説明

NOx吸蔵材の担持方法

【課題】Ba−Ti複合酸化物などを十分に均一に担持し、硫黄被毒劣化を防止できる触媒とする。
【解決手段】アルカリ土類金属及び希土類元素から選ばれる少なくとも一種の元素を含む第1化合物と、第3族元素,第4族元素及び遷移金属から選ばれる少なくとも一種の元素を含む第2化合物と、多座配位子を有する第3化合物と、過酸化水素と、が水に溶解してなりpHが4〜7に調整された複合酸化物前駆体水溶液を多孔質酸化物に含浸させ乾燥後に焼成する。
ゲル化を遅延させつつ複合酸化物前駆体の濃度を高くできるので、一度の吸水含浸工程で十分な量の複合酸化物前駆体を担持させることができる。これにより複合酸化物の構造が破壊されることが無い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、NOx 吸蔵還元型触媒などの製造に用いられるNOx 吸蔵材の担持方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リーンバーンエンジンにおいて、常時は酸素過剰の燃料リーン条件で燃焼させ、間欠的に燃料ストイキ〜リッチ条件とすることにより排ガスを還元雰囲気としてNOx を還元浄化するシステムが開発され、実用化されている。そしてこのシステムに最適な触媒として、リーン雰囲気でNOx を吸蔵し、ストイキ〜リッチ雰囲気で吸蔵されたNOx を放出するBaなどのNOx 吸蔵材を用いたNOx 吸蔵還元型の排ガス浄化用触媒が開発されている。
【0003】
このNOx 吸蔵還元型触媒を用いれば、空燃比をリーン側からパルス状にストイキ〜リッチ側となるように制御することにより、排ガスもリーン雰囲気からパルス状にストイキ〜リッチ雰囲気となる。したがって、リーン側ではNOx がNOx 吸蔵材に吸蔵され、それがストイキ又はリッチ側で放出されてHCやCOなどの還元性成分と反応して浄化されるため、リーンバーンエンジンからの排ガスであってもNOx を効率良く浄化することができる。また排ガス中のHC及びCOは、貴金属により酸化されるとともにNOx の還元にも消費されるので、HC及びCOも効率よく浄化される。
【0004】
ところが排ガス中には、燃料中に含まれる硫黄(S)が燃焼して生成したSOx が含まれ、それがリーン雰囲気の排ガス中で貴金属により酸化されてSO3 となる。そしてそれがやはり排ガス中に含まれる水蒸気により容易に硫酸となり、これらがNOx 吸蔵材と反応して亜硫酸塩や硫酸塩が生成し、これによりNOx 吸蔵材が被毒劣化することが明らかとなった。また、アルミナなどの多孔質酸化物担体はSOx を吸着しやすいという性質があることから、上記硫黄被毒が促進されるという問題がある。
【0005】
そして、このようにNOx 吸蔵材が亜硫酸塩や硫酸塩となって被毒劣化すると、もはやNOx を吸蔵することができなくなり、その結果上記触媒では、耐久後のNOx の浄化性能が低下するという不具合があった。
【0006】
そこで特開平08−099034号公報などには、チタニアなどの酸性酸化物を担体として用いることが提案されている。酸性酸化物を担体とすることで、酸性の硫黄酸化物の近接が抑制されるため硫黄被毒を抑制することができる。また、NOx 吸蔵材とチタンなどの複合酸化物を用いても、同様に硫黄被毒を抑制することができる。
【0007】
しかしNOx 吸蔵材とチタンなどの複合酸化物を多孔質酸化物担体に担持した触媒においては、予め調製された複合酸化物を担持した場合には、その粒径が大きく表面積が小さいために、NOx 吸蔵能が低いという問題がある。この問題を解決するには、複数の金属元素を含む水溶液を多孔質酸化物担体に含浸させ、それを焼成することで複合酸化物を形成することが望ましい。
【0008】
そこで例えば特開2003−071298号公報には、チタンアルコキシドとクエン酸を混合してチタンクエン酸錯体水溶液を調製し、それに酢酸バリウム水溶液を加えた複合酸化物前駆体水溶液を多孔質酸化物担体に含浸させ、焼成することでBa−Ti複合酸化物を担持する方法が開示されている。この方法によれば、多孔質酸化物担体に微細なBa−Ti複合酸化物を容易に担持することができる。
