説明

III族窒化物半導体レーザ素子、及びIII族窒化物半導体レーザ素子を作製する方法

【課題】光共振器のための半導体積層の端面の向きを制御可能なIII族窒化物半導体レーザ素子を提供する。
【解決手段】複合基板17は、へき開性を有する支持基体16と窒化ガリウム系半導体膜18との張り合わせ構造を含む。レーザ共振器となる端面27がm−n面に交差する。III族窒化物半導体レーザ素子11は、m−n面と半極性面17aとの交差線の方向に延在するレーザ導波路を含む半導体領域19を有する。レーザ構造体13では、第1の面13aは第2の面13bの反対側の面である。端面27は、第1の面13aのエッジ13cから第2の面13bのエッジ13dまで延在する。端面27には、支持基体16のへき開面と半導体領域19の端面19cを含む。端面27は、ドライエッチングにより形成されず、半導体領域19の端面19cはc面、m面又はa面等のこれまでのへき開面とは異なる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、III族窒化物半導体レーザ素子、及びIII族窒化物半導体レーザ素子を作製する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、III族窒化物半導体レーザが記載されている。このIII族窒化物半導体レーザでは、良好な光閉じ込め性能と良好な結晶品質のInGaN井戸層とを有する。特許文献2には、複合基板が記載されている。特許文献3には、半極性面上に作製された半導体レーザが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−218623号公報
【特許文献2】米国特許公開US2007/0022940 A1
【特許文献3】特許4475357号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
窒化ガリウム系半導体レーザは、サファイア基板やGaN基板上に作製される。例えば、自立可能なGaN基板は例えば以下のように作製される。単結晶GaNからなるインゴットをスライスした後にGaNスライスを研磨して、c面、m面、a面等の主面を有するGaN基板を作製する。また、窒化ガリウム系半導体レーザは、以下のように作製される。GaN基板上に窒化ガリウム系半導体膜(例えば、n型クラッド層、活性層及びp型クラッド層)をエピタキシャル成長して半導体積層を形成する。この半導体積層上に電極を形成した後に、基板及び半導体積層をへき開して、光共振器を形成するための端面を形成する。
【0005】
また、c面とは異なる半極性面を用いて、窒化ガリウム系半導体レーザが作製される。GaN基板の半極性面上に、同様に窒化ガリウム系半導体膜をエピタキシャル成長して半導体積層を形成する。この半導体積層上に電極を形成した後に、光共振器を形成する。
【0006】
窒化ガリウム系半導体レーザでは、レーザ発振のための光共振器を形成することが必要である。p型及びn型クラッド層並びに発光層が窒化ガリウム系半導体からなり、これらの窒化ガリウム系半導体の結晶構造は六方晶である。へき開面は六方晶の結晶構造により規定される。光共振器のための端面形成は、窒化ガリウム系半導体の面方位に依存することになる。
【0007】
自立可能なGaN基板上にエピタキシャル成長された半導体積層の結晶軸は、GaN基板の結晶軸に一致する。これ故に、光共振器のための端面を半導体積層に作成するとき、端面の向きは、結晶成長の下地となったGaN基板の面方位によって規定される。例えば、あるレーザ特性に基づく理由からGaN基板主面の面方位を決定したとき、その面方位を有する主面のGaN基板のへき開方向は、光共振器のために求められる端面の向きと一致しないことがある。また、窒化ガリウム系半導体のへき開面においては、へき開性に強弱があり、比較的弱いへき開性を示す面方位におけるへき開歩留まりは、比較的強いへき開性を示す面方位におけるへき開歩留まりに比べて小さくなる傾向にある。良好なへき開性を示すへき開方向は、光共振器のために求められる端面の向きと一致しないことがある。上記の例示のように、光共振器のために求められる端面の向きが、半導体積層における六方晶系結晶構造のへき開面の向きに一致しないことがある。
【0008】
本発明は、このような事情を鑑みて為されたものであり、光共振器のための半導体積層の端面の向きを制御可能なIII族窒化物半導体レーザ素子を提供することを目的とし、また光共振器のための半導体積層の端面の向きを制御可能な、III族窒化物半導体レーザ素子を作製する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一側面に係るIII族窒化物半導体レーザ素子は、(a)へき開性を有する材料からなる支持基体と、該支持基体の主面に張り合わされて成る接合を有する窒化ガリウム系半導体膜とを含む複合基板と、(b)前記窒化ガリウム系半導体膜の主面上に設けられIII族窒化物半導体からなるエピタキシャル半導体領域と、(c)前記エピタキシャル半導体領域上に設けられており導波路軸の方向に延在する電極とを備える。前記エピタキシャル半導体領域は、第1導電型III族窒化物半導体層、活性層、及び第2導電型III族窒化物半導体層を含み、前記第1導電型III族窒化物半導体層、前記活性層、及び前記第2導電型III族窒化物半導体層は、前記窒化ガリウム系半導体膜の前記主面の法線軸の方向に配列されており、前記複合基板及び前記エピタキシャル半導体領域はレーザ構造体を構成し、前記レーザ構造体は、前記導波路軸に交差する方向に延在する第1の端面と、前記導波路軸に交差する方向に延在する第2の端面とを含み、前記第1の端面は、前記レーザ構造体の前記エピタキシャル半導体領域の前記主面のエッジから前記レーザ構造体の前記支持基体の裏面まで延在し、当該III族窒化物レーザのためのレーザ共振器は前記第1及び第2の端面を含み、前記第1の端面は、前記エピタキシャル半導体領域の端面、及び前記支持基体のへき開面を含む。
【0010】
このIII族窒化物半導体レーザ素子の一形態では、前記窒化ガリウム系半導体膜の前記主面は半極性面からなり、この半極性の主面上にエピタキシャル半導体領域が設けられる。
【0011】
このIII族窒化物半導体レーザ素子によれば、III族窒化物レーザのためのレーザ共振器における第1の端面は、エピタキシャル半導体領域の端面及び支持基体のへき開面を含み、またエピタキシャル半導体領域の主面のエッジから支持基体の裏面まで延在する。半極性主面上のエピタキシャル半導体領域のc軸は、半極性主面の法線軸に対して傾斜しているけれども、エピタキシャル半導体領域の端面の延在方向は、支持基体の端面の延在方向に案内される。
【0012】
本発明の一側面に係るIII族窒化物半導体レーザ素子は、前記エピタキシャル半導体領域における前記III族窒化物半導体のc軸は、前記III族窒化物半導体のm軸の方向に傾斜していることができる。これにはピエゾ分極が少なくなる、Inの取り込みが良いという利点がある。或いは、本発明の一側面に係るIII族窒化物半導体レーザ素子は、前記エピタキシャル半導体領域における前記III族窒化物半導体のc軸は、前記III族窒化物半導体のa軸の方向に傾斜していることができる。これにはピエゾ分極が少なくなる、Inの取り込みが良いという利点がある。また、c軸の傾斜方向は、導波路軸の延在方向に規定されることができる。
【0013】
本発明の一側面に係るIII族窒化物半導体レーザ素子は、前記支持基体の前記材料のへき開可能な方向は、前記エピタキシャル半導体領域のa軸及びm軸のいずれか一つの方向に合わされていることができる。このIII族窒化物半導体レーザ素子によれば、へき開可能な方向がエピタキシャル半導体領域のa軸方向に合わされているとき、m軸は、窒化ガリウム系半導体膜の主面の法線に対してc軸の方向に傾斜される。へき開可能な方向がエピタキシャル半導体領域のm軸方向に合わされているとき、a軸は、窒化ガリウム系半導体膜の主面の法線に対してc軸の方向に傾斜される。エピタキシャル半導体領域の端面はエピタキシャル半導体領域のa面、m面及びc面と異なっている。
【0014】
本発明の一側面に係るIII族窒化物半導体レーザ素子では、前記活性層は、インジウムを含む窒化ガリウム系半導体からなる半導体層を含み、前記窒化ガリウム系半導体膜のc軸は前記複合基板の主面における法線に対して傾斜角で傾斜しており、前記傾斜角は、45度以上であり、80度以下であり、または100度以上であり、135度以下の範囲にあることができる。
【0015】
このIII族窒化物半導体レーザ素子によれば、上記の角度範囲においては、活性層におけるピエゾ分極が小さく、また上記の半導体層は良好なIn取り込みを示す。これ故に、活性層は、長波長の発光を得るために好適である。
【0016】
本発明の一側面に係るIII族窒化物半導体レーザ素子では、前記活性層は、インジウムを含む窒化ガリウム系半導体からなる半導体層を含み、前記窒化ガリウム系半導体膜のc軸は前記複合基板の主面における法線に対して傾斜角で傾斜しており、前記傾斜角は、63度以上であり、80度以下であり、または100度以上であり、117度以下の範囲にあることができる。
【0017】
