説明

ICカード及びその製造方法

【課題】 熱プレスでのラミネート時に感熱フィルム端部に集中的にかかる圧力により発生する絵柄の歪みや割れと、感熱フィルム端部からホットメルトがはみ出すことによる成形板の汚れを防ぎ、外観が良好で無駄なコストの発生のないICカードおよびその製造方法を提供すること。
【解決手段】 COB5とアンテナ6からなるICモジュールをコアシート2で挟み1次ラミネートされた基材シートの表裏面のいずれかに感熱フィルム7とクリアオーバーシート8a、8bを仮固定したオーバーシート3を積層し、2次ラミネートにより積層体を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ICカードに記録した情報などを視認可能とするために、リライトフィルムや印字受容層を施した感熱フィルム層の様な可視情報表示部をカード表面の一部に有するICカード及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、情報処理の効率化や個人情報等のセキュリティからICモジュールを内蔵したICカードが利用されている。ICカードには、大きく分けて接触型、非接触型及び両方の機能を兼ね備えたコンビ型の3種類がある。また、ICモジュールに記録した一部の情報を視認可能とするために、リライトフィルムや印字受容層を施したフィルムなどの感熱フィルムをICカード表面に配し、熱可逆性により印字や消去を行う事ができるICカードが知られている。
【0003】
従来、感熱フィルム層を有するICカードは、予め絵柄などが印刷されたポリ塩化ビニル(以下、PVCとする)、ポリエチレンテレフタレートグリコール(以下、PET−Gとする)などのオーバーシートの片面に感熱フィルムを配し、非接触通信用のアンテナやICモジュールを内包した基材シートを挟み込み、真空熱プレスなどによりラミネートして形成する構造である。一般に感熱フィルムは高価である為、コスト削減の観点から情報の視認が可能な必要最小限の大きさの感熱フィルムを部分的に配し、ラミネート工程の熱プレスにより加熱および加圧して感熱フィルムが配されていない面と感熱フィルム表面が面一となる様に形成している(たとえば特許文献1)。
【0004】
図3は従来のICカードの断面図であり、図3(a)はプレス前の積層構成を示す断面図、図3(b)はプレス後の積層体の断面図であり、非接触型ICカードの場合を説明している。図3(a)に示すように2枚のコアシート2でICチップや回路またはこれらが一体となったチップオンボード(以下、COBとする)5や、非接触型のICカードの場合にはアンテナ6も含むICモジュールを挟み、その外側に絵柄などを印刷した2枚のオーバーシート3を積層し、更に外側に接着層4を塗布または積層した感熱フィルム7を部分的に配し熱プレスによる加熱および加圧により感熱フィルム7をオーバーシート3に圧入し、図3(b)に示すようにICカード1の積層体としている。
【0005】
また、感熱フィルム7に塗布または積層された接着層4には熱可塑性のホットメルトが使用される場合があり、ラミネート工程においてホットメルトが感熱フィルム7の端部から周辺のオーバーシート3上にはみ出し、熱プレス用の成形板に付着して成形板を汚すことがあり、これを回避する為に成形板と感熱フィルム7を配したオーバーシート3の間に非粘着処理を施したフィルムを挟んでいる(たとえば特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−1074号公報
【特許文献2】特開2000−348151号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1では熱プレスによる加熱および加圧の影響により図3(b)に示すように、感熱フィルム層周辺部aでオーバーシート3が熱流動性により変形して、印刷された絵柄に歪みが生じたり、割れが発生したりする問題があった。また、特許文献2では加工装置の汚れを回避する為に非粘着処理を施したフィルムを使用しており、結果的に無駄なコストが発生するという問題があった。
【0008】
