説明

L1CAMの活性または発現を抑制する物質および抗癌剤を含む抗癌用組成物

【課題】本発明は、L1CAMの活性または発現を抑制する物質および抗癌剤を含む抗癌用組成物に関し、より詳細には、L1CAMの活性を抑制する物質としてL1CAMに特異的な抗L1CAM抗体、L1CAMの発現を抑制する物質としてL1CAMの発明を抑制するオリゴヌクレオチド、および抗癌剤としてシスプラチン、ゲムシタビン(gemcitabine)、5−フルオロウラシルおよびタキソールから選択される物質を含むことを特徴とする抗癌用組成物に関するものである。
【解決手段】本発明による組成物は、それに含まれるL1CAMの活性または発現を抑制する物質および抗癌剤を同時に、個別にまたは、順次に併用することによって、これらの物質単独で処理したそれぞれの薬理学的効果に比べてはるかに強力でありながら有意的な癌細胞成長および死滅効果を示して、癌の治療に非常に有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、L1CAMの活性または発現を抑制する物質および抗癌剤を含む抗癌用組成物に関し、より詳細には、L1CAMの活性を抑制する物質としてL1CAMに特異的な抗L1CAM抗体、L1CAMの発現を抑制する物質としてL1CAMの発明を抑制するオリゴヌクレオチド、および抗癌剤としてシスプラチン、ゲムシタビン(gemcitabine)、5−フルオロウラシルおよびタキソールから選択される物質を含むことを特徴とする、前記2つの物質を単独で投与した時よりも相乗的な治療効果を示し、癌、特にL1CAMを発現する癌を効果的に治療する抗癌用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
L1CAM(L1 cell adhesion molecule)は、細胞の表面上で細胞間接着(cell-to-cell adhesion)を仲介する免疫グロブリンスーパーファミリー細胞接着蛋白質(immunoglobulin superfamily cell adhesion molecules,CAMs)に属する内在性膜糖蛋白質(integral membrane glycoprotein)の1つであって、その分子量は220kDaに達する。L1CAMは元々ニューロンなどから発見され、その機能はニューロンの移動、神経突起の成長および細胞移動と知られている。L1CAMは、神経組織の他にもいくつかの正常組織で発現するものとして知られており、最近では様々な癌細胞でも発見され始めている。
【0003】
L1CAMと癌との関連性は、L1CAMが黒色腫(melanoma)、神経芽細胞腫 (neuroblastoma)、卵巣癌および大腸癌などの様々な癌で発現されることが報告され(Takeda,et al.,J. Neurochem. 66:2338-2349,1996;Thies et al,Eur. J. Cancer,38:1708-1716,2002;Arlt et al.,Cancer Res. 66:936-943,2006;Gavert et al.,J. Cell Biol. 168:633-642,2005)、膜結合型(membrane bound form)の他にも、切断された産物(cleavage product)が細胞外に分泌されることが発見された(Gutwein et al.,FASEP J. 17(2):292-4,2003)。そして、最近、癌細胞の成長に重要な役割を果たす分子の1つとして探索されることによって(Primiano,et al.,Cancer Cell. 4(1):41-53 2003)、癌治療の新しいターゲットとして浮上した(US2004/0115206 A1出願2004.6.17)。最近、L1CAMに対する抗体が卵巣癌細胞の成長と転移を抑制するということが明らかになった(Arlt,et al.,Cancer Res. 66:936-943.2006)。
【0004】
ヨーロッパ特許出願EP1172654および米国特許出願US2004/0259084号は、L1CAMが卵巣癌、子宮内膜癌または、そのような癌の素因の存在に対する標識になるという前提下に、卵巣癌または子宮内膜癌の診断および予後のために、患者のサンプルからL1CAMの抗体を介してL1CAMレベルを決めることを特徴とする手段および細胞毒性を有した薬物とL1CAM抗体およびその部分を結合させて十分な量で患者に投与して癌を治療する方法に関して開示している。しかし、この文献は単にL1CAM蛋白質が体液または組織で卵巣癌または子宮内膜癌の非常に特異的なマーカーであることを記載しているだけである。
【0005】
米国特許出願US2004/0115206号は、L1CAMに特異的に結合する抗体を使用して乳癌、大腸癌、子宮頸部癌などの癌細胞死滅を誘導する製剤、細胞死滅のために前記の抗体を使用する手段およびL1CAM抗体が含まれた薬剤学的組成物に関して開示しながら、癌細胞で細胞成長を阻害し、細胞死を誘導できる有効量の抗L1CAM抗体を細胞に接触(contacting)させることによって、細胞の成長を抑制し、細胞死滅を誘導することを開示している。
【0006】
また、国際出願PCT/EP2005/008148号は、卵巣および子宮内膜癌で過発現されるL1CAM蛋白質およびそれらの発現を阻害する組成物並びに、これを用いて卵巣および子宮内膜癌を予防および治療する方法を提供する。この文献は、L1CAM蛋白質の機能を阻害するL1CAM抗体およびその誘導体を含む組成物が卵巣癌および子宮内膜癌の機能を抑制して癌細胞の移動および進展を阻止して癌の治療が可能であると記載している。
【0007】
