説明

FRPの製造方法

【課題】高精度なアウターモールドラインが要求されるC型断面桁材のコーナー部の板厚と平坦部の板厚を均一にできる成形方法を提供する。
【解決手段】強化繊維基材の積層体からなるウェブ4とフランジ3を有し、C型断面を有する繊維強化プラスチックの製造方法であって、強化繊維基材の積層体からなるウェブとフランジを有するプリフォーム1を雌型に配置する際に、前記プリフォームのフランジのインナーモールドライン側の端部6から前記プリフォームのフランジのアウターモールドライン側の端部7を結ぶ線8と、前記雌型のフランジに該当する壁面9との間に実質的に隙間が無いように配置する工程を含むこと等を特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
航空機、船舶、自動車等に用いられるコーナー部を有する繊維強化プラスチック(FRP)製部材の成形に好適に用いられる、特徴的な構成を備えたプリフォームを用いたFRPの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、輸送機器産業では原油燃料の高騰のあおりを受け燃費の向上が求められている。殊に航空機業界においては、燃費がランニングコストに直結するためエアラインからの要望が強く、各航空機メーカーでは機体の軽量化を進めるために、比剛性、比強度に優れた繊維強化プラスチック(特に、炭素繊維強化プラスチック)の適用を進めている。
【0003】
繊維強化プラスチック製部材は、ガラス繊維、炭素繊維、ポリアミド繊維などを強化繊維としてなる布帛と樹脂材料からなり、前記布帛には予めマトリックス樹脂が含浸されたプリプレグ、マトリックス樹脂を後で注入するドライ基材等があり、それぞれオートクレーブやオーブン等で加熱、加圧しながら脱気や樹脂含浸を行い、マトリックス樹脂を硬化一体化して得られる。
【0004】
輸送機器に用いられる構造部材は、C型断面の桁材に代表されるような複雑な形状のものが多く、機械加工を繊維強化プラスチックに適用しようと試みるも、前記繊維強化プラスチックは繊維の切断が強度低下に直結するため、複雑な雄型や雌型に沿わせた状態で成形することで形状出しを行うことが一般的である。
【0005】
前記形状出しで用いる雄型、雌型には使い分けがあり、雄型はインナーモールドラインの寸法精度が必要なとき、雌型はアウターモールドラインの寸法精度が必要なとき使用される。
【0006】
例えば、航空機の前記構造部材、C型断面を持つスパーは翼形状の厚さを規定するためにアウターモールドラインを求められるが、雌型を用いてVfを均質にする成形方法は確立されておらず、特にコーナー部近傍において低Vfとなりやすいという不具合例が紹介されている。
【0007】
前記不具合を改善するために、特許文献1や2において、特徴的なカールプレートを用いた賦形、成形方法が開示されている。特許文献1,2は共に繊維布帛積層体のコーナー部で、前記繊維布帛積層体が突っ張ることなく雌型に密着させることを目的としている。
【0008】
特許文献1では、C型断面部材の賦形に用いるカールプレートは、2つのコーナー部間のベース部分がカーブシェイプで、コーナー部のみが繊維布帛積層体に接地している。前記ベース部分に面圧が作用すると、前記ベース部分が徐々にフラットになり、フラットになるにつれて2つのコーナー部が外側に移動する。この外側へ移動させる力が前記接点を起点に前記繊維布帛積層体に働き、前記繊維布帛積層体のベース部分をコーナー方向に引っ張る。前記引っ張りによりコーナー部を薄厚化させる効果が得られるようになっている。また、特許文献2では、下型内の底面曲率半径より曲率半径の小さな可撓性カウルプレート使って、プリプレグ積層体の底面を点、線に沿って押圧し、カウルプレートを変形させながら平坦部の中央から両端に向かって賦形することでプリプレグを型に密着させる方法が開示されている。
【0009】
しかし、これらの方法では断面長手方向が数mあり、長手方向に凹凸などの形状変化がある場合等では、カールプレートの変形が画一的に行われるとは考え難く、特に大型の成形品には不向きの技術と言える。
【0010】
次に、雄型でC型断面部材を賦形する方法として、特許文献3、4、5に開示されている。すなわち、特許文献3では、構造体長手方向に複数並んだローラにより複雑な形状に複合材シートを変形させる方法、また、特許文献4では、繊維積層体を成形型面上の治具(雄型)上に配置し、その上からシートで覆い、該シートが成形型と雄型で形成されるコーナー部に密着させない状態で配置し、前記シートの上から面圧を加える方法、また、特許文献5では、ツール面上に希望する形状のコア材を配置し、該コア材を覆うようにFRPプリプレグおよびラバーシートを配設し、該ラバーシート内を真空引きすることによって前記コア材に合致する形状のFRP立体成形物をえる方法において、前記FRPプリプレグの端部と前記ラバーシートの間に一定高さ、又は高さが可変の治具を配設することでラバーシートの接地タイミングをコントロールする方法が開示されている。
