説明

X線回折測定解析方法及びプログラム

【課題】 既知情報及び実測データに基づく特定サテライトピークのフィッティングにより、十分な精度のプロファイル解析が行えるX線回折測定解析方法及びプログラムを実現し、また、一致状態を一般性を失うことなく大局的に見通しよく2次元表示する。
【解決手段】 実測プロファイルから周期Lと平均格子定数aを求め、交互に積層された一方の薄膜の膜厚L1及び格子定数a1の初期値を設定する設定段階と、L、a並びにL1及びa1の初期値から、他方の薄膜の膜厚L2及び格子定数a2の値を算出する変数算出段階と、L、a、L1及びa1の初期値並びにL2、a2の計算値に基づいて解析プロファイルを得る解析プロファイル作成段階と、両プロファイルを比較して一致の度合いを調べる比較段階と、一致の度合いが一致基準を満たすか否かを判定し、満たすときはL1、a1、L2及びa2の値を測定値とし、満たさないときは、L1及びa1の初期値のいずれかを変更して再び変数算出段階に戻る判定段階とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、X線回折測定解析方法及びプログラム、特に異種の薄膜を交互に積層した超格子構造の測定・解析に好適なX線回折測定解析方法及びプログラムに関する。
【0002】
異種の薄膜を交互に積層した超格子構造を有する結晶構造は、通信分野で使用される高出力の半導体レーザの活性層を代表例として多くの用途に適用されている。
【背景技術】
【0003】
近時、薄膜製造に対する要求精度が従前より更に厳しくなる中で、薄膜を測定・解析対象とする場合にX線回折を利用する高精度の測定解析法が多用されてきており、その中でも、異種の薄膜を交互に積層した超格子構造の測定・解析には、いわゆるロッキングカーブ測定・解析が利用されている。
【0004】
ロッキングカーブ測定・解析を行なう従来のX線回折測定解析方法においては、基板に入射するX線の入射角を変化させていくと、その角度が基板結晶やその基板上に交互に積層された超格子構造の薄膜のブラッグ角にそれぞれ一致するところでX線が相互に強め合うように回折・出射することで、回折X線強度が回折角度の変化に応じてその基板及び超格子構造に由来する特定のパターンで変化する。したがって、回折角度を変えて結晶構造情報を含む回折X線強度変化のパターンを測定することで、そのプロファイル解析から超格子構造の異種薄膜の積層周期や膜厚や格子定数等の値を知ることができる。
【0005】
前記測定に際しては、例えばX線源からのX線ビームを試料に照射し、回折X線の強度をX線カウンタでカウントすると、横軸をX線回折角度、縦軸をX線回折強度として表わされるX線の実測プロファイル中に、基板よりの回折X線に由来する基板ピークや、その基板上に積層された超格子構造に由来する複数のサテライトピークが現れる。
【0006】
一方、X線回折現象による上記プロファイルの解析に際しては、基板上に超格子構造を持つ結晶構造体の既知の情報(基板の結晶構造情報や基板及び超格子構造の設計情報)に基づいて、X線のプロファイルを特徴付ける4つの変数をパラメータとして実測プロファイルに対応する解析プロファイルを理論計算で求め、前記4つの変数を変更しながらフィッティング処理を行なって、最終的に実測プロファイルに最も近い一致を見た時点の前記4つの変数を測定値としている。このように、X線回折で測定された実測プロファイルを解析することにより、結晶構造を数値的に把握することができる。
【0007】
より具体的には、例えば、歪量子井戸半導体レーザの活性層を構成する量子井戸層の格子定数及び膜厚、並びにバリア層の格子定数及び膜厚の4つの値をパラメータとして、理論計算で解析プロファイルを求め、その解析プロファイルのパターンが実測プロファイルのパターンと、より良く一致するように理論計算のパラメータを変化させて、両プロファイルのフィッティングを行なう。そして、フィッティングにより最も良く一致する解析プロファイルの4つのパラメータ、すなわち量子井戸層の格子定数及び膜厚並びにバリア層の格子定数及び膜厚を測定値とする。なお、実測プロファイルと解析プロファイルを得る方法は、それぞれ既に確立されており学術界・産業界に広く普及している。
【0008】
一方、上述のフィッティング処理は、対象によって異なるが、例えば最小二乗法近似によるフィッティングが良く知られている。この最小二乗法近似は、実測プロファイルと解析プロファイルの差の二乗誤差が最小になるようにフィッティングを行なうものであり、プロファイルの全角度範囲にわたって両プロファイルの差の二乗値を均等に加算し平方根をとりサンプル数で除算するという単純なアルゴリズムを採用でき、計算機を用いて容易に自動化することができる。また、パラメータの初期値を適切に設定すれば、コンピュータプログラムによって自動的にもっとも良く一致する点を見つけ出すことができるので、比較的広いパラメータ範囲を探索するような場合に適している。
【0009】
しかし、実測プロファイルにはノイズ等が多く含まれており、パターン認識処理も容易ではないので、ソフトウェアにより最も一致した点を見つけ出すために、例えば、実測プロファイルデータに対してスムージング(平滑化)処理を施してノイズを含む実測プロファイルから超格子構造の特徴を示す主要なピーク(例えばサテライトピーク)についてのフィッティングを実行し、次いで、このスムージングを徐々に減らしていきながら、プロファイルの細かい特徴部分についてのフィッティングを行なうという手法が採られている(例えば、特許文献1、非特許文献1参照)。
【特許文献1】特表2002−532703号公報
【非特許文献1】PANalytical社の「Press Releases」、「New X'Pert Epitaxy software from Philips Analytical makes rocking-curve analysis easier than ever」[2004年12月10日検索]、インターネットURL<http://www.panalytical.com/index.cfm?pid=21&itemid=153&contentitemid=12>。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上記従来のX線回折測定解析方法及びプログラムにあっては、最小二乗法近似を用いているため、スムージングによる主要ピークについての第1段階のフィッティングとスムージングを減らしながらの第2段階のフィッティングとを行ったとしても、小さなピークやノイズまでフィッティングの対象としてしまうので、条件次第で本来1つしかない一致点が複数得られてしまうという結果を招きかねないという問題があった。
【0011】
一方、基板の結晶に関する格子定数、並びに超格子構造の各種薄膜の配置、膜厚、格子定数等の設計値は既知であり、更に、実測プロファイルには、基板ピークと共に、超格子構造の平均格子定数に対応する0次のサテライトピークを中心に超格子構造の周期(L)、すなわち、交互に積層される薄膜の膜厚の和に相当する回折角度間隔を隔てて複数の他次数のサテライトピークが複数現れる。すなわち、実測プロファイルの形状的特徴とパラメータの間の特定の関係が明らかになっている。
【0012】
したがって、このように実測プロファイルの形状的特徴と前記4つの変数(パラメータ)の明らかな関係を利用し、4つの変数を2つの独立変数に集約すれば、重要情報を有するプロファイル形状部分(特定のサテライトピーク)のみに着目してフィッティングを行なうことができる。このようにすれば、小ピーク、ノイズ等の微視的プロファイル部分の悪影響を抑えた簡便且つ確実な解析が可能になる。
【0013】
そこで、本発明は、サテライトピーク間にある小さなピークやノイズはフィッティングに用いずに超格子構造を反映する主要サテライトピークについてフィッティングを行ない、既知の情報及び実測データに基づいて選択した特定のサテライトピークのフィッティングによって、必要にして十分な精度の解析が行なえるX線回折測定解析方法及びプログラムを実現することを目的とするものであり、併せて、4パラメータの一致状態を一般性を失うことなく大局的に見通しよく理解できるような2次元表示を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本願の発明者は、解析プロファイルの4つの変数(パラメータ)を変化させて解析プロファイルを実測プロファイルに一致させることに代えて、まず、超格子物理の自然法則から、これら変数の従属関係を明確にすることで、4つの変数を2つの独立変数に集約できるとの知見を得、簡便、正確で局所最適値に陥る危険性のない優れた測定解析方法を創作したものである。また、これにより、2変数による鳥瞰図的な4変数の全体像を大局的に見通しよく表示することも可能となる。
【0015】
すなわち、本発明は、上記目的達成のため、(1)基板上に複数の第1組成薄膜と複数の第2組成薄膜とが交互に積層された超格子構造を有する結晶構造にX線を入射し回折されたX線を検出して得られるX線回折測定情報に基づき、横軸をX線回折角度、縦軸をX線回折強度として表わされ、前記基板よりの回折X線に由来する基板ピーク及び前記積層された超格子構造に由来する複数のサテライトピークを有する実測プロファイルと、4つの変数として前記第1組成薄膜の格子定数及び膜厚並びに前記第2組成薄膜の格子定数及び膜厚を用いたX線回折現象の理論計算により、横軸をX線回折角度、縦軸をX線回折強度として表わされる解析プロファイルとを、前記4つの変数を変化させながら比較し、最も良く一致した状態における前記解析プロファイルの4つの変数を、前記第1組成薄膜の格子定数及び膜厚並びに前記第2組成薄膜の格子定数及び膜厚のそれぞれの測定値とするX線回折測定解析方法において、前記実測プロファイルの中の複数の主要なサテライトピークの間隔から前記超格子構造の周期(L)を求め、且つ前記実測プロファイルの中の超格子構造の平均組成に対応するサテライトピークと前記基板ピークとの間隔から前記超格子構造の平均格子定数(a)を求めるとともに、前記4つの変数のうち前記第1組成薄膜又は前記第2組成薄膜のうち一方の薄膜の膜厚(L1)及び前記第1組成薄膜又は前記第2組成薄膜のうち一方の薄膜の格子定数(a1)の初期値を設定する設定段階と、前記超格子構造の周期(L)と前記超格子構造の平均格子定数(a)と前記一方の薄膜の膜厚(L1)及び格子定数(a1)の初期値とから、前記第1組成薄膜又は前記第2組成薄膜の膜厚のうち他方の薄膜の膜厚(L2)及び格子定数(a2)の値を算出する変数算出段階と、前記超格子構造の周期(L)、前記超格子構造の平均格子定数(a)、前記一方の薄膜の膜厚(L1)及び格子定数(a1)の初期値、並びに前記他方の薄膜の膜厚(L2)及び格子定数(a2)の値に基づいて、前記理論計算により前記解析プロファイルを得る解析プロファイル作成段階と、前記解析プロファイル及び前記実測プロファイルを比較して、両プロファイルの一致の度合いを調べる比較段階と、前記一致の度合いが予め定められた一致基準を満たすか否かを判定し、前記一致の度合いが予め定められた一致基準を満たすときは、そのときの前記一方の薄膜の膜厚(L1)及び格子定数(a1)の設定値並びに前記他方の薄膜の膜厚(L2)及び格子定数(a2)の値を膜厚測定値及び格子定数測定値とし、前記一致の度合いが予め定められた一致基準を満たさないときは、前記一方の薄膜の膜厚(L1)及び格子定数(a1)のうちいずれかの設定値を変更して再び変数算出段階に戻る判定段階と、を含むことを特徴とするものである。
