説明

RFIDタグ

【課題】金属材料を含む機器の内部に配設した場合でも、共振周波数やQ値の変化を抑制して良好な通信状態を確保することができるRFIDタグの提供。
【解決手段】タグ2を、ループ状のアンテナパターン3aとIC4とを少なくとも備える略円板状の基板2aと、該基板2aと略等しい径の円板状の磁性シート2bとで構成し、かつ、この磁性シート2bの周囲の一部を1本の直線で切り欠くことによってインダクタンスを簡単に調整できるようにする。これにより、機器内部に金属部材などが配置されている場合でも磁性シート2bでその影響を抑制することができ、また、金属材料によるアンテナのインダクタンスの減少と磁性シート2bによるインダクタンスの増加とが相殺されるように切り欠き部2cの幅を設定することにより、共振周波数やQ値の変化を補償し、良好な通信状態を確保することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非接触でデータの交信を行うRFID(Radio Frequency Identification)システムにおけるRFIDタグに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、細長の挿入部を体腔内に挿入し、体腔内臓器などを観察する医療用の内視鏡が広く利用されている。このような医療用器具では、感染症等を防止するために消毒、滅菌のための洗浄が必要であり、特に、内視鏡は様々な患者の様々な部位の観察に使用されることから、使用目的に適した洗浄が必要である。また、使用済みの内視鏡に対してどのような洗浄が行われたかを管理する必要もある。
【0003】
そこで従来は、内視鏡の所定の位置に該内視鏡を識別するための情報が記録されたバーコードを貼り付け、一方、内視鏡を洗浄するための洗浄装置にバーコードリーダを取り付け、内視鏡を洗浄装置で洗浄する前にバーコードリーダでバーコードを読み取り、バーコードで特定される内視鏡に適した条件で洗浄を行う方法が用いられていた。しかしながら、バーコードを利用する方法の場合、バーコードの表面に異物が付着していると読み取りができない場合があり、また、バーコードでは記録可能な情報量が少ないために、洗浄条件などの多くの情報をバーコードに記録できないという問題があった。
【0004】
上記問題に対して、下記特許文献1には、体内に挿入される細長い蛇管やその先端に設けられた観察光学系などの先端構成部からなる挿入部と、挿入部の基端部に配設された操作部と、操作部に光を導入するライトガイドケーブルと、ライトガイドケーブルの他端に配設されたコネクタ部などからなる内視鏡において、例えば、挿入部の先端部、蛇管の中央部、操作部、ライトガイドケーブルの中央部、コネクタ部などの内視鏡の様々な部位にRFIDタグを貼り付け、リーダを用いてRFIDタグのICに記憶された内視鏡の型名、蛇管及びライトガイドケーブルの長さ、先端構成部の正しい設置位置、超音波に対する耐性などの情報を読み取り、読み取った情報に基づいてその内視鏡に対する最適な超音波洗浄パターンを選択して洗浄を行う内視鏡洗浄装置が開示されている。
【0005】
【特許文献1】特開2002−272684号公報(第3−8頁、第2図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このように、内視鏡の様々な部位にRFIDタグを貼り付けることにより内視鏡の洗浄条件の設定やその管理を行うことができるが、上記特許文献1ではRFIDタグを内視鏡の表面に貼り付けているため、洗浄中にRFIDタグが洗浄液に接触してしまい、RFIDタグのアンテナパターンが腐食したり、ICが破損するなどの不具合が生じる可能性がある。また、RFIDタグがフィルムなどによって保護されている場合でも、洗浄を繰り返す内に洗浄装置との接触によってフィルムが傷付いて洗浄液がしみ込んだり、洗浄装置との接触によってICが破損するなどの不具合が生じる可能性もある。
【0007】
このような問題を解決する方法として、内視鏡の内部にRFIDタグを組み込む方法が考えられるが、内視鏡は様々な材料で構成され、特に操作部には蛇管を動かすための操作機構部が内蔵されており、このような操作機構部には一般的に金属材料が使用されているため、内視鏡の内部にRFIDタグを組み込むと、上記金属材料などによってRFIDタグのアンテナのインダクタンスが変化し、それに伴って共振周波数やQ値が変化してしまい、通信距離が短くなったり通信不能になるなどの問題が生じる。
