説明

V型エンジンのテンショナリフタ取付け構造

【課題】一対のバンクのカムチェーンにチェーンテンショナがそれぞれ摺接され、両チェーンテンショナにカムチェーンと反対側から当接するテンショナリフタが、両バンクのシリンダブロックにそれぞれ設けられるV型エンジンにおいて、両バンク間でのデッドスペースを極力小さくする。
【解決手段】テンショナリフタ83A,83Bの一方83Aが、両バンク23A,23Bの外側に対応する部分で第1バンク23Aのシリンダヘッド19Aに設けられ、他方のテンショナリフタ83Bが、両バンク23A,23Bの内側に対応する部分で第2バンク23Bのシリンダヘッド19Bに設けられ、第1バンク23Aのシリンダヘッド19Aの上端結合面22Aから一方のテンショナリフタ83Aまでの距離が、第2バンク23Bのシリンダヘッド19Bの上端結合面22Bから他方のテンショナリフタ83Bまでの距離よりも小さく設定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クランクシャフトを回転自在に支承するクランクケースに連設されて相互にV型をなす第1および第2バンクのシリンダヘッドにカムシャフトがそれぞれ回転自在に支承され、前記両カムシャフトに前記クランクシャフトからの動力を個別に伝達するカムチェーンにチェーンテンショナがそれぞれ摺接され、前記各カムチェーンに張りを与えるようにして前記両チェーンテンショナに前記カムチェーンと反対側から当接するテンショナリフタが、前記両バンクのシリンダヘッドにそれぞれ設けられるV型エンジンに関し、特に、テンショナリフタ取付け構造の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
V型をなす一対のバンクのカムシャフトにそれぞれ動力を伝達するための一対のカムチェーンにそれぞれ摺接するチェーンテンショナが、両バンクのシリンダヘッドに設けられたテンショナリフタでカムチェーン側に付勢されるようにしたV型エンジンが、たとえば特許文献1によって既に知られている。
【特許文献1】特開2000−199434号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、上記特許文献1で開示されたV型エンジンでは、両バンクの外側に対応する部分で一方のバンクのシリンダヘッドに一方のテンショナリフタが設けられ、両バンクの内側に対応する部分で他方のバンクのシリンダヘッドに他方のテンショナリフタが設けられているのであるが、両テンショナリフタは、それぞれのシリンダヘッドの上端結合面からの距離を等しくした位置で各シリンダヘッドに設けられている。ところが、そのような構造では、両バンクの内側に対応する部分で他方のバンクのシリンダヘッドに設けられるテンショナリフタが、両バンク間で比較的高い位置に配置されることになり、両バンク間のスペースに占めるデッドスペースの割合が比較的大きくなる。
【0004】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであり、一対のバンク間でのデッドスペースを極力小さくし得るようにしたV型エンジンのテンショナリフタ取付け構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、請求項1記載の発明は、クランクシャフトを回転自在に支承するクランクケースに連設されて相互にV型をなす第1および第2バンクのシリンダヘッドにカムシャフトがそれぞれ回転自在に支承され、前記両カムシャフトに前記クランクシャフトからの動力を個別に伝達するカムチェーンにチェーンテンショナがそれぞれ摺接され、前記各カムチェーンに張りを与えるようにして前記両チェーンテンショナに前記カムチェーンと反対側から当接するテンショナリフタが、前記両バンクのシリンダヘッドにそれぞれ設けられるV型エンジンにおいて、前記両テンショナリフタの一方が、前記両バンクの外側に対応する部分で第1バンクのシリンダヘッドに設けられ、他方のテンショナリフタが、前記両バンクの内側に対応する部分で第2バンクのシリンダヘッドに設けられ、第1バンクのシリンダヘッドの上端結合面から前記一方のテンショナリフタまでの距離が、第2バンクのシリンダヘッドの上端結合面から前記他方のテンショナリフタまでの距離よりも小さく設定されることを特徴とする。
【0006】
また請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明の構成に加えて、第2バンクのシリンダヘッドからの前記他方のテンショナリフタの突出部が、当該シリンダヘッドの上端結合面に近づくように傾斜して配置されることを特徴とする。
【0007】
さらに請求項3記載の発明は、請求項1または2記載の発明の構成に加えて、第1バンクのシリンダヘッドからの前記一方のテンショナリフタの突出部が、当該シリンダヘッドの上端結合面から遠ざかるように傾斜して配置されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
請求項1記載の発明によれば、一対のバンクの内側に対応する部分でシリンダヘッドに設けられるテンショナリフタを極力下方位置に配置して、一対のバンク間でのデッドスペースを極力小さくすることができる。
【0009】
また請求項2記載の発明によれば、一対のバンク間でのデッドスペースをより一層小さくすることができるとともに、両バンクの内側に配置されるテンショナリフタのシリンダヘッドへの上方からの取付けを容易とし、取付け性を高めることができる。
【0010】
さらに請求項3記載の発明によれば、両バンクの外側に配置されるテンショナリフタのシリンダヘッドからの突出を抑えてエンジンの小型化に寄与することができるとともに、エンジンの周囲に配置される補機の配置スペースを確保することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態を、添付の図面に示した本発明の一実施例に基づいて説明する。
【0012】
図1〜図12は本発明の一実施例を示すものであり、図1はV型エンジンの一部切欠き側面図、図2は図1の2−2線断面図、図3は図2の3−3線断面図、図4は図2の4−4線断面図、図5は図1の5矢視図、図6は図2の要部拡大図、図7は図6の7−7線拡大断面図、図8はシャフトホルダおよび規制板の分解斜視図、図9は図1の9−9線拡大断面図、図10は図1の10−10線拡大断面図、図11はフィードポンプによるオイルの流れを示すために図1と同一方向から見たエンジン本体の縦断面図、図12はスカベンジングポンプによるオイルの流れを示すための図11に対応したエンジン本体の縦断面図である。
