説明

HIF−1アルファのsiRNA阻害に関する組成物及び方法

【課題】転写調節因子HIF−1アルファの遺伝子発現を調節する、癌およびその他の血管新生疾患の治療薬の提供。
【解決手段】HIF−1アルファmRNAを標的とする約19個〜約25個のヌクレオチド長を有するセンスRNA鎖及びアンチセンスRNA鎖が二本鎖を形成する低分子干渉RNAを使用して、ヒトHIF−1アルファmRNAを分解し、血管新生、特に糖尿病性網膜症、加齢性黄斑変性、及び種々の癌腫等の疾患における血管新生を阻害する薬剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、2002年11月1日に出願された米国仮出願第60/423,262号明細書の利益を主張する。
【0002】
本発明は、転写調節因子HIF−1アルファのsiRNA誘導分解による遺伝子発現の調節に関するものである。特にVEGF分裂促進性経路における遺伝子を下方制御することができる。
【背景技術】
【0003】
新しい毛細血管の増殖として定義される、血管新生は、増殖及び発達において基本的な役割を果たす。成熟した人間には、全組織において血管新生反応を開始する能力は存在するが、厳密な調節下にある。血管新生における重要な調節因子は、血管内皮増殖因子("VEGF")であり、血管透過性因子("VPF")とも称される。
【0004】
VEGFは、例えば癌、糖尿病性網膜症、乾癬、加齢性黄斑変性、リウマチ性関節炎及び他の炎症性疾患等、異常血管新生により特徴付けられる疾患の、特定組織において異常な高レベルで発現する。従って、これらの組織におけるVEGF値を選択的に減少させる試薬が、癌およびその他の血管新生疾患の治療において使用され得る。
【0005】
低酸素誘導因子1(HIF−1)は、HIF−1アルファ及びHIF−1ベータサブユニットからなる、ヘテロ二量体ベーシック・ヘリックス・ループ・ヘリックス・PAS転写因子である。HIF−1アルファ発現及びHIF−1転写活性は、細胞酸素濃度が減少すると指数関数的に増加する。HIF−1によりトランス活性化される数ダースの標的遺伝子が同定されており、エリスロポイエチン、グルコース輸送体、解糖酵素、及びVEGFをコードする遺伝子が含まれる(非特許文献1を参照)。
【0006】
腫瘍細胞におけるp53欠失は、HIF−1アルファレベルを高め、低酸素に応じたVEGFのHIF−1依存性転写活性を増加させる。p53発現腫瘍細胞におけるHIF−1アルファの強制発現により、低酸素誘導VEGF発現は高まり、新生血管形成及び腫瘍異種移植片の増殖は増加する。これらの結果は、p53機能の欠失を介した低酸素に対する正常HIF−1依存反応の増幅は、腫瘍形成の間におけるスイッチとなることを示している(非特許文献2を参照)。
【0007】
RNA干渉("RNAi")は、多くの真核細胞生物中に保存された、転写後の遺伝子調節の方法である。RNAiは細胞中に存在する低分子(すなわち、<30ヌクレオチド)二本鎖RNA("dsRNA")により誘導される(非特許文献3を参照)。これらの低分子dsRNA(「低分子干渉RNA」又は「siRNA」と称する)は、1ヌクレオチド分解という精度で、該siRNAと配列相同性を共有するメッセンジャーRNAs("mRNAs")の破壊を引き起こす(非特許文献4を参照)。siRNAと標的mRNAは、RNA誘導サイレンシング複合体("RISC")に結合し、該RISCは標的mRNAを開裂させると考えられている。該siRNAは明らかにマルチプルターンオーバー酵素のように再利用され、siRNA1分子で約1000分子のmRNA開裂を誘導することができる。従って、siRNA媒介RNAiは、標的遺伝子の発現を阻害するために現在利用可能な他の技術よりもかなり効果的である。
【0008】
上掲のElbashir SMら(2001)は、21個及び22個のヌクレオチド長であり、3’オーバーハングを有する合成siRNAは、キイロショウジョウバエ細胞溶解液における標的mRNAのRNAiを誘導し得ることを示していた。培養された哺乳類細胞もまた合成siRNAを用いた場合にRNAiを示し(非特許文献5を参照)、合成siRNAにより誘導されたRNAiは、近年、生きたマウスにおいても観察された(非特許文献6および7を参照)。siRNA媒介RNAiの治療学的ポテンシャルは、近年におけるいくつかのin vitro研究により証明されており、それにはHIV−1感染のsiRNA調節阻害(非特許文献8を参照)及び神経毒性ポリグルタミン疾患タンパク質発現の減少(非特許文献7を参照)が含まれている。治療学的RNAiはまた、Alan Gewirtzによりヒト癌細胞に関して証明され、公開された米国特許出願番号第US 2002/0173478号明細書に記載されている。
【0009】
この度、HIF−1アルファのsiRNA誘導RNAiが、HIF−1アルファmRNAの分解、VEGF発現の随伴性現象、及び血管新生の阻害を生じることが見出された。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Semenza GL(1999)、Ann.Rev.Cell.Dev.Biol.15:551〜578
【非特許文献2】Ravi R. et al.(2000)、Genes Dev.14:34〜44
【非特許文献3】Fire et al.(1998)、Nature 391:806〜811
【非特許文献4】Elbashir SM et al.(2001)、GenesDev,15:188〜200
【非特許文献5】Elbashir SM et al.(2001)、Nature,411:494〜498
【非特許文献6】McCaffrey AP et al.(2002)、Nature,418:38〜39
【非特許文献7】Xia H et al.(2002)、Nat.Biotech.20:1006〜1010
【発明の概要】
【発明の効果】
【0011】
本発明は、ヒトHIF−1アルファ遺伝子からのmRNAを特異的に標的とし、該mRNAのRNAi誘導分解を引き起こすsiRNAに関するものである。本発明に係るsiRNA化合物及び組成物は、癌性腫瘍及び他の血管新生疾患、並びにVEGFが新生血管形成領域内又はその近傍組織に過剰発現する非病原性症状を治療するために使用される。
【0012】
従って、本発明により、HIF−1アルファmRNAを標的とし、該標的mRNAのRNAi媒介分解を誘導するsiRNA、及びその薬学的組成物が提供される。
【0013】
更に、本発明により、HIF−1アルファの発現を阻害する方法であって、HIF−1アルファmRNAを標的とする有効量のsiRNAを被験体に投与する工程を含み、その結果、HIF−1アルファmRNAが分解される方法が提供される。
【0014】
更に、本発明により、血管新生を阻害する方法であって、HIF−1アルファmRNAを標的とする有効量のsiRNAを被験体に投与する工程を含み、その結果、HIF−1アルファmRNAが分解され、VEGFの発現が阻害される方法が提供される。
【0015】
更に、本発明により、血管新生疾患の治療方法であって、HIF−1アルファmRNAを標的とする有効量のsiRNAを被験体に投与する工程を含み、その結果、HIF−1
アルファmRNAが分解され、VEGFの発現が阻害される方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、OD450ナノメーターにおいてVEGF ELISAにより測定されたVEGF濃度のヒストグラムであり、ここにおいて、siRNAなし("なし")で処置された非低酸素("−")培養HEK−293細胞中、siRNAなし("なし")、非特異的siRNA("EGFP")、又はヒトHIF−1アルファmRNAを標的とする20個の単離siRNA("hHIF1番号1−20")で各々処理された低酸素("+")培養HEK−293細胞中のVEGF濃度を示している。
【図2】図2は、細胞毒性を示すヒストグラムであり、ここにおいて、siRNAなし("なし")で処理された非低酸素("−")培養HEK−293細胞中、及びsiRNAなし("なし")、非特異的siRNA("EGFP")、又はヒトHIF−1アルファmRNAを標的とする20個の単離siRNA("hHIF1番号1−20")で各々処理された低酸素("+")培養HEK−293細胞中のVEGF濃度を示している。
【図3】図3は、mm2中の脈絡膜新生血管形成領域を示すヒストグラムであり、ここにおいて、対照マウス("対照")及び抗HIF−1アルファsiRNAで処理されたマウス("HIF−1 siRNA")からの眼中における形成領域を示している。
【発明を実施するための形態】
【0017】
HIF−1アルファmRNAを標的とするsiRNAを含有する組成物及び方法は、血管新生を阻害するため、特には血管新生疾患の治療において有利に使用される。本発明に係るsiRNAはHIF−1アルファmRNAのRNAi媒介破壊を誘導する。HIF−1アルファはVEGFの転写調節因子であり、本発明のsiRNAにより引き起こされるHIF−1アルファmRNAにおける減少は、VEGF産物における減少と相互関係を有する。VEGFは血管新生の開始及び維持に必要とされるため、HIF−1アルファのsiRNA媒介破壊は血管新生過程を遅延、停止、または逆反応にする。
【0018】
ここで、「HIF−1アルファmRNAを標的とする」siRNAとは、二本鎖の第1鎖がHIF−1 mRNA配列の一部と同じヌクレオチド配列を有するsiRNAを意味する。siRNA二本鎖の第2鎖は、siRNA二本鎖の第1鎖及びHIF−1アルファmRNAの同一部分の双方に相補的であることが理解される。
