X線CT装置及び画像処理方法
【課題】CT画像に基づいて褐色脂肪を識別し、褐色脂肪量を求められるようにする。
【解決手段】CT画像S101を構成する各画素のCT値に基づいて、S103において候補画素群が抽出される。その候補画素群に対して誤認画素除外処理S104が適用される。誤認画素除外処理S104においては、境界画素除外処理S105、収縮後膨張処理S108などが実行される。これにより、褐色脂肪画素群だけを抽出できる(S109)。
【解決手段】CT画像S101を構成する各画素のCT値に基づいて、S103において候補画素群が抽出される。その候補画素群に対して誤認画素除外処理S104が適用される。誤認画素除外処理S104においては、境界画素除外処理S105、収縮後膨張処理S108などが実行される。これにより、褐色脂肪画素群だけを抽出できる(S109)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はX線CT装置及び画像処理方法に関し、特に、所定組織を抽出するCT画像処理技術に関する。
【背景技術】
【0002】
生体(動物及び人体)の体内には、2種類の脂肪組織(脂肪細胞)が存在していることが知られている。1つは白色脂肪組織(White Adipose Tissue)であり、もう1つは褐色脂肪組織(Brown Adipose Tissue)である。白色脂肪は、エネルギーを中性脂肪の形で蓄え、必要に応じて、エネルギーを全身に提供する働きを有する。褐色脂肪は、高度に発達した体熱産生機能を備えている。褐色脂肪の増加及び活性化は、肥満を引き起こしている白色脂肪の減少をもたらす。そこで、近年、医療分野において、褐色脂肪が注目されている。ちなみに、白色脂肪は、腹部、臀部、大腿部、背中、上腕、内臓周辺部、等に多く存在している。これに対し、褐色脂肪は、現在の研究によれば、首の後側の部位、背中における肩甲骨の付近等、特定の部位にしか存在しない。
【0003】
従来、特許文献1に記載されているように、CT画像に基づいて、皮下脂肪と内臓脂肪とを弁別処理する装置が提案されている。しかしながら、褐色脂肪を自動的に識別、抽出する装置及び方法は未だ提供されていない。
【0004】
【特許文献1】特開2003−339694号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
CT画像上で褐色脂肪を定量化するために、CT画像を目視観察しながら、褐色脂肪を手作業で指定、識別することが考えられる。しかしながら、手作業によると、褐色脂肪の定量結果の客観性あるいは信頼性が低下する。特に、CT画像上において褐色脂肪を他の組織から明確に区別できない場合、識別の精度が大きく低下する。また、手作業によると、大きな労力が発生し、また、迅速な処理を行えない。とりわけ、複数のCT画像に基づいて褐色脂肪の体積を求める場合に、上記問題はより深刻なものとなる。
【0006】
本発明の目的は、CT画像に基づいて褐色脂肪を自動的に識別できるようにすることにある。
【0007】
本発明の他の目的は、CT画像に基づいて褐色脂肪を精度良く識別できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)本発明に係るX線CT装置は、被検体に対してX線ビームを照射するX線発生器と、前記被検体を透過したX線ビームを検出するX線検出器と、前記被検体に対して前記X線ビームを相対的に回転させる回転機構と、前記X線検出器の出力信号に基づいてCT画像を形成する画像形成部と、前記CT画像に対する画像処理により、前記被検体中の褐色脂肪をそれ以外の組織から識別する画像処理部と、を含むことを特徴とする。
【0009】
上記構成において、X線発生器によってX線ビームが照射されると、そのX線ビームは被検体を透過した後、X線検出器で検出される。X線ビームは被検体に対して相対的に回転走査される。この場合、Xビームを回転させてもよいし、被検体を回転させてもよい。複数のCT画像を形成するために、X線ビームに対して被検体が移動走査される。この場合、被検体を移動させてもよいし、X線ビームを移動させてもよい。画像形成部は、X線検出器の出力信号に基づいてCT画像を形成する。画像処理部は、CT画像に対して褐色脂肪を抽出する画像処理を実行する。抽出された褐色脂肪に対して定量演算を行ってもよいし、抽出された褐色脂肪を画像表示するようにしてもよい。被検体は動物又は人体である。
【0010】
本発明に係るX線CT装置は、従来のX線CT装置には搭載されていない褐色脂肪計測機能を具備する。同機能の実行によって、CT画像の解析によって褐色脂肪を自動的に抽出することができるので、手作業による抽出の場合に生じる各種の問題を解消することができる。すなわち、本発明によれば、高い精度で抽出を行うことができ、また客観的な基準によって自動的に抽出処理が遂行されるので、再現性が良好であり、それ故、計測結果の信頼性を高めることができる。なお、ユーザーによって指定された二次元又は三次元の関心領域内において褐色脂肪の自動抽出を行うようにしてもよい。
【0011】
(2)本発明に係る画像処理方法は、被検体に対するX線CT計測によって得られたCT画像を処理する画像処理方法において、前記CT画像を構成する画素集合の中から、各画素が有するCT値に基づいて、褐色脂肪に属する可能性がある候補画素群を抽出する第1抽出工程と、前記候補画素群に対して、誤認画素除外処理を適用し、これによって褐色脂肪画素群を抽出する第2抽出工程と、を含むことを特徴とする。
【0012】
上記構成によれば、CT画像上において、CT値を基準として候補画素群を識別した上で、その候補画素群に含まれる誤認画素を除外して、褐色脂肪画素群を特定することができる。例えば、白色脂肪と筋肉との間の境界、薄い筋肉層、などにおいては、褐色脂肪画素のCT値と同じようなCT値をもった画素が発現する場合がある。そのような誤認画素を除外する処理を行えば、褐色脂肪の識別精度や定量演算結果の信頼性を高められる。
【発明の効果】
【0013】
以上説明したように、本発明によれば、CT画像に基づいて褐色脂肪を自動的に識別できる。本発明によれば、CT画像に基づいて褐色脂肪を精度良く識別できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の好適な実施形態を説明する。
【0015】
(1)実施形態に係るX線CT装置の概略
本実施形態のX線CT装置は、後に詳述するように、X線発生器、X線検出器、回転機構、走査機構、画像形成部、画像処理部、及び、演算部、を有する。画像形成部は、第1抽出部(第1抽出機能)及び第2抽出部(第2抽出機能)を有する。第1抽出部は、CT画像を構成する画素集合の中から、各画素が有するCT値に基づいて、候補画素群を抽出する。各候補画素は、褐色脂肪に属する可能性がある画素である。第2抽出部は、候補画素群に対して誤認画素除外処理を適用し、これによって褐色脂肪画素群を抽出する。抽出された褐色脂肪画素群は、褐色脂肪画像を構成する。候補画素群に誤認画素が含まれていないあるいはほとんど含まれていないような場合、第1抽出部のみを設け、候補画素群をそのまま褐色脂肪画素群とみなすこともできる。但し、通常、候補画素群には様々な誤認画素が含まれるので、後述するような各種の誤認画素除外処理が適用される。演算部は、識別された褐色脂肪に基づいて褐色脂肪量を演算し、また、褐色脂肪量に基づいて被検体内における褐色脂肪の存在割合に関わる評価値を演算する。褐色脂肪量(及び後述する他の組織量)は、画素数、面積、体積又は重量に相当するものである。
【0016】
上記の画像形成部、画像処理部及び演算部は、それぞれ、専用ハードウエアとして構成され、あるいは、ソフトウエアの機能として実現される。測定対象となる被検体は、動物又は人体である。動物としてはラット、マウス、ハムスターなどの小動物をあげることができる。また、犬、猫、豚などを測定対象とすることもできる。
【0017】
望ましくは、第1抽出部は、画素集合を構成する各画素ごとに、そのCT値が所定範囲内に入るか否かを判定し、所定範囲内にCT値が入る画素を候補画素として特定する。すなわち、各組織は概ね一定範囲内のCT値を有するので(但し、一定範囲は各装置の構成及び動作条件に依存して定められる)、CT値を基準として各組織を識別することができる。所定範囲の上限は、筋肉の標準CT値と褐色脂肪の標準CT値との間のCT値として定められ、所定範囲の下限は白色脂肪の標準CT値と褐色脂肪の標準CT値の間のCT値として定められる。但し、このような候補画素群には、上述したように、一般に、褐色脂肪画素でない画素(誤認画素)が含まれるので、それを除外するために第2抽出部が設けられている。
【0018】
望ましくは、第2抽出部における誤認画素除外処理には併存判定処理が含まれる。併存判定処理では、注目候補画素の周囲に、第1閾値よりも高いCT値をもった画素が存在し、且つ、第2閾値よりも低いCT値をもった画素が存在する場合に、当該注目候補画素が誤認画素として除外される。発明者の実験研究によれば、例えば、筋肉と白色脂肪との間において、見かけ上、褐色脂肪のCT値と同じようなCT値をもった画素が生じる可能性がある。筋肉のCT値は褐色脂肪のCT値よりも高く、白色脂肪のCTは褐色脂肪のCT値よりも低いため、両者間の境界で、中間的なCT値が演算されることがあるためである。これに対して、上記の併存判定処理を適用すれば、境界構造の特質を利用して誤認画素を除外できる。
【0019】
望ましくは、第2抽出部における誤認画素除外処理には隣接処理が含まれる。隣接処理では、CT画像において所定条件を満たす非褐色脂肪画素が特定され、当該非褐色脂肪画素に隣接して隣接候補画素が存在する場合に、当該隣接候補画素が誤認画素として除外される。望ましくは、所定条件は、第3閾値よりも高いCT値をもった画素を前記非褐色脂肪画素とする条件であり、あるいは、第4閾値よりも低いCT値をもった画素を前記非褐色脂肪画素とする条件である。この構成によれば、褐色脂肪でない組織(つまり、非褐色脂肪画素)を基準とし、当該組織に隣接して候補画素が存在する場合に、それが誤認画素として特定される。例えば、組織境界や薄い筋肉層においては、褐色脂肪のCT値と同じようなCT値を有する画素が生じてしまうこともあるが、上記構成によれば、そのような誤認画素を除外できる。
【0020】
望ましくは、第2抽出部における誤認画素除外処理には収縮膨張処理が含まれる。収縮膨張処理では、候補画素群に対して収縮処理が施された後、収縮処理後の候補画素群に対して膨張処理が施される。収縮処理によると、薄い誤認層を消去できるものの、真の褐色脂肪領域の周囲も削られてしまうが、その後に膨張処理を行えば、真の褐色脂肪領域だけをほぼ元通りに復元できる。よって、定量演算の精度を高められる。収縮処理がN回実行される場合(但しN≧1)、膨張処理もN回実行される。いずれにしても、真の褐色脂肪領域よりも誤認組織領域の方が薄いあるいは小さいような場合に、この収縮膨張処理は有効である。また、この収縮膨張処理によれば、孤立して存在する誤認画素を除去することもできる。
【0021】
望ましくは、X線発生器の駆動電圧を切り換える電圧切換部が設けられる。通常計測モードでは、X線発生器の駆動電圧として高電圧が選択され、一方、褐色脂肪計測モードでは、X線発生器の駆動電圧として低電圧が選択される。望ましくは、X線ビームの回転速度を切り換える回転速度切換部が設けられる。通常計測モードでは、X線ビームの回転速度として高速が選択され、一方、褐色脂肪計測モードでは、X線ビームの回転速度として低速が選択される。
【0022】
本実施形態のX線CT装置は、褐色脂肪の定量演算により求められた褐色脂肪量を基礎として評価値を演算する機能を有する。すなわち、画像処理部は、CT画像に基づいて被検体内における褐色脂肪を含む複数の組織を識別し、演算部は、画像処理部の画像処理結果に基づいて、褐色脂肪量を含む複数の組織量を演算し、複数の組織量に基づいて評価値を演算する。この構成によれば、褐色脂肪量だけでなく褐色脂肪以外の組織の組織量が反映された評価値を得られる。よって、被検体を総合的にあるいは客観的に評価することが可能となる。この構成によれば、例えば、大きさ(体格)が異なる被検体間で測定結果を客観的に比較することが可能となり、また、肥満度合いあるいは肥満に成りにくさを総合評価することが可能となる。更に、褐色脂肪の存在率の観点から体質評価を行うことが可能となる。
【0023】
望ましくは、評価値は、褐色脂肪量を複数の組織量の総和で割る計算によって求められる褐色脂肪率である。望ましくは、評価値は、褐色脂肪量を被検体の体重で割る計算によって求められる褐色脂肪率である。望ましくは、複数の組織量には、褐色脂肪量の他に、白色脂肪量が含まれ、評価値は、褐色脂肪量を、褐色脂肪量と白色脂肪量とを加算した値で割る計算によって求められる脂肪内褐色脂肪含有率である。望ましくは、複数の組織量には、褐色脂肪量の他に、筋肉量及び白色脂肪量が含まれ、評価値は、褐色脂肪量と筋肉量とを乗算した値を白色脂肪量で割る計算によって求められる抗肥満パラメータである。望ましくは、複数の組織量には、褐色脂肪量の他に、筋肉量及び内臓脂肪量が含まれ、評価値は、褐色脂肪量と筋肉量とを乗算した値を内臓脂肪量で割る計算によって求められる抗肥満パラメータである。
【0024】
(2)実施形態に係るX線CT装置の詳細