【0011】
しかし、これらの方法はいずれも雄型に特化した内容で、いずれもアウターモールドライン側を高精度に仕上げられない。
【特許文献1】米国公開特許第2006/0068170号(claim1)
【特許文献2】特開2005−288756号公報(解決手段、請求項1)
【特許文献3】特開2006−335049号公報(請求項1)
【特許文献4】特開2005−288785号公報(請求項1)
【特許文献5】特開平7−60770号公報(解決手段)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
そこで、本発明はかかる従来の問題点を解消し、特に、高精度なアウターモールドラインが要求されるC型断面桁材のコーナー部の板厚と平坦部の板厚を均一にできる成形方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは鋭意検討の結果、C型断面部材のようにコーナー部を有する部材の成形において、前記部材を成すプリフォームのフランジ端部形状、状態を制御し、コーナー部にかかる引張力を制御することにより、コーナー部が平坦部より板厚が厚いという成形課題を解決させるに至った。すなわち、本発明は以下の構成からなる。
【0014】
1.強化繊維基材の積層体からなるウェブとフランジを有し、C型断面を有する繊維強化プラスチックの製造方法であって、強化繊維基材の積層体からなるウェブとフランジを有するプリフォームを雌型に配置する際に、前記プリフォームのフランジのインナーモールドライン側の端部から前記プリフォームのフランジのアウターモールドライン側の端部を結ぶ線と、前記雌型のフランジに該当する壁面との間に実質的に隙間が無いように配置する工程を含むことを特徴とする繊維強化プラスチックの製造方法。
【0015】
2.強化繊維基材の積層体からなるウェブとフランジを有し、C型断面を有する繊維強化プラスチックの製造方法であって、強化繊維基材の積層体からなるウェブとフランジを有するプリフォームを雌型に配置する際に、前記プリフォームのフランジのインナーモールドライン側の端部から前記プリフォームのフランジのアウターモールドライン側の端部を結ぶ線と、前記雌型のフランジに該当する壁面との間に隙間を形成し、該隙間形状を埋める形状の治具を配置することにより、前記治具と前記雌型のフランジに該当する壁面との間に実質的に隙間が無いように配置する工程を含むことを特徴とする繊維強化プラスチックの製造方法。
【0016】
3.前記プリフォームが雄型で賦形されたものである、1.または2.に記載の繊維強化プラスチックの製造方法。
【0017】
4.フランジのインナーモールドライン側の端部からフランジのアウターモールドライン側の端部を結ぶ線と、前記雌型のフランジに該当する壁面との間に実質的に隙間が無いように配置できるプリフォームを得る手段が、前記雄型の裾に段差を設けることにより、前記雄型に前記強化繊維基材の積層体を配置した際に、前記強化繊維の積層体のフランジのインナーモールドライン側の端部からアウターモールドライン側の端部を結ぶ線の一部が、前記雄型のフランジ上側ラインと前記上側ラインを延長したラインから離間された状態で維持することである、3.に記載の繊維強化プラスチックの製造方法。
【0018】
5.前記プリフォームを一体化する手段が樹脂材料を用いることである、1.から4.に記載の繊維強化プラスチックの製造方法。
【0019】
6.前記プリフォームの表面に樹脂剥離層、樹脂拡散媒体が設置された状態で、バッギング材で密閉した後に、該バッギング材の内部を真空吸引し、しかる後に該バッギング材の内部に樹脂を注入する、1.から5.に記載の繊維強化プラスチックの製造方法。
【0020】
7.前記プリフォーム表面に設置した樹脂拡散媒体の上から、さらに前記プリフォームの内形状の略全面にカウルプレートを配置する、6.に記載の繊維強化プラスチックの製造方法。
【発明の効果】
【0021】
