説明

NES含有タンパク質核外移行阻害剤とその利用

【課題】 新規なNES(核外移行シグナル)含有タンパク質核外移行阻害剤およびその利用を提供する。
【解決手段】 本発明のNES含有タンパク質核外移行阻害剤は、オイゲノールアセテート等のフェニルプロパノイド、すなわち、下記の一般式(I)により表される化合物、その互変異体および立体異性体、ならびにそれらの塩からなる群から選択される少なくとも一つの物質を有効成分とし、これにより、抗腫瘍剤、抗癌剤、制癌剤、抗転移剤、抗HIV剤等の医薬品、飲食品、サプリメント、およびNES含有タンパク質核外移行メカニズム研究用ツール等の種々の用途に利用可能である。
【化1】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、NES(核外移行シグナル)含有タンパク質核外移行阻害剤とその利用に関し、例えば、抗腫瘍剤、抗癌剤、制癌剤、抗転移剤、抗HIV剤等の医薬品、飲食品、サプリメント、またはNES含有タンパク質核外移行メカニズム研究用ツールとしての利用に関する。
【背景技術】
【0002】
真核生物は、生存あるいは増殖する上で、核膜を介して核の内外を明確に区別する必要がある。核膜には、核膜孔と呼ばれる孔が存在する。分子が核膜孔を介して核内または核外に移行するに際しては、低分子は自由な移行が可能であるが、巨大分子については特殊な機構が必要となっている。
【0003】
最近になり、核外移行についての研究が進められ、これまで不明であった核から細胞質へのタンパク質の輸送メカニズムの一端が解明された。例えば、分子内に核外移行シグナル(NES)と呼ばれる10残基程度のロイシンリッチなアミノ酸配列を有するタンパク質は、輸送担体CRM1によって認識され、CRM1と結合して核外へと搬出される(核外移行する)ことが報告されている(例えば、下記の非特許文献1参照)。
【0004】
また、さらなる研究により、NESを有するタンパク質として、細胞増殖に関わるMEKやHIVの増殖に必須のRevタンパク質などが明らかにされている。
【0005】
まず、MEK(「MAPK/ERKkinase」、「MAPKK」とも呼ばれる。)について説明する。このMEKは、大腸癌、膵臓癌、腎臓癌由来の数種の腫瘍細胞で活性化を受けているタンパク質である。近年の研究により、MEKは、NESを有しており、細胞質へ輸送された後に機能を発現することが明らかにされている。
【0006】
また、MEKは、MAPキナーゼ系(MAPキナーゼカスケード)の一員としてMAPキナーゼをリン酸化する。MAPキナーゼは、様々な転写因子を活性化することにより細胞内の情報伝達に重要な役割を果たし、細胞増殖促進のほか、細胞分化誘導、細胞運動性亢進など多岐にわたる細胞活動に関わっている。
【0007】
このように、MEKおよびMAPキナーゼ系は生命活動に重要な役割を担っており、多くの疾患がMEKおよびMAPキナーゼ系の働きに関係していると考えられる。例えば、各種癌においては、癌細胞の増殖はMAPキナーゼ系の働きに依るところが大きいと考えられる。したがって、MAPキナーゼ系の一員であるMEKの機能を阻害する物質は、各種癌に対する治療薬(即ち、抗癌剤・制癌剤)として癌治療に広く利用できる可能性がある。
【0008】
次に、Revタンパク質について説明する。Revタンパク質は、HIV遺伝子によりコードされるRNA結合タンパク質である。このRevタンパク質は、核外移行シグナル(NES)を持ち、核内でHIV遺伝子と結合したのち、核外へと移行し、HIV遺伝子が翻訳されてウィルス構成タンパクが作られる。このように、Revタンパク質は、ウィルスmRNAの核外輸送に必要であり、ひいてはHIVの複製・増殖に必須のタンパク質といえる。
【0009】
上述のように、Revタンパク質の核外移行はHIVの増殖に必須であることから、Revタンパク質がHIV制圧のためのターゲットとして注目を集めている。例えば、Revタンパク質の機能を阻害・抑制する物質として、これまでleptomycinB(LMB)およびvaltrate等が報告されている(下記の非特許文献2・3参照)。
【0010】
