説明

GaAsウェハ及びGaAsウェハの製造方法

【課題】大口径化しても、スリップの発生を抑制できるGaAsウェハ及びその製造方法
を提供する。
【解決手段】LEC法によりGaAs単結晶を成長する成長工程と、成長工程で得られた
GaAs単結晶をスライスしてGaAsウェハを作製するウェハ作製工程とを有するGa
Asウェハの製造方法において、成長工程では、成長工程で得られるGaAs単結晶中の
硫黄原子濃度が一様に2×1014cm−3以上となるように、原料中に硫黄を添加する

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、GaAsウェハ及びその製造方法に関し、特にスリップの発生を抑制できる
GaAsウェハ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
GaAsなどの化合物半導体単結晶は、LEC(Liquid Encapsulated Czochralski:
液体封止引き上げ)法、VB(Vertical Bridgeman:垂直ブリッジマン)法などによって
製造される。従来、半絶縁性GaAs単結晶の成長において、多結晶化を防止するために
結晶成長中の固液界面形状を融液側に凸状にすることが重要であり、凸状の固液界面とす
るための種々の構造や成長条件などが提案されている(例えば、特許文献1〜7)。
【0003】
半絶縁性GaAs単結晶を成長させた後に、これをスライス加工して得られる半絶縁性
のGaAsウェハを基板にして、各種デバイスが作製される。具体的には、GaAsウェ
ハ上に、AlGaAsやInGaAs等の化合物半導体層を有機金属気相成長法(MOV
PE法)や分子線エピタキシャル成長法(MBE法)等によりエピタキシャル成長させ、
その後、リソグラフィーおよびエッチング等の技術を用いて電子デバイスや受・発光デバ
イス等が作製されている。
【0004】
ここで、エピタキシャル成長させるAlGaAsやInGaAs等の化合物半導体層は
、その下地ウェハであるGaAsと組成が異なるため、格子定数や熱膨張係数が異なる。
そのため、図4に示すように、GaAsウェハ20上にエピタキシャル層21を積層した
エピタキシャルウェハ22には歪みが生じ、エピタキシャルウェハ22全体がエピタキシ
ャル層21側に凸形状に反ることが多い。
【0005】
デバイス製造プロセス中において、GaAsウェハは、何回か高温に晒される。例えば
、MOVPE法によるエピタキシャル成長では、GaAsウェハを約800℃まで昇温さ
せてエピタキシャル成長がなされ、あるいはエピタキシャル成長後のウェハアニール処理
でもGaAsウェハは高温に晒される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平5−238870号公報
【特許文献2】特開平6−107416号公報
【特許文献3】特開2002−25923号公報
【特許文献4】特開2004−10467号公報
【特許文献5】特開2006−327879号公報
【特許文献6】特開2006−36604号公報
【特許文献7】特開2008−222481号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したように、GaAsウェハ20上に格子定数が異なるエピタキシャル層21を形
成した化合物半導体ウェハは、少なからず反りを有し、エピタキシャル成長工程における
エピタキシャル成長後の降温時に、もしくはエピタキシャル成長工程後になされるウェハ
アニール処理中の昇降温時に、GaAsウェハ20の反り、つまり格子歪みを開放するべ
く、図5に示すように、GaAsウェハ20の表面に、GaAsウェハ20の外周縁部か
ら特定の結晶方向に沿う直線状のすじ、つまりスリップ23が発生する。なお、24はノ
ッチである。
【0008】
ウェハに急激な温度変化を与えると、ウェハ内部の歪みを開放するために結晶が一部移
動し、それが結晶面の高さにずれを生じさせて、ウェハ表面に段差が生じる。これがスリ
ップであり、結晶の開放端であるウェハ外周縁部から発生し、その段差は中心方向に伝搬
され、外周縁部から中心に向かう直線状のすじとなって現れる。ウェハの中央部付近には
デバイス形成領域が位置しているため、スリップがデバイス領域に伝搬されると、デバイ
スに断線等の不良が生じるといった問題があった。
【0009】