本発明は、強化繊維基材の積層体からなるウェブとフランジを有し、C型断面を有する繊維強化プラスチックの製造方法において、プリフォームを雌型に配置する際に、プリフォームのフランジのインナーモールドライン側の端部からプリフォームのフランジのアウターモールドライン側の端部を結ぶ線と、雌型のフランジに該当する壁面との間に実質的に隙間が無いように配置する、または、プリフォームのフランジのインナーモールドライン側の端部からプリフォームのフランジのアウターモールドライン側の端部を結ぶ線と、雌型のフランジに該当する壁面との間に隙間を形成し、該隙間形状を埋める形状の治具を配置することにより、該治具と雌型のフランジに該当する壁面との間に実質的に隙間が無いように配置するので、高精度なアウターモールドラインが要求されるC型断面桁材のコーナー部の板厚と平坦部の板厚を均一にできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明の発明者らは、前記課題、つまり、C型断面部材のようにコーナー部5を有する部材の前記コーナー部5とウェブ4、フランジ3の板厚を略均一にするために、プリフォームのフランジのインナーモールドライン側の端部6からアウターモールドライン側の端部7を結ぶ線8と雌型のフランジに該当する壁面9との間に実質的に隙間を無くすことで、コーナー部の突っ張りを抑制してかかる課題を一挙に解決するものである。なお、実質的に、とあるのは、本発明の目的を損なわない(すなわち、コーナー部5にかかる引張力を制御することにより、コーナー部5が平坦部より板厚が厚いという成形課題が解決される)限りにおいて、結ぶ線8の一部にフランジに該当する壁面9の一部と接しない箇所があっても良いことを意味する。
【0023】
以下、本発明の好ましい実施形態を、図面を用いて具体的に説明をする。
【0024】
図1は、本発明のC型断面部材の繊維強化プラスチックの製造方法に用いられる雌型成形の断面模式図である。本発明によれば、プリフォーム1は強化繊維基材の積層体24からなりウェブ4とフランジ3を有している。前記プリフォーム1は雌型2内に、プリフォームのフランジのインナーモールドライン側の端部6からアウターモールドライン側の端部7を結ぶ線8と雌型のフランジに該当する壁面9との間に実質的に隙間なく配置される。なお、前記結ぶ線6とは、発明の構成をより明確にするために用いられる用語であって、図1の断面模式図における結ぶ「線」を意図しているが、前記プリフォーム1は断面方向にある長さを有するため、当該結ぶ「線」は「面」を構成することとなる。
【0025】
本発明の特徴である、結ぶ線6と雌型のフランジに該当する壁面9との間に実質的に隙間なく雌型2内に配置できるプリフォーム1を得る好適な方法として、図4のようにプリフォームA51の隙間13に隙間形状を埋める形状の治具17を配置する方法や、図5のようにプリフォームA51のフランジ端部を切断19する方法も好ましく用いられる。なお、本発明は、実質的にプリフォーム1と雌型のフランジに該当する壁面9との間の隙間を無くすところにその本質があり、本発明が、前記例示した好ましい方法に限定されるものではない。
【0026】
ここで、従来方法の断面模式図である図2を用いて、隙間13を無くすことが、前記繊維強化プラチックの板厚を均一にするために如何にして機能するかを説明する。一般に、前記繊維強化プラスチックを得るためには、プリフォームA51を雌型2内に配置した後に、バッギング材11を被せて、シーラントテープ10を介して前記バッギング材11と雌型2の内部を真空吸引12することで前記プリフォームA51を雌型2に密着させる。その際に、前記隙間13によりインナーモールドライン側の端部6が前記雌型方向に押しつけられて、前記プリフォームA51のコーナー部5の表面側の層において、プリフォームA51のフランジ方向に引張力15が働き、コーナー部の強化繊維基材に張力が発生する。前記張力は前記真空吸引12した際に発生する大気圧との差圧16に対する抗力として働き、真空圧が前記プリフォームA51のコーナー部5を雌型2に押しつける力を弱らせしめて、前記コーナー部5の板厚(tc)をフランジ(tf)やウェブ(tw)と比較して厚くする。フランジ3やウェブ2と比較して厚くなったコーナー部の板厚(tc)は繊維強化プラスチックとなった後も踏襲され、得られた繊維強化プラスチックは板厚が不均一となる。それに対して、本発明は用いられるプリフォーム1は実質的に前記隙間が無く、前記コーナー部5とフランジ3やウェブ4の板厚を実質的に等しい状態で前記雌型2に密着させることができる。その結果、前記プリフォーム1からは板厚が略均一な繊維強化プラスチックが得られる。
【0027】
