説明

Fe−Co−V系合金材料の製造方法

【課題】 部位による磁気特性のばらつきが非常に少ないFe−Co−V系合金材料の製造方法を提供する。
【解決手段】 質量%で、Co:40〜60%、V:1.5〜3.5%、B:10〜40ppm、Si:0.01〜1.00%、Mn:0.01〜1.00%、C:0.1%以下、残部Feおよび不可避的不純物元素からなる合金をガスアトマイズもしくは水アトマイズ法により作製し、該合金を高密度成形法により固化成形し、該固化成形した合金の任意の部位20箇所(5mm×5mm)から採取した試料の保磁力が160KA/m以下、かつそのばらつきが平均値に対し、3%以下であることを特徴とするFe−Co−V系合金材料の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Fe−Co−V系合金材料の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、Fe−49%Co−2%Vを代表するFe−Co−V合金が飽和磁束密度が得られる合金として知られている。このFe−Co−V合金材は飽和磁束密度が大きいため、分析機としてのTEM、SEM等の対物レンズ、分析計のポールピース等の用途に使用されている。一方、一般的にこれらのFe−Co−V合金材は鋳造法により製造され、一部焼結による検討もされている。しかしながら、鋳造材では磁気特性が部位によってばらつくため製品の精度不良を引起こす場合がある。また、結晶粒の粗大化、不均一性に起因して切削加工性に課題が生じる場合があった。また、焼結体では強度不足であり、かつポア等によって磁気特性がばらつく等の問題がある。
【0003】
上述したような問題を解消するべき、例えば特開2000−45050号公報(特許文献1)が提案されている。この特許文献1は、重量比で、Co45〜55%、V:1.7〜3.0%を含有し、さらにB:15〜50ppm、N:100ppm以下を含有し、残部実質的にFeおよび不可避的元素からなることを特徴とする精密鋳造用Fe−Co系合金、特に鋳造応力に抗するため靱性を改善した鋳造用Fe−Co系合金にある。
【特許文献1】特開2000−45050号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した特許文献1は靱性を改善し、割れの発生の少ない精密鋳造用Fe−Co−V系合金であるが、しかしながら、鋳造材であるために、どうしても磁気特性が部位によってばらつくため製品の精度不良を引起こす場合がある。また、結晶粒の粗大化、不均一性に起因して切削加工性が十分と言うことができない。そのために、対物レンズ等に用いた場合には、画像精度が落ち、また、分析計に用いた場合には、分析精度が悪くなるという問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上述したような問題を解消するために、発明者らは鋭意開発を進めた結果、十分な分析精度を有するための条件として製品の保磁力Hcばらつきとの相関を見出し、かつアトマイズ粉末を用いることにより、組成偏析が少なく、高密度成形されるため焼結体と比較して欠陥も殆ど無く部位による磁気特性のばらつきが非常に少ないFe−Co−V系合金材料の製造方法を提供するものである。
【0006】
その発明の要旨とするところは、
質量%で、Co:40〜60%、V:1.5〜3.5%、B:10〜40ppm、Si:0.01〜1.00%、Mn:0.01〜1.00%、C:0.1%以下、残部Feおよび不可避的不純物元素からなる合金をガスアトマイズもしくは水アトマイズ法により作製し、該合金を高密度成形法により固化成形し、該固化成形した合金の任意の部位20箇所(5mm×5mm)から採取した試料の保磁力が160KA/m以下、かつそのばらつきが平均値に対し、3%以下であることを特徴とするFe−Co−V系合金材料の製造方法にある。
【発明の効果】
【0007】
以上述べたように、本発明による保磁力160KA/m以下で、かつばらつきが平均値に対し3%以下に抑えることが可能となり、強度にも優れたFe−Co−V系合金の製造を可能にしたことは工業上極めて優れた効果を奏するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明に係るFe−Co−V系合金材料の成分組成についての限定理由について述べる。なお、本発明に係るFe−Co−V系合金材料の成分組成は特に限定されるものではないが、以下の成分組成のものが望ましい。質量%で、Co:40〜60%、V:1.5〜3.5%、残部Feおよび不可避的不純物元素からなり、さらに、微量元素として、B:10〜40ppm、Si:0.01〜1.00%、Mn:0.01〜1.00%、C:0.1%以下を含有させたFe−Co−V系合金材料にある。
【0009】
Co:40〜60%
Coは、高い磁束密度を得るFe−Co−V系合金の主要元素であり、40%未満では高い磁束密度を得るに十分でなく、また、60%を超える添加はその効果が飽和することから、好ましくは、その範囲を40〜60%とした。より好ましくは45〜55%とする。
【0010】
V:1.5〜3.5%
Vは、靱性および保持力を向上させる元素であり、そのためには1.5%以上必要である。しかし、3.5%を超えると飽和磁束密度を低下させるので、その範囲を1.5〜3.5%とした。
【0011】
B:10〜40ppm
Bは、結晶粒を微細化させ靱性を向上させる元素である。しかし、10ppm以下ではその効果が十分でなく、40ppmを超えると結晶粒界に析出物が多くなり、逆に靱性が低下することから、その範囲を10〜40ppmとした。
【0012】
Si:0.01〜1.00%
Siは、脱酸剤としての元素である。また、保磁力を低減させる元素でもある。しかし、0.01%未満ではその効果が十分でなく、1.00%を超える添加は飽和磁束密度を低下させるので、その範囲を0.01〜1.00%とした。
【0013】
Mn:0.01〜1.00%
Mnは、Siと同様に、脱酸剤としての元素である。しかし、0.01%未満ではその効果が十分でなく、1.00%を超える添加は飽和磁束密度を低下させるので、その範囲を0.01〜1.00%とした。
【0014】
C:0.1%以下
Cは、0.1%を超えると飽和磁束密度が低下するため、その上限を0.1%以下とした。
【0015】
上述したような成分組成のもとに、本発明者らは、磁気特性のなかでも保磁力(Hc)のレベルとそのばらつきを一定以下にすることにより製品の分析精度が良好になることを見出した。すなわち、本発明に係る製品の任意の部位20箇所(5mm×5mm)から採取した試料の保磁力がいずれも160KA/m以下で、かつそのばらつきが平均値に対して3%以下であれば、製品とした際の分析精度が飽和し、高いレベルでほぼ一定になる。保磁力(Hc)が160KA/mを超え、もしくはばらつきが平均値に対して3%を超えると、著しく分析精度が悪くなる。
【0016】
また、保磁力(Hc)を低くし、そのばらつきを低減する手段としては、アトマイズ法により粉末を作製し、それを固化成形することが有効であることを見出した。アトマイズ法は急冷凝固であるため、組織は微細均一となる。この成形方法としては、HIPもしくは押出し法を用いれば、高圧下で成形できるため、成形後は100%密度となり、組織に欠陥がなくなるため、磁気特性が良好となりばらつきも低減することができる。
【実施例】
【0017】
以下、本発明について実施例によって具体的に説明する。
表1に示す成分組成Fe−Co−V合金を真空誘導溶解し、アトマイズ法による溶湯ノズル径φ6mm、出湯温度1773K、噴霧圧4MPaにてArガスを用いて、噴霧量20kg/分にてアトマイズを行い、その後急冷してFe−Co−V系合金粉末を得た。また、この合金粉末の保磁力(Hc)レベルとばらつきを意図的に変えるために、Cを0.1mass%添加した粉末も同時に作製した。この合金粉末を表2に示す一定量の比率で混合することにより、Hcレベルおよびばらつきを制御した。なお、粉末成形は押出成形の場合は、押出温度:1473K、圧力:430MPa、減面率:6.55(φ210mm→φ82mm)で成形した。また、HIP法の場合は、HIP温度:1423K×5hr、圧力:150MPaでφ82×100Lに成形した。
【0018】
【表1】

