説明

Vリブドベルトの製造方法及び製造装置

【課題】 生産性に優れるVリブドベルトの製造方法を提供する。
【解決手段】 少なくとも心線とゴム層とからなるベルトスリーブ1を駆動ロール11とテンションロール12に巻き掛け、前記駆動ロール11を所定速度で回転させてベルトスリーブ1を走行させる。そして、複数の断面V字形状の突起を表面に有する研削ホイール13を回転させながらベルトスリーブ1の表面に当接させ、ベルトスリーブ1の表面に複数のリブ部を形成するのであるが、このときに、駆動ロール11とベルトスリーブ1との接触面に霧吹き15によって水を供給する。こうすることで、ベルトスリーブ1を高速走行させても駆動ロール11−ベルトスリーブ1間のスリップが生じにくくなり、短時間でリブ部を形成できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベルトスリーブを研削してVリブドベルトを製造する方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は以下のようなVリブドベルトの製造方法を開示している。即ち、(A)平ベルト状のベルトスリーブを、リブ形成面を外側にして駆動ロールとテンションロールの二軸間に所定張力でセットする。(B)駆動ロールを駆動することによってベルトスリーブを所定走行速度で回転させる。(C)表面に50〜200メッシュのダイヤモンドの研磨粒を電着させるとともに多数の断面V字状の突起を有する研削ホイールを所定回転数で回転させながら、回転しているベルトスリーブ表面に所定時間当接させることによって、ベルトスリーブに複数の突起を同時に形成する。(D)複数の突起が形成されたベルトスリーブを所定幅ごとに輪切りして、Vリブドベルトを得る。
【特許文献1】特許第2698899号公報(図1、図2)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ここで上記従来技術において生産効率を向上させるための一つのアプローチとして、駆動ロールの回転速度を上げてベルトスリーブを高速走行させ、研削ホイールで短時間で効率よく研削させることが考えられる。しかしながら従来技術では、駆動ロールの走行速度を上げていくと研削ホイールとの摩擦で大きな抵抗がベルトスリーブに作用し、駆動ロールとベルトスリーブとの間でスリップが発生して、研削表面に凹凸が生じてしまう恐れがある。従って、駆動ロールの回転速度を増大させるといっても限界があって、生産効率の点から改善の余地が残されていた。
【課題を解決するための手段及び効果】
【0004】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段とその効果を説明する。
【0005】
◆本発明の第1の観点によれば、以下のような、Vリブドベルトの製造方法が提供される。少なくとも心線とゴム層とからなるベルトスリーブを駆動ロールとテンションロールに巻き掛け、前記駆動ロールを所定速度で回転させるとともに、複数の断面V字形状の突起を表面に有する研削ホイールを回転させながら前記ベルトスリーブの表面に当接させることによって前記ベルトスリーブ表面に複数のリブ部を形成する工程を含む。そして、当該工程において、前記駆動ロールと前記ベルトスリーブとの接触面に水が供給される。
【0006】
これにより、走行するベルトスリーブに研削ホイールとの摩擦による大きな負荷が掛かっても、ベルトスリーブと駆動ロールとの間に介在される水が両者の密着性を高めるので、ベルトスリーブのスリップが阻止される。従って、ベルトスリーブの速度を増大させても適切にリブ部を形成できるので、Vリブドベルトの生産効率に優れる。また、水を供給するという簡素な方法であるので、低コストとできる。
【0007】
前記のVリブドベルトの製造方法においては、前記水は、前記ベルトスリーブと前記駆動ロールとが接触を開始する位置に供給されることが好ましい。これにより、水が効率よくベルトスリーブと駆動ロールとの間に供給されるので、ベルトスリーブのスリップが確実に防止されるとともに、水の無駄が少なくなる利点がある。
【0008】
