説明

III−V族化合物半導体の製造方法

【課題】H2SeまたはDETeを用いたノンアロイ層付HEMT等のエピタキシャルウェハを成長する前後での電気的特性の変動を、N2ガスを用いて効果的に低減すること、すなわち反応炉内のH2Seの「メモリー効果」を低減すること。
【解決手段】目的とするn型のノンアロイコンタクト層7を有する電子デバイス構造のためのエピタキシャル層の成長を終了した後、断熱圧縮された窒素ガスを反応炉内に多量、且つバースト状に送り込むプロセスを行い、その後に再び目的とするn型のノンアロイコンタクト層7を有する電子デバイス構造のためのエピタキシャル層の成長を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子デバイスのエピタキシャル層を気相成長させるIII−V族化合物半導体の製造方法、特にセレン(Se)またはテルル(Te)をドープしたn型のノンアロイコンタクト層を有するHEMT(高電子移動度トランジスタ)等の電子デバイスのエピタキシャル層を成長させるIII−V族化合物半導体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
トランジスタの性能を向上させるためには、より多くの多数キャリアをより高速に伝達できる材質を用いることが重要である。ガリウム砒素(GaAs)やインジウムガリウム砒素(InGaAs)などの化合物半導体はシリコン(Si)半導体に比べて、電子移動度が高いという特長がある。この特長をいかして、GaAsやInGaAsは高速動作や高効率動作を要求されるデバイスに多く用いられている。代表例として高電子移動度トランジスタ(HEMT)が挙げられ、携帯電話の送信用マイクロ波増幅器や衛星放送用受信アンテナの高周波増幅器に用いられている。
【0003】
ノンアロイコンタクト層を有するHEMT用エピタキシャルウェハ(以下、ノンアロイ層付HEMT用エピタキシャルウェハという)のおおまかな構造を図2に示す。このノンアロイ層付HEMT用エピタキシャルウェハは、半絶縁性の基板1上に結晶成長したバッファ層2、電子走行層3、スペーサ層4、電子供給層5及びノンアロイコンタクト層7を具備する。
【0004】
基板1は単結晶成長するための下地である。バッファ層2は、基板表面の残留不純物の影響によるデバイス特性劣化を防ぐ働きや、電子走行層3からのリーク電流を防ぐ働きをもつ半絶縁性のGaAs層またはアルミニウムガリウム砒素(AlGaAs)層である。電子走行層3は自由電子が流れる半絶縁性のInGaAs層であり、高純度である必要がある。スペーサ層4は、電子走行層の自由電子が電子供給層のn型不純物によってイオン散乱されるのを抑止する働きを持つ半絶縁性のGaAs層またはAlGaAs層である。電子供給層5はn型不純物がドーピングされており、発生した自由電子を電子走行層3へ供給する働きをもつn型のAlGaAs層である。ノンアロイコンタクト層7は金属電極とのオーミックコンタクトを形成するキャリア濃度の大きなn型のInGaAs層である。
【0005】
ノンアロイコンタクト層7は電極を形成するための層であり、低抵抗であることが重要である。ノンアロイコンタクト層7の抵抗を下げるためには、キャリア濃度を高くしなければならないが、従来よく用いられているGaAsでは5×1018cm-3以上のキャリア濃度を得るのは難しい。そこでInGaAsを用い、例えば1×1019cm-3という高キャリア濃度を実現できるようにしている。
【0006】
上記ノンアロイ層付HEMT用エピタキシャルウェハの具体的な構造例を図3に示した。結晶成長のことをエピタキシャルと言う。エピタキシャル層名称のn−はエピタキシャル層がn型であることを表し、n+−はキャリア濃度が大きいn型であることを表している。また、i−はエピタキシャル層が半絶縁性であることを表している。厚さの単位はnm(10-9m)である。キャリア濃度の単位はcm-3である。
【0007】
