説明

VOC処理装置およびVOC処理装置用のカートリッジ

【課題】 排ガス中のVOCの捕集性が高く、かつマイクロ波によるVOCの分解処理の効率が高いVOC処理装置およびVOC処理装置用のカートリッジを提供する。
【解決手段】 排ガスに含まれるVOCを捕集し、高周波の照射によりVOCを分解して処理するVOC処理装置であって、排ガスまたは非酸化ガスのいずれか一方を導入するガス導入部と、ガス導入部に接続され、導電性を有するフェルト状繊維層とVOCを吸着する吸着材を含み通気性を有する吸着材層とを交互に積層して形成される積層体を、高周波を透過する容器に収納して形成され、ガス導入部により導入される排ガスに含まれるVOCを吸着する吸着部と、高周波を発生させ、発生させた高周波を吸着部まで導き、吸着部に照射する高周波照射部と、吸着部に接続され、吸着部内の処理済ガスを排出するガス排出部と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排ガスに含まれるVOCを捕集し、高周波の照射によりVOCを分解して処理するVOC処理装置、およびVOC処理装置用のカートリッジに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、排ガスの流通経路上に設けられた活性炭等により有害物質を吸着し、吸着された有害物質をマイクロ波照射で分解して排ガスを処理する装置が知られている。
【0003】
たとえば、特許文献1に記載される排ガスの処理装置は、活性炭素材を有する活性炭処理塔と、活性炭に対して加熱水蒸気を送り込むボイラーと、マイクロ波によりプラズマを発生させるマイクロ波プラズマ装置とを備えている。排ガスの処理装置は、排ガスを活性炭処理塔に導入し、排ガス中の揮発性有機物質を活性炭素材に吸着させ、一定期間後、ボイラーから供給された加熱水蒸気で活性炭素材から揮発性有機物質を脱離させる。そして、生じた揮発性有機物質と加熱水蒸気を含む気体をマイクロ波プラズマ装置で分解処理することにより、排ガスを処理している。
【0004】
また、特許文献2に記載される排気ガス浄化装置は、フィルタ部材と、マイクロ波発生装置を備えた再生装置とで形成されており、マイクロ波を導波管により導いて、フィルタ部材の限定された一部分に照射するように構成されている。照射により、NOx吸収材と触媒とフィルタ部材は再生される。フィルタ部材は、分割されたハニカム部材およびこれに挟まれた緩衝材により構成され、フィルタ部材には経時的に変化するように照射が行なわれる。このようにして、排気ガス中のNOxおよび粒子状物質を浄化するとともに、マイクロ波発生装置の発振器とその電源を小型化している。
【特許文献1】特開2001−149754号公報
【特許文献2】特開2002−349229号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記のような装置では、排ガス中の有害物質を吸収する機能を向上させるためハニカム部材や活性炭が用いられているが、吸着された物質をマイクロ波照射により分解して処理する機能は向上されておらず、排ガスの処理効率が十分ではない。
【0006】
たとえば、特許文献1の処理装置では、加熱水蒸気によって活性炭から揮発性有機物質を脱離する工程を経て、マイクロ波を照射するため、工程が多くなり効率が低くなる。また、加熱水蒸気による揮発性有機物質の脱離が不十分になる場合もある。また、特許文献2の排気ガス浄化装置は、マイクロ波を照射するフィルタ部材を、ハニカム部材に緩衝材を挟む構造としているが、これは熱膨張による破壊を防ぐためである。フィルタ部材は、排ガス中の有害物質を吸着しやすいように、ハニカム部材が用いられているが、マイクロ波の照射により吸着した物質を分解しやすい構造とはなっていない。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、排ガス中のVOCの捕集性が高く、かつマイクロ波によるVOCの分解処理の効率が高いVOC処理装置およびVOC処理装置用のカートリッジを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)上記の目的を達成するため、本発明に係るVOC処理装置は、排ガスに含まれるVOCを捕集し、高周波の照射によりVOCを分解して処理するVOC処理装置であって、排ガスまたは非酸化ガスのいずれか一方を導入するガス導入部と、前記ガス導入部に接続され、導電性を有するフェルト状繊維層とVOCを吸着する吸着材を含み通気性を有する吸着材層とを交互に積層して形成される積層体を、高周波を透過する容器に収納して形成され、前記ガス導入部により導入される排ガスに含まれるVOCを吸着する吸着部と、高周波を発生させ、前記発生させた高周波を前記吸着部まで導き、前記吸着部に照射する高周波照射部と、前記吸着部に接続され、前記吸着部内の処理済ガスを排出するガス排出部と、を備えることを特徴としている。
