説明

FPD用ガラス基板の保護部材及びFPD用ガラス基板の搬送方法

【課題】 FPDの製造ラインにおけるガラス基板及び保護部材の処理を簡素化できると共に、ガラス基板の搬送時の荷姿の外形寸法を小さくしてガラス基板を効率的に搬送する。
【解決手段】 FPDの製造に用いるガラス基板5を複数枚まとめて搬送するために各ガラス基板5,5,…間に介在させる保護部材であって、その材料を水中で溶解する水溶性フィルム14としたものである。これにより、FPDの製造ラインにおける各ガラス基板5の前処理を簡素化できると共に、搬送用の外箱12及び蓋13内に梱包したときの荷姿の外形寸法を小さくして複数枚のガラス基板5を効率的に搬送することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶ディスプレイやプラズマディスプレイなどのFPD(Flat Panel Display)の製造に用いるガラス基板の保護部材及び搬送方法に関し、詳しくは、FPDの製造ラインにおけるガラス基板及び保護部材の処理を簡素化できると共に、搬送時の荷姿の外形寸法を小さくしてガラス基板を効率的に搬送可能とするFPD用ガラス基板の保護部材及び搬送方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、液晶ディスプレイやプラズマディスプレイなどのFPDの製造に用いるガラス基板を搬送する場合には、図4に示す搬送ボックス1が用いられていた。この搬送ボックス1は、その内部に複数枚のガラス基板を立てて並べた状態で収納するもので、発泡ポリプロピレンなどの軽量で丈夫な材質で形成された箱形の本体部2と、この本体部2の開口部を覆う蓋部材3とから成り、これらが2本のゴムバンド4,4で固定されるようになっていた。この本体部2の内部の左右両側面には、図5に示すように、FPD用ガラス基板5の縁部を挟んで固定するクッション部材6が配設されていた。このクッション部材6の内側の面には、部分拡大図Pに示すように、複数個の突起部7,7,…が形成されており、各突起部7,7の間にはガラス基板5の厚みに対応する幅の隙間8が形成されていた。そして、この突起部7,7の隙間8にガラス基板5を差し込んで、該ガラス基板5の縁部を突起部7,7で挟んで固定することによって、搬送ボックス1の内部に複数枚のガラス基板5,5,…を立てて並べて収納するようになっていた(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平7−285611号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、このような搬送ボックス1においては、搬送中にガラス基板5が撓んだ場合でも、隣り合うFPD用ガラス基板5,5同士が接触して表面に傷が付かないようにするためには、部分拡大図Pに示すように、各ガラス基板5を固定する隙間8,8同士が所定の距離g0だけ離れるようにしなければならなかった。例えば、幅1100mm×高さ1300mmで厚さ1mm以下のガラス基板5が互いに接触しないようにするためには、上記隙間8,8間の距離g0が約25mmとなるように突起部7を形成しなければならなかった。これにより、図4に示すように、例えば20枚のFPD用ガラス基板5を収納する搬送ボックス1の場合、その外形寸法が、幅(W)1200mm×高さ(H)1410mm×奥行き(D)720mmとなって大型となるものであった。
【0004】
さらに、近年、大型画面のFPDの製造に用いるガラス基板として、例えば幅1300mm×高さ1500mm、幅1500mm×高さ1800mm、幅1900mm×高さ2100mmなど、さらに大きいサイズのものがあるが、ガラス基板のサイズが大きくなるにしたがってその撓みも大きくなる。そのため、搬送ボックス1内で隣り合うガラス基板5,5同士が接触しないようにするためには、前記隙間8,8間の距離g0をさらに大きく形成しなければならなかった。これにより、搬送ボックス1は、奥行き(D)がさらに長くなるので、ガラス基板5のサイズが大きいものほど搬送ボックス1の外形寸法が大型化し、効率的な搬送ができないという問題があった。
【0005】