図1には、X線CT装置における測定部10の一例が示されている。実施形態のX線CT装置は、特に動物実験で利用されたマウス、ラット、モルモット、ハムスターなどのネズミ類のCT測定を行うための装置である。それらの小動物から分離された組織が測定対象となってもよい。このX線CT装置は、後に図2に示すように、測定部10と演算制御部とによって構成される。
【0025】
測定部10は、ガントリ18を備えた本体16を有する。本体16の上面16Aには開口が形成され、その開口からアーム26が上方に突出している。アーム26は後述するスライド機構の一部をなすものであり、そのアーム26は容器24に連結され、容器24を回転中心軸方向にスライド運動(移動走査)させる。
【0026】
一方、ガントリ18内には、後述する測定ユニット(X線発生器、X線検出器)が収納され、それらは回転中心軸回りにおいて回転運動する。ガントリ18の中央部には回転中心軸方向に空洞部18Aが形成されている。この空洞部18Aは非貫通型であるが、貫通型としてもよい。
【0027】
容器24は、本実施形態において、検体(小動物やそこから摘出された組織など)を収納するカプセルであり、その容器24は本実施形態においてほぼ円筒形状を有する。容器24は、その容器中心軸が回転中心軸に一致した状態で配置される。具体的には、容器24の基端部が上述したアーム26の上端部に着脱自在に装着される。この場合において、着脱機構としては各種の係合機構あるいはネジ止め機構などを挙げることができる。上述したように、容器24は中空の円筒形状を有しており、その内部には本実施形態において1又は複数の小動物が配置される。このような構成により、小動物の体毛が直接的にガントリ18に接触することなどを防止できる。また、小動物の排泄物や離脱体毛などが外部に放出されてしまう問題を防止できる。さらに、小動物を容器24内に固定具によって拘束することが可能となるので、CT画像を再構成する場合における画像ぶれなどの問題を防止することができる。なお、サイズや形状が異なる複数種類の容器を用意して、容器を選択的に使用するのが望ましい。
【0028】
アーム26に対して容器24が装着された後、アーム26が回転中心軸方向に沿って前方に駆動され、これにより、ガントリ18の空洞部18A内に容器24が差し込まれる。この時、検体における測定位置にX線ビームが設定されるように、容器24の位置決めがなされる。また、そのような測定位置は連続的にあるいは段階的に変更される。その結果、所定ピッチで空間的に整列した多数のCT断面が形成される。
【0029】
本体16の上面16A上には操作パネル20が設けられており、この操作パネル20は複数のスイッチや表示器などを有する。この操作パネル20を利用してユーザーは測定現場において装置の動作を操作することが可能となる。本体16の下方には複数のキャスター22が設けられている。
【0030】
本実施形態では、ガントリ18内における測定ユニットの回転速度を段階的にあるいは連続的に可変することができる。また、ガントリ18内におけるX線発生器の駆動電圧を段階的にあるいは連続的に可変することができる。後述するように、通常計測モードでは、高回転速度(又は通常回転速度)、且つ、高電圧(又は通常電圧)が選択される。一方、褐色脂肪計測モードでは、低回転速度が選択され、且つ、低電圧が選択される。後述する演算制御部は、回転速度の切換機能及び電圧の切換機能を具備する。
【0031】
図2には、本実施形態に係るX線CT装置の構成がブロック図として示されている。測定部10においては、回転中心軸Oを間において、一方側にX線発生器52が設けられ、他方側にX線検出器60が設けられている。X線発生器52の照射側にはコリメータ54が設けられている。X線発生器52は図示されるように末広あるいは扇状の(つまりファンビーム形状の)X線ビーム56を生成する。一方、X線検出器60は複数の(例えば100個)のX線センサを一列に並べたものとして構成され、X線ビーム56の開き角度に応じてX線の受光開口が設定される。ちなみに、複数のX線センサの配列は直線的であってもよいし、円弧状であってもよい。本実施形態では、高感度型のX線センサが利用されている。なお、図2においては、X線発生器52に接続された電圧源、及び、X線検出器60に接続された信号処理回路などについては図示省略されている。
【0032】
図2において、符号58は有効視野を示している。これは、X線ビーム56を回転走査させた場合におけるCT画像を構成可能な円形の領域である。ちなみに、この有効視野58は、回転中心軸、X線発生器52、及び、X線検出器60の位置関係に応じて定まるものである。本実施形態においては、変位機構62が設けられているため、それらの位置関係を変更してCT画像の倍率を機械的に可変することが可能である。
【0033】
すなわち、変位機構62には、X線発生器52及びX線検出器60が連結されており、変位機構62は、X線発生器52及びX線検出器60の間の距離を維持したまま、それら(つまり測定ユニット)をX線ビーム56のビーム軸方向に変位させる。この場合において、回転中心軸Oは不変であり、すなわち上述した容器を何ら移動させることなく測定ユニット側を移動させて倍率の変更を行い得る。なお、変位機構62は変位力を発生するためのモータ62Aを備えている。
【0034】
ガントリ回転機構66は、回転ベースを回転させることにより、それに搭載された変位機構を含む各構成の全体を回転駆動する機構である。変位機構62には、測定ユニットが搭載されているため、変位機構62によって所望の位置に位置決めされた測定ユニットがその位置を保持したまま回転駆動されることになる。ガントリ回転機構66は、その駆動力を発生するためのモータ66Aを有する。
【0035】
スライド機構68は図1に示したアーム26をスライド運動させる移動機構であり、その駆動力はモータ68Aによって発生される。操作パネル20は上述したように本体の上面に設けられる。測定部10側に設けられたローカルコントローラ(図示せず)に対して操作パネル20を接続し、そのローカルコントローラと演算制御部12とが相互に通信を行うように構成してもよい。
【0036】
ちなみに、図2には、様々な機構62,66,68などが示されているが、それらの機構による位置あるいは位置変化を検出するためにセンサを設けるのが望ましい。そして、それらのセンサの出力信号に基づいて演算制御部12がフィードバック制御を行うようにするのが望ましい。また、変位機構62による倍率の可変はユーザー入力により行わせてもよいし、例えば被検体サイズあるいは容器のサイズを自動検知し、その検知したデータに基づいて自動的に倍率を設定するようにしてもよい。さらに、あらかじめ容器の種別などが登録される場合においては、その登録された情報を利用して倍率の設定を行うようにしてもよい。さらに、図2に示す例では、スライド機構68が駆動源としてのモータ68Aを有していたが、そのスライド力を人為的に発生させるようにしてもよい。
【0037】
次に、演算制御部12について説明する。プロセッサ30には、表示器32、記憶装置34、キーボード36、マウス38、プリンタ40などが接続されている。また、外部装置との間でネットワークを介して通信を行うための通信部42が接続されている。
【0038】
プロセッサ30は、CPU及び各種プログラムによって構成されるものである。図2にはその代表的な機能が示されており、プロセッサ30は、動作制御部44、画像形成部46、画像処理部70、演算部72などを有している。必要に応じて、スカウト画像形成部などを設けるようにしてもよい。
【0039】
動作制御部44は、測定部10における全体動作を制御している。動作制御部44は、回転速度を切り換える機能、X線発生器52の駆動電圧を切り換える機能、等を有する。回転速度及び駆動電圧をユーザーが指定するようにしてもよい。あるいは、ユーザーによって計測モードが選択された場合、その選択された計測モードに応じて、自動的に回転速度及び駆動電圧が設定されるようにしてもよい。
【0040】
本実施形態に係るX線CT装置は、通常計測モード及び褐色脂肪計測モードを具備する。通常計測モードにおいては、高い回転速度が選択され、且つ、高い電圧が選択される。褐色脂肪計測モードにおいては、低い回転速度が選択され、且つ、低い電圧が選択される。本発明者の実験研究によれば、高感度型のX線センサを利用しつつ、上記のような動作条件の変更によって、CT画像上において褐色脂肪を良好に弁別できることが判明している。
【0041】
マウス等の小動物を計測対象とした場合、通常計測モードにおいては、回転速度として例えば毎分10回転が選択され、且つ、駆動電圧として例えば70kVが選択される。一方、褐色脂肪計測モードにおいては、回転速度として例えば毎分1回転が選択される。その場合、駆動電圧は、20−100kVの範囲内において設定可能であるが、望ましくは30−70kVの範囲内に設定され、特に望ましくは30−50kVの範囲内に設定される。なお、本発明者の実験に利用した装置は、アロカ株式会社製、X線CT装置(製品名:LaTheat(登録商標)、型式:LCT−100)である。各数値条件については、被検体の種類、X線CT装置の構成、等に応じて変わり得る。
【0042】
画像形成部46は、X線ビームの回転走査によって得られる多くのデータに基づきCT画像を構成する演算を実行する。CT画像の再構成演算に当たっては公知の各種の手法を利用することが可能である。
【0043】
画像処理部70は、CT画像上において、各画素が有するCT値に基づいて、各組織(骨、筋肉、白色脂肪、褐色脂肪、など)を識別する機能を有する。特に、CT画像に対して第1抽出処理及び第2抽出処理を適用し、これによって褐色脂肪群(褐色脂肪像)のみを抽出する新しい機能を有する。抽出された褐色脂肪は画像化され、あるいは、定量演算される。褐色脂肪の抽出方法については後に詳述する。
【0044】
演算部72は、画像処理結果にもとづいて、各組織を定量評価するための演算を実行する。特に、褐色脂肪について褐色脂肪量(面積、体積、重量など)を演算する機能を有し、更に、褐色脂肪量に基づいて所定の評価値を演算する機能を有する。評価値の演算方法については後に詳述する。
【0045】
表示器32には、CT断層画像、計測結果等が表示される。表示器32に、スカウト画像を背景画像として褐色脂肪画像を重合して表示するようにしてもよい。その場合、背景画像を白黒画像とし、褐色脂肪画像を着色画像としてもよい。また、そのような重合画像を三次元画像として構築することも可能である。
【0046】
図3には、本実施形態のX線CT装置によって形成されたCT画像の一例が示されている。このCT画像はマウスの断層画像である。WATは白色脂肪を示し、BATは褐色脂肪を示している。上述した最適な動作条件の下、CT画像上において、褐色脂肪が比較的明瞭に現れている。当該動作条件の下では、各組織の平均(標準)CT値及び識別範囲は以下のようになる。
【表1】
【0047】
上記のように、褐色脂肪のCT値は、白色脂肪のCT値よりも高く、且つ、筋肉のCT値よりも低い。但し、装置の動作条件が最適化されていない場合、褐色脂肪と白色脂肪の弁別は非常に困難となる。つまり、両者のX線吸収量がほぼ同じ値となってしまう。よって、X線の特性を活用するように、装置の動作条件を適宜変更し、褐色脂肪計測のための最適な条件を見出すのが望ましい(特に、白色脂肪と褐色脂肪との間におけるCT値の差を拡大できる条件を見出すのが望ましい)。動作条件が最適化された状態では、上記の表から理解できるように、各画素のCT値に基づいて、各画素が属する組織を特定することが可能である。但し、後述するように、例えば、白色脂肪と筋肉との境界等においては中間的なCT値をもった画素(誤認画素)が生じる。褐色脂肪を精度良く抽出するためには、そのような誤認画素を除外することが望まれる。
【0048】
(3)褐色脂肪の抽出
次に、図4−図16を用いて、CT画像からの褐色脂肪の抽出方法について説明する。最初に図4には抽出処理の流れが概念的に示されている。
【0049】
S101で示されるCT画像は、X線検出器から出力されるデータに基づいて、S100で示される再構成演算(画像形成演算)を実行することにより形成される。後に説明する図5にはモデルとして表されたCT画像が示されている。
【0050】
S102は、褐色脂肪の抽出処理の全体を表している。この抽出処理S102は、大別して、第1処理に相当する候補画素群抽出処理S103と、第2抽出処理としての誤認画素除外処理S104と、で構成される。候補画素群抽出処理S103においては、後に図6を用いて説明するように、CT画像から褐色脂肪に相当する可能性がある候補画素群が抽出される。この場合において、CT画像を構成する画素集合の内で、一定の範囲内のCT値を有する画素が候補画素とされる。誤認画素除外処理S104においては、候補画素群に含まれる褐色脂肪画素以外の誤認画素を特定し、それを除外する処理(候補画素でない画素にする処理)が実行される。誤認画素除外処理S104についての具体的な手法として、いくつかの手法をあげることができ、図4においては、後に図8及び図9を用いて説明する境界画素除外処理S105、後に図11を用いて説明する収縮膨張処理S108、後に図15を用いて説明する、高CT値画素の周囲を除外する処理S106、後に図16を用いて説明する、低CT値画素の周囲を除外する処理S107、が示されている。
【0051】
図4に示す誤認画素除外処理S104では、S105が実行された後にS108が実行される。それに代えて、S106を実行した後にS108を実行するようにしてもよい。あるいは、それらに代えて、S107のみを実行するようにしてもよい。
