な方向の回転軸で前記DOEを回転させ、当該DOEの回転によって前記DOEの位置調整を行なう位置調整ステップと、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
この発明によれば、DOEを配設したレーザ加工装置が実際にレーザ加工した加工穴の位置ずれの測定結果に基づいて、レーザ光の光軸方向と垂直な方向の回転軸でDOEを回転させるので、光軸に対するDOEの傾きの調整を容易に行なうことができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に、本発明に係るDOE調整方法およびレーザ加工装置の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0015】
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1に係るレーザ加工装置の構成を示す図である。レーザ加工装置101は、回折型の光学素子(後述のDOE10)を用いて複数の加工穴を同時に穿孔する装置であり、DOE10の配設位置に起因する各加工位置の位置ずれを調整して被加工物9のレーザ加工を行なう装置である。本実施の形態では、レーザ加工装置101は、試験加工として実際に加工した加工穴の位置(位置ずれ)に基づいて、光軸に対するDOE10の入射角度を調整する。レーザ加工装置101は、例えば高速微細穴加工等に用いられる。
【0016】
レーザ加工装置101は、レーザ発振器(光源)1、ベンドミラー3、ガルバノミラー4,5、制御装置6、DOE10、fθレンズ7、XYテーブル12、DOE保持装置13を備えている。
【0017】
レーザ発振器1は、所定のタイミングでレーザビーム(レーザ光)2を出射(放射)する。DOE10は、回折型の光学素子であり、表面に施された回折格子によって光学素子に入射するレーザビーム2を所定のパターン(分光レーザビーム11)に分光する。DOE10は、DOE保持装置13によって固定(保持)されている。
【0018】
ベンドミラー3は、レーザ発振器1から出射されるレーザビーム2(分光レーザビーム11)を反射して所定の光路へ導く。ガルバノミラー4,5は、分光レーザビーム11を任意の角度(XY方向)にスキャニングする。fθレンズ7は、入射する分光レーザビーム11を被加工物9に対して垂直に入射するよう補正して出射する。XYテーブル12は、被加工物9を載置するとともに、XY方向に移動する。
【0019】
制御装置6は、被加工物9を加工するための加工プログラムや加工条件などに基づいて、レーザ発振器1、ガルバノミラー4,5、XYテーブル12などを制御する。制御装置6は、レーザ発振器1から出射させるレーザビーム2の出射タイミングや、ガルバノミラー4,5がスキャンする分光レーザビーム11の角度を制御する。
【0020】
DOE保持装置13は、DOE10を保持する。DOE保持装置13は、レーザビーム2に対する2軸の傾き方向の調整機構として、レーザビーム2の光軸に対する垂直方向にX方向調整軸14、Y方向調整軸15を有している。それぞれの調整軸(回転軸)は、DOE10の中心を通るとともに、各軸方向はXYテーブル12のX軸方向、Y軸方向と同じである。DOE保持装置13は、X方向調整軸14を回転させることによってX方向と垂直な面内方向に回転し、Y方向調整軸15を回転させることによってY方向と垂直な面内方向に回転する。各調整軸では、所定の位置で軸の固定が可能となっている。なお、各調整軸にはツマミ等を取りつけておき、手動での微調整を実行しやすくしておくことが望ましい。
【0021】
図1においてレーザ発振器1から出射されたレーザビーム2は、ベンドミラー3によって構成される所定の光路伝送系を伝ってDOE10に入射する。レーザビーム2は、DOE10によって所定の数、角度を持った複数の分光レーザビーム11に分光される。この分光レーザビーム11は、ガルバノスキャナによって保持されるガルバノミラー4,5に入射する。複数からなる分光レーザビーム11は、ガルバノミラー4,5によって任意の角度にスキャニングされ、fθレンズ7に入射する。fθレンズ7に入射した分光レーザビーム11は、fθレンズ7で被加工物9に対して垂直に入射するよう補正されて出射される。fθレンズ7から出射した分光レーザビーム11は、XYテーブル12上の被加工物9に到達し、複数の加工穴8を同時に穿孔する。被加工物9の材質に対してレーザビーム2(分光レーザビーム11)の出力が十分でない場合は、複数パルスのビームを一つの加工点に繰返し、必要とされる深さの加工穴を穿孔する。
【0022】
ガルバノミラー4,5によってスキャニング可能な範囲は限定されているため、その範囲内での加工が終了すると被加工物9はその未加工領域がスキャニング可能な位置となるようXYテーブル12によって移動させられ、再びガルバノミラー4,5を介して到達する分光レーザビーム11によって加工される。これにより、制御装置6に予め入力されている加工プログラムに基づいた加工パターンを被加工物9上に加工する。
【0023】
DOE10に起因する加工穴8の設計位置からのずれのパターン(ずれの方向と量)は、DOE10への光軸(レーザビーム2の)の入射角度(垂直方向からのずれ)と相関関係がある。本実施の形態では、光軸の傾きとDOE10の傾き(レーザビーム2の光軸に対するDOE10の傾き)を実際に計測することなく、試験加工として実際に加工した加工穴の位置に基づいて、光軸に対するDOE10の入射角度(調整軸の回転角度および回転方向)を調整する。なお、図1に示したレーザ加工装置101の構成において、ガルバノミラー4、ガルバノミラー5を省略した構成としてもよい。