このように、MEKやRevタンパク質等のNES含有タンパク質の核外移行を阻害する物質は、各種医薬シーズとしての展開が期待される。また、そのようなNES含有タンパク質核外移行阻害剤は、NES含有タンパク質核外移行の詳細なメカニズム解明のための生化学的ツール分子としても有用であると考えられる。
【0011】
【非特許文献1】Kudo, N. et al., Experimental Cell Research, 1998, 242, 540-547頁
【非特許文献2】Wolff, B. et al., Chemistry & Biology, 1997, 4, 139-147頁
【非特許文献3】Murakami, N. et al., Bioorg. Med. Chem. Lett., 2002, 12, 2807-2810頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
したがって、本発明の目的は、新規なNES(核外移行シグナル)含有タンパク質核外移行阻害剤と、それを用いた抗腫瘍剤、抗癌剤、制癌剤、抗転移剤、抗HIV剤等の医薬品、飲食品、サプリメント、およびNES含有タンパク質核外移行メカニズム研究用ツールを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意研究を重ねた。具体的には、まず、NESとCRM1との結合を阻害することでRevタンパク質の核外移行阻害活性を示すアッセイ系を用い、薬用植物抽出エキスをソースとしてスクリーニングを行った。さらに、前記スクリーニングの結果強力な活性を示した生薬“丁子”から活性試験結果を指標に各種クロマトグラフィーを用いて分画を進めた。その結果、丁子に含まれるNES含有タンパク質核外移行阻害物質が、オイゲノールアセテート(eugenyl acetate)であることが分かった。そして、前記オイゲノールアセテート等のフェニルプロパノイドが、NES(核外移行シグナル)配列を含有するタンパク質の核外移行を阻害し核内へと集積させることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち、本発明のNES含有タンパク質核外移行阻害剤は、下記の一般式(I)により表される化合物、その互変異体および立体異性体、ならびにそれらの塩からなる群から選択される少なくとも一つの物質を有効成分とする。
【化3】

前記式(I)中、
およびRは、それぞれ独立に、水素原子、置換基を有するか有しない飽和もしくは不飽和の炭化水素基(直鎖状でも分枝状でも環状でも良い)、アシル基、カルバモイル基、または、アルコキシカルボニル基であり、
〜Xは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン、または、置換基を有するか有しない飽和もしくは不飽和の炭化水素基(直鎖状でも分枝状でも環状でも良い)である。
【0015】
また、本発明の製品は、前記本発明のNES含有タンパク質核外移行阻害剤を含み、医薬品、飲食品、サプリメント、またはNES含有タンパク質核外移行メカニズム研究用ツールとして用いられる製品である。
【発明の効果】
【0016】
本発明のNES含有タンパク質核外移行阻害剤は、前記一般式(I)により表される化合物、その互変異体および立体異性体、ならびにそれらの塩からなる群から選択される少なくとも一つの物質を有効成分とすることで、優れたNES含有タンパク質核外移行阻害活性を示す。これにより、本発明のNES含有タンパク質核外移行阻害剤は、医薬品、飲食品、サプリメント、およびNES含有タンパク質核外移行メカニズム研究用ツールに有用である。例えば、本発明の医薬品は、MEKまたはRevタンパク質に対する核外移行阻害活性を有することで、抗腫瘍剤、抗癌剤、制癌剤、抗転移剤、抗HIV剤等として用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の好ましい実施形態について説明するが、本発明は、下記の実施形態によって何ら限定されるものではなく、その要旨を変更することなく、様々に改変して実施することができるものである。
【0018】