【0009】
このように、本発明のVOC処理装置は、吸着部が導電性を有するフェルト状繊維層とVOCを吸着する吸着材を含み通気性を有する吸着材層とを交互に積層して形成される積層体の構造を有しており、この積層体にVOCを吸着する。これにより、高周波を照射したときにコロナ放電がフェルト状繊維層間に生じやすくなり、放電によるVOCの分解が促進される。その結果、VOCの処理効率を向上させることができる。
【0010】
(2)また、本発明に係るVOC処理装置において、前記吸着材層に含まれる吸着材は、絶縁体であることを特徴としている。
【0011】
これにより、マイクロ波を照射しているときのフェルト状繊維層間の短絡が防止され、放電が生じやすくなり、放電によるVOCの分解を促進することができる。
【0012】
(3)また、本発明に係るVOC処理装置において、前記吸着材層に含まれる吸着材は、炭素、ゼオライト、アルミナ、シリカアルミナ、シリカチタニア、ジルコニア、炭化ケイ素、窒化ケイ素活性炭、シリカ、コーディエライト、アルミナジルコニア、またはアルミナ、シリカアルミナ、シリカチタニアおよびジルコニアを含む複合酸化物を含むことを特徴としている。
【0013】
このように、本発明のVOC処理装置は、吸着材としてVOCの吸着に優れた絶縁材料を用いている。これにより、VOCの吸着の効率が高くなり、結果としてVOCの処理効率を向上させることができる。
【0014】
(4)また、本発明に係るVOC処理装置において、前記吸着材層に含まれる吸着材は、導電体であって、前記フェルト状繊維層と前記吸着材層との層間には、前記吸着材による短絡を防止するためのスペーサーを更に備えることを特徴としている。
【0015】
このように、本発明のVOC処理装置は、導電性を有する吸着材に対してスペーサーをフェルト状繊維層との間に挟むことにより、短絡を防止し放電を生じさせやすくすることにより、放電によるVOCの分解を促進することができる。
【0016】
(5)また、本発明に係るVOC処理装置において、前記吸着材層に含まれる吸着材は、多孔質Ni−Cr、アルミナSUS、またはFe−Niを含むことを特徴としている。
【0017】
このように、本発明のVOC処理装置は、吸着材としてVOCの吸着に優れた導電性材料を用いている。これにより、VOCの吸着の効率が高くなり、結果としてVOCの処理効率を向上させることができる。
【0018】
(6)また、本発明に係るVOC処理装置において、前記フェルト状繊維層の各々の層間の距離は、1mm以上8mm以下であることを特徴としている。
【0019】
このようにフェルト状繊維層の各々の層間の距離は、高周波の照射で短絡が生じない程度に大きく、放電が発生する程度に小さい適当な範囲内に維持される。これにより、マイクロ波の照射で放電によるVOCの分解が促進され、VOC処理の効率を高くすることができる。
【0020】
(7)また、本発明に係るVOC処理装置は、前記ガス導入部に設けられ、排ガスの導入と非酸化ガスの導入とを切り換えるガス切換部と、前記ガス排出部に設けられ、前記処理済ガスのVOCの含有量を計測するVOCセンサと、前記VOCセンサに接続され、前記VOCセンサが計測したVOCの含有量の計測値が所定値以上であるか否かを判定する判定部と、前記ガス切換部および前記高周波照射部に接続され、前記ガス切換部および前記高周波照射部を制御する制御部と、を更に備え、前記制御部は、前記VOCセンサが計測したVOCの含有量の計測値が所定値以上となったときには、所定時間にわたり、非酸化ガスを導入するとともに、高周波を照射することを特徴としている。
【0021】
これにより、自動かつ適切なタイミングで、VOCの吸着工程とVOCの分解工程とを交互に行なうことができ、VOC処理の効率を向上させることができる。また、将来的に大気中へのVOC排出濃度を制限された場合には、排出濃度の管理を行なうことを可能にする。
【0022】
(8)また、本発明に係るVOC処理装置用のカートリッジは、上記のVOC処理装置用のカートリッジであって、高周波を透過する材料により、前記VOC処理装置に着脱可能に形成される容器と、前記容器に収納され、導電性を有するフェルト状繊維層とVOCを吸着する吸着材を含み通気性を有する吸着材層とを交互に積層して形成される積層体と、を備えることを特徴としている。