【0024】
つぎに、実施の形態1に係るレーザ加工装置101の動作手順(DOE10の傾きを補正する処理)について説明する。図2は、実施の形態1に係るレーザ加工装置の動作手順を示すフローチャートである。レーザ加工装置101には、被加工物9をレーザ加工する際に使用するDOE10を予め光路中に設置しておく。DOE10は、X方向調整軸14、Y方向調整軸15によって位置が固定されたDOE保持装置13上に固定される。
【0025】
まず、現状のDOE10の姿勢(位置)確認のためにDOE10を用いた被加工物9のレーザ加工(加工穴8の穿孔)を実施する(ステップS110)。この際、ガルバノスキャンのピッチエラーなどに起因する加工位置の位置ずれを避けるため、ガルバノミラー4,5の角度は中央(fθレンズ7の中心を通る位置)に設定しておく。このDOE10を用いた被加工物9のレーザ加工は、試験加工であり単発の加工でよい。
【0026】
つぎに、穿孔された加工穴8の加工位置を測定する(ステップS120)。加工穴8の加工位置の測定として、XYテーブル12においてX軸方向(ピッチ方向)に並んでいる加工穴の穴間ピッチを測定する。例えば、X軸方向の最端部に位置する加工穴と、この加工穴の隣(光軸側)に位置する加工穴の穴間ピッチの距離を最端部の穴間ピッチとして測定(算出)する。この穴間ピッチは、X軸方向の両方の最端部(X軸のプラス(+)方向の最端部、X軸のマイナス(−)方向の最端部)で測定する。そして、各最端部(プラスX側、マイナスX側)で測定した穴間ピッチの距離の差を比較する(ステップS130)。
【0027】
両最端部の穴間ピッチに偏り(差)が生じている場合(ステップS140、No)、両最端部の穴間ピッチのうちX軸のプラス方向の最端部の穴間ピッチがX軸のマイナス方向の最端部の穴間ピッチよりも大きいか否かを判断する(ステップS170)。
【0028】
ここで、DOE10の傾き(Y方向調整軸15の回転方向)(Y軸回転方向)と、両最端部の穴間ピッチの差の関係について説明する。図3は、レーザビームがDOEに対して垂直方向に入射した場合の加工位置を示す図である。
【0029】
DOE10に対してレーザビーム2が垂直方向に入射できるのは、DOE10がY軸方向と垂直な面内方向で回転していない状態(Y方向調整軸15が回転していない状態)であって、かつDOE10がX軸方向と垂直な面内方向で回転していない状態(X方向調整軸14が回転していない状態)である。
【0030】
図3に示すDOE10の場合、レーザビーム2はDOE10の主面に対して垂直に入射しているため、加工穴8は設計値に従った位置に穿孔される。すなわち、加工穴8の両最端部の穴間ピッチは等しい距離(正常値)となり、加工穴8のX軸方向の加工位置がずれることはない。
【0031】
図4は、Y軸回転方向に傾いたDOEに対してレーザビームが斜め入射した場合の加工位置を示す図である。ここでは、DOE10がY軸回転方向のプラス側に傾いている場合を示している。
【0032】
Y軸回転方向のプラス側は、Y軸の反時計周りの回転方向であり、Y軸回転方向のマイナス側は、Y軸の時計周りの回転方向である。換言すると、Y方向調整軸15をY軸回転方向のプラス側(反時計周り)に回転させると、DOE10のプラスX側の端部がマイナスX側の端部よりも上(レーザビーム2が送られてくる側)になる。また、Y方向調整軸15をY軸回転方向のマイナス側(時計周り)に回転させると、DOE10のプラスX側の端部がマイナスX側の端部よりも下になる。なお、図1および図4では、Y軸のマイナス側からプラス側に向かう方向に対して回転方向(時計周り、反時計周り)を定義している。
【0033】
DOE10がY軸回転方向で回転してDOE10が傾くと、加工穴8のX軸方向における両最端部の穴間ピッチがずれる。具体的には、DOE10がY軸回転方向のプラス側に傾くと、プラスX側の穴間ピッチが正常値よりも大きくなり、マイナスX側の穴間ピッチが正常値よりも小さくなる。一方、DOE10がY軸回転方向のマイナス側に傾くと、プラスX側の穴間ピッチが正常値よりも小さくなり、マイナスX側の穴間ピッチが正常値よりも大きくなる。
【0034】
DOE10がレーザビーム2の光軸に対してY方向調整軸15を軸に傾斜している場合、加工穴8のパターンは設計位置からX軸方向に偏りを持ってずれた位置に穿孔される。この加工穴8のパターンの偏りの傾向は、光軸中心を基準とした場合、DOE10の傾斜が被加工物9側に下がっている側(図4ではマイナスX側)の穴間ピッチが狭くなり、この逆側(図4ではプラスX側)の穴間ピッチが広くなる。そして、この偏りの量は、DOE10の傾斜量が大きくなるに従って増大する。また、光軸から離れた穴間ピッチほど、正常な穴間ピッチからのずれ量が大きくなる。
【0035】
なお、DOE10の傾斜量(Y方向調整軸15を軸にした傾斜量)による偏り量はDOE10の仕様によって異なる。図4では、DOE10がY軸回転方向のプラス側に傾いているので、プラスX側の穴間ピッチがマイナスX側の穴間ピッチよりも大きくなっている場合を示している。
【0036】
プラスX側の穴間ピッチがマイナスX側の穴間ピッチよりも大きい場合(ステップS170、Yes)、Y方向調整軸15をマイナス方向に回転させることによって、DOE10の傾きをY軸回転方向のマイナス側に調整する(ステップS180)。
【0037】