【0019】
従って、本発明により、約17個〜約29個のヌクレオチド長、好ましくは約19個〜約25個のヌクレオチド長を有する低分子二本鎖RNAを含有し、標的RNAを標的とする、単離siRNAが提供される。該siRNAは、標準ワトソン−クリック(Watson−Crick)塩基対相互作用(以下において「塩基対」という。)により共にアニールされたセンスRNA鎖及び相補的アンチセンスRNA鎖を含有する。以下において詳細に述べるとおり、該センス鎖は、標的mRNA内に含まれる標的配列と実質的に同一である核酸配列を含有する。
【0020】
ここで、標的mRNA内に含まれる標的配列と「実質的に同一」である核酸配列とは、標的配列と同一の核酸配列、あるいは標的配列と1個又は2個以上のヌクレオチドが異なる核酸配列である。標的配列と実質的に同一である核酸配列を含む本発明のセンス鎖は、かかるセンス鎖を含有するsiRNAが、標的配列を含むmRNAのRNAi媒介分解を誘導することで特徴付けられる。例えば、本発明に係るsiRNAには、標的配列と1個、2個又は3個以上のヌクレオチドが異なる核酸配列が含まれ、ここにおいて標的mRNAのRNAi媒介分解は該siRNAにより誘導される。
【0021】
本発明に係るsiRNAのセンス鎖及びアンチセンス鎖には、相補的な2個の一本鎖RNA分子、または二つの相補的部分が塩基対になり一本鎖「ヘアピン」領域により共有結合している1個の分子が含まれ得る。理論的にどのように結合しているか望むまでもなく、後者タイプのsiRNA分子のヘアピン領域は、"ダイサー(Dicer)"タンパク質(又はその相当物)により細胞内で開裂し、2個の、各々塩基対になっているRNA分子のsiRNAを形成する(前掲のTuschl,T.(2002)を参照)。以下に示すように、siRNAはまた、1個又はそれ以上のリボヌクレオチド塩基の変質、置換、又は修飾を含み得る。例えば、本siRNAは変質、置換又は修飾され、1個又はそれ以上のデオキシリボヌクレオチド塩基を含み得る。
【0022】
ここで用いられる「単離された」とは、人間の介入を通して、天然状態から変化又は取り除かれたことを意味する。例えば、生存する動物中に天然に存在するsiRNAは「単離」されていないが、合成siRNA、又はその天然状態で共存する物質から部分的に又は完全に分離されたsiRNAは「単離」されている。単離されたsiRNAは、実質的に精製された形態か、あるいは例えばその中にsiRNAが導入された細胞のような、非天然環境に存在し得る。
【0023】
ここで用いられる「標的mRNA」とは、ヒトHIF−1アルファmRNA、ヒトHIF−1アルファmRNAの変異体もしくは選択的スプライシング形態、または同族体HIF−1アルファ遺伝子からのmRNAを意味する。ヒトHIF−1アルファmRNA配列に対応するcDNA配列は配列番号1により与えられる。
【0024】
GenBankレコードアクッセション番号、NM_001530及びNM_181054(全開示内容はこの参照により本明細書に組み込まれる。)に記載されているように、ヒトHIF−1アルファの選択的スプライシング変異体は、HIF−1アルファ転写変異体1(配列ID番号2)及び2(配列ID番号3)を含み公知である。ヒトHIF−1アルファ遺伝子から転写されたmRNAは、当該分野で周知の技術を使用して更に別の選択的スプライシング形態が分析され得る。かかる技術には、逆転写ポリメラーゼ連鎖反応法(RT−PCR)、ノザンブロット法(northern blotting)及びin−situ(インサイツ)ハイブリッド形成が含まれる。mRNAを分析する技術に関しては、例えば、Busting SA(2000),J.Mol.Endocrinol.25:169〜193(全開示内容はこの参照により本明細書に組み込まれる。)に記載されている。また、選択的スプライシングmRNAを同定する典型的な技術について以下に記載する。
【0025】
例えば、選択的スプライシングmRNAを同定するために、ある疾患遺伝子に関連するヌクレオチド配列を含むデータベースを使用することができる。このようなデータベースとしては、GenBank、Embase及びthe Cancer Genome Anatomy Project(CGAP)データベースがある。例えば、CGAPデータベースは、様々なタイプのヒト癌由来の発現遺伝子配列断片(ESTs)を含む。HIF−1アルファ遺伝子由来のmRNA又は遺伝子配列は、かかるデータベースをクエリーし、選択的スプライシングmRNAを表すESTsがこれらの遺伝子に見出されるか否かを決定するために使用することができる。
【0026】
"RNAse protection法"と呼ばれる技術もまた、選択的スプライシングHIF−1アルファmRNAを同定するために使用することができる。RNAse protection法には、遺伝子配列の合成RNAへの翻訳が含まれ、他の細胞(例えば、新生血管形成領域又はその周囲における組織由来の細胞)から誘導されたRNAにはイブリダイズされる。ハイブリダイズされたRNAは、次いで、RNA:RNAハイブリッドミスマッチを認識する酵素と共に培養される。フラグメントが予想よりも短い場合には、選択的スプライシングmRNAの存在が示される。推定された選択的スプライシングmRNAは当業者に周知の方法によりクローニングされ、配列決定され得る。
【0027】
RT−PCRもまた、選択的スプライシングHIF−1アルファmRNAを同定するために使用することができる。RT−PCRにおいては、当業者に周知の方法を用い、逆転写酵素により組織からmRNAをcDNAに変換する。次いで、cDNAの全コード配列が、3'非翻訳領域に位置する順方向プライマー、及び5'非翻訳領域に位置する逆方向プライマーを使用し、PCRを介して増幅される。増幅産物は、選択的スプライシング形態について分析することができ、例えば、増幅産物のサイズを、選択的スプライシングされた正常にスプライシングされたmRNA由来の予想産物のサイズと比較することによって、例えばアガロースゲル電気泳動により分析することができる。増幅産物のサイズにおける全ての相違は、選択的スプライシングであることを示し得る。
【0028】
変異体HIF−1アルファ遺伝子由来のmRNA産物はまた、選択的スプライシング形態を同定するための上記技術により容易に同定され得る。ここで用いられる「変異体」HIF−1アルファ遺伝子又はmRNAには、ここで示されるHIF−1アルファmRNAと配列が異なるHIF−1アルファ遺伝子又はmRNAが含まれる。従って、HIF−1アルファ遺伝子の対立遺伝子形態、並びに該遺伝子由来のmRNA産物は、本発明の目的とする「変異体」と考えられる。
【0029】
ここで用いられる、ヒトHIF−1アルファに対する「同属体」(cognate)である遺伝子又はmRNAとは、ヒトHIF−1アルファと相同性を有する他の哺乳動物種由来の遺伝子又はmRNAをいう。例えば、ラット及びマウス由来同属型HIF−1アルファmRNAについては、各々、GenBankアクセッション番号NM_024359及びNM_010431(全開示内容はこの参照により本明細書に組み込まれる。)に記載されている。ラットHIF−1アルファmRNA配列は、配列ID番号4により与えられ、マウスHIF−1アルファmRNA配列は、配列ID番号5により与えられる。
【0030】
ヒトHIF−1アルファmRNAには、各々選択的スプライシング形態、同族体又は変異体と共通する標的配列が含まれ得ることが理解される。従って、かかる共通の標的配列を含有する1個のsiRNAは、共通の標的配列を含む異なるRNAタイプのRNA媒介分解を誘発し得る。
【0031】
本発明のsiRNAには、部分的に精製されたRNA、実質的に純粋なRNA、合成RNA、並びに1個又はそれ以上のヌクレオチドの付加、欠失、置換及び/又は変性により、天然由来のRNAと異なる変性RNAなどの組みかえで生産されたRNAが含まれ得る。かかる変性には、例えばsiRNA末端へのもしくはsiRNAの1個又はそれ以上の内部ヌクレオチドへの非ヌクレオチド物質の付加、siRNAに耐ヌクレアーゼ分解性を付与するための修飾、またはデオキシリボヌクレオチドでのsiRNAの1個又はそれ以上のヌクレオチドの置換が含まれ得る。
【0032】
本発明に係るsiRNAの1本又は双方の鎖にはまた3’オーバーハングが含有され得る。ここで用いられる、「3’オーバーハング」は、RNA二本鎖の3'末端から延長した少なくとも1本の非対ヌクレオチドをいう。
【0033】
従って、一態様において、本発明に係るsiRNAは1個〜約6個のヌクレオチド長(リボヌクレオチド又はデオキシリボヌクレオチドが含まれる。)、好ましくは1個〜約5個、より好ましくは1個〜約4個、特に好ましくは約2個〜約4個のヌクレオチド長を有する少なくとも1つの3’オーバーハングが含有される。
【0034】
siRNA分子の双方の鎖が3’オーバーハングを含有する態様において、突出部の長さは各鎖で同一でも異なっていてもよい。特に好ましい態様は、siRNAの双方の鎖に3’オーバーハングが存在し、2個のヌクレオチド長を有するものである。例えば、本発明に係るsiRNAの各鎖はジチミジル酸("TT")又はジウリジル酸("uu")の3’オーバーハングを含み得る。
【0035】
本発明に係るsiRNAの安定性を高めるために、3’オーバーハングもまた分解に対して安定化され得る。一態様において、オーバーハングがプリンヌクレオチド(例えば、アデノシン又はグアノシンヌクレオチド)を含めることにより安定化される。あるいは、修飾された類似体によるピリミジンヌクレオチドの置換(例えば、3’オーバーハング中のウリジンヌクレオチドの2'−デオキシチミジンでの置換)でもよく、RNAi分解効率に影響を及ぼさない。特に、2'−デオキシチミジンにおける2'ヒドロキシル基の不存在は、組織培地における3’オーバーハングのヌクレアーゼ耐性を有意に増加させる。
