説明

IV型アレルギー反応抑制剤

【課題】 接触性皮膚炎などのIV型アレルギー反応が関与する皮膚炎に対して優れた予防治療効果を発揮するIV型アレルギー反応抑制剤を提供すること。
【解決手段】 トリプタントリンまたはその薬学的に許容される塩を有効成分としてなることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トリプタントリンの新規な医薬用途に関する。
【背景技術】
【0002】
下記の化学構造式で表されるトリプタントリン(Tryptanthrin)は、公知の化合物であり、例えば、特許文献1において、藍(Polygonum tinctorium)由来の有機溶媒抽出物に含まれること、マラセチア属に属する真菌に対する抗菌作用に基づいて、当該真菌が関与する皮膚炎、例えば、アトピー性皮膚炎などに対して有効であることが報告されている。
【0003】
【化1】

【0004】
しかしながら、トリプタントリンが有する薬理作用の全容はいまだ明らかにされていない。
【特許文献1】特開2004−189732号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで本発明は、トリプタントリンが有する薬理作用の解明に基づく、その新規な医薬用途を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記の点に鑑みて鋭意検討を重ねた結果、IV型アレルギー反応が関与する皮膚炎に対し、トリプタントリンが優れた予防治療効果を有することを見出した。IV型アレルギー反応は、遅延型アレルギー反応とも呼ばれ、抗体が関与せずに、各種リンパ球、特に白血球を介して起こる炎症反応であり、いわゆる「化粧品かぶれ」や「うるしかぶれ」の他、「金属アレルギー」や「ゴムアレルギー」などに例示される接触性皮膚炎がその代表的な病態として知られるものである。従って、IV型アレルギー反応は、真菌が関与する皮膚炎の発症機序とは全く異なるものであるので、トリプタントリンがその抗菌作用に基づいてマラセチア属に属する真菌が関与する皮膚炎に対して有効であることが知られていても、その知見からは、トリプタントリンのIV型アレルギー反応に対する抑制作用は、予測することができないものである。
【0007】
本発明は、上記の知見に基づいてなされたものであり、本発明のIV型アレルギー反応抑制剤は、請求項1記載の通り、トリプタントリンまたはその薬学的に許容される塩を有効成分としてなることを特徴とする。
また、本発明のIV型アレルギー反応が関与する皮膚炎(マラセチア属に属する真菌が関与するアトピー性皮膚炎を除く)に対する予防治療剤は、請求項2記載の通り、トリプタントリンまたはその薬学的に許容される塩を有効成分としてなることを特徴とする。
また、本発明の接触性皮膚炎に対する予防治療剤は、請求項3記載の通り、トリプタントリンまたはその薬学的に許容される塩を有効成分としてなることを特徴とする。
また、本発明のIV型アレルギー反応抑制剤は、請求項4記載の通り、藍(Polygonum tinctorium)の有機溶媒抽出物を有効成分としてなることを特徴とする。
また、請求項5記載のIV型アレルギー反応抑制剤は、請求項4記載のIV型アレルギー反応抑制剤において、有機溶媒抽出物がトリプタントリンを含んでなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、トリプタントリンが有する薬理作用の解明に基づく、その新規な医薬用途としてのIV型アレルギー反応抑制剤が提供される。また、本発明によれば、トリプタントリンのIV型アレルギー反応抑制作用に基づいて、接触性皮膚炎などのIV型アレルギー反応が関与する皮膚炎に対する予防治療剤が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明において、IV型アレルギー反応抑制剤の有効成分となるトリプタントリンは、天然品であってもよいし、合成品であってもよい。天然品の場合、例えば、特許文献1に記載の方法で、n-ヘキサンや酢酸エチルやジクロロメタンやジエチルエーテルなどの有機溶媒を、1種類または複数種類混合して用いて得られる藍(Polygonum tinctorium)の葉の有機溶媒抽出物から単離精製することができる。トリプタントリンは、高度に精製された形態で用いてもよいし、トリプタントリンを含む有機溶媒抽出物の形態で用いてもよい。トリプタントリンの薬学的に許容される塩としては、塩酸、硫酸、リン酸、硝酸などの無機酸や、シュウ酸、フマル酸、マレイン酸、クエン酸、酒石酸、メタンスルホン酸、トルエンスルホン酸などの有機酸を例示することができる。
【0010】