【0016】
本発明の方法では、まず、実測プロファイルから超格子構造の周期(L)と超格子構造の平均格子定数(a)が求められ、これらの値と既知の情報とに基づいて、第1又は第2組成薄膜のうち一方の薄膜の膜厚(L1)及び格子定数(a1)の初期値が4つの変数のうち2つの変数の初期値として設定され(設定段階)、これらの値を基に残りの2つの変数が算出されると(変数算出段階)、それまでに得られた情報に基づいて、理論計算により解析プロファイルが作成される(解析プロファイル作成段階)。そして、その解析プロファイル及び実測プロファイルが比較され(比較段階)、両プロファイルの一致の度合いが一致基準を満たすときには、そのときの4つの変数が測定値とされ、一致の度合いが前記基準を満たさないときには、2つの変数である設定値のいずれかを変更して再び変数算出段階に戻る(判定段階)。したがって、4パラメータの一致状態を一般性を失うことなく2つのパラメータに集約することで、適切な2つの初期値の設定とこれら設定値のいずれか一方又は双方を変更するだけのフィッティング処理を収束計算的に迅速に実行することができ、しかも、所要の測定精度が確保できることになる。
【0017】
この発明の方法においては、(2)前記設定段階において、前記積層された超格子構造に関する設計値情報に基づき、前記実測プロファイルから周期性のある孤立したピークを抽出して前記主要サテライトピークを特定するのが好ましい。これにより、小ピーク、ノイズ等の微視的プロファイル部分の悪影響をより有効に回避でき、しかも、処理を簡単化できることになる。
【0018】
この発明の方法においては、さらに、(3)前記設定段階において、前記実測プロファイルから求めた前記超格子構造の周期(L)及び平均格子定数(a)と、前記一方及び他方の薄膜の膜厚(L1、L2)及び格子定数(a1、a2)の設計値情報とに基づいて、前記一方の薄膜の膜厚(L1)及び格子定数(a1)の初期値を設定するのがよい。実測プロファイルや設計情報等から得られる情報を基に、より得るべき測定値に近い初期値が設定できるからである。
【0019】
また、この発明の方法においては、(4)前記比較段階において、前記複数のサテライトピークのうち前記超格子構造の平均格子定数(a)に対応する0次のサテライトピークについて、前記解析プロファイルを前記縦軸方向及び横軸方向でそれぞれ前記実測プロファイルに合わせ、前記主要サテライトピークのうち他の次数のサテライトピークについて、前記解析プロファイル及び前記実測プロファイルの一致の度合いを調べるのが好ましい。これにより、4つの変数の変化に対する解析プロファイルの変化の特性を考慮して、一致度の比較処理を簡単化できることになる。
【0020】
また、この発明の方法においては、(5)前記判定段階において、前記一方の薄膜の膜厚(L1)及び格子定数(a1)のうちいずれかの設定値を変更して再び変数算出段階に戻る際、前記超格子構造の周期(L)を一定にしつつ前記一方の薄膜の膜厚(L1)の設定値を微調整するのがよい。超格子構造の周期(L)は実測プロファイルから正確に得られるからであり、この周期(L)を固定することで、一致点への収束を早めることができる。
【0021】
この場合、さらに、(6)前記一方の薄膜の膜厚(L1)及び格子定数(a1)のうちいずれかの設定値を変更して再び変数算出段階に戻る際、前記超格子構造の周期(L)を一定にしつつ前記一方の薄膜の膜厚(L1)の設定値を微調整するのに先立って、前記一方の薄膜の格子定数(a1)を微調整するのが望ましい。膜厚(L1)と格子定数(a1)の変化における相関性を考慮して、一致点への収束を早めることができるからである。
【0022】
また、この発明の方法においては、(7)前記判定段階で、前記一方又は他方の薄膜の膜厚(L1又はL2)と前記一方又は他方の薄膜の格子定数(a1又はa2)の値を、該格子定数及び膜厚を縦軸及び横軸とする等高線図様の分布図上の点として記憶しておき、該記憶情報に基づいて前記解析プロファイル及び前記実測プロファイルの一致の度合いを示す分布図を作成するとともに、該分布図上に、前記解析プロファイル及び前記実測プロファイルの一致の度合いが最も高い一致領域と、前記一致の度合いが前記一致領域よりも低く前記一致領域を取り囲むように分布する少なくとも1つの環状分布領域とを視覚的に区別される表示態様で表示し、前記分布図上の点が、該分布図上の前記一致領域及び環状分布領域のうちどの領域に属するかで前記一致の度合いを視覚的に識別可能に表示するのが好ましい。これにより、解析プロファイル及び実測プロファイルの一致の度合いがどの程度かを容易に見て取れることになり、ユーザーの迅速・的確な判断が可能になる。
【0023】
本発明は、また、(8)基板上に複数の第1組成薄膜と複数の第2組成薄膜とが交互に積層された超格子構造を有する結晶構造にX線を入射し回折されたX線を検出して得られるX線回折測定情報に基づき、横軸をX線回折角度、縦軸をX線回折強度として表わされ、前記基板よりの回折X線に由来する基板ピーク及び前記積層された超格子構造に由来する複数のサテライトピークを有する実測プロファイルと、4つの変数として前記第1組成薄膜の格子定数及び膜厚並びに前記第2組成薄膜の格子定数及び膜厚を用いたX線回折現象の理論計算により、横軸をX線回折角度、縦軸をX線回折強度として表わされる解析プロファイルとを、前記4つの変数を変化させながら比較し、最も良く一致した状態における前記解析プロファイルの4つの変数を、前記第1組成薄膜の格子定数及び膜厚並びに前記第2組成薄膜の格子定数及び膜厚のそれぞれの測定値とするX線回折測定解析プログラムであって、コンピュータにより、前記実測プロファイルの中の複数の主要なサテライトピークの間隔から前記超格子構造の周期(L)を求める周期算出手段(11)と、前記実測プロファイルの中の超格子構造の平均組成に対応するサテライトピークと前記基板ピークとの間隔から前記超格子構造の平均格子定数(a)を求める平均格子定数算出手段と、前記4つの変数のうち前記第1組成薄膜又は前記第2組成薄膜のうち一方の薄膜の膜厚(L1)及び前記第1組成薄膜又は前記第2組成薄膜のうち一方の薄膜の格子定数(a1)の初期値を設定する初期値設定手段と、前記超格子構造の周期(L)と前記超格子構造の平均格子定数(a)と前記一方の薄膜の膜厚(L1)及び格子定数(a1)の設定値とから、前記第1組成薄膜又は前記第2組成薄膜の膜厚のうち他方の薄膜の膜厚(L2)及び格子定数(a2)の値をそれぞれ算出する変数算出手段と、前記超格子構造の周期(L)、前記超格子構造の平均格子定数(a)、前記一方の薄膜の膜厚(L1)及び格子定数(a1)の設定値並びに前記他方の薄膜の膜厚(L2)及び格子定数(a2)の値に基づいて、前記理論計算により前記解析プロファイルを作成する解析プロファイル作成手段と、前記解析プロファイル及び前記実測プロファイルを比較して、両プロファイルの一致の度合いを調べる比較手段と、前記一致の度合いが予め定められた一致基準を満たすか否かを判定し、前記一致の度合いが予め定められた一致基準を満たすときは、そのときの前記一方の薄膜の膜厚(L1)及び格子定数(a1)の設定値、並びに前記他方の薄膜の膜厚(L2)及び格子定数(a2)の値を膜厚測定値及び格子定数測定値とし、前記一致の度合いが予め定められた一致基準を満たさないときは、前記一方の薄膜の膜厚(L1)及び格子定数(a1)のうちいずれかの設定値を変更して前記変数算出手段に再度算出を実行させる判定手段と、の機能を実現させることを特徴とするものである。
【0024】
このプログラムにより、4パラメータの一致状態を一般性を失うことなく2つのパラメータに集約することで、適切な2つの初期値の設定とこれら設定値のいずれか一方又は双方を変更するだけのフィッティング処理を収束計算的に迅速に実行することができ、しかも、所要の測定精度が確保できることになる。
【0025】
本発明のプログラムにおいては、(9)前記初期値設定手段が、前記積層された超格子構造に関する設計値情報に基づき、前記実測プロファイルから前記超格子構造の周期(L)に対応する周期性を有する孤立した複数のピークを抽出して前記主要サテライトピークを特定するのがよい。このようにすると、小ピーク、ノイズ等の微視的プロファイル部分の悪影響をより有効に回避でき、しかも、処理を簡単化できることになる。
【0026】
また、この発明のプログラムにおいては、(10)前記初期値設定手段が、前記実測プロファイルから求めた前記超格子構造の周期(L)及び平均格子定数(a)と、前記一方及び他方の薄膜の膜厚(L1、L2)及び格子定数(a1、a2)の設計値情報とに基づいて、前記一方の薄膜の膜厚(L1)及び格子定数(a1)の初期値を設定するのがよい。この構成により、実測プロファイルや設計情報等から得られる情報を基に、より得るべき測定値に近い初期値が設定可能となる。
【0027】
また、この発明のプログラムにおいては、(11)前記比較手段が、前記複数のサテライトピークのうち前記超格子構造の平均格子定数(a)に対応する0次のサテライトピークについて、前記解析プロファイルを前記縦軸方向及び横軸方向でそれぞれ前記実測プロファイルに合わせるシミュレーションを実行し、前記主要サテライトピークのうち他の次数のサテライトピークについて、前記解析プロファイル及び前記実測プロファイルの一致の度合いを調べるのが好ましい。これにより、4つの変数の変化に対する解析プロファイルの変化の特性を考慮して、一致度の比較処理を簡単化できることになる。
【0028】
