説明

III族窒化物半導体発光素子およびその製造方法

【課題】pクラッド層の特性悪化を防止すること。
【解決手段】発光層14上に、800〜950℃でMgドープAlGaInNからなるpクラッド層15を形成した(図2(b))。次に、pクラッド層15上に、pクラッド層15形成時と同じ温度でノンドープGaNからなる厚さ5〜100Åのキャップ層16を形成した(図2(c))。キャップ層16にはMg濃度5×1019/cm3 以下の範囲でMgをドープしてもよい。次に、温度を次工程のpコンタクト層17の成長温度まで昇温した。この昇温時において、キャップ層16が形成されているため、pクラッド層15表面が露出しておらず、Mgの過剰ドープや不純物の混入が抑制される。そのため、pクラッド層15の特性悪化が防止される。次に、キャップ層16上に950〜1100℃でpコンタクト層17を形成した(図2(d))。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、p型層の形成方法に特徴を有したIII 族窒化物半導体発光素子の製造方法であり、特にpクラッド層の特性悪化を防止することができる製造方法に関する。また、p型層の構造に特徴を有したIII 族窒化物半導体発光素子である。
【背景技術】
【0002】
III 族窒化物半導体発光素子は、主として基板上にn型層、発光層、p型層が順に積層された構造を有している。そしてp型層は発光層側からpクラッド層、pコンタクト層の順に積層された構造を有している。
【0003】
pクラッド層は、たとえばAlGaNからなる単層や、AlGaNとInGaN、あるいはAlGaNとGaNとが交互に複数回積層された超格子構造である。pクラッド層は、発光層への熱ダメージを低減するため、800〜950℃の低温で成長させている。
【0004】
pコンタクト層は、たとえば高濃度にMgがドープされたp−GaNである。pコンタクト層は、結晶品質を向上させるため、950〜1100℃で、かつpクラッド層の成長温度よりも高い温度で成長させている。
【0005】
このように、pクラッド層は低温で成長させ、pコンタクト層を高温で成長させているため、従来、pクラッド層の成長後に結晶成長を中断して昇温し、その後にpコンタクト層を成長させている。
【0006】
また、本発明に関連する技術として、特許文献1、2がある。特許文献1には、発光層上に、p−AlGaNからなるキャップ層、p−GaNからなる光導波層、p−AlGaNからなるpクラッド層、p−GaNからなるpコンタクト層が順に積層されたIII 族窒化物半導体発光素子が示されている。また、特許文献2には、AlGaNとGaNとが交互に複数回積層された超格子構造であるpクラッド層と、MgがドープされたInGaNからなるpコンタクト層との間に、厚さ100nm、Mg濃度5×1019/cm3 のGaNからなる層が設けられたIII 族窒化物半導体発光素子が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000−164512
【特許文献2】特開2007−80996
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、pクラッド層形成後のpコンタクト層形成のための昇温の際、pクラッド層表面が露出しているために、pクラッド層中にMgが過剰にドープされてしまったり、他の不純物が結晶に混入してしまうなどの問題がある。その結果、pクラッド層が高抵抗化してしまうなど特性に悪影響を及ぼしてしまう。
【0009】
また、特許文献1、2には、上記pクラッド層の特性悪化の問題について何ら示されておらず、特許文献2には、pクラッド層とpコンタクト層との間のGaNからなる層が何の目的で設けた層であるか明らかにされていない。
【0010】
そこで本発明の目的は、特性を悪化させずにpクラッド層を形成することができるIII 族窒化物半導体発光素子の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
第1の発明は、pクラッド層と、pクラッド層上に位置するpコンタクト層とを有したIII 族窒化物半導体発光素子の製造方法において、pクラッド層を第1の成長温度で形成する工程と、pクラッド層上に、第1の成長温度であって、ノンドープもしくはMg濃度が5×1019/cm3 以下となる範囲でMgをドープしてIII 族窒化物半導体からなるキャップ層を形成する工程と、第1の成長温度よりも高い第2の成長温度まで昇温する工程と、キャップ層上に、第2の成長温度でpコンタクト層を形成する工程と、を有することを特徴とするIII 族窒化物半導体発光素子の製造方法である。