スリップの発生を抑制するには、エピタキシャル成長後の降温速度やウェハアニール処
理時の昇温速度および降温速度を小さくすること等が効果的であるが、デバイスの特性を
制御したり、安定させる上では昇温速度および降温速度が大きい方が有利である場合が多
いため、昇温速度および降温速度を小さくすることは難しい。
【0010】
そこで、従来技術として、あらかじめエピタキシャル成長用化合物半導体ウェハを、エ
ピタキシャル層を成長させる表面を上側に向けた時に中央部が低く且つ周辺部が高く、同
心円状に反った凹形状とすることで、エピタキシャル成長後の反りを修正し、スリップの
発生を抑止する技術が提案されている(特開2007−214368号公報)。
【0011】
しかし、上記のようにウェハを凹形状としても、外径100mmを超えるGaAsウェ
ハの大口径化に伴い、ウェハの熱処理やエピタキシャル成長により、ウェハ外周縁部から
中心に向かうスリップが発生しやすくなっている。これは、ウェハの大口径化によって面
内温度均一性を保つことが難しくなってきているためであり、ウェハの反りによる歪みを
修正してもなお、中心部と外周縁部との温度不均一により発生する熱応力によって、歪み
が開放され、結果としてウェハ外周縁部から中心に向かうスリップが発生する。スリップ
の発生は、LEC法やVB法といったGaAs単結晶の製造方法に依らないことが確認さ
れており、外径100mmを超える大口径GaAsウェハに当てはまる問題と言える。
【0012】
また、ウェハ面内の転移密度及び残留応力を所定の範囲とすることで、ウェハの面内温
度を均一にし、スリップの発生を抑止する技術も提案されている(特開2008−174
415号公報)。しかしながら、この技術によっても、ウェハの大口径化に伴い、スリッ
プの発生の問題を解決することができない場合があった。
【0013】
そこで、本発明の目的は、大口径化しても、スリップの発生を抑制できるGaAsウェ
ハ及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するために、本発明は次のように構成されている。
本発明の第1の態様は、硫黄原子濃度が面内で一様に2×1014cm−3以上である
GaAsウェハが提供される。
【0015】
本発明の第2の態様によれば、前記硫黄原子濃度が面内で一様に2×1014cm−3
以上10×1016cm−3未満である第1の態様に記載のGaAsウェハが提供される

【0016】
本発明の第3の態様によれば、ユニバーサル硬度が面内で一様に4000N/mm
上である第1又は第2の態様に記載のGaAsウェハが提供される。
【0017】
本発明の第4の態様によれば、前記GaAsウェハは円形に形成され、前記GaAsウ
ェハの外径が100mm以上である第1〜第3の態様のいずれかに記載のGaAsウェハ
が提供される。
【0018】
本発明の第5の態様によれば、原料および封止剤を収納したルツボを加熱し、前記ルツ
ボ内の液体封止剤で覆われた原料融液に種結晶を接触させた後に前記種結晶を徐々に引き
上げて、一定の外径を有するようにGaAs単結晶を成長する成長工程と、前記成長工程
で得られた前記GaAs単結晶をスライスしてGaAsウェハを作製するウェハ作製工程
とを有するGaAsウェハの製造方法において、
前記成長工程では、該成長工程で得られる前記GaAs単結晶中の硫黄原子濃度が一様
に2×1014cm−3以上となるように、前記原料中に硫黄を添加することを特徴とす
るGaAsウェハの製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、大口径化しても、スリップの発生を抑制できるGaAsウェハが得ら
れる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の一実施形態に係るGaAsウェハの製造方法におけるGaAs単結晶成長に用いたGaAs単結晶製造装置の概略構成図である。
【図2】本発明の実施例にかかるGaAs単結晶をスライスして得られたGaAsウェハの硫黄原子濃度とユニバーサル硬度との関係を示すグラフである。
【図3】本発明の比較例にかかるGaAs単結晶をスライスして得られたGaAsウェハの硫黄原子濃度とユニバーサル硬度との関係を示すグラフである。
【図4】GaAsウェハにエピタキシャル層を形成したエピタキシャルウェハの断面図である。
