説明

Li塩の回収方法

【課題】かん水等のLi資源から効率よく、高回収率にてLi塩を回収することができる方法を提供すること。
【解決手段】少なくともLiを含む水を、イオン交換膜電気透析装置にて処理してLiを濃縮する工程を含む、Li塩の回収方法であって、前記水は天日晶析法によりLi以外の1価イオンを低減させ、Li含有率を高めた水であり、かつ前記天日晶析法は、該水の相平衡を操作し、Li以外の塩の析出を促進するため溶解度の高いイオンが添加される、Li塩の回収方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Li塩の回収方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、Liは、リチウムイオン電池等の原材料としての需要が著しい。Liは鉱石や塩湖かん水から採取される。電池の原材料としては炭酸Liの形態が好まれ、塩湖かん水由来のものは不純物の含有量が少ないため需要が伸びている。
Li採取を実施している塩湖かん水は、0.5〜1.0質量‰の濃度でLiイオンを含有し、その他に、Naイオン、Kイオン、Mgイオン、Caイオン、Clイオン、Bイオンなど種々のイオンを含有している。炭酸Liを効率的に回収するためには、塩湖かん水中のLiを20質量‰以上濃縮する必要があり、一般に、8〜18ヶ月の期間を要して天日晶析法によりLiを濃縮している。天日晶析法により濃縮されたかん水は、B、Mgを除去した後に、炭酸塩を添加し、反応晶析により炭酸Liを製造している(非特許文献1)。
天日晶析法によるLi濃縮は、天候の影響を受け易く、濃縮期間が長いため、上記技術の適用は立地条件に左右される。一方、塩湖かん水にはLiを0.5〜1.0質量‰の濃度で含有するが、SOイオンの含有量が高いかん水がある。こうした組成のかん水では、LiSOとしてLiが析出するため、従来の天日晶析法ではLiの濃縮が困難である。
天候の影響が小さく、また、SOイオンの多い塩湖かん水からLiを回収する方法の一つとして、イオン交換膜電気透析装置(以下、EDとも記す)にて塩湖かん水を処理して更にLiを濃縮してLiを回収する技術が知られている(非特許文献2)
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】独立行政法人 石油天然ガス・金属鉱物資源機構 カレント・トッピクス“リチウムの資源と需給-Lithium Supply & Markets Conference 2009(LSM’09)参加報告-“、[online]、平成21年4月、[平成23年2月8日検索]、インターネット<URL:http://www.jogmec.go.jp/mric_web/current/09_21.html>
【非特許文献2】独立行政法人 石油天然ガス・金属鉱物資源機構 三菱商事株式会社、他、“かん水からのリチウム回収システム開発に関する共同スタディ報告書(公開版)”、[online]、平成22年3月、[平成23年2月8日検索]、インターネット<URL:http://www.jogmec.go.jp/mric_web/organization/japan/g6/report/kouzan_03.pdf>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記技術は、EDに供給されるかん水組成の調製が実施されていないために、該かん水にNa、Kの1価イオンが高濃度に含有される場合、Liの電流効率が低いという問題があった。また、同技術において、同時にLiの回収率を更に高めることが要請されていた。
本発明は、かん水等のLi資源から効率よく、高回収率にてLi塩を回収することができる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、少なくともLiを含む水を、イオン交換膜電気透析装置にて処理してLiを濃縮する工程を含む、Li塩の回収方法であって、前記水は天日晶析法によりLi以外の1価イオンを低減させ、Li含有率を高めた水であり、かつ前記天日晶析法は、該水の相平衡を操作し、Li以外の塩の析出を促進するため溶解度の高いイオンが添加される、Li塩の回収方法である。
本発明は、EDに供給されるLi含有水として、Na、K等の1価イオンを低減させ、Li含有率を高めた水を用いることが重要であり、EDの前処理である天日晶析法において、かん水等の少なくともLiを含む水にNaCl、KCl等の塩の析出を促進するため溶解度の高いイオンを添加し、EDに供給されるLi含有水のLi濃度を濃縮するものである。また、本発明は、EDを複数、直列に配列して透析を実施することによりLi塩の回収率を改善することができる。
