説明

TiO2を含有するシリカガラスの成型方法

【課題】TiOを含有するシリカガラスを高温下で加圧成型した時にシリカガラスに発生する泡の防止。
【解決手段】TiOを含有するシリカガラスを高温下で加圧成型して所望の形状に成型するために使用するグラファイト製成型容器のシリカガラスの成型面側の表面に、平均粒径が0.01〜150μmであるSiC粒子を含む懸濁液をSiC粒子の単位面積当たりの塗布質量が0.005〜0.2g/cmとなるように塗布することにより加圧成型した時の発泡を防止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、TiOを含有するシリカガラスの成型方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、光リソグラフィ技術においては、集積回路の高集積化および高機能化に伴い、集積回路の微細化が進み、露光装置には深い焦点深度で高解像度の回路パターンをウエハ面上に結像させることが求められ、露光光源の短波長化が進められている。露光光源は、従来のg線(波長436nm)、i線(波長365nm)やKrFエキシマレーザ(波長248nm)から進んでArFエキシマレーザ(波長193nm)が用いられようとしている。また、さらに回路パターンの線幅が100nm以下となる次世代の集積回路に対応するため、ArFエキシマレーザの露光システムの液浸技術や、露光光源としてFレーザ(波長157nm)を用いる技術が開発されているが、これも線幅が70nm世代までしかカバーできないと見られている。
【0003】
このような流れにあって、露光光源としてEUV光(極端紫外光)のうち代表的には波長13.5nmの光を用いたリソグラフィ技術が、線幅が50nm以降の複数世代に渡って適用可能と見られ注目されている。EUVリソグラフィ(以下、「EUVL」と略する)の像形成原理は、投影光学系を用いてマスクパターンを転写する点では、従来のフォトリソグラフィーと同じである。しかし、EUV光のエネルギー領域では光を透過する材料が無いために、透過光学系は用いることができず、光学系はすべて反射光学系となる。
【0004】
EUVLに用いられる露光装置光学部材は、
(1)基材
(2)基材上に形成された反射多層膜
(3)反射多層膜上に形成された吸収体層
から基本的に構成される。多層膜は、Mo/Siが交互に層を形成することが検討され、吸収体層には、成膜材料として、TaやCrが検討されている。基材としては、EUV光照射の下においても歪みが生じないような低熱膨張係数を有する材料が必要とされ、低熱膨張係数を有する石英ガラス等が検討されている。
【0005】
TiOを含有するシリカガラス(以下、「TiO−SiOガラス」と略する)は、シリカガラスよりも小さい熱膨張係数(Coefficient of Thermal Expansion;CTE)を有する超低熱膨張材料として知られ、またガラス中のTiO含有量によって熱膨張係数を制御できるために、熱膨張係数が0に近いゼロ膨張ガラスが得られる。したがって、TiO−SiOガラスはEUVL用光学部材に用いる材料としての可能性がある。米国特許出願には、TiO−SiO多孔質ガラス体を形成し、ガラス体にした後、マスク基板を得る方法が開示されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0006】
従来、TiO−SiOガラスの作製方法は、直接法と呼ばれる方法が用いられている。直接法は、先ず、シリカ前駆体とチタニア前駆体をそれぞれ蒸気形態に転化させてこれらを混合する。この蒸気形態となった混合物は、バーナーに導入され熱分解することでTiO−SiOガラス粒子となる。このTiO−SiOガラス粒子は耐火性容器中に堆積され、堆積と同時にそこで溶融されてTiO−SiOガラスの透明ガラス体となる。
【0007】
また、TiO−SiOガラスを、気相軸付け(VAD)法によって作製する方法が開示されている(例えば、特許文献2参照。)。VAD法は、先ず、チタニア前駆体とシリカ前駆体を火炎加水分解させて得られるTiO−SiOガラス微粒子を基材に堆積、成長させて多孔質TiO−SiOガラス体を形成させる。前記多孔質TiO−SiOガラス体を緻密化温度まで昇温して、実質的に泡や気泡を含有しないTiO−SiO緻密体を得る。前記TiO−SiO緻密体をガラス化温度まで昇温して、実質的に内部に結晶成分を含有しない透明ガラス体を得る。