【0009】
ところがこの方法では、複合酸化物前駆体水溶液のゲル化の進行が早く、安定性が低いという不具合があった。そのため複合酸化物前駆体水溶液を調製後、短時間の間に多孔質酸化物担体へ含浸させる必要があった。その調製後に時間が経過した複合酸化物前駆体水溶液を用いると、担持された複合酸化物の粒径が粗大化したり、分散性が低下するようになり、NOx 吸蔵能が低下するからである。そして複合酸化物前駆体水溶液の保存が困難であるために、NOx 吸蔵材の担持工程の度に複合酸化物前駆体水溶液を調製する必要があり、工数が多大となっていた。
【0010】
このような不具合を解決するものとして、特開2005−060147号公報には、特開2003−071298号公報に記載の複合酸化物前駆体水溶液に過酸化水素をさらに配合することが提案されている。過酸化水素によって複合酸化物前駆体水溶液のゲル化を遅延させることができるため、例えば2週間程度以上の長期間保存しても調製初期と同等の特性を有し、それを用いて多孔質酸化物に担持すれば、微細な複合酸化物を高分散で担持することができる。
【0011】
なお、上記のような複合酸化物前駆体水溶液を用いてNOx 吸蔵還元型の排ガス浄化用触媒を調製するには、先ずハニカム形状のモノリス基材にアルミナなどの担体からコート層を形成する。次にコート層をもつモノリス基材にPtなどの貴金属を担持し、次いでコート層に複合酸化物前駆体水溶液を吸水含浸させ、それを乾燥後に焼成すればよい。
【0012】
また特開2005−152775号公報には、触媒成分を含有するコーティング液をコート層をもつモノリス基材にコートし、それを波長が 100μm以上の電磁波照射により乾燥する方法が開示されている。
【特許文献1】特開平08−099034号
【特許文献2】特開2003−071298号
【特許文献3】特開2005−060147号
【特許文献4】特開2005−152775号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
ところが特許文献3に記載の複合酸化物前駆体水溶液は複合酸化物前駆体の濃度が低いために、必要量の複合酸化物を担持させるためには、コート層に吸水含浸させて焼成する工程を複数回繰り返す必要があった。すると2回目以降の吸水含浸工程において、前回に担持されていた複合酸化物の構造が破壊されてBaなどが次の複合酸化物前駆体水溶液中に溶出し、その結果、触媒中におけるBaなどの分布が不均一になるという問題があった。
【0014】
またNOx 吸蔵能をさらに向上させるために、複合酸化物前駆体水溶液にLiやKなどの水溶性塩を混合して担持する方法も考えられる。ところがこの方法では、複合酸化物前駆体の構造が破壊され、Baが複合化されず単独酸化物(又は炭酸塩)として担持されることが明らかとなった。Baは硫黄被毒によってNOx 吸蔵能が著しく低下する元素であるので、複合酸化物として担持することが必要不可欠である。
【0015】
ところでコート層に複合酸化物前駆体水溶液を吸水含浸させ、それを熱風乾燥後に焼成する方法においては、水分が表面から蒸発するのに伴ってコート層内部の水分が表面に移動し、それに伴って複合酸化物前駆体が移動するため、コート層の厚さ方向で複合酸化物前駆体の濃度に分布が生じる。したがって厚さ方向における複合酸化物の分布が不均一となる。さらに複合酸化物前駆体には、多座配位子を有する錯体が含まれているため有機物が多い。そのため複合酸化物の分布が不均一であると、焼成時に局部的に高温となる部位が生じ、表面積が低下したり貴金属に粒成長が生じたりして、浄化性能が低下する場合があった。
