説明

X線管を備えた符号化された線源イメージング用の構造を有する電子エミッタ

電子エミッタ(1)及び当該電子エミッタ(1)を有するX線管(100)が与えられている。当該電子エミッタ(1)はカソード(3)及びアノード(5)を有する。前記カソード(3)は、互いに離間した複数の局所領域からなる電子放出パターンを有する。各領域は、前記カソード(3)と前記アノード(5)との間に電界が印加される際の電界放出によって局所的に電子を放出するように構成されている。前記局所領域(11)から放出される電子ビーム(15)は、特定の幾何学パターンにおいて複数のX線源強度の最大を生成することができる。検出器上での画像の重なりによる空間分解能の明確な損失は、前記X線源(100)用の特定強度パターンを用い、かつ取得された前記画像に専用の復号アルゴリズム−たとえば符号化線源イメージング(CSI)−を適用することによって補正することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、X線管用の電子エミッタに関する。さらに本発明は、当該電子エミッタを有するX線管及び当該X線管を有するX線画像取得装置に関する。さらに本発明は、たとえば透過放射線のX線撮影による対象物の画像取得方法、処理装置上で実行されるときに当該方法を制御するように構成されたコンピュータプログラム素子に関し、かつ内部に当該コンピュータプログラム素子が保存されたコンピュータによる読み取り可能な媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
透過X線撮影に基づく従来のX線画像化用途は大抵、理想的な点状X線源の原理に依拠している。しかし理想的な点状X線源は決して実現され得ない。実際のX線源は常に、ある程度画像化システムの空間分解能を決定する空間広がりを有する。従って画像化用途は、X線源の寸法に制約を課す。特別なサイズのX線源について、分解能が、一連の画像化に用いられる他の構成部品−たとえば検出装置−による妥協がない場合、取得可能な画像の画質は究極的には、信号対雑音比で決定される。従って、可能な限り取得時間を短くするため、高X線束は画像化用途においては常に望ましい。
【0003】
X線を発生させるための従来の標準的な装置は、固体の標的資料に加速された電子が衝突することによってX線が発生するX線管である。良好な近似では、標的に入射する電子ビームの空間的寸法は、発生したX線源のサイズを決定する。X線管では、電子が標的を進行して、X線が発生する領域は、集束スポットと呼ばれる。特定のスポットサイズを実現するため、集束スポットの寸法は、たとえば電磁場を有する電子光学系によって標的上に電子を集束させることによって制御される必要がある。X線源の寸法に影響を及ぼす他の方法は、X線用のコリメータを用いることである。X線の集束は、強い波長選択性を有するので、X線管のX線束を強く減少させるため、大抵の場合実用的ではない。
【0004】
しかし電子ビームを標的上の小さな集束スポットに集束させるとき、様々な問題又は制限効果を誘起しないように注意しなければならない。
【0005】
第1に、X線管では、構成部品−たとえばカソード及び電子ビームの光学特性に影響を及ぼす電子光学系−の注意深い設計が必要になると考えられる。特にマイクロメータ範囲に到達する小さな集束スポットについては、電子光学上の収差が技術的な課題を与える恐れがある。さらに空間電荷効果が、高い電子ビームの電流密度での集束スポットのサイズに影響を及ぼすと考えられる。X線標的上に小さな集束スポットを生成するために電子ビームを集束させるための代替手法として、X線源のサイズを制御する他の方法が、十分小さい直径のピンホールによるコリメーションにより供されて良い。しかしコリメーションは、たとえばマイクロメータ範囲の小さな直径であることが求められる。その理由は、コリメータによる実効的なX線の吸収が保証される必要があるからである。このことは、医療用画像化用途によく用いられる、たとえば約100keVのエネルギーを有する硬X線について特に当てはまる。
【0006】
第2に、X線管では、電子エネルギーの大半は通常、熱に変換される。これにより、収束スポット内で最高温度となる標的材料内の場所で温度が上昇する。その結果、電子ビーム電流は、標的材料の溶融を防止する必要性があるので、制限される。過剰なビーム電流は、X線源の機能を保存するために回避されなければならない標的の過熱を引き起こす恐れがある。理論的には、集束スポットでの温度上昇は、衝突する電子ビームの出力密度に比例することが示されている。従って従来のX線管においてX線を発生させるには、集束スポットサイズとX線強度との間でのトレードオフが起こる。画像化用途にとっては、このことは、取得した対象物の画像の分解能と信号対雑音比とのトレードオフを意味する。
【0007】
標的の過熱は、X線管の設計において重大な課題となると考えられる。医療用途では、回転する標的が、集束スポットにおける熱的負荷に対処する標準的な対策である。しかし心臓のコンピュータ断層撮影のような用途は、非常に高いX線出力を有するX線管から大きな利点を得ることができる。マイクロメートル範囲の小さな集束スポットを有する微小集束X線管にとっては、回転アノードの機械的許容度は、要求されるX線源の空間的安定性にとっては大きすぎる恐れがある。制限されたX線束は、高分解能X線検査装置において長い取得時間を要する要因となりうる。
【0008】
単一集束スポットから放出される単一X線強度の最大値を有する上述のX線源の代替は、X線による所謂符号化線源イメージング(coded source imaging:CSI)法であって良い。CSIの背後にある基本的な考え方は、単一の最大値に代わって複数の強度の最大値を有する構造を有するX線源を用いることである。X線画像化装置に用いられるとき、係る複数の強度最大値は検出スクリーン上に重なり像を生成する結果、画像化された対象物の空間分解能の明らかな損失が生じてしまうと考えられる。しかしX線源の厳密な強度パターンが既知であるときには、復号化アルゴリズムが、様々な強度最大値からの重なりを補正するのに用いることが可能で、かつ合同の対象物の画像を得ることができる。到達可能な分解能は依然として、孤立したX線強度最大値のサイズによって決定することが可能で、X線源の強度分布の包絡関数によっては決定することができない。