この発明のプログラムにおいては、さらに、(12)前記判定手段が前記一方の薄膜の膜厚(L1)及び格子定数(a1)のうちいずれかの設定値を変更して前記変数算出手段に再度算出を実行させるとき、前記初期値設定手段が、前記超格子構造の周期(L)を一定にしつつ前記一方の薄膜の膜厚(L1)の設定値を微調整するのがよい。これにより、超格子構造の周期(L)は実測プロファイルから正確に得られるからであり、この周期(L)を固定することで、一致点への収束を早めることが可能となる。
【0029】
この場合、さらに、(13)前記判定手段が前記一方の薄膜の膜厚(L1)及び格子定数(a1)のうちいずれかの設定値を変更して前記変数算出手段に再度算出を実行させるとき、前記初期値設定手段が、前記超格子構造の周期(L)を一定にしつつ前記一方の薄膜の膜厚(L1)の設定値を微調整するのに先立って、前記一方の薄膜の格子定数(a1)を微調整するのが望ましい。これにより、膜厚(L1)と格子定数(a1)の変化における相関性に基づき、一致点への収束を早めることが可能となる。
【0030】
また、この発明のプログラムにおいては、(14)前記コンピュータに、前記一方又は他方の薄膜の膜厚(L1又はL2)と前記一方又は他方の薄膜の格子定数(a1又はa2)の値を、該格子定数及び膜厚を縦軸及び横軸とする等高線図様の分布図上の点として記憶する記憶手段と、該記憶手段の記憶情報に基づいて、前記解析プロファイル及び前記実測プロファイルの一致の度合いを示す分布図の画像情報を生成する分布図作成手段と、の機能を実現させるのがよい。このプログラムにより、複数の測定値の分布を、解析プロファイル及び実測プロファイルの一致の度合いの分布として視覚的に容易に把握可能となる。
【0031】
この場合、さらに、(15)前記分布図作成手段が、前記記憶手段の記憶情報に基づいて、前記解析プロファイル及び前記実測プロファイルの一致の度合いが最も高い一致領域と、前記一致の度合いが前記一致領域よりも低く前記一致領域を取り囲むように分布する少なくとも1つの環状分布領域とを視覚的に区別される表示態様で表示するのが好ましい。これにより、解析プロファイル及び実測プロファイルの一致の度合いがどの程度かを容易に見て取れることになり、ユーザーの迅速・的確な大局的判断が可能になる。
【0032】
本発明のプログラムは、あるいは、(16)基板上に複数の第1組成薄膜と複数の第2組成薄膜とが交互に積層された超格子構造を有する結晶構造にX線を異なる角度で入射したとき測定情報に基づきプロファイル表示される、前記角度に応じて変化する回折X線強度の実測プロファイルと、4つの変数として前記第1組成薄膜の格子定数(a1)及び膜厚(L1)並びに前記第2組成薄膜の格子定数(a2)及び膜厚(L2)を用いた理論計算に基づきプロファイル表示される、前記角度に応じて変化する回折X線強度の解析プロファイルとを、前記解析プロファイルの4つの変数を変化させながら比較し、最も良く一致した状態における前記解析プロファイルの4つの変数を、前記第1組成薄膜の格子定数及び膜厚並びに前記第2組成薄膜の格子定数及び膜厚のそれぞれの測定値とするX線回折測定解析プログラムであって、nを正の整数とするとき、n個の前記角度の値(x,x,・・・x)及び該角度に対応するn個の回折X線強度の測定値(g,g,・・・g)を順次メモリに記憶させる実測データ記憶手段(41)と、前記メモリに記憶されたデータに基づいて前記角度に応じて変化する回折X線強度の実測プロファイルを表示出力可能な所定のプロファイル表示形式で作成する実測プロファイル作成手段(42)と、前記実測プロファイルの中の複数の主要なサテライトピークの間隔から前記超格子構造の周期(L)を求める周期算出手段(47)と、前記実測プロファイルの中に超格子構造の平均組成に対応して現れるサテライトピークと前記実測プロファイルの中に前記基板に由来して現れる基板ピークとの間隔から前記超格子構造の平均格子定数(a)を求める平均格子定数算出手段(47)と、前記第1組成薄膜又は前記第2組成薄膜のうち一方の薄膜の膜厚(L1又はL2)及び前記第1組成薄膜又は前記第2組成薄膜のうち一方の薄膜の格子定数(a1又はa2)の初期値を、前記4つの変数(a1,L1,a2,L2)のうち2つの変数の初期値として設定する初期値設定手段(44)と、前記超格子構造の周期(L)と、前記超格子構造の平均格子定数(a)と、前記一方の薄膜の膜厚(L1)及び格子定数(a1)の設定値とから、前記4つの変数(a1、L1、a2、L2)のうち残りの2つの変数である前記第1組成薄膜又は前記第2組成薄膜の膜厚のうち他方の薄膜の膜厚(L2)及び格子定数(a2)の値をそれぞれ算出する変数算出手段(48)と、前記一方の薄膜の膜厚(L1)及び格子定数(a1)の設定値と、前記変数算出手段(48)で算出された前記他方の薄膜の膜厚(L2)及び格子定数(a2)の値とを、前記4つの変数として、前記複数のサテライトピークのうち次数の異なる特定のサテライトピークに対応する角度範囲を特定する前記nより少ない正の整数であるm個の角度値(x,x,・・・xi+m-1;但し、i、jはそれぞれmより小さい正の整数)について、回折X線強度の値(f,f,・・・fi+m-1)を前記理論計算により算出して前記解析プロファイルを作成する解析プロファイル作成手段(49)と、前記解析プロファイル及び前記実測プロファイルを前記複数のサテライトピークのうち前記次数の異なる特定のサテライトピークにつき比較して、両プロファイルの一致の度合いを調べる比較手段(51)と、前記一致の度合いが予め定められた一致基準を満たすか否かを判定し、前記一致の度合いが予め定められた一致基準を満たすときは、そのときの前記解析プロファイルの4つの変数(a1,L1,a2,L2)を前記一方の薄膜の膜厚及び格子定数並びに前記他方の薄膜の膜厚及び格子定数の測定値として出力し、前記一致の度合いが予め定められた一致基準を満たさないときは、前記一方の薄膜の膜厚(L1)及び格子定数(a1)のうちいずれかの設定値を変更して前記変数算出手段に再度算出を実行させる判定手段(52)と、の機能をコンピュータを使用して実現させることを特徴とするものである。
【0033】
このプログラムにより、4パラメータの一致状態を一般性を失うことなく2つのパラメータに集約することで、適切な2つの初期値の設定とこれら設定値のいずれか一方又は双方を変更するだけのフィッティング処理を収束計算的に迅速に実行することができ、しかも、所要の測定精度が確保できることになる。
【発明の効果】
【0034】
本発明によれば、サテライトピーク間にある小さなピークやノイズはフィッティングに用いることなく、既知の情報及び実測データに基づいて選択した特定のサテライトピークについて、適切な2つの変数の初期値設定とこれら初期値のいずれか一方又は双方を変更するだけのフィッティング処理を収束計算的に迅速に実行するので、超格子構造を反映する主要サテライトピークについて迅速で且つ有効なフィッティングを行ない、必要にして十分な精度の解析が行なえるX線回折測定解析方法及びプログラムを実現することができる。また、4パラメータの一致状態を一般性を失うことなく2つのパラメータに集約することで、一致状態を一般性を失うことなく大局的に見通しよく理解できるような2次元表示を実現することができる。
【0035】
すなわち、本発明は、解析プロファイルの4つの変数の従属関係を明確にすることで、4つの変数を2つの独立変数に集約させ、簡便、正確で局所最適値に陥る危険性のない優れた測定解析方法を創作したものであり、これにより、2変数による鳥瞰図的な4変数の全体像を大局的に見通しよく表示することも可能としたものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
以下、本発明の好ましい実施の形態について、図面を参照して説明する。
【0037】
図1乃至図9は本発明の1つの実施の形態に係るX線回折測定解析方法を実施するための測定解析装置を示す図であり、この装置は本発明のX線回折測定解析プログラムに従って後述する処理を実行する。
【0038】
まず、その構成について説明する。
【0039】
図1及び図2に模式的に示すように、この測定装置では、第1回転台1に支持されたサンプル基板10に対し、X線源20からのX線ビームが照射されるとともに、サンプル基板10で回折したX線を第2回転台2に支持されたX線カウンタ30で検出し、そのX線強度を測定する光学系が構成されている。第1回転台1は、サンプル基板10へのX線ビームの入射角度が変化するよう角速度ωで回転(往復回動)可能であり、第2回転台2は第1回転台1と同一中心軸回りに第1回転台1とは異なる角速度で回転可能である。これら回転台1、2は、それぞれに対応する公知の駆動手段3、4によって回転駆動されるとともに、回転中のサンプル基板10の基板面と入射X線ビームのなす角度θ(視射角)に対して、X線ビームの照射軸線(図1に一点鎖線で示す)に対しX線カウンタ30のX線受光軸線のなす角度が常に角度2θに保たれるように回転制御されるようになっている。すなわち、サンプル基板10に対するX線ビームの入射角変化に対して常に回折出射角方向にX線カウンタ30が配置された状態を保つようになっている。
【0040】
サンプル基板10は、基板上に複数の第1組成薄膜と複数の第2組成薄膜とが交互に積層された超格子構造を有する結晶構造体で、例えばインジウム燐(以下、InPという)基板上に異種のインジウムガリウム砒素燐(InGaAsP)の薄膜を積層したもので、半導体レーザの活性層となるバリア層と量子井戸層の薄膜(例えば60オングストローム程度)を積層した多重量子井戸(MQW)構造を有している。
【0041】
X線源20は、例えばX線管21、湾曲ミラー22及びモノクロメータ23によって構成されており、X線管21で発生したX線束を湾曲ミラー22によってサンプル基板10の測定面上に収束させるとともに、モノクロメータ23によって特定波長域に単色化するようになっている。また、X線カウンタ30は、例えばシンチレーションカウンタで構成されており、回折X線の強度に応じたカウント値を出力するようになっている。
【0042】
図2に示すように、X線源20のX線管21の駆動回路5並びに第1回転台1及び第2回転台2の駆動手段3、4はそれぞれ測定解析制御装置40に接続されており、この測定解析制御装置40によって上述のような測定系の動作制御がなされる。また、X線カウンタ30の信号処理回路31からのカウント情報並びに第1回転台1及び第2回転台2の回転位置検出器6、7の検出情報がそれぞれ測定解析制御装置40に取り込まれるようになっており、測定解析制御装置40はこれら入力情報及び設定・入力部406からの設定入力又は操作入力等に基づいて、所定のX線回折測定解析プログラムを実行し、公知のディスプレイデバイスからなる表示部407に横軸を回折角度(秒単位)とし縦軸を回折X線強度とする回折X線図形を表示出力したり、その表示画像情報を外部に出力したりするようになっている。
