説明

III族窒化物発光ダイオード

【課題】六方晶系III族窒化物からなる支持基体の非極性主面上に設けられた発光層等を有するIII族窒化物発光ダイオードにおいて、側面における欠けやチッピングといった形状不良を低減する。
【解決手段】発光ダイオード11は、六方晶系III族窒化物半導体からなる支持基体17及び半導体領域19を含む発光構造体13を備える。半導体領域19は、第1半導体層21と、第2半導体層23と、発光層25とを有する。支持基体17の六方晶系III族窒化物半導体のc軸は、m軸の方向に法線軸に対して有限な角度ALPHAで傾斜している。発光構造体13は、六方晶系III族窒化物半導体のm軸及び法線軸によって規定されるm−n面に交差する一対の割断面27,29と、m−n面又は{11−20}面からなる一対の劈開面13a,13bとを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、III族窒化物発光ダイオードに関するものである。
【背景技術】
【0002】
非特許文献1には、(11−22)面GaN基板上に作製された半導体レーザが記載されている。この半導体レーザでは、ドライエッチングにより共振端面が形成されている。
【0003】
非特許文献2には、(11−22)面GaN基板上に作製された発光ダイオードが記載されている。この発光ダイオードは、ダイシングによりチップ化されている。
【0004】
非特許文献3には、(11−22)面サファイア基板上に作製された発光ダイオードが記載されている。この発光ダイオードもまた、ダイシングによりチップ化されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Hirokuni Asamizu et al.,”Demonstration of 426 nm InGaN/GaN Laser Diodes Fabricated onFree-Standing Semipolar (11-22) Gallium Nitride Substrates ”, AppliedPhysics Express, Vol.1, 091102 (2008)
【非特許文献2】Natalie FELLOWS et al., ”IncreasedPolarization Ratio on Semipolar (11-22) InGaN/GaN Light-Emitting Diodes withIncreasing Indium Composition ”, Japanese Journal of Applied Physics, Vol. 47, No.10, 2008, pp.7854-7856
【非特許文献3】Hisashi Masui et al., ”Light-polarizationcharacteristics of electroluminescence from InGaN/GaN light-emitting diodesprepared on (11-22)-plane GaN ”, Journal of Applied Physics, American Institute ofPhysics, 100, 113109 (2006)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
例えばGaNといった六方晶系III族窒化物基板の非極性主面上に発光層等を成長させ、発光ダイオードを作製する技術が研究されている。従来、このような発光ダイオードを作製する際には、III族窒化物基板上に発光層等を成長させた後、該基板生産物に対してダイシングを施すことによりチップ化を行っている。しかしながら、ダイシングによるチップ化は、チップの側面に欠けやチッピングといった形状不良を生じさせるおそれがある。このような形状不良は、発光ダイオード内部での発光分布に影響を及ぼすほか、発光ダイオードの信頼性も低下する。このため、発光ダイオードを製造する際の歩留まりの低下に繋がるという問題がある。
【0007】
本発明は、このような問題点に鑑みてなされたものであり、六方晶系III族窒化物からなる支持基体の非極性主面上に設けられた発光層等を有するIII族窒化物発光ダイオードにおいて、側面における欠けやチッピングといった形状不良を低減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決するために、本発明によるIII族窒化物発光ダイオードは、(a)六方晶系III族窒化物半導体からなり半極性主面を有する支持基体、及び支持基体の半極性主面上に設けられた半導体領域を含む発光構造体と、(b)半導体領域上に設けられた電極とを備える。半導体領域は、第1導電型のIII族窒化物半導体からなる第1半導体層と、第2導電型のIII族窒化物半導体からなる第2半導体層と、III族窒化物半導体からなり第1半導体層と第2半導体層との間に設けられた発光層とを有する。第1半導体層、第2半導体層及び発光層は、半極性主面の法線軸に沿って配列されている。支持基体の六方晶系III族窒化物半導体のc軸は、六方晶系III族窒化物半導体のm軸の方向に法線軸に対して有限な角度ALPHAで傾斜している。発光構造体は、六方晶系III族窒化物半導体のm軸及び法線軸によって規定されるm−n面に交差する一対の割断面と、m−n面又は{11−20}面からなる一対の劈開面とを有する。