このIII族窒化物半導体レーザ素子によれば、活性層におけるピエゾ分極が小さくできる。また、活性層の成長におけるIn取り込みが良いので、活性層におけるIn組成の可変範囲が広い。これ故に、長波長の発光を得るために好適である。さらに、エピタキシャル半導体領域のm面が、第1の端面における支持基体のへき開面に沿って延在する基準面から離れているので、エピタキシャル半導体領域の端面にへき開面のm面が現れる可能性を低くできる。
【0018】
本発明の一側面に係るIII族窒化物半導体レーザ素子では、前記エピタキシャル半導体領域の前記端面は、前記窒化ガリウム系半導体膜の材料の劈開面に沿って延在する基準面に対して傾斜していることができる。このIII族窒化物半導体レーザ素子によれば、エピタキシャル半導体領域の端面における主要な面方位は窒化ガリウム系半導体膜におけるへき開面と異なる。
【0019】
窒化ガリウム系半導体膜の主面は半極性を示すので、窒化ガリウム系半導体膜のc軸、m軸及びa軸が、複合基板の主面における法線に対して傾斜している。エピタキシャル半導体領域の端面は、エピタキシャル半導体領域のIII族窒化物半導体のへき開面と異なるけれども、光共振器のための端面に十分な平坦性及び垂直性を有する。
【0020】
本発明の一側面に係るIII族窒化物半導体レーザ素子は、前記エピタキシャル半導体領域のc軸を示すc軸ベクトルは、前記窒化ガリウム系半導体膜の前記主面の法線成分と前記窒化ガリウム系半導体膜の前記主面の平行成分とを含み、前記c軸ベクトルの前記平行成分は、前記エピタキシャル半導体領域の前記端面における法線ベクトルと2度以内の角度を成すことができる。このIII族窒化物半導体レーザ素子によれば、偏光特性上、光の増幅に最も有利な面方位にエピタキシャル半導体領域の端面を向けることができる。
【0021】
本発明の一側面に係るIII族窒化物半導体レーザ素子では、前記活性層は、当該III族窒化物レーザの発振波長が窒化ガリウム系半導体層500nm以上560nm以下の範囲にあるように設けられることができる。このIII族窒化物半導体レーザ素子によれば、このような長波長域におけるレーザ発振のための光共振器が提供可能である。
【0022】
本発明の一側面に係るIII族窒化物半導体レーザ素子では、前記エピタキシャル半導体領域における前記III族窒化物半導体のc軸は、前記導波路軸の方向に傾斜していることができる。
【0023】
このIII族窒化物半導体レーザ素子によれば、半極性面上のエピタキシャル半導体領域において、c軸が導波路軸の方向に傾斜するとき、レーザ発振のしきい値電流を低くできる遷移をレーザ発振のモードとして選択できる。
【0024】
本発明の一側面に係るIII族窒化物半導体レーザ素子では、前記半極性主面は、{20−21}面、{10−11}面、{20−2−1}面、及び{10−1−1}面のいずれかの面から−4度以上+4度以下の範囲でオフした傾斜面であることができる。III族窒化物半導体レーザ素子によれば、これらの角度範囲において、エピタキシャル半導体領域の端面は、光共振器に好適な平坦性及び垂直性を有する。
【0025】
本発明の一側面に係るIII族窒化物半導体レーザ素子では、前記半極性主面は、{20−21}面、{10−11}面、{20−2−1}面、及び{10−1−1}面のいずれかであることができる。III族窒化物半導体レーザ素子によれば、これらの面方位において、エピタキシャル半導体領域の端面は、光共振器に好適な平坦性及び垂直性を有する。
【0026】
このIII族窒化物半導体レーザ素子の別の形態では、前記窒化ガリウム系半導体膜の前記主面はc面からなり、この極性主面上にエピタキシャル半導体領域が設けられる。
【0027】
本発明の一側面に係るIII族窒化物半導体レーザ素子では、前記支持基体が、SiC、GaAs、InP、ZnSe、ZnO、GaN、劈開性を有する酸化物のいずれかから成ることができる。
【0028】
このIII族窒化物半導体レーザ素子によれば、SiCからなる支持基体では、SiCはその上にGaN系半導体のヘテロエピタキシが容易である事から分かるように窒化ガリウム系半導体と熱膨張係数が近いので、窒化ガリウム系半導体膜の張り合わせに好適である。GaAs及びInPからなる支持基体は良好な劈開性を示し、入手も容易にである。ZnSeからなる支持基体は、良好な劈開性を示す。ZnOからなる支持基体は、可視光に対して透明であり、導電性を示す。GaNからなる支持基体は、窒化ガリウム系半導体膜の熱膨張係数に一致又は近い熱膨張係数を有し、可視光に対して透明であり、導電性も有する。劈開性を示す酸化物からなる支持基体は、例えばスピネル、マイカ、ケイ酸塩結晶等であり、多くの酸化物は、GaAsやInP等に比べて優れた耐熱性を有する。これ故に、酸化物からなる支持基体は、成膜に高温を用いるIII族窒化物半導体の成長に好適である。
【0029】
本発明の一側面に係るIII族窒化物半導体レーザ素子では、前記窒化ガリウム系半導体膜の転位密度が1×10cm−2以下であることができる。このIII族窒化物半導体レーザ素子によれば、転位密度に起因する素子寿命の短縮が低減される。
【0030】
本発明の一側面に係るIII族窒化物半導体レーザ素子では、前記第1の端面は、前記支持基板の裏面から延在するスクライブ跡を含むことができる。このIII族窒化物半導体レーザ素子によれば、へき開性を示す材料からなる支持基板におけるへき開の方向を引き継いで、エピタキシャル半導体領域の端面が形成される。
【0031】
本発明の一側面に係るIII族窒化物半導体レーザ素子では、前記第1の端面は、前記前記エピタキシャル半導体領域の主面から延在するスクライブ跡を含むことができる。このIII族窒化物半導体レーザ素子によれば、へき開性を示す材料からなる支持基板に押圧を行って引き起こされるへき開の向きを引き継いで、エピタキシャル半導体領域の端面が形成される。
【0032】
本発明の一側面に係るIII族窒化物半導体レーザ素子では、前記エピタキシャル半導体領域の前記活性層における端面と前記窒化ガリウム系半導体膜における結晶軸に直交する基準面との成す角度は、前記III族窒化物半導体のc軸及び前記結晶軸によって規定される第1平面において(ALPHA−5)度以上(ALPHA+5)度以下の範囲の角度を成し、前記結晶軸はm軸又はa軸である。
【0033】
このIII族窒化物半導体レーザ素子は、c軸及び結晶軸(m軸又はa軸)の一方から他方に取られる角度に関して、上記の垂直性を満たす端面を有する。
【0034】
本発明に係るIII族窒化物半導体レーザ素子では、前記角度は、前記第1平面及び前記法線軸に直交する第2平面において−5度以上+5度以下の範囲であることが好ましい。
【0035】
このIII族窒化物半導体レーザ素子は、半極性面の法線軸に垂直な面において規定される角度に関して、上記の垂直性を満たす端面を有する。
【0036】
本発明に係る別の側面は、III族窒化物半導体レーザ素子を作製する方法である。この方法は、(a)へき開性を有する材料からなる支持基体と、該支持基体の主面に張り合わされて成る接合を有する窒化ガリウム系半導体膜とを含む複合基板を準備する工程と、(b)前記窒化ガリウム系半導体膜の主面の上に形成されたエピタキシャル半導体領域と前記複合基板とを含むレーザ構造体、及び電極を有する基板生産物を形成する工程と、(c)前記支持基体のへき開方向に合わせた方向に前記基板生産物をスクライブする工程と、(d)前記基板生産物への押圧により前記基板生産物の分離を行って、別の基板生産物及びレーザバーを形成する工程とを備える。前記基板生産物は第1の面及び第2の面を有し、前記第1の面は前記第2の面の反対側の面であり、前記レーザバーは、前記第1の面から前記第2の面にまで延在し前記分離により形成された第1及び第2の端面を有し、前記第1の端面は、前記エピタキシャル半導体領域の端面、及び前記支持基体のへき開面を含み、前記第1及び第2の端面は当該III族窒化物半導体レーザ素子のレーザ共振器を構成し、前記電極は、前記エピタキシャル半導体領域の上に形成され、前記エピタキシャル半導体領域は、第1導電型の窒化ガリウム系半導体からなる第1のクラッド層と、第2導電型の窒化ガリウム系半導体からなる第2のクラッド層と、前記第1のクラッド層と前記第2のクラッド層との間に設けられた活性層とを含み、前記第1のクラッド層、前記第2のクラッド層及び前記活性層は、前記窒化ガリウム系半導体膜の前記主面の法線軸に沿って配列されており、前記活性層は窒化ガリウム系半導体層を含み、前記レーザ構造体は、前記複合基板の前記半極性主面の上に延在するレーザ導波路を含み、前記電極は前記第1及び第2の端面の一方から他方への方向に向く導波路ベクトルの方向に延在する。
【0037】
この作製方法によれば、複合基板における支持基体のへき開性を利用して、III族窒化物半導体レーザ素子のレーザ共振器のための第1の端面を押圧により形成できる。レーザバーにおける第1の端面は第1の面から第2の面にまで延在し、また第1の端面は、押圧により形成された支持基体のへき開面を含むと共に、この押圧によりエピタキシャル半導体領域にも端面を形成できる。
【0038】
本発明に係る別の側面の作製方法では、前記半導体領域は前記第1の面と前記基板との間に位置し、前記スクライブは前記第2の面に前記支持基板の裏面に行われ、前記押圧は前記第1の面に行われることができる。この作製方法によれば、押圧によるエピタキシャル半導体領域の破断が、支持基体におけるへき開面の形成方向を引き継いで生じやすくなる。
