説明

Fe−Co−Ta系スパッタリングターゲット材の製造方法およびFe−Co−Ta系スパッタリングターゲット材

【課題】 磁気記録媒体等に用いられる軟磁性膜形成用のFe−Co―Ta系スパッタリングターゲット材において、スパッタリング時に発生するパーティクルを極力抑止することが可能なスパッタリングターゲット材を提供する。
【解決手段】 Fe−Ta粉末とCo−Ta粉末と純Ta粉末とを混合して混合粉末を得る工程と、前記混合粉末を焼結温度1100〜1400℃、圧力125〜200MPaで1〜10時間の加圧焼結をする工程とを有するFe−Co−Ta系スパッタリングターゲット材の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気記録媒体における軟磁性膜を形成するためのFe−Co−Ta系スパッタリングターゲット材の製造方法およびFe−Co−Ta系スパッタリングターゲット材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、磁気記録技術の進歩は著しく、ドライブの大容量化のために、磁気記録媒体の高記録密度化が進められている。しかしながら、従来から広く世の中で使用されている面内磁気記録方式の磁気記録媒体では、高記録密度化を実現しようとすると、記録ビットが微細化し、記録ヘッドで記録できないほどの高保磁力が要求される。そこで、これらの問題を解決し、記録密度を向上させる手段として垂直磁気記録方式が実用化されている。
垂直磁気記録方式とは、垂直磁気記録媒体の磁性膜を媒体面に対して磁化容易軸が垂直方向に配向するように形成したものであり、記録密度を上げていってもビット内の反磁界が小さく、記録再生特性の低下が少ない高記録密度に適した方法である。そして、垂直磁気記録方式においては、記録感度を高めた磁気記録膜層と軟磁性膜層とを有する記録媒体が開発されている。
【0003】
このような磁気記録媒体の軟磁性膜としては、高い飽和磁束密度を有することに加えて、アモルファス膜となることが要求され、飽和磁束密度の大きいFeを主成分とするFe−Co合金にアモルファス化を促進する元素を添加した合金膜が利用されている。一方でこれらの合金膜には耐食性も要求されており、合金膜の形成にはたとえばFe−Co合金にNbあるいはTaから選ばれる1種または2種の元素を10〜20原子%含有する軟磁性膜用Fe−Co系合金スパッタリングターゲット材が提案されている。(特許文献1参照)特許文献1では、Fe−Co系ターゲット材を、それぞれ純度99.9%以上の純金属粉末原料をターゲット材の組成となるように混合し、得られた混合粉末を焼結させて製造している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】WO2009/104509号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した特許文献1に開示されるFe−Co系合金スパッタリングターゲット材は、TaあるいはNbの単一の元素を添加することで高い飽和磁束密度とアモルファス性に加えて高い耐食性を有する軟磁性膜を形成することが可能であり、成分制御を容易にするという点で有利である。
しかしながら、特許文献1に開示される製造方法により作製したFe−Co−Ta系合金ターゲット材をスパッタリングしたところ、ターゲット材から多量のパーティクルと呼ばれる異物が発生する場合があることを確認した。スパッタリングの際に発生するパーティクルは、スパッタリングレートの差等により、ターゲット材の表面にノジュールと呼ばれる突起物が形成され、このノジュールを基点として異常放電が発生することが一因となっている。また、ターゲット材の組織に空孔や酸化物等の絶縁体の異物が存在する場合にも、それらを基点として異常放電が発生し、ノジュールと同様にパーティクル発生の原因となり得る。
本発明者の検討によると、特許文献1に開示される製造方法により作製したスパッタリングターゲット材の表面にノジュールが形成されていることを確認し、その主原因がターゲット組織中の純Ta相の存在にあることを確認した。また、ターゲット組織中には、パーティクルの原因の一つとなる空孔が存在することも確認した。
本発明の目的は、上記課題を解決し、スパッタリング時にパーティクル発生を抑制可能なFe−Co−Ta系スパッタリングターゲット材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、粉末原料の組成と混合粉末の焼結条件を検討した結果、ターゲット材の組織中にノジュール発生の主原因である純Ta相および空孔を極限まで低減することができる製造方法を見出し、本発明に到達した。