本発明の目的は、熱プレスでのラミネート時に感熱フィルム端部に集中的にかかる圧力により発生する絵柄の歪みや割れと、感熱フィルム端部からホットメルトがはみ出すことによる成形板の汚れを防ぎ、外観が良好で無駄なコストの発生のないICカード及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は上記の課題を解決するためになされたものであり、本発明によれば、ICチップを内包する樹脂製の基材シートと、前記基材シートの少なくとも一方の側面を覆う第1の樹脂シートを有し、前記基材シートまたは前記第1の樹脂シートの少なくとも一方の外側面の一部に可視情報を表示する情報表示シートを配するICカードであって、前記基材シートまたは前記第1の樹脂シートの前記情報表示シートを配する外側面に、前記情報表示シートと同じ厚みを有し、前記情報表示シートの外側面の全面が露出する開口部を備える透明な第2の樹脂シートを配することを特徴とするICカードが得られる。
【0010】
また、本発明によれば、前記情報表示シートおよび前記第2の樹脂シートと、前記基材シートまたは前記第1の樹脂シートは、熱融着可能な接着層を介して積層配置し、熱プレスによって一体化することを特徴とする、上記のICカードの製造方法が得られる。
【0011】
また、本発明によれば、前記第2の樹脂シートの開口部の大きさは前記情報表示シートの外形と相似で、前記情報表示シートと嵌め合わせたとき、合わせ面部に隙間を有することを特徴とする、上記のICカードの製造方法が得られる。
【0012】
また、本発明によれば、前記第2の樹脂シートの厚みは、前記情報表示シートの厚みに対して厚いことを特徴とする、上記のICカードの製造方法が得られる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、熱プレスによるラミネート工程で、部分的に配された感熱フィルムの厚みによりオーバーシートの層が変形し、絵柄の歪みや割れの発生を防ぎ、更に感熱フィルムの端部に集中する荷重を緩和する事で接着層からのホットメルトのはみ出しによる成形板の汚れを防ぎ、外観が良好で無駄なコストの発生のないICカード及びその製造方法を提供する事ができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明のICカードの断面図である。図1(a)はプレス前の積層構成を示す断面図、図1(b)はプレス後の積層体の断面図である。
【図2】本発明の製造の段階を示す概要図である。図2(a)は平面図、図2(b)は図2(a)のA−A断面図である。
【図3】従来のICカードの断面図である。図3(a)はプレス前の積層構成を示す断面図、図3(b)はプレス後の積層体の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0016】
図1は本発明のICカードの断面図であり、図1(a)はプレス前の積層構成を示す断面図、図1(b)はプレス後の積層体の断面図であり、非接触型ICカードの場合を説明している。図1(a)に示すように、COB5やアンテナ6も含むICモジュールを2枚のコアシート2で挟み、その外側に絵柄などを印刷した第1の樹脂シート、すなわちオーバーシート3を積層し、更に外側に情報表示シートとして接着層4を塗布または積層した感熱フィルム7と、透明な第2の樹脂シートとして接着層4を塗布または積層したクリアオーバーシート8aを配する。本実施の形態では、感熱フィルム7はICカードの上面に部分的に配し、感熱フィルム7を配さない部分に、感熱フィルム7の外側面の全面が露出する開口部を備えるクリアオーバーシート8aを配する。感熱フィルム7を配さないICカードの下面には、カード表面を保護する為にクリアオーバーシート8bを全面に配している。図1(b)に示すように、各層を真空熱プレスによりラミネートしてICカード1の積層体とする。
【0017】