【0008】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであって、その主たる目的は、金属材料を含む機器の内部に組み込んだ場合でも、共振周波数やQ値の変化を抑制して良好な通信状態を確保することができるRFIDタグを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明は、非接触でデータの通信を行うRFIDシステムで利用されるRFIDタグであって、少なくともループ状のアンテナを備える略円板状の基板と、前記基板と略等しい径の円板状であって、円周上の2点を結ぶ円弧及び直線で囲まれた領域を切り欠いた磁性シートと、を備えるものである。
【0010】
また、本発明は、非接触でデータの通信を行うRFIDシステムで利用されるRFIDタグであって、少なくともループ状のアンテナを備える略円板状の基板と、前記基板と略等しい径の円板状であって、円周上の2点を結ぶ円弧及び直線で囲まれた領域を切り欠いた磁性シートと、前記基板と略等しい径の円板状のスペーサと、がこの順に積層されてなるものである。
【0011】
また、本発明は、非接触でデータの通信を行うRFIDシステムで利用されるRFIDタグであって、少なくともループ状のアンテナを備える略円板状の基板と、前記基板と略等しい径の円板状のスペーサと、前記基板と略等しい径の円板状であって、円周上の2点を結ぶ円弧及び直線で囲まれた領域を切り欠いた磁性シートと、がこの順に積層されてなるものである。
【0012】
本発明においては、前記RFIDタグの構成部品がコイン状の容器に格納され、かつ、前記構成部品が樹脂により前記容器内部に固定されている構成とすることができ、前記基板の略中央に開口部を備え、前記開口部において、前記基板と該基板に隣接する前記磁性シート又は前記スペーサとが前記樹脂により固定される構成とすることもできる。
【0013】
また、本発明においては、前記RFIDタグを組み込む機器内部の金属材料による前記アンテナのインダクタンスの変動と、前記磁性シートによる前記アンテナのインダクタンスの変動とが相殺されるように、前記磁性シートの切り欠きの位置が設定されている構成とすることもでき、前記機器は内視鏡であることが好ましい。
【0014】
このように、本発明の構成によれば、RFIDタグを内視鏡などの金属材料を含む機器の内部に組み込んだ場合でも、磁性シートによって金属材料の影響を抑制することができ、かつ、磁性シートの切り欠きの位置を調整することによって共振周波数やQ値の変化を抑制することができるため、良好な通信状態を確保することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明のRFIDタグによれば、内視鏡などの金属材料を含む機器の内部に組み込んだ場合であっても、共振周波数やQ値の変化を抑制して良好な通信状態を確保することができる。
【0016】
その理由は、RFIDタグを、少なくともループ状のアンテナパターンを備える略円形状の基板と、該基板と略等しい径の円板状であって、円周上の2点を結ぶ円弧及び直線で囲まれた領域を切り欠いた磁性シートとで構成し、金属材料と基板との間に磁性シートを配置しているため、磁性シートによって金属部材の影響を抑制することができ、かつ、磁性シートの切り欠き位置を調整することによって金属材料によるアンテナのインダクタンスの減少と磁性シートによるインダクタンスの増加とを相殺して共振周波数やQ値の変化を抑制することができるからである。
【0017】
また、磁性シートと金属材料との間、又は、基板と磁性シートとの間の少なくとも一方に所定の厚さのスペーサを配置することによって金属材料や磁性シートの影響を抑制することができ、磁性シートの切り欠き位置を調整することによって金属材料による影響と磁性シートによる影響とを確実に相殺することができるからである。
【0018】
これにより、RFIDタグを機器の外部に貼り付けた場合のように、洗浄などの機器に対する処理の影響を受けることがなく、かつ、従来のRFIDタグを機器の内部に取り付けた場合のように、金属材料の影響により通信距離が短くなったり通信不能になるなどの不具合を防止することができる。更に、磁性シートの円周の一部を1本の直線で切り取るのみで切り欠き部を形成することができるため、作業性を格段に向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