また、これに関連して、FPD用ガラス基板を梱包したときの荷姿の外形寸法を小さくする方法として、図6(a)に示すように、FPD用ガラス基板5の表面を保護するスペーサとして、各ガラス基板5,5,…の間に薄いプラスチックフィルム9などを介在させて梱包する方法もあった。しかし、この場合には、FPDの製造ラインでガラス基板5を処理する工程において、同図(b)に示すように、プラスチックフィルム9が貼り合わされたガラス基板5を1枚ずつ取り出し、同図(c)に示すように、各ガラス基板5からプラスチックフィルム9を剥離する工程が必要であった。また、FPD用ガラス基板5からプラスチックフィルム9を剥離するときに発生する静電気によって、同図(d)に示すように、ガラス基板5の表面に小さなごみ10が付着することがあり、その後の洗浄工程に多くの時間を要することがあった。さらに、プラスチックフィルム9を剥離した後にガラス基板5の表面に接着剤11が残ることがあり、その場合には、上記接着剤11を除去しなければならず、前処理工程がさらに煩雑となることがあった。さらにまた、同図(c)において剥離されたプラスチックフィルム9は、産業廃棄物として処分しなければならならなかった。
【0006】
そこで、本発明は、このような問題点に対処し、FPDの製造ラインにおけるガラス基板及び保護部材の処理を簡素化できると共に、搬送時の荷姿の外形寸法を小さくしてガラス基板を効率的に搬送可能とするFPD用ガラス基板の保護部材及びFPD用ガラス基板の搬送方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明によるFPD用ガラス基板の保護部材は、FPDの製造に用いるガラス基板を複数枚まとめて搬送するために各ガラス基板間に介在させる保護部材であって、その材料を水中で溶解する水溶性フィルムとしたものである。
【0008】
このような構成により、FPD用ガラス基板を保護する保護部材を水中で溶解させることができる。
【0009】
ここで、上記水溶性フィルムは、変性ポリビニルアルコールでできている。
【0010】
また、本発明によるFPD用ガラス基板の搬送方法は、FPDの製造に用いるガラス基板の1枚1枚の間に水中で溶解する水溶性フィルムを介在させ、この水溶性フィルムが介在した状態の複数枚のFPD用ガラス基板を搬送用の外箱内に重ねて収納し、この複数枚のFPD用ガラス基板が収納された外箱に蓋を被せて梱包した状態で搬送するものである。
【0011】
このような方法の実施により、FPD用ガラス基板の1枚1枚の間に水溶性フィルムが介在され、この水溶性フィルムが介在されたFPD用ガラス基板が搬送用の外箱内に重ねて収納され、この外箱に蓋を被せて梱包した状態でガラス基板が搬送される。
【0012】
さらに、上記搬送用の外箱及び蓋は、吸湿性の材質から成るものである。これにより、外気の湿気が外箱及び蓋で吸収される。
【0013】
そして、上記搬送用の外箱及び蓋の両方又は一方の内側に、乾燥剤を備えたものである。これにより、外箱及び蓋内の湿気が乾燥剤で吸収される。
【発明の効果】
【0014】
請求項1に係るFPD用ガラス基板の保護部材によれば、その材料が水中で溶解する水溶性フィルムであることにより、水中で溶解させることができる。したがって、FPD用ガラス基板を水溶性フィルムで保護することによって、FPDの製造ラインにおけるガラス基板及び保護部材の処理を簡素化できると共に、搬送時の荷姿の外形寸法を小さくしてガラス基板を効率的に搬送することができる。
【0015】
ここで、請求項2に係る発明によれば、上記水溶性フィルムは、変性ポリビニルアルコールでできているので、使用する態様に応じて溶解温度や溶解速度を調節でき、任意の溶解条件を設定することができる。したがって、FPDの製造ラインにおけるガラス基板及び保護部材の処理を簡単に行うことができる。
【0016】
また、請求項3に係るFPD用ガラス基板の搬送方法によれば、FPD用ガラス基板の1枚1枚の間に水溶性フィルムが介在され、この水溶性フィルムが介在されたFPD用ガラス基板が搬送用の外箱内に重ねて収納され、この外箱に蓋を被せて梱包した状態でガラス基板が搬送されるので、搬送時の荷姿の外形寸法を小さくしてガラス基板を効率的に搬送することができる。
【0017】
さらに、請求項4に係る発明によれば、上記搬送用の外箱及び蓋は、吸湿性の材質から成ることにより、外気の湿気が外箱及び蓋で吸収されるので、搬送中における水溶性フィルムの溶解を防止することができる。したがって、搬送中にガラス基板同士が接触しない状態を保持し、該ガラス基板の表面を保護することができる。
【0018】