【0052】
いずれにしても、S109で示すように、候補画素群抽出処理S103と、誤認画素除外処理S104と、を実行した結果として、褐色脂肪画素群を抽出することが可能となる。この褐色脂肪画素群は褐色脂肪画像を構成するものである。これについては図12を用いて説明する。褐色脂肪画像が得られると、S110において、褐色脂肪画像に対する表示処理が行われ、あるいは、褐色脂肪を定量演算する処理が実行される。そして、表示器の表示画面上に、褐色脂肪画像が表示され、及び/又は、褐色脂肪量を表す数値が表示される。なお、本実施形態に係るX線CT装置は、更に、評価値演算機能を具備しているが、それに関しては後に図17を用いて説明する。
【0053】
以下に、図4に示した各処理の具体的な内容について詳述する。図5には、モデルとして表されたCT画像74が示されている。各CT画像ごとに以下に説明する画像処理が実行される。図5において、CT画像の座標系としてX軸及びY軸が定義されている。符号76は、白色脂肪を示している。符号80は、皮膚を含む筋肉を示している。82,84はいずれも筋肉を表している。ここで、符号84で示される筋肉は薄い筋肉層である。符号78は、抽出対象となる褐色脂肪を示している。符号92は、白色脂肪76と筋肉82との間の境界を示しており、符号94は筋肉80と白色脂肪76との間の境界を示している。
【0054】
図6には、図4に示した候補画素群抽出処理S103を実行した結果が示されている。すなわち、符号90は候補画素群のみが識別化された画像を表している。本実施形態においては、上記表1にしたがって、CT画像を構成する各画素のCT値に着目し、CT値が所定範囲内に含まれる画素を候補画素として特定している。具体的には、以下の条件を満たす画素を候補画素としている。
【0055】
CTmin < CTxy < CTmax ・・・(1)
【0056】
上記の(1)式において、CTxyは、CT画像上におけるxy座標に位置する画素が有するCT値(HU)を表している。また、CTminは所定範囲の下限を表しており、例えばその値は−170である。また、CTmaxは所定範囲の上限を表しており、例えば、その値は−20である。すなわち、上述した最適な動作条件の下で形成されたCT画像においては、各画素のCT値を参照することにより、褐色脂肪を識別することが可能である。ただし、実際には、識別された画素群に、褐色脂肪以外の組織に属する画素が含まれる可能性があるため、上述した誤認画素除外処理が適用される。具体的には、図6に示されるように、CT値に基づく候補画素群の抽出処理により、符号78Aで示すように褐色脂肪が抽出されるが、それと共に、褐色脂肪以外の組織あるいは部位についても、候補画素として抽出されてしまう。図6に示す例では、筋肉82と白色脂肪76との間の境界92Aにおいて、褐色脂肪でないにもかかわらず、褐色脂肪と同じようなCT値を呈することになり、境界92A上の各画素が候補画素として抽出されてしまう。また、白色脂肪76と筋肉80との間の境界94Aについても中間CT値が発現し、その境界94A上の各画素が候補画素として抽出されてしまう。さらに、薄い筋肉84A上の各画素が候補画素として抽出されてしまう。したがって、そのような誤認画素群を除外することが求められる。
【0057】
なお、褐色脂肪が存在する部位は、一般に、首の後部、背中の特定部位だけであるので、褐色脂肪の定量計測にあたっては、被検体における特定部位のみに対してCT計測を行うようにすればよい。もちろん、全身に対してCT計測を行うようにしてもよい。
【0058】
上記の中間CT値が生じるのは、上記の表1で示したように、白色脂肪は褐色脂肪よりも低いCT値を有し、一方、筋肉は褐色脂肪よりも高いCT値を有するため、白色脂肪と筋肉との境界においては褐色脂肪と同等のCT値が観測されてしまうためである。そこで、以下に誤認画素の除外処理について詳述する。
【0059】
まず、図4に示した境界画素除外処理S105について説明する。図7には、筋肉82と白色脂肪76との間における境界92Aが部分拡大図として示されている。筋肉82は複数の筋肉画素96によって構成され、白色脂肪は複数の白色脂肪画素98によって構成されている。境界92A上には、上記の中間CT値をもった複数の画素100が並んでいる。
【0060】
境界画素除外処理においては、各候補画素ごとにフィルタリング処理が適用される。そのフィルタリング処理においては、図8に示すように、注目候補画素Qの周囲に存在する所定個(例えば8個)の画素R1−R8が参照され、それらの画素R1−R8の中に、第1閾値(例えばCTmax)よりもCT値が高い画素が少なくとも1つ含まれ、かつ、所定の第2閾値(例えばCTmin)よりもCT値が低い画素が少なくとも1つ含まれる場合に、すなわち、高CT値画素と低CT値画素が併存する場合に、当該注目候補画素が誤認画素として特定され、それが候補画素群から除外される。
【0061】
すなわち、上記のような特定の境界においては筋肉と白色脂肪とが隣接しているため、境界上にフィルタを設定すると、それが2つの領域にまたがって設定されることになり、フィルタ内に、高CT値画素と低CT画素とが同時に取り込まれることになる。そこで、そのような境界構造の特質を利用して誤認画素が特定される。
【0062】
図9には、上記のフィルタリングすなわち併存判定処理の幾つかの適用事例が示されている。(A)の場合、注目候補画素Qの周囲に存在する全ての画素104が候補画素であり、この場合においては、注目候補画素Qは除外対象とはならない。(B)の場合、注目候補画素Qの周囲に1つの白色脂肪画素98と1つの筋肉画素96とが存在しており、この場合においては、併存判定条件が満たされるため、注目候補画素Qが除外対象とされる。(C)の場合、注目候補画素Qの周囲には候補画素104の他にいくつかの白色脂肪画素98及び1つの筋肉画素96が存在しているため、上記の併存判定条件が満たされ、結果として、注目候補画素が除外対象とされる。更に、(D)の場合、注目候補画素Qの周囲に複数の候補画素104と複数の筋肉画素96とが存在しているが、高CT値画素は存在していないため、この場合においては注目候補画素Qはそのまま保存される。
【0063】
上記の処理例では、注目候補画素の周囲8画素を参照したが、注目候補画素を中心として上下及び左右に隣接する4画素のみを参照するようにしてもよいし、注目候補画素からの距離が2画素以内の範囲(つまり15画素)を参照するようにしてもよい。また、三次元的なフィルタを用いることも可能である。
【0064】
図10には、上記の境界画素除外処理を実行した結果が示されている。すなわち、画像106においては、図6に示した画像90との対比から明らかなように、境界92A,94A上に存在していた候補画素列が除去されている(92B,94B参照)。ただし、上記のような境界画素除外処理を適用したとしても、図10に示されるように、薄い筋肉層84Aについては、画像の空間分解能にもよるが、効果的に除去できない場合がある。そこで、図4に示したように、そのような薄い筋肉層84Aに属する候補画素を除外するために、収縮膨張処理が実行される。
【0065】
図11には、収縮膨張処理の内容が例示されている。(A)には収縮膨張処理を行う前の画像(一部分)が示されている。符号110は褐色脂肪を示しており、その全体を覆って複数の候補画素104が特定されている。また、符号108は薄い筋肉層を表しており、本来であればそれは筋肉画素で満たされるはずであるが、その薄い筋肉層108の周囲に白色脂肪層が存在していることに起因し、薄い筋肉層108には、複数の候補画素104が与えられている。なお、符号98は白色脂肪画素を示している。
【0066】
このような画像に対してN回の収縮処理が適用された後、N回の膨張処理が適用される。Nは1以上の整数であって、ユーザーにより又は自動的に設定される。収縮処理においては、個々の候補画素を注目候補画素とし、注目画素ごとにその周囲8画素が参照され、その8画素内に少なくとも1つの白色脂肪画素が含まれている場合には、当該注目候補画素が誤認画素と判断され、それが候補画素群から除外される。その場合、例えば、当該注目候補画素が白色脂肪画素に置換される。図11における(B)には(A)に示した画像に対して1回の収縮処理を適用した結果が示されている。図示されるように、(A)に示す画像において存在していた薄い筋肉層108は消去されており、これに伴って、褐色脂肪110についてもその周囲が削除されて、そのサイズが小さくなっている(110A参照)。
【0067】
膨張処理においては、収縮処理後の画像上において、各白色脂肪画素を注目白色脂肪画素とし、各注目白色脂肪画素ごとにその周囲8画素が参照され、その中に、候補画素が含まれている場合には、その注目白色脂肪画素を候補画素に置換(復元)する処理が実行される。その処理結果が図11における(C)に示されている。(B)に示した画像との対比から明らかなように、符号110Bで示される褐色脂肪は元のサイズまで復元している。もちろん、収縮膨張処理を経ると、褐色脂肪についての元の形状を完全に復元することは一般に困難であるが、ほぼ原型を復元することができる。
【0068】
ちなみに、除外すべき薄い筋肉層の厚みが2画素以下の場合には、1回の収縮処理及び1回の膨張処理だけを行えば十分と思われる。その厚みが2画素よりも大きいような場合には、複数回の収縮処理及びそれと同数の膨張処理を行うのが望ましい。
【0069】
以上のような収縮膨張処理を行った結果として、図12に示すような褐色脂肪抽出処理後の画像112を得ることができる。符号78Aで示される褐色脂肪上の候補画素群のみが残されている。その候補画素群は褐色脂肪画素群とみなされる。したがって、各CT画像ごとに褐色脂肪画素群を構成する画素数をカウントすることにより面積を求めることができ、複数のCT画像について同様の処理を適用すれば、面積の総和(あるいは画素数の総和)から褐色脂肪の体積を求めることができる。更に、その体積に対して一定の係数を乗算することによって、褐色脂肪の重量を演算することも可能である。
【0070】
上記の収縮膨張処理は、以下に説明するように、画像の空間分解能が十分でない場合に特に効果的である。図13及び図14には、CT画像上において、白色脂肪114内に薄い筋肉層116が存在している様子が表されている。図13及び図14において、(A)は候補画素群抽出処理を行う前の画像を示しており、(B)は候補画素群抽出処理を行った後の画像を示している。
【0071】
図13に示されるように、低い空間分解能の場合、(A)に例示されるa〜lまでの12個の画素の内で、(B)に示すb’,c’,e’,f’,g’,i’,j’の7個の画素が候補画素として認識されてしまう。すなわち、本来、筋肉画素として認識されるべき画素が、周囲の白色脂肪の影響を受けて、候補画素として認識されてしまうのである。したがって、このような低い空間分解能の場合には、図9に示した境界画素除外処理だけで、それらの誤認画素を除外することは困難であり、上述した収縮膨張処理を追加的に適用するのが望ましい。一方、図14に示されるように、高い空間分解能の場合には、(A)に示すa〜lまでの12個の画素の内で、候補画素群抽出処理を行った結果として、(B)に示すb’,d’,e’,h’,i’,l’の6個の画素が候補画素となる。それらは概ね2本のライン(2つの候補画素列)を構成し、各ラインの厚みは非常に薄いため、上述した境界画素除外処理を適用すれば、それらの各ラインを構成する複数の候補画素を誤認画素として効果的に除外することが可能となる。したがって、このような高い空間分解能の場合には、必ずしも収縮膨張処理を適用する必要はない(図4のS111参照)。
【0072】
次に、図15及び図16を用いて、図4に示したS106及びS107の処理内容について説明する。それらのS106及びS107は、上記のS105に代替して適用されるものである。もちろん、それらの処理を多重的に適用するようにしてもよい。また、基本的に、S106とS107は選択的に実行されるものである。S106では、CT画像上において、所定の第3閾値(例えばCTmax)以上のCT値を有する画素が特定され、その画素の周囲に存在する複数の画素の中に候補画素が存在すれば、当該候補画素が除外対象とされる。ここで、周囲8画素を参照するようにしてもよいし、あるいは、周囲15画素を参照するようにしてもよい。あるいは、それ以外の個数の画素を参照するようにしてもよい。除外対象となった画素については、候補画素群から除外されるが、その場合においては、必要に応じて、褐色脂肪以外の組織画素に置き換えるようにしてもよい。
【0073】
図15には上記処理S106の具体例が示されている。(A)に示すように、高いCT値をもった筋肉117と白色脂肪120との間の境界118上には、複数の候補画素a〜oが存在している。このような画像に対して上記の周囲画素除外処理を適用すると、(B)に示すような結果が得られる。すなわち、上記の候補画素a〜oはすべて候補画素群から除外され、つまり、それらが候補画素以外の画素(この場合には筋肉画素)に置き換えられる。これが(B)においてa’〜o’で表されている。
【0074】
上記の処理では、褐色脂肪とは明らかに異なる、高いCT値をもった非褐色脂肪組織に着目し、それを基準として、その周囲の候補画素を除外対象とするようにしたが、それとは逆に、褐色脂肪とは明らかに異なる、低いCT値をもった組織(例えば白色脂肪)に着目し、それを基準として、その周囲の候補画素を除外対象とするようにしてもよい。その処理が、図4に示した低CT値画素の周囲を除外する処理S107に相当する。