【0023】
これにより、吸着部のVOCの吸着性が劣化したときには、カートリッジを交換することにより簡易に吸着部の交換を行なうことができる。その結果、吸着部交換の作業効率を向上させることができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明に係るVOC処理装置によれば、吸着部が導電性を有するフェルト状繊維層とVOCを吸着する吸着材を含み通気性を有する吸着材層とを交互に積層して形成される積層体の構造を有しており、この積層体にVOCを吸着する。これにより、高周波を照射したときにコロナ放電がフェルト状繊維層間に生じやすくなり、放電によるVOCの分解が促進される。その結果、VOCの処理効率を向上させることができる。
【0025】
本発明に係るVOC処理装置用のカートリッジによれば、吸着部のVOCの吸着性が劣化したときには、カートリッジを交換することにより簡易に吸着部の交換を行なうことができる。その結果、吸着部交換の作業効率を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下に、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。また、説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては同一の参照番号を付し、重複する説明は省略する。
【0027】
(実施形態1)
図1は、VOC処理装置1の平面図である。VOC処理装置1は、ガス導入部10、カートリッジ20(吸着部)、ガス排出部30、VOCセンサ37、マイクロ波照射部40(高周波照射部)、およびコントロールユニット50から構成されており、ガス導入部10から導入された排ガス中のVOCをカートリッジ20に吸着させ、マイクロ波照射部40からマイクロ波をカートリッジ20に照射して、吸着されたVOCを分解し処理する装置である。VOC(Volatile Organic Compounds)とは、揮発性有機化合物の略称で、アルカン類、芳香族炭化水素、テルペン類、ハロカーボン類、エステル類、アルデヒド・ケトン類等の揮発性有機化合物の総称である。VOCには、ベンゼン、トルエン、キシレン、メタン、エタン、ブタン、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘキセン、イソプロピルアルコール、メタノール、アセトン、メチルエチルケトン、ギ酸、酢酸、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、エチルアセテート、ブチルアセテート、トリクロロエチレン、1,1,1−トリクロロエタン、テトラクロロエチレン、四塩化炭素、1,1,2−トリクロロエタン、1,2−ジクロロエタン、フレオン−12(CFC−12)、フレオン−113(CFC−113)、臭化メチル、ジメチルスルフィド、メルカプタン、アンモニアが含まれる。また、これ以外にも有機ハロゲン化物質、臭気物質を含むが、これらに限定されるものではない。
【0028】
図1に示すように、ガス導入部10は、排ガス導入管11、排ガス用バルブ12、窒素ガス導入管13、窒素ガス用バルブ14、ガス流通管16、継ぎ手管17、および継ぎ手部材18から構成されている。ガス切換部15は、排ガス用バルブ12および窒素ガス用バルブ14から構成されている。
【0029】
排ガス導入管11は、排ガスの発生場所まで敷設されており、吸入された排ガスをカートリッジ20まで流通させる。排ガスの発生場所には、たとえば工場や建築の現場等がある。排ガスの発生場所では、吸入用のポンプ等を用いて、排ガスを排ガス導入管11に吸入する。排ガス用バルブ12は、排ガス導入管11に設けられており、開閉することにより排ガスの流通を制御することが可能になっている。排ガス用バルブ12の開閉は電気的に制御される。
【0030】
窒素ガス導入管13は、窒素ガスボンベに接続されており、窒素ガスをカートリッジ20まで供給する。窒素ガス用バルブ14は、窒素ガス導入管13に設けられており、開閉することにより窒素ガスの流通を制御することが可能になっている。窒素ガス用バルブ14の開閉は電気的に制御される。なお、窒素ガス導入管13により導入される窒素ガスは、非酸化ガスとして、マイクロ波照射時の雰囲気に用いられる。非酸化ガスとは、広く酸素を含まないガスをいう。VOC処理装置1に用いられる非酸化ガスは、マイクロ波照射時に吸着材等の酸化を起こさないものであれば、不活性ガス等でもよく、窒素ガスに限定されない。特に、カートリッジ20内部に炭素を材料とする部材がある場合には、酸化により部材が消失するため、マイクロ波照射時に非酸化ガスの雰囲気とする必要性が高い。