【0009】
CSIの考え方は、X線天文学及び放射線核イメージングにおいて用途が見いだされてきた、所謂符号化アパーチャイメージング(coded aperture imaging:CAI)によって促されてきた。簡単に説明すると、CAIは、X線用のピンホールカメラを拡張したものである。CAIでは、単一のピンホールの代わりに符号化されたアパーチャマスクが用いられる。符号化されたマスクは、単一ピンホールのコリメータとは対照的に、より高い強度を有する画像の記録を可能にする。
【0010】
この考え方は、符号化された線源イメージングにも移植されうる。X線検査用の符号化された線源イメージングの原理は、非特許文献1に与えられている。簡単に説明すると、符号化された線源イメージングの考え方は、ピンホールによって実現可能なほぼ単一の点状X線源を、他のより明るいものと交換することである。一の目標は、信号対雑音比を増大させることによって画像化特性を改善することであって良い。この目標は、ピンホールの透過領域を増大させることで、画像化に用いられるX線束を増大させることによって到達することができる。しかし到達可能な分解能は常に、単一X線源の幾何学的拡張に依存するので、そのような線源サイズが増大することで、到達可能な分解能が劣化する。信号対雑音比を増大させる他の単純な考え方は、単一のピンホールを2つのピンホールに置き換えることであって良い。画像化に実際に利用される光子数が2倍になると予想するのはわかりやすい。検査中の対象物の2つの画像が検出器上に与えられる。2つの画像が重ならないようにピンホール距離が選ばれる場合、2つの画像を結合する手順を含む再構成は、単一のピンホールの場合よりも良好な計数統計を与える。2つのピンホールの代わりに、多数のピンホールからなる組が、符号化された線源が得られるように供されて良い。多数のピンホールの具体的な幾何学的配置については、到達可能な空間分解能は、多数の線源を用いることによる影響は受けず、単一のピンホールのサイズによって決定される。従って多数のピンホールを用いること−つまり単一のピンホールのサイズの増大よりもX線束を増大させるための符号化された線源の利点が存在する。なぜなら符号化された線源は、到達可能な画像化分解能の劣化させることなく信号対雑音比を増大させることができるからである。2つのピンホールにより符号化された線源の例は、CSIの2つの基本的な特徴を強調している。その2つの基本的な特徴とは、(a)符号化された線源におけるパターンの重要性、及び(b)後続の検出された画像の復号化の必要性、である。復号化された線源パターンの具体的な選択は、システムの信号対雑音比の最適化において重要となりうる。検出された画像の復号化もまたパターンに依存すると考えられる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Antonio L. Damato他、"Coded source imaging for neutrons and X-rays", 2006 IEEE Nuclear Science Symposium Conference Record, pp.199-203
【非特許文献2】Z. Chen: "Fabrication and characterization of carbon nano arrays using sandwich catalyst stacks", Carbon 44, 2006, pages 225-230
【非特許文献3】E.E. Fenimore and T. M. Cannon in Applied Optics, 1. Februar 1978, vol. 17, no. 3, pages 337-347
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
従来のX線管について述べた上述の欠陥の少なくとも一部を緩和又は解決しうる電子エミッタ、当該電子エミッタを有するX線管、及び当該X線管を有するX線画像取得装置が必要となるだろう。特に、電子エミッタ、X線管、及び、符号化された線源イメージングにとって有利となるように構成しうるX線画像取得装置が必要となるだろう。さらに、上述した従来技術の欠陥の少なくとも一部の解決を可能とし、かつ符号化された線源イメージングに特定して構成しうる、対象物の画像を取得する方法、プロセッサによって実行されるときに当該方法を制御するコンピュータプログラム要素、及び、当該コンピュータプログラム要素が記憶されたコンピュータにより読み取り可能な記憶媒体が必要となるだろう。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記必要性は、独立請求項による対象によって満たされうる。本発明の有利な実施例は従属請求項において開示される。
【0014】
本発明の第1態様によると、X線管の電子エミッタが供される。当該電子エミッタはカソードとアノードを有する。ここで前記カソードは、互いに離間する複数の局所領域からなる電子放出パターンを有する。各領域は、前記カソードと前記アノードとの間に電界を印加する際の電界放出によって、局所的に電子を放出するように構成されている。
【0015】
本発明の第2態様によると、X線管が供される。当該X線管は、本発明の第1態様による電子エミッタを有し、加速電子が衝突した際にX線を放出するように構成された標的領域をさらに有する。ここで当該X線管の構成は、前記電子エミッタのカソードからなる電子放出パターンの領域から放出される電子が、前記電子放出パターンに対応するパターン中の標的領域に衝突するようになされる。
【0016】
本発明の第3態様によると、X線画像取得装置が供される。当該装置は、本発明の第2態様によるX線管を有し、X線検出器と画像処理装置をさらに有する。ここ前記該X線検出器は、前記X線管からのX線強度分布を検出するように構成される。さらに前記画像処理装置は、前記の検出された強度分布及び電子放出パターンの情報に基づいて画像情報を得るように構成される。
【0017】