最近、大韓民国特許出願第10−2007−0084868号では、胆道癌細胞株でハツカネズミを免疫して単クローン抗体(A10-A3)を得、A10−A3抗体がL1CAMを特異的に認識するということを確認し、前記A10−A3抗体を用いてL1CAMが胆道癌細胞の表面に発現するということを確認し、胆道癌患者のL1CAMの発現率と生存率との関係に対する統計学的分析結果から、L1CAM発現率の高いグループの死亡率がL1CAM発現率の低いグループの死亡率より確かに高いことを確認してL1CAMが胆道癌の悪い予後因子(poor prognositic factor)として作用するということを記載し、インビトロ(in vitro)とインビボ(in vivo)の動物実験を介してL1CAMに対する抗体が胆道癌細胞の成長、移動または、浸潤を抑制する効果があるということを明らかにすることによって、L1CAMが胆道癌に対する卓越した診断または、治療効果を有することができることを記載している。
【0008】
最近の研究によれば、L1CAMがC2−セラミド(C2-ceramide)、スタウロスポリン(staurosporine)、シスプラチン(cisplatin)、そして、ハイポキシア(hypoxia)による卵巣癌の細胞死を抑制する機能が報告されており(Stoeck A. et al Gynecol Oncol. 2007;104(2):461-469)、シスプラチン(cisplatin)で処理した卵巣癌、膵臓癌細胞でL1CAMが増加することが報告されている。
【0009】
しかし、前記のどの文献もL1CAMの作用を阻害する抗体と抗癌剤の併用投与時の相乗的な癌治療効能を観察したことに関しては記載していない。
【0010】
抗癌剤とは、癌細胞の各種代謝経路に作用して癌細胞に対して細胞毒性(cytotoxicity)や成長抑制効果(cytostatic effects)を示す薬剤を総称し、今まで開発された抗癌剤は、その作用機序と化学構造により代謝拮抗剤、植物性アルカロイド、トポイソメラーゼ阻害剤(topoisomerase inhibitor)、アルキル化剤、抗癌性抗生物質、ホルモン剤およびその他薬剤に分類することができる。抗癌剤は、薬剤により細胞内標的が多様であるが、細胞のDNA複製、転写および翻訳過程を遮断したり、細胞生存に重要な蛋白質の作用を邪魔し、このような細胞内標的への影響は、以後、ネクローシス(necrosis)やアポトーシス(apoptosis)の過程を介して細胞を死滅させる。このような抗癌剤が作用する代謝経路は、癌細胞のみに特異的ではなく、正常細胞にも同様であるから、抗癌剤投与時、正常組織の損傷、即ち、毒性は不可避であるといえる。しかし、癌細胞と正常細胞との代謝の間には、量的な差が存在し、これによって抗癌剤は癌組織により大きい毒性を示すようになるところ、このような抗癌剤の選択的毒性(selective toxicity)を用いて臨床的に抗癌化学療法が可能であり、治療指数(therapeutic index)が大きいほど正常組織の毒性は避けながら癌細胞をなくすことができるため、安全な抗癌剤といえる。
【0011】
今まで50余個以上の抗癌剤が開発され、癌の種類および特性により使用される抗癌剤も違いがあり、単独あるいは他の抗癌療法と併用して癌治療に用いられている。最も一般的に使用される抗癌剤としては、DNAアルキル化剤(シクロホスファミド(cyclophosphamide)、イホスファミド(ifosfamide))、代謝拮抗剤(メトトレキサート(methotrexate)、葉酸塩(folate)阻害剤、5−フルオロウラシル(5-fluorouracil)、ピリミジン阻害剤)、微小管(microtubule)阻害剤(ビンクリスチン(vincristine)、ビンブラスチン(vinblastine)、パクリタキセル (paclitaxel))、DNAインターカレーター(intercalators)(ドキソルビシン(doxorubicin)、シスプラチン(cisplatin))、そして、ホルモン治療剤(タモキシフェン(tamoxifen)、フルタミド(flutamide))などが開発された。
【0012】
シスプラチン(Cisplatin)は、1968年に細胞毒性を有した抗癌剤として開発され、DNAの二重鎖に結合して隣合ったDNAを互いに連結させてDNA鎖の分離を阻害することによって細胞分裂(cell division)を抑制すると知られている。シスプラチンは、最も広範囲に使用される抗癌剤であり、特に卵巣癌、睾丸癌および頭頸部癌のような固形癌治療に使用されている。しかし、内在的あるいは外来的要因でシスプラチンに対して耐性を獲得した癌においてはその使用が制限的である(Andrews,P.A. and Howell,SB.(1990) Cancer cells.;Kelley,s.l. and Rozencweig,M (1989) Eur. J. Clin. Oncol. 25:1135-1140;Perez,R.P. et al. (1990) pharmacol. Ther. 48:19-27;and Timmer-Bosscha,H. et al. (1992) Br. J. Cancer 66:227-238)。したがって、耐性を誘導する因子に対する阻害剤と併用投与を介する治療が要求されている。
【0013】
ゲムシタビン(Gemcitabine)(2’-デオキシ-2’,2’-ジフルオロシチジン)は、ヌクレオシド類似体であって、DNAの合成を介して細胞増殖を抑制する抗癌剤として膀胱癌、乳癌、肺癌、卵巣癌、胆道癌、および膵臓癌のような固形癌治療に用いられている。ゲムシタビンは、臨床学的にその効能は非常に優れているが、貧血、白血球および好中球減少症、肝での酵素増加、嘔吐、および高熱のような副作用が深刻であるため使用される濃度が極めて制限的である。したがって、ゲムシタビンの濃度を減少させながら治療効能は増加させ得る併用治療剤開発が要求されている。
【0014】