【0039】
本発明に係る別の側面の作製方法では、前記半導体領域は前記第1の面と前記基板との間に位置し、前記スクライブは前記第1の面に前記半導体領域の表面に行われ、前記押圧は前記第2の面に行われることができる。この作製方法によれば、半導体領域上の電極等の位置を避けて、第1の面にスクライブを行うことができ。スクライブの際にエピタキシャル半導体領域及び導波路構造にダメージを与えることがない。
【0040】
本発明に係る別の側面の作製方法では、前記半導体領域は前記第1の面と前記基板との間に位置し、前記スクライブは前記第2の面に前記支持基板の裏面に行われ、前記押圧は前記第2の面に行われることができる。この作製方法によれば、導波路構造を含むエピタキシャル半導体領域へのスクライブ及び押圧を行わないので、スクライブ線の形成及び押圧の際にエピタキシャル半導体領域及び導波路構造にダメージを与えることがない。
【0041】
本発明の上記の目的および他の目的、特徴、並びに利点は、添付図面を参照して進められる本発明の好適な実施の形態の以下の詳細な記述から、より容易に明らかになる。
【発明の効果】
【0042】
以上説明したように、本発明によれば、光共振器のための半導体積層の端面の向きを制御可能なIII族窒化物半導体レーザ素子が提供されることができ、また光共振器のための半導体積層の端面の向きを制御可能な、III族窒化物半導体レーザ素子を作製する方法が提供されることができる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】図1は、本実施の形態に係るIII族窒化物半導体レーザ素子の構造を概略的に示す図面である。
【図2】図2は、III族窒化物半導体レーザ素子における活性層におけるバンド構造を示す図面である。
【図3】図3は、III族窒化物半導体レーザ素子の活性層における発光の偏光を示す図面である。
【図4】図4は、III族窒化物半導体レーザ素子の端面と活性層のm面との関係を示す図面である。
【図5】図5は、本実施の形態に係るIII族窒化物半導体レーザ素子を作製する方法の主要な工程を示す工程フロー図である。
【図6】図6は、本実施の形態に係るIII族窒化物半導体レーザ素子を作製する方法の主要な工程を模式的に示す図面である。
【図7】図7は、実施例に示されたレーザーダイオードの構造を示す図面である。
【図8】図8は、結晶格子における{20−21}面を示す図面である。
【発明を実施するための形態】
【0044】
本発明の知見は、例示として示された添付図面を参照して以下の詳細な記述を考慮することによって容易に理解できる。引き続いて、添付図面を参照しながら、本発明のIII族窒化物半導体レーザ素子、及びIII族窒化物半導体レーザ素子を作製する方法に係る実施の形態を説明する。可能な場合には、同一の部分には同一の符号を付する。
【0045】
図1は、本実施の形態に係るIII族窒化物半導体レーザ素子の構造を概略的に示す図面である。III族窒化物半導体レーザ素子11は、利得ガイド型の構造を有するけれども、本発明の実施の形態は、利得ガイド型の構造に限定されるものではない。III族窒化物半導体レーザ素子11は、レーザ構造体13及び電極15を備える。レーザ構造体13は、複合基板17及びエピタキシャル半導体領域19(「半導体領域19」と記す)を含む。複合基板17は、支持基体16と窒化ガリウム系半導体膜18とを含む。支持基体16は、へき開性を有する材料からなる。窒化ガリウム系半導体膜18は、支持基体16の主面16aに張り合わされて成る接合JCを有する。複合基板17は、張り合わせ構造を有する複合基板である。複合基板17は、六方晶系の窒化ガリウム系半導体からなる半極性主面17aと裏面17bとを有する。半導体領域19は、複合基板17の半極性主面17a(窒化ガリウム系半導体膜18の半極性主面18a)上に設けられている。電極15は、レーザ構造体13の半導体領域19上に設けられ、導波路軸(導波路ベクトル)の方向に延在する。半導体領域19は、第1のクラッド層21と、第2のクラッド層23と、活性層25とを含む。第1のクラッド層21は、第1導電型III族窒化物半導体層を含み、例えばn型AlGaN、n型InAlGaNといった窒化ガリウム系半導体層等からなる。第2のクラッド層23は、第2導電型III族窒化物半導体層を含み、例えばp型AlGaN、p型InAlGaNといった窒化ガリウム系半導体層からなる。活性層25は、第1のクラッド層21と第2のクラッド層23との間に設けられる。活性層25は窒化ガリウム系半導体層を含み、この窒化ガリウム系半導体層は例えば井戸層25aである。活性層25は窒化ガリウム系半導体からなる障壁層25bを含み、井戸層25a及び障壁層25bは交互に配列されている。井戸層25aは、例えばInGaN等からなり、障壁層25bは例えばGaN、InGaN等からなる。活性層25は量子井戸構造を含むことができ、活性層25の発振波長は例えば波長500nm以上560nm以下の範囲にあることができる。窒化ガリウム系半導体膜18の半極性面の利用により、長波長の発光を可能にするInGaN層の成長に好適である。第1のクラッド層21、第2のクラッド層23及び活性層25は、半極性主面17aの法線軸NXに沿って配列されている。レーザ構造体13は導波路軸に交差する方向に延在する第1の端面27及び第2の端面29を含む。例えばこれらの端面27、29は、レーザ構造体13の半導体領域19の主面19aのエッジからレーザ構造体13の支持基体16の裏面16bまで延在する。導波路ベクトルは、第1及び第2の端面27、29の一方から他方への方向に向く。
【0046】
図1を参照すると、直交座標系S及び結晶座標系CRが描かれている。法線軸NXは、直交座標系SのZ軸の方向に向く。半極性主面17aは、直交座標系SのX軸及びY軸により規定される所定の平面に平行に延在する。また、図1には、窒化ガリウム系半導体膜18における代表的なc面Scが描かれている。また、ベクトルVCは、窒化ガリウム系半導体膜18におけるc軸の方向を示す。一実施例では、窒化ガリウム系半導体膜18におけるc軸(及び、半導体領域19における前記III族窒化物半導体のc軸)は、窒化ガリウム系半導体膜18におけるm軸の方向に法線軸NXに対して、ゼロより大きい角度ALPHAで傾斜している。これには、ピエゾ分極が少なくなること、Inの取り込みが良いことという利点がある。III族窒化物半導体レーザ素子11では、レーザ構造体13は、窒化ガリウム系半導体膜18におけるm軸及び法線軸NXによって規定されるm−n面に交差する端面27、29を含む。また、別の実施例では、端面27、29は、窒化ガリウム系半導体膜18におけるa軸及び法線軸NXによって規定されるa−n面に交差することができる。この形態では、窒化ガリウム系半導体膜18におけるc軸(及び、半導体領域19におけるIII族窒化物半導体のc軸)は、窒化ガリウム系半導体膜18におけるa軸の方向に法線軸NXに対して、ゼロより大きい角度ALPHAで傾斜する。さらに、必要な場合には、a軸やm軸といった特定の結晶軸の向きとは関係なく、導波路軸を規定することができる。引き続く説明では、窒化ガリウム系半導体膜18におけるc軸が窒化ガリウム系半導体膜18におけるm軸の方向に傾斜する実施例を説明する。
【0047】
III族窒化物半導体レーザ素子11では、支持基体16の材料のへき開可能な方向は、半導体領域19のa軸及びm軸のいずれか一つの方向に合わされていることができる。このIII族窒化物半導体レーザ素子11によれば、へき開可能な方向が半導体領域19のa軸方向に合わされているとき、m軸は複合基板17の主面の法線軸に対してc軸の方向に傾斜されると共に、a面は支持基体16のへき開面の向きに合わされる。へき開可能な方向が半導体領域19のm軸方向に合わされているとき、a軸は複合基板17の主面の法線軸に対してc軸の方向に傾斜されると共に、m面は支持基体16のへき開面の向きに合わされる。これらの場合において、半導体領域19の端面19cは半導体領域19のa面、m面及びc面と異なっている。
【0048】
窒化ガリウム系半導体膜18の主面18aは研磨面を含むことができる。支持基体16及び窒化ガリウム系半導体膜18を含む複合基板17である複合部材において、研磨面により、適切な面方位とエピ成長の好適な下地面とを提供できる。
【0049】
III族窒化物半導体レーザ素子11では、半導体領域19の端面19cは、窒化ガリウム系半導体膜18の材料の劈開面に沿って延在する基準面に対して傾斜している。この半導体領域19の端面19cにおける主要な面方位は窒化ガリウム系半導体膜18におけるへき開面と異なる。窒化ガリウム系半導体膜18の主面18aは半極性を示すので、窒化ガリウム系半導体膜18のc軸、m軸及びa軸が、複合基板17の主面17aにおける法線軸NXに対して傾斜するので、半導体領域19の端面19cは、半導体領域19のIII族窒化物半導体のへき開面とはならない。
【0050】
