説明

GaN系LED素子

【課題】GaN系半導体膜に形成された粗化面を有するGaN系LED素子において、電極として形成される金属膜の光吸収に基づく損失を低減するための素子構造を提供する。
【解決手段】上面が粗化された第一型導電層123と、該第一型導電層の下面側に配置された発光層122と、該第一型導電層とで該発光層を挟むように配置された第二型導電層121と、を含む積層部120を備えたGaN系半導体膜に、少なくとも該第一型導電層の一部を除去することによって平坦化領域123Bが形成され、TCO膜からなる透光性電極140が該平坦化領域上から上記積層部上にかけて連続するように設けられており、該平坦化領域の上方には、該透光性電極に接続された電極金属膜150と、上記発光層で生じる光に対して該電極金属膜よりも高い反射率を有する反射金属膜130とが、該透光性電極を挟んで対向するように配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、GaN系半導体膜に粗化面(textured surface)を有するGaN系LED(発光ダイオード)素子に関する。
【背景技術】
【0002】
GaN系半導体は、一般式AlInGa1−a−bN(0≦a≦1、0≦b≦1、0≦a+b≦1)で表される化合物半導体であり、3族窒化物半導体、窒化物系半導体などとも呼ばれる。n型導電層とp型導電層とこれらの層の間に挟まれた発光層とからなるダブルヘテロpn接合型の発光構造を、GaN系半導体を用いて形成してなるGaN系LED素子は、近紫外〜緑の波長域の光を発生させることができる。GaN系LED素子と蛍光体とを組み合わせて構成した白色発光装置が、液晶ディスプレイのバックライトユニット用光源や室内照明用光源として実用化されている。
【0003】
一般的なGaN系LED素子は、サファイア基板上にMOVPE法によりGaN系半導体膜をエピタキシャル成長させる工程を経て製造される。この工程では、サファイア基板上にバッファ層を介してn型導電層が形成され、そのn型導電層の上に発光層とp型導電層が順次形成される。このp型導電層を800℃程度の温度で成長させると、多数のピットが形成された粗化面(textured surface)が形成される(非特許文献1)。
【0004】
非特許文献2には、透明導電性酸化物(TCO:Transparent Conductive Oxide)であるITO(インジウム錫酸化物)からなる透光性電極をp型導電層上に有するGaN系LED素子において、低温成長によりp型導電層に粗化面を形成したときの方が、p型導電層の上面が鏡面の場合よりもフリップチップ実装時の出力が高くなったことが報告されている。このことは、粗化面の光散乱作用が光取出し効率の改善効果をもたらしていることを示唆している。かかる粗化面を有するGaN系半導体膜の透明性が低いのは、光を強く散乱していることの現れであると解される。
【0005】
非特許文献3のFig.1に示された電子顕微鏡像によれば、低温で成長されたGaN系半導体の粗化面上に形成されたITO膜は、膜厚が不均一であり、その表面平滑性は極めて悪い。
特許文献1には、低温成長によりGaN系半導体膜に形成された粗化面を、エッチバック法によって部分的に平坦化する方法が開示されている。エッチバック法とは、簡単に説明すれば、粗い半導体表面を、該表面の起伏を完全に埋め込むマスク層で被覆したうえで、該マスク層と該半導体のエッチング速度が同等となる条件を用いて該マスク層の表面側から該マスク層が完全に除去されるまでエッチングを行うことによって、平坦な半導体表面を露出させるという平坦化方法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−196692号公報
【特許文献2】国際公開WO2010/150809号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】L.W. Wu et al., Solid-State Electronics, 47, 2027 (2003)
【非特許文献2】Chia-En Lee et al., IEEE Photonics Technology Letters, 20, 659 (2008)
【非特許文献3】Yi-Jung Liu et al., Electrochemical and Solid-State Letters, 13, H406 (2010)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