【0031】
ガス流通管16、継ぎ手管17および継ぎ手部材18は、排ガス導入管11および窒素ガス導入管13とカートリッジ20とを接続し、排ガスまたは窒素ガスをカートリッジ20に導入する。カートリッジ20は、ガス導入部10とガス排出部30との間に着脱可能に設置され、吸着部として排ガス中に含まれるVOCを吸着する。これにより、カートリッジ20のVOCの吸着性が劣化したときには、カートリッジ20を交換することにより簡易に吸着部の交換を行なうことができる。その結果、吸着部交換の作業効率を向上させることができる。
【0032】
33およびポンプ35から構成されている。継ぎ手部材31および継ぎ手管32は、カートリッジ20とガス排出管33とを接続している。ガス排出管33は、カートリッジ20でVOCを吸着した残りのガスまたは分解処理されたVOCを含む窒素ガスを排出する。ポンプ35は、ガス排出管33に設けられ、ガスの排出を促す。ポンプ35は、その動作を電気的に制御可能となっている。
【0033】
VOCセンサ37は、ガス排出管33に設けられており、排ガス中のVOCの含有量を計測する。VOCセンサ37は、有機物を吸収する高分子薄膜と光学式センシング技術により、VOCをppmレベルで高感度検出するセンサである。VOCセンサ37は、発光ダイオード等の光源と、高屈折率のSi基板上に高分子薄膜をコーティングしたセンサチップと、フォトダイオードを備える光検知器とから、フローセル型に構成されている。高分子薄膜は、大気中のVOC成分と接触すると、これを吸収して膨潤する性質を有しており、VOC成分の含有量に依存してその膜厚と屈折率が変化する。VOCセンサ37は、この高分子薄膜の変化を利用して干渉増幅反射法(IER法)によりVOC含有量を検出する。干渉増幅反射法とは、2つの界面からの反射光の強度が干渉により変化するのを利用して、膜厚を測定する方法である。光検知器のフォトダイオードは、反射光を受光してその強度を測定し、電気信号に変換して出力する。なお、VOCセンサ37としては、上記のセンサ以外にも熱伝導度センサ、電気抵抗式センサ等を用いてもよい。対象となるVOCにより、各センサを使い分けることが好ましい。
【0034】
マイクロ波照射部40(高周波照射部)は、マイクロ波発振器41、インピーダンス整合器42、導波管43および共振容器45から構成されている。マイクロ波発振器41は、高圧電源およびマグネトロンから成る高周波電源を備え、電圧の印加によりマイクロ波を発生させる。インピーダンス整合器42は、共振容器45内でマイクロ波の共振を生じさせるための機器であり、マイクロ波発振器41と導波管43との間に設けられている。なお、マイクロ波発振器41とインピーダンス整合器42との間には、アイソレータを設け、途中で反射して戻ってくるマイクロ波を阻止する構成としてもよい。
【0035】
導波管43は、インピーダンス整合器42と共振容器45とを接続し、発振されたマイクロ波を共振容器45に導入する管である。共振容器45は、カートリッジ20を囲む円筒形状の容器であり、マイクロ波を共鳴させて、カートリッジ20へ効率のよい照射を行なう。なお、高周波照射部として照射する高周波は、マイクロ波に限定されるものではなく、たとえば13.56MHzの高周波であってもよい。
【0036】
コントロールユニット50は、排ガス用バルブ12、窒素ガス用バルブ14、ポンプ35、VOCセンサ37、およびマイクロ波照射部40に接続しており、各部分の制御およびVOC含有量の計測を行なう。また、コントロールユニット50は、操作を受付け、記録や表示も行なう。
【0037】
図2は、共振容器45周辺の内部構造を示す断面図、図3は、カートリッジ20の断面図である。図2に示すように、共振容器45の内部では、カートリッジ20の一方が、継ぎ手部材18により継ぎ手管17に連結されている。カートリッジ20の他方は、継ぎ手部材31により継ぎ手管32に連結されている。図2の構造では、一方で継ぎ手管17およびカートリッジ20が継ぎ手部材18に螺合し、他方で共振容器45および継ぎ手管32が継ぎ手部材31に螺合し、固定されている。図2は、カートリッジ20とガス導入部10およびガス排出部30とを連結しつつ、カートリッジ20を共振容器45の内部に固定する構造の一例を示しているが、各部を連結する構造は、このような構造に限られるわけではない。
