説明

SiC単結晶の製造方法およびこれにより得られたSiC単結晶

【課題】SiC溶液成長が実施可能な高温で、雰囲気ガス圧力が0.1MPa以上の加圧条件においても、特別な装置を用いることなく、かつ気泡の巻き込みによるボイド欠陥を大幅に抑制できる溶液法によるSiC単結晶の製造を提供する。
【解決手段】Si及びCを含む溶液中に、SiCの種結晶を浸漬し、溶液成長法によりSiCを析出・成長させるにあたり、該種結晶を該溶液に浸漬する前に、該溶液の温度を一時的に結晶成長温度よりも50〜300℃高温に保って製造して、結晶成長部分のボイド密度を10000個/cm以下としたSiC単結晶およびSiC単結晶の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶液法によるSiC(炭化珪素)単結晶の成長方法による製造方法に関し、溶液法による成長結晶中の気泡巻き込みによるボイド欠陥を大幅に抑制することを実現し、かつ表面のモフォロジーの向上を実現するSiC単結晶の製造方法およびこれにより得られる高品質なSiC単結晶に関するものである。
【背景技術】
【0002】
熱的・化学的安定性に優れたSiC単結晶は、Si(珪素)と比較してバンドギャップエネルギーが約3倍、絶縁破壊電界が7倍、熱伝導率が3倍と大きく、かつ不純物の添加によって伝導型(p型、n型)制御が容易であり、熱酸化膜の形成がSiと同様に可能であることから、Siやガリウムヒ素などの既存技術では達成できない高温、高耐圧、高周波、高耐環境性を有する次世代の電力変換用素子への応用が強く期待されている。
【0003】
SiC単結晶の成長法としては、アチソン法、気相法(昇華法、化学気相法)、溶液法が知られている。アチソン法ではSi原料である硅砂とC(炭素)原料となるコークスを黒鉛電極周囲に配置し、黒鉛電極を通電加熱することにより不定形板状SiC結晶を得る。この際、不純物制御や形状制御が困難であり、半導体基板の作製には向いていない。気相法の代表例である昇華法はインチサイズの単結晶基板が作製可能であるが、結晶中の欠陥密度が大きいという問題がある。化学気相(CVD)法はガスによる原料供給を行うため、一般的には薄膜結晶成長の方法であり、バルク単結晶成長法としては多くの課題を残している。
溶液法は、黒鉛坩堝中でSi又はSi含有合金を融解し、その融液中に黒鉛坩堝もしくは炭化水素ガス供給によって気相からCを溶解させ、低温部に設置した単結晶基板上にSiC結晶層を溶液析出によって成長させる方法である。溶液法は気相法に比べ比較的熱平衡状態に近い条件で結晶成長が進行すると考えられることから、一般的には高品質な単結晶を得る方法としては好都合であることが知られている。上述の理由から、近年、溶液法によるSiC単結晶の成長方法について、成長速度や結晶品質を高める検討がなされている。
【0004】
特許文献1には、Si及びC、またはSi、Cr及びM(M:Ti、Fe、Mn、Coのいずれか一種以上)からなる、SiCが溶解している融液中に、SiCの種結晶基板を浸漬し、少なくとも種結晶基板周辺における溶液過冷却によりSiCを過飽和状態とすることによって、種結晶基板上にSiC単結晶を成長させる方法において、気泡を含まない良質なバルクSiC単結晶を、2000℃以下の温度で実用的な成長速度で安定して製造する方法が提案され、単結晶成長時の雰囲気ガスとして、単結晶成長温度での粘度ηが750μP以下の非酸化性ガス、例えばヘリウムまたはヘリウムを主成分とする混合ガスを使用することによって、成長結晶中の気泡発生を完全に抑制することができると記述されている。
しかしながら、不純物元素の少ない高品質で、高い成長速度で結晶成長を実施するためには、Si及びCの2元系溶液を用い、かつ2000℃以上の高温下で成長することが望まれる。この場合、Si溶液の蒸発を防ぐために雰囲気ガスを加圧する方法がとられる。発明者らが実験を行ったところ、結晶成長温度2100℃、雰囲気ガス(He)0.95MPaの結晶成長条件において、気泡の巻き込みを抑制することはできなかった。
