説明

LCDフィルム用亜硫酸軟材系三酢酸セルロース

本発明は、軟材パルプから製造された三酢酸セルロース(CTA)を使用して、液晶ディスプレイ(LCD)に使用するのに適しているフィルムを製造する手段を提供する。驚くべきことに、フィルム流延ドープ中の或る添加剤とCTAの金属及び硫黄含有量との組合せによって、軟材CTAが、同様の硫黄含有量のリント系CTAのものに類似する、流延基体からの剥離特性を示すことが可能になることが見出された。この添加剤は酸スカベンジャーとキレート化剤との組合せを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般的に、亜硫酸法軟材(針葉樹材)パルプから製造された三酢酸セルロース(CTA)を使用して、液晶ディスプレイ(LCD)において使用するのに適しているフィルムを製造することに関する。更に詳しくは、本発明は、CTAを含有する溶液流延フィルムを製造するためのドープ、このドープの製造方法、CTAを含有するフィルム、CTAを含有するフィルムの製造方法、このフィルムを含有するLCD用偏光子板(polarizer plate)及びこのフィルムを含有する光学レンズに関する。
【背景技術】
【0002】
三酢酸セルロース(CTA)は、フラットパネルディスプレイ用の溶液流延液晶ディスプレイ(LCD)において使用される。CTAは、コットンリンター(リント)、硬材(広葉樹材)又は軟材(針葉樹材)セルロースから製造することができる。初期には、リントCTAは、ステンレススチール流延用基体(substrate)から一層容易に剥離することができるので、これらの用途のためにリントCTAのみが使用されてきた。
【0003】
LCDフィルム市場が成長するに従って、CTAを製造するために使用される高品質リントセルロースの価格は、硬材及び軟材パルプの価格に対して、実質的に上昇した。LCDフィルム成長は、リントセルロース供給量を超えると予想され、それ故、2004年に、主なLCDフィルム流延業者は、流延されるべきリントCTAの薄い外側層を有する広葉樹材CTAのコアを可能にする共流延ダイを提供した。
【0004】
他のLCDフィルム流延業者(caster)は、現在、22〜80ミクロン厚の範囲内のLCDフィルムにおいてリントCTAのみを使用している。
【0005】
従って、軟材パルプからのような、より安価なCTAの源泉から製造されるLCDフィルムについての、当該技術分野における継続しているニーズが存在している。本発明は、このニーズ並びに以下の説明及び特許請求の範囲から明らかになる他のことに取り組むことに指向している。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
驚くべきことに、フィルム流延ドープ中の添加剤とCTAの金属及び硫黄含有量の制御との組合せによって、低硫黄含有量を有する軟材CTAが、同様の硫黄含有量のリント系CTAのものに類似する、流延基体からの剥離特性を示すことが可能になることが見出された。更に、驚くべきことに、この軟材CTA流延ドープは、リント系CTAから製造されたフィルムに対して、より小さいヘイズ、より大きい靱性及び匹敵する色を有するフィルムを提供できることが見出された。このフィルム流延業者は、最近、この技術を、90%の硬材CTA及び10%のリントCTAを使用してフィルムを製造できること並びに或る種の添加剤及びフィルム流延技術により100%の硬材CTAを使用できることまで拡張させた。
【0007】
従って、一つの面において、本発明は、溶液流延フィルムを製造するためのドープを提供する。このドープは、
(a)亜硫酸法軟材パルプから製造され、共に三酢酸セルロースの重量基準で、35ppmよりも少ない硫黄及び1重量%よりも少ないキシロースを有し、かつ少なくとも3:1の金属対サルフェート(sulfate)のモル比を有する三酢酸セルロース、
(b)酸スカベンジャー、
(c)キレート化剤並びに
(d)溶媒
を含んでなる。
【0008】
従って、一つの面において、本発明は、溶液流延フィルムを製造するためのドープを提供する。このドープは、
(a)亜硫酸法軟材パルプから製造され、共に三酢酸セルロースの重量基準で、35ppmよりも少ない硫黄及び2重量%よりも少ないキシロースを有し、かつ少なくとも3:1の金属対サルフェートのモル比を有する三酢酸セルロース、
(b)酸スカベンジャー、
(c)キレート化剤並びに
(d)溶媒
を含んでなる。
【0009】
別の面において、本発明は前記ドープの製造方法を提供する。この方法は、
(a)三酢酸セルロース、酸スカベンジャー及び溶媒を一緒に組み合せて、溶液を形成し;そして
(b)工程(a)からの溶液にキレート化剤を添加して、ドープを形成
することを含んでなる。
【0010】
別の面において、本発明は、