【0013】
先ず図1において、車両たとえば自動二輪車に、たとえば5気筒のV型エンジンが搭載されており、該エンジンのエンジン本体15は、自動二輪車の左右方向に延びる軸線を有するクランクシャフト16を回転自在に支承するクランクケース17と、自動二輪車の進行方向に沿う前方側でクランクケース17に結合される第1シリンダブロック18Aと、第1シリンダブロック18Aの上端結合面21Aに結合される第1シリンダヘッド19Aと、第1シリンダヘッド19Aの上端結合面22Aに結合される第1ヘッドカバー20Aと、自動二輪車の進行方向に沿う後方側でクランクケース17に結合される第2シリンダブロック18Bと、該第2シリンダブロック18Bの上端結合面21Bに結合される第2シリンダヘッド19Bと、第2シリンダヘッド19Bの上端結合面22Bに結合される第2ヘッドカバー20Bとを備える。
【0014】
前記クランクケース17は、上部ケース17aおよび下部ケース17bが相互に結合されて成るものであり、前記クランクシャフト16は上部ケース17aおよび下部ケース17b間で回転自在に支承される。しかも第1および第2シリンダブロック18A,18Bは上部ケース17aに一体に形成される。
【0015】
而して第1シリンダブロック18A、第1シリンダヘッド19Aおよび第1ヘッドカバー20Aで3気筒の第1バンク23Aが構成され、第1バンク23Aとともに上方に向けて開いたV型をなす2気筒の第2バンク23Bが、第2シリンダブロック18B、第2シリンダヘッド19Bおよび第2ヘッドカバー20Bで構成される。
【0016】
図2を併せて参照して、第1バンク23Aの第1シリンダブロック18Aには、クランクシャフト16の軸線に沿う方向に並ぶ3つのピストン24…が摺動自在に嵌合され、第2バンク23Bの第2シリンダブロック18Bには、クランクシャフト16の軸線に沿う方向に並ぶ2つのピストン24…が摺動自在に嵌合され、両バンク23A,23Bの各ピストン24…は、クランクシャフト16が備えるクランクピン16a…にコネクティングロッド29…を介して共通に連結される。
【0017】
クランクケース17の下部すなわち下部ケース17bの下部にはオイルパン25が結合されており、クランクケース17には、前記クランクシャフト16の大部分を収容するクランク室26と、該クランク室26の後方側および下方側に位置するようにしてクランクケース17およびオイルパン25で形成される変速機室27とを区画する隔壁28が設けられる。
【0018】
前記クランク室26の後方側で変速機室27には、常時噛合い式の歯車変速機30が収納されるものであり、この歯車変速機30は、クランクシャフト16と平行な軸線を有してクランクケース17の下部ケース17bに回転自在に支承されるメインシャフト31と、該メインシャフト31と平行な軸線を有してクランクケース17の上部および下部ケース17a,17b間で回転自在に支承されるカウンタシャフト32と、選択的な確立を可能としてメインシャフト31およびカウンタシャフト32間に設けられる複数変速段たとえば6段の歯車列群33とを備えるものであり、メインシャフト31の一端部にはクランクシャフト16からの動力がクラッチ34を介して入力される。また自動二輪車の進行方向前方を向いた状態でクランクケース17の左側壁から突出したカウンタシャフト32の端部には駆動スプロケット35が固定され、図示しない後輪に動力を伝達するための無端状のチェーン36が駆動スプロケット35に巻き掛けられる。
【0019】
クラッチ34は、メインシャフト31との相対回転を不能としたクラッチインナ37と、メインシャフト31との相対回転が可能であるクラッチアウタ38とを備える従来周知の多板式クラッチである。
【0020】
ところで、クランクシャフト16の一端部は、自動二輪車の進行方向前方を向いた状態でクランクケース17の右側壁から突出されており、クランクケース17の外方でクランクシャフト16の一端部には比較的大径であるプライマリドライブギヤ41が固定され、このプライマリドライブギヤ41に噛合するプライマリドリブンギヤ42が、ダンパばね43を介して前記クラッチ34のクラッチアウタ38に連結される。
【0021】
クランクシャフト16の他端部は、自動二輪車の進行方向前方を向いた状態でクランクケース17の左側壁から突出されており、このクランクシャフト16の他端部には、発電機44のアウターロータ45が固定される。また前記アウターロータ45とともに発電機44を構成するインナーステータ46が、発電機44を覆うようにしてクランクケース17の左側壁に結合される発電機カバー47に固定される。また前記アウターロータ45には一方向クラッチ48を介してギヤ49が連結されており、このギヤ49は、図示しない始動用モータに連動、連結される。
【0022】
図3において、第1バンク23Aの第1シリンダヘッド19Aにおいて、両バンク23A,23Bの内方側に臨んで開口する吸気ポート151…と、吸気ポート151…と反対側の側壁に開口する排気ポート152…とが各気筒毎に設けられており、各吸気ポート151…毎に一対の吸気弁51A…と、各排気ポート152…毎に一対の排気弁52A…とが、閉弁方向にばね付勢されつつ開閉作動可能として第1シリンダヘッド19Aに配設される。しかも各吸気弁51A…の頂部に閉塞端内面を当接させる有底円筒状の吸気弁側リフタ53A…ならびに各排気弁52A…の頂部に閉塞端内面を当接させる有底円筒状の排気弁側リフタ54A…が、吸気弁51A…および排気弁52A…の開閉作動方向に摺動することを可能として第1シリンダヘッド19Aに嵌合される。
【0023】
しかも第1シリンダヘッド19Aと、第1シリンダヘッド19Aに締結される吸気側カムホルダ153とで、各吸気弁側リフタ53A…の閉塞端外面に摺接する複数の吸気側カム55A…を有する吸気側カムシャフト56Aがクランクシャフト16と平行な軸線まわりに回転可能に支承され、第1シリンダヘッド19Aと、第1シリンダヘッド19Aに締結される排気側カムホルダ154とで、各排気弁側リフタ54A…の閉塞端外面に摺接する複数の排気側カム57A…を有する排気側カムシャフト58Aがクランクシャフト16と平行な軸線を有する回転可能に支承される。
【0024】