前記のVリブドベルトの製造方法においては、前記水は、前記ベルトスリーブの幅方向全体にわたって供給されることが好ましい。これにより、スリップ防止効果がムラなく発揮され、ベルトスリーブのスリップが確実に防止される。
【0009】
前記のVリブドベルトの製造方法においては、前記水は霧吹き状に供給されることが好ましい。これにより、ベルトスリーブと駆動ロールの広い面積に均一に水を拡散させて供給することが容易であるとともに、供給される水の量が過剰になることを防止できる。
【0010】
◆本発明の第2の観点によれば、以下のように構成する、Vリブドベルトの製造装置が提供される。少なくとも心線とゴム層とからなるベルトスリーブを巻き掛けるための駆動ロール及びテンションロールと、回転しつつ前記ベルトスリーブに接触可能な、複数の断面V字形状の突起を表面に有する研削ホイールと、前記駆動ロールと前記ベルトスリーブとの接触面に水を供給する水供給手段と、を備える。
【0011】
これにより、走行するベルトスリーブに研削ホイールとの摩擦による大きな負荷が掛かっても、ベルトスリーブと駆動ロールとの間の水によって、ベルトスリーブのスリップが抑制される。従って、ベルトスリーブの速度を増大させても適切にリブ部を形成できるので、Vリブドベルトの生産効率に優れる製造装置を提供できる。
【0012】
前記のVリブドベルトの製造装置においては、前記水供給手段は霧吹きであることが好ましい。これにより、ベルトスリーブと駆動ロールの広い面積に均一に水を拡散させて供給することが容易であるとともに、供給される水の量が過剰になることを防止できるので、スリップ防止が確実になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
最初に、Vリブドベルトの材料としての環状のベルトスリーブ1を図1を参照して説明する。図1はベルトスリーブの構成を示す断面斜視図である。このベルトスリーブ1は、円筒形の成形ドラム(図略)の外周面に、カバー帆布5を形成する帆布、接着ゴム層3を形成するゴムシート、心線2を形成する接着処理された撚りコード、圧縮ゴム層4を形成するゴムシートを順に巻き付け、得られた成形体を公知の加熱加圧手段によって加硫して得られる。
【0014】
圧縮ゴム層4としては、例えば、クロロプレンゴム(CR)、エチレンプロピレンゴム(EPDM)、クロロスルホン化ポリエチレン(CSM)、アルキル化クロロスルホン化ポリエチレン(ACSM)、水素化ニトリルゴム(HNBR)等が用いられる。なお、圧縮ゴム層4には、ナイロン6、ナイロン66、ポリエステル、綿、アラミド等の短繊維を混入して、耐側圧性を向上させることが望ましい。
【0015】
心線2を構成するコードには、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)繊維あるいはポリエチレン−2,6−ナフタレート(PEN)等の繊維からなる撚りコードが用いられる。カバー帆布5としては、綿、ポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、アラミド繊維からなる糸を用いて、平織、綾織、朱子織等に製織した布が用いられる。
【0016】
次に、上記のようにして作成したベルトスリーブ1にリブ部を形成する工程を図2、図3を参照して説明する。図2はベルトスリーブの研削の様子を示す側面図、図3は図2の3−3線断面矢視図である。
【0017】
本工程では図2に示すように、前記ベルトスリーブ1を駆動ロール11とテンションロール12の間に、適宜の張力を付与した状態で巻き掛ける。なおベルトスリーブ1は、図1に示す圧縮ゴム層4を形成するゴムシートが外側になるように、両ロール11・12に巻き掛けることとする。
【0018】
そして図2の状態で、駆動ロール11を太線矢印方向に回転させてベルトスリーブ1を白抜き矢印方向に走行させるとともに、駆動ロール11に近接して配置される研削ホイール13を、駆動ロール11と同方向に回転させる。ここで駆動ロール11の回転速度は、ベルトスリーブ1の走行速度が例えば50〜150ミリメートル/秒となるように設定され、研削ホイール13の回転速度は例えば1800rpmに設定される。
【0019】