【0005】
非特許文献1には、結晶成長温度T≦2300℃、圧力P≦20MPaの結晶成長条件において、Ar雰囲気ガス下で、Si及びCの2元系溶液で数10〜100μm/hの速度で結晶成長が行われている。しかしながら、該非特許文献1には、使用するArガスの巻き込みや溶液の巻き込みなどが不可避に生じると記述されている。
【0006】
特許文献2には、黒鉛坩堝内で加熱されたSiを融解した溶液にSiC単結晶を接触させ基板上にSiC単結晶を成長させる方法において、融液内にCrおよびX(XはCe、Ndのうち少なくともいずれか1種以上である)の元素を全組成中の各々の元素の割合としてCrが30〜70at.%であってかつ、1)XがCeである場合はCeが0.5〜20at.%、2)XがNdである場合はNdを1〜25at.%である融液で、SiC単結晶を析出成長させる方法が提案されている。
しかしながら、該特許文献2に記載の技術は、融液組成が限定されており、これ以外の融液組成を用いた場合には、SiC単結晶の溶液成長に対して汎用的に効果を発揮するとは限らない。
【0007】
特許文献3には、溶液法を用いたSiC単結晶の析出・成長方法において、溶液界面の面積(Ss)に対するSiC種結晶の表面積(Sc)の割合(Sc/Ss)を0.13以下、結晶成長開始前の坩堝内の雰囲気圧力を55kPa以上とし、結晶成長開始以後の坩堝内の雰囲気圧力を150kPa以下とすることにより、SiC単結晶中の多結晶の混入確率を低減するとともに単結晶中のボイド密度を低減し得るSiC単結晶の製造方法が記載されている。
しかしながら、該特許文献3に記載の技術は、ボイド欠陥の完全な抑制は達成できておらず、且つ、溶液界面の面積(Ss)に対するSiC種結晶の表面積(Sc)の割合(Sc/Ss)を0.01〜0.13にする必要があることから、結晶の成長に用いる種結晶の直径よりも7〜100倍大きな直径の坩堝を用いなくてはならず、装置の大型化が必要であり、工業生産上は問題がある。また、不純物元素の少ない高品質で、高い成長速度で結晶成長を実施するためには、Si及びCの2元系溶液を用い、かつ2000℃以上の高温下の条件が望まれる。この場合、該特許文献3に記載の方法ではSi溶液の蒸発が顕著であり、2100℃を超える温度では実施が困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2006−69861号公報
【特許文献2】特許第4450075号公報
【特許文献3】特開2011−68515号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Material Science Engineering,B61−62,(1999)29−39
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
以上のように、前述の公知文献における溶液法によるSiC単結晶の成長法は、2000℃以下の条件で、雰囲気ガス粘度が750μP以下となる非酸化性ガス(例えばHe)を用いる方法であるが、特定の溶液組成における成長結晶中のマクロ欠陥の低減効果について記載されているものの、SiC単結晶を成長し得る全ての成長温度(特に2000℃以上)や溶液組成に対して、ボイドを抑制し得る有効な方法ではなかった。また、雰囲気ガスの圧力制御および坩堝・種結晶の構造を制御することによってボイド低減及び多結晶抑制を実現する方法も記載されているが、そのボイド抑制効果は完全ではなく、また、作製する単結晶よりも7〜100倍の直径を持つ大きな坩堝を用いなくてはならず、装置の大型化が必要であり、工業生産上は問題がある。また、高品質高純度のSiC単結晶の作製のためには、Siのみを溶液として用いることが望ましく、これらの公知文献に記載の方法では、Siのみを溶液として用いた場合に、成長結晶中のマクロ欠陥を抑制し、成長結晶表面モフォロジーの向上を実現することは困難である。