【発明の効果】
【0006】
本発明は、通常用いられている製塩用EDを用いて、かん水等のLi資源から効率よく、高回収率にてLi塩を回収することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明の方法を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明を説明する。
なお、以下、「少なくともLiを含む水」を「Li含有水」、「Liを濃縮する工程」を「Li濃縮工程」、「天日晶析法」を「SP」、「Li含有率を高めた水」を「高Li含有水」、「濃縮されたLi濃度を有する画分」を「濃縮Li画分」、「希釈されたLi濃度を有する画分」を「希釈Li画分」、「加熱晶析」を「TC」、「濃縮されたLiを含む水」を「濃縮Li水」、と各々、略す場合がある。
【0009】
本発明は、EDに供給するLi含有水として、Na、K等の1価イオンがLiよりも多く含有する場合、溶解度の高いイオンをLi含有水に添加してSPを実施したNa、Kイオンが少ない高Li含有水を用いることを主旨としている。
溶解度の高いイオンは、Li含有水に含まれるNaCl、KClよりも溶解度の高いものであり、このイオンを添加することによりLi含有水の相平衡を変化させ、NaCl、KClを析出させる。
溶解度の高いイオンとしては、上記機能を有するものであれば特に制限されないが、Mg2+、Ca2+、Sr2+等が含まれる。
【0010】
本発明のSPは、溶解度の高いイオンを含む塩、同塩溶液等の形態でLi含有水に添加し、前者の場合は塩を溶解させ、天日に曝すことにより実施される。天日に曝す日数は、Li含有水のイオン組成にもよるが、通常、1〜5ヶ月である。また、溶解度の高いイオンをLi含有水に添加するタイミングは、特に制限はないが、例えば、Li含有水として天然のかん水等を用いる場合、ある程度、天日晶析法を溶解度の高いイオンの添加なしで行った後、Li以外の晶析がある程度進行したLi含有水に溶解度の高いイオンを添加し、更に天日晶析する方がより効率的である。
【0011】
Li含有水に添加する溶解度の高いイオンの量としては、Li含有水に含まれるNaイオンとKイオンの合量に対して、通常、2〜50質量%、好ましくは、5〜35質量%、更に好ましくは、10〜20質量%である。
上記本発明のSPで得られる高Li含有水は、通常、2〜10質量‰、好ましくは、6〜10質量‰に濃縮される。
EDにかけるLi含有水(以下、ED用Li含有水ともいう)としては、高Li含有水をそのまま用いることができるが、高Li含有水をろ過し、ろ過された高Li含有水の浸透圧が高い場合、浸透圧を調整することが好ましい。
浸透圧は高Li含有水あるいは後述の濃縮Li画分に水を添加することにより調製できるが、この浸透圧の調製は高Li含有水側で実施することが好ましい。Li含有水への水の添加量は、Li含有水に対して、1.1倍以上、好ましくは1.1〜2.5倍の範囲以内である。
【0012】
本発明に用いるEDとしては、ED用Li含有水中のLiを、イオン交換膜を用いた電気透析によりLiを濃縮させる機能を有する装置であれば、特に制限はない。イオン交換膜としては、陽イオン交換膜(以下、C膜とも記す)及び陰イオン交換膜(以下、A膜とも記す)を交互に配置可能な平膜構造が好ましく、C膜及びA膜の構造(支持体の有機高分子構造、支持体に結合させたイオン交換基の種類等)も特に上記機能を有するものであれば、特に制限はない。本発明のEDは、上記機能に加え、マグネシウムイオン、硫酸イオン等の2価イオンの透過性が低い、1価イオン選択透過性の機能を有していることが好ましい。本発明は、特に硫酸イオンを多量に含むかん水からのLi回収に、通常、製塩用に用いられているイオン交換膜、ひいては製塩用EDを適用できる利点がある。
【0013】
本発明において、Li含有水、高Li含有水、濃縮Li画分、希釈Li画分、及び濃縮Li水は、適宜、管、バルブ、ポンプ、コンプレッサー等並びにそれらの制御装置等により目的の装置へ移送することができる。
高Li含有水は、通常、ろ過によりEDに支障となる不純物が除去される。また、ろ過されたものは、そのままEDへ移送してもよいが、浸透圧調整が必要な場合には、これを行ってもよい。高Li含有水、ろ過、浸透圧調整、EDへの注入は、この順に連続して行うことができる。
ED装置を直列又は並列にして、希釈Li画分をED間で移送し、かつ最終的に希釈Li画分のみを集めるために、あるいは濃縮Li画分のみを集めるために、膜空間と連絡した管、バルブ、ポンプ、コンプレッサー等並びにそれらの制御装置等が用いられる。
【0014】
以下、図を参照して、本発明の実施態様の一例を説明する。