そして、請求項5に係る発明によれば、上記搬送用の外箱及び蓋の両方又は一方の内側に、乾燥剤を備えたことにより、外箱及び蓋内の湿気が乾燥剤で吸収されるので、搬送中における水溶性フィルムの溶解を防止することができる。したがって、搬送中にガラス基板同士が接触しない状態を保持し、該ガラス基板の表面を保護することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態を添付図面に基づいて詳細に説明する。図1は、本発明によるFPD用ガラス基板の保護部材を用いて、複数枚のガラス基板5,5,…が搬送用の外箱12及び蓋13内に梱包された状態を示す一部断面した斜視図である。この保護部材(14)は、FPD用ガラス基板5の表面を保護する薄膜であって、部分拡大図Qに示すように、積み重ねられた上下のガラス基板5,5の間に介在している。これにより、図4に示す従来の搬送ボックス1を用いなくても、図1に示す搬送用の外箱12及び蓋13内に複数枚のガラス基板5を積み重ねて収納して搬送することができる。
【0020】
上記搬送用の外箱12及び蓋13は、複数枚のガラス基板5,5,…を積み重ねた状態で収納できるものであればよいので、外箱12及び蓋13の外形寸法、特に荷姿の高さhが大きくならないようにすることができる。そして、例えば幅1300mm×高さ1500mm、幅1500mm×高さ1800mm、幅1900mm×高さ2100mmなどの大きなサイズのガラス基板5を搬送する場合であっても、外箱12及び蓋13を用いて梱包したときの荷姿の高さhはほとんど変わらない。したがって、ガラス基板5を効率的に搬送することができる。
【0021】
ここで、本発明においては、上記保護部材は、その材料が水中で溶解する水溶性フィルム14とされている。この水溶性フィルム14は、変性ポリビニルアルコールでできた薄膜であり、使用する態様に応じて溶解条件を調節することができる。すなわち、溶解速度は、水温やフィルムの膜厚、溶解方法によって異なり、任意の溶解条件を設定することができる。これにより、外箱12及び蓋13内に梱包されて搬送されたガラス基板5及び保護部材としての水溶性フィルム14の処理を、FPDの製造ラインにおいて簡単に行うことができる。
【0022】
すなわち、図1に示すように外箱12内に積み重ねられた複数枚のガラス基板5を該外箱12から取り出し、図2(a)に示すように、水溶性フィルム14が付着した状態のガラス基板5を1枚ずつ取り出す。次に、同図(b)に示すように、このガラス基板5をそのまま水槽15内に浸す。これにより、水溶性フィルム14が水槽15内で数十秒以内に溶解する。例えば、膜厚20μmの水溶性フィルム14を20℃の水の中に浸したときには、該水溶性フィルム14を20秒以内に溶解することができる。そして、同図(c)に示すように、ガラス基板5のみを取り出して、次の処理工程に送ることができる。なお、この場合、各ガラス基板5,5間に水溶性フィルム14を介在させて積み重ねられた複数枚のガラス基板5,5,…をまとめて水槽15内に浸し、複数枚の水溶性フィルム14をまとめて溶解させてもよい。
【0023】
したがって、図6に示す従来のプラスチックフィルム9でガラス基板5を保護した場合とは異なり、スペーサの剥離工程が不要となるので、ガラス基板5の前処理及び水溶性フィルム14の処理を簡素化することができる。また、水溶性フィルム14は、親水性に優れているので、図6に示すプラスチックフィルム9とは異なり、ほとんど静電気を帯びることがない。このことから、ガラス基板5の表面に紙紛などのごみが付着し難く、ガラス基板5の前処理が煩雑になることもない。さらに、水溶性フィルム14を溶解するための水槽15のみを準備すればよく、またスペーサを剥離するための装置を省略できるので、設備投資のコストを削減できる。さらにまた、水溶性フィルム14は、最終的には炭酸ガスと水とに分解するので、産業廃棄物の発生を抑制することができる。この水溶性フィルム14には塩素などのハロゲン元素は含まれていないので、通常のプラスチックフィルムに比べ、廃棄の際の地球環境への影響が少ない。
【0024】
以上に説明したような水溶性フィルム14の具体例としては、日本合成化学工業社製の製品名:ハイセロン(登録商標)などが上げられる。なお、この水溶性フィルム14は、初期弾性率や引張強度、引張伸度などの機械的物性やヒートシール強度など、保護材料としての性質にも優れており、切断や熔断が簡単にできる。
【0025】