本発明は、雰囲気ガスの種類、雰囲気ガスの圧力、SiとCを含む溶液への遷移金属元素または/および希土類元素の添加の有無を問わず、SiC溶液成長法が実施可能な結晶成長温度において、溶液成長法では典型的に発生するボイド欠陥を大幅に抑制することが可能であるSiC単結晶の成長方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者等は、溶液法によるSiC単結晶の製造方法について検討を行った結果、SiC単結晶中のボイドは、溶液に溶け込んだ雰囲気ガスが再びガス化し気泡を発生し、その気泡が結晶成長とともに取り込まれることが原因の一つであることを見出し、加えて、溶液温度の調整によって、雰囲気ガスの溶液に対する溶解度を制御することが可能であることを見出した。これらの新たな知見により、ボイドの原因となる気泡を取り除く方法を更に鋭意検討し、種結晶を溶液に浸漬する前の段階での処理条件が重要であることを明らかにし、本発明に至った。
本発明の課題は、以下の手段によって達成された。
(1)Si及びCを含む溶液中に、SiCの種結晶を浸漬し、溶液成長法によりSiCを析出・成長させるにあたり、該種結晶を該溶液に浸漬する前に、該溶液の温度を一時的に結晶成長温度よりも50〜300℃高温に保って製造して、結晶成長部分のボイド密度を10000個/cm以下としたことを特徴とするSiC単結晶。
(2)Si及びCを含む溶液中に、SiCの種結晶を浸漬し、SiCを析出・成長させる溶液成長法によるSiC単結晶の製造方法であって、該種結晶を該溶液に浸漬する前に、該溶液の温度を一時的に結晶成長温度よりも50〜300℃高温に保つことを特徴とするSiC単結晶の製造方法。
(3)前記溶液の温度を一時的に前記結晶成長温度よりも高温に保つ時間が10分以上、3時間以下であることを特徴とする(2)に記載のSiC単結晶の製造方法。
(4)前記SiC単結晶の製造をガス雰囲気下で行い、該雰囲気ガスの圧力が0.1MPa以上の加圧条件に設定されていることを特徴とする(2)または(3)に記載のSiC単結晶の製造方法。
(5)前記結晶成長温度が、1700〜2100℃の範囲内であることを特徴とする(2)〜(4)のいずれか1項に記載のSiC単結晶の製造方法。
(6)前記溶液中に遷移金属元素および/または希土類元素を含むことを特徴とする(2)〜(5)のいずれかに記載のSiC単結晶の製造方法。
(7)前記(2)〜(6)のいずれか1項に記載の製造方法で製造されたSiC単結晶。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、SiC単結晶の溶液成長が実施可能な高温で、雰囲気ガス圧力が0.1MPa以上の加圧条件においても、特別な装置を用いることなく、雰囲気ガスの気泡の巻き込みによるボイド欠陥が低減されたSiC単結晶およびその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は本発明の実施例において用いた溶液法によるSiC単結晶成長実験装置の模式図である。
【図2】図2は実施例1〜3で結晶成長開始前に溶液を高温処理した結晶成長実験における溶液温度の時間変化を示すグラフであり、結晶成長開始前に溶液を1900℃の結晶成長温度よりも200℃高い、2100℃に保持した。
【図3】図3は比較例1で結晶成長開始前に溶液を高温処理しない結晶成長実験における溶液温度の時間変化を示すグラフであり、結晶成長温度は1900℃である。
【図4】図4は比較例2で結晶成長開始前に溶液を高温処理しない結晶成長実験における溶液温度の時間変化を示すグラフであり、結晶成長温度は2100℃である。
【図5】図5は実施例1で得られたSiC単結晶の成長面および成長面に垂直な断面の透過画像を示す光学顕微鏡写真である。
