説明

III族窒化物半導体発光素子の製造方法

【課題】基板上に配向特性の良好な中間層を形成し、その上に結晶性の良好なIII族窒化物半導体を形成でき、優れた発光特性及び生産性を実現可能なIII族窒化物半導体発光素子の製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】基板11に対してプラズマ処理を行う前処理工程と、該前処理工程に次いで、基板11上に中間層12をスパッタ法によって成膜するスパッタ工程とが備えられ、前処理工程は、基板11の温度を25〜1000℃の範囲として行なうものであり、また、前処理工程及びスパッタ工程は同一のチャンバ内で行うものであり、またさらに、スパッタ工程は、中間層12のX線ロッキングカーブを、ピーク分離手法を用いて、半価幅が720arcsec以上であるブロード成分と、ナロー成分とに分離した場合の、ブロード成分に対応する結晶組織の領域の割合を、中間層12の面積比で30%以下として、中間層12を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光ダイオード(LED)、レーザダイオード(LD)、電子デバイス等に、好適に用いられ、一般式AlGaInN(0≦a≦1、0≦b≦1、0≦c≦1、a+b+c=1)で表されるIII族窒化物半導体発光素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
III族窒化物半導体は、可視光から紫外光領域の範囲に相当するエネルギーの直接遷移型のバンドギャップを有し、発光効率に優れていることから、発光ダイオード(LED)やレーザダイオード(LD)等の半導体発光素子として製品化され、各種用途で使用されている。また、電子デバイスに用いた場合でも、III族窒化物半導体は、従来のIII−V族化合物半導体を用いた場合に比べて優れた特性が得られるポテンシャルを有している。
【0003】
従来、III族窒化物半導体の単結晶ウェーハは市販されておらず、III族窒化物半導体としては、異なる材料の単結晶ウェーハ上に結晶を成長させて得る方法が一般的である。このような、異種基板と、その上にエピタキシャル成長させるIII族窒化物半導体結晶との間には、大きな格子不整合が存在する。例えば、サファイア(Al)基板上に窒化ガリウム(GaN)を成長させた場合、両者の間には16%の格子不整合が存在し、SiC基板上に窒化ガリウムを成長させた場合には、両者の間に6%の格子不整合が存在する。一般に、上述のような大きな格子不整合が存在する場合、基板上に結晶を直接エピタキシャル成長させることが困難となり、また、成長させた場合であっても結晶性の良好な結晶が得られないという問題がある。
【0004】
そこで、有機金属化学気相成長(MOCVD)法により、サファイア単結晶基板もしくはSiC単結晶基板の上に、III族窒化物半導体結晶をエピタキシャル成長させる際、まず、基板上に窒化アルミニウム(AlN)や窒化アルミニウムガリウム(AlGaN)からなる低温バッファ層と呼ばれる層を積層し、その上に高温でIII族窒化物半導体結晶をエピタキシャル成長させる方法が提案されており、一般に行われている(例えば、特許文献1、2)。
【0005】
しかしながら、特許文献1及び2に記載された方法では、基本的に、基板とその上に成長されるIII族窒化物半導体結晶との間が格子整合していないため、成長した結晶の内部に、表面に向かって伸びる貫通転位と呼ばれる転位を内包した状態となる。このため、結晶に歪みが生じてしまい、構造を適正化しなければ充分な発光強度を得ることができず、また、生産性が低下してしまう等の問題があった。
【0006】
また、中間層(バッファ層)としてAlN等の層をMOCVD以外の方法で基板上に成膜し、その上に成膜される層をMOCVD法で成膜する方法に関し、例えば、高周波スパッタで成膜した中間層上に、MOCVD法で同じ組成の結晶を成長させる方法が提案されている(例えば、特許文献3)。しかしながら、特許文献3に記載の方法では、基板上に、安定して良好な結晶を積層することができないという問題がある。
【0007】
そこで、安定して良好な結晶を得るため、中間層を成長させた後、アンモニアと水素からなる混合ガス中でアニールする方法(例えば、特許文献4)や、バッファ層を400℃以上の温度で、DCスパッタによって成膜する方法(例えば、特許文献5)等が提案されている。また、特許文献4、5では、基板に用いる材料として、サファイア、シリコン、炭化シリコン、酸化亜鉛、リン化ガリウム、ヒ化ガリウム、酸化マグネシウム、酸化マンガン、III族窒化物系化合物半導体単結晶等が挙げられ、この中でもサファイアのa面基板が最も適合することが記載されている。
【0008】
一方、半導体層上に電極を形成する際に、半導体層に対する前処理としてArガスを用いて逆スパッタを行なう方法が提案されている(例えば、特許文献6)。特許文献6に記載された方法によれば、III族窒化物化合物半導体層の表面に逆スパッタを施すことにより、半導体層と電極との間の電気的接触特性を改善することができるというものである。
【0009】
しかしながら、上述した何れの方法においても、基板上にそのまま中間層を積層した後、III族窒化物化合物半導体をエピタキシャル成長させる方法であるため、基板とIII族窒化物半導体結晶との間が格子不整合となり、安定して良好な結晶を得ることができないという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特許第3026087号公報
【特許文献2】特開平4−297023号公報
【特許文献3】特公平5−86646号公報
【特許文献4】特許第3440873号公報
【特許文献5】特許第3700492号公報
【特許文献6】特開平8−264478号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
基板表面に中間層を成長させる際、基板表面が洗浄された状態でないと、中間層を、基板に対して垂直な結晶として成長させることが困難である。このため、基板上に中間層を成長させる際には、予め、基板表面の不純物等を除去しておく必要がある。このため、例えば、上記特許文献6に記載の逆スパッタを用いた方法を基板の前処理に適用することにより、基板表面から不純物等を予め除去する方法が考えられる。
しかしながら、上述のような逆スパッタ処理によって基板上の不純物等を除去する場合、基板にパワーを印加し過ぎると、基板の表面がダメージを受けてしまい、不純物の除去による効果が得られない虞がある。このような場合、基板上に成長させる中間層が配向せず、基板と半導体層との間が格子整合しないことから、基板上に良好な結晶性を有する半導体層を形成することが出来ないという問題が発生する。
【0012】
基板上に中間層を介して形成される半導体層の配向特性は、前記中間層の配向特性に依存する。このため、基板上に形成される中間層が配向していないと、その上に積層される半導体層も配向しない。従って、基板表面における配向成分が少ない場合には半導体層の結晶性が低いものとなり、III族窒化物半導体発光素子の発光特性が低下するという問題がある。
【0013】
上述のような、基板に逆スパッタを施す際の問題点を解決するためには、逆スパッタ条件を、不純物等を除去しながらも基板表面に対してダメージを与えることが無い程度の条件とする必要がある。しかしながら、基板へのパワーの実際の印加状態等の各条件は、逆スパッタに用いる製造装置(チャンバ)毎に大きく異なり、逆スパッタ条件は装置毎にその都度管理する必要があるため、製造工程における条件管理に手間や時間がかかるという問題がある。
【0014】
一方、従来から、結晶の配向特性を評価する方法の一つとして、X線を用いて測定するロッキングカーブ法があり、上述のようなIII族窒化物半導体発光素子においても、中間層や該中間層上のIII族窒化物半導体の配向を最適に制御するための指標として、一般的に用いられている。しかしながら、図9のグラフに示すように、中間層の(0002)面X線ロッキングカーブ半価幅と、中間層上に形成されIII族窒化物半導体からなる下地層の(0002)面X線ロッキングカーブ半価幅との間には相関が存在しない。このため、中間層の配向を、該中間層の(0002)面のX線ロッキングカーブ半価幅を用いて制御した場合でも、その上に形成される下地層(GaN層)の結晶性は必ずしも良好とはならないという問題がある。
【0015】
ここで、例えば、中間層の結晶組織における配向成分の部分のみであれば、X線ロッキングカーブ半価幅で配向特性を評価し、制御することが可能である。しかしながら、本発明者等が鋭意実験した結果、中間層の結晶組織において無配向なブロード成分の部分については、X線ロッキングカーブ半価幅を用いた配向特性の評価ができないため、上述のように、中間層と下地層との間でX線ロッキングカーブ半価幅が相関しないものと考えられる。
【0016】
上述したような問題点から、基板上に形成される中間層の結晶組織を良好に配向させることで、中間層上に形成されるIII族窒化物半導体の結晶性を向上させるために、基板表面の洗浄に逆スパッタを用い、複数の製造装置を用いる場合であっても、逆スパッタの条件を装置毎に適正に設定できるように標準化することが切に求められていた。
【0017】
本発明は上記問題に鑑みてなされたものであり、基板上に、配向特性の良好な中間層を形成し、その上に結晶性の良好なIII族窒化物半導体を形成することができ、優れた発光特性及び生産性を備えたIII族窒化物半導体発光素子が製造可能な、III族窒化物半導体発光素子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者等は、上記問題を解決するために鋭意検討を重ね、基板と中間層との間、及び、中間層とIII族窒化物半導体との間の、配向特性並びに結晶組織についての関係を調べた。
この結果、スパッタ法による中間層の成膜前に、適正条件の逆スパッタで基板の前処理を行ない、基板表面から不純物等を除去することにより、中間層の配向特性を適正に制御することができ、また、その上に成長されるIII族窒化物半導体結晶を安定した良好な結晶として得られることを見出した。また、基板上に成長させる中間層の結晶組織において、無配向の成分であるブロード成分の割合を一定以下となるように規定し、このブロード成分の割合を指標とすることにより、逆スパッタ条件を製造装置毎に適正に制御できることを見出した。
【0019】
図7は、III族窒化物半導体発光素子を構成し、基板表面に形成される中間層の結晶組織における、無配向なブロード成分の割合(%)と、この中間層上に形成され、III族窒化物半導体からなる下地層の(0002)面ロッキングカーブ半価幅との関係を示したグラフである。図7のグラフに示すように、中間層の結晶組織におけるブロード成分の割合と、中間層上に形成される下地層の(0002)面ロッキングカーブ半価幅とは、相関することが明らかとなった。
【0020】
この結果、本発明者等は、基板上に形成される中間層において、無配向の成分であるブロード成分の割合が一定以下となるように規定することにより、中間層上に形成されるIII族窒化物半導体が良好に配向することを見出した。さらに、本発明者等は、上記ブロード成分の割合を指標とすることにより、逆スパッタ条件を製造装置毎に適正に制御して設定できることを見出し、本発明を完成した。
即ち、本発明は以下に関する。
【0021】
[1] 基板上に、少なくともIII族窒化物化合物からなる中間層を積層し、該中間層上に、下地層を備えるn型半導体層、発光層及びp型半導体層を順次積層するIII族窒化物半導体発光素子の製造方法であって、前記基板に対してプラズマ処理を行う前処理工程と、該前処理工程に次いで、前記基板上に前記中間層をスパッタ法によって形成するスパッタ工程とが備えられており、前記前処理工程は、前記基板の温度を25〜1000℃の範囲として行なうものであり、前処理工程及び前記スパッタ工程は同一のチャンバ内で行うものであり、前記スパッタ工程は、前記中間層のX線ロッキングカーブを、ピーク分離手法を用いて、半価幅が720arcsec以上であるブロード成分と、ナロー成分とに分離した場合の、前記ブロード成分に対応する結晶組織の領域の割合を、中間層の面積比で30%以下として前記中間層を形成することを特徴とするIII族窒化物半導体発光素子の製造方法。
[2] 前記前処理工程は、窒素含有ガスをチャンバ内に流通させて行なうことを特徴とする[1]に記載のIII族窒化物半導体発光素子の製造方法。
[3] 前記前処理工程は、チャンバ内に流通させる前記窒素含有ガス中の窒素ガスの比が50%以上であることを特徴とする請求項[2]に記載のIII族窒化物半導体発光素子の製造方法。
[4] 前記前処理工程は、チャンバ内の圧力を1Pa以上として行なうことを特徴とする[1]〜[3]の何れか1項に記載のIII族窒化物半導体発光素子の製造方法。
[5] 前記前処理工程は、処理時間を30秒以下として行なうことを特徴とする[1]〜[4]の何れか1項に記載のIII族窒化物半導体発光素子の製造方法。
【0022】
