説明

HIV/AIDSの処置用の他の抗ウイルス剤と組み合わせたパラポックスウイルス

本発明は、ウイルス性疾患、特にHIV感染およびAIDSの処置用の他の物質と組み合わせたパラポックスウイルスの使用に関する。本発明はまた、パラポックスウイルスと他の抗ウイルス剤の組合せをベースとする医薬の製造方法に関する。特に、本発明は、抗レトロウイルス剤療法および高活性抗レトロウイルス剤療法(HAART)に使用される種類の物質と組み合わせたパラポックスウイルスの使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウイルス性疾患、特にHIV感染およびAIDSの処置用の他の物質と組み合わせたパラポックスウイルス(Parapoxvirus)の使用に関する。本発明はまた、パラポックスウイルスと他の抗ウイルス剤の組合せをベースとする医薬の製造方法に関する。特に、本発明は、抗レトロウイルス剤療法(ART)および高活性抗レトロウイルス剤療法(HAART)に使用される種類の物質と組み合わせたパラポックスウイルスの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
ウイルス感染の処置のためのPPVOの使用は、知られている[1]。免疫系の増強のためのPPVOの使用も知られている[2]。
【0003】
HAARTは、HIV感染のウイルス量(HIウイルス量)を低減するための、既知の治療手法である。HAARTが患者のCD4+細胞の増加をもたらすことも知られている[3]。しかしながら、当業者は、HAARTがウイルスの排除には至らず、感染は低減されたウイルス量で持続することを知っている。HAARTが免疫系の永久的な再構成を誘起しないことも知られている[4]。治療を中止または中断すると、ウイルス量は再度増加し、CD4+細胞の数は低下する[5]。
【0004】
HAARTとサイトカイン(IL−2など)の組合せは、HAART患者の免疫系を強化するが、免疫系の永久的再構成は誘起されず、副作用が発生する[6]。
【0005】
他のタイプの治療(例えば、自己の、エクスビボで増殖または改変されたHIV特異的CTL(細胞傷害性Tリンパ球)クローンの再注入)は、CD8+細胞の応答を増加させる。しかしながら、この増加も一過性にすぎない[7]。免疫不全の正確な原因およびHIVからの免疫保護の相関は、未だに解明されていない[8]。抗ウイルス処置により初感染の初期段階でHIウイルス量が低減されるならば、特異的に免疫不全ウイルスに対する有効な免疫を確立できる[9]。対照的に、HAARTで処置された慢性感染患者では、HIV特異的免疫応答の増強は起こらない。全く反対に、HIV特異的免疫応答は減少しさえする[8]。Lu らによる実験は、免疫制御の欠陥が免疫応答の誘導期に、即ち、樹状細胞によるウイルス特異的応答の開始にあり得ることを示している[10]。これらの著者は、SIV感染アカゲザルが、不活性化HIV粒子を負荷された自家性樹状細胞の獲得的移動の後に、特異的な細胞性および体液性免疫応答を示すことを立証するのに成功した。
【0006】
上述の先行技術から明らかな通り、慢性感染患者におけるウイルス量を低下させるのみならず、同時に感染患者の免疫系の永久的再構築を誘起する治療法は、今まで開示されなかった。
【0007】
従って、本発明は、患者のウイルス量を低減させるのみならず、免疫系の永久的再構築をもたらす治療法を提供するという技術的課題をベースとしている。この治療法は、また、望まざる副作用が殆どまたは全くないべきである。
【0008】
本発明はさらに、本発明による治療法で使用するための医薬を提供するという技術的課題をベースとしている。
【0009】
図面の簡単な説明
図1:PPVOによる刺激後の、健康または免疫無防備状態のドナーのCD14単球のTNF−α産生。各場合で2人のドナーの全血を分析した。(A)健康なドナー(B)HIV感染ドナー(HIV+)または(C)移植患者(Tx)の血液を、スタフィロコッカスエンテロトキシンB(SEB;2.5μg/ml)、PPVO(6x10個のウイルス粒子)、PPVOのプラセボ対照としての媒体、またはリポペプチド(LP1μg/ml)と6時間インキュベートした。その後、TNF−αを産生するCD14high単球の相対量(%)をFACS分析により決定した。
