説明

PWM制御方法

【課題】作動状態は勿論、停止状態から低速で動きだす場合においても、滑らかな制御ができるPWM制御の制御方法を提供することである。
【解決手段】被駆動体と、当該被駆動体を駆動するモータと、前記モータをPWM制御するモータ制御手段と、を備え、前記PWM制御の1周期の中に、前記被駆動体の共振周波数に対応した周波数のパルス群からなる第1デューティと、前記第1デューティのパルス群の周波数よりも高い周波数のパルス群からなる第2デューティと、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動パワーステアリング装置などに用いられるPWM制御装置のPWM制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、モータやコイルなどの誘導系の負荷に対するPWM(Pulse Width Modulation、パルス幅変調)制御は、前記負荷に流れる電流が連続的になり、その電流のリップル量が許容できる値になる周波数で制御を行っている。例えばモータを用いて自動車等の車両のステアリング機構に操舵補助力を与えて操舵者の操舵補助を行う電動パワーステアリング装置においては、滑らかな操舵性を確保するために比較的高い周波数を前記の制御に用いている。
また、電動パワーステアリング装置のモータは機械的なギアを経由して車輪を操舵している。この機械的な構造においては、作動していない状態では静止摩擦によって摩擦係数が大きく、作動後においては動摩擦によって摩擦係数が小さくなるという物理的な機構を有している。
以上の滑らかな操舵性と操舵時の切り始めでのアシスト不足に対処するために、様々な工夫が必要であり、例えば特許文献1がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−154953号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の電流制御はリップル(Ripple、脈動)電流が少ないように周波数を選定しているため、作動状態では滑らかであるが、停止状態から微小に動く時には、摩擦係数の大きな(静止摩擦)静止状態から摩擦係数の小さな(動摩擦)動的状態への移行動作となるため、動き出しが唐突になる場合がある。つまり、動いた瞬間から摩擦係数の小さい動摩擦に変わる為、動き出し後に意図していない操舵上の加速が行われてしまう可能性がある。
また、停止状態から作動状態へ移行する際に電動パワーステアリング装置のモータに駆動トルクをかける瞬間は、PWM制御の比較的大きいパルス幅を入力するが、前記の機械系に適した駆動周波数はリップル電流が大きい。したがって、PWMの制御周期において、常に機械系の駆動周波数に合わせると、作動状態においても、大きなリップル電流が常に流れ、振動や、音を発生させる。これは自動車としての商品性を低下させる。
また、特許文献1においても、さらに高度な、滑らかな操舵性と操舵時の切り始めでの強いアシスト力が求められている。
【0005】
そこで、本発明はこのような問題点を解決するもので、その目的とするところは、作動状態は勿論、停止状態から低速で動きだす場合においても、滑らかな制御ができるPWM制御の制御方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記の課題を解決して、本発明の目的を達成するために、以下のように構成した。
すなわち、被駆動体と、当該被駆動体を駆動するモータと、前記モータをPWM制御するモータ制御手段と、を備え、前記PWM制御の1周期の中に、前記被駆動体の共振周波数に対応した周波数のパルス群からなる第1デューティと、前記第1デューティのパルス群の周波数よりも高い周波数のパルス群からなる第2デューティと、を有することを特徴とする。
【0007】
かかる構成により、前記第1デューティの前記被駆動体の共振周波数に対応した周波数のパルス群によって、操舵時の切り始めで充分なアシスト力が発生する。また、被駆動体の動作が静止摩擦から動摩擦に変化した際には、前記第2デューティの高い周波数のパルス群によって、電流のリップルや振動、騒音の少ない滑らかな操舵を行う駆動力が発生する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、作動状態は勿論、停止状態から低速で動きだす場合においても、滑らかな制御ができるPWM制御の制御方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の第1実施形態のPWM制御方法と、そのときの電流の制御状態を示す図である。