まず、前記一般式(I)により表される化合物は、例えば、植物などから単離・精製したものであっても良いし、公知の化学合成法を用いて合成したものであっても良い。さらに、天然物から得られた物質を原材料として反応等の処理を施し、製造しても良い。また、例えば、前記一般式(I)により表される化合物を含む植物抽出物を、精製等を行わずにそのまま本発明のNES含有タンパク質核外移行阻害剤として用いても良い。あるいは、前記植物抽出物に対し、必要に応じ、精製、他の物質の添加等を行った後、本発明のNES含有タンパク質核外移行阻害剤として用いても良い。前記植物は、特に限定されないが、丁子、即ちSyzygium aromaticum (=Eugenia caryophyllata THUNB.)が特に好ましい。また、前記植物抽出物の、前記植物からの抽出方法は、特に限定されないが、例えば、水および各種有機溶媒の少なくとも一種を単独で、または混合して用い、定法により抽出すれば良い。前記有機溶媒としては、特に限定されないが、アルコールが好ましく、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノールを例示することができるが、メタノール、エタノールがより好ましく、メタノールが特に好ましい。前記植物抽出物として特に好ましいのは、丁子のメタノール抽出物である。
【0019】
前記一般式(I)中、
およびRは、例えばそれぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜8である飽和もしくは不飽和の直鎖もしくは分枝炭化水素基、または、炭素数1〜8である飽和もしくは不飽和の直鎖もしくは分枝アシル基であることが好ましく、
およびRが、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルキル基、または、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルカノイル基であることがより好ましく、
が、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルキル基であり、Rが、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルカノイル基であることがさらに好ましい。
【0020】
また、前記一般式(I)中、
〜Xは、例えば、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン、または、炭素数1〜8である飽和もしくは不飽和の直鎖もしくは分枝炭化水素基であることが好ましく、
〜Xが、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン、または、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルキル基であることがより好ましく、
〜Xが、全て水素原子であることがさらに好ましい。
【0021】
前記一般式(I)の化合物中、下記式(II)で表されるオイゲノールアセテートが特に好ましい。オイゲノールアセテートは、例えば、丁子等の生薬から抽出したものでも良いし、化学的に合成したものでも良い。
【化4】

【0022】
なお、本発明で「ハロゲン」とは、任意のハロゲン元素を指すが、例えば、フッ素、塩素、臭素およびヨウ素が挙げられる。また、アルキル基としては、特に限定されないが、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基およびtert-ブチル基等が挙げられる。アルカノイル基としては、特に限定されないが、例えば、ホルミル基、アセチル基、プロピオニル基、イソブチリル基、バレリル基およびイソバレリル基等が挙げられ、炭素数1のアルカノイル基とはホルミル基を指すものとする。
【0023】
また、前記一般式(I)により表される化合物またはその塩が、互変異性体または立体異性体(例:幾何異性体および配座異性体)を有するときは、それらの分離された各異性体および混合物も本発明の範囲に含まれる。そして、前記一般式(I)で表される化合物またはその塩が、その構造に不斉炭素を有するときは、それらの光学活性体およびラセミ混合物も本発明の範囲に含まれる。さらに、前記一般式(I)により表される化合物またはその塩は、例えば、適宜な溶媒から再結晶する等の方法により、結晶化させて用いることもできる。