【0010】
図2:PPVO処置は、hu−PBL−SCIDマウスのHIVウイルス量を低減させる。HIVBalに感染したhu−PBL−SCIDマウスの脾臓中のHIVのコピー数(ヒトGAPDH RNAに対して標準化)。各処置群の平均±標準誤差を示す。PBS(+媒体)n=13、AZT(+媒体)n=17、PBS+PPVO n=15、AZT+PPVO n=19。**ウイルス量は、AZT+PPVO処置群で、PBS(+媒体)(p<0.01)と比較して有意に減少する。データは、2つの別の実験に由来し、媒体は1つの実験のみで使用した。
【0011】
図3:ARTと組み合わせたPPVOは、SIV感染マカークのより長い生存を導く。実験過程における生存動物の数を示す。PPVO+ARTは、全ての他の群と比較して、死亡率の低下および寿命の延長を導く。全ての死亡した動物は、免疫不全に関連する症候群で死んだ。
【0012】
図4:PPVOではなくARTがSIVウイルス量の低減を導く。SIV血漿ウイルス量と相関する、細胞に結合しているウイルス量を示す。各群(n=2−4)の平均を示す。速いウイルスのリバウンドがARTおよびART+PPVO群で観察できた。
【0013】
図5A:PPVO処置は、SIV感染サルにおけるCD4+細胞の回復を導く。示した時点における、CD3+CD4+細胞の絶対数/血液1μlの各群の平均をベースラインの%で示す(n=2ないし4匹の動物)。PPVOは、CD3+CD4+細胞数の安定化または増加さえ導くが、一方ART単独の群の動物は、CD3+CD4+細胞の損失を経験する。
【0014】
図5B:PPVO処置は、SIV感染サルにおけるCD4+細胞の回復を導く。示した時点における、CD3+CD4+細胞/血液1μlの個々の絶対数を、群毎の平均と共に示す。色つきのボックス中の数字は、感染前の全群のCD3+CD4+細胞/血液1μlの平均絶対数、または、p.i.59週での各群のCD3+CD4+細胞/血液1μlの平均絶対数を各々表す。;□処置期間;*ART:p.i.53週;**PPVO:1匹の動物の値がない。PPVO処置は、CD3+CD4+細胞数の安定化または増加さえ導くが、一方ART単独の群の動物は、CD3+CD4+細胞の損失を経験する(処置後間もなく、例えば63週まで)。
【0015】
図6:PPVO処置は、ベースラインより高いCD3+CD8+細胞数の増加を導く。示した時点における、CD3+CD8+細胞/血液1μlの個々の絶対数を、ベースラインの%で示す(n=2ないし4匹の動物)。PPVO+ARTは、ベースラインの値を超えており、CD3+CD8+細胞の増加についてPPVO単独より効果的である。
【発明の開示】
【0016】
本発明は、以下に関する:
1.ウイルス性疾患の処置用の医薬を製造するための、少なくとも1種のさらなる抗ウイルス剤と組み合わせたパラポックスウイルスの使用。
【0017】
本発明はさらに、少なくとも1種のさらなる抗ウイルス剤と組み合わせたウイルス性疾患の処置用医薬を製造するための、パラポックスウイルスの使用に関する。本発明の別の態様は、ウイルス性疾患に苦しんでいる患者を処置するためのパラポックスウイルスの使用に関し、ここで、少なくとも1種のさらなる抗ウイルス剤が、該患者に該ウイルス性疾患を処置するために与えられる。さらに、本発明は、ウイルス性疾患の処置方法に関し、その方法では、パラポックスウイルスが他の抗ウイルス剤と組み合わせて投与される。
【0018】
本発明によると、パラポックスウイルスは、パラポックスウイルスファミリーのウイルス、例えば、パラポックスウイルスオヴィス(ovis)、パラポックスウイルスオヴィス株D1701、パラポックスウイルスオヴィス株NZ−2、パラポックスウイルスオヴィス株NZ−7、パラポックスウイルスオヴィス株NZ−10またはorfウイルス(例えば、orf−11)と理解される。