図3は、H2Seを用いたノンアロイ層付HEMT用エピタキシャルウェハの縦断面構造を示している。このノンアロイ層付HEMT用エピタキシャルウェハは、有機金属気相成長(MOVPE)法により、半絶縁性のGaAsからなる基板1上に、バッファ層2として、i−GaAs(厚さ500nm、キャリア濃度1×1013cm-3以下)、i−Al0.25Ga0.75As(厚さ100nm、キャリア濃度1×1016cm-3以下)、i−GaAs(厚さ100nm、キャリア濃度1×1015cm-3以下)、i−Al0.25Ga0.75As(厚さ100nm、キャリア濃度1×1016cm-3以下)、i−GaAs(厚さ100nm、キャリア濃度1×1015cm-3以下)を順次設け、更に、電子走行層3としてi−In0.20Ga0.80As(厚さ20nm)を設ける。その上に更に、スペーサ層4として、i−Al0.25Ga0.75As層(厚さ5nm、キャリア濃度1×1016cm-3以下)、電子供給層5としてn−Al0.25Ga0.75As(厚さ25nm、キャリア濃度3×1018cm-3(Siドープ))、その上にゲートコンタクト層6としてi−Al0.25Ga0.75As(厚さ50nm、キャリア濃度1×1016cm-3以下)を設け、その上にノンアロイコンタクト層7としてn+−In0.50Ga0.50As(厚さ50nm、キャリア濃度1×1019cm-3)を設ける。
【0008】
このノンアロイ層付HEMT用エピタキシャルウェハの成長方法を以下に述べる。
【0009】
エピタキシャル層を成長させる基板を成長炉内にセットし、加熱する。成長炉内に原料ガスを供給すると、原料ガスが熱により分解し、基板上にエピタキシャル層を形成する。
【0010】
i−GaAsを成長する場合には、Ga原料のトリメチルガリウム(Ga(CH33)とAs原料のアルシン(AsH3)を基板に供給する。なお、Ga原料として他にトリエチルガリウム(Ga(CH3CH23)がある。As原料として他にトリメチル砒素(As(CH33)、ターシャリーブチルアルシン(TBA)がある。
【0011】
i−Al0.25Ga0.75Asを成長する場合には、Ga(CH33、AsH3、及びAl原料のトリメチルアルミニウム(Al(CH33)を基板に供給する。なお、Al原料として他にトリエチルアルミニウム(Al(CH3CH23)がある。
【0012】
i−Al0.20Ga0.80Asを成長する場合には、Ga(CH33、AsH3、及びIn原料のトリメチルインジウム(In(CH33)を基板に供給する。なお、In原料として他にトリエチルインジウム(In(CH3CH23)がある。
【0013】
n−Al0.25Ga0.75Asを成長する場合には、Al(CH33、Ga(CH33、AsH3及びn型ドーパントを基板に供給する。n型ドーパントの元素としてはシリコン(Si)がある。Si原料としてモノシラン(SiH4)、ジシラン(Si26)がある。
【0014】
+−In0.50Ga0.50As(ノンアロイコンタクト層7)を成長する場合には、Ga(CH3CH23、AsH3、In(CH33及びn型ドーパントを基板に供給する。n型ドーパントの元素としてはセレン(Se)またはテルル(Te)がある。Se原料としてはセレン化水素(H2Se)がある。Te原料としてはジエチルテルル(DETe)がある。SeまたはTeを高濃度にドーピングさせるため、炉内の熱環境を最適化し、Ga(CH3CH23、AsH3、In(CH33、及びセレン化水素(H2Se)もしくはジエチルテルル(DETe)を基板に供給する。
【0015】
ところで、ノンアロイコンタクト層7のn型ドーパントには、高濃度にドーピングするため、例えばH2Seを用いている。H2Seは配管内に残留する「メモリー効果」が非常に高いため、連続成長していくと配管内に残留しているH2Seによりn型ドーパントとして追加され、電気的特性に影響を及ぼす、という問題がある。
【0016】