次に、前記繊維強化プラスチックの板厚を略均一にできる前記プリフォームの製造方法の一態様について、図3を用いて説明する。まず、ベースツール21の上に、裾に段差23を設けた雄型22を配置し、さらにその上に強化繊維基材の積層体24を配置する。その後、前記強化繊維基材の積層体24の上からステイ25に固定されたラバー26を被せて、前記ラバー26、ラバーシール27、ベースツール21で形成される空間を真空吸引12することで、前記強化繊維基材の積層体24と前記裾に段差23を設けた雄型22を密着させる。その際、強化繊維基材の積層体24のフランジのインナーモールドライン側の端部6からアウターモールドライン側の端部7を結ぶ線8の一部が前記雄型フランジの上側ライン28と前記上側ラインを延長したライン29から離間させた状態で維持されることにより、図1に示したようなプリフォームが得られる。前記段差23は雄型22自身に設けても良く、また、雄型22と分離できる段差治具を取り付けても良い。
【0028】
このようにして得られたプリフォーム1から繊維強化プラスチックを得るために好適な成形方法について、本発明の断面模式図である図6を用いて説明する。プリフォーム1は樹脂含浸前のドライ基材37からなることが好ましい。まず、前記プリフォーム1のアウターモールドライン側が雌型2と密着するように雌型2内に配置される。前記雌型2内に配置された前記プリフォーム1の雌型2と接していない側の表面33には樹脂剥離層34と樹脂拡散媒体35が配置され、さらに、樹脂注入用のポート38と樹脂吸引用のポート39を配置し、その上からバッギング材11を被せてシーラントテープ10を介して、バッギング材11と雌型2の間を密閉しバッギング材11内部を真空吸引12することで前記プリフォーム1を前記雌型2に密着させる。その後、樹脂注入用のポート38にマトリックス樹脂の容器41を取り付けて、大気圧と内圧の差圧16でマトリックス樹脂42を前記プリフォーム1に注入、含浸させる。含浸されたプリフォームは加熱されて、前記マトリックス樹脂42を硬化せしめて繊維強化プラスチックとなる。
【0029】
ここで、真空圧で樹脂を注入する方法(VaRTM成形法:Vacuum assited Resin Transfer Molding成形法)が好ましい理由を2つ述べる。まず、前記プリフォーム1は前記真空吸引12前後で板厚変化が大きい材料(ドライ基材37)を用いたほうが、本発明を適用した際に板厚ばらつきを抑制するのに大きな効果が得られるからである。ただし、板厚変化の小さいプリプレグであっても少なからず前記真空吸引12前後で生じるため、積層枚数が多い場合(30層以上)はこの限りでない。また、本発明にプリプレグを適用する場合には当然樹脂注入は不要で、雌型2に密着させたプリフォーム1をオートクレーブ内で加熱、加圧して繊維強化プラスチックを得る。
【0030】
2つ目に、VaRTM成形法は真空圧のみを用いるために片面型しか必要とせず、その他両面側を用いる成形法と比較して型代を抑制できることにある。特に、航空機や自動車などに用いられる大型部材(表面積1m以上)において、型費は製造コストの大きな比重を占めるため、効果が大きい。
【0031】
ただし、前述の2つの理由に示した着眼点とは別な着眼点、例えば物性、意匠性、製造サイクルを優先させるために、本発明の前記プリフォーム1をその他の成形法、例えば、RTM(Resin Trasnfer Molding)、RFI(Resin Film Infusion)成形法やこれらから派生した成形法等にも適用しても良い。
【0032】
次に、さらにVaRTM成形法に好適に用いるために工夫されたプリフォーム組み付け方法について、図6を用いて説明する。本方法は、雌型内に配置されたプリフォーム1の雌型と接していない表面33に配置された前記樹脂剥離層34と樹脂拡散媒体35のさらに上から、前記プリフォーム1の内形状の略全面にカウルプレート36を配置したのちに、前述と同様にバッギング材11を被せて、前記バッギング材11の内部を真空吸引12した後に、真空圧で樹脂を注入成形する方法である。ここで用いる前記カウルプレート36は十分な剛性を持ち、かつ、形状は前記プリフォームの内形状と略一致しているという少なくとも2つの機能を有することが好ましい。この2つの機能は次の課題を解決するために効果を発揮する。
【0033】
前記バッギング材11は真空吸引12の際に、凹型のコーナー部5において、突っ張り40を生じ易く、前記コーナー部5に十分な力を加えられずコーナー部の板厚が厚くなることがある。そのため、前記カウルプレート36を配置すれば、熟練度の低い作業者がバッギングを行い、前記バッギング材11がコーナー部5で突っ張っても前記カウルプレート36を介して、前記プリフォームのコーナー部5に力を加えることができ、所望の繊維強化プラスチックを得ることができる。
【0034】