【0019】
本発明はまた、ARTおよび/またはHAARTで有効な物質と組み合わせた、ヒトおよび動物におけるウイルス感染に対する医薬を製造するための、例えばWI−38、MRC−5などのヒト細胞、サル細胞、例えばVero細胞、ウシ細胞、例えばBK−Kl3A47/RegまたはMDBK、およびウシ細胞、例えばMDOKなどの適当な細胞系を使用する植え継ぎまたは順応により得られる上述のパラポックスウイルス株の誘導体の使用に関する。
【0020】
加えて、本発明は、ARTおよび/またはHAARTで有効な物質と組み合わせた、上述の株およびそれらの植え継ぎおよび順応変異体の一部またはフラグメントの使用に関する。本発明によると、ウイルスの一部またはフラグメントは、ウイルス全体またはその遺伝的核酸のゲノムまたはサブゲノムのフラグメントまたは他のウイルスの成分であると理解され、それは、線維芽細胞培養などの適当な系で、ワクシニアウイルスなどの適当なベクターを利用して発現される。好ましい変法では、本発明によるパラポックスウイルスの一部またはフラグメントは、例えば濾過またはクロマトグラフィーなどの常套法により精製される。他の好ましい変異体では、本発明によるパラポックスウイルスの一部またはフラグメントは、当業者に知られている方法による組換えにより産生される。本発明によると、ウイルス性疾患は、ウイルス感染によりもたらされるか、またはウイルス感染に伴う、全てのヒトおよび動物の疾患である。
本発明の好ましい変法では、抗ウイルス剤は抗レトロウイルス剤である。
【0021】
2.本発明はまた、ウイルス性疾患がHIV感染および/またはAIDSである、第1項に従う使用に関する。
【0022】
3.本発明はまた、パラポックスウイルスが、パラポックスウイルスオヴィス、パラポックスウイルスオヴィス株D1701、パラポックスウイルスオヴィス株NZ2、パラポックスウイルスオヴィス、パラポックスウイルスオヴィス株NZ−7、パラポックスウイルスオヴィス株NZ−10またはパラポックスウイルスオヴィス株orf−11である、第1項または第2項に従う使用に関する。本発明のさらなる変法では、パラポックスウイルスは、これらの株の植え継ぎにより得られるパラポックスウイルスである。
【0023】
4.本発明はまた、パラポックスウイルスが不活性化形態で存在する第1項ないし第3項のいずれかに従う使用に関する。パラポックスウイルスの不活性化は、当業者に知られているウイルスの不活性化法により実行する。好ましい変法では、パラポックスウイルスは、欧州特許番号EP−B1−0312839に記載の方法により不活性化される。
【0024】
5.本発明はまた、ウイルス性疾患の処置が患者のウイルス量の低減をもたらす、第1項ないし第4項のいずれかに従う使用に関する。本発明によると、ウイルス量の低減は、特に、患者の体内のウイルス粒子の数の低減であると理解される。
【0025】
6.本発明はまた、ウイルス性疾患の処置が免疫系の再構成を誘起する、第1項ないし第5項のいずれかに従う使用に関する。本発明によると、免疫系の再構成は、血中のCD3+およびCD4+細胞の濃度の上昇を特徴とする。本発明の好ましい態様では、免疫系の再構成は、血中のCD4+およびCD8+細胞の濃度の上昇を特徴とする。本発明の他の好ましい態様では、免疫系の再構成は、血中のCD4+およびCD8+およびCD3+細胞の濃度の上昇を特徴とする。本発明の他の好ましい態様では、免疫系は、永久的に、即ち、恒久的に、再構成される。
【0026】
7.本発明はまた、ウイルス性疾患の処置が、患者の血中のCD4+および/またはCD8+細胞の増加をもたらす、上述の第1項ないし第6項のいずれかに従う使用に関する。血中のCD4+およびCD8+細胞の濃度の同時上昇が特に好ましい。
【0027】
8.本発明はまた、抗ウイルス剤がHAART療法用の物質である、上述の第1項ないし第7項のいずれかに従う使用に関する。本発明はまた、抗ウイルス剤がART療法用の物質である、上述の第1項ないし第7項のいずれかに従う使用に関する。
【0028】