【0038】
カートリッジ20は、VOCを吸着する内部の積層体とそれを覆う容器とから構成されている。カートリッジ20の積層体は、炭素のフェルト状繊維層25および活性炭で形成される吸着材層26が交互に積層されて形成されている。このような構造により、高周波を照射したときにコロナ放電がフェルト状繊維層25の間に生じやすくなり、放電によるVOCの分解が促進される。その結果、VOCの処理効率を向上させることができる。
【0039】
フェルト状繊維層25は、炭素繊維で構成されており、導電性を有する。炭素繊維は、いわゆるカーボンフェルトであり、グラファイト構造の炭素が積み重なり長い繊維となったものである。フェルト状繊維層25としては、800℃以上で焼成されたカーボンフェルトが用いられる。これにより、結晶性の高いカーボンフェルトが形成され、カーボンフェルトの導電性が高くなり、マイクロ波照射時に放電が生じやすくなる。なお、焼成温度が高いカーボンフェルトほど、VOCの分解性能が高くなる。したがって、焼成温度が高いカーボンフェルトを用いる場合には、低出力または短時間のマイクロ波であっても、VOC処理装置1は、一定の分解量を達成することができる。ただし、焼成温度が高いカーボンフェルトは高価であるため、2000℃〜2500℃で焼成されたカーボンフェルトを用いるのが好ましい。フェルト状繊維層25の表面積は、大きいほど放電を生じさせるための静電容量が大きくなるため好適である。
【0040】
フェルト状繊維層25の層間の間隔は、1mm以上8mm以下である。このようにフェルト状繊維層25の各々の層間の距離は、高周波の照射で短絡が生じない程度に大きく、放電が発生する程度に小さい適当な範囲内に維持されている。これにより、マイクロ波の照射で放電によるVOCの分解が促進され、VOC処理の効率を高くすることができる。特に、上記の層間の間隔は、1mm以上5mm以下であることが好ましい。なお、フェルト状繊維層25は、スポンジ状であってもよく、炭素以外に金属や導電性セラミックス等の導電体により形成されていてもよい。他の材料の導電性は、800℃以上で焼成されたカーボンフェルトの導電率以上の導電率を有していれば、十分である。
【0041】
吸着材層26は、通気性を有する粒状または粉末状の活性炭により構成されている。この活性炭は、無定形炭素(アモルファス炭素)から形成されており、広範囲にわたる規則的な格子構造を有しておらず、不規則な構造を含んでいる。したがって、活性炭は、導電性を有していない。吸着材層26は、3次元網目状であってもよい。吸着材層26に含まれる吸着材は、炭素(活性炭)以外に、ゼオライト、アルミナ、シリカアルミナ、シリカチタニア、ジルコニア、炭化ケイ素、窒化ケイ素、シリカ、コーディエライト、アルミナジルコニア、またはアルミナ、シリカアルミナ、シリカチタニアおよびジルコニアを含む複合酸化物等の絶縁体であってもよい。このように絶縁体を材料とするため、マイクロ波を照射しているときのフェルト状繊維層25の間の短絡が防止され、放電が生じやすくなり、放電によるVOCの分解を促進することができる。また、上記のように吸着材としてVOCの吸着に優れた絶縁材料を吸着材層26に用いている。これにより、VOCの吸着の効率が高くなり、結果としてVOCの処理効率を向上させることができる。
【0042】
カートリッジ20の容器は、石英製であり、筒状の容器本体23と、その容器本体23の両端を塞ぐ蓋部21および22とから構成されている。石英製とすることにより、マイクロ波の透過率を高くすることができる。容器本体23と蓋部21および22とには、互いに螺合するように溝が形成されており、容器本体23の両端に蓋部21および22をそれぞれ螺合させることで固定されている。蓋部21および22には、それぞれガスを流通させるための流通孔21a、22aが設けられている。また、蓋部22には、継ぎ手部材18に螺合する溝22bが形成されている。なお、容器本体23、蓋部21および22は、高周波を透過するアルミナ等のセラミックスまたはポリ四フッ化エチレン等の樹脂から形成されてもよく、材料は石英に限定されない。
【0043】
図4は、コントロールユニット50の電気的構成を示すブロック図である。コントロールユニット50は、制御部51、判定部52、表示部53、操作部54、記憶部55、および入出力インターフェース56から構成されている。コントロールユニット50は、専用の装置であってもよいが、たとえば汎用のPCであってもよい。コントロールユニット50の動作はプログラムを実行することにより行なわれる。
【0044】