従来、n型層を成長しないときは、水素などの不活性ガスをn型ドーパント供給ラインに供給するが、n型ドーパントは配管でのメモリー効果が非常に大きいため、通常用いられる水素や窒素などの不活性ガスによる配管パージだけでは配管内の残留しているn型ドーパントを完全に除去することはできない。そこで、気相成長前及び気相成長中断中に、V族元素を含む原料化合物をn型ドーパント供給ラインに流すことによって、n型ドーパント供給ラインの清浄化を行うことが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0017】
また、エピタキシャル層の成長を行う直前に、反応管内に塩化メチルを導入して基板表面の不純物を除去する方法(例えば、特許文献2参照)や、シャワー状に噴射し、これを炉芯管のフロント側の内壁に付着した反応物に当てて、効率的に反応物を除去する装置(例えば、特許文献3参照)や、定期的に、先ず、反応炉全体を均一に例えば550℃程度に昇温し、その後、ClF3ガスを700sccm程度のガス流量で、希釈用ガスである窒素(N2)ガス(ガス流量2740sccm程度)と共に、反応炉内に供給して、反応炉内の残留膜のエッチングを行う方法(例えば、特許文献4参照)などが知られている。
【0018】
なお、n型のノンアロイコンタクト層を有するHEMTの電子デバイス構造の例としては特許文献5がある。
【特許文献1】特開平10−97996号公報(段落番号0011)
【特許文献2】特開2003−20300号公報(段落番号0007)
【特許文献3】特開2001−68416号公報
【特許文献4】特開2000−173932号公報(段落番号0023)
【特許文献5】特開平11−243096号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
しかしながら、上記ノンアロイコンタクト層のn型ドーパントであるH2Seは、反応炉内にも供給される以上、配管のみならず反応炉内にも残留する。この「メモリー効果」により、連続成長していくと、反応炉内に残留しているH2Seによりn型ドーパントとして追加され、次成長時の電気的特性に影響を及ぼす。
【0020】
上記特許文献1は、この反応炉内に残留するH2Seの「メモリー効果」を低減する技術については記載がない。発明の要点で後述するように、反応炉におけるH2Seの「メモリー効果」についても、これを低減しないと、連続成長したエピタキシャルウェハの電気的特性が変動し、安定した量産ができず、歩留の低下にもつながるという問題がある。
【0021】
また、特許文献2は塩化メチル(CH3Cl)を、また特許文献4は、ClF3ガスとN2ガスとの混合ガスを導入して不純物をエッチング除去する方法を開示するに止まる。さらに特許文献3は、クリーニング時に不活性ガスを噴射する装置を示すのみであり、その不活性ガスがN2等であると示唆するに止まる。
【0022】
そこで、本発明の目的は、上記課題を解決し、H2SeまたはDETeを用いたノンアロイ層付HEMT等のエピタキシャルウェハを成長する前後での電気的特性の変動を、N2ガスを用いて効果的に低減すること、すなわち反応炉内のH2Seの「メモリー効果」を低減することが可能なIII−V族化合物半導体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0023】
上記目的を達成するため、本発明は、次のように構成したものである。
【0024】
請求項1の発明に係るIII−V族化合物半導体の製造方法は、反応炉内に設置した基板を加熱し、反応炉内にIII族とV族の原料を流すことにより、セレン(Se)又はテルル(Te)をドープしたn型のノンアロイコンタクト層を有する電子デバイス構造を得るべく、基板上にエピタキシャル層を成長させるIII−V族化合物半導体の製造方法において、目的とするn型のノンアロイコンタクト層を有する電子デバイス構造のためのエピタキシャル層の成長を終了した後、断熱圧縮された窒素ガスを反応炉内に多量、且つバースト状に送り込むプロセスを行い、その後に再び目的とするn型のノンアロイコンタクト層を有する電子デバイス構造のためのエピタキシャル層の成長を行うことを特徴とする。
