説明

ECRスパッタ処理装置

【課題】ECRスパッタ成膜後の基板面内の膜厚均一性をターゲット使用寿命の間維持できるECRスパッタ処理装置を提供する。
【解決手段】ECRスパッタ処理装置のターゲット120を複数の短冊形状ターゲット121を筒形状に配置して構成する。各短冊形状ターゲット121は独立したターゲット電源111を有し、短冊形状ターゲット121のプラズマ生成室105側の端部に設けられたターゲット開口軸113を起点として任意の角度(0度〜20度)に開口可能に設けられる。隣接する短冊形状ターゲット121間には、ターゲット104と同材質の三角柱ガイド112が配置される。これにより、ターゲット120が開口した際にターゲット120内面の筒形状内のECRプラズマ領域105からターゲット120の外部へECRプラズマが廻り込み、効率が低下することを防止するとともに、成膜後の基板103面内の膜厚均一性を維持することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ECR(電子サイクロトロン共鳴)により生成したプラズマでターゲットをスパッタリングして、半導体デバイス製造工程における基板上に薄膜を形成するECRスパッタ処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
図6は、ECRスパッタ処理装置の概要図を示すものである。ECRスパッタ処理装置は、排気装置101により真空状態に保たれており、Arガス導入管110より導入された、Arガス雰囲気中のプラズマ生成室109内にマグネトロン108により磁場を形成するとともにマイクロ波導入窓107よりマイクロ波源106で生成されたマイクロ波を導入し、電子サイクロトロン共鳴を利用してプラズマ生成室内109にプラズマ領域105を生成する。そして、生成されたプラズマ領域105中のArイオンを成膜室102内に設置されたターゲット電源111で負のバイアス電圧が印加されたターゲット104に入射させる。これにより、スパッタ粒子を放出させ、このスパッタ粒子を基板103上に堆積させることによりターゲット104の材質からなる薄膜を形成している。また、Arイオンに反応性ガス(O2、N2、H2等)を添加することにより所望の薄膜を形成している。ECRスパッタに使用されるターゲット104の形状は基板に近づくにつれて内径が増大する円錐筒形状もしくは、多角錐筒形状であって、この内周面にArイオンを衝突させてスパッタリングを行っている(例えば、特許文献1等参照)。
【特許文献1】特開2003―268537号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
基板に近づくにつれて内径が増大する円錐筒形状もしくは多角錐筒形状としたターゲットでは、ターゲットの開口角度(ターゲット内側面のターゲット軸心からの開き角)が30度から80度の間で固定されている。ターゲットを円錐筒形状もしくは多角錐筒形状とすることで、傾斜の無い円筒形状(開口角度0度)のターゲットの課題であった、基板面内に形成された膜の膜厚均一性を向上させることが可能となった。しかし、このような、円錐筒形状もしくは多角錐筒形状のターゲットは、スパッタ処理の累積によるターゲット内径寸法の増加(磨耗)に起因する、基板面内の膜厚均一性の悪化に対応する事は出来ない。また、ターゲットの開口角度を大きくし過ぎた場合は、基板から遠い側のターゲット開口部周部にECRプラズマが積極的に衝突するために、当該開口部周部でのターゲット消費が大きくなり、均一にターゲットを消費する事が出来ない。
【0004】
本発明の目的は、成膜後の基板面内の膜厚均一性をターゲット使用寿命の間維持できるECRスパッタ処理装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために本発明は、ECRスパッタ処理装置のターゲットを、複数の短冊形状のターゲットを筒形状となるように配置して構成する。各ターゲットは独立してターゲット電源を有し、基板面と反対側を開口軸起点として任意の角度(0度〜20度)に各短冊形状ターゲットを開口させる手段を備える。前記筒形状に配置された短冊形状ターゲットの隣り合ったターゲット間には、ターゲットと同材質の三角柱のガイドが配置される。このように、ターゲットを開口させる際のガイドの役割をする手段と、ターゲットが開口した際にECRプラズマがターゲット内面の筒形状内のECRプラズマ領域から外部へ廻り込まない構造を備えたことにより、成膜後の基板面内の膜厚均一性を維持させることが可能となる。
【発明の効果】