本発明の第4態様によると、対象物の取得方法が供される。当該方法は:互いに離間した複数の局所領域からなる電子放出パターンから電子を放出する手順であって、各領域は、カソードとアノードとの間に電界を印加する際の電界放出によって局所的に電子を放出するように構成されている、手順;前記電子放出パターンから放出される電子の衝突によってX線を発生させる手順;前記X線を前記対象物に透過させる手順;X線の強度分布を検出するように構成されたX線検出器によって前記の透過したX線を検出する手順;及び、前記の検出した強度分布と前記電子放出パターンに基づいて前記画像を得る手順;を有する。
【0018】
本発明の第5態様によると、コンピュータプログラムが供される。当該コンピュータプログラムは、処理装置上で実行されるときに、本発明の第4態様による方法を制御するように構成されている。
【0019】
本発明の第6態様によると、コンピュータにより読み取り可能な媒体が供される。当該コンピュータにより読み取り可能な媒体は、本発明の第5態様による、コンピュータプログラムを有する。
【0020】
本発明の要点は、以下のような考え方に基づいていると言える。
【0021】
上述したように、X線放出表的に衝突する単一の集束した電子ビームを有する従来のX線管は、信号対雑音比の制限や標的の過熱といった制約に悩まされている。本明細書で提案された方法は、電子放出領域のパターンを有する構造をなす電子エミッタを用いることによって、空間的な構造を有する電子ビームを発生させる手順を有する。それにより電子ビーム強度の空間変調を実現することができる。たとえば複数の独立した電子ビームを電子エミッタによって放出することができる。各局所的な電子放出領域は一の制限された電子ビームを放出する。たとえば複数の独立したビームを有する空間的に変調した全体的な電子ビームは、アノードへ向かうように加速され、かつ標的領域に衝突する際に、電子ビームの強度パターンに対応するX線強度分布を有するパターンを有するX線源を生成することができる。よってパターンを有するように生成されたX線源は、符号化された線源イメージング用に用いられて良い。前記X線強度の最大値の各々は、独立したX線源として機能して良い。全X線源を結合させたX線は、観察される対象物を透過することができる。前記の透過したX線強度はX線検出器によって検出されて良い。前記の検出されたX線強度分布は、前記X線管によって供された独立した複数のX線源の各々からの重なり合ったX線の投影に相当して良い。前記の検出されたX線強度から、前記の観察される対象物の画像が、前記の検出された強度分布及び前記の電子エミッタの電子放出パターンの情報を用いることによって得ることができる。前記電子エミッタ内での局所的電子放出領域のパターンを厳密に知ることで、前記局所的電子放出領域からの電子が標的領域に投影されるX線管のX線強度分布の情報を供することができる。前記のパターンを有するX線強度分布の情報は、測定された全透過X線強度分布の「分解」又は「デコンボリューション」を行うのに用いることができる。それにより、分解能が主として孤立した強度最大値の大きさによって設定されて、全体のX線強度分布の包絡関数によっては設定されない高画質X線画像の生成が可能となる。
【0022】
換言すると、構造を有する電子源を用いることによって、特定のパターンを有する複数のX線強度の最大値が生成されて良い。従って前記電子は、前記標的領域のより広い領域に衝突することで、熱による制限を緩和することができる。これにより、X線出力を増大させることでことが可能となるので、短時間での画像の取得が可能となり、信号対雑音比を有することを可能にする。
【0023】
本発明の第1態様による電子エミッタでは、複数の局所領域のうちの各々が、電界放出によって電子を局所的に放出するように構成されている。電界放出に基づく電子の放出は、熱イオン電子放出と比較して、複数の利点を供することができる。たとえば前記エミッタは、電界放出が明確に画定された領域に制限され得るように設計されて良い。
【0024】
熱イオン放出については、電子放出材料は通常、1000℃よりも高温に加熱される必要がある。そのような高温の制御は困難になると思われる。その理由は、たとえば熱拡散及び/又は放射による電子放出表面の横方向の熱輸送があるためである。従って、熱イオン電子放出では、温度分布は、安定して維持することはほとんど不可能である。
【0025】
上記とは対照的に、電界放出によって放出される電子は、加熱される必要のないエミッタ表面から放出することができる。電界放出領域には、たとえばリソグラフィ法のような既に認められた方法によって構造が形成される。それにより明確な局所電子放出領域を画定することができる。以降で詳述するように、カーボンナノチューブは、特定のパターン及び配置で基板上に成長することができる。そのような局所電界放出領域の大きさは、数μm〜数mmの範囲にまで及んで良い。電界放出により放出される電子は、「冷たい」つまり低い運動エネルギーを有するので、そのような電界放出された電子の速度広がりは、高温での熱イオン放出による電子の速度広がりよりも小さくなりうる。このように速度広がりが小さくなることで、電子は低発散で放出される。
【0026】
本発明の第1態様による電子エミッタはカソードとアノードを有する。動作中、前記カソードと前記アノードとの間に電圧を印加することができることで、強い電界が前記カソードと前記アノードとの間に生成される。
【0027】
前記カソードは前記アノードに対向する表面を有して良い。この表面上には、複数の局所電界放出領域が供されて良い。以降で詳述するように、所望の強度分布を有する電子の電界放出に構成させるため、これらの領域には、特定の材料及び/又は表面構造を有する特定の幾何学形状−つまりたとえば特定の大きさの領域及び該領域間の距離−が供されて良い。
【0028】
好適には、電圧を印加する際に前記カソードと前記アノードとの間に均一な電界が生成されるように、前記アノードは構成されて良い。たとえば環状電極又はメッシュ電極が供されて良い。前記アノードと前記カソードのいずれも導電性材料によって供されて良い。
【0029】