5−フルオロウラシル(5-fluorouracil)は、細胞毒性を有した代謝拮抗剤であって、胃腸癌、乳癌、そして頭頸部癌などの固形癌治療に用いられている抗癌剤であり、特に他の抗癌剤との併用投与で広く用いられている。特にロイコボリン(leucovorin)、そして、フォリン酸(folinic acid)のカルシウム塩と併用投与時、固形癌治療に非常に効果的であると知られている(Malet-martino M et al. Clinical studies of three oral prodrugs of 5-fluorouracil(Capecitabine,UFT,S-1):A review. Oncologist 2002;4(4)228-323)。しかし、経口投与による細胞毒性と低い生体利用率によって静脈投与のみ可能であるという短所があり、静脈投与時85%以上がDPD(dihydropyrimidine dehydrogenase)酵素によって不活性されるため、DPDの強い活性を示す患者を治療するにあたっては制限的である。したがって、5−フルオロウラシル(5-fluorouracil)の効能を増加させるためには他の抗癌剤との併用投与が要求されている(Malet-martino M et al.)。
【0015】
ドセタキセル(Docetaxel,Taxol)とそれの誘導体であるパクリタキセル (paclitaxel)は、固形癌や転移性の強い悪性腫瘍を治療するのに使用される抗癌剤であって、ヨーロッパ特許EP0253738号と国際公開特許WO92/09589号は、ドセタキセルの製造方法に関して開示している。ドセタキセルの使用量は60−300mg/mであり、患者により極めて異なり、一般的に静脈投与経路を介して60−100mg/mの濃度で3週間1時間以上注入される(Texbook of Medical Oncology,Franco Cavelli et al.,Martin Dunitz Ltd.,p.4623(1997))。多くの臨床学的研究のうち、特に乳癌治療においてドセタキセルの効能が検証され、一般的にその効能は1−2治療後に見ることができると知られている。ドセタキセルの作用機序は微小管(microtuble)の会合(assembly)を増加させ、チューブリン(tubulin)の脱重合(depolymerization)を抑制することであると明らかになった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明者らは、抗癌剤として卓越した効果を有する有効な成分を研究している間に、それぞれ単一製剤として利用できるL1CAMの活性または発現を抑制する物質と既存の抗癌剤とを併用することによって、顕著に効果が優れた抗癌剤を提供できることを確認して本発明を完成した。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の目的は、L1CAMの活性または発現を抑制する物質および抗癌剤を含むが、前記2つの物質を単独で投与した時よりも相乗的な治療効果を示し、癌、特にL1CAMを発現する癌を効果的に治療する抗癌用組成物を提供することにある。
【発明の効果】
【0018】
本発明によるL1CAMの活性または発現を抑制する物質および抗癌剤を含む抗癌用組成物を投与する場合、それに含まれるL1CAMの活性または発現を抑制する物質および抗癌剤を同時に、個別にまたは、順次に併用することによって、これらの物質単独で処理したそれぞれの薬理学的効果に比べてはるかに強力でありながら有意的な癌細胞成長および死滅効果を示し、癌の治療、特にL1CAMを発現する癌腫として知られている卵巣癌、子宮内膜癌、子宮頸部癌、乳癌、大腸癌、黒色腫、神経芽細胞腫、胆道癌、肺癌および膵臓癌のような様々な癌に対して非常に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1の(A)は、L1CAMを発現する胆道癌細胞株(SCK)にL1CAMに対する抗体A10−A3とシスプラチンをそれぞれ、あるいは併用投与した後、細胞増殖抑制効果を分析した結果であり、図1の(B)は、L1CAMを発現する胆道癌細胞株(SCK)にL1CAMに対する抗体A10−A3とシスプラチンをそれぞれ、あるいは併用投与した後、細胞死滅誘導効果を分析した結果である。
【図2】図2は、L1CAMを発現する胆道癌細胞株(SCK)を移植したマウス(xenograft)モデルにおいてmIgG、L1CAMに対する抗体A10−A3、シスプラチン、あるいはA10−A3とシスプラチンとを併用投与したマウス群(各10匹)において癌の成長程度を示した結果である。
【図3】図3の(A)および(B)は、L1CAMを発現する胆道癌細胞株(SCK)と卵巣癌細胞株(SK-OV3)にL1CAMに対する抗体A10−A3とゲムシタビンとを、それぞれ、あるいは併用投与した後、細胞増殖抑制効果を分析した結果である。
【図4】図4の(A)と(B)は、L1CAMを発現する胆道癌細胞株(SCK)と卵巣癌細胞株(SK-OV3)にL1CAMに対する抗体A10−A3と5−フルオロウラシルとをそれぞれ、あるいは併用投与した後、細胞増殖抑制効果を分析した結果である。
【図5】図5の(A)は、L1CAMを発現する胆道癌細胞株(SCK)にL1CAMに対する特異的siRNAを用いてL1CAMの発現を阻害させた細胞株と対照群細胞株においてL1CAMのmRNAおよび蛋白質の発現量を比較した結果であり、図5の(B)は、L1CAMを発現する胆道癌細胞株(SCK)にL1CAMに対する特異的siRNAを用いてL1CAMの発現を阻害させた細胞株と対照群細胞株においてシスプラチンの併用投与による細胞増殖阻害効果を示した結果であり、図5の(C)は、L1CAMを発現する胆道癌細胞株(SCK)にL1CAMに対する特異的siRNAを用いてL1CAMの発現を阻害させた細胞株と対照群細胞株においてシスプラチンの併用投与による細胞死滅誘導効果を示した結果である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
前記のような目的を達成するための1つの態様として、本発明は(a)L1CAMの活性または発現を抑制する物質および(b)抗癌剤を、同時に、個別にまたは、順次に併用するために有効成分として含む抗癌用組成物に関するものである。
【0021】