【0036】
特定の態様において、本発明に係るsiRNAは、配列AA(N19)TT又はNA(N21)を有し、ここでNはすべてのヌクレオチドを表す。これらsiRNAは、約30〜70%のG/Cを含有し、好ましくは約50%のG/Cを含有する。センスsiRNA鎖の配列は、(N19)TT又はN21(すなわち、3位〜23位)に各々対応する。後者の場合、センスsiRNAの3'末端はTTに変換される。この配列変換の原理は、センス及びアンチセンス鎖の3’オーバーハングの配列構成に関し、対称な二本鎖を発生させることである。次いで、アンチセンス鎖はセンス鎖の1位〜21位の相補体として合成される。
【0037】
これらの態様において23−ntセンス鎖の1位は、アンチセンス鎖による配列特定作用においては認識されないため、アンチセンス鎖のほとんどの3'ヌクレオチド残基が慎重に選択され得る。しかしながら、アンチセンス鎖の末端から2番目のヌクレオチド(双方の態様において23−ntセンス鎖の2位に相補的)が通常は標的配列に相補的である。
【0038】
他の態様において、本発明に係るsiRNAは、配列NAR(N17)YNNを有し、ここでRはプリン(例えば、A又はG)であり、Yはピリミジン(例えば、C又はU/T)である。従って、本態様の各21−ntセンス及びアンチセンス鎖は、通常、プリンヌクレオチドで始まる。かかるsiRNAは、第1の転写ヌクレオチドがプリンである時、pol IIIプロモーターからのRNAの発現のみが有効であるとして、標的部位において変化することなくpol III発現ベクターから発現され得る。
【0039】
本発明のsiRNAは、標的mRNA配列(「標的配列」)のすべてにおいて、約19〜25個の連続ヌクレオチドの全ストレッチに対して標的とすることができる。siRNAに係わる標的配列を選択する技術は、例えば、Tuschl Tら、"The siRNA User Guide"、2002.10.11改訂(全開示内容はこの参照により本明細書に組み込まれる。)に示されている。"The siRNA User Guide"は、Dr.Thomas Tuschl(Department of Cellular Biochemistry,AG 105, Max−Planck−Institute for Biophysical Chemistry,37077 Gottingen,Germany)により維持されているウェブサイトにおけるWWWから入手可能であり、Max Planck Instituteのウェブサイトにアクセスし、キーワード"siRNA"で検索することにより見出すことができる。従って、本発明に係るsiRNAのセンス鎖には、標的mRNAにおける約19個〜約25個のヌクレオチドの連続ストレッチすべてに対して同一のヌクレオチド配列が含有される。
【0040】
一般に、標的mRNAの標的配列は、標的mRNAに対応する所定のcDNAから選択され得、好ましくは開始コドンから最初の50〜100nt下流(すなわち、3'方向)である。しかしながら、標的配列は、5'もしくは3'非翻訳領域、又は開始コドン近傍領域に位置し得る。HIF−1アルファcDNA配列における好適な標的配列は、
AACTGGACACAGTGTGTTTGA (配列ID番号6)
である。
【0041】
従って、この配列を標的とし、かつ3'UUオーバーハング(オーバーハングを太字で示す。)を有する本発明に係るsiRNAは、
【0042】
【化1】

【0043】
である。
【0044】
本配列と同一の配列を標的とするが、各鎖に3'TTオーバーハング(オーバーハングを太字で示す。)を有する本発明に係るsiRNAは、
【0045】
【化2】

【0046】
である。
【0047】
本発明に係るsiRNAが誘導され得る典型的なHIF−1アルファ標的配列には、表1中の配列及び配列ID番号39〜296として示される配列が含まれる。
【0048】
【表1】

【0049】
本発明に係るsiRNAは、当業者に知られた多くの技術を用いて得ることができる。例えば、当該分野で公知の方法(例えば米国公開公報番号第US2002/0086356号、Tushlらによる(全開示内容はこの参照により本明細書に組み込まれる。)に記載されたDrosophila in vitroシステム)を用いて化学的に合成することができ、あるいは組換えにより産生することができる。
【0050】
好ましくは、本発明のsiRNAは、適切に保護されたリボヌクレオシドホスホラミダイト(phosphoramidite)及び従来のDNA/RNAシンセサイザーを用い化学的に合成される。siRNAは、2つの分離した相補的RNA分子として、あるいは2つの相補的領域を有する単一のRNAとして合成され得る。合成RNA分子又は合成試薬の商業的供給業者には、Proligo(ハンブルグ,ドイツ)、Dharmacon Research(ラフィエット,コロラド州,米国)、Pierce Chemical(Perbio Scienceの一部,ロックフォード,イリノイ州,米国)、Glen Research(スターリング,ヴァージニア州,米国)、ChemGenes(アッシュランド,マサチューセッツ州,米国)及びCruachem(グラスゴー,英国)がある。
【0051】
あるいは、siRNAは、組換え環状又は線状DNAプラスミドから好適なプロモーターを使用し発現させることもまたできる。プラスミドから本発明のsiRNAを発現させるために好適なプロモーターには、例えば、U6又はH1 RNA pol IIIプロモーター配列及びサイトメガロウイルスプロモーターが含まれる。他の好適なプロモーターの選択は、公知の当該分野の範囲内である。本発明の組換えプラスミドにはまた、特定組織又は特定細胞内環境でのsiRNAの発現に用いられる誘導性又は調節性プロモーターが含まれる。
【0052】
組換えプラスミド由来のsiRNAは、標準的技術により培養細胞発現系から単離されるか、あるいはin vivoにおいて新生血管形成領域或いはその近傍における細胞内で発現し得る。本発明のsiRNAをin vivoにおいて細胞に輸送するための組換えプラスミドの使用について以下により詳細に説明する。
【0053】
本発明のsiRNAは、2つの分離した相補的RNA分子、あるいは2つの相補的領域を有する単一のRNAのいずれかとして組換えプラスミドから発現し得る。
【0054】
本発明のsiRNAを発現するのに好適なプラスミドの選択方法、siRNAを発現するためのプラスミドへの核酸配列の挿入方法、及び目的細胞への組換えプラスミドの輸送方法は当業者が適宜なし得るものである。例えば、Tuschl,T.(2002),Nat Biotechnol,20:446〜448;Brummelkamp TR et al.(2002),Science 296:550〜553;Miyagishi M et al.(2002),Nat.Biotechnol,20:497〜500;Paddison PJ et al.(2002),Genes Dev.16:948〜958;Lee NS et al.(2002),Nat.Biotechnol.20:500〜505;Paul CP et al.(2002),Nat Biotechnol,20:505〜508(全開示内容はこの参照により本明細書に組み込まれる。)を参照のこと。
【0055】
例えば、プラスミドは、ヒトU6 RNAプロモーターの調節下でポリT終止配列と操作可能に連結するセンスRNA鎖コード配列と、ヒトU6 RNAプロモーターの調節下でポリT終止配列と操作可能に連結するアンチセンスRNA鎖コード配列とを含有し得る。
【0056】
ここで用いられる、「ポリT終止配列と操作可能に連結する」とは、センス鎖又はアンチセンス鎖をコードする核酸配列が、5'方向においてポリT終止シグナルと直接的に隣接していることを意味する。プラスミドからのセンス又はアンチセンス配列の転写の間に、ポリT終止シグナルは転写を終止させるように作用する。
【0057】
ここで用いられる、プロモーターの「調節下で」とは、センス又はアンチセンス鎖をコードする核酸配列が、プロモーターの3'に位置し、これによりプロモーターがセンス又はアンチセンスコード配列の転写を開始し得ることを意味する。
【0058】
本発明のsiRNAはまた、in vivoにおいて新生血管形成領域或いはその近傍における細胞内で組換えウイルス性ベクターから発現し得る。本発明の組換えウイルス性ベクターは本発明のsiRNAをコードする配列、及びsiRNA配列を発現するための好適なプロモーターすべてを含有する。好適なプロモーターには、例えば、U6又はH1 RNA pol IIIプロモーター配列及びサイトメガロウイルスプロモーターが含まれる。他の好適なプロモーターの選択は、当業者が適宜なし得る。また本発明の組換えウイルス性ベクターには、特定組織又は特定細胞内環境でのsiRNAの発現に用いられる誘導性又は調節性プロモーターが含まれる。本発明のsiRNAをin vivoにおいて細胞に輸送するための組換えウイルス性ベクターの使用方法について以下により詳細に説明する。
【0059】
本発明のsiRNAは、2つの分離した相補的核酸分子として、あるいは2つの相補的領域を有する単一の核酸分子として組換えウイルス性ベクターから発現し得る。
【0060】
