説明

PC鋼材の耐火被覆構造およびその工法

【課題】耐火性、耐熱性に優れた耐火被覆構造およびその工法を提供する。
【解決手段】上端と下端とが構造物50に接続され、緊張状態で斜めに配置された棒状のPC鋼材10と、前記PC鋼材10との間に隙間を有しながら前記PC鋼材10の周面を囲んで配置された外側管20と、を備え、前記PC鋼材10と前記外側管20との隙間には、粒状又は粉状の熱発泡性耐火断熱材30を充填する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築、橋梁等に用いるPC鋼材の耐火被覆構造およびその工法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、構造物や橋梁に用いる鋼材は、火災時の熱による鋼材の破壊を防ぐため、鋼材の周面に隙間を有するように外側管を囲んで配置し、鋼材と外側管との隙間にモルタルセメント等のグラウト材を充填して被覆する耐火被覆構造が知られている(特許文献1,2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−46268
【特許文献2】特開平10−183371
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、グラウト材は、液体の粘性により流動性が低く、また含有水分に応じて粘性の変化が生じ、その粘性が低いと垂れ流れて空隙や気泡ができやすく、粘性が高いと内部まで充填されず気泡や間隙が残りやすいという問題があった。
【0005】
また、グラウト材は、グラウト材の重力に任せて充填するため、充填されたグラウト材の表面が水平となることから、鋼材を斜め配置すると鋼材の上部の斜め上方に向いた側面が露出し耐火被覆されない部分が発生してしまうという問題があった。
【0006】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、耐火性、耐熱性に優れた耐火被覆構造およびその工法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
[1]上端と下端とが構造物に接続され、緊張状態で斜めに配置された棒状のPC鋼材と、前記PC鋼材との間に隙間を有しながら前記PC鋼材の周面を囲んで配置された外側管と、を備え、前記PC鋼材と前記外側管との隙間には、粒状又は粉状の熱発泡性耐火断熱材が充填されていることを特徴とするPC鋼材の耐火被覆構造。
【0008】
[2]前記PC鋼材は、周面に防錆処理が施されていることを特徴とする前項1に記載のPC鋼材の耐火被覆構造。
【0009】
[3]前記外側管は、長手方向に複数に分割されていることを特徴とすることを特徴とする前項1又は2に記載のPC鋼材の耐火被覆構造。
【0010】
[4]前記外側管は、軸方向に二つ割りされていることを特徴とする前項1〜3のいずれかに記載のPC鋼材の耐火被覆構造。
【0011】
[5]PC鋼材との間に隙間を有しながら外側管を前記PC鋼材の周面を囲んで配置し、前記PC鋼材が斜め姿勢をとるように上端と下端とを構造物に緊張状態で接続し、
前記隙間に粒状又は粉状の熱発泡性耐火断熱材を充填したことを特徴とするPC鋼材の耐火被覆工法。
【0012】
[6]前項1〜4のいずれか1項に記載のPC鋼材の耐火被覆構造を使用して建てられた構造物。
【発明の効果】
【0013】
本発明は以下の効果を奏する。
【0014】
前項[1]の発明によると、粒状又は粉状の熱発泡性耐火断熱材を充填したため、固体の高い流動性により、垂れ流れて空隙や気泡ができることなく、内部に気泡や間隙が残らないとともに、火災時には熱発泡して体積増加するため、PC鋼材の上部の斜め上方に向いた側面に露出部分が充填時に残っていても、このような露出部分も確実に被覆することができ、ひいては、耐火性、耐熱性に優れた耐火断熱構造を提供することができる。
【0015】
前項[2]の発明によると、PC鋼材の周面に防錆処理を施したため、PC鋼材の錆による劣化を防ぐことができる。