9.本発明はまた、抗ウイルス剤が、Gilead Sciences の Viread(登録商標)(テノフォビルジスプロキシル(disproxil)フマレート、TDF)、Gilead Sciences の Emtriva(商標)(エムトリシタビン(emtricitabine)、FTC)、Bristol-Myers Squibb の Videx(登録商標)および Videx(登録商標)EC (ジダノシン、ddI)、Bristol-Myers Squibb の Zerit(登録商標)および Zerit(登録商標)XR (スタブジン、d4T)、GlaxoSmithKline の Epivir(登録商標)(ラミブジン、3TC)、GlaxoSmithKline の Retrovir(登録商標)(ジドブジン、AZT)、GlaxoSmithKline の Ziagen(登録商標)(アバカビル、ABC)、GlaxoSmithKline の Combivir(登録商標)(AZT および 3TC)、GlaxoSmithKline の Trizivir(登録商標)(AZT、3TC および ABC)、Roche Laboratories の Hivid(登録商標)(ザルシタビン、ddC)、Bristol-Myers Squibb の Sustiva(登録商標)(エファビレンツ、EFV)、Boehringer Ingelheim の Viramune(登録商標)(ネビラピン、NVP)、Agouron Pharmaceuticals の Rescriptor(登録商標)(デラビルジン、DLV)、Bristol-Myers Squibb の Reyataz(商標)(アタザナビル(atazanavir)、ATV)、Abbott Laboratories の Norvir(登録商標)(リトナビル、RTV)、GlaxoSmithKline の Agenerase(登録商標)(アンプレナビル、APV)、Abbott Laboratories の Kaletra(登録商標)(ロピナビル/リトナビル、LPV/RTV)、Agouron Pharmaceuticals の Viracept(登録商標)(ネルフィナビル、NFV)、Merck&Co.の Crixivan(登録商標)(インジナビル、IDV)、Roche Laboratories の Fortovase(登録商標)(サキナビル、SQV-SGC)、Roche Laboratories の Invirase(登録商標)(サキナビルメシレート、SQV-HGC)、Roche Laboratories の Fuzeon(商標)(エンフビルチド(enfuvirtide)、T-20)、The Immune Response Corp.の Remune、Janssen Research Foundation Worldwide の Etravirine (TMC-125、R-165335)、Shionogi&Co. Ltd.の Capravirine、Pfizer の UK-427857 もしくは Gilead Sciences の Tenofovir (PMPA) または他の抗ウイルスまたは免疫調節性医薬を活性成分として含む、上述の第1項ないし第8項のいずれかに従う使用に関する。
【0029】
本発明はまた、抗ウイルス剤がAZTまたは3TCまたはPMPAを活性成分として含む上述の第1項ないし第8項のいずれかに従う使用に関し、特に好ましい。
【0030】
10.本発明はまた、疾患の処置が樹状細胞または他の抗原提示細胞の成熟化および/または刺激をもたらす、上述の第1項ないし第9項のいずれかに従う使用に関する。
【0031】
本発明の医薬組成物は、通常および腸溶性被覆の錠剤、カプセル剤、丸剤、散剤、顆粒剤、エリキシル剤、チンキ剤、液剤、懸濁剤、シロップ剤、固体および液体エアゾル剤および乳剤など(これらに限定されない)の経口の形態で投与し得る。それらはまた、医薬分野の当業者に周知の、静脈内、腹腔内、皮下、筋肉内など(これらに限定されない)の非経腸形態などの形態で投与し得る。本発明の医薬組成物は、適当な鼻腔内媒体の局所使用により鼻腔内形態で、または、当業者に周知の経皮送達システムを使用して経皮経路で、投与できる。