【0025】
上記基板としては、半絶縁性化合物半導体からなる基板が好適に用いられる。
【0026】
請求項2の発明は、請求項1記載のIII−V族化合物半導体の製造方法において、上記ノンアロイコンタクト層を成長する際、n型ドーパントのセレン(Se)又はテルル(Te)の原料ガスとして、セレン化水素(H2Se)またはジエチルテルル(DETe)を用いることを特徴とする。
【0027】
請求項3の発明は、請求項1又は2記載のIII−V族化合物半導体の製造方法において、上記反応炉内に送り込む断熱圧縮された窒素ガスの温度を80℃〜150℃の範囲に設定することを特徴とする。
【0028】
請求項4の発明は、請求項1〜3のいずれかに記載のIII−V族化合物半導体の製造方法において、上記反応炉内に送り込む断熱圧縮された窒素ガスの流量を50〜300L/分の範囲に設定することを特徴とする。
【0029】
請求項5の発明は、請求項1〜4のいずれかに記載のIII−V族化合物半導体の製造方法において、上記窒素ガスの断熱圧縮及び放出を断続的に行うことを特徴とする。
【0030】
上記請求項1〜請求項5において、n型のノンアロイコンタクト層を有する電子デバイスとしては、ノンアロイコンタクト層を有するHEMTやヘテロ接合バイポーラトランジスタ(HBT)がある。V族原料としては、アルシン(AsH3)、トリメチル砒素(As(CH33、)、ターシャリーブチルアルシン(TBA)、ホスフィン(PH3)、またはターシャリーブチルホスフィン(TBP)を用いることができる。また、III族原料としては、トリメチルアルミニウム(Al(CH33)、トリメチルガリウム(Ga(CH33)、トリメチルインジウム(In(CH33)、トリエチルアルミニウム(Al(CH3CH23)、トリエチルガリウム(Ga(CH3CH23)、トリエチルインジウム(In(CH3CH23)を用いることができる。
【0031】
<発明の要点>
ノンアロイコンタクト層には高濃度にドーピングするためH2SeまたはDETeを用いている。H2Seは反応炉内に残留する「メモリー効果」が非常に高いため、連続成長していくと反応炉内に残留しているH2Seによりn型ドーパントとして追加され、電気的特性に影響を及ぼす、という問題がある。DETeについても、H2Seより「メモリー効果」の程度は少ないが、やはり連続成長した場合には電気的特性に影響を及ぼすことがあると言われている。
【0032】
目的とするn型のノンアロイコンタクト層を有する電子デバイス構造がHEMT構造である場合を例にすると、本発明の目的は、セレン化水素(H2Se)又はジエチルテルル(DETe)を用いたn型のノンアロイ層付HEMT用エピタキシャルウェハを成長する前後での電気的特性の変動を低減すること、すなわちH2Se又はDETeの「メモリー効果」を低減することである。以下ではH2Seについて記述する。
【0033】
従来技術では、H2Seを用いたノンアロイ層付HEMT用エピタキシャルウェハを成長した後に、H2Seが反応炉内にメモリー効果として残り、次成長時の電気的特性に影響を及ぼす。連続成長したエピタキシャルウェハの電気的特性が変動するということは、安定した量産ができず、歩留りの低下にもつながる。
【0034】
そこで、本発明では、H2Seを用いたノンアロイ層付HEMT用エピタキシャルウェハを成長した後に、断熱圧縮された窒素ガスを反応炉内に多量、且つバースト状に送り込むプロセス(以下、ホットガス・バースト・プロセスという)を行って、H2Seのメモリー効果を低減してから目的のエピタキシャルウェハを成長するようにした。
【0035】