従来技術で示したように、内視鏡の洗浄や管理などの用途にRFIDタグが利用されているが、RFIDタグを機器の表面に貼り付けると、洗浄などの機器に対する処理の際にRFIDタグが破損する恐れがある。一方、RFIDタグを機器の内部に組み込むと、機器内部の構成材料、特に金属材料の影響を受けてアンテナのインダクタンスが変化し、それに伴って共振周波数やQ値が変化して通信距離が低下したり通信不能になるなどの問題が生じる。
【0020】
具体的に説明すると、一般に、RFIDシステムでは予め設定された通信周波数になるようにRFIDタグの共振周波数を調整し、その通信周波数でリーダとの交信を行っているため、例えば、図11に示すように、RFIDタグの共振周波数が予め設定された通信周波数(ここでは略13.7MHz)からずれるに従ってリーダとの通信が可能な距離が短くなるという問題がある。
【0021】
この問題に対して、機器内部の構成部材による影響を見込んで予め共振周波数を変化させた専用のRFIDタグを形成したり、RFIDタグの共振回路に予めインダクタンス調整用のパターンを形成するなどの方法もあるが、前者では汎用のRFIDタグを使用することができないためにコストの増加を招いてしまい、後者では、共振周波数の調整の際に細かな作業が必要になるため作業性が悪いという問題がある。
【0022】
そこで、本発明では、RFIDタグを、少なくとも、ループ状のアンテナパターンとICとを備える略円板状の基板と、該基板と略等しい径の円板状のシート状の磁性体(以下、磁性シートと呼ぶ。)とで構成し、機器内部の金属材料と基板との間に磁性シートを配置し、かつ、この磁性シートを円周上の2点を結ぶ1本の直線で切り欠くことによってインダクタンスを簡単に調整できるようにする。これにより、機器内部に金属部材などが配置されている場合でも磁性シートでその影響を抑制することができ、また、金属材料によるアンテナのインダクタンスの減少と磁性シートによるインダクタンスの増加とが相殺されるように切り欠きの位置を設定することにより、共振周波数やQ値の変化を補償し、良好な通信状態を確保することができる。
【実施例1】
【0023】
上記した本発明の実施の形態についてさらに詳細に説明すべく、本発明の第1の実施例に係るRFIDタグについて、図1乃至図7を参照して説明する。図1は、RFIDシステムの一般的な構成を示す図であり、図2は、本実施例のRFIDタグを組み込む内視鏡の構造例を示す図である。また、図3及び図4は、本実施例に係るRFIDタグの構造を示す図であり、図5及び図6は、そのバリエーションを示す図である。また、図7は、切り欠き部の幅と共振周波数との相関関係を示す図である。
【0024】
図1に示すように、一般にRFIDシステム1は、内視鏡などの機器の内部に組み込まれるタグ2と、タグ2と交信するリーダ又はリーダ/ライタ(以下、リーダ/ライタ5とする。)とで構成される。また、タグ2は、アンテナ3やコンデンサなどで構成される共振回路3と、タグ2が組み込まれる機器に関する情報や該タグ2の識別情報などを記憶するIC4とで構成され、リーダ/ライタ5は、タグ2と交信するためのリーダ/ライタ用アンテナ5aと、送受信信号を変換するための通信回路部5bや送受信信号をデコードするための演算処理部5c等の制御手段とで構成される。
【0025】
また、図2(a)に示すように、上記タグ2を組み込む内視鏡6は、体内に挿入される細長い蛇管7aやその先端に設けられた観察光学系などの先端構成部7bなどからなる挿入部7と、挿入部7に接続され、蛇管7aや先端構成部7bを動かすための操作機構部8bを備え、その側面に鉗子などの処理具を挿入するための挿入口が設けられた操作部8と、図示しない光源装置から発せられる光を操作部8に導入するためのライトガイドケーブル9と、ライトガイドケーブル9と光源装置とを接続するためのコネクタ部10などで構成され、この内視鏡6の所定の位置、例えば、図2(b)に示すように操作部8の柄の部分の筐体8a内部に本実施例のタグ2が組み込まれる。なお、図2(a)の内視鏡6は例示であり、その種類や構造などは限定されない。また、タグ2は内視鏡6の構成部品の内部に組み込まれていればよく、構成部品の種類やタグ2を組み込む位置などは限定されないが、金属材料を含む構成部品の内部の端部に組み込むと顕著な効果が得られる。
【0026】
また、本実施例のタグ2は、図3(a)に示すように、1ターン以上のループを備えるアンテナパターン3aが形成され、該アンテナパターン3aに接続されるIC4が配置された略円板状の基板2aと、図3(b)に示すように、該基板2aと略等しい径の円板状であって、円周上の2点を結ぶ円弧及び直線で囲まれた切り欠き部2c(切り欠き部2cの幅(W)については後述する。)を有する磁性シート2bとで構成される。