発現するsiRNA分子のコード配列を受容することができるすべてのウイルス性ベクター、例えば、アデノウイルス(AV)、アデノ随伴ウイルス(AAV)、レトロウイルス(例えば、レンチウイルス(LV)、ラブドウイルス、マウス白血病ウイルス)、ヘルペスウイルス、およびその同等物から誘導されるベクターを使用することができる。ウイルス性ベクターの指向性もまた、エンベロープタンパク質又は他のウイルス由来の表面抗原を用いてベクターを偽型化(pseudotype)することにより修飾され得る。例えば、本発明のAAVベクターは、水疱性口内炎ウイルス(VSV)、狂犬病ウイルス、エボラウイルス、又はモコラウイルス等からの表面タンパク質を用いて偽型化(pseudotype)され得る。
【0061】
本発明に好適に使用し得る組換えウイルス性ベクターの選択方法、siRNAを発現するための核酸配列のベクターへの挿入方法、及び目的細胞へのウイルス性ベクターの輸送方法は、当業者が適宜なし得るものである。例えば、Dornburg R (1995),Gene Therap.2:301〜310;Eglitis MA(1988),Biotechniques 6:608〜614;Miller AD(1990),Hum Gene Therap.1:5〜14;Anderson WF(1998),Nature 392:25〜30(全開示内容はこの参照により本明細書に組み込まれる)を参照のこと。
【0062】
好ましいウイルス性ベクターは、AV及びAAV由来のものである。特に好ましい態様において、本発明のsiRNAは、2つの分離した相補的一本鎖RNA分子として、例えば、U6又はH1 RNAプロモーターのいずれか、もしくはサイトメガロウイルス(CMV)プロモーターを含有する組換えAAVベクターから発現される。
【0063】
本発明のsiRNAを発現する好適なAVベクター、組換えAVベクターの構築方法、標的細胞へのベクターの輸送方法が、Xia H et al.(2002),Nat Biotech.20:1006〜1010に記載されている。
【0064】
本発明のsiRNAを発現する好適なAAVベクター、組換えAAVベクターの構築方法、標的細胞へのベクターの輸送方法が、Samulski R et al.(1987),J.Virol.61:3096〜3101;Fisher KJ et al.(1996),J.Virol.70:520〜532;Samulski R et al.(1989),J.Virol.63:3822〜3826;U.S.Pat.No.5,252,479;U.S.Pat.No.5,139,941;国際特許出願番号第WO94/13788号、国際特許出願番号第WO93/に4641号(全開示内容はこの参照により本明細書に組み込まれる。)に記載されている。
【0065】
標的mRNAのRNAi媒介分解を引き起こす所定の標的配列を含むsiRNAの性能は、細胞中のRNAレベル又はタンパク質レベルを測定するための標準的技術を用いて評価することができる。例えば、本発明のsiRNAは培養細胞に輸送され得、標的mRNAのレベルが、ノザンブロット法又はドットブロッティング技術により、もしくは定量RT−PCRにより測定され得る。あるいは、培養細胞中のHIF−1アルファタンパク質のレベルは、ELISA又はウェスタンブロット法により測定され得る。標的mRNAにまたはタンパク質レベルに対する本発明siRNAの効果を測定するための好適な細胞培養系が後掲の実施例1に記載されている。
【0066】
HIF−1アルファmRNAのRNAi媒介分解を標的・招来するsiRNAの性能もまた、HIF−1アルファ発現における減少がVEGF発現も阻害し得るものとして、培養細胞中のVEGF mRNA又はタンパク質のレベルを測定することにより評価することができる。
【0067】
例えば、50%コンフルエントの293ヒト腎臓細胞を、siRNA(Mirus Transit TKOトランスフェクション試薬等のトランスフェクション試薬と任意に合成される)を含む培地を使用し48時間インキュベートする。次いで、HIF−1アルファ又はVEGFいずれか一方のELISA又はmRNA定量を行う。HIF−1アルファ標的配列に対して相同性を有しなかったsiRNAと共にインキュベートされた細胞をコントロールとして用いることができる。
【0068】
所定の標的配列を含むsiRNAによる標的mRNAのRNAi媒介分解もまた、新生血管形成の動物モデル(例えば、未熟児網膜症("ROP")又は脈絡膜の新生血管形成("CNV")マウスモデル等)を用いて評価することができる。例えば、ROP又はCNVマウスにおける新生血管形成領域をsiRNAの投与前および投与後に測定することができる。これらモデルの、siRNA投与時における新生血管形成領域の減少は、標的mRNAの下方制御を示している(後掲の実施例2を参照)。
【0069】
上記に示したように、本発明のsiRNAはHIF−1アルファmRNA、またはその選択的スプライシング形態、変異体もしくは同族体のRNAi媒介分解を標的・招来する。本発明のsiRNAによる標的mRNAの分解により、HIF−1アルファ遺伝子由来の機能性遺伝子産物の産生が減少する。従って、本発明により、被験体におけるHIF−1アルファの発現を阻害する方法であって、本発明のsiRNAの有効量を被験体に投与する工程を含み、その結果標的mRNAが分解される方法が提供される。本方法の実施において、本発明の1以上のsiRNAが被験体に同時に投与され得ることが理解され得る。どのような論理が適用されるかを望むまでもなく、HIF−1アルファ遺伝子の産物は、VEGFの転写調節に関与していると思われる。VEGFは同様に血管新生を開始・維持するのに欠かせない。従って、本発明は、本発明のsiRNAによる標的mRNAのRNAi媒介分解により、被験体における血管新生を阻害する方法もまた提供する。
【0070】
ここで用いられる、「被験体」には、ヒト又はヒト以外の動物が含まれる。好ましくは、被験体はヒトである。
【0071】
ここで用いられる、siRNAの「有効量」は、標的mRNAのRNAi媒介分解を引き起こすのに充分な量か、あるいは被験体における血管新生を阻害するのに充分な量をいう。
【0072】
標的mRNAのRNAi媒介分解は、上記のようにmRNA又はタンパク質を単離・定量するための標準技術を使用し、被験体の細胞中の標的mRNA又はタンパク質レベルを測定することにより検知することができる。
【0073】
血管新生の阻害は、被験体における病原性又は非病原性血管新生の進行を直接的に測定することにより、評価することができる。例えば、本発明のsiRNAを用いた治療前後における新生血管形成領域のサイズを観察することにより行うことができる。新生血管形成領域のサイズが同一のまま又は縮小している場合には、血管新生の阻害が示される。被験体における新生血管形成領域のサイズの観察及び測定技術は、当業者が適宜なし得るものであり、例えば、脈絡膜の新生血管形成領域は検眼鏡検査法により観察することができる。
【0074】
血管新生の阻害はまた、血管新生に関連する病原性症状における変化又は逆転の観察を通して推測され得る。例えば、ARMDにおいて、視力低下の遅延、停止又は逆転は、脈絡膜における血管新生の阻害を示す。腫瘍に関しては、腫瘍増殖の遅延、停止又は逆転、あるいは腫瘍転移の遅延又は停止は、腫瘍部位又はその近傍における血管新生阻害を示す。非病原性血管新生の阻害はまた、例えば、本発明のsiRNA投与時における脂肪損失又はコレステロール値の減少から推測することができる。
【0075】
本発明のsiRNAは化学量論に近い量において標的mRNAを分解すること(したがって、血管新生を阻害すること)が理解できる。どのような論理が適用されるかを望むまでもなく、本発明のsiRNAは、触媒的態様においてRISCが標的mRNAの分解を誘導すると考えられる。したがって、標準的な抗血管新生治療と比較し、siRNAは治療額的効果を有するために新生血管形成部位またはその近傍に運ばれる必要が極めて少ない。
【0076】
当業者であれば、特定の被験体に本発明のsiRNAを投与する有効量は、被験体の大きさ及び重さ;新生血管形成の範囲または疾患の洞察;被験体の年齢、健康、及び性別;投与経路;投与が局所的か全身にわたるか、等の要素を考慮することにより、容易に決定し得る。概して、本発明のsiRNAの有効量は、新生血管形成領域またはその近傍における細胞内濃度が約1ナノモル(nM)〜約100nM、好ましくは約2nM〜約50nM、より好ましくは約2.5nM〜約10nMとなる量が含まれる。より多い、あるいはより少ない量のsiRNAが投与され得ることも想定される。
【0077】
非病原性の血管新生、すなわち、被験体において通常過程に起因する血管新生、を阻害するために本発明の方法が使用され得る。非病原性の血管新生には、子宮内膜の新生血管形成、及び脂肪組織及びコレステロール産物に含有されるプロセスが含まれる。このように、本発明により非病原性の血管新生阻害方法、例えば、体重調節又は脂肪損失促進、コレステロール値の低減のための方法、もしくは流産促進物質に関する方法が提供される。
【0078】
本方法はまた、脈管形成疾患、すなわち病原性が不適切もしくは調節できない脈管形成に関連する疾患に関わる脈管形成もまた阻害し得る。たとえば、多くの癌性固形腫瘍は、血管新生を腫瘍部位及びその近傍に誘導することにより、適切な血液供給をそれ自体で発生させる。この腫瘍誘導血管新生は、しばしば腫瘍増殖のために必要とされ、転移性細胞が血流に入り込むことも可能にする。
【0079】
他の血管新生疾患には、糖尿病性網膜症、加齢性黄斑変性(ARMD)、乾癬、リウマチ性関節炎及び他の炎症性疾患が含まれる。これらの疾患は、新生血管形成領域に新たに形成された血管により正常組織が破壊されることを特徴とする。たとえば、ARMDでは、毛細管により脈絡膜が侵され破壊される。ARMDにおける脈絡膜の血管新生起因の破壊は、最終的には部分的又は全体的な失明をもたらす。