特性調査として、試料採取部位を押出し材もしくはHIP材の中心部、中周部、外周部から任意に10箇所、5mm角のブロック形状を採取、ブロック材は保磁力および密度を測定するために使用した。また、磁気特性は、保磁力メーターにより試料に144KA/mの磁界を印可した。また、密度は、湿式法により各試料の比重を測定し、真比重に対する測定値の割合を相対密度として算出した。さらに、製品の分析精度は、SEM用の対物レンズとして(外径φ82:内径φ70×10tのリング材)の解像度レベルを評価した。この評価は本発明例No.1の解像度レベルを100とした時の相対的な評価である。
【0019】
【表2】

表2に示すように、No.1〜8は本発明例であり、No.9〜15は比較例である。比較例No.9はV含有量が多い場合であり、比較例No.10はB含有量が少ない場合であり、比較例No.11はB含有量が多い場合である。比較例No.12はSi含有量が少ない場合であり、比較例No.13はMn含有量が少ない場合であり、比較例No.14はMn含有量が多い場合である。いずれも、試料10個のHcの最大、最小値の差も大きく保磁力に大きくばらつきが大きく、かつ、Hcの平均値に対するばらつきの割合が大きいことが分かる。
【0020】
また、比較例No.15は粉末成形方法が鋳造方法によるものであり、Hcの平均値に対するばらつきの割合が大きく、また、試料10個のHcの最大、最小値の差も大きく保磁力に大きくばらつきのあることが分かる。これに対し、本発明例であるNo.1〜8のいずれも、試料10個のHcの最大、最小値の差が小さく、かつHcの平均値に対するばらつきが小さく、また、試料10個のHcの平均値に対するばらつきの割合も小さいことが分かる。
【0021】
以上述べたように、本発明による保磁力160KA/m以下で、かつばらつきが平均値に対し3%以下に抑えることが可能となり、特に分析機器としてのTEM、SEM等の対物レンズ、分析計のポールピース等の用途に使用され、強度にも優れたFe−Co−V系合金の製造を可能にしたことにある。


特許出願人 山陽特殊製鋼株式会社
代理人 弁理士 椎 名 彊

【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、
Co:40〜60%、
V:1.5〜3.5%、
B:10〜40ppm、
Si:0.01〜1.00%、
Mn:0.01〜1.00%、
C:0.1%以下、
残部Feおよび不可避的不純物元素からなる合金をガスアトマイズもしくは水アトマイズ法により作製し、該合金を高密度成形法により固化成形し、該固化成形した合金の任意の部位20箇所(5mm×5mm)から採取した試料の保磁力が160KA/m以下、かつそのばらつきが平均値に対し、3%以下であることを特徴とするFe−Co−V系合金材料の製造方法。

【公開番号】特開2008−255492(P2008−255492A)
【公開日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−125372(P2008−125372)
【出願日】平成20年5月13日(2008.5.13)
【分割の表示】特願2003−73142(P2003−73142)の分割
【原出願日】平成15年3月18日(2003.3.18)
【出願人】(000180070)山陽特殊製鋼株式会社 (601)
【Fターム(参考)】