【0024】
前記一般式(I)により表される化合物の塩は、酸付加塩でも塩基付加塩でも良い。前記酸付加塩を形成する酸は、無機酸でも有機酸でも良い。無機酸としては、特に限定されないが、例えば、硫酸、リン酸、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸等が可能である。有機酸も特に限定されないが、例えば、p−トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、シュウ酸、p−ブロモベンゼンスルホン酸、炭酸、コハク酸、クエン酸、安息香酸、酢酸等が可能である。前記塩基付加塩を形成する塩基は、無機塩基でも有機塩基でも良い。無機塩基としては、特に限定されないが、例えば、水酸化アンモニウム、アルカリ金属水酸化物、アルカリ土類金属水酸化物、炭酸塩、炭酸水素塩等が可能であり、より具体的には、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム等が可能である。有機塩基も特に限定されないが、例えば、エタノールアミン、トリエチルアミン、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン等が可能である。前記一般式(I)で表される化合物の塩の製造方法も特に限定されず、例えば、前記一般式(I)で表される化合物に、前記のような酸や塩基を公知の方法により適宜付加させる等の方法で製造することができる。
【0025】
次に、本発明のNES含有タンパク質核外移行阻害剤は、例えば、NES含有タンパク質のうち、MEKおよびRevタンパク質の少なくとも一方の核外移行を阻害することが好ましい。また、本発明のNES含有タンパク質核外移行阻害剤の用途は特に限定されず、各種医薬品、飲食品、サプリメント、NES含有タンパク質核外移行メカニズム研究用ツールおよびその他の種々の用途に幅広く使用可能であるが、例えば、抗腫瘍剤、抗癌剤、制癌剤、抗転移剤および抗HIV剤からなる群から選択される少なくとも一つの用途に使用されることが好ましい。以下、具体的に説明する。
【0026】
MEKおよびMAPキナーゼ系は、前述のように、細胞の増殖、分化など生命活動に重要な役割を担っており、多くの疾患がMEKおよびMAPキナーゼ系の働きに関係していると考えられる。したがって、本発明のNES含有タンパク質核外移行阻害剤は、例えば、MEKの核外移行を阻害することで、このような様々な疾患に対する治療薬・予防薬等として医薬品への利用が可能である。具体的には、本発明のNES含有タンパク質核外移行阻害剤は、例えば、細胞の増殖に関わる疾患の治療、診断、症状の軽減および予防からなる群から選択される少なくとも一つの用途に使用することが好ましい。
【0027】
前記細胞の増殖に関わる疾患は、特に限定されないが、例えば、脳腫瘍、頭頚部癌、神経芽細胞腫、副鼻孔癌、咽頭癌、食道癌、肺癌、胃癌、大腸癌、直腸癌、肝癌、胆道癌、膵癌、前立腺癌、膀胱癌、腎臓癌、精巣癌、乳癌、子宮癌、子宮筋腫、子宮頚癌、卵巣癌、急性白血病、慢性骨髄性白血病、慢性リンパ性白血病、悪性リンパ腫、赤血球増加症、真正多血症、本態性血小板増多症、骨髄腫、骨肉腫、絨毛癌、ホジキン病、非ホジキン病、膠芽種、星状細胞腫、および軟組織肉腫からなる群から選択される少なくとも一つの疾患であることが好ましい。
【0028】
とりわけ、本発明のNES含有タンパク質核外移行阻害剤は、癌細胞等の腫瘍細胞の増殖を抑制することで、各種腫瘍や癌に対する治療薬、すなわち、抗腫瘍剤、抗癌剤、制癌剤および抗転移剤からなる群から選択される少なくとも一つの用途に使用することが好ましい。
【0029】
また、前述の通り、Revタンパク質の核外移行はHIVの増殖に必須であることから、本発明のNES含有タンパク質核外移行阻害剤は、例えば、Revタンパク質の核外移行を阻害することで、抗HIV剤として使用可能である。
【0030】
さらに、本発明のNES含有タンパク質核外移行阻害剤の用途は、上記抗腫瘍剤、抗癌剤、制癌剤、抗転移剤、抗HIV剤等の用途に限定されるものではない。例えば、本発明のNES含有タンパク質核外移行阻害剤は、NES含有タンパク質核外移行阻害による細胞応答を解析する生化学実験用試薬として、あるいは、抗癌作用等の効果を有する機能性食品(食用組成物)の原材料として利用可能である。また、本発明のNES含有タンパク質核外移行阻害剤は、上記抗腫瘍剤、抗癌剤、制癌剤、抗転移剤、抗HIV剤等以外の種々の医薬品にも使用可能である。