【図2】本発明の第1実施形態の2重PWM信号を形成する方法の一例を示す図である。
【図3】本発明の第1実施形態の2重PWM信号を形成する方法を論理回路で実現する回路例を示す図である。
【図4】本発明の第1実施形態のPWM制御に用いる周波数と、それによって生ずる機械系の振動と音の関係を示す図である。
【図5】本発明の第1実施形態のモータのコイル(ソレノイド)を複合PWMで制御する回路例を示した図である。
【図6】本発明の第2実施形態において、モータの電流値によって、2重PWM信号の第1デューティと第2デューティの割合を変える様子を示した図であり、(a)は電流値が5%以下、(b)は5%超〜10%以下、(c)は10%超〜15%未満、(d)は15%以上の場合を示している。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための形態を、図面を参照して説明する。
【0011】
(第1実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態のPWM制御方法と、そのときの電流の制御状態を示す図である。
本発明のPWM制御方法においては、異なる周波数から構成される複数のデューティ(パルス群)を合成して、PWM制御を行う。このデューティの数をN(Nは正の整数)として、N=2の場合を2重PWMと適宜表記する。また一般のN(N≧2、Nは整数)に対しては、複合PWMと適宜表記する。
まず、複合PWM、あるいは2重PWMで用いられる信号である第1デューティ(11A、11B)と第2デューティ(12A、12B)について説明する。
【0012】
≪2重PWM信号の第1デューティと第2デューティについて≫
図1において、第1デューティ(11A、11B)は、モータ(駆動体、不図示)の被駆動体である電動パワーステアリング装置(不図示)の機械系の応答速度に対応した(機械系の共振周波数に近い)低い周波数のパルス群である。
つまり、後記する第2デューティ(12A、12B)のパルス群よりは低い周波数であるので、パルス幅を大きく(広く)できて、トルクを大きくしやすい、云わば、機械系に適した周波数によるパルス群である。
【0013】
第1デューティ(11A、11B)のパルス群は、第1周波数である周波数500Hzで連続して発生し、パルス群の各パルス幅は制御回路の指令によって、負荷の電流量を大きくする場合には広く、また負荷の電流量を小さくする場合には狭くなる。
なお、第1デューティ(11A、11B)のパルス群の周波数が、何故に500Hzが選択されているかについての詳細は後記する。
【0014】
第2デューティ(12A、12B)は、リップルを少なくしやすい、云わば、電気系に適した周波数によるパルス群である。第2デューティ(12A、12B)のパルス群は、第2周波数である周波数20KHzで連続して発生し、パルス群の各パルス幅は、制御回路の指令によって、電流量を大きくする場合には広く、また電流量を小さくする場合には狭くなる。
また、第2デューティ(12A、12B)のパルス群の周波数が、何故に周波数20KHzが選択されているかについての詳細は後記する。
【0015】
なお、図1において、第1デューティ(11A、11B)と第2デューティ(12A、12B)のパルス群を表記する欄のブロックで示した表題は、「デューティの制御状態」としている。
また、「デューティの制御状態」に対応して、そのときに負荷に流れる電流を表記する欄のブロックで示した表題は、「電流の制御状態」としている。
【0016】
第1デューティ(11A、11B)と第2デューティ(12A、12B)は、組み合わされて1周期(13A、13B)毎に繰り返される。1周期(13A、13B)は図1において50Hzである。まず周期13Aの始めに第1デューティ11Aが発生し、その後に第2デューティ12Aが発生する。また、周期13Bの始めに第1デューティ11Bが発生し、その後に第2デューティ12Bが発生する。それ以降の周期においても同様の順序で発生する。
【0017】
第1デューティ(11A、11B)は、前記したように周波数が500Hzであるので、第2デューティ(12A、12B)の周波数20KHzよりは低周波数であって、パルス幅を大きくしやすい。つまり、大きなトルクを発生する際に適している。
しかしながら、周波数が低いのでパルスの間隔が長く、その間に負荷の電流が変動しやすく、電流のリップルが大きくなりやすい。
【0018】
第2デューティ(12A、12B)は、前記したように周波数が20KHzであるので、第1デューティ(11A、11B)よりは高周波数であって、パルスの間隔が短く、その間に負荷の電流が変動しにくく、電流のリップルが少ない。しかしながら、パルス幅が狭いので大きなトルクを発生するのには適していない。