【0043】
測定解析制御装置40は、詳細のハードウェア構成を図示しないが、概略、例えばCPU(Central Processing Unit)401、ROM(Read Only Memory)402、RAM(Random Access Memory)403及び入出力インターフェース回路404に加え、ディスクドライブ等の補助記憶装置405を内蔵して構成され得るもので、前記設定・入力部406及び表示部407が付設されている。また、この測定解析制御装置40は、CPU401がROM402及び補助記憶装置405に記憶された制御プログラムに従って、RAM403との間でデータを授受しながら、X線カウンタ30の信号処理回路31からのカウント情報、回転位置検出器6、7の検出情報及び設定・入力部406からの入力情報等に基づいて、回折X線強度や回折角度を把握する演算処理を実行するとともに、図3に機能ブロックで示す各部の機能を発揮するようになっている。
【0044】
図3に示すように、測定解析制御装置40においては、回折X線強度とそのときの回折角度の情報が順次実測データ記憶部41に記憶される。すなわち、上述のようにサンプル基板10に対するX線ビームの入射角度を変化させながら、サンプル基板10の結晶構造にX線を入射し回折されたX線をX線カウンタ30で検出して得られるX線回折測定情報が、実測データ記憶部41に順次記憶される。このとき、具体的には、例えば、n(正の整数)個の角度の値x,x,・・・x及びその角度に対応するn個の回折X線強度の測定値g,g,・・・gを順次メモリに記憶させることになる。
【0045】
実測プロファイル作成部42は、この実測データ記憶部41の記憶データに基づき、横軸をX線回折角度、縦軸をX線回折強度として表わされる実測プロファイル、すなわち実測データから得られる回折X線図を公知の図形化処理によって作成する。この実測プロファイルは、X線回折測定結果として、横軸に角度、縦軸にX線強度をとったグラフで表示され、例えば図4に示すように、その横軸の回折角度が、サンプル基板10のうち基板層の結晶の格子定数に対応した最大の鋭いピーク(基板ピーク)P10を中心に相対角度(秒)で示され、縦軸の回折X線強度が毎秒当たりのカウント数(counts/sec)で示されている。
【0046】
実際の実測プロファイルは、図4に例示するように、サンプル基板10の基板層よりの回折X線に由来する基板ピークP10の他に、そこに積層された超格子構造に由来する複数のサテライトピークP20(0次サテライトピーク)、P21(−1次サテライトピーク)、P22(+1次サテライトピーク)、P23(+2次サテライトピーク)等が超格子における異種薄膜の積層周期Lに対応する角度間隔で現れる。なお、図4中の他のピークは超格子構造に含まれる他の薄膜、例えば半導体レーザの光ガイド層を構成する複数層のインジウムガリウム砒素燐(InGaAsP)の薄膜層(例えば100オングストローム程度)からの回折X線等に基づくものである。
【0047】
サンプル基板10となる超格子構造の設計情報(交互に積層される異種薄膜の積層周期、各層の薄膜の膜厚及び格子情報、配置等)は、設計情報記憶部43に予め設定記憶されている。
【0048】
この設計情報記憶部43の記憶情報は、実測プロファイル作成部からの実測プロファイル情報と共に特定ピーク選択部45に取り込まれ、この特定ピーク選択部45において、積層された超格子構造に関する設計値情報に基づき、実測プロファイル中で前記超格子構造の周期Lに対応する周期性を有する孤立した複数のピークの発生領域が特定される。
【0049】
ここで特定のピークの発生領域を特定する条件は、ピーク特定条件記憶部46に記憶されている。この条件は、例えば超格子を構成する異種の薄膜の格子定数とサンプル基板10の基板層の結晶の格子定数との大小関係、並びに、それに応じて異なるサテライトピークの現れ方の特性に関する情報に基づいて、サテライトピークのうち孤立したサテライトピーク(例えば図4に示すサテライトピークP20、P21のように他の大きなピークとの干渉が少なく独立してピーク波形を形成しているもの)が発生する蓋然性が高い領域を回折角度範囲で特定する条件である。例えば、第1組成薄膜の格子定数が基板層(InP)の格子定数より大きく、第2組成薄膜の格子定数が基板層の格子定数と同等の設計仕様の場合には、通常、孤立したサテライトピークが基板ピークの左側(マイナス側角度域で超格子の積層周期に応じた所定角度範囲の特定領域内)に複数現れ、あるいは、第1組成薄膜の格子定数が基板層(InP)の格子定数と同等で、第2組成薄膜の格子定数が基板層の格子定数より小さい設計仕様の場合には、通常、孤立したサテライトピークが基板ピークの右側(プラス側角度域で超格子の積層周期に応じた所定角度範囲の特定領域内)に複数現れ、あるいはまた、第1組成薄膜の格子定数が基板層(InP)の格子定数より大きく、第2組成薄膜の格子定数が基板層の格子定数より小さい設計仕様の場合には、通常、孤立したサテライトピークが基板ピークの両側にそれぞれ複数現れる。そして、これらの孤立したサテライトピークがフィッティングに有効なサテライトピークとなる一般的傾向がある。このような条件に基づいて、フィッティングに有効な特定サテライトピークの発生領域を判定することができる。
【0050】
また、特定ピーク選択部45で孤立したサテライトピークを抽出する処理は、例えば特定のサテライトピークの発生領域内でのサテライトピークの間隔より十分に狭い所定角度範囲の単位で平均の回折X線強度を求めて各次数のサテライトピークを抽出することができる。この際、サテライトピークの間隔は設計情報に基づいて概ね予測でき、各次数のサテライトピークを特定(角度範囲で特定)するためのサンプリングは比較的少数で足りる。なお、0次や−1次、+1次のサテライトピークが基板ピークや他の層に起因するピークに埋もれている場合は、他の孤立したサテライトピークを使用する。
【0051】
特定ピーク選択部45でこのようにピーク特定条件記憶部46の記憶情報に基づいて特定された主要サテライトピークに関するプロファイル情報は、周期・平均格子定数算出部47に送られ、ここで、第1組成薄膜及び第2組成薄膜の積層周期、すなわち多重量子井戸構造の井戸層及びバリア層からなる超格子の積層周期Lと多重積層された超格子構造の平均格子定数aが算出される。
【0052】
周期・平均格子定数算出部47においては、第1組成薄膜及び第2組成薄膜の積層周期Lが、実測プロファイル中の主要なサテライトピークの角度間隔から、具体的には、例えば特定の次数の異なるサテライトピークP20、P21が現れる回折角度θ、θと、X線の波長とから、次式(1)により直接的に精度良く算出できる。ただし、i、jはそれぞれサテライトピークの次数である。
【0053】
L=(i+j)λ/(2(sinθ−sinθ)) ・・・(1)
ここで、第1組成薄膜及び第2組成薄膜の積層周期Lに対して、第1組成薄膜(たとえば井戸層)の膜厚をL1とし、第2組成薄膜(例えばバリア層)の膜厚をL2とすると、これらは次式(2)で表すことができる。
【0054】
L=L1+L2 ・・・(2)
したがって、2つのパラメータL1、L2には従属関係があり、パラメータとしてのL2を定めると、次式(3)のようにL1が定まり、逆に、L1を定めると自動的にL2が定まる。
【0055】
L1=L−L2 ・・・(3)
周期・平均格子定数算出部47においては、また、実測プロファイル中の複数のサテライトピークのうち、超格子構造の平均組成である平均格子定数aに対応する0次サテライトピークP20が現れる回折角度と、サンプル基板のInP基板層の結晶による基板ピークP10が現れる回折角度との差から、平均格子定数aが精度良く直接的に算出できる。この平均格子定数aは、また、次式(4)で表すことができる。
【0056】
a=(a1・L1+a2・L2)/(L1+L2) ・・・(4)
この(4)式中では、量子井戸層とバリア層の格子定数をそれぞれa1、a2で示しており、パラメータとしてa1を選択すると、次のように表せる。
【0057】
a1=(a・L−a2・L2)/(L−L2) ・・・(5)
このように、周期・平均格子定数算出部47は、複数の主要なサテライトピークの間隔から超格子構造の周期Lを求める周期算出手段の機能と、実測プロファイルの中の超格子構造の平均組成に対応するサテライトピークP20とInP基板に由来して実測プロファイル中に現れる基板ピークP10との間隔から超格子構造の平均格子定数aを求める平均格子定数算出手段の機能と、を併有している。
【0058】
ところで、上記(4)式の右辺の値が全て既知であるとき、すなわち、格子定数a2が定められると、従属関係により、一義的に他の格子定数a1が定まる。勿論、逆も真なりで、格子定数a1を定めると、自動的に格子定数a2が定まる。すなわち、従属関係によって、4つのパラメータが2つのパラメータに集約され得るということができる。
【0059】
そこで、初期値設定/変更部44(初期値設定手段)では、4つのパラメータ(変数)L1、L2、a1、a2のうち、2つのパラメータ、すなわち、第1組成薄膜又は第2組成薄膜のうち一方の薄膜の膜厚L1の初期値と、第1組成薄膜又は第2組成薄膜のうち一方の薄膜の格子定数a1の初期値とを、それぞれ後述するように設定するとともに、その設定値を変更するようになっている。なお、これら膜厚L1の初期値と格子定数a1の初期値がそれぞれ設定されると、上述の従属関係から、第1組成薄膜又は第2組成薄膜のうち他方の薄膜の膜厚L2の初期と、第1組成薄膜又は第2組成薄膜のうち他方の薄膜の格子定数a2は一義的に定まる。
【0060】
また、初期値設定/変更部44は、実測プロファイルから求めた超格子構造の周期L及び平均格子定数aの値と、これらの設計値並びに前記一方及び他方の薄膜の膜厚L1、L2及び格子定数a1、a2の設計値といった設計値情報とに基づいて、周期L及び平均格子定数aの設計値からのずれをも考慮して、前記一方の薄膜の膜厚L1及び格子定数a1の初期値を例えば設計値と同一の相互比率を保つようにそれぞれ設定する。さらに、初期値設定/変更部44は、後述する条件判定部52(判定手段)からの更新指令を受けたとき、設定した初期値を所定の微調整量を単位として順次変更(増加又は減少)させる機能を有している。
