説明

N,N,N’,N’−テトラメチルヘキサン−1,6−ジアミンと第1級または第2級アミン官能基を有する特定のアミンとに基づく吸収溶液、およびガス状流出物から酸性化合物を除去する方法

本発明は、CO2等の酸性ガスの吸収条件下で単一層の吸収溶液を得ることができる、特定の第1級または第2級アミンとともに配合されたN,N,N’,N’−テトラメチルヘキサン−1,6−ジアミンの水溶液を使用した吸収方法における、ガス状流出物からの酸性化合物の除去に関する。本発明は、天然ガスおよび産業起源のガスの処理に有利に適用される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
技術分野
本発明は、CO2等の酸性ガスの吸収条件下で単一相の吸収溶液を得ることができる、特定の第3級ジアミン、N,N,N’,N’−テトラメチルヘキサン−1,6−ジアミンと、特定の第1級または第2級アミンとの組合せを含む吸収水溶液を用いた、ガス中に含有される酸性化合物(H2S、CO2、COS、CS2、メルカプタン等)の吸収に関する。本発明は、天然ガスおよび産業起源のガス(gas of industrial origin)の処理に有利に適用される。
【0002】
発明の背景
〔産業起源のガスの処理〕
処理することができるガス状流出物(gaseous effluent)の性質は様々であり、その制限されない例は、合成ガス、燃焼排煙(fumes)、製油所ガス、クラウステールガス(Claus tail gas)、バイオマス発酵ガス、セメント工場ガスおよび高炉ガスである。
【0003】
これらのガスはすべて、二酸化炭素(CO2)、硫化水素(H2S)、硫化カルボニル(COS)、二硫化炭素(CS2)およびメルカプタン(RSH)、主にメチルメルカプタン(CH3SH)、エチルメルカプタン(CH3CH2SH)およびプロピルメルカプタン(CH3CH2CH2SH)等の酸性化合物を含有する。
【0004】
例えば、燃焼排煙の場合、CO2は除去される酸性化合物である。実際に、二酸化炭素は、人間の活動によって広く生成される温室効果ガスの1つであり、大気汚染に直接影響を与える。大気に排気される二酸化炭素の量を低減するために、ガス状流出物中に含有されるCO2を捕捉することが可能である。
【0005】
〔天然ガスの処理〕
天然ガスの場合、脱酸、脱水およびストリッピングの3つの主要な処理操作が考えられる。第1段階である脱酸の目標は、二酸化炭素(CO2)、ならびに硫化水素(H2S)、硫化カルボニル(COS)、二硫化炭素(CS2)、およびメルカプタン(RSH)、主にメチルメルカプタン(CH3SH)、エチルメルカプタン(CH3CH2SH)およびプロピルメルカプタン(CH3CH2CH2SH)等の酸性化合物を除去することである。一般に脱酸されたガスとして認められる仕様は、2%CO2、またはさらに50ppmCO2であり、その後天然ガスは液化に供され;4ppmH2Sおよび10ppmから50ppmの全硫黄体積である。次いで、脱水段階により、輸送仕様に関連して脱酸ガスの含水量が制御され得る。最後に、天然ガスストリッピング段階により、同じく輸送仕様に従う天然ガス中の炭化水素の露点が保証され得る。
【0006】
したがって、特に一連のプロセスの第1段階において、H2S等の毒性酸性ガスを除去するために、ひいては様々な単位操作、特に脱水セクション、より重い炭化水素に対し意図される凝縮および分離セクションの、これらの酸性化合物による汚染を回避するために、脱酸が最初に行われることが多い。
【0007】
〔吸収による酸性化合物の除去〕
例えば天然ガスおよび燃焼排煙、ならびに合成ガス、製油所ガス、クラウステールガス、バイオマス発酵ガス、セメント工場ガスおよび高炉ガス等のガス状流出物の脱酸は、一般に、吸収溶液での洗浄により行われる。吸収溶液により、ガス状流出物中に存在する酸性化合物(特にH2S、メルカプタン、CO2、COS、CS2)の吸収が可能である。
【0008】
今日一般的に使用されている溶媒は、任意選択の物理溶媒(physical solvent)と組み合わされた、第1級、第2級または第3級アルカノールアミンの水溶液である。例として、ガス状流出物脱酸方法を提供する文献FR-2,820,430を挙げることができる。また、炭化水素から酸性化合物を除去する方法を記載している特許US-6,852,144も挙げることができる。この方法は、ピペラジンおよび/またはメチルピペラジンおよび/またはモルホリンの群に属する化合物を高い割合で含有する、水−メチルジエタノールアミンまたは水−トリエタノールアミン吸収溶液を使用する。
【0009】
例えば、CO2捕捉の場合、吸収されたCO2は、炭酸水素塩、炭酸塩および/またはカルバメートの形成をもたらす当業者に知られた可逆発熱反応に従い、溶液中に存在するアミンと反応し、処理されるガスからのCO2の除去が可能となる。同様に、処理されるガスからのH2Sの除去の場合、吸収されたH2Sは、水硫化物の形成をもたらす当業者に知られた可逆発熱反応に従い、溶液中に存在するアミンと反応する。
【0010】
産業ガスまたは排煙を溶媒で処理するための操作の別の本質的態様は、分離剤(separation agent)再生段階である。膨張(expansion)および/または蒸留および/または「ストリッピングガス」と呼ばれる気化ガスによる同伴を介した再生は、一般に、吸収の種類(物理的および/または化学的)に依存して提供される。
【0011】
今日一般的に使用されている溶媒の主な制限のうちの1つは、高い吸収溶液流量を使用する必要性であり、これは、溶媒再生のための高いエネルギー消費、および相当の機器サイズ(塔、ポンプ等)をもたらす。これは、酸性ガス分圧が低い場合に特に成り立つ。例えば、火力発電所排煙における燃焼後CO2捕捉に使用される30質量%モノエタノールアミン水溶液において、CO2分圧が約0.1バール(0.01MPa)である場合、再生エネルギーは、捕捉されたCO2の1トンあたり約3.9GJを示す(参照事例、CASTORプロジェクト、Esbjerg発電所の燃焼後捕捉試験ユニット)。そのようなエネルギー消費は、CO2捕捉方法の著しい運転コストを示す。
【0012】
一般的には、例えばH2S、メルカプタン、CO2、COS、SO2、CS2等の酸性化合物を含む酸性流出物を処理するために、アミン系化合物を使用することは、水溶液としてのその使用の容易性のため興味深い。しかしながら、これらの流出物を脱酸する際、吸収溶液は、熱分解により、または捕捉される酸性ガス、ならびに流出物中に含有されるその他の化合物、例えば産業排煙中に含有される酸素、SOxおよびNOx等との副反応により、分解する(degrade)可能性がある。これらの分解反応は、溶媒効率低下、腐食、発泡等のように、その方法の適切な機能に影響する。これらの分解のため、蒸留および/またはイオン交換により溶媒精製を行い、補充用アミンを提供することが必要である。例えば、30質量%モノエタノールアミン吸収溶液を使用した燃焼後CO2捕捉方法において追加される補充用アミンは、捕捉されたCO2の1トンあたり1.4kgのアミンを示し、これは捕捉ユニットの運転コストを大幅に増加させる。
【0013】
最後に、これらの分解反応は、この方法の操作条件、特に溶媒再生が行われる温度を制限する。例えば、再生器温度を10℃増加させると、モノエタノールアミンの熱分解速度が2倍になる。したがって、モノエタノールアミン等のアルカノールアミン水溶液の再生は、約110℃の再生器底部温度(regenerator bottom temperature)で、またはメチルジエタノールアミン等のより安定なアミンに対しては、さらに130℃の再生器底部温度で行われる。これらの再生器底部温度の結果、酸性ガス(H2S、CO2、COS、CS2等)は、1バールから3バール(0.1から0.3MPa)の範囲の中間的圧力で得られる。再生された酸性ガスの性質および用途に依存して、酸性ガスは、処理ユニットに送られてもよく、または、再注入(reinjected)および隔離(sequestered)のために圧縮されてもよい。
【0014】
任意の種類の流出物中の酸性化合物を除去することができ、また脱酸方法をより低コストで操作させることができる安定な吸収化合物を見出すことは困難である。出願人は、単独の、またはいくらかの質量%の第1級もしくは第2級アミンと混合されたN,N,N’,N’−テトラメチルヘキサン−1,6−ジアミンもしくはTMHDAが、酸性化合物除去を意図したすべてのガス状流出物処理方法において非常に興味深いことを見出した。
【0015】
しかしながら、単独の、またはいくらかの質量%の第1級もしくは第2級アミンと混合されたN,N,N’,N’−テトラメチルヘキサン−1,6−ジアミンもしくはTMHDAを含むほとんどの吸収水溶液は、吸収器条件下でのCO2吸収時に液液相分離を示す。2つの分離した相の形態では、ガスから吸収溶液に移動した酸性化合物のストリームは高度に密になり(impacted)、それに従い塔の高さを調節することが必要となる。したがって、この現象は、深刻な実践上の問題をもたらし、システムの複雑性を鑑みると、モデル化が困難である。驚くべきことに、出願人は、N,N,N’,N’−テトラメチルヘキサン−1,6−ジアミンの水溶液にいくらかの質量%の特定の第1級または第2級アミンを添加することにより、CO2等の酸性ガスの吸収の条件下で単一相の吸収溶液を得ることができることを見出した。
【0016】
発明の説明
したがって、本発明の目的は、酸性ガスの吸収の条件下で単一相の吸収溶液を維持しながら、特に低い酸性ガス分圧で、使用される吸収溶液の流量を制限することを可能にする特性を有するとともに、非常に高い安定性を示す、2種の特定のアミンの組合せを使用して、CO2、H2S、COS、CS2およびメルカプタン等の酸性化合物をガスから除去するための方法を提供することにより、従来技術の欠点のうちの1つまたは複数を克服することである。
【0017】
本発明の第1の対象は、式(I)のN,N,N’,N’−テトラメチルヘキサン−1,6−ジアミンと、式(II)または(III)の活性剤(activator)との組合せを含む、吸収水溶液である。
【0018】
本発明はまた、天然ガスおよび産業起源のガス等のガス状流出物中に含有される酸性化合物を除去する方法であって、
N,N,N’,N’−テトラメチルヘキサン−1,6−ジアミンおよび式(II)または(III)の活性剤を含む水溶液に前記流出物を接触させることによる、酸性化合物吸収段階と、
任意選択で、吸収溶液の分別再生(fractionated regeneration)を可能にする、加熱後の、酸性ガスを含んだ溶液の液液分離の少なくとも1つの段階と、
酸性化合物を含んだ吸収溶液の再生の少なくとも1つの段階と
を含む方法に関する。
【0019】
本発明はまた、前記酸性化合物除去方法の、天然ガスまたは産業起源のガスの処理、特に燃焼後CO2捕捉への適用に関する。
【0020】
発明の概要
本発明は、ガス状流出物の酸性化合物を吸収するための吸収溶液であって、
水と、
少なくとも1種の式(I)のアミン(N,N,N’,N’−テトラメチルヘキサン−1,6−ジアミンまたはTMHDAと呼ばれる)と、
【0021】
【化1】