非特許文献2に開示されたGaN系LED素子では、p型導電層の粗化面上にITO膜が形成され、そのITO膜の表面に金属製のボンディングパッドが形成されている。このボンディングパッドの裏面は、下地であるp型導電層およびITO膜の表面形状を反映することから、平滑性が極めて悪く、その反射率は著しく低い。反射率の低い金属表面は入射する光の多くの部分を吸収して熱に変換するので、LED素子の発光効率を大きく低下させる。
【0009】
非特許文献2の例に限らず、光取出し効率の改善の目的でGaN系半導体膜に粗化面を設ける試みの多くにおいて、粗化面上に電極金属膜が形成されている。しかし、かかる金属膜の光吸収が問題点として取り上げられることは、これまでなかったように思われる。本発明は、かかる事情に鑑みなされたものであり、低温成長などの方法でGaN系半導体膜に形成された粗化面を有するGaN系LED素子において、電極として形成される金属膜の光吸収に基づく損失を低減するための素子構造を提供することを主たる目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明によれば、次に挙げるGaN系LED素子が提供される。
(1)上面が粗化された第一型導電層と、該第一型導電層の下面側に配置された発光層と、該第一型導電層とで該発光層を挟むように配置された第二型導電層と、を含む積層部を備えたGaN系半導体膜に、少なくとも該第一型導電層の一部を除去することによって平坦化領域が形成され、TCO膜からなる透光性電極が該平坦化領域上から上記積層部上にかけて連続するように設けられており、該平坦化領域の上方には、該透光性電極に接続された電極金属膜と、上記発光層で生じる光に対して該電極金属膜よりも高い反射率を有する反射金属膜とが、該透光性電極を挟んで対向するように配置されているGaN系LED素子。
(2)前記発光層の上面に対する前記電極金属膜の正射影が、該上面に対する前記反射金属膜の正射影に包含される、前記(1)に記載のGaN系LED素子。
(3)前記反射金属膜がアルミニウムまたは銀からなる反射面を有する、前記(1)または(2)に記載のGaN系LED素子。
(4)前記反射金属膜と前記GaN系半導体膜との間に挟まれた誘電体反射膜を有する、前記(1)〜(3)のいずれかに記載のGaN系LED素子。
(5)前記透光性電極が開口部を有し、該開口部を通して前記反射金属膜と前記電極金属膜とが接している、前記(1)〜(4)のいずれかに記載のGaN系LED素子。
(6)前記平坦化領域が前記第一型導電層の表面に形成されている、前記(1)〜(5)のいずれかに記載のGaN系LED素子。
(7)前記第一型導電層がp型導電層であり、前記第二型導電層がn型導電層である、前記(1)〜(6)のいずれかに記載のGaN系LED素子。
(8)前記第一型導電層がn型導電層であり、前記第二型導電層がp型導電層である、前記(1)〜(6)のいずれかに記載のGaN系LED素子。
【発明の効果】
【0011】
本発明の実施形態に係る上記各GaN系LED素子では、第一型導電層の粗化された上面の作用により光取出し効率が良好となっており、さらに、発光層で生じる光に対する反射率が電極金属膜よりも高い反射金属膜が、少なくとも該第一導電型層の一部を除去することにより形成された平坦化領域上に形成されて、その上方に配置された該電極金属膜への該光の入射を妨げているので、該電極金属膜の光吸収に基づく損失が低減されている。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施形態に係るGaN系LED素子の構造を示しており、図1(a)は平面図、図1(b)は図1(a)のX−X線の位置における断面図である。
【図2】図1に示すGaN系LED素子に含まれる電極金属膜のみを表示する上面図である。
【図3】平坦化領域を形成する方法を説明するための工程断面図である。
【図4】平坦化領域を形成する方法を説明するための工程断面図である。
【図5】好適な実施形態における、発光層の上面に対する反射金属膜の正射影と電極金属膜の正射影との関係を説明するための図である。
【図6】実施形態に係るGaN系LED素子の断面図である。
【図7】反射金属膜の断面図である。
【図8】実施形態に係るGaN系LED素子の断面図である。
【図9】実施形態に係るGaN系LED素子の断面図である。
【図10】実施形態に係るGaN系LED素子の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