【図6】図6は比較例1で得られたSiC単結晶の成長面および成長面に垂直な断面の透過画像を示す光学顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明のSiC単結晶の製造方法は、溶液法によりSiC単結晶を成長させる際、種結晶を溶液に浸漬する前に、溶液の高温処理を行うものであり、溶液の温度を一時的に結晶成長温度よりも50〜300℃高温に保つことにより、1700〜2100℃の高い結晶成長温度で、且つ雰囲気ガス圧力が0.1MPa以上の加圧条件下であっても、特別な装置を用いることなく、結晶成長したSiC結晶中のボイド発生を抑制できる。
【0015】
種結晶を溶液に浸漬する前に、溶液の温度を一時的に成長温度よりも高温に保つことによってボイド発生を抑制した状態でSiC単結晶の作製が可能とするものであるが、結晶成長前の保持温度が結晶成長温度+50℃未満であると、気泡発生の抑制効果が十分ではなく、結晶成長温度+300℃を超えると、溶液中のCの過飽和濃度が高くなりすぎ、多結晶の発生が起こってしまうため、溶液の温度を一時的に成長温度よりも50〜300℃高温に保つことが適正である。また、抑制効果を十分にかつ溶液中のCの過飽和濃度が高くなりすぎないようにするためには、さらに好ましくは、高温保持時間が10分以上、3時間以下であることが望ましい。
【0016】
本発明のSiC単結晶の製造方法を実施するための形態の1例を示した図1を用いて説明する。
本発明においては、種結晶を溶液に浸漬する前に、溶液の温度を一時的に結晶成長温度よりも50〜300℃高温に保つことを特徴とする溶液の高温処理を付与する。
種結晶を溶液に浸漬する前に行う溶液の高温処理の温度は、結晶成長温度よりも100〜250℃高いことがより好ましい。
種結晶を溶液に浸漬する前に行う溶液の高温処理の処理時間は、溶液温度が結晶成長温度よりも50〜300℃高温に達すれば、特に限定されるものではないが、好ましくは10分〜3時間、より好ましくは30分〜2時間である。
【0017】
図1において、SiC単結晶2の成長は、加熱装置である高周波コイル6によって加熱された溶液4に、SiC単結晶基板2を支持する機構の一部である種結晶保持軸(種結晶保持棒)3の先端に、種結晶であるSiCからなる単結晶基板2を接着又は機械的固定により保持し、これを溶液内に浸漬させて単結晶成長させることができる。種結晶保持軸3と黒鉛坩堝1はおのおの独立に回転する機構を備えたものである。黒鉛坩堝1の外側底面の温度は、放射温度計のような高温温度計により直接測温する。高周波コイル6による黒鉛坩堝1の加熱は、黒鉛坩堝1の外側底面の測定温度をもとに制御されるのが好ましい。ここで、図1では、黒鉛坩堝1は断熱材5で覆われ、この外側に高周波コイル6が設置されている。
【0018】
種結晶の形状は円盤、六角形平板、四角形平板等の板状でも、立方体でもよいが、円盤、六角形平板、四角形平板等の板状が好ましい。種結晶の大きさは、どのような大きさでもよく、その目的にもよるが、直径0.1cm以上が好ましく、0.5cm以上がより好ましく、1cm以上がさらに好ましい。直径の好ましい上限は特に限定されるものでなく、結晶成長装置の容量に合わせて調製すればよく、例えば10cmでも構わない。
【0019】
本発明のSiC単結晶を得る方法において、溶液成長に用いる溶液の組成に関しては、少なくともSiとCが含まれているならば特に制限は無い。本発明においては、溶液成長に用いる溶液には遷移金属元素(好ましくはTi、Cr等の第一遷移元素)または/および希土類元素(例えば、スカンジウム、イットリウム等)を含んでもよい。特に、Si−C溶液、Si−C−Ti溶液、Si−C−Cr溶液が好ましく、溶液に遷移金属元素(好ましくはTi、Cr等の第一遷移元素)または/および希土類元素を含んだ場合においても、種結晶を溶液に浸漬する前に、溶液の温度を一時的に成長温度よりも50〜300℃高温に保つことで、結晶成長して得られたSiC単結晶内のボイドは大幅に抑制される。ここで、Si−C溶液、Si−C−Ti溶液、Si−C−Cr溶液におけるCの少なくとも一部は黒鉛坩堝から溶液中に溶解させたものである。また、Cの一部はCHなどの炭化水素ガスを溶液中に吹き込む、又は雰囲気ガスに混入することにより溶液中にCを供給する方法もある。