(a)亜硫酸法軟材パルプから製造され、共に三酢酸セルロースの重量基準で、35ppmよりも少ない硫黄及び1重量%よりも少ないキシロースを有し、かつ少なくとも3:1の金属対サルフェートのモル比を有する三酢酸セルロース、
(b)酸スカベンジャー並びに
(c)キレート化剤
を含んでなるフィルムを提供する。
【0011】
別の面において、本発明は、
(a)亜硫酸法軟材パルプから製造され、共に三酢酸セルロースの重量基準で、35ppmよりも少ない硫黄及び2重量%よりも少ないキシロースを有し、かつ少なくとも3:1の金属対サルフェートのモル比を有する三酢酸セルロース、
(b)酸スカベンジャー並びに
(c)キレート化剤
を含んでなるフィルムを提供する。
【0012】
別の面において、本発明はフィルムの製造方法を提供する。この方法は、
(a)本発明に従ったドープを、連続的に移動する支持体の上に流延して、この支持体の上に流延フィルムを形成し;
(b)この流延フィルムを部分的に乾燥させ;
(c)この流延フィルムを支持体から分離し;そして
(d)この分離したフィルムを乾燥させる
ことを含んでなる。
【0013】
別の面において、本発明は、液晶ディスプレイ用の偏光子板であって、この偏光子板が本発明に従ったフィルムを含んでなる偏光子板を提供する。
【0014】
別の面において、本発明は、本発明に従ったフィルムを含んでなる光学レンズを提供する。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明に従った溶液流延フィルム(solvent-cast film)を製造するためのドープは、4種の主成分を含む。第一の主成分は、亜硫酸法軟材パルプから製造され、共に三酢酸セルロースの重量基準で、35ppmよりも少ない硫黄及び1重量%よりも少ないキシロース、並びに少なくとも3:1の金属対サルフェートのモル比を有する三酢酸セルロースである。その代わりに、第一の主成分は、亜硫酸法軟材パルプから製造され、共に三酢酸セルロースの重量基準で、35ppmよりも少ない硫黄及び2重量%よりも少ないキシロース、並びに少なくとも3:1の金属対サルフェートのモル比を有する三酢酸セルロースである。
【0016】
「亜硫酸法軟材パルプ(sulfite-process softwood pulp)」によって、亜硫酸法を使用して、軟木(針葉樹)、例えばトウヒ、マツ、モミ、カラマツ、ベイツガ等から製造された木材パルプが意味される。亜硫酸法は、硫黄系酸の種々の塩を使用して、大きい加圧容器内で軟材チップからリグニンを抽出することによって、殆ど純粋なセルロース繊維である木材パルプを製造する。使用される塩は、亜硫酸塩又は重亜硫酸塩であり、対イオンは、典型的には、ナトリウム、カルシウム、カリウム又はマグネシウムである。このセルロース繊維は、続いて、アセチル化されて、三酢酸セルロース(CTA)を生成する。
【0017】
理論によって拘束されることは望まないが、亜硫酸法セルロースは、分岐したキシラン鎖を有し、このキシラン鎖は、アセチル化されたときに、予備加水分解クラフト(prehydrolyzed kraft)(PHK)セルロース系CTAの線状キシラン鎖よりも一層、フィルム流延溶媒中に可溶性であると信じられている。
【0018】
別の態様において、CTAは、25ppmよりも少ない硫黄を有する。別の態様において、このCTAは、8〜15ppmの硫黄を有する。
【0019】
別の態様において、このCTAは、0.8重量%又はそれ以下のキシロースを有する。別の態様において、CTAは、0.5〜0.6重量%のキシロースを有する。他の態様において、CTAは、1.5又は2重量%以下のキシロース含有量を有することができる。他の態様において、CTAは、0.5〜1.5又は0.5〜2重量%のキシロース含有量を有することができる。他の態様において、CTAは、0.5〜0.8重量%のキシロース含有量を有することができる。これらの態様において、CTAは、0.5〜1.5重量%又は0.5〜1.2重量%又は0〜1.5重量%の範囲内のマンノース含有量を有することもできる。
【0020】
別の態様において、CTAは、少なくとも98重量%のα−セルロース(これは、一般的に、高純度グレードセルロースから作られる)を有する。別の態様において、CTAは、少なくとも96重量%のα−セルロース(これは、一般的に、高純度グレードセルロースから作られる)を有する。
【0021】
別の態様において、CTAは、3:1〜5:1又は3:1〜11:1又は3:1〜16:1の範囲内の金属対サルフェートのモル比を有する。上記のような金属には、典型的には、ナトリウム、カルシウム、カリウム及び/又はマグネシウムが含まれ、これは、イオン形であっても又は塩として結合されていてもよい。
【0022】