【0022】
少なくとも1種の式(II)または(III)の第1級または第2級アミンと
を含む吸収溶液に関する。
【0023】
本発明によれば、式(II)は、
【0024】
【化2】

【0025】
(ここで、
n=1または2、好ましくはn=1であり、
基R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7およびRはそれぞれ、水素原子、1個から2個の炭素原子を有するアルキル基からなる群の要素の中から独立して選択される)の形態である。式(II)の分子の一実施形態によれば、基Rは独立しており、したがって基R1からR7のいずれにも結合していない。式(II)の分子の別の実施形態によれば、基Rは、5個から6個の原子を有するヘテロ環を形成するように、R3またはR7により式(II)の芳香環に結合されていてもよい。
【0026】
本発明によれば、式(III)は、
【0027】
【化3】

【0028】
(ここで、
Rは、4個から8個の炭素原子を有する直鎖または分枝鎖アルキル基であり、
基R1およびR2は、
水素原子、
1個から4個の炭素原子を有する直鎖または分枝鎖アルキル基、

【0029】
【化4】

【0030】
(ここで、qは2または3であり、基R3、R4は、水素原子、または1個から4個の炭素原子を有する直鎖もしくは分枝鎖アルキル基の中から独立して選択される)からなる群の要素の中から独立して選択される)の形態である。
【0031】
式(III)の分子の一実施形態によれば、基Rは独立しており、したがって基Rは基R1またはR2に結合していない。式(III)の分子の別の実施形態によれば、基Rは、5個または6個の原子を有するヘテロ環を形成するように、基R1またはR2の1つに結合していてもよい。
【0032】
さらに、式(III)の分子の一実施形態によれば、基R3は独立しており、したがって基R1またはR2に結合していない。式(III)の分子の別の実施形態によれば、基R3は、5個から6個の原子を有するヘテロ環を形成するように、R1またはR2に結合していてもよい。
【0033】
吸収溶液は、10質量%から90質量%のN,N,N’,N’−テトラメチルヘキサン−1,6−ジアミン、好ましくは20質量%から60質量%のN,N,N’,N’−テトラメチルヘキサン−1,6−ジアミン、より好ましくは30質量%から50質量%のN,N,N’,N’−テトラメチルヘキサン−1,6−ジアミンを有利に含む。
【0034】
吸収溶液は、50質量%未満、好ましくは20質量%未満のゼロではない割合の式(II)または(III)の活性化有機化合物(activating organic compound)を含む。
【0035】
より好ましくは、活性剤は、
式(II)のアミン:
【0036】
【化5】