一方、マイナスX側の穴間ピッチがプラスX側の穴間ピッチよりも大きい場合(ステップS170、No)、Y方向調整軸15をプラス方向に回転させることによって、DOE10の傾きをY軸回転方向のプラス側に調整する(ステップS190)。
【0038】
このステップS180やステップS190の処理によって、DOE10をY軸方向と垂直な面内方向で回転していない状態(レーザビーム2をDOE10に対して垂直方向に入射させることができる状態)にする。これにより、DOE10のY軸回転方向の傾きに起因する加工穴のピッチ方向(X軸方向)の位置ずれを調整できることとなる。
【0039】
例えば、DOE10の傾斜量1°で左右端のピッチ間隔(穴間ピッチ)の差が1μm単位で変動することもあるが、本実施の形態では、レーザビーム2がDOE10に対して垂直方向に入射するようDOE10の位置をY方向調整軸15で調整しているので、X軸方向の加工穴8の位置ずれを低減して高精度な加工を行なうことが可能となる。
【0040】
ステップS180やステップS190の処理後は、再び被加工物9のレーザ加工(試験加工)、加工位置の測定、穴間ピッチの比較を行なう(ステップS110〜S140)。これにより、Y方向調整軸15の調整が適切に行なわれているか否かを確認する。
【0041】
Y方向調整軸15の調整が不適切(不十分)である場合、再びステップS170〜S190の処理を実行し、Y方向調整軸15の調整精度を上げていく。Y方向調整軸15の調整が適切に行なわれるまでステップS110〜140、ステップS170〜S190の処理を繰り返す。
【0042】
測定した両最端部の穴間ピッチが等しい場合(ステップS140、Yes)、X軸方向の穴間ピッチと垂直な方向(Y軸方向)のパターンの位置ずれを調整する。ここで、DOE10の傾き(X方向調整軸15の回転方向)(X軸回転方向)と、両最端部の加工穴の位置ずれの関係について説明する。図5は、X軸回転方向に傾いたDOEに対してレーザビームが斜め入射した場合の加工位置を示す図である。ここでは、DOE10がX軸回転方向のプラス側に傾いている場合(DOE10を水平方向から観察した場合にDOE10の上面が見える場合)を示している。
【0043】
X軸回転方向のプラス側は、X軸の反時計周りの回転方向であり、X軸回転方向のマイナス側は、X軸の時計周りの回転方向である。換言すると、X方向調整軸15をX軸回転方向のプラス側(反時計周り)に回転させると、DOE10のプラスY側の端部がマイナスY側の端部よりも上(レーザビーム2が送られてくる側)になる。また、X方向調整軸15をX軸回転方向のマイナス側(時計周り)に回転させると、DOE10のプラスY側の端部がマイナスY側の端部よりも下になる。なお、図1および図5では、X軸のプラス側からマイナス側に向かう方向に対して回転方向(時計周り、反時計周り)を定義している。
【0044】
DOE10がX軸回転方向で回転してDOE10が傾くと、加工穴8のY軸方向の位置がずれる。具体的には、DOE10がX軸回転方向のプラス側に傾くと、光軸上の加工穴8の加工位置が端部の加工穴(プラスX側の加工穴やマイナスX側の加工穴)の位置よりもY軸方向のプラス側にずれる。一方、DOE10がX軸回転方向のマイナス側に傾くと、光軸上の加工穴の加工位置が端部の加工穴の位置よりもY軸方向のプラス側にずれる。このずれ量は、DOE10の中央部(光軸から近い位置)の加工穴ほど大きくなる。したがって、DOE10がX軸回転方向のプラス側またはマイナス側に傾くと、光軸上の加工穴が正常値と比べて最大のずれ量を示す。換言すると、DOE10がX軸回転方向で傾くと、ピッチ方向(X軸方向)の加工穴の配列に反りを生じ、各加工穴がX軸方向に椀状に配列することとなる。一方、DOE10がX軸回転方向で傾いていない場合、各加工穴がX軸方向に直線状に並ぶこととなる。すなわち、加工穴8のパターンの反りの傾向は、光軸中心を基準とした場合、DOE10の傾斜が被加工物9側に下がっている側(図5ではマイナスY側)の方向に、加工パターン中央部を最大とした反りが生ずる。そして、その反りの量は、DOE10の傾斜量が大きくなるに従って増大する。
【0045】
これにより、DOE10がレーザビーム2の光軸に対してX方向調整軸14を軸に傾斜している場合、加工穴8のパターンは設計位置からY軸方向に反りを持ってずれた位置に穿孔される。
【0046】
なお、DOE10の傾斜量(X方向調整軸14を軸にした傾斜量)による偏り量はDOE10の仕様によって異なる。図5では、DOE10がX軸回転方向のプラス側に傾いているので、プラスX側の加工穴の位置とマイナスX側の加工穴の位置(光軸上の加工穴以外の加工位置)がY軸方向のプラス側にずれている場合を示している。
【0047】
本実施の形態では、Y軸方向の加工穴の位置ずれの調整として、まず加工中心部(光軸上)の加工穴の位置と、加工両端部の加工穴の位置とを比較し、各加工穴にY軸方向の位置ずれがあるか否か(穴位置に差異(配列の反り)が発生しているか否か)を判断する。具体的には、加工中心部の加工穴の位置(測定値)と、加工端部の加工穴の位置(測定値)とを比較して、ピッチ方向の加工穴の配列(Y軸方向)に反りがあるか否かを判断する(ステップS150,S160)。
【0048】
Y軸方向における加工穴の位置に差が生じてピッチ方向の加工穴の配列に反りがある場合(ステップS160、Yes)、加工穴の端部がプラス側に反りを生じているかか否かを判断する。すなわち、光軸上の加工穴が端部の加工穴よりもマイナスY側に大きくずれたことによって加工穴の配列に反りが生じているか否かを判断する(ステップS200)。
【0049】
