説明

TABテープの製造方法

【課題】 TABテープにレジスト層とアクリル樹脂層が残存しないように除去し、めっき未着がないTABテープの製造方法を提供する。
【解決手段】 本発明は、開口部を有する絶縁性フィルムの片面に銅層と前記銅層面上に所定の配線パターンを有するレジスト層を備え、前記絶縁性フィルムの反対面にアクリル樹脂層を備える部材の前記レジスト層及び前記アクリル層を、濃度の異なる第一のアルカリ水溶液及び第二のアルカリ水溶液を用いて、前記部材から剥離、溶解するTABテープの製造方法で、濃度10〜17g/Lの第一のアルカリ水溶液に30〜70秒間、TABテープ基材を浸漬させ、主としてレジスト層を剥離し、次に濃度18〜28g/Lの第二のアルカリ水溶液でアクリル樹脂層を溶解するTABテープの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体装置に使用されるTAB(Tape Automated Bonding)テープに用いられるTABテープ基材の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体装置に使用されるTABテープを製造する方法は、先ず、ポリイミドフィルムのような基材となる絶縁性フィルムの所定の位置にプレス加工などによって開口部を形成した後、この絶縁性フィルムの片面に接着剤を介して銅箔を貼着する。
そして、この銅箔表面に感光性レジストを塗布して、所定のパターンを有するマスクを用いて露光、現像し、次いでレジストから露出している銅箔部をエッチング加工して所定の配線パターンが形成され、この所定の配線パターンが形成されたTABテープ基材にAuめっきやSnめっき、ソルダーレジストなどを施してTABテープが製造される。
【0003】
この配線パターンを形成するエッチング加工では、絶縁性フィルムに形成した開口部から銅箔がエッチングされることを防止するために絶縁フィルム面側からアクリル樹脂を塗布した後エッチング加工を行って銅箔を所定の配線パターンに形成した後、エッチングマスクとなっていたレジスト層とアクリル樹脂層を除去し、TABテープ基材を形成している(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
従来、レジスト層とアクリル樹脂層を除去する方法としては、例えば液温50℃で濃度20g/Lの水酸化ナトリウム水溶液に120秒間浸漬して、同時にレジスト層及びアクリル樹脂層の異なる2層を除去していたが、配線パターンにレジストやアクリル樹脂が部分的に残る場合があり、次工程のめっき処理後に、本来めっきを施さなければならない部分がめっき未着となり、不良の発生につながっていた。
【0005】
このレジストおよびアクリル樹脂が残る問題に対して、メチルエチルケトンなどの有機溶剤を使用して溶解剥離する方法や、レジスト剥離性およびアクリル樹脂溶解性を高めるヒドラジンやアミド化合物などの薬品を添加剤として使用する方法が知られている。
又、溶液の温度を上げることにより、レジスト剥離性およびアクリル樹脂溶解性を高めることも知られている。
【特許文献1】特開平5−114673
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、有機溶剤の使用やヒドラジンやアミド化合物などの薬品を添加剤に使用することは、薬品に対する安全面から作業環境の改善や廃液処理に関するコスト高を招いてしまう。
更に、レジスト剥離溶液の温度を上げる方法では、装置の溶液タンクや処理槽および液配管の材質を耐高温材質のものに変更する必要があり、設備改造の費用が発生するなど、TABテープの品質面の問題を解決するために、薬液コストアップ及び設備改造費用が発生し、必ずしも十分な改善策とは言えない状況であった。
【0007】
本発明では、このような状況に鑑み、取り扱いの容易な濃度の異なるアルカリ水溶液を用いてTABテープ基材のレジスト層とアクリル樹脂層を残存しないよう除去する製造方法を採用することで、めっき未着がないTABテープを提供することを可能なものとした。