本発明において使用するCTAは、本明細書中に記載された、硫黄含有量、キシロース含有量、α−セルロース含有量及び金属対硫酸塩のモル比の任意の組合せを有することができる。本明細書中に記載された特性を有するCTAは、Eastman Chemical Companyから市販されており、米国特許第6,924,010号明細書(その全内容を参照して本明細書に含める)に記載されたプロセスに従って製造することができる。
【0023】
CTAは、通常、ドープ中に、ドープの重量基準で、15〜23重量%の範囲内の量で存在する。
【0024】
本発明に従ったドープの第二の主成分は、酸スカベンジャー、例えばエポキシ化ダイズ油(ESO)(CAS第8013−07−8号)である。ESOは、種々のメーカーから、例えばChemtura Corporationから、商品名Drapex(登録商標)6.8で市販されている。エポキシ化植物油(EPO)は、種々のエポキシ化長鎖脂肪酸トリグリセリド(例えばエポキシ化ダイズ油及びエポキシ化亜麻仁油及び他の不飽和天然油)(これらは、時々、エポキシ化天然グリセリド又は不飽和脂肪酸と呼ばれ、これらの脂肪酸は12〜22個の炭素原子を有する)の組成物によって表すことができ、例示することができる。これらの酸スカベンジャーは、本発明のドープ及び/又はフィルムの全ての態様中に使用することができる。
【0025】
理論によって拘束されることは望まないが、酸スカベンジャーは、CTA中の遊離酢酸と反応して、酸が、臭気、変色及びCTAの更なる加水分解(これらは、得られるフィルムの光学的及び物理的特性を変えるであろう)を起こすのを防止すると思われる。
【0026】
この酸スカベンジャーは、典型的には、ドープ中に、ドープの全重量基準で0.1〜1重量%の範囲内の量で存在する。
【0027】
本発明に従ったドープの第三の主成分は、キレート化剤、例えばクエン酸である。このキレート化剤は、通常、ドープ中に、ドープの全重量基準で0.01〜0.1重量%の範囲内の量で存在する。キレート化剤の他の非限定例には、これらに限定されないが、酒石酸、シュウ酸、酸のアルカリ金属(周期表の第I族)塩、酸のアルカリ土類金属(周期表の第II族)塩又はこれらの混合物が含まれる。これらのキレート化剤は、本発明のドープ及び/又はフィルムの全ての態様において使用することができる。
【0028】
理論によって拘束されることは望まないが、このキレート化剤は、CTA中に残留している溶解性が劣る金属硫酸塩と錯化して、流延基体上へのそれらの更なる沈殿を防止すると思われる。
【0029】
本発明に従ったドープの第四の主成分は溶媒である。流延ドープ用の典型的な溶媒には、塩化メチレン及び、溶媒の重量基準で、6〜20重量%のメタノール、エタノール又は両方が含まれる。更に典型的には、この溶媒は、塩化メチレン及びメタノール又はエタノールの90/10重量混合物である。
【0030】
前記ドープは、通常、65〜75重量%の溶媒を含有している。
【0031】
本発明に従ったドープは、追加の添加剤、例えば反溶媒(anti-solvent)(例えば、n−ブタノール又はイソプロパノール)、ヒンダードアミン光安定剤(HALS)、染料、可塑剤、UV吸収剤、難燃剤、マット剤等を含有することができる。
【0032】
本発明に従ったドープは、最初に、適切な混合装置、例えば攪拌容器内で、CTA及び酸スカベンジャーを溶媒とブレンドして、溶液を形成することによって製造することができる。次いで、キレート化剤を溶液に添加して、ドープを形成する。
【0033】
本発明に従ったドープは、当該技術分野で公知の技術を使用して溶液流延フィルムを形成するために使用することができる。例えば、ドープを、支持体、例えば回転ベルト又はドラムの上に、重力又は圧力によって流延して、支持体の上に流延フィルムを形成することができる。流延した後、流延フィルムを部分的に乾燥させて、例えば12〜17重量%又は12〜30重量%の残留溶媒含有量を残す。次いで、部分的に乾燥したフィルムを、例えば剥離ロールによって支持体から分離する。次いで、分離したフィルムを、追加の乾燥に付して、最終フィルムを形成する。
【0034】
本発明に従ったフィルムは、その主成分としてCTA、酸スカベンジャー及びキレート化剤を含む。特に、得られるフィルムは、典型的には、80〜95重量%のCTA、1〜5重量%の酸スカベンジャー及び0.1〜0.5重量%のキレート化剤を含有している。このフィルムは10重量%以下の他の添加剤を含有することができる。
【0035】
本発明に従ったフィルムは、最終使用用途に依存して、厚さが変化していてよい。例えば、このフィルムは20〜100ミクロンの範囲内の厚さを有することができる。LCDにおいて使用するために、40〜80ミクロンの範囲内の厚さを有するフィルムが特に好ましい。
【0036】