図4を併せて参照して、第2バンク23Bの第2シリンダヘッド19Bには、各気筒毎に一対ずつの吸気弁51B…および排気弁52B…が、閉弁方向にばね付勢されて開閉作動可能に配設されており、各吸気弁51B…の頂部に当接する吸気弁側リフタ53B…に、クランクシャフト16と平行な軸線まわりに回転可能な吸気側カムシャフト56Bの吸気側カム55B…が摺接され、各排気弁52B…の頂部に当接する排気弁側リフタ54B…に、クランクシャフト16と平行な軸線まわりに回転可能な排気側カムシャフト58Bの排気側カム57B…が摺接される。
【0025】
図5において、第1バンク23Aの第1ヘッドカバー20Aには、各気筒の中心部に対応する位置で図示しない点火プラグを挿通するための3つのプラグ挿通孔155,156,157が、自動二輪車の進行方句前方を向いた状態で右側から左側に順に等間隔をあけて設けられる。また第1ヘッドカバー20Aの上面において、各プラグ挿通孔155〜157よりも後方側には、それらのプラグ挿通孔155〜157の配列方向に長い横断面形状を有する取付け筒部158が一体に突設されており、該取付け筒部158内には、自動二輪車の進行方向前方を向いた状態で右側から順に等3つの取付け凹部159,160,161が、取付け筒部156の側壁上面と面一な上面を有する仕切り壁158a,158bを相互間に形成するようにして設けられる。
【0026】
而して前記取付け凹部159〜161のうち取付け凹部159,160が、プラグ挿通孔155,156にそれぞれほぼ対応する位置に配置されるのに対し、取付け凹部161は、プラグ挿通孔156,157間の中間部にほぼ対応する位置に配置される。すなわち前記取付け凹部159〜161の中間位置にある取付け凹部160と、該取付け凹部160の右側に配置される取付け凹部159との間の距離が、前記中間位置にある取付け凹部160と、該取付け凹部160の左側に配置される取付け凹部161との間の距離よりも大きく設定されており、取付け凹部160,161が相互に近接して配置される。
【0027】
各取付け凹部159〜161には、リード弁162が取付けられたリング状の支持部材163がそれぞれ圧入されるとともに、複数の小孔164…(図4参照)を有して有底円筒状に形成されるプロテクト部材165が、前記リード弁162よりも内方に位置するようにして圧入される。
【0028】
前記取付け筒部158には、該取付け筒部158を上方から覆うようにしてキャップ166が締結されるものであり、このキャップ166には、図2で示すように、取付け筒部158の仕切り壁158a,158bに上方から当接する仕切り壁166a,166bが設けられ、それらの仕切り壁166a,166bには、同軸の連通孔167,168が設けられる。またキャップ166には、前記連通孔167,168と同軸に延びる接続筒部169が一体に突設されており、この接続筒部169には、二次空気を導く管路(図示せず)が接続される。すなわちキャップ166および取付け筒部158間には二次空気が導入される。
【0029】
また第1ヘッドカバー20Aには、前記取付け凹部159〜161の閉塞端内面に開口する二次空気通路170,171,172が設けられるものであり、二次空気通路170,171は、プラグ挿通孔155,156間に配置され、二次空気通路172は、プラグ挿通孔156,157間に配置される。
【0030】
一方、第1シリンダヘッド19Aには、図3で示すように、各気筒の排気ポート152…に下端部を開口して上方に延びる二次空気通路173…が設けられており、それらの二次空気通路173…の上端は位置決めピンを兼ねるようにして第1ヘッドカバー20Aおよび第1シリンダヘッド19A間に挟持される接続管174…を介して第1ヘッドカバー20Aの各二次空気通路173…に連通する。
【0031】
このような第1バンク23A側の二次空気供給構造によれば、第1ヘッドカバー20Aに設けられる接続筒部158、ならびに該接続筒部158に取付けられるキャップ166をコンパクト化することができる。
【0032】
また第2バンク23Bにあっては、第2バンク23B側の2気筒に二次空気を供給するために、図1で示すように、第2ヘッドカバー20Bに接続筒部175が突設され、該接続筒部175にキャップ176が取付けられる。而して、接続筒部175およびキャップ176の形状が、第1バンク23A側の接続筒部168およびキャップ166とは異なるものの、リード弁の配設構造ならびにリード弁から排気ポートまで二次空気を導く通路構造は、上記第1バンク23A側と同様に構成される。
【0033】
再び図4において、第1バンク23Aにおける吸気側および排気側カムシャフト56A,58Aの一端部には、吸気側および排気側従動スプロケット59A,60Aが固定され、第2バンク23Bにおける吸気側および排気側カムシャフト56B,58Bの一端部には、吸気側および排気側従動スプロケット59B,60Bが固定される。
【0034】
一方、クランクケース17における右側壁の外方でクランクシャフト16の一端部の上方には、クランクシャフト16と平行な軸線まわりに回転する第1バンク側駆動スプロケット61Aおよび第2バンク側駆動スプロケット61Bが配置されており、第1バンク23A側の吸気側および排気側従動スプロケット59A,60Aと、第1バンク側駆動スプロケット61Aとには無端状のカムチェーン62Aが巻き掛けられ、クランクシャフト16の一端側で第1バンク23Aの第1シリンダブロック18A、第1シリンダヘッド19Aおよび第1ヘッドカバー20Aには、カムチェーン62Aを走行させるチェーン通路63Aが形成される。また第2バンク23B側の吸気側および排気側従動スプロケット59B,60Bと、第2バンク側駆動スプロケット61Bとには無端状のカムチェーン62Bが巻き掛けられ、クランクシャフト16の一端側で第2バンク23Bの第2シリンダブロック18B、第2シリンダヘッド19Bおよび第2ヘッドカバー20Bには、カムチェーン62Bを走行させるチェーン通路63Bが形成される。
【0035】
図6を併せて参照して、クランクシャフト16の一端部には、プライマリドライブギヤ41よりも小径に形成されるアイドラドライブギヤ64が、クランクシャフト16および歯車変速機30間に介設されるクラッチ34に外周を対向させるようにして、プライマリドライブギヤ41よりも軸方向外方に設けられる。またアイドラドライブギヤ64に噛合するアイドルギヤ65が、クランクシャフト16と平行な軸線を有するアイドルシャフト66に回転自在に支承される。しかも第1バンク側駆動スプロケット61Aおよび第2バンク側駆動スプロケット61Bは、プライマリドライブギヤ41に外周の少なくとも一部を対向させるようにして、アイドルギヤ65にその軸方向内方側で同軸に連設される。