【0031】
なお、本発明のNES含有タンパク質核外移行阻害剤の医薬品への利用には、本発明のNES含有タンパク質核外移行阻害剤を医薬品開発過程におけるリード化合物として利用することも含まれる。
【0032】
本発明のNES含有タンパク質核外移行阻害剤を医薬品(医薬用組成物)に用いる場合の一例について説明する。本発明のNES含有タンパク質核外移行阻害剤は、これをそのまま、あるいは慣用の医薬製剤担体とともに医薬用組成物となし、ヒト(または動物)に投与することができる。投与形態は特に限定されず、その目的に応じて、経口的に、または非経口的に投与することができる。医薬用組成物の剤形としては特に制限されるものではなく必要に応じて適宜選択すれば良いが、例えば、通常のおよび腸溶性錠剤、カプセル剤、ピル、顆粒剤、細粒剤、散剤、エリキシル剤、チンキ剤、溶剤、懸濁剤、シロップ、固体もしくは液体エアロゾル、および乳濁液等の経口剤、注射剤、坐剤、塗布剤等の非経口剤が挙げられる。
【0033】
錠剤、カプセル剤、顆粒剤、細粒剤、散剤等の経口剤は、例えば、デンプン、乳糖、白糖、マンニット、カルボキシメチルセルロース、コーンスターチ、無機塩類等を用いて常法に従って製造される。これらの製剤中の本発明のNES含有タンパク質核外移行阻害剤の配合量は特に限定されるものではなく適宜設定できる。この種の製剤には、結合剤、崩壊剤、界面活性剤、滑沢剤、流動性促進剤、矯味剤、着色剤、香料等を適宜に使用することができる。
【0034】
非経口剤の場合、患者の年齢、体重、疾患の程度などに応じて用量を調節し、例えば、静注、点滴静注、皮下注射、筋肉注射、腹腔内注射などによって投与する。この非経口剤は常法に従って製造され、希釈剤として一般に注射用蒸留水、生理食塩水等を用いることができる。さらに必要に応じて、殺菌剤、防腐剤、安定剤を加えても良い。また、この非経口剤は安定性の点から、バイアル等に充填後冷凍し、通常の凍結乾燥処理により水分を除き、使用直前に凍結乾燥物から液剤を再調製することもできる。さらに必要に応じて、等張化剤、安定剤、防腐剤、無痛化剤を加えても良い。これら製剤中の本発明のNES含有タンパク質核外移行阻害剤の配合量は特に限定されるものではなく任意に設定できる。その他の非経口剤の例として、外用液剤、軟膏等の塗布剤、直腸内投与のための坐剤等が挙げられ、これらも常法に従って製造される。
【0035】
なお、公知のDDSを利用し、例えば、本発明のNES含有タンパク質核外移行阻害剤をリポソームなどの運搬体に封入して体内投与しても良い。このとき標的部位の細胞を特異的に認識する運搬体などを利用すれば、標的部位に本発明のNES含有タンパク質核外移行阻害剤を効率よく運ぶことができ効果的である。
【0036】
本発明のNES含有タンパク質核外移行阻害剤を飲食品(飲食用組成物)またはサプリメントに用いる場合は、各種飲料や各種加工食品の原材料として本発明のNES含有タンパク質核外移行阻害剤を飲食品に添加したり、必要に応じてデキストリン、乳糖、澱粉等の賦形剤や香料、色素等とともにペレット、錠剤、顆粒等に加工したり、またゼラチン等で被覆してカプセルに成形加工して健康食品や保健食品等として利用できる。
【実施例】
【0037】
以下、本発明の実施例について説明する。
【0038】
以下のような手順で、生薬“丁子”から、本発明のNES含有タンパク質核外移行阻害剤を抽出、単離し、さらに、そのNES含有タンパク質核外移行阻害活性を評価した。
【0039】
(1)メタノールによる抽出
丁子20gにメタノール200mLを加え室温で3時間抽出した。これを濾過し、残査にメタノール200mLを加えて加熱還流下2時間抽出した。この加熱抽出を2回行った。全ての濾液を濃縮し、1.0gの固体(以下「メタノール抽出物」と呼ぶ)を得た。
【0040】
(2)酢酸エチル/H2O処理
(1)で得たメタノール抽出物1.0gを酢酸エチル/H2Oの200mL/200mL混合液に加え、良く攪拌し、両層に分配溶解させた。不溶物について同じ操作を繰り返した。層分離を行い、酢酸エチル層を絶乾して540mgの固体(以下「酢酸エチル移行部」と呼ぶ)を得た。