【0012】
なお、キャップ層は、成長開始時に第1の成長温度であればよく、第2の成長温度を越えない範囲で昇温させながら成長させてもよい。もちろん、第1の成長温度で一定のまま、キャップ層を成長させてもよい。
【0013】
また、キャップ層の厚さは5〜100Åとすることが望ましい。キャップ層の厚さがこの範囲であれば、次工程での昇温においてpクラッド層にMgが過剰にドープされてしまったり、不純物が混入してしまったりするのを保護することができ、pクラッド層の特性を悪化させない機能を十分に果たすことができる。より望ましくはキャップ層の厚さを5〜20Åとすることである。
【0014】
キャップ層の材料は、III 族窒化物半導体であれば任意であるが、結晶性や制御性などの点からGaN、InGaNが望ましく、特にGaNとすることが望ましい。InGaNとする場合には、In組成比は0より大きく10%以下とすることが望ましい。また、キャップ層にはMg濃度5×1019/cm3 以下の範囲でMgがドープされていてもよいし、ノンドープであってもよい。ノンドープであっても、メモリー効果によってキャップ層中にはMgが取り込まれる。そのため、Mgをドープしてもノンドープでも、のちの熱処理によってp型のキャップ層が得られる。より望ましいキャップ層のMg濃度は、1×1019〜5×1019/cm3 である。また、キャップ層はMg濃度や組成比の異なる複数の層で構成してもよいが、製造工程が増え、キャップ層自体の厚さも増してしまうため、単層とすることが望ましい。
【0015】
第1の成長温度は、800〜950℃、第2の成長温度は950〜1100℃であることが望ましい。この範囲であれば、pクラッド層およびpコンタクト層を結晶性よく成長させることができるとともに、キャップ層によるpクラッド層の特性悪化防止の効果も十分に発揮させることができる。
【0016】
pクラッド層は、単層でもよいし、超格子構造などの複数の層で構成されていてもよい。pクラッド層を単層とする場合、pクラッド層は、Al組成比が0%より大きく50%以下、In組成比が0%以上10%以下のAlGaInNとすることができる。より望ましくはAl組成比25〜35%、In組成比1〜6%のAlGaInNである。また、pクラッド層を超格子構造とする場合、pクラッド層は、Al組成比が0%より大きく50%以下のAlGaNと、In組成比が0%以上10%以下のInGaNとが交互に複数回積層された構造とすることができる。より望ましいのは、Al組成比が27〜31%のAlGaNと、In組成比が4〜6%のInGaNとが交互に複数回積層された超格子構造とすることである。また、pクラッド層にはMgがドープされていてもよい。
【0017】
pコンタクト層は、単層であってもよいし、Mg濃度や組成比の異なる複数の層で構成されていてもよい。pコンタクト層を単層とする場合、pコンタクト層はMgドープのGaNまたはInGaNとすることができる。pコンタクト層を複数の層で構成する場合、キャップ層から遠いほどMg濃度が高くなるよう各層のMg濃度が設定された複数の層(たとえばGaN)とすることができる。このようにpコンタクト層を構成すれば、p電極とのコンタクト抵抗を低減することができる。また、pコンタクト層を複数の層で構成する場合、最上層、つまりp電極と接触する層をInGaNとすることで、p電極とのコンタクト抵抗の低減を図ってもよい。
【0018】
第2の発明は、第1の発明において、キャップ層は、5〜100Åの厚さに形成する、ことを特徴とするIII 族窒化物半導体発光素子の製造方法である。
【0019】
第3の発明は、第2の発明において、キャップ層は、5〜20Åの厚さに形成する、ことを特徴とするIII 族窒化物半導体発光素子の製造方法である。
【0020】
第4の発明は、第1の発明から第3の発明において、キャップ層は、In組成比が0〜10%のInGaNであることを特徴とするIII 族窒化物半導体発光素子の製造方法である。In組成比が0%の場合、つまりGaNである場合も含む。
【0021】
第5の発明は、第1の発明から第4の発明において、第1の成長温度は、800〜950℃であり、第2の成長温度は、950〜1100℃であることを特徴とするIII 族窒化物半導体発光素子の製造方法である。
【0022】
第6の発明は、第1の発明から第5の発明において、pクラッド層は、Al組成比は0%より大きく50%以下、In組成比は0%以上10%以下のAlGaInNからなる単層であることを特徴とするIII 族窒化物半導体発光素子の製造方法である。
【0023】