また、半導体領域19のc軸を示すc軸ベクトル(例えば活性層におけるc軸ベクトル)V19は、窒化ガリウム系半導体膜18の主面18aの垂直な法線成分V19Nと窒化ガリウム系半導体膜18の主面18aに平行な平行成分V19Pとを含む。このc軸ベクトルの平行成分V19Pは、半導体領域19の端面19cにおける法線ベクトルN19と2度以内の角度を成すことができる。このIII族窒化物半導体レーザ素子11によれば、偏光特性上、光の増幅に有利な面方位にエピタキシャル半導体領域の端面を向けることができる。
【0051】
支持基体16はへき開性を有する材料からなることができる。一実施例では、支持基体16が、へき開性を有する二元化合物半導体、例えばSiC、GaAs、InP、ZnSe、ZnO、GaNを含むことができ、また劈開性を有する酸化物を含むことができる。支持基体16がSiCからなるとき、SiCはその上にGaN系半導体のヘテロエピタキシが容易であるので、窒化ガリウム系半導体膜の張り合わせに好適である。支持基体16がGaAs及びInPからなるときは良好な劈開性が得られ、入手も容易である。支持基体16がZnSeからなるときは、良好な劈開性が得られる。支持基体16がZnOからなるときは、可視光に対して透明であり、導電性の複合基板が得られる。支持基体16がGaN(又は窒化ガリウム系半導体)からなるときは、窒化ガリウム系半導体膜18の熱膨張係数に一致又は近い熱膨張係数を有し、可視光に対して透明であり、導電性の複合基板が得られる。支持基体16が、劈開性を示す酸化物からなるとき、例えばスピネル、マイカ、ケイ酸塩結晶等からなるときは、多くの酸化物は、GaAsやInP等に比べて優れた耐熱性を有する。これ故に、酸化物からなる支持基体は、成膜に高温を用いる窒化ガリウム系半導体の成長に好適である。
【0052】
窒化ガリウム系半導体膜18の転位密度が1×10cm−2以下であることができる。転位密度に起因する素子寿命の短縮が低減される。
【0053】
III族窒化物半導体レーザ素子11は、絶縁膜31を更に備える。絶縁膜31はレーザ構造体13の半導体領域19の表面19aを覆っており、半導体領域19は絶縁膜31と複合基板17との間に位置する。複合基板17は六方晶系III族窒化物半導体からなる。絶縁膜31は開口31aを有し、開口31aは半導体領域19の表面19aと上記のm−n面との交差線LIXの方向に延在し、例えばストライプ形状を成す。電極15は、開口31aを介して半導体領域19の表面19a(例えば第2導電型のコンタクト層33)に接触を成しており、上記の交差線LIXの方向に延在する。III族窒化物半導体レーザ素子11では、レーザ導波路は、第1のクラッド層21、第2のクラッド層23及び活性層25を含み、また上記の交差線LIXの方向に延在する。
【0054】
III族窒化物半導体レーザ素子11では、第1の端面27及び第2の端面29は、六方晶系III族窒化物半導体のm軸及び法線軸NXによって規定されるm−n面に交差する。III族窒化物半導体レーザ素子11のレーザ共振器は第1及び第2の端面27、29を含み、第1の端面27及び第2の端面29の一方から他方に、レーザ導波路及び導波路軸が延在している。レーザ構造体13は第1の面13a及び第2の面13bを含み、第1の面13aは第2の面13bの反対側の面である。第1及び第2の端面27、29は、第1の面13aのエッジ13cから第2の面13bのエッジ13dまで延在する。第1及び第2の端面27、29の各々は、半導体領域19の端面19c及び支持基体16の端面16cを含む。支持基体16の端面16cは、へき開面(c面、m面又はa面といったこれまでのへき開面)である。半導体領域19の端面19cは、本実施例では、へき開面(c面、m面又はa面といったこれまでのへき開面)とは異なる。
【0055】
このIII族窒化物半導体レーザ素子11の一形態では、窒化ガリウム系半導体膜18の主面18aは半極性面からなり、この半極性主面18a上に半導体領域19が設けられる。窒化ガリウム系半導体膜18の主面18aが半極性を示すとき、全ての偏光方向のうち光の増幅に最も有利な方向に反射端面を向けることができる。このIII族窒化物半導体レーザ素子11によれば、このレーザ素子のためのレーザ共振器における第1の端面27は、半導体領域19の端面19c及び支持基体16の端面(へき開面)16cを含み、また半導体領域19の主面19aのエッジから支持基体16の裏面16bのエッジまで延在する。半極性主面17a(18a)上の半導体領域19のc軸は、半極性主面17aの法線軸NXに対して傾斜しているけれども、半導体領域19の端面19cの延在方向は、支持基体16の端面16cの延在方向に案内される。したがって、III族窒化物半導体レーザ素子11において、光共振器のための半導体領域19の端面19cの向きを制御可能である。
【0056】
III族窒化物半導体レーザ素子11では、図1に示されるように、端面27、29の少なくともいずれか一方は、半導体領域19の主面19aから延在するスクライブ跡20を含むことができる。このスクライブ跡20はエピ表面から支持基体16にまで到達する。押圧を行って、へき開性を示す材料からなる支持基板16に引き起こされるへき開の達成方向を引き継いで、半導体領域19の端面19cが形成される。スクライブ跡20はレーザ導波路の両側に設けられることが好ましい。両側のスクライブにより、レーザ導波路の端面は光共振器に好適な平坦性及び垂直性を有する。或いは、III族窒化物半導体レーザ素子11では、端面27、29の少なくともいずれか一方は、支持基板16の裏面16bから延在するスクライブ跡を含むことができる。へき開性を示す材料からなる支持基板16におけるへき開の達成方向を引き継いで、レーザ導波路の端面は光共振器に好適な平坦性及び垂直性を有する。
【0057】
また、このIII族窒化物半導体レーザ素子11によれば、レーザ共振器を構成する第1及び第2の端面27、29がm−n面に交差する。これ故に、m−n面と半極性面17aとの交差線の方向に延在するレーザ導波路を設けることができる。これ故に、III族窒化物半導体レーザ素子11は、低しきい値電流を可能にするレーザ共振器を有することになる。
【0058】
III族窒化物半導体レーザ素子11は、n側光ガイド層35及びp側光ガイド層37を含む。n側光ガイド層35は、第1の部分35a及び第2の部分35bを含み、n側光ガイド層35は例えばGaN、InGaN等からなる。p側光ガイド層37は、第1の部分37a及び第2の部分37bを含み、p側光ガイド層37は例えばGaN、InGaN等からなる。キャリアブロック層39は、例えば第1の部分37aと第2の部分37bとの間に設けられる。複合基板17の裏面17bには別の電極41が設けられ、電極41は例えば複合基板17の裏面17bに設けられる。
【0059】
図2は、III族窒化物半導体レーザ素子における活性層におけるバンド構造を示す図面である。図3は、III族窒化物半導体レーザ素子11の活性層25における発光の偏光を示す図面である。図4は、c軸及びm軸によって規定される断面を模式的に示す図面である。図2の(a)部を参照すると、バンド構造BANDのΓ点近傍では、伝導帯と価電子帯との間の可能な遷移は、3つある。Aバンド及びBバンドは比較的小さいエネルギ差である。伝導帯とAバンドとの遷移Eaによる発光はa軸方向に偏光しており、伝導帯とBバンドとの遷移Ebによる発光はc軸を主面に投影した方向に偏光している。レーザ発振に関して、遷移Eaのしきい値は遷移Ebのしきい値よりも小さい。
【0060】
図2の(b)部を参照すると、III族窒化物半導体レーザ素子11におけるLEDモードにおける光のスペクトルが示されている。LEDモードにおける光は、六方晶系III族窒化物半導体のa軸の方向の偏光成分I1と、六方晶系III族窒化物半導体のc軸を主面に投影した方向の偏光成分I2を含み、偏光成分I1は偏光成分I2よりも大きい。偏光度ρは(I1−I2)/(I1+I2)によって規定される。このIII族窒化物半導体レーザ素子11のレーザ共振器を用いて、LEDモードにおいて大きな発光強度のモードの光をレーザ発振させることができる。
【0061】
図3に示されるように、第1及び第2の端面27、29の少なくとも一方、又はそれぞれに設けられた誘電体多層膜43a、43bを更に備えることができる。破断面27、29にも端面コートを適用できる。端面コートにより反射率を調整できる。
【0062】
図3の(b)部に示されるように、活性層25からのレーザ光Lは六方晶系III族窒化物半導体のa軸の方向に偏光している。このIII族窒化物半導体レーザ素子11において、低しきい値電流を実現できるバンド遷移は偏光性を有する。レーザ共振器のための第1及び第2の端面27、29は、c面、m面又はa面といったこれまでのへき開面とは異なる。しかしながら、第1及び第2の端面27、29は共振器のための,ミラーとしての平坦性、垂直性を有する。これ故に、第1及び第2の端面27、29とこれらの端面27、29間に延在するレーザ導波路とを用いて、図3の(b)部に示されるように、c軸を主面に投影した方向に偏光する遷移Ebの発光よりも強い遷移Eaの発光を利用して低しきい値のレーザ発振が可能になる。
【0063】