【0008】
直接法やVAD法によると透明ガラス体を得られる。透明ガラス体は、成型により所望の形状、大きさの成型体とされる。例えば、透明ガラス体は、角柱あるいは円柱に成型され、所定の厚さにスライスされ所望のTiO−SiOガラスの基板が得られる。
【0009】
透明ガラス体の成型は透明ガラス体を成型容器内に収容して加熱した状態で、加圧板により加圧することにより行われ、成型体が得られる。ついで、成型容器内で成型体を徐冷し、更にアニール処理を行う場合もある。例えば、透明ガラス体をグラファイト製成型容器内に設置し、これを不活性雰囲気中で1600〜1700℃に加熱して加圧板等で加圧することによって所定形状に成型する方法が知られている(特許文献3参照。)。また、厚さ10〜1000μmのαもしくはβ炭化珪素を内面被覆したグラファイト製成型容器を使用する方法(特許文献4参照。)や、グラファイト製成型容器の表面にシリカゾール炭化珪素スラリーを塗布した後、熱処理することにより、炭化珪素層を形成させた成型容器を使用する方法(特許文献5参照。)も知られている。
【0010】
【特許文献1】米国特許出願公開第2002/157421号明細書
【特許文献2】特開2005−22954号公報
【特許文献3】特開昭61−83638号公報
【特許文献4】特開昭57−67031号公報
【特許文献5】特公昭63−57367号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、従来のシリカガラスの成型方法をTiO−SiOガラスに適用すると、成型中にガラス内で泡が生じ、歩留まりを低下させるという問題点があった。不活性雰囲気中でグラファイト製成型容器内でTiO−SiOガラスを成型する際、成型容器に用いられているグラファイトによりTiO−SiOガラス中のTi4+がTi3+へと還元され、余剰酸素が泡を形成するため、泡が生じると推定される。他方、還元による泡の発生を抑制するために成型温度を1500℃以下とすると、ガラスの粘性が比較的大きいため、実質的に自重変形が行われない。加えて、SiOの結晶相であるクリストバライトの成長またはTiOの結晶相であるルチルもしくはアナターゼの成長が起こり、いわゆる失透が生じる。
【0012】
特許文献4には、10〜1000μmの厚みを有する炭化珪素層を、グラファイト製成型容器に形成する具体的な方法が記載されていない。
特許文献5に記載の方法では、シリカゾール炭化珪素スラリーを塗布した後に、成型容器の前処理として1700℃以上の熱処理が必要であり、工程が煩雑な事に加えて、製造コストの点で不利となる。
【0013】
本発明は、上記のようなTiO−SiOガラスの成型における問題を解決する、TiO−SiOガラスの成型方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
第1の発明は、平均粒径が0.01〜150μmであるSiC粒子を含む懸濁液をグラファイト製成型容器のシリカガラスの成型面側の表面にSiC粒子の単位面積当たりの塗布質量が0.005〜0.2g/cmとなるように塗布し、TiOを含有するシリカガラスを前記グラファイト製成型容器内に設置し、前記グラファイト製成型容器内で、前記TiOを含有するシリカガラスを1500〜1800℃で加圧成型し、所望の形状の成型体を得ることを特徴とするTiO−SiOガラスの製造方法を提供する。
【0015】
第2の発明は、第1の発明においてTiOを含有するシリカガラスを0.01MPa以上の不活性ガス雰囲気下において加圧成型して所望の形状の成型体を得るTiO−SiOガラスの製造を提供する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によるTiO−SiOガラス成型方法を使用すれば、TiO−SiOガラスの成型中の発泡を防止することができる。したがって、EUVL用光学部材に用いる材料の製造方法として好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明は、直接法やVAD法により得た透明ガラス体をシリカガラスの成型面側の表面にSiC粒子を含む懸濁液を塗布したグラファイト製成型容器内に設置し、これを不活性雰囲気中で所定の温度に加熱した後、加圧板等で加圧することによって所定形状に成型するものである。