【0009】
このIII族窒化物発光ダイオードでは、一対の側面を割断面によって構成しており、他の一対の側面を劈開面によって構成している。割断面は、発光構造体において、六方晶系III族窒化物半導体のm−n面に交差する面であり、割断により形成された面である。また、劈開面は、m−n面又は{11−20}面からなる。これらの割断面及び劈開面は、発光ダイオードの側面として十分な平坦性及び垂直性を有する。したがって、このIII族窒化物発光ダイオードによれば、発光ダイオードの側面における欠けやチッピングといった形状不良を低減することができる。
【0010】
また、III族窒化物発光ダイオードは、法線軸と六方晶系III族窒化物半導体のc軸との成す角度が、45度以上80度以下又は100度以上135度以下の範囲であることが好ましい。この場合、III族窒化物発光ダイオードは、法線軸と六方晶系III族窒化物半導体のc軸との成す角度が、63度以上80度以下又は100度以上117度以下の範囲であることが更に好ましい。
【0011】
また、III族窒化物発光ダイオードは、半極性主面が、{20−21}面、{10−11}面、{20−2−1}面、及び{10−1−1}面のいずれかの面から−5度以上+5度以下の範囲でオフした微傾斜面であってもよい。或いは、III族窒化物発光ダイオードは、半極性主面が、{20−21}面、{10−11}面、{20−2−1}面、又は{10−1−1}面であってもよい。
【0012】
また、III族窒化物発光ダイオードは、支持基体の積層欠陥密度が1×10cm−1以下であることが好ましい。
【0013】
また、III族窒化物発光ダイオードは、支持基体が、GaN、AlGaN、AlN、InGaN又はInAlGaNからなることが好ましい。
【0014】
また、III族窒化物発光ダイオードは、発光層が、波長360nm以上600nm以下の光を発生するように設けられた発光領域を含んでもよい。或いは、III族窒化物発光ダイオードは、発光層が、波長430nm以上550nm以下の光を発生するように設けられた量子井戸構造を含んでもよい。
【0015】
また、III族窒化物発光ダイオードは、一対の割断面の各々に、支持基体の端面及び半導体領域の端面が現れており、支持基体及び半導体領域の各端面と支持基体のm軸に直交する基準面との成す角度である端面傾斜角を、六方晶系III族窒化物半導体のc軸及びm軸によって規定される第1平面に投影した角度が(ALPHA−5)度以上(ALPHA+5)度以下であることを特徴としてもよい。また、この場合、III族窒化物発光ダイオードは、上記端面傾斜角を第1平面及び法線軸の双方と直交する第2平面に投影した角度が−5度以上+5度以下であることが好ましい。
【0016】
また、III族窒化物発光ダイオードは、m−n面と{11−20}面との成す角度が−5度以上+5度以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、六方晶系III族窒化物からなる支持基体の非極性主面上に設けられた発光層等を有するIII族窒化物発光ダイオードにおいて、側面における欠けやチッピングといった形状不良を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は、本実施形態に係るIII族窒化物発光ダイオードの構造を示す斜視図である。
【図2】図2は、III族窒化物半導体レーザ素子を示す図面である。
【図3】図3は、c軸及びm軸によって規定される断面を模式的に示す図面である。
【図4】図4は、III族窒化物発光ダイオードを作製する方法の主要な工程を示す図面である。
【図5】図5(a)〜図5(c)は、III族窒化物発光ダイオードを作製する方法の主要な工程を示す図面である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、添付図面を参照しながら本発明によるIII族窒化物発光ダイオードの実施の形態を詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0020】