【0061】
変数算出部48(変数算出手段)は、初期値設定/変更部44で設定された前記一方の薄膜の膜厚L1及び格子定数a1の各初期値又は変更された膜厚L1及び格子定数a1の各値と、周期・平均格子定数算出部47で算出された超格子構造の周期L及び超格子構造の平均格子定数aの値とに基づいて、上述の(3)、(5)式に示すような条件で、超格子を構成する他方の薄膜の膜厚L2及び格子定数a2をそれぞれ算出する。
【0062】
そして、上述のようにして得られた4つのパラメータ、すなわち、前記一方の薄膜の膜厚L1及び格子定数a1の初期値、並びに、前記他方の薄膜の膜厚L2及び格子定数a2の値は、それぞれ解析プロファイル作成部49に取り込まれ、この解析プロファイル作成部49で、4つパラメータL1、L2、a1、a2に基づいて、これらの値を用いたX線回折現象の理論計算により、横軸をX線回折角度、縦軸をX線回折強度として表わされる解析プロファイルが作成される。そして、このとき、プロファイル作成領域が特定領域に特定されていることから、4つのパラメータL1、L2、a1、a2(変数)に基づき、複数の主要なサテライトピークのうち次数の異なる特定のサテライトピークに対応する角度範囲を特定する前記nより少ない正の整数であるm個の角度値x,x,・・・xi+m-1(但し、i、jはそれぞれmより小さい正の整数)について、回折X線強度の値f,f,・・・fi+m-1を前記理論計算により算出して解析プロファイルを作成することになる。
【0063】
比較部51では、解析プロファイル及び実測プロファイルのデータを実測プロファイル作成部42及び解析プロファイル作成部49からそれぞれ取り込み、両プロファイルを比較して、両プロファイルの一致の度合いを調べる。ここでは、次数の異なる特定のサテライトピークにつき比較して、両プロファイルの一致の度合いを調べるが、この比較は、例えば比較対象のサテライトピーク領域について平均二乗誤差Eを求めることで行われる。この平均二乗誤差Eは。比較対象として選択された特定のサテライトピークの個々のピーク形成角度範囲において、各サンプリング点の実測プロファイルの値、例えばf(i=1、2、・・・n)と解析プロファイルの値gの差(f−g)の二乗値を均等に加算してその平方根をとり、サンプル数nで除算したものである。すなわち、E={(f−g+(f−g+・・・+(f−g1/2/nを比較結果とする。
【0064】
この比較部51での比較結果は、条件判定部52(判定手段)に取り込まれ、この条件判定部52において、各比較対象のサテライトピークについての平均二乗誤差Eが予め設定された許容値以下に達しているか否かが判定される。すなわち、前記一致の度合いが予め定められた一致基準(許容値以下)を満たすか否かを判定し、前記一致の度合いが予め定められた一致基準を満たすときは、そのときの前記一方の薄膜の膜厚L1及び格子定数a1の設定値、並びに前記他方の薄膜の膜厚L2及び格子定数a2の値を、それぞれの膜厚測定値及び格子定数の測定値とする。一方、両プロファイルの一致の度合いが予め定められた一致基準を満たさないときは、前記一方の薄膜の膜厚L1及び格子定数a1のうちいずれか1つの設定値を所定の微調整量単位で初期値設定/変更部44に変更させて、変数算出部48に再度変数の算出を実行させる。また、その結果が再度一致基準を満たさないときは、前記一方の薄膜の膜厚L1及び格子定数a1のうち残りの1つの設定値を所定の微調整量単位で初期値設定/変更部44に変更させて、変数算出部48に再度変数の算出を実行させる。それ以降に、一致基準を満たさないときは、まず、前記一方の薄膜の膜厚L1及び格子定数a1のうちいずれか1つの設定値を所定の微調整量単位で前回の設定値から変更させ、次いで、前記一方の薄膜の膜厚L1及び格子定数a1のうち残りの1つの前回の設定値を所定の微調整量単位で再度変更させて、変数の再算出を実行させることになる。また、このような変数の変更による解析プロファイルの再作成(シミュレーション)を所定回数実行してもなお一致基準を満たさない場合は、当該サンプル基板10を不良と判定する。
【0065】
また、本実施形態においては、条件判定部52は、比較部51と協働して、複数のサテライトピークのうち超格子構造の平均格子定数aに対応する0次のサテライトピーク(ピークの点のみ)について、解析プロファイルを前記縦軸方向及び横軸方向でそれぞれ実測プロファイルに合わせるシミュレーションを最初に実行するようになっており、これらによって、比較手段のシミュレーション処理部が構成されている。
【0066】
そのため、条件判定部52が前記一方の薄膜の膜厚L1及び格子定数a1のうちいずれかの設定値を変更して変数算出部48に再度算出を実行させるとき、初期値設定/変更部44及び変数算出部48は、超格子構造の周期Lを一定にしつつ前記一方の薄膜の膜厚L1の設定値を微調整し、更に、このように超格子構造の周期Lを一定にしつつ前記一方の薄膜の膜厚L1の設定値を微調整するのに先立って、前記一方の薄膜の格子定数a1を微調整するようになっている。
【0067】
また、比較部51で比較対象として選択されるサテライトピークは、初回は0次のサテライトピークとこれとは次数の異なるサテライトピーク(例えばマイナス側の一次サテライトピーク)であり、0次のサテライトピークについての平均二乗誤差Eが所定値以下となるように設定値が変更された後は、次数の異なるサテライトピークのみが比較対象であってもよい。すなわち、比較部51は、0次のサテライトピークについて両プロファイルを一致させるシミュレーション処理の後、主として他の次数のサテライトピークについて、前記一致の度合いを調べる誤差解析部となっている。
【0068】
このように、測定解析制御装置40は、補助記憶装置405に格納されたX線回折測定解析プログラムに従って、解析プロファイルを特定する4つのパラメータを2つに集約させつつ変化させながら実測プロファイルと解析プロファイルを比較し、両プロファイルが最も良く一致した状態における解析プロファイルの4つの変数を、第1、第2組成薄膜の格子定数a1、a2及び膜厚L1、L2のそれぞれの測定値として出力する。
【0069】
また、測定解析制御装置40は、複数のサンプル基板10について上述のような測定解析が繰り返される場合に、条件判定部52により前記一致の度合いが予め定められた一致基準を満たすと判定されたとき、あるいは不良判定がなされたときにも、そのときの前記一方又は他方の薄膜の膜厚L1又はL2と前記一方又は他方の薄膜の格子定数a1又はa2の値を、格子定数及び膜厚を縦軸及び横軸とする一致度分布図、例えば図5に示すような等高線図様の分布図あるいは図6に示しすように一致度に応じて無段階に輝度、又は色及び色濃度が変化する分布図上の点(図5中に丸印で示す)として補助記憶装置405(分布データ記憶手段)に記憶蓄積させていき、複数のサンプル基板10についての測定・解析がなされたとき、その分布データ記憶情報に基づいて、解析プロファイル及び実測プロファイルの一致の度合いの分布画像情報を生成する分布図作成手段の機能と、この分布図作成手段の機能により生成された分布画像情報を表示部407又は外部に出力する出力手段の機能とをそれぞれ有している。
【0070】
図5に一例で示すように、分布図作成手段としての測定解析制御装置40は、補助記憶装置405内の分布データ記憶情報に基づいて、解析プロファイル及び実測プロファイルの一致の度合いが最も高い一致領域101と、前記一致の度合いが一致領域101よりも低く一致領域101を取り囲むように分布する少なくとも1つの環状分布領域、例えば4つの環状分布領域102、103、104とが視覚的に区別可能な表示態様で生成するようになっている。ここで、視覚的に区別可能な表示態様とは、例えば異なる色、濃さ、1つ以上の一致度等高線による表示領域の分割、図示するような塗りつぶし条件の相違(例えば異なる網掛け)であり、図6に示すように、色を一致度が高い内方側から低い外方側へと徐々に変化させ、結果的に内外での一致どの相違が判定できる無段階的な変化の態様であってもよい。なお、図6では多数の分布データの点を個々に視認できるようには図示せず、分布の度合いを示す同色(例えば黄色)同輝度の環状分布領域をグラデーションにより無段階に多数表示しているが、データ自体はこの分布図中の一座標を持つ点として記憶されることになる。また、図5に示すように、一致領域101(図6では最も輝度の高い白い楕円形部分)の中心が解析・実測プロファイルの完全な一致点であり、この点から離れるほどずれが大きいことになる。したがって、一致領域101を取り囲むように分布する4つの環状分布領域102、103、104(図6では白い楕円形部分を囲む外側ほど徐々に黒くなる環状部分)は、両プロファイルが僅かにずれている状態を示す内側の領域102から、両プロファイルが部分的には近いものの他の部分に隙間があるような状態を示す中間の領域103、両プロファイル間に明らかに隙間があるような状態を示す外側の領域104へと順次外側になり、その外方では、両プロファイルが乖離して大きな隙間があるような状態(図6中では濃い黒の部分)となる。
【0071】
なお、本実施の形態においては、一方の薄膜である井戸層の膜厚L1が決まると、他方の薄膜であるバリア層の膜厚L2が一義的に定まるため、図5に示すように、一致度分布図の一方の軸、例えば横軸に2つの薄膜の膜厚を併記している。
【0072】
次に、上述の測定解析装置を用いて実施するX線回折測定解析方法の一実施形態について説明する。
【0073】
図7は、本実施形態の測定解析装置で実行されるX線回折測定解析プログラムの概略の流れを示すフローチャートであり、このプログラムにより本発明の方法を実施することができる。
【0074】
まず、設計情報記憶部43への設計値情報の記憶やピーク特定条件記憶部46への条件入力等の準備を行った後(ステップS10)、測定を実行し(ステップS11)、実測データ記憶部41に実測データを記憶情報として順次格納する(ステップS12)。
【0075】
次いで、実測データ記憶部41の記憶情報に基づいて、実測プロファイル作成部42で実測プロファイルを作成する(ステップS13)。
【0076】
次いで、特定ピーク選択部45でピーク特定条件記憶部46の記憶条件に従って複数のうち孤立した次数の異なる特定のサテライトピークの発生領域を特定し(ステップS14)、周期・平均格子定数算出部47で超格子構造の平均組成に対応するこれら複数のサテライトピーク、例えばサテライトピークP20、P21の間隔から、超格子構造の積層周期Lを求めるともに(ステップS15)、実測プロファイルの中の主要なサテライトピーク、例えば0次のサテライトピークP20と基板ピークP10との間隔から超格子構造の平均格子定数aを求める(ステップS16)。