【課題を解決するための手段】
【0008】
即ち、本発明の第一の発明は、開口部を有する絶縁性フィルムの片面に銅層と前記銅層面上に所定のパターンを有するレジスト層を備え、前記絶縁性フィルムの反対面にアクリル樹脂層を有するTABテープ部材の前記レジスト層及び前記アクリル樹脂層を、濃度が異なる第一のアルカリ水溶液及び第二のアルカリ水溶液を用いて、前記TABテープ部材から剥離、溶解することを特徴とするTABテープ製造方法である。
また、本発明の第二の発明は、前記第一のアルカリ水溶液の濃度が10〜17g/L、且つ前記第二のアルカリ水溶液の濃度が18〜28g/Lであることを特徴とする第一の発明に記載のTABテープの製造方法である。
更に、本発明の第三の発明は、前記第一のアルカリ水溶液及び第二のアルカリ水溶液に30〜70秒間浸漬して、レジスト層及びアクリル樹脂層を剥離、溶解することを特徴とする第一の発明または第二の発明に記載のTABテープの製造方法である。
また、本発明の第四の発明は、前記第一のアルカリ水溶液に浸漬してレジスト層を剥離し、次に第二のアルカリ水溶液に浸漬してアクリル樹脂層を溶解することを特徴とする第一の発明から第三の発明のいずれか1つに記載のTABテープの製造方法である。
更に、本発明の第五の発明は、前記第一又は第二のアルカリ水溶液が、水酸化ナトリウム水溶液或いは水酸化カリウム水溶液であることを特徴とする第一の発明から第四の発明のいずれか1つに記載のTABテープの製造方法である。
【0009】
同一濃度のアルカリ水溶液でレジスト層の剥離とアクリル樹脂層の溶解を同時に行う場合では、異なる層を同時に剥離・溶解するために処理時間が長くなり生産性が低下する。そこで、処理時間を短くすると、レジスト層の剥離及びアクリル樹脂層の溶解が不十分となり配線パターンにレジスト片やアクリル樹脂片が残存して、次のめっき工程でのめっき未着の発生要因となるが、先にレジスト層の剥離に適した濃度10〜17g/Lの第一のアルカリ水溶液を用い、アクリル樹脂層の溶解も起こるが、主としてレジスト層を剥離し、次にレジスト層が剥離除去されたTABテープ部材から濃度18〜28g/Lの第二のアルカリ水溶液を用いてアクリル樹脂層を溶解するので、銅層の配線パターンにレジスト片やアクリル樹脂片が残存せず、次のめっき工程を経てもめっき未着が発生しにくいTABテープが製造できる。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、安価で取り扱いが容易なアルカリ水溶液を用いて、レジスト層の剥離に適した濃度の水溶液と、アクリル樹脂層の溶解に適した濃度の水溶液とに使い分けることで、レジスト層を剥離し、次にアルカリ樹脂層を溶解すことが可能となり、銅層の配線パターンにレジスト片やアクリル樹脂片が残存せず、次のめっき工程を経てもめっき未着が発生しない効果を奏するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に、図を用いて本発明に係るTABテープの製造方法を詳細に説明する。
図1は、本発明に係るTABテープの製造方法の概略を示す図である。図1において、1は絶縁性フィルム(ポリイミドフィルム)、1aは開口部、2は銅層(銅箔)、3はレジスト層(フォトレジスト)、4はアクリル樹脂層、10はTABテープ部材、11はTABテープ基材である。
【0012】
本発明に係るTABテープの製造方法の概略は、先ずポリイミドフィルムなどの絶縁性フィルムを用い、この絶縁性フィルム1に必要な開口部1aを設け(図1(1))、その片面に銅箔を接着剤を介して接着(図1(2))し、その銅箔表面にレジストを塗布(図1(3))した後、所定のパターンで露光・現像してエッチングマスクとなるレジスト層3を形成(図1(4))する。
次にエッチング処理する前に、銅箔を接着した絶縁性フィルム1の反対面側からアクリル樹脂を塗布し、熱乾燥してアクリル樹脂層4を形成(図1(5))し、エッチング処理して配線パターンが形成されたTABテープ部材10を得る(図1(6))。