図1は、本実施形態に係るIII族窒化物発光ダイオード(以下、発光ダイオードという)の構造を示す斜視図である。発光ダイオード11は、発光構造体13及び電極15を備える。発光構造体13は、支持基体17及び半導体領域19を含む。支持基体17は、六方晶系III族窒化物半導体からなり、半極性主面17a及び裏面17bを有する。半導体領域19は、支持基体17の半極性主面17a上に設けられる。電極15は、発光構造体13の半導体領域19上に設けられる。半導体領域19は、第1半導体層21と、第2半導体層23と、発光層25とを含む。
【0021】
第1半導体層21は、第1導電型のIII族窒化物半導体からなり、Ga、Al、及びInのうち少なくとも一つの元素と、Nとを組成に含む。第1半導体層21は、例えばn型GaN、n型InGaN、n型AlGaN、n型InAlGaN等からなる。第2半導体層23は、第2導電型のIII族窒化物半導体からなり、Ga、Al、及びInのうち少なくとも一つの元素と、Nとを組成に含む。第2半導体層23は、例えばp型GaN、p型InGaN、p型AlGaN、p型InAlGaN等からなる。第2半導体層23は、電子ブロック層として機能する。
【0022】
発光層25は、第1半導体層21と第2半導体層23との間に設けられる。発光層25はIII族窒化物半導体からなり、井戸層25a及び障壁層25bが交互に配列されて成る。井戸層25aは、例えばInGaN等からなり、障壁層25bは例えばGaN、InGaN等からなる。井戸層25aは、波長360nm以上600nm以下の光を発生するように設けられた発光領域であることができる。また、発光層25は、波長430nm以上550nm以下の光を発生するように設けられた量子井戸構造を含むことができる。すなわち、支持基体17の半極性面の利用により、発光層25は、波長430nm以上550nm以下の光の発生に好適である。
【0023】
第1半導体層21、第2半導体層23及び発光層25は、半極性主面17aの法線軸NXに沿って配列されている。発光構造体13は、六方晶系III族窒化物半導体のm軸及び法線軸NXによって規定されるm−n面に交差する一対の割断面27,29を含む。また、発光構造体13は、六方晶系III族窒化物半導体のm−n面又は{11−20}面(すなわちa軸に直交する面)である劈開面13a,13bを含む。このn−m面と、{11−20}面(すなわちa面)との成す角度は−5度以上+5度以下であることが好ましい。
【0024】
図1を参照すると、直交座標系S及び結晶座標系CRが描かれている。法線軸NXは、直交座標系SのZ軸の方向に向く。半極性主面17aは、直交座標系SのX軸及びY軸により規定される所定の平面に平行に延在する。また、図1には、代表的なc面Scが描かれている。支持基体17の六方晶系III族窒化物半導体のc軸は、六方晶系III族窒化物半導体のm軸の方向に法線軸NXに対して有限な角度ALPHAで傾斜している。
【0025】
電極15は、半導体領域19の表面19a(例えば第2導電型のコンタクト層33)に接触を成している。支持基体17の裏面17bには別の電極41が設けられ、電極41は例えば支持基体17の裏面17bを覆っている。
【0026】
発光ダイオード11では、一対の割断面27及び29は、六方晶系III族窒化物半導体のm軸及び法線軸NXによって規定されるm−n面と交差する。割断面27は、支持基体17及び半導体領域19における一つの側面を構成し、割断面29は、支持基体17及び半導体領域19における割断面27とは反対側の側面を構成する。割断面27及び29は、ダイシングにより形成された側面より優れた平坦性及び垂直性を有する。また、発光構造体13は一対の劈開面13a及び13bを含む。劈開面13aは、支持基体17及び半導体領域19における別の一つの側面を構成し、劈開面13bは、支持基体17及び半導体領域19における劈開面13aとは反対側の側面を構成する。割断面27及び29は、劈開面13aのエッジから劈開面13bのエッジまで延在する。劈開面13a及び13bは例えばa面といった劈開面であり、割断面27及び29は、c面、m面又はa面といった劈開面とは異なる面である。
【0027】
ここで、図2は、発光ダイオード11を示す図面である。図3は、c軸及びm軸によって規定される断面を模式的に示す図面である。発光ダイオード11では、割断面27及び29の各々には、支持基体17の端面17c及び半導体領域19の端面19cが現れている。いま、端面17c及び19cの法線ベクトルNAと、支持基体17のm軸ベクトルMAとの成す角度(端面傾斜角)BETAを、III族窒化物半導体のc軸及びm軸によって規定される第1平面S1に投影した角度成分をBETA1とする。また、端面傾斜角BETAを、第1平面S1及び法線軸NXの双方と直交する第2平面S2に投影した角度成分をBETA2とする。ここで、BETA=(BETA1)+(BETA2)である。