【0080】
好ましくは、本発明のsiRNAは、癌関連固形腫瘍(たとえば、胸部癌、肺癌、頭部及び頸部癌、脳癌、腹部癌、結腸癌、食道癌、胃腸癌、神経腫瘍、肝臓癌、舌癌、神経芽細胞腫、骨肉腫、卵巣癌、膵臓癌、前立腺癌、網膜芽細胞腫、ウィルムス腫、多発性骨髄腫、皮膚癌(例えば、メラノーマ)、リンパ腫、及び血液癌)の増殖または転移を阻害するために使用される。
【0081】
より好ましくは、本発明のsiRNAは、加齢性黄斑変性における脈絡膜新生血管形成を阻害するために使用される。
【0082】
血管新生疾患を処置するために、本発明のsiRNAは、本発明のsiRNAとは異なる薬学的試薬との組み合わせにおいて被験体に投与され得る。あるいは、本発明のsiRNAは、脈管形成疾患を治療するために設計された他の治療学的方法との組み合わせにおいて被験体に投与され得る。例えば、本発明のsiRNAは、現在癌を治療している、あるいは腫瘍の転移を阻止している治療方法(例えば、放射線治療、化学療法及び手術)と組み合わせて投与され得る。腫瘍を治療するために、本発明のsiRNAは、好ましくは放射線治療と組み合わせて、もしくはシスプラチン、カルボプラチン、シクロホスファミド、5−フルオロウラシル、アドリアマイシン、ダウノルビシン、又はタモキシフェン等の化学療法薬と組み合わせて被験体に投与される。
【0083】
本方法において、本発明のsiRNAは、輸送試薬と共にsiRNAそのままの形態で、あるいはsiRNAを発現する組換えプラスミドもしくはウイルス性ベクターとして被験体に投与され得る。
【0084】
本発明のsiRNAと共に投与される好適な輸送試薬には、Mirus Transit TKO脂肪親和性試薬;リポフェクチン;リポフェクタミン(lipofectamine);セルフェクチン(cellfectin);ポリカチオン(例えば、ポリリシン(polylysine))、リポソームが含まれる。好ましい輸送試薬はリポソームである。
【0085】
リポソームは、siRNAの特定組織(例えば、網膜又は腫瘍組織)への輸送を促進することができ、またsiRNAの血液半減期を増加することもできる。本発明における使用に好適なリポソームは、標準的な小疱形成脂質から形成され、一般的に中性又は負の電荷を帯びたリン脂質及びコレステロール等のステロールが含まれる。脂質の選択は、通常、所望とされるリポソームサイズ及び血流中におけるリポソームの半減期等の要因を考慮して決定される。リポソームを調製するための様々な方法が公知であり、例えばSzoka et al.(1980),Ann.Rev.Biophys,Buiebg.9:467;及び米国特許番号第4,235,871号、第4,501,728号,第5,019,369号(全開示内容はこの参照により本明細書に組み込まれる。)に記載されている。
【0086】
好ましくは、本発明のsiRNAを封入するリポソームは、該リポソームを血管新生部位又はその近傍における特定細胞もしくは組織に向けることができるリガンド分子を含有する。腫瘍又は血管内皮細胞において優勢にレセプターと結合するリガンド(例えば、腫瘍抗原又は内皮細胞表面抗原と結合するモノクローナル抗体)が好ましい。
【0087】
特に好ましくは、本発明のsiRNAを封入するリポソームは、単核マクロファージ及び細網内皮系によりクリアランスを避けるために修飾される。例えば、構造の表面に結合したオプソニン作用阻害部分を有することによる。1実施形態において、本発明のリポソームは、オプソニン作用−阻害部位とリガンドの両方を有しているものである。
【0088】
本発明のリポソームの調製において使用するオプソニン作用−阻害部位は、典型的には、リポソーム膜に結合される大分子親水性ポリマーである。ここで用いられる、リポソーム膜に「結合」しているとは、オプソニン作用−阻害部位が、例えば、脂質溶解性アンカーの膜自体への挿入により、あるいは膜脂質の活性基への直接的結合により、化学的又は物理的に膜に付着しているとき、リポソーム膜に「結合」しているという。これらのオプソニン作用−阻害親水性ポリマーは、マクロファージ単核細胞系("MMS")及び細網内皮系("RES")によりリポソームの摂取を有意に減少させる保護表面層を形成するものであり、例えば米国特許番号第4,920,016号に記載されているようなものである(全開示内容はこの参照により本明細書に組み込まれる。)。このようにオプソニン作用−阻害部位で修飾されたリポソームは、修飾されていないリポソームよりもはるかに長く循環系に留まる。かかる理由により、リポソームは時々「ステルス」リポソームと呼ばれる。
【0089】
ステルスリポソームは、多孔性又は「漏れ孔のある」微小血管系により供給される組織中に蓄積することが知られている。したがって、かかる微小血管系の欠陥により特徴付けられる標的組織(例えば、固形腫瘍、)は、これらのリポソームを効率的に蓄積し得る(Gabizon et al.(1988),P.N.A.S.,USA,18:6949〜53を参照のこと。)。加えて、RESによって取り込みが減少したことにより、肝臓及び脾臓におけるかなりの蓄積が阻止され、ステルスリポソームの毒性が低下する。したがって、オプソニン作用−阻害部位で修飾された本発明のリポソームは、腫瘍細胞に本発明のsiRNAを輸送し得る。
【0090】
リポソームの修飾に好適なオプソニン作用阻害部位は、好ましくは数平均分子量約500〜約40,000ダルトンの水溶性ポリマーであり、より好ましくは約2,000〜約20,000ダルトンの水溶性ポリマーである。かかるポリマーには、ポリエチレングリコール(PEG)ポリプロピレングリコール(PPG)誘導体が含まれる、例えば、メトキシPEG又はPPG、及びPEG又はPPGステアレート;ポリアクリルアミド又はポリN‐ビニルピロリドン等の合成ポリマー;直線状、分岐状、又は樹枝状(dendrimeric)ポリアミドアミン;ポリアクリル酸;ポリアルコール(例えば、カルボキシル基又はアミノ基が化学的に連結しているポリビニルアルコール及びポリキシリトール)、並びにガングリオシド(例えば、PEGのガングリオシドGM1.コポリマー、メトキシPEG又はメトキシPPG)、またはその誘導体も好適である。さらに、オプソニン作用阻害ポリマーは、PEGのブロックコポリマーであってもよいし、ポリアミノ酸、ポリサッカライド、ポリアミドアミン、ポリエチレンアミン、又はポリヌクレオチドであってもよい。オプソニン作用阻害ポリマーはまた、アミノ酸又はカルボン酸を含む天然ポリサッカライド(例えば、ガラクツロン酸、グルクロン酸、マンヌロン酸、ヒアルロン酸、ペクチン酸、ノイラミン酸、アルギン酸、カラゲーニン);アミノ化ポリサッカライド、又はオリゴサッカライド(直線状又は分岐状);カルボキシル化ポリサッカライド又はオリゴサッカライド(例えば、カルボキシル基の合成結合を有するカルボン酸誘導体)であってもよい。
【0091】
好ましくは、オプソニン作用−阻害部位は、PEG、PPG又はその誘導体である。PEG又はPEG誘導体により修飾されたリポソームは「PEG化リポソーム」("PEGylated liposomes")と言われることがある。
【0092】
オプソニン作用−阻害部位は、リポソーム膜と周知技術のいずれかを用いて結合され得る。例えば、PEGのN‐ヒドロキシスクシニミドエステルは、ホスファチジルエタノールアミン脂質可溶性アンカーに結合し、次いで膜に結合し得る。同様に、デキストランポリマーは、Na(CN)BH3及び溶媒混合物(例えば、テトラヒドロフランと水の30:12比率の60℃溶媒混合物)を使用する還元性アミノ化を介してステアリルアミン脂質可溶性アンカーを用い誘導体化され得る。
【0093】
本発明のsiRNAを発現する組換えプラスミドについては上述している。かかる組換えプラスミドはまた、直接的、または好適な輸送試薬と共に被験体に投与することができ、該輸送試薬には、Mirus Transit LT1脂肪親和性試薬;リポフェクチン;リポフェクトアミン(lipofectamine);セルフェクチン(cellfectin);ポリカチオン(例えば、ポリリシン(polylysine))、又はリポソームが含まれる。本発明のsiRNAを発現する組換えウイルス性ベクターについても上述しており、かかるベクターを被験体の新生血管形成領域に輸送する方法は当業者が適宜なし得るものである。
【0094】
本発明のsiRNAは、新生血管形成領域またはその近傍の組織細胞に本発明のsiRNAを輸送する好適ないかなる手段を用いて被験体に投与してもよい。例えば、siRNAは、遺伝子ガン、エレクトロポレーション、もしくは他の好適な非経口又は経腸的投与経路により投与することができる。
【0095】
好適な経腸的投与経路には、経口、直腸、又は鼻腔内輸送が含まれる。
【0096】
好適な非経口的投与経路には、血管内投与(例えば、静脈内ボーラス注射、静脈内注入、動脈内ボーラス注射、動脈内注入、血管系へのカテーテル点滴注入);組織周囲及び組織内投与(例えば、腫瘍周囲及び腫瘍内注射、網膜内注射又は網膜下注射);皮下注射又は皮下注入(例えば、浸透ポンプによる)を含む沈着;新生血管形成領域又はその近傍における、例えばカテーテルもしくは他の配置装置(例えば、角膜ペレット剤又は坐剤、点眼剤、もしくは多孔性、非多孔性、又はゼラチン物質を含むインプラント)による直接的(例えば、局所的)適用;及び吸入、が含まれる。好適な配置装置には、米国特許番号第5,902,598号及び第6,375,972号(全開示内容はこの参照により本明細書に組み込まれる。)に記載された眼用インプラント、米国特許番号第6,331,313号(全開示内容はこの参照により本明細書に組み込まれる。)に記載された生分解性の眼用インプラントが含まれる。かかる眼用インプラントは、Control Delivery Systems,Inc.(ウォータータウン、マサチューセッツ州)及びOculex Pharmaceuticals,Inc.(サニーベール、カリフォルニア州)から入手可能である。