図2は、本発明の製造の段階を示す概要図であり、図2(a)は平面図でありICカードの組シート(たとえば4枚取り)上の感熱フィルム7とクリアオーバーシート8aの配置状態を示し、図2(b)は図2(a)のA−A断面図である。例えば材料がPVC、PET−Gなどからなる絵柄を形成したオーバーシート3に、規定の寸法に裁断した感熱フィルム7を半田コテの様な加熱手段で仮固定する。その仮固定した感熱フィルム7の周りには、感熱フィルム7よりも厚く、感熱フィルム7を嵌め合わせる開口部を金型などで抜き加工したクリアオーバーシート8aを、感熱フィルム7と重ならないように位置決めして、感熱フィルム7と同様に半田コテの様な加熱手段でオーバーシート3に仮固定して、感熱フィルム7とクリアオーバーシート8aの表面が略面一になるよう構成する。
【0018】
本実施の形態では、例えば材料がPVCやPET−Gなどからなり、厚みが200μm〜250μmの2枚のコアシート2に、非接触型のCOB5とアンテナ6からなるICモジュールを挟み込み、真空熱プレスにより1次ラミネートして総厚が400μm〜500μmの基材シートとする。基材シートはCOB5の厚みが300μm〜450μmであることから、それ以上の厚みとすることがICモジュールを平滑に埋設するために好ましい。
【0019】
ICモジュールを内包する樹脂製の基材シートの少なくとも一方の側面に、例えばPVC、PET−Gなどからなり、厚みが100μm〜150μmで、オフセット印刷やシルクスクリーン印刷により予め表面に絵柄を印刷したオーバーシート3を配する、更に基材シートまたはオーバーシート3の少なくとも一方の外側面の一部に約40μmの厚みの感熱フィルム7を配する。感熱フィルム7を配する外側面に感熱フィルムと同じ厚みとなり、感熱フィルムの外側面の全面が露出する開口部を備えるクリアオーバーシート8aを配する。
【0020】
感熱フィルム7とクリアオーバーシート8a、8bには、基材シートまたはオーバーシート3の少なくとも一方の側面に接する面に、予め熱可塑性の接着層4が塗布または積層されており、クリアオーバーシート8aの開口部の内側に感熱フィルム7を互いに重ならない様に位置決めし嵌め合わせて絵柄が印刷されたオーバーシート3上に仮固定する。位置決めする際は、クリアオーバーシート8aまたは感熱フィルム7のいずれか一方を先に仮固定して、他方をこれに合わせて重ならない様に位置決めしても良いし、両方を一度に配してから同時に仮固定しても構わない。
【0021】
クリアオーバーシート8aの開口部の大きさは感熱フィルム7の外形と相似で、感熱フィルム7を嵌め合わせて仮固定した時の位置決めの作業性を良くし、クリアオーバーシート8aと感熱フィルム7の重なりの発生を抑える意味で、感熱フィルム7との合わせ面部に隙間を有することが好ましいが、隙間が大きすぎるとラミネート後に溝となって残ったり、ホットメルトがはみ出したりして外観を損なう場合があり好ましくない。従って上記合わせ面部の隙間は0.3mm〜0.7mmの範囲とするのが望ましい。
【0022】
また、感熱フィルム7のように耐熱性が高く硬い材料と熱可塑性のあるクリアオーバーシート8aを嵌め合わせて熱プレスを行う場合、クリアオーバーシート8aは軟化して最終的に感熱フィルム7と同じ厚みとなり、かつ、上記の合わせ面部の隙間を埋める作用をする。このためクリアオーバーシート8aの厚みを、感熱フィルムに対して10%〜25%厚くすると良く、本実施の形態では約40μmの厚みの2軸延伸のPET基材を使用している感熱フィルム7に対して、PET−GやPVC基材などの熱可塑材で製膜されているクリアオーバーシート8aの厚みは50μmとした。
【0023】
上記の様にICモジュールを内包した基材シートの表裏面に、絵柄が印刷されたオーバーシート3に感熱フィルム7およびクリアオーバーシート8a、8bを仮固定したものを積層し、真空熱プレスでラミネートすると、オーバーシート3には均等に圧力が加わるので部分的な変形が発生せず、オーバーシート3に印刷された絵柄に歪みが生じたり、割れが発生したりする事の無いICカードを得ることができる。
【0024】
更に、感熱フィルム7の端部に荷重が集中する事も無いので、オーバーシート3上へ感熱フィルム端部からの接着層4であるホットメルトのはみ出しを抑える事ができ、成形板にホットメルトが付着して汚れる事が無く、良好な外観で無駄なコストを抑えたICカードおよびその製造方法が得られる。