【0006】
本発明のECRスパッタ処理装置は、成膜後の基板面内の膜厚均一性がターゲット使用開始から交換前までの間に悪化する事をターゲット開口角度を変化させることで防止可能とする。また、ターゲット開口角度を変化させる際に、ECRプラズマ領域がターゲット外部に廻り込まない構造としたため、スパッタ効率を低下させることなく基板面内の膜厚均一性を維持させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。図1は本発明の実施の形態におけるECRスパッタ処理装置の概略全体構成を示す断面図である。図2は同ECRスパッタ処理装置のターゲット部の一部を拡大して示す上面図である。また、図3は同ECRスパッタ処理装置のターゲット部の一部を拡大して示す断面図である。図1、図2、図3において、先に図6を用いて説明した従来のECRスパッタ処理装置と同様の作用を有する部材は、図6と同じ符号を付して説明を省略する。
【0008】
図1において、112はガイド、113はターゲット開口軸である。図2において、114はガイド溝である。ECRスパッタ処理装置の動作に関しては、先に図6を用いて説明した内容と同等であるが、本発明のターゲット120は、分割された短冊形状のターゲット121が筒形状を形成するように配置されている。また、隣り合った短冊形状ターゲット121の間には、ターゲット121と同じ材質で製作された三角柱の形状をしたガイド112が配置されている。ここでは、図2に示すように、3枚の短冊形状ターゲット121のそれぞれが三角柱の側面に接して配置されている。なお、図2は、筒形状ターゲット120を基板103側からみた形状を示している。また、短冊形状のターゲット121は、一つ一つがターゲット電源111を有し、短冊形状ターゲット121は、各々個別にターゲット電力を変更する事が出来る。
【0009】
図3で示すように筒形状ターゲット120の開口角度を変更する際、各短冊形状ターゲット121は、ターゲット121の一つ一つに設置されたターゲット開口軸113を起点として、図示しない開口軸駆動部により任意の開口角度に開口(回転)する。その際、ガイド112は、ECRプラズマ領域105を封じ込める役割を果たす。すなわち、ガイド112が、短冊形状ターゲット121の開口角度を大きくしたときに、隣接する短冊形状ターゲット121の間(特に、基板103に近い側)に空隙が生じることを防止する。このため、ECRプラズマ領域105が、ターゲット121の裏面に廻り込みスパッタ効率が低下する事が防止される。なお、ガイド112と短冊形状ターゲット121とが接触している部分のガイド112側には、ガイド溝114が短冊形状ターゲット121の最小開口角度から最大開口角度まで設けられている。短冊形状ターゲット121が開口動作を行う場合、短冊形状ターゲット121の側面に設置されたガイド溝114に嵌合する接触軸(図示せず)により、ガイド112と隣り合った短冊形状ターゲット121との間に空隙を発生させない構造としている。本実施形態では、スパッタ処理の累積により磨耗したターゲット肉厚寸法分に応じて開口することで、前記筒形状ターゲットの内側面の開口角度を一定に維持する。これにより、短冊形状ターゲット121の使用が進み、短冊形状ターゲット121の厚みが薄くなる事に起因する、基板103のスパッタ処理後の膜厚面内均一性の悪化を防止することができる。
【0010】
従来の開口角度を固定したターゲット104を用いた場合の膜厚均一性(以後Cpkと表記する。)の変化に関して説明する。ターゲット104の開口角度は0度の場合に評価した。またスパッタ処理には、シリコン(Si)ターゲットを使用し、酸素(O2)を添加し、シリコン酸化膜(SiO2膜)を作製した。ターゲット肉厚は、初期状態を6mmとして経過変化によりターゲット使用限度時の肉厚を3mmとし、この3mmの肉厚差によるSiO2膜成膜時の基板面内のCpkはターゲット使用開始時と比較して、0.3悪化する。ここで、短冊形状ターゲット121の肉厚みが3mmとなった際に、Cpkを初期の状態に復帰させる為には、短冊形状ターゲット121の開口角度を約14度にする必要がある。このため、ターゲットの使用限界の肉厚を3mmより薄くする場合を考慮して、本実施形態の短冊状形状ターゲット121は開口角度を0度から20度まで変動させることができるように構成している。
【0011】