【0037】
および式(III)のアミン:
【0038】
【化6】

【0039】
からなる群から選択される。
【0040】
吸収溶液は、物理溶媒を含んでもよい。
【0041】
吸収溶液は、有機または無機溶媒を含んでもよい。
【0042】
本発明はまた、ガス状流出物中に含有される酸性化合物を除去するための方法であって、
酸性化合物が除去されたガス状流出物および酸性化合物を含んだ吸収溶液を得るために、本発明による吸収溶液に前記流出物を接触させることによる、酸性化合物吸収段階と、
酸性化合物を含んだ吸収溶液の再生の少なくとも1つの段階と
を含む方法に関する。
【0043】
本発明による方法の一実施形態において、酸性化合物が除去されたガス状流出物および酸性化合物を含んだ単一相の吸収溶液を得るために吸収段階を行い、この吸収段階の後、吸収溶液の加熱後に得られる酸性化合物を含んだ二相吸収溶液の液液分離の少なくとも1つの段階が続き、次いで酸性化合物を含んだ吸収溶液の分別再生の少なくとも1つの段階が続くことが可能である。
【0044】
一般に、酸性化合物吸収段階は、1バールから120バール(0.1から12MPa)の間の範囲の圧力、および30℃から100℃の間の範囲の温度で行われる。
【0045】
(N,N,N’,N’−テトラメチルヘキサン−1,6−ジアミン)の高い安定性を鑑みると、本発明による吸収溶液は蒸留塔内で高温で再生することが可能である。一般に、その熱再生段階は、1バールから10バール(0.1から1MPa)の間の範囲の圧力、および100℃から180℃の間の範囲の温度で行われる。酸性ガスを再注入することが望ましい場合、好ましくは、蒸留塔内での再生は、155℃から165℃の間の範囲の温度、および6バールから8.5バール(0.6から0.85MPa)の間の範囲の圧力で行われる。酸性ガスが大気、またはクラウスプロセスもしくはテールガス処理プロセス等の下流処理プロセスに送られる場合、好ましくは、蒸留塔内での再生は、115℃から130℃の間の範囲の温度、および1.7バールから3バール(0.17から0.3MPa)の間の範囲の圧力で行われる。
【0046】
本発明による方法の変形形態において、酸性化合物を含んだ吸収溶液の膨張の第1の段階が、再生段階の前に行われる。
【0047】
好ましくは、酸性化合物を含んだ吸収溶液の膨張の第2の段階が行われるが、第2の膨張段階は、第1の膨張段階の後、および再生段階の前に行われ、吸収溶液は、第2の膨張段階に供される前に加熱される。
【0048】
本発明はまた、天然ガス処理のための本発明による方法に関する。
【0049】
本発明はまた、産業起源のガスの処理、好ましくはCO2捕捉のための本発明による方法に関する。
【0050】
図面の簡単な説明
本発明の他の特徴および利点は、例として提供される添付の図面を参照しながら以下の説明を読めば明らかとなろう。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】酸性ガス流出物処理方法のフローシートである。
【図2】加熱による分別再生を用いた酸性ガス流出物処理方法のフローシートである。
【発明を実施するための形態】
【0052】
詳細な説明
本発明は、水溶液中の2種類のアミン化合物の組合せを使用することにより、ガス状流出物の酸性化合物を除去することを目的とする。
【0053】
吸収溶液は、H2SおよびCO2等の酸性化合物と可逆的に反応する特性を有する、TMHDA系水溶液である。水相中のTMHDAは、所定量のCO2等の酸性化合物を吸収すると2つの分離可能な液相を形成する特性を有する。換言すると、TMHDA水溶液は、その取込量(loading)(吸収溶液のアミン1モルあたりの捕捉された酸性化合物のモル数)が、臨界脱混合取込量値(critical demixing loading value)、すなわち取込量閾値を超えると、2つの液相を形成する。吸収塔内での接触時、吸収溶液の取込量は、ガス中に含有される酸性化合物が吸収されると増加する。TMHDA水溶液を吸収塔に供給する際、この溶液は単一相の溶液である。吸収塔内において、吸収溶液の取込量は、臨界脱混合取込量値を超える可能性があり、したがって吸収溶液は2つの相に分離するかもしれない。2つの分離した相の形態では、ガスから溶液に移動した酸性化合物のストリームは極めて密になり、それに従い塔の高さを調節することが必要となるであろう。したがって、この現象は、深刻な実践上の問題をもたらし、システムの複雑性を鑑みると、モデル化が困難である。吸収塔内で吸収溶液を単一相の形態に維持するために、本発明は、TMHDAを、CO2取込量を上昇させることにより脱混合現象を排除する特性を有する特定の活性剤と混合することを目的とする。
【0054】
本発明による吸収溶液の組成を、以下に詳細に記載する。
【0055】
式(II)または(III)の第1級または第2級アミンにより活性化されたN,N,N’,N’−テトラメチルヘキサン−1,6−ジアミン、もしくはTMHDAをベースとした水性組成物は、すべての酸性ガス(天然ガス、燃焼排煙等)処理方法における吸収溶液として興味深い。
【0056】
N,N,N’,N’−テトラメチルヘキサン−1,6−ジアミン分子は、従来使用されているアルカノールアミンよりも、酸性ガス(H2S、CO2、COS、SO2、CS2およびメルカプタン)のより高い吸収能を有する。実際に、N,N,N’,N’−テトラメチルヘキサン−1,6−ジアミンは、従来使用されているアルカノールアミンと比較して、低い酸性ガス分圧で非常に高い取込量値(α=nacid gas/namine)を有するという特異的な特徴を有する。いくらかの質量パーセントの式(II)または(III)の第1級または第2級アミンをTMHDA水溶液に添加しても、特に低い酸性ガス分圧では、得られる取込量の変化は極僅かである。したがって、本発明による吸収水溶液を使用すると、脱酸ユニット(ガス処理およびCO2捕捉)の投資コストおよび運転コストを削減することができる。
【0057】
さらに、N,N,N’,N’−テトラメチルヘキサン−1,6−ジアミン分子は、その分解、特に熱分解に対する耐性が興味深い。したがって、溶媒をより高い温度で再生することができ、ひいては、酸性ガス再注入の場合において興味深い場合には、より高い圧力で酸性ガスを得ることができる。これは、再注入および隔離の前に酸性ガスを圧縮する必要がある燃焼後CO2捕捉の場合に、特に興味深い。いくらかの質量パーセントの式(II)または(III)の第1級または第2級アミンを添加しても、その低い濃度を鑑みて、この分子の分解速度は非常に遅いため、この結論は変わらない。さらに、式(II)または(III)の第1級アミンもまた、その分解に対する耐性が興味深い。本発明による吸収水溶液を使用すると、脱酸ユニットの運転コスト、ならびに酸性ガス圧縮に関連した投資コストおよび運転コストを削減することができる。
【0058】
さらに、式(II)または(III)の第1級または第2級アミンにより活性化されたN,N,N’,N’−テトラメチルヘキサン−1,6−ジアミンもしくはTMHDAの水溶液の特異的な特徴は、文献FR-2,898,284に記載されているような、加熱による分別再生を用いた脱酸プロセスにおいて使用することができるということである。
【0059】
〔N,N,N’,N’−テトラメチルヘキサン−1,6−ジアミンの合成〕
N,N,N’,N’−テトラメチルヘキサン−1,6−ジアミンは、例えばJP1998-341556、EP1998-105636、JP1994-286224、JP1993-25241、EP1993-118476、EP1988-309343、JP1986-124298、JP1985-147734、DE1985-3523074、JP1983-238221、およびJP1983-234589といった文献に記載されている、当業者に知られた様々な合成経路に従い調製することができる。
【0060】
これらの文献に記載の反応は、概して、様々な触媒組成物、例えばPt、Pd、Rh、Ru、Cu、Ni、Coによる触媒反応である。基礎的な化学生成物から特定されたこれらの経路のいくつかを以下に示すが、[Cat.]は、一般的に触媒の使用を指す。
【0061】
【化7】