【0027】
なお、基板2aの材料や厚み、アンテナパターン3aの巻き数や間隔、形状、IC4の配置などは特に限定されない。また、図3(a)では、アンテナパターン3aとIC4に内蔵された容量とで共振回路3を形成しているが、基板2aを挟んで電極を配置してコンデンサを形成し、このコンデンサとアンテナパターン3aとで共振回路を構成してもよいし、基板2aの両面にアンテナパターン3aを形成するなどの変形も可能である。また、図3では、基板2a及び磁性シート2bを略円板状としているが、基板2aや磁性シート2bの形状はタグ2を組み込む機器(ここでは内視鏡6の操作部8)の形状に合わせて、矩形や多角形にしたり楕円形にするなどの変更も可能である。
【0028】
また、磁性シート2bの厚みは、タグ2を組み込む構成部品内部のスペースや金属材料の配置、切り欠き部2cの加工性などを勘案して決定される。例えば、タグ2近傍の金属材料の影響を抑制するためには磁性シート2bを厚くすればよいが、磁性シート2bが厚くなればその分スペースが必要になると共に、磁性シート2bの切断が困難になる。従って、磁性シート2bの厚みは、タグ2近傍に配置される金属材料の影響を抑制できる限りにおいて極力薄くすることが好ましいと言える。
【0029】
この磁性シート2bは、例えば、アモルファス箔やアモルファス箔の積層材、金属粉、カーボニル鉄粉、還元鉄粉、アトマイズ粉(純鉄、Si、Cr、Al等を含む鉄、パーマロイ、Co−Fe等の粉末)、アモルファス(B、P、Si等を含む鉄、コバルト、ニッケル合金を水アトマイズまたはガスアトマイズした粉末)等の粒状の粉体若しくはフレークとプラスチック、ゴム等の有機物との複合材などが好ましい。
【0030】
また、上記複合材は、粒状粉体をアトラター、ボールミル、スタンプミル等で扁平化してフレークとした後、フレーク又は粒状粉体を含む塗料をフィルム上に塗布/乾燥を繰り返して形成することができ、その際、塗布中に磁場を印加することによりフレークを一定の方向に配向させることができ、特性を向上させることができる。
【0031】
また、複合材におけるプラスチックとしては加工性の良い熱可塑性のプラスチックを用いたり、或いは耐熱性の良い熱硬化性のプラスチックを用いることができ、また、絶縁性を有するアクリル、ポリエステル、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリスチレン、エポキシ等の樹脂を用いることもできる。
【0032】
そして、図4に示すように、上記基板2a及び磁性シート2bを、磁性シート2bが金属材料側に配置されるように(例えば、図2(b)の場合は、金属材料を含有する操作機構部8b側に磁性シート2bが配置され、プラスチックなどの非金属で形成された筐体8a側に基板2aが配置されるように)組み合わせてタグ2を形成する。
【0033】
その際、上記基板2aと磁性シート2bとは粘着剤などを用いて直接貼り合わせてもよいし、例えば、図4(c)に示すように、所定の容器11a(例えば、PPS(ポリフェニレンサルファイド樹脂)のケースなど)に磁性シート2bと基板2aとを配置し、その表面をエポキシなどの樹脂12で封止し、更に所定の蓋11b(例えば、PPSの蓋など)を被せてタグ2を形成してもよく、後者の構造では耐薬品性や耐衝撃性などを向上させることができる。
【0034】
なお、図3及び図4では、基板2aの内側をくり抜いてドーナツ状としたが、図5に示すような円板状にしてもよい。但し、タグ2を上述したように容器内に封止する場合は、基板2aをドーナツ状にすることにより中央部分で磁性シート6を露出させることができ、樹脂12で封止する際に基板2aと磁性シート2bの双方を固定することができるという効果が得られる。
【0035】
このように、タグ2を基板2aと磁性シート2bとで構成し、金属材料側から磁性シート2b、基板2aの順で配置することにより、磁性シート2bで金属材料の影響を抑制することができるが、磁性シート2bをアンテナパターン3aに近接させることにより、磁性シート2bの影響によりアンテナのインダクタンスが増加し、共振周波数やQ値がずれてしまう。そこで、本実施例では磁性シート2bに切り欠き部2cを設け、金属材料の影響によるインダクタンスの減少と磁性シート2bによるインダクタンスの増加とを相殺させ、共振周波数やQ値のずれを抑制すると共に、切り欠き部2cを1本の直線で形成することにより切り欠き部2cの形成を容易にしている。