【0032】
本発明の医薬組成物の使用を伴う投薬法は、受容者の年齢、体重、性別および健康状態、処置しようとする症状の重篤度、投与経路、受容者の代謝および排出機能のレベル、用いる投与形を非限定的に含む様々な要因に鑑みて、当業者により選択される。
【0033】
本発明の医薬組成物は、好ましくは、投与に先立ち製剤化され、1種またはそれ以上の医薬的に許容し得る補助剤を含む。補助剤は、担体、希釈剤、風味剤、甘味料、潤滑剤、可溶化剤、懸濁化剤、結合剤、錠剤崩壊剤およびカプセル化材料など(これらに限定されない)の不活性物質である。
【0034】
また他の実施態様では、本発明の医薬製剤は、製剤の他の成分と適合し、その受容者に有害でない、1種またはそれ以上の医薬的に許容し得る補助剤を含む。本発明の組成物の製造において、有効成分を希釈剤と混合し得るか、または、カプセル、サシェ、紙または他の容器の形態であり得る担体に封入し得る。担体は、希釈剤として働き得、それは媒体として作用する固体、半固体または液体物質であり得るか、または、錠剤、丸剤、散剤、トローチ剤、エリキシル剤、懸濁剤、乳剤、液剤、シロップ剤、エアゾル剤、例えば活性医薬組成物の10重量%までを含有する軟膏、ソフトおよびハードゼラチンカプセル剤、坐剤、滅菌注射可能液剤および滅菌包装散剤の形態であることができる。
【0035】
経口投与のために、有効成分を、ラクトース、スターチ、スクロース、グルコース、炭酸ナトリウム、マンニトール、ソルビトール、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、硫酸カルシウム、メチルセルロースなど(これらに限定されない)の経口用、非毒性、医薬的に許容し得る担体と;場合により、トウモロコシ、デンプン、メチルセルロース、寒天、ベントナイト、キサンタンゴム、アルギン酸など(これらに限定されない)の崩壊剤;および、場合により、例えば、ゼラチン、ポリゲリン(polygeline)、天然の糖、ベータ−ラクトース、トウモロコシ甘味料、天然および合成ゴム、アカシア、トラガカント、アルギン酸ナトリウム、カルボキシメチルセルロース、ポリエチレングリコール、蝋など(これらに限定されない)の結合剤;および、場合により、例えば、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸、オレイン酸ナトリウム、安息香酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、塩化ナトリウム、タルクなど(これらに限定されない)潤滑剤と一緒に、合わせ得る。
【0036】
散剤形態では、担体は、微粉化された有効成分と混合されている、微粉化された固体であり得る。有効成分は、結合特性のある担体と適当な割合で混合し、錠剤を産生するのに望ましい形と大きさに圧縮し得る。散剤および錠剤は、好ましくは、約1ないし約99重量パーセントの本発明の新規組成物である有効成分を含有する。適当な固体担体は、マグネシウムカルボキシメチルセルロース、低融点の蝋およびカカオバターである。滅菌液体製剤には、懸濁剤、乳剤、シロップ剤およびエリキシル剤が含まれる。有効成分を、滅菌水、滅菌有機溶媒または滅菌水と滅菌有機溶媒の両方の混合物などの医薬的に許容し得る担体に溶解または懸濁できる。
【0037】
有効成分は、例えば、水性プロピレングリコールなどの適当な有機溶媒に溶解することもできる。他の組成物は、微粉化された有効成分を水性スターチまたはナトリウムカルボキシメチルセルロースの溶液または適当な油に分散させることにより製造できる。
【0038】
製剤は、ヒトまたは他の哺乳動物での投与に適する単位用量を含有する物理的に分離した単位である、投薬単位形であり得る。投薬単位形は、1個のカプセル剤もしくは錠剤、または、数個のカプセル剤または錠剤であり得る。「単位用量」は、1種またはそれ以上の賦形剤と共同して所望の治療効果を奏するように計算された本発明の活性医薬組成物の予め定められた量である。投薬量は、約10ないし約1012の投与毎の物理的なウイルス粒子数の範囲にあるか、または物理的な粒子数/kg/日に基づく。