【0019】
なお、図1において、第1デューティ(11A、11B)と第2デューティ(12A、12B)の制御状態において、負荷に流れる電流については、前記したように、「電流の制御状態」の欄に対応して示している。
500Hzの第1デューティ(11A、11B)で制御されているときは、破線14で囲んで示した電流波形のようにリップルが相対的に大きい。一方、第2デューティ(12A、12B)で制御されているときは、リップルが相対的に小さい。
【0020】
第1デューティ11Aと第2デューティ12Aは、それぞれ、その時点の状況に最適なパルス幅がPWM制御手段(モータ制御手段、不図示)によって選択される。これらの最適なパルス幅は、1周期である周期13Aで0.02sec(1/50Hz)の間は一定に保たれる。次の1周期である周期13Bの0.02secの間では、第1デューティ11Bと第2デューティ12Bは、それぞれ、その時点の状況に最適なパルス幅が選択されるので、周期13Aにおける第1デューティ11Aと第2デューティ12Aのパルス幅と、同一であることも、変化することもある。
ただし、1周期は50Hzであり、周期13A、13Bの時間は一定の0.02sec(1/50Hz)である。
【0021】
周期13Bの以降においても、1周期は50Hzで不変であり、また、第1デューティは500Hzのパルス群であり、第2デューティは20KHzのパルス群であることも不変である。しかし、各周期において、第1デューティと第2デューティは、それぞれその時点の状況に最適なパルス幅が選択される。
この第1デューティ(11A、11B)と第2デューティ(12A、12B)を組み合わせることにより、そして1周期の逆数である0.02sec(1/50Hz)毎に、前記PWM制御手段(モータ制御手段、不図示)が監視して制御することにより、最適なモータ制御が可能となる。
【0022】
≪2重PWM信号の形成例≫
図2は、2重PWM信号を形成する方法の一例を示す図である。
図2(a)は、500Hzの連続したパルス群と20KHzの連続したパルス群が第1デューティと第2デューティに相当するパルス群を形成する過程を示している。
図2(b)は、形成された第1デューティと第2デューティに相当するパルス群の波形のタイムチャートを示している。
図2(c)は、第1デューティと第2デューティに相当するパルス群が合成された波形のタイムチャートを示している。
【0023】
図2(a)において、第1パルス幅信号列210は、500Hzの連続したパルス群である。また、第2パルス幅信号列220は、20KHzの連続したパルス群である。また、第1選択信号251は、50Hzの繰り返し信号である。また、第2選択信号252は、第1選択信号251の反転信号である。
500Hzの第1パルス幅信号列210を第1選択信号251がHigh(高電位、正電位、1)のときに通過させることにより、500Hzの第1パルス群211が形成される。また、20KHzの第2パルス幅信号列220を第2選択信号252がHigh(高電位、正電位、1)のときに通過させることにより、20KHzの第2パルス群221が形成される。
【0024】
図2(b)において、500Hzの第1パルス群211と、20KHzの第2パルス群221の波形が示されている。
なお、500Hzの第1パルス群211は、第1デューティ11A、11B(図1)に相当し、20KHzの第2パルス群221は、第2デューティ12A、12B(図1)に相当している。
また、第1選択信号251と第2選択信号252とは、互いに反転した関係にあるので、500Hzの第1パルス群211と20KHzの第2パルス群221は、互いにパルスが重なることはない。
【0025】
図2(c)において、500Hzの第1パルス群211と20KHzの第2パルス群221が合成された合成パルス群212の波形が示されている。
合成パルス群212は、図1における1周期分の第1デューティ11Aと第2デューティ12Aを併せた信号に相当している。
【0026】
≪2重PWM信号を形成する回路例≫
図3は、図2において説明した2重PWM信号を形成する方法を論理回路で実現する回路例を示す図である。
図3において、AND(論理積)回路331の第1入力端子310には、500Hzの第1パルス幅信号列210(図2)が入力している。また、第2入力端子351には第1選択信号251(図2)が入力している。
AND回路332の第1入力端子320には、20KHzの第2パルス幅信号列220(図2)が入力している。また、第2入力端子352には、第1選択信号251(図2)がインバータ(反転)回路334で反転した信号の第2選択信号252(図2)が入力している。