【0028】
角度成分BETA1は、(ALPHA−5)度以上(ALPHA+5)度以下の範囲であることが好ましい。この角度範囲は、図3において、代表的なm面Sと参照面Fとの成す角度として示されている。代表的なm面Sが、理解を容易にするために、図3において、発光構造体の内側から外側にわたって描かれている。参照面Fは、支持基体17の端面17c及び半導体領域19の端面19cに沿って延在する。この発光ダイオード11は、c軸及びm軸の一方から他方に取られる端面傾斜角BETAに関して、十分な垂直性を満たす端面を有する。
【0029】
また、角度成分BETA2は、第2平面S2において−5度以上+5度以下の範囲であることが好ましい。これにより、発光ダイオード11の端面27、29は、半極性面17aの法線軸NXに垂直な面において規定される角度に関して十分な垂直性を有する。
【0030】
再び図1を参照すると、発光ダイオード11では、良質な割断面27,29を得るために、支持基体17の厚さDSUBは400μm以下であることが好ましい。また、更に良質な割断面を得るために、厚さDSUBは、50μm以上250μm以下であることが更に好ましい。また、これによってハンドリングが容易になり、生産歩留まりを向上させることができる。
【0031】
法線軸NXと六方晶系III族窒化物半導体のc軸との成す角度ALPHAは、45度以上であることが好ましく、また80度以下であることが好ましい。或いは、角度ALPHAは100度以上であることが好ましく、また135度以下であることが好ましい。45度未満及び135度を越える角度では、押圧により形成される端面がm面からなる可能性が高くなる。その結果、一対の割断面27,29が非対象な形状となり、発光強度分布の対称性が低下するおそれがある。また、80度を越え100度未満の角度では、所望の平坦性及び垂直性が得られないおそれがある。
【0032】
更に好ましくは、法線軸NXと六方晶系III族窒化物半導体のc軸との成す角度ALPHAは63度以上であることが好ましく、また80度以下であることが好ましい。或いは、角度ALPHAは100度以上であることが好ましく、また117度以下であることが好ましい。63度未満及び117度を越える角度では、押圧により形成される端面の一部に、m面が出現する可能性がある。また、80度を越え100度未満の角度では、所望の平坦性及び垂直性が得られないおそれがある。
【0033】
半極性主面17aは、{20−21}面、{10−11}面、{20−2−1}面、又は{10−1−1}面であることができる。更に、これらの面から−5度以上+5度以下の範囲で微傾斜した面も前記主面として好適である。これら典型的な半極性面17aにおいて、当該発光ダイオード11の側面として十分な平坦性及び垂直性を有する割断面27及び29を提供できる。
【0034】
支持基体17の積層欠陥密度は、1×10cm−1以下であることができる。積層欠陥密度が1×10cm−1以下であるので、偶発的な事情により割断面27及び29の平坦性及び/又は垂直性が乱れる可能性が低い。また、支持基体17は、GaN、AlN、AlGaN、InGaN又はInAlGaNからなることができる。これらの窒化ガリウム系半導体からなる支持基体を用いるとき、良好な割断面27及び29を得ることができる。特に、InGaNからなる支持基体17を用いるとき、支持基体17と発光層25との格子不整合率を小さくでき、結晶品質を向上できる。
【0035】
図4は、本実施形態に係る発光ダイオード11を作製する方法の主要な工程を示す図面である。図5(a)を参照すると、基板51が示されている。工程S101では、発光ダイオードの作製のための基板51を準備する。基板51の六方晶系III族窒化物半導体のc軸(ベクトルVC)は、六方晶系III族窒化物半導体のm軸方向(ベクトルVM)に法線軸NXに対して有限な角度ALPHAで傾斜している。それ故に、基板51は、六方晶系III族窒化物半導体からなる半極性主面51aを有する。
【0036】