【0075】
上記S107を図16を用いて具体的に説明する。図16の(A)には図15の(A)に示した画像と同じ画像が示されている。これに対して上記の処理S107を適用すると、白色脂肪を構成する各画素(各白色脂肪画素)が特定され、その各白色脂肪画素ごとに、その周囲に存在する所定個の画素が参照され、その中に候補画素が存在している場合には、その候補画素が除外対象とされる。その処理結果が(B)に示されており、上記同様に、候補画素a〜oが候補画素ではない画素に置換されている。このような処理を行う場合、白色脂肪画素を特定するためには、所定の第4閾値(例えばCTmin)以下のCT値をもった画素を注目画素として特定するようにすればよい。また、その場合において、注目画素周囲における参照範囲については上記同様に状況に応じて任意に設定することが可能である。
【0076】
上記のS107の処理を行った場合、結果として、上記の収縮処理と同様の結果も同時に得られることになるので、図4に示したS108の工程を省略することができる。S106及びS107の工程によっても境界上の候補画素等を除去することが可能であるが、それらの処理によると、褐色脂肪についてもその周囲が一定幅にわたって削除されてしまう可能性がある。したがって、そのような問題が顕著となる場合には、上記のS105及びS108の工程を実行したほうがよい。
【0077】
いずれにしても、以上のような褐色脂肪抽出処理によれば、褐色脂肪を客観的に抽出することができるので、手作業で褐色脂肪の領域を抽出するような場合に比べて、個人間における解析結果のばらつきを防止することができ、計測結果の信頼性を高めることが可能となる。また、上記の各処理は簡単な画像演算を基礎としているため、迅速な処理を期待できる。すなわち、褐色脂肪画像を短時間に形成することができる。
【0078】
以上のような褐色脂肪抽出処理によると、上述したように、褐色脂肪画素群のみが抽出されることになるので、その褐色脂肪画素群を構成する画素数をカウントすれば、処理対象となったCT画像上における褐色脂肪の面積を求めることが可能となる。そして、複数のCT画像にわたって同様の処理を適用すれば、面積の総和として、空間的に存在する褐色脂肪の体積あるいは重量を演算することが可能となる。
【0079】
上記実施形態によれば、従来装置では得られなかった褐色脂肪量を計測することができるので、医療の分野において、疾病診断や健康管理にあたって有用な情報を提供できるという利点がある。なお、上記の第1抽出処理としての候補画素群抽出処理と、上記の第2抽出処理としての誤認画素除外処理については、色々なバリエーションが考えられる。いずれにしても、候補画素を抽出した上で必要に応じて誤認画素を除外するようにすれば、精度の高い抽出結果を得られる。
【0080】
(4)評価値の演算
次に、図17−図18を用いて、褐色脂肪量に基づく評価値の演算について説明する。図17には、評価値演算の流れが概念的に示されている。
【0081】
S201は、各フレームのCT画像を示している。各フレームCT画像ごとに以下に説明する処理が実行される。S202は、組織弁別処理を示している。すなわち、この組織弁別処理S202では、CT画像上において各組織が識別される。ここで、S203は褐色脂肪の抽出処理を示しており、その処理としては図4に示したものが代表例としてあげられる。S204は、白色脂肪抽出処理を示しており、これについても、図4に示したような処理を代表例としてあげることができる。すなわち、白色脂肪についても褐色脂肪と同様のプロセスによって、その抽出を行うことが可能である。
【0082】
S205は、内臓脂肪抽出処理を示しており、S206は、皮下脂肪抽出処理を示している。それらの処理方法としては、例えば、上記の特許文献1に記載された方法などを利用することができる。S207は、筋肉抽出処理を示しており、S208は、骨抽出処理を示している。それらについては公知の手法を適用することができ、すなわち、CT値に基づく弁別処理によって、各組織を識別することが可能である。必要に応じて、組織弁別処理S202に、更に他の抽出処理を組み込むようにしてもよい。
【0083】
S209は、定量演算処理を示している。すなわち、各抽出処理S203−S208により各組織が画像上で抽出されると、S209の定量演算では、それぞれの組織ごとに組織量が演算される。組織量は、画素数、面積、体積又は重量に相当する。例えば、各組織ごとに、複数のフレームにわたって演算された面積あるいは画素数の総和を求めることにより、体積を容易に演算できる。
【0084】
S203A−S208Aは、S209において行われた定量演算結果としての組織量を表している。ちなみに、各組織の体積に対して所定の換算係数(比重)を乗算することによって、各組織の重量を求めることができる。例えば、白色脂肪の比重は0.92(g/cm3)であり、筋肉の比重は1.06(g/cm3)である。このように、各組織の比重が既知であれば、それらの比重を用いて各組織について重量換算を行うことができる。
【0085】
ただし、骨量については、次の演算によって求めることができる。以下の計算式において、BMCは骨量(骨中ミネラルの重量)を示しており、単位はグラムである。
【0086】
【数1】
【0087】
上記の(2−2)式において、BMDxyzは、z番目のフレームにおける座標(x,y)に位置する骨画素の骨密度を表している。その単位は(g/cm3)である。Xは骨画素についてのCT値(HU)を表しており、aは骨密度変換係数としての傾きを示し、bは骨密度変換係数としての切片すなわちオフセット値を表している。つまり、骨画素についてCT値が求まると、上記の(2−2)式から当該画素についての骨密度を求めることができる。
【0088】
また、上記の(2−1)式において、Vは1画素あたりの体積(cm3)を表しており、r及びsは、フレームを構成するX方向及びY方向の画素数を示しており、tはフレーム数を表している。よって、(2−1)式を実行すれば、各画素のCT値から骨全体の重量を求めることができる。
【0089】
ちなみに、上記の係数a,bは、複数のファントムに対して断層撮影を行うことによって、あらかじめ求めることができる。それらの複数のファントムは、それぞれ骨密度が既知であり、かつ、互いに異なる骨密度を有するものである。
【0090】
図18にはファントム実験結果が示されている。横軸はCT値すなわちXであり、縦軸はBMDである。各ファントムについての測定値を図18に示す座標系上にプロットすることにより、それぞれの測定点を結ぶ直線を見出して、上記計算式におけるa,bを容易に特定できる。
【0091】
図17に戻って、評価値演算S210においては、以上のように求められた各組織の組織量に基づいて、以下に説明するような演算を実行して評価値を求めている。
【0092】
本実施形態においては、評価値として、S211に示される「褐色脂肪率」、S212に示される「抗肥満パラメータ」、及び、S213に示される「褐色脂肪含有率」、が演算されている。以下に、それぞれの評価値について説明する。
【0093】
まず、褐色脂肪率について説明する。被検体が大きい場合、一般に、それが有する褐色脂肪の量も多くなる。したがって、大きさの異なる被検体について褐色脂肪量を直接比較しても客観的な評価を行えない。そこで、体格による補正を行うのが望ましい。そのような観点から定められた評価値が褐色脂肪率である。褐色脂肪率は例えば以下の(3)式によって求められる。
【0094】
褐色脂肪量/体重×100(%)・・・(3)
【0095】
上記における体重は、骨量、褐色脂肪量、白色脂肪量及び筋肉量の総和から求めることができる。ここで、各組織量は上記のように重量であってもよいが、体積あるいは面積に相当するものであってもよい。また、体重は体重計あるいは電子天秤などを用いて直接的に計測することも可能である。いずれにしても、褐色脂肪量を、体格を表す何らかの指標を用いて規格化することにより、体格依存による問題を解消することが可能となる。上記以外の計算式を用いて褐色脂肪率を定義することも可能である。
【0096】
次に、抗肥満パラメータについて説明する。抗肥満という観点からみると、白色脂肪量は贅肉であって、それが少ないことが望ましい。一方、筋肉量は基礎代謝量に比例し、それが多い方が肥満になりにくいとも言える。また、褐色脂肪量は白色脂肪の燃焼量に比例すると言えるので、褐色脂肪量は多い方が望ましいと言える。それらの関係を1つの計算式に反映して求められるのが抗肥満パラメータである。その値が大きいほど、肥満に成り難いと認められ、あるいは、肥満でないと認められる。抗肥満パラメータは、例えば、以下のように定義される。
【0097】
褐色脂肪量×筋肉量/白色脂肪量・・・(4)
【0098】
一方、肥満の観点から見ると、内臓脂肪の増加が特に問題であると言われている。そこで、上記式を変形して、以下のような計算式によって、抗肥満パラメータを定義してもよい。
【0099】
褐色脂肪量×筋肉量/内臓脂肪量・・・(5)
【0100】
次に、脂肪内の褐色脂肪含有率について説明する。脂肪は既に説明したように白色脂肪と褐色脂肪に分けることができ、両者の比率を評価値として利用することができる。すなわち、以下の(6)式によって定義される含有率を評価値とすることができる。
【0101】
褐色脂肪量/(白色脂肪量+褐色脂肪量)×100(%)・・・(6)
【0102】
上記においては幾つかの評価値を例示したが、いずれにおいても、褐色脂肪量それ単独では体質あるいは健康状態について客観的な評価を行えないような場合に、褐色脂肪量を基礎としつつ、それに他の1又は複数の組織量を関係付けた評価値を求めれば、臨床上有用な情報を提供することが可能である。例えば、評価値として、褐色脂肪量/内臓脂肪量といったパラメータを演算することも可能である。更に、上記で説明した複数の評価値を並列演算し、それらを数値として同時表示するようにしてもよい。
【0103】
以上のように、上記方法によれば、褐色脂肪量を基礎としつつ、褐色脂肪の存在割合に関係する評価値を演算することができる。褐色脂肪量だけでは必ずしも被検体について的確な評価を行えない場合であっても、褐色脂肪量を基礎としつつも、他の情報を考慮してあるいは他の情報を反映させて、評価値を求めるようにすれば、被検体について客観的あるいは総合的な評価を行うことが可能となる。
【0104】
(5)様々なバリエーション
上記実施形態においては、小動物用のX線CT装置について説明したが、本発明は人体用のX線CT装置についても適用可能である。すなわち、人体における褐色脂肪を上記同様の手法によって計測することが可能であり、また、褐色脂肪量に基づく評価値を上記同様の手法によって演算することが可能である。
【0105】
上記実施形態においてはファンビームが利用されていたが、ペンシルビームあるいはコーンビームを利用するようにしてもよい。また、容器を垂直に起立させた状態で保持し、ビームを水平方向に形成してCT計測を行うようにしてもよい。その場合には、容器又はビームの一方が回転走査される。上記実施形態では、被検体が移動走査されていたが、測定ユニットつまりビームを移動走査するようにしてもよい。被検体の全身をカバーするように移動走査範囲を設定してもよいし、被検体における特定部位だけをカバーするように移動走査範囲を設定してもよい。
【0106】
上記実施形態においては、CT画像に対して、第1抽出処理及び第2抽出処理という2段階の処理が適用されていたが、第1抽出処理によって褐色脂肪を高精度に弁別できる場合には第2抽出処理を省略することもできる。褐色脂肪の弁別精度をより向上するため、それら2段階の処理の後に、あるいは、第1抽出処理の前に、各種の画像処理を適用することもできる。
【0107】
褐色脂肪画像は組織全体を表す背景画像上に重合して表示されるのが望ましい。その場合に、背景画像を白黒輝度画像として構成し、褐色脂肪画像を所定の色付けがなされた着色画像として構成することもできる。あるいは、CT画像をカラー表示する場合、各組織ごとに所定の色相を割当ててそれらを着色カラー表現し、CT画像上において色相によって個々の組織が明瞭に区別されるようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0108】
【図1】本発明に係るX線CT装置における測定部の一例を示す斜視図である。
【図2】本発明に係るX線CT装置の好適な実施形態を示すブロック図である。
【図3】CT画像の一例を示す図である。
【図4】褐色脂肪抽出処理を説明するためのフローチャートである。
【図5】モデルとしてのCT画像を示す図である。
【図6】候補画素群抽出処理の結果を示す図である。
【図7】境界上の候補画素列を示す拡大図である。
【図8】併存判定処理で用いるフィルタを説明するための図である。
【図9】併存判定処理の具体例を説明するための図である。
【図10】境界画素除外処理を行った結果を示す図である。
【図11】収縮処理及び膨張処理を説明するための図である。
【図12】誤認画素除外処理を行った結果を示す図である。
【図13】高空間分解能の場合における候補画素群抽出処理結果を示す図である。
【図14】低空間分解能の場合における候補画素群抽出処理結果を示す図である。
【図15】高CT値画素の周囲を除外する処理を説明するための図である。
【図16】低CT値画素の周囲を除外する処理を説明するための図である。
【図17】評価値演算方法を説明するためのフローチャートである。