III族窒化物半導体レーザ素子11では、第1及び第2の端面27、29の各々には、支持基体16の端面16c及び半導体領域19の端面19cが現れており、端面16c及び端面19cは誘電体多層膜43aで覆われている。端面16c及び活性層25における端面25cの法線ベクトルNAと活性層25のm軸ベクトルMAとの成す角度BETAは、半導体領域19におけるIII族窒化物半導体のc軸及びm軸によって規定される第1平面S1において規定される成分(BETA)と、第1平面S1及び法線軸NXに直交する第2平面S2において規定される成分(BETA)とによって規定される。成分(BETA)は、III族窒化物半導体のc軸及びm軸によって規定される第1平面S1において(ALPHA−5)度以上(ALPHA+5)度以下の範囲であることが好ましい。この角度範囲は、図4において、代表的なm面Sと参照面Fとの成す角度として示されている。代表的なm面Sが、理解を容易にするために、図4において、レーザ構造体の内側から外側にわたって描かれている。参照面Fは、活性層25の端面25cに沿って延在する。このIII族窒化物半導体レーザ素子11は、c軸及びm軸の一方から他方に取られる角度BETAに関して、上記の垂直性を満たす端面を有する。また、成分(BETA)は第2平面S2において−5度以上+5度以下の範囲であることが好ましい。ここで、BETA=(BETA)+(BETA)である。このとき、III族窒化物半導体レーザ素子11の端面27、29は、半極性面17aの法線軸NXに垂直な面において規定される角度に関して上記の垂直性を満たす。
【0064】
再び図1を参照すると、III族窒化物半導体レーザ素子11では、半導体領域の破断の方向を案内するためには、支持基体16の厚さDSUBは例えば40μm以上であることが好ましい。このIII族窒化物半導体レーザ素子では、レーザ共振器のための良質な端面を得るために好適である。III族窒化物半導体レーザ素子11では、支持基体16の厚さは60μm以上150μm以下であることが更に好ましい。このIII族窒化物半導体レーザ素子11では、レーザ共振器のための良質な端面を得るために更に好適である。また、ハンドリングが容易になり、生産歩留まりを向上させることができる。
【0065】
III族窒化物半導体レーザ素子11では、法線軸NXと六方晶系III族窒化物半導体のc軸との成す角度ALPHAは45度以上であることが好ましく、また80度以下であることが好ましい。また、角度ALPHAは100度以上であることが好ましく、また135度以下であることが好ましい。45度未満及び135度を越える角度では、押圧により形成される端面がm面からなる可能性が高くなる。また、80度を越え100度未満の角度では、所望の平坦性及び垂直性が得られないおそれがある。
【0066】
III族窒化物半導体レーザ素子11では、更に好ましくは、法線軸NXと六方晶系III族窒化物半導体のc軸との成す角度ALPHAは63度以上であることが好ましく、また80度以下であることが好ましい。また、角度ALPHAは100度以上であることが好ましく、また117度以下であることが好ましい。この角度範囲では、活性層におけるピエゾ分極が小さくできる。また、活性層の成長におけるIn取り込みが良いので、活性層におけるIn組成の可変範囲が広い。これ故に、長波長の発光を得るために好適である。さらに、半導体領域19のm面が、端面27、29における支持基体16のへき開面に沿って延在する基準面から離れているので、半導体領域19の端面19cにへき開面のm面が現れる可能性を低くできる。
【0067】
半極性主面17aは、{20−21}面、{10−11}面、{20−2−1}面、及び{10−1−1}面のいずれかであることができる。更に、これらの面から−4度以上+4度以下の範囲で微傾斜した面も前記主面として好適である。これら典型的な半極性面17aにおいて、当該III族窒化物半導体レーザ素子11のレーザ共振器を構成できる程度の十分な平坦性及び垂直性の第1及び第2の端面27、29を提供できる。また、これらの典型的な面方位にわたる角度の範囲において、十分な平坦性及び垂直性を示す端面が得られる。
【0068】
III族窒化物半導体レーザ素子11では、複合基板17における窒化ガリウム系半導体膜18の転位密度が1×10cm−2以下であることができる。転位密度に起因する素子寿命の短縮が低減される。また、複合基板17の窒化ガリウム系半導体膜18は、GaN、AlN、AlGaN、InGaN及びInAlGaNのいずれかからなることができる。これらの窒化ガリウム系半導体からなる基板を用いるとき、共振器として利用可能な端面27、29を得ることができる。InGaN膜を用いるとき、基板主面と発光層との格子不整合率を小さくでき、結晶品質を向上できる。
【0069】
図5は、本実施の形態に係るIII族窒化物半導体レーザ素子を作製する方法の主要な工程を示す図面である。図6の(a)部を参照すると、複合基板51が示されている。工程S101では、III族窒化物半導体レーザ素子の作製のための複合基板51を準備する。複合基板51は、支持基体50と、支持基体50に張り合わせ接合された窒化ガリウム系半導体薄膜52とを含む。窒化ガリウム系半導体薄膜52の六方晶系III族窒化物半導体のc軸(ベクトルVC)は、六方晶系III族窒化物半導体のm軸方向(ベクトルVM)に法線軸NXに対して角度ALPHAで傾斜している。これ故に、複合基板51の主面51aは、六方晶系III族窒化物半導体からなる半極性を有する。窒化ガリウム系半導体薄膜52の厚さは例えば50nm以上であり、1000nm以下である。
【0070】
複合基板51の作製の一例を説明する。半極性面(例えばc軸をm軸方向に75度の角度で傾斜させた半極性面)を有するGaNインゴットを準備すると共に。c面主面を有するSiC下地基板を準備する。下地基板の主面は、この主面がこの基板のへき開面にほぼ垂直になるように決定されることができる。GaNインゴットの半極性面をSiC支持基体のc面主面に接合する。この接合の位置合わせにおいて、GaNインゴットのa面とSiC支持基板のa面が平行となるように接合する。接合の後に、SiC支持基体のc面主面に数百ナノメートルのGaN薄層が残るように、SiC支持基板をGaNインゴットから剥離する。その後に、例えばGaN薄層を研磨して、GaN研磨面を有する複合基板を得る。研磨後において、窒化ガリウム系半導体薄膜52の厚さは例えば300nmである。なお、本実施例では、GaNインゴットのa面とSiC支持基板のa面が平行となるように接合したけれども、GaNインゴットの他のへき開面(例えばm面やc面)とSiC支持基板の他のへき開面(例えばm面やc面)が平行となるように接合してもよい。
【0071】
工程S102では、基板生産物SPを形成する。図6の(a)部では、基板生産物SPはほぼ円板形の部材として描かれているけれども、基板生産物SPの形状はこれに限定されるものではない。基板生産物SPを得るために、まず、工程S103では、レーザ構造体55を形成する。レーザ構造体55は、半導体領域53及び複合基板51を含んでおり、工程S103では、半導体領域53は半極性主面51a上に形成される。半導体領域53を形成するために、半極性主面51a上に、第1導電型の窒化ガリウム系半導体領域57、発光層59、及び第2導電型の窒化ガリウム系半導体領域61を順に成長する。窒化ガリウム系半導体領域57は例えばn型クラッド層を含み、窒化ガリウム系半導体領域61は例えばp型クラッド層を含むことができる。発光層59は窒化ガリウム系半導体領域57と窒化ガリウム系半導体領域61との間に設けられ、また活性層、光ガイド層及び電子ブロック層等を含むことができる。窒化ガリウム系半導体領域57、発光層59、及び第2導電型の窒化ガリウム系半導体領域61は、半極性主面51aの法線軸NXに沿って配列されている。これらの半導体層はエピタキシャル成長される。半導体領域53上は、絶縁膜54で覆われている。絶縁膜54は例えばシリコン酸化物からなる。絶縁膜54は開口54aを有する。開口54aは例えばストライプ形状を成す。
【0072】
工程S104では、レーザ構造体55上に、アノード電極58a及びカソード電極58bが形成される。また、複合基板51の裏面に電極を形成する前に、結晶成長に用いた基板の裏面を研磨して、所望の厚さDSUBの基板生産物SPを形成する。電極の形成では、例えばアノード電極58aが半導体領域53上に形成されると共に、カソード電極58bが複合基板51の裏面(研磨面)51b上に形成される。アノード電極58aはX軸方向に延在し、カソード電極58bは裏面51bの全面を覆っている。これらの工程により、基板生産物SPが形成される。基板生産物SPは、第1の面63aと、これに反対側に位置する第2の面63bとを含む。半導体領域53は第1の面63aと複合基板51との間に位置する。
【0073】
工程S105では、図6の(b)部に示されるように、基板生産物SPの第1の面63aをスクライブする。このスクライブは、レーザスクライバ10aを用いて行われる。スクライブによりスクライブ溝65aが形成される。図6の(b)部では、5つのスクライブ溝が既に形成されており、レーザビームLBを用いてスクライブ溝65bの形成が進められている。スクライブ溝65aの長さは、六方晶系III族窒化物半導体のa軸及び法線軸NXによって規定されるa−n面と第1の面63aとの交差線AISの長さよりも短く、交差線AISの一部分にレーザビームLBの照射が行われる。レーザビームLBの照射により、特定の方向に延在し半導体領域に到達する溝が第1の面63aに形成される。スクライブ溝65aは例えば基板生産物SPの一エッジに形成されることができる。スクライブ溝65aは支持基体のへき開方向に延在する。