非常に高い外部静電界が印加されるときに、固体の導体からの電子の電界放出が生じうる。通常前記エミッタ表面でのこのような高電界は、10kV/mmオーダーのミクロ外部電界を印加し、かつ好適には、前記エミッタ表面での鋭い針又は端部でのこのような電界を局所的に非常に高い値にまで増大させることによって得られる。前記外部電界は、表面のポテンシャルバリアを減少させることで、電子は、このバリアを介したトンネリングし、かつ前記固体材料から飛び出すことが可能となる。前記電界放出電流は、所謂Fowler-Nordheimの式に従い、かつ、前記電界の強度、前記エミッタ材料の仕事関数、及び、前記エミッタ表面の幾何学形状に起因する前記局所電界の増大因子に依存する。よって前記電界放出電流は、前記材料の仕事関数及び印加された−場合によっては局所的に増大した−電界に依存する。
【0030】
前記電子放出領域が「冷たい」エミッタなので、前記アノード又はグリッド電極は、前記カソードに近接するように設けられることで、非常に高速かつ低電圧のスイッチングが可能となる。さらに前記電界放出電流が引き出し電界に直接依存するので、前記アノードもまた、前記電子ビーム電流を変調させるのに用いられて良い。たとえば前記電界放出は、前記電圧をより低い電圧に切り換えて前記電界放出を減少すなわち抑制させることによってスイッチングされて良い。このことは、たとえば照射量変調が迅速である医療用X線検査での用途にとって興味深い選択肢となりうる。前記電子が「冷たい」ため、前記電子は低発散で放出される。その結果、前記電子放出パターンは、前記標的上に直接マッピングされうるので、対応するX線源パターンが生成される。
【0031】
本発明の実施例によると、前記電子エミッタのカソード上の局所領域の幅は、最近接の局所領域への距離よりも短くて良い。換言すると、前記局所領域の各々の横方向寸法は、隣接する局所領域間の間隔の横方向寸法よりも短くて良い。たとえば前記局所領域の横方向寸法は数μm〜数mm−たとえば1μm〜20mm、好適には3μm〜10mm−の範囲であって良い。隣接する局所領域間の間隔は、少なくとも前記局所領域の横方向寸法よりも大きい−好適には前記局所領域の横方向寸法の少なくとも2倍であり、より好適には前記局所領域の横方向寸法の少なくとも5倍である−。たとえば隣接する局所領域間の間隔は5μm〜10mm−好適には10μm〜2mm−であって良い。前記局所領域の各々は任意の形状−たとえば円形又は正方形−を有して良い。個々の局所領域の寸法及び形状はそれぞれ異なっていて良い。局所領域の横方向寸法にはばらつきが存在しているので、複数の局所領域の最小横方向寸法は、隣接する局所領域間の間隔の横方向寸法よりも小さくて良い。前記複数の局所領域は、任意のパターン−たとえば正方行列−で配置されて良い。前記局所領域から放出される電子が、X線標的領域に衝突する際に、符号化された線源イメージングに適したX線強度分布を供することができるように、前記局所領域の幾何学形状及び配置は構成されて良い。
【0032】
本発明の実施例によると、前記電子エミッタのカソード上の局所領域には、巨視的に粗い表面が供される。この粗い表面は、前記局所領域からの電界放出により生成される電子放出電流を最大化するように構成されて良い。上述したように、電界放出は、電子がバルクの表面ポテンシャルバリアを通り抜けて自由空間へ向かう量子力学的なトンネル効果の結果である。電界放出された電子数は、対応する表面の局所電界E[V/m]に強く依存する。小さな構造では、前記局所電界強度が顕著に増大するため、前記電界放出電流は、鋭い導電性ピンを有する粗い表面を用いることによって増大させることができる。ダイオード型の構成では、前記電界は、前記カソードと該カソードに対向するアノードとの間に印加された電圧によって生成される。巨視的電界は近似的には、電圧Uと距離dによって定量化することが可能で、U/dとなる。局所的には、前記巨視的電界は電荷分布を誘起することができるので、前記エミッタ付近での電界強度はU/dから変化して良い。前記電界の増大は、電界エミッタの幾何学形状及び隣接する電界エミッタの幾何学的配置に依存すると考えられる。定量的には、前記電界の増大は、電界増大因子γによって、前記電界EがE=γ・(U/d)となるように記述することができる。前記電界の増大が、十分な電界放出を供する局所電界を生成する必要のある外部電圧を減少させるので、電界放出に基づく電子エミッタは、前記前記電界の増大からの利点を享受することができる。好適には、前記電界エミッタは、非常に狭い先端部を有する錐体形状を有する。なぜならそのような幾何学形状により、強い電界増大が生じるからである。
【0033】
電界エミッタの幾何学形状は、材料に構造を与えることで電界の増大を起こしやすくなるように設計されて良い。前記構造の大きさは、ナノ作製技術−たとえば電子ビームリソグラフィ、集束イオンビーム加工、又は分子自己集合法−によって生成可能なnm〜数μmの範囲であることが好ましい。従ってアレイを構成する複数の電界エミッタは、そのような製造手法によって実現されて良い。あるいはその代わりに、電界放出表面が実効的に粗さを有するように、電界放出構造の不規則な配置が実現されて良い。電界の増大は粗い表面の高い部分で起こる。電界放出電流が最適となる詳細な表面モフォロジーは、化学組成及び該化学組成に係る材料特性−たとえば電界エミッタの仕事関数及び機械強度−に依存すると考えられる。
【0034】
表面粗さは、走査プローブ手法−たとえば原子間力顕微鏡−又は高分解能表面可視化手法−たとえば走査電子顕微鏡−によって評価されて良い。粗さは、5μm×5μmの表面積にわたって5nm刻みで表面を走査することにより決定されて良い。表面モフォロジーは、走査過程で得られた表面プロファイルのピークと谷を表す。電界放出にとっては、突出部の幅と高さとの比が大きい方が有利である。ピーク高さとピーク幅との平均の比は、少なくとも5倍−好適には100〜1000−になる。
【0035】
本発明の実施例によると、前記電子エミッタの局所領域は、カーボンナノチューブ(CNT)で作られた表面層を有する。カーボンナノチューブは、巻かれることで細長い管を形成するグラフェンのシートとして表されて良い。長さは数μmさらには数mmに達しうる一方で、管の幅はわずか数nmである。単層カーボンナノチューブ(SWNT)は単層のグラフェンシートで構成される。多層カーボンナノチューブ(MWNT)は、入れ子を有するタマネギのような構造となるように巻かれた複数のグラフェンシートで構成される。MWNTは通常導体だが、SWNTは、グラフェンシートのまかれ方に依存して、導体又は半導体となる。