実施形態に係るGaN系LED素子100の構造を図1に示す。図1(a)は平面図であり、図1(b)は図1(a)のX−X線の位置における断面図である。GaN系LED素子100は、透光性基板110上に積層されたGaN系半導体膜を有している。このGaN系半導体膜は、透光性基板110側からn型導電層121、発光層122およびp型導電層123が順次積層された積層部120を含んでいる。積層部120の最上部に設けられたp型導電層123の上面には、粗化領域123Aと、該p型導電層123の一部が除去されることにより形成された平坦化領域123Bとが設けられている。図1(a)では平坦化領域123Bの外縁を破線で表示している。粗化領域123Aにおいては、図1中の拡大図に示すように、断面がV字型を呈するピットがp型導電層123の表面に高密度に形成されている。
【0014】
積層部120上には、p型導電層123の平坦化領域123Bに形成された反射金属膜130を挟んで、TCO膜からなる透光性電極140が形成されている。そして、該透光性電極140上の一部には電極金属膜150が、該透光性電極140を挟んで反射金属膜130と対向するように形成されている。反射金属膜130は、平坦化領域123B上に形成されているので、その裏面は比較的平坦である。反射金属膜130は電極金属膜150よりも発光層122で生じる光に対する反射率が高くなるように、その材料が選択されている。反射金属膜130と電極金属膜150とが対向するよう配置されているので、反射金属膜130によって、発光層122で生じる光の電極金属膜150の裏面への入射が効果的に防止されている。
【0015】
積層部120に隣接して、n型導電層121の露出面であるn側電極形成面121Aが設けられている。このn側電極形成面121A上にはn側電極160が形成されている。n側電極160は金属膜のみからなるものであってもよいし、n型導電層121とオーミック接触するTCO膜とその上に積層された金属膜とからなる積層体であってもよい。GaN系LED素子では注入電流の増加とともに発光効率が減少する現象(ドループ現象)が不可避的に生じることを考慮すると、n側電極形成面121Aの面積をn側電極160の形成に必要な最小限度に抑えて、発光構造が含まれる部位である積層部120の面積をできるだけ大きくすることが好ましい。
【0016】
素子の周縁領域には、n側電極形成面121Aと連続するn型導電層121の露出面である溝底121Bが、積層部120を取り囲むように設けられている。この溝底121Bは、ウェハサイズの基板を用いてGaN系半導体素子100を製造する過程で、素子分離
のためにGaN系半導体膜に形成された溝の底面にあたる。n側電極形成面121Aと溝底121Bとが連続する構成は必須ではなく、これらは離れていてもよい。
【0017】
図2は電極金属膜150のみを抜き出して表示した上面図である。電極金属膜150は、ボンディングパッド部151と、該ボンディングパッド部から延びる延長部152とを有している。ボンディングパッド部151は、ボンディングワイヤあるいは導電性接合材を接合するための部位である。導電性接合材が使用されるのはフリップチップ実装の場合であり、ハンダ、銀ペースト、金属バンプなどが導電性接合材の具体例として挙げられる。延長部152は電流を発光層122に平行な方向に効率よく広げるために設けられており、発光層122で生じる光をできるだけ吸収または遮蔽しないように、細長い形状とされている。図1(a)に示すように、GaN系LED素子100では、n側電極160もボンディングパッド部と延長部とを有している。電極金属膜150やn側電極160に設けるボンディングパッド部の平面形状は矩形に限定されるものではなく、円形、楕円形などであってもよい。
【0018】
電極金属膜および/またはn側電極にボンディングパッド部と延長部を設ける構成は、サイズの大きなGaN系LED素子において特に有用である。GaN系LED素子の形状およびサイズ、ならびにボンディングパッド部の配置に応じて、ひとつのボンディングパッド部から延びる延長部の数は1本にすることもできるし、3本以上とすることもできる。また、延長部が途中で枝分かれする構成や、異なるボンディングパッド部から延びる延長部同士が繋がっている構成なども、適宜採用することができる。なお電極金属膜およびn側電極のいずれも、ボンディングパッド部を有することが必須であるが、延長部を有することは必須ではない。
【0019】
GaN系LED素子100は次に説明する手順により製造することができる。
まず、GaN系半導体のエピタキシャル成長に使用可能なウェハサイズ(例えば、直径2インチ)の透光性基板110を準備する。例えば、サファイア、スピネル、炭化ケイ素、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、GaN、AlGaN、AlN、NGO(NdGaO)、LGO(LiGaO)、LAO(LaAlO)などからなる単結晶基板が使用可能である。サファイア基板は好ましい透光性基板のひとつであるが、中でも、GaN系半導体を成長させるべき表面に、光散乱を発生させるための凸部または凹部がエッチング加工により形成されたPSS(Patterned Sapphire Substrate)は、特に好適である。そのPSSの中でも特に好適なのは、凸部が円錐状または半球状に形成されたものである。