【0074】
工程S106では、図6の(c)部に示されるように、基板生産物SPの第2の面63bへの押圧により基板生産物SPの分離を行って、基板生産物SP1及びレーザバーLB1を形成する。押圧は、例えばブレード69といったブレイキング装置を用いて行われる。ブレード69は、一方向に延在するエッジ69aと、エッジ69aを規定する少なくとも2つのブレード面69b、69cを含む。また、基板生産物SP1の押圧は支持装置71上において行われる。支持装置71は、支持面71aと凹部71bとを含み、凹部71bは一方向に延在する。凹部71bは、支持面71aに形成されている。基板生産物SP1のスクライブ溝65aの向き及び位置を支持装置71の凹部71bの延在方向に合わせて、基板生産物SP1を支持装置71上において凹部71bに位置決めする。凹部71bの延在方向にブレイキング装置のエッジの向きを合わせて、第2の面63bに交差する方向からブレイキング装置のエッジを基板生産物SP1に押し当てる。交差方向は好ましくは第2の面63bにほぼ垂直方向である。これによって、基板生産物SPの分離を行って、基板生産物SP1及びレーザバーLB1を形成する。押し当てにより、第1及び第2の端面67a、67bを有するレーザバーLB1が形成され、これらの端面67a、67bは少なくとも発光層の一部は半導体レーザの共振ミラーに適用可能な程度の垂直性及び平坦性を有する。この分離の際に、押圧により複合基板51の支持基体50にへき開が生じ、このへき開に続く破断が半導体領域53に及んで半導体領域53に端面が形成される。半導体領域53における端面の延在方向は、へき開面の延在方向により規定される。
【0075】
この作製方法によれば、支持基体50及び窒化ガリウム系半導体膜52を含む複合基板51における支持基体50のへき開性を利用して、III族窒化物半導体レーザ素子のレーザ共振器のための端面67a、67bを押圧により形成できる。レーザバーにおける端面67a、67bは第1の面63aから第2の面63bにまで延在する。また。端面67a、67bは支持基体50のへき開面を含むと共に、この押圧により半導体領域53にも端面を提供できる。
【0076】
製法方法は例えば以下のものを採用できる。半導体領域53は第1の面63a(半導体領域53の表面に)と複合基板51との間に位置する。一作製方法では、スクライブは第2の面63b(支持基板50の裏面に)に行う。押圧は第1の面63aに行われる。この作製方法によれば、押圧による半導体領域53の破断が、支持基体50におけるへき開面の形成方向を引き継いで、生じやすくなる。
【0077】
別の作製方法では、スクライブは第1の面63aに行われる。押圧は第2の面63bに行われる。この作製方法によれば、半導体領域53上の電極等の位置を避けて、第1の面63aにスクライブを行うことができ、スクライブの際に半導体領域53及び導波路構造にダメージを与えることがない。
【0078】
さらに別の作製方法では、スクライブは第2の面63bに行われる。押圧は第2の面63bに行われる。この作製方法によれば、導波路構造を含む半導体領域53へのスクライブ及び押圧を行わないので、スクライブ線の形成及び押圧の際に半導体領域53及び導波路構造にダメージを与えることがない。
【0079】
形成されたレーザバーLB1は、上記の分離により形成された第1及び第2の端面67a、67bを有し、端面67a、67bの各々は、第1の面63aから第2の面63bにまで延在する。これ故に、端面67a、67bは、当該III族窒化物半導体レーザ素子のレーザ共振器を構成し、XZ面に交差する。このXZ面は、六方晶系III族窒化物半導体のm軸及び法線軸NXによって規定されるm−n面に対応する。
【0080】
この方法によれば、六方晶系III族窒化物半導体のa軸の方向に基板生産物SPの第1の面63aをスクライブした後に、基板生産物SPの第2の面63bへの押圧により基板生産物SPの分離を行って、新たな基板生産物SP1及びレーザバーLB1を形成する。これ故に、m−n面に交差するように、レーザバーLB1に第1及び第2の端面67a、67bが形成される。この端面形成によれば、第1及び第2の端面67a、67bに当該III族窒化物半導体レーザ素子のレーザ共振器を構成できる程度の十分な平坦性及び垂直性が提供される。
【0081】
また、この方法では、形成されたレーザ導波路は、六方晶系III族窒化物のc軸の傾斜の方向に延在している。ドライエッチング面を用いずに、このレーザ導波路を提供できる共振器ミラー端面を形成している。
【0082】
この方法によれば、基板生産物SP1のブレイクにより、新たな基板生産物SP1及びレーザバーLB1が形成される。工程S107では、押圧による分離を繰り返して、多数のレーザバーを作製する。この割断は、レーザバーLB1の分離線BREAKに比べて短いスクライブ溝65aを用いて引き起こされる。
【0083】
工程S108では、レーザバーLB1の端面67a、67bに誘電体多層膜を形成して、レーザバー生産物を形成する。工程S109では、このレーザバー生産物を個々の半導体レーザのチップに分離する。
【0084】
本実施の形態に係る製造方法では、角度ALPHAは、45度以上80度以下及び100度以上135度以下の範囲であることができる。45度未満及び135度を越える角度では、押圧により形成される端面がm面からなる可能性が高くなる。また、80度を越え100度未満の角度では、所望の平坦性及び垂直性が得られないおそれがある。更に好ましくは、角度ALPHAは、63度以上80度以下及び100度以上117度以下の範囲であることができる。45度未満及び135度を越える角度では、押圧により形成される端面の一部に、m面が出現する可能性がある。また、80度を越え100度未満の角度では、所望の平坦性及び垂直性が得られないおそれがある。半極性主面51aは、{20−21}面、{10−11}面、{20−2−1}面、及び{10−1−1}面のいずれかであることができる。更に、これらの面から−4度以上+4度以下の範囲で微傾斜した面も前記主面として好適である。これら典型的な半極性面において、当該III族窒化物半導体レーザ素子のレーザ共振器を構成できる程度の十分な平坦性及び垂直性でレーザ共振器のための端面を提供できる。
【0085】
また、複合基板51の窒化ガリウム系半導体薄膜52は、GaN、AlN、AlGaN、InGaN及びInAlGaNのいずれかからなることができる。これらの窒化ガリウム系半導体からなる基板を用いるとき、レーザ共振器として利用可能な端面を得ることができる。複合基板51の窒化ガリウム系半導体薄膜52は好ましくはGaNからなる。支持基体50が、SiC、GaAs、InP、ZnSe、ZnO、GaN、劈開性を有する酸化物のいずれかから成ることができる。例えば、これらの材料の支持基体上にGaN薄膜が貼り合わされた複合基板を作製することができる。この複合基板では、GaN薄膜のへき開面(a面、m面、c面)の向きがそれぞれ支持基体のへき開面(a面、m面、c面)の向きに合わされてもよく、或いはGaN薄膜のへき開面(a面、m面、c面)のいずれかの向きが支持基体のへき開面(a面、m面、c面)のいずれかの向きに合わされていてもよい。また、GaN系半導体(例えばGaN)からなる支持基体とGaN系半導体(例えばGaN)からなる薄膜との貼り合わせ構造を含む複合基板では、支持基体の結晶性は薄膜の結晶性より低くして、コスト低減を図ることができる。
【0086】
この複合基板では、当該III族窒化物半導体レーザ素子のレーザ共振器を構成できる程度の十分な平坦性、垂直性があるか又はイオンダメージの無い端面67a、67bを歩留まりよく形成できる。
【0087】
本実施の形態に係るレーザ端面の製造方法では、レーザバーLB1においても、図3を参照しながら説明された角度BETAが規定される。レーザバーLB1では、角度BETAの成分(BETA)は、III族窒化物半導体のc軸及びm軸によって規定される第1平面(図3を参照した説明における第1平面S1に対応する面)において(ALPHA−5)度以上(ALPHA+5)度以下の範囲であることが好ましい。レーザバーLB1の端面67a、67bは、c軸及びm軸の一方から他方に取られる角度BETAの角度成分に関して上記の垂直性を満たす。また、角度BETAの成分(BETA)は、第2平面(図3に示された第2平面S2に対応する面)において−5度以上+5度以下の範囲であることが好ましい。このとき、レーザバーLB1の端面67a、67bは、半極性面51aの法線軸NXに垂直な面において規定される角度BETAの角度成分に関して上記の垂直性を満たす。
【0088】
端面67a、67bは、半極性面51a上にエピタキシャルに成長された複数の窒化ガリウム系半導体層への押圧によるブレイクによって形成される。半極性面51a上へのエピタキシャル膜であるが故に、端面67a、67bの半導体領域53の端面は、これまで共振器ミラーとして用いられてきたc面、m面、又はa面といった低面指数のへき開面ではない。しかしながら、半極性面51a上へのエピタキシャル膜の積層のブレイクにおいて、端面67a、67bは、共振器ミラーとして適用可能な平坦性及び垂直性を有する。