【図18】骨密度計算式における係数の求め方を説明するための図である。
【符号の説明】
【0109】
10 測定部、12 演算制御部、70 画像処理部、72 演算部、S102 褐色脂肪抽出処理、S103 候補画素群抽出処理、S104 誤認画素除外処理、S202 組織弁別処理、S209 定量演算、S210 評価値演算。
【技術分野】
【0001】
本発明はX線CT装置及び画像処理方法に関し、特に、所定組織を抽出するCT画像処理技術に関する。
【背景技術】
【0002】
生体(動物及び人体)の体内には、2種類の脂肪組織(脂肪細胞)が存在していることが知られている。1つは白色脂肪組織(White Adipose Tissue)であり、もう1つは褐色脂肪組織(Brown Adipose Tissue)である。白色脂肪は、エネルギーを中性脂肪の形で蓄え、必要に応じて、エネルギーを全身に提供する働きを有する。褐色脂肪は、高度に発達した体熱産生機能を備えている。褐色脂肪の増加及び活性化は、肥満を引き起こしている白色脂肪の減少をもたらす。そこで、近年、医療分野において、褐色脂肪が注目されている。ちなみに、白色脂肪は、腹部、臀部、大腿部、背中、上腕、内臓周辺部、等に多く存在している。これに対し、褐色脂肪は、現在の研究によれば、首の後側の部位、背中における肩甲骨の付近等、特定の部位にしか存在しない。
【0003】
従来、特許文献1に記載されているように、CT画像に基づいて、皮下脂肪と内臓脂肪とを弁別処理する装置が提案されている。しかしながら、褐色脂肪を自動的に識別、抽出する装置及び方法は未だ提供されていない。
【0004】
【特許文献1】特開2003−339694号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
CT画像上で褐色脂肪を定量化するために、CT画像を目視観察しながら、褐色脂肪を手作業で指定、識別することが考えられる。しかしながら、手作業によると、褐色脂肪の定量結果の客観性あるいは信頼性が低下する。特に、CT画像上において褐色脂肪を他の組織から明確に区別できない場合、識別の精度が大きく低下する。また、手作業によると、大きな労力が発生し、また、迅速な処理を行えない。とりわけ、複数のCT画像に基づいて褐色脂肪の体積を求める場合に、上記問題はより深刻なものとなる。
【0006】
本発明の目的は、CT画像に基づいて褐色脂肪を自動的に識別できるようにすることにある。
【0007】
本発明の他の目的は、CT画像に基づいて褐色脂肪を精度良く識別できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)本発明に係るX線CT装置は、被検体に対してX線ビームを照射するX線発生器と、前記被検体を透過したX線ビームを検出するX線検出器と、前記被検体に対して前記X線ビームを相対的に回転させる回転機構と、前記X線検出器の出力信号に基づいてCT画像を形成する画像形成部と、前記CT画像に対する画像処理により、前記被検体中の褐色脂肪をそれ以外の組織から識別する画像処理部と、を含むことを特徴とする。
【0009】
上記構成において、X線発生器によってX線ビームが照射されると、そのX線ビームは被検体を透過した後、X線検出器で検出される。X線ビームは被検体に対して相対的に回転走査される。この場合、Xビームを回転させてもよいし、被検体を回転させてもよい。複数のCT画像を形成するために、X線ビームに対して被検体が移動走査される。この場合、被検体を移動させてもよいし、X線ビームを移動させてもよい。画像形成部は、X線検出器の出力信号に基づいてCT画像を形成する。画像処理部は、CT画像に対して褐色脂肪を抽出する画像処理を実行する。抽出された褐色脂肪に対して定量演算を行ってもよいし、抽出された褐色脂肪を画像表示するようにしてもよい。被検体は動物又は人体である。
【0010】
本発明に係るX線CT装置は、従来のX線CT装置には搭載されていない褐色脂肪計測機能を具備する。同機能の実行によって、CT画像の解析によって褐色脂肪を自動的に抽出することができるので、手作業による抽出の場合に生じる各種の問題を解消することができる。すなわち、本発明によれば、高い精度で抽出を行うことができ、また客観的な基準によって自動的に抽出処理が遂行されるので、再現性が良好であり、それ故、計測結果の信頼性を高めることができる。なお、ユーザーによって指定された二次元又は三次元の関心領域内において褐色脂肪の自動抽出を行うようにしてもよい。
【0011】
(2)本発明に係る画像処理方法は、被検体に対するX線CT計測によって得られたCT画像を処理する画像処理方法において、前記CT画像を構成する画素集合の中から、各画素が有するCT値に基づいて、褐色脂肪に属する可能性がある候補画素群を抽出する第1抽出工程と、前記候補画素群に対して、誤認画素除外処理を適用し、これによって褐色脂肪画素群を抽出する第2抽出工程と、を含むことを特徴とする。
【0012】
上記構成によれば、CT画像上において、CT値を基準として候補画素群を識別した上で、その候補画素群に含まれる誤認画素を除外して、褐色脂肪画素群を特定することができる。例えば、白色脂肪と筋肉との間の境界、薄い筋肉層、などにおいては、褐色脂肪画素のCT値と同じようなCT値をもった画素が発現する場合がある。そのような誤認画素を除外する処理を行えば、褐色脂肪の識別精度や定量演算結果の信頼性を高められる。
【発明の効果】
【0013】
以上説明したように、本発明によれば、CT画像に基づいて褐色脂肪を自動的に識別できる。本発明によれば、CT画像に基づいて褐色脂肪を精度良く識別できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の好適な実施形態を説明する。
【0015】
(1)実施形態に係るX線CT装置の概略
本実施形態のX線CT装置は、後に詳述するように、X線発生器、X線検出器、回転機構、走査機構、画像形成部、画像処理部、及び、演算部、を有する。画像形成部は、第1抽出部(第1抽出機能)及び第2抽出部(第2抽出機能)を有する。第1抽出部は、CT画像を構成する画素集合の中から、各画素が有するCT値に基づいて、候補画素群を抽出する。各候補画素は、褐色脂肪に属する可能性がある画素である。第2抽出部は、候補画素群に対して誤認画素除外処理を適用し、これによって褐色脂肪画素群を抽出する。抽出された褐色脂肪画素群は、褐色脂肪画像を構成する。候補画素群に誤認画素が含まれていないあるいはほとんど含まれていないような場合、第1抽出部のみを設け、候補画素群をそのまま褐色脂肪画素群とみなすこともできる。但し、通常、候補画素群には様々な誤認画素が含まれるので、後述するような各種の誤認画素除外処理が適用される。演算部は、識別された褐色脂肪に基づいて褐色脂肪量を演算し、また、褐色脂肪量に基づいて被検体内における褐色脂肪の存在割合に関わる評価値を演算する。褐色脂肪量(及び後述する他の組織量)は、画素数、面積、体積又は重量に相当するものである。
【0016】
上記の画像形成部、画像処理部及び演算部は、それぞれ、専用ハードウエアとして構成され、あるいは、ソフトウエアの機能として実現される。測定対象となる被検体は、動物又は人体である。動物としてはラット、マウス、ハムスターなどの小動物をあげることができる。また、犬、猫、豚などを測定対象とすることもできる。
【0017】
望ましくは、第1抽出部は、画素集合を構成する各画素ごとに、そのCT値が所定範囲内に入るか否かを判定し、所定範囲内にCT値が入る画素を候補画素として特定する。すなわち、各組織は概ね一定範囲内のCT値を有するので(但し、一定範囲は各装置の構成及び動作条件に依存して定められる)、CT値を基準として各組織を識別することができる。所定範囲の上限は、筋肉の標準CT値と褐色脂肪の標準CT値との間のCT値として定められ、所定範囲の下限は白色脂肪の標準CT値と褐色脂肪の標準CT値の間のCT値として定められる。但し、このような候補画素群には、上述したように、一般に、褐色脂肪画素でない画素(誤認画素)が含まれるので、それを除外するために第2抽出部が設けられている。
【0018】
望ましくは、第2抽出部における誤認画素除外処理には併存判定処理が含まれる。併存判定処理では、注目候補画素の周囲に、第1閾値よりも高いCT値をもった画素が存在し、且つ、第2閾値よりも低いCT値をもった画素が存在する場合に、当該注目候補画素が誤認画素として除外される。発明者の実験研究によれば、例えば、筋肉と白色脂肪との間において、見かけ上、褐色脂肪のCT値と同じようなCT値をもった画素が生じる可能性がある。筋肉のCT値は褐色脂肪のCT値よりも高く、白色脂肪のCTは褐色脂肪のCT値よりも低いため、両者間の境界で、中間的なCT値が演算されることがあるためである。これに対して、上記の併存判定処理を適用すれば、境界構造の特質を利用して誤認画素を除外できる。
【0019】
望ましくは、第2抽出部における誤認画素除外処理には隣接処理が含まれる。隣接処理では、CT画像において所定条件を満たす非褐色脂肪画素が特定され、当該非褐色脂肪画素に隣接して隣接候補画素が存在する場合に、当該隣接候補画素が誤認画素として除外される。望ましくは、所定条件は、第3閾値よりも高いCT値をもった画素を前記非褐色脂肪画素とする条件であり、あるいは、第4閾値よりも低いCT値をもった画素を前記非褐色脂肪画素とする条件である。この構成によれば、褐色脂肪でない組織(つまり、非褐色脂肪画素)を基準とし、当該組織に隣接して候補画素が存在する場合に、それが誤認画素として特定される。例えば、組織境界や薄い筋肉層においては、褐色脂肪のCT値と同じようなCT値を有する画素が生じてしまうこともあるが、上記構成によれば、そのような誤認画素を除外できる。
【0020】
望ましくは、第2抽出部における誤認画素除外処理には収縮膨張処理が含まれる。収縮膨張処理では、候補画素群に対して収縮処理が施された後、収縮処理後の候補画素群に対して膨張処理が施される。収縮処理によると、薄い誤認層を消去できるものの、真の褐色脂肪領域の周囲も削られてしまうが、その後に膨張処理を行えば、真の褐色脂肪領域だけをほぼ元通りに復元できる。よって、定量演算の精度を高められる。収縮処理がN回実行される場合(但しN≧1)、膨張処理もN回実行される。いずれにしても、真の褐色脂肪領域よりも誤認組織領域の方が薄いあるいは小さいような場合に、この収縮膨張処理は有効である。また、この収縮膨張処理によれば、孤立して存在する誤認画素を除去することもできる。
【0021】
望ましくは、X線発生器の駆動電圧を切り換える電圧切換部が設けられる。通常計測モードでは、X線発生器の駆動電圧として高電圧が選択され、一方、褐色脂肪計測モードでは、X線発生器の駆動電圧として低電圧が選択される。望ましくは、X線ビームの回転速度を切り換える回転速度切換部が設けられる。通常計測モードでは、X線ビームの回転速度として高速が選択され、一方、褐色脂肪計測モードでは、X線ビームの回転速度として低速が選択される。
【0022】
本実施形態のX線CT装置は、褐色脂肪の定量演算により求められた褐色脂肪量を基礎として評価値を演算する機能を有する。すなわち、画像処理部は、CT画像に基づいて被検体内における褐色脂肪を含む複数の組織を識別し、演算部は、画像処理部の画像処理結果に基づいて、褐色脂肪量を含む複数の組織量を演算し、複数の組織量に基づいて評価値を演算する。この構成によれば、褐色脂肪量だけでなく褐色脂肪以外の組織の組織量が反映された評価値を得られる。よって、被検体を総合的にあるいは客観的に評価することが可能となる。この構成によれば、例えば、大きさ(体格)が異なる被検体間で測定結果を客観的に比較することが可能となり、また、肥満度合いあるいは肥満に成りにくさを総合評価することが可能となる。更に、褐色脂肪の存在率の観点から体質評価を行うことが可能となる。
【0023】
望ましくは、評価値は、褐色脂肪量を複数の組織量の総和で割る計算によって求められる褐色脂肪率である。望ましくは、評価値は、褐色脂肪量を被検体の体重で割る計算によって求められる褐色脂肪率である。望ましくは、複数の組織量には、褐色脂肪量の他に、白色脂肪量が含まれ、評価値は、褐色脂肪量を、褐色脂肪量と白色脂肪量とを加算した値で割る計算によって求められる脂肪内褐色脂肪含有率である。望ましくは、複数の組織量には、褐色脂肪量の他に、筋肉量及び白色脂肪量が含まれ、評価値は、褐色脂肪量と筋肉量とを乗算した値を白色脂肪量で割る計算によって求められる抗肥満パラメータである。望ましくは、複数の組織量には、褐色脂肪量の他に、筋肉量及び内臓脂肪量が含まれ、評価値は、褐色脂肪量と筋肉量とを乗算した値を内臓脂肪量で割る計算によって求められる抗肥満パラメータである。
【0024】
(2)実施形態に係るX線CT装置の詳細
図1には、X線CT装置における測定部10の一例が示されている。実施形態のX線CT装置は、特に動物実験で利用されたマウス、ラット、モルモット、ハムスターなどのネズミ類のCT測定を行うための装置である。それらの小動物から分離された組織が測定対象となってもよい。このX線CT装置は、後に図2に示すように、測定部10と演算制御部とによって構成される。
【0025】
測定部10は、ガントリ18を備えた本体16を有する。本体16の上面16Aには開口が形成され、その開口からアーム26が上方に突出している。アーム26は後述するスライド機構の一部をなすものであり、そのアーム26は容器24に連結され、容器24を回転中心軸方向にスライド運動(移動走査)させる。