【0097】
好ましい態様において、siRNAの注射又は注入は、新生血管形成部位又はその近傍において施される。例えば、本発明のsiRNAは、眼の網膜色素上皮細胞に輸送され得る。好ましくは、siRNAは、眼に局所的に投与され、例えば、液体又はゲル形態において、下眼瞼又は結膜円蓋に投与される(例えば、Acheampong AA et al.,2002,Drug Metabol. and Disposition 30:421〜429(全開示内容はこの参照により本明細書に組み込まれる。)を参照のこと。
【0098】
典型的には、本発明のsiRNAは、約5マイクロリットル〜約75マイクロリットルの体積において眼に局所的に投与され、例えば約7マイクロリットル〜約50マイクロリットル、好ましくは約10マイクロリットル〜約30マイクロリットルの体積において投与される。本発明のsiRNAは、水溶液に非常に可溶性である。75マイクロリットルを超える体積でのsiRNAの局所的点眼は、siRNAが眼からこぼれて排液となるため損失となることが理解される。したがって、高濃度(例えば、100〜1000nM)のsiRNAを、約5マイクロリットル〜約75マイクロリットルの体積において眼に局所的に投与することが好ましい。
【0099】
特に好ましい非経口的投与経路は、眼内投与である。本発明のsiRNAの眼内投与は、本発明のsiRNAが眼に入ることが可能な限り、眼への注射又は直接投与(例えば、局所的投与)により達成されることが理解される。上述した眼への局所的投与経路に加え、好適な眼内投与には、硝子体内、網膜内、網膜下、サブテノン(subtenon)、眼窩周囲及び眼窩後方、角膜超(trans−corneal)又は強膜超(trans−scleral)投与が含まれる。かかる眼内投与経路は当該分野で適宜なし得るものであり、例えば、Acheampong AA et al.,2002,supra;Bennett et al.(1996),Hum.Gen Ther.7: 1763〜1769;AmbatiJ et al.,2002,Progress in Retinal and Eye Res.21:145〜151(全開示内容はこの参照により本明細書に組み込まれる。)を参照のこと。
【0100】
本発明のsiRNAは、1回服用又は複数回服用において投与され得る。本発明のsiRNA投与が注入による場合、注入は、1回の持続性服用であり得、また複数回の注入で輸送されてもよい。組織内への直接的なsiRNAの注射は、新生血管形成の部位又はその近傍であることが好ましい。新生血管形成の部位又はその近傍組織へのsiRNAの複数回の注射が特に好ましい。
【0101】
当業者であれば、特定の被験者に本発明のsiRNAを投与するための適切な投薬量を容易に決定し得る。例えば、siRNAは被験者に一回投与され得、例えば一回の注射又は沈着により新生血管形成部位又はその近傍に投与される。あるいは、siRNAは被験者に1日又は一週間に複数回投与され得る。例えば、約3週間〜約28週間の間、より好ましくは約7週間〜約10週間の間、週に1回投与され得る。好ましい投薬計画において、siRNAは7週間にわたり週1回、新生血管形成の部位又はその近傍(例えば硝子体内)に注射される。慢性の血管新生疾患(例えば、ARMD又は糖尿病性網膜症)に罹患している被験者には、不確定の期間にわたる本発明のsiRNAの周期的な投与が必要となり得ることが理解される。
【0102】
投薬計画に複数回の投与が含まれる場合において、被験者に投与されるsiRNAの有効量には、全計画を通して投与されたsiRNAの合計量を含み得ることが理解される。
【0103】
本発明のsiRNAは、好ましくは、当該分野で知られた技術に従い、被験者に投与する前に薬学的組成物として調製される。本発明に係る薬学的組成物は、少なくとも無菌かつ発熱物質が含まれないことを特徴とする。ここで用いられる、「薬学的調製物」には、ヒト及び獣医学に使用される調製物が含まれる。本発明の薬学的組成物を調製する方法は、当業者が適宜なし得るものであり、例えば、Remington’s Pharmaceutical Science(17th ed.,Mack Publishing Company,Easton,Pa(1985))(全開示内容はこの参照により本明細書に組み込まれる。)に記載されている。
【0104】
本発明の薬学的組成物は、薬学的に許容される担体媒体と混合された、本発明のsiRNA(例えば、0.1〜90重量%)、又はその薬学的に許容される塩類を含有する。好ましい薬学的に許容される担体媒体は、水、緩衝水、塩水溶液(例えば、ハンクス又はアール平衡塩溶液のような規定塩水又は平衡塩水溶液)、0.4%塩水、0.3%グリシン、ヒアルロン酸、等である。
【0105】
本発明の薬学的組成物はまた、従来の賦形剤及び/又は添加物を含有し得る。好適な薬学的賦形剤には、安定化剤、抗酸化薬、重量オスモル濃度調整薬、バッファー、及びpH調整試薬が含まれる。好適な添加剤には、生理学的に生体適合性を有するバッファー(例えば、トロメタミン塩酸塩)、添加物(additions of chelants)(例えば、DTPA又はDTPA-ビスアミド)又はカルシウムキレート複合体(例えば、カルシウムDTPA、CaNaDTPA-ビスアミド)、又は任意にカルシウム又はナトリウム塩の添加物(例えば、塩化カルシウム、アスコルビン酸カルシウム、グルコン酸カルシウム、又は乳酸カルシウム)が含まれる。本発明の薬学的組成物は、液状で使用するために包装され得、あるいは凍結乾燥され得る。
【0106】
眼への局所的使用のために、従来の眼内輸送試薬が使用され得る。例えば、局所的眼内輸送に用いられる本発明の薬学的組成物は、上記の塩水溶液、角膜浸透促進剤、不溶性粒子、ワセリン、ゲル軟膏、点眼時における粘性増加に耐えるポリマー、粘膜粘着性ポリマーを含有し得る。好ましくは、眼内輸送試薬は角膜浸透性を増加させ、あるいは粘性効果を通して、もしくは角膜上皮を覆うムチン層を用い物理化学的相互作用を確立することによりsiRNAの保持時間を長くする。
【0107】
局所的眼内輸送のために好適な不溶性粒子には、Bellらの米国特許番号第6,355,271号(全開示内容はこの参照により本明細書に組み込まれる。)に記載されたリン酸カルシウム粒子が含まれる。点眼時における粘性増加に耐える好適なポリマーには、poloxamer 407(例えば、25%の濃度において)、セルロースアセトフタラート(例えば、30%の濃度において)、又はGelrite(登録商標)(CP Kelco,ウィルミントン,デラウェア州から入手可能)等の低アセチルゲル化ゴムのようなポリエチレンポリオキシプロピレンブロックコポリマーが含まれる。好適な粘膜粘着性ポリマーには、カルボキシル、ヒドロキシル、アミド及び/又はサルフェート基等の多数の親水性官能基を有するヒドロコロイド;例えば、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリアクリル酸、高分子量グリコール(例えば、>200,000数平均分子量)、デキストラン、ヒアルロン酸、ポリガラクツロン酸、及びキシロカン(xylocan)が含まれる。好適な角膜浸透促進剤には、シクロデキストリン、塩化ベンザルコニウム、ポリオキシエチレングリコールラウリルエーテル(例えば、Brij(登録商標)35)、ポリオキシエチレングリコールステアリルエーテル(例えば、Brij(登録商標)78)、ポリオキシエチレングリコールオレイルエーテル(例えば、Brij(登録商標)98)エチレンジアミンテトラ酢酸(EDTA)、ジギトニン、タウロコール酸ナトリウム、サポニン及びポリオキシエチル化ひまし油(Cremaphor ELなど)が含まれる。
【0108】
固形組成物に関し、従来の非毒性固形キャリアが使用され得る。例えば、マニトール、ラクトース、スターチ、ステアリン酸マグネシウム、サッカリンナトリウム、タルク、セルロース、グルコース、スクロース、炭酸マグネシウム等の薬学的グレードが挙げられる。
【0109】
例えば、経口投与に用いられる固形薬学的組成物は、上記担体及び賦形剤のいずれをも含有し得、且つ、10〜95%、好ましくは25%〜75%の1種又それ以上の本発明のsiRNAを含有し得る。エアロゾル(吸入)投与に用いられる薬学的組成物は、噴霧剤(propellant)と、上述したリポソーム中に封入された1種又はそれ以上の本発明のsiRNAを0.001〜20重量%、好ましくは1重量%〜10重量%含有し得る。上記のような担体(例えば、鼻腔内輸送のレシチン)もまた、含有され得る。
【0110】
以下に本発明を非限定的実施例を用いて詳述する。以下に示す動物実験は、動物のケア及び慣習の研究のためのユニバーシティ・オブ・ペンシルベニア インスチチューショナル ガイドラインを使用して行われた。
【実施例】
【0111】
実施例1:抗HIF−1アルファsiRNAを用いた培養ヒト胎児由来腎臓細胞におけるヒトVEGF発現の阻害