AND回路331の出力311とAND回路332の出力321がOR(論理和)回路333の第1入力端子と第2入力端子にそれぞれ入力している。
【0027】
以上の構成により、AND回路331の出力311には、500Hzの第1パルス幅信号列210(図2)が第1選択信号251(図2)のHighの区間のみ出力した第1パルス群211(図2)の信号が得られる。
また、AND回路332の出力321には、20KHzの第2パルス幅信号列220(図2)が第2選択信号252(図2)のHighの区間のみ出力した第2パルス群221(図2)の信号が得られる。
そして、OR回路333の出力312には、500Hzの第1パルス群211(図2)と20KHzの第2パルス群221(図2)とが合成された合成パルス群212(図2)が形成され出力する。
なお、前記したように、合成パルス群212は、図1における1周期分の第1デューティ11Aと第2デューティ12Aとを併せた信号に相当している。
【0028】
<周波数と機械系の振動と音の関係>
図4はPWM制御に用いる周波数と、それによって生ずる機械系の振動と音の関係を示す図である。
PWM制御において含まれる周波数は、電動パワーステアリング装置の機械系に様々な影響を及ぼす。電動パワーステアリング装置のモータや、このモータによって駆動されるギアボックス(被駆動体)や、機械系の機構において用いられている様々な部品や構造物は、機械的な振動が共鳴するそれぞれの共振周波数を有している。
【0029】
駆動体であるモータのPWM制御が有する機械系の応答速度に対応した第1デューティの周波数(500Hz)と、被駆動体(ギアボックス)の共振周波数とが、近いほど、駆動体であるモータは、少ないエネルギーで効率よく被駆動体を駆動できる。
しかし、他の様々な部品や構造物の共振周波数に、機械系の第1デューティの周波数が近づくと、共振して無用な振動や音となって現れることがある。
【0030】
図4において、周波数が500Hz以下の領域は、機械系の機構において用いられている様々な部品や構造物が共振する可能性の高い共振領域である。そして、500Hz以下の共振は「振動」として現れることが多い。したがって、0〜500Hzの領域は機械系の振動としての共振領域である。
また、500Hz以上は「音」となって現れることが多い。そして、人間の可聴範囲は、一般的には20Hz〜20KHzであるので、20KHz以上は発生しても音としては人間には聞き取れない領域である。
したがって、500Hz〜20KHzの領域は音として認識される共振領域である。
このように、PWM制御によって発生する共振現象は「振動」または「音」となって現れることがあるが、経験上、「振動」は比較的大きな問題として認識され、「音」は比較的軽微な問題として認識されている。
【0031】
以上より、極力、「振動」としての共振現象は起こさないこと、
そして機械系の機構において用いられている様々な部品が共振する可能性の高い共振領域は0〜500Hzの領域であること、
また、周波数が低い方がPWM制御における大きなトルクを発生しやすいこと、
また、当面の対象である電動パワーステアリング装置の被駆動体であるギアボックスの共振周波数が500Hz付近であること、
等を勘案して、第1デューティ(11A、11B、図1)の周波数は500Hzが選択されている。
【0032】
また、人間の可聴範囲は、一般的には20Hz〜20KHzであることから、20KHzを超せば、電気系において発生した「音」が支障とならないこと、
また、周波数が高い方が電流のリップルが少なくなること、
また、一方では、摩擦係数の小さい動摩擦係数が支配する領域を対象としても、あまりにも周波数が高くなると、所定のトルクを発生する所定のパルス幅が確保できなくなること、
等を勘案して、第2デューティ(12A、12B、図1)の周波数は、20KHzが選択されている。
【0033】
<PWM制御のソレノイド回路における使用例>
図5は、スイッチング素子であるMOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)をHブリッジで構成し、直流モータのコイル(ソレノイド)を、複合PWMで制御する回路(ソレノイド回路)例を示した図である。
図5において、直流電源56から正電位Eと負電位0の直流電圧(直流電力)が供給される。
【0034】
P型MOSFET52のソースは正電位Eに接続され、P型MOSFET52のドレインはN型MOSFET53のドレインに接続されている。N型MOSFET53のソースは負電位0に接続されている。
P型MOSFET54のソースは正電位Eに接続され、P型MOSFET54のドレインはN型MOSFET55のドレインに接続されている。N型MOSFET55のソースは負電位0に接続されている。