【0077】
次いで、初期値設定/変更部44で前記4つの変数のうち第1組成薄膜又は第2組成薄膜のうち一方の薄膜の膜厚L1の初期値と、第1組成薄膜又は第2組成薄膜のうち一方の薄膜の格子定数a1の初期値とを、設計情報記憶部43の記憶情報及び周期・平均格子定数算出部47での算出結果L、aに基づいて、それぞれ設定する(ステップS17;設定段階)。この初期値は、実測プロファイルから求めた超格子構造の積層周期Lと平均格子定数aが設計値に近い場合には、設計値と同一の値であるが、実測プロファイルから求めた超格子構造の積層周期Lと平均格子定数aが設計値からずれている場合には、前記微調整量を単位としてそのずれ側に多少加減される。
【0078】
次いで、変数算出部48で、超格子構造の周期Lと、超格子構造の平均格子定数aと、前記一方の薄膜の膜厚L1及び格子定数a1の設定値とから、第2組成薄膜又は第1組成薄膜の膜厚のうち他方の薄膜の膜厚L2及び格子定数a2の値をそれぞれ算出する(ステップS18;変数算出段階)。
【0079】
次いで、解析プロファイル作成部49で、超格子構造の周期L、超格子構造の平均格子定数a、前記一方の薄膜の膜厚L1及び格子定数a1の設定値、並びに前記他方の薄膜の膜厚L2及び格子定数a2の値に基づいて、前記理論計算により解析プロファイルを作成する(ステップS19;解析プロファイル作成段階)。
【0080】
次いで、比較部51で、作成された解析プロファイル及び実測プロファイルを比較して、両プロファイルの一致の度合いを調べる(ステップS20;比較段階)。
【0081】
次いで、条件判定部52で、0次のサテライトピークについての一致の度合いが予め定められた一致基準を満たすか否かを判定し(ステップS21)、一致の度合いが予め定められた一致基準を満たすときは、次数の異なるサテライトピーク、例えば−1次サテライトピークについての一致の度合いが予め定められた一致基準を満たすか否かを判定する(ステップS22)。勿論、必要により、2次サテライトピーク(例えば−2次サテライトピーク)についての一致度合いを判定するステップ(ステップS23)があってもよい。
【0082】
ここで一致の度合いが予め定められた一致基準を満たす場合、そのときの前記一方の薄膜の膜厚L1及び格子定数a1の設定値並びに前記他方の薄膜の膜厚L2及び格子定数a2の値をそれぞれの膜厚測定値及び格子定数測定値として測定結果を表示部407に出力する(ステップS24)。
【0083】
一方、前記一致の度合いが予め定められた一致基準を満たさないときは、前記一方の薄膜の膜厚L1及び格子定数a1のうちいずれか1つの設定値を初期値設定/変更部44で変更して(ステップS26)、再び変数算出部48での変数算出段階に戻る(ステップS18)。
【0084】
次いで、解析プロファイルを再度作成し(ステップS19)、複数のサテライトピークのうち超格子構造の平均格子定数aに対応する0次のサテライトピークP20について、比較部51でのチェックを再度実行する(ステップS21)。このように、最初に0次のサテライトピークP20のピーク点について、解析プロファイルを縦軸方向及び横軸方向でそれぞれ実測プロファイルに合わせるように、初期値設定/変更部44での設定値の変更を実行させる。このとき、例えば、最初に0次ピーク強度を調整し、また、特定のサテライトピークP20、P21の角度間隔が解析プロファイルと実測プロファイルで一致していなければ、周期Lを加減してその間隔を近付ける。このような設定値変更は、図8中の左右両側に示すような解析プロファイルの変化をもたらす。すなわち、周期Lを増加させると、同図右側に示すようにサテライトピーク同士が近付き、周期Lを低減させると、同図左側に示すようにサテライトピーク同士が離れる。
【0085】
そして、0次のサテライトピークP20のピーク点について一致基準を満たした場合に、主要サテライトピークのうち他の次数のサテライトピーク、例えば1次サテライトピークP21について、解析プロファイル及び実測プロファイルの一致の度合いを確認し(ステップS22、S23)、一致していなければ、初期値設定/変更部44での設定値の変更を実行させる(ステップS26)。
【0086】
この間、前記一方の薄膜の膜厚L1及び格子定数a1の設定値変更が所定回数に達したか否かを判別し(ステップS25)、所定回数に達した場合には不良と判定し、その判定結果を表示部407に出力する(ステップS27)。
【0087】
また、条件判定部52では、前記一方の薄膜の膜厚L1及び格子定数a1のうちいずれかの設定値を変更して再び変数算出部48での算出を再度実行させる際、超格子構造の周期Lを一定にしつつ前記一方の薄膜の膜厚L1の設定値を微調整する(ステップS26)。さらに、このように超格子構造の周期Lを一定にしつつ前記一方の薄膜の膜厚L1の設定値を微調整するのに先立って、0次のサテライトピークP20のピーク点について一致基準を満たすまで、前記一方の薄膜の格子定数a1を微調整する(ステップS26)。このような設定値変更は、図8中の上下に示すような解析プロファイルの変化をもたらす。すなわち、格子定数を増加させると、同図上側に示すように複数のサテライトピークに接する包絡線ENが同図中の反時計方向に傾き、格子定数を低減させると、同図下側に示すように複数のサテライトピークに接する包絡線ENが同図中の時計方向に傾くように、解析プロファイルが変化する。したがって、格子定数を加減すると、その影響は次数の多いサテライトピークほど強く現れることになる。
【0088】
このような膜厚L1及び格子定数a1一連の設定変更により、解析プロファイルは、図9に実践で模式的に示すように、同図に破線で概形を示す実測プロファイルに対して、同図(a)に示す最初の初期状態段階から、同図(b)に示す0次サテライトピークの一致段階を経て、同図(c)に示すような一致基準を満たす段階へと収束的に変化することになる。
【0089】
一方、測定結果を表示部407に出力するか(ステップS24)、あるいは、不良判定結果を表示部407に出力するか(ステップS27)した場合、条件判定部52で、前記一方又は他方の薄膜の膜厚L1又はL2の値と、前記一方又は他方の薄膜の格子定数a1又はa2の値とを、図5に例示したような格子定数及び膜厚を縦軸及び横軸とする等高線図様の分布図上の点として、補助記憶装置405に記憶しておき(ステップS29)、この記憶情報の蓄積に基づいて解析プロファイル及び実測プロファイルの一致の度合いを示す分布図を後から作成できるようにしておく。
【0090】
そして、分布図の作成を指示する操作入力がなされたか否かをチェックし(ステップS30)、指示された場合には、補助記憶装置405に記憶蓄積された一致度のデータを基に分布図を作成して、その分布図上に、解析プロファイル及び実測プロファイルの一致の度合いが最も高い一致領域101と、一致の度合いが一致領域101よりも低く一致領域101を取り囲むように分布する少なくとも1つの環状分布領域102〜104とを上述したような視覚的に区別可能な表示態様で表示させ、一致度分布図上の点が、その分布図上の一致領域101及び環状分布領域102〜104のうちどの領域に属するかで前記一致の度合いを視覚的に識別可能にする(ステップS32)。
【0091】
また、測定終了を指示する操作入力がなされたか否かをチェックし、指示された場合には、処理を終了する(ステップS33)。また、終了指示がなければ、ステップS11に戻って、次の測定開始のため待機する。
【0092】
このように、本実施形態の回折X線測定解析方法及びプログラムにおいては、実測プロファイルから超格子構造の周期Lと超格子構造の平均格子定数aが求められ、これらの値と既知の情報とに基づいて、第1又は第2組成薄膜のうち一方の薄膜の膜厚L1及び格子定数a1の初期値が4つの変数のうち2つの変数の初期値として設定され、これらの値を基に残りの2つの変数が算出されると、それまでに得られた情報に基づいて、理論計算により解析プロファイルが作成され、その解析プロファイルと実測プロファイルが比較され、その比較結果に応じて、一致の度合いが一致基準を満たすときには、そのときの4つの変数が測定値とされ、基準を満たさないときには、2つの変数である前記初期値のいずれかを変更して再び変数算出段階に戻る。したがって、適切な2つの初期値設定とこれら設定値のいずれか一方又は双方を変更するだけのフィッティング処理を収束計算的に迅速に実行することができ、しかも、所要の測定精度が確保できることになる。
【0093】
また、本実施形態においては、設定段階において、積層された超格子構造に関する設計値情報に基づき、実測プロファイルから周期性のある孤立したピークを抽出して主要サテライトピークを特定するので、小ピーク、ノイズ等の微視的プロファイル部分の悪影響をより有効に回避でき、しかも、処理を簡単化することができる。
【0094】
しかも、前記設定段階において、実測プロファイルから求めた超格子構造の周期L及び平均格子定数aと、前記一方及び他方の薄膜の膜厚L1、L2及び格子定数a1、a2の設計値情報とに基づいて、前記一方の薄膜の膜厚L1及び格子定数a1の初期値を設定するので、実測プロファイルや設計情報等から得られる情報を基に、より得るべき測定値に近い初期値が設定できる。
【0095】
また、本実施形態においては、比較段階において、複数のサテライトピークのうち超格子構造の平均格子定数aに対応する0次のサテライトピークP20について、解析プロファイルを縦軸方向及び横軸方向でそれぞれ実測プロファイルに合わせ、主要サテライトピークのうち他の次数のサテライトピークP21等について、解析プロファイル及び実測プロファイルの一致の度合いを調べるので、4つの変数の変化に対する解析プロファイルの変化の特性を考慮して、一致度の比較処理を簡単化することができる。
【0096】
また、判定段階において、一方の薄膜の膜厚L1及び格子定数a1のうちいずれかの設定値を変更して再び変数算出段階に戻る際、超格子構造の周期Lを一定にしつつ前記一方の薄膜の膜厚L1の設定値を微調整するので、実測プロファイルから正確に得られる周期Lを固定することで、一致点への収束を早めることができる。
【0097】
さらに、前記一方の薄膜の膜厚L1及び格子定数a1のうちいずれかの設定値を変更して再び変数算出段階に戻る際、超格子構造の周期Lを一定にしつつ膜厚L1の設定値を微調整するのに先立って、前記一方の薄膜の格子定数a1を微調整するので、膜厚L1と格子定数a1の変化における相関性を考慮して、一致点への収束を早めることができる。