【0062】
〔ガス状流出物の性質〕
本発明による吸収溶液は、天然ガス、合成ガス、燃焼排煙、製油所ガス、クラウステールガス、バイオマス発酵ガス、セメント工場ガスおよび焼却炉排煙といったガス状流出物を脱酸するために使用することができる。これらのガス状流出物は、CO2、H2S、メルカプタン、COS、CS2といった酸性化合物のうちの1種または複数種を含有する。
【0063】
燃焼排煙は、特に、ボイラにおける、または例えば発電のための燃焼ガスタービン用の炭化水素、バイオガス、石炭の燃焼により生成される。これらの排煙は、20℃から60℃の間の範囲の温度、1バールから5バール(0.1から0.5MPa)の間の範囲の圧力であり、また50%から80%の間の窒素、5%から40%の間の二酸化炭素、1%から20%の間の酸素、ならびに、脱酸プロセスの下流側で除去されていない場合はSOxおよびNOx等のいくつかの不純物を含み得る。
【0064】
天然ガスは、主にガス状炭化水素からなるが、CO2、H2S、メルカプタン、COS、CS2といった酸性化合物のいくつかを含有し得る。これらの酸性化合物の割合は非常に変動的であり、CO2およびH2Sの場合、最大40%に達し得る。天然ガスの温度は、20℃から100℃の間の範囲となり得る。処理される天然ガスの圧力は、10バールから120バール(1から12MPa)の間の範囲となり得る。
【0065】
〔吸収水溶液の組成〕
N,N,N’,N’−テトラメチルヘキサン−1,6−ジアミンは、様々な濃度であってもよく、例えば、水溶液中10質量%から90質量%の間、好ましくは20質量%から60質量%の間、より好ましくは30質量%から50質量%の間の範囲である。
【0066】
一般式(II)または(III)の化合物は、ゼロではない濃度を有し、例えば、水溶液中50質量%未満、またはさらに30質量%未満、好ましくは20質量%未満、より好ましくは10質量%未満である。
【0067】
一般式(II)の化合物の網羅的ではないリストを以下に示す:
ベンジルアミン、
N−メチルベンジルアミン、
N−エチルベンジルアミン、
α−メチルベンジルアミン、
α−エチルベンジルアミン、
フェネチルアミン、
テトラヒドロイソキノリン、
イソインドリン。
【0068】
一般式(III)の化合物の網羅的ではないリストを以下に示す:
ブチルアミン、
N−ブチルピペラジン。
【0069】
吸収溶液は、少なくとも10質量%の水、一般的には10質量%から90質量%の間の水、より好ましくは少なくとも50質量%、例えば60質量%から70質量%の間の水を含有し得る。
【0070】
好ましい実施形態において、本発明による吸収溶液は、62質量%から68質量%の水、32質量%から38質量%のアミンを含有し、このアミンは、活性剤としての少なくとも1種の式(II)または(III)の第1級または第2級アミンと混合されたN,N,N’,N’−テトラメチルヘキサン−1,6−ジアミンを含み、この活性剤は、最終的な吸収溶液の1質量%から10質量%の間の値を示す。
【0071】
この種の配合は、産業排煙におけるCO2捕捉の場合、または所望の仕様を超えるCO2を含有する天然ガスの処理に特に興味深い。実際に、この種の用途において、吸収塔の高さを低減するためにCO2捕捉反応速度を増加させることが望ましい。
【0072】
一実施形態において、式(II)または(III)の第1級または第2級アミンにより活性化されたN,N,N’,N’−テトラメチルヘキサン−1,6−ジアミンをベースとした吸収溶液は、他の有機化合物を含んでもよい。したがって、本発明による吸収溶液は、ガス状流出物の少なくとも1種または複数種の酸性化合物の溶解度を増加させることができる、酸性化合物に対して非反応性の有機化合物(一般に物理溶媒と呼ばれる)を含有してもよい。例えば、吸収溶液は、5質量%から50質量%の間の物理溶媒、例えばアルコール、グリコールエーテル、ラクタム、N−アルキル化ピロリドン、N−アルキル化ピペリドン、シクロテトラメチレンスルホン、N−アルキルホルムアミド、N−アルキルアセトアミド、エーテル−ケトンまたはアルキルホスフェートならびにこれらの誘導体等を含んでもよい。制限されない例として、それは、メタノール、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、スルホランまたはN−ホルミルモルホリンであってもよい。
【0073】
一実施形態において、式(II)または(III)の第1級または第2級アミンにより活性化されたN,N,N’,N’−テトラメチルヘキサン−1,6−ジアミンをベースとした吸収溶液は、有機または無機酸を含んでもよい。使用され得る酸性化合物の網羅的ではないリストを以下に示す:
ギ酸、
シュウ酸、
酢酸、
プロパン酸、
ブタン酸、
アミノ酸(グリシン、タウリン等)、
リン酸、
亜リン酸、
ピロリン酸、
硫酸、
亜硫酸、
亜硝酸、
塩酸。
【0074】
〔ガス状流出物から酸性化合物を除去する方法(図1)〕
ガス状流出物を脱酸するための吸収溶液の実装は、吸収段階、続いて再生段階を行うことにより、概略的に達成される。吸収段階は、除去される酸性化合物を含有するガス状流出物を、吸収塔C1内で吸収溶液と接触させる段階にある。処理されるガス状流出物(〜1)および吸収溶液(〜4)は、塔C1に供給される。接触時、吸収溶液(〜4)のアミン官能基を有する有機化合物は、塔C1の頂部から出る酸性化合物が除去されたガス状流出物(〜2)、および塔C1の底部から出る酸性化合物が富化された吸収溶液(〜3)が得られるように、流出物(〜1)中に含有される酸性化合物と反応する。酸性化合物が富化された吸収溶液(〜3)は交換器E1に送られ、そこで再生塔C2から来るストリーム(〜6)により加熱される。酸性化合物を含み、交換器E1の出口で加熱された吸収溶液(〜5)は、蒸留塔(もしくは再生塔)C2に供給され、そこで酸性化合物を含んだ吸収溶液の再生が行われる。したがって、再生段階は、特に、ガスの形態で塔C2の頂部から出る酸性化合物(〜7)を放出するために、酸性化合物が富化された吸収溶液を加熱し、そして場合によっては膨張させる段階にある。再生された、すなわち酸性化合物が除去された吸収溶液(〜6)は、塔C2の底部から出て交換器E1に流入し、そこで上述のようなストリーム(〜3)に熱を与える。再生され冷却された吸収溶液(〜4)は、次いで吸収塔C1に再循環される。