【0016】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、Ba−Ti複合酸化物などを十分に均一に担持し、硫黄被毒劣化を防止できる触媒とすることを解決すべき課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記課題を解決する本発明のNOx 吸蔵材の担持方法の特徴は、アルカリ土類金属及び希土類元素から選ばれる少なくとも一種の元素を含む第1化合物と、第3族元素,第4族元素及び遷移金属から選ばれる少なくとも一種の元素を含む第2化合物と、多座配位子を有する第3化合物と、過酸化水素と、が水に溶解してなりpHが4〜7に調整された複合酸化物前駆体水溶液を調製し、複合酸化物前駆体水溶液を多孔質酸化物に含浸させ乾燥後に焼成して多孔質酸化物に複合酸化物を担持することにある。
【0018】
乾燥工程は、波長が 100μm以上の電磁波照射により行うことが望ましい。
【0019】
NOx 吸蔵材としてのアルカリ金属をさらに担持する場合には、多孔質酸化物に複合酸化物を担持した後に、アルカリ金属を含む第4化合物が水に溶解した水溶液を含浸させ焼成することが望ましい。
【発明の効果】
【0020】
本発明のNOx 吸蔵材の担持方法では、複合酸化物前駆体水溶液のpHを4〜7に調整している。このため理由は不明であるが、複合酸化物前駆体の濃度を高くしてもゲル化を遅延させることができる。したがって一度の吸水含浸工程により十分な量の複合酸化物前駆体を担持させることができ、2回目以降の吸水含浸工程を回避することができる。これにより複合酸化物の構造が破壊されることが無いので、Ba−Ti複合酸化物などを十分に均一に担持することができる。
【0021】
また波長が 100μm以上の電磁波照射により乾燥工程を行うことで、含浸した複合酸化物前駆体水溶液をコート層の内部から表面まで均一に乾燥させることができる。したがって熱風乾燥の場合に生じる、水分の移動に伴う複合酸化物前駆体の移動を回避することができ、複合酸化物を十分均一に担持することができる。これにより焼成時における有機物の燃焼に伴う発熱が均一に生じ、局部的に高温となるのを回避することができるので、表面積の低下や貴金属の粒成長を回避することができ触媒性能の低下を防止することができる。
【0022】
そしてNOx 吸蔵材としてのアルカリ金属をさらに担持する場合には、多孔質酸化物に複合酸化物を担持した後に、アルカリ金属を含む第4化合物が水に溶解した水溶液を含浸させ焼成すれば、複合酸化物前駆体の構造が破壊されることが無いので、Ba−Ti複合酸化物などを十分に均一に担持することができる。
【0023】
したがって本発明の担持方法によりNOx 吸蔵材を担持したNOx 吸蔵還元型の触媒によれば、硫黄被毒を十分に防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
特許文献2に記載の複合酸化物前駆体水溶液によるゲル化の進行は、チタンクエン酸錯体とBaイオンなどとの反応に起因している。そこで本発明に用いる複合酸化物前駆体水溶液では、アルカリ土類金属及び希土類元素から選ばれる少なくとも一種の元素を含む第1化合物と、第3族元素,第4族元素及び遷移金属から選ばれる少なくとも一種の元素を含む第2化合物と、多座配位子を有する第3化合物とに加えて、さらに過酸化水素を用いている。第2化合物と第3化合物とで形成される錯体に過酸化水素が配位することによって、錯体と第1化合物のイオンとの反応が抑制されると考えられ、ゲル化の進行が抑制される。
【0025】
そして本発明のNOx 吸蔵材の担持方法においては、複合酸化物前駆体水溶液のpHを4〜7に調整している。pHを4〜7に調整することで、理由は不明であるが、ゲル化の進行を抑制するとともに水溶液中の複合酸化物前駆体の濃度を高めることが可能となる。したがって1回の担持工程で十分な量の複合酸化物を担持することができ、既に担持されている複合酸化物の構造が破壊されることが無いので、複合酸化物を十分に均一に担持することができる。
【0026】