図4(a)〜(c)に示すように、図3に示す構造のノンアロイ層付HEMT用エピタキシャルウェハを成長する前と後において、図3内に示した電気的特性評価用構造(基板1、バッファ層2、電子走行層3、スペーサ層4、電子供給層5及びゲートコンタクト層6)のエピタキシャルウェハ(評価用構造エピタキシャルウェハ)の成長を行い、作製したそれぞれの評価用構造エピタキシャルウェハのシート抵抗を渦電流法により測定した。シート抵抗とはエピタキシャルウェハ表面での抵抗であり、単位はΩ/sq.(Ω/□とも書く)である。この結果を表1の左欄「従来技術(ホットガス・バースト・プロセス無し)」に示す。
【0036】
表1に示すように、従来技術(ホットガス・バースト・プロセス無し)の場合、ノンアロイ層付HEMT用エピタキシャルウェハを成長する前(H2Se使用前)の評価用構造エピタキシャルウェハ(図4(a))では、シート抵抗が319Ω/sq.であるのに対し、H2Seを用いたノンアロイ層付HEMT用エピタキシャルウェハを成長(図4(b))した後の評価用構造エピタキシャルウェハ(図4(c))では、シート抵抗が286Ω/sq.と低下している。すなわち、ノンアロイ層付HEMT用エピタキシャルウェハを成長する前と後で、評価用構造エピタキシャルウェハのシート抵抗が10.3%も下がっている。評価用構造エピタキシャルウェハのシート抵抗が大幅に変動するということは、HEMTの電気的特性であるピンチオフ電圧やシートキャリア濃度、電子移動度も変動するということである。すなわち同じ条件でノンアロイ層付HEMT用エピタキシャルウェハを連続成長しても同じ電気的特性のエピタキシャルウェハが成長できない。これでは安定量産ができず、歩留りの低下にもつながってしまう。
【0037】
そこで、本発明では、H2Seを用いたノンアロイ層付HEMT用エピタキシャルウェハを成長する前後での電気的特性の変動を低減するため、すなわち反応炉内のH2Seのメモリー効果を低減するために、H2Seを用いたノンアロイ層付HEMT用エピタキシャルウェハを成長(図1(b))した後に、つまり目的とするn型のノンアロイコンタクト層を有するHEMT構造の成長を一回成長し終わる毎に、断熱圧縮された高温窒素ガスを反応炉内に多量、且つバースト状に送り込むプロセス(図1(c))を行う。そしてその後に目的のエピタキシャルウェハを成長する。成長フロー図を図1に示す。ホットガス・バースト・プロセスを入れることで、反応炉内のH2Seメモリー効果が低減でき、再び次の目的とする電子デバイス構造のためのエピタキシャル層の成長を行うようにすると、電気的特性を変動させずに成長を行うことができる。
【発明の効果】
【0038】
目的とするn型のノンアロイコンタクト層を有する電子デバイス構造がHEMT構造である場合を例にすると、従来技術(ホットガス・バースト・プロセス無し)では、図3のようなH2Seを用いたノンアロイ層付HEMT用エピタキシャルウェハを製作した前と後で比較したとき、評価用構造エピタキシャルウェハのシート抵抗が表1に示すように10.3%も変動する。
【0039】
本発明では、このような電気的特性の変動を低減するため、すなわち反応炉内のH2Seのメモリー効果を低減するために、目的とするH2Seを用いたノンアロイ層付HEMT用エピタキシャルウェハを成長した後、断熱圧縮された高温窒素ガスを反応炉内に多量、且つバースト状に送り込むプロセスを行う。そして、その後に目的とする電子デバイス構造のエピタキシャル層を成長する。
【0040】
本発明により、このホットガス・バースト・プロセスを行うことで、反応炉内のH2Seメモリー効果が低減でき、次の目的とするエピタキシャル成長においても電気的特性を変動させずに成長を行うことができる。すなわち本発明によれば、H2Seのメモリー効果を低減して、電気的特性の変動を低減することができ、製品の安定量産に寄与することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0041】
以下、本発明を図示の実施の形態に基づいて説明する。
【0042】