P型MOSFET52とN型MOSFET53のドレイン同士の接続点と、P型MOSFET54とN型MOSFET55のドレイン同士の接続点との間にソレノイド(コイル)51が接続されている。
【0035】
図5の回路において、例えばP型MOSFET54とN型MOSFET53をオフの状態で、P型MOSFET52とN型MOSFET55をオンすれば、ソレノイド51に、図5における左から右方向に電流が流れる。そして、P型MOSFET52とN型MOSFET55のゲート電位をPWM制御すれば、ソレノイド51に流れる平均的な電流量を制御できる。
また、P型MOSFET52とN型MOSFET55をオフの状態で、P型MOSFET54とN型MOSFET53をオンすれば、ソレノイド51に図5における右から左方向に電流が流れる。そして、P型MOSFET54とN型MOSFET53のゲート電位をPWM制御すれば、ソレノイド51に流れる平均的な電流量を制御できる。
【0036】
したがって、図5の回路では、ソレノイド51に流れる電流量を制御し、かつ両方向に電流を流すことができる。
例えば、電動パワーステアリング装置においては、この電動パワーステアリング装置(不図示)に備えられた直流モータ(被駆動体を駆動するモータ、不図示)を制御することに適した回路である。
なお、このとき前記直流モータは、前記電動パワーステアリング装置のギアボックス(被駆動体、不図示)を駆動することになる。
【0037】
(第2実施形態)
次に本発明の第2実施形態のPWM制御方法(複合PWM)による電流制御の方法について説明する。
第2実施形態においては、制御対象であるモータに流れる電流値の大小によって、2重PWM信号の第1デューティと第2デューティの割合を変えるものである。
【0038】
図6は、この電流値によって、2重PWM信号の第1デューティと第2デューティの割合を変える様子を1周期分(50Hz、1/50秒)について示した図である。図6は制御対象であるモータに流れる電流値の最大値に対する割合によって、(a)電流値5%以下、(b)電流値10%以下、(c)電流値15%未満、(d)電流値15%以上、のそれぞれに異なる制御方法をとっていることを示している。
パルス幅制御(PWM制御)において、パルスの電位がすべて正電位(高電位)であれば制御対象に流れる電流は、常に流れるので最大の電流値をとる。パルスが正電位(高電位)のみならず、ある割合で負電位(低電位)をとれば、それに応じて電流は減る。したがって、例えば(a)の「電流値5%以下」というのは1周期において、パルスが正電位(高電位)をとっている割合が「5%以下」であることも意味している。
【0039】
図6(a)は、モータに流れる電流値が少なく、最大値の5%以下の電流値の場合の第1デューティと第2デューティを示した図である。
図6(a)において、500Hzの第1デューティであるパルスは3回である。そして、20KHzの第2デューティは停止している。
【0040】
これは、静止状態(電流値0)から電動パワーステアリング装置のモータを作動し始める状態に対応している。静止状態においては静止摩擦が働き摩擦係数が大きい。したがって操舵時の切り始めの「貼り付き感」を解消する、もしくは緩和するために大きなトルクが必要である。
なお、動き始めにおいては、まず動きだすことが重要であって、多少の振動は問題にならないために、500Hzの第1デューティを用いる。また、第1デューティの500Hzのパルスは3回であることは同じであるが、パルス幅は電流値0〜5%において、最適となるように選択されて制御される。
【0041】
図6(b)は、モータに流れる電流値が最大値の5%超〜10%以下の場合の第1デューティと第2デューティを示した図である。なお、図6(b)においては、電流値が最大値の5%超〜10%以下の場合を「電流値10%以下」と簡略化して表記している。
図6(b)において、500Hzの第1デューティであるパルスは2回である。この第1デューティである2回のパルスは周期の始めに発生している。そして、この第1デューティの2回のパルスの後は、20KHzの第2デューティが動作する。
これは既に電動パワーステアリング装置が作動しているので、500Hzの第1デューティのトルクよりも、20KHzの第2デューティの滑らかさの要求が増すためである。
なお、電流値が最大値の5%超〜10%以下で変化する過程においては、500Hzの第1デューティと20KHzの第2デューティのパルス幅は、それぞれ最適となるように選択されて制御される。
【0042】