【0036】
第1バンク側駆動スプロケット61Aおよび第2バンク側駆動スプロケット61Bは、それらの駆動スプロケット61A,61Bに共通である単一の前記アイドルギヤ65に一体に形成されるものであり、第1バンク23A側の吸気側および排気側カムシャフト56A,58Aを駆動すべく、それらのカムシャフト56A,58Aに固定される吸気側および排気側従動スプロケット59A,60A、第1バンク側駆動スプロケット61Aおよびカムチェーン62Aと、第2バンク23B側の吸気側および排気側カムシャフト56B,58Bを駆動すべく、それらのカムシャフト56B,58Bに固定される吸気側および排気側従動スプロケット59B,60B、第2バンク側駆動スプロケット61Bおよびカムチェーン62Bとが、クランクシャフト16の軸方向一端側で相互に隣接して配設されることになる。
【0037】
図7を併せて参照して、前記アイドルシャフト66は、その中間部の偏心軸部66aと、偏心軸部66aの軸線からオフセットした同一軸線を有して偏心軸部66aの両端に連なる支軸部66b,66cとを一体に有するものであり、前記アイドルギヤ65、第1バンク側駆動スプロケット61Aおよび第2バンク側駆動スプロケット61Bは、前記偏心軸部66aに一対のニードルベアリング67,67を介して回転自在に支承される。
【0038】
しかもアイドルシャフト66は、支軸部66b,66cの軸線まわりの回動、すなわち偏心軸部66aの軸線からオフセットした軸線まわりの回動を可能として、クランクケース17に支持されるものであり、自動二輪車の進行方向前方を向いた状態での前記クランクケース17の右側壁に締結されるシャフトホルダ68にアイドルシャフト66の一端側の支軸部66bが回動可能に支持され、前記クランクケース17の右側壁にアイドルシャフト66の他端側の支軸部66cが回動可能に支持される。
【0039】
さらに図8を併せて参照して、シャフトホルダ68は、円板状の支持部68aと、該支持部68aの周方向複数箇所たとえば3箇所から外側方に張り出す支持腕部68b…とを一体に有するものであり、各支持腕部68b…の先端部が、カムチェーン62A,62Bの走行に支障を来さない箇所でボルト69…によってクランクケース17の右側壁に固定される。前記支持部68aの中央部にには円形の支持孔70が設けられ、アイドルシャフト66の一端側の支軸部66bが支持孔70に回動可能に嵌合、支持される。しかもアイドルシャフト66の一端側の支軸部66bの先端部は、たとえば相互に平行な一対の平坦面66d…を外周に有するようにして非円形の横断面形状を有するように形成される。
【0040】
シャフトホルダ68における支持部68aの外方には、円形の規制板71が配置されており、この規制板71の中央部には、前記支軸部66bの先端部を相対回転不能に嵌合せしめる規制孔72が、支軸部66bの先端部の横断面形状に対応した形状を有するようにして設けられ、支軸部66bには、規制板71に拡径頭部73aを係合させるようにしてボルト73が螺合される。すなわち支軸部66bに規制板71が固定される。
【0041】
また規制孔72の周囲のたとえば2箇所で規制板71には、前記支軸部66bの軸線を中心とする円弧状の長孔74,74が設けられており、それらの長孔74,74に挿通されるボルト75,75がシャフトホルダ68の支持部68aに螺合される。
【0042】
而してボルト75…を締めつけた状態では、アイドルシャフト66が支軸部66b,66cの軸線まわりに回動することは阻止されるのであるが、ボルト75…を緩めることにより、アイドルシャフト66を支軸部66b,66cの軸線まわりに回動すること、すなわち偏心軸部66aの軸線からオフセットした軸線まわりにアイドルシャフト66を回動することが許容されることになる。
【0043】
またクランクケース17の右側壁には、クラッチ34を覆うとともにクランクシャフト16の一端部および前記シャフトホルダ68を覆うカバー76が、第1および第2バンク23A,23Bのシリンダブロック18A,18Bに連なるようにして結合される。
【0044】
図4に注目して、第1バンク側駆動スプロケット61Aおよび第2バンク側駆動スプロケット61Bは、矢印77で示す方向に回転するものであり、第1バンク23A側では、カムチェーン62Aの第1バンク側駆動スプロケット61Aおよび排気側従動スプロケット60A間すなわち両バンク23A,23Bの外側に対応する部分が弛緩側、カムチェーン62Aの吸気側従動スプロケット59Aおよび第1バンク側駆動スプロケット61A間すなわち両バンク23A,23Bの内側に対応する部分が緊張側となり、第2バンク23B側では、カムチェーン62Bの第2バンク側駆動スプロケット61Bおよび排気側従動スプロケット60B間すなわち両バンク23A,23Bの外側に対応する部分が弛緩側、カムチェーン62Bの吸気側従動スプロケット59Bおよび第2バンク側駆動スプロケット61B間すなわち両バンク23A,23Bの内側に対応する部分が緊張側となる。
【0045】
而して、クランクケース17には、第1バンク23A側のカムチェーン62Aの緊張側外周に接するチェーンガイド部材80A、第1バンク23A側のカムチェーン62Aの弛緩側外周に接するチェーンテンショナ81A、第2バンク23B側のカムチェーン62Bの緊張側外周に接するチェーンガイド部材80B、ならびに第2バンク23B側のカムチェーン62Bの弛緩側外周に接するチェーンテンショナ81Bとが取付けられる。
【0046】
チェーンガイド部材80A,80Bの一端部は、第1および第2バンク側駆動スプロケット61A,61Bの近傍斜め下方で相互に重なって配置されるものであり、前記アイドルシャフト66を支持するシャフトホルダ68が備える3つの支持腕部68b…の1つと、クランクケース17との間に挟まれ、前記3つの支持腕部68b…をクランクケース17に締結するボルト69…の1つが、相互に重なった前記チェーンガイド部材80A,80Bの一端部を貫通する。しかも両チェーンガイド部材80A,80Bの上部は、両バンク23A,23Bにおける第1および第2シリンダヘッド19A,19Bの内壁に当接、支持される。
【0047】