【0020】
次に、準備した透光性基板110上に、気相エピタキシャル成長法によってn型導電層121、発光層122、p型導電層123を順次成長させる。エピタキシャル成長法としては、MOVPE法、HVPE法、MBE法、スパッタリング法、反応性スパッタ法、その他の公知の方法を適宜用いることができる。サファイア基板のようにGaN系半導体との格子定数差の大きな透光性基板を用いる場合には、透光性基板110上にバッファ層を形成してからn型導電層121を成長させる。
【0021】
GaN系半導体にn型導電性またはp型導電性を付与するために添加することのできる不純物の種類については、公知技術を参照することができる。n型導電層121は、好ましくは、Si(ケイ素)を3×1018〜5×1019cm−3の濃度で添加したAlGa1−xN(0≦x≦0.05)で、2〜6μmの厚さに形成する。発光層122は、好ましくは、InGa1−xN(0<x)井戸層とInGa1−yN(0≦y<x)障壁層とを交互に積層した多重量子井戸層とする。井戸層および障壁層のそれぞれに添加することのできる不純物の種類および濃度については、公知技術を参照することができる。p型導電層123は、好ましくは、Mg(マグネシウム)を5×1019〜1×1021cm−3の濃度で添加したAlGa1−xN(0≦x≦0.05)で、0.3〜2μ
mの厚さに形成する。p型導電層の膜厚が小さ過ぎる場合、その上面を粗化しても十分な光散乱作用を発生させることができないので注意を要する。
【0022】
透光性基板110とn型導電層121の間、n型導電層121と発光層122の間、発光層122とp型導電層123の間には、公知技術を参照して、様々な機能を有するGaN系半導体層を挿入することができる。例えば、欠陥低減層、歪緩和層、キャリアブロック層などである。挿入するGaN系半導体層は、超格子のように多層構造を有するものであってもよい。
【0023】
p型導電層123の上面を粗化する方法は特に限定されない。MOVPE法を用いる場合、p型導電層123の成長温度を700〜900℃とすることによって、上面にピットを発生させることができる。好ましくは深さ0.3μm以上、より好ましくは深さ0.4μm以上のピットが形成されるように、p型導電層123の膜厚および成長条件を設定する。ピットの発生には貫通転位が関与していることから、p型導電層123の上面に好ましいサイズのピットを高密度に発生させるためには、貫通転位が約10/cmの密度で生じるよう、サファイア基板のようなGaN系半導体との間にある程度の格子定数差を有する透光性基板を用いることが好ましい。GaN基板のような窒化物半導体基板を用いる場合には、基板とp型導電層の間に、貫通転位密度を増加させる機能を有する層を設けることが好ましい。かかる機能を有する層については、特許文献2を参照することができる。
1000℃以上の成長温度で上面が平坦となるようにp型導電層123を形成した後、ナノマスクを用いたエッチングによって該上面を粗化することもできる。かかる技術については公知文献を適宜参照することができる。
【0024】
次に、p型導電層123からその表層部の一部をドライエッチングによって除去することにより、その上面に平坦化領域123Bを形成する。この工程では、前述のエッチバック法を用いる。具体的には、まず、図3(a)に示すようにp型導電層123の粗化された上面全体に保護膜Pを形成する。保護膜Pは、金属あるいはSiOのような酸化物で形成することができる。次に、通常のフォトリソグラフィ技法を用いて、図3(b)に示すように、形成すべき平坦化領域の形状に応じた開口部を保護膜Pに形成する。開口部形成後、図3(c)に示すように、起伏を平坦に埋め込むマスク層Qでウェハ上面を覆う。マスク層Qはフォトレジストを用いて形成することができる。
【0025】
次に、マスク層Qの上からウェハをドライエッチする。このとき、保護膜Pのエッチング速度がマスク層Qのエッチング速度よりも小さくなるように、かつ、マスク層QとGaN系半導体(p型導電層123)のエッチング速度が同等となるように、ドライエッチング条件を設定する。かかる条件を用いると、図4(d)に示すように、保護膜Pが形成された領域では、保護膜Pが露出したところでエッチングが止まる。一方、保護膜Pに開口部が形成された領域では、マスク層Qとp型導電層123とが同じ速度でエッチングされる結果、図4(e)に示すように、マスク層Qが完全に除去された時点で、p型導電層123の露出面が平坦となる。その後、図4(f)に示すように、適当なエッチャントを用いて保護膜Pを除去する。以上の手順により、平坦化領域123Bを所望の平面形状に形成することができる。