第1化合物は、Ba、Mg、Ca、Srなどのアルカリ土類金属及びSc、Y、La、Ce、Pr、Ndなどの希土類元素から選ばれる少なくとも一種の元素を含む化合物であり、水酸化物、酢酸塩、炭酸塩、硝酸塩など水溶性の化合物を用いることが望ましい。中でも酢酸バリウム、硝酸バリウムなどのBa化合物が特に好ましい。
【0027】
第2化合物は、Al、Si、Pなどの第3族元素、Ti、Zrなどの第4族元素及びV、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Znなどの遷移金属から選ばれる少なくとも一種の元素を含む化合物であり、第1化合物と同様に水酸化物、硝酸塩などの水溶性の化合物を用いることができる。中でもTi化合物が望ましい。またアルコキシドを用いることも好ましい。アルコキシドを用いれば、多座配位子との錯体を容易に形成することができる。
【0028】
第3化合物は、2個以上の配位基で配位し得る多座配位子を有する化合物であり、クエン酸、シュウ酸などの多価カルボン酸類、グリコール、ピナコールなどのジオール類などが挙げられる。このうち1種を単独で用いてもよいし、複数種を組み合わせて用いることもできる。中でもクエン酸が特に好ましい。
【0029】
本発明の複合酸化物前駆体水溶液は、第1化合物、第2化合物、第3化合物及び過酸化水素が水に溶解してなる。水は、イオン交換水、蒸留水などの純水であることが望ましい。また各化合物の含有量は、水1000mlに対して、第1化合物の金属元素が 0.1〜 1.0モル、第2化合物の金属元素が 0.1〜 1.0モル、第3化合物が 0.3〜 5.0モルの範囲とすることが好ましい。各化合物の含有量がこの範囲を超えると、溶液濃度が高すぎて反応が均一に起こりにくくなる傾向にある。また各化合物の含有量がこの範囲より少ないと、溶液濃度が低すぎてNOx 吸蔵材の担持効率が低下するようになる。
【0030】
第1化合物と第2化合物は、各々の金属元素のモル比が第2化合物/第1化合物= 0.5〜 1.5の範囲となるように配合することが好ましい。このように調製された水溶液を用いてNOx 吸蔵材を担持すれば、NOx 吸蔵能が著しく向上する。
【0031】
第3化合物は、第2化合物に対してモル比で3以上含まれていることが望ましい。第3化合物の含有量がこれより少ないと、第2化合物との錯体の形成が困難となり、目的とする複合酸化物の形成が困難となる。なお第3化合物が第2化合物に対してモル比で10を超えて含まれると、第1化合物及び第2化合物の溶液中濃度が低下し担持効率が低下することになるので、第2化合物に対してモル比で10以下の範囲とすることが望ましい。
【0032】
水溶液のpHを4〜7に調整するには、リン酸ナトリウムなどの緩衝剤を添加する方法もあるが、過酸化水素の添加量を低減し、アンモニア水によりpHを調整することが好ましい。特許文献3には、過酸化水素は、第2化合物に対してモル比で1/2以上3以下とすることが望ましいことが記載されている。しかし本願発明者らの研究によれば、過酸化水素の添加量を第2化合物に対してモル比で1/2以下に低減し、アンモニア水によりpHを4〜7に調整することで、ゲル化を抑制できることが明らかとなった。
【0033】
本発明のNOx 吸蔵材の担持方法では、上記した組成の複合酸化物前駆体水溶液を多孔質酸化物に含浸させ乾燥後に焼成することで、多孔質酸化物を担体としてNOx 吸蔵材を担持している。多孔質酸化物としては、 Al2O3、TiO2、ZrO2、SiO2、CeO2、 MgO、これらから選ばれる複数種からなる複合酸化物、ゼオライトなどが挙げられる。これらの一種を単独で用いてもよいし、複数種を混合して用いることもできる。
【0034】
複合酸化物前駆体水溶液を用いて多孔質酸化物にNOx 吸蔵材を担持するには、多孔質酸化物粉末に複合酸化物前駆体水溶液を含浸させ、乾燥後に焼成してもよいし、ハニカム形状のモノリス基材に多孔質酸化物粉末からなるコート層を形成しておき、そのコート層に複合酸化物前駆体水溶液を含浸させ、乾燥後に焼成することもできる。乾燥時及び焼成時に過酸化水素が先ず分解することで、錯体とBaイオンなどとの反応が一気に進行してゲル化し、微細な複合酸化物を高分散で担持することができる。