[6] 前記スパッタ工程は、前記中間層を、V族元素を含有する原料をリアクタ内に流通させるリアクティブスパッタ法によって成膜することを特徴とする[1]〜[5]の何れか1項に記載のIII族窒化物半導体発光素子の製造方法。
[7] 前記V族元素が窒素であることを特徴とする[6]に記載のIII族窒化物半導体発光素子の製造方法。
[8] 前記V族元素を含有する原料としてアンモニアを用いることを特徴とする[6]に記載のIII族窒化物半導体発光素子の製造方法。
[9] 前記スパッタ工程は、前記中間層を、RFスパッタ法によって成膜することを特徴とする[1]〜[8]の何れか1項に記載のIII族窒化物半導体発光素子の製造方法。
[10] 前記スパッタ工程は、前記中間層を、RFスパッタ法を用いて、カソードのマグネットを移動させつつ成膜することを特徴とする[9]に記載のIII族窒化物半導体発光素子の製造方法
[11] 前記スパッタ工程は、前記中間層を、前記基板の温度を400〜800℃の範囲として形成することを特徴とする[1]〜[10]の何れか1項に記載のIII族窒化物半導体発光素子の製造方法。
[12] 前記下地層を、MOCVD法によって前記中間層上に成膜することを特徴とする[1]〜[11]の何れか1項に記載のIII族窒化物半導体発光素子の製造方法。
【発明の効果】
【0023】
本発明のIII族窒化物半導体発光素子の製造方法によれば、基板に対してプラズマ処理を行う前処理工程と、該前処理工程に次いで、前記基板上に前記中間層をスパッタ法によって形成するスパッタ工程とが備えられており、前記前処理工程は、前記基板の温度を25〜1000℃の範囲として行なうものであり、前処理工程及び前記スパッタ工程は同一のチャンバ内で行うものであり、前記スパッタ工程は、前記中間層のX線ロッキングカーブを、ピーク分離手法を用いて、半価幅が720arcsec以上であるブロード成分と、ナロー成分とに分離した場合の、前記ブロード成分に対応する結晶組織の領域の割合を、中間層の面積比で30%以下として前記中間層を形成する方法なので、基板上の不純物等が確実に除去され、均一性が高い結晶組織並びに良好な配向特性を有する中間層を成長させることができる。これにより、基板と、中間層上に成長されるIII族窒化物半導体との間に格子不整合が生じることが無いので、良好に配向したIII族窒化物半導体を形成することが可能となる。
また、前処理工程における各条件を規定し、さらに、中間層におけるブロード成分に対応する結晶組織の領域の割合を指標として、前記中間層の配向特性並びに下地層の結晶性を制御する方法なので、使用するスパッタ装置の性能に依存することなく、各製造条件を正確に設定することが可能となる。
従って、発光特性に優れたIII族窒化物半導体発光素子を、高い生産効率で製造することが可能となる。
【0024】
またさらに、上記本発明の製造方法で得られるIII族窒化物半導体発光素子を用いてランプを構成した場合には、優れた発光特性を備えるランプが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明に係るIII族窒化物半導体発光素子の製造方法の一例を模式的に説明する図であり、本発明で得られる発光素子に備えられる積層半導体の断面構造を示す概略図である。
【図2】本発明に係るIII族窒化物半導体発光素子の製造方法の一例を模式的に説明する図であり、本発明で得られる発光素子の平面構造を示す概略図である。
【図3】本発明に係るIII族窒化物半導体発光素子の製造方法の一例を模式的に説明する図であり、本発明で得られる発光素子の断面構造を示す概略図である。
【図4】本発明に係るIII族窒化物半導体発光素子の製造方法で得られる発光素子を用いて構成したランプを模式的に説明する概略図である。
【図5】本発明に係るIII族窒化物半導体発光素子の製造方法の一例を模式的に説明する図であり、チャンバ内にターゲットが備えられたスパッタ装置の構造を示す概略図である。
【図6】本発明に係るIII族窒化物半導体発光素子の製造方法の一例を模式的に説明する図であり、スパッタ工程で形成される中間層の結晶組織の配向状態を示す図である。
【図7】本発明に係るIII族窒化物半導体発光素子の製造方法の一例を模式的に説明する図であり、スパッタ工程で形成される中間層におけるブロード成分の割合に対する下地層の(0002)面X線ロッキングカーブ半価幅の変化を示すグラフである。
【図8】本発明に係るIII族窒化物半導体発光素子の製造方法の一例を模式的に説明する図であり、スパッタ工程で形成され、ピーク分離を行なう前の中間層のX線ロッキングカーブを示す波形であり、(a)はブロード成分が少ないピーク、(b)は殆どがブロード成分となっているピーク、(c)は、ブロード成分が一見少ないものの、ピーク成分が細く少ないためにブロード成分の割合が多くなっているピーク、(d)はブロード成分が多いピークである。
【図9】従来のIII族窒化物半導体発光素子を説明するための模式図であり、中間層の(0002)面X線ロッキングカーブ半価幅と下地層の(0002)面X線ロッキングカーブとの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下に、本発明に係るIII族窒化物半導体の製造方法について、図1〜8(図9も参照)を適宜参照しながら説明する。
【0027】
[III族窒化物半導体発光素子]
本実施形態の製造方法で得られるIII族窒化物半導体発光素子(以下、発光素子と略称することがある)1は、基板11上に、少なくともIII族窒化物化合物からなる中間層12が積層され、該中間層12上に、下地層14aを備えるn型半導体層14、発光層15及びp型半導体層16が順次積層されてなる。また、中間層12の結晶組織中には、中間層12のX線ロッキングカーブをピーク分離手法によって、半価幅が720arcsec以上となるブロード成分と、ナロー成分とに分離した場合の、ブロード成分に対応する結晶組織の領域が含まれ、この中間層12におけるブロード成分(図6の符号12c参照)に対応する結晶組織の領域の割合が、中間層12の面積比で30%以下とされ、概略構成されている(図1及び図2参照)。
【0028】
<発光素子の積層構造>
図1は、本発明に係るIII族窒化物半導体発光素子の製造方法によって得られるIII族窒化物半導体発光素子の一例を詳しく説明するための模式図であり、基板上にIII族窒化物半導体が形成された積層半導体の一例を示す概略断面図である。図1に示す積層半導体10は、基板11上にIII族窒化物化合物からなる中間層12が積層され、該中間層12上に、n型半導体層14、発光層15及びp型半導体層16が順次積層されてなる半導体層20が形成されている。
また、図2及び図3は、図1に示す積層半導体10を用いて発光素子1を構成した例を示す概略図で、図2は平面図、図3は断面図である。本実施形態の発光素子1は、積層半導体10のp型半導体層16上に透光性正極17が積層され、その上に正極ボンディングパッド18が形成されるとともに、n型半導体層14のn型コンタクト層14bに形成された露出領域14dに負極19が積層される。
また、本実施形態の中間層12は、上述したように、中間層12においてブロード成分12cに対応する結晶組織の領域の割合が、表面12aにおける面積比で30%以下とされている。
以下、本実施形態のIII族窒化物半導体発光素子の積層構造について詳述する。
【0029】
『基板』
本実施形態において、基板11に用いることができる材料としては、III族窒化物半導体結晶が表面にエピタキシャル成長される基板材料であれば、特に限定されず、各種材料を選択して用いることができる。例えば、サファイア、SiC、シリコン、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化マンガン、酸化ジルコニウム、酸化マンガン亜鉛鉄、酸化マグネシウムアルミニウム、ホウ化ジルコニウム、酸化ガリウム、酸化インジウム、酸化リチウムガリウム、酸化リチウムアルミニウム、酸化ネオジウムガリウム、酸化ランタンストロンチウムアルミニウムタンタル、酸化ストロンチウムチタン、酸化チタン、ハフニウム、タングステン、モリブデン等が挙げられる。この中でも、サファイア、SiC等の六方晶構造を有する材料を基板に用いることが、結晶性の良好なIII族窒化物半導体を積層できる点で好ましい。
また、基板の大きさとしては、通常は直径2インチ程度のものが用いられるが、本発明のIII族窒化物半導体では、直径4〜6インチの基板を使用することも可能である。
【0030】
なお、基板11の表面11aは、中間層12を成長させる前に予め洗浄処理を施して不純物等を除去しておくことが好ましく、特に、詳細を後述する本発明の製造方法に備えられた前処理工程において、プラズマ処理によって洗浄処理することが好ましい。
基板11の表面11aから不純物等を予め除去しておくことにより、その上に成長させる中間層12が、均一性の高い結晶組織を有し、また、良好な配向性を有する層となる。
【0031】
また、アンモニアを使用せずに中間層を成膜するとともに、アンモニアを使用する方法で後述のn型半導体層を構成する下地層を成膜することにより、上記基板材料の内、高温でアンモニアに接触することで化学的な変性を引き起こすことが知られている酸化物基板や金属基板等を用いた場合には、本実施形態の中間層がコート層として作用するので、基板の化学的な変質を防ぐ点で効果的である。また、一般的に、スパッタ法は基板の温度を低く抑えることが可能なので、高温で分解してしまう性質を持つ材料からなる基板を用いた場合でも、基板11にダメージを与えることなく基板上への各層の成膜が可能である。
【0032】
『中間層』
本実施形態の積層半導体10は、基板11上に、金属原料とV族元素を含んだガスとがプラズマで活性化されて反応することにより、III族窒化物化合物からなる中間層12が成膜されている。本実施形態のような、プラズマ化した金属原料を用いた方法で成膜された膜は、配向が得られ易いという作用がある。
【0033】
このような中間層をなすIII族窒化物化合物の結晶は、六方晶系の結晶組織を持ち、成膜条件をコントロールすることにより、単結晶膜とすることができる。
【0034】
「結晶組織」
中間層12は、単結晶構造であることが、バッファ機能の面から好ましい。III族窒化物半導体の結晶は、六方晶系の結晶を有し、六角柱を基本とした組織を形成する。III族窒化物半導体の結晶は、成膜時のプラズマ化の条件を制御することにより、面内方向にも成長した結晶を成膜することが可能となる。このような単結晶構造を有する中間層12を基板11上に成膜した場合、中間層12のバッファ機能が有効に作用するため、その上に成膜されるIII族窒化物半導体は、良好な配向性及び結晶性を持つ結晶膜となる。
【0035】
(ブロード成分)
本実施形態の中間層12は、ブロード成分12cに対応する結晶組織の領域の割合が、表面12aにおける面積比で30%以下とされている。ここで、本発明で説明するブロード成分とは、詳細を後述するが、結晶組織における無配向成分に対応する成分のことを言う。
【0036】
本実施形態の中間層12のように、六角柱の集合体からなる結晶構造を有する膜は、図6の模式図に示すように、基板11に対して垂直な結晶として配向している領域のナロー成分(配向成分)12bと、基板11に対して結晶が垂直となっておらず、概ね無配向となっている領域のブロード成分12cとが存在する。ここで、本発明で説明するブロード成分とは、具体的には、中間層12のX線ロッキングカーブが、ピーク分離手法を用いて、半価幅が720arcsec以上である成分のことを言う。
【0037】
上述したように、中間層12上に成膜される下地層14a、ひいては半導体層20の配向特性は、中間層12の配向特性に依存する。このため、中間層12が良好に配向している程、つまり、中間層12におけるブロード成分12cの割合がナロー(配向成分)12bに比べて低い程、下地層14aが良好に配向する。これにより、さらに、下地層14a上に成膜されるn型コンタクト層14b、n型クラッド層14c、発光層15及びp型半導体層16の各層の結晶性が向上するので、発光特性に優れた発光素子1とすることができる。
【0038】
(ブロード成分の解析方法)
以下に、中間層12の結晶組織におけるブロード成分12cの測定及び解析を行う方法の一例について説明する。
まず、中間層12の結晶組織のX線ロッキングカーブ(XRC)を、CuKα線X線発生源として、放物線ミラーと2結晶を用いて発散角が0.01°とされた入射光を使用して測定する。次いで、得られたX線ロッキングカーブのデータを、一般的なデータ解析ソフトを用いてピーク分離解析を行なう。本実施形態では、データ解析ソフトとして「Peak Fit(登録商標):Seasolve社製」を使用した例を、図8(a)〜(d)を用いるとともに、「Peak Fit(登録商標)ユーザーズマニュアル:Seasolve社刊」も適宜参照しながら説明する(特に、前記ユーザーズマニュアルのFig.1−1〜1−3,1−14〜1−16,2−1〜2−7,6−7〜6−9,7−11参照)。
ここで、図8(a)〜(d)は、ピーク分離を行なう前の中間層12のX線ロッキングカーブを示す波形であり、図8(a)はブロード成分が少ないピークで、図8(b)は殆どがブロード成分となっているピーク、図8(c)は、ブロード成分が一見少ないものの、ピーク成分が細く少ないためにブロード成分の割合が多くなっているピークであり、図8(d)はブロード成分が多いピークを示す。