図6(c)は、モータに流れる電流値が最大値の10%超〜15%未満の場合の第1デューティと第2デューティを示した図である。なお、図6(c)においては、電流値が最大値の10%超〜15%未満の場合を「電流値15%未満」と簡略化して表記している。
図6(c)において、500Hzの第1デューティであるパルスは1回である。この第1デューティである1回のパルスは周期の始めに発生している。そして、この第1デューティの1回のパルスの後は、20KHzの第2デューティが動作する。
これは、電動パワーステアリング装置がより強く作動している状態に適した制御とするためである。
なお、電流値が最大値の10%超〜15%未満で変化する過程においては、500Hzの第1デューティと20KHzの第2デューティのパルス幅は、それぞれ最適となるように選択されて制御される。
【0043】
図6(d)は、モータに流れる電流値が最大値の15%以上の場合の第1デューティと第2デューティを示した図である。
図6(d)において、500Hzの第1デューティのパルスはない。20KHzの第2デューティのみが動作する。
これは、電動パワーステアリング装置がさらに強く作動しているので、500Hzの第1デューティの大きなトルクは不要であって、20KHzの滑らかな制御が必要とされるためである。
なお、電流値が最大値の15%以上で変化する過程においては、20KHzの第2デューティのパルス幅は最適となるように選択されて制御される。
【0044】
(その他の実施形態)
本発明は、前記の実施形態に限定されるものではない。以下に例をあげる。
図1、図6において、第1デューティ11が第1周波数である500Hz、第2デューティ12が第2周波数である20KHzという周波数によって形成される例をあげたが、これは一例にすぎない。他の周波数の組み合わせでもよい。
殊に、第1デューティ11の第1周波数である500Hzは、機械系の特性に依存して設定されているので、モータや被駆動体が変われば、第1デューティ11の第1周波数も変化することはありうる。
また、第1デューティ11と第2デューティ12が組として繰り返される周期として50Hzを例にあげたが、他の周波数による周期でもよい。
【0045】
また、第1周波数、第2周波数による組み合わせのみではなく、さらにN(N≧3)個の周波数を備えたN種類の周波数の組み合わせでもよい。
前記制御の最適な周波数は作動させる機械系の種類に応じて異なる。したがって、機械系の異なる特性の部品、構成要素が多くあれば、その種類に応じて、N(N≧3)個の周波数からなる第1デューティ〜第Nデューティを組み合わせて使用してもよい。
【0046】
また、第2実施形態において、モータに流れる電流値が5%以下、5%超から10%以下、10%超から15%未満、15%以上によって、第1デューティ11と第2デューティ12との割合を変えていたが、以上の設定を変える電流値は他の値でもよい。それぞれのモータや電動パワーステアリング装置に適した所定の値を設定すればよい。
【0047】
また、第2実施形態において、モータに流れる電流値が5%以下、5%超から10%以下、10%超から15%未満、15%以上において、第1デューティのパルスの本数を定めているが、別の本数に定めてもよい。それぞれのモータや電動パワーステアリング装置に適した所定の値を設定すればよい。
【0048】
また、モータに流れる電流値が上昇していく場合と下降していく場合において、以上の設定を変える電流値の所定値が異なっていてもよい。それによって、設定値の境界において、より滑らかに制御が切換る可能性がある。
【0049】
また、モータに流れる電流値が上昇していく場合と下降していく場合において、以上の第1デューティのパルスの本数が異なっていてもよい。それによって、設定値の境界において、より滑らかに制御が切換る可能性がある。
【0050】
また、以上においては電動パワーステアリング装置のモータを例にとって説明したが、他の分野のモータのPWM制御に適用してもよい。
【0051】
また、以上においては、電流が0で静止しているシステムの実施形態で説明したが、リニアソレノイドのように電流が流れている状態で静止するシステムにおいても、異なる周波数からなる第1デューティと第2デューティを用いた複合PWMによる電流制御を適用してもよい。
【0052】
また、図5の回路図において、MOSFETのスイッチング素子でHブリッジを構成した回路を示したが、直流電流の流れる方向を切換える必要のない用途においては、N型MOSFET1個をスイッチング素子として用い、ソレノイド(コイル)に流れる電流のオン・オフ(ON・OFF)と電流量を制御してもよい。
また、N型MOSFETではなくP型MOSFETを用いてもよい。ただし、P型MOSFETを用いる場合は、N型MOSFETを用いる場合の逆の極性の信号を用いる。つまり、図1または図6で示したPWM制御信号を反転させた信号を用いて制御する。