【0026】
一方、ガントリ18内には、後述する測定ユニット(X線発生器、X線検出器)が収納され、それらは回転中心軸回りにおいて回転運動する。ガントリ18の中央部には回転中心軸方向に空洞部18Aが形成されている。この空洞部18Aは非貫通型であるが、貫通型としてもよい。
【0027】
容器24は、本実施形態において、検体(小動物やそこから摘出された組織など)を収納するカプセルであり、その容器24は本実施形態においてほぼ円筒形状を有する。容器24は、その容器中心軸が回転中心軸に一致した状態で配置される。具体的には、容器24の基端部が上述したアーム26の上端部に着脱自在に装着される。この場合において、着脱機構としては各種の係合機構あるいはネジ止め機構などを挙げることができる。上述したように、容器24は中空の円筒形状を有しており、その内部には本実施形態において1又は複数の小動物が配置される。このような構成により、小動物の体毛が直接的にガントリ18に接触することなどを防止できる。また、小動物の排泄物や離脱体毛などが外部に放出されてしまう問題を防止できる。さらに、小動物を容器24内に固定具によって拘束することが可能となるので、CT画像を再構成する場合における画像ぶれなどの問題を防止することができる。なお、サイズや形状が異なる複数種類の容器を用意して、容器を選択的に使用するのが望ましい。
【0028】
アーム26に対して容器24が装着された後、アーム26が回転中心軸方向に沿って前方に駆動され、これにより、ガントリ18の空洞部18A内に容器24が差し込まれる。この時、検体における測定位置にX線ビームが設定されるように、容器24の位置決めがなされる。また、そのような測定位置は連続的にあるいは段階的に変更される。その結果、所定ピッチで空間的に整列した多数のCT断面が形成される。
【0029】
本体16の上面16A上には操作パネル20が設けられており、この操作パネル20は複数のスイッチや表示器などを有する。この操作パネル20を利用してユーザーは測定現場において装置の動作を操作することが可能となる。本体16の下方には複数のキャスター22が設けられている。
【0030】
本実施形態では、ガントリ18内における測定ユニットの回転速度を段階的にあるいは連続的に可変することができる。また、ガントリ18内におけるX線発生器の駆動電圧を段階的にあるいは連続的に可変することができる。後述するように、通常計測モードでは、高回転速度(又は通常回転速度)、且つ、高電圧(又は通常電圧)が選択される。一方、褐色脂肪計測モードでは、低回転速度が選択され、且つ、低電圧が選択される。後述する演算制御部は、回転速度の切換機能及び電圧の切換機能を具備する。
【0031】
図2には、本実施形態に係るX線CT装置の構成がブロック図として示されている。測定部10においては、回転中心軸Oを間において、一方側にX線発生器52が設けられ、他方側にX線検出器60が設けられている。X線発生器52の照射側にはコリメータ54が設けられている。X線発生器52は図示されるように末広あるいは扇状の(つまりファンビーム形状の)X線ビーム56を生成する。一方、X線検出器60は複数の(例えば100個)のX線センサを一列に並べたものとして構成され、X線ビーム56の開き角度に応じてX線の受光開口が設定される。ちなみに、複数のX線センサの配列は直線的であってもよいし、円弧状であってもよい。本実施形態では、高感度型のX線センサが利用されている。なお、図2においては、X線発生器52に接続された電圧源、及び、X線検出器60に接続された信号処理回路などについては図示省略されている。
【0032】
図2において、符号58は有効視野を示している。これは、X線ビーム56を回転走査させた場合におけるCT画像を構成可能な円形の領域である。ちなみに、この有効視野58は、回転中心軸、X線発生器52、及び、X線検出器60の位置関係に応じて定まるものである。本実施形態においては、変位機構62が設けられているため、それらの位置関係を変更してCT画像の倍率を機械的に可変することが可能である。
【0033】
すなわち、変位機構62には、X線発生器52及びX線検出器60が連結されており、変位機構62は、X線発生器52及びX線検出器60の間の距離を維持したまま、それら(つまり測定ユニット)をX線ビーム56のビーム軸方向に変位させる。この場合において、回転中心軸Oは不変であり、すなわち上述した容器を何ら移動させることなく測定ユニット側を移動させて倍率の変更を行い得る。なお、変位機構62は変位力を発生するためのモータ62Aを備えている。
【0034】
ガントリ回転機構66は、回転ベースを回転させることにより、それに搭載された変位機構を含む各構成の全体を回転駆動する機構である。変位機構62には、測定ユニットが搭載されているため、変位機構62によって所望の位置に位置決めされた測定ユニットがその位置を保持したまま回転駆動されることになる。ガントリ回転機構66は、その駆動力を発生するためのモータ66Aを有する。
【0035】
スライド機構68は図1に示したアーム26をスライド運動させる移動機構であり、その駆動力はモータ68Aによって発生される。操作パネル20は上述したように本体の上面に設けられる。測定部10側に設けられたローカルコントローラ(図示せず)に対して操作パネル20を接続し、そのローカルコントローラと演算制御部12とが相互に通信を行うように構成してもよい。
【0036】
ちなみに、図2には、様々な機構62,66,68などが示されているが、それらの機構による位置あるいは位置変化を検出するためにセンサを設けるのが望ましい。そして、それらのセンサの出力信号に基づいて演算制御部12がフィードバック制御を行うようにするのが望ましい。また、変位機構62による倍率の可変はユーザー入力により行わせてもよいし、例えば被検体サイズあるいは容器のサイズを自動検知し、その検知したデータに基づいて自動的に倍率を設定するようにしてもよい。さらに、あらかじめ容器の種別などが登録される場合においては、その登録された情報を利用して倍率の設定を行うようにしてもよい。さらに、図2に示す例では、スライド機構68が駆動源としてのモータ68Aを有していたが、そのスライド力を人為的に発生させるようにしてもよい。
【0037】
次に、演算制御部12について説明する。プロセッサ30には、表示器32、記憶装置34、キーボード36、マウス38、プリンタ40などが接続されている。また、外部装置との間でネットワークを介して通信を行うための通信部42が接続されている。
【0038】
プロセッサ30は、CPU及び各種プログラムによって構成されるものである。図2にはその代表的な機能が示されており、プロセッサ30は、動作制御部44、画像形成部46、画像処理部70、演算部72などを有している。必要に応じて、スカウト画像形成部などを設けるようにしてもよい。
【0039】
動作制御部44は、測定部10における全体動作を制御している。動作制御部44は、回転速度を切り換える機能、X線発生器52の駆動電圧を切り換える機能、等を有する。回転速度及び駆動電圧をユーザーが指定するようにしてもよい。あるいは、ユーザーによって計測モードが選択された場合、その選択された計測モードに応じて、自動的に回転速度及び駆動電圧が設定されるようにしてもよい。
【0040】
本実施形態に係るX線CT装置は、通常計測モード及び褐色脂肪計測モードを具備する。通常計測モードにおいては、高い回転速度が選択され、且つ、高い電圧が選択される。褐色脂肪計測モードにおいては、低い回転速度が選択され、且つ、低い電圧が選択される。本発明者の実験研究によれば、高感度型のX線センサを利用しつつ、上記のような動作条件の変更によって、CT画像上において褐色脂肪を良好に弁別できることが判明している。
【0041】
マウス等の小動物を計測対象とした場合、通常計測モードにおいては、回転速度として例えば毎分10回転が選択され、且つ、駆動電圧として例えば70kVが選択される。一方、褐色脂肪計測モードにおいては、回転速度として例えば毎分1回転が選択される。その場合、駆動電圧は、20−100kVの範囲内において設定可能であるが、望ましくは30−70kVの範囲内に設定され、特に望ましくは30−50kVの範囲内に設定される。なお、本発明者の実験に利用した装置は、アロカ株式会社製、X線CT装置(製品名:LaTheat(登録商標)、型式:LCT−100)である。各数値条件については、被検体の種類、X線CT装置の構成、等に応じて変わり得る。
【0042】
画像形成部46は、X線ビームの回転走査によって得られる多くのデータに基づきCT画像を構成する演算を実行する。CT画像の再構成演算に当たっては公知の各種の手法を利用することが可能である。
【0043】
画像処理部70は、CT画像上において、各画素が有するCT値に基づいて、各組織(骨、筋肉、白色脂肪、褐色脂肪、など)を識別する機能を有する。特に、CT画像に対して第1抽出処理及び第2抽出処理を適用し、これによって褐色脂肪群(褐色脂肪像)のみを抽出する新しい機能を有する。抽出された褐色脂肪は画像化され、あるいは、定量演算される。褐色脂肪の抽出方法については後に詳述する。
【0044】
演算部72は、画像処理結果にもとづいて、各組織を定量評価するための演算を実行する。特に、褐色脂肪について褐色脂肪量(面積、体積、重量など)を演算する機能を有し、更に、褐色脂肪量に基づいて所定の評価値を演算する機能を有する。評価値の演算方法については後に詳述する。
【0045】
表示器32には、CT断層画像、計測結果等が表示される。表示器32に、スカウト画像を背景画像として褐色脂肪画像を重合して表示するようにしてもよい。その場合、背景画像を白黒画像とし、褐色脂肪画像を着色画像としてもよい。また、そのような重合画像を三次元画像として構築することも可能である。
【0046】
図3には、本実施形態のX線CT装置によって形成されたCT画像の一例が示されている。このCT画像はマウスの断層画像である。WATは白色脂肪を示し、BATは褐色脂肪を示している。上述した最適な動作条件の下、CT画像上において、褐色脂肪が比較的明瞭に現れている。当該動作条件の下では、各組織の平均(標準)CT値及び識別範囲は以下のようになる。
【表1】
【0047】
上記のように、褐色脂肪のCT値は、白色脂肪のCT値よりも高く、且つ、筋肉のCT値よりも低い。但し、装置の動作条件が最適化されていない場合、褐色脂肪と白色脂肪の弁別は非常に困難となる。つまり、両者のX線吸収量がほぼ同じ値となってしまう。よって、X線の特性を活用するように、装置の動作条件を適宜変更し、褐色脂肪計測のための最適な条件を見出すのが望ましい(特に、白色脂肪と褐色脂肪との間におけるCT値の差を拡大できる条件を見出すのが望ましい)。動作条件が最適化された状態では、上記の表から理解できるように、各画素のCT値に基づいて、各画素が属する組織を特定することが可能である。但し、後述するように、例えば、白色脂肪と筋肉との境界等においては中間的なCT値をもった画素(誤認画素)が生じる。褐色脂肪を精度良く抽出するためには、そのような誤認画素を除外することが望まれる。
【0048】
(3)褐色脂肪の抽出
次に、図4−図16を用いて、CT画像からの褐色脂肪の抽出方法について説明する。最初に図4には抽出処理の流れが概念的に示されている。
【0049】
S101で示されるCT画像は、X線検出器から出力されるデータに基づいて、S100で示される再構成演算(画像形成演算)を実行することにより形成される。後に説明する図5にはモデルとして表されたCT画像が示されている。
【0050】
S102は、褐色脂肪の抽出処理の全体を表している。この抽出処理S102は、大別して、第1処理に相当する候補画素群抽出処理S103と、第2抽出処理としての誤認画素除外処理S104と、で構成される。候補画素群抽出処理S103においては、後に図6を用いて説明するように、CT画像から褐色脂肪に相当する可能性がある候補画素群が抽出される。この場合において、CT画像を構成する画素集合の内で、一定の範囲内のCT値を有する画素が候補画素とされる。誤認画素除外処理S104においては、候補画素群に含まれる褐色脂肪画素以外の誤認画素を特定し、それを除外する処理(候補画素でない画素にする処理)が実行される。誤認画素除外処理S104についての具体的な手法として、いくつかの手法をあげることができ、図4においては、後に図8及び図9を用いて説明する境界画素除外処理S105、後に図11を用いて説明する収縮膨張処理S108、後に図15を用いて説明する、高CT値画素の周囲を除外する処理S106、後に図16を用いて説明する、低CT値画素の周囲を除外する処理S107、が示されている。
【0051】
図4に示す誤認画素除外処理S104では、S105が実行された後にS108が実行される。それに代えて、S106を実行した後にS108を実行するようにしてもよい。あるいは、それらに代えて、S107のみを実行するようにしてもよい。
【0052】
いずれにしても、S109で示すように、候補画素群抽出処理S103と、誤認画素除外処理S104と、を実行した結果として、褐色脂肪画素群を抽出することが可能となる。この褐色脂肪画素群は褐色脂肪画像を構成するものである。これについては図12を用いて説明する。褐色脂肪画像が得られると、S110において、褐色脂肪画像に対する表示処理が行われ、あるいは、褐色脂肪を定量演算する処理が実行される。そして、表示器の表示画面上に、褐色脂肪画像が表示され、及び/又は、褐色脂肪量を表す数値が表示される。なお、本実施形態に係るX線CT装置は、更に、評価値演算機能を具備しているが、それに関しては後に図17を用いて説明する。