【0039】
まず、上述の方法で得られたX線ロッキングカーブのデータをコンピュータに読み込ませた後、上記「Peak Fit(登録商標)」におけるフィッティングプログラムである「AutoFit Peaks I」を起動する。
次いで、上記中間層のX線ロッキングカーブのデータを基に、上記「AutoFit Peaks I」を用いて解析波形を生成する。
次いで、上記「AutoFit Peaks I」によって得られた解析波形からピーク分離処理を行い、X線ロッキングカーブ半価幅が720arcsec以上であるブロード成分のピーク波形と、シャープなナロー成分(配向成分)のピーク波形とに分離する。
次いで、これらブロード成分及び配向成分の強度及び幅を適宜調整した後、ピーク波形のピークフィット(フィッティング)処理を行なう。この際、フィッティング関数として、下記一般式(1)に示すような「Gaussian−Lorentzian Sum(Amplitude)」を用いる(上記ユーザーズマニュアル:Fig.7−11参照)。
【0040】
【数1】

上記一般式(1)中、
=Amplitude(ピーク強度に関するパラメータ)、
=center(ピークの中心位置に関するパラメータ)、
=width(>0)(ピーク幅に関するパラメータ)、
=shape(≧0、≦1)(ピーク形状に関するパラメータ)
であり、また、Fit Time Index=2.9である。
【0041】
ここで、ピークフィット処理は、R2の変化が見られなくなるまで行う。このようなピークフィット処理を行うことにより、ブロード成分のピークとシャープな配向成分とがフィッティングされた波形が生成されるとともに、中間層12の表面12aにおける各成分の面積が算出される。そして、中間層12の表面12aにおいて、上記ブロード成分が占める割合を算出することにより、中間層12の結晶組織におけるブロード成分12cの面積比を算出することができる。
【0042】
本実施形態の発光素子1に備えられる中間層12は、該中間層12の結晶組織において、上記手順にて解析可能なブロード成分12cの面積比を30%以下として規定することにより、良好に配向した(0002)面が得られる。これにより、中間層12上に形成される下地層14aや、さらにその上に形成されるIII族窒化物半導体からなる各層は、結晶性が非常に優れたものとなる。
【0043】
(X線ロッキングカーブ半価幅)
本実施形態の中間層12は、(0002)面のX線ロッキングカーブ(XRC)半価幅が、0.1〜0.2(360〜720arcsec)程度とされていることが好ましい。XRC半価幅が上記範囲であれば、中間層12が、ブロード成分12cが低い割合に抑制された結晶組織で形成されているものと判断することができる。
【0044】
ここで、一般に、中間層のXRC半価幅が0.2(720arcsec)を多少超える数値であっても、AlNからなる中間層のXRC半価幅として単独でみた場合、決して大き過ぎる特性では無い。しかしながら、本発明者等は、III族窒化物半導体からなる下地層の配向特性は、中間層のXRC半価幅には左右されず、上記中間層のブロード成分の割合に依存することを知見した。本発明の発光素子1では、中間層12おいてブロード成分12cに対応する結晶組織の領域の割合を上述のように規定することで、後述の下地層の配向特性が良好なものとされている。
【0045】
「膜厚」
中間層12の膜厚は、20〜40nmの範囲とされていることが好ましい。中間層12の膜厚をこの範囲とすることにより、良好な結晶性を有し、また、中間層12上にIII族窒化物半導体からなる各層を成膜する際に、コート層として有効に機能する中間層12が得られる。中間層12の膜厚が20nm未満だと、上述したコート層としての機能が充分でなくなる虞がある。また、40nmを超える膜厚で中間層12を形成した場合、コート層としての機能には変化が無いのにも関わらず成膜処理時間が長くなり、生産性が低下する虞がある。
また、中間層12は、基板11の表面11aの少なくとも90%を覆うように形成されていることが、コート層としての機能上、好ましい。
【0046】
「組成」
中間層12を構成する材料としては、一般式AlGaInNで表されるIII族窒化物半導体であれば、どのような材料でも用いることができる。さらに、V族として、AsやPが含有される構成としても良い。
また、中間層12は、Alを含んだ組成とすることが好ましく、中でも、GaAlNとすることが好ましく、この際、Alの組成が50%以上とされていることが好ましい。また、中間層12は、AlNからなる構成とすることにより、効率的に六角柱集合体とすることができるので、より好ましい。
【0047】
また、中間層12を構成する材料としては、III族窒化物半導体と同じ結晶組織を有するものであれば、どのような材料でも用いることができるが、格子の長さが後述の下地層を構成するIII族窒化物半導体に近いものが好ましく、特に周期表のIIIa族元素の窒化物が好適である。
【0048】
『半導体層』
図1に示すように、本実施形態の積層半導体10は、基板11上に、上述のような中間層12を介して、III族窒化物系半導体からなり、n型半導体層14、発光層15及びp型半導体層16から構成される半導体層20が積層されてなる。また、図示例の積層半導体10は、n型半導体層14に備えられた下地層14aが中間層12上に積層されている。
【0049】
III族窒化物半導体としては、例えば、一般式AlGaIn1−A(0≦X≦1、0≦Y≦1、0≦Z≦1で且つ、X+Y+Z=1。記号Mは窒素(N)とは別の第V族元素を表し、0≦A<1である。)で表わされる窒化ガリウム系化合物半導体が多数知られており、本発明においても、それら周知の窒化ガリウム系化合物半導体を含めて一般式AlGaIn1−A(0≦X≦1、0≦Y≦1、0≦Z≦1で且つ、X+Y+Z=1。記号Mは窒素(N)とは別の第V族元素を表し、0≦A<1である。)で表わされる窒化ガリウム系化合物半導体を何ら制限なく用いることができる。
【0050】
窒化ガリウム系化合物半導体は、Al、GaおよびIn以外に他のIII族元素を含有することができ、必要に応じてGe、Si、Mg、Ca、Zn、Be、P及びAs等の元素を含有することもできる。さらに、意図的に添加した元素に限らず、成膜条件等に依存して必然的に含まれる不純物、並びに原料、反応管材質に含まれる微量不純物を含む場合もある。
【0051】
「n型半導体層」
n型半導体層14は、通常、前記中間層12上に積層され、下地層14a、n型コンタクト層14b及びn型クラッド層14cから構成される。なお、n型コンタクト層は、下地層、及び/又は、n型クラッド層を兼ねることが可能であるが、下地層が、n型コンタクト層、及び、n型クラッド層を兼ねることも可能である。
【0052】
{下地層}
本実施形態の下地層14aはIII族窒化物半導体からなり、本実施形態では、従来公知のMOCVD法によって中間層12上に積層して成膜される。
下地層14aの材料としては、必ずしも基板11上に成膜された中間層12と同じである必要はなく、異なる材料を用いても構わないが、AlGa1―xN層(0≦x≦1、好ましくは0≦x≦0.5、さらに好ましくは0≦x≦0.1)から構成されることが好ましい。
【0053】
(X線ロッキングカーブ半価幅)
本実施形態の下地層14aは、(0002)面のロッキングカーブ半価幅が50arcsec以下とされていることが好ましい。
上述したように、中間層12の結晶組織におけるブロード成分12cの割合(%)と、中間層12上に形成される下地層14aの(0002)面ロッキングカーブ半価幅との関係は、図7のグラフに示すように、相関することが明らかとなっている。このため、まず、基板11の表面11aから不純物等が確実に除去されることで、ブロード成分12cの割合が低く、良好に配向した中間層12を成膜することが可能となる。
【0054】
本実施形態の下地層14aが積層される中間層12は、ブロード成分12cに対応する結晶組織の領域の割合が、中間層12の表面12aにおける面積比で30%以下とされている。このような、良好な配向特性を有する中間層12上に形成される下地層14aは、良好に配向した層として成長するので、さらに、その上に成長され、III族窒化物半導体の各層からなる半導体層20は、結晶性が非常に優れたものとなる。
【0055】
基板上にIII族窒化物半導体からなる各層を成膜する場合、例えば、サファイアからなる基板の(0001)C面上に、スパッタ法でIII族窒化物半導体の単結晶を直接形成することは、上述したように、基板とIII族窒化物半導体の格子定数の違いから困難である。そこで、本発明では、まず、前処理を施された基板11上に中間層12を形成し、その上に単結晶のIII族窒化物半導体からなる下地層14aを予め形成する。単結晶の下地層14aの上には、結晶性の良好なIII族窒化物半導体の単結晶層を、スパッタ法を用いて容易に形成することができる。
【0056】
(成分組成)
本発明者等が鋭意実験したところ、下地層14aに用いる材料としては、Gaを含むIII族窒化物化合物、即ちGaN系化合物半導体が好ましいことが明らかとなった。
中間層12をAlNからなる構成とした場合、下地層14aは、中間層12の結晶性をそのまま引き継がないように、マイグレーションによって転位をループ化させる必要がある。転位のループ化を生じ易い材料としては、Gaを含むGaN系化合物半導体が挙げられ、特に、AlGaN、又はGaNを好適に用いることができる。
【0057】
(膜厚)
下地層14aの膜厚は、0.1〜8μmの範囲とすることが、結晶性の良好な下地層が得られる点で好ましく、0.1〜2μmの範囲とすることが、成膜に要する工程時間を短縮でき、生産性が向上する点でより好ましい。
【0058】
(ドーパント)
下地層14aは、必要に応じて、n型不純物が1×1017〜1×1019個/cmの範囲内でドープされた構成としても良いが、アンドープ(<1×1017個/cm)の構成とすることもでき、アンドープの方が良好な結晶性を維持できる点で好ましい。
基板11が導電性である場合には、下地層14aにドーパントをドープして導電性とすることにより、発光素子の上下に電極を形成することができる。一方、基板11に絶縁性の材料を用いる場合には、発光素子の同じ面に正極及び負極の各電極が設けられたチップ構造をとることになるので、下地層14aはドープしない結晶とした方が、結晶性が良好となるので好ましい。n型不純物としては、特に限定されないが、例えば、Si、GeおよびSn等が挙げられ、好ましくはSiおよびGeが挙げられる。
【0059】
{n型コンタクト層}
本実施形態のn型コンタクト層14bはIII族窒化物半導体からなり、MOCVD法によって下地層14a上に積層して成膜される。
n型コンタクト層14bとしては、下地層14aと同様にAlGa1―XN層(0≦x≦1、好ましくは0≦x≦0.5、さらに好ましくは0≦x≦0.1)から構成されることが好ましい。また、n型不純物がドープされていることが好ましく、n型不純物を1×1017〜1×1019個/cm、好ましくは1×1018〜1×1019個/cmの濃度で含有すると、負極との良好なオーミック接触の維持、クラック発生の抑制、良好な結晶性の維持の点で好ましい。n型不純物としては、特に限定されないが、例えば、Si、GeおよびSn等が挙げられ、好ましくはSiおよびGeである。成長温度は下地層と同様である。また、上述したように、n型コンタクト層14bは、下地層を兼ねた構成とすることもできる。
【0060】
下地層14a及びn型コンタクト層14bを構成する窒化ガリウム系化合物半導体は同一組成であることが好ましく、これらの合計の膜厚を0.1〜20μm、好ましくは0.5〜15μm、さらに好ましくは1〜12μmの範囲に設定することが好ましい。膜厚がこの範囲であると、半導体の結晶性が良好に維持される。
【0061】
{n型クラッド層}
上述のn型コンタクト層14bと詳細を後述する発光層15との間には、n型クラッド層14cを設けることが好ましい。n型クラッド層14cを設けることにより、n型コンタクト層14bの最表面に生じた平坦性の悪化を改善することができる。n型クラッド層14cは、スパッタ法等を用いて、AlGaN、GaN、GaInN等により成膜することが可能である。また、これらの構造のヘテロ接合や複数回積層した超格子構造としてもよい。GaInNとする場合には、発光層15のGaInNのバンドギャップよりも大きくすることが望ましいことは言うまでもない。
【0062】
n型クラッド層14cの膜厚は、特に限定されないが、好ましくは5〜500nmの範囲であり、より好ましくは5〜100nmの範囲である。
また、n型クラッド層14cのn型ドープ濃度は1×1017〜1×1020個/cmの範囲とされていることが好ましく、より好ましくは1×1018〜1×1019個/cmの範囲である。ドープ濃度がこの範囲であると、良好な結晶性の維持および発光素子の動作電圧低減の点で好ましい。
【0063】
「p型半導体層」