【0053】
また、図5において、スイッチング素子としてMOSFETを用いる例を示したが、スイッチング素子の機能を果たせばよいので、MOSFET以外であってもよい。例えば、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor、絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)や、BJT(Bipolar Junction Transistor、バイポーラ接合型トランジスタ)、あるいは、他の適切なスイッチング素子を用いても良い。
【0054】
(本発明、本実施形態の補足)
電動パワーステアリングシステムにおいては、滑らかな操舵性と、操舵時の切り始めの充分なアシスト力を確保する必要がある。
そのために、本システムは、PWM制御の周波数をリップル電流の少ない第2周波数と、機械系が応答する第1周波数による2つの周波数との最低2つを用いて、電流制御を行う。
電気系の第2周波数によって形成される第2デューティによって、電流のリップルが減少し、細かく滑らかな操舵性と、低振動、低騒音が実現する。
また、機械系の第1周波数によって形成される第1デューティによって、操舵時の切り始めの充分なアシスト力が確保され、「張り付き感」が緩和する。
より具体的には、摩擦力の大きい機械(例えば同軸EPS:Electric Power Steering、電動パワーステアリング)の動き出しを滑らかにする。
また、自動車においては、高速道路での修正舵、ハンドル中立位置からの切り出し等に効果がある。
以上、本発明の方式を電動パワーステアリングシステムに採用することにより、商品性と機能バランスのとれた性能を実現できる。
【符号の説明】
【0055】
11A、11B 第1デューティ
12A、12B 第2デューティ
13A、13B 周期
210 第1パルス幅信号列
211 第1パルス群
212 合成パルス群
220 第2パルス幅信号列
221 第2パルス群
251 第1選択信号
252 第2選択信号
310、320 第1入力端子
311、312、321 出力
331、332 AND回路
333 OR回路
334 インバータ回路
351、352 第2入力端子
51 ソレノイド(コイル)
52、54 P型MOSFET
53、55 N型MOSFET
56 直流電源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被駆動体と、当該被駆動体を駆動するモータと、前記モータをPWM制御するモータ制御手段と、を備え、
前記PWM制御の1周期の中に、
前記被駆動体の共振周波数に対応した周波数のパルス群からなる第1デューティと、
前記第1デューティのパルス群の周波数よりも高い周波数のパルス群からなる第2デューティと、
を有することを特徴とするPWM制御方法。
【請求項2】
前記モータ制御手段は、前記モータに流れる電流値に基づき、前記第1デューティと前記第2デューティの前記1周期における出現する比率を変更することを特徴とする請求項1に記載のPWM制御方法。
【請求項3】
前記電流値が大きくなるにつれ、前記第2デューティの前記1周期における出現する比率を大きくすることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のPWM制御方法。
【請求項4】
前記電流値が所定値以上の時には、前記第2デューティのみで駆動することを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載のPWM制御方法。
【請求項5】
前記電流値が所定値以下の時には、前記第1デューティのみで駆動することを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載のPWM制御方法。
【請求項6】
前記被駆動体は、電動パワーステアリング装置のギアボックスであることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか一項に記載のPWM制御方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2012−165503(P2012−165503A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−22221(P2011−22221)
【出願日】平成23年2月4日(2011.2.4)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】