【0013】
次に、濃度10〜17g/Lの第一のアルカリ水溶液を用い、TABテープ部材10を浸漬させてレジスト層3の剥離を行い、次に濃度18〜28g/Lの第二のアルカリ水溶液に浸漬させてアクリル樹脂層4の溶解を行って、レジスト層3とアクリル樹脂層4を除去したTABテープ基材11を作製する(図1(7))。このTABテープ基材11の必要部分にめっきおよびソルダーレジストを形成してTABテープを得るものである。
【0014】
この第一のアルカリ水溶液及び第二のアルカリ水溶液の濃度、浸漬条件として、先ずレジスト層の剥離に適した第一のアルカリ水溶液の濃度の影響を調べた。アルカリ水溶液である水酸化ナトリウム水溶液の液温を50℃に設定し、その濃度を5g/Lから30g/Lに調整し、この水溶液にレジスト層とアクリル樹脂層を有するTABテープ部材を浸漬し、各濃度におけるレジスト層の剥離が完了する時間を測定した結果を図2に示す。
【0015】
図2から明らかなように、レジスト層の剥離が完了する時間は、水酸化ナトリウム水溶液の濃度が5〜9g/Lおよび18〜30g/Lでは80〜180秒間の浸漬時間が必要となり、10〜17g/Lの濃度では、25〜65秒の浸漬時間で処理でき、特に、12g/L〜16g/Lの範囲では、浸漬時間が40秒未満で、レジスト層の剥離が完了している。
なお、アルカリ水溶液の液温は、45から55℃の範囲でレジスト層を効率良く剥離する。
【0016】
又、図2と同じレジスト層とアクリル樹脂層を有するTABテープ部材を用い、エッチング処理後の重量を測定し、アルカリ水溶液の液温を50℃に設定し、その濃度を13g/Lから30g/Lに、それぞれ調整した水酸化ナトリウム水溶液にTABテープ部材を30秒間浸漬して、各濃度における溶解剥離後の重量を比較することで、アルカリ水溶液濃度に対するレジスト層とアクリル樹脂層の溶解剥離性を測定し、図3にその結果を示す。
ここで、アクリル樹脂は透明であり溶解が完了したことの判断が難しいこと、及びレジスト層に対してアクリル樹脂層の厚みが約10倍と大きいことから、処理前重量と処理後重量から数1に示す処理効率を算出し、大きい方がアクリル樹脂の溶解性が高いと判定する。
【0017】
[数1]
処理効率(%)=(処理前重量−処理後重量)×100/処理前重量
【0018】
図3から明らかなように、レジスト層及びアクリル樹脂層の溶解剥離性を示す処理効率は、アルカリ水溶液の濃度が18〜30g/Lの場合において促進される結果となった。但し、30g/Lの濃度では、銅箔の配線パターンの一部に変色が見られるため、28g/Lまでとしたほうが望ましい。
なお、アルカリ水溶液の液温は、45から55℃で、効率よく溶解する。
【0019】
次に、水酸化カリウム水溶液を用いて、水酸化ナトリウム水溶液の場合と同様に剥離溶解性を測定したところ、レジスト層の剥離が70秒以下で完了している濃度は、9〜17g/Lであり、又レジスト層とアクリル樹脂層の溶解剥離性については、水酸化ナトリウム水溶液の場合と同様に処理効率がほぼ一定となる濃度は、18〜30g/Lである。
【0020】
なお、アルカリ水溶液は、安価で濃度調整が容易なものであれば支障はなく、こうしたアルカリ水溶液としては、水酸化ナトリウム水溶液や水酸化カリウム水溶液が用いられる。アルカリ水溶液は、市販されている粉末状、粒状あるいはフレーク状の水酸化ナトリウムおよび水酸化カリウムを適切な濃度に調整して用いるため、安価、且つ簡単に入手することが可能である。
【0021】
図2及び図3からわかるように、濃度が10〜17g/Lのアルカリ水溶液は、主としてレジスト層を剥離し、濃度が18〜28g/Lのアルカリ水溶液は、アクリル樹脂層を溶解することがわかる。
しかしながら、その範囲以外では、剥離に要する時間、或いは溶解に要する時間が多く掛かり非効率である。
以下、実施例により本発明を説明する。
【実施例1】
【0022】