ここで、本発明の前記プリフォーム1を形成する基材の好ましい例について説明する。本発明で使用できる基材にはプリプレグ、ドライ基材37が挙げられる。プリプレグでは自身の樹脂のタック性を利用し、ドライ基材では一般に単独ではタック性が無いため、サイジング材や付加した樹脂材料等のタック性、または、製織を利用して強化繊維積層体を賦形後に一体化することでプリフォーム1を得る。中でも成形品の樹脂リッチや弾性率低下を伴うことなく、樹脂含浸性の向上、層間強度の向上等のような機能を付与できる点で樹脂材料18を用いることが好ましい。
【0035】
樹脂材料18の形態としては繊維、フィルム、粒子状等が挙げられるが、中でも粒子状であることが好ましい。粒子状の場合は強化繊維基材の積層体24を構成するドライ基材の表面に、スプレーやカレンダーロールで散布、塗布でき、粒径や粒子付着量を容易に制御できる。このように制御された粒径はマトリックス樹脂36を注入して成形する時のマトリックス樹脂42への粒子溶解量を制御でき好適な層間物性を実現することができる。また、制御された粒子付着量はドライ基材の通気量(厚み方向のマトリックス樹脂の含浸性と相関のあるパラメータ)や強化繊維基材の積層体24の層間の隙間を適切に形成させ、厚み方向と層間方向に対するマトリックス樹脂42の含浸性を好適に制御できる。
【0036】
ドライ基材37に付与される樹脂材料18は前記ドライ基材の取り扱い性を考えると常温で粘着性の無い、つまり、触った際に移行し難いもの、具体的には、常温固体でTg(ガラス転移温度)は50℃以上であることが好ましい。さらに好ましくは、前記樹脂材料18は繰り返し加熱による劣化が少ない熱可塑樹脂成分を主成分とするものが好ましい。このような樹脂材料18が塗布されたドライ基材を重ねた強化繊維基材の積層体24からは賦形後に加熱加圧をすれば、容易に様々な形状のプリフォームを得ることができる。
【0037】
以上の製造方法により得られた繊維強化プラスチックはフランジ3、ウェブ4、コーナー部5の厚さが実質的に均一で強度や弾性率のばらつきが小さく、航空機、自動車、船舶などの輸送機器、風車や建材などの構造物などに好適に用いることができる。
【実施例】
【0038】
以下、本発明を実施例に基づいてさらに具体的に説明する。
【0039】
[実施例1]
実施例1では、図1、3に示した製造方法によりC型断面の繊維強化プラスチックの製造を行った。なお、実施例1では、予めC型断面に形状出しを行ったプリフォームを用いた。プリフォーム1を形成するフランジ3とウェブ4を持つ強化繊維基材の積層体24は、強化繊維基材を多数枚積層(ここでは36枚)してなり、前記強化繊維基材は炭素繊維を一方向に揃えて製織した一方向強化繊維織物(NCW:Non Crimp Weave)の表面に、熱可塑性樹脂を主成分とした樹脂材料18(粒子状)を略均一に塗布した基材を用いた。前記樹脂材料18は、前記強化繊維基材に触れる際に手に移行し難く取り扱い性に優れること、常温(20℃)から数10℃程度の加熱で軟化させることができ、容易に前記強化繊維基材の積層体24を一体化できること、という点を考慮してTg=65℃に設定した。
【0040】
次に、前記強化繊維基材の積層体24を用いて、プリフォーム1を作成する手順について、図3を用いて説明する。まず、ラバーシール27(シリコンラバー丸紐φ30mm:市販品)がシリコンシーラント(セメダイン8000)で予め接着されたベースツール21(SUS304)の上に、段差23を設けた雄型22(SUS304、長手方向に約10m)を配置した。次に、前記雄型22の上に強化繊維基材の積層体24、さらに、その上からステイ25に固定されたラバー26を被せて、ベースツール21、ラバー26、ラバーシール27で形成される密閉空間内を真空吸引12し、前記強化繊維基材の積層体24を前記雄型22及び、前記段差23に密着させた。前記密着の際に、強化繊維基材の積層体24のフランジのインナーモールドライン側の端部31と強化繊維基材の積層体24のフランジのアウターモールドライン側の端部32を結ぶ線8は、段差23(台形断面)を配置することによって、雄型の上側ライン31と上側ラインを延長したライン32の長手方向略全長に渡って、密着させなかった。
【0041】
前記密着していない状態を保持した前記強化繊維基材の積層体24は、ベースツール21全体と共に加熱炉内にて、常温から80℃に加熱されて30分保持の後、速やかに60℃に冷却、真空吸引を停止、前記ラバー26を剥がしてプリフォーム1となった。前記プリフォーム1は前記樹脂材料18により層間が一体化されC型断面が維持されていた。
【0042】
このようにして得られた前記プリフォーム1はC型断面で維持されているため、雌型2内に容易に配置することができた。ここで、前記プリフォーム1の板厚(表1の状態1:真空吸引無し)を測定した。なお、前記測定はフランジ3のコーナー部から50mm離れた位置、ウェブ4の中央、コーナー部5の三箇所において行い、測定器にはマイクロメータ(ミツトヨ製)を使用した。