すなわち本発明は、Fe−Ta粉末とCo−Ta粉末と純Ta粉末とを混合して混合粉末を得る工程と、前記混合粉末を焼結温度1100〜1400℃、圧力125〜200MPaで1〜10時間の加圧焼結をする工程とを有するFe−Co−Ta系スパッタリングターゲット材の製造方法である。
また、本発明のFe−Co−Ta系スパッタリングターゲット材は、6mmの視野における純Ta相が1.5面積%以下であり、且つ同一の視野において存在する空孔の長径の総和が15μm以下である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によりスパッタリング時のパーティクル発生を抑制したFe−Co−Ta系ターゲット材が実現でき、磁気記録媒体のFe−Co−Ta系合金の軟磁性膜を安定的に成膜することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明例の試料No.5の走査型電子顕微鏡によるミクロ組織写真である。
【図2】従来例の試料No.1の走査型電子顕微鏡によるミクロ組織写真である。
【図3】比較例の試料No.2の走査型電子顕微鏡によるミクロ組織写真である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
上述したように、本発明の重要な特徴は、スパッタリングの際にパーティクル発生の主原因となるターゲット材中の純Ta相を極限まで抑制するために、原料粉末としてFe−Ta粉末とCo−Ta粉末と純Ta粉末を用い、さらに純Ta相および空孔を抑制するための好適な粉末焼結条件を見出した点にある。
【0010】
本発明のFe−Co−Ta系スパッタリングターゲット材の製造方法は、Fe−Ta粉末とCo−Ta粉末と純Ta粉末とを混合した後に、例えば熱間静水圧プレスやホットプレス等による加圧焼結を行う。例えば熱間静水圧プレスによって上述の混合粉末を加圧焼結する場合、軟鋼製の加圧容器に粉末を充填し、加圧容器内部を真空排気して密封した後に加圧焼結を実施する。加圧焼結は、焼結温度1100〜1400℃、圧力125〜200MPaで焼結時間1〜10時間の範囲内で行う。
焼結温度が1100℃未満の場合は、高融点金属である純Ta粉末の焼結が十分に進まずに空孔が形成されてしまう。一方、焼結温度が1400℃を超えると耐え得る装置が限られてしまうという問題がある。このため、本発明では焼結温度を1100〜1400℃とした。尚、焼結温度が1270℃を超える場合には、Co−Ta合金粉末の液相が出現するため、1270℃以下で焼結することが好ましい。
また、加圧圧力が125MPa未満では、十分な焼結ができなくなりターゲット組織中に空孔が形成されやすくなる。一方、加圧圧力が200MPaを超えると耐え得る装置が限られてしまうという問題がある。このため、本発明では加圧圧力を125〜200MPaとした。
また、焼結時間が1時間未満の場合には、焼結を十分に進行させられず、純Ta相や空孔の形成を抑制することが難しい。一方、焼結時間が10時間を超えると製造効率が著しく悪化するため避ける方がよい。このため、本発明では焼結時間を1〜10時間とした。
【0011】
本発明で用いる原料粉末は、Fe−Ta合金粉末とCo−Ta合金粉末と純Ta粉末とする。組成比の異なる1種または2種のFe−Co−Ta合金粉末と純Ta粉末を原料粉末として用いることも可能であるが、Fe−Co−Ta合金粉末と純Ta粉末間の相互拡散が進みにくくなり、焼結後のターゲット材組織において純Ta相が形成されやすくなる。このため、本発明では、Fe−Ta合金粉末とCo−Ta合金粉末と純Ta粉末を用いる。
Fe−Ta合金粉末とCo−Ta合金粉末は、共晶付近の組成であることが望ましい。各々の合金粉末が共晶組成から大きく外れる場合、液相温度が顕著に上昇するため、合金化の際に周囲の耐火物を損傷しやすくなり、合金粉末中に微細な耐火物が混入してしまう可能性がある。スパッタリングターゲット材中に耐火物が混入した場合には、これら耐火物は絶縁体であるため、スパッタリング時にパーティクルを発生する異常放電の基点となりやすい。このため、Fe−Ta合金粉末においてはTaの原子比率が12%以下であることが望ましく、Co−Ta合金粉末においてはTaの原子比率が18%以下であることが望ましい。Fe−Ta合金粉末においては、Taの原子比率が4〜10%であることがより好ましい。また、Co−Ta合金粉末においては、Taの原子比率が5〜13%であることがより好ましい。