【0075】
酸性化合物吸収段階は、1バールから120バール(0.1から12MPa)の間、天然ガスの処理においては好ましくは20バールから100バール(2から10MPa)の間、産業排煙の処理においては好ましくは1バールから3バール(0.1から0.3MPa)の間の範囲の圧力、および20℃から100℃の間、好ましくは30℃から90℃の間、より好ましくは30℃から60℃の間の範囲の温度で行うことができる。実際に、本発明による方法は、吸収塔C1内の温度が30℃から60℃の間の範囲である場合、優れた酸性化合物吸収能を伴う。
【0076】
本発明による方法の再生段階は、任意選択で1つまたは複数の膨張段階で補完された、熱再生により行うことができる。
【0077】
N,N,N’,N’−テトラメチルヘキサン−1,6−ジアミンの高い安定性を鑑みると、本発明による吸収溶液は蒸留塔内で高温で再生することが可能である。一般に、熱再生段階は、100℃から180℃の間、好ましくは130℃から170℃の間の範囲の温度、および1バールから10バール(0.1から1MPa)の間の範囲の圧力で行われる。酸性ガスを再注入することが望ましい場合、好ましくは、蒸留塔内での再生は、155℃から165℃の間の範囲の温度、および6バールから8.5バール(0.6から0.85MPa)の間の範囲の圧力で行われる。酸性ガスが大気、またはクラウスプロセスもしくはテールガス処理プロセス等の下流処理プロセスに送られる場合、好ましくは、蒸留塔内での再生は、115℃から130℃の間の範囲の温度、および1.7バールから3バール(0.17から0.3MPa)の間の範囲の圧力で行われる。
【0078】
さらに、所与の吸収溶液における脱混合現象(吸収溶液内での液液相分離)は、温度上昇により誘引され得る。前記脱混合現象は、本方法の操作条件および/または吸収溶液の組成を選択することにより制御され得る。この場合、本発明による方法の変形形態(図2)、特に吸収溶液を加熱することによる分別再生を使用することができる。
【0079】
〔加熱による分別再生を用いてガス状流出物から酸性化合物を除去する方法(図2)〕
ガス状流出物を脱酸するための吸収溶液の実装は、吸収段階、続いて吸収溶液加熱段階、続いて吸収溶液の液液分離段階、続いて再生段階を行うことにより、概略的に達成される。吸収段階は、除去される酸性化合物を含有するガス状流出物を、吸収塔C1内で吸収溶液と接触させる段階にある。処理されるガス状流出物(〜1)および吸収溶液(〜4)は、塔C1に供給される。接触時、吸収溶液(〜4)のアミン官能基を有する有機化合物は、塔C1の頂部から出る酸性化合物が除去されたガス状流出物(〜2)、および塔C1の底部から出る酸性化合物が富化された吸収溶液(〜3)が得られるように、流出物(〜1)中に含有される酸性化合物と反応する。加熱段階は、2相溶液(〜5)が得られるように、例えば熱交換器E1に通すことにより吸収溶液(〜3)の温度を上昇させる段階にある。2相溶液(〜5)はデカンタBS1に送られ、そこで液液分離段階が行われるが、この段階は、酸性ガスに富む相(〜12)を再生塔C2に送ることにより、および酸性ガスに乏しい相(〜14)を、任意選択で交換器E3を通過させた後、吸収塔C1に送ることにより、加熱段階において得られた2つの相を分離する段階にある。
【0080】
交換器E1において吸収溶液(〜3)を加熱することにより放出されるガス相は、BS1において液相から分離され、ライン(〜13)を通して排気される。
【0081】
したがって、再生段階は、特に、ガスの形態で塔C2の頂部から出る酸性化合物(〜7)を放出するために、酸性化合物が富化された吸収溶液(〜12)を蒸留塔C2内で加熱し、場合によっては膨張させる段階にある。再生された、すなわち酸性化合物が除去された吸収溶液(〜6)は、塔C2の底部から出て交換器E1に流入し、そこで上述のようなストリーム(〜3)に熱を与える。再生され冷却された吸収溶液(〜4)は、次いで、任意選択で新たな交換器E2を通過した後、吸収塔C1に再循環される。蒸留塔C2の底部において、吸収溶液の一部がライン(〜10)を通して取り出され、リボイラR1において加熱され、ライン(〜11)を通して再び塔C2の底部に供給される。
【0082】
酸性化合物吸収段階は、1バールから120バール(0.1から12MPa)の間、天然ガスの処理においては好ましくは20バールから100バール(2から10MPa)の間、産業排煙の処理においては好ましくは1バールから3バール(0.1から0.3MPa)の間の範囲の圧力、および20℃から100℃の間、好ましくは30℃から90℃の間、より好ましくは30℃から60℃の間の範囲の温度で行うことができる。実際に、本発明による方法は、吸収塔C1内の温度が30℃から60℃の間の範囲である場合、優れた酸性化合物吸収能を伴う。
【0083】
本発明による方法の再生段階は、任意選択で1つまたは複数の膨張段階で補完された、熱再生により行うことができる。
【0084】
N,N,N’,N’−テトラメチルヘキサン−1,6−ジアミンの高い安定性を鑑みると、本発明による吸収溶液は蒸留塔内で高温で再生することが可能である。一般に、熱再生段階は、100℃から180℃の間の範囲の温度、および1バールから10バール(0.1から1MPa)の間の範囲の圧力で行われる。酸性ガスを再注入することが望ましい場合、好ましくは、蒸留塔内での再生は、155℃から165℃の間の範囲の温度、および6バールから8.5バール(0.6から0.85MPa)の間の範囲の圧力で行われる。酸性ガスが大気、またはクラウスプロセスもしくはテールガス処理プロセス等の下流処理プロセスに送られる場合、好ましくは、蒸留塔内での再生は、115℃から130℃の間の範囲の温度、および1.7バールから3バール(0.17から0.3MPa)の間の範囲の圧力で行われる。
【0085】
〔例〕
これらの例においては、一般式(II)または(III)の化合物と組み合わせて、N,N,N’,N’−テトラメチルヘキサン−1,6−ジアミンの水溶液を吸収溶液として使用する。使用する一般式(II)の化合物は、例えば、テトラヒドロイソキノリン(THIQ)およびN−メチルベンジルアミン(N−MetBzA)である。使用する一般式(III)の化合物は、例えば、N−ブチルピペラジン(N−ButPz)およびn−ブチルアミンである。
【0086】
【表1】