本発明に従ったフィルムは、種々の用途において、例えばLCD用の偏光子板において使用するために適している。LCDにおける偏光子板は、偏光子の少なくとも1個の側に取り付けられた偏光子保護フィルムを有する。典型的には、偏光子は、延伸ポリビニルアルコール(PVA)フィルムを、ヨウ素又は二色染料(dichroic dye)によって染色することによって得られる。殆どの場合に、CTAフィルムは、PVAフィルムのための保護フィルムとして使用され、それに直接的に取り付けることができる。CTAフィルムの表面をアルカリ溶液によって鹸化して、偏光子アセンブリにおける接着を増強することができる。
【0037】
本発明に従ったフィルムは、例えばカメラ、望遠鏡又はサングラス及び3−Dグラスを含む眼鏡における光学レンズのコンポーネントとして使用することができる。このフィルムは、光学顕微鏡及びサングラスのレンズにおいて、前記のように偏光子と組み合わせて使用することもできる。
【0038】
本発明を、その好ましい態様の下記の実施例によって更に示すことができるが、これらの実施例は、単に例示の目的のために含まれ、本発明の範囲を限定することを意図していないことが理解されるであろう。
【実施例】
【0039】
試験方法
CTAの極限粘度数(intrinsic viscosity)(IV)は、ASTM方法D871−91、「酢酸セルロースを試験する標準試験方法」に従って、Viscotek Y501V粘度計を使用して決定した。極限粘度数は、濃度がゼロに進むときの、濃度に対する相対粘度の自然対数の極限値であると定義される。使用される溶媒は、N−メチルピロリドンであった。CTAの粘度を決定するために、ASTM D−1343−91を使用した。
【0040】
フィルムの、破断歪み、破断応力、降伏歪み、降伏応力及びヤング率を決定するために、ASTM D882を使用した。
【0041】
フィルムヘイズ及び透過率を決定するために、ASTM D1003を使用した。
【0042】
色評価についての分光光度データを得るために、ASTM E1164を使用し、ASTM E308はCIEシステムを使用する色計算のためであった。
【0043】
例1〜24について、フィルム厚さリターデーション(retardation)(Rth)及び平面リターデーション(Re)はWoollam楕円偏光測定器を使用して決定した。例えば、例25〜28について、RthはCOBRA−WR測定器を使用して決定した。
【0044】
定性的剥離強度試験−フィルムを手によって剥離し、1〜3の定性等級を付与する(但し、1は粘着無しの容易な剥離を反映し、2は中度の剥離力を必要とするが、板上に残渣が残らず、3は剥離するための強い力、フィルムの引裂又は板上に残る残渣を表す)スクリーニング試験を使用した。
【0045】
定量的剥離強度試験−種々のフィルムの剥離強度を一層正確に測定するために、インストロン引張試験機を使用した。実際のフィルム流延ベルト材料を、商業的流延ベルトのメーカーから得て、剥離力試験のための基体として使用した。フィルムを流延して、60ミクロンの最終厚さを達成した。これらは、幅が2インチ(5.08cm)で、長さが約10インチ(25.4cm)で流延した。金属板をインストロン引張試験機内で水平に装着し、フィルムを垂直に引っ張った。この板をスレッドの上に装着して、測定の間に一定の90°角度を維持するように、それを横方向に移動させた。板からフィルムを剥離するために必要な力を、フィルムが100インチ/分の速度で剥離したとき、ロードセルによって測定した。この力を、板の全長に沿って測定した。この剥離強度を、フィルムの長さに亘る平均力(グラム)として記載した。
【0046】
研究所フィルム流延装置
研究所フィルム流延装置は、基体の鏡面の引掻きを防止し、試験のための均一な幅及び長さのサンプルを与え、そしてフィルム厚さ変動を減少させるように、設計され、構成されていた。
【0047】
研究所フィルム流延装置は、取り付けられたテフロン(登録商標)ガイドバーを有する金属支持体を有していた。5インチ幅×10インチ長さの片のステンレススチールフィルム流延ベルトを固定するために、4個のトグルクランプを使用した。2インチ幅の引落しナイフが、金属板の長さを動かすことができるように、間隔を空けてテフロン(登録商標)ガイドバーを配置した。引落しナイフは、異なった厚さのフィルムの流延を可能にするように、刃と金属板との間の隙間を変更できる調節ノブを有している。
【0048】
材料
三酢酸セルロース、VM114及びVM149は、Eastman Chemical Companyから市販されており、米国特許第6,924,010号明細書に記載された手順に従って製造した。VM114は、亜硫酸法軟材パルプから製造し、VM149は、コットンリンターから製造した。VM114及びVM149の平均特性は表1中に記載する。
【0049】
【表1】