【0035】
乾燥工程では、従来と同様に熱風乾燥することもできるが、波長が 100μm以上の電磁波照射により行うことが望ましい。電磁波の波長は 104μm〜 108μmであることが好ましく、 105μm〜 107μmであることがより好ましい。具体的には、電磁波はマイクロ波であることがより好ましい。
【0036】
焼成条件は複合酸化物が生成する条件であれば特に制限がないが、例えば大気中で、好ましくは 300〜 600℃、より好ましくは 300〜 500℃に加熱する。また加熱時間は加熱温度によって異なるが、例えば1〜3時間行えば十分である。
【0037】
上記した複合酸化物のみでは、低温域あるいは高温域におけるNOx 吸蔵能が不充分となる場合がある。そのような場合には、Li、Kなどのアルカリ金属系のNOx 吸蔵材をさらに担持することが望ましい。しかし、複合酸化物前駆体水溶液中にアルカリ金属の水溶性塩を溶解すると、複合酸化物前駆体の構造が破壊される場合がある。またアルカリ金属を含む第4化合物によって複合酸化物前駆体水溶液のpHが7を超える場合には、過酸化水素が分解してゲル化し易くなるという問題もある。
【0038】
例えばBa−Ti複合酸化物前駆体水溶液に酢酸カリウムなどを溶解すると、KイオンがBaと置換すると考えられ、Ba−Ti複合酸化物前駆体の構造が破壊されてBaイオンが遊離する。このような水溶液を用いて担持した場合には、Baが単独で担持される結果、最終的に炭酸バリウムが担持されてしまう。炭酸バリウムは硫黄被毒し易く、硫黄被毒によってNOx 吸蔵能が著しく低下する。
【0039】
そこで多孔質酸化物に上記した複合酸化物を担持した後に、アルカリ金属を含む第4化合物が水に溶解した水溶液を含浸させ焼成することが望ましい。Ba−Ti複合酸化物などは、アルカリ金属を含む第4化合物が水に溶解した水溶液によってはその構造が破壊されることが無い。したがって複合酸化物の十分に均一に担持された状態を保持することができる。
【0040】
第4化合物としては、アルカリ金属の酢酸塩、炭酸塩、硝酸塩など水溶性の塩あるいは水酸化物を用いることができる。
【0041】
なおNOx 吸蔵還元型の触媒として用いるためには、さらにPtなどの貴金属を担持する必要がある。貴金属を担持するには、上記方法でNOx 吸蔵材を担持した後に、あるいは上記方法でNOx 吸蔵材を担持する前に、Ptなどの貴金属を含浸担持法など公知の担持法を用いて担持することができる。自動車排ガス用のNOx 吸蔵還元型触媒とする場合には、上記した複合酸化物の担持量は触媒体積1Lあたり0.01〜 0.5モル程度が好ましい。また貴金属の担持量は、触媒体積1L当たり 0.1g〜10.0g/L程度が好ましい。
【0042】
そして本発明の担持方法で担持されたNOx 吸蔵材は、きわめて微細で高分散であるために高いNOx 吸蔵能が発現される。そして第2化合物の金属元素が複合化されているので、硫黄被毒が抑制され、耐久後も高いNOx 吸蔵能を維持することができる。
【実施例】
【0043】
以下、実施例と比較例及び試験例により本発明を具体的に説明する。
【0044】
(実施例1)
アルミナ粉末 100重量部、チタニア−ジルコニア複合酸化物粉末 100重量部、Rhを 0.5g/50g担持したジルコニア粉末50重量部、セリアジルコニア複合酸化物粉末20重量部の比率で含むスラリーを調製し、フルサイズ(直径 109mm、長さ 140mm)のコージェライト製ハニカム形状のモノリス基材(六角セル)にウオッシュコートし、乾燥・焼成してコート層を形成した。コート量は、モノリス基材1Lあたり 270gである。
【0045】
このコート層をもつモノリス基材に対して、所定濃度のジニトロジアンミン白金硝酸溶液を用いてPtを選択吸着担持し、大気中にて 330℃で3時間焼成してPt担持触媒を調製した。Ptの担持量は、触媒1Lあたり2gである。
【0046】