【0087】
まず、配合A、B、CおよびDの物理化学的特性(すなわち液液平衡)が、N,N,N’,N’−テトラメチルヘキサン−1,6−ジアミンの水溶液の物理化学的特性、または、一般式(II)もしくは(III)に適合しない第1級または第2級アミンと組み合わされたN,N,N’,N’−テトラメチルヘキサン−1,6−ジアミンの水溶液の物理化学的特性とは非常に異なることを示す。実例として選択されたこれらの化合物は、ピペラジン(Pz)、3−メチルアミノプロパンアミン(MAPA)、ジエタノールアミン(DEA)およびモノエタノールアミン(MEA)である。
【0088】
【表2】

【0089】
次いで、配合A、BおよびCの性能(すなわち捕捉能、安定性)が、TMHDAの35質量%水溶液(すなわち配合E)の性能と実質的に等価であることを示す。
【0090】
次いで、それらの性能を、燃焼後排煙捕捉用途のための参照溶媒であるモノエタノールアミンの30質量%水溶液の性能、および、天然ガス処理用途のための参照溶媒であるメチルジエタノールアミンの40質量%水溶液の性能と比較する。
【0091】
最後に、それらの性能(すなわち、捕捉能、安定性)を、その構造がN,N,N’,N’−テトラメチルヘキサン−1,6−ジアミンの構造と類似する別の第3級ジアミンである、燃焼後排煙捕捉用途のためのN,N,N’,N’−テトラメチルプロパン−1,3ジアミン(TMPDA)の35%水溶液の性能と比較する。
【0092】
〔例1:液液平衡〕
脱混合現象は、N,N,N’,N’−テトラメチルヘキサン−1,6−ジアミンの水溶液に添加される活性剤の性質により制御され得る。
【0093】
N,N,N’,N’−テトラメチルヘキサン−1,6−ジアミン系吸収溶液の組成、ならびに、可能性のある第1級または第2級アミンの存在、処理されるガスの組成(すなわちCO2分圧)および吸収溶液の温度に依存して、液液相分離が生じ得る(脱混合現象)。実験室試験(完全撹拌気液反応器内)では、平衡時のCO2分圧、ひいてはCO2取込量(α=nacid gas/namine)を徐々に増加させることにより、所与の配合(すなわち、アミンおよび水の濃度)に対し、所与の温度で脱混合が生じる条件を決定することができる。さらに、溶媒が2相溶媒である場合、その組成を決定するために、2つの液相を回収して分析することができる(クロマトグラフィー分析、酸塩基または容量滴定)。
【0094】
これらの実験室試験の結果によれば、吸収溶液は、脱酸方法、または図2に記載のような加熱による分別再生を用いた脱酸方法において使用することができる。一般式(II)または(III)の化合物により活性化されたN,N,N’,N’−テトラメチルヘキサン−1,6−ジアミンをベースとした吸収溶液は、吸収器の操作条件(すなわち、概して40℃)に対応する操作条件下における単一相系に対し、および、供給物/流出物交換器(すなわち、概して90℃)を通過し、高速液液相分離を伴う2相系に対し作用するのを可能にするため、この種の方法に特に好適である。
【0095】
・1/40℃での液液平衡
ここでは、低い吸収器温度に対応する40℃での液液平衡について検討する。3つの例により、活性剤の構造、活性剤およびTMHDAの各濃度、および全アミン濃度の重要性を強調することができる。
【0096】
・1−A/活性剤の構造
ここでは、低い吸収器温度に対応する40℃での液液平衡について検討する。35質量%の全アミン濃度を有する配合に対し、実験室試験を行う。以下の表は、様々な配合に対し得られた結果をまとめたものである。
【0097】
【表3】

【0098】
上記の表から、5%の割合の一般式(II)または(III)の活性剤により、活性剤の非存在下(配合E)で観察される脱混合現象を完全に排除することができることを認めることができる(配合A、BおよびC)。したがって、上記配合A、BおよびCは、吸収器に対応する操作条件下で単一相の吸収溶液を有することができるため、興味深い。
【0099】
一方、一般式(II)または(III)に適合しない活性剤では、脱混合現象を完全に排除することができないことを認めることができる(配合FおよびG)。
【0100】
・1−B/活性剤濃度
ここでは、低い吸収器温度に対応する40℃での液液平衡について検討する。35質量%の全アミン濃度を有するAの種類の配合に対し、実験室試験を行う。以下の表は、様々なテトラヒドロイソキノリン濃度に対し得られた結果をまとめたものである。
【0101】
【表4】

【0102】
一般式(II)または(III)の活性剤に関して観察される効果は、極めて少ない割合の活性剤(すなわち、2.5質量%未満)、例えばテトラヒドロイソキノリン(配合A)により、活性剤の非存在下(配合E)で観察される脱混合現象を完全に排除することができるため、さらに驚くべきものである。
【0103】
・1−C/全アミン濃度
ここでは、低い吸収器温度に対応する40℃での液液平衡について検討する。56質量%の全アミン濃度を有する配合に対し、実験室試験を行う。以下の表は、様々な配合に対し得られた結果をまとめたものである。
【0104】
まず、全アミン濃度が高いと、活性剤の非存在下(配合E)で観察される脱混合現象がさらに顕著であることを認めることができる。全濃度が35質量%である場合(例1−Aに記載の場合)、0.54の取込量値で2相領域に入り、1.50の取込量値でこの領域から脱する。全濃度が56質量%である場合(例1−Cに記載の場合)、0.1の取込量値で2相領域に入り、利用可能な機器では、2相領域から脱する取込量を決定するのは困難である。
【0105】
【表5】