【図5】従来のGaAsウェハを用いたエピタキシャルウェハに対して、ウェハアニール処理後にウェハに発生するスリップの一例を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
(本発明の一実施形態)
以下に、本発明にかかるGaAsウェハ及びGaAsウェハの製造方法の一実施形態に
ついて、図1を参照しながら説明する。
【0022】
[GaAsウェハ]
本発明の一実施形態にかかるGaAsウェハは、GaAsウェハ表面の硫黄原子濃度が
、面内で一様に2×1014cm−3以上である。硫黄原子濃度が面内で一様に2×10
14cm−3以上であるGaAsウェハとすることにより、GaAsウェハ表面のユニバ
ーサル硬度が、面内で一様に4000N/mm以上である硬質のGaAsウェハを得る
ことができる。この結果、GaAsウェハを大口径化しても、例えば、エピタキシャル成
長後の降温時や、エピタキシャル成長後のウェハアニール処理中の昇降温時等の、GaA
sウェハを用いたデバイス製造プロセス中の熱処理に対して、GaAsウェハ自身の反り
や熱処理時のウェハ面内の温度不均一といった影響があっても、スリップの発生を抑止で
きることが明らかとなった(実施例参照)。これにより、デバイスに断線等の不良が生じ
ることを抑止でき、高いデバイス歩留りを維持することができる。
【0023】
硫黄原子濃度が面内で一様に2×1014cm−3以上であるGaAsウェハは、後述
するように、LEC法において所定の成長条件で作製されたGaAs単結晶をスライスす
ることにより得られる。なお、本実施形態において、GaAsウェハ表面の硫黄原子濃度
が面内で一様に2×1014cm−3以上となるように、すなわち、GaAs単結晶中の
硫黄原子濃度が一様に2×1014cm−3以上となるように、GaAs単結晶の成長工
程で、硫黄粉末等の硫黄を原料中に添加したのは、成長したGaAs単結晶中の硫黄原子
濃度が2×1014cm−3未満であると、この結晶をスライスすることにより得られる
GaAsウェハのユニバーサル硬度が、面内で4000N/mm未満となるGaAsウ
ェハが発生してしまう場合があるからである。
【0024】
また、本実施形態において、GaAsウェハ表面のユニバーサル硬度の下限値を400
0N/mmとしたのは、GaAsウェハ表面のユニバーサル硬度が4000N/mm
未満となると、GaAsウェハを大口径化したとき、エピタキシャル成長後の降温時やエ
ピタキシャル成長後のウェハアニール処理中の昇降温時に、スリップが発生してしまう場
合があるからである。
【0025】
なお、硫黄自体はGaAs中でドナとして働くため、半絶縁性GaAsウエハを得るた
めには、GaAsウェハ表面の硫黄原子濃度は、面内で一様に2×1014cm−3以上
10×1016cm−3未満であることが好ましい。これによっても、GaAsウェハ表
面のユニバーサル硬度を面内で一様に4000N/mm以上、好ましくは4000N/
mm〜4400N/mmとすることができ、スリップの発生を抑止できる。
【0026】
上記GaAsウェハは、LEC法により形成され、その外径が100mm以上の円形で
あることが好ましい。本発明によれば、GaAsウェハの外径を100mm以上に大口径
化しても、スリップの発生を抑止でき、GaAsウェハを用いたデバイスの量産化などに
貢献できる。
【0027】
上記GaAsウェハの硬度を規定するユニバーサル硬度とは、超微小負荷硬さ試験方法
により測定される押し込み硬さであり、ユニバーサル硬度は、圧子を荷重を加えながら被
測定物(GaAsウェハ面)に押し込むことにより、下記の式(1)から求められる。
ユニバーサル硬度=F/A(h) ……式(1)
ここで、Fは被測定物に加えられる試験荷重(試験力)であり、A(h)は試験荷重下
での圧子の被測定物との接触表面積(圧子を被測定物に押し込むことで生じる被測定物の
凹みの表面積)であって、圧子の被測定物への押し込み深さhから算出される。試験荷重
Fの単位はN(ニュートン)、接触表面積A(h)の単位はmmであり、ユニバーサル
硬度の単位はN/mm(MPa)である。
【0028】
このユニバーサル硬度の測定は、市販の硬度測定器を用いて行うことができ、例えば、
超微小硬度測定器「フィッシャースコープH−100」(フィッシャーインストルメント
社製)を用いて測定することができる。この超微小硬度測定器では、四角錐或いは三角錐