一方、クエン酸(和光純薬工業製)をイオン交換水に溶解し、75℃に加熱した。この溶液にチタンイソプロポキシド(和光純薬工業製)を加え、溶解後に室温まで冷却して、チタンクエン酸錯体水溶液を調製した。この溶液に30%H2O2水溶液を加え、これを撹拌しながら酢酸バリウム水溶液を滴下して撹拌し、複合酸化物前駆体水溶液を調製した。この複合酸化物前駆体水溶液のpHは4〜7の範囲にあり、複合酸化物前駆体水溶液中のモル比(Ti/Ba)は 1.0である。
【0047】
上記で調製されたPt担持触媒に上記した複合酸化物前駆体水溶液の所定量を吸水含浸させ、熱風乾燥炉にて 330℃で5分間乾燥後、大気中にて 330℃で3時間焼成してBa−Ti複合酸化物を担持した。モノリス基材の1Lあたり、Ba及びTiはそれぞれ 0.2モル担持された。
【0048】
(比較例1)
pHを2としたこと以外は実施例1と同様にして複合酸化物前駆体水溶液を調製した。そして実施例1と同様に調製されたPt担持触媒を用い、この複合酸化物前駆体水溶液の所定量を吸水含浸させ、熱風乾燥炉にて 330℃で5分間乾燥後、大気中にて 330℃で3時間焼成してBa−Ti複合酸化物を担持した。しかし担持量が不足したため、Pt担持触媒の含浸方向を逆にして再び吸水含浸させ、熱風乾燥炉にて 330℃で5分間乾燥後、大気中にて 330℃で3時間焼成してBa−Ti複合酸化物を担持した。モノリス基材の1Lあたり、Ba及びTiはそれぞれ 0.2モル担持された。
【0049】
<試験・評価>
実施例1及び比較例1で調製されたNOx 吸蔵還元型触媒について、一端面近傍(Fr)、軸方向の中央部(Ce)、他端面近傍(Rr)におけるコート層中のBaの濃度を元素分析装置にて測定し、結果を図1に示す。
【0050】
図から明らかなように、比較例1で調製された触媒では中央部(Ce)のBa濃度と他端面近傍(Rr)のBa濃度との差が大きいのに対し、実施例1で調製された触媒ではBa濃度は全体に均一である。
【0051】
また実施例1及び比較例1で調製された触媒の触媒に対して、 750℃の空気を1L/分の流量で5時間流通させる耐久処理を行った。続いて、各触媒をそれぞれ評価装置に配置し、直噴ガソリンエンジンのスタート触媒の下流の排気組成を模擬したモデルガス評価法によって硫黄脱離性を評価した。
【0052】
【表1】

【0053】
表1に示すモデルガスを用い、図2に示すパターンに従って前処理、S被毒処理及び再生処理を行った。前処理は、表1に示す前処理ガスを用い、 650℃で10分間行った。S被毒処理は、表1に示すS被毒処理ガスを用い、リーン/リッチを 120秒/3秒で交互に繰り返しながら 400℃で41分間行った。また再生処理は、表1に示す再生処理ガスを用い、 650℃にてリーンガスで5分間処理した後、 650℃にてリッチガスで10分間処理した。
【0054】
再生処理時における触媒出ガス中のSOx 濃度を経時で分析し、結果を図3に示す。図3より、実施例1で調製された触媒の方がSOx の排出量が多く、硫黄脱離性に優れていることが明らかである。
【0055】
【表2】

【0056】
また上記処理後、表2に示すモデルガスを用い、SV=51400h-1の条件下、リーン/リッチを 120秒/3秒で交互に繰り返しながら、 300℃、 400℃、 500℃のそれぞれの温度にて触媒出ガス中のNOx 濃度を測定しNOx 浄化率を測定した。結果を図4に示す。図4より、実施例1で調製された触媒の方が高いNOx 浄化率を示していることがわかる。
【0057】
すなわち実施例1と比較例1でそれぞれ調製された触媒におけるこれらの差異は、複合酸化物前駆体水溶液のpHの差異に起因していることが明らかである。
【0058】
(試験例)
各原料の比率を調整することで、pH値が種々異なる複合酸化物前駆体水溶液を調製した。実施例1と同様に調製されたPt担持触媒を複合酸化物前駆体水溶液にそれぞれ浸漬し、吸水含浸後に引き上げて熱風乾燥炉にて 330℃で5分間乾燥後、大気中にて 330℃で3時間焼成してそれぞれBa−Ti複合酸化物を担持した。この工程をそれぞれ2回繰り返し、浸漬容器に残った複合酸化物前駆体水溶液中のBaイオン濃度をそれぞれ測定した。そして担持前の水溶液中のBa濃度に対する割合を算出し、結果をBa溶出割合として図5に示す。