図1は、本発明の方法が適用されるEDの構成を模式的に示したものである。1は、EDであり、ED1には、A膜(A)とC膜(C)で囲まれる膜空間5、6、及び7(他の膜は不図示)が形成され、初めにED用Li含有水は、これら全膜空間に注入され、電界と膜の作用により、膜を介してイオンが移動し、膜空間5及び7等には希釈Li画分が、膜空間6等には濃縮Li画分が生成される。図1(a)は、透析の状態を模式的に示している。●は、Liを含むカチオンであり、○はアニオンであり、矢印方向は、移動方向を示す。カチオン(2)は、C膜を透過するが、A膜は透過できず、アニオン(3)はA膜を透過するが、C膜は透過できない。図中、8は、ガスの発生を防ぐための循環される電極液であり、9は、電極液を保持する電流透過性の膜である。
【0015】
図1(b)は、図1(a)のイオンの移動の結果を模式的に示したものであり、膜空間5及び7等に希釈Li画分が、膜空間6等に濃縮Li画分が生成されることを示している。希釈Li画分と濃縮Li画分の各々の膜空間は、交互に配列されている。この希釈Li画分には、製塩用EDを用いた場合、A膜透過性の低い、硫酸イオン、C透過性の低い、Mgイオン等が濃縮される。
【0016】
ED用Li含有水をEDの膜空間5、6、7等に注入する方法は、Liを濃縮することができるのであれば、特に制限はなく、ED用Li含有水のみを用いてもよいし、ED用Li含有水と他の任意の水、例えば、任意のかん水、海水、純水等を併用してもよい。ED用Li含有水以外の水を併用する場合は、ED用Li含有水を注入する膜空間と同じでも別でもよい。また、ED用Li含有水をEDに注入し、処理する方式は、バッチ式でも連続式でもよい。
【0017】
本発明では、例えば、Li濃縮工程は、第1番目のEDにて処理して得られた濃縮Li画分を同装置から回収するとともに第1番目の同装置にて処理して得られた希釈Li画分を第2番目のEDに移送して、同第2番目のEDにて処理して得られた濃縮Li画分を同装置から回収するとともに第2番目の同装置にて処理して得られた希釈Li画分を第3番目以降のEDに移送して前記処理を繰り返すことにより、Liの回収率を向上させることができる。ここで、各EDの膜空間に注入される希釈Li画分は、希釈Li画分単独でも他の水との併用でもよく、上記ED用Li含有水のEDへの注入方法を適用することができる。また、EDは、好ましくは、装置数2〜15、直列に用いることが好ましい。上記希釈Li画分は、後段に移行するに従って上記Liの回収率を阻害するイオン、例えば、硫酸イオンが濃縮されるように処理されることが好ましい。
本発明に適用できるEDとしては、例えば、造水技術ハンドブック、2004年11月25日、造水技術ハンドブック編集企画委員会編、財団法人 造水促進センター発行、113頁図基I−13.24に記載のもの等が挙げられる。
【0018】
上記EDにて得られる濃縮Li画分は、通常、2質量‰以上、好ましくは、5質量‰以上、更に好ましくは、8質量‰以上に濃縮される。
本発明では、この濃縮Li画分は、TCあるいはSPにて処理できるが、TCにて処理されることが好ましい。TC条件としては、通常、35〜130℃、好ましくは、50〜110℃が挙げられる。
上記にて処理する工程は、Kを回収する工程を含むことが好ましい。Kの回収には、晶析された混合塩を溶解し、更にTC処理すること等の方法を用いることが挙げられる。
上記TCにて得られる濃縮Li水は、Li以外の金属イオン総量に対して、通常、20質量‰以上、好ましくは、30質量‰以上、更に好ましくは、45質量‰以上に濃縮される。濃縮Li水に含まれる主たる陰イオンは、塩化物イオンであることが好ましい。
【0019】
上記濃縮Li水は、炭酸塩による、LiCOの反応晶析を行い、LiCOの形態で回収されることが好ましい。
上記反応晶析を行う前に、濃縮Li水から少なくともB、及びMgを除去することが好ましい。当該B除去法としては、濃縮Li水を有機溶媒にて抽出する方法等が挙げられる。また、当該Mg除去法としては、B除去された濃縮Li水にアルカリを添加し、Mg(OH)を生成させ、固液分離する方法等が挙げられる。固液分離された分離液は、例えば、炭酸塩が注入され、反応晶析により、粗LiCOが調製され、これを洗浄、乾燥することにより、精製LiCOが得られる。
【実施例】
【0020】
以下、本発明の実施例を説明する。なお、本発明はこの実施例により何等制限されるものではない。
【0021】
実施例1
Li含有水として、南米塩湖から採取したままのかん水を採用した。
該かん水は、約10日間SP環境として室温20℃の環境下に蔵置した。この得られたかん水をSPかん水とした。このSPかん水に溶解度の高いイオンとして、Mgイオンを20質量‰の濃度になるように、約10日間SPによる処理を施し、高Li含有水を得た。