第7の発明は、第1の発明から第5の発明において、pクラッド層は、Al組成比が0%より大きく50%以下のAlGaNと、In組成比が0%以上10%以下のInGaNとが交互に複数回積層された超格子構造である、ことを特徴とするIII 族窒化物半導体発光素子の製造方法である。
【0024】
第8の発明は、第1の発明から第7の発明において、pコンタクト層は、Mg濃度の異なる複数の層で構成され、それらの層は、キャップ層から遠いほどMg濃度が高い、ことを特徴とするIII 族窒化物半導体発光素子の製造方法である。
【0025】
第9の発明は、pクラッド層と、pクラッド層上に位置するpコンタクト層とを有したIII 族窒化物半導体発光素子において、pクラッド層とpコンタクト層との間に、GaNからなり、Mg濃度が5×1019/cm3 以下で、厚さ5〜100Åのキャップ層を有する、ことを特徴とするIII 族窒化物半導体発光素子である。
【発明の効果】
【0026】
本発明では、pクラッド層とpコンタクト層との間に、pクラッド層と同じ成長温度(第1の成長温度)で、ノンドープもしくはMg濃度が5×1019/cm3 以下となる範囲でMgをドープしてIII 族窒化物半導体からなるキャップ層を形成している。そして、キャップ層を形成したのちに、pコンタクト層を形成する温度(第2の成長温度)まで昇温している。この昇温時に、pクラッド層表面はキャップ層により覆われているため、pクラッド層にMgが過剰にドープされてしまったり、不純物が混入してしまったりするのが防止される。その結果、pクラッド層の特性悪化を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】実施例1のIII 族窒化物半導体発光素子の構成を示した図。
【図2】実施例1のIII 族窒化物半導体発光素子の製造工程を示した図。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の具体的な実施例について図を参照に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0029】
図1は、実施例1のIII 族窒化物半導体発光素子の構成を示した図である。実施例1のIII 族窒化物半導体発光素子は、サファイア基板10を有し、サファイア基板10上に、AlNからなるバッファ層(図示しない)を介して、nコンタクト層11、ESD層12、nクラッド層13、発光層14、pクラッド層15、キャップ層16、pコンタクト層17が順に積層されている。pコンタクト層17表面の一部領域には、その表面からnコンタクト層11に達する深さの溝が形成されていて、その溝の底面に露出したnコンタクト層11上にはn電極20が設けられている。また、pコンタクト層17上の溝形成部を除くほぼ全面にはITOからなる透明電極18が設けられ、透明電極18上にはp電極19が設けられている。
【0030】
サファイア基板10のnコンタクト層11側表面にドット状、ストライプ状などの凹凸パターンを設け、光取り出し効率の向上を図るようにしてもよい。成長基板としてサファイア基板以外にも、SiC、Si、ZnO、スピネル、GaN、Ga2 3 などを用いることができる。
【0031】
nコンタクト層11は、Si濃度が1×1018/cm3 以上のn−GaNである。n電極16とのコンタクト抵抗をより低減するために、nコンタクト層11をSi濃度の異なる複数の層で構成してもよい。
【0032】
ESD層12は、nコンタクト層11側から順に、第1ESD層、第2ESD層、第3ESD層の3層構造とし、第1ESD層は、発光層13側の表面に1×108 /cm2 以下のピットが形成され、厚さが200〜1000nm、Si濃度が1×1016〜5×1017/cm3 のGaNで構成され、第2ESD層は、発光層13側の表面に2×108 /cm2 以上のピットが形成され、厚さが50〜200nm、キャリア濃度が5×1017/cm3 以下のGaNで構成され、第3ESD層は、Si濃度(/cm3 )と膜厚(nm)の積で定義される特性値が0.9×1020〜3.6×1020(nm/cm3 )のGaNで構成する。このようにESD層を構成すれば、静電耐圧特性を向上させつつ、発光効率や信頼性を向上させることができ、電流のリークを減少させることができる。
【0033】
nクラッド層13は、InGaN層、AlGaN層、Siドープのn−GaN層の3層を順に積層させたものを1単位として、この単位構造を15回繰り返し積層させた超格子構造である。ただし、nクラッド層12は、最初に形成する層、すなわち、nコンタクト層11に接する層をInGaN層とし、最後に形成する層、すなわち、発光層14に接する層をn−GaN層としている。このような構造のnクラッド層13を設けることにより、発光層からnクラッド層13側へのホールの漏れを効果的に防止することができ、発光効率の向上を図ることができる。