図1(1)に示すような厚み38μmのポリイミドフィルム(絶縁性フィルム)1に開口部1aを打ち抜き加工した後、図1(2)に示すように片面に厚み15μmの銅箔(銅層)2を接着剤(図示せず)で接着する。
この部材を用い、図1(3)に示すように銅箔表面にレジスト(フォトレジスト:東京応化工業製PMER)を厚み3〜5μmで塗布し、その後所定のパターンで露光および現像を行い、レジスト層3を形成(図1(4))する。
【0023】
次いで、図1(5)に示すようにエッチング処理する前にポリイミドフィルムの銅箔を接着した面の裏面側からアクリル樹脂(ナトコ製ポリアロイ)4を、厚み40〜50μmで塗布し、加熱乾燥後、エッチング処理を施しリード幅30μm、リードとリードの間隔が30μmである配線パターンを形成した図1(6)に示すTABテープ部材10を作製する。
【0024】
次に、液温50±5℃、濃度14±2g/Lに設定した第一アルカリ水溶液の水酸化ナトリウム水溶液に35秒間浸漬してレジスト層3を剥離し、第二のアルカリ水溶液である液温50±5℃、濃度21±2g/Lの水酸化ナトリウム水溶液に35秒間浸漬してアクリル樹脂層4を溶解し、レジスト層3とアクリル樹脂層4を除去した図1(7)に示すTABテープ基材11を作製する。
【0025】
作製したTABテープ基材11を用い、リード部にめっきを形成し、めっき未着不良を確認したところ、従来2〜3%程度発生していた不良が1%以下に低減されていた。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明に係るTABテープの概略工程図である。
【図2】レジスト層剥離時間と水酸化ナトリウム水溶液濃度の関係グラフである。
【図3】レジスト層とアクリル樹脂層の剥離溶解の処理効率と水酸化ナトリウム水溶液濃度の関係グラフである。
【符号の説明】
【0027】
1 絶縁性フィルム(ポリイミドフィルム)
1a 開口部
2 銅層(銅箔)
3 レジスト層(フォトレジスト)
4 アクリル樹脂層
10 TABテープ部材
11 TABテープ基材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
開口部を有する絶縁性フィルムの片面に銅層と前記銅層面上に所定のパターンを有するレジスト層を備え、前記絶縁性フィルムの反対面にアクリル樹脂層を有するTABテープ部材の前記レジスト層及び前記アクリル樹脂層を、濃度が異なる第一のアルカリ水溶液及び第二のアルカリ水溶液を用いて、前記TABテープ部材から剥離、溶解することを特徴とするTABテープ製造方法。
【請求項2】
前記第一のアルカリ水溶液の濃度が10〜17g/L、且つ前記第二のアルカリ水溶液の濃度が18〜28g/Lであることを特徴とする請求項1記載のTABテープの製造方法。
【請求項3】
前記第一のアルカリ水溶液及び第二のアルカリ水溶液に30〜70秒間浸漬して、レジスト層及びアクリル樹脂層を剥離、溶解することを特徴とする請求項1又は2記載のTABテープの製造方法。
【請求項4】
前記第一のアルカリ水溶液に浸漬してレジスト層を剥離し、次に第二のアルカリ水溶液に浸漬してアクリル樹脂層を溶解することを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載のTABテープの製造方法。
【請求項5】
前記第一又は第二のアルカリ水溶液が、水酸化ナトリウム水溶液或いは水酸化カリウム水溶液であることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載のTABテープの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−246169(P2009−246169A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−91552(P2008−91552)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】