【0050】
使用したキレート化剤はクエン酸であった。
使用したエポキシ化ダイズ油はDrapex 6.8であった。
リン酸トリフェニル及びカルボキシメチルエチルフタレートを、可塑剤として、使用した。
【0051】
Tinuvin 328及びNeo Heliopan 357を、圧力流延試行(実施例25〜28)において、典型的なUV抑制剤として使用した。
【0052】
メタノール、塩化メチレン及びn−ブタノールを、統計的に設計した実験(例1〜24)において溶媒として使用したが、メタノール及び塩化メチレンのみを、圧力流延試行において使用した。
【0053】
例1〜24
ドープ製造
CTAサンプル(VM114)を、強制ドラフトオーブン内で105℃で2時間乾燥させ、次いで、これらをデシケーターの中に入れて冷却した。溶媒及び添加物を秤量し、丸いボトル内で混合した。CTAを溶媒にゆっくり添加して、個々の粒子を濡らし、固まるのを減少させた。この混合物を含有するボトルを、ペイントシェーカーの中に18分間入れた。この後、ボトルを機械式ローラーに一晩移して、CTAの溶解を完結させた。ボトルをローラーから取り出し、溶液内の泡が消失するまで放置した。
【0054】
フィルム製造
60ミクロン厚さのフィルムを、研究所フィルム流延装置上で手によって流延し、10〜12重量%残留溶媒含有量まで乾燥させた。このレベルは、商業的LCDフィルムが流延ベルトから剥離されるとき遭遇される、10重量%〜30重量%の典型的残留溶媒含有量範囲の下端をシミュレートするために選択した。経験は、残留溶媒含有量が高くなるほど、フィルムを剥離するために必要な力が小さいことを示した。しかしながら、溶媒含有量が高すぎると、剥離されるときフィルムは変形し、実用にならないであろう。
【0055】
フィルムを流延するために、溶液を、金属板の一端上に注ぎ、次いで、引落し刃を、板の長さ方向に迅速に引いた。次いで、板を流延装置から取り除き、ヒュームフードの内側に配置されているフィルム硬化キャビネットの中に入れた。このキャビネットは、制御された速度での溶媒の蒸発を可能にした。10〜12重量%の残留溶媒に到達するまでの必要時間は、キャビネット内の硬化時間の10分間隔で、フィルムの溶媒含有量を測定することによって決定された。この時間は、約1時間であると決定された。硬化時間は相対湿度に依存性であると、充分に理解され、より高い湿度は溶媒蒸発を遅延させるので、相対湿度をモニターしなくてはならない。
【0056】
それぞれのドープ及びフィルムの組成並びにフィルムの特性を、表2に記載する。
【0057】
【表2】