また、各々の合金粉末において粒径が粗大である場合には、Fe−Ta合金粉末とCo−Ta合金粉末と純Ta粉末の混合粉末を軟鋼製の圧力容器に充填する際のかさ密度が顕著に低下し、加圧焼結による収縮が大きくなるため、合金粉末の粒径は250μm以下であることが望ましい。
【0012】
本発明のスパッタリングターゲット材のベースとなるFe−Co合金は、原子比における組成式が(Fe−Co100−X)、30≦X≦80で表される成分領域であることが好ましい。これは、飽和磁気モーメントが遷移金属合金中で最高となることが知られるFe−Co二元系合金は、原子比でFe:Co=65:35の組成比付近で飽和磁気モーメントが最大になり、Feの原子比率が30〜80%の範囲であるFe−Co合金において高い飽和磁気モーメントが得られるためである。
なお、飽和磁気モーメントを最大化する必要がある場合には、Feの原子比率Xを50〜80%とすることが好ましく、また、薄膜としての磁歪を下げようとする場合には、Feの原子比率Xを30〜50%とすることが好ましい。
【0013】
本発明のFe−Co−Ta系スパッタリングターゲット材は、Taを14〜30原子%含有させることが好ましい。これは、Taの添加により、スパッタリングの際に、Fe−Co系合金がアモルファス化すると同時に、耐食性を向上させる効果を有するためである。なお、上記の効果は、Taの添加量が14原子%に満たない場合には、アモルファス化せず、30原子%を超える場合には、磁化が低下するため、14〜30原子%にすることが好ましい。
【0014】
また、上述の理由により、Taを14原子%以上含有するFe−Co−Ta系スパッタリングターゲット材を製造するためには、純Ta粉末を用いる必要があるが、純Ta粉末の使用量は極力抑制することが望ましい。これは、純Ta粉末を多量に用いた場合には、混合粉末の焼結後のミクロ組織に純Ta相が形成されやすくなり、スパッタリング時にノジュールを形成しやすくなるためである。
また、純Ta粉末は、粒子径が微細であることが好ましい。これは、純Ta粉末の粒子径が粗大である場合には、混合粉末の焼結後のミクロ組織に純Ta相が形成されやすくなり、スパッタリング時にノジュールを形成しやすくなるためである。また、取り扱いの簡便さを考慮すると、純Ta粉末の平均粒子径は、45μm以下とすることが好ましい。
また、純Ta粉末には、化学的抽出法や機械的粉砕法により製造される純Ta粉末を用いることができ、中でも機械的粉砕法によって製造された粉末を用いることが好ましい。機械的粉砕法によって製造された粉末を用いることにより、粉末の流動性が向上し、加圧容器への充填時のかさ密度が高くなり、加圧焼結後のミクロ組織中に空孔の形成をさらに抑制することができる。
【0015】
本発明のFe−Co−Ta系スパッタリングターゲット材は、Taを上記の範囲で含有する以外に、Zrを5原子%以下含有させてTaの一部を置換していてもよい。ZrをFe−Co―Ta系合金に添加することにより、スパッタリング成膜の際に薄膜のアモルファス化を促進させ、Taの添加量を抑制することが可能となる。
本発明によって製造されるFe−Co−Ta系スパッタリングターゲット材にZrを5原子%以下添加する場合は、上述のFe−Ta合金粉末やCo−Ta合金粉末、純Ta粉末に加えて、Fe−Zr、Co−Zr、Fe−Ta−Zr、Co−Ta−Zrを添加することにより製造することができる。
これは、上述の理由に加えて、純金属としてのZrは酸素との反応性が非常に高く、作業の安全上合金化させて使用することが望ましいためである。
【0016】
本発明のFe−Co−Ta系スパッタリングターゲット材は、TaとZrを上記の範囲で含有する以外の残部はFeとCoと不可避的不純物である。不純物含有量はできるだけ少ないことが望ましく、ガス成分である酸素、窒素は1000ppm以下、不可避的に含まれるNi、Si、Al等のガス成分以外の不純物元素は、合計で1000ppm以下であることが望ましい。
【0017】
本発明によって得られるFe−Co−Ta系スパッタリングターゲット材は、6mmの視野における純Ta相が1.5面積%以下であり、且つ存在する空孔の長径の総和が、15μm以下である。これは、ノジュール化しやすい純Ta相および空孔の存在比率をスパッタリング時に問題にならない範囲まで低減するためである。純Ta相および空孔の存在比率は、可能な限り低いことが好ましく、スパッタリング中のパーティクル発生を抑制するためには、純Ta相を1.5面積%以下とし、かつ存在する空孔の長径の総和を15μm以下とする必要がある。