【0026】
平坦化領域123Bの形成後、該平坦化領域上に反射金属膜130を形成する。反射金属膜130の厚さは、50nm〜1μmとすることができる。反射金属膜130は平坦化領域123Bからはみ出さないように形成することが重要である。反射金属膜130が粗化領域123A上にはみ出した場合、そのはみ出した部分では、その反射面の平滑性の悪化によって反射率が著しく低下するためである。
【0027】
反射金属膜130は、その裏面側(p型導電層123側)に入射する光を反射させる反射面を、発光層122で生じる光に対する反射率の高い金属で形成する。GaN系LED素子の典型的な発光波長は360〜500nmであることから、好ましい金属としては、Al(アルミニウム)、Ag(銀)、Rh(ロジウム)、Pt(白金)、Pd(パラジウム)などが例示される。中でも特に好ましいのはAlとAgである。Alからなる反射面は、Al単体を用いて形成することができる他、耐熱性その他を改善するために、Ti、Nd(ネオジム)、Si(ケイ素)、Cu(銅)、Mg(マグネシウム)、Mn(マンガン)、Crなどの元素を添加したAl合金を用いて形成することができる。Agからなる反射面は、Ag単体を用いて形成することができる他、耐熱性、化学的安定性その他の改善やマイグレーション防止のために、Cu、Au(金)、Pd、Nd、Si、Ir、Ni、W、Zn(亜鉛)、Ga(ガリウム)、Ti、Mg、Y(イットリウム)、In(インジウム)、Sn(スズ)などの元素を添加したAg合金を用いて形成することができる。
【0028】
反射金属膜130の形成後、該反射金属膜を間に挟んで、p型導電層123上の略全面を覆う透光性電極140を形成する。透光性電極140の材料には、ITO、IZO(インジウム亜鉛酸化物)などの酸化インジウムベースのTCO、AZO(アルミニウム亜鉛酸化物)、GZO(ガリウム亜鉛酸化物)などの酸化亜鉛ベースのTCO、FTO(フッ素ドープ酸化錫)などの酸化錫ベースのTCOを好ましく用いることができる。透光性電極140の形成方法に限定はなく、スパッタ法、反応性スパッタ法、真空蒸着法、イオンビームアシスト蒸着法、イオンプレーティング法、レーザアブレーション法、CVD法、スプレー法、スピンコート法、ディップ法など、公知の方法を適宜用いることができる。気相法を用いる場合は、平坦面上に成膜した場合の膜厚が0.1〜0.5μm、好ましくは0.15〜0.25μmとなるように、成膜条件およびデポジション時間を設定することができる。粗化面上に気相法で形成されるTCO膜は、厚さの不均一性が大きくなる傾向がある。
【0029】
透光性電極141は、サブトラクティブな方法とアディティブな方法(リフトオフ法)のいずれによってパターニングしてもよい。パターニングの前または後に熱処理を行うことによって、透光性電極141の電気特性、接触抵抗、透明性などが改善される場合がある。メカニズムは明らかでないが、透光性電極141をITOで形成する場合には、窒素雰囲気中、500〜600℃(好ましくは540〜580℃)で10〜20分間の熱処理を行うことにより、GaN系LED素子100の出力を改善することができる。
【0030】
透光性電極140の形成後、電極金属膜150を形成する。電極金属膜150の厚さは、0.2〜2μmとすることができる。電極金属膜150は、透光性電極140と接する部分を、TCOに対する密着性の良好な金属で形成することが好ましい。かかる金属としては、Cr(クロム)、Ti(チタン)、Ni(ニッケル)、W(タングステン)、Zr(ジルコニウム)などの単体や、これらの金属元素を含む合金が例示される。Cr、Ti、Ni、WおよびZrは、GaN系LED素子100が発する360〜500nmという波長の光に対する反射率が低いが、反射金属膜140によって電極金属膜150の裏面への該光の入射が妨げられているので、これらの金属を電極金属膜150に用いることに起因する発光効率の低下は小さい。電極金属膜150の表層部分はAu、Ptなどで形成できる他、ボンディングに使用されることが予定されているハンダに成分として含まれる金属を用いて形成することができる。
【0031】
反射金属膜130および電極金属膜150の平面形状と面積は同一としてもよいが、その場合、製造工程で両者の平面配置が僅かにずれただけで、反射金属膜130の効果が著しく低下する。そこで、図5に示すように、発光層122の上面に対する反射金属膜130の正射影が、電極金属膜150の正射影を包含するように、反射金属膜130の面積を電極金属膜142よりもやや大きくすることが望ましい。例えば、反射金属膜130の面