【0039】
本発明の医薬組成物は、1回の1日用量で投与し得るか、または、総1日用量を、分割された用量で、1日2回、3回またはそれ以上の回数で投与し得る。送達が経皮形態である場合、当然、投与は好ましくは継続的である。
【実施例】
【0040】
本発明のさらなる態様を、以下の実施例により例示説明する。
実施例1:PPVOは、インビトロで樹状細胞の成熟化を誘導する
樹状細胞は、一次免疫応答の開始に主要な役割を果たす抗原提示細胞である。それらの表現型および機能の特徴は、それらの成熟段階に密接に関連している[11]。PPVOによる全血細胞の刺激はDCの成熟化を導き、それにより、それらが免疫応答を非常に効率的に誘導できる機能的状態にそれらを変換する:PPVOは、CD14単球(図1)および未成熟DCにおいて、TNF−αの発現を刺激できる。全血サンプル由来のCD14単球におけるTNF−αの産生は、健康なドナーに限定されないだけでなく、PPVOは、免疫抑制HIV患者並びに移植患者由来のCD14単球でもTNF−α発現を刺激する(図1)。加えて、PPVOによる24時間にわたる全血の刺激は、健康なドナーおよび免疫無防備状態のドナーに由来する血液における初期活性化マーカーCD69の発現によりわかる通り、T−細胞(CD4+およびCD8+)の活性化を導く(データは開示しない)。従って、免疫抑制の、特にHIV感染患者において、免疫応答の初期段階はPPVOにより影響を及ぼされ得ると考えられる。
【0041】
実施例2:hu−PBL−SCIDにおけるHIV
PPVOのHIVに対する活性を試験するために、該免疫調節物質をhu−PBL−SCIDモデルで調べた。簡潔に述べると、SCIDマウスにヒトPBMCを移植した。再構成が確認された動物を選択し、腹腔内注射によりHIVBalに感染させた。注射の30分後に処置を開始した。AZT(100mg/kg/日)を1日2回経口で与え、一方、PPVOは、i.p.経路で週に2回のみ与えた。PPVOの1用量は、ELISAで測定される2x10抗原単位からなった。各々の処置スケジュールに従い、プラセボ(パイロジェン不含PBSおよび媒体の対照)を使用した。HIV感染後の3週間目にマウスを殺した。脾臓組織から抽出したRNA中でウイルス量をモニターした。プラセボ(PBS+媒体)と比較して、PPVO処置は、HIVのウイルス量を低減すると立証できた。標準的抗レトロウイルス剤療法(AZT)へのPPVOの追加は、HIV複製のより良好な阻害を導いた−ウイルス量は約90%まで有意に低減された(p<0.01、Kruskal-Wallis 検定)(図2)。
【0042】
実施例3:SIV
hu−PBL−SCIDマウスは、HIV感染の急性期に相当した。通常、HIV感染者の処置は、感染経過の後期に始まる。PPVOの効力を臨床的により意味のある設定で調べるために、SIV(サル免疫不全ウイルス、HIVのサルホモログ)感染モデルを用いた。
【0043】
14匹のアカゲザルをSIVに感染させた。第1の処置期間は、ウイルス血症後、慢性期の開始時、感染後(p.i.)8週目に開始し、9週間にわたった。4匹の動物を抗レトロウイルス剤療法(ART)で処置し、4匹をPPVOで処置し、4匹をARTおよびPPVOの両方で処置した。2匹の動物はプラセボ処置し、対照として供した。ART処置を毎日皮下に与え、一方、PPVO処置は週に2回のみ、筋肉内注射で与えた。2回目および3回目の8週間の処置期間を、p.i.22週目および51週目に、各々PPVOの静脈内投与で開始した。
【0044】