【0036】
なお、図3及び図4では、磁性シート6の一カ所に切り欠き部2cを設けたが、切り欠き部2cは1つに限定されず、図6に示すように複数箇所(図では2カ所)に切り欠き部2cを設けてもよい。また、図3及び図4では、基板2aのIC4を上側、磁性シート2bの切り欠き部2cを右側にしたが、基板2aのIC4と磁性シート2bの切り欠き部2cとの位置関係は特に限定されない。
【0037】
この切り欠き部2cの幅(図3(b)のW)は、金属材料の配置や、アンテナパターン3aと金属材料や磁性シート2bとの距離、金属材料や磁性シート2bの物性値などを考慮して設定されるが、切り欠き部2cの幅に応じて共振周波数がどのように変化するかを測定した。その結果を図7に示す。
【0038】
なお、測定において、基板2aは直径27.2mmで、中心から10mm〜12mmの位置にアンテナパターン3aを4回巻いたものを使用した。また、磁性シート2bは直径27mmとし、切り欠き部2cの幅(図3(b)のW)を1.5mm、2.0mm、2.5mm、3.5mmに設定した4種類の試料を用意した。そして、各種試料を金属板上1mmの位置に配置してその共振周波数を測定した。
【0039】
図7より、全体的な傾向を見ると、切り欠き部2cの幅が広くなるに従って共振周波数が徐々に大きくなっていることが分かる。これは、切り欠き部2cの幅が広くなるに従って磁性シート2bによるインダクタンスの増加効果が抑制されて金属材料によるインダクタンスの減少効果が大きくなるからである。従って、予め切り欠き部2cの幅と共振周波数との相関関係を求めておき、タグ2を機器内部に組み込んだ際の共振周波数の値を測定すれば、所望の共振周波数にするための切り欠き部2cの幅を決定することができ、その幅の位置でカッターなどを用いて磁性シート2bを直線的に切断すれば該機器に適したタグ2を容易に作成することができる。
【0040】
このように、タグ2を、ループ状のアンテナパターン3aとIC4とを少なくとも備える略円形状の基板2aと、該基板2aと略等しい径の円板状であって、円周上の2点を結ぶ円弧及び直線で囲まれる領域を切り欠いた磁性シート2bとで構成し、金属材料側から磁性シート2b、基板2aの順で配置することにより、タグ2を内視鏡などの金属材料を含む機器の内部に組み込んだ場合でも、磁性シート2bによって金属材料の影響を抑制することができ、かつ、磁性シート2bの切り欠き部2cの幅を調整することによって金属材料によるアンテナのインダクタンスの減少と磁性シート2bによるインダクタンスの増加とを相殺して共振周波数やQ値の変化を抑制することができるため、良好な通信状態を確保することができる。
【実施例2】
【0041】
次に、本発明の第2の実施例に係るRFIDタグについて、図8乃至図10を参照して説明する。図8及び図9は、本実施例に係るRFIDタグの構造を示す図であり、図10は、スペーサの厚さと共振周波数との相関関係を示す図である。
【0042】
前記した第1の実施例では、タグ2を基板2aと磁性シート2bとで構成したが、金属材料や磁性シート2bによる影響は、アンテナパターン3aと金属材料又は磁性シート2bとの間隔が小さくなるほど大きくなる。従って、例えば機器内部の構成部材の配置によっては、金属材料によるインダクタンスの減少や、磁性シート2bによるインダクタンスの増加が大きくなり、切り欠き部2cの幅では共振周波数を調整することができない場合が生じる。
【0043】
そこで本実施例では、磁性シート2bと金属材料との間、又は、基板2aと磁性シート2bとの間に所定の厚みのスペーサを配置し、アンテナパターン3aと金属材料又は磁性シート2bとの距離を大きくすることによってその影響を抑制し、切り欠き部2cの幅を調整することによってインダクタンスの変化を確実に相殺できるようにする。
【0044】
具体的には、金属材料の影響が大きい場合は、図8に示すように、ループ状のアンテナパターン3aとIC4とを少なくとも備える基板2aと、基板2aと略等しい径の円板状であって、円周上の2点を結ぶ円弧及び直線で囲まれる領域を切り欠いた磁性シート2bと、基板2aと略等しい径の円板状のスペーサ2dとでタグ2を構成し、金属材料側からスペーサ2d、磁性シート2b、基板2aの順に配置されるように、これらを組み合わせる。
【0045】