積を電極金属膜150の面積の120〜150%とすることができる。
【0032】
次に、GaN系半導体膜からドライエッチングによってp型導電層123および発光層122を部分的に除去することにより、n側電極形成面121Aを形成する。この工程で前述のエッチバック法を用いることにより、n側電極形成面121Aの全域を平坦面とすることができる。エッチバック法を用いない場合、n側電極形成面121Aは、p型導電層の粗化領域123Aと類似した表面形状を呈することになる。
【0033】
n側電極形成面121A上に設けるn側電極160は、少なくともn型導電層121に接する部分を、n型GaN系半導体と良好なオーミック接触を形成する材料で形成する。かかる材料として、Al(アルミニウム)、Ti(チタン)、W(タングステン)、Ni(ニッケル)、Cr(クロム)もしくはV(バナジウム)の単体、または、これらから選ばれる1種以上の金属を含む合金が挙げられる。中でも、350〜500nmの波長域における反射率が高いことから、AlおよびAl合金は特に好ましい材料である。Al合金としては、Ti、Nd(ネオジム)、Si(ケイ素)、Cu(銅)、Mg(マグネシウム)、Mn(マンガン)、Crなどの添加元素を含むものが例示される。n側電極130は、n型導電層121に接する部分にTCO膜、すなわち、酸化インジウム、ITO、IZO、酸化亜鉛、AZO、GZO、酸化錫、FTOなどからなる透光性膜を有していてもよい。
【0034】
n側電極130の表層部分は金属で形成する。ボンディングワイヤとして多用されるAuワイヤのボンダビリティを高くするには、n側電極130の表層部分をAuで形成することが好ましい。該表層部分をAu、Ptのような酸化し難い金属で形成した場合には、ハンダによる濡れ性が良好となる。該表層部分は、ボンディングに使用されることが予定されているハンダに成分として含まれる金属を用いて形成してもよい。該表層部分に用ける金属層と、その下方に設ける金属層との間には、これらの層の間で所望しない合金化反応が生じることのないように、高融点金属からなるバリア層を設けることができる。
【0035】
通常は、ウェハを分断してGaN系LED素子100をチップ(ダイともいう)にするダイシング工程の前に、ウェハ上の各素子を電気的に分離させる。具体的には、各LED素子が有する積層部120が電気的に孤立するように、エッチングによってGaN系半導体膜にn型導電層121に達する素子分離溝を形成する。ダイシング工程ではこの素子分離溝の位置でウェハを分割するので、結果として、チップ化されたGaN系LED素子100は、周縁部にこの素子分離溝の底部であった溝底121Bを有することになる。素子分離溝の形成工程は、n側電極形成面121Aを形成する工程と同時であってもよいし、別途の工程であってもよい。好適例では、n側電極形成面121Aはエッチバック法を用いて平坦に形成し、素子分離溝は溝底121Bが粗面となるように別途工程で形成することができる。溝底121Bを粗面とすることにより、GaN系LED素子100の光取出し効率が改善される。
【0036】
ダイシング工程の前に、素子分離工程で露出した発光層122の端面や、薄いTCO膜からなる透光性電極140の表面を保護するために、電極金属膜150およびn側電極160の表面を除くウェハの表面を覆うパッシベーション膜を形成することが好ましい。パッシベーション膜は、酸化ケイ素、窒化ケイ素、酸窒化ケイ素、PSG(Phospho−Silicate−Glass)、BPSG(Boro−Phospho−Silicate−Glass)、スピンオングラスなどで形成することができる。
【0037】
ダイシング工程では、ウェハを分断する前に、透光性基板110の裏面にグラインディング加工またはラッピング加工を行い、その膜厚を低減させてもよい。LEDチップはダイシングブレードを備えたダイサーを用いてウェハから切り出してもよいし、あるいは、
ダイヤモンペンでウェハ表面にスクライブ線を形成し、このスクライブ線を起点にしてウェハを割ってチップにしてもよい。スクライブ線の代わりに、レーザ加工によりウェハ表面に形成した溝、あるいは、ウェハ内部に形成した改質領域を起点として、ウェハを割ることも可能である。
【0038】