【0043】
次に、前記プリフォーム1を前記雌型2内に配置して、前記プリフォーム1の上からバッギングフィルム10(WL7400:Airtech International Inc,)を被せて、シーラントテープ11(SM5126:Richmond Aircraft Product)を介して雌型と密閉し、真空ラインから真空吸引12することで前記プリフォーム1を前記雌型2と密着させた。前記密着させたプリフォーム1においても先と同様にフランジ3のコーナー部から50mm離れた位置、ウェブ4の中央、コーナー部5の三箇所の板厚(表1の状態2:真空吸引有り)を測定した。なお、測定器は前記マイクロメータ(ミツトヨ製)使用した。板厚測定結果は表1に示すように、状態1、2(真空吸引前後)において、それぞれの板厚が約0.9mm変化したが、変化後の前記フランジ3のコーナー部から50mm離れた位置、ウェブ4の中央、コーナー部5の板厚はほぼ等しかった。
【0044】
[実施例2]
実施例2では、図3、4に示した製造方法によりC型断面の繊維強化プラスチックの製造を行った。なお、実施例2において使用した強化繊維基材の積層体14は実施例1と同じであるため説明は省略する。プリフォームA51の製造方法については、図3において、段差23のみを取り除き、実施例1と同様の手順を踏んで製造した。
【0045】
このようにして得られたプリフォームA51は、雌型2内に配置する際に、前記プリフォームA51の隙間13に隙間形状を埋める形状の治具17と共に配置されて、実質的に前記隙間13が無い状態で前記雌型2に収まった。ここで、前記プリフォーム1の板厚(表1の状態1:真空吸引無し)を測定した。前記測定はフランジ3のコーナー部から50mm離れた位置、ウェブ4の中央、コーナー部5の三箇所において行い、測定器にはマイクロメータ(ミツトヨ製)を使用した。
【0046】
次に、前記プリフォーム1を前記雌型2内に配置して、前記プリフォーム1の上からバッギングフィルム10を被せて、シーラントテープ11を介して雌型と密閉し、真空吸引12することで前記プリフォーム1を前記雌型2と密着させた。前記密着させたプリフォーム1においても先と同様にフランジ3のコーナー部から50mm離れた位置、ウェブ4の中央、コーナー部5の三箇所の板厚(表1の状態2:真空吸引有り)を測定した。なお、測定器は前記マイクロメータ(ミツトヨ製)使用した。板厚測定結果は表1に示すように、状態1、2(真空吸引前後)において、それぞれの板厚が約0.9mm変化したが、変化後の前記フランジ3のコーナー部から50mm離れた位置、ウェブ4の中央、コーナー部5の板厚はほぼ等しかった。
【0047】
[実施例3]
実施例3では、図3、4に示した製造方法によりC型断面の繊維強化プラスチックの製造を行った。実施例3において使用した強化繊維基材の積層体14、プリフォームA51の製造方法については実施例2と同じであるため説明は省略する。
【0048】
このようにして得られた前記プリフォームA51はフランジ端部を切断19してプリフォームB52となった。前記プリフォームB52はフランジ3端部が矩形型に切断されているため、前記プリフォームA51において存在した雌型2との隙間13が実質的に無くなった。
【0049】
ここで、前記プリフォーム1の板厚(表1の状態1:真空吸引無し)を測定した。前記測定はフランジ3のコーナー部から50mm離れた位置、ウェブ4の中央、コーナー部5の三箇所において行い、測定器にはマイクロメータ(ミツトヨ製)を使用した。
【0050】
次に、前記プリフォーム1を前記雌型2内に配置して、前記プリフォーム1の上からバッギングフィルム10を被せて、シーラントテープ11を介して雌型と密閉し、真空吸引12することで前記プリフォーム1を前記雌型2と密着させた。前記密着させたプリフォーム1においても先と同様にフランジ3のコーナー部から50mm離れた位置、ウェブ4の中央、コーナー部5の三箇所の板厚(表1の状態2:真空吸引有り)を測定した。なお、測定器は前記マイクロメータ(ミツトヨ製)使用した。板厚測定結果は表1に示すように、状態1、2(真空吸引前後)において、それぞれの板厚が約0.9mm変化したが、変化後の前記フランジ3のコーナー部から50mm離れた位置、ウェブ4の中央、コーナー部5の板厚はほぼ等しかった。
【0051】
[実施例4]
プリフォームにマトリックス樹脂を注入して繊維強化プラスチックを得る方法を用いた実施例4について、図6を用いて説明する。実施例4で用いたプリフォームは、実施例1と同様の手順で製造したプリフォーム1である。まず、前記プリフォーム1のアウターモールドライン側が雌型2と密着するように雌型2内に配置した。前記雌型2内に配置した前記プリフォーム1の雌型2と接していない側の表面33には樹脂剥離層34(NATURAL 60001:Richmond Aircraft Product)と樹脂拡散媒体35(TSX−400P:日本ネトロン(株))を配置し、さらに、その上からカウルプレート36(材質:SS400)を配置した。