工程S102では、基板生産物SPを形成する。図5(a)では、基板生産物SPはほぼ円板形の部材として描かれているけれども、基板生産物SPの形状はこれに限定されるものではない。基板生産物SPを得るために、まず、工程S103では、発光構造体55を形成する。発光構造体55は、半導体領域53及び基板51とを含んでおり、工程S103では、半導体領域53は半極性主面51a上に形成される。半導体領域53を形成するために、半極性主面51a上に、第1導電型の窒化ガリウム系半導体からなる第1半導体層57、発光層59、及び第2導電型の窒化ガリウム系半導体からなる第2半導体層61を順に成長する。第1半導体層57は例えばn型バッファ層を含み、第2半導体層61は例えば電子ブロック層を含むことができる。発光層59は、第1半導体層57と第2半導体層61との間に設けられる。第1半導体層57、発光層59、及び第2半導体層61は、半極性主面51aの法線軸NXに沿って配列されている。これらの半導体層はエピタキシャル成長される。半導体領域53の表面は、絶縁膜54で覆われている。絶縁膜54は例えばシリコン酸化物からなる。絶縁膜54は開口54aを有する。
【0037】
工程S104では、発光構造体55上に、アノード電極58a及びカソード電極58bが形成される。また、基板51の裏面に電極を形成する前に、結晶成長に用いた基板の裏面を研磨して、所望の厚さDSUBの基板生産物SPを形成する。電極の形成では、例えばアノード電極58aが半導体領域53上に形成されると共に、カソード電極58bが基板51の裏面(研磨面)51b上に形成される。アノード電極58aは半導体領域53上の一部に設けられ、カソード電極58bは裏面51bの全面を覆う。これらの工程により、基板生産物SPが形成される。基板生産物SPは、第1の面63aと、これとは反対側に位置する第2の面63bとを含む。
【0038】
工程S105では、図5(b)に示されるように、基板生産物SPの第1の面63aをスクライブする。このスクライブは、レーザスクライバ10aを用いて行われる。スクライブによりスクライブ溝65aが形成される。図5(b)では、縦5本、横5本、計10本のスクライブ溝が既に形成されており、レーザビームLBを用いてスクライブ溝65bの形成が進められている。一方向に沿ったスクライブ溝65aの長さは、六方晶系III族窒化物半導体のa軸及び法線軸NXによって規定されるa−n面と第1の面63aとの交差線の長さとほぼ等しく、この交差線の全範囲にレーザビームLBの照射が行われる。また、これと直交する方向に沿ったスクライブ溝65aの長さは、六方晶系III族窒化物半導体のm軸及び法線軸NXによって規定されるm−n面、若しくは六方晶系III族窒化物半導体の{11−20}面と、第1の面63aとの交差線の長さとほぼ等しく、この交差線の全範囲にレーザビームLBの照射が行われる。このレーザビームLBの照射により、互いに直交するX方向及びY方向に延在し半導体領域に到達する溝が第1の面63aに形成される。
【0039】
工程S106では、図5(c)に示されるように、基板生産物SPの第2の面63bへの押圧により基板生産物SPの分離を行って、基板生産物SP1及びチップLCを形成する。押圧は、例えばブレード69といったブレイキング装置を用いて行われる。ブレード69は、一方向に延在するエッジ69aと、エッジ69aを規定する少なくとも2つのブレード面69b、69cを含む。また、基板生産物SP1の押圧は支持装置71上において行われる。支持装置71は、支持面71aと溝部71bとを含み、溝部71bは一方向に延在する。溝部71bは、支持面71aに形成されている。基板生産物SP1のスクライブ溝65aの向き及び位置を支持装置71の溝部71bの延在方向に合わせて、基板生産物SP1を支持装置71上において溝部71bに位置決めする。溝部71bの延在方向にブレイキング装置のエッジの向きを合わせて、第2の面63bに交差する方向からブレイキング装置のエッジを基板生産物SP1に押し当てる。交差方向は好ましくは第2の面63bにほぼ垂直方向である。これによって、基板生産物SPの分離を行って、基板生産物SP1及びチップLCを形成する。押し当てにより、一対の割断面である端面67a及び67b、並びに一対の劈開面である端面68a及び68bを有するチップLCが形成され、これらの端面67a,67b,68a,及び68bは、発光ダイオードの側面として十分な垂直性及び平坦性を有する。
【0040】
形成されたチップLCは、上記の分離により形成された一対の端面67a,67b及び一対の端面68a,68bを有し、端面67a,67b,68a,及び68bの各々は、第1の面63aから第2の面63bにまで延在する。これ故に、端面67a,67b,68a,及び68bは、当該発光ダイオードの側面を構成し、端面67a,67bはXZ面に交差する。このXZ面は、六方晶系III族窒化物半導体のm軸及び法線軸NXによって規定されるm−n面に対応する。
【0041】