ヒト胎児由来腎臓293(HEK−293)細胞を、標準成長培地において37℃、5%COで一晩、24ウェルプレートにて培養した。次の日、細胞が約50%コンフルエントになったとき、実験細胞及び対照細胞にトランスフェクションを行った。リン酸カルシウム試薬中に混合された25mMヒトHIF−1アルファsiRNAを実験細胞にトランスフェクトした。対照細胞はsiRNAを欠くトランスフェクション試薬で処理するか、あるいはリン酸カルシウムトランスフェクション試薬中の25mM非特異的siRNA(EGFP1 siRNA)で処理した。実験細胞について、ヒトHIF−1アルファmRNAを標的とする20個の異なるsiRNAをテストした。これらの抗HIF−1アルファsiRNAは、表2に挙げられた標的配列を含み、すべてのsiRNAは各鎖に3'TTを含んでいた。表2中、「サンプル番号」は図1及び2に示された実験細胞サンプルに対応する。
【0112】
【表2】

【0113】
トランスフェクション4時間後、最終濃度200μmのデスフェリオキサミンを用いて、対照及び実験HEK−293細胞を低酸素に導入した。トランスフェクション48時間後、すべてのウェルから細胞培地を取り除き、ヒトVEGF ELISA(R&D systems,ミネアポリス,ミネソタ州)をQuantikineヒトVEGF ELISAプロトコルに記載されている通りに行った。ELISAの結果はAD340プレートリーダー(Beckman Coulter)で読み出され、その結果を図1に示す。
【0114】
図1に示されるように、低酸素のデスフェリオキサミン媒介誘導により、HEK−293細胞でヒトVEGFタンパク質が上方制御された。VEGFタンパク質の低酸素誘導増加は、ヒト抗HIF−1アルファsiRNAでトランスフェクションした細胞中で減少した。非特異的siRNA(EGFP siRNA)での低酸素細胞のトランスフェクション、またはsiRNAを用いない模擬トランスフェクションは、VEGFタンパク質レベルに何らの効果ももたらさなかった。抗HIF−1アルファsiRNAであるhHIF1番号12、hHIF1番号13、およびhHIF1番号16は、非低酸素HEK−293細胞のVEGFタンパク質発現に近づくレベルにまでVEGFタンパク質発現が減少した。抗HIF−1アルファsiRNAであるhHIF1番号11は、非低酸素HEK−293細胞のVEGFタンパク質発現を下回るまで減少した。
【0115】
対照および実験細胞から細胞培地を除去した後、以下に示す細胞毒性アッセイを行った。10%AlamarBlue(Biosource,カマリロ,カリフォルニア州)を含有する完全成長培地を各ウェルに添加し、細胞を5%CO、37℃で3時間インキュベートした。細胞増殖を、細胞代謝活性に起因するAlamarBlueを含む培地の色変化を検知することにより測定した。細胞毒性アッセイの結果はAD340プレートリーダー(Beckman Coulter)で読み出され、その結果を図2に示した。図2に示されるように、試験した20個の抗HIF−1アルファsiRNAのいずれにおいてもHEK−293細胞中に有意な細胞毒性は見られなかった。
【0116】
細胞毒性アッセイを行った後、各ウェルにおける増殖培地を完全に取り除き、HEK−293細胞からのRNA抽出を、RNA queous RNA単離キット(Ambion,オースティン,テキサス州)を用いて製品使用説明書に従い行った。細胞中のヒトHIF−1アルファおよびVEGF mRNAのレベルを、定量逆転写ポリメラーゼ連鎖反応法(RT−PCR)により、内標準としてヒトグリセルアルデヒド−3−リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH)mRNAを用い、測定した。
【0117】
RT−PCR実験により、非低酸素細胞中のVEGF mRNA発現と比較してヒトVEGFのmRNAレベルが低酸素において増加していることが示された。低酸素細胞中のVEGF mRNAレベルは、抗HIF−1アルファsiRNAでのトランスフェクションにより減少した。非特異的siRNA(EGFP siRNA)を用いた低酸素細胞のトランスフェクション、あるいはsiRNAを用いない模擬トランスフェクションにおいては、VEGF mRNAレベルは減少しなかった。従って、HIK−293細胞中への抗HIF−1アルファsiRNAの導入により、非特異的siRNAを用いて、あるいはsiRNAを用いないでトランスフェクトされた細胞と比較して、VEGF mRNAの分解が誘導された。図1に示されるように、VEGF mRNAの分解は、VEGFタンパク質産物における減少と相互関係を示す抗HIF−1アルファsiRNAにより、誘導された。
【0118】
実施例2:脈絡膜新生血管形成のマウスモデルにおける抗HIF−1アルファsiRNAを用いた血管新生のin vivo阻害
成体(8〜15週齢)メスC57B1/6マウス(n=7)をアベルチン(2,2,2−トリブロモエタノール)で麻酔し、1%のトロピカミドで瞳孔を拡張した。ダイオードレーザー光凝固装置(IRIS Medical,マウンテンビュー,カリフォルニア州)、及びコンタクトレンズとしてカバースリップを備えたスリットランプシステムを使用し、左右相称にレーザー光凝固術を施した。レーザー光凝固術(140mW;75ミクロンスポットサイズ;0.1秒持続時間)を視神経から2〜3ディスク直径の所で、両眼の9時、12時、3時の位置に施した。ブルーフ膜の破裂は有意な脈絡膜新生血管形成(CNV)を作るために必要であるため、ブルーフ膜の破裂のしるしとしてレーザー光凝固時における気泡形成が用いられた。ブルーフ膜の破裂を誘導しないレーザー噴射は本研究から除外した。
【0119】
レーザー処理後直ちに、マウスHIF‐1アルファmRNA標的siRNAを試験群の各動物の両眼に注射(intravitreal injection)した。対照動物には担体のみを注射(intravitreal injection)した。
【0120】
マウス抗HIF‐1アルファmRNAの標的配列は、AACTAACTGGACACAGTGTGT (配列ID番号297)であり、用いられたsiRNAは、
5’−cuaacuggacacaguguguTT‐3'(配列ID番号298)
3’−TTgauugaccugugucacaca‐5' (配列ID番号299)
レーザー光凝固から12日後、網膜/脈絡膜血管系を標識するために高分子量のデキストラン−フルオレセイン(Molecular Probes,ユージーン,オーランド州)を灌流し、眼を摘出した。各CNV領域を脈絡膜フラットマウント調製物において測定した。
【0121】
脈絡膜フラットマウントを調製するために、前眼房を除去し、網膜を硝子体で抽出し、アイカップを残した。アイカップ上で切り口を弛緩し、脈絡膜をスライド上に平坦化した。蛍光照明(epifluorescence illumination)を具備するライカ DMR顕微鏡(Wetzlar,ドイツ)を使用し、マスクした研究者がデキストラン−フルオレセイン灌流フラットマウント調製物中で、レーザー光にあらかじめ曝された領域に対応する環状蛍光(フルオレセイン陽性)領域として病変を同定した。OpenLab 2.2ソフトウェアを具備するアップルマッキントッシュG4コンピューター(クパチーノ,カリフォルニア州)に連結したモノクロHamamatsu CCDカメラ(Hamamatsu Photonics,ブリッジウォーター,ニュージャージー州)を使用し、病変の画像を取り込んだ。公知サイズのgratingでスライドからキャリブレーション画像が得られた。レーザー照射領域内の超蛍光性フルオレセイン−デキストラン標識血管がOpenlabソフトウェアを使用し「重要領域」(ROI)として選択され、このソフトウェアはROIにおいてホワイトピクセルにより占められる領域(μm2)を計算するために使用された。Openlabソフトウェアに規定されているように、2000〜4090強度ユニットの範囲におけるレーザー照射部位におけるピクセルを同定するために、Openlab"magic wand"ツールを使用することにより、同一統合調節下に画像を収集した後、ROIを選択した。選択された強度ユニットは通常のフルオレセイン灌流血管系において測定されたレベルを表示した。参考のために、バックグラウンドの強度、非蛍光性領域は<450強度ユニットであった。
【0122】
通常、ROIは傾向性を欠く領域により充分に限界が定められている。CNV領域を測定した後、Openlabソフトウェアの"apply wavelength"機能を使用し、515ナノメータにおける強度ランプを適用することによりOpenlabにて画像をカラー化した。この強度ランプは画像中全てのピクセルに適用され、もっとも白いピクセルを最も明るいグリーンカラーとする。次いで、画像をプレゼンテーション目的でAdobe Photoshopソフトウェアにエクスポートした。脈絡膜フラットマウントのブライトフィールド分析後レーザー照射の証拠がない状態が除外された。
【0123】
片側分布(one−tailed distribution)、二サンプルの非同等分散スチューデントt検定(two sample unequal variance Student’s t−test)を使用し、結果の統計分析を行った。抗HIF1アルファsiRNA試験動物と対照レーザー動物との間には統計的にCNV領域に有意な減少(P=0.000354)が見られ、項HIF−1アルファsiRNAを受容する動物において血管新生に実質的な減少が示された。結果を図3に示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒトHIF−1アルファmRNAの発現を阻害する薬学的組成物の製造のための、センスRNA鎖及びアンチセンスRNA鎖を含有するsiRNAの有効量の使用であって、前記センスRNA鎖及びアンチセンスRNA鎖はRNA二本鎖を形成し、該センスRNA鎖は、ヒトHIF−1アルファmRNAにおける19個〜25個の連続ヌクレオチドの標的配列と同一であるヌクレオチド配列を有するものであり、その結果、ヒトHIF−1アルファmRNAが分解される、使用。