制御部51は、コントロールユニット50の各部を制御する。制御部51は、ポンプ35を制御し、VOC処理装置1の運転開始時には排ガスを導入する。また、制御部51は、判定部52が、計測したVOCの含有量の計測値が所定値以上となったと判定したときには、ガス切換部15を制御し、窒素ガスを導入する。所定値とは、たとえば、排出規制値の80%を示す値である。また、制御部51は、マイクロ波照射部40を制御し、窒素ガスの導入後に所定時間マイクロ波を照射する。所定時間とは、設定により決められた時間であり、たとえば90秒である。このように、コントロールユニット50により自動かつ適切なタイミングで、VOCの吸着工程とVOCの分解工程とを交互に行なうことができ、VOC処理の効率を向上させることができる。また、将来的に大気中へのVOC排出濃度を制限された場合には、排出濃度の管理を行なうことを可能にする。
【0045】
制御部51は、CPUにより構成されている。VOC含有量の所定値およびマイクロ波を照射する所定時間は、操作によりあらかじめ設定される値である。なお、制御部51の解析により適当な値を自動で設定することとしてもよい。また、VOC含有量は、VOC濃度等、VOC含有量から導かれる値であってもよい。
【0046】
判定部52は、入出力インターフェース56を介して信号を受信し、VOCセンサ37が計測したVOCの含有量の計測値が所定値以上であるか否かを判定する。所定値以上である場合には、結果を制御部51に送出する。判定部52は、CPUにより構成されている。
【0047】
表示部53は、液晶ディスプレイにより構成され、装置使用者の操作結果を表示する。また、表示部53は、VOC処理装置1がVOCの吸収工程にあるか、マイクロ波の照射工程にあるかを表示し、VOCセンサ37により計測されたVOC含有量や各部の制御状況を表示する。なお、表示部53は、液晶ディスプレイ以外にCRTディスプレイ、有機ELディスプレイ、LED表示器またはプラズマディスプレイであってもよい。
【0048】
操作部54は、キーボード、ポインティングデバイス、ボタン等により構成され、装置使用者の操作を受付ける。操作には、VOC含有量の所定値やマイクロ波照射の所定時間の設定操作がある。VOC吸収およびマイクロ波照射の工程の切換えは、制御部51により自動で行なわれるが、VOC処理装置1の運転開始および運転終了は、操作部54への操作により行なわれる。
【0049】
記憶部55は、あらかじめ制御部51等を動作させるプログラムを格納し、設定されたVOC含有量の所定値やマイクロ波照射の所定時間を記憶する。VOCセンサ37により計測されたVOC量を記憶し、その他、制御状況や履歴等を記憶する。また記憶部55は、RAM、ROM等のメモリ、ハードディスク等の外部記憶装置により構成される。入出力インターフェース56は、コントロールユニット50とその外部の機器との間で信号や情報の入出力を行なうインターフェースである。
【0050】
次に、上記のように構成されるVOC処理装置1の動作を説明する。図5は、VOC処理装置1の特徴的な動作を示すフローチャートである。
【0051】
まず、コントロールユニット50の操作部54が運転開始の操作を受付けて、VOC処理装置1は、運転を開始する。初期状態では、2つのバルブは両方とも閉じられているものとする。運転を開始すると、制御部51は排ガス用バルブ12を開け、ポンプ35を起動する。このようにして、排ガスをVOC処理装置1に導入する(ステップS1)。同時に、VOCセンサ37を起動し、ガス排出部30において排出されるガスのVOC含有量の計測を始める。
【0052】
次に、制御部51は、終了操作があったか否かを判定する(ステップS2)。終了操作がなかった場合には、判定部52は、VOCセンサ37の計測するVOC濃度が所定値以上か否かを判定する(ステップS3)。所定値未満の場合には、ステップS2に戻る。所定値以上の場合には、制御部51は、排ガス用バルブ12を閉じて、窒素ガス用バルブ14を開ける(ステップS4)。その結果、カートリッジ20には、窒素ガスが流入し、カートリッジ20内部は窒素ガス雰囲気となる。
【0053】
次に、制御部51は、マイクロ波照射部40の制御を行ない、カートリッジ20へのマイクロ波の照射を開始する(ステップS5)。制御部51は、所定時間経過したか否かを判定し(ステップS6)、所定時間経過していないときには、ステップS6に戻る。所定時間を経過しているときには、制御部51はマイクロ波の照射を終了する(ステップS7)。そして、制御部51は、窒素ガス用バルブ14を閉じ、排ガス用バルブ12を開け(ステップS8)、ステップS2に戻る。