【0016】
前項[3]の発明によると、外側管を長手方向に複数に分割したため、各外側管に対して、その上側に隣接した外側管との間から熱発泡性耐火断熱材を充填することができ、これにより、充填部となる各外側管に対して未充填部が残りにくい近い位置から確実に充填できる。
【0017】
前項[4]の発明によると、外側管を軸方向に二つ割りにしたため、予めPC鋼材に通しておかなくても、PC鋼材を接続した後から外側管を配置することができ、これにより、施工性を向上させることができる。さらに、既設構造物の耐火構造を強化することもできる。
【0018】
前項[5]の発明によると、PC鋼材との間に隙間を有しながら外側管を前記PC鋼材の周面を囲んで配置し、前記PC鋼材が斜め姿勢をとるように上端と下端とを構造物に緊張状態で接続し、前記隙間に粒状又は粉状の熱発泡性耐火断熱材を充填したため、固体の高い流動性により、空隙や気泡できなく、気泡や間隙が残らないとともに、火災時の熱により発泡による体積増加により鋼材の上部の斜め上方に向いた側面に生じる未充填部分まで被覆でき、耐火性、耐熱性を向上させることができる。
【0019】
前項[6]の発明によると、前項1〜4のいずれか1項に記載の耐火被覆構造によって建てられた構造物としたため、構造物について上述した効果を奏することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】図1は、本発明の第1実施形態にかかるPC鋼材の耐火被覆構造を示した正面図である。
【図2】図2は、同PC鋼材の耐火被覆構造を示した断面図である。
【図3】図2は、同PC鋼材の耐火被覆構造の第1工程を示した工程図である。
【図4】図3は、同PC鋼材の耐火被覆構造の第2工程を示した工程図である。
【図5】図4は、同PC鋼材の耐火被覆構造の第3工程を示した工程図である。
【図6】図6は、同PC鋼材を使用し、第1〜3工程を経て施工された構造物の全体を示す外観断面図である。
【図7】図7は、熱発泡性耐火断熱材の発泡の変化を示した図で、(A)は発泡前、(B)発泡後、の熱発泡性耐火断熱材を説明するものである。
【図8】図8は、本発明の第2実施形態にかかるPC鋼材の耐火被覆構造を示した断面図である。
【図9】図9は、本発明の第3実施形態にかかるPC鋼材の耐火被覆構造を示した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
次に、本発明の第1実施形態について、図1〜図7を参照して説明する。
【0022】
図1は、本発明の第1実施形態にかかるPC鋼材の耐火被覆構造を示した正面図である。図2は、同PC鋼材の耐火被覆構造を示した断面図である。
【0023】
図1、図2に示すように、この第1実施形態にかかるPC鋼材の耐火被覆構造1は、PC鋼材10と、外側管20と、熱発泡性耐火断熱材30と、防錆処理部40と、から構成されている。
【0024】
「PC鋼材10」とは、プレストレスコンクリートの緊張材として用いられる鋼材を言う。このPC鋼材10は、鋼線、PC鋼より線、鋼棒等を含むものである。この実施形態にかかるPC鋼材10は、複数本(この実施形態では7本)の素線10a・・・を撚り束ねて構成されている。この素線10aの直径は、例えば9.5〜15.2mmが好ましく、この実施形態では12.7mm又は15.2mmのものが採用されている。複数本(この実施形態では7本)束ねたPC鋼材10の太さは、例えば15.2〜76.0mmが好ましく、この実施形態では38.1mm又は45.6mmとなっている。
【0025】
PC鋼材10の上端および下端には、構造物50に緊張状態で接続するための、固定具14が固着されている。この固定具14には、ネジ溝14aが形成され、このネジ溝14aには、アンカープレート15が通され、ナット16が螺嵌されている。このナット16を回転移動させることにより、アンカープレート15がPC鋼材10の長手方向に移動する。ナット16と固定具14の上端との周面には、固定具14のネジ溝14aやナット16などの劣化を防ぐため、保護カバー17が取り付けられている。固定具14の先端には、端部栓19が取り付けられている。