【0098】
また、本実施形態においては、前記判定段階で、一方又は他方の薄膜の膜厚値L1又はL2と、一方又は他方の薄膜の格子定数値a1又はa2とを、格子定数及び膜厚を縦軸及び横軸とする等高線図様の分布図上の点として記憶しておき、その記憶情報に基づいて解析プロファイル及び実測プロファイルの一致の度合いを示す分布図を作成するとともに、その分布図上に、解析プロファイル及び実測プロファイルの一致の度合いが最も高い一致領域101と、一致の度合いが一致領域101よりも低く一致領域101を取り囲むように分布する環状分布領域102〜104とを視覚的に区別される表示態様で表示し、分布図上の点が、その分布図上の一致領域101及び環状分布領域102〜104のうちどの領域に属するかで一致の度合いを視覚的に識別可能に表示するので、解析プロファイル及び実測プロファイルの一致の度合いがどの程度かを容易に見て取れることになり、ユーザーの迅速・的確な大局的判断が可能になる。
【0099】
なお、上述の実施形態においては、異種の薄膜を交互に積層した超格子構造を有する結晶構造として、通信分野で使用される高出力の半導体レーザの活性層を例としていたが、半導体レーザ以外の異種の薄膜を交互に積層した他の超格子構造にも適用できることはいうまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0100】
本発明は、以上説明したように、サテライトピーク間にある小さなピークやノイズはフィッティングに用いることなく、既知の情報及び実測データに基づいて選択した特定のサテライトピークについて、適切な2つの変数の設定値設定とこれら初期値のいずれか一方又は双方を変更するだけのフィッティング処理を収束計算的に迅速に実行するので、超格子構造を反映する主要サテライトピークについて迅速で且つ有効なフィッティングを行ない、必要にして十分な精度の解析が行なえるX線回折測定解析方法及びプログラムを実現することができ、さらに、一致度の分布表示による大局的判断を可能にできるX線回折測定解析方法及びプログラムを実現できるという効果を奏するものであり、異種の薄膜を交互に積層した超格子構造の測定・解析に用いるX線回折測定解析方法及びプログラム全般に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0101】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る回折X線測定解析方法を実施する装置の測定系の概略構成図である。
【図2】本発明の第1の実施の形態に係る回折X線測定解析方法を実施する装置の全体の概略構成図である。
【図3】本発明の第1の実施の形態に係る回折X線測定解析方法を実施する装置の制御装置の要部機能ブロック図である。
【図4】本発明の第1の実施の形態に係る回折X線測定解析方法で作成される解析・実測プロファイルの一例を例示する回折X線のプロファイル図で、縦軸は回折X線強度を、横軸は回折角度をそれぞれ示している。
【図5】本発明の第1の実施の形態に係る回折X線測定解析方法で作成される解析・実測プロファイルの一致度分布図で、縦軸は一方又は他方の薄膜の格子定数を、横軸はその薄膜の膜厚としている。
【図6】本発明の第1の実施の形態に係る回折X線測定解析方法で作成される解析・実測プロファイルの異なる態様の一致度分布図で、縦軸は一方又は他方の薄膜の格子定数を、横軸はその薄膜の膜厚としている。
【図7】本発明の第1の実施の形態に係るX線回折測定解析プログラムの概略の流れを示すフローチャートである。
【図8】本発明の第1の実施の形態に係る回折X線測定解析方法で行われるパラメータ変更とそれによる解析プロファイルの変化の関係を説明する説明図である。
【図9】本発明の第1の実施の形態に係る回折X線測定解析方法で行われるフィッティング処理とそれにより解析プロファイルが実測プロファイルに近付く状態を説明する説明図である。
【符号の説明】
【0102】
1 第1回転台
2 第2回転台
3、4 駆動手段
6、7 回転位置検出器
10 サンプル基板(基板)
20 X線源
21 X線管
22 湾曲ミラー
23 モノクロメータ
30 X線カウンタ
40 測定解析制御装置(分布図作成手段、出力手段)
41 実測データ記憶部(実測データ記憶手段)
42 実測プロファイル作成部(実測プロファイル作成手段)
43 設計情報記憶部(設計情報記憶手段)
45 特定ピーク選択部
46 ピーク特定条件記憶部(特定条件記憶手段)
47 周期・平均格子定数算出部(周期算出手段、平均格子定数算出手段)
48 変数算出部(変数算出手段)
49 解析プロファイル作成部(解析プロファイル作成手段)
51 比較部(シミュレーション処理部、誤差解析部)
52 条件判定部(判定手段、シミュレーション処理部)
101 一致領域
102、103、104 環状分布領域
401 CPU
402 ROM
403 RAM
404 入出力インターフェース回路
405 補助記憶装置(分布データ記憶手段)
406 設定・入力部
407 表示部(出力手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に複数の第1組成薄膜と複数の第2組成薄膜とが交互に積層された超格子構造を有する結晶構造にX線を入射し回折されたX線を検出して得られるX線回折測定情報に基づき、横軸をX線回折角度、縦軸をX線回折強度として表わされ、前記基板よりの回折X線に由来する基板ピーク及び前記積層された超格子構造に由来する複数のサテライトピークを有する実測プロファイルと、
4つの変数として前記第1組成薄膜の格子定数及び膜厚並びに前記第2組成薄膜の格子定数及び膜厚を用いたX線回折現象の理論計算により、横軸をX線回折角度、縦軸をX線回折強度として表わされる解析プロファイルとを、
前記4つの変数を変化させながら比較し、
最も良く一致した状態における前記解析プロファイルの4つの変数を、前記第1組成薄膜の格子定数及び膜厚並びに前記第2組成薄膜の格子定数及び膜厚のそれぞれの測定値とするX線回折測定解析方法において、
前記実測プロファイルの中の複数の主要なサテライトピークの間隔から前記超格子構造の周期(L)を求め、且つ前記実測プロファイルの中の超格子構造の平均組成に対応するサテライトピークと前記基板ピークとの間隔から前記超格子構造の平均格子定数(a)を求めるとともに、前記4つの変数のうち前記第1組成薄膜又は前記第2組成薄膜のうち一方の薄膜の膜厚(L1)及び前記第1組成薄膜又は前記第2組成薄膜のうち一方の薄膜の格子定数(a1)の初期値を設定する設定段階と、
前記超格子構造の周期と前記超格子構造の平均格子定数と前記一方の薄膜の膜厚及び格子定数の設定値とから、前記第1組成薄膜又は前記第2組成薄膜の膜厚のうち他方の薄膜の膜厚(L2)及び格子定数(a2)の値を算出する変数算出段階と、
前記超格子構造の周期、前記超格子構造の平均格子定数、前記一方の薄膜の膜厚及び格子定数の設定値並びに前記他方の薄膜の膜厚及び格子定数の算出値に基づいて、前記理論計算により前記解析プロファイルを得る解析プロファイル作成段階と、
前記解析プロファイル及び前記実測プロファイルを比較して、両プロファイルの一致の度合いを調べる比較段階と、
前記一致の度合いが予め定められた一致基準を満たすか否かを判定し、前記一致の度合いが予め定められた一致基準を満たすときは、そのときの前記一方の薄膜の膜厚及び格子定数の初期値並びに前記他方の薄膜の膜厚及び格子定数の値を膜厚測定値及び格子定数測定値とし、前記一致の度合いが予め定められた一致基準を満たさないときは、前記一方の薄膜の膜厚及び格子定数のうちいずれかの設定値を変更して再び変数算出段階に戻る判定段階と、を含むことを特徴とするX線回折測定解析方法。
【請求項2】
前記設定段階において、前記積層された超格子構造に関する設計値情報に基づき、前記実測プロファイルから周期性のある孤立したピークを抽出して前記主要サテライトピークを特定することを特徴とする請求項1に記載のX線回折測定解析方法。
【請求項3】
前記設定段階において、前記実測プロファイルから求めた前記超格子構造の周期及び平均格子定数と、前記一方及び他方の薄膜の膜厚(L1、L2)及び格子定数(a1、a2)の設計値情報とに基づいて、前記一方の薄膜の膜厚及び格子定数の初期値を設定することを特徴とする請求項1に記載のX線回折測定解析方法。
【請求項4】
前記比較段階において、前記複数のサテライトピークのうち前記超格子構造の平均格子定数に対応する0次のサテライトピークについて、前記解析プロファイルを前記縦軸方向及び横軸方向でそれぞれ前記実測プロファイルに合わせ、前記主要サテライトピークのうち他の次数のサテライトピークについて、前記解析プロファイル及び前記実測プロファイルの一致の度合いを調べることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1つに記載のX線回折測定解析方法。
【請求項5】
前記判定段階において、前記一方の薄膜の膜厚及び格子定数のうちいずれかの設定値を変更して再び変数算出段階に戻る際、前記超格子構造の周期を一定にしつつ前記一方の薄膜の膜厚の設定値を微調整することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1つに記載のX線回折測定解析方法。
【請求項6】
前記一方の薄膜の膜厚及び格子定数のうちいずれかの設定値を変更して再び変数算出段階に戻る際、前記超格子構造の周期を一定にしつつ前記一方の薄膜の膜厚の設定値を微調整するのに先立って、前記一方の薄膜の格子定数を微調整することを特徴とする請求項5に記載のX線回折測定解析方法。
【請求項7】
前記判定段階で、前記一方又は他方の薄膜の膜厚(L1又はL2)と前記一方又は他方の薄膜の格子定数(a1又はa2)の値を、該格子定数及び膜厚を縦軸及び横軸とする等高線図様の分布図上の点として記憶しておき、該記憶情報に基づいて前記解析プロファイル及び前記実測プロファイルの一致の度合いを示す分布図を作成するとともに、
該分布図上に、前記解析プロファイル及び前記実測プロファイルの一致の度合いが最も高い一致領域と、前記一致の度合いが前記一致領域よりも低く前記一致領域を取り囲むように分布する少なくとも1つの環状分布領域とを視覚的に区別される表示態様で表示し、