p型半導体層16は、通常、p型クラッド層16a及びp型コンタクト層16bから構成され、反応性スパッタ法を用いて成膜されてなる。また、p型コンタクト層がp型クラッド層を兼ねる構成とすることもできる。
【0064】
本実施形態のp型半導体層16は、導電性をp型に制御するためのp型不純物が添加されてなる。p型不純物としては、特に限定されないが、Mgを用いることが好ましく、また、同様にZnを用いることも可能である。
また、p型半導体層16全体の膜厚としては、特に限定されないが、好ましくは0.05〜1μmの範囲である。
【0065】
{p型クラッド層}
p型クラッド層16aとしては、詳細を後述する発光層15のバンドギャップエネルギーより大きくなる組成であり、発光層15へのキャリアの閉じ込めができるものであれば特に限定されないが、好ましくは、AlGa1−dN(0<d≦0.4、好ましくは0.1≦d≦0.3)のものが挙げられる。p型クラッド層16aが、このようなAlGaNからなると、発光層15へのキャリアの閉じ込めの点で好ましい。
p型クラッド層16aの膜厚は、特に限定されないが、好ましくは1〜400nmであり、より好ましくは5〜100nmである。
【0066】
p型クラッド層16aにp型不純物を添加することによって得られるp型ドープ濃度は、1×1018〜1×1021個/cmの範囲とされていることが好ましく、より好ましくは1×1019〜1×1020個/cmである。p型ドープ濃度が上記範囲であると、結晶性を低下させることなく良好なp型結晶が得られる。
【0067】
{p型コンタクト層}
p型コンタクト層16bとしては、少なくともAlGa1−eN(0≦e<0.5、好ましくは0≦e≦0.2、より好ましくは0≦e≦0.1)を含んでなる窒化ガリウム系化合物半導体層である。Al組成が上記範囲であると、良好な結晶性の維持およびp型オーミック電極(後述の透光性電極17を参照)との良好なオーミック接触の点で好ましい。
p型コンタクト層16bの膜厚は、特に限定されないが、10〜500nmが好ましく、より好ましくは50〜200nmである。膜厚がこの範囲であると、発光出力の点で好ましい。
【0068】
また、p型コンタクト層16bにp型不純物を添加することによって得られるp型ドープ濃度は、1×1018〜1×1021個/cmの範囲とされていると、良好なオーミック接触の維持、クラック発生の防止、良好な結晶性の維持の点で好ましく、より好ましくは5×1019〜5×1020個/cmの範囲である。
【0069】
「発光層」
発光層15は、n型半導体層14上に積層されるとともにp型半導体層16がその上に積層される層であり、従来公知のMOCVD法等を用いて成膜することができる。また、発光層15は、図1に示すように、窒化ガリウム系化合物半導体からなる障壁層15aと、インジウムを含有する窒化ガリウム系化合物半導体からなる井戸層15bとが交互に繰り返して積層されてなり、図示例では、n型半導体層14側及びp型半導体層16側に障壁層15aが配される順で積層して形成されている。
【0070】
障壁層15aとしては、例えば、インジウムを含有した窒化ガリウム系化合物半導体からなる井戸層15bよりもバンドギャップエネルギーが大きいAlGa1−cN(0≦c<0.3)等の窒化ガリウム系化合物半導体を、好適に用いることができる。
また、井戸層15bには、インジウムを含有する窒化ガリウム系化合物半導体として、例えば、Ga1−sInN(0<s<0.4)等の窒化ガリウムインジウムを用いることができる。
【0071】
また、発光層15全体の膜厚としては、特に限定されないが、量子効果の得られる程度の膜厚、即ち臨界膜厚が好ましい。例えば、発光層15の膜厚は、1〜500nmの範囲であることが好ましく、100nm前後の膜厚であればより好ましい。膜厚が上記範囲であると、発光出力の向上に寄与する。
【0072】
『透光性正極』
透光性正極17は、p型半導体層16(p型コンタクト層16b)上に形成される透光性の電極である。
透光性正極17の材質としては、特に限定されず、ITO(In−SnO)、AZO(ZnO−Al)、IZO(In−ZnO)、GZO(ZnO−Ga)等の材料を、この技術分野でよく知られた慣用の手段で設けることができる。また、その構造も、従来公知の構造を含めて如何なる構造のものも何ら制限なく用いることができる。
また、透光性正極17は、Mgがドープされたp型半導体層16上のほぼ全面を覆うように形成しても構わないし、隙間を開けて格子状や樹形状に形成しても良い。
【0073】
『正極ボンディングパッド及び負極』
正極ボンディングパッド18は、上述の透光性正極17上に形成される電極である。
正極ボンディングパッド18の材料としては、Au、Al、Ni及びCu等を用いた各種構造が周知であり、これら周知の材料、構造のものを何ら制限無く用いることができる。
正極ボンディングパッド18の厚さは、100〜1000nmの範囲内であることが好ましい。また、ボンディングパッドの特性上、厚さが大きい方が、ボンダビリティーが高くなるため、正極ボンディングパッド18の厚さは300nm以上とすることがより好ましい。さらに、製造コストの観点から500nm以下とすることが好ましい。
【0074】
負極19は、基板11上に、n型半導体層14、発光層15及びp型半導体層16が順次積層された半導体層において、n型半導体層14のn型コンタクト層14bに接するように形成される。
このため、負極19を設ける際は、p型半導体層16、発光層15及びn型半導体層14の一部を除去することにより、n型コンタクト層14bの露出領域14dを形成し、この上に負極19を形成する。
負極19の材料としては、各種組成および構造の負極が周知であり、これら周知の負極を何ら制限無く用いることができ、この技術分野でよく知られた慣用の手段で設けることができる。
【0075】
以上説明したような本実施形態のIII族窒化物半導体発光素子1によれば、基板11上に積層された中間層12において、X線ロッキングカーブ半価幅が720arcsec以上であるブロード成分と、ナロー成分とに分離した場合の、ブロード成分12cに対応する結晶組織の領域の割合が、中間層12の面積比で30%以下とされていることにより、中間層12が均一性の高い結晶組織となり、良好な配向特性を有する層となる。これにより、基板11と、中間層12上に成長されるIII族窒化物半導体からなる半導体層20との間に格子不整合が生じることが無いので、III族窒化物半導体の均一性が高まるとともに結晶性が良好となる。従って、優れた発光特性を備えたIII族窒化物半導体発光素子が得られる。
【0076】
[III族窒化物半導体発光素子の製造方法]
本実施形態のIII族窒化物半導体発光素子1の製造方法は、基板11上に、少なくともIII族窒化物化合物からなる中間層12を積層し、該中間層12上に、下地層14aを備えるn型半導体層14、発光層15及びp型半導体層16を順次積層する方法であり、基板11に対してプラズマ処理を行う前処理工程と、該前処理工程に次いで、基板11上に中間層12をスパッタ法によって成膜するスパッタ工程とが備えられている。そして、前処理工程は、基板11の温度を25〜1000℃の範囲として行なうものであり、また、前処理工程及びスパッタ工程は同一のチャンバ内で行うものであり、またさらに、スパッタ工程は、中間層12のX線ロッキングカーブを、ピーク分離手法を用いて、半価幅が720arcsec以上であるブロード成分(図6の符号12c参照)と、ナロー成分(図6の符号12b参照)とに分離した場合の、ブロード成分12cに対応する結晶組織の領域の割合を、中間層12の面積比で30%以下として、中間層12を形成する方法である。
【0077】
そして、本実施形態の製造方法では、図2及び図3に示す模式図のように、基板11上に各層が成膜されてなる積層半導体10(図1参照)を用い、該積層半導体10のp型半導体層16上に透光性正極17を積層し、その上に正極ボンディングパッド18を形成するとともに、n型半導体層14のn型コンタクト層14bに形成された露出領域14dに負極19を積層することにより、発光素子1が得られる。
【0078】
本実施形態の製造方法では、基板11上にIII族窒化物半導体結晶をエピタキシャル成長させ、図1に示すような積層半導体10を形成する際、前処理工程においてプラズマ処理を施した基板11上にスパッタ工程において中間層12を成膜し、その上に半導体層20を形成する。本実施形態では、中間層12を、スパッタ法を用いて形成し、その上に、n型半導体層14の下地層14a、n型コンタクト層14b、n型クラッド層14c、発光層15、及びp型半導体層16の各層をMOCVD法で形成する方法としている。
【0079】
『前処理工程(基板の洗浄)』
まず、基板11の表面11aに対して前処理を施す。
本実施形態の前処理工程で行われるプラズマ処理は、窒素、酸素等、活性なプラズマ種を発生するガスを含むプラズマ中で行なうことが好ましい。中でも、窒素ガスが特に好適である。このような窒素ガス等のプラズマを基板11表面に作用させることで、基板11の表面11aに付着した有機物や酸化物等の不純物を除去することができる。
本実施形態のような前処理を基板11に施すことにより、基板11の表面11a全面に、中間層12を配向した状態で成膜することができ、その上に成膜されるIII族窒化物半導体を良好に配向させることが可能となる。
【0080】
(逆スパッタ)
また、本実施形態の前処理工程におけるプラズマ処理は、逆スパッタとすることが好適である。本実施形態では、基板11とチャンバ41(図5のスパッタ装置40参照)との間に電圧を印加して逆スパッタを行なうことにより、プラズマ粒子が効率的に基板11に作用する。
本実施形態の前処理工程では、逆スパッタに用いるプラズマを、高周波電源を用いたRF放電によって発生させることが好ましく、また、窒素プラズマを発生させて行なうことがより好ましい。プラズマをRF放電によって発生させることにより、絶縁体からなる基板に対しても、プラズマ処理によって前処理を施すことが可能となる。
【0081】
(プラズマ処理用ガス)
基板11にプラズマ処理を行うためのガスは、1種類のみの成分からなるガスで構成しても良いし、また、数種類の成分のガスを混合した構成のものを用いても良い。中でも、窒素含有ガスをチャンバ41内に流通させることが好ましい。また、窒素含有ガス中の窒素ガスの比が50%以上であることが好ましく、窒素ガスの比が100%であることがより好ましい。
プラズマ処理用ガスとして窒素含有ガスを用い、また、窒素含有ガス中の窒素ガスの割合を50%以上とすることにより、基板11の表面11aに対して効果的にプラズマ処理を施すことができる。
なお、逆スパッタによってプラズマ処理を施す場合、基板上には成膜処理を行わないので、ガス中にAr等は含有されていなくても構わない。Ar等の不活性ガスは、基板上において不純物等と反応しないため、前処理の作用が生じないことのみならず、Arの含有量が多すぎると、逆に基板を傷めてしまう虞がある。
【0082】
(チャンバ内の圧力)
本実施形態の前処理工程は、チャンバ41内の圧力を1Pa以上として行なうことが好ましい。
逆スパッタによるプラズマ処理では、チャンバ41内のガス圧力が高いほど、効果的に前処理を施すことができる。チャンバ41内の圧力が1Pa未満だと、逆スパッタによる前処理効果が得られにくくなるだけでなく、基板がダメージを受けてしまう。
【0083】
(前処理時間)
プラズマ処理による前処理を行う時間は、30秒以下であることが好ましい。処理時間が30秒を超えると、基板11の表面11aが変色する等のダメージを受ける虞がある。このような基板の変色が生じる原因としては、長時間のパワー印加による基板表面の劣化等の他、チャンバ内に備えられるステンレス鋼部材等がスパッタされ、基板表面に付着してしまうこと等が挙げられる。また、このような基板表面へのダメージの度合いは、処理時間が30秒を超えると、例えば、処理時間が1分(60秒)程度であっても、又は5分(300秒)程度であっても同様となる。
また、処理時間が短すぎても、プラズマ処理による効果が得られない虞があるため、プラズマ処理を行う前処理時間は1秒以上であることが好ましい。
【0084】
(前処理温度)
プラズマ処理を行う際の温度、つまり基板11温度としては、25〜1000℃の範囲であることが好ましい。前処理温度が低すぎると、プラズマ処理を行ったとしても効果が充分に発揮されず、また、前処理温度が高すぎると、基板表面にダメージを与える虞がある。前処理温度のさらに好ましい範囲は、300℃〜800℃である。
【0085】
(高周波パワー)
本実施形態の前処理工程では、基板11に対し、0.1kW(100W)以下の高周波パワーを印加して逆スパッタを行なうことが好ましい。
逆スパッタによるプラズマ処理の場合、基板11に印加するパワーが弱めである方が、基板11に対する前処理が効果的に作用する。基板11に印加する高周波パワーが0.1kWを超えると、逆スパッタによる前処理効果が低下し、基板11上に形成される中間層のブロード成分の割合が増大する。
なお、基板11に対して印加できる高周波パワーの下限としては特に規定しないが、高周波パワーが弱すぎても制御が困難になることと、使用するスパッタ装置の特性等から、0.01kW(10W)程度が限界と考えられる。