【0089】
この端面を有するレーザの共振器としての有用性を調べるため、以下の通り、図7に示されるレーザーダイオードを有機金属気相成長法により成長した。原料にはトリメチルガリウム(TMGa)、トリメチルアルミニウム(TMAl)、トリメチルインジウム(TMIn)、アンモニア(NH)、シラン(SiH)を用いた。上記のように作製された複合基板71を準備した。m軸方向へのc軸の傾斜角度ALPHAが0度から90度の範囲の所望のオフ角を有しHVPE法で厚く成長したGaNインゴットを準備し、このGaNインゴットのm75度GaN面をSiC支持基体のc面主面に接合した後に、SiC支持基体70aの主面にGaN薄膜70bを残すように処理して、複合基板71を作製する。例えば、75度の角度のGaN主面は、{20−21}面の面方位に対応する。図8に示される六方晶系の結晶格子において参照符号71aによって示されている。
【0090】
この基板71を反応炉内のサセプタ上に配置した後に、以下の成長手順でエピタキシャル層を成長した。まず、厚さ500nmのn型GaN72を成長した。次に、厚さ1500nmのn型InAlGaNクラッド層73を成長した。引き続き、厚さ200nmのアンドープInGaNガイド層74を成長した後に、GaN厚さ15nm/InGaN厚さ3nmから構成されるMQW75を成長した。続いて、厚さ200nmのアンドープInGaNガイド層76、及び厚さ20nmのp型AlGaNブロック層77を成長した。次に、厚さ400nmのp型InAlGaNクラッド層77を成長した。最後に、厚さ50nmのp型GaNコンタクト層78を成長した。
【0091】
SiOの絶縁膜79をコンタクト層78上に成膜した後に、フォトリソグラフィを用いて幅10μmのストライプ窓をウェットエッチングにより形成した。ここで、以下の2通りにストライプ方向のコンタクト窓を形成した。レーザストライプがM方向(コンタクト窓がc軸及びm軸によって規定される所定の面に沿った方向)のものを作製する。
【0092】
ストライプ窓を形成した後に、Ni/Auから成るp側電極80aとTi/Alから成るパッド電極を蒸着した。次いで、SiC支持基体の裏面をダイヤモンドスラリーを用いて研磨し、裏面がミラー状態の基板生産物を作製した。SiC支持基体の裏面(研磨面)にはTi/Al/Ti/Auから成るn側電極80bを蒸着により形成した。
【0093】
ブレードを用いて、共振ミラーを割断により作製した。基板裏側に押圧によりブレイクすることによって、レーザバーを作製した。より具体的に、SiC支持基体のc面上のGaN薄膜の{20−21}面の主面について、結晶方位と端面との関係を示したものが、図8の(a)部と図8の(b)部である。図8の(a)部はレーザストライプを上記のM方向に設けた場合であり、半極性面71aと共にレーザ共振器のための端面81a、81bが示される。端面81a、81bは半極性面71aにほぼ直交しているが、従来のc面、m面又はa面等のこれまでのへき開面とは異なる。図8の(b)部はレーザストライプを<11−20>方向に設けた場合であり、半極性面71aと共にレーザ共振器のための端面81c、81dが示される。端面81c、81dは半極性面71aにほぼ直交しており、a面から構成される。
【0094】
上記の実施例を含めた様々な実験によって、角度ALPHAは、45度以上80度以下及び100度以上135度以下の範囲であることが好ましい。
【0095】
発振チップ歩留を向上させるためには、c軸の傾斜をm軸の方向に規定する角度ALPHAは、63度以上80度以下及び100度以上117度以下の範囲であることができる。典型的な半極性主面は、{20−21}面、{10−11}面、{20−2−1}面、及び{10−1−1}面のいずれかであることができる。更に、これらの半極性面からの微傾斜面であることができる。例えば、半極性主面は、{20−21}面、{10−11}面、{20−2−1}面、及び{10−1−1}面のいずれかの面から、m面方向に−4度以上+4度以下の範囲でオフした微傾斜面であることができる。
【0096】
発振チップ歩留を向上させるためには、c軸の傾斜をa軸の方向に規定する角度ALPHAは、59度以上80度以下及び100度以上121度以下の範囲であることができる。典型的な半極性主面、{11−22}面、{11−21}面、{11−2−2}面、及び{11−21}面のいずれかであることができる。更に、これらのいずれかの半極性面から、a面方向に−4度以上+4度以下の範囲でオフした微傾斜面であることができる。
【0097】
実施の形態における説明においては、支持基体に張り合わされた窒化ガリウム系半導体膜の主面は半極性を示す形態を説明したけれども、複合基板は、六方晶系の窒化ガリウム系半導体からなる半極性面と異なる極性品質(極性面、無極性面)を有することができる。支持基体の材料のへき開可能な方向は、複合基板上に設けられる半導体領域のa軸、m軸及びc軸のいずれか一つの方向に合わされていることができる。例えば、無極性面に関しては、へき開可能な方向がエピタキシャル半導体領域のc軸方向に合わされているとき、m軸及びa軸の一方は、複合基板の主面の法線軸に対してm軸及びa軸の他方の方向に傾斜可能である。複合基板が、III族窒化物(例えばGaN)と異なる異種材料の支持基体と該異種基板に接合を成すGaN半導体薄膜とを含むとき、高品質のGaN主面を有する安価な基板を提供できる。なお、例えば結晶学的な(0001)面から微少な傾斜(例えば−2度以上+2度以下)を有する半導体面も極性面と呼び、無極性についても同様に扱う。
【0098】
好適な実施の形態において本発明の原理を図示し説明してきたが、本発明は、そのような原理から逸脱することなく配置および詳細において変更され得ることは、当業者によって認識される。本発明は、本実施の形態に開示された特定の構成に限定されるものではない。したがって、特許請求の範囲およびその精神の範囲から来る全ての修正および変更に権利を請求する。
【産業上の利用可能性】
【0099】
以上説明したように、本実施の形態によれば、光共振器のための半導体積層の端面の向きを制御可能なIII族窒化物半導体レーザ素子が提供され、また光共振器のための半導体積層の端面の向きを制御可能な、III族窒化物半導体レーザ素子を作製する方法が提供される。
【符号の説明】
【0100】
11…III族窒化物半導体レーザ素子、13…レーザ構造体、13a…第1の面、13b…第2の面、13c、13d…エッジ、15…電極、16…支持基体、18…窒化ガリウム系半導体膜、17…複合基板、17a…半極性主面、17b…支持基体裏面、17c…支持基体端面、19…半導体領域、19a…半導体領域表面、19c…半導体領域端面、21…第1のクラッド層、23…第2のクラッド層、25…活性層、25a…井戸層、25b…障壁層、27、29…割断面、ALPHA…角度、Sc…c面、NX…法線軸、31…絶縁膜、31a…絶縁膜開口、35…n側光ガイド層、37…p側光ガイド層、39…キャリアブロック層、41…電極、43a、43b…誘電体多層膜、MA…m軸ベクトル、BETA…角度、50…支持基体、52…窒化ガリウム系半導体膜、51…複合基板、51a…半極性主面、SP…基板生産物、53…半導体領域、54…絶縁膜、54a…絶縁膜開口、55…レーザ構造体、57…窒化ガリウム系半導体領域、59…発光層、58a…アノード電極、58b…カソード電極、61…窒化ガリウム系半導体領域、63a…第1の面、63b…第2の面、10a…レーザスクライバ、65a…スクライブ溝、65b…スクライブ溝、LB…レーザビーム、SP1…基板生産物、LB1…レーザバー、69…ブレード、69a…エッジ、69b、69c…ブレード面、71…支持装置、71a…支持面、71b…凹部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
III族窒化物半導体レーザ素子であって、
へき開性を有する材料からなる支持基体と、該支持基体の主面に張り合わされて成る接合を有する窒化ガリウム系半導体膜とを含む複合基板と、
前記窒化ガリウム系半導体膜の主面の上に設けられIII族窒化物半導体からなるエピタキシャル半導体領域と、
前記エピタキシャル半導体領域の主面の上に設けられており導波路軸の方向に延在する電極とを備え、
前記複合基板及び前記エピタキシャル半導体領域はレーザ構造体を構成し、
前記窒化ガリウム系半導体膜の前記主面は半極性を示し、
前記エピタキシャル半導体領域は、第1導電型III族窒化物半導体層、活性層、及び第2導電型III族窒化物半導体層を含み、
前記第1導電型III族窒化物半導体層、前記活性層、及び前記第2導電型III族窒化物半導体層は、前記窒化ガリウム系半導体膜の前記主面の法線軸の方向に配列されており、
前記レーザ構造体は、前記導波路軸に交差する方向に延在する第1の端面と、前記導波路軸に交差する方向に延在する第2の端面とを含み、
前記第1の端面は、前記レーザ構造体の前記エピタキシャル半導体領域の前記主面のエッジから前記レーザ構造体の前記支持基体の裏面まで延在し、
当該III族窒化物半導体レーザ素子のためのレーザ共振器は前記第1及び第2の端面を含み、
前記第1の端面は、前記エピタキシャル半導体領域の端面、及び前記支持基体のへき開面を含む、III族窒化物半導体レーザ素子。