第1バンク23A側のチェーンテンショナ81Aは、両バンク23A,23Bの外側に対応する部分でカムチェーン62Aの弛緩側外周に凸曲面を摺接させるようにして弓形に形成され、第2バンク23B側のチェーンテンショナ81Bは、両バンク23A,23Bの内側に対応する部分でカムチェーン62Bの弛緩側外周に凸曲面を摺接させるようにして弓形に形成される。それらのチェーンテンショナ81A,81Bのクランクシャフト16側の一端部は、枢軸82A,82Bを介してクランクケース17に回動可能に支承される。
【0048】
第1および第2バンク23A,23Bのチェーンテンショナ81A,81Bには、カムチェーン62A,62Bの弛緩側に張りを与えるべく、カムチェーン62A,62Bと反対側からテンショナリフタ83A,83Bが当接するものであり、それらのテンショナリフタ83A,83Bは、両バンク23A,23Bのシリンダヘッド19A,19Bにそれぞれ設けられる。
【0049】
すなわち第1バンク23Aのテンショナリフタ83Aは、両バンク23A,23Bの外側に対応する部分で第1シリンダヘッド19Aに設けられ、第2バンク23Bのテンショナリフタ83Bは、両バンク23A,23Bの内側に対応する部分で第2シリンダヘッド19Bに設けられる。
【0050】
前記テンショナリフタ83A,83Bは、円筒状のケース84A,84Bと、ケース84A,84Bの一端から突出するとともに突出方向に付勢されるプッシュロッド85A,85Bとを備える従来周知のものであり、プッシュロッド85A,85Bの先端をカムチェーン62A,62Bの外周に接触させるようにして前記ケース84A,84Bが、第1および第2シリンダヘッド19A,19Bに設けられた取付け孔87A,87Bに嵌合され、ケース84A,84Bの中間部から半径方向外方に張り出すフランジ86A,86Bが第1および第2シリンダヘッド19A,19Bに締結される。
【0051】
しかも第1バンク23A側において第1シリンダヘッド19の上端結合面22Aからテンショナリフタ83Aまでの距離LAが、第2バンク23B側において第2シリンダヘッド19Bの上端結合面22Bからテンショナリフタ83Bまでの距離LBよりも小さく設定される。
【0052】
また第2バンク23Bの第2シリンダヘッド19Bからのテンショナリフタ83Bの突出部は、外方に向かうにつれて第2シリンダヘッド19Bの上端結合面22Bに近づくように傾斜して配置され、第1バンク23Aの第1シリンダヘッド19Aからのテンショナリフタ83Aの突出部は、外方に向かうにつれて第1シリンダヘッド19Aの上端結合面22Aから遠ざかるように傾斜して配置される。
【0053】
図9〜図12を併せて参照して、変速機室27の下部には、共通なオイルポンプ軸90を有するフィードポンプ91およびスカベンジングポンプ92から成るポンプユニット93が配置されるものであり、このポンプユニット93のポンプハウジング94は、クランクケース17に設けられる隔壁28に下方から取付けられる。
【0054】
前記ポンプハウジング94は、ハウジング主体95と、該ハウジング主体95を両側から挟む第1および第2カバー96,97とが、複数のボルト98…で締めつけられて成るものであり、ハウジング主体95に一体に設けられて上方に延びる取付け部95aが前記隔壁28に締結され、前記オイルポンプ軸90は、ポンプハウジング94を回転自在に貫通する。しかもオイルポンプ軸90の一端部にはポンプ用被動スプロケット99が固定されており、図2で示すように、プライマリドリブンギヤ42とともに回転するようにしてクランクケース17の外方でメインシャフト31に支承されるポンプ用駆動スプロケット100と、前記ポンプ用被動スプロケット99とに無端状のチェーン101が巻き掛けられる。したがってフィードポンプ91およびスカベンジングポンプ92は、クランクシャフト16からの動力伝達により駆動されることになる。
【0055】
フィードポンプ91およびスカベンジングポンプ92は、トロコイド式のものであり、フィードポンプ91は、前記ハウジング主体95および第1カバー96間に、オイルポンプ軸90に固定されるインナーロータ102と、該インナーロータ102に噛み合うアウターロータ103とが収納されて成り、スカベンジングポンプ92は、前記ハウジング主体95および第2カバー97間に、オイルポンプ軸90に固定されるインナーロータ104と、該インナーロータ104に噛み合うアウターロータ105とが収納されて成る。
【0056】
ポンプハウジング94における第1カバー96には、フィードポンプ91にオイルを吸入するための吸入通路106が設けられており、この吸入通路106の少なくとも上流部は上下に延びるように形成され、吸入通路106の上流端は下方に向けて開口するようにして第1カバー96の下端に開口する。
【0057】
前記フィードポンプ91は、オイルパン25内に配設されるオイルストレーナ107を介してオイルパン25内のオイルを吸入するものであり、該オイルストレーナ107が前記吸入通路106に接続される。
【0058】
オイルストレーナ107のケーシング108は、上下一対の部材が結合されて成るものであり、偏平なケーシング主部108aと、ケーシング主部108aから上方に延びる接続管部108bと、下方に向かうにつれて次第に小径となるようにしてケーシング主部108aから下方に延びるとともに下端に吸い込み口110が形成される吸い込み管部108cとを備えるものであり、ケーシング108の下部は漏斗状に形成される。
【0059】
前記接続管部108bの上端部は、前記吸入通路106の上流端に環状のシール部材109を介して嵌合されるものであり、ケーシング108の上端部が、クランクケース17の隔壁28に取付けられるポンプハウジング94の第1カバー96に支持される。すなわち上端部がクランクケース17側にポンプハウジング94を介して上端部が支持されるケーシング108の下部が漏斗状に形成され、ケーシング108の下端に吸い込み口110が形成される。
【0060】
ところで、図10で示すように、自動二輪車の進行方向後方から見てオイルパン25は下部を狭めた略V字状に形成されており、オイルストレーナ107のケーシング108は、自動二輪車の進行方向後方から見て、ケーシング主部108aおよび接続管部108bをオイルパン25の右側壁寄りとし、吸い込み管部108cをオイルパン25の左右方向ほぼ中央に配置した形状に形成されている。
【0061】
前記ケーシング108の下部における吸い込み管部108cの側面には、上下に長い板状であるとともに下方に向かうにつれてケーシング108からの突出量を大とするように形成された複数たとえば4つのストレーナ支持部112,112…が一体に形成されており、各ストレーナ支持部112,112…は、オイルパン25の底部に突設された支持突部113,113…にそれぞれ当接、支持される。