【0086】
(前処理工程で使用するチャンバ)
本実施形態の前処理工程において用いるチャンバとしては、後述のスパッタ工程において中間層を成膜する際に用いられ、詳細を後述するスパッタ装置40(図5参照)を用い、チャンバ41内の雰囲気ガスを入れ替えて使用しても良いし、あるいは、別のチャンバを用いても良い。前処理工程及びスパッタ工程で用いる装置を共通のスパッタ装置とすれば、製造設備をコストダウンすることができる点で好適であり、工程時間のロスを低減することができ、稼働率が向上する。
【0087】
(前処理工程における他の処理)
また、基板11に施す前処理は、湿式の方法を併せて採用することもできる。例えば、シリコンからなる基板に対しては、従来公知のRCA洗浄方法などを行い、基板表面を水素終端させておくことにより、詳細を後述するスパッタ工程において、基板上に中間層を成膜する際のプロセスが安定するという効果が得られる。
【0088】
本実施形態では、前処理工程において基板11に対してプラズマ処理を施した後、後述するスパッタ工程においてIII族窒化物化合物からなる中間層12を積層し、該中間層12上に下地層14aが備えられたn型半導体層14を形成する。これにより、基板11の表面11aが洗浄された状態で中間層12を成膜できるので、中間層12を、ブロード成分12cに対応する結晶組織の領域の割合を、中間層12の面積比で30%以下に抑制しながら良好に配向させて成膜することができ、中間層12上に成膜される下地層14aも良好な配向特性とすることができる。従って、後述の実施例に示すように、III族窒化物半導体の結晶性が格段に向上し、発光素子の発光特性が高まる。
【0089】
『スパッタ工程(中間層の形成)』
本実施形態のスパッタ工程は、スパッタ法を用いて基板11上に中間層12を成膜する工程であり、例えば、金属原料とV族元素を含んだガスとをプラズマで活性化して反応させることにより、中間層12を成膜する。また、本実施形態のスパッタ工程では、中間層12のX線ロッキングカーブを、ピーク分離手法を用いて、半価幅が720arcsec以上であるブロード成分12cと、ナロー成分12bとに分離した場合の、中間層12においてブロード成分12cに対応する結晶組織の領域の割合を、中間層12の面積比で30%以下として、この中間層12を形成する。
【0090】
本実施形態では、上記前処理工程において基板11の表面11aに前処理を施した後、図5に示すような、詳細を後述するスパッタ装置40のチャンバ41内にアルゴン及び窒素ガスを導入し、基板11の温度を後述の所定温度まで低下させる。そして、基板11側に高周波バイアスを印加するとともに、金属AlからなるAlターゲット側にパワーを印加し、炉内の圧力を一定に保ちながら、基板11上にAlNからなる中間層12を成膜する。
【0091】
中間層12を基板11上に成膜する方法としては、本実施形態のような特定の真空度で高電圧をかけて放電するスパッタ法の他、例えば、MOCVD法や、高いエネルギー密度のレーザを照射してプラズマを発生させるパルスレーザーデポジション(PLD)法、電子線を照射させることでプラズマを発生させるパルス電子線堆積(PED)法等が挙げられ、適宜選択して用いることができるが、スパッタ法が最も簡便で量産にも適しているため、好適な方法である。なお、DCスパッタを用いる場合、ターゲット表面のチャージアップを招き、成膜速度が安定しない可能性があるので、パルスDCスパッタ法とするか、RFスパッタ法とすることが望ましい。
【0092】
スパッタ法では、磁場内にプラズマを閉じ込めることによってプラズマ密度を高くし、効率を向上させる技術が一般的に用いられており、マグネットの位置を移動させることにより、スパッタされるターゲットの面内での均一化が可能となる。具体的なマグネットの運動方法は、スパッタ装置によって適宜選択することができ、例えば、マグネットを揺動させたり、又は回転運動させたりすることができる。このように、カソードのマグネットを揺動、又は回転等の方法で移動させつつ成膜するRFスパッタ法は、詳細を後述する、基板11側面に中間層12を成膜する際の成膜効率に優れる点で好適である。
【0093】
(チャンバ内の圧力)
スパッタ法を用いて中間層12を成膜する場合、基板11の温度以外の重要なパラメータとしては、チャンバ内の圧力や窒素分圧が挙げられる。
スパッタ法を用いて中間層12を成膜する際のチャンバ41内の圧力は、0.3Pa以上であることが好ましい。この炉内の圧力が0.3Pa未満だと、窒素の存在量が小さく、窒素プラズマ粒子の持つエネルギーが大きくなり、基板11にダメージを与えてしまう。また、窒素プラズマに洗浄効果を発揮させるためには、粒子の持つエネルギーをある程度弱くし、プラズマ粒子の数を多くすることが効果的と考えられる。このため、炉内の圧力の上限は特に限定されないが、プラズマを発生させることができる程度の圧力に抑制することが必要である。
【0094】
(窒素の流量比)
窒素(N)とArとを合わせた流量における窒素の比は、20%以上80%以下であることが好ましい。窒素の流量比が20%未満だと、スパッタ金属が窒化物とならず、金属のまま基板11に付着する虞がある。窒素の流量比が80%を超えると、Arの量が相対的に少なくなり、スパッタレートが低下してしまう。窒素(N)とArとを合わせた流量における窒素の比は、特に好ましくは、50%以上80%以下の範囲である。
【0095】
(温度)
中間層12を成膜する際の基板11の温度は、300〜800℃の範囲とすることが好ましく、400〜800℃の範囲とすることがより好ましい。基板11の温度が上記下限未満だと、中間層12が基板11全面を覆うことができず、基板11表面が露出する虞がある。基板11の温度が上記上限を超えると、基板11に付着したスパッタ粒子の持つエネルギーが大きくなるため、中間層を配向した状態で成膜することができず、バッファ層としての機能の点から不適と考えられる。
【0096】
(成膜速度)
中間層12を成膜する際の成膜速度は、0.01nm/s〜10nm/sの範囲とすることが好ましい。成膜速度が0.01nm/s未満だと、膜が層とならずに島状に成長してしまい、基板11の表面を覆うことができなくなる虞がある。成膜速度が10nm/sを超えると、膜が結晶体とならずに非晶質となってしまう。
【0097】
なお、中間層12をスパッタ法で成膜する際、V族原料をリアクタ内に流通させるリアクティブスパッタ法によって成膜する方法とすることが好ましい。
一般に、スパッタ法においては、ターゲット材料の純度が高い程、成膜後の薄膜の結晶性等の膜質が良好となる。中間層12をスパッタ法によって成膜する場合、原料となるターゲット材料としてIII族窒化物半導体を用い、Arガス等の不活性ガスのプラズマによるスパッタを行なうことも可能であるが、リアクティブスパッタ法においてターゲット材料に用いるIII族金属単体並びにその混合物は、III族窒化物半導体と比較して高純度化が可能である。これにより、リアクティブスパッタ法では、成膜される中間層12の結晶性をより向上させることが可能となる。
【0098】
また、スパッタ法を用いて金属原料をプラズマ化し、中間層として合金を成膜する際には、ターゲットとなる金属を予め金属材料の混合物(必ずしも、合金を形成していなくても構わない)として作製する方法もあるし、異なる材料からなる2つのターゲットを用意して同時にスパッタする方法としても良い。例えば、一定の組成の膜を成膜する場合には混合材料のターゲットを用い、組成の異なる何種類かの膜を成膜する場合には複数のターゲットをチャンバ内に設置すれば良い。
【0099】
本実施形態で用いる窒素原料としては、一般に知られている窒素化合物を何ら制限されることなく用いることができるが、アンモニアや窒素(N)は取り扱いが簡単であるとともに、比較的安価で入手可能であることから好ましい。
アンモニアは分解効率が良好であり、高い成長速度で成膜することが可能であるが、反応性や毒性が高いため、除害設備やガス検知器が必要となり、また、反応装置に使用する部材の材料を化学的に安定性の高いものにする必要がある。
また、窒素(N)を原料として用いた場合には、装置としては簡便なものを用いることができるが、高い反応速度は得られない。しかしながら、窒素を電界や熱等により分解してから装置に導入する方法とすれば、アンモニアよりは低いものの工業生産的に利用可能な程度の成膜速度を得ることができるため、装置コストとの兼ね合いを考えると、最も好適な窒素源である。
【0100】
また、中間層12は、基板11の側面を覆うようにして形成することが好ましい。さらに、中間層12は、基板11の側面及び裏面を覆うようにして形成することが最も好ましい。
【0101】
本実施形態の製造方法では、上述したように、上記前処理工程において、基板11の表面11aに逆スパッタを施して表面11aの不純物等を除去し、この洗浄された基板11の表面11a上に、上記スパッタ工程において中間層12を成膜するので、該中間層12を、ブロード成分12cに対応する結晶組織が面積比で30%以下とされた、良好な配向膜として成膜することができる。これにより、中間層12上に成膜されIII族窒化物半導体からなる下地層14aの結晶性を向上させることができるので、さらに下地層14a上に成膜されるn型コンタクト層14b、n型クラッド層14c、発光層15及びp型半導体層16の各層が備えられた半導体層20の結晶性が向上する。従って、このような結晶性に優れた半導体層20を備えてなる発光素子1は、発光特性に優れたものとなる。
【0102】
『スパッタ装置』
図5に、本実施形態のスパッタ工程、並びに前処理工程で用いられるスパッタ装置の一例を示す。図5に示す例のスパッタ装置40は、ターゲット47の下方(図5の下方)にマグネット42が配され、該マグネット42が図示略の駆動装置によってターゲット47の下方で揺動するRFスパッタ装置として構成されている。スパッタ装置40に備えられるチャンバ41には窒素ガス及びアルゴンガスが供給され、ヒータ44に取り付けられた基板11上に中間層12が成膜される。この際、上述のようにマグネット42がターゲット47の下方で揺動しているため、チャンバ41内に閉じ込められたプラズマが移動するので、基板11の表面11aの他、基板11の側面に対してもムラ無く中間層を成膜することが可能となる。
【0103】
本実施形態の製造方法のように、III族窒化物化合物からなる中間層をスパッタ法で成膜する場合、一般に、III族金属をターゲットにし、スパッタ装置のチャンバ内に窒素含有ガス(窒素ガス:N、アンモニア:NH等)を導入し、気相中でIII族金属と窒素を反応させる反応性スパッタ法(反応性リアクティブスパッタ法)を用いる。スパッタ法としては、RFスパッタ及びDCスパッタがあるが、本発明に係る製造方法のように反応性スパッタ法を用いた場合には、連続的に放電させるDCスパッタでは帯電が激しく、成膜速度のコントロールが困難とある。このため、本発明に係る製造方法では、RFスパッタ法、又は、DCスパッタ法の中でもパルス的にバイアスを与えることができるパルスDCスパッタを用いることが好ましく、このようなスパッタ方法で処理可能なスパッタ装置を使用することが好ましい。
【0104】
また、RFスパッタを用いた場合には、帯電を回避する方法として、マグネットの位置をターゲット内で移動させることが好ましい。具体的な運動の方法は、使用するスパッタ装置によって選択することができ、揺動させたり、回転運動させたりすることができる。
図5に例示するスパッタ装置40では、ターゲット47の下方にマグネット42が備えられ、このマグネット42がターゲット47の下方で回転運動できる構成とされている。
【0105】
スパッタによってIII族窒化物化合物からなる中間層12を形成する場合には、より高エネルギーの反応種を基板11に供給することが好ましい。このため、スパッタ装置40内において基板11がプラズマ中に位置するように構成し、また、ターゲット47と基板11とが対面する位置関係として構成することが好ましい。また、基板11とターゲット47との間の距離を、10〜100mmの範囲とすることが好ましい。
【0106】
また、チャンバ41内には、できるだけ不純物を残さないことが好ましいので、スパッタ装置40の到達真空度は、1.0×10−3Pa以下であることが好ましい。
【0107】
また、本実施形態の製造方法では、上述したように、前処理工程及びスパッタ工程を、同じスパッタ装置を用いて行なう方法とすることができる。この場合には、前処理工程とスパッタ工程との間に所定時間の間隔を設け、この間にチャンバ47内の雰囲気ガスを入れ替えるようにしても良い。
【0108】
『半導体層の形成』
中間層12上には、n型半導体層14、発光層15及びp型半導体層16をこの順で積層することにより、半導体層20を形成する。本実施形態の製造方法では、上述したように、n型半導体層14の下地層14a、n型コンタクト層14b、n型クラッド層14c、発光層15、及びp型半導体層16の各層をMOCVD法で形成する。
【0109】