加工穴の端部がプラスY側に反りを生じた配列となっている場合(ステップS200、Yes)、X方向調整軸14をマイナス方向に回転させることによって、DOE10の傾きをX軸回転方向のマイナス側に調整する(ステップS210)。
【0050】
一方、加工穴の端部がマイナスY側に反りを生じた配列となっている場合(ステップS200、No)、X方向調整軸14をプラス方向に回転させることによって、DOE10の傾きをX軸回転方向のプラス側に調整する(ステップS220)。
【0051】
このステップS210やステップS220の処理によって、DOE10をX軸方向と垂直な面内方向で回転していない状態(レーザビーム2をDOE10に対して垂直方向に入射させることができる状態)にする。これにより、DOE10のX軸回転方向の傾きに起因する加工穴のピッチ方向(Y軸方向)の位置ずれを調整できることとなる。
【0052】
例えば、傾斜量1°でパターン中央部に生じる反りの最大量が1μm単位で変動することもあるが、本実施の形態では、レーザビーム2がDOE10に対して垂直方向に入射するようDOE10の位置をX方向調整軸14で調整しているので、加工穴の位置ずれを低減して高精度な加工を行なうことが可能となる。
【0053】
ステップS210やステップS220の処理後は、再び被加工物9のレーザ加工(試験加工)、加工位置の測定、穴間ピッチの比較を行なう(ステップS110〜S160)。すなわち、以前の処理で両最端部の穴間ピッチが等しいことを確認できているので(ステップS140、Yes)、Y軸方向の加工穴の位置ずれの調整として、加工中心部の加工穴の位置と、加工両端部の加工穴の位置とを比較し、各加工穴にY軸方向の位置ずれがあるか否かを判断する。これにより、X方向調整軸14の調整が適切に行なわれているか否かを確認する。
【0054】
X方向調整軸14の調整が不適切(不十分)である場合、再びステップS200〜S220の処理を実行し、X方向調整軸14の調整精度を上げていく。X方向調整軸14の調整が適切に行なわれるまでステップS110〜160、ステップS200〜S220の処理を繰り返す。
【0055】
Y軸方向における加工穴の位置に差がなく、ピッチ方向の加工穴の配列に反りがない場合(X方向調整軸14の調整が適切である場合)(ステップS160、No)、各加工穴は正常な位置に穿孔されているのでDOE10の補正処理を終了する。以上のレーザ加工装置101の動作により、DOE10の光軸に対する傾きを調整することが可能となる。
【0056】
ところで、加工の位置ずれ方向(位置ずれ傾向)と、DOE10の光軸に対する傾斜方向との対応関係はDOE10の種類などに関わらず共通となるが、そのずれ量は、DOE10の設計(穴数、穴間ピッチ距離、穴の配置など)によって異なった傾向を示す。
【0057】
このため、予め加工の位置ずれ傾向(加工パターンの偏りや反りの量)を確認しておき、この位置ずれ量をデータとして記憶しておいてもよい。具体的には、DOE10をDOE保持装置13に設置し、例えば図2のフローチャートで示した手順でDOE10の傾き調整を行う。このとき、加工パターンの偏りと反りがゼロとなるポイント(DOE10の位置)を確認しておき、この位置を原点(DOE10を配設する位置の基準)に設定する。
【0058】
そして、設定した原点位置から所定の角度毎にDOE保持装置13をX軸方向とY軸方向のそれぞれの方向に対して傾斜させるとともに、この各傾斜位置に対する加工穴の位置を計測しておく。
【0059】
この際、加工パターンの偏りは、端2点間のピッチ(最端部の穴間ピッチ)のずれ量が最大となるので、この最端部の穴間ピッチを計測しておく。また、加工パターンの反りは、中央部(光軸上の加工穴)のずれ量が最大となるので、この中央部のずれ量を計測しておく。これらの処理によって得た計測データは、制御装置6内などに保管しておく。制御装置6の記憶手段(補正量記憶部22など)では、計測データを、DOE10の設置位置(光軸に対する傾斜角度)に対する加工の位置ずれ量(後述のDOE傾斜情報51,52)として記憶する。
【0060】
ここで、制御装置6内などに保管しておく計測データの構成について説明する。図6および図7は、DOE傾斜情報の構成の一例を示す図である。図6のDOE傾斜情報51は、DOE10のY軸回転方向の傾斜角度と加工パターンの位置ずれ量(偏り方向)の対応関係を示しており、図7のDOE傾斜情報52は、DOE10のX軸回転方向の傾斜角度と加工パターンの位置ずれ量(反り方向)の対応関係を示している。
【0061】
図6のDOE傾斜情報51は、「DOE保持装置の傾斜角度」、「プラス側最端部の穴間ピッチ」、「マイナス側最端部の穴間ピッチ」、「両端部(プラス側とマイナス側)間のピッチずれ量(穴間ピッチの差)」、「DOE保持装置の補正角度」の各データを有している。
【0062】
「DOE保持装置の傾斜角度」は、光軸に対するDOE保持装置13(主面)の傾斜角度(回転角度)である。「DOE保持装置13の傾斜角度」は、例えばY軸回転方向へ「−0.3°」、「−0.2°」、「−0.1°」、「0°」、「+0.1°」、「+0.2°」、「+0.3°」のように0.1°毎に設定される。
【0063】
「プラス側最端部の穴間ピッチ」は、X軸方向のプラス側の最端部に位置する加工穴8と、この加工穴8の隣に位置する加工穴8の穴間ピッチである。「プラス側最端部の穴間ピッチ」は、「DOE保持装置の傾斜角度」毎に測定される。ここでは、「−0.3°」、「−0.2°」、「−0.1°」、「0°」、「+0.1°」、「+0.2°」、「+0.3°」の各傾斜角度に対する穴間ピッチとしてP23、P22、P21、P0、P11、P12、P13が測定された場合を示している。