【0020】
雰囲気ガスは、SiC単結晶成長時に、SiC結晶及び溶液の酸化を防止するために、He、Ne、Ar等の不活性ガスを用い、またN、H、CHなどのガスを混合してもよい。また、SiC結晶成長は1700〜2400℃の高温で実施するため、雰囲気ガス圧力が0.1MPaよりも低いと溶液の蒸発が激しいので、加圧条件でSiC単結晶成長を実施することが望ましい。好適な雰囲気ガス圧力は0.1MPa以上である。
【0021】
本発明の製造方法におけるよるSiC単結晶成長時の温度は、1700〜2100℃の範囲内で設定可能であるが、溶液組成によって最適な温度条件を1700〜2100℃の範囲内で任意に設定すればよい。ただし結晶成長あるいは溶液を高温に保つ場合の温度によっては溶液の蒸発が激しくなるので、雰囲気ガスの圧力としては、1700〜1900℃の溶液温度の場合には0.1MPa〜1MPa、1900℃より高く、2400℃以下の範囲の溶液温度では1MPa〜10MPaが好適である。
本発明における溶液法によるSiC単結晶成長によって、高温で長時間、例えば3時間以上、成長して得られるSiC単結晶中のボイド発生を大幅に抑制することができる。
すなわち、Si及びCを含む溶液中に、SiCの種結晶を浸漬し、SiCを析出・成長させるにあたり、Si及びCを含む溶液中に、SiCの種結晶を浸漬し、SiCを析出・成長させるにあたり、該種結晶を該溶液に浸漬する前に、該溶液の温度を一時的に結晶成長温度よりも50〜300℃高温に保って製造することで得られるSiC単結晶はボイド密度を10000個/cm以下とすることができる。ボイド密度は、好ましくは1000個/cm以下、さらに好ましくは100個/cm以下である。これにより、ボイドの発生で問題とする直径1μm以上のボイドの発生は大幅に抑制でき、実質0個/cmにもできる。
【0022】
ボイド密度は、以下のようにして測定できる。
すなわち、光学顕微鏡を用い、透過照明によって、結晶成長部分の厚み方向にすべて含んだ領域にてボイド数を計測する。ここで、ボイドは透過照明で黒丸点として観測されるので、容易に計測できる。また、光学可能顕微鏡観察の空間分解能は1μm程度であり、問題とする1μm以上の大きさのボイドは十分に検出できる。より具体的には、結晶成長部分の平面の2mm×2mmの領域で、結晶成長部分の全厚み(例えば結晶成長した厚みが100μmの場合であれば100μm)の領域を、顕微鏡観察してボイド数計測を行い、それを任意の場所で計6回繰り返し、1cm当たりに換算してその平均値を求める。以後の実施例、比較例はこのようにして求めたものである。なお、ここで、透過照明で全厚みを観察できない厚みの場合は、厚み方向に分割して計測を繰り返すことで計測することができる。
【実施例】
【0023】
以下に、本発明を具体的に説明する目的で実施例を示す。ただし、これらの実施例は、本発明の具体的説明を目的としており、本発明を制限する意図はない。
以下の実施例では、図1に示したSiC単結晶成長の実施形態と同様の装置を用いて、SiC単結晶の成長を行った。実験では、溶液にはSiを用い、結晶成長温度1900℃、雰囲気ガス圧力0.95MPaとした。種結晶を溶液に浸漬する前に、高温処理として、溶液の温度を結晶成長温度よりも200℃高温に1時間保持した。ここで使用した種結晶は、2.5〜5.1cmの大きさの板状のSiC単結晶基板を使用した。
【0024】
実験では、黒鉛坩堝にSiを充填し、減圧下でSiの融点以下の温度に保持して吸着ガスを脱気した後、雰囲気ガスとしてArガスを0.95MPaの圧力で充填し、黒鉛坩堝の底面が所定の温度になるように加熱し、Si原料を融解させた。その後、溶液の温度を成長温度よりも200℃上昇させた状態で1時間保持し、その後に結晶成長温度まで温度を降下させた。その後、図1に例示した種結晶保持軸と同様な構造によって保持されたSiC種結晶を溶液に浸漬し、3時間の浸漬時間が経過した後、種結晶保持軸を上昇させ、種結晶を溶液から引き揚げた。結晶成長中は種結晶保持軸と黒鉛坩堝を互いに逆方向に回転させた。