【請求項2】
請求項1に記載の使用において、ヒトHIF−1アルファmRNAの発現は、被験体の片方又は両方の眼中において阻害されるものである。
【請求項3】
請求項1に記載の使用において、ヒトHIF−1アルファmRNAの発現は、被験体の網膜色素上皮細胞において阻害されるものである。
【請求項4】
請求項1に記載の使用において、siRNAの前記有効量は、新生血管形成領域又はその近傍で1nM〜100nMの細胞内濃度を提供する量である。
【請求項5】
請求項1に記載の使用において、前記siRNAはデリバリー試薬(delivery reagent)と組み合わせて投与されるものである。
【請求項6】
請求項5に記載の使用において、前記デリバリー試薬(delivery reagent)は、リポフェクチン、リポフェクタミン(lipofectamine)、セルフェクチン(cellfectin)、ポリカチオン(polycation)、及びリポソームからなる群から選択されるものである。
【請求項7】
請求項6に記載の使用において、前記デリバリー試薬(delivery reagent)はリポソームである。
【請求項8】
請求項7に記載の使用において、前記リポソームは、血管新生の領域又はその近傍における細胞を前記リポソームの標的とするリガンドを有するものである。
【請求項9】
請求項8に記載の使用において、前記リガンドは腫瘍細胞又は血管内皮細胞の受容体に結合するものである。
【請求項10】
請求項9に記載の使用において、前記リガンドはモノクローナル抗体を有するものである。
【請求項11】
請求項7に記載の使用において、前記リポソームはオプソニン化阻害部位(opsonization−inhibition moiety)で修飾されているものである。
【請求項12】
請求項11に記載の使用において、前記オプソニン化阻害部位(opsonization−inhibition moiety)はPEG、PPG、又はその誘導体を有するものである。
【請求項13】
請求項1に記載の使用において、前記siRNAは組換えプラスミドから発現するものである。
【請求項14】
請求項1に記載の使用において、前記siRNAは組換えウイルス性ベクターから発現するものである。
【請求項15】
請求項14に記載の使用において、前記組換えウイルス性ベクターは、アデノウイルスベクター、アデノ髄伴ウイルスベクター、レンチウイルスベクター、レトロウイルスベクター、又はヘルペスウイルスベクターである。
【請求項16】
請求項15に記載の使用において、前記組換えウイルス性ベクターは、水疱性口内炎ウイルス、狂犬病ウイルス、エボラウイルス、又はモコラウイルスからの表面タンパク質によって偽型化されるものである。
【請求項17】
請求項14に記載の使用において、前記組換えウイルス性ベクターは、アデノ髄伴ウイルスベクターを有するものである。
【請求項18】
請求項1に記載の使用において、前記薬学的組成物は、経腸的投与経路によって投与されるものである。
【請求項19】
請求項18に記載の使用において、前記経腸的投与経路は、経口、直腸、及び鼻腔内からなる群から選択されるものである。
【請求項20】
請求項1に記載の使用において、前記薬学的組成物は非経口的投与経路によって投与されるものである。
【請求項21】
請求項20に記載の使用において、前記非経口的投与経路は、静脈内投与、組織周囲及び組織内投与、皮下注射又は沈着、皮下注入、眼内投与、及び新生血管形成領域又はその近傍への直接適用からなる群から選択されるものである。
【請求項22】
請求項21に記載の使用において、前記静脈内投与は、静脈内ボーラス注射、静脈内注入、動脈内ボーラス注射、動脈内注入、及び血管系へのカテーテル点滴からなる群から選択されるものである。
【請求項23】
請求21に記載の使用において、前記組織周囲及び組織内注射は腫瘍周囲注射又は腫瘍内注射を有するものである。
【請求項24】
請求項21に記載の使用において、前記眼内投与は、硝子体内、網膜内、網膜下、サブテノン(subtenon)、眼窩周囲及び眼窩後方、角膜超(trans‐corneal)又は強膜超(trans‐scleral)投与を有するものである。
【請求項25】
請求項21に記載の使用において、前記新生血管形成領域又はその近傍への直接適用は、カテーテル、角膜ペレット剤、点眼剤、坐剤、多孔性物質を含むインプラント、非多孔性物質を含むインプラント、又はゼラチン物質を含むインプラントによる適用を有するものである。
【請求項26】
請求項21に記載の使用において、前記新生血管形成領域は眼であり、新生血管形成領域又はその近傍への直接適用は眼球インプラントによる適用を有するものである。
【請求項27】
請求項26に記載の使用において、前記眼球インプラントは生分解性である。
【請求項28】
被験体における血管新生を阻害する薬学的組成物の製造のための、センスRNA鎖及びアンチセンスRNA鎖を含有するsiRNAの有効量の使用であって、前記センスRNA鎖及びアンチセンスRNA鎖はRNA二本鎖を形成し、前記センスRNA鎖は、ヒトHIF−1アルファmRNAにおける19個〜25個の連続ヌクレオチドの標的配列と同一であるヌクレオチド配列を有するものである、使用。
【請求項29】
請求項28に記載の使用において、血管新生は病原性である。
【請求項30】
請求項28に記載の使用において、血管新生は非病原性である。
【請求項31】
請求項30に記載の使用において、前記非病原性血管新生は、脂肪組織又はコレステロール産物に関連するものである。
【請求項32】
請求項30に記載の使用において、前記非病原性血管新生は、子宮内膜新生血管形成を有するものである。
【請求項33】
請求項28に記載の使用において、前記血管新生は被験体の一方又は両方の眼において阻害されるものである。
【請求項34】
被験体における血管新生疾患を治療する薬学的組成物の製造のための、センスRNA鎖及びアンチセンスRNA鎖を含有するsiRNAの有効量の使用であって、前記センスRNA鎖及びアンチセンスRNA鎖はRNA二本鎖を形成し、前記センスRNA鎖は、ヒトHIF−1アルファmRNAにおける19個〜25個の連続するヌクレオチドの標的配列と同一であるヌクレオチド配列を有するものであり、その結果、血管新生疾患に関連する血管新生が阻害されるものである、使用。
【請求項35】
請求項34に記載の使用において、前記血管新生疾患は、癌に関連する腫瘍を含むものである。
【請求項36】
請求項35に記載の使用において、前記癌は、胸部癌、肺癌、頭部及び頸部癌、脳癌、腹部癌、結腸癌、食道癌、胃腸癌、神経腫瘍、肝臓癌、舌癌、神経芽細胞腫、骨肉腫、卵巣癌、膵臓癌、前立腺癌、網膜芽細胞腫、ウィルムス腫瘍、多発性骨髄腫、皮膚癌、リンパ腫、及び血液癌からなる群から選択されるものである。
【請求項37】
請求項34に記載の使用において、前記血管新生疾患は、糖尿病性網膜症、加齢性黄斑変性及び炎症性疾患からなる群から選択されるものである。
【請求項38】
請求項37に記載の使用において、前記炎症性疾患は、乾癬又はリウマチ性関節炎である。
【請求項39】
請求項37に記載の使用において、前記血管新生疾患は、加齢性黄斑変性である。
【請求項40】
請求項34に記載の使用において、前記薬学的組成物は、血管新生疾患を治療するための、前記siRNAとは異なる薬学的試薬と組み合わせて投与されるものである。
【請求項41】
請求項40に記載の使用において、前記血管新生疾患は癌であり、前記薬学的試薬は化学療法薬を含むものである。
【請求項42】
請求項40に記載の使用において、前記化学療法薬は、シスプラチン、カルボプラチン、シクロホスファミド、5−フルオロウラシル、アドリアマイシン、ダウノルビシン、及びタモキシフェンからなる群から選択されるものである。
【請求項43】
請求項34に記載の使用において、前記薬学的組成物は、血管新生疾患を治療するために設計された他の治療法と組み合わせて投与されるものである。
【請求項44】
請求項43に記載の使用において、前記血管新生疾患は癌であり、前記薬学的組成物は放射線治療、化学療法又は手術と組み合わせて投与されるものである。
【請求項45】
ヒトHIF−1アルファmRNAの発現を阻害する薬学的組成物の製造のための、センスRNA鎖及びアンチセンスRNA鎖を含有するsiRNAの有効量の使用であって、前記センスRNA鎖及びアンチセンスRNA鎖はRNA二本鎖を形成し、前記センスRNA鎖は、ヒトHIF−1アルファmRNAにおける19個〜25個の連続ヌクレオチドの標的配列と同一であるヌクレオチド配列を有するものであり、その結果、ヒトHIF−1アルファmRNAが分解されるものであり、前記標的配列は、配列ID番号223を有するものである、使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−57677(P2011−57677A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2010−216077(P2010−216077)
【出願日】平成22年9月27日(2010.9.27)
【分割の表示】特願2004−550399(P2004−550399)の分割
【原出願日】平成15年10月31日(2003.10.31)
【出願人】(500429103)ザ・トラスティーズ・オブ・ザ・ユニバーシティ・オブ・ペンシルバニア (102)
【Fターム(参考)】