【0064】
「マイナス側最端部の穴間ピッチ」は、X軸方向のマイナス側の最端部に位置する加工穴8と、この加工穴8の隣に位置する加工穴8の穴間ピッチである。「マイナス側最端部の穴間ピッチ」は、「DOE保持装置の傾斜角度」毎に測定される。ここでは、「−0.3°」、「−0.2°」、「−0.1°」、「0°」、「+0.1°」、「+0.2°」、「+0.3°」の各傾斜角度に対する穴間ピッチとしてQ23、Q22、Q21、Q0、Q11、Q12、Q13が測定された場合を示している。
【0065】
「両端部間のピッチずれ量」は、「プラス側の最端部の穴間ピッチ」と「マイナス側の最端部の穴間ピッチ」の差(ずれ量)である。「両端部間のピッチずれ量」は、「DOE保持装置の傾斜角度」毎に算出される。ここでは、「−0.3°」、「−0.2°」、「−0.1°」、「0°」、「+0.1°」、「+0.2°」、「+0.3°」の各傾斜角度に対するピッチずれ量としてR23、R22、R21、R0、R11、R12、R13が算出された場合を示している。
【0066】
「DOE保持装置の補正角度」は、「両端部間のピッチずれ量」に対してDOE保持装置13の傾斜(Y軸回転方向)を補正すべき角度である。「DOE保持装置の補正角度」は、「両端部間のピッチずれ量」毎に算出し設定しておく。ここでは、ピッチずれ量のR23、R22、R21、R0、R11、R12、R13に対して、それぞれ補正角度の「+0.3°」、「+0.2°」、「+0.1°」、「0°」、「−0.1°」、「−0.2°」、「−0.3°」を設定した場合を示している。
【0067】
図7のDOE傾斜情報52は、「DOE保持装置の傾斜角度」、「中央部の最大ずれ量」、「DOE保持装置の補正角度」の各データを有している。「DOE保持装置の傾斜角度」は、光軸に対するDOE保持装置13(主面)の傾斜角度である。「DOE保持装置13の傾斜角度」は、例えばX軸回転方向へ「−0.3°」、「−0.2°」、「−0.1°」、「0°」、「+0.1°」、「+0.2°」、「+0.3°」のように0.1°毎に設定される。
【0068】
「中央部の最大ずれ量」は、DOE10の中央部から出斜した分光レーザビーム11で加工された加工穴(光軸中心に位置する加工穴)8の位置ずれ量である。「中央部の最大ずれ量」は、「DOE保持装置の傾斜角度」毎に測定される。ここでは、「−0.3°」、「−0.2°」、「−0.1°」、「0°」、「+0.1°」、「+0.2°」、「+0.3°」の各傾斜角度に対する各加工穴の最大ずれ量として、S23、S22、S21、S0、S11、S12、S13が測定された場合を示している。
【0069】
「DOE保持装置の補正角度」は、「中央部の最大ずれ量」に対してDOE保持装置13の傾斜(X軸回転方向)を補正すべき角度である。「DOE保持装置の補正角度」は、「中央部の最大ずれ量」毎に算出し設定しておく。ここでは、中央部の最大ずれ量のS23、S22、S21、S0、S11、S12、S13に対して、それぞれ補正角度の「+0.3°」、「+0.2°」、「+0.1°」、「0°」、「−0.1°」、「−0.2°」、「−0.3°」を設定した場合を示している。
【0070】
DOE10の位置調整を行なう際には、測定した加工の位置ずれ量と、保管しておいた計測データ(DOE傾斜情報51,52)とを比較することによって、調整すべきDOE10の角度(X方向調整軸14やY方向調整軸15の調整量)を容易に導き出すことが可能となる。
【0071】
これにより、レーザ加工装置101のDOE10を他の加工機(レーザ加工装置)に取り付ける場合や、一度取り外したDOE10を再度レーザ加工装置101に取り付ける場合などには効率良くDOE10の位置調整(X方向調整軸14やY方向調整軸15の調整)を行なうことが可能となる。
【0072】
なお、本実施の形態では、Y軸回転方向の加工穴の位置ずれ(加工穴のX座標)を補正するために、加工穴の最端部(プラスX側、マイナスX側)で測定した穴間ピッチの差を比較したが、最端部以外の位置にある加工穴の穴間ピッチを2つ以上用いて穴間ピッチの差を比較してもよい。この場合は、穴間ピッチの測定に用いた加工穴の位置に応じたY軸回転方向の補正量を算出し、この補正量でDOE10のY軸回転方向の傾きを調整する。
【0073】
また、本実施の形態では、X軸回転方向の加工穴の位置ずれ(加工穴のY座標)を補正するために、加工中心部の加工穴のY座標と最端部の加工穴のY座標を比較したが、これら以外の位置にある加工穴(X座標の絶対値が異なる加工穴)を2つ以上用いて加工穴のY座標の差を比較してもよい。この場合は、座標測定に用いた加工穴の位置に応じたY軸回転方向の補正量を算出し、この補正量でDOE10のX軸回転方向の傾きを調整する。
【0074】
このように、実施の形態1によれば、試験加工として実際に加工した加工穴の位置ずれに基づいて、光軸に対するDOE10の入射角度を調整するので、DOE10の加工エリアが広い場合であっても、光軸とDOE10の入射角に起因する設計位置からのずれが発生した場合の光軸に対するDOE10(DOE保持装置13)の傾きの調整を簡易な構成で容易に行なうことができる。また、DOE10をレーザ加工装置101に設置する際のDOE10の調整時間を短時間で行なうことができる。したがって、加工穴の位置ずれを低減した高精度な加工を簡易な構成で容易かつ迅速に行なうことが可能となる。
【0075】
実施の形態2.