実験全体の間に、PPVOの毒性は観察されなかった。PPVOプラスART処置で、ARTまたはPPVO単独で処置された動物と比較して、生き残る動物の数は増加し、それらの寿命は延長される(図3)。ウイルス量の減少はARTで処置した両群で観察されたが、寿命の延長はPPVO+ART群でのみ見られたので、これは、ARTのためではない(図4)。図5Aおよび5Bに示す通り、PPVO処置はARTプラスPPVOおよびPPVO単独の群でCD4+細胞数の回復を導き(p.i.59週目の平均:各々、452または390個のCD3+CD4+細胞/血液1μl)、一方、ART単独の処置は、連続的なCD4+細胞の喪失をもたらす(p.i.59週目の平均:33個のCD3+CD4+細胞/血液1μl)(図5Aおよび5B)。
【0045】
PPVOは、CD8+細胞の増加を導き、ARTと組み合わせるとより一層効果的に導く(図6)。ART単独は、より多いCD8+細胞数を導かない。CD4+/CD8+比は、ほぼ全ての動物でゆっくりと低下している(データは開示しない)。
【0046】
この処置し難いSIV疾患のモデルでウイルス量が減少し得なくても、これらは非常に興味をそそる結果である。CD4+およびCD8+細胞の増加によりわかる通り、PPVOは、これらの慢性感染動物においてT細胞応答を増強する。ART+PPVO処置群での寿命の延長および生き残る動物数が多いことから推定して、病原体に対する免疫防御は増強されると考えられる。
【0047】
文献
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【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】PPVOによる刺激後の、健康または免疫無防備状態のドナーのCD14単球のTNF−α産生。各場合で2人のドナーの全血を分析した。(A)健康なドナー(B)HIV感染ドナー(HIV+)または(C)移植患者(Tx)の血液を、スタフィロコッカスエンテロトキシンB(SEB;2.5μg/ml)、PPVO(6x10個のウイルス粒子)、PPVOのプラセボ対照としての媒体、またはリポペプチド(LP1μg/ml)と6時間インキュベートした。その後、TNF−αを産生するCD14high単球の相対量(%)をFACS分析により決定した。
【図2】PPVO処置は、hu−PBL−SCIDマウスのHIVウイルス量を低減させる。HIVBalに感染したhu−PBL−SCIDマウスの脾臓中のHIVのコピー数(ヒトGAPDH RNAに対して標準化)。各処置群の平均±標準誤差を示す。PBS(+媒体)n=13、AZT(+媒体)n=17、PBS+PPVO n=15、AZT+PPVO n=19。**ウイルス量は、AZT+PPVO処置群で、PBS(+媒体)(p<0.01)と比較して有意に減少する。データは、2つの別の実験に由来し、媒体は1つの実験のみで使用した。
【図3】ARTと組み合わせたPPVOは、SIV感染マカークのより長い生存を導く。実験過程における生存動物の数を示す。PPVO+ARTは、全ての他の群と比較して、死亡率の低下および寿命の延長を導く。全ての死亡した動物は、免疫不全に関連する症候群で死んだ。
【図4】PPVOではなくARTがSIVウイルス量の低減を導く。SIV血漿ウイルス量と相関する、細胞に結合しているウイルス量を示す。各群(n=2−4)の平均を示す。速いウイルスのリバウンドがARTおよびART+PPVO群で観察できた。
【図5A】PPVO処置は、SIV感染サルにおけるCD4+細胞の回復を導く。示した時点における、CD3+CD4+細胞の絶対数/血液1μlの各群の平均をベースラインの%で示す(n=2ないし4匹の動物)。PPVOは、CD3+CD4+細胞数の安定化または増加さえ導くが、一方ART単独の群の動物は、CD3+CD4+細胞の損失を経験する。
【図5B】PPVO処置は、SIV感染サルにおけるCD4+細胞の回復を導く。示した時点における、CD3+CD4+細胞/血液1μlの個々の絶対数を、群毎の平均と共に示す。色つきのボックス中の数字は、感染前の全群のCD3+CD4+細胞/血液1μlの平均絶対数、または、p.i.59週での各群のCD3+CD4+細胞/血液1μlの平均絶対数を各々表す。;□処置期間;*ART:p.i.53週;**PPVO:1匹の動物の値がない。PPVO処置は、CD3+CD4+細胞数の安定化または増加さえ導くが、一方ART単独の群の動物は、CD3+CD4+細胞の損失を経験する(処置後間もなく、例えば63週まで)。