本実施形態において、半導体層20を形成する際の窒化ガリウム系化合物半導体の成長方法は特に限定されず、上述したスパッタ法の他、MOCVD(有機金属化学気相成長法)、HVPE(ハイドライド気相成長法)、MBE(分子線エピタキシー法)等、窒化物半導体を成長させることが知られている全ての方法を適用できる。これらの方法の内、MOCVD法では、キャリアガスとして水素(H)または窒素(N)、III族原料であるGa源としてトリメチルガリウム(TMG)またはトリエチルガリウム(TEG)、Al源としてトリメチルアルミニウム(TMA)またはトリエチルアルミニウム(TEA)、In源としてトリメチルインジウム(TMI)またはトリエチルインジウム(TEI)、V族原料であるN源としてアンモニア(NH)、ヒドラジン(N)などが用いられる。また、ドーパントとしては、n型にはSi原料としてモノシラン(SiH)またはジシラン(Si)を、Ge原料としてゲルマンガス(GeH)や、テトラメチルゲルマニウム((CHGe)やテトラエチルゲルマニウム((CGe)等の有機ゲルマニウム化合物を利用できる。MBE法では、元素状のゲルマニウムもドーピング源として利用できる。p型にはMg原料としては、例えばビスシクロペンタジエニルマグネシウム(CpMg)またはビスエチルシクロペンタジエニルマグネシウム(EtCpMg)を用いる。
【0110】
上述したような窒化ガリウム系化合物半導体は、Al、GaおよびIn以外に他のIII族元素を含有することができ、必要に応じてGe、Si、Mg、Ca、Zn、Be、P、及びAs等のドーパント元素を含有することができる。さらに、意図的に添加した元素に限らず、成膜条件等に依存して必然的に含まれる不純物、並びに原料、反応管材質に含まれる微量不純物を含む場合もある。
【0111】
「n型半導体層の形成」
本実施形態の半導体層20を形成する際、まず、n型半導体層14の下地層14aを、従来公知のMOCVD法により、中間層12上に積層して成膜する。次いで、下地層14a上に、n型コンタクト層14b及びn型クラッド層14cをMOCVD法によって成膜する。この際、下地層14a、n型コンタクト層14b及びn型クラッド層14cの各層は、同じMOCVD炉を用いて成膜することができる。
【0112】
基板11上に単結晶のIII族窒化物半導体からなる下地層14aを形成する方法としては、例えばMOCVD法により、上述のAlGa1−yN(0≦y≦1)からなる低温バッファ層を基板11上に形成し、その上に、低温バッファ層を形成する温度より高温でMOCVD法により単結晶のGaN層を形成する方法がある。また、MOCVD法による低温バッファ層の代わりに、スパッタ法でAlGa1−yN(0≦y≦1)からなるバッファ層を形成し、その上に、MOCVD法によって単結晶のGaN層を形成しても良い。また、単結晶のGaN層を、スパッタ法を用いて成長させても良い。
【0113】
{スパッタ法による半導体層成膜条件}
スパッタ法を用いてIII族窒化物半導体からなる半導体層を形成する場合、積層工程における重要なパラメータとしては、窒素原子含有ガスの分圧、成膜速度、基板温度、バイアス及びパワー等が挙げられる。
【0114】
(ガス雰囲気)
スパッタ装置のチャンバ内のガス雰囲気としては、窒素含有ガス(窒素:Nガス、NHガス等)及び不活性ガスからなる雰囲気とし、必要に応じて水素含有ガス(H)を流通させた雰囲気とするが、窒素含有ガスとしてアンモニア(NH)ガスを用いることが好ましい。このような窒素含有ガスは、スパッタにより、プラズマ化されて窒素原子に分解し、結晶成長の原料となる。
また、チャンバ内のガス雰囲気に水素含有ガスを用いた場合には、半導体積層過程でのIII族窒化物半導体の表面における反応種のマイグレーションが生じやすくなり、結晶性の優れたAlGaNからなる膜を成膜することが可能となる。
【0115】
また、ターゲットを効率よくスパッタするためには、さらに、アルゴン(Ar)等の重量が大きく反応性の低い不活性ガスを混入させた雰囲気とすることがより好ましい。このような場合、チャンバ内におけるガス雰囲気中の窒素含有ガスの割合は、窒素ガス(N)とアルゴン(Ar)の全流量に占める窒素ガス流量の比は、例えば20%〜98%の範囲とすることができる。窒素ガスの流量比が20%未満だと、スパッタ原料が金属のまま付着する虞があり、窒素ガスの流量比が98%超だと、アルゴンの量が少なすぎ、スパッタ速度が低下する。一定以上のスパッタ速度を確保するためには、不活性ガスの割合を2%以上にすることが必要である。
【0116】
また、特に結晶性の良好なIII族窒化物半導体を積層するためには、チャンバ内の雰囲気中の窒素含有ガスの割合を20〜80%の範囲とし、残部が不活性ガスを含有するガスとされていることが好ましい。これにより、より結晶性の良好なIII族窒化物半導体を成長させることが可能となる。
【0117】
上述したように、チャンバ内のガス雰囲気中において、窒素原子含有ガス及び水素ガスを除く残部は、不活性ガスとすることが好ましい。このような不活性ガスは、ターゲットを効率よくスパッタすることを目的に用いるので、重量が大きく反応性の低いAr等を用いることが好ましい。また、ガス雰囲気中には、窒素原子含有ガス、水素ガス及び不活性ガスの働きを阻害しない範囲で、その他のガス成分を加えることも可能である。
【0118】
(基板温度)
スパッタ法によって半導体層20を成膜する際の基板11の温度は、300℃〜1200℃の範囲とすることが好ましい。本発明者等が鋭意実験したところ、一般に、結晶性の良好なIII族窒化物半導体からなる半導体層をスパッタ法で形成するためには、基板温度を300〜1200℃の範囲とすること好ましいことが明らかとなった。基板温度が300℃より低いと、基板面での反応種のマイグレーションが抑えられ、結晶性の良好なIII族窒化物半導体を形成するのが困難とある。また、基板温度が1200℃を超えると、形成されたIII族窒化物半導体が再分解を起こす虞がある。
【0119】
(成膜速度)
スパッタ法によって半導体層20を成膜する際の成膜速度は、0.01〜10nm/秒とすることが好ましい。成膜速度が10nm/秒を超えると、積層されたIII族窒化物半導体が結晶とならずに非晶質となる虞があり、また、0.01nm/秒未満だとプロセスが無駄に長時間となり、工業生産に利用することが困難となる。
【0120】
(パワー及びバイアス)
スパッタ法によって半導体層20を成膜する際、結晶成長中の基板11表面における反応種のマイグレーションを活発にするためには、基板側に印加されるバイアス、及びターゲット側に印加されるパワーは大きいほうが好ましい。例えば、成膜時に基板に印加するバイアスは1.5W/cm以上が好ましく、また、成膜時にターゲットに印加するパワーを1.5W/cm〜15W/cmの範囲とすることが好ましい。
【0121】
(ターゲット)
本実施形態の製造方法で成膜されるIII族窒化物半導体からなる半導体層の組成は、ターゲットに用いるIII族金属の組成を所望の値に調整することによりコントロールすることができる。例えば、GaNからなる層を形成する場合には、ターゲットにGa金属を用い、AlGaN層を形成する場合には、ターゲットにAlGa合金を用いれば良い。また、InGaNを形成する場合には、InGa合金を用いれば良い。III族窒化物半導体の組成は、ターゲットのIII族金属の組成に応じて変化するので、ターゲット47の組成を実験的に求めることで、所望の組成のIII族窒化物半導体からなる半導体層を形成することが可能となる。
【0122】
あるいは、例えば、AlGaN層を積層する場合、ターゲットとしてGaメタルとAlメタルの両方を併置してもよい。この場合には、GaメタルターゲットとAlメタルターゲットの表面積の比を変化させることにより、積層されるAlGaN層の組成を制御することが可能となる。同様に、InGaN層を積層する場合には、GaメタルターゲットとInメタルターゲットの両方を併置しても良い。
【0123】
また、III族窒化物半導体への不純物のドーピングは、III族金属と不純物とが混合されてなる混合ターゲットを用いて行なっても良い。例えば、スパッタ法を用いてSiをドーピングしたGaN(この場合はp型半導体層)を形成する場合には、Ga金属とSiを含有した混合ターゲットを使用することができる。このような場合、固体のGa金属にSiが固溶した状態とし、Siが固溶したGaメタルをターゲットに使用することにより、SiをドープしたGaNを形成することができる。また、GaメタルとSiの小片を別々に併置してターゲットに用いることも可能である。この際、ターゲットとなるGaとSiの割合を実験的に求めることにより、所望の不純物濃度のGaNを形成することができる。
【0124】
また、その他、ドーパント元素からなるターゲットをチャンバ内に設置してスパッタする方法や、ドーパント元素をイオンや気体(蒸気)としてチャンバ内に、あるいはウェーハに向けて送り込む方法等を用いることができる。これらの方法の利点としては、ターゲット毎、あるいは成膜の条件の変更に伴ってドーパントの量を調節できるので、長期の安定性を図れることが挙げられる。
【0125】
「発光層の形成」
n型クラッド層14c上には、発光層15を、従来公知のMOCVD法によって形成する。
本実施形態で形成する、図1に例示するような発光層15は、GaN障壁層に始まりGaN障壁層に終わる積層構造を有しており、GaNからなる6層の障壁層15aと、ノンドープのIn0.2Ga0.8Nからなる5層の井戸層15bとを交互に積層して形成する。
また、本実施形態の製造方法では、n型クラッド層14cの成膜に用いるMOCVD炉と同じものを使用することにより、従来公知のMOCVD法で発光層15を成膜することができる。
【0126】
「p型半導体層の形成」
発光層15上、つまり、発光層15の最上層となる障壁層15a上には、p型クラッド層16a及びp型コンタクト層16bからなるp型半導体層16を、従来公知のMOCVD法を用いて形成する。
本実施形態では、まず、MgをドープしたAl0.1Ga0.9Nからなるp型クラッド層16aを発光層15(最上層の障壁層15a)上に形成し、さらにその上に、MgをドープしたAl0.02Ga0.98Nからなるp型コンタクト層16bを形成する。この際、p型クラッド層16a及びp型コンタクト層16bの積層には、同じMOCVD装置を用いることができる。
【0127】
『透光性正極の形成』
上述のような方法により、基板11上に、中間層12及び半導体層が積層された積層半導体10のp型コンタクト層16b上に、ITOからなる透光性正極17を形成する。
透光性正極17の形成方法としては、特に限定されず、この技術分野でよく知られた慣用の手段で設けることができる。また、その構造も、従来公知の構造を含めて如何なる構造のものも何ら制限なく用いることができる。
【0128】
また、上述したように、透光性正極17の材料は、ITOには限定されず、AZO、IZO、GZO等の材料を用いて形成することが可能である。
また、透光性正極17を形成した後、合金化や透明化を目的とした熱アニールを施す場合もあるが、施さなくても構わない。
【0129】
『正極ボンディングパッド及び負極の形成』
積層半導体10上に形成された透光性正極17上に、さらに、正極ボンディングパッド18を形成する。
この正極ボンディングパッド18は、例えば、透光性正極17の表面側から順に、Ti、Al、Auの各材料を、従来公知の方法で積層することによって形成することができる。
【0130】
また、負極19を形成する際は、まず、基板11上に形成されたp型半導体層16、発光層15及びn型半導体層14の一部をドライエッチング等の方法によって除去することにより、n型コンタクト層14bの露出領域14dを形成する(図2及び図3参照)。そして、この露出領域14d上に、例えば、露出領域14d表面側から順に、Ni、Al、Ti、及びAuの各材料を、従来公知の方法で積層することにより、4層構造の負極19を形成することができる。
【0131】
そして、上述のようにして、積層半導体10上に、透光性正極17、正極ボンディングパッド18及び負極19を設けたウェーハを、基板11の裏面を研削及び研磨してミラー状の面とした後、例えば、350μm角の正方形に切断することにより、発光素子チップ(発光素子1)とすることができる。
【0132】
以上説明したような、本実施形態のIII族窒化物半導体発光素子1の製造方法によれば、基板11に対してプラズマ処理を行う前処理工程と、該前処理工程に次いで、基板11上に中間層12をスパッタ法によって形成するスパッタ工程とが備えられ、前処理工程は、基板11の温度を25〜1000℃の範囲として行なうものであり、また、前処理工程及びスパッタ工程は同一のチャンバ内で行う方法を採用している。そして、スパッタ工程は、中間層12のX線ロッキングカーブを、ピーク分離手法を用いて、半価幅が720arcsec以上であるブロード成分12cと、ナロー成分12bとに分離した場合の、ブロード成分12cに対応する結晶組織の領域の割合を、中間層12の面積比で30%以下として、この中間層12を形成する方法なので、基板11上の不純物等が確実に除去され、均一性が高い結晶組織並びに良好な配向特性を有する中間層12を成長させることができる。これにより、基板11と、中間層12上に成長されるIII族窒化物半導体からなる半導体層20との間に格子不整合が生じることが無いので、結晶性の良好な半導体層20を形成することが可能となる。また、前処理工程における各条件を規定し、さらに、中間層12におけるブロード成分12cに対応する結晶組織の領域の割合を指標として、中間層12の配向特性並びに下地層14aの結晶性を制御する方法なので、使用するスパッタ装置の性能に依存することなく、各製造条件を正確に設定することが可能となる。従って、発光特性に優れたIII族窒化物半導体発光素子を、高い生産効率で製造することが可能となる。