形状の圧子を被測定物に押し込む過程で負荷する試験荷重Fと押し込み深さhを連続的に
測定し、所望の試験荷重に達した時点での押し込み深さから圧子が被測定物と接触してい
る表面積を求め、上記の式(1)よりユニバーサル硬度を算出する。
【0029】
上記超微小硬度測定器「フィッシャースコープH−100」を用いてGaAsウェハの
硬度を測定した具体的な測定条件を次に記す。
測定圧子:ヴィッカース圧子
測定環境:温度24℃、湿度65%
測定試料:厚さが600μm〜750μmのGaAsウェハ
最大試験荷重:1000mN
荷重条件:最大試験荷重に30secで達する速度で、時間に比例して荷重を印加
【0030】
硬度測定は、各試料とも、例えば(100)面ウェハの場合には、<001>方向の半
径(線分)上における、ウェハ外周縁より5mmの位置からウェハ中心に向かって等間隔
で5点測定した。その後、<011>方向の半径(線分)上における、ウェハ外周縁より
5mmの位置からウェハ中心に向かって等間隔で4点測定した。つまり、<001>方向
の半径上および<011>方向の半径上において合計9点の測定点で、GaAsウェハ面
内のユニバーサル硬度を測定した。これら9点で測定されたユニバーサル硬度のうち最小
値を用いて、GaAsウェハ面内の硬度は面内に一様に前記最小値以上のユニバーサル硬
度を有すると規定した。なお、ユニバーサル硬度の測定点は、上記測定点・測定位置に限
らず、GaAsウェハ面内の適宜分散した複数の位置で測定すればよい。
【0031】
[GaAsウェハの製造方法]
次に、本発明に係るGaAsウェハの製造方法の一実施形態を説明する。本実施形態の
GaAsウェハの製造方法では、LEC法によるGaAs単結晶を成長する成長工程と、
成長工程で得られたGaAs単結晶をスライスしてGaAsウェハを作製するウェハ作製
工程とを有する。
【0032】
本実施形態のLEC法によるGaAs単結晶の成長工程では、成長工程で得られたGa
As単結晶中の硫黄原子濃度が一様に2×1014cm−3以上となるように、好ましく
は2×1014cm−3以上10×1016cm−3未満となるように、原料中に例えば
硫黄粉末等の硫黄を添加している。
【0033】
なお、炉内の例えばサセプタ10等の構成部材はグラファイトから構成されている場合
があり、このようなグラファイト部材から発生した硫黄がGaAs単結晶の成長途中で、
結晶中に取り込まれる場合がある。このため、成長工程で得られるGaAs単結晶中の硫
黄原子濃度は、炉内熱環境やグラファイト部材の劣化状況等により、結晶ロット間でばら
つきが生じてしまう。従って、本実施形態では、GaAs単結晶中の硫黄原子濃度が2×
1014cm−3以上、好ましくは2×1014cm−3以上10×1016cm−3
満となるように、原料セット時にあらかじめ硫黄粉末を原料中に添加することで、結晶ロ
ット間で硫黄原子濃度のばらつきを抑制することができる。
【0034】
[GaAs単結晶製造装置]
まず、本実施形態のGaAs単結晶の成長工程で用いるGaAs単結晶製造装置につい
て説明する。このGaAs単結晶製造装置は、LEC法によりGaAs単結晶を成長する
装置である。
【0035】
GaAs単結晶製造装置は、図1に示すように、炉体部分である高圧容器8と、GaA
s単結晶3を引上げる為に下端に種結晶2を有する引上げ軸(上軸)9と、原料融液5及
び液体封止剤6を収納する容器であるルツボ4と、ルツボ4を収容するサセプタ10と、
サセプタ10を支持するペデスタル(下軸)11と、ルツボ4を加熱して主にGaAs単
結晶3の外径を制御する役割を有する上部ヒータ12および主に固液界面1の形状を制御
する役割を有する下部ヒータ13とを有する構造となっている。
【0036】
不活性の雰囲気ガス7で満たされた高圧容器8からなる成長炉には、GaAs単結晶3
を引上げるための引上げ軸9が高圧容器8の上壁を貫通して設けられ、引上げ軸9の先端
に、種結晶(シード結晶)2が取り付けられる。ペデスタル11は高圧容器8の底壁を貫
通して設けられ、ペデスタル11の上端にはサセプタ10が固定されており、ペデスタル
11はサセプタ10を介してルツボ4を支持している。ルツボ4には、GaAs単結晶3
の原料と、この原料中に添加される硫黄と、液体封止剤としての例えばBとが収容
される。ペデスタル11は引上げ軸9と軸心を一致させて設けられる。ペデスタル11、