本発明のIV型アレルギー反応抑制剤の投与経路は、経口(錠剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤などによる)、非経口(注射剤などによる)、外用(軟膏剤、乳剤、クリーム剤、貼付剤などによる)のいずれの経路によってもよい。各投与経路において採用される製剤は、自体公知の製剤学的方法に基づいて調製することができる。その投与量は、患者の年齢や体重、症状の程度、健康状態などの条件によって適宜設定すればよい(必要であれば特許文献1を参照してもよい)。
【0011】
また、本発明のIV型アレルギー反応抑制剤は、種々の形態の食品(サプリメントを含む)に、IV型アレルギー反応抑制作用を発揮するに足る有効量を添加して、接触性皮膚炎などのIV型アレルギー反応が関与する皮膚炎に対して予防効果や治療効果を持つ機能性食品として食してもよい。
【実施例】
【0012】
以下、本発明のIV型アレルギー反応抑制剤を、実施例において接触皮膚炎マウスモデルを用いた実験によって詳細に説明するが、本発明は、以下の記載に何ら限定して解釈されるものではない。
【0013】
実施例1:DNFB(ジニトロフルオロベンゼン)感作マウスの耳の腫脹に対するトリプタントリンの作用(その1)
(実験方法)
1.供試マウス
6週齢から8週齢のC57BL/6マウスを、日本クレア社から購入し、弘前大学医学部動物実験SPF施設内で繁殖、飼育した。飼料は固形飼料を用い、自動給水、自動給餌にて飼育し、実験に供した。
2.感作のためのDNFBとchallengeのためのDNFBの調製法
感作のためのDNFBは、アセトンとオリーブオイルを1:4で混合したものに、濃度が0.5%になるように混合した。challengeのためのDNFBは、アセトンとオリーブオイルを1:4で混合したものに、濃度が0.2%になるように混合した。
3.DNFBの投与方法
感作のための0.5% DNFBは、マウスの腹部の毛をハサミで2×2cmに皮膚が露出するまで切り、そこに25μl塗布した。challengeのための0.2% DNFBは、その5日後にマウスの耳の裏側に10μl塗布した。
4.DNFBマウスモデルの耳の腫脹の測定方法
0.5% DNFBを、皮膚を露出させたマウスの腹部に25μl塗布することで感作を行い、その5日後に耳の厚さをマイクロメーターで測定した。測定した後に、マウスの両耳の裏側に0.2% DNFBを塗布してchallengeを行った。challengeの1時間後、トリプタントリンを1mg/ml, 0.1mg/ml, 0.01mg/mlの各種濃度(DMSOで調整)でマウス毎に左耳に10μl塗布した。右耳にはコントロールとしてDMSOを10μl塗布した。そしてchallengeを行ってから24時間後、48時間後に耳の厚さの測定を行った。腫脹は、challenge後の耳の厚さからchallenge前の耳に厚さを引いて表した。
なお、この実験に用いたトリプタントリンは、特許文献1に記載の方法に従って、藍の乾燥葉粉砕物100.1gに対し、2回のジクロロメタンを用いた抽出操作(800mlと600ml)を行うことでジクロロメタン抽出物1.9323gを得、このジクロロメタン抽出物について、フラッシュクロマトグラフィー(展開溶媒はn-ヘキサン:酢酸エチル=4:1)と薄層クロマトグラフィー(展開溶媒はジクロロメタン:ジエチルエーテル:n-ヘキサン=40:1:2)を行うことで単離精製することで取得した(13.8mg)。
【0014】
(実験結果)
結果を図1に示す(n=12の平均値)。図1から明らかなように、トリプタントリンは、マウスの耳の腫脹を濃度依存的に抑制した。よって、トリプタントリンは、IV型アレルギー反応抑制作用に基づいて接触皮膚炎に対して優れた効果を有することがわかった。
【0015】
実施例2:DNFB感作マウスの耳の腫脹に対するトリプタントリンの作用(その2)
(実験方法)
実験例1の4.DNFBマウスモデルの耳の腫脹の測定方法に替えて下記の方法を採用したこと以外は実施例1と同様にして行った。
0.5% DNFBを、皮膚を露出させたマウスの腹部に25μl塗布することで感作を行い、その5日後に耳の厚さをマイクロメーターで測定した。測定した後に、マウスの両耳の裏側に0.2% DNFBを塗布してchallengeを行った。challengeの1時間前、1、8、及び12時間後に、トリプタントリン(取得方法は実施例1に記載の通り)を1mg/mlの濃度(DMSOで調整)でマウス毎に左耳に10μl塗布した。右耳にはコントロールとしてDMSOを10μl塗布した。そしてchallengeを行ってから24時間後、48時間後に耳の厚さの測定を行った。腫脹は、challenge後の耳の厚さからchallenge前の耳に厚さを引いて表した。