【0026】
このPC鋼材10の周面には、防錆処理部40が形成されている。この防錆処理部40は、防錆材を塗布することにより形成されている。
【0027】
PC鋼材10の周面には、所定の隙間を有して外側管20が囲うように配置されている。この隙間は、例えば3〜50mmに設定されているのが好ましく、この実施形態では20〜40mmに設定されている。
【0028】
外側管20は、例えば円形の筒状に形成された鋼管からなる。この外側管20の直径は、例えば40〜240mmが好ましく、この実施形態では、90〜130mmのものを採用している。
【0029】
各外側管20・・・の長手方向の長さは、例えば1000〜5000mmが好ましく、この実施形態では1500mmのものを採用している。
【0030】
この外側管20は、長手方向に複数に分割され、各外側管20・・・は隣接するように配置されている。この隣接する外側管20・・・は、例えば接着21によって連結されるようになっている。この隣接する外側管20を全て接着21したときの全長は、熱発泡性耐火断熱材の充填口を確保するため、構造物に接続したときに一定の間隔を有するように長さ設定がされている。
【0031】
PC鋼材10と外側管20との間の隙間には、粒状または粉状の熱発泡性耐火断熱材30が充填されている。
【0032】
ここで「粒状」とは、その形状(粒の形状)を肉眼で認識できる程度の大きさのものであって固体状のものを言う。また、「粉状」とは、その形状(粒の形状)を肉眼で認識できない程度の大きさのものであって固体状のものを言う。この発明では、粒度が1mm以上のものを「粒状」と呼び、粒度が1mm未満のものを「粉状」と呼ぶものとする。
【0033】
粒状または粉状の熱発泡性耐火断熱材30の粒度は、例えば0.5〜1.5mmが好ましく、この実施形態では1.0mmの粒状のものを採用している。
【0034】
この熱発泡性耐火断熱材30は、熱により発泡し膨張する性質を有するものである。この熱発泡性耐火断熱材30は、例えば熱を受けた発泡後の直径が発泡前の約2倍以上に膨張するものが好ましい。
【0035】
次に、本実施形態にかかるPC鋼材の耐火被覆構造の施工順序について説明する。
【0036】
図3は、同PC鋼材の耐火被覆構造の第1工程を示した工程図である。図4は、同PC鋼材の耐火被覆構造の第2工程を示した工程図である。図5は、同PC鋼材の耐火被覆構造の第3工程を示した工程図である。
【0037】
はじめに、施工に必要な資材と施工する構造物とについて説明する。
【0038】
図3〜図5に示すように、作業に必要な資材は、防錆処理(防錆処理部40)を施したPC鋼材10と、長手方向に複数に分割された外側管20・・・と、鋼材引寄ケーブル12とである。作業員Hは、これらの資材を構造物50内の施工場所(吊り下げ位置)に搬入する。
【0039】
次に、PC鋼材10を取り付ける構造物50について説明する。
【0040】
構造物50の中層階の天井および床53には、PC鋼材10を挿入しその両端を固定するための、鋼材挿入孔51が予め形成されている。上側の鋼材挿入孔51は、設置予定階の天井すなわち上階の床53と柱52とが交わる箇所に形成され、下側の鋼材挿入孔51は、設置予定階の床53であって、上側の鋼材挿入孔51の斜め下方の位置に形成されている。また、この鋼材挿入孔51は、斜め姿勢に配置されたPC鋼材10が全長にわたって直線状となるように、PC鋼材10の斜め姿勢に沿った傾斜がつけられている。また、鋼材挿入孔51には、外側管20よりも少し大きめの径の外側管受け部51aと、アンカープレート15よりも少し大きめの径のアンカープレート受け部51bとが形成されている。
【0041】
次に、第1工程について説明する。
【0042】
図3に示すとおり、作業員Hは、PC鋼材10の上端部にPC鋼材引寄ケーブル12を取り付ける。そして、作業員Hは、長手方向に複数に分割された外側管20・・・にPC鋼材10を挿入していく。そして、作業員Hは、PC鋼材引寄ケーブル12を設置予定階の上側の鋼材挿入孔51に挿入し、構造物50の外側から作業員HがPC鋼材引寄ケーブル12を手繰り寄せ、PC鋼材10の上端側を鋼材挿入孔51に挿入しPC鋼材10の上端部が鋼材挿入孔51から抜け落ちないように仮止めをしておく。