つぎに、図8〜図10を用いてこの発明の実施の形態2について説明する。実施の形態2では、レーザ加工装置が、DOE10の傾き量の補正(DOE10の調整)を自動で実行する。
【0076】
図8は実施の形態2に係るレーザ加工装置の構成を示す図である。図8の各構成要素のうち図1に示す実施の形態1のレーザ加工装置101と同一機能を達成する構成要素については同一番号を付しており、重複する説明は省略する。
【0077】
レーザ加工装置102は、図1に示した実施の形態1のレーザ加工装置101の機能に加えて、X方向調整軸14を駆動させるX軸ステッピングモータ16、Y方向調整軸15を駆動させるY軸ステッピングモータ17、加工穴8の位置を読み取るCCD(Charge Coupled Device)カメラ18、DOE補正装置20を備えている。
【0078】
DOE補正装置20は、DOE10の傾き量の補正を自動制御する装置である。ここでDOE補正装置20の詳細な構成について説明する。図9は、DOE補正装置の構成を示す図である。
【0079】
DOE補正装置20は、X軸ステッピングモータ16、Y軸ステッピングモータ17、CCDカメラ(位置情報取得部)18に接続しており、カメラ画像解析部(位置ずれ解析部)21、補正量記憶部(位置調整情報記憶部)22、モータ補正量算出部(位置調整情報算出部)23、モータ駆動制御部(回転軸駆動部)24を備えている。DOE補正装置20では、モータ補正量算出部23が、カメラ画像解析部21、補正量記憶部22、モータ駆動制御部24と接続している。
【0080】
カメラ画像解析部21は、CCDカメラ18に接続しており、CCDカメラ18が撮像した画像(位置情報)に基づいて加工穴8の位置ずれを解析(穴位置の座標を算出)する。カメラ画像解析部21は、画像の解析結果(位置ずれ情報)をモータ補正量算出部23に入力する。
【0081】
補正量記憶部22は、DOE10(光軸に対する傾斜の調整対象)に対して予め測定しておいた加工穴パターンのずれ量と、DOE10の姿勢の補正量との相関データ(DOE傾斜情報51,52)(位置調整情報)を記憶する。
【0082】
ここでの加工穴パターンのずれ量は、実施の形態1の図6や図7で示したDOE傾斜情報51の「両端部間のピッチずれ量」やDOE傾斜情報52の「中央部の最大ずれ量」である。また、DOE10の姿勢の補正量(以下、DOE補正量という)は、DOE傾斜情報51やDOE傾斜情報52の「DOE保持装置の補正角度」である。
【0083】
モータ補正量算出部23は、カメラ画像解析部21からの解析結果と、補正量記憶部22が記憶するDOE補正量に基づいて、X方向調整軸14やY方向調整軸15の回転方向の補正量(回転角度)を算出する。モータ補正量算出部23は、算出した結果(補正量)を、X方向調整軸14の回転補正量、Y方向調整軸15の回転補正量としてモータ駆動制御部24に入力する。
【0084】
モータ駆動制御部24は、X軸ステッピングモータ16、Y軸ステッピングモータ17に接続しており、モータ補正量算出部23からの算出結果(X方向調整軸14の回転補正量、Y方向調整軸15の回転補正量)に基づいて、X軸ステッピングモータ16、Y軸ステッピングモータ17を制御する。
【0085】
つぎに、実施の形態2に係るレーザ加工装置102の動作手順(DOE10の傾きを補正する処理)について説明する。図10は、実施の形態2に係るレーザ加工装置の動作手順を示すフローチャートである。なお、実施の形態1に係るレーザ加工装置101と同様の処理を行う手順については、その説明を省略する。
【0086】
レーザ加工装置102には、被加工物9をレーザ加工する際に使用するDOE10を予め光路中に設置しておく。DOE10は、X方向調整軸14、Y方向調整軸15によって位置が固定されたDOE保持装置13上に固定される。
【0087】
まず、現状のDOE10の位置確認のためにDOE10を用いた被加工物9のレーザ加工(加工穴8の穿孔)を実施する(ステップS300)。この際、ガルバノスキャンのピッチエラーなどに起因する加工位置の位置ずれを避けるため、ガルバノミラー4,5の角度は中央(fθレンズ7の中心を通る位置)に設定しておく。このDOE10を用いた被加工物9のレーザ加工は、試験加工であり単発の加工でよい。
【0088】
つぎに、CCDカメラ18が穿孔された加工穴8を撮像し、読み取った画像をカメラ画像解析部21に入力する。カメラ画像解析部21は、CCDカメラ18が読み取った画像に基づいて、加工穴の座標を算出する(ステップS310)。
【0089】
カメラ画像解析部21は、算出した加工穴の座標を用いて両最端部(X軸方向の最端部に位置する加工穴と、この加工穴の隣に位置する加工穴)の穴間ピッチ(プラスX側、マイナスX側)を算出し、その差異を比較する(ステップS320)。
【0090】
両最端部の穴間ピッチに差が生じている場合は(ステップS330、No)、両端部の穴間ピッチに偏りが生じているので、両最端部の穴間ピッチの差を補正する処理を行う。具体的には、まずカメラ画像解析部21が、算出した加工穴の座標(X座標)をモータ補正量算出部23に入力する。モータ補正量算出部23は、レーザ加工装置102に設置したDOE10に対応するDOE傾斜情報51を補正量記憶部22から呼び出す(ステップS360)。
【0091】
モータ補正量算出部23は、穴間ピッチの差(ずれ方向とずれ量)に基づいて、DOE傾斜情報51からDOE補正量(DOE10のY軸回転方向の傾きを調整する角度)を抽出する(ステップS370)。
【0092】
モータ補正量算出部23は、抽出したDOE補正量に基づいて、Y方向調整軸15の回転方向の補正量(DOE補正量に応じた回転角度)を算出する。モータ補正量算出部23は、算出した結果(回転角度)を、Y方向調整軸15の回転補正量としてモータ駆動制御部24に入力する。