【実施例】
【0018】
以下の実施例で本発明を更に詳しく説明する。
まず、原子比が(Fe65−Co3582−Ta18となるように、表1に示す各々の組合せの粉末を準備し、秤量、混合して混合粉末を作製した。ここで、Fe−Ta合金粉末とCo−Ta合金粉末は、ガスアトマイズ製法により製造した、粒径が250μm以下の、各々共晶組成であるFe−8Ta(原子%)およびCo−8Ta(原子%)を用いた。また、純Ta粉末には、試料No.1〜5は市販の化学的抽出法によって製造された粒径が45μm以下の純Ta粉末を用い、試料No.6〜10は市販の機械的粉砕法によって製造された粒径が45μm以下の純Ta粉末を用いた。
上記で得たそれぞれの混合粉末を、軟鋼製の加圧容器に充填し脱気封止した後に、熱間静水圧プレスによって表1に示す焼結温度、加圧圧力、焼結時間の条件で焼結し、直径194mm×厚さ14mmの焼結体を得た。
上記で得た焼結体を機械加工により、直径180mm×厚さ7mmのサイズに加工してFe−Co−Ta系スパッタリングターゲット材を得た。
【0019】
上記で作製した焼結体を走査型電子顕微鏡(日本電子株式会社製 JSM−6610LA)によりミクロ組織観察し、6mmの視野における純Ta相の面積%を測定した。また、観察した6mmの視野中に存在する夫々の空孔の長径を測定し、その総和を算出した。観察した試料No.1、2、5それぞれの焼結体のミクロ組織を図1〜図3に、純Ta相の面積%および空孔の長径の総和を測定した結果を表1に示す。
図1〜図3において、白色部は純Ta相、その周囲の明灰色部はTaを多く含有する合金相であり、残部がTa含有量の少ない合金相である。図1〜図3および表1より、加圧圧力を増加させ、焼結時間を長くすることにより、純Ta相および空孔の形成を抑制できていることが確認できた。また、ミクロ組織中の空孔は、化学的抽出法により製造された純Ta粉末に比べて、機械的粉砕法により製造された純Ta粉末を用いることにより、さらに形成を抑制できていることが確認できた。
【0020】
また、上記で作製したスパッタリングターゲット材をDCマグネトロンスパッタ装置(キャノンアネルバ株式会社製 C3010)のチャンバ内に配置し、チャンバ内を1×10−6Pa以下となるまで減圧した後、Arガス圧0.6Pa、投入電力1500Wの条件にて120秒ずつ放電試験を行った。このとき、0.1秒ごとの印加電圧の変化を記録し、印加電圧差の絶対値が統計的管理基準として異常値の監視に利用される、中央値(平均値)に標準偏差の3倍を加えた値以上となった回数を異常放電が発生した回数として測定した。
ターゲット材から発生するパーティクルの量と異常放電の回数の間には強い正の相関があるため、異常放電の回数を測定することでスパッタリングの際に発生するパーティクルの多少を評価することが可能である。上記の方法によって異常放電の回数を測定し、試料No.1の従来材を基準(100%)として、得た異常放電発生比率の結果を表1に示す。
表1より、Fe−Co−Ta系ターゲット材中の純Ta相の面積%の低下および空孔の長径の総和の減少に伴い、異常放電発生比率も低下することが確認できた。本発明の加圧焼結の条件の範囲内で製造することにより、純Ta相および空孔が抑制でき、その結果スパッタリング時のパーティクル発生の低減が可能となり、本発明の有効性が確認できた。
【0021】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
Fe−Ta粉末とCo−Ta粉末と純Ta粉末とを混合して混合粉末を得る工程と、
前記混合粉末を焼結温度1100〜1400℃、圧力125〜200MPaで1〜10時間の加圧焼結をする工程とを有することを特徴とするFe−Co−Ta系スパッタリングターゲット材の製造方法。
【請求項2】
Fe−Co−Ta系のスパッタリングターゲットにおいて、6mmの視野における純Ta相が1.5面積%以下であり、且つ同一の視野において存在する空孔の長径の総和が15μm以下であることを特徴とするFe−Co−Ta系スパッタリングターゲット材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−32573(P2013−32573A)
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−169920(P2011−169920)
【出願日】平成23年8月3日(2011.8.3)
【出願人】(000005083)日立金属株式会社 (2,051)
【Fターム(参考)】