【0106】
さらに、上記の表から、6%の一般式(II)または(III)の活性剤により、活性剤の非存在下(配合E)で観察される脱混合現象を完全に排除することができることを認めることができる(配合BおよびD)。したがって、配合BおよびDは、吸収器に対応する操作条件下で単一相の吸収溶液を有することができるため、興味深い。
【0107】
一方、一般式(II)または(III)に適合しない活性剤では、分離現象を完全に排除することができないことを認めることができる(配合HおよびI)。
【0108】
・2/90℃での液液平衡
ここでは、脱酸方法における供給物/流出物交換器の通過後の典型的な温度に対応する90℃での液液平衡について検討する。
【0109】
N,N,N’,N’−テトラメチルヘキサン−1,6−ジアミン系吸収溶液の組成、ならびに、可能性のある第1級または第2級アミンの存在、処理されるガスの組成および吸収溶液の温度に依存して、液液相分離が生じ得る(脱混合現象)。
【0110】
実例として、Aの種類の配合、例えばN,N,N’,N’−テトラメチルヘキサン−1,6−ジアミン濃度30質量%およびテトラヒドロイソキノリン濃度5質量%に対し、吸収溶液と平衡した酸性ガスの様々な分圧において90℃で得られた、下相および上相の組成(すなわち、アミンの濃度および、取込量=アミンのモル数に対する捕捉された酸性ガスのモル数)を以下に示す。
【0111】
【表6】

【0112】
まず、様々なCO2分圧において得られる上相は、非常に高いアミン濃度および非常に低い取込量値(0.1未満)を有することを認めることができる。逆に、様々なCO2分圧において得られる下相は、低から中程度のアミン濃度および高い取込量値を有する。平衡時のCO2分圧が高い程、下相中のアミン濃度は高い。
【0113】
このように、供給物/流出物交換器の通過後に得られる相(複数)を分離することができ、CO2に乏しい相(上相)は吸収器に直接再循環させることができ、一方CO2に富む相(下相)は再生段階に送る必要がある。この操作により、再生器における溶媒流量を低減させ、ひいては溶媒再生エネルギーを低減させることができる。
【0114】
さらに、活性剤濃度は常に、下相中よりも上相中においてより高いことを認めることができる。これは、活性剤が再生段階に不利益をもたらすことなく、CO2捕捉反応速度を増加させるように活性剤の濃度を増加させることができるため、Aの種類の配合の別の利点である。実際に、供給物/流出物交換器の後に行われる液液分離に起因して、活性剤の一部は、吸収器内のループを流通する。
【0115】
〔例2:捕捉能〕
・1/捕捉能に対する活性剤の影響
ここでは、一般式(II)または(III)の第1級または第2級アミンにより活性化されたTMHDAの水溶液の捕捉能について検討する。例として、以下の表では、一般式(II)または(III)の様々な活性剤を含まない場合(配合E)、および含む場合(配合A、BおよびC)の、全アミン濃度35%に対し様々なCO2分圧において40℃で得られた取込量(α=nacid gas/namine)を比較することができる。
【0116】
【表7】

【0117】
いくらかの質量パーセントのTMHDAをいくらかの質量パーセントの活性剤と置換することによるTMHDAの捕捉能への影響は、特に低いCO2分圧において、極めて低いことを認めることができる。
【0118】
単純化のために、次の段落において、35質量%TMHDA水溶液(配合E)の特性のみを、天然ガス処理およびCO2捕捉用途に一般的に使用されるアミンの特性と比較する。
【0119】
・2/他の吸収溶液との捕捉能の比較
例として、35質量%TMHDA水溶液(配合E)と30質量%モノエタノールアミンおよび35質量%TMPDA吸収溶液との間で、様々なCO2分圧において40℃で得られた取込量(α=nacid gas/namine)を比較することができる。
【0120】
【表8】

【0121】
例として、35質量%TMHDA水溶液(配合E)と40質量%メチルジエタノールアミン吸収溶液との間で、様々なH2S分圧において40℃で得られた取込量(α=nacid gas/namine)を比較することができる。
【0122】
【表9】

【0123】
・3/結論
これらの例は、特に低い酸性ガス分圧において、一般式(II)または(III)の第1級または第2級アミンにより活性化されたTMHDAの水溶液を用いて得ることができる高い取込量値を示している。
【0124】
〔例3:安定性〕
N,N,N’,N’−テトラメチルヘキサン−1,6−ジアミン分子は、脱酸ユニットにおいて生じ得る分解に対し高い耐性を有するという特異的な特徴を有する。
【0125】
一般式(II)または(III)の活性剤もまた、脱酸ユニットにおいて生じ得る分解に対し高い耐性を有するという特異的な特徴を有する。
【0126】
実験室規模では、閉鎖反応器内でアミン水溶液を分解させ、温度Tに加熱し、異なるガス(CO2、O2、H2S、N2)の分圧PPの圧力下に置くことができる。液相は、棒磁石を用いて撹拌する。所与の時間後、液相の試料を採取し、様々な技術、特にガスクロマトグラフィーを使用して分析することができる。以下の表は、下記式により定義される、様々な条件下での15日間の吸収溶液の分解速度TDを記載している。
【0127】
【数1】

【0128】
式中、[Amine]は、分解された試料中のアミン濃度であり、[Amine]°は、分解されていない溶液中のアミン濃度である。
【0129】
他のすべての条件が等しい状態で、分解速度TDが低い程、アミンはより安定であるとみなすことができる。
【0130】
TMHDAおよび一般式(II)または(III)の活性剤を含む配合において、活性剤の濃度は極めて低くすることができる(例えば2.5質量%、例1のセクション1−Bを参照)。さらに、加熱による分別再生を用いた方法を実践する場合、活性剤の大部分は吸収器内のループを流通する(例1のセクション2を参照)。したがって、高温により分解反応の大部分が生じる再生器内の活性剤濃度は、極めて低くなり得る。これらの議論は、これらの活性剤が、本発明による吸収方法において分解されにくいという点に集約される。
【0131】
分解試験が非常に厳しい条件下で行われることを鑑みると、多くの分解生成物が生成され得る。したがって、いくらかの質量パーセントの第1級または第2級アミンにより活性化されたTMHDA配合に対し分解試験を行う場合、活性剤の分解速度を確実に定量するのは非常に困難である。したがって、活性剤のみの安定性は、独立した一連の試験を実行しながら試験した。
【0132】
まず、TMHDAのみに対し得られた結果を記載し、次いで一般式(II)の活性剤のみに対し得られた結果を記載する。
【0133】
・1/TMHDAの安定性
以下の表は、異なる酸性ガスの非存在下および存在下での、140℃の温度における様々なアミン水溶液の分解速度TDを記載している。
【0134】
【表10】