なお、実施の形態では短冊形状のターゲット121が3個で構成された図を用いて説明したが3個以上であれば同様の効果が得られる事はいうまでもない。また、上記では、Siターゲットを使用しArガスにO2を添加したSiO2膜をスパッタした状態で説明したが、同一のチャンバー内で窒素(N2)を使用してシリコン窒化膜(SiN膜)、あるいは、水素(H2)を使用してSiH4膜を処理する場合においては、それぞれの膜を成膜する際に均一性の違いを修正するために、それぞれの膜に応じた短冊形状ターゲット121の開口角度を任意に変更することが可能である。
【0012】
(変形例1)
次に、上記実施形態の変形例1を図4を用いて説明する。ここでは、短冊形状ターゲット121の角度は予め0度から20度の間の任意の角度で固定され、各短冊形状ターゲット121が、筒形状ターゲット120の軸に対して垂直な方向に移動可能に設けられている。当該ターゲット120においても、スパッタ処理が進むにつれて、短冊形状ターゲット121の肉厚は従来と同様に薄くなる。
【0013】
上記実施形態で説明したように、短冊形状ターゲット121の肉厚は、初期の6mmから使用末期には3mmとなる(図4(a)の短冊形状ターゲット121の斜線部が除去される)。そのために筒形状ターゲット120の内径寸法が大きくなり、スパッタ処理後の基板103膜厚面内均一性が悪化していく。例えば、筒形状ターゲット120の内径の肉厚が、0.5mm薄くなるスパッタ処理の積算膜厚に到達した際に、短冊形状ターゲット121を、図4(b)のようにして初期の内径肉厚時であった位置すなわち0.5mm内側に水平移動させる。この際、実施例1同様隣り合った短冊形状ターゲット121の間に設置されたガイド112により、ECRプラズマ領域105が筒形状ターゲット120の裏面側に回り込むことを防止する。
【0014】
これらの動作により、筒形状ターゲット120の内径の寸法を初期状態と一致させることで、肉厚寸法が薄くなったことによる、スパッタ処理後の基板103面内の膜厚均一性悪化を防止する事が可能となる。
【0015】
(変形例2)
次に、実施の形態の変形例2を図5を用いて説明する。図5において115はシャッタ、116は水晶振動子、117はコントローラ(ターゲット駆動手段)である。他の構造は上記実施形態と同一である。
【0016】
基板103にスパッタ処理により成膜を行う前に、基板103と筒形状ターゲット120との間に設置された、シャッタ115にプリスパッタを行い筒形状ターゲット120の表面を清浄な状態にする。その際、シャッタ115の、基板103の中心、および外周部に対応する箇所に設置された水晶振動子116により、シャッタ115上に堆積する膜の膜厚分布を測定する。当該測定結果に基づいて、コントローラ117が筒形状ターゲット120の使用開始すなわち筒形状ターゲット120の初期状態からの膜厚分布変化量を演算し、予め設定した分布差が生じた場合にコントローラ117が短冊形状ターゲット121の開口角度の変更を指示し、短冊形状ターゲット121を指示開口角度に開口させる。基板103へのスパッタ処理の実施前にプリスパッタを実施する際に、同様の動作を繰り返し行うことにより、基板103へのスパッタ処理は、常に膜厚面内均一性が安定した状態となる。なお、コントローラ117は、水晶振動子116により測定された膜厚分布に基づいて、必要に応じて、ターゲット電源111が各ターゲットに印加する電力を調整してもよい。
【0017】
(変形例3)
次に、上記実施形態の変形例3を図5を用いて説明する。ここでは、上記変形例1の筒形状ターゲット120を使用する。実施の形態の変形例2と同様に、基板103にスパッタ処理により成膜を行う前に、基板103とターゲット104間に設置された、シャッタ115にプリスパッタを行いターゲット104表面を清浄な状態にする。その際、シャッタ115の、基板103の中心、および外周部に対応する箇所に設置された水晶振動子116により、シャッタ115の上に堆積する膜の膜厚分布を測定する。当該測定結果に基づいて、コントローラ117が筒形状ターゲット120の使用開始すなわち筒形状ターゲット120の初期状態からの膜厚分布変化量を演算し、予め設定した分布差が生じた場合にコントローラ117が短冊形状ターゲット121の内側への水平移動動作を指示し、短冊形状ターゲット121を指示開口部内側寸法すなわち、筒形状ターゲット120の初期状態の肉厚寸法まで水平移動させる。基板103へのスパッタ処理の実施前にプリスパッタを実施する際に、同様の動作を繰り返し行うことにより、基板103へのスパッタ処理は、常に膜厚面内均一性が安定した状態となる。なお、コントローラ117は、水晶振動子116により測定された膜厚分布に基づいて、必要に応じて、ターゲット電源111が各ターゲットに印加する電力を調整してもよい。