【0043】
次に、第2工程について説明する。
【0044】
図4に示すように、まず、作業員Hは、設置予定階の下側の鋼材挿入孔51に挿入したPC鋼材10の固定具14に、アンカープレート15を通し、ナット16を螺嵌する。こうして、PC鋼材10の下端部に取り付けられたアンカープレート15が構造物50のアンカープレート受け部51bで係止することにより、PC鋼材10の下端部が構造物50に固定される。
【0045】
次に、作業員Hは、設置予定階の上側の鋼材挿入孔51に挿入したPC鋼材10の固定具14に、アンカープレート15を通し、ナット16を螺嵌していく。このとき、ナット16を回転させていくことにより、アンカープレート受け部51bに係止されるアンカープレート15は下方に移動し、PC鋼材10が緊張状態になっていく。この緊張作業は、例えば緊張ジャッキを使用して行うことができる。以上の緊張作業が終了すると、作業員Hは、保護カバー17を取り付ける。
【0046】
なお、外側管20は、外側管受け部51aで止まり、それより内部に挿入されないようになっている。
【0047】
次に、第3工程について説明する。
【0048】
図5に示すように、作業員Hは、最下方側に位置する外側管20と、その上側に隣接する外側管20との間(充填部)から、PC鋼材10と外側管20の隙間内に熱発泡性耐火断熱材30を十分に充填していく。そして、この隙間内に熱発泡性耐火断熱材30が十分に充填されると、作業員Hは、充填部(最下方側に位置する外側管20と、その上側に隣接する外側管20との間)を接着21する。そして、作業員Hは、既に接着21済みの外側管20と、その上方側に隣接する外側管20との間から、同様に熱発泡性耐火断熱材30を十分に充填し、同様に充填部を接着21する。そして、この作業(充填作業と接着作業)を最上方側の外側管20まで繰り返す。なお、最上方側の外側管20については、作業員Hが下側の外側管20との間から上方に向かって熱発泡性耐火断熱材30充填していく。
【0049】
次に、作業員Hは、劣化防止のため、すでに構造物50に固定してあるPC鋼材10の上端部と下端部とを構造物50に無収縮モルタル等で後埋め54して仕上げる。
【0050】
図6は、同PC鋼材を使用し、第1〜3工程を経て施工された構造物の全体を示す外観断面図である。この構造物50は、吊り下げ構造の構造物50であり、柱52・・・と、床53・・・と、耐火被覆を施したPC鋼材10と、からなる。左右両端の柱52,52には、各1本のPC鋼材10が接続されている。また、中央の柱52には、交叉するように左右から2本のPC鋼材10,10が接続されている。床53は、上階から吊り下げるPC鋼材10で支えられている。ここで使用するPC鋼材10は、PC鋼材10の特性をいかした吊り下げ部材として緊張状態に接続されている。また、この構造物50は、例えば駐車場である。
【0051】
図7は、熱発泡性耐火断熱材30の発泡の変化を示した図で、(A)は発泡前、(B)発泡後、の熱発泡性耐火断熱材を説明するものである。
【0052】
図7の(A)に示すように、火災等での熱を受けて発泡する前は、重力の影響により、熱発泡性耐火断熱材30の表面が水平となり、斜め配置された外側管20の内部に隙間C(未充填部分)ができてしまう。すなわち、発泡前は、未充填部分ができるため、PC鋼材10の上部の斜め上方に向いた側面が、露出している。なお、このとき、PC鋼材10の下方側に充填されている熱発泡性耐火断熱材30は、固体の高い流動性により、間隙や気泡などができず、隅々まで被覆されている。
【0053】