【0025】
炉内の温度を室温まで冷却させた後、SiC種結晶を回収し、フッ硝酸を用いて洗浄を行い、SiC結晶表面に付着している溶液の凝固物を取り除いた。種結晶上に溶液法により成長したSiC単結晶の表面と断面に対して、透過照明を用いた顕微鏡観察を実施し、成長結晶中のボイド密度を前述のようにして計測した。
【0026】
(実施例1)
実験では、黒鉛坩堝にSiを充填し、1Pa以下の減圧下で黒鉛坩堝及びSi原料を1100℃程度の温度に保持し、吸着ガスを脱気した後、雰囲気ガスとしてArガスを0.95MPaの圧力になるように充填し、黒鉛坩堝の底面が1900℃になるように加熱し、Si原料を融解させた。その後、溶液の温度を成長温度よりも200℃上昇させた状態で1時間保持した後に結晶成長温度まで温度を降下させた。その後、図1に例示した種結晶保持軸と同様な構造によって保持されたSiC種結晶を溶液に浸漬し、3時間の浸漬時間が経過した後、種結晶保持軸を上昇させ、種結晶を溶液から引き揚げた。実施例1で実施した溶液の高温処理および結晶成長時の溶液温度の時間変化を図2に示した。なお、結晶成長中は種結晶保持軸と黒鉛坩堝を互いに逆方向に回転させた。
【0027】
(比較例1)
黒鉛坩堝にSiを充填し、1Pa以下の減圧下で黒鉛坩堝及びSi原料を1100℃程度の温度に保持し、吸着ガスを脱気した後、雰囲気ガスとしてArガスを0.95MPaの圧力になるように充填し、黒鉛坩堝の底面が1900℃になるように加熱し、Si原料を融解させた。その後、図1に例示した種結晶保持軸と同様な構造によって保持されたSiC種結晶を溶液に浸漬し、3時間の浸漬時間が経過した後、種結晶保持軸を上昇させ、種結晶を溶液から引き揚げた。結晶成長中は種結晶保持軸と黒鉛坩堝を互いに逆方向に回転させた。比較例1で実施した結晶成長時の溶液温度の時間変化を図3に示した。
【0028】
(比較例2)
黒鉛坩堝にSiを充填し、1Pa以下の減圧下で黒鉛坩堝及びSi原料を1100℃程度の温度に保持し、吸着ガスを脱気した後、雰囲気ガスとしてArガスを0.95MPaの圧力になるように充填し、黒鉛坩堝の底面が2100℃になるように加熱し、Si原料を融解させた。その後、図1に例示した種結晶保持軸と同様な構造によって保持されたSiC種結晶を溶液に浸漬し、1時間の浸漬時間が経過した後、種結晶保持軸を上昇させ、種結晶を溶液から引き揚げた。結晶成長中は種結晶保持軸と黒鉛坩堝を互いに逆方向に回転させた。比較例2で実施した結晶成長時の溶液温度の時間変化を図4に示した。
【0029】
実施例1の方法によって成長したSiC結晶の、成長面および成長面に垂直な断面の透過画像を示す光学顕微鏡写真を図5に示した。図5によれば、実施例1に記載した方法によるSiC単結晶成長では、ボイド発生を抑制することが可能である。この方法では、溶液の高温処理中に、溶液中の雰囲気ガス溶解量が結晶成長温度における熱力学的平衡状態での溶解量よりも低下しており、溶液の高温処理の後、結晶成長温度に溶液温度を降下しても、溶液中の雰囲気ガス溶解量が結晶成長温度における熱力学的平衡状態での溶解量よりも低下していることがボイド抑制の要因の一つであると考えられる。
【0030】
比較例1の方法によって成長したSiC結晶の、成長面および成長面に垂直な断面の透過画像を示す光学顕微鏡写真を図6に示した。図6によれば、結晶成長前の溶液の高温処理を実施しない場合には、SiC単結晶中のボイドを抑制することはできない。なお、図6における黒の点がボイドである。
【0031】
実施例1と比較例1及び比較例2によって作製したSiC単結晶中のボイド密度を下記表1に示す。
【0032】
【表1】

【0033】
表1および図6から明らかなように、実施例1に記載の結晶成長条件の中の、結晶成長前の溶液の高温処理を実施しない場合には、成長させたSiC単結晶中のボイド発生を抑制することはできない。
【0034】