【0059】
図5より、pH値が4〜7の範囲であればBa溶出割合がほぼゼロとなり、先に担持されているBa−Ti複合酸化物の構造の破壊がほとんど生じていないことがわかる。しかしpH値が4から少しでも低くなると、Ba溶出割合が急激に増大し、担持されているBa−Ti複合酸化物の構造が破壊されてしまう。なおpH値が7を超えると、複合酸化物前駆体水溶液中に含まれているH2O2が分解しやすくなり、ゲル化を遅延させる効果が失われてしまう。
【0060】
(実施例2)
実施例1と同様に調製されたPt担持触媒を用い、実施例1と同様に調製された複合酸化物前駆体水溶液の所定量を吸水含浸させた。これを出力1200kW、波長 105μmのマイクロ波乾燥装置にて10分間処理して水分を乾燥させた(乾燥工程)。その後、大気中にて 300℃で3時間焼成してBa−Ti複合酸化物を担持した。モノリス基材の1Lあたり、Ba及びTiはそれぞれ 0.2モル担持された。
【0061】
<試験・評価>
上記焼成中における触媒の温度を経時で測定し、結果を図6に示す。また図6には、実施例1の方法における焼成中の触媒温度も示している。図6より、実施例2の方法で乾燥した触媒の方が温度の上昇度合いが低いことがわかる。すなわちマイクロ波で乾燥することで、焼成時の触媒温度を低温とすることができることが明らかであり、これは錯体から派生する有機物が均一に分布した結果、局部的な昇温が抑制されたためと推察される。
【0062】
また上記推察を裏付けるために、実施例1及び実施例2で調製された触媒において、コート層中の多孔質酸化物のBET表面積の平均値を測定するとともに、コート層中のPtの分散度をCOパルス法にて測定した。結果をそれぞれ図7と図8に示す。実施例2で調製された触媒は、実施例1で調製された触媒に比べて担体である多孔質酸化物の表面積が大きく、Ptの分散度も高い。すなわち、局部的な昇温が抑制されたことが裏付けられた。
【0063】
実施例1及び実施例2で調製された触媒を用い、前述と同様の耐久処理を行った後、表2に示したモデルガスを用い、SV=51400h-1の条件下、リーン/リッチを 120秒/3秒で交互に繰り返しながら、 250℃〜 450℃の各温度にて触媒出ガス中のNOx 濃度を測定しNOx 還元量を測定した。結果を図9に示す。図9より、実施例2で調製された触媒の方がNOx 還元量が多く、これは実施例2で調製された触媒の方が担体表面積が大きく、Ptの分散度も高いことに起因すると考えられる。
【0064】
(実施例3)
実施例1で調製された触媒に対して、酢酸リチウムと酢酸カリウムとを所定濃度で溶解した水溶液の所定量を含浸させ、熱風乾燥炉にて 330℃で5分間乾燥後、大気中にて 330℃で3時間焼成してLi及びKをさらに担持した。得られた触媒では、モノリス基材の1Lあたり、Ba及びTiはそれぞれ 0.2モル、Liは 0.1モル、Kは0.15モル担持されている。
【0065】
(比較例2)
実施例1と同様にして、複合酸化物前駆体水溶液を調製した。ここへさらに酢酸リチウムと酢酸カリウムの水溶液を添加して撹拌した。複合酸化物前駆体水溶液中のモル比(Ti/Ba)は 1.0である。
【0066】
この複合酸化物前駆体水溶液の所定量を、実施例1と同様に調製されたPt担持触媒に、複合酸化物前駆体水溶液がゲル化する前に吸水含浸させた。これを実施例1と同様に乾燥・焼成して、Ba−Ti複合酸化物、Li及びKを担持した。モノリス基材の1Lあたり、Ba及びTiはそれぞれ 0.2モル、Liは 0.1モル、Kは0.15モル担持されている。
【0067】
<試験・評価>