【0054】
一方、ステップS2において終了操作があったときには、制御部51は停止制御を行ない、VOC処理装置1は運転を終了する。
【0055】
(実施形態2)
上記の実施形態では、カートリッジ20の吸着材層26は、絶縁体により形成されているが、導電体により形成されていてもよい。ただし、その場合には、隣接するフェルト状繊維層25の間で短絡が生じないように、吸着材層とフェルト状繊維層25との間に絶縁体のスペーサーを挟む必要がある。
【0056】
図6は、導電体の吸着材層62の両側に絶縁体のスペーサー61を設けたカートリッジ20の断面図である。スペーサー61により、フェルト状繊維層25と吸着材層62とが近接せず、短絡が防止されている。このように、導電性を有する吸着材に対してスペーサー61をフェルト状繊維層25との間に挟むことにより、短絡を防止し放電を生じさせやすくしている。その結果、放電によるVOCの分解を促進することができる。
【0057】
吸着材層62は、スポンジ形状等の3次元網目構造を有する。吸着材層62は、たとえば導電性セラミックス、金属触媒、またはリン酸カルシウム等の吸着材により形成される。VOC吸着に特に適した材料として、多孔質Ni−Cr、アルミナSUS、またはFe−Niが挙げられる。このように、吸着材としてVOCの吸着に優れた導電性材料を用いられることにより、VOCの吸着の効率が高くなり、結果としてVOCの処理効率を向上させることができる。スペーサー61は、アルミナまたは石英等によりリング状に形成されている。
【実施例】
【0058】
実際に、VOC処理装置1を作製し、排ガス処理の効率性を検証する実験を行なった。カートリッジ(吸着部)の容器には、内径12mmで、容積50mlのパイレックス(登録商標)のガラスチューブを用いた。各フェルト状繊維層として、カーボンフェルト1g、各吸着材層として粒状活性炭5gを用い、破砕したカーボンフェルトを詰めた後、粒状活性炭を詰めることを繰り返してカートリッジを作製した。
【0059】
実際に、VOC処理装置1を作製し、排ガス処理の効率性を検証する実験を行なった。カートリッジ(吸着部)の容器には、内径12mmで、容積50mlのパイレックス(登録商標)のガラスチューブを用いた。各フェルト状繊維層として、カーボンフェルト1g、各吸着材層として粒状活性炭5gを用い、破砕したカーボンフェルトを詰めた後、粒状活性炭を詰めることを繰り返してカートリッジを作製した。カーボンフェルトにより構成される各層の間隔は、1mmとした。
【0060】
このように構成されたカートリッジに、トルエン200ppm/空気を排ガスとして100ml/minで90分間流しトルエンを吸着させた。最初の20分間は、カートリッジを通過したガスからトルエンは検出されなかった。その後、カートリッジを通過したガスのトルエンの濃度は、徐々に増加して、90分後、約70ppm/空気であった。
【0061】
吸着工程の後、窒素ガスを100ml/minでカートリッジに流すとともに、90秒間、250Wのマイクロ波をカートリッジに照射した。その後、再度トルエン200ppm/空気を排ガスとして100ml/minで流したところ、カートリッジを通過したガスからトルエンは検出されなかった。このように、VOC処理装置1がVOC処理に高い効率性を有することが実証された
なお、以上に示す実施形態では、VOC処理装置は、コントロールユニット50によりVOCの吸収工程とマイクロ波の照射工程とを切り換えるが、切り換えの両方またはいずれか一方を手動で行なってもよい。その場合には、経験や時間管理により切り換えを行なうことができる。さらに、コントロールユニット50を設けずに各部の制御をすべて装置使用者が行なうこととしてもよい。たとえば、90分間、VOCの吸着処理を行なったら、その後90秒間マイクロ波を照射することとしてもよい。
【0062】
また、以上に示す実施形態では、吸着部として着脱可能なカートリッジを用いているが、必ずしも吸着部がカートリッジである必要はない。このように、以上に示す実施形態は一例であり、本発明を限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明に係るVOC処理装置の平面図である。
【図2】共振容器の周辺の断面図である。
【図3】本発明に係るVOC処理装置用のカートリッジの第1の実施形態を示す断面図である。
【図4】コントロールユニットの電気的構成を示すブロック図である。
【図5】本発明に係るVOC処理装置用の動作を示すブロック図である。