【0036】
MWNTは複数の顕著な特徴を有しうる。MWNTは良好な導体でありうる。またMWNTの大きなアスペクト比及び約5eVの小さな仕事関数により、MWNTは、電界放出の有力な候補となる。MWNTの壁は非常に強いグラフェン構造で作られるので、MWNTは高い機械強度を有し、かつ化学的に不活性でスパッタ耐性を有する。これらの特性は、X線管における電子エミッタの所望の寿命を実現する上で有利となりうる。機械強度が高いことで、高アスペクト比の−つまり長さと直径の比が大きい−電界エミッタを作製が可能となる。これにより、電界増大因子は有利なものとなりうる。CNTエミッタの表面層については、様々な表面モフォロジーが存在して良い。単一の孤立した管が表面上に配置されて良い。全ての管は互いに位置合わせされていて、かつ個々のCNT間の間隔は個々のCNT長さよりもはるかに大きくて良い。あるいはその代わりに、CNTは、アレイをなす又は管が相互にランダムな状態で、互いに密に隣接して配置されても良い。表面モフォロジーに依存して、選ばれたCNTは、表面上方へ突出することで、より強い電界増大を起こす。それらのCNTエミッタは、電子放出電流に対して支配的に寄与しうる。
【0037】
寄与するCNTエミッタは、電界増大を減少させる遮蔽を回避するため、隣接するCNTに対する横方向の間隔を有することが好ましい。しかし密度が希薄となることで、単位面積当たりの寄与するCNTエミッタ数は減少する。従って、電界放出電流を最大にする突出したCNTエミッタ間の最適間隔が存在する。CNTエミッタの場合では、電界放出ピン間の好適間隔は、電界放出に寄与(わずかにしか)寄与しない表面領域上方でのCNTの高さの2倍であることが好ましい。
【0038】
個々のCNTは、最大1μAの安定した放出電流を運ぶことが可能であると報告されている。医療用X線管は、高出力管については、大雑把に100mA〜1A以上の範囲の電子ビーム電流を必要とすると考えられるので、1cm2の面積を覆う十分に放出するCNTアレイが、X線管用の冷たい電子エミッタを作製するのに必要になると考えられる。
【0039】
CNTを設けて表面モフォロジーを制御する一の方法は、平面上の電界エミッタに存在する明確な領域を−たとえば非特許文献2で説明されているように基板のリソグラフィによって−生成することである。
【0040】
堆積されたCNT層の表面粗さを増大させるため、前記CNT層は堆積後、水素(H2)、窒素(N2)、又は酸素(O2)を有するマイクロ波プラズマによって処理されて良い。それによりたとえば、意図しないアモルファスカーボン成分はCNTで覆われた領域から除去されることで、下地の垂直に隣接するCNTによって生成される非常に粗い表面を露出することができる。
【0041】
本発明の実施例によると、前記電子エミッタのカソード上での電子放出パターンの局所領域は、平面内で2次元的に配置される。たとえば局所領域は、互いに隣接するように配置され、かつ互いに十分な距離だけ離間した直線の行と列を有する行列状のパターンで配置されて良い。電子ビームが放出される結果、標的領域に衝突した際に、後続の符号化された線源イメージングにとって十分な強度を有する変調されたX線強度分布が生成されるように、前記電子放出パターンにおける局所領域の2次元での配置及び寸法は構成される。
【0042】
本発明の実施例によると、前記電子エミッタのカソード上での電子放出パターンは均一かつ冗長なアレイを有する。そのような均一かつ冗長なアレイ(URA)は本来、符号化されたアパーチャイメージング(CAI)用に開発され、かつたとえば非特許文献3で説明されている。URAは、好適には平坦なサイドローブとの自動相関関数を有する。前記URAは、ランダムアレイの高透過特性と、非冗長ピンホールアレイの平坦なサイドローブの利点とを組み合わせたものである。URAによる線源パターンを用いたX線による透過X線撮影では、自動相関関数は、システムの点広がり関数を表す。これにより、単一の線源イメージングと比較して、信号対雑音比の増大した画像を得ることが可能となる。
【0043】
本発明の第2態様によるX線管は、本明細書において先述した電子エミッタに加えて、加速電子が衝突した際にX線を放出するように構成された標的領域を有する。この標的領域は、前記電子エミッタのアノードの一部であって良い。それにより、前記カソード上の局所領域から放出され、前記アノードと前記カソードとの間に印加された電界によって前記アノードへ向かうように加速され、かつ前記アノードの標的領域に衝突する、前記局所領域から放出される電子が、被検体へ向かう方向へ放出されるX線を生成することが可能となる。あるいはその代わりに、前記標的領域は、前記カソードから前記アノードへ向かう方向へ放出される電子ビームの経路内に配置される独立した標的の一部であって良い。前記標的領域の材料は、大きな原子番号及び/又は衝突する電子ビームに対して大きな実効断面積を有して良い。それにより加速電子が衝突する際、X線が実効的に生成される。たとえば前記標的領域は、高温耐性を有する重い材料−たとえばタングステン又はモリブデン−で作られて良い。
【0044】
前記カソードの電子放出パターンの局所領域から放出される電子が、前記電子放出パターンに対応するパターン内の標的領域に衝突するように、本発明の実施例によるX線管は構成される。換言すると、前記電子放出パターン内での前記カソードの表面で放出される電子は、前記標的領域へ向かうように加速されて良い。全体的な電子強度分布は、前記電子が前記標的領域に衝突する際にも保存される。それにより前記標的領域で生成されるX線は、前記電子放出表面で放出される前記電子強度分布に概ね対応するX線強度分布を有して良い。よって前記電子放出パターンが、たとえばリソグラフィ法によって容易に構造を付与されるので、後続の符号化された線源イメージングに適した所望のX線強度分布は、前記電子エミッタを用いることによって生成することができる。電子の軌道が歪められるとき、電界放出領域、前記標的領域への衝突の際に前記電子強度分布が、所望のX線強度分布を生成するように配置されて良い。