【0041】
(3)シリカゲルカラムクロマトグラフィーによる分別
(2)で得た酢酸エチル移行部50mgをシリカゲルカラムクロマトグラフィーを用いて分別した。すなわち、まず、試料(前記酢酸エチル移行部)50mgを、SiO2(1.2g)を充填したガラスカラム(充填溶媒 n-hexane:EtOAc=4:1)に吸着させ、溶出溶媒としてn-hexane:EtOAc=4:1を通導させ、画分A(31.7mg)を得た。さらに、溶出溶媒をn-hexane:EtOAc=1:1、CHCl3:MeOH:H2O=30:3:1(下層)、MeOHと順次変化させ、画分B(4.1mg)、画分C(3.3mg)、および画分D(8.6mg) の各画分を得た。(TLCプレート(シリカゲル 60F254,メルク)、展開溶媒としてn-hexane:EtOAc=1:1を用いた場合の各画分のRf値は以下のようになった。Rf値: 画分A; 0.9, 画分B; 0.6-0.85, 画分C; 0.4-0.5, 画分D; < 0.2。)
【0042】
(4)画分A〜Dの核外移行阻害活性
前記画分A〜DのNES含有タンパク質に対する核外移行阻害活性を次のようにして測定した。すなわち、まず、NES、GFP(蛍光タンパク質)、NLS(核移行シグナル)の融合タンパク質を発現する酵母(Kudo N. et al. Exp. Cell Res. 1998, 242, 540-547.)の培養液90μLを96ウェルのプレートに分注した。次に、被検薬物(前記画分A〜Dのいずれか)をDMSOに溶解させ、培地を用いて適切な濃度に希釈した後、10μLの被検薬物溶液を先の96ウェルプレートに添加して合計100μLとした。なお、ここで添加したDMSOの終濃度は1%とした。続いて30℃で3時間震盪培養し、培養液10μLを用いて作製したプレパラートを蛍光顕微鏡下で観察し、蛍光タンパク質の局在を確認した。そして、核のみ蛍光を発している酵母の数が80%以上の場合に(+)、50%以上80%未満の場合に(±)、50%未満の場合に(-)と評価した。すなわち、評価が(-)の場合は、大部分の酵母について、核、細胞質ともに蛍光が観察され、蛍光タンパク質の核外移行阻害が見られなかったことを表している。下記表1に、この評価結果を示す。表1に示す通り、画分Aが強力なNES含有タンパク質核外移行阻害活性を示した。
【0043】
【表1】

【0044】
(5)画分AのシリカゲルHPLCによる分別
(3)で得られた画分A(31.7mg)のシリカゲルHPLCによる分別を次のように行った。すなわち、試料(前記画分A)4.5mgを、カラム(cosmosil 5SL-II 10mm i.d. x 250mm)、移動相(EtOAc:EtOH=15:1、流速3.0mL/min)、および検知部(UV250nm)を用いて分離精製し、画分A-1(1.5mg)を得た。(TLCプレート(シリカゲル 60F254,メルク)、展開溶媒としてn-hexane:EtOAc=4:1を用いた場合の画分A-1のRf値以下のようになった。。Rf値: 画分A-1; 0.45。)
【0045】
(6)画分A-1の同定
(5)で得た画分A-1について1HNMR、13CNMR、differential nOeおよびFAB-MSの測定を行い、文献報告値と比較した。その結果、画分A-1は、前記式(II)で表されるオイゲノールアセテートであることが確認された。(1H NMR; δ: 6.94 (1H, d, J=7.9 Hz), 6.77 (1H, d, J=1.8), 6.74 (1H, dd, J=7.9, 1.8 Hz), 5.94 (1H, ddt, J=17.1, 10.4, 6.7 Hz), 5.08 (2H, m), 3.80 (3H, s), 3.36 (2H, d, J=6.7 Hz), 2.29 (3H, s). 13C NMR; δc: 168.8, 150.5, 138.6, 137.7, 136.7, 122.2, 120.3, 115.8, 112.4, 55.6, 39.9, 20.5. nOe; 3.80(3位)照射による3.80(MeO基)の増大を確認. FAB MS; 207 [M+H]+.)