【0062】
しかも各ストレーナ支持部112,112…は、自動二輪車の進行方向に対して直交するようにして吸い込み管部108cの左右に配置されるとともに、吸い込み管部108cの前後に配置されている。
【0063】
またオイルパン25の前記右側側壁には、前記ケーシング108におけるケーシング主部108aの右側下部に当接する支持突部114が一体に突設される。
【0064】
図11および図12に注目して、前記ポンプハウジング94におけるハウジング主体95には、フィードポンプ91からオイルを吐出するための吐出通路115が設けられており、この吐出通路115は、クランクケース17の隔壁28に設けられるオイル通路116に連通される。しかもポンプハウジング94のケーシング主体95および第1カバー96間には、オイルポンプ軸90と平行な軸線を有するリリーフ弁117が、前記吐出通路115の吐出圧が所定値以上となったときに開弁して吐出通路115を流通するオイルの一部をフィードポンプ91の吸い込み側に逃がすようにして装着される。
【0065】
前記隔壁28に設けられたオイル通路116を流通するオイルは、図11の矢印で示すように、クランクケース17に取付けられるオイルフィルタ118を通過して浄化された後、クランクケース17に取付けられるオイルクーラ119に導入されて冷却される。
【0066】
また前記隔壁28には、クランクシャフト16と平行に延びるメインギャラリ120が設けられており、オイルクーラ119からメインギャラリ120に導かれたオイルは、2つに分岐される。而して、一方のオイルは隔壁28に設けられたオイル通路121に導かれ、オイル通路122を経て歯車変速機30におけるメインシャフト31およびカウンタシャフト32への歯車列群33の軸支部に供給されるとともに、変速機室27の上部に臨んでクランクケース17に設けられたノズル123から歯車変速機30に向けて噴射される。
【0067】
メインギャラリ12から分岐した他方のオイルは、クランクケース17に設けられた複数のオイル通路124…から上方に送られ、クランクシャフト16を支承する複数の軸受部の潤滑に用いられる。また前記オイル通路124…は、両バンク23A,23Bの連設部でクランクシャフト16と平行に延びるようにしてクランクケース17の上部に設けられている上部オイルギャラリ125に連通しており、上部オイルギャラリ125に接続されるノズル126…により両バンク23A,23Bにおける各気筒のピストン24…に向けて噴射され、第1および第2バンク23A,23Bのシリンダブロック18A,18Bおよびシリンダヘッド19A,19Bには、前記上部オイルギャラリ125からのオイルをシリンダヘッド19A,19Bおよびヘッドカバー20A,20B間に配設される動弁機構側にオイルを導くオイル通路127A,127Bが設けられる。
【0068】
さらにクランクシャフト16の一端部に対応する部分で右カバー76の内面には、図6で明示するように、クランクシャフト16側に突出した筒部128が一体に設けられており、この筒部128内に突入する円筒部129aを有するボルト129がクランクシャフト16の一端部に同軸に螺合され、前記筒部128および円筒部129a間には環状のシール部材130が介装される。而して前記筒部128内には、前記シール部材130でシールされるオイル室131が前記円筒部129aの端部を臨ませるよにして形成され、前記オイル室131には、図示しないオイル通路を経て前記メインギャラリ120からのオイルが供給される。
【0069】
しかも前記ボルト129には、クランクシャフト16の内部に設けられた内部オイル通路132を前記オイル室131に通じさせる連通路133が同軸に設けられ、内部オイル通路132に導入されたオイルは、クランクシャフト16が備えるクランクピン16a…およびコネクティングロッド29…の大端部間の潤滑に供される。
【0070】
図12に注目して、隔壁28の下部には、クランク室26内の下部に落下したオイルを収集するオイル収集孔138がクランク室26の下部に通じるようにして設けられる。ところで前記クランク室26は、第1および第2バンク23A,23Bにおける気筒配列方向一端の気筒に対応する部分と、第1および第2バンク23A,23Bにおける気筒配列方向他端の気筒に対応する部分と、第1バンク23Aに気筒配列方向中央の気筒に対応する部分とに区画されており、前記オイル収集孔138は、クランク室26の相互に区画された部分毎に隔壁28の下部に設けられる。一方、ポンプハウジング94において隔壁28に取付けられる取付け部95aを一体に有するハウジング主体95には、スカベンジングポンプ92にオイルを吸入するための吸入通路139が前記オイル収集孔138に対応して設けられる。
【0071】
しかも第1バンク23Aに気筒配列方向中央の気筒に対応する部分に通じるオイル収集孔138と、前記ハウジング主体95に設けられた吸入通路139との間には、オイル収集孔138から吸入通路139へのオイルの流通だけを許容するリード弁140が配設される。
【0072】
またポンプハウジング94における第2カバー96には、スカベンジングポンプ92から吐出されるオイルを導く吐出通路141が設けられており、この吐出通路141は、その下流端から歯車変速機30側に向けてオイルを吐出するようにして第2カバー96に形成される。
【0073】
図9に注目して、前記ポンプユニット93に対応する部分でクランクケース17の左側壁にはウォータポンプ142のポンプケース143が取付けられるものであり、ポンプケース143から一端を突出させるようにしてウォータポンプ142が備えるウォータポンプ軸144は、前記ポンプユニット93のオイルポンプ軸90と同軸に配置される。しかもオイルポンプ軸90の他端に突設される突部90aが、前記ウォータポンプ軸144の一端に設けられる係合凹部144aに係脱可能に係合される。すなわちポンプユニット93におけるフィードポンプ91およびスカベンジングポンプ92が、クランクシャフト16からの動力伝達により駆動されるとともに、ウォータポンプ142もクランクシャフト16からの動力伝達により駆動されることになる。
【0074】