【0052】
次に、前記樹脂拡散媒体35と接した樹脂注入用のポート38と、前記樹脂拡散媒体35と隔離された樹脂吸引用のポート39を配置し、その上からバッギング材11を被せてシーラントテープ10を介して、バッギング材11と雌型2の間を密閉しバッギング材11内部を真空吸引12することで前記プリフォーム1を前記雌型2に密着させた。次に、前記プリフォーム1を含む前記雌型2全体を加熱炉内に配置して、約80℃に加熱して約2時間保持した。その後、樹脂注入用のポート38にマトリックス樹脂の容器41を取り付けて、大気圧と内圧の差圧16でマトリックス樹脂42を前記プリフォーム1に注入、含浸させた。含浸されたプリフォームは80℃からさらに150℃まで加熱されて、前記マトリックス樹脂42が硬化し繊維強化プラスチックとなった。前記繊維強化プラスチックの板厚(表1の状態3:真空吸引無し)を実施例1のプリフォーム1と同様に測定したところ、前記フランジ3のコーナー部から50mm離れた位置、ウェブ4の中央、コーナー部5との測定値はほぼ等しかった。
【0053】
[比較例1]
以下、従来の方法についてさらに具体的に説明する。比較例1では、従来の方法の概略図を示す図2を用いて説明する。比較例1において使用した強化繊維基材の積層体14、プリフォームA51の製造方法については実施例2と同様のため説明は省略する。
【0054】
このようにして得られたプリフォームA51の板厚(表1の状態1:真空吸引無し)を測定した。の前記測定はフランジ3のコーナー部から50mm離れた位置、ウェブ4の中央、コーナー部5の三箇所において行い、測定器にはマイクロメータ(ミツトヨ製)を使用した。
【0055】
次に、前記プリフォーム1を前記雌型2内に配置して、前記プリフォーム1の上からバッギングフィルム10を被せて、シーラントテープ11を介して雌型と密閉し、真空吸引12することで前記プリフォーム1を前記雌型2と密着させた。前記密着させたプリフォームA51においても先と同様に前記フランジ3のコーナー部から50mm離れた位置、ウェブ4の中央、コーナー部5の三箇所において、マイクロメータ(ミツトヨ製)を用いて板厚を測定した。板厚測定結果は表1に示すように、状態1、2において、コーナー部5の板厚は前記フランジ3のコーナー部から50mm離れた位置、ウェブ4の中央と比較して約0.5mm厚かった。
【0056】
ここで、前記プリフォームA51を成形するために、一度前記プリフォームA51を覆っているバッギングフィルム10を剥がして、真空吸引を解除して常圧に戻した。続いて、前記プリフォームA51のアウターモールドライン側が雌型2と密着するように雌型2内に配置して、前記雌型2内に配置された前記プリフォームA51の雌型2と接していない側の表面33に樹脂剥離層34(NATURAL 60001:Richmond Aircraft Product)と樹脂拡散媒体35(TSX−400P:日本ネトロン(株))を配置した。次に、前記樹脂拡散媒体35と接した樹脂注入用のポート38と、前記樹脂拡散媒体35と隔離された樹脂吸引用のポート39を配置し、その上からバッギング材11を被せてシーラントテープ10を介して、バッギング材11と雌型2の間を密閉しバッギング材11内部を真空吸引12することで前記プリフォームA51を前記雌型2に密着させた。
【0057】
次に、前記プリフォームA51を含む前記雌型2全体を加熱炉内に配置して、約80℃に加熱して約2時間保持した。その後、樹脂注入用のポート38にマトリックス樹脂の容器41を取り付けて、大気圧と内圧の差圧16でマトリックス樹脂42を前記プリフォームA51に注入、含浸させた。含浸されたプリフォームは80℃からさらに150℃まで加熱されて、前記マトリックス樹脂42が硬化し繊維強化プラスチックとなった。前記繊維強化プラスチックの板厚(表1の状態3:真空吸引無し)を比較例1のプリフォームA51と同様に測定したところ、コーナー部5の板厚は前記フランジ3のコーナー部から50mm離れた位置、ウェブ4の中央と比較して約1.0mm厚かった。
【0058】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明の繊維強化プラスチックの製造方法の一態様(一工程)を示す概略図である。
【図2】従来の繊維強化プラスチックの製造方法の一工程を示す概略図である。