【0058】
【表3】

【0059】
【表4】

【0060】
【表5】

【0061】
例1〜24は、クエン酸、ESO及びn−ブタノールの量における変化に基づいて、平面リターデーション(Re)、破断歪み、破断応力、降伏歪み、ヤング率、ヘイズ又は全透過率についての顕著な変化が存在しなかったことを示した。降伏応力は、ESOレベルが上昇したとき、僅かな低下を示し、厚さリターデーション(Rth)は、クエン酸含有量が増加すると共に減少を示した。
【0062】
例25〜28
3バッチのドープを製造し、商業的圧力流延ライン上でフィルムに形成した。ドープのバッチは、塩化メチレン及びメタノールの混合物を、回転式攪拌機を有する混合容器に添加することによって製造した。次いで、VM114及びクエン酸以外の全ての他の成分を、この攪拌した容器に添加した。未溶解の材料を含有していない溶液が得られると、この溶液にクエン酸を添加した。攪拌を1時間続けた。次いで、フィルム流延溶液を、濾過装置に通過させ、フィルムを目標厚さに流延した。ドープ及びフィルムの組成並びにフィルムの特性を、表3に記載する。
【0063】
表3中の剥離力は、流延ベルトからフィルムを剥離する引取ロール内の圧力変換器によって連続的に測定した。
【0064】
表3中のローレット切り圧力比は、それぞれの実験的フィルムのローレット切りパターンを与えるために必要な力の、100%リント系CTAフィルムについて典型的に見られるものに対する比である。
【0065】
【表6】

【0066】
例29〜34
硫黄の変化するレベルを有する、亜硫酸軟材、コットンリント及び硬材から誘導されたCTAで、例1〜24の手順に従って、ドープ及びフィルムを製造して、流延基体からフィルムを分離するために必要とされる剥離力を決定した。これらの組成物は、キレート化剤及び酸スカベンジャーの不存在下で、剥離力への硫黄の影響を試験するために製造した。これらの結果は、硫黄レベルが高くなるほど、剥離力が高いことを示している。
【0067】
ドープ及びフィルムの組成並びに剥離力結果を、表4に示す。
【0068】
【表7】

【0069】
ある範囲の硫黄含有量を有するCTAのサンプルを、表5中に示すような亜硫酸法軟材パルプを使用して製造した。約35ppmよりも上の硫黄含有量で、目標量の添加剤を使用するとき、増加した流延基体からの剥離力が観察される。
【0070】
【表8】

【0071】
ヘミセルロース不純物であるキシラン及びマンナンのより高いレベルを有する追加の亜硫酸法軟材パルプを使用して、CTAを製造した。表6は、2%以下のキシロース及び1%のマンノースを含有するこのようなパルプが、良好な、流延ベルト基体からの剥離特性を有するCTAを製造することを示している。
【0072】
【表9】

【0073】
光学的特性の安定性は、LCDフィルムにおいて非常に重要である。耐久性試験は、表7中に示されるフィルム上で、60℃及び95%相対湿度で1000時間実施した。
【0074】
【表10】