【0133】
なお、図1に示す積層半導体10のような、本発明に係る製造方法で得られるIII族窒化物半導体は、発光ダイオード(LED)の他、レーザディスク(LD)等の発光素子や、トランジスタのような電子デバイス等の各種半導体素子に用いることができる。
【0134】
[ランプ]
以上説明したような、本発明に係るIII族窒化物半導体発光素子と蛍光体とを組み合わせることにより、当業者周知の手段によってランプを構成することができる。従来より、発光素子と蛍光体と組み合わせることによって発光色を変える技術が知られており、このような技術を何ら制限されることなく採用することが可能である。
例えば、蛍光体を適正に選定することにより、発光素子より長波長の発光を得ることも可能となり、また、発光素子自体の発光波長と蛍光体によって変換された波長とを混ぜることにより、白色発光を呈するランプとすることもできる。
また、ランプとしては、一般用途の砲弾型、携帯のバックライト用途のサイドビュー型、表示器に用いられるトップビュー型等、何れの用途にも用いることができる。
【0135】
例えば、図4に示す例のように、同一面電極型のIII族窒化物半導体発光素子1を砲弾型に実装する場合には、2本のフレームの内の一方(図4ではフレーム21)に発光素子1を接着し、また、発光素子1の負極(図3に示す符号19参照)をワイヤー24でフレーム22に接合し、発光素子1の正極ボンディングパッド(図3に示す符号18参照)をワイヤー23でフレーム21に接合する。そして、透明な樹脂からなるモールド25で発光素子1の周辺を封止することにより、図4に示すような砲弾型のランプ2を作成することができる。
【0136】
本実施形態のランプ2は、上記本発明の製造方法で得られるIII族窒化物半導体発光素子が用いられてなるものなので、優れた発光特性が得られる。
【0137】
また、本発明に係る製造方法を用いて得られる、図1の積層半導体10に示すような半導体構造は、上述のような発光素子の他、レーザ素子や受光素子等の光電気変換素子、又は、HBT(Heterojunction Bipolar Transistor)やHEMT(High Electron Mobility Transistor)等の電子デバイスにも用いることができる。これらの半導体素子は、各種構造のものが多数知られており、本発明に係るIII族窒化物半導体の積層構造体の素子構造は、これら周知の素子構造を含めて何ら制限されない。
【実施例】
【0138】
次に、本発明のIII族窒化物半導体発光素子の製造方法を、実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例にのみ限定されるものではない。
【0139】
[実験例1]
本実施例では、逆スパッタを施した基板上に中間層を成膜し、その上に、III族窒化物半導体からなる各層を積層することにより、図2及び図3に示すような発光ダイオード(LED)のサンプルを作製した(図1に示す積層半導体10も参照)。
本例では、まず、サファイアからなる基板11上に、RFスパッタ法を用いてAlNからなる中間層12を積層し、その上に、MOCVD法を用いて単結晶のGaNからなる下地層14aを積層した。そして、この下地層14aの上に、n型コンタクト層14b、n型クラッド層14c、発光層15及びp型半導体層16の各層をMOCVD法で形成した。
【0140】
『基板に対する逆スパッタ(前処理工程)』
まず、表面を鏡面研磨した直径2インチの(0001)c面サファイア基板を、フッ酸及び有機溶媒によって洗浄した後、スパッタ装置のチャンバ中へ導入した。この際、スパッタ装置としては、高周波式の電源部を備え、ターゲット内でマグネットを回転させることにより、磁場の掛かる位置を動かすことができる機構を備えたものを使用した。
【0141】
そして、スパッタ装置のチャンバ内で基板11を550℃まで加熱し、窒素ガスを40sccmの流量で導入してチャンバ内のガス雰囲気を窒素ガス100%とした後、チャンバ内の圧力を2Paに保持し、基板11に0.1kWの高周波バイアスを印加しながら窒素プラズマに晒すことにより、基板11の表面に逆スパッタによるプラズマ処理を施して洗浄した。この際の処理時間は15秒とした。
【0142】
『中間層の形成(スパッタ工程)』
次いで、チャンバ内にアルゴン及び窒素ガスを導入した後、基板11の温度を550℃で保持しながら、1kWの高周波バイアスを金属Alターゲット側に印加し、炉内の圧力を1Paに保ち、Arガスを10sccm、窒素ガスを30sccmの流量で流通させた条件(ガス全体に対する窒素の比は75%)で、サファイアからなる基板11上にAlNからなる中間層12を成膜した。この際の成長速度は0.12nm/sであった。
【0143】
なお、ターゲット内のマグネットは、基板11への逆スパッタ及び中間層12の成膜の何れの際も回転させた。上述のようにして40nmのAlNからなる中間層12を成膜した後、プラズマを立てるのを停止し、基板11の温度を低下させた。以上の手順により、基板11上に、40nmの厚さの単結晶のAlNからなる中間層12を形成した。
【0144】
そして、上述のようにして形成した中間層12の結晶組織について、CuKα線X線発生源を光源として、放物線ミラーと2結晶で発散角を0.01°にするX線測定装置(パナリティカル社製、型番:X‘part)を用いてX線ロッキングカーブを測定した後、データ解析ソフト「Peak Fit(登録商標)」(シスタット社製)を用いて解析した。この際、上記「Peak Fit(登録商標)」によるフィッティング方法として「AutoFit Peaks I」を用い、フィッティング関数として「Gaussian−Lorentzian Sum(Amplitude)」を用い、中間層12の結晶組織におけるブロード成分の割合を解析した。
【0145】
また、中間層12のX線ロッキングカーブ(XRC)を、X線測定装置(パナリティカル社製、型番:X‘part)を用いて測定した。この測定は、CuKα線X線発生源を光源として用いて行なった。
この結果、中間層12の結晶組織において、X線ロッキングカーブ半価幅が720arcsec以上であるブロード成分は19%と低い値を示した。また、中間層12全体のXRC半価幅は0.106(381arcsec)と優れた特性を示しており、中間層12が良好に配向していることが確認できた。
【0146】
『下地層の形成』
次いで、表面に中間層12が成膜された基板11をスパッタ装置から取り出し、MOCVD炉に導入した。そして、GaN層(III族窒化物半導体)が成膜された試料を、MOCVD法を用いて以下の手順で作製した。
まず、基板11を反応炉中に導入した。基板11は、窒素ガス置換されたグローブボックスの中で、加熱用のカーボン製のサセプタ上に載置した。そして、窒素ガスを炉内に流通させた後、ヒータによって基板11の温度を1150℃に昇温させた。基板11が1150℃の温度で安定したことを確認した後、アンモニア配管のバルブを開き、アンモニアの炉内への流通を開始した。次いで、トリメチルガリウム(TMG)の蒸気を含む水素を炉内へ供給し、基板11上に成膜された中間層12の上に、下地層14aをなすGaN系半導体を付着させる処理を行った。アンモニアの量は、V/III比が6000となるように調節した。約1時間に渡って上記GaN系半導体の成長を行った後、TMGの配管のバルブを切り替え、原料の反応炉内への供給を停止して成長を停止させた。そして、GaN系半導体の成長を終了させた後、ヒータへの通電を停止して、基板11の温度を室温まで降温した。
【0147】
以上の工程により、サファイアからなる基板11上に、単結晶組織を有し、AlNからなる中間層12を形成し、その上に、アンドープで2μmの膜厚のGaN系半導体からなる下地層14aを形成した。取り出した基板は無色透明のミラー状を呈した。
【0148】
上述のようにして形成したアンドープGaNからなる下地層14aのX線ロッキングカーブ(XRC)を、X線測定装置(パナリティカル社製、型番:X‘part)を用いて測定した。この測定は、CuKα線X線発生源を光源として用い、対称面である(0002)面で行なった。一般的に、III族窒化物半導体の場合、(0002)面のXRCスペクトル半値幅は結晶の平坦性(モザイシティ)の指標となる。この測定の結果、本発明の製造方法で作製した下地層14aは、(0002)面の測定では半値幅0.0101(36.5arcsec)を示した。
【0149】
『n型コンタクト層の形成』
次いで、下地層14aを形成した基板11をMOCVD装置内に搬送し、GaNからなるn型コンタクト層を、MOCVD法を用いて形成した。この際、n型コンタクト層にはSiをドープした。
ここで、GaNの成膜に使用するMOCVD装置としては、従来公知の装置を使用した。
【0150】
以上説明したような工程により、表面に逆スパッタを施したサファイアからなる基板11上に、単結晶組織を持つAlNの中間層12を形成し、その上にアンドープで2μmの膜厚のGaN層(n型下地層14a)と、5×1018cm−3のキャリア濃度を持つ2μmのSiドープのGaN層(n型コンタクト層14b)を形成した。成膜後に装置内から取り出した基板は無色透明であり、GaN層(ここではn型コンタクト層14b)の表面は鏡面であった。
【0151】
『n型クラッド層及び発光層の形成』
上記手順で作製したサンプルのn型コンタクト層上に、MOCVD法を用いてn型クラッド層14c及び発光層15を積層した。
【0152】
「n型クラッド層の形成」
まず、SiドープGaNからなるn型コンタクト層が成長された基板を、MOCVD装置のチャンバ内へ搬送した。そして、チャンバ内を窒素で置換した状態として基板の温度を1000℃まで上昇させ、n型コンタクト層の最表面に付着した汚れを昇華させて除去した。また、この際、基板の温度が830℃以上となった時点から、アンモニアを炉内に流通させた。
【0153】
次いで、基板の温度を740℃まで低下させた後、アンモニアをチャンバ内にそのまま流通させながら、SiH4ガスと、バブリングによって発生させたTMI及びTEGの蒸気を炉内へ流通させ、180Åの膜厚を有し、SiドープIn0.01Ga0.99Nからなるn型クラッド層14cを形成した。そして、TMI、TEG及びSiHのバルブを切り替え、これらの原料の供給を停止した。
【0154】
「発光層の形成」
次いで、GaNからなる障壁層15aと、In0.2Ga0.8Nからなる井戸層15bとから構成され、多重量子井戸構造を有する発光層15を形成した。この、発光層15の形成にあたっては、SiドープIn0.01Ga0.99Nからなるn型クラッド層14c上に、まず、障壁層15aを形成し、この障壁層15a上に、In0.2Ga0.8Nからなる井戸層15bを形成した。このような積層手順を5回繰り返した後、5番目に積層した井戸層15b上に、6番目の障壁層15aを形成し、多重量子井戸構造を有する発光層15の両側に障壁層15aを配した構造とした。
【0155】
すなわち、SiドープIn0.01Ga0.99Nからなるn型クラッド層14cの成長終了後、基板温度や炉内の圧力、キャリアガスの流量や種類はそのままとし、TEGのバルブを切り替え、炉内へTEGを供給することにより、GaNからなる障壁層15aを成長させた。これにより、150Åの膜厚を有する障壁層15aを形成した。
【0156】
次いで、障壁層15aの成長を終了させた後、基板11の温度や炉内の圧力、キャリアガスの流量や種類はそのままとして、TEG及びTMIのバルブを切り替えてTEG及びTMIを炉内へ供給し、In0.2Ga0.8Nからなる井戸層15bを成長させた。これにより、20Åの膜厚を有する井戸層15bを形成した。
【0157】
井戸層15bの成長を終了させた後、再び障壁層15aを成長させた。そして、このような手順を5回繰り返すことにより、5層の障壁層15aと5層の井戸層15bを形成した。さらに、最後に積層した井戸層15b上に、障壁層15aを形成し、発光層15とした。
【0158】
『p型半導体層の形成』
上述の各工程処理によって得られたウェーハ上に、MOCVD装置を用いてp型半導体層16を成膜した。
ここで、p型半導体層16の成膜に用いるMOCVD装置としては、従来公知の装置を使用した。また、この際、p型半導体層16にはMgをドープした。
【0159】
そして、最終的に、膜厚が10nmのMgドープAl0.1Ga0.9Nからなるp型クラッド層16aと、膜厚が200nmのMgドープAl0.02Ga0.98Nからなるp型コンタクト層16bとから構成されるp型半導体層16を成膜した。
【0160】