引上げ軸9はそれぞれ回転装置(図示せず)により回転され、かつ昇降装置(図示せず)
により昇降される。高圧容器8内には、ルツボ4内の原料、原料中の硫黄及び液体封止剤
を溶融する加熱手段として、上部ヒータ12および下部ヒータ13が設けられている。ま
た、上部ヒータ12および下部ヒータ13の温度を制御する温度コントローラ(図示せず
)が設けられると共に、ルツボ4内の原料及び液体封止剤の温度を検出するための温度検
出手段として熱電対14が設けられる。上部ヒータ12および下部ヒータ13は、サセプ
タ10の外周部を包囲するようにサセプタ10と同心配置で設置され、熱電対14はペデ
スタル11の軸内上部に設置される。
【0037】
[GaAs単結晶の製造]
GaAs単結晶を製造する際は、まず、高圧容器8内が所定圧の不活性ガス雰囲気に保
持される。不活性の雰囲気ガス7の圧力は、原料融液5からのAsの解離を防止する圧力
に設定される。次に、温度コントローラにより温度制御されて上部ヒータ12及び下部ヒ
ータ13が加熱される。ルツボ4の温度が上部ヒータ12及び下部ヒータ13の加熱によ
り、まず液体封止剤6が溶融し、続いてGaAs原料及び原料中に添加された硫黄が溶融
する。溶融した液体封止剤6の比重よりも、GaAs原料及び硫黄からなる原料融液5の
比重が大きいので液体封止剤6により、原料融液5の表面が覆われる。これにより、原料
融液5からのAsの解離が防止される。結晶成長の際は、引上げ軸9の先端に固定された
種結晶2を原料融液5に接触させ(例えば、GaAs原料融液5にGaAs種結晶2の(
100)面を接触させる)、この状態で温度コントローラのフィードバック制御によって
上部ヒータ12及び下部ヒータ13の温度を徐々に低下させながら、種結晶2をゆっくり
と引上げていく。こうすることで、GaAs単結晶3が成長し、GaAs単結晶3が液体
封止剤6を貫いて引上げられていく。
【0038】
また、結晶成長の進行に伴ってルツボ4内の原料融液5が減少すると、必然的に液面位
置が下がり、上部ヒータ12及び下部ヒータ13と結晶成長界面との位置関係が変化し、
原料融液5を効率良く加熱することが難しくなる。このため、GaAs単結晶3の成長量
から液面の低下量を算出し、これを補正するように昇降装置によってペデスタル11を徐
々に上昇させてルツボ4の位置を調整し、原料融液5の液面を、上部ヒータ12及び下部
ヒータ13の発熱帯に対して常に一定の位置にする制御が実行される。
【0039】
結晶製造中のGaAs単結晶3と原料融液5との固液界面1の形状については、原料融
液5側に凸面形状となるように制御されるとよい。多結晶化の原因となる転位は固液界面
1に垂直に伝播するため、固液界面1の形状が原料融液5側に凹面形状になると、転位が
集合して多結晶化してしまうからである。そのため、上部ヒータ12によって主にGaA
s単結晶3の外径を制御し、下部ヒータ13によって主に固液界面1の形状を制御する。
【0040】
上述のように、原料中に硫黄を添加して作製したGaAs単結晶をスライスすることで
得られるGaAsウェハは、面内で一様に2×1014cm−3以上の硫黄原子濃度を実
現でき、面内で一様に4000N/mm以上のユニバーサル硬度を実現できる。
【0041】
なお、上記実施形態では、GaAs単結晶をLEC法を用いて作製したが、硫黄原子濃
度が面内で一様に2×1014cm−3以上であるGaAsウェハが得られるのであれば
、LEC法に限らずに、VB法などを用いてGaAs単結晶を作製しても勿論よい。また
、外径が100mm以上のGaAsウェハのみならず、外径が100mm未満のGaAs
ウェハを作製しても勿論よく、スリップの発生を抑止できる。
【実施例】
【0042】
次に、本発明の実施例を説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0043】
<実施例1>
図1に示す上記実施形態のGaAs単結晶製造装置を用いてGaAs単結晶を成長させ
、このGaAs単結晶をスライス加工してGaAsウェハを作製した。
【0044】
具体的には、GaAs単結晶を成長させる際、pBN製のルツボ4に原料としてGaA
s多結晶25000gを入れ、そして、原料中に、成長したGaAs単結晶中の硫黄原子
濃度が一様に2×1014cm−3以上1×1015cm−3未満となるように硫黄粉末
を添加した。また、ルツボ4に液体封止剤として三酸化硼素(B)1500gを入