【0046】
(7)オイゲノールアセテート(II)のNES含有タンパク質に対する核外移行阻害活性
(5)で単離した前記オイゲノールアセテート(II)についてNES含有タンパク質に対する核外移行阻害活性を(4)と同様の方法により測定した結果、最小有効濃度6.1μMで活性を示した。
【0047】
このように、オイゲノールアセテートを含む本実施例のNES含有タンパク質核外移行阻害剤は、高いNES含有タンパク質核外移行阻害活性を示した。
【産業上の利用可能性】
【0048】
以上説明した通り、本発明のNES含有タンパク質核外移行阻害剤は、前記一般式(I)により表される化合物、その互変異体および立体異性体、ならびにそれらの塩からなる群から選択される少なくとも一つの物質を有効成分とすることで、優れたNES含有タンパク質核外移行阻害活性を示す。例えば、本発明の医薬品は、本発明のNES含有タンパク質核外移行阻害剤を含み、MEKやRevタンパク質に対する核外移行阻害活性を有することで、抗腫瘍剤、抗癌剤、制癌剤、抗転移剤、抗HIV剤等の抗癌シーズ、抗HIVシーズ、およびその他各種医薬シーズとして利用可能である。また、本発明のNES含有タンパク質核外移行阻害剤は、医薬品の他、飲食品およびサプリメント等の種々の用途に使用可能であるのみならず、NES含有タンパク質核外移行メカニズムの詳細なメカニズム解明のための生化学的ツール分子としても有用である。さらに、本発明のNES含有タンパク質核外移行阻害剤の用途は、上記に限定されず、種々の用途に幅広く利用可能である。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の一般式(I)により表される化合物、その互変異体および立体異性体、ならびにそれらの塩からなる群から選択される少なくとも一つの物質を有効成分とするNES含有タンパク質核外移行阻害剤。
【化1】

前記式(I)中、
およびRは、それぞれ独立に、水素原子、置換基を有するか有しない飽和もしくは不飽和の炭化水素基(直鎖状でも分枝状でも環状でも良い)、アシル基、カルバモイル基、または、アルコキシカルボニル基であり、
〜Xは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン、または、置換基を有するか有しない飽和もしくは不飽和の炭化水素基(直鎖状でも分枝状でも環状でも良い)である。
【請求項2】
前記一般式(I)の化合物が、下記式(II)で表されるオイゲノールアセテートである請求項1に記載のNES含有タンパク質核外移行阻害剤。
【化2】

【請求項3】
MEKおよびRevタンパク質の少なくとも一方の核外移行を阻害する請求項1または2に記載のNES含有タンパク質核外移行阻害剤。
【請求項4】
細胞の増殖に関わる疾患の治療、診断、症状の軽減および予防からなる群から選択される少なくとも一つの用途に使用される請求項1〜3のいずれかに記載のNES含有タンパク質核外移行阻害剤。
【請求項5】
抗腫瘍剤、抗癌剤、制癌剤、抗転移剤および抗HIV剤からなる群から選択される少なくとも一つの用途に使用される請求項1〜4のいずれかに記載のNES含有タンパク質核外移行阻害剤。
【請求項6】
植物抽出物である請求項1〜5のいずれかに記載のNES含有タンパク質核外移行阻害剤。
【請求項7】
前記植物が丁子である請求項6に記載のNES含有タンパク質核外移行阻害剤。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載のNES含有タンパク質核外移行阻害剤を含み、医薬品、飲食品、サプリメント、またはNES含有タンパク質核外移行メカニズム研究用ツールとして用いられる製品。


【公開番号】特開2008−44886(P2008−44886A)
【公開日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−221842(P2006−221842)
【出願日】平成18年8月16日(2006.8.16)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【Fターム(参考)】