【0018】
なお、以上で説明した実施形態は本発明の技術的範囲を制限するものではなく、既に記載したもの以外でも、本発明の範囲内で種々の変形や応用が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0019】
本発明のECRスパッタ処理装置は、半導体レーザ装置の端面コートプロセスに必要な誘電体膜などの成膜処理装置として特に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の一実施形態におけるECRスパッタ処理装置の概略全体構成を示す断面図
【図2】図1のターゲット部分の一部拡大図
【図3】図1のターゲット部分の開口動作を示す一部拡大図
【図4】図1のターゲット部分の開口動作を示す一部拡大図
【図5】図1のECRスパッタ処理装置の膜厚測定部分を示す一部拡大図
【図6】従来のECRスパッタ処理装置の概略全体構成を示す断面図
【符号の説明】
【0021】
101 排気装置
102 成膜室
103 基板
104 ターゲット
105 プラズマ領域
106 マイクロ波
107 マイクロ波導入窓
108 マグネトロン
109 プラズマ生成室
110 Arガス導入管
111 ターゲット電源
112 ガイド
113 ターゲット開口軸
114 ガイド溝
115 シャッタ
116 水晶振動子
117 コントローラ
120 筒形状ターゲット
121 短冊形状ターゲット


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ECRプラズマ生成室と、
前記プラズマ生成室内に磁場を形成する磁場発生装置と、
前記プラズマ生成室のプラズマ取り出し開口部に近接した位置に設けられる筒形状のターゲットとを備え、
前記筒形状のターゲットは、当該筒形状のターゲットの軸方向に沿って分割された短冊形状の複数のターゲットを組み合わせて構成されており、
前記各短冊形状のターゲットは、前記プラズマ取り出し開口部に近接した位置を軸として回転可能に設けられ、前記筒形状ターゲットの内側面を任意の角度に開口させることを特徴とするECRスパッタ処理装置。
【請求項2】
前記短冊形状のターゲットは、スパッタ処理の累積により磨耗したターゲット肉厚寸法に応じて傾斜することで、前記筒形状ターゲットの内側面の開口角度を一定に維持することを特徴とする請求項1記載のECRスパッタ処理装置。
【請求項3】
隣接する前記短冊形状のターゲットの間に、短冊形状のターゲットと同じ材質の三角柱形状のガイドを設けたことを特徴とする請求項1記載のECRスパッタ処理装置。
【請求項4】
前記短冊形状のターゲットは各々独立したターゲット電源を有し、ターゲット電力を各々個別に設定できることを特徴とする請求項1に記載のECRスパッタ処理装置。
【請求項5】
前記筒形状のターゲットを挟んで前記プラズマ取り出し開口部と反対側に処理対象の基板が配置されるとともに、
前記基板と前記筒形状のターゲットとの間に出没可能に設けられたシャッタと、
前記シャッタに設けられた水晶振動子とをさらに備え、
前記基板への成膜処理前に、基板と筒形状ターゲットとの間に前記シャッタを介在させて前記水晶振動子により膜厚分布を計測し、当該膜厚分布に基づいて目的の均一性を得るように筒形状ターゲットの開口角度を設定するとともに、必要に応じてターゲット電力を設定することを特徴とする請求項1に記載のECRスパッタ処理装置。
【請求項6】
ECRプラズマ生成室と、
前記プラズマ生成室内に磁場を形成する磁場発生装置と、
前記プラズマ生成室のプラズマ取り出し開口部に近接した位置に設けられる筒形状のターゲットと、を備え、
前記筒形状のターゲットは、当該筒形状のターゲットの軸方向に沿って分割された短冊形状の複数のターゲットを組み合わせて構成されており、
前記各短冊形状のターゲットは、前記筒形状のターゲットの軸に対して垂直な方向に移動可能に設けられ、スパッタ処理の累積により磨耗したターゲット肉厚寸法に応じて、前記各短冊形状ターゲットを移動させることを特徴とするECRスパッタ処理装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−254791(P2007−254791A)
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−78284(P2006−78284)
【出願日】平成18年3月22日(2006.3.22)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】