図1に本実施形態におけるノンアロイ層付HEMT用エピタキシャルウェハの成長フロー図を示す。図示するように、図3内に矢印で範囲を示した電気的特性評価用構造エピタキシャルウェハ(基板1、バッファ層2、電子走行層3、スペーサ層4、電子供給層5及びゲートコンタクト層6)をエピタキシャル成長し(図1(a))、次いでH2Seを用いたノンアロイコンタクト層7をエピタキシャル成長して(図1(b))、H2Seを用いたノンアロイ層付HEMT用エピタキシャルウェハを成長する。
【0043】
次に、断熱圧縮された高温窒素ガスを反応炉内に多量、且つバースト状に送り込むプロセス(図1(c))を行う。反応炉内に送り込む断熱圧縮された窒素ガスは、温度を80℃〜150℃の範囲に設定し、流量を50〜300L/分の範囲に設定する。そして、好ましくは、この窒素ガスの断熱圧縮及び放出を断続的に行う。
【0044】
その後に、再び目的とするn型のノンアロイコンタクト層を有する電子デバイス構造のためのエピタキシャル層の成長を行う(図1(d))。
【0045】
このように目的とするn型のノンアロイコンタクト層を有するHEMT等の電子デバイス構造の成長を一回成長し終わる毎に、ホットガス・バースト・プロセス(図1(c))を入れることで、反応炉内のH2Seメモリー効果を低減し、次の目的のエピタキシャル成長において電気的特性を変動させずに成長を行うことができる。
【実施例】
【0046】
本発明を図3のノンアロイ層付HEMT用エピタキシャルウェハの作製後に適用した。
【0047】
ノンアロイ層付HEMT用エピタキシャルウェハの成長条件を下記する。成長時の基板温度は660℃、成長炉内圧力は70Torr、希釈用ガスは水素である。基板には半絶縁性GaAsウェハを用いた。i−GaAs層の成長にはGa(CH33とAsH3を用いた。Ga(CH33の流量は70cc/分である。AsH3の流量は250cc/分である。i−Al0.25Ga0.75As層の成長にはGa(CH33、Al(CH33及びAsH3を用い、それらの流量はそれぞれ30cc/分、60cc/分及び500cc/分である。i−In0.20Ga0.80As層の成長にはGa(CH33、In(CH33及びAsH3を用い、それらの流量はそれぞれ40cc/分、150cc/分及び500cc/分である。n−Al0.25Ga0.75As層の成長には、i−Al0.25Ga0.75Asの成長に使用したGa(CH33、Al(CH33、AsH3に加えてSi26を使用した。Si26の流量は50cc/分である。Si26以外の流量はi−Al0.25Ga0.75As層の場合と同じである。n+−In0.50Ga0.50As層の成長には、Ga(CH323、In(CH33、AsH3及びH2Seを用い、それらの流量はそれぞれ150cc/分、400cc/分、100cc/分及び200cc/分である。
【0048】
まず、上記ノンアロイ層付HEMT用エピタキシャルウェハのエピタキシャル成長前に、図3中で示した評価用構造(基板1、バッファ層2、電子走行層3、スペーサ層4、電子供給層5及びゲートコンタクト層6)のエピタキシャルウェハを成長した(図1(a)参照)。
【0049】
次いでn型ドーパントのSe原料としてH2Seを用い、Seドープのn型のノンアロイコンタクト層7をエピタキシャル成長し(図1(b))、H2Seを用いたノンアロイ層付HEMT用エピタキシャルウェハを形成した。
【0050】
その後、断熱圧縮された高温窒素ガスを反応炉内に多量、且つバースト状に送り込むプロセスを、下記の条件で行った(図1(c))。すなわち、反応炉内に供給する際の高温窒素ガスの温度は130℃、流量は100L/分、ガスの断熱圧縮・放出を6秒間隔で行い、これを15分間実施した。成長炉内は圧力1Torrに真空引きしてある。
【0051】
このホットガス・バースト・プロセス後、再び評価用構造エピタキシャルウェハ(図1(d))を成長した。
【0052】