また、磁性シート2bの影響が大きい場合は、図9に示すように、ループ状のアンテナパターン3aとIC4とを少なくとも備える基板2aと、基板2aと略等しい径の円板状のスペーサ2dと、該基板2aと略等しい径の円板状であって、円周上の2点を結ぶ円弧及び直線で囲まれる領域を切り欠いた磁性シート2bとでタグ2を構成し、金属材料側から磁性シート2b、スペーサ2d、基板2aの順に配置されるように、これらを組み合わせる。
【0046】
なお、スペーサ2dの材料は特に限定されず、金属材料又は磁性材料以外の材料であればよく、プラスチックや発泡ウレタンなどを用いることができる。また、図8では磁性シート2bと金属材料との間にスペーサ2dを配置し、図9では、磁性シート2bと基板2aとの間にスペーサ2dを配置したが、磁性シート2bと金属材料との間、及び、磁性シート2bと基板2aとの間の双方にスペーサ2dを配置してもよい。
【0047】
また、第1の実施例と同様に、基板2aの材料や厚み、アンテナパターン3aの巻き数や間隔、形状、IC4の配置、磁性シート2bの厚み、基板2aのIC4と磁性シート2bの切り欠き部2c位置関係、切り欠き部2cの幅、数などは特に限定されない。また、基板2aや磁性シート2b、スペーサ2dは、タグ2を組み込む機器(ここでは内視鏡6の操作部8)の形状に合わせて、矩形や多角形にしたり楕円形にするなどの変更も可能である。また、上記基板2aと磁性シート2bとスペーサ2dとは粘着材などを用いて直接貼り合わせてもよいし、図4(c)と同様に、所定の容器11aにスペーサ2dと磁性シート2bと基板2aとを配置し、その表面をエポキシなどの樹脂12で封止し、所定の蓋11bを被せてタグ2を形成してもよい。
【0048】
このスペーサ2dの厚みは、金属材料の配置や基板2aの厚み、金属材料や磁性シート2bの物性値などを勘案して設定されるが、スペーサ2dの厚みに応じて共振周波数がどのように変化するかを測定した。その結果を図10に示す。
【0049】
なお、測定において、基板2aは直径27.2mmで、中心から10mm〜12mmの位置にアンテナパターン3aを4回巻いたものを使用した。また、磁性シート2bは直径27mmとし、切り欠き部2cの幅を0mm(切り欠き部2cなしに相当)、2.5mm、5.0mmに設定した。そして、上記各条件の試料を金属板上に直置きした場合(図8の構成におけるスペーサ2dなしに相当)と、金属板上1mmの位置に配置した場合(図8のスペーサ2dの厚さ1mmに相当)と、タグ2を金属板から十分に離した場合(図8のスペーサ2dの厚さ無限大に相当)について共振周波数を測定した。
【0050】
図10より、スペーサ2dの厚みが大きくなるに従って共振周波数が徐々に小さくなっていることが分かる。これは、スペーサ2dの厚みが大きくなるに従って金属材料によるインダクタンスの減少効果が抑制されて磁性シート2bによるインダクタンスの増加効果が大きくなるからである。従って、予めスペーサ2dの厚みと共振周波数との相関関係及び切り欠き部2cの幅と共振周波数との相関関係を求めておき、タグ2を機器内部に組み込んだ際の共振周波数の値を測定すれば、所望の共振周波数にするためのスペーサ2dの厚み及び切り欠き部2cの幅を決定することができ、その厚みのスペーサ2dを挿入し、その幅の位置で磁性シート2bを直線的に切断することによって該機器に適したタグ2を容易に作成することができる。
【0051】
このように、タグ2を、ループ状のアンテナパターン3aとIC4とを少なくとも備える略円形状の基板2aと、基板2aと略等しい径の円板状であって、円周上の2点を結ぶ円弧及び直線で囲まれる領域を切り欠いた磁性シート2bと、基板2aと略等しい径の円板状のスペーサ2dとで構成し、金属材料側からスペーサ2d、磁性シート2b、基板2aの順、又は、磁性シート2b、スペーサ2d、基板2aの順で配置することにより、タグ2を内視鏡などの金属材料を含む機器の内部に組み込んだ場合でも、磁性シート2bによって金属材料の影響を抑制することができ、かつ、磁性シート2bの切り欠き部2cの幅及びスペーサ2dの厚みを調整することによって金属材料によるアンテナのインダクタンスの減少と磁性シートによるインダクタンスの増加とを確実に相殺して共振周波数やQ値の変化を抑制することができるため、良好な通信状態を確保することができる。
【0052】
なお、上記各実施例では、本発明のタグ2を内視鏡内部に組み込む場合について記載したが、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、内部に組み込むことが求められ、かつ、内部に金属材料を備える任意の機器に対して同様に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】RFIDシステムの一般的な構成を示す図である。