具体的な一態様として、本発明の組成物は、前記の(a)として、L1CAMの活性を抑制する物質を含むことができる。好ましくは、前記の活性抑制物質は、癌細胞表面抗原または、分泌された表面抗原として知られているL1CAMを特異的に認識する抗L1CAM抗体である。このような抗体には、単クローン抗体およびこれに対するキメラ(Chimeric)抗体およびヒト化抗体が全て含まれ、新規の抗体の他にすでに当該技術分野において公知の抗体も含まれることができ、これらは当該分野において良く知られている方法によって製造することができる。例えば、本発明の組成物に含まれる抗体は公知の単クローン抗体製造技術およびこのような単クローン抗体をキメラ化、ヒト化する公知の方法によって容易に製造され得る。例えば、単クローン抗体を製造する方法は、免疫された動物から得たBリンパ球を使用してハイブリドーマを製造することによって行えるし(Koeher and Milstein,1976,Nature,256:495)、ファージディスプレイ(phage display)技術を用いることによって行えるが、これらに制限されない。
【0022】
ファージディスプレイ技術を用いた抗体ライブラリーは、ハイブリドーマを製作せず、すぐにBリンパ球から抗体遺伝子を得てファージ(phage)表面に抗体を発現させる方法である。ファージディスプレイ技術を用いると、B細胞不死化(immortalization)により単クローン抗体を生成するのに関する既存の多くの困難さが克服され得る。一般的なファージディスプレイ技術は1)ファージの外皮蛋白質(coat protein)pIII(または、pIV)のN末端に該当する遺伝子部位にランダム配列のオリゴヌクレオチド(oligonucleotide)を挿入する段階;2)天然型の外皮蛋白質の一部と前記ランダム配列のオリゴヌクレオチドによってコーディングされるポリペプチドとの融合蛋白質を発現させる段階;3)前記オリゴヌクレオチドによってコーディングされたポリペプチドと結合できる受容体物質で処理する段階;4)受容体に結合されたペプチド−ファージ粒子を低いpHや結合競合力のある分子を用いて溶出させる段階;5)パニング(panning)によって溶出されたファージを宿主細胞内で増幅させる段階;6)所望の量を得るために前記方法を繰り返す段階;および7)パニングによって選別されたファージクローンのDNA配列から活性のあるペプチドの配列を決定する段階から構成される。
【0023】
したがって、L1CAM特異的な抗L1CAMの製造方法は、例えば、ヒト抗体ライブラリーからL1CAMに結合する抗体をパニングによって選び出すファージディスプレイ方法によるとか、L1CAM蛋白質でハツカネズミを免疫してライブラリーを製造するとか、ハイブリドーマを製造してL1CAMに結合する抗体を製造する方法によることができる。より好ましくは、前記抗体は、大韓民国登録特許第10−0756051号および/または大韓民国公開特許第10−2008−0018149号に記載された抗L1CAM抗体であるA10−A3であり、このようなA10−A3抗体は、前記の公知文献に記載されたような方法によって生産されることができ、好ましくは、受託番号KCTC10909BPによって分泌されて生産される。
【0024】
前記の抗L1CAM抗体は、L1CAMを特異的に認識する結合特性を有する限り、2つの重鎖と2つの軽鎖の全長を有する完全な形態だけでなく、抗体分子の機能的な抗原性断片を含む。抗体分子の機能的な抗原性断片とは、少なくとも抗原結合機能を保有している断片を意味し、Fab、F(ab’)、F(ab’)およびFvなどがある。
【0025】
また他の具体的な一態様として、前記の抗癌用組成物は、前記(a)としてL1CAMの発現を抑制する物質を含むことができる。L1CAMを発現する癌細胞においてL1CAMの発現を抑制する物質などを用いてL1CAMの発現を抑制させると、癌細胞の成長と転移の役割をするL1CAMの作用が減って癌治療が可能である。好ましくは、前記L1CAMの発現を抑制する物質は、siRNA、shRNAおよびアンチセンスオリゴヌクレオチド(antisense oligonucleotide)からなる群より選択され、より好ましくは、5’−GCCAATGCCTACATCTACGTT−3’配列(配列番号1)を含むsiRNAである。
【0026】
用語“siRNA”は、RNA干渉または、遺伝子サイレンシング(silencing)を媒介できる約20ヌクレオチドサイズの小さい核酸分子を意味し、“shRNA”は、siRNAターゲット配列のセンスおよびアンチセンス配列が5−9個の塩基から構成されたループ(loop)を間に置いて位置した短いヘアピンRNA(short hairpin RNA)を意味する。最近の遺伝子レベルで蛋白質の発現を調節するための方法として、RNA干渉(RNA interference,RNAi)現象を用いた方法が研究されており、一般的にsiRNAは、相補的な配列を有するmRNAに特異的に結合して蛋白質発現を抑制するものとして明らかになった。
【0027】
本発明の組成物に含まれるsiRNAを製造する方法には、siRNAを直接化学的に合成する方法(Sui Gら,(2002) Proc Natl Acad Sci USA 99:5515-5520)、インビトロ転写を用いたsiRNAの合成法(Brummelkamp TRら、(2002) Science 296:550-553)などがあるが、これらに限定されない。また、shRNAは、siRNAの高価な生合成費用、低い細胞形質感染効率によるRNA干渉効果の短時間維持などの短所を克服するためのものであって、RNAポリメラーゼIIIのプロモーターからアデノウイルス、レンチウイルスおよびプラスミド発現ベクターシステムを用いてこれを細胞内へ導入して発現させることができ、このようなshRNAは、細胞内に存在するsiRNAプロセシング酵素(Dicer or Rnase III)により正確な構造を有するsiRNAに転換されて目的遺伝子のサイレンシングを誘導することが広く知られている。
【0028】