【0018】
本発明のTiO−SiOガラスの製造方法において、SiC粒子を含む懸濁液として使用されるSiC粒子の平均粒径は、0.01〜150μmが好ましい。平均粒径が150μmを超えると、懸濁液を成型容器に塗布する時に、部分的にSiC粒子が剥がれ落ちるおそれがある。平均粒径が0.01μm未満だと、効果を発揮するために十分な量のSiC粒子を均一に塗布することができない。使用されるSiC粒子の平均粒径は、より好ましくは0.01〜100μmである。
【0019】
平均粒径は以下のように測定する。SiC粉体を分散媒(例えば水)に分散させた懸濁液をレーザ回折/散乱式粒度分布測定装置(堀場製作所製LA−920)を用いて測定することができる。
【0020】
TiO−SiOガラス成型体中の泡の存在は、成型により得られた成型体の表面において肉眼にて確認した。発泡が起きていると、平滑な面を持つ成型体を得ることが出来ない。
【0021】
本発明において、グラファイト製成型容器の表面に対するSiC粒子の単位面積当たりの塗布質量は0.005〜0.2g/cmが好ましい。SiC粒子の塗布量は、0.005g/cmより少ないと発泡を抑制する効果がない可能性がある。また0.2g/cmより多いと懸濁液を成型容器に塗布する時に、部分的にSiC粒子が剥がれ落ちるおそれがある。SiC粒子の単位面積当たりの塗布質量は、より好ましくは0.01〜0.1g/cmである。
【0022】
塗布質量は以下のように測定する。SiC粒子を成型容器に塗布し、塗布前後の重量増加量を塗布面積で除することで測定することができる。
【0023】
ここで、SiC粒子を懸濁液とする際の溶媒の種類は、塗布後の乾燥や取り扱い易さなどの理由で、アルコール系のものが好ましい。この実施の形態ではエチルアルコールを使用しており、このエチルアルコールにSiC粒子を分散させて刷毛で塗って塗布する。SiC粒子は、エチルアルコールに500〜2000g/l分散させるのが好ましい。500g/lより少ないと、発泡を抑制するために必要なSiCの塗布質量を得るために多量のエチルアルコールを要し、均一に塗布することが困難である。加えて、乾燥に時間が掛かる。また2000g/lより多いと、懸濁液の濃度が高すぎて、均一に塗布することが困難である。
【0024】
雰囲気は0.01MPa以上の不活性ガス雰囲気が好ましい。この実施の形態ではAr雰囲気を使用している。0.01MPa未満では、SiOの昇華が生じる可能性がある。
【0025】
成型温度は1500〜1800℃であることが好ましい。1500℃未満では、ガラスの粘度が高いため、実質的に自重変形が行われず、またSiOの結晶相であるクリストバライトの成長またはTiOの結晶相であるルチルもしくはアナターゼの成長が起こり、いわゆる失透が生じる。1800℃を超えると、SiOの昇華やTiOの還元が生じる可能性がある。成型温度は、より好ましくは1600〜1770℃である。
【実施例】
【0026】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されない。ここで、例1から3は実施例、例4から8は比較例である。尚、各例においては、それぞれ記載された加熱温度にて成型後、その成型温度で10時間保持し、約10時間で150℃になるよう降温した。
【0027】
また、各例においてそれぞれの平均粒径のSiC粉体をエチルアルコールに1500g/lの割合で懸濁させた。
【0028】
[例1]
平均粒径1μmであるSiC粉体をエチルアルコールに懸濁させた。この懸濁液をSiCが0.03g/cmとなるように塗布したグラファイト製成型容器を用いて、0.001MPaのAr雰囲気下でTiO−SiO透明ガラス体の加圧成型を行った。加熱温度は1600℃であった。SiOが昇華し炉壁に付着したが、得られたTiO−SiOガラス成型体に肉眼で確認できる泡はなかった。
【0029】
[例2]
平均粒径1μmであるSiC粉体をエチルアルコールに懸濁させた。この懸濁液をSiCが0.03g/cmとなるように塗布したグラファイト製成型容器を用いて、Ar雰囲気大気圧下でTiO−SiO透明ガラス体の加圧成型を行った。加熱温度は1700℃であった。得られたTiO−SiOガラス成型体に肉眼で確認できる泡はなかった。