高Li含有水は、ろ過され、水で希釈され、Li含有量を3.7質量‰に調整し、ED用Li含有水を得た。
このED用Li含有水は、6の製塩用EDが直列に連絡した装置構成にて、第1番目のEDにて処理して得られた濃縮Li画分を同装置から回収するとともに第1番目の同装置にて処理して得られた希釈Li画分を第2番目のEDに移送して、同第2番目のEDにて処理して得られた濃縮Li画分を同装置から回収するとともに第2番目の同装置にて処理して得られた希釈Li画分を第3番目以降第6番目の電気透析装置に移送して前記処理を繰り返すことにより、実施して、濃縮Li画分を得、次いで、これをTC処理し、Kを回収するとともに濃縮Li水を得た。Kは、Li含有水から90質量%回収できた。
上記Li含有水(南米塩湖から採取したままのかん水)、SPかん水、高Li含有水、ED用Li含有水、及び濃縮Li水のSO、K、Naに対するLiの濃縮比(質量基準)を表1に示した。
【0022】
上記濃縮Li水は、濃縮Li水:抽出剤=1:2(抽出剤;2−エチルヘキサノール:ケロシン=1:1)にて、Bを抽出、除去し、次いで、B除去された濃縮Li水に4M NaOHを添加し、pH9に調整してMg(OH)を生成し、固液分離した。この固液分離された分離液は、23% NaCOが注入され、液温50℃の反応晶析により、粗LiCOを調製し、90℃以上に熱水でこれを洗浄、110℃、2時間乾燥することにより、LiCO含量が99.6質量%の精製LiCOを得た。
【0023】
【表1】

【0024】
上表から、本発明は、Li含有水の相平衡を操作することで、高Li含有水を得ることができ、製塩用EDを用いても効率よく、濃縮Li画分を得ることができ、これにTC処理を施すことにより、Kを高収率で回収するとともにLi濃度の極めて高い濃縮Li水を得ることができ、この濃縮Li水から極めて高純度の精製LiCOが得られることが分かる。
【符号の説明】
【0025】
1…ED、2…カチオン、3…アニオン、5,6,7…膜空間、8…電極液、9…膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともLiを含む水を、イオン交換膜電気透析装置にて処理してLiを濃縮する工程を含む、Li塩の回収方法であって、前記水は天日晶析法によりLi以外の1価イオンを低減させ、Li含有率を高めた水であり、かつ前記天日晶析法は、該水の相平衡を操作し、Li以外の塩の析出を促進するため溶解度の高いイオンが添加される、Li塩の回収方法。
【請求項2】
前記溶解度の高いイオンは、前記塩の金属とは異なる金属イオンを含む、請求項1のLi塩の回収方法。
【請求項3】
前記析出される塩は、NaCl、及びKClを含み、前記溶解度の高いイオンは、Mg2+を含む、請求項1又は2のLi塩の回収方法。
【請求項4】
前記Li含有率を高めた水は、ろ過され、ろ過されたLi含有率を高めた水の浸透圧が高い場合、浸透圧が調整される、請求項1〜3のいずれか1項のLi塩の回収方法。
【請求項5】
前記Liを濃縮する工程は、第1番目の電気透析装置にて処理して濃縮されたLi濃度を有する画分を同装置から回収するとともに第1番目の同装置にて処理して希釈されたLi濃度を有する画分を第2番目の電気透析装置に移送して、同第2番目の電気透析装置にて処理して濃縮されたLi濃度を有する画分を同装置から回収するとともに第2番目の同装置にて処理して希釈されたLi濃度を有する画分を第3番目以降の電気透析装置に移送して前記処理を繰り返す、請求項1〜4のいずれか1項のLi塩の回収方法。
【請求項6】
前記電気透析装置にて濃縮されたLi濃度を有する画分を、加熱晶析にて処理する工程を含む、請求項1〜5のいずれか1項のLi塩の回収方法。
【請求項7】
前記加熱晶析にて処理する工程は、Kを回収する工程を含む、請求項6のLi塩の回収方法。
【請求項8】
前記加熱晶析にて濃縮されたLiを含む水から、少なくともB、及びMgを除去した水に炭酸塩を添加し、LiCOの反応晶析を行う工程を含む、請求項6又は7のLi塩の回収方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−214308(P2012−214308A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−79330(P2011−79330)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(396021483)財団法人塩事業センター (18)
【Fターム(参考)】