用語“アンチセンス”は、アンチセンスオリゴマーがワトソン−クリック塩基対形成によってRNA内の標的配列と混成化され、標的配列内で、典型的にmRNAとのRNA:オリゴマーヘテロダイマーの形成を許容する、ヌクレオチド塩基の配列およびサブユニット間バックボーンを有するオリゴマーを指し示す。オリゴマーは、標的配列に対する正確な配列相補性または近似相補性を有することができる。このアンチセンスオリゴマーは、mRNAの翻訳を遮断または阻害して、mRNAのスプライス変異体を生産するmRNAのプロセシング過程を変化させ得る。したがって、本発明のアンチセンスオリゴマーは、L1CAM遺伝子のmRNAに相補的なアンチセンスオリゴマーである。
【0029】
また、本発明の組成物は、前記(b)として抗癌剤を(a)と併用投与するために含む。
【0030】
用語“抗癌剤”とは、癌細胞の各腫代謝経路に作用して癌細胞に対し細胞毒性(cytotoxicity)や成長抑制効果(cytostatic effects)を示す既存の癌治療に使用される公知の薬剤を総称するものであり、今まで開発された代謝拮抗剤、植物性アルカロイド、トポイソメラーゼ阻害剤(topoisomerase inhibitor)、アルキル化剤、抗癌性抗生物質、ホルモン剤およびその他薬剤を全て含むものである。 本発明による組成物に含まれてL1CAMの活性または発現を抑制する物質と、特に上昇効果を示す抗癌剤としては、シスプラチン、カルボプラチンおよびヘプタプラチンのようなシスプラチン(cisplatin)類、ゲムシタビン、5−フルオロウラシル(5-fluorouracil)、およびドセタキセル並びにその誘導体であるパクリタキセルのようなタキソール類が好ましく、特に好ましい抗癌剤は、シスプラチンである。このような抗癌剤は、公知の方法によって製造するとか、あるいは市販品を使用することができる。
【0031】
本発明において、前記L1CAMの活性または発現を抑制する物質と、抗癌剤は、混合して同時に投与することも可能であるが、それぞれを個別に同時または、連鎖的に、あるいは時間を置いて個別に投与することも可能である。同時に投与することではない場合は、例えば、2つの有効成分を交互に投与するか、あるいは1つを引き続き投与した後、他の1つを投与することも可能である。
【0032】
本発明において組成物は、L1CAMの活性または発現を抑制する物質、および抗癌剤を有効成分として含有していれば良く、どのような形態の薬剤でも可能である。例えば、2つの有効成分を含んだ合剤を構成しても良く、それぞれ単剤として構成されても良い。ここで、合剤とは、1つの製剤に2種類以上の有効成分を配合したものをいい、単剤とは、1つの製剤に1つの有効成分を含有したものをいい、この時、前記の有効成分は、それぞれの薬理、薬動学的特性に応じてそれぞれ異なる剤型で製造されて合されることもある。本発明において、2つの有効成分が単剤である場合の治療剤は、それぞれ単一で利用できる単剤を組み合わせて利用する薬剤を意味する。2つの有効成分が単剤である場合は、2つの成分を一度に備えた形態であるキットの形態でもある。
【0033】
また、本発明の抗癌用組成物は、毎日投与または、間歇的に投与することもでき、1日当りの投与回数は、1回または、数回に分けて投与することが可能である。2つの有効成分がそれぞれ単剤である場合の投与回数は、同回数であることも、異なる回数であることもある。
【0034】
本発明の抗癌用組成物は、それらだけ、あるいは以下で説明するような適当な薬剤学的に許容される担体または賦形剤と共に公知の方法によって製剤化することができる。このような剤型の具体的な例としては、軟質カプセル剤、硬質カプセル剤、錠剤、シロップ剤などの経口剤、注射剤または、外用剤が挙げられる。
【0035】
薬剤学的に許容される担体には、滅菌溶液、錠剤、コーティング錠およびカプセルのような公知の剤型に使用される標準の製薬学的担体のうちいずれも含まれる。典型的にこのような担体は、ポリビニルピロリドン、デキストリン、澱粉、牛乳、糖、特定種類の粘土、ゼラチン、ステアリン酸、タルク、植物性油(例えば、食用油、綿実油、ココナッツ油、アーモンド油、落花生油が挙げられる)、中性脂肪酸グリセリドなどの油状エステル、鉱物油、ワセリン、動物油脂、セルロース誘導体(例えば、結晶性セルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロースが挙げられる)等の賦形剤、または、その他の公知の賦形剤を含む。このような担体には、また、酸化防止剤、湿潤剤、粘度安定剤、風味剤、色素添加剤および他の添加剤が含まれ得る。このような担体を含有する組成物は、周知の方法によって剤型化され得る。
【0036】
また、本発明の薬学的組成物は、癌治療のために薬学的有効量で投与され得る。典型的な投与量レベル並びに(a)および(b)物質の比率は、標準臨床的技術を使用して最適化することができる。
【0037】
また他の1つの態様として、本発明は、前記の抗癌用組成物を用いて癌を治療する方法に関するものである。
【0038】
具体的に、本発明の治療方法は、前記抗癌用組成物を薬学的有効量で人体内に投与することを含む。前記抗癌用組成物は、非経口、皮下、腹腔内、肺内、および鼻腔内で投与されることができ、局所的治療のために、必要ならば、病変内投与を含む適合した方法によって投与される。非経口注入には、筋肉内、静脈内、動脈内、腹腔内または、皮下投与が含まれる。好ましい投与方式は、静脈注射、皮下注射、血内注射剤、筋肉注射および点滴注射である。
【0039】
前述したように、前記物質の投与量は様々な要素によって変わることもでき、その投与経路もまた、患者の年齢、投与期間、体重、疾患の重症度、患者の意識可否、併用薬物の種類などのような様々な要素によって、経口または非経口の多様な投与経路を使用することができる。また、それぞれを個別に同時または連鎖的に、あるいは時間を置いて個別に投与することも可能である。
【0040】
また他の1つの態様として、本発明は、癌治療用医薬を製造するための前記抗癌用組成物の用途に関するものである。