【請求項2】
前記エピタキシャル半導体領域における前記III族窒化物半導体のc軸は、前記III族窒化物半導体のa軸及びm軸のいずれかの方向に傾斜している、請求項1に記載されたIII族窒化物半導体レーザ素子。
【請求項3】
前記支持基体の前記材料のへき開可能な方向は、前記エピタキシャル半導体領域のa軸及びm軸のいずれか一つの方向に合わされている、請求項1又は請求項2に記載されたIII族窒化物半導体レーザ素子。
【請求項4】
前記エピタキシャル半導体領域の前記端面は、前記エピタキシャル半導体領域のa面、m面及びc面と異なる、請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載されたIII族窒化物半導体レーザ素子。
【請求項5】
前記活性層は、インジウムを含む窒化ガリウム系半導体からなる半導体層を含み、
前記窒化ガリウム系半導体膜のc軸は前記複合基板の主面における法線に対して傾斜角で傾斜しており、
前記傾斜角は、45度以上であり、80度以下であり、または100度以上であり、135度以下の範囲にある、請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載されたIII族窒化物半導体レーザ素子。
【請求項6】
前記活性層は、インジウムを含む窒化ガリウム系半導体からなる半導体層を含み、
前記窒化ガリウム系半導体膜のc軸は前記複合基板の主面における法線に対して傾斜角で傾斜しており、
前記傾斜角は、63度以上であり、80度以下であり、または100度以上であり、117度以下の範囲にある、請求項1〜請求項5のいずれか一項に記載されたIII族窒化物半導体レーザ素子。
【請求項7】
前記エピタキシャル半導体領域の前記端面は、前記窒化ガリウム系半導体膜の材料の劈開面に沿って延在する基準面に対して傾斜している、請求項1〜請求項6のいずれか一項に記載されたIII族窒化物半導体レーザ素子。
【請求項8】
前記活性層は、当該III族窒化物半導体レーザの発振波長が500nm以上560nm以下の範囲にあるように設けられる、請求項1〜請求項7のいずれか一項に記載されたIII族窒化物半導体レーザ素子。
【請求項9】
前記エピタキシャル半導体領域における前記III族窒化物半導体のc軸は、前記導波路軸の方向に傾斜している、請求項1〜請求項8のいずれか一項に記載されたIII族窒化物半導体レーザ素子。
【請求項10】
前記半極性主面は、{20−21}面、{10−11}面、{20−2−1}面、及び{10−1−1}面のいずれかの面から−4度以上+4度以下の範囲でオフした微傾斜面である、請求項1〜請求項9のいずれか一項に記載されたIII族窒化物半導体レーザ素子。
【請求項11】
前記半極性主面は、{20−21}面、{10−11}面、{20−2−1}面、及び{10−1−1}面のいずれかである、請求項1〜請求項10のいずれか一項に記載されたIII族窒化物半導体レーザ素子。
【請求項12】
III族窒化物半導体レーザ素子であって、
へき開性を有する材料からなる支持基体と、該支持基体の主面に張り合わされて成る接合を有する窒化ガリウム系半導体膜とを含む複合基板と、
前記窒化ガリウム系半導体膜の主面の上に設けられたエピタキシャル半導体領域と、
前記エピタキシャル半導体領域の上に設けられており導波路軸の方向に延在する電極と、
前記導波路軸に交差する方向に延在する第1の端面と、
前記導波路軸に交差する方向に延在する第2の端面と、
を備え、
前記エピタキシャル半導体領域は、第1導電型III族窒化物半導体層、活性層、及び第2導電型III族窒化物半導体層を含み、
前記第1導電型III族窒化物半導体層、前記活性層、及び前記第2導電型III族窒化物半導体層は、前記窒化ガリウム系半導体膜の前記主面の法線軸の方向に配列されており、
当該III族窒化物半導体レーザのためのレーザ共振器は前記第1及び第2の端面を含み、
前記窒化ガリウム系半導体膜の前記主面はc面からなり、
前記第1の端面は、前記エピタキシャル半導体領域の端面、及び前記支持基体のへき開面を含む、III族窒化物半導体レーザ素子。
【請求項13】
前記導波路軸の方向を示す導波路ベクトルは、前記エピタキシャル半導体領域の前記端面における法線ベクトルと2度以内の角度を成す、請求項1〜請求項12のいずれか一項に記載されたIII族窒化物半導体レーザ素子。
【請求項14】
前記支持基体が、SiC、GaAs、InP、ZnSe、ZnO、GaN、及び劈開性を有する酸化物のいずれかから成る、請求項1〜請求項13のいずれか一項に記載されたIII族窒化物半導体レーザ素子。
【請求項15】
前記窒化ガリウム系半導体膜の転位密度が1×10cm−2以下である、請求項1〜請求項14のいずれか一項に記載されたIII族窒化物半導体レーザ素子。
【請求項16】
前記第1の端面は、前記支持基板の裏面から延在するスクライブ跡を含む、請求項1〜請求項15のいずれか一項に記載されたIII族窒化物半導体レーザ素子。
【請求項17】
前記第1の端面は、前記前記エピタキシャル半導体領域の主面から延在するスクライブ跡を含む、請求項1〜請求項15のいずれか一項に記載されたIII族窒化物半導体レーザ素子。
【請求項18】
前記エピタキシャル半導体領域の前記端面は前記活性層の端面を含み、
前記窒化ガリウム系半導体膜におけるある結晶軸に直交する基準面と前記エピタキシャル半導体領域の前記活性層の前記端面との成す角度は、前記III族窒化物半導体のc軸及び前記結晶軸によって規定される第1平面において(ALPHA−5)度以上(ALPHA+5)度以下の範囲の角度を成し、
前記結晶軸はm軸又はa軸である、請求項1〜請求項17のいずれか一項に記載されたIII族窒化物半導体レーザ素子。
【請求項19】
前記エピタキシャル半導体領域の前記端面は前記活性層の端面を含み、
前記窒化ガリウム系半導体膜におけるある結晶軸に直交する基準面と前記エピタキシャル半導体領域の前記活性層の前記端面との成す角度は、前記エピタキシャル半導体領域の前記主面に平行な第2平面において−5度以上+5度以下の範囲である、請求項1〜請求項18のいずれか一項に記載されたIII族窒化物半導体レーザ素子。
【請求項20】
III族窒化物半導体レーザ素子を作製する方法であって、
へき開性を有する材料からなる支持基体と、該支持基体の主面に張り合わされて成る接合を有する窒化ガリウム系半導体膜とを含む複合基板を準備する工程と、
前記窒化ガリウム系半導体膜の主面の上に形成されたエピタキシャル半導体領域と前記複合基板とを含むレーザ構造体、及び電極を有する基板生産物を形成する工程と、
前記支持基体のへき開方向に合わせた方向に前記基板生産物をスクライブする工程と、
前記基板生産物への押圧により前記基板生産物の分離を行って、別の基板生産物及びレーザバーを形成する工程と、
を備え、
前記基板生産物は第1の面及び第2の面を有し、前記第1の面は前記第2の面の反対側の面であり、
前記レーザバーは、前記第1の面から前記第2の面にまで延在し前記分離により形成された第1及び第2の端面を有し、
前記第1の端面は、前記エピタキシャル半導体領域の端面、及び前記支持基体のへき開面を含み、
前記第1及び第2の端面は当該III族窒化物半導体レーザ素子のレーザ共振器を構成し、
前記電極は、前記エピタキシャル半導体領域の上に形成され、
前記エピタキシャル半導体領域は、第1導電型の窒化ガリウム系半導体からなる第1のクラッド層と、第2導電型の窒化ガリウム系半導体からなる第2のクラッド層と、前記第1のクラッド層と前記第2のクラッド層との間に設けられた活性層とを含み、
前記第1のクラッド層、前記第2のクラッド層及び前記活性層は、前記窒化ガリウム系半導体膜の前記主面の法線軸に沿って配列されており、
前記活性層は窒化ガリウム系半導体層を含み、
前記レーザ構造体は、前記複合基板の前記半極性主面の上に延在するレーザ導波路を含み、前記電極は前記第1及び第2の端面の一方から他方への方向に向く導波路ベクトルの方向に延在する、III族窒化物半導体レーザ素子を作製する方法。
【請求項21】
前記エピタキシャル半導体領域は前記第1の面と前記複合基板との間に位置し、
前記スクライブは前記第2の面に行われ、
前記押圧は前記第1の面に行われる、請求項20に記載されたIII族窒化物半導体レーザ素子を作製する方法。
【請求項22】
前記エピタキシャル半導体領域は前記第1の面と前記複合基板との間に位置し、
前記スクライブは前記第1の面に行われ、
前記押圧は前記第2の面に行われる、請求項20に記載されたIII族窒化物半導体レーザ素子を作製する方法。
【請求項23】
前記エピタキシャル半導体領域は前記第1の面と前記複合基板との間に位置し、
前記スクライブは前記第2の面に行われ、
前記押圧は前記第2の面に行われる、請求項20に記載されたIII族窒化物半導体レーザ素子を作製する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−138416(P2012−138416A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−288426(P2010−288426)
【出願日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】