【0045】
本発明の実施例によると、前記標的領域は透過標的として構成されて良い。それにより、前記標的領域一の面からの電子が衝突する際、前記標的領域の一の面と対向する面でX線が放出される。たとえば前記標的領域は、たとえばタングステン又はモリブデンのようなX線放出材料の薄いシート又はホイルとして供されて良い。前記シート又はホイルは、加速電子が衝突する際に生成される制動放射が、対向する表面を透過し、かつ該表面から関心対象物へ向かって放出されうる程度の薄さを有して良い。
【0046】
本発明の実施例によると、前記標的領域は傾斜した標的として構成される。それにより、前記標的領域の一の面からの電子が衝突する際、前記衝突する電子の方向に対してある角度をなす方向へ向かって、X線が前記の標的領域の一の面で放出される。前記傾斜した標的は、前記透過標的と同一又は類似の材料で作られて良いが、前記透過標的よりも厚くて良い。それにより、加速電子の衝突の際に生成される制動放射は、対向する表面へ透過されず、前記電子が衝突した表面で前記標的を飛び出すことができる。入射電子ビームに対して傾斜した角度をなすように前記標的領域を配置することによって、前記の生成されたX線は、前記入射電子の方向とは直接反対の方向には放出されず、前記入射電子に対してある角度−たとえば10°〜170°で好適には80°〜100°−をなす方向に放出される。前記の傾斜した標的は、固定した状態で設置されて良いし、又は回転標的であっても良い。傾斜したアノードの利点は、意図したX線放出方向から見て明らかに線源面が減少することである。
【0047】
本発明の実施例によると、当該X線管は、前記電子エミッタのカソードとアノードとの間に電圧を印加するように構成された電源をさらに有する。それにより少なくとも1kV/mm−好適には4kV/mm−の電場が発生する。上に前記電子放出パターンを有するカソードと前記アノードとの間の強い電界は、前記電子放出パターンからの電子放出を可能又は支持することができることを発見した。前記電源は、当該X線管の一部、当該X線管と一体化したもの、又は独立した装置であって良い。あるいはその代わりに前記電源は、前記電子エミッタ自体の一部であっても良い。
【0048】
本発明の第3態様によるX線画像取得装置は、本発明の第2態様によるX線管を有し、さらにX線検出器と画像処理装置を有する。
【0049】
前記X線検出器は、当該X線管からのX線の強度分布を検出するように構成される。たとえば前記X線検出器は、X線の2次元強度分布を同時に検出するように構成された2次元検出器アレイであって良い。あるいはその代わりに前記X線検出器は、1次元線状検出器、又は極端な場合には、当該X線管からのX線の1次元若しくは2次元強度分布を走査することが可能な単一画素の検出器であっても良い。
【0050】
前記画像処理装置は、前記電子エミッタのカソードの検出されたX線強度分布及び前記電子放出パターンの上方に基づいて画像情報を得るように構成される。換言すると、一方で前記画像処理装置は、前記X線検出器からたとえば直接前記の検出されたX線強度分布に関する情報を受け取る。他方前記画像処理装置は、前記カソード上での局所放出領域のパターンに関する情報を有するので、当該X線管によって放出されるX線の局所強度分布に関する情報を有する。この情報を有するので、前記画像処理装置は、前記被検体の画像を得ることが可能である。当該X線管からのX線は、当該X線管によって検出される前に、前記被検体を透過する。前記画像処理装置は、前記X線検出器によって検出されるX線強度分布の再構成/デコンボリューションによって前記被検体の高画質X線画像を生成するため、前記電子放出パターンに関する情報を利用して良い。当該X線管から放出されるX線のX線強度分布は、当該X線管の幾何学形状を有する領域全体にわたって明確に規定される透過挙動を有する対象物を設けることによって決定されて良い。一例は、前記X線検出器上での前記線源のX線強度分布の拡大された投影を与えることの可能な小さな直径を有するピンホールである。
【0051】
本発明の実施例によると、前記画像処理装置は、符号化された線源イメージングに構成する。前記符号化された線源イメージングの詳細及び原理は、以降で詳述する。
【0052】
前記電子エミッタ、X線管、及びX線画像取得装置の特徴並びに原理は、本発明の第4態様による対象物の画像取得方法、本発明の第5態様によるコンピュータプログラム、及び本発明の第6態様によるコンピュータにより読み取り可能な媒体移植されて良い。
【0053】
換言すると、本発明及びその実施例の特徴は以下のように要約することができる。従来のX線画像化用途のほとんどは、単一−理想的には点状−X線源に依拠している一方で、本明細書では、前記電子ビームが、特定の幾何学パターンにおいて、単一のX線源強度の最大値ではなく、複数の強度の最大値を生成するようなX線管用の構造を有する電子エミッタを供することが提案されている。従って電流は、電界放出により、カソード上の特定の局所領域から放出される。前記検出器上での画像の重なりによる空間分解の明確な損失は、前記X線源用の特定強度パターンを用い、かつ前記の取得された画像に専用の復号化アルゴリズムを適用することによって補正されて良い。そのような所謂符号化線源イメージング法を用いることで、空間分解能を犠牲にすることなく、前記X線出力を増大させる方法が供される。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明の実施例による対象物の画像取得方法の基本原理を表している。
【図2】本発明の実施例による電子エミッタの側面を図示している。
【図3】本発明の他の実施例による他の電子エミッタの側面を図示している。
【図4】本発明の実施例による透過標的として構成される標的領域を有する電子エミッタの斜視図を表している。
【図5】本発明の実施例による、図4に図示された電子エミッタと同様の電子エミッタを有するX線画像取得装置の側面を図示している。
【図6】本発明の実施例による、傾斜した標的として構成される標的領域を有する電子エミッタの斜視図を表している。
【図7】本発明の実施例による、図6に図示された電子エミッタと同様の電子エミッタを有するX線画像取得装置の側面を図示している。