【0093】
モータ駆動制御部24は、モータ補正量算出部23からの算出結果(Y方向調整軸15の回転補正量)に基づいて、Y軸ステッピングモータ17を制御する。具体的には、モータ駆動制御部24がDOE補正量に応じた角度(補正量)の回転指令をY軸ステッピングモータ17に出力する(ステップS380)。Y軸ステッピングモータ17は、モータ駆動制御部24からの回転指令に応じた回転角度だけY方向調整軸15を回転させる。これにより、Y方向調整軸15に接続しているDOE保持装置13が駆動し(ステップS390)、DOE10の傾き(Y軸回転方向)が補正される。
【0094】
ここでの処理は、実施の形態1でのレーザ加工装置101の処理と同様に、プラスX側の穴間ピッチがマイナスX側の穴間ピッチよりも大きい場合、Y方向調整軸15をマイナス方向に回転させることによって、DOE10の傾きをY軸回転方向のマイナス側に調整する。
【0095】
一方、マイナスX側の穴間ピッチがプラスX側の穴間ピッチよりも大きい場合、Y方向調整軸15をプラス方向に回転させることによって、DOE10の傾きをY軸回転方向のプラス側に調整する。
【0096】
ステップS390の処理後は、再び被加工物9のレーザ加工(試験加工)、加工位置の測定、穴間ピッチの比較を行なう(ステップS300〜S330)。これにより、Y方向調整軸15の調整が適切に行なわれているか否かを確認する。
【0097】
Y方向調整軸15の調整が不適切である場合、再びステップS360〜S390の処理を実行し、Y方向調整軸15の調整精度を上げていく。Y方向調整軸15の調整が適切に行なわれるまでステップS300〜330、ステップS360〜S390の処理を繰り返す。
【0098】
測定した両最端部の穴間ピッチが等しい場合(ステップS330、Yes)、カメラ画像解析部21は、算出した加工穴の座標に基づいて、加工ピッチ方向と垂直な方向の加工穴の座標の差を中央部(光軸近傍)と両最端部で比較する(ステップS340,S350)。
【0099】
中央部における加工ピッチ方向と垂直な方向の座標(Y座標)と、両最端部における加工ピッチ方向と垂直な方向の座標(Y座標)に差が生じている場合(ステップS350、No)、中央部の加工穴と両最端部の加工穴の配列が反りを形成しているので、加工ピッチ方向と垂直な方向の加工穴の座標(加工穴のY座標)を補正する処理を行う。具体的には、まずカメラ画像解析部21が、算出した加工穴の座標(Y座標)をモータ補正量算出部23に入力する。モータ補正量算出部23は、レーザ加工装置102に設置したDOE10に対応するDOE傾斜情報52を補正量記憶部22から呼び出す(ステップS400)。
【0100】
モータ補正量算出部23は、加工ピッチ方向と垂直な方向の加工穴の座標の差(ずれ方向とずれ量)に基づいて、DOE傾斜情報52からDOE補正量(DOE10のX軸回転方向の傾きを調整する角度)を抽出する(ステップS410)。
【0101】
モータ補正量算出部23は、抽出したDOE補正量に基づいて、X方向調整軸14の回転方向の補正量(DOE補正量に応じた回転角度)を算出する。モータ補正量算出部23は、算出した結果(回転角度)を、X方向調整軸14の回転補正量としてモータ駆動制御部24に入力する。
【0102】
モータ駆動制御部24は、モータ補正量算出部23からの算出結果(X方向調整軸14の回転補正量)に基づいて、X軸ステッピングモータ16を制御する。具体的には、モータ駆動制御部24がDOE補正量に応じた角度(補正量)の回転指令をX軸ステッピングモータ16に出す(ステップS420)。X軸ステッピングモータ16は、モータ駆動制御部24からの回転指令に応じた回転角度だけX方向調整軸14を回転させる。これにより、X方向調整軸14に接続しているDOE保持装置13が駆動し(ステップS430)、DOE10の傾きが補正される。
【0103】
ここでの処理は、実施の形態1でのレーザ加工装置101の処理と同様に、加工穴の端部がプラスY側に反りを生じた配列となっている場合、X方向調整軸14をマイナス方向に回転させることによって、DOE10の傾きをX軸回転方向のマイナス側に調整する。
【0104】
一方、加工穴の端部がマイナスY側に反りを生じた配列となっている場合、X方向調整軸14をプラス方向に回転させることによって、DOE10の傾きをX軸回転方向のプラス側に調整する。
【0105】
ステップS430の処理後は、再び被加工物9のレーザ加工(試験加工)、加工位置の測定、穴間ピッチの比較を行なう(ステップS300〜S350)。すなわち、以前の処理で両最端部の穴間ピッチが等しいことを確認できているので(ステップS330、Yes)、Y軸方向の加工穴の位置ずれの調整として、加工中心部の加工穴の位置と、加工両端部の加工穴の位置とを比較し、各加工穴のY軸方向の位置ずれがあるか否かを判断する。これにより、X方向調整軸14の調整が適切に行なわれているか否かを確認する。
【0106】
X方向調整軸14の調整が不適切(不十分)である場合、再びステップS400〜S430の処理を実行し、X方向調整軸14の調整精度を上げていく。X方向調整軸14の調整が適切に行なわれるまでステップS300〜350、ステップS400〜S430の処理を繰り返す。
【0107】
一方、中央部における加工ピッチ方向と垂直な方向の座標と、両端部における加工ピッチ方向と垂直な方向の座標に差がなくピッチ方向の加工穴の配列に反りがない場合(X方向調整軸14の調整が適切である場合)(ステップS350、Yes)、各加工穴は正常な位置に穿孔されていることとなるのでDOE10の補正処理を終了する。以上のレーザ加工装置102の動作により、DOE10の光軸に対する傾き(X軸回転方向)を調整することが可能となる。これにより、人手を介することなくDOE10の傾きの調整を実施することが可能となる。
【0108】