この方法によれば、六方晶系III族窒化物半導体のa軸の方向に基板生産物SPの第1の面63aをスクライブした後に、基板生産物SPの第2の面63bへの押圧により基板生産物SPの分離を行って、新たな基板生産物SP1及びチップLCを形成する。これ故に、m−n面に交差するように、チップLCの側面としての端面67a,67bが形成される。この側面形成によれば、一対の端面67a,67bに当該発光ダイオードの側面として十分な平坦性及び垂直性が提供される。
【0042】
以上の工程により、m−n面と交差する割断面と、m−n面又は{11−20}面からなる劈開面とを側面に含む、個々の発光ダイオードのチップが完成する。
【0043】
本実施形態に係る製造方法では、角度ALPHAは、45度以上80度以下又は100度以上135度以下の範囲であることができる。45度未満及び135度を越える角度では、押圧により形成される端面がm面からなる可能性が高くなる。その結果、端面67a,67bが非対象な形状となり、発光強度分布の対称性が低下するおそれがある。また、80度を越え100度未満の角度では、所望の平坦性及び垂直性が得られないおそれがある。更に好ましくは、角度ALPHAは、63度以上80度以下又は100度以上117度以下の範囲であることができる。45度未満及び135度を越える角度では、押圧により形成される端面の一部に、m面が出現する可能性がある。また、80度を越え100度未満の角度では、所望の平坦性及び垂直性が得られないおそれがある。半極性主面51aは、{20−21}面、{10−11}面、{20−2−1}面、又は{10−1−1}面であることができる。更に、これらの面から−5度以上+5度以下の範囲で微傾斜した面も上記主面として好適である。これら典型的な半極性面において、十分な平坦性及び垂直性で当該発光ダイオードの側面を提供できる。
【0044】
また、基板51は、GaN、AlN、AlGaN、InGaN又はInAlGaNからなることができる。これらの窒化ガリウム系半導体からなる基板を用いるとき、発光ダイオードとして好適な側面を得ることができる。基板51は好ましくはGaNからなる。
【0045】
基板生産物SPを形成する工程S104において、結晶成長に使用された半導体基板は、基板厚が400μm以下になるようにスライス又は研削といった加工が施され、第2の面63bが研磨により形成された加工面であることができる。この基板厚では、十分な平坦性及び垂直性を有し、イオンダメージの無い端面67a,67bを歩留まりよく形成できる。第2の面63bが研磨により形成された研磨面であり、研磨されて基板厚が250μm以下であれば更に好ましい。また、基板生産物SPを比較的容易に取り扱うためには、基板厚が50μm以上であることが好ましい。
【0046】
本実施形態に係る製造方法では、バーLB1においても、図2を参照しながら説明された端面傾斜角BETAが規定される。バーLB1では、端面傾斜角BETAの角度成分BETA1は、III族窒化物半導体のc軸及びm軸によって規定される第1平面(図2を参照した説明における第1平面S1に対応する面)において(ALPHA−5)度以上(ALPHA+5)度以下の範囲であることが好ましい。バーLB1の端面67a及び67bは、c軸及びm軸の一方から他方に取られる端面傾斜角BETAの角度成分に関して十分な垂直性を満たす。また、端面傾斜角BETAの角度成分BETA2は、第2平面(図2に示された第2平面S2に対応する面)において−5度以上+5度以下の範囲であることが好ましい。このとき、バーLB1の端面67a,67bは、半極性面51aの法線軸NXに垂直な面において規定される端面傾斜角BETAの角度成分に関して十分な垂直性を満たす。
【0047】
端面67a,67bは、半極性面51a上にエピタキシャルに成長された複数の窒化ガリウム系半導体層への押圧によるブレイクによって形成される。半極性面51a上へのエピタキシャル膜であるが故に、端面67a,67bは、c面、m面、又はa面といった低面指数の劈開面ではない。しかしながら、半極性面51a上へのエピタキシャル膜の積層のブレイクにおいて、端面67a,67bは、発光ダイオードの側面として十分な平坦性及び垂直性を有する。
【0048】
以上に説明した発光ダイオード11及びその製造方法によれば、次の効果が得られる。前述したように、従来のダイシングによるチップ化は、チップの側面に欠けやチッピングといった形状不良を生じさせるおそれがある。このような形状不良は、発光ダイオード内部での発光分布に影響を及ぼすほか、発光ダイオードの信頼性も低下する。このため、発光ダイオードを製造する際の歩留まりの低下に繋がるという問題がある。これに対し、本実施形態に係る発光ダイオード11及びその製造方法では、一対の側面を割断面27,29(端面67a,67b)によって構成しており、他の一対の側面を劈開面13a,13bによって構成している。割断面27,29(端面67a,67b)は、発光構造体13において、六方晶系III族窒化物半導体のm−n面に交差する面であり、割断により形成された面である。また、劈開面13a,13bは、m−n面又は{11−20}面からなる。これらの割断面27,29(端面67a,67b)並びに劈開面13a,13bは、上述したように、発光ダイオードの側面として十分な平坦性及び垂直性を有する。したがって、本実施形態に係る発光ダイオード11及びその製造方法によれば、発光ダイオード11の側面における欠けやチッピングといった形状不良を低減することができる。