【0034】
発光層14は、ノンドープのInGaNからなる井戸層とノンドープのAlGaNからなる障壁層とが交互に繰り返し積層されたMQW構造である。井戸層と障壁層との間に、Al組成比が障壁層のAl組成比以下のAlGaNからなり、井戸層と同じ成長温度で形成するキャップ層(本発明におけるキャップ層とは別の層)を設けてもよい。このようなキャップ層を設けると、障壁層を形成する際の昇温時に井戸層からのInの離脱が防止されるため、発光効率を向上させることができる。発光層13とpクラッド層14との間に、pクラッド層14中のMgが発光層13へ拡散するのを防止するために、ノンドープのGaNとノンドープのAlGaNとからなる層を設けてもよい。
【0035】
pクラッド層15は、厚さ275Åのp−AlGaInNからなる単層である。Al組成比は0より大きく50%以下であり、In組成比は0%以上10%以下である。このような組成比のAlGaInNからなる層を設けることで、ホールの発光層14からの漏れを低減することができ、発光効率を向上させることができる。より望ましくは、Al組成比が25〜35%、In組成比が1〜6%のAlGaInNからなる単層とすることである。pクラッド層15のp型不純物はMgであり、そのMg濃度は1×1020〜2×1020/cm3 である。
【0036】
なお、pクラッド層15は、超格子構造としてもよい。たとえば、p−AlGaN層とp−InGaN層とが交互に複数回積層された超格子構造である。p−AlGaN層、p−InGaN層のMg濃度は1×1020〜2×1020/cm3 とすることが望ましい。AlGaN層のAl組成比は0より大きく50%以下とすることが望ましく、InGaN層のIn組成比は0以上10%以下とすることが望ましい。さらに望ましくは、AlGaN層のAl組成比を27〜31%とすることであり、InGaN層のIn組成比を4〜6%とすることである。
【0037】
キャップ層16は、厚さ5〜100ÅのノンドープGaNからなる単層である。キャップ層16には、ノンドープであってもメモリー効果によって5×1018〜5×1019/cm3 程度のMgが結晶に混入している。このようなキャップ層16をpクラッド層15とpコンタクト層17との間に設けることにより、pクラッド層15へのMgの過剰ドープや不純物の混入を防止することができ、pクラッド層15の特性悪化を防止することができる。キャップ層16の厚さは5〜20Åとすることがより望ましく、さらに望ましくは5〜10Åである。
【0038】
なお、キャップ層16としてIn組成比が0より大きく10%以下のInGaNからなる単層とすることもできる。In組成比がこの範囲であれば、結晶性よくキャップ層16を形成することができる。
【0039】
より一般に、キャップ層16はIII 族窒化物半導体(Alx Gay Inz N(x+y+z=1、0≦x、y、z≦1))であってもよいが、結晶性や形成時の制御性などの点から上記のようにInx Gay N(x+y=1、0≦x≦0.1)であることが望ましい。
【0040】
また、キャップ層16には、Mg濃度5×1019/cm3 以下の範囲でMgがドープされていてもよい。より望ましくは1×1019〜5×1019/cm3 である。
【0041】
また、キャップ層16はMg濃度や組成比の異なる複数の層で構成してもよいが、製造工程が増え、キャップ層16自体の厚さも増してしまうため、単層とすることが望ましい。
【0042】
pコンタクト層17は、キャップ層16側から順に、Mg濃度1〜3×1019/cm3 で厚さ320ÅのGaNからなる第1pコンタクト層、Mg濃度4〜6×1019/cm3 で厚さ320ÅのGaNからなる第2pコンタクト層、Mg濃度1〜2×1020/cm3 で厚さ80ÅのGaNからなる第3pコンタクト層、の3層からなる。pコンタクト層17をこのような構成とすることにより、pコンタクト層17の結晶性を保持しつつ、透明電極18とのコンタクト抵抗を低減することができる。透明電極18と接する第3pコンタクト層は、GaNではなくInGaNとしてもよい。仕事関数が透明電極18に近くなるため、コンタクト抵抗をさらに低減することができる。
【0043】
透明電極18は、pコンタクト層17表面のほぼ全面に設けられている。透明電極18には、ITO以外にもICO(セリウムドープの酸化インジウム)やIZO(亜鉛ドープの酸化インジウム)などの透明酸化物導電体材料や、Auなどの金属薄膜を用いることができる。