【0053】
以下に、図4に示した各処理の具体的な内容について詳述する。図5には、モデルとして表されたCT画像74が示されている。各CT画像ごとに以下に説明する画像処理が実行される。図5において、CT画像の座標系としてX軸及びY軸が定義されている。符号76は、白色脂肪を示している。符号80は、皮膚を含む筋肉を示している。82,84はいずれも筋肉を表している。ここで、符号84で示される筋肉は薄い筋肉層である。符号78は、抽出対象となる褐色脂肪を示している。符号92は、白色脂肪76と筋肉82との間の境界を示しており、符号94は筋肉80と白色脂肪76との間の境界を示している。
【0054】
図6には、図4に示した候補画素群抽出処理S103を実行した結果が示されている。すなわち、符号90は候補画素群のみが識別化された画像を表している。本実施形態においては、上記表1にしたがって、CT画像を構成する各画素のCT値に着目し、CT値が所定範囲内に含まれる画素を候補画素として特定している。具体的には、以下の条件を満たす画素を候補画素としている。
【0055】
CTmin < CTxy < CTmax ・・・(1)
【0056】
上記の(1)式において、CTxyは、CT画像上におけるxy座標に位置する画素が有するCT値(HU)を表している。また、CTminは所定範囲の下限を表しており、例えばその値は−170である。また、CTmaxは所定範囲の上限を表しており、例えば、その値は−20である。すなわち、上述した最適な動作条件の下で形成されたCT画像においては、各画素のCT値を参照することにより、褐色脂肪を識別することが可能である。ただし、実際には、識別された画素群に、褐色脂肪以外の組織に属する画素が含まれる可能性があるため、上述した誤認画素除外処理が適用される。具体的には、図6に示されるように、CT値に基づく候補画素群の抽出処理により、符号78Aで示すように褐色脂肪が抽出されるが、それと共に、褐色脂肪以外の組織あるいは部位についても、候補画素として抽出されてしまう。図6に示す例では、筋肉82と白色脂肪76との間の境界92Aにおいて、褐色脂肪でないにもかかわらず、褐色脂肪と同じようなCT値を呈することになり、境界92A上の各画素が候補画素として抽出されてしまう。また、白色脂肪76と筋肉80との間の境界94Aについても中間CT値が発現し、その境界94A上の各画素が候補画素として抽出されてしまう。さらに、薄い筋肉84A上の各画素が候補画素として抽出されてしまう。したがって、そのような誤認画素群を除外することが求められる。
【0057】
なお、褐色脂肪が存在する部位は、一般に、首の後部、背中の特定部位だけであるので、褐色脂肪の定量計測にあたっては、被検体における特定部位のみに対してCT計測を行うようにすればよい。もちろん、全身に対してCT計測を行うようにしてもよい。
【0058】
上記の中間CT値が生じるのは、上記の表1で示したように、白色脂肪は褐色脂肪よりも低いCT値を有し、一方、筋肉は褐色脂肪よりも高いCT値を有するため、白色脂肪と筋肉との境界においては褐色脂肪と同等のCT値が観測されてしまうためである。そこで、以下に誤認画素の除外処理について詳述する。
【0059】
まず、図4に示した境界画素除外処理S105について説明する。図7には、筋肉82と白色脂肪76との間における境界92Aが部分拡大図として示されている。筋肉82は複数の筋肉画素96によって構成され、白色脂肪は複数の白色脂肪画素98によって構成されている。境界92A上には、上記の中間CT値をもった複数の画素100が並んでいる。
【0060】
境界画素除外処理においては、各候補画素ごとにフィルタリング処理が適用される。そのフィルタリング処理においては、図8に示すように、注目候補画素Qの周囲に存在する所定個(例えば8個)の画素R1−R8が参照され、それらの画素R1−R8の中に、第1閾値(例えばCTmax)よりもCT値が高い画素が少なくとも1つ含まれ、かつ、所定の第2閾値(例えばCTmin)よりもCT値が低い画素が少なくとも1つ含まれる場合に、すなわち、高CT値画素と低CT値画素が併存する場合に、当該注目候補画素が誤認画素として特定され、それが候補画素群から除外される。
【0061】
すなわち、上記のような特定の境界においては筋肉と白色脂肪とが隣接しているため、境界上にフィルタを設定すると、それが2つの領域にまたがって設定されることになり、フィルタ内に、高CT値画素と低CT画素とが同時に取り込まれることになる。そこで、そのような境界構造の特質を利用して誤認画素が特定される。
【0062】
図9には、上記のフィルタリングすなわち併存判定処理の幾つかの適用事例が示されている。(A)の場合、注目候補画素Qの周囲に存在する全ての画素104が候補画素であり、この場合においては、注目候補画素Qは除外対象とはならない。(B)の場合、注目候補画素Qの周囲に1つの白色脂肪画素98と1つの筋肉画素96とが存在しており、この場合においては、併存判定条件が満たされるため、注目候補画素Qが除外対象とされる。(C)の場合、注目候補画素Qの周囲には候補画素104の他にいくつかの白色脂肪画素98及び1つの筋肉画素96が存在しているため、上記の併存判定条件が満たされ、結果として、注目候補画素が除外対象とされる。更に、(D)の場合、注目候補画素Qの周囲に複数の候補画素104と複数の筋肉画素96とが存在しているが、高CT値画素は存在していないため、この場合においては注目候補画素Qはそのまま保存される。
【0063】
上記の処理例では、注目候補画素の周囲8画素を参照したが、注目候補画素を中心として上下及び左右に隣接する4画素のみを参照するようにしてもよいし、注目候補画素からの距離が2画素以内の範囲(つまり15画素)を参照するようにしてもよい。また、三次元的なフィルタを用いることも可能である。
【0064】
図10には、上記の境界画素除外処理を実行した結果が示されている。すなわち、画像106においては、図6に示した画像90との対比から明らかなように、境界92A,94A上に存在していた候補画素列が除去されている(92B,94B参照)。ただし、上記のような境界画素除外処理を適用したとしても、図10に示されるように、薄い筋肉層84Aについては、画像の空間分解能にもよるが、効果的に除去できない場合がある。そこで、図4に示したように、そのような薄い筋肉層84Aに属する候補画素を除外するために、収縮膨張処理が実行される。
【0065】
図11には、収縮膨張処理の内容が例示されている。(A)には収縮膨張処理を行う前の画像(一部分)が示されている。符号110は褐色脂肪を示しており、その全体を覆って複数の候補画素104が特定されている。また、符号108は薄い筋肉層を表しており、本来であればそれは筋肉画素で満たされるはずであるが、その薄い筋肉層108の周囲に白色脂肪層が存在していることに起因し、薄い筋肉層108には、複数の候補画素104が与えられている。なお、符号98は白色脂肪画素を示している。
【0066】
このような画像に対してN回の収縮処理が適用された後、N回の膨張処理が適用される。Nは1以上の整数であって、ユーザーにより又は自動的に設定される。収縮処理においては、個々の候補画素を注目候補画素とし、注目画素ごとにその周囲8画素が参照され、その8画素内に少なくとも1つの白色脂肪画素が含まれている場合には、当該注目候補画素が誤認画素と判断され、それが候補画素群から除外される。その場合、例えば、当該注目候補画素が白色脂肪画素に置換される。図11における(B)には(A)に示した画像に対して1回の収縮処理を適用した結果が示されている。図示されるように、(A)に示す画像において存在していた薄い筋肉層108は消去されており、これに伴って、褐色脂肪110についてもその周囲が削除されて、そのサイズが小さくなっている(110A参照)。
【0067】
膨張処理においては、収縮処理後の画像上において、各白色脂肪画素を注目白色脂肪画素とし、各注目白色脂肪画素ごとにその周囲8画素が参照され、その中に、候補画素が含まれている場合には、その注目白色脂肪画素を候補画素に置換(復元)する処理が実行される。その処理結果が図11における(C)に示されている。(B)に示した画像との対比から明らかなように、符号110Bで示される褐色脂肪は元のサイズまで復元している。もちろん、収縮膨張処理を経ると、褐色脂肪についての元の形状を完全に復元することは一般に困難であるが、ほぼ原型を復元することができる。
【0068】
ちなみに、除外すべき薄い筋肉層の厚みが2画素以下の場合には、1回の収縮処理及び1回の膨張処理だけを行えば十分と思われる。その厚みが2画素よりも大きいような場合には、複数回の収縮処理及びそれと同数の膨張処理を行うのが望ましい。
【0069】
以上のような収縮膨張処理を行った結果として、図12に示すような褐色脂肪抽出処理後の画像112を得ることができる。符号78Aで示される褐色脂肪上の候補画素群のみが残されている。その候補画素群は褐色脂肪画素群とみなされる。したがって、各CT画像ごとに褐色脂肪画素群を構成する画素数をカウントすることにより面積を求めることができ、複数のCT画像について同様の処理を適用すれば、面積の総和(あるいは画素数の総和)から褐色脂肪の体積を求めることができる。更に、その体積に対して一定の係数を乗算することによって、褐色脂肪の重量を演算することも可能である。
【0070】
上記の収縮膨張処理は、以下に説明するように、画像の空間分解能が十分でない場合に特に効果的である。図13及び図14には、CT画像上において、白色脂肪114内に薄い筋肉層116が存在している様子が表されている。図13及び図14において、(A)は候補画素群抽出処理を行う前の画像を示しており、(B)は候補画素群抽出処理を行った後の画像を示している。
【0071】
図13に示されるように、低い空間分解能の場合、(A)に例示されるa〜lまでの12個の画素の内で、(B)に示すb’,c’,e’,f’,g’,i’,j’の7個の画素が候補画素として認識されてしまう。すなわち、本来、筋肉画素として認識されるべき画素が、周囲の白色脂肪の影響を受けて、候補画素として認識されてしまうのである。したがって、このような低い空間分解能の場合には、図9に示した境界画素除外処理だけで、それらの誤認画素を除外することは困難であり、上述した収縮膨張処理を追加的に適用するのが望ましい。一方、図14に示されるように、高い空間分解能の場合には、(A)に示すa〜lまでの12個の画素の内で、候補画素群抽出処理を行った結果として、(B)に示すb’,d’,e’,h’,i’,l’の6個の画素が候補画素となる。それらは概ね2本のライン(2つの候補画素列)を構成し、各ラインの厚みは非常に薄いため、上述した境界画素除外処理を適用すれば、それらの各ラインを構成する複数の候補画素を誤認画素として効果的に除外することが可能となる。したがって、このような高い空間分解能の場合には、必ずしも収縮膨張処理を適用する必要はない(図4のS111参照)。
【0072】
次に、図15及び図16を用いて、図4に示したS106及びS107の処理内容について説明する。それらのS106及びS107は、上記のS105に代替して適用されるものである。もちろん、それらの処理を多重的に適用するようにしてもよい。また、基本的に、S106とS107は選択的に実行されるものである。S106では、CT画像上において、所定の第3閾値(例えばCTmax)以上のCT値を有する画素が特定され、その画素の周囲に存在する複数の画素の中に候補画素が存在すれば、当該候補画素が除外対象とされる。ここで、周囲8画素を参照するようにしてもよいし、あるいは、周囲15画素を参照するようにしてもよい。あるいは、それ以外の個数の画素を参照するようにしてもよい。除外対象となった画素については、候補画素群から除外されるが、その場合においては、必要に応じて、褐色脂肪以外の組織画素に置き換えるようにしてもよい。
【0073】
図15には上記処理S106の具体例が示されている。(A)に示すように、高いCT値をもった筋肉117と白色脂肪120との間の境界118上には、複数の候補画素a〜oが存在している。このような画像に対して上記の周囲画素除外処理を適用すると、(B)に示すような結果が得られる。すなわち、上記の候補画素a〜oはすべて候補画素群から除外され、つまり、それらが候補画素以外の画素(この場合には筋肉画素)に置き換えられる。これが(B)においてa’〜o’で表されている。
【0074】
上記の処理では、褐色脂肪とは明らかに異なる、高いCT値をもった非褐色脂肪組織に着目し、それを基準として、その周囲の候補画素を除外対象とするようにしたが、それとは逆に、褐色脂肪とは明らかに異なる、低いCT値をもった組織(例えば白色脂肪)に着目し、それを基準として、その周囲の候補画素を除外対象とするようにしてもよい。その処理が、図4に示した低CT値画素の周囲を除外する処理S107に相当する。
【0075】
上記S107を図16を用いて具体的に説明する。図16の(A)には図15の(A)に示した画像と同じ画像が示されている。これに対して上記の処理S107を適用すると、白色脂肪を構成する各画素(各白色脂肪画素)が特定され、その各白色脂肪画素ごとに、その周囲に存在する所定個の画素が参照され、その中に候補画素が存在している場合には、その候補画素が除外対象とされる。その処理結果が(B)に示されており、上記同様に、候補画素a〜oが候補画素ではない画素に置換されている。このような処理を行う場合、白色脂肪画素を特定するためには、所定の第4閾値(例えばCTmin)以下のCT値をもった画素を注目画素として特定するようにすればよい。また、その場合において、注目画素周囲における参照範囲については上記同様に状況に応じて任意に設定することが可能である。