【0041】
具体的に、前記癌には、本組成物によって治療される癌が制限なく含まれ得るが、その例として、胆道癌、子宮内膜癌、子宮頸部癌、乳癌、大腸癌、卵巣癌、黒色腫、神経芽細胞腫、肺癌または、膵臓癌が挙げられる。
【0042】
前記癌治療用医薬の製造は、前述した方法だけでなく、当該技術分野における周知または公知の技術によって製造され得る。
【0043】
また他の1つの態様として、本発明は、前記抗癌用組成物の癌治療のための用途に関するものである。
【0044】
具体的に、前記癌には、本組成物によって治療される癌が制限なく含まれ得るが、その例として、胆道癌、子宮内膜癌、子宮頸部癌、乳癌、大腸癌、卵巣癌、黒色腫、神経芽細胞腫、肺癌または、膵臓癌が挙げられる。
【0045】
本発明の具体的な一実施例において、本発明者は、L1CAMを発現する癌細胞に抗L1CAM抗体と抗癌剤を併用投与時、それぞれを単独で投与した時よりも効果的に癌細胞増殖が抑制されるのかを調べるために、L1CAMの作用を阻害する単クローン抗体のA10−A3と、シスプラチン(cisplatin)、ゲムシタビンおよび5−フルオロウラシルを併用投与した結果、最大80%まで癌細胞の増殖を抑制するということを確認することによって、それぞれの単独投与時よりも卓越した上昇効果を示すということを確認した。また、L1CAMを発現する胆道癌細胞株においてL1CAMの発現をノックダウン(knockdown)させるために、L1CAMに対する特異的なsiRNAを形質導入して培養した後に細胞増殖実験と細胞死滅実験とを行った結果、胆道癌細胞主株でL1CAMの発現を抑制させた時、シスプラチン(cisplatin)による増殖阻害効果および細胞死滅誘導の上昇効果があるということを確認した。
【0046】
このような本発明によるL1CAMの活性または発現を抑制する物質および抗癌剤を含む組成物を投与する場合、これらのそれぞれを単独で投与した時よりも卓越した相乗的な治療効果を示して、癌の治療、特にL1CAMを発現する癌腫として知られている卵巣癌、子宮内膜癌、子宮頸部癌、乳癌、大腸癌、黒色腫、神経芽細胞腫、胆道癌、肺癌および膵臓癌のような様々な癌に対して効果的である。
【実施例】
【0047】
以下、本発明を実施例によってより詳細に説明する。
但し、下記の実施例は、本発明を例示するものだけであり、本発明の内容が下記の実施例に限定されるものではない。
【0048】
実施例1.癌細胞の培養
癌細胞株は、いずれも10%牛胎児血清(Gibco社)を含有する次のような培地を用いて5%二酸化炭素が維持される37℃恒温培養器で培養した。SCK(胆道癌細胞株)、SK−OV3(卵巣癌細胞株)は、DMEM(Well GENE社)培地を用いた。SCK細胞株は、キム・テゴン博士(大韓民国全北大学校医科大学)から得、卵巣癌の癌細胞株は、ATCCから購入した。
【0049】
実施例2.L1CAMに対する抗体とシスプラチン(cisplatin)との併用投与による癌細胞増殖阻害および癌細胞死滅の上昇効果分析
L1CAMを発現する癌細胞にL1CAMの作用を阻害する単クローン抗体のA10−A3とシスプラチン(cisplatin)とを併用投与時、それぞれを単独で投与した時よりも効果的に細胞増殖が抑制されるのかを調べるために、細胞増殖実験を行った。
【0050】
抗L1CAM抗体として使用したA10−A3抗体は、大韓民国公開特許第10−2008−0018149号に開示された方法によって製造した。
【0051】
それぞれの癌細胞を3mlの培地内に2×10cellsずつ計数して6ウェルプレート(well plate)で培養し、シスプラチン(cisplatin)およびA10−A3(10μg/ml)で単独あるいは併用処理した後、細胞を37℃CO反応器で72時間培養した。そして、細胞を回収して0.2%トリパンブルー(Tryphan Blue)溶液で死んだ細胞と生きている細胞とを計数し、全体細胞中の生きている細胞を百分率で計算した。その結果、シスプラチン(cisplatin)およびA10−A3 (10μg/ml)で単独で処理した群から、これらの癌細胞の増殖が30−50%阻害されることを確認することができ、併用処理時には最大80%程度の細胞増殖が抑制される上昇効果を確認することができた(図1の(A))。
【0052】
また、L1CAMに対するA10−A3とシスプラチン(cisplatin)の併用投与時に、より効果的に細胞死滅が誘導されるのかを調べてみるために、細胞死滅実験を行った。本実験は、細胞が死滅を起こすと、DNAが小さく割れる原理を利用した。それぞれの癌細胞株を100μlの培地内に2×10cellsずつ計数して96ウェルプレートで培養し、シスプラチン(cisplatin)およびA10−A3(10μg/ml)で単独あるいは併用処理した後、24時間培養した。24時間後、培地を除去してPBS緩衝溶液で洗浄した後、細胞溶解液(RIPA buffer)を37℃で30分間反応させた。このように溶解した細胞液にDNA特異的なビオチン(biotin)を結合させ、ストレプトアビジン(streptavidin)が結合されている96ウェルプレートに20μlを移した後、ここに80μlの免疫試薬(immunoreagent)を反応させてOD405nmで吸光度を確認した。その結果、A10−A3とシスプラチン(cisplatin)とで併用処理した時、単独で処理した群に比べて細胞死滅が明確に増加したことを確認することができた(図1の(B))。
【0053】
前記の結果は、L1CAMに対する抗体とシスプラチン(cisplatin)との併用投与時、癌細胞の治療効能を増加させ得ることを提示している。
【0054】
実施例3.ハツカネズミ動物モデルにおけるA10−A3とシスプラチン(cisplatin)との併用投与による癌成長阻害効果分析