図7の(B)に示すように、各粒状の熱発泡性耐火断熱材30が火災時等の熱を受けた後は、各熱発泡性耐火断熱材30が発泡して膨張(この実施形態では、発泡前の約2倍に膨張)することにより、熱発泡性耐火断熱材30の体積が増加し、PC鋼材10の全周面を耐火被覆することになる。このとき、PC鋼材10は、発泡前に被覆されなかった隙間C(未充填部分)についても被覆されることになる。すなわち、発泡前に存在していたPC鋼材10の露出している部分についても耐火被覆されることになる。
【0054】
本実施形態のPC鋼材の耐火被覆構造は次の利点がある。
【0055】
すなわち、PC鋼材の耐火被覆構造1をPC鋼材10と、外側管20と、熱発泡性耐火断熱材30と、防錆処理部40とから構成したため、固体の高い流動性により、垂れ流れて空隙や気泡ができることなく、内部に気泡や間隙が残らないとともに、火災時には熱発泡して体積増加するため、鋼材の上部の斜め上方に向いた側面に露出部分が充填時に残っていても、このような露出部分も確実に被覆することができ、ひいては、耐火性、耐熱性に優れた耐火断熱構造を提供することができる。
【0056】
さらに熱発泡性耐火断熱材30が熱を受けた発泡後の直径が発泡前の約2倍以上に膨張するものを使用したため、火災時には熱発泡して体積が増加し、鋼材の上部の斜め上方に向いた側面に露出部分が充填時に残っていても、このような露出部分も確実に被覆することができ、ひいては、耐火性、耐熱性に優れた耐火断熱構造を提供することができる。
さらに、PC鋼材10の表面に防錆材を塗布して防錆処理部40を形成したため、PC鋼材の錆による劣化を防ぐことができる。
【0057】
さらに、外側管20を鋼管としたため、熱で熱発泡性耐火断熱材が膨張しPC鋼材10を被覆するまでの時間を十分に確保することができる。
【0058】
さらに、作業員Hは、PC鋼材10の上端部にPC鋼材引寄ケーブル12を取り付け、長手方向に複数に分割された外側管20・・・にPC鋼材10を挿入し、作業員Hは、PC鋼材引寄ケーブル12を設置予定階の上側の鋼材挿入孔51に挿入し、構造物50の外側から作業員HがPC鋼材引寄ケーブル12を手繰り寄せ、PC鋼材10を鋼材挿入孔51に挿入したため、容易にPC鋼材10を鋼材挿入孔51に挿入することができる。
【0059】
さらに、作業員Hは、設置予定階の上側の鋼材挿入孔51に挿入したPC鋼材10の固定具14に、アンカープレート15を通し、ナット16を螺嵌し、このとき、作業員Hは例えば緊張ジャッキを使用して、ナット16を回転させていくことにより、アンカープレート受け部51bに係止されるアンカープレート15は下方に移動し、PC鋼材10が緊張状態になっていくため、容易にPC鋼材10を構造物50に緊張状態に接続することができる。
【0060】
さらに、作業員Hは、最下方側に位置する外側管20と、その上側に隣接する外側管20との間(充填部)から、PC鋼材10と外側管20の隙間内に熱発泡性耐火断熱材30を十分に充填し、この隙間内に熱発泡性耐火断熱材30が十分に充填されると、作業員Hは、充填部(最下方側に位置する外側管20と、その上側に隣接する外側管20との間)を接着21し、既に接着21済みの外側管20と、その上方側に隣接する外側管20との間から、同様に熱発泡性耐火断熱材30を十分に充填し、同様に充填部を接着21し、この作業(充填作業と接着作業)を最上方側の外側管20まで繰り返したため、各外側管20・・・に対して、その上側に隣接した外側管20との間から熱発泡性耐火断熱材30を充填することができ、これにより、充填部となる各外側管20・・・に対して未充填部が残りにくい近い位置から確実に充填できる。さらに、固体の高い流動性により、垂れ流れて空隙や気泡ができることなく、内部に気泡や間隙が残らないとともに、火災時には熱発泡して体積増加するため、鋼材の上部の斜め上方に向いた側面に露出部分が充填時に残っていても、このような露出部分も確実に被覆することができ、ひいては、耐火性、耐熱性に優れた耐火断熱構造を提供することができる。
【0061】
さらに、構造物50を柱52・・・と床53・・・と耐火被覆を施したPC鋼材10とから構成した吊り下げ構造の構造物50としたため、この吊り下げ構造の構造物50について、上述した効果を奏することができる。
【0062】