【図8】本発明の実施例による電子エミッタのカソード表面の上面を図示している。
【図9】本発明の実施例による電子エミッタのカソードの均一かつ冗長なアレイを有する電子放出パターンの例を図示している。
【図10】図8の線A-Aに沿って図示されている電子エミッタによって放出される電子の強度分布及び対応するX線強度分布を図示している。
【図11】本発明の実施例によるX線画像取得装置の概略図を表している。
【発明を実施するための形態】
【0055】
本発明の実施例を用いた符号化された線源イメージングの原理を、図1を参照しながら説明する。X線管100は、単一X線ビームではなく、離間した複数のX線ビーム102を放出するように構成される。X線ビーム102は、対象物104へ向かうように案内され、かつ対象物104を透過する。続いて透過したX線は、X線検出器106へ投影される。検出器106上では、複数のX線102によって少なくとも部分的に重なる複数の対象物の投影が得られる。続いて検出器106は、検出された画像を画像処理装置108へ送信する。続いてこの画像処理装置108は、X線管100から放出される複数のX線102の厳密な配置及び寸法についてこれまでに供された情報を用いて、検出された画像のデコンボリューションを行うことによって、対象物104の画像情報を得る。それにより対象物104の最終画像110を得ることができる。最終画像は、複数のX線102のうちの1つの性質によって主として制限され、全X線ビーム102によって供されるX線分布の包絡関数によっては影響されない。
【0056】
図2は電子エミッタの実施例を図示している。電子エミッタ1はカソード3とアノード5を有する。カソード3は基板7を有する。基板7は、表面上に、空間的に離間した複数の局所領域11を含む電子放出パターン9を有する。カソード3とアノード5は電源13と接続する。局所領域11の構成は、アノード5とカソード3へ電圧を印加する際に、電子が、電界放出によって局所領域から放出されるようになされる。この目的のため、局所領域は、小さな仕事関数を有する特定の材料で作られて良い。それにより電子は、局所領域11の材料表面から比較的容易に飛び出すことが可能となる。あるいはその代わり又はそれに加えて、局所領域11には粗い表面が供されて良い。それにより局所領域表面の端部又は針では、アノード5とカソード3との間の電界が局所的に増大する。たとえば局所領域は好適には、アノード5へ向かう方向に非常に粗い表面を形成するように、互いに垂直に隣接するように配置されるカーボンナノチューブ層によって覆われて良い。局所領域11間の領域と、空間的に分離するこれらの局所領域11は、電界放出によって電子を(ほとんど)放出しないように構成される。従ってこれらの中間領域は、異なる材料、又は、たとえば均等な表面のような異なる表面構造を有して良い。
【0057】
電界放出によって局所領域11から放出される電子は続いて、アノードへ向かうように加速されることで、電子ビーム15を生成する。これらの電子ビーム15は、メッシュ状のアノード5を通過して、さらにX線管(図2には図示されていない)の標的へ向かって進行して良い。ここで衝突する電子ビーム15は、各離間したX線ビームを生成して良い。
【0058】
図3は電子エミッタ1’の代替実施例を図示している。ここでアノード5’は環状アノード5’として供される。電子ビーム15は、環状アノード5’の内側開口部17を通過して良い。
【0059】
図4は電子エミッタ1’’の代替実施例を図示している。ここでアノード5はまたX線標的19としても機能する。カソード3上の局所領域11から放出される電子ビーム15は、電源13を用いてアノード5とカソード3との間に印加された電圧によって加速される。この実施例では、アノード5はタングステンの薄いホイルで作られる。電子ビーム15がアノード5の薄いホイルに衝突する際、電子はホイル内部で減速されることで、ホイルを透過して、アノード5の対向する面でX線ビーム102として放出される制動放射を発生させる。従ってアノード5はX線標的19としても機能する。
【0060】
図5は、図4に図示された電子エミッタと同様の電子エミッタを有するX線画像取得装置の側面を図示している。X線管100’のアノード/標的5/19で生成されるX線ビーム102は、被検体104へ向かって放出される。続いて対象物104を透過するX線102は、X線検出器106上に投影される。検出器106は、各独立したX線102の重なり合うビームを有する全体画像を検出する。続いて全体画像は画像処理装置108へ送信される。ここで全体画像は、最終画像110を生成するため、デコンボリューションされる。このデコンボリューションのため、標的19で放出されるX線強度分布を知ること、又は、このX線強度分布は電子エミッタ1’’内の局所領域の配置に依存するので、局所領域11を有する電子放出パターン9の配置及び寸法に関する厳密な情報を有することは、重要となるだろう。
【0061】
図6及び図7は、電子エミッタ1’’’とX線画像取得装置200’の他の実施例を図示している。ここでアノード5’は固体の楔形として供されることで、傾斜した標的19’が生成される。局所領域11からの電子ビーム15は、標的19’の一面からこの傾斜した標的に衝突する。制動放射が発生する。この制動放射は、傾斜した標的19’の同一面でX線として放出されるが、電子ビーム15の方向に対して約90°の角度をなしている。続いてX線ビーム102は、対象物104を透過して、X線検出器106上で検出される。X線検出器106は最終的に、検出結果を画像処理装置108へ送信する。
【0062】
図8及び図9は、本発明の実施例による電子エミッタ1のカソード3の表面の上面を概略的に図示している。図8では、電子放出パターン9は、行と列に配列されたそれぞれの局所領域11からなる単純なマトリックスである。ここで局所領域11の幅は、隣接する局所領域11間の間隔sよりもはるかに−たとえば1/2未満−小さい。当然のこととして、局所領域11は長方形である必要はなく、任意の適切な形状を有して良い。画像処理装置108内での最終画像のデコンボリューションにとっては、電子放出パターン9の全体的な幾何学形状−特に局所領域11の形状−、たとえば幅wのような横方向寸法、及び、それぞれの隣接する局所領域11間の間隔sに関する厳密な情報を有することが重要になると想われる。標的19で生成される横方向のX線強度分布に関する情報を有するため、さらに情報は、電子放出パターン9の幾何学形状が、電界放出された電子ビーム15によって、標的19上に投影される過程として取得できなければならない。