【0075】
このデータは、亜硫酸法軟材CTA(VM114)が、1.5%の酸スカベンジャー及び0.15%のクエン酸の目標レベルで、非常に安定な光学的特性を有することを示している。これらの安定な光学的特性は、LCD用途において使用するために非常に重要である。
【0076】
ベルト堆積物は、フィルム表面内に非常に小さい窪みを生じ、この窪みは、フィルムを或る角度で見たとき、ヘイズとして示される。このようなヘイズは、フィルムを許容できないようにし、ベルトをクリーンにしなくてはならない。この手待ち時間は、生産を減少させ、コストを増加させる。フィルム流延ベルト上の塩の堆積物を防止する際のキレート化剤の有効性を測定するために、商業的フィルム流延ライン上で、1.5%の酸スカベンジャー及び0.15%のクエン酸の目標レベルを使用して、追加の30日試行を実施した。ベルト堆積物は生じなかった。
【0077】
本発明を、その好ましい態様を特に参照して詳細に説明したが、本発明の精神及び範囲内で変形及び修正を実施できることが理解されるであろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)亜硫酸法軟材パルプから製造され、共に三酢酸セルロースの重量基準で、35ppmよりも少ない硫黄及び2重量%よりも少ないキシロースを有し、かつ少なくとも3:1の金属対サルフェートのモル比を有する三酢酸セルロース、
(b)酸スカベンジャー、
(c)キレート化剤並びに
(d)溶媒
を含んでなる、溶液流延フィルムを製造するためのドープ。
【請求項2】
前記三酢酸セルロースが、8〜15ppmの硫黄、0.5〜0.6重量%のキシロース及び少なくとも98重量%のα−セルロースを有する請求項1に記載のドープ。
【請求項3】
15〜23重量%の三酢酸セルロースを含む請求項1に記載のドープ。
【請求項4】
0.1〜1重量%の酸スカベンジャーを含む請求項1に記載のドープ。
【請求項5】
前記酸スカベンジャーがエポキシ化植物油を含む請求項1に記載のドープ。
【請求項6】
0.01〜0.1重量%のキレート化剤を含む請求項1に記載のドープ。
【請求項7】
前記キレート化剤がクエン酸を含む請求項1に記載のドープ。
【請求項8】
前記溶媒が、塩化メチレン並びに、溶媒の重量基準で、6〜20重量%の、メタノール及びエタノールの少なくとも1種を含む請求項1に記載のドープ。
【請求項9】
(a)全て、三酢酸セルロースの重量基準で、8〜15ppmの硫黄、0.8重量%以下のキシロース及び少なくとも98重量%のα−セルロース、
(b)エポキシ化ダイズ油を含む酸スカベンジャー並びに
(c)クエン酸を含むキレート化剤
を含んでなる請求項1に記載のドープ。
【請求項10】
(a)亜硫酸法軟材パルプから製造され、共に三酢酸セルロースの重量基準で、35ppmよりも少ない硫黄及び2重量%よりも少ないキシロースを有し、かつ少なくとも3:1の金属対サルフェートのモル比を有する三酢酸セルロース、
(b)酸スカベンジャー並びに
(c)キレート化剤
を含んでなるフィルム。
【請求項11】
(a)全て、三酢酸セルロースの重量基準で、8〜15ppmの硫黄、0.8重量%以下のキシロース及び少なくとも98重量%のα−セルロース、
(b)エポキシ化ダイズ油を含む酸スカベンジャー並びに
(c)クエン酸を含むキレート化剤
を含んでなる請求項10に記載のフィルム。
【請求項12】
20〜100ミクロンの厚さを有する請求項11に記載のフィルム。
【請求項13】
1〜5重量%の酸スカベンジャーを含む請求項11に記載のフィルム。
【請求項14】
0.1〜0.5重量%のキレート化剤を含む請求項11に記載のフィルム。
【請求項15】
80〜95重量%の三酢酸セルロースを含む請求項11に記載のフィルム。
【請求項16】
(a)三酢酸セルロース、酸スカベンジャー及び溶媒を一緒に組み合わせて、溶液を形成し;そして
(b)工程(a)からの溶液にキレート化剤を添加して、ドープを形成する
ことを含んでなる請求項1又は9のいずれかに記載のドープの製造方法。
【請求項17】
(a)請求項1又は9のいずれかに記載のドープを、連続的に移動する支持体の上に流延して、前記支持体の上に流延フィルムを形成し;
(b)前記流延フィルムを部分的に乾燥させ;
(c)前記流延フィルムを支持体から分離し;そして
(d)前記分離したフィルムを乾燥させる
ことを含んでなるフィルムの製造方法。
【請求項18】
請求項10又は11のいずれかに記載のフィルムを含んでなる液晶ディスプレイ用の偏光子板。
【請求項19】
請求項10又は11のいずれかに記載のフィルムを含んでなる光学レンズ。

【公表番号】特表2013−519754(P2013−519754A)
【公表日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−552902(P2012−552902)
【出願日】平成23年2月2日(2011.2.2)
【国際出願番号】PCT/US2011/023441
【国際公開番号】WO2011/100145
【国際公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【出願人】(594055158)イーストマン ケミカル カンパニー (391)
【Fターム(参考)】