上記ノンアロイ層付HEMT用エピタキシャルウェハ成長後にホットガス・バースト・プロセスを行った実施例の場合(本発明「ホットガス・バースト・プロセス有り」)と、ノンアロイ層付HEMT用エピタキシャルウェハ成長後にホットガス・バースト・プロセスを行わなかった場合(従来技術「ホットガス・バースト・プロセス無し」)について、ノンアロイ層付HEMT用エピタキシャルウェハのエピタキシャル成長の前と後(つまりH2Se使用前と後)における評価用構造エピタキシャルウェハのシート抵抗を渦電流法により測定し、その変動率を比較した。その結果を表1に示す。
【0053】
【表1】

【0054】
表1に示すように、従来技術(ホットガス・バースト・プロセス無し)の場合、H2Seの使用前と後(図4(a)と(c))において、評価用構造エピタキシャルウェハのシート抵抗が319Ω/sq.から286Ω/sq.と低下し、シート抵抗変動率が10.3%と高くなっている。これに対し、本発明の実施例(ホットガス・バースト・プロセス有り)の場合、H2Seの使用前と後(図1(a)と(d))において、評価用構造エピタキシャルウェハのシート抵抗は319Ω/sq.から320Ω/sq.までしか増加せず、シート抵抗変動率が0.3%に止まっている。
【0055】
このように本発明の実施例(ホットガス・バースト・プロセス「有り」)では、評価用構造エピタキシャルウェハのシート抵抗変動率が非常に小さいことが分かる。
【0056】
表2に評価用構造エピタキシャルウェハのエピタキシャル層中のSe濃度を比較したものを示す。ここでは、従来技術(ホットガス・バースト・プロセス「無し」)でのノンアロイ層付HEMT用エピタキシャルウェハの成長前と後(H2Seの使用前と後)の評価用構造エピタキシャルウェハ(図4(a)と(c))と、本発明の実施例(ホットガス・バースト・プロセス「有り」)でのノンアロイ層付HEMT用エピタキシャルウェハのエピタキシャル成長前と後(H2Se使用前と後)の評価用構造エピタキシャルウェハ(図1(a)と(d))について、それぞれ二次イオン質量分析(SIMS)を行い、そのエピタキシャル層中のSe濃度を定量化した。
【0057】
【表2】

【0058】
表2に示すように、従来技術(ホットガス・バースト・プロセス無し)の場合、H2Se使用前と後における評価用構造エピタキシャルウェハのSe濃度が1×1015cm-3以下から1.6×1016cm-3と高くなっている。これに対し、本発明の実施例(ホットガス・バースト・プロセス有り)の場合、H2Se使用前と後における評価用構造エピタキシャルウェハのSe濃度が共に1×1015cm-3以下で変化がない。このことから本発明の実施例ではSe濃度が従来技術よりも低いことが分かる。すなわち反応炉内のH2Seのメモリー効果が十分に低減されていることが分かる。
【0059】
本発明は、H2Seを用いたノンアロイ層付HEMT用エピタキシャルウェハを成長する前後での電気的特性の変動を低減すること、すなわち反応炉内のH2Seの「メモリー効果」を低減することである。H2Seを用いたエピタキシャル成長後に、断熱圧縮された高温窒素ガスを反応炉内に多量、且つバースト状に送り込むプロセスを入れて、H2Seのメモリー効果を低減できれば、電気的特性の変動を低減でき、製品の安定量産につながる。
【0060】
<他の実施例、変形例>
上記実施例では、H2Seを用いたノンアロイ層付HEMT用エピタキシャルウェハを成長する前に流す高温ガスの温度を130℃にしたが、これはできるだけ反応炉の温度をエピタキシャル成長温度に近づける、つまり原料の分解する温度(400℃以上)に近づけるためである。しかし、80℃〜150℃の温度範囲であれば、本発明の高温ガスによるクリーニング効果を得ることができるので、この温度範囲の任意の温度に設定することができる。またガス流量は多いほど、例えば300L/分とするほど効果があるが、50L/分程度でもクリーニング効果を得ることができるので、この流量範囲の任意の一定流量値に設定することができる。
【0061】
上記実施形態では、H2Seを用いたノンアロイ層付HEMT用エピタキシャルウェハの成長前後で電気的特性を不安定とせずに製造する方法として説明したが、本発明はこれに限られるものではなく、ノンアロイコンタクト層にH2SeまたはDETeを用いた図5の如き構成のヘテロ接合バイポーラトランジスタ(HBT)用エピタキシャルウェハにも同様に適用可能である。