【図6】PPVO処置は、ベースラインより高いCD3+CD8+細胞数の増加を導く。示した時点における、CD3+CD8+細胞/血液1μlの個々の絶対数を、ベースラインの%で示す(n=2ないし4匹の動物)。PPVO+ARTは、ベースラインの値を超えており、CD3+CD8+細胞の増加についてPPVO単独より効果的である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウイルス性疾患の処置用の医薬を製造するための、少なくとも1種のさらなる抗ウイルス剤と組み合わせたパラポックスウイルスの使用。
【請求項2】
少なくとも1種のさらなる抗ウイルス剤と組み合わせた、ウイルス性疾患の処置用の医薬を製造するためのパラポックスウイルスの使用。
【請求項3】
ウイルス性疾患に苦しんでいる患者を処置するためのパラポックスウイルスの使用であって、該ウイルス性疾患を処置するために少なくとも1種のさらなる抗ウイルス剤を該患者に与える、使用。
【請求項4】
ウイルス性疾患がHIV感染および/またはAIDSである、請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の使用。
【請求項5】
パラポックスウイルスが、パラポックスウイルスオヴィス、パラポックスウイルスオヴィス株D1701、パラポックスウイルスオヴィス株NZ2、パラポックスウイルスオヴィス株NZ−7、パラポックスウイルスオヴィス株NZ−10、パラポックスウイルスオヴィス株orf−11、または該パラポックスウイルス株のいずれかを植え継ぐことにより得られるパラポックスウイルスである、請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の使用。
【請求項6】
パラポックスウイルスが不活性化形態で存在する、請求項1ないし請求項5のいずれかに記載の使用。
【請求項7】
ウイルス性疾患の処置が、患者のウイルス量の低減をもたらす、請求項1ないし請求項6のいずれかに記載の使用。
【請求項8】
ウイルス性疾患の処置が免疫系の再構成を誘起する、請求項1ないし請求項7のいずれかに記載の使用。
【請求項9】
ウイルス性疾患の処置が、患者のCD4+および/またはCD8+細胞の増加を誘起する、請求項1ないし請求項8のいずれかに記載の使用。
【請求項10】
抗ウイルス剤がHAART療法用の物質である、請求項1ないし請求項9のいずれかに記載の使用。
【請求項11】
抗ウイルス剤が、活性成分としてAZTまたは3TCまたはPMPAを含む、請求項1ないし請求項10のいずれかに記載の使用。
【請求項12】
疾患の処置が樹状細胞または他の抗原提示細胞の成熟化および/または刺激を誘起する、請求項1ないし請求項11のいずれかに記載の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6】
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【公表番号】特表2008−505952(P2008−505952A)
【公表日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−520721(P2007−520721)
【出願日】平成17年7月8日(2005.7.8)
【国際出願番号】PCT/EP2005/007395
【国際公開番号】WO2006/005529
【国際公開日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【出願人】(506207901)アイキュリス・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング・ウント・コムパニー・コマンディットゲゼルシャフト (30)
【氏名又は名称原語表記】AiCuris GmbH & Co. KG
【Fターム(参考)】