【図3】本発明の繊維強化プラスチックの製造方法の一態様(一工程)を示す概略図である。
【図4】本発明の繊維強化プラスチックの製造方法の一態様(一工程)を示す概略図である。
【図5】本発明の繊維強化プラスチックの製造方法の一態様(一工程)を示す概略図である。
【図6】本発明の繊維強化プラスチックの製造方法の一態様(一工程)を示す概略図である。
【符号の説明】
【0060】
1.プリフォーム
2.雌型
3.フランジ
4.ウェブ
5.コーナー部
6.インナーモールドライン側の端部
7.アウターモールドライン側の端部
8.結ぶ線
9.雌型のフランジに該当する壁面
10.バッギング材
11.シーラントテープ
12.真空吸引
13.隙間
14.コーナー部の表面側の層
15.引張力
16.大気圧と内圧の差圧
17.隙間形状を埋める形状の治具
18.樹脂材料
19.フランジ端部を切断
21.ベースツール
22.雄型
23.段差
24.強化繊維基材の積層体
25.ステイ
26.ラバー
27.ラバーシール
28.上側ライン
29.延長したライン
31.強化繊維基材の積層体のフランジのインナーモールドライン側の端部
32.強化繊維基材の積層体のフランジのアウターモールドライン側の端部
33.雌型と接していない方の表面
34.樹脂剥離層
35.樹脂拡散媒体
36.カウルプレート
37.ドライ基材
38.樹脂注入用のポート
39.樹脂吸引用のポート
40.突っ張り
41.マトリックス樹脂の容器
42.マトリックス樹脂
51.プリフォームA
52.プリフォームB

【特許請求の範囲】
【請求項1】
強化繊維基材の積層体からなるウェブとフランジを有し、C型断面を有する繊維強化プラスチックの製造方法であって、強化繊維基材の積層体からなるウェブとフランジを有するプリフォームを雌型に配置する際に、前記プリフォームのフランジのインナーモールドライン側の端部から前記プリフォームのフランジのアウターモールドライン側の端部を結ぶ線と、前記雌型のフランジに該当する壁面との間に実質的に隙間が無いように配置する工程を含むことを特徴とする繊維強化プラスチックの製造方法。
【請求項2】
強化繊維基材の積層体からなるウェブとフランジを有し、C型断面を有する繊維強化プラスチックの製造方法であって、強化繊維基材の積層体からなるウェブとフランジを有するプリフォームを雌型に配置する際に、前記プリフォームのフランジのインナーモールドライン側の端部から前記プリフォームのフランジのアウターモールドライン側の端部を結ぶ線と、前記雌型のフランジに該当する壁面との間に隙間を形成し、該隙間形状を埋める形状の治具を配置することにより、前記治具と前記雌型のフランジに該当する壁面との間に実質的に隙間が無いように配置する工程を含むことを特徴とする繊維強化プラスチックの製造方法。
【請求項3】
前記プリフォームが雄型で賦形されたものである、請求項1または2に記載の繊維強化プラスチックの製造方法。
【請求項4】
フランジのインナーモールドライン側の端部からフランジのアウターモールドライン側の端部を結ぶ線と、前記雌型のフランジに該当する壁面との間に実質的に隙間が無いように配置できるプリフォームを得る手段が、前記雄型の裾に段差を設けることにより、前記雄型に前記強化繊維基材の積層体を配置した際に、前記強化繊維の積層体のフランジのインナーモールドライン側の端部からアウターモールドライン側の端部を結ぶ線の一部が、前記雄型のフランジ上側ラインと前記上側ラインを延長したラインから離間された状態で維持することである、請求項3に記載の繊維強化プラスチックの製造方法。
【請求項5】
前記プリフォームを一体化する手段が樹脂材料を用いることである、請求項1から4に記載の繊維強化プラスチックの製造方法。
【請求項6】
前記プリフォームの表面に樹脂剥離層、樹脂拡散媒体が設置された状態で、バッギング材で密閉した後に、該バッギング材の内部を真空吸引し、しかる後に該バッギング材の内部に樹脂を注入する、請求項1から5に記載の繊維強化プラスチックの製造方法。
【請求項7】
前記プリフォーム表面に設置した樹脂拡散媒体の上から、さらに前記プリフォームの内形状の略全面にカウルプレートを配置する、請求項6に記載の繊維強化プラスチックの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−274248(P2009−274248A)
【公開日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−125569(P2008−125569)
【出願日】平成20年5月13日(2008.5.13)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】