次にこの実施例の作用について説明すると、第1バンク23Aにおける吸気弁51A…および排気弁52A…を開閉駆動するための吸気側および排気側カムシャフト56A,58Aには吸気側および排気側従動スプロケット59A,60Aが設けられ、クランクシャフト16から動力が伝達されるアイドルギヤ65ととともに回転する第1バンク側駆動スプロケット61Aと、前記吸気側および排気側カムシャフト56A,58Aとには無端状のカムチェーン62Aが巻き掛けられ、第2バンク23Bにおける吸気弁51B…および排気弁52B…を開閉駆動するための吸気側および排気側カムシャフト56B,58Bには吸気側および排気側従動スプロケット59B,60Bが設けられ、前記アイドルギヤ65ととともに回転する第2バンク側駆動スプロケット61Bと、前記吸気側および排気側カムシャフト56B,58Bとには無端状のカムチェーン62Bが巻き掛けられるのであるが、クランクシャフト16には、エンジンの動力を歯車変速機30側に伝達するプライマリドライブギヤ41と、該プライマリドライブギヤ41よりも小径に形成されるとともにプライマリドライブギヤ42よりも軸方向外方に配置されるアイドラドライブギヤ64とが設けられ、該アイドラドライブギヤ64に噛合する前記アイドルギヤ65が、クランクシャフト16と平行な軸線を有してエンジン本体15のクランクケース17に支持されるアイドルシャフト66に回転自在に支承され、前記第1および第2バンク側駆動スプロケット61A,61Bは、プライマリドライブギヤ41に外周の少なくとも一部を対向させるようにしつつアイドルギヤ65にその軸方向内方側で同軸に連設されている。
【0075】
すなわち比較的大径であるプライマリドライブギヤ41よりも小径としてクランクシャフト16に設けられるアイドラドライブギヤ64にアイドルギヤ65を噛合せしめ、プライマリドライブギヤ64に外周の少なくとも一部を対向させるようにして第1および第2バンク側駆動スプロケット61A,61Bが、アイドルギヤ65にその軸方向内方側で同軸に連設されることになるので、クランクシャフト16およびアイドルシャフト66間の軸間を小さくし、V型エンジンの小型化に寄与することができる。
【0076】
またプライマリドライブギヤ41を噛合せしめるプライマリドリブンギヤ42が、アイドラドライブギヤ64の外周に対向する位置に配置されてクランクシャフト16および歯車変速機30間に介設されるクラッチ34に連結されるので、クランクシャフト16およびクラッチ34をクランクシャフト16側に近接配置することを可能とし、クラッチ34の軸線およびクランクシャフト16の軸間距離を小さくしてV型エンジンの小型化により一層寄与することができる。
【0077】
また第1バンク23A側の第1バンク側駆動スプロケット61A、吸気側従動スプロケット59A、排気側従動スプロケット60Aおよびカムチェーン62Aと、第1バンク23AとともV型をなす第2バンク23B側の第2バンク側駆動スプロケット61B、吸気側従動スプロケット59B、排気側従動スプロケット60Bおよびカムチェーン62bとが、クランクシャフト16の軸方向一端側で相互に隣接して配設され、第1および第2バンク側駆動スプロケット61A,61Bが、それらの駆動スプロケット61A,61Bに共通な単一のアイドルギヤ65に一体に形成されているので、クランクシャフト16の軸線に沿う方向でV型エンジンの小型化に寄与することができ、しかもエンジン部品点数の低減を図ることができる。
【0078】
さらに偏心軸部66aを有するアイドルシャフト66が、偏心軸部66aの軸線からオフセットした軸線まわりの位置を調整可能としてクランクケース17に支持され、アイドルギヤ65がニードルベアリング67…を介して偏心軸部66aに回転自在に支承されているので、アイドルギヤ65の回転軸線を調整してアイドラドライブギヤ64およびアイドルギヤ65間のバックラッシを低減することを可能としつつ、第1および第2バンク側駆動スプロケット61A,61Bおよびアイドルギヤ65の大径化を防止して、アイドルシャフト66およびクランクシャフト16間の軸間距離をより一層小さくすることができる。
【0079】
また第1および第2バンク23A,23Bにおいて、カムチェーン62A,62Bに摺接されるチェーンテンショナ81A,81Bには、カムチェーン62A,62Bに張りを与えるようにしてそれらのカムチェーン62A,62Bと反対側からテンショナリフタ83A,83Bが当接され、それらのテンショナリフタ83A,83Bは第1および第2バンク23A,23Bにおける第1および第2シリンダヘッド19A,19Bに設けられるのであるが、両テンショナリフタ83A,83Bの一方、この実施例では両バンク23A,23Bのうち自動二輪車の進行方向前方側である第1バンク23Aのテンショナリフタ83Aが、両バンク23A,23Bの外側に対応する部分で第1シリンダヘッド19Aに設けられ、他方のテンショナリフタ23Bが、両バンク23A,23Bの内側に対応する部分で第2シリンダヘッド19Bに設けられ、第1シリンダヘッド19Aの上端結合面22Aから一方のテンショナリフタ83Aまでの距離LAが、第2シリンダヘッド19Bの上端結合面22Bから他方のテンショナリフタ83Bまでの距離LBよりも小さく設定されている。
【0080】
したがって両バンク23A,23Bの内側に対応する部分で第2シリンダヘッド19Bに設けられるテンショナリフタ83Bを極力下方位置に配置して、両バンク23A,23B間でのデッドスペースを極力小さくすることができる。
【0081】
また第2シリンダヘッド19Bからの前記他方のテンショナリフタ83Bの突出部が、第2シリンダヘッド19Bの上端結合面22Bに近づくように傾斜して配置されるので、両バンク23A,23B間でのデッドスペースをより一層小さくすることができるとともに、テンショナリフタ83Bの第2シリンダヘッド19Bへの上方からの取付けを容易とし、取付け性を高めることができる。
【0082】
さらに第1シリンダヘッド19Aからの前記一方のテンショナリフタ83Aの突出部が、第1シリンダヘッド19Aの上端結合面22Aから遠ざかるように傾斜して配置されるので、両バンク23A,23Bの外側に配置されるテンショナリフタ83Aの第1シリンダヘッド19Aからの突出を抑えてエンジンの小型化に寄与することができるとともに、エンジンの周囲に配置される補機の配置スペースを確保することができる。
【0083】