れ、ルツボ4を高圧容器8に収納し、高圧容器8内の圧力が9.0kgf/cmになる
ように不活性の雰囲気ガス7を充填した。不活性ガスとして窒素ガスを用い、雰囲気ガス
7における窒素ガス濃度を97%とした。不活性の雰囲気ガス7を充填後、上部ヒータ1
2および下部ヒータ13によりルツボ4を加熱することで、三酸化硼素、GaAs多結晶
を融解させた後、温度を調整して種付けを行い、上部ヒータ12および下部ヒータ13に
より温度制御して成長させ、外径100mm、全長400mmのGaAs単結晶を成長さ
せた。
【0045】
上記雰囲気ガス7における窒素ガス濃度は95%〜99%の範囲で制御し、高圧容器8
内の圧力は7.0kgf/cm〜9.0kgf/cmの範囲で制御するのがよい。また
、上記雰囲気ガスに、炭素を含むガスとしてCOガス、COガスを0.1%以上5%以
下の濃度で混合させて、GaAs単結晶への炭素の取り込み量を制御するのがよい。なお
、高圧容器8内の雰囲気ガス濃度の制御においては、高圧容器8内のガス濃度を直接測定
するのではなく、高圧容器8に供給されるガスのガス流量から高圧容器8内のガス濃度を
計算して行った。すなわち、高圧容器8に供給されるガス流量はマスフローメータで計測
し、計測されたガス流量から高圧容器8内のガス濃度を計算し、このガス濃度の計算結果
に基づいて、マスフローメータでガス流量を調整して、高圧容器8内の雰囲気ガス濃度を
制御した。
【0046】
上記窒素ガス濃度の成長条件でGaAs単結晶の成長を行うことで、成長するGaAs
単結晶の表面は窒化膜(GaNAsやGaN)で覆われ、ヒータの加熱によってGaAs
単結晶の直胴部の表面にGaダレが生じることを抑えることができる。窒化膜としては、
当初はGaNAs膜が形成され、その後、一部ではGaNAs膜からAsが抜けてGaN
膜となっているものと考えられる。上記窒素ガス濃度の条件でGaAs単結晶の成長を行
うことで、成長したGaAs単結晶の表面には、2〜10nmの窒化膜が形成されていた

【0047】
また、雰囲気ガスに炭素を含むガス(COガスやCOガス)を上記の濃度範囲で混合
させることにより、GaAsウェハ面内のユニバーサル硬度のばらつきを所定の範囲に抑
制できると共に、GaAsウェハ自体の電気的特性のばらつきも抑える効果を奏する。
【0048】
上記の成長条件で、5本のGaAs単結晶を作製し、GaAs単結晶をスライス加工し
て得たGaAsウェハは、全てのウェハでユニバーサル硬度が4000N/mm以上で
あった。
【0049】
これらのGaAsウェハ上に、MOVPE装置により、合計厚さ1μmのAlGaAs
層を含む数種類のエピタキシャル層をエピタキシャル成長させた。その後、このエピタキ
シャル層を有するGaAsウェハをウェハアニール炉内に配置し、水素ガス雰囲気で室温
から850℃まで昇温速度600℃/hで昇温し、続いて850℃から室温まで降温速度
600℃/hで降温した。ウェハアニール処理を実施したGaAsウェハを目視にてスリ
ップ発生の有無を観察したところ、スリップの発生は認められなかった(20枚中0枚)

【0050】
<実施例2>
実施例2では、GaAs単結晶の成長工程で、原料中に、成長したGaAs単結晶中の
硫黄原子濃度が一様に1×1015cm−3以上6×1015cm−3未満となるように
硫黄粉末を添加した。その他は、上述の実施例1と同じ条件でGaAs単結晶を成長させ
て、5本のGaAs単結晶を作製した。得られたGaAs単結晶をスライス加工して得た
GaAsウェハは、全てのウェハでユニバーサル硬度が4150N/mm以上であった

【0051】
これらのGaAsウェハ上に、MOVPE装置により、合計厚さ1μmのAlGaAs
層を含む数種類のエピタキシャル層をエピタキシャル成長させた。その後、実施例1と同
じ条件でウェハアニール処理を実施した。ウェハアニール処理後のGaAsウェハを目視
にてスリップの発生有無を観察したところ、スリップの発生は認められなかった(20枚
中0枚)。
【0052】
<実施例3>
実施例3では、GaAs単結晶の成長工程で、原料中に、成長したGaAs単結晶中の
硫黄原子濃度が一様に6×1015cm−3以上となるように硫黄粉末を添加した。その
他は、上述の実施例1と同じ条件でGaAs単結晶を成長させて、5本のGaAs単結晶
を作製した。得られたGaAs単結晶をスライス加工して得たGaAsウェハは、全ての