上記の手順で得たGaN系LED素子100を実装するときには、LEDチップを固定すべき部材に対し、当該LEDチップが透光性基板110側の面を向けるように固定してもよいし、その反対に、LEDチップを固定すべき部材に対し、当該LEDチップがGaN系半導体膜側の面を向けるように固定してもよい(フリップチップ実装)。フリップチップ実装する場合には、固定用部材にLEDチップを固定した後で、レーザリフトオフ技法を用いてGaN系半導体膜から透光性基板110を分離させることができる。
【0039】
以上に説明したGaN系LED素子100の製造手順は一例であり、いくつかの工程については順序を入れ換えることができる。例えば、n側電極形成面121Aを形成する工程は、平坦化領域123Bを形成する工程の前に行っても構わない。また、n側電極160の最下層をTCO膜で形成する場合、このTCO膜と透光性電極140とは同一の材料を用いて、同時に形成することができる。あるいは、電極金属膜150と、n側電極160に含まれる金属層とを、同一の材料を用いて同時に形成することができる。
【0040】
次に、変形例について説明する。
一例では、図6に示すように、反射金属膜130とp型導電層123との間に誘電体反射膜170を設けることができる。金属表面での反射に伴う損失は一般に誘電体ミラーの反射損失よりも大きいので、できるだけ多くの光を反射金属膜130に到達する前に誘電体反射膜170によって反射させることが望ましい。
【0041】
誘電体反射膜170の一例は、p型導電層123との界面で全反射を発生させる低屈折率膜である。この低屈折率膜はp型導電層123よりも低い屈折率を有する誘電体、例えば、フッ化マグネシウム、フッ化リチウムのような金属フッ化物、酸化ケイ素、酸化マグネシウム、スピネル、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウムのような金属酸化物、PSG、BPSG、スピンオングラスのようなガラス系材料を用いて形成することができる。好ましくは、低屈折率膜の膜厚は垂直入射光に対して高反射条件が成立するように、すなわち、発光層122で生じる光の波長の(2n−1)/4倍(nは自然数)となるように設定する。
【0042】
誘電体反射膜170の他の一例は、ブラッグ反射膜である。この反射膜はDBR、誘電体多層膜ミラーなどとも呼ばれるものであり、特定波長の垂直入射光を100%に近い反射率で反射させることができる。よく知られているように、多層膜を構成する各層の膜厚を適切に設計することによって、上記特定波長を発光層122で生じる光の波長に合わせることが可能である。誘電体反射膜170を、p型導電性層123の直上に形成される低屈折率膜と、その上に積層されるブラッグ反射膜とから構成することもできる。この場合、大きな入射角で入射する光は低屈折率膜による全反射を受け、小さな入射角で入射する光はブラッグ反射膜で反射されることになる。
【0043】
誘電体反射膜170には、p型導電層123と反射金属膜130との間を確実に絶縁する働きもある。p型導電層123と反射金属膜130との間を確実に絶縁することにより、反射金属膜130の直下における発光層122での発光を確実に抑制することができる。反射金属膜130の直下で生じる光は、他の領域で生じる光と比べて反射金属膜130による遮蔽または吸収を強く受けることから、これを発生させないようにした方がGaN系LED素子100の発光効率を高めるうえで好ましいのである。
【0044】
反射金属膜130と透光性電極140との間で所望しない化学反応が生じ、そのために反射金属膜130の反射率が低下することを防ぐために、図3に示すように、反射金属膜130を反射面形成層131およびバリア層132を含む積層膜とすることができる。ここで、反射面形成層131は、好ましくはAl、Agなどで形成される。バリア層132は反射面形成層131に対して透光性電極140側に形成される層であり、Cr、Ti、Ni、W、Zrなどの単体や合金を用いて形成することができる。同様の目的のために、反射金属膜130と透光性電極140との間に、シリカなどの不活性な酸化物からなる薄膜を挿入することもできる。
【0045】
前述のように、電極金属膜150はボンディングパッド部を有する。該部位にボンディングワイヤが接合される際に与えられる強いストレスに耐え得るように、電極金属膜150はp型導電層123に対し強固に固定されていなくてはならない。また、GaN系LED素子100がフリップチップ実装される場合には、電極金属膜150に対して、導電材であると同時に機械的保持部材である接合材(例えば、ハンダ)が接合されるので、やはり、p型導電層123と電極金属膜150との間の結合は強固でなくてはならない。
【0046】
そこで、一例では、図8に示すように、反射金属膜130上の透光性電極140に貫通孔を設け、この貫通孔を通して反射金属膜130と電極金属膜150とを直に接合させる。それによって、p型導電層123と電極金属膜150との間に存在する異種材料間の界面の数が減少するので、両者間の結合強度が改善される。