【0044】
p電極19、n電極20は、電流拡散性を向上させるために、ワイヤがボンディングされるパッド部と、面内に配線状(たとえば格子状や櫛歯状、放射状)に広がり、パッド部と接続する配線状部と、を有する構造としてもよい。
【0045】
次に、実施例1のIII 族窒化物半導体発光素子の製造工程について、図2を参照に説明する。
【0046】
まず、サファイア基板10を用意し、水素雰囲気中でサーマルクリーニングを行い、サファイア基板10表面に付着した不純物を除去した。
【0047】
次に、サファイア基板10上に、MOCVD法によって、AlNからなるバッファ層(図示しない)、nコンタクト層11、ESD層12、nクラッド層13、発光層14、を順に積層した(図2(a))。原料ガスは、Ga源としてTMG(トリメチルガリウム)、In源としてTMI(トリメチルインジウム)、Al源として(トリメチルアルミニウム)、窒素源としてアンモニアを用い、キャリアガスとして水素と窒素を用いた。また、n型ドーパントガスにはシランを用いた。
【0048】
次に、発光層14上に、MOCVD法によって800〜950℃(本発明における第1の成長温度)で厚さ275ÅのMgドープAlGaInNからなるpクラッド層15を形成した(図2(b))。p型ドーパントガスとしてCp2 Mg(ビスシクロペンタジエニルマグネシウム)を用い、原料ガスやキャリアガスは上記と同様である。pクラッド層15のより望ましい成長温度は、840〜880℃であり、この温度範囲であれば、pクラッド層15をより結晶性よく成長させることができる。
【0049】
次に、pクラッド層15上に、MOCVD法によって、pクラッド層15形成時と同じ温度でノンドープGaNからなる厚さ5〜100Åのキャップ層16を形成した(図2(c))。キャップ層16にはメモリー効果によって5×1018〜5×1019/cm3 程度のMgがドープされる。原料ガス、キャリアガスは上記と同様である。キャップ層16にはMg濃度5×1019/cm3 以下の範囲でMgをドープしてもよい。より望ましくは1×1019〜5×1019/cm3 である。また、キャップ層16のより望ましい厚さは5〜20Åである。この範囲であれば、キャップ層16を設けることによる素子特性への影響をより軽減することができる。また、キャップ層16としてIn組成比が0より大きく10%以下のInGaNを用いることもできる。
【0050】
なお、本実施例では、キャップ層16の成長温度をpクラッド層15形成時と同じ温度で一定としているが、キャップ層16の成長開始時の温度をpクラッド層15形成時と同じ温度とし、その後、pコンタクト層17の成長温度以下の範囲で昇温させながらキャップ層16を成長させてもよい。
【0051】
次に、温度を次工程のpコンタクト層17の成長温度まで昇温した。pコンタクト層17の成長温度は950〜1100℃(本発明における第2の成長温度)である。この昇温時において、従来はキャップ層16がなかったため、pクラッド層15表面が露出しており、pクラッド層15中にMgが過剰にドープされてしまったり、不純物が混入してしまったりし、pクラッド層15の特性が悪化していた。しかし、実施例1では昇温時においてキャップ層16が形成されているため、pクラッド層15表面が露出しておらず、pクラッド層15へのMgの過剰ドープや不純物の混入が抑制される。そのため、pクラッド層15の特性悪化が防止される。
【0052】
次に、キャップ層16上にMOCVD法によって、950〜1100℃でpコンタクト層17を形成した(図2(d))。pコンタクト層17は、キャップ層16上にMg濃度1〜3×1019/cm3 で厚さ320ÅのGaNからなる第1pコンタクト層、第1pコンタクト層上にMg濃度4〜6×1019/cm3 で厚さ320ÅのGaNからなる第2pコンタクト層、第2pコンタクト層上にMg濃度1〜2×1020/cm3 で厚さ80ÅのGaNからなる第3pコンタクト層を順に積層させることで形成した。原料ガス、キャリアガス、p型ドーパントガスは上記と同様である。
【0053】
その後、所定の領域をドライエッチングしてpコンタクト層17表面からnコンタクト層11に達する深さの溝を形成した。そして、pコンタクト層17上のほぼ全面にITOからなる透明電極18を形成し、透明電極18上にp電極19、溝底面に露出したnコンタクト層11表面にn電極20を形成した。以上によって図1に示した実施例1のIII 族窒化物半導体発光素子が製造される。
【0054】