ウェハでユニバーサル硬度が4250N/mm以上であった。
【0053】
これらのGaAsウェハ上に、MOVPE装置により、合計厚さ1μmのAlGaAs
層を含む数種類のエピタキシャル層をエピタキシャル成長させた。その後、実施例1と同
じ条件でウェハアニール処理を実施した。ウェハアニール処理後のGaAsウェハを目視
にてスリップの発生有無を観察したところ、スリップの発生は認められなかった(20枚
中0枚)。
【0054】
<比較例>
比較例では、GaAs単結晶の成長工程で、原料中に硫黄粉末を添加しなかった。その
他は、上述の実施例1と同じ条件でGaAs単結晶を成長させて、25本のGaAs単結
晶を作製した。この時、GaAs単結晶の硫黄原子濃度は2×1013cm−3(検出下
限界)以上4×1014cm−3以下であった。従って、グラファイト部材から発生した
硫黄が原料中に取り込まれたものと考えられる。得られたGaAs単結晶をスライス加工
して得たGaAsウェハは、全てのウェハでユニバーサル硬度が3850N/mm〜4
100N/mmであった。
【0055】
これらのGaAsウェハ上に、MOVPE装置により、合計厚さ1μmのAlGaAs
層を含む数種類のエピタキシャル層をエピタキシャル成長させた。その後、実施例1と同
じ条件でウェハアニール処理を実施した。ウェハアニール処理後のGaAsウェハを目視
にてスリップの発生有無を観察したところ、スリップの発生が認められた(100枚中1
3枚)。スリップの発生したウェハは、全てのウェハでユニバーサル硬度が4000N/
mm未満であった。
【0056】
以上の実施例の試作結果を図2に示し、比較例の試作結果を図3に示す。上記の実施例
及び比較例の試作結果から、LEC法によりGaAsウェハを製造する場合は、GaAs
単結晶の成長工程で、GaAs単結晶の硫黄原子濃度が一様に2×1014cm−3以上
となるように原料中に硫黄を添加することが適切であると確認され、これによりGaAs
ウェハ表面のユニバーサル硬度が一様に4000N/mm以上となることが確認された

【符号の説明】
【0057】
1 固液界面
2 種結晶
3 GaAs単結晶
4 ルツボ
5 原料融液
6 液体封止剤
7 雰囲気ガス
8 高圧容器
9 引上げ軸
10 サセプタ
11 ペデスタル
12 上部ヒータ
13 下部ヒータ
14 熱電対
20 GaAsウェハ
21 エピタキシャル層
22 エピタキシャルウェハ
23 スリップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫黄原子濃度が面内で一様に2×1014cm−3以上であることを特徴とするGaA
sウェハ。
【請求項2】
前記硫黄原子濃度が面内で一様に2×1014cm−3以上10×1016cm−3
満であることを特徴とする請求項1に記載のGaAsウェハ。
【請求項3】
ユニバーサル硬度が面内で一様に4000N/mm以上であることを特徴とする請求
項1又は2に記載のGaAsウェハ。
【請求項4】
前記GaAsウェハは円形に形成され、前記GaAsウェハの外径が100mm以上で
あることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載のGaAsウェハ。
【請求項5】
原料および封止剤を収納したルツボを加熱し、前記ルツボ内の液体封止剤で覆われた原
料融液に種結晶を接触させた後に前記種結晶を徐々に引き上げて、一定の外径を有するよ
うにGaAs単結晶を成長する成長工程と、前記成長工程で得られた前記GaAs単結晶
をスライスしてGaAsウェハを作製するウェハ作製工程とを有するGaAsウェハの製
造方法において、
前記成長工程では、該成長工程で得られる前記GaAs単結晶中の硫黄原子濃度が一様
に2×1014cm−3以上となるように、前記原料中に硫黄を添加することを特徴とす
るGaAsウェハの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−95634(P2013−95634A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−239964(P2011−239964)
【出願日】平成23年11月1日(2011.11.1)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】