【図2】本発明の第1の実施例に係るRFIDタグを組み込んだ内視鏡の構成例を示す図である。
【図3】本発明の第1の実施例に係るRFIDタグの構成部品毎の構造を示す図である。
【図4】本発明の第1の実施例に係るRFIDタグの構成部品を組み立てた状態の構造を示す図である。
【図5】本発明の第1の実施例に係るRFIDタグのバリエーションを示す図である。
【図6】本発明の第1の実施例に係るRFIDタグのバリエーションを示す図である。
【図7】本発明の第1の実施例に係るRFIDタグにおける磁性シートの切り欠き部の幅と共振周波数との相関関係を示す図である。
【図8】本発明の第2の実施例に係るRFIDタグの構成部品を組み立てた状態の構造を示す図である。
【図9】本発明の第2の実施例に係るRFIDタグの構成部品を組み立てた状態の構造を示す図である。
【図10】本発明の第2の実施例に係るRFIDタグにおけるスペーサ厚みと共振周波数との相関関係を示す図である。
【図11】RFIDシステムにおける、共振周波数と通信距離との相関関係を示す図である。
【符号の説明】
【0054】
1 RFIDシステム
2 タグ
2a 基板
2b 磁性シート
2c 切り欠き部
2d スペーサ
3 共振回路
3a アンテナパターン
4 IC
5 リーダ/ライタ
5a リーダ/ライタ用アンテナ
5b 通信回路部
5c 演算処理部
6 内視鏡
7 挿入部
7a 蛇管
7b 先端構成部
8 操作部
8a 筐体
8b 操作機構部
9 ガイドライトケーブル
10 コネクタ部
11a 容器
11b 蓋
12 樹脂

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非接触でデータの通信を行うRFIDシステムで利用されるRFIDタグであって、
少なくともループ状のアンテナを備える略円板状の基板と、前記基板と略等しい径の円板状であって、円周上の2点を結ぶ円弧及び直線で囲まれた領域を切り欠いた磁性シートと、を備えることを特徴とするRFIDタグ。
【請求項2】
非接触でデータの通信を行うRFIDシステムで利用されるRFIDタグであって、
少なくともループ状のアンテナを備える略円板状の基板と、前記基板と略等しい径の円板状であって、円周上の2点を結ぶ円弧及び直線で囲まれた領域を切り欠いた磁性シートと、前記基板と略等しい径の円板状のスペーサと、がこの順に積層されてなることを特徴とするRFIDタグ。
【請求項3】
非接触でデータの通信を行うRFIDシステムで利用されるRFIDタグであって、
少なくともループ状のアンテナを備える略円板状の基板と、前記基板と略等しい径の円板状のスペーサと、前記基板と略等しい径の円板状であって、円周上の2点を結ぶ円弧及び直線で囲まれた領域を切り欠いた磁性シートと、がこの順に積層されてなることを特徴とするRFIDタグ。
【請求項4】
前記RFIDタグの構成部品がコイン状の容器に格納され、かつ、前記構成部品が樹脂により前記容器内部に固定されていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一に記載のRFIDタグ。
【請求項5】
前記基板の略中央に開口部を備え、
前記開口部において、前記基板と該基板に隣接する前記磁性シート又は前記スペーサとが前記樹脂により固定されることを特徴とする請求項4記載のRFIDタグ。
【請求項6】
前記RFIDタグを組み込む機器内部の金属材料による前記アンテナのインダクタンスの変動と、前記磁性シートによる前記アンテナのインダクタンスの変動とが相殺されるように、前記磁性シートの切り欠きの位置が設定されていることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一に記載のRFIDタグ。
【請求項7】
前記機器は内視鏡であることを特徴とする請求項6記載のRFIDタグ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2006−331101(P2006−331101A)
【公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−154134(P2005−154134)
【出願日】平成17年5月26日(2005.5.26)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】