表1から明らかなように、比較例1に記載の結晶成長条件よりも、単に成長温度を200℃上昇させた比較例2に記載の結晶成長条件を用いたSiC単結晶成長では、ボイド発生が若干低減するが、ボイド発生を大幅に抑制する効果はない。
【0035】
(実施例2)
溶液原料をSi0.77Ti0.23とし、Si−C−Ti溶液に変更した以外は実施例1と同様にしてSiC単結晶を製造した。
【0036】
(実施例3)
溶液原料をSi0.6Cr0.4とし、Si−C−Cr溶液に変更した以外は実施例1と同様にしてSiC単結晶を製造した。
【0037】
実施例2および実施例3においても、ボイド発生を大幅に抑制することが可能であった。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明のSiC単結晶の製造方法によれば、高い結晶成長温度でかつ雰囲気ガス圧力が0.1MPa以上の圧力であっても、ボイドの発生を大幅に抑制し、ボイドを含まない高品質のSiC単結晶を製造することが可能となる。
【符号の説明】
【0039】
1 黒鉛坩堝
2 SiC種結晶
3 種結晶保持軸
4 溶液
5 断熱材
6 高周波コイル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Si及びCを含む溶液中に、SiCの種結晶を浸漬し、溶液成長法によりSiCを析出・成長させるにあたり、該種結晶を該溶液に浸漬する前に、該溶液の温度を一時的に結晶成長温度よりも50〜300℃高温に保って製造して、結晶成長部分のボイド密度を10000個/cm以下としたことを特徴とするSiC単結晶。
【請求項2】
Si及びCを含む溶液中に、SiCの種結晶を浸漬し、SiCを析出・成長させる溶液成長法によるSiC単結晶の製造方法であって、該種結晶を該溶液に浸漬する前に、該溶液の温度を一時的に結晶成長温度よりも50〜300℃高温に保つことを特徴とするSiC単結晶の製造方法。
【請求項3】
前記溶液の温度を一時的に前記結晶成長温度よりも高温に保つ時間が10分以上、3時間以下であることを特徴とする請求項2に記載のSiC単結晶の製造方法。
【請求項4】
前記SiC単結晶の製造をガス雰囲気下で行い、該雰囲気ガスの圧力が0.1MPa以上の加圧条件に設定されていることを特徴とする請求項2または3に記載のSiC単結晶の製造方法。
【請求項5】
前記結晶成長温度が、1700〜2100℃の範囲内であることを特徴とする請求項2〜4のいずれか1項に記載のSiC単結晶の製造方法。
【請求項6】
前記溶液中に遷移金属元素および/または希土類元素を含むことを特徴とする請求項2〜5のいずれかに記載のSiC単結晶の製造方法。
【請求項7】
請求項2〜6のいずれか1項に記載の製造方法で製造されたSiC単結晶。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−56807(P2013−56807A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−196581(P2011−196581)
【出願日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 発行者名:公益社団法人 応用物理学会 刊行物名:2011年春季 <第58回>応用物理学関係連合講演会 講演予稿集(DVD) 発行年月日:平成23年3月9日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度、経済産業省「低炭素社会を実現する新材料パワー半導体プロジェクト」委託研究費及び平成23年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「低炭素社会を実現する新材料パワー半導体プロジェクト」委託研究費、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(000004455)日立化成株式会社 (4,649)
【Fターム(参考)】