さらに、構造物50は駐車場としたため、この駐車場について上述した効果を奏することができる。
【0063】
次に、本発明の第2実施形態について、図8を参照して以下に説明する。
【0064】
図8は、本発明の第2実施形態にかかるPC鋼材の耐火被覆構造を示した断面図である。
【0065】
図8に示すように、この第2実施形態にかかるPC鋼材10の耐火被覆構造2は、PC鋼材10と、熱発泡性耐火断熱材30と、防錆処理部40と、外側管60a,60bと、ボルト締め70,70と、から構成されている。外側管60a,60bは、軸方向に二つ割り形状に形成されており、長手方向に複数に分割されている。この外側管60a,60b・・・は、この実施形態ではボルト締め70,70・・・によって固定されている。なお、PC鋼材10と防錆処理部40と熱発泡性耐火断熱材30とは、上述第1実施形態と同様である。
【0066】
次に、本実施形態にかかるPC鋼材の耐火被覆構造の施工順序について説明する。
【0067】
作業員Hは、PC鋼材10が斜め姿勢をとるように上端と下端とを構造物50に緊張状態で接続する。このPC鋼材10において作業員Hは、軸方向に二つ割りされている一方の外側管60aを、PC鋼材10の片面周面を囲うように配置する。それに対応する他方の外側管60bを、対応する側のPC鋼材10の片面周面に囲うように配置する。それらを例えばボルト締め70,70で固定し、筒状の外側管60a,60bを形成していく。
【0068】
この作業を同様に繰り返し、第1実施形態と同様に、長手方向に複数に分割された外側管60a,60b・・・を軸方向に複数配置していく。なお、その他の工程は、上記第1実施形態と同様である。
【0069】
本第2実施形態のPC鋼材の耐火被覆構造は、次の利点がある。
【0070】
すなわち、PC鋼材10の耐火被覆構造2をPC鋼材10と熱発泡性耐火断熱材30と防錆処理部40と外側管60a,60bとボルト締め70,70とから構成し、外側管60a,60bを軸方向に二つ割り形状に形成し、さらに長手方向に複数に分割し、この外側管60a,60b・・・をボルト締め70,70・・・によって固定したため、外側管60a,60b・・・を予めPC鋼材10に通しておかなくても、PC鋼材10を接続した後から外側管60a,60b・・・を配置することができ、これにより、施工性を向上させることができる。
【0071】
さらに、PC鋼材10が斜め姿勢をとるように上端と下端とを構造物50に緊張状態で接続したPC鋼材10において、作業員Hは、軸方向に二つ割りされている一方の外側管60aを、PC鋼材10の片面周面を囲うように配置し、それに対応する他方の外側管60bを、対応する側のPC鋼材10の片面周面に囲うように配置し、それらを例えばボルト締め70,70で固定し、筒状の外側管60a,60bを形成し、この作業を同様に繰り返し、第1実施形態と同様に、長手方向に複数に分割された外側管60a,60b・・・を軸方向に複数配置し、その他の工程を上記第1実施形態と同様としたため、外側管60a,60b・・・を予めPC鋼材10に通しておかなくても、PC鋼材10を接続した後から外側管60a,60b・・・を配置することができ、これにより、施工性を向上させることができる。
【0072】
次に、本発明の第3実施形態について、図9を参照して以下に説明する。
【0073】
図9は、本発明の第3実施形態にかかるPC鋼材の耐火被覆構造を示した断面図である。
【0074】
図9に示すように、この第3実施形態にかかるPC鋼材10の耐火被覆構造3は、PC鋼材10と、防錆処理部40と、内側管80と、熱発泡性耐火断熱材30と、外側管90と、から構成されている。
【0075】
PC鋼材10に周面には、所定の隙間を有しながら内側管80が配置されている。このPC鋼材10と内側管80との間の隙間は例えば3〜15mmに設定されているのが好ましく、この実施形態では、5〜8mmに設定されている。この内側管80の直径は、例えば23〜100mmのものが好ましく、この実施形態では、直径48〜62mmのものを採用している。この内側管80は、例えば硬質ポリ塩化ビニールで形成されているものを採用している。