【0049】
(実施例)
以下の通り、半極性面GaN基板(上記実施形態の支持基体17に相当)上に、発光ダイオードを有機金属気相成長法により成長した。基板には、HVPE法で厚く成長した(0001)GaNインゴットからm軸方向に75度の角度で切り出した{20−21}面GaN基板を用いた。なお、原料にはトリメチルガリウム(TMGa)、トリメチルアルミニウム(TMAl)、トリメチルインジウム(TMIn)、アンモニア(NH)、シラン(SiH)を用いた。
【0050】
まず、GaN基板の温度をNH及びH雰囲気中において1050℃まで上昇させて10分間保持し、前処理(サーマルクリーニング)を行った。その後、基板温度を1100℃とし、GaN基板上にn型GaN層(第1半導体層21に相当)を2μm成長させた。
【0051】
続いて、基板温度を840℃に下げて、n型In0.02Ga0.98N緩衝層を成長させた後、量子井戸発光層(発光層25に相当)を成長させた。このとき、井戸層の成長温度を740℃とし、バリア層の成長温度を840℃とした。その後、基板温度を1000℃に上げて、p型Al0.18Ga0.82N電子ブロック層(第2半導体層23に相当)を20nm成長させ、更にその上に、p型GaNコンタクト層(コンタクト層33に相当)を50nm成長させた。
【0052】
続いて、Ni/Auから成る電極(アノード電極15に相当)をコンタクト層33上に蒸着し、これとは別に、Ti/Auから成るパッド電極を蒸着した。また、GaN基板の裏面に、Ti/Alから成る電極(カソード電極41に相当)を蒸着した。その後、n型GaN層、量子井戸発光層及びp型AlGaN電子ブロック層等が形成された基板生産物の表面に、該表面の全面にわたってレーザースクライバーでスクライブラインを入れ、基板生産物の裏面(すなわちGaN基板の裏面)にブレーキング用の刃を押し当てて、チップ化を行った。
【0053】
ブレイクによって形成された割断面を走査型電子顕微鏡で観察した結果、顕著な凹凸は観察されなかった。このことから、割断面の平坦性(凹凸の大きさ)は、20nm以下と推定される。更に、割断面の試料表面に対する垂直性は、±5度の範囲内であった。
【0054】
この結果、チップ端部における割れや欠けなどの不良が発生することなく、チップの四方の側面が基板主面に対して十分な垂直性を有する発光ダイオードが得られた。これにより、発光強度分布の対称性が良好な発光ダイオードが実現した。
【符号の説明】
【0055】
11…発光ダイオード、13…発光構造体、13a,13b…劈開面、15…アノード電極、17…支持基体、17a…半極性主面、17b…裏面、17c…端面、19…半導体領域、19c…端面、21…第1半導体層、23…第2半導体層、25…発光層、25a…井戸層、25b…障壁層、27,29…割断面(端面)、33…コンタクト層、41…カソード電極、BETA…端面傾斜角、BREAK…割断線、F…参照面、LB…レーザビーム、LB1…バー、NA…法線ベクトル、NX…法線軸、Sc…c面、S…m面。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
六方晶系III族窒化物半導体からなり半極性主面を有する支持基体、及び前記支持基体の前記半極性主面上に設けられた半導体領域を含む発光構造体と、
前記半導体領域上に設けられた電極と
を備え、
前記半導体領域は、第1導電型のIII族窒化物半導体からなる第1半導体層と、第2導電型のIII族窒化物半導体からなる第2半導体層と、III族窒化物半導体からなり前記第1半導体層と前記第2半導体層との間に設けられた発光層とを有し、
前記第1半導体層、前記第2半導体層及び前記発光層は、前記半極性主面の法線軸に沿って配列されており、
前記支持基体の前記六方晶系III族窒化物半導体のc軸は、前記六方晶系III族窒化物半導体のm軸の方向に前記法線軸に対して有限な角度ALPHAで傾斜しており、
前記発光構造体は、前記六方晶系III族窒化物半導体のm軸及び前記法線軸によって規定されるm−n面に交差する一対の割断面と、前記m−n面又は{11−20}面からなる一対の劈開面とを有することを特徴とする、III族窒化物発光ダイオード。