なお、前記研削ホイール13の表面にはダイヤモンドの研磨粒を電着させるとともに、図2の3−3線断面矢視図としての図3に示すように、研削ホイール13の外周面には多数(例えば、50〜150個)のV字状の突起14が形成されている。そして、研削ホイール13を回転させながら走行中のベルトスリーブ1の表面に当接させて、前記突起14の部分を圧縮ゴム層4に食い込ませて溝を形成する。この結果、リブ部7となる多数の突起が、ベルトスリーブ1の圧縮ゴム層4に形成される。
【0020】
そして本実施形態では図2の符号15に示すように、研削ホイール13によるベルトスリーブ1の研削時において、回転する駆動ロール11とベルトスリーブ1との接触面に水が供給される。水は、ベルトスリーブ1と駆動ロール11が接触を開始する位置に、ベルトスリーブ1の幅方向全体にわたって供給されることが望ましい。
【0021】
この水の供給量は、ベルトスリーブ1の内面及び駆動ロール11の外面が全面にわたって均一に濡れるように適宜調節される。水は、駆動ロール11外面のミクロな凹凸とベルトスリーブ1内面のミクロな凹凸との間に形成されるミクロな空孔が常時充填される程度に連続的に供給されることが好ましい。水の過剰な供給は、かえって駆動ロール11とベルトスリーブ1の間のスリップの原因となるために好ましくない。水を供給するための具体的な手段としては、本実施形態では霧吹き(スプレーノズル)15を採用している。
【0022】
このような研削方法を採ることで、水の表面張力により、ベルトスリーブ1と駆動ロール11との接触面に形成されるミクロな空孔が水によって充填されるから、ベルトスリーブ1−駆動ロール11間の密着性が増大する。従って、ベルトスリーブ1に加わる負荷ないし抵抗が増大したとしても両者1・11間のスリップを抑制できるので、駆動ロール11の回転速度を増大させることができ、リブ部7の形成時間を短縮し、生産効率を向上させることができる。また、水を供給するという簡素な構成であるので、コストの上昇要因ともならない。
【0023】
こうしてリブ部7が形成されたベルトスリーブ1は、所定幅ごとに輪切りすることで、図4のような完成品のVリブドベルト10を得ることができる。
【0024】
なお本実施形態では、上述したとおり、水はベルトスリーブ1と駆動ロール11が接触を開始する位置に供給される。この結果、水が効率よく接触面に供給され、スリップ防止効果を確実にできるとともに、水の無駄を少なくできる。更には本実施形態では、水はベルトスリーブ1の幅方向全体に供給されるので、水によるスリップ防止効果がムラなく発揮される。加えて、本実施形態では水は霧吹き15によって供給されるので、ベルトスリーブ1の幅方向全体にわたる広い面積に水を拡散させて供給させることが容易であるとともに、水の供給量を適切に調節でき、水の過剰供給によるベルトスリーブ1のスリップも防止できる。
【実施例】
【0025】
本発明の効果を実証するために、発明者は以下の実験を行った。圧縮ゴム層4を形成するゴムシートとしてクロロプレンゴムを用いたベルトスリーブ1を用意し、このベルトスリーブ1と駆動ロール11との接触面にベルトスリーブ1の全幅にわたって均一に水を供給しながら、ベルトスリーブ1の走行速度が75ミリメートル毎秒となるように駆動ロール11を回転させた状態で、80個の断面V字状の突起14を有する研削ホイール13を回転させながらベルトスリーブ1に当接させ、所定のリブ部7が形成されるように研削を行った。
【0026】
研削を行うにあたっては、駆動ロール11の回転速度を、標準の75ミリメートル毎秒から100%増(即ち、標準の倍の150ミリメートル毎秒)まで、10%刻みで増加させてゆき、各回転速度においてベルトスリーブ1と駆動ロール11間のスリップの有無を目視で調べた。また、各回転速度において、ベルトスリーブ1上にリブ部7が完成するまでの所要時間を測定した。なお比較例として、ベルトスリーブ1と駆動ロール11との接触面に水を供給しない場合についても同様の実験を行った。
【0027】
上記実験の結果を表1に示す。なお、研削所要時間は、標準の75ミリメートル毎秒で研削を行った場合における研削所要時間に対する比率で表されている。
【表1】

【0028】