【0135】
以下の表は、再注入用途のために高圧の酸性ガスを得ることが望ましい場合に再生器底部において生じ得る分解の典型である、酸性ガスの非存在下および存在下での、180℃の温度における様々なアミン水溶液の分解速度TDを記載している。
【0136】
【表11】

【0137】
この例は、主にN,N,N’,N’−テトラメチルヘキサン−1,6−ジアミンで構成される吸収溶液を使用することにより、従来技術のアミン系吸収溶液(メチルジエタノールアミンおよびモノエタノールアミン)と比較して、低い分解速度を得ることができることを示している。さらに、N,N,N’,N’−テトラメチルプロパン−1,3−ジアミン(TMPDA)等の非常に近い構造の分子よりもはるかに安定であることも観察され得る。
【0138】
・2/一般式(II)の活性剤の安定性
以下の表は、一方ではCO2の存在下、他方ではO2の存在下での、140℃の温度における一般式(II)に適合するテトラヒドロイソキノリンおよびN−メチルベンジルアミン等の様々な活性剤水溶液、ならびに当業者に知られた様々な活性剤水溶液の分解速度TDを記載している。
【0139】
【表12】

【0140】
この例は、一般式(II)に適合する第1級または第2級アミンを使用することにより、例えば燃焼排煙中において、CO2の存在下、含有される酸素が存在する場合でも、従来技術の活性剤(ジエタノールアミンおよびモノエタノールアミン)と比較して低い分解速度を得ることができることを示している。
【0141】
・3/結論
したがって、より高い温度で本発明による吸収溶液を再生することが可能であり、ひいてはより高い圧力で酸性ガスを得ることが可能である。これは、再注入の前に液化するために酸性ガスを圧縮する必要がある燃焼後CO2捕捉の場合に、特に興味深い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガス状流出物の酸性化合物を吸収するための吸収溶液であって、
a)水と、
b)少なくとも1種の式(I)のアミン(N,N,N’,N’−テトラメチルヘキサン−1,6−ジアミン)と、
【化1】

c)式(II)または(III)の1つに適合する第1級または第2級アミンの中から選択される、少なくとも1種の活性化化合物と
を含み、
式(II)は、
【化2】

(ここで、
n=1または2であり、
基R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7およびRはそれぞれ、水素原子、炭素数1から2のアルキル基からなる群の要素の中から独立して選択される)であり、
式(III)は、
【化3】

(ここで、
Rは、炭素数4からの直鎖または分枝鎖アルキル基であり、
基R1およびR2は、
水素原子、
炭素数1から4の直鎖または分枝鎖アルキル基、

【化4】

(ここで、qは2または3であり、基R3、R4は、水素原子および炭素数1から4の直鎖もしくは分枝鎖アルキル基の中から独立して選択される)からなる群の要素の中から独立して選択される)である、吸収溶液。
【請求項2】
活性化化合物が、式(II)に適合し、基Rが、5個または6個の原子を有するヘテロ環を形成するように、R3またはR7により式(II)の芳香環に結合されている、請求項1に記載の吸収溶液。
【請求項3】
活性化化合物が、式(III)に適合し、基Rが、5個または6個の原子を有するヘテロ環を形成するように、R1またはR2に結合している、請求項1に記載の吸収溶液。
【請求項4】
活性化化合物が、式(III)に適合し、基R3が、5個または6個の原子を有するヘテロ環を形成するように、R1またはR2に結合している、請求項1に記載の吸収溶液。
【請求項5】
10質量%から90質量%のN,N,N’,N’−テトラメチルヘキサン−1,6−ジアミンを含む、先行する請求項に記載の吸収溶液。
【請求項6】
50質量%未満のゼロではない割合の活性化化合物(複数可)を含む、先行する請求項のいずれか一項に記載の吸収溶液。
【請求項7】
活性化化合物(複数可)が、
ベンジルアミン、
N−メチルベンジルアミン、
N−エチルベンジルアミン、
α−メチルベンジルアミン、
α−エチルベンジルアミン、
フェネチルアミン、
テトラヒドロイソキノリン、
イソインドリン、
ブチルアミン、
N−ブチルピペラジン
からなる群から選択される、先行する請求項のいずれか一項に記載の吸収溶液。
【請求項8】
物理溶媒を含む、先行する請求項のいずれか一項に記載の吸収溶液。
【請求項9】
有機または無機酸を含む、先行する請求項のいずれか一項に記載の吸収溶液。
【請求項10】
ガス状流出物中に含有される酸性化合物を除去するための方法であって、
酸性化合物が除去されたガス状流出物および酸性化合物を含んだ吸収溶液を得るように、請求項1から9のいずれか一項に記載の吸収溶液に前記流出物を接触させることによる、酸性化合物吸収段階と、
次いで、酸性化合物をガス状流出物の形態で放出して、再生された吸収溶液を得るために、酸性化合物を含んだ溶液の少なくとも一部が蒸留塔に送られる、再生段階と
を含む方法。
【請求項11】
酸性化合物吸収段階が、1バールから120バール(0.1から12MPa)の間の範囲の圧力、および30℃から100℃の間の範囲の温度で行われる、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
酸性化合物吸収段階が、30℃から60℃の間の範囲の温度で行われる、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
再生段階が、1バールから10バール(0.1から1MPa)の間の範囲の圧力、および100℃から180℃の間の範囲の温度で行われる、請求項10から12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
酸性化合物を含んだ吸収溶液の膨張の第1の段階が、再生段階の前に行われる、請求項10から13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記吸収段階の後、酸性化合物を含んだ吸収溶液を加熱することによる少なくとも1つの液液分離段階が続き、次いで酸性化合物を含んだ吸収溶液の再生の少なくとも1つの段階が続く、請求項10から14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
請求項10から15のいずれか一項に記載の天然ガスを処理するための方法。
【請求項17】
請求項10から16のいずれか一項に記載の産業起源のガスを処理するための方法。
【請求項18】
CO2捕捉のための、請求項17に記載の産業起源のガスを処理するための方法。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2011−528993(P2011−528993A)
【公表日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−520542(P2011−520542)
【出願日】平成21年7月21日(2009.7.21)
【国際出願番号】PCT/FR2009/000901
【国際公開番号】WO2010/012883
【国際公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【出願人】(591007826)イエフペ エネルジ ヌヴェル (261)
【氏名又は名称原語表記】IFP ENERGIES NOUVELLES
【Fターム(参考)】