【図6】本発明に係るVOC処理装置用のカートリッジの第2の実施形態を示す断面図である。
【符号の説明】
【0064】
1 VOC処理装置
10 ガス導入部
11 排ガス導入管
12 排ガス用バルブ
13 窒素ガス導入管
14 窒素ガス用バルブ
15 ガス切換部
16 ガス流通管
17 継ぎ手管
18 継ぎ手部材
20 カートリッジ
21、22 蓋部
21a、22a 流通孔
22b 溝
23 容器本体
25 フェルト状繊維層
26 吸着材層
30 ガス排出部
31 継ぎ手部材
32 継ぎ手管
33 ガス排出管
35 ポンプ
37 VOCセンサ
40 マイクロ波照射部
41 マイクロ波発振器
42 インピーダンス整合器
43 導波管
45 共振容器
50 コントロールユニット
51 制御部
52 判定部
53 表示部
54 操作部
55 記憶部
56 入出力インターフェース
61 スペーサー
62 吸着材層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
排ガスに含まれるVOCを捕集し、高周波の照射によりVOCを分解して処理するVOC処理装置であって、
排ガスまたは非酸化ガスのいずれか一方を導入するガス導入部と、
前記ガス導入部に接続され、導電性を有するフェルト状繊維層とVOCを吸着する吸着材を含み通気性を有する吸着材層とを交互に積層して形成される積層体を、高周波を透過する容器に収納して形成され、前記ガス導入部により導入される排ガスに含まれるVOCを吸着する吸着部と、
高周波を発生させ、前記発生させた高周波を前記吸着部まで導き、前記吸着部に照射する高周波照射部と、
前記吸着部に接続され、前記吸着部内の処理済ガスを排出するガス排出部と、を備えることを特徴とするVOC処理装置。
【請求項2】
前記吸着材層に含まれる吸着材は、絶縁体であることを特徴とする請求項1記載のVOC処理装置。
【請求項3】
前記吸着材層に含まれる吸着材は、炭素、ゼオライト、アルミナ、シリカアルミナ、シリカチタニア、ジルコニア、炭化ケイ素、窒化ケイ素、シリカ、コーディエライト、アルミナジルコニア、またはアルミナ、シリカアルミナ、シリカチタニアおよびジルコニアを含む複合酸化物を含むことを特徴とする請求項1または請求項2記載のVOC処理装置。
【請求項4】
前記吸着材層に含まれる吸着材は、導電体であって、
前記フェルト状繊維層と前記吸着材層との層間には、前記吸着材による短絡を防止するためのスペーサーを更に備えることを特徴とする請求項1記載のVOC処理装置。
【請求項5】
前記吸着材層に含まれる吸着材は、多孔質Ni−Cr、アルミナSUS、またはFe−Niを含むことを特徴とする請求項4記載のVOC処理装置。
【請求項6】
前記フェルト状繊維層の各々の層間の距離は、1mm以上8mm以下であることを特徴とする請求項1から請求項5記載のいずれかに記載のVOC処理装置。
【請求項7】
前記ガス導入部に設けられ、排ガスの導入と非酸化ガスの導入とを切り換えるガス切換部と、
前記ガス排出部に設けられ、前記処理済ガスのVOCの含有量を計測するVOCセンサと、
前記VOCセンサに接続され、前記VOCセンサが計測したVOCの含有量の計測値が所定値以上であるか否かを判定する判定部と、
前記ガス切換部および前記高周波照射部に接続され、前記ガス切換部および前記高周波照射部を制御する制御部と、を更に備え、
前記制御部は、前記VOCセンサが計測したVOCの含有量の計測値が所定値以上となったときには、所定時間にわたり、非酸化ガスを導入するとともに、高周波を照射することを特徴とする請求項1から請求項6のいずれかに記載のVOC処理装置。
VOC処理装置。
【請求項8】
請求項1記載のVOC処理装置用のカートリッジであって、
高周波を透過する材料により、前記VOC処理装置に着脱可能に形成される容器と、
前記容器に収納され、導電性を有するフェルト状繊維層とVOCを吸着する吸着材を含み通気性を有する吸着材層とを交互に積層して形成される積層体と、を備えることを特徴とするVOC処理装置用のカートリッジ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−54774(P2007−54774A)
【公開日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−245588(P2005−245588)
【出願日】平成17年8月26日(2005.8.26)
【出願人】(591267855)埼玉県 (71)
【出願人】(391005824)株式会社日本セラテック (200)
【Fターム(参考)】