【0076】
内側管80の周面には、所定の隙間を有しながら外側管90が配置されている。この内側管80と外側管90との間の隙間は、幅20〜50mm以上に設定されている。また例えば30mmに設定されていても良い。この隙間には、熱発泡性耐火断熱材30が充填されている。この外側管90の直径は、例えば65〜200mmに設定されているのが好ましく、この実施形態では、直径130〜160mmのものを採用している。この外側管90は、例えば硬質ポリ塩化ビニールで形成されているものを採用している。また、これ以外にも鋼管等で形成されているものを採用しても良い。なお、その他のPC鋼材10と防錆処理部40と熱発泡性耐火断熱材30は、上記第1実施形態と同様である。
【0077】
本第3実施形態のPC鋼材の耐火被覆構造は、次の利点がある。
【0078】
すなわち、PC鋼材10の耐火被覆構造をPC鋼材10と防錆処理部40と内側管80と熱発泡性耐火断熱材30と外側管90とから構成したため、外側管90と熱発泡性耐火断熱材30と内側管80との三段階の耐火層を形成したことにより、火災時の熱により熱発泡性耐火断熱材30が膨張し、PC鋼材10の全周面を被覆するまでの間の時間を確実に確保でき、より耐火性に優れた耐火被覆構造を提供することができる。
【0079】
さらに、PC鋼材10に周面に所定の隙間を有しながら内側管80を配置したため、熱発泡性耐火断熱材30が直接PC鋼材10と接しないため、熱発泡性耐火断熱材30によるPC鋼材10の劣化を防ぐことができる。
【0080】
以上、本発明を第1〜3実施形態に基づいて説明してきたが、本発明は、これに限定されるものではなく、以下のように構成しても良い。
【0081】
(1)上記第1実施形態では、粒状の熱発泡性耐火断熱材30としたが、本発明はこれに限定されるものではなく、粉状の熱発泡性耐火断熱材30を使用しても良い。
【0082】
(2)上記第1実施形態では、例えば熱を受けた発泡後の直径が発泡前の約2倍以上に膨張する熱発泡性耐火断熱材30を使用したが、本発明はこれに限定されるものではなく、発泡前と発泡後で体積が増加していれば何倍に膨張しても良い。
【0083】
(3)上記第1実施形態では、PC鋼材10に防錆材を塗布(防錆処理部40)したが、本発明はこれに限定されるものではなく、必ずしも防錆材を塗布(防錆処理部40)する必要はない。
【0084】
(4)上記第1実施形態では、第3工程で、作業員Hは、最下方側に位置する外側管20と、その上側に隣接する外側管20との間(充填部)から、PC鋼材10と外側管20の隙間内に熱発泡性耐火断熱材30を十分に充填し、この隙間内に熱発泡性耐火断熱材30が十分に充填されると、作業員Hは、充填部(最下方側に位置する外側管20と、その上側に隣接する外側管20との間)を接着21し、既に接着21済みの外側管20と、その上方側に隣接する外側管20との間から、同様に熱発泡性耐火断熱材30を十分に充填し、同様に充填部を接着21し、この作業(充填作業と接着作業)を最上方側の外側管20まで繰り返したが、本発明はこれに限定されるものではなく、はじめに、最上側の外側管20と隣接する外側管20を残して、すべての外側管20と隣接する外側管20とを接着21し、その後、最上部の外側管20と隣接する外側管20の間(充填部)から熱発泡性耐火断熱材30を充填して、その充填部を接着21しても良い。
【0085】
(5)上記第1実施形態では、構造物50を例えば駐車場としたが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば、橋梁、建築構造物等の外ケーブルに使用する等の構造物に本発明の耐火被覆構造を施したPC鋼材を使用しても良い。
【0086】
(6)上記第1実施形態では、例えば外側管20を円形の筒状に形成された鋼管としたが、本発明はこれに限定されるものではなく、必ずしも円形の筒状である必要でなく、例えば正方形状、長方形状、三角形状等の筒状でも良い。さらに、外側管20が必ずしも鋼管でなくとも良く、例えば、硬質ポリ塩化ビニール管や、建築等で使用する仕上げ材等でも良い。