【0062】
また、断熱圧縮された高温窒素ガスを反応炉内に多量、且つバースト状に送り込むプロセスの替わりに、i−Al0.25Ga0.75As層などのエピタキシャル層を実際に成長することでも、反応炉内のH2Seの「メモリー効果」を低減することができた。ただし、成長するエピタキシャル膜厚が不十分であるとH2Seのメモリー効果を低減できないし、また、余分な原料を使用してしまうことになるので、原料の節約という観点からも本発明は最適である。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明の一実施例に係るIII−V族化合物半導体の製造方法のフロー図である。
【図2】本発明を適用したノンアロイ層付HEMT用エピタキシャルウェハの基本構造を示す図である。
【図3】本発明を適用したノンアロイ層付HEMT用エピタキシャルウェハの断面構造を示す図である。
【図4】従来技術のIII−V族化合物半導体の製造方法を示すフロー図である。
【図5】本発明を適用可能なHBT用エピタキシャルウェハの基本構造を示す図である。
【符号の説明】
【0064】
1 基板
2 バッファ層
3 電子走行層
4 スペーサ層
5 電子供給層
6 ゲートコンタクト層
7 ノンアロイコンタクト層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応炉内に設置した基板を加熱し、反応炉内にIII族とV族の原料を流すことにより、セレン又はテルルをドープしたn型のノンアロイコンタクト層を有する電子デバイス構造を得るべく、基板上にエピタキシャル層を成長させるIII−V族化合物半導体の製造方法において、
目的とするn型のノンアロイコンタクト層を有する電子デバイス構造のためのエピタキシャル層の成長を終了した後、
断熱圧縮された窒素ガスを反応炉内に多量、且つバースト状に送り込むプロセスを行い、
その後に再び目的とするn型のノンアロイコンタクト層を有する電子デバイス構造のためのエピタキシャル層の成長を行うことを特徴とするIII−V族化合物半導体の製造方法。
【請求項2】
請求項1記載のIII−V族化合物半導体の製造方法において、
上記ノンアロイコンタクト層を成長する際、n型ドーパントのセレン又はテルルの原料ガスとして、セレン化水素またはジエチルテルルを用いることを特徴とするIII−V族化合物半導体の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2記載のIII−V族化合物半導体の製造方法において、
上記反応炉内に送り込む断熱圧縮された窒素ガスの温度を80℃〜150℃の範囲に設定することを特徴とするIII−V族化合物半導体の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載のIII−V族化合物半導体の製造方法において、
上記反応炉内に送り込む断熱圧縮された窒素ガスの流量を50〜300L/分の範囲に設定することを特徴とするIII−V族化合物半導体の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載のIII−V族化合物半導体の製造方法において、
上記窒素ガスの断熱圧縮及び放出を断続的に行うことを特徴とするIII−V族化合物半導体の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2006−5075(P2006−5075A)
【公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−178343(P2004−178343)
【出願日】平成16年6月16日(2004.6.16)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】