実施例1のIII 族窒化物半導体発光素子では、上記製造方法によりpクラッド層15の特性悪化が防止されるため、発光効率の向上や素子の信頼性向上などを図ることができる。
【0055】
なお、実施例1のIII 族窒化物半導体発光素子はフェイスアップ型の素子であったが、本発明はこれに限定するものではなく、pクラッド層とpコンタクト層を有するIII 族窒化物半導体発光素子であれば任意の構造であってよい。たとえば、フリップチップ型の素子や、導電性基板を用いたり、レーザーリフトオフなどの技術によって基板を除去するなどして縦方向に導通をとる構造とした素子などにも本発明は適用することができる。そして、実施例1と同様にpクラッド層の特性悪化を防止することができる。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明のIII 族窒化物半導体発光素子は、照明装置や表示装置などに利用することができる。
【符号の説明】
【0057】
10:サファイア基板
11:nコンタクト層
12:ESD層
13:nクラッド層
14:発光層
15:pクラッド層
16:キャップ層
17:pコンタクト層
18:透明電極
19:p電極
20:n電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
pクラッド層と、前記pクラッド層上に位置するpコンタクト層とを有したIII 族窒化物半導体発光素子の製造方法において、
前記pクラッド層を第1の成長温度で形成する工程と、
前記pクラッド層上に、前記第1の成長温度であって、ノンドープもしくはMg濃度が5×1019/cm3 以下となる範囲でMgをドープしてIII 族窒化物半導体からなるキャップ層を形成する工程と、
前記第1の成長温度よりも高い第2の成長温度まで昇温する工程と、
前記キャップ層上に、前記第2の成長温度で前記pコンタクト層を形成する工程と、
を有することを特徴とするIII 族窒化物半導体発光素子の製造方法。
【請求項2】
前記キャップ層は、5〜100Åの厚さに形成する、ことを特徴とする請求項1に記載のIII 族窒化物半導体発光素子の製造方法。
【請求項3】
前記キャップ層は、5〜20Åの厚さに形成する、ことを特徴とする請求項2に記載のIII 族窒化物半導体発光素子の製造方法。
【請求項4】
前記キャップ層は、In組成比が0〜10%のInGaNであることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載のIII 族窒化物半導体発光素子の製造方法。
【請求項5】
前記第1の成長温度は、800〜950℃であり、前記第2の成長温度は、950〜1100℃であることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載のIII 族窒化物半導体発光素子の製造方法。
【請求項6】
前記pクラッド層は、Al組成比は0%より大きく50%以下、In組成比は0%以上10%以下のAlGaInNからなる単層であることを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載のIII 族窒化物半導体発光素子の製造方法。
【請求項7】
前記pクラッド層は、Al組成比が0%より大きく50%以下のAlGaNと、In組成比が0%以上10%以下のInGaNとが交互に複数回積層された超格子構造である、ことを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載のIII 族窒化物半導体発光素子の製造方法。
【請求項8】
前記pコンタクト層は、Mg濃度の異なる複数の層で構成され、それらの層は、キャップ層から遠いほどMg濃度が高い、ことを特徴とする請求項1ないし請求項7のいずれか1項に記載のIII 族窒化物半導体発光素子の製造方法。
【請求項9】
pクラッド層と、前記pクラッド層上に位置するpコンタクト層とを有したIII 族窒化物半導体発光素子において、
pクラッド層とpコンタクト層との間に、GaNからなり、Mg濃度が5×1019/cm3 以下で、厚さ5〜100Åのキャップ層を有する、
ことを特徴とするIII 族窒化物半導体発光素子。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−55293(P2013−55293A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−193948(P2011−193948)
【出願日】平成23年9月6日(2011.9.6)
【出願人】(000241463)豊田合成株式会社 (3,467)
【Fターム(参考)】