前記分布図上の点が、該分布図上の前記一致領域及び環状分布領域のうちどの領域に属するかで前記一致の度合いを視覚的に識別可能に表示することを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1つに記載のX線回折測定解析方法。
【請求項8】
基板上に複数の第1組成薄膜と複数の第2組成薄膜とが交互に積層された超格子構造を有する結晶構造にX線を入射し回折されたX線を検出して得られるX線回折測定情報に基づき、横軸をX線回折角度、縦軸をX線回折強度として表わされ、前記基板よりの回折X線に由来する基板ピーク及び前記積層された超格子構造に由来する複数のサテライトピークを有する実測プロファイルと、
4つの変数として前記第1組成薄膜の格子定数及び膜厚並びに前記第2組成薄膜の格子定数及び膜厚を用いたX線回折現象の理論計算により、横軸をX線回折角度、縦軸をX線回折強度として表わされる解析プロファイルとを、
前記4つの変数を変化させながら比較し、
最も良く一致した状態における前記解析プロファイルの4つの変数を、前記第1組成薄膜の格子定数及び膜厚並びに前記第2組成薄膜の格子定数及び膜厚のそれぞれの測定値とするX線回折測定解析プログラムであって、
コンピュータにより、
前記実測プロファイルの中の複数の主要なサテライトピークの間隔から前記超格子構造の周期を求める周期算出手段(47)と、
前記実測プロファイルの中の超格子構造の平均組成に対応するサテライトピークと前記基板ピークとの間隔から前記超格子構造の平均格子定数を求める平均格子定数算出手段(47)と、
前記4つの変数のうち前記第1組成薄膜又は前記第2組成薄膜のうち一方の薄膜の膜厚及び前記第1組成薄膜又は前記第2組成薄膜のうち一方の薄膜の格子定数の初期値を設定する初期値設定手段(44)と、
前記超格子構造の周期と前記超格子構造の平均格子定数と前記一方の薄膜の膜厚及び格子定数の設定値とから、前記第1組成薄膜又は前記第2組成薄膜の膜厚のうち他方の薄膜の膜厚及び格子定数の値をそれぞれ算出する変数算出手段(48)と、
前記超格子構造の周期、前記超格子構造の平均格子定数、前記一方の薄膜の膜厚及び格子定数の設定値並びに前記他方の薄膜の膜厚及び格子定数の算出値に基づいて、前記理論計算により前記解析プロファイルを作成する解析プロファイル作成手段(49)と、
前記解析プロファイル及び前記実測プロファイルを比較して、両プロファイルの一致の度合いを調べる比較手段(51)と、
前記一致の度合いが予め定められた一致基準を満たすか否かを判定し、前記一致の度合いが予め定められた一致基準を満たすときは、そのときの前記一方の薄膜の膜厚(L1)及び格子定数の設定値並びに前記他方の薄膜の膜厚及び格子定数の値を膜厚測定値及び格子定数測定値とし、前記一致の度合いが予め定められた一致基準を満たさないときは、前記一方の薄膜の膜厚及び格子定数のうちいずれかの設定値を変更して前記変数算出手段に再度算出を実行させる判定手段(52)と、の機能を実現させることを特徴とするX線回折測定解析プログラム。
【請求項9】
前記初期値設定手段が、前記積層された超格子構造に関する設計値情報に基づき、前記実測プロファイル中で前記超格子構造の周期に対応する周期性を有する孤立した複数のピークの発生領域を特定する条件を記憶する特定条件記憶部を有し、該特定条件記憶部の記憶情報に基づいて前記主要サテライトピークを特定することを特徴とする請求項8に記載のX線回折測定解析プログラム。
【請求項10】
前記初期値設定手段が、前記実測プロファイルから求めた前記超格子構造の周期及び平均格子定数と、前記一方及び他方の薄膜の膜厚(L1、L2)及び格子定数(a1、a2)の設計値情報とに基づいて、前記一方の薄膜の膜厚及び格子定数の初期値を設定することを特徴とする請求項8又は9に記載のX線回折測定解析プログラム。
【請求項11】
前記比較手段が、前記複数のサテライトピークのうち前記超格子構造の平均格子定数に対応する0次のサテライトピークについて、前記解析プロファイルを前記縦軸方向及び横軸方向でそれぞれ前記実測プロファイルに合わせるシミュレーションを実行するシミュレーション処理部(51、52)と、前記主要サテライトピークのうち他の次数のサテライトピークについて、前記解析プロファイル及び前記実測プロファイルの一致の度合いを調べる誤差解析部(51)とを有することを特徴とする請求項8乃至10のいずれか1つに記載のX線回折測定解析プログラム。
【請求項12】
前記判定手段が前記一方の薄膜の膜厚及び格子定数のうちいずれかの設定値を変更して前記変数算出手段に再度算出を実行させるとき、前記初期値設定手段が、前記超格子構造の周期を一定にしつつ前記一方の薄膜の膜厚の設定値を微調整することを特徴とする請求項8乃至11のいずれか1つに記載のX線回折測定解析プログラム。
【請求項13】
前記判定手段が前記一方の薄膜の膜厚及び格子定数のうちいずれかの設定値を変更して前記変数算出手段に再度算出を実行させるとき、前記初期値設定手段が、前記超格子構造の周期を一定にしつつ前記一方の薄膜の膜厚の設定値を微調整するとともに、前記一方の薄膜の格子定数を微調整することを特徴とする請求項12に記載のX線回折測定解析プログラム。
【請求項14】
前記コンピュータに、
前記一方又は他方の薄膜の膜厚(L1又はL2)と前記一方又は他方の薄膜の格子定数(a1又はa2)の値を、該格子定数及び膜厚を縦軸及び横軸とする等高線図様の分布図上の点として記憶する分布データ記憶手段(405)と、
該分布データ記憶手段の記憶情報に基づいて、前記解析プロファイル及び前記実測プロファイルの一致の度合いの分布画像情報を生成する分布図作成手段(40)と、
該分布図作成手段で生成された分布画像情報を出力する出力手段と、の機能を実現させることを特徴とする請求項8乃至13のいずれか1つに記載のX線回折測定解析プログラム。
【請求項15】
前記分布図作成手段が、前記分布データ記憶手段の記憶情報に基づいて、前記解析プロファイル及び前記実測プロファイルの一致の度合いが最も高い一致領域と、前記一致の度合いが前記一致領域よりも低く前記一致領域を取り囲むように分布する少なくとも1つの環状分布領域とが視覚的に区別可能な表示画像の情報を生成することを特徴とする請求項14に記載のX線回折測定解析プログラム。
【請求項16】
基板上に複数の第1組成薄膜と複数の第2組成薄膜とが交互に積層された超格子構造を有する結晶構造にX線を異なる角度で入射したとき測定情報に基づきプロファイル表示される、前記角度に応じて変化する回折X線強度の実測プロファイルと、
4つの変数として前記第1組成薄膜の格子定数(a1)及び膜厚(L1)並びに前記第2組成薄膜の格子定数(a2)及び膜厚(L2)を用いた理論計算に基づきプロファイル表示される、前記角度に応じて変化する回折X線強度の解析プロファイルとを、
前記解析プロファイルの4つの変数を変化させながら比較し、
最も良く一致した状態における前記解析プロファイルの4つの変数を、前記第1組成薄膜の格子定数及び膜厚並びに前記第2組成薄膜の格子定数及び膜厚のそれぞれの測定値とするX線回折測定解析プログラムであって、
nを正の整数とするとき、n個の前記角度の値(x,x,・・・x)および該角度に対応するn個の回折X線強度の測定値(g,g,・・・g)を順次メモリに記憶させる実測データ記憶手段(41)と、
前記メモリに記憶されたデータに基づいて前記角度に応じて変化する回折X線強度の実測プロファイルを表示出力可能な所定のプロファイル表示形式で作成する実測プロファイル作成手段(42)と、
前記実測プロファイルの中の複数の主要なサテライトピークの間隔から前記超格子構造の周期(L)を求める周期算出手段(47)と、
前記実測プロファイルの中に超格子構造の平均組成に対応して現れるサテライトピークと前記実測プロファイルの中に前記基板に由来して現れる基板ピークとの間隔から前記超格子構造の平均格子定数(a)を求める平均格子定数算出手段(47)と、
前記第1組成薄膜又は前記第2組成薄膜のうち一方の薄膜の膜厚(L1又はL2)及び前記第1組成薄膜又は前記第2組成薄膜のうち一方の薄膜の格子定数(a1又はa2)の初期値を、前記4つの変数(a1,L1,a2,L2)のうち2つの変数の初期値として設定する初期値設定手段(44)と、
前記超格子構造の周期(L)と、前記超格子構造の平均格子定数(a)と、前記一方の薄膜の膜厚(L1)及び格子定数(a1)の設定値とから、前記4つの変数(a1、L1、a2、L2)のうち残りの2つの変数である前記第1組成薄膜又は前記第2組成薄膜の膜厚のうち他方の薄膜の膜厚(L2)及び格子定数(a2)の値をそれぞれ算出する変数算出手段(48)と、
前記一方の薄膜の膜厚(L1)及び格子定数(a1)の設定値と、前記変数算出手段(48)で算出された前記他方の薄膜の膜厚(L2)及び格子定数(a2)の値とを、前記4つの変数として、前記複数のサテライトピークのうち次数の異なる特定のサテライトピークに対応する角度範囲を特定する前記nより少ない正の整数であるm個の角度値(x,x,・・・xi+m-1;但し、i、jはそれぞれmより小さい正の整数)について、回折X線強度の値(f,f,・・・fi+m−1)を前記理論計算により算出して前記解析プロファイルを作成する解析プロファイル作成手段(49)と、
前記解析プロファイル及び前記実測プロファイルを前記複数のサテライトピークのうち前記次数の異なる特定のサテライトピークにつき比較して、両プロファイルの一致の度合いを調べる比較手段(51)と、
前記一致の度合いが予め定められた一致基準を満たすか否かを判定し、前記一致の度合いが予め定められた一致基準を満たすときは、そのときの前記解析プロファイルの4つの変数(a1,L1,a2,L2)を前記一方の薄膜の膜厚及び格子定数並びに前記他方の薄膜の膜厚及び格子定数の測定値として出力し、前記一致の度合いが予め定められた一致基準を満たさないときは、前記一方の薄膜の膜厚(L1)及び格子定数(a1)のうちいずれかの設定値を変更して前記変数算出手段に再度算出を実行させる判定手段(52)と、の機能をコンピュータを使用して実現させることを特徴とするX線回折測定解析プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−170791(P2006−170791A)
【公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−363443(P2004−363443)
【出願日】平成16年12月15日(2004.12.15)
【出願人】(000000572)アンリツ株式会社 (838)
【Fターム(参考)】