【0016】
(実験結果)
結果を図2に示す(n=12の平均値)。図2から明らかなように、トリプタントリンは、challengeの前に塗布した場合でも、後に塗布した場合でも、マウスの耳の腫脹を抑制したが、その効果は、特に、challengeの1時間後に塗布した場合に顕著であった。よって、トリプタントリンは、IV型アレルギー反応抑制作用に基づいて接触皮膚炎に対して優れた効果を有することがわかった。
【0017】
実施例3:DNFB感作マウスの耳の腫脹に対する藍のジクロロメタン抽出物の作用
(実験方法)
実験例1の4.DNFBマウスモデルの耳の腫脹の測定方法に替えて下記の方法を採用したこと以外は実施例1と同様にして行った。
0.5% DNFBを、皮膚を露出させたマウスの腹部に25μl塗布することで感作を行い、その5日後に耳の厚さをマイクロメーターで測定した。測定した後に、マウスの両耳の裏側に0.2% DNFBを塗布してchallengeを行った。challengeの1時間後に、実施例1に記載のトリプタントリンを取得するために調製した藍のジクロロメタン抽出物を10mg/ml, 1mg/mlの各種濃度(DMSOで調整)でマウス毎に左耳に10μl塗布した。右耳にはコントロールとしてDMSOを10μl塗布した。そしてchallengeを行ってから24時間後、48時間後に耳の厚さの測定を行った。腫脹は、challenge後の耳の厚さからchallenge前の耳に厚さを引いて表した。
【0018】
(実験結果)
結果を図3に示す(n=12の平均値)。図3から明らかなように、藍のジクロロメタン抽出物は、10mg/mlと1mg/mlのいずれの濃度においても、マウスの耳の腫脹を抑制した。よって、藍のジクロロメタン抽出物は、IV型アレルギー反応抑制作用に基づいて接触皮膚炎に対して優れた効果を有することがわかった。
【0019】
製剤例1:軟膏
トリプタントリン1gを無水エタノール10gに溶解した。これを約60℃に加温したプラスチベース99gに添加し、攪拌溶解することで均一にした後、エタノールを減圧留去してから、室温まで冷却することで軟膏剤を製造した。
【0020】
製剤例2:ビスケット
薄力粉32g、全卵18g、バター14g、砂糖24g、水10g、ベーキングパウダー1.5g、トリプタントリン0.5g、合計100gを用い、常法に従ってビスケットとした。
【0021】
製剤例3:顆粒剤
藍のジクロロメタン抽出物10g、澱粉33g、乳糖57g、合計100gを均一に混合し、常法に従って顆粒剤とした。
【産業上の利用可能性】
【0022】
本発明は、接触性皮膚炎などのIV型アレルギー反応が関与する皮膚炎に対して優れた予防治療効果を発揮するIV型アレルギー反応抑制剤を提供することができる点において、産業上の利用可能性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】実施例におけるトリプタントリンのIV型アレルギー反応抑制作用を示す一例のグラフである。
【図2】同、その他の例のグラフである。
【図3】同、藍のジクロロメタン抽出物のIV型アレルギー反応抑制作用を示す一例のグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トリプタントリンまたはその薬学的に許容される塩を有効成分としてなることを特徴とするIV型アレルギー反応抑制剤。
【請求項2】
トリプタントリンまたはその薬学的に許容される塩を有効成分としてなることを特徴とするIV型アレルギー反応が関与する皮膚炎(マラセチア属に属する真菌が関与するアトピー性皮膚炎を除く)に対する予防治療剤。
【請求項3】
トリプタントリンまたはその薬学的に許容される塩を有効成分としてなることを特徴とする接触性皮膚炎に対する予防治療剤。
【請求項4】
藍(Polygonum tinctorium)の有機溶媒抽出物を有効成分としてなることを特徴とするIV型アレルギー反応抑制剤。
【請求項5】
有機溶媒抽出物がトリプタントリンを含んでなることを特徴とする請求項4記載のIV型アレルギー反応抑制剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−241080(P2006−241080A)
【公開日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−59657(P2005−59657)
【出願日】平成17年3月3日(2005.3.3)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 
【出願人】(504229284)国立大学法人弘前大学 (162)
【Fターム(参考)】