このように、実施の形態2によれば、試験加工として実際に加工した加工穴の位置ずれに基づいて、DOE補正装置20がY軸ステッピングモータ17、X軸ステッピングモータ16を駆動制御して光軸に対するDOE10の入射角度を調整するので、光軸に対するDOE10の傾きの調整を簡易な構成で容易に行なうことができる。また、DOE10をレーザ加工装置101に設置する際のDOE10の調整時間を短時間で行なうことができる。したがって、加工穴の位置ずれを低減した高精度な加工を簡易な構成で容易かつ迅速に行なうことが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0109】
以上のように、本発明に係るDOE調整方法およびレーザ加工装置は、レーザ加工による加工位置の位置ずれ調整に適している。
【図面の簡単な説明】
【0110】
【図1】本発明の実施の形態1に係るレーザ加工装置の構成を示す図である。
【図2】実施の形態1に係るレーザ加工装置の動作手順を示すフローチャートである。
【図3】レーザビームがDOEに対して垂直方向に入射した場合の加工位置を示す図である。
【図4】Y軸回転方向に傾いたDOEに対してレーザビームが斜め入射した場合の加工位置を示す図である。
【図5】X軸回転方向に傾いたDOEに対してレーザビームが斜め入射した場合の加工位置を示す図である。
【図6】偏り方向の位置ずれ量に関するDOE傾斜情報の構成を示す図である。
【図7】反り方向の位置ずれ量に関するDOE傾斜情報の構成を示す図である。
【図8】実施の形態2に係るレーザ加工装置の構成を示す図である。
【図9】DOE補正装置の構成を示す図である。
【図10】実施の形態2に係るレーザ加工装置の動作手順を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0111】
1 レーザ発振器
2 レーザビーム
3 ベンドミラー
4,5 ガルバノミラー
6 制御装置
7 fθレンズ
8 加工穴
9 被加工物
10 DOE
11 分光レーザビーム
12 XYテーブル
13 DOE保持装置
14 X方向調整軸
15 Y方向調整軸
16 X軸ステッピングモータ
17 Y軸ステッピングモータ
18 CCDカメラ
20 DOE補正装置
21 カメラ画像解析部
22 補正量記憶部
23 モータ補正量算出部
24 モータ駆動制御部
101,102 レーザ加工装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ加工装置の光源から出射されたレーザ光を分光して被加工物側へ送るDOEを、当該DOEへ入射するレーザ光の光軸に対して位置調整するDOE調整方法において、
前記DOEを配設したレーザ加工装置が実際にレーザ加工した後の加工穴の位置ずれを測定する位置測定ステップと、
前記位置ずれの測定結果に基づいて前記レーザ光の光軸方向と垂直な方向の回転軸で前記DOEを回転させ、当該DOEの回転によって前記DOEの位置調整を行なう位置調整ステップと、
を含むことを特徴とするDOE調整方法。
【請求項2】
前記位置測定ステップで測定した位置ずれの測定結果および当該測定結果に応じた前記回転軸の回転角度および回転方向を、前記DOEを位置調整するための位置調整情報として記憶しておく測定結果記憶ステップをさらに含み、
前記位置調整ステップは、前記測定結果記憶ステップで記憶しておいた位置調整情報を用いて前記DOEを位置調整することを特徴とする請求項1に記載のDOE調整方法。
【請求項3】
光源から出射されたレーザ光を分光して被加工物側へ送るDOEを有するとともに、当該DOEへ入射するレーザ光の光軸に対して前記DOEを位置調整し前記被加工物のレーザ加工を行なうレーザ加工装置において、
前記DOEを配設した状態で実際にレーザ加工した後の加工穴の位置ずれに関する位置ずれ情報に基づいて、前記レーザ光の光軸方向と垂直な方向の回転軸で前記DOEを回転させ、当該DOEの回転によって前記DOEの位置調整を行なう回転軸駆動部を備えることを特徴とするレーザ加工装置。
【請求項4】
前記DOEを配設した状態で実際にレーザ加工された加工穴の位置に関する位置情報を取得する位置情報取得部と、
前記位置情報取得部が取得した位置情報に基づいて前記加工穴の位置ずれを解析し前記位置ずれ情報を生成する位置ずれ解析部と、
前記位置ずれ解析部が生成した位置ずれ情報に基づいて、前記加工穴の位置ずれに応じた前記回転軸の回転角度および回転方向を、前記DOEを位置調整するための位置調整情報として算出する位置調整情報算出部と、
をさらに備え、
前記回転軸駆動部は、前記位置調整情報算出部が算出した位置調整情報を用いて前記DOEの位置調整を行なうことを特徴とする請求項3に記載のレーザ加工装置。
【請求項5】
前記位置調整情報を予め記憶しておく位置調整情報記憶部をさらに備え、
前記回転軸駆動部は、前記位置調整情報記憶部で記憶しておいた位置調整情報を用いて前記DOEの位置調整を行なうことを特徴とする請求項3に記載のレーザ加工装置。
【請求項6】
前記回転軸は、前記DOEによって分光された後のレーザ光によって加工される加工穴の配列ピッチ方向と平行な第1の軸および当該第1の軸に垂直な方向の第2の軸であることを特徴とする請求項3〜5のいずれか1つに記載のレーザ加工装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−173651(P2008−173651A)
【公開日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−7357(P2007−7357)
【出願日】平成19年1月16日(2007.1.16)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】