【0030】
[例3]
平均粒径100μmであるSiC粉体をエチルアルコールに懸濁させた。この懸濁液をSiCが0.05g/cmとなるように塗布したグラファイト製成型容器を用いて、Ar雰囲気大気圧下でTiO−SiO透明ガラス体の加圧成型を行った。加熱温度は1700℃であった。得られたTiO−SiOガラス成型体に肉眼で確認できる泡はなかった。
【0031】
[例4]
平均粒径1μmであるSiC粉体をエチルアルコールに懸濁させた。この懸濁液をSiCが0.03g/cmとなるように塗布したグラファイト製成型容器を用いて、0.02MPa、Ar雰囲下でTiO−SiO透明ガラス体の加圧成型を行った。加熱温度は1650℃であった。得られたTiO−SiOガラス成型体に肉眼で確認できる泡はなかった。
【0032】
[例5]
SiCを塗布していない成型容器を用いて、Ar雰囲気大気圧下でTiO−SiO透明ガラス体の加圧成型を行った。加熱温度は、1685℃であった。得られたTiO−SiOガラス成型体に泡のあることを肉眼で確認した。
【0033】
[例6]
平均粒径が200μmであるSiC粉体をエチルアルコールに懸濁させた。この懸濁液をSiCが0.05g/cmとなるようにグラファイト製成型容器に塗布したが、部分的にSiC粒子が剥がれ落ちてグラファイト面が露出し、均一なコーティング層を形成することができなかった。該成型容器を用いて、Ar雰囲気大気圧下でTiO−SiO透明ガラス体の加圧成型を行った。加熱温度は1700℃であった。得られたTiO−SiOガラス成型体に泡のあることを肉眼で確認した。
【0034】
[例7]
平均粒径が100μmであるSiC粉体をエチルアルコールに懸濁させた。この懸濁液をSiCが0.3g/cmとなるようにグラファイト製成型容器に塗布したが、部分的にSiC粒子が剥がれ落ちてグラファイト面が露出し、均一なコーティング層を形成することができなかった。該成型容器を用いて、Ar雰囲気大気圧下でTiO−SiO透明ガラス体の加圧成型を行った。加熱温度は1700℃であった。得られたTiO−SiOガラス成型体に泡のあることを肉眼で確認した。
【0035】
[例8]
平均粒径1μmであるSiC粉体をエチルアルコールに懸濁させた。この懸濁液をSiCが0.03g/cmとなるように塗布したグラファイト製成型容器を用いて、Ar雰囲気大気圧下でTiO−SiO透明ガラス体の加圧成型を行った。加熱温成型度は1820℃であった。得られたTiO−SiOガラス成型体に泡のあることを肉眼で確認した。
【0036】
[例9]
平均粒径1μmであるSiC粉体をエチルアルコールに懸濁させた。この懸濁液をSiCが0.03g/cmとなるように塗布したグラファイト製成型容器を用いて、0.005MPaの減圧下でTiO−SiO透明ガラス体の加圧成型を行った。加熱温度は1450℃であった。加熱温度が低い為、TiO−SiO透明ガラス体を十分に成型できなかった。
【0037】
以上の結果を表1にまとめる。
【0038】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒径が0.01〜150μmであるSiC粒子を含む懸濁液をグラファイト製成型容器の成型面側の表面にSiC粒子の単位面積当たりの塗布質量が0.005〜0.2g/cmとなるように塗布し、
TiOを含有するシリカガラスを前記グラファイト製成型容器内に設置し、
前記グラファイト製成型容器内で、前記TiOを含有するシリカガラスを1500〜1800℃で加圧成型し、
所望の形状の成型体を得ることを特徴とするTiOを含有するシリカガラスの成型方法。
【請求項2】
TiOを含有するシリカガラスを0.01MPa以上の不活性ガス雰囲気下において加圧成型して所望の形状の成型体を得る請求項1に記載のTiOを含有するシリカガラスの成型方法。

【公開番号】特開2007−55842(P2007−55842A)
【公開日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−242846(P2005−242846)
【出願日】平成17年8月24日(2005.8.24)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】