実施例3と比較例2で調製された触媒についてコート層を掻き取り、X線回折によってBa化合物種を分析した。その結果、実施例3で調製された触媒では BaTiO3相のみが存在していたのに対し、比較例2で調製された触媒では BaTiO3相と BaCO3相とが混在していた。すなわち比較例2の製造方法では、複合酸化物前駆体水溶液中にLiイオン及びKイオンが存在し、これによってBa−Ti複合酸化物前駆体の構造が破壊され、Baイオンが遊離したと考えられる。
【0068】
次に、実施例3と比較例2で調製された触媒について、前述したと同様の前処理、S被毒処理及び再生処理を行った。この処理後、表2に示すモデルガスを用い、SV=51400h-1の条件下、リーン/リッチを 120秒/3秒で交互に繰り返しながら、 300℃、 400℃、 5000℃の各温度にて触媒出ガス中のNOx 濃度を測定しNOx 浄化率を測定した。結果を図10に示す。
【0069】
図10より、比較例2で調製された触媒は実施例3で調製された触媒に比べてNOx 浄化率が低いことがわかる。これは、 BaCO3として存在しているBaが硫黄被毒し、再生処理を行っても再生できなかったことを意味している。したがってLi、Kなどのアルカリ金属系のNOx 吸蔵材をさらに担持する場合は、Ba−Ti複合酸化物を担持した後に担持するのが望ましいことが明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0070】
上記実施例では、ストレートフロー構造のモノリス基材を用いたが、本発明のNOx 吸蔵材の担持方法はこれに限るものではなく、ウォールフロー構造のフィルタ触媒、フォーム触媒、ペレット触媒などの製造にも利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】コート層中のBa濃度の分布を相対値で示す棒グラフである。
【図2】実施例における触媒の処理パターンを示すタイムチャートである。
【図3】再生処理時における触媒出ガス中のSOx 濃度の時間変化を示すグラフである。
【図4】各温度におけるNOx 浄化率を示すグラフである。
【図5】複合酸化物前駆体水溶液のpH値とBa溶出割合との関係を示すグラフである。
【図6】焼成時における時間と触媒温度との関係を示すグラフである。
【図7】焼成後の多孔質酸化物の表面積を示すグラフである。
【図8】焼成後のPt分散度を示すグラフである。
【図9】各温度におけるNOx 還元量を示すグラフである。
【図10】各温度におけるNOx 浄化率を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ土類金属及び希土類元素から選ばれる少なくとも一種の元素を含む第1化合物と、第3族元素,第4族元素及び遷移金属から選ばれる少なくとも一種の元素を含む第2化合物と、多座配位子を有する第3化合物と、過酸化水素と、が水に溶解してなりpHが4〜7に調整された複合酸化物前駆体水溶液を調製し、
該複合酸化物前駆体水溶液を多孔質酸化物に含浸させ乾燥後に焼成して該多孔質酸化物に複合酸化物を担持することを特徴とするNOx 吸蔵材の担持方法。
【請求項2】
前記乾燥工程は、波長が 100μm以上の電磁波照射により行う請求項1に記載のNOx 吸蔵材の担持方法。
【請求項3】
前記多孔質酸化物に前記複合酸化物を担持した後に、アルカリ金属を含む第4化合物が水に溶解した水溶液を含浸させ焼成してアルカリ金属をさらに担持する請求項1に記載のNOx 吸蔵材の担持方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−12501(P2008−12501A)
【公開日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−189332(P2006−189332)
【出願日】平成18年7月10日(2006.7.10)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【出願人】(000104607)株式会社キャタラー (161)
【Fターム(参考)】