上記の表に示すように、水を供給しない比較例では駆動ロール11の回転速度が標準速度より80%増加した時点でスリップが発生したのに対し、水を供給すると、駆動ロール11の回転速度が100%増でもスリップは認められなかった。そして、速度が80%増で研削所要時間が標準の所要時間の0.42倍になり、速度の100%増の場合で研削所要時間が標準の所要時間の0.37倍になったことからすると、水を供給する本発明の方が生産時間の短縮の余地が大きいことになる。
【0029】
また、駆動ロール11の回転速度が100%増でもスリップが認められなかったので、駆動ロール11の速度増大によって研削所要時間は標準の所要時間の0.37倍以下とする余地があり、Vリブドベルトの生産効率を標準の少なくとも2.7倍(=1/0.37)以上に向上し得ることが判る。即ち、駆動ロール11の回転速度の増大をそのまま研削時間の短縮に繋げることができ、生産効率を向上することができる。
【0030】
なお、上記実施形態では駆動ロール11の速度増大による生産性向上を主眼としているが、その代わりに研削ホイール13の速度増大によって研削時間の短縮を図る場合にも、水を供給する構成は有効である。即ち、研削ホイール13の速度を増大させた場合でもベルトスリーブ1に発生する抵抗は増大するが、この場合でもベルトスリーブ1が駆動ロール11に対し水によって密着するため、スリップを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】ベルトスリーブの構成を示す断面斜視図。
【図2】ベルトスリーブの研削の様子を示す側面図。
【図3】図2の3−3線断面矢視図。
【図4】完成したVリブドベルトの構成を示す断面斜視図。
【符号の説明】
【0032】
1 ベルトスリーブ
2 心線
4 圧縮ゴム層
5 カバー帆布
7 リブ部
10 Vリブドベルト
11 駆動ロール
12 テンションロール
13 研削ホイール
14 突起

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも心線とゴム層とからなるベルトスリーブを駆動ロールとテンションロールに巻き掛け、前記駆動ロールを所定速度で回転させるとともに、複数の断面V字形状の突起を表面に有する研削ホイールを回転させながら前記ベルトスリーブの表面に当接させることによって前記ベルトスリーブ表面に複数のリブ部を形成する工程を含むVリブドベルトの製造方法において、
当該工程において前記駆動ロールと前記ベルトスリーブとの接触面に水が供給されることを特徴とするVリブドベルトの製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載のVリブドベルトの製造方法であって、前記水は、前記ベルトスリーブと前記駆動ロールとが接触を開始する位置に供給されることを特徴とするVリブドベルトの製造方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載のVリブドベルトの製造方法であって、前記水は、前記ベルトスリーブの幅方向全体にわたって供給されることを特徴とするVリブドベルトの製造方法。
【請求項4】
請求項1から請求項3までの何れか一項に記載のVリブドベルトの製造方法であって、前記水は霧吹き状に供給されることを特徴とするVリブドベルトの製造方法。
【請求項5】
少なくとも心線とゴム層とからなるベルトスリーブを巻き掛けるための駆動ロール及びテンションロールと、
回転しつつ前記ベルトスリーブに接触可能な、複数の断面V字形状の突起を表面に有する研削ホイールと、
前記駆動ロールと前記ベルトスリーブとの接触面に水を供給する水供給手段と、を備えるVリブドベルトの製造装置。
【請求項6】
請求項5に記載のVリブドベルトの製造装置であって、前記水供給手段は霧吹きであることを特徴とするVリブドベルトの製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−7375(P2006−7375A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−189203(P2004−189203)
【出願日】平成16年6月28日(2004.6.28)
【出願人】(000006068)三ツ星ベルト株式会社 (730)
【Fターム(参考)】