図9に示す例では、エッチバック法を用いることによって、n型導電層121に平坦化露出面121Bを形成し、その上に反射金属膜130と電極金属膜150とが、透光性電極140を挟んで対向する構造を形成している。誘電体反射膜170が平坦化露出面121B上から積層部120の端面上に連続するように形成されており、それによって、平坦化露出面121Bに臨むn型導電層121および発光層122の端面と、透光性電極140との間が絶縁されている。この構造によれば、反射金属膜130の下方に発光層122が存在しないために、発光効率が改善される。
【0047】
図10に示すGaN系LED素子200では、p型導電層223、発光層222およびn型導電層221が順次積層された積層部220を含むGaN系半導体膜が、n型導電層221の発光層222側とは反対側の表面に、粗化領域221Aと平坦化領域221Bとを有している。そして、積層部220上には、n型導電層221の平坦化領域221Bに形成された反射金属膜230を挟んで、TCO膜からなる透光性電極240が形成されている。そして、該透光性電極膜240上の一部には電極金属膜250が、該透光性電極240を挟んで反射金属膜230と対向するように形成されている。反射金属膜230は、平坦化領域221B上に形成されているので、その裏面は比較的平坦である。反射金属膜230は電極金属膜250よりも発光層222で生じる光に対する反射率が高くなるように、その材料が選択されている。反射金属膜230と電極金属膜250とが対向するよう配置されているので、反射金属膜230によって、発光層222で生じる光の電極金属膜250の裏面への入射が効果的に防止されている。
【符号の説明】
【0048】
100 GaN系LED素子
110 透光性基板
120 積層体
121 n型導電層
121A n側電極形成面
121B 溝底
122 発光層
123 p型導電層
130 n側電極
131 反射面形成層
132 バリア層
140 透光性電極
150 電極金属膜
151 ボンディングパッド部
152 延長部
160 n側電極
170 誘電体反射膜
P 保護膜
Q マスク層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上面が粗化された第一型導電層と、該第一型導電層の下面側に配置された発光層と、該第一型導電層とで該発光層を挟むように配置された第二型導電層と、を含む積層部を備えたGaN系半導体膜に、少なくとも該第一型導電層の一部を除去することによって平坦化領域が形成され、TCO膜からなる透光性電極が該平坦化領域上から上記積層部上にかけて連続するように設けられており、該平坦化領域の上方には、該透光性電極に接続された電極金属膜と、上記発光層で生じる光に対して該電極金属膜よりも高い反射率を有する反射金属膜とが、該透光性電極を挟んで対向するように配置されているGaN系LED素子。
【請求項2】
前記発光層の上面に対する前記電極金属膜の正射影が、該上面に対する前記反射金属膜の正射影に包含される、請求項1に記載のGaN系LED素子。
【請求項3】
前記反射金属膜がアルミニウムまたは銀からなる反射面を有する、請求項1または2に記載のGaN系LED素子。
【請求項4】
前記反射金属膜と前記GaN系半導体膜との間に挟まれた誘電体反射膜を有する、請求項1〜3のいずれか一項に記載のGaN系LED素子。
【請求項5】
前記透光性電極が開口部を有し、該開口部を通して前記反射金属膜と前記電極金属膜とが接している、請求項1〜5のいずれかに記載のGaN系LED素子。
【請求項6】
前記平坦化領域が前記第一型導電層の表面に形成されている、請求項1〜5のいずれか一項に記載のGaN系LED素子。
【請求項7】
前記第一型導電層がp型導電層であり、前記第二型導電層がn型導電層である、請求項1〜6のいずれか一項に記載のGaN系LED素子。
【請求項8】
前記第一型導電層がn型導電層であり、前記第二型導電層がp型導電層である、請求項1〜6のいずれか一項に記載のGaN系LED素子。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2012−178453(P2012−178453A)
【公開日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−40502(P2011−40502)
【出願日】平成23年2月25日(2011.2.25)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】