次に、上記保護部材としての水溶性フィルム14を用いて、複数枚のガラス基板5,5,…を搬送用の外箱12及び蓋13内に梱包して搬送する方法について、図3を参照して説明する。まず、図3(a)に示すように、ガラス基板5の1枚1枚の間に水溶性フィルム14を1枚ずつ介在させながらガラス基板5,5,…を積み重ねる。そして、図3(b)に示すように、上記水溶性フィルム14が介在した状態の複数枚のFPD用ガラス基板5,5,…を搬送用の外箱12内に重ねて収納する。このとき、予め図3(a)に示すようにガラス基板5の1枚1枚の間に水溶性フィルム14を介在させてガラス基板5,5,…を積み重ねたものを、上記外箱12内に収納してもよいし、或いは、図3(b)における外箱12内にガラス基板5を1枚収納してその上に水溶性フィルム14を介在させ、さらにその上にガラス基板5を1枚収納してその上に水溶性フィルム14を介在させて、各ガラス基板5の間に水溶性フィルム14を1枚ずつ介在させながらガラス基板5,5,…を積み重ねていってもよい。
【0026】
次に、図3(c)に示すように、上記複数枚のFPD用ガラス基板5,5,…が所定の枚数だけ重ねて収納されてから、外箱12に蓋13を被せて梱包する。これにより、複数枚のガラス基板5が外箱12及び蓋13内に梱包され、図1に示す状態となる。そして、この梱包された状態のガラス基板5をある拠点から他の拠点に搬送する。
【0027】
なお、図1及び図3(c)に示す外箱12や蓋13は、例えばダンボール、発泡ポリプロピレン、木材などの吸湿性に優れた材質で形成されている。これにより、外気の湿気が外箱12及び蓋13で吸収されるので、搬送中における水溶性フィルム14の溶解を防止することができる。したがって、搬送中にガラス基板5同士が接触しない状態を保持し、該ガラス基板5の表面を保護することができる。
【0028】
さらに、図1の部分拡大図Qに示すように、上記外箱12の内側面に、例えばシート状の乾燥剤19を備えてもよい。これにより、外箱12及び蓋13内の湿気が乾燥剤19で吸収されるので、搬送中における水溶性フィルム14の溶解を防止することができる。したがって、搬送中にガラス基板5同士が接触しない状態を保持し、該ガラス基板5の表面を保護することができる。なお、上記乾燥剤19は、上記蓋13の内側面に備えてもよい。或いは、外箱12及び蓋13の両方の内側面に備えてもよい。また、乾燥剤19は、外箱12及び蓋13内の湿気を吸収するものであれば、どのような形状のものでもよい。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明によるFPD用ガラス基板の保護部材を用いて複数枚のガラス基板が外箱及び蓋内に梱包された状態を示す一部断面斜視図である。
【図2】図1に示す各ガラス基板をFPDの製造ラインで処理する工程を示す説明図である。
【図3】FPDガラス基板の1枚1枚の間に水溶性フィルムを介在させ外箱及び蓋内に梱包して搬送する方法を示す説明図である。
【図4】FPD用ガラス基板を収納する従来の搬送ボックスを示す斜視図である。
【図5】図4に示す搬送ボックスを一部断面して示す平面図である。
【図6】従来のプラスチックフィルムで包装されたガラス基板をFPD製造ラインで処理する工程を示す説明図である。
【符号の説明】
【0030】
5…FPD用ガラス基板
12…外箱
13…蓋
14…水溶性フィルム(保護部材)
15…水槽
19…乾燥剤


【特許請求の範囲】
【請求項1】
FPDの製造に用いるガラス基板を複数枚まとめて搬送するために各ガラス基板間に介在させる保護部材であって、
その材料を水中で溶解する水溶性フィルムとしたことを特徴とするFPD用ガラス基板の保護部材。
【請求項2】
上記水溶性フィルムは、変性ポリビニルアルコールでできたことを特徴する請求項1記載のFPD用ガラス基板の保護部材。
【請求項3】
FPDの製造に用いるガラス基板の1枚1枚の間に水中で溶解する水溶性フィルムを介在させ、
この水溶性フィルムが介在した状態の複数枚のFPD用ガラス基板を搬送用の外箱内に重ねて収納し、
この複数枚のFPD用ガラス基板が収納された外箱に蓋を被せて梱包した状態で搬送する、
ことを特徴とするFPD用ガラス基板の搬送方法。
【請求項4】
上記搬送用の外箱及び蓋は、吸湿性の材質から成ることを特徴とする請求項3記載のFPD用ガラス基板の搬送方法。
【請求項5】
上記搬送用の外箱及び蓋の両方又は一方の内側に、乾燥剤を備えたことを特徴とする請求項3又は4記載のFPD用ガラス基板の搬送方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−176136(P2006−176136A)
【公開日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−368769(P2004−368769)
【出願日】平成16年12月21日(2004.12.21)
【出願人】(391061510)株式会社藤森技術研究所 (20)
【Fターム(参考)】