またクランクケース17の下部に、エンジン本体15の各部に供給するためのオイルを貯留するオイルパン25が設けられており、このオイルパン25内に配設されるオイルストレーナ107のケーシング108の上端部がクランクケース17側に支持されており、下部が漏斗状に形成されるケーシング108の下端に吸い込み口110が形成されているが、オイルストレーナ107のケーシング108の下部側面に、上下に長い板状の複数のストレーナ支持部112…が一体に形成され、各ストレーナ支持部112…がオイルパン25の底部に当接、支持されている。
【0084】
したがって各ストレーナ支持部112…で、補強リブの機能を果たすようにしてケーシング108の下部の強度を高めることが可能となり、しかもオイルストレーナ107の上端部を支持するクランクケース17側の支持強度を特に高めることを不要としてオイルストレーナ107の支持強度を高めることが可能であり、エンジンの大型化、重量増大および部品点数の増加を回避しつつオイルストレーナ107を強固に支持することができる。しかも各ストレーナ支持部112…が、オイルパン25内でのオイルの移動を規制する仕切り壁の機能も果たすので、オイルストレーナ107以外に仕切り壁をオイルパン25内に配設することを不要とし、これによっても部品点数を低減することができる。
【0085】
また各ストレーナ支持部112…が、下方に向かうにつれてケーシング108からの突出量を大とするように形成されているので、吸い込み口110の近傍でオイルの流れを効果的に整流し、吸い込み口110へのオイルの吸い込み抵抗を小さく抑えて吸い込み効率の向上を図ることができる。
【0086】
しかもストレーナ支持部112…が、自動二輪車の前後方向および左右方向にそれぞれ一対ずつ配置されるので、自動二輪車の車両の急加速や急減速に伴うオイルパン25内でのオイルの移動、ならびに自動二輪車の左右方向の動きに伴うオイルパン25内でのオイルの移動を、ストレーナ支持部112…で効果的に規制することができる。
【0087】
さらに自動二輪車の進行方向から見てオイルパン25が下部を狭めた略V字状に形成されるので、下部を狭めた略V字状のオイルパン25の左右両側壁とオイルストレーナ107との間で、自動二輪車の急加速や急減速に伴ってオイルが前後に移動するのを効果的に防止することができる。
【0088】
以上、本発明の実施例を説明したが、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明を逸脱することなく種々の設計変更を行うことが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0089】
【図1】V型エンジンの一部切欠き側面図である。
【図2】図1の2−2線断面図である。
【図3】図2の3−3線断面図である。
【図4】図2の4−4線断面図である。
【図5】図1の5矢視図である。
【図6】図2の要部拡大図である。
【図7】図6の7−7線拡大断面図である。
【図8】シャフトホルダおよび規制板の分解斜視図である。
【図9】図1の9−9線拡大断面図である。
【図10】図1の10−10線拡大断面図である。
【図11】フィードポンプによるオイルの流れを示すために図1と同一方向から見たエンジン本体の縦断面図である。
【図12】スカベンジングポンプによるオイルの流れを示すための図11に対応したエンジン本体の縦断面図である。
【符号の説明】
【0090】
16・・・クランクシャフト
17・・・クランクケース
19A,19B・・・シリンダヘッド
22A,22B・・・シリンダヘッドの上端結合面
23A・・・第1バンク
23B・・・第2バンク
56A,56B,58A,58B・・・カムシャフト
62A,62B・・・カムチェーン
81A,81B・・・チェーンテンショナ
83A,83B・・・テンショナリフタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クランクシャフト(16)を回転自在に支承するクランクケース(17)に連設されて相互にV型をなす第1および第2バンク(23A,23B)のシリンダヘッド(19A,19B)にカムシャフト(56A,56B,58A,58B)がそれぞれ回転自在に支承され、前記両カムシャフト(56A,56B,58A,58B)に前記クランクシャフト(16)からの動力を個別に伝達するカムチェーン(62A,62B)にチェーンテンショナ(81A,81B)がそれぞれ摺接され、前記各カムチェーン(62A,62B)に張りを与えるようにして前記両チェーンテンショナ(81A,81B)に前記カムチェーン(62A,62B)と反対側から当接するテンショナリフタ(83A,83B)が、前記両バンク(23A,23B)のシリンダヘッド(19A,19B)にそれぞれ設けられるV型エンジンにおいて、前記両テンショナリフタ(83A,83B)の一方(83A)が、前記両バンク(23A,23B)の外側に対応する部分で第1バンク(23A)のシリンダヘッド(19A)に設けられ、他方のテンショナリフタ(83B)が、前記両バンク(23A,23B)の内側に対応する部分で第2バンク(23B)のシリンダヘッド(19B)に設けられ、第1バンク(23A)のシリンダヘッド(19A)の上端結合面(22A)から前記一方のテンショナリフタ(83A)までの距離が、第2バンク(23B)のシリンダヘッド(19B)の上端結合面(22B)から前記他方のテンショナリフタ(83B)までの距離よりも小さく設定されることを特徴とするV型エンジンのテンショナリフタ取付け構造。
【請求項2】
第2バンク(23B)のシリンダヘッド(19B)からの前記他方のテンショナリフタ(83B)の突出部が、外方に向かうにつれて当該シリンダヘッド(19B)の上端結合面(22B)に近づくように傾斜して配置されることを特徴とする請求項1記載のV型エンジンのテンショナリフタ取付け構造。
【請求項3】
第1バンク(23A)のシリンダヘッド(19A)からの前記一方のテンショナリフタ(83A)の突出部が、外方に向かうにつれて当該シリンダヘッド(19A)の上端結合面(22A)から遠ざかるように傾斜して配置されることを特徴とする請求項1または2記載のV型エンジンのテンショナリフタ取付け構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2006−177237(P2006−177237A)
【公開日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−370736(P2004−370736)
【出願日】平成16年12月22日(2004.12.22)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】