【実施例】
【0025】
図1に示す構成のICカードを作製した。40μmの厚みの2軸延伸のPET基材に熱可逆性の感熱材料をコーティングした感熱フィルム7と、50μmの厚みのクリアオーバーシート8aを用い、感熱フィルム7を嵌め合わせてオーバーシート3に仮固定した。そのときのクリアオーバーシート8aの開口部と、感熱フィルム7の合わせ面部の隙間の大きさを0.2mm〜0.8mmに変えてラミネートし外観を評価した。その結果を表1に示す。
【0026】
【表1】

【0027】
表1から、規定の大きさに裁断された感熱フィルム7の外周に対して隙間が0.3mm〜0.7mmとする事で外観の良好なICカードが得られ。0.5mmとしたとき最も好適なICカードとなった。隙間が0.3mmより小さい場合、感熱フィルム7とクリアオーバーシート8aを位置決めする際にシート同士が重なる場合があり、そのままラミネートを行うと、重なり部分に荷重がかかりオーバーシート3に変形が生じる事があった。また、隙間が0.8mmより大きい場合は、ラミネート後の状態で感熱フィルム7とクリアオーバーシート8aの間に隙間が溝となって残り、外観視認上好ましくないものがあった。
【0028】
上述した様に、1次ラミネートした基材シートを感熱フィルム7とクリアオーバーシート8aを仮固定した絵柄が印刷されたオーバーシート3で挟み、真空熱プレスにより2次ラミネートする事で積層体を成型し、シート状の積層体をカード形状に打ち抜くことで、本発明の課題を解決し、外観が良好で無駄なコストの発生のない感熱フィルム層を有するICカードが作製できる。
【0029】
本発明の実施の形態および実施例について説明したが、本発明は上記の実施の形態および実施例に限られたものでは無い事は言うまでもなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更があっても本発明に含まれる。すなわち、当業者であれば、当然なし得るであろう各種変形、修正もまた本発明に含まれる。
【符号の説明】
【0030】
1 ICカード
2 コアシート
3 オーバーシート
4 接着層
5 COB
6 アンテナ
7 感熱フィルム
8a、8b クリアオーバーシート
a 感熱フィルム周辺部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ICチップを内包する樹脂製の基材シートと、前記基材シートの少なくとも一方の側面を覆う第1の樹脂シートを有し、前記基材シートまたは前記第1の樹脂シートの少なくとも一方の外側面の一部に可視情報を表示する情報表示シートを配するICカードであって、前記基材シートまたは前記第1の樹脂シートの前記情報表示シートを配する外側面に、前記情報表示シートと同じ厚みを有し、前記情報表示シートの外側面の全面が露出する開口部を備える透明な第2の樹脂シートを配することを特徴とするICカード。
【請求項2】
前記情報表示シートおよび前記第2の樹脂シートと、前記基材シートまたは前記第1の樹脂シートは、熱融着可能な接着層を介して積層配置し、熱プレスによって一体化することを特徴とする、請求項1に記載のICカードの製造方法。
【請求項3】
前記第2の樹脂シートの開口部の大きさは前記情報表示シートの外形と相似で、前記情報表示シートと嵌め合わせたとき、合わせ面部に隙間を有することを特徴とする、請求項2に記載のICカードの製造方法。
【請求項4】
前記第2の樹脂シートの厚みは、前記情報表示シートの厚みに対して厚いことを特徴とする、請求項2および請求項3に記載のICカードの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−98858(P2012−98858A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−245079(P2010−245079)
【出願日】平成22年11月1日(2010.11.1)
【出願人】(000134257)NECトーキン株式会社 (1,832)
【Fターム(参考)】