上述のようにして作製したLED用のエピタキシャルウェーハは、図1に示す積層半導体10のように、c面を有するサファイアからなる基板11上に、単結晶構造を持つAlN層(中間層12)を形成した後、基板11側から順に、2μmのアンドープGaN層(下地層14a)、5×1018cm−3の電子濃度を持つ2μmのSiドープGaN層(n型コンタクト層14b)、1×1018cm−3の電子濃度を持つ180ÅのIn0.01Ga0.99Nクラッド層(n型クラッド層14c)、GaN障壁層に始まってGaN障壁層に終わり、層厚が150Åとされた6層のGaN障壁層(障壁層15a)と、層厚が20Åとされた5層のノンドープのIn0.2Ga0.8N井戸層(井戸層15b)とからなる多重量子井戸構造(発光層15)、膜厚が10nmのMgドープAl0.1Ga0.9Nからなるp型クラッド層16aと、膜厚が200nmのMgドープAl0.02Ga0.98Nからなるp型コンタクト層16bとから構成されるMgドープAlGaN層(p型半導体層16)を積層した構造を有する。
【0161】
『LEDの作製』
次いで、上記エピタキシャルウェーハ(積層半導体10)を用いてLEDを作製した。
すなわち、上記エピタキシャルウェーハのMgドープAlGaN層(p型半導体層16b)の表面に、公知のフォトリソグラフィー技術によってITOからなる透光性電極17を形成し、その上に、チタン、アルミニウム及び金を順に積層した構造を有する正極ボンディングパッド18(p電極ボンディングパッド)を形成し、p側電極とした。さらに、ウェーハに対してドライエッチングを施し、n型コンタクト層14bのn側電極(負極)を形成する領域を露出させ、この露出領域14dにNi、Al、Ti及びAuの4層が順に積層されてなる負極19(n側電極)を形成した。このような手順により、ウェーハ(図1の積層半導体10を参照)上に、図2に示すような形状を有する各電極を形成した。
【0162】
そして、上述の手順でp側及びn側の各電極が形成されたウェーハについて、サファイアからなる基板11の裏面を研削及び研磨してミラー状の面とした。そして、このウェーハを350μm角の正方形のチップに切断し、各電極が上になるようにリードフレーム上に配置し、金線でリードフレームへ結線して発光素子とした(図4のランプ3を参照)。
上述のようにして作製した発光ダイオードのp側およびn側の電極間に順方向電流を流したところ、電流20mAにおける順方向電圧は3.25Vであった。また、p側の透光性電極17を通して発光状態を観察したところ、発光波長は462nmであり、発光出力は12.5mWを示した。このような発光ダイオードの特性は、作製したウェーハのほぼ全面から作製された発光ダイオードについて、ばらつきなく得られた。
【0163】
[実験例2〜15]
前処理工程及びスパッタ工程を下記表1に示す条件とした点を除き、その他の成膜条件は上記実験例1と同様の条件として、実験例2〜15の発光素子を作製した。
ここで、実験例3は、前処理工程におけるチャンバ内のガス圧力を0.08Paと、若干低く設定した例であり、実験例7は、前処理工程におけるガス雰囲気に窒素を含まない例である。
また、本実験例においては、前処理工程の処理時間に関し、実験例4及び実験例6〜10については30秒以下と短時間に設定する一方、その他の実験例については60〜300秒と長めに設定している。
【0164】
上記実験例1〜15の各製造条件を下記表1に示すとともに、評価結果の一覧を下記表2に示す。
【0165】
【表1】

【0166】
【表2】

【0167】
[評価結果]
表1に示すように、本発明の製造方法に備えられた前処理工程で基板に逆スパッタが施され、また、本発明で規定する各条件によって製造された発光素子(実験例1、8〜10参照)は、中間層においてブロード成分に対応する結晶組織の領域の割合が、中間層表面における面積比で全て30%以下と配向特性に優れており、また、中間層上に形成される下地層のX線ロッキングカーブ半価幅が50arcsec以下と配向性に優れていることが明らかである。また、このような下地層上にIII族窒化物半導体の各層が積層されてなる本発明の発光素子は、電流20mAにおける順方向電圧が全て3.25V以下であり、また、発光波長は460〜464nm、発光出力は12.5mW以上と、非常に優れた発光特性を示した。
【0168】
また、実験例2のサンプルでは、前処理工程の処理時間が300秒と長めになっているものの、パワー値やチャンバ内のガス圧力が本発明で規定する範囲内となっているため、中間層においてブロード成分に対応する結晶組織の領域の割合は26.2%と、比較的良好な配向特性を示している。
【0169】
また、実験例3のサンプルでは、前処理工程のガス圧力が0.08Paと低く、また、処理時間が300秒と長めのため、中間層においてブロード成分に対応する結晶組織の領域の割合が76%と、配向性が低いものになっている。
また、実験例4では、前処理工程の処理時間が30秒であり、また、パワー値やチャンバ内のガス圧力が本発明で規定する範囲内となっているため、中間層においてブロード成分に対応する結晶組織の領域の割合は19.9%と良好な配向特性を示している。
また、実験例5のサンプルでは、基板に対する前処理工程を設けなかったため、中間層においてブロード成分に対応する結晶組織の領域の割合が50.4%と、配向性が低いものになっている。
【0170】
また、実験例6のサンプルでは、実験例4と同様、前処理工程の処理時間が30秒であり、また、パワー値やチャンバ内のガス圧力が本発明で規定する範囲内となっているため、中間層においてブロード成分に対応する結晶組織の領域の割合は22.6%と良好な配向特性を示している。
また、実験例7のサンプルでは、前処理工程においてチャンバ中に窒素を流通させなかったため、中間層においてブロード成分に対応する結晶組織の領域の割合が100%と、全く配向しない結果となった。
【0171】
また、実験例11のサンプルでは、前処理工程の処理時間が60秒と長めであるため、中間層においてブロード成分に対応する結晶組織の領域の割合が60.7%と、配向性が低いものになっている。
【0172】
また、実験例12のサンプルでは、前処理工程のガス圧力が0.08Paと低く、また、処理時間が300秒と長めであるものの、高周波パワーが0.05kWと低めであるため、中間層においてブロード成分に対応する結晶組織の領域の割合が20%と、比較的良好な配向特性を示している。
また、実験例13も上記実験例12と同様、前処理工程のガス圧力が0.08Paと低く、また、処理時間が300秒と長めであるものの、高周波パワーが0.02kWと低めであるため、中間層においてブロード成分に対応する結晶組織の領域の割合が19.1%と、比較的良好な配向特性を示している。
【0173】
また、実験例14も上記実験例12及び13と同様、前処理工程のガス圧力が0.08Paと低く、また、処理時間が300秒と長めであるが、高周波パワーが1kWと上記実験例12及び13よりも高めであることから、中間層においてブロード成分に対応する結晶組織の領域の割合が83.99%と、配向性が低いものになっている。
また、実験例15のサンプルでは、高周波パワーが0.2kWと高く、また、前処理工程のガス圧力が0.08Paと低く、さらに処理時間が300秒と長めであるため、中間層においてブロード成分に対応する結晶組織の領域の割合が95.9%と、配向性が非常に低いものになっている。
【0174】
なお、上記表2に示す中間層の結晶特性の解析結果のように、中間層においてブロード成分に対応する結晶組織の領域の割合、つまり配向特性と中間層のXRC半価幅との間には、相関が無いことが明らかである。例えば、実験例5及び11のサンプルでは、XRC半価幅が、各々、0.1157(実験例5)、0.1233(実験例11)と比較的良好であるものの、ブロード成分の割合は、各々、50.4%(実験例5)、60.7%(実験例11)であり、GaN層(下地層)のXRCは、各々、90.7arcsec(実験例5)、108.4arcsec(実験例11)と、配向特性が低いものとなっている。
このような結果より、中間層のXRC半価幅を指標として、中間層上に形成されるGaN層(下地層)のXRC半価幅を制御し、このGaN層の結晶性を向上させることは実質的に不可能なことが明らかである。
これに対し、本発明者等は、上記結果のように、中間層においてブロード成分に対応する結晶組織の領域の割合と、中間層上に形成されるGaN層(下地層)のXRC半価幅が相関することを見出した。そして、中間層のブロード成分の割合を指標として制御することにより、その上の下地層の結晶性を良好に制御し、さらに、その上に形成される各層の結晶性を良好に制御可能な本発明の発光素子及びその製造方法を完成させた。
【産業上の利用可能性】
【0175】
本発明のIII族窒化物半導体発光素子の製造方法は、結晶性の良好なIII族窒化物半導体を形成することができるため、発光ダイオード(LED)やレーザダイオード(LD)のような発光素子の他、FETのような電子デバイス等、様々な半導体素子の製造に適用することが可能である。
【符号の説明】
【0176】
1…III族窒化物半導体発光素子、10…積層半導体、11…基板、11a…表面(基板)、12…中間層、12b…ナロー成分(配向成分)、12c…ブロード成分、14…n型半導体層、14a…下地層、15…発光層、16…p型半導体層、16a…p型クラッド層、16b…p型コンタクト層、2…ランプ、40…スパッタ装置、41…チャンバ、42…マグネット、47…ターゲット、48…電源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に、少なくともIII族窒化物化合物からなる中間層を積層し、該中間層上に、下地層を備えるn型半導体層、発光層及びp型半導体層を順次積層するIII族窒化物半導体発光素子の製造方法であって、
前記基板に対してプラズマ処理を行う前処理工程と、該前処理工程に次いで、前記基板上に前記中間層をスパッタ法によって形成するスパッタ工程とが備えられており、
前記前処理工程は、前記基板の温度を25〜1000℃の範囲として行なうものであり、
前処理工程及び前記スパッタ工程は同一のチャンバ内で行うものであり、
前記スパッタ工程は、前記中間層のX線ロッキングカーブを、ピーク分離手法を用いて、半価幅が720arcsec以上であるブロード成分と、ナロー成分とに分離した場合の、前記ブロード成分に対応する結晶組織の領域の割合を、中間層の面積比で30%以下として前記中間層を形成することを特徴とするIII族窒化物半導体発光素子の製造方法。
【請求項2】
前記前処理工程は、窒素含有ガスをチャンバ内に流通させて行なうことを特徴とする請求項1に記載のIII族窒化物半導体発光素子の製造方法。
【請求項3】
前記前処理工程は、チャンバ内に流通させる前記窒素含有ガス中の窒素ガスの比が50%以上であることを特徴とする請求項2に記載のIII族窒化物半導体発光素子の製造方法。
【請求項4】
前記前処理工程は、チャンバ内の圧力を1Pa以上として行なうことを特徴とする請求項1〜請求項3の何れか1項に記載のIII族窒化物半導体発光素子の製造方法。
【請求項5】
前記前処理工程は、処理時間を30秒以下として行なうことを特徴とする請求項1〜請求項4の何れか1項に記載のIII族窒化物半導体発光素子の製造方法。
【請求項6】
前記スパッタ工程は、前記中間層を、V族元素を含有する原料をリアクタ内に流通させるリアクティブスパッタ法によって成膜することを特徴とする請求項1〜請求項5の何れか1項に記載のIII族窒化物半導体発光素子の製造方法。
【請求項7】
前記V族元素が窒素であることを特徴とする請求項6に記載のIII族窒化物半導体発光素子の製造方法。
【請求項8】
前記V族元素を含有する原料としてアンモニアを用いることを特徴とする請求項6に記載のIII族窒化物半導体発光素子の製造方法。
【請求項9】
前記スパッタ工程は、前記中間層を、RFスパッタ法によって成膜することを特徴とする請求項1〜請求項8の何れか1項に記載のIII族窒化物半導体発光素子の製造方法。
【請求項10】
前記スパッタ工程は、前記中間層を、RFスパッタ法を用いて、カソードのマグネットを移動させつつ成膜することを特徴とする請求項9に記載のIII族窒化物半導体発光素子の製造方法
【請求項11】
前記スパッタ工程は、前記中間層を、前記基板の温度を400〜800℃の範囲として形成することを特徴とする請求項1〜請求項10の何れか1項に記載のIII族窒化物半導体発光素子の製造方法。
【請求項12】
前記下地層を、MOCVD法によって前記中間層上に成膜することを特徴とする請求項1〜請求項11の何れか1項に記載のIII族窒化物半導体発光素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−232700(P2010−232700A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−162861(P2010−162861)
【出願日】平成22年7月20日(2010.7.20)
【分割の表示】特願2007−176099(P2007−176099)の分割
【原出願日】平成19年7月4日(2007.7.4)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【Fターム(参考)】