ヌードマウスBalb/c nu/nuを大韓民国中央実験動物(株)を介して日本エスエルシー株式会社で購入した。週齢および体重は、6〜8週齢および18〜22gで、韓国生命工学研究院で1週間順化させた。その後、40匹の皮下に1×10cellsのSCK細胞を移植し、1週間後、腫瘍容積が100−200mmになった時、ランダムで10匹ずつ4つの群に分離した。そして、A10−A3では、10mg/kg濃度で1週間に3回ずつ処理し、シスプラチン(cisplatin)では、3mg/kg濃度で1週間に2回ずつ処理した。対照群は、A10−A3の代わりに同量のmIgGで処理し、シスプラチン(cisplatin)の代わりに同量の食塩水で処理した。ヌードマウスの質量と腫瘍重さを1週間に3回ずつ測定した。その結果、A10−A3とシスプラチン(cisplatin)で単独で処理した群では約30%程度の増殖阻害効果を確認することができた一方、併用投与した群では70%以上の明確な阻害効果を確認することができた(図2)。
【0055】
実施例4.L1CAMに対する抗体とゲムシタビン(gemcitabine)との併用投与による癌細胞増殖阻害効果分析
前記<実施例2>の方法と同様にA10−A3とゲムシタビン(gemcitabine)とを併用投与時、それぞれを単独で投与した時よりも効果的に細胞増殖が抑制されるのかを分析した。その結果、ゲムシタビンおよびA10−A3(10μg/ml)で単独で処理した群で、これらの癌細胞の増殖が20−25% (胆道癌、SCK)あるいは20−40%(卵巣癌、SK−OV3)阻害されることを確認することができ、併用処理時には40−60%程度の細胞増殖が抑制される上昇効果を確認することができた(図3の(A))。
前記の結果は、L1CAMに対する抗体とゲムシタビンとの併用投与時、癌細胞の治療効能を増加させ得ることを提示している。
【0056】
実施例5.L1CAMに対する抗体と5−フルオロウラシル(5-fluorouracil)との併用投与による癌細胞増殖阻害効果分析
前記<実施例2>の方法と同様にA10−A3と5−フルオロウラシル(5-fluorouracil)とを併用投与時、それぞれを単独で投与した時よりも効果的に細胞増殖が抑制されるのかを分析した。その結果、5−フルオロウラシル(5-fluorouracil)およびA10−A3(10μg/ml)で単独で処理した群で、これらの癌細胞の増殖が20−40%(胆道癌、SCK)あるいは20−30%(卵巣癌、SK−OV3)阻害されることを確認することができ、併用処理時には40−50%程度の細胞増殖が抑制される上昇効果を確認することができた(図4)。
前記の結果は、L1CAMに対する抗体と5−フルオロウラシル(5-fluorouracil)との併用投与時、癌細胞の治療効能を増加させ得ることを提示している。
【0057】
実施例6−1.逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)によるL1CAMのmRNA発現確認
胆道癌細胞株SCKにおいてL1CAMの発現をノックダウン(knockdown)させるために、L1CAMに対する特異的なsiRNA(5’-GCCAATGCCTACATCTACGTT-3’、配列番号1)と非特異的なsiRNA(5’-CAGTCGCGTTTGCGACTGG-3’、配列番号2)とをそれぞれ形質導入した後、72時間培養した。培養された胆道癌細胞の全体RNAを分離するために、1mlトリゾール試薬(Trizol reagent、Invitrogen社)で常温で5分間処理した。これを、0.2mlクロロホルム(chloroform)で処理して15回程度強く揺らした後、常温で3分間反応させた。4℃で14000rpmで15分間遠心分離し、上層の透明部分400μlを他のチューブに移して同量のイソプロパノールで処理した後、常温で10分間反応させた。再び、4℃で14000rpmで15分間遠心分離し、上層液を捨てて75%エタノールで洗浄した。このように抽出したRNA 2ugにoligo(d)T、dNTP、RNase阻害剤と逆転写酵素を入れて42℃で1時間反応させてcDNAを合成した。このcDNAにL1CAMプライマー、dNTP、Taqポリメラーゼを用いて30秒/95℃、30秒/56℃ および30秒/72℃で30回ポリメラーゼ連鎖反応をさせ、72℃で10分間重合反応を行った。その結果、L1CAMに対する非特異的なsiRNAで処理した対照群に比べて特異的なsiRNAで処理した群でL1CAMの全体発現量が減少するということを確認した(図5の(A)の上側図面)。
【0058】
実施例6−2.ウエスタンブロッティング(Western blotting)によるL1CAMの蛋白質発現確認
胆道癌細胞株SCKにおいてL1CAMの発現をノックダウン(knockdown)させるために、L1CAMに対する特異的なsiRNA(5’-GCCAATGCCTACATCTACGTT-3’、配列番号1)と非特異的なsiRNA(5’-CAGTCGCGTTTGCGACTGG-3’、配列番号2)とをそれぞれ形質導入して72時間培養した後、ウエスタンブロッティングを用いて蛋白質レベルでL1CAMの発現を確認した。siRNAで処理した細胞株の全体蛋白質を分離するために、500μl細胞溶解液(RIPA buffer)で処理した後、ここで得られた蛋白質を10% SDS−PAGEで分離し、ニトロセルロース膜に移してウエスタンブロッティングを行った。ニトロセルロース膜を5%脱脂乳(skim milk)が含有されたPBST(PBS+0.1% Tween 20)緩衝溶液で1時間反応させた後、前記PBST緩衝溶液で2回以上洗浄した。前記反応したニトロセルロース膜を公知の抗L1CAM抗体A10−A3を1次抗体として添加して2時間反応させた。前記PBST緩衝溶液で5回の洗浄後、抗マウスIgGのHRP(horseradish peroxidase)conjugate(1:5000 Sigma)と1時間反応させた。再び、PBST緩衝溶液で5回の洗浄後、ECL検出試薬(Amersham biosciences)で発色させた。その結果、L1CAMに対する非特異的なsiRNAで処理した対照群に比べて特異的なsiRNAで処理した群でL1CAMの全体蛋白質発現量が減少したことを確認した(図5の(A)の下側図面)。