【0087】
なお、外側管20は、必ずしも優れた耐火力を有している必要はなく、充填された熱発泡性耐火断熱材30が火災時に熱発泡しPC鋼材10を被覆するまでの耐火力を有していれば良い。
【0088】
(7)上記第1実施形態では、PC鋼材10の上端および下端には、構造物50に緊張状態で接続するための、固定具14が固着され、この固定具14には、ネジ溝14aが形成され、このネジ溝14aには、アンカープレート15が通され、ナット16が螺嵌され、このナット16を回転移動させることにより、アンカープレート15がPC鋼材10の長手方向に移動するように構成され、ナット16と固定具14の上端との周面には、固定具14のネジ溝14aやナット16などの劣化を防ぐため、保護カバー17が取り付けられ、固定具14の先端には、端部栓19が取り付けられているとしたが、本発明はこれに限定されるものではなく、耐火被覆を施したPC鋼材が構造物50に緊張状態で接続できればよく、必ずしもこのような構成である必要はない。
【0089】
(8)上記第1実施形態では、外側管受け部51aを外側管20よりも少し大きめの径に形成し、アンカープレート受け部51bをアンカープレート15よりも少し大きめの径に形成したが、本発明はこれに限定されるものではなく、外側管20およびアンカープレート15よりも大きな径であれば良く、必ずしもこのように形成する必要はない。
【0090】
(9)上記第2実施形態では、外側管60a,60bを例えばボルト締め70,70によって固定したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば、軸方向二つ割りに形成した外側管60a,60bを接着剤、溶接、その他の結合手段等によって固定しても良い。
【符号の説明】
【0091】
10 PC鋼材
20 外側管
30 熱発泡性耐火断熱材
40 防錆処理部
50 構造物
60a 外側管
60b 外側管
90 外側管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上端と下端とが構造物に接続され、緊張状態で斜めに配置された棒状のPC鋼材と、
前記PC鋼材との間に隙間を有しながら前記PC鋼材の周面を囲んで配置された外側管と、を備え、
前記PC鋼材と前記外側管との隙間には、粒状又は粉状の熱発泡性耐火断熱材が充填されていることを特徴とするPC鋼材の耐火被覆構造。
【請求項2】
前記PC鋼材は、周面に防錆処理が施されていることを特徴とする請求項1に記載のPC鋼材の耐火被覆構造。
【請求項3】
前記外側管は、長手方向に複数に分割されていることを特徴とすることを特徴とする請求項1又は2に記載のPC鋼材の耐火被覆構造。
【請求項4】
前記外側管は、軸方向に二つ割りされていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のPC鋼材の耐火被覆構造。
【請求項5】
PC鋼材との間に隙間を有しながら外側管を前記PC鋼材の周面を囲んで配置し、
前記PC鋼材が斜め姿勢をとるように上端と下端とを構造物に緊張状態で接続し、
前記隙間に粒状又は粉状の熱発泡性耐火断熱材を充填したことを特徴とするPC鋼材の耐火被覆工法。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のPC鋼材の耐火被覆構造を使用して建てられた構造物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−64010(P2011−64010A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−215929(P2009−215929)
【出願日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【出願人】(506050190)株式会社技建管理 (3)
【出願人】(504251436)アグナス株式会社 (3)
【Fターム(参考)】