【0063】
図9は、均一かつ冗長なアレイとして実現された電子放出パターン9’の別例を図示している。
【0064】
図10は、図8の線A-Aに沿って図示されている電子放出パターン9によって放出される電子の強度分布21を上のグラフに図示している。電子強度は局所領域11の領域で最大となる一方で、中間の空間領域では、電子強度はほとんどゼロであることが分かる。従って電子エミッタ1の横方向の表面に沿った電子ビームの分布は、電子放出パターン9に強く対応する。図10の下のグラフでは、電子エミッタ1によって放出される電子が標的19に衝突することによって生成されるX線の強度分布23が、図8の線A-Aに沿って図示されている。X線強度分布23は依然として、電子放出パターン9の幾何学形状に対して良好な相関を有していることが分かる。
【0065】
図11は、X線画像取得装置200の例を表すCアームX線システムを図示している。X線源100及び検出器106は、対象物104に対して並進及び枢動可能なCアームにて配置されている。検出器のデータは画像処理装置108へ送信されて良い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カソードとアノードを有するX線管の電子エミッタであって、
前記カソードは、互いに離間する複数の局所領域からなる電子放出パターンを有し、
各領域は、前記カソードと前記アノードとの間に電界を印加する際の電界放出によって、局所的に電子を放出するように構成されている、
電子エミッタ。
【請求項2】
局所領域の幅は、最隣接する局所領域への距離よりも短い、請求項1に記載の電子エミッタ。
【請求項3】
前記局所領域には巨視的に粗い表面が供される、請求項1又は2に記載の電子エミッタ。
【請求項4】
前記局所領域は、カーボンナノチューブで作られた表面層を有する、請求項1乃至3のうちいずれか1項に記載の電子エミッタ。
【請求項5】
前記電子放出パターンの局所領域が、平面内において2次元的に配置される、請求項1乃至4のうちいずれか1項に記載の電子エミッタ。
【請求項6】
前記電子放出パターンが均一かつ冗長なアレイを有する、請求項1乃至5のうちいずれか1項に記載の電子エミッタ。
【請求項7】
請求項1乃至6のうちいずれか1項に記載の電子エミッタ、及び、加速電子が衝突した際にX線を放出するように構成された標的領域を有するX線管であって、
当該X線管の構成は、前記電子エミッタのカソードからなる電子放出パターンの領域から放出される電子が、前記電子放出パターンに対応するパターン中の標的領域に衝突するようになされる、
X線管。
【請求項8】
前記標的領域は透過標的として構成され、それにより、前記標的領域一の面からの電子が衝突する際、前記標的領域の一の面と対向する面でX線が放出される、請求項7に記載のX線管。
【請求項9】
前記標的領域は傾斜した標的として構成され、それにより、前記標的領域の一の面からの電子が衝突する際、前記衝突する電子の方向に対してある角度をなす方向へ向かって、X線が前記の標的領域の一の面で放出される、請求項7に記載のX線管。
【請求項10】
前記電子エミッタのカソードとアノードとの間に電圧を印加するように構成された電源をさらに有するX線管であって、それにより少なくとも1kV/mmの電場が発生する、請求項7乃至9のうちいずれか1項に記載のX線管。
【請求項11】
請求項7乃至9のうちいずれか1項に記載のX線管、X線検出器、及び画像処理装置を有するX線画像取得装置であって、
前記X線検出器は、前記X線管からのX線強度分布を検出するように構成され、かつ
前記画像処理装置は、前記の検出された強度分布及び電子放出パターンの情報に基づいて画像情報を得るように構成される、
X線画像取得装置。
【請求項12】
前記画像処理装置は、符号化された線源イメージングを行うように構成された、請求項11に記載のX線画像取得装置。
【請求項13】
対象物の取得方法であって:
互いに離間した複数の局所領域からなる電子放出パターンから電子を放出する手順であって、各領域は、カソードとアノードとの間に電界を印加する際の電界放出によって局所的に電子を放出するように構成されている、手順;
前記電子放出パターンから放出される電子の衝突によってX線を発生させる手順;
前記X線を前記対象物に透過させる手順;
X線の強度分布を検出するように構成されたX線検出器によって前記の透過したX線を検出する手順;及び、
前記の検出した強度分布と前記電子放出パターンに基づいて前記画像を得る手順;
を有する方法。
【請求項14】
処理装置上で実行されるときに、請求項13に記載の方法を制御するように構成されているコンピュータプログラム。
【請求項15】
請求項14に記載のコンピュータプログラムを記憶された状態で有するコンピュータにより読み取り可能な媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図10】
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【図11】
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【公表番号】特表2012−522332(P2012−522332A)
【公表日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−501454(P2012−501454)
【出願日】平成22年3月22日(2010.3.22)
【国際出願番号】PCT/IB2010/051230
【国際公開番号】WO2010/109401
【国際公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【出願人】(590000248)コーニンクレッカ フィリップス エレクトロニクス エヌ ヴィ (12,071)
【Fターム(参考)】