【0059】
実施例6−3.L1CAMの発現を抑制するsiRNAと抗癌剤併用投与による細胞増殖抑制効能および細胞死滅誘導効果分析
L1CAMを発現する胆道癌細胞株SCKにおいてL1CAMの発現をノックダウン(knockdown)させるために、L1CAMに対する特異的なsiRNA(5’-GCCAATGCCTACATCTACGTT-3’、配列番号1)と非特異的なsiRNA(5’-CAGTCGCGTTTGCGACTGG-3’、配列番号2)とをそれぞれ形質導入して72時間培養した。その後、<実施例2>で行った方法で細胞増殖実験と細胞死滅実験とを行った。図5の(B)および(C)に示されたように、胆道癌細胞株SCKにおいてL1CAMの発現を抑制させた時、シスプラチン(cisplatin)による増殖阻害効果および細胞死滅誘導効果が増加することを確認することができた。前記の結果は、L1CAMの作用を抑制する抗体だけでなく、発現を抑制するsiRNAと抗癌剤とを併用投与した時にも癌治療上昇効能があるということを提示している。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明によるL1CAMの活性または発現を抑制する物質および抗癌剤を含む抗癌用組成物を投与する場合、それに含まれるL1CAMの活性または発現を抑制する物質および抗癌剤を、同時に、個別にまたは、順次に併用することによって、これらの物質単独で処理したそれぞれの薬理学的効果に比べてはるかに強力ながらも有意的な癌細胞成長および死滅効果を示して、癌の治療、特にL1CAMを発現する癌腫として知られている卵巣癌、子宮内膜癌、子宮頸部癌、乳癌、大腸癌、黒色腫、神経芽細胞腫、胆道癌、肺癌および膵臓癌のような様々な癌に対して非常に有用である。
【0061】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)L1CAMの活性または発現を抑制する物質および(b)抗癌剤を、同時に、個別にまたは、順次に併用するために有効成分として含む抗癌用組成物であって、
ここで、前記L1CAMの活性を抑制する物質は、L1CAM特異的な抗L1CAM抗体、その抗原性結合断片、および抗L1CAM抗体またはその抗原性結合断片の変異体からなる群より選択されるものであり、L1CAMの発現を抑制する物質は、L1CAMの発現を抑制するオリゴヌクレオチドであり、前記抗癌剤は、シスプラチン、ゲムシタビン、5−フルオロウラシル、ドセタキセルおよびパクリタキセルから選択されることを特徴とする抗癌用組成物。
【請求項2】
L1CAMの発現を抑制するオリゴヌクレオチドは、L1CAMをコード化する遺伝子に対するアンチセンスオリゴヌクレオチド、siRNAおよびshRNAからなる群より選択されるものである請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記抗L1CAM抗体が受託番号KCTC 10909BPのハイブリドーマによって分泌されるA10−A3抗体である請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記siRNAは、配列番号1で定義される配列から構成されるものである請求項2に記載の組成物。
【請求項5】
前記抗癌剤は、シスプラチンである請求項1乃至4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
癌細胞の成長を抑制したり、癌細胞を死滅させることを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
前記癌は、胆道癌、子宮内膜癌、子宮頸部癌、乳癌、大腸癌、卵巣癌、黒色腫、神経芽細胞腫、肺癌および膵臓癌からなる群より選択されるものである請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
前記抗癌用組成物は、前記(a)および(b)をそれぞれ含む独立した単剤の形態で剤型化されたものであることを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項9】
請求項1の抗癌用組成物を投与する段階を含む癌の治療方法。
【請求項10】
前記癌は、胆道癌、子宮内膜癌、子宮頸部癌、乳癌、大腸癌、卵巣癌、黒色腫、神経芽細胞腫、肺癌および膵臓癌からなる群より選択されるものである請求項9に記載の方法。
【請求項11】
癌治療用医薬を製造するための請求項1の組成物の用途。
【請求項12】
前記癌は、胆道癌、子宮内膜癌、子宮頸部癌、乳癌、大腸癌、卵巣癌、黒色腫、神経芽細胞腫、肺癌および膵臓癌からなる群より選択されるものである請求項11に記載の用途。
【請求項13】
胆道癌、子宮内膜癌、子宮頸部癌、乳癌、大腸癌、卵巣癌、黒色腫、神経芽細胞腫、肺癌または、膵臓癌の治療のための請求項1の組成物の用途。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図2】
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【図5】
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【公表番号】特表2012−509935(P2012−509935A)
【公表日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−538553(P2011−538553)
【出願日】平成21年11月27日(2009.11.27)
【国際出願番号】PCT/KR2009/007056
【国際公開番号】WO2010/062143
【国際公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【出願人】(501245997)コリア リサーチ インスティテュート オブ バイオサイエンス アンド バイオテクノロジー (15)
【Fターム(参考)】