【請求項2】
前記法線軸と前記六方晶系III族窒化物半導体のc軸との成す角度は、45度以上80度以下又は100度以上135度以下の範囲であることを特徴とする、請求項1に記載のIII族窒化物発光ダイオード。
【請求項3】
前記法線軸と前記六方晶系III族窒化物半導体のc軸との成す角度は、63度以上80度以下又は100度以上117度以下の範囲であることを特徴とする、請求項1又は2に記載のIII族窒化物発光ダイオード。
【請求項4】
前記半極性主面は、{20−21}面、{10−11}面、{20−2−1}面、及び{10−1−1}面のいずれかの面から−5度以上+5度以下の範囲でオフした微傾斜面であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載のIII族窒化物発光ダイオード。
【請求項5】
前記半極性主面は、{20−21}面、{10−11}面、{20−2−1}面、又は{10−1−1}面であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載のIII族窒化物発光ダイオード。
【請求項6】
前記支持基体の積層欠陥密度は1×10cm−1以下であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一項に記載のIII族窒化物発光ダイオード。
【請求項7】
前記支持基体は、GaN、AlGaN、AlN、InGaN又はInAlGaNからなることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一項に記載のIII族窒化物発光ダイオード。
【請求項8】
前記発光層は、波長360nm以上600nm以下の光を発生するように設けられた発光領域を含むことを特徴とする、請求項1〜7のいずれか一項に記載のIII族窒化物発光ダイオード。
【請求項9】
前記発光層は、波長430nm以上550nm以下の光を発生するように設けられた量子井戸構造を含むことを特徴とする、請求項1〜7のいずれか一項に記載のIII族窒化物発光ダイオード。
【請求項10】
前記一対の割断面の各々には、前記支持基体の端面及び前記半導体領域の端面が現れており、
前記支持基体及び前記半導体領域の各端面と前記支持基体のm軸に直交する基準面との成す角度である端面傾斜角を、前記六方晶系III族窒化物半導体のc軸及びm軸によって規定される第1平面に投影した角度が(ALPHA−5)度以上(ALPHA+5)度以下であることを特徴とする、請求項1〜9のいずれか一項に記載のIII族窒化物発光ダイオード。
【請求項11】
前記端面傾斜角を前記第1平面及び前記法線軸の双方と直交する第2平面に投影した角度が−5度以上+5度以下であることを特徴とする、請求項10に記載されたIII族窒化物発光ダイオード。
【請求項12】
前記m−n面と{11−20}面との成す角度は−5度以上+5度以下であることを特徴とする、請求項1〜11のいずれか一項に記載のIII族窒化物発光ダイオード。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−146651(P2011−146651A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−8389(P2010−8389)
【出願日】平成22年1月18日(2010.1.18)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 刊行物名 APPLIED PHYSICS EXPRESS Vol.3 No.1(2010) 発行日及び掲載日 平成22年1月8日 発行所 The Japan Society of Applied Physics(応用物理学会) 刊行物名 APPLIED PHYSICS EXPRESS Vol.2 No.8(2009) 発行日及び掲載日 平成21年7月17日 発行所 The Japan Society of Applied Physics(応用物理学会) 刊行物名 APPLIED PHYSICS EXPRESS Vol.2 No.9(2009) 発行日及び掲載日 平成21年8月21日 発行所 The Japan Society of Applied Physics(応用物理学会) 刊行物名 日刊工業新聞 平成21年8月20日号 発行日 平成21年8月20日 発行所 日刊工業新聞社 刊行物名 日経エレクトロニクス 平成21年8月24日号 発行日 平成21年8月24日 発行所 日経BP社
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】