【0076】
上記のS107の処理を行った場合、結果として、上記の収縮処理と同様の結果も同時に得られることになるので、図4に示したS108の工程を省略することができる。S106及びS107の工程によっても境界上の候補画素等を除去することが可能であるが、それらの処理によると、褐色脂肪についてもその周囲が一定幅にわたって削除されてしまう可能性がある。したがって、そのような問題が顕著となる場合には、上記のS105及びS108の工程を実行したほうがよい。
【0077】
いずれにしても、以上のような褐色脂肪抽出処理によれば、褐色脂肪を客観的に抽出することができるので、手作業で褐色脂肪の領域を抽出するような場合に比べて、個人間における解析結果のばらつきを防止することができ、計測結果の信頼性を高めることが可能となる。また、上記の各処理は簡単な画像演算を基礎としているため、迅速な処理を期待できる。すなわち、褐色脂肪画像を短時間に形成することができる。
【0078】
以上のような褐色脂肪抽出処理によると、上述したように、褐色脂肪画素群のみが抽出されることになるので、その褐色脂肪画素群を構成する画素数をカウントすれば、処理対象となったCT画像上における褐色脂肪の面積を求めることが可能となる。そして、複数のCT画像にわたって同様の処理を適用すれば、面積の総和として、空間的に存在する褐色脂肪の体積あるいは重量を演算することが可能となる。
【0079】
上記実施形態によれば、従来装置では得られなかった褐色脂肪量を計測することができるので、医療の分野において、疾病診断や健康管理にあたって有用な情報を提供できるという利点がある。なお、上記の第1抽出処理としての候補画素群抽出処理と、上記の第2抽出処理としての誤認画素除外処理については、色々なバリエーションが考えられる。いずれにしても、候補画素を抽出した上で必要に応じて誤認画素を除外するようにすれば、精度の高い抽出結果を得られる。
【0080】
(4)評価値の演算
次に、図17−図18を用いて、褐色脂肪量に基づく評価値の演算について説明する。図17には、評価値演算の流れが概念的に示されている。
【0081】
S201は、各フレームのCT画像を示している。各フレームCT画像ごとに以下に説明する処理が実行される。S202は、組織弁別処理を示している。すなわち、この組織弁別処理S202では、CT画像上において各組織が識別される。ここで、S203は褐色脂肪の抽出処理を示しており、その処理としては図4に示したものが代表例としてあげられる。S204は、白色脂肪抽出処理を示しており、これについても、図4に示したような処理を代表例としてあげることができる。すなわち、白色脂肪についても褐色脂肪と同様のプロセスによって、その抽出を行うことが可能である。
【0082】
S205は、内臓脂肪抽出処理を示しており、S206は、皮下脂肪抽出処理を示している。それらの処理方法としては、例えば、上記の特許文献1に記載された方法などを利用することができる。S207は、筋肉抽出処理を示しており、S208は、骨抽出処理を示している。それらについては公知の手法を適用することができ、すなわち、CT値に基づく弁別処理によって、各組織を識別することが可能である。必要に応じて、組織弁別処理S202に、更に他の抽出処理を組み込むようにしてもよい。
【0083】
S209は、定量演算処理を示している。すなわち、各抽出処理S203−S208により各組織が画像上で抽出されると、S209の定量演算では、それぞれの組織ごとに組織量が演算される。組織量は、画素数、面積、体積又は重量に相当する。例えば、各組織ごとに、複数のフレームにわたって演算された面積あるいは画素数の総和を求めることにより、体積を容易に演算できる。
【0084】
S203A−S208Aは、S209において行われた定量演算結果としての組織量を表している。ちなみに、各組織の体積に対して所定の換算係数(比重)を乗算することによって、各組織の重量を求めることができる。例えば、白色脂肪の比重は0.92(g/cm3)であり、筋肉の比重は1.06(g/cm3)である。このように、各組織の比重が既知であれば、それらの比重を用いて各組織について重量換算を行うことができる。
【0085】
ただし、骨量については、次の演算によって求めることができる。以下の計算式において、BMCは骨量(骨中ミネラルの重量)を示しており、単位はグラムである。
【0086】
【数1】
【0087】
上記の(2−2)式において、BMDxyzは、z番目のフレームにおける座標(x,y)に位置する骨画素の骨密度を表している。その単位は(g/cm3)である。Xは骨画素についてのCT値(HU)を表しており、aは骨密度変換係数としての傾きを示し、bは骨密度変換係数としての切片すなわちオフセット値を表している。つまり、骨画素についてCT値が求まると、上記の(2−2)式から当該画素についての骨密度を求めることができる。
【0088】
また、上記の(2−1)式において、Vは1画素あたりの体積(cm3)を表しており、r及びsは、フレームを構成するX方向及びY方向の画素数を示しており、tはフレーム数を表している。よって、(2−1)式を実行すれば、各画素のCT値から骨全体の重量を求めることができる。
【0089】
ちなみに、上記の係数a,bは、複数のファントムに対して断層撮影を行うことによって、あらかじめ求めることができる。それらの複数のファントムは、それぞれ骨密度が既知であり、かつ、互いに異なる骨密度を有するものである。
【0090】
図18にはファントム実験結果が示されている。横軸はCT値すなわちXであり、縦軸はBMDである。各ファントムについての測定値を図18に示す座標系上にプロットすることにより、それぞれの測定点を結ぶ直線を見出して、上記計算式におけるa,bを容易に特定できる。
【0091】
図17に戻って、評価値演算S210においては、以上のように求められた各組織の組織量に基づいて、以下に説明するような演算を実行して評価値を求めている。
【0092】
本実施形態においては、評価値として、S211に示される「褐色脂肪率」、S212に示される「抗肥満パラメータ」、及び、S213に示される「褐色脂肪含有率」、が演算されている。以下に、それぞれの評価値について説明する。
【0093】
まず、褐色脂肪率について説明する。被検体が大きい場合、一般に、それが有する褐色脂肪の量も多くなる。したがって、大きさの異なる被検体について褐色脂肪量を直接比較しても客観的な評価を行えない。そこで、体格による補正を行うのが望ましい。そのような観点から定められた評価値が褐色脂肪率である。褐色脂肪率は例えば以下の(3)式によって求められる。
【0094】
褐色脂肪量/体重×100(%)・・・(3)
【0095】
上記における体重は、骨量、褐色脂肪量、白色脂肪量及び筋肉量の総和から求めることができる。ここで、各組織量は上記のように重量であってもよいが、体積あるいは面積に相当するものであってもよい。また、体重は体重計あるいは電子天秤などを用いて直接的に計測することも可能である。いずれにしても、褐色脂肪量を、体格を表す何らかの指標を用いて規格化することにより、体格依存による問題を解消することが可能となる。上記以外の計算式を用いて褐色脂肪率を定義することも可能である。
【0096】
次に、抗肥満パラメータについて説明する。抗肥満という観点からみると、白色脂肪量は贅肉であって、それが少ないことが望ましい。一方、筋肉量は基礎代謝量に比例し、それが多い方が肥満になりにくいとも言える。また、褐色脂肪量は白色脂肪の燃焼量に比例すると言えるので、褐色脂肪量は多い方が望ましいと言える。それらの関係を1つの計算式に反映して求められるのが抗肥満パラメータである。その値が大きいほど、肥満に成り難いと認められ、あるいは、肥満でないと認められる。抗肥満パラメータは、例えば、以下のように定義される。
【0097】
褐色脂肪量×筋肉量/白色脂肪量・・・(4)
【0098】
一方、肥満の観点から見ると、内臓脂肪の増加が特に問題であると言われている。そこで、上記式を変形して、以下のような計算式によって、抗肥満パラメータを定義してもよい。
【0099】
褐色脂肪量×筋肉量/内臓脂肪量・・・(5)
【0100】
次に、脂肪内の褐色脂肪含有率について説明する。脂肪は既に説明したように白色脂肪と褐色脂肪に分けることができ、両者の比率を評価値として利用することができる。すなわち、以下の(6)式によって定義される含有率を評価値とすることができる。
【0101】
褐色脂肪量/(白色脂肪量+褐色脂肪量)×100(%)・・・(6)
【0102】
上記においては幾つかの評価値を例示したが、いずれにおいても、褐色脂肪量それ単独では体質あるいは健康状態について客観的な評価を行えないような場合に、褐色脂肪量を基礎としつつ、それに他の1又は複数の組織量を関係付けた評価値を求めれば、臨床上有用な情報を提供することが可能である。例えば、評価値として、褐色脂肪量/内臓脂肪量といったパラメータを演算することも可能である。更に、上記で説明した複数の評価値を並列演算し、それらを数値として同時表示するようにしてもよい。
【0103】
以上のように、上記方法によれば、褐色脂肪量を基礎としつつ、褐色脂肪の存在割合に関係する評価値を演算することができる。褐色脂肪量だけでは必ずしも被検体について的確な評価を行えない場合であっても、褐色脂肪量を基礎としつつも、他の情報を考慮してあるいは他の情報を反映させて、評価値を求めるようにすれば、被検体について客観的あるいは総合的な評価を行うことが可能となる。
【0104】
(5)様々なバリエーション
上記実施形態においては、小動物用のX線CT装置について説明したが、本発明は人体用のX線CT装置についても適用可能である。すなわち、人体における褐色脂肪を上記同様の手法によって計測することが可能であり、また、褐色脂肪量に基づく評価値を上記同様の手法によって演算することが可能である。
【0105】
上記実施形態においてはファンビームが利用されていたが、ペンシルビームあるいはコーンビームを利用するようにしてもよい。また、容器を垂直に起立させた状態で保持し、ビームを水平方向に形成してCT計測を行うようにしてもよい。その場合には、容器又はビームの一方が回転走査される。上記実施形態では、被検体が移動走査されていたが、測定ユニットつまりビームを移動走査するようにしてもよい。被検体の全身をカバーするように移動走査範囲を設定してもよいし、被検体における特定部位だけをカバーするように移動走査範囲を設定してもよい。
【0106】
上記実施形態においては、CT画像に対して、第1抽出処理及び第2抽出処理という2段階の処理が適用されていたが、第1抽出処理によって褐色脂肪を高精度に弁別できる場合には第2抽出処理を省略することもできる。褐色脂肪の弁別精度をより向上するため、それら2段階の処理の後に、あるいは、第1抽出処理の前に、各種の画像処理を適用することもできる。
【0107】
褐色脂肪画像は組織全体を表す背景画像上に重合して表示されるのが望ましい。その場合に、背景画像を白黒輝度画像として構成し、褐色脂肪画像を所定の色付けがなされた着色画像として構成することもできる。あるいは、CT画像をカラー表示する場合、各組織ごとに所定の色相を割当ててそれらを着色カラー表現し、CT画像上において色相によって個々の組織が明瞭に区別されるようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0108】
【図1】本発明に係るX線CT装置における測定部の一例を示す斜視図である。
【図2】本発明に係るX線CT装置の好適な実施形態を示すブロック図である。
【図3】CT画像の一例を示す図である。
【図4】褐色脂肪抽出処理を説明するためのフローチャートである。
【図5】モデルとしてのCT画像を示す図である。
【図6】候補画素群抽出処理の結果を示す図である。
【図7】境界上の候補画素列を示す拡大図である。
【図8】併存判定処理で用いるフィルタを説明するための図である。
【図9】併存判定処理の具体例を説明するための図である。
【図10】境界画素除外処理を行った結果を示す図である。
【図11】収縮処理及び膨張処理を説明するための図である。
【図12】誤認画素除外処理を行った結果を示す図である。
【図13】高空間分解能の場合における候補画素群抽出処理結果を示す図である。
【図14】低空間分解能の場合における候補画素群抽出処理結果を示す図である。
【図15】高CT値画素の周囲を除外する処理を説明するための図である。
【図16】低CT値画素の周囲を除外する処理を説明するための図である。
【図17】評価値演算方法を説明するためのフローチャートである。
【図18】骨密度計算式における係数の求め方を説明するための図である。
【符号の説明】
【0109】
10 測定部、12 演算制御部、70 画像処理部、72 演算部、S102 褐色脂肪抽出処理、S103 候補画素群抽出処理、S104 誤認画素除外処理、S202 組織弁別処理、S209 定量演算、S210 評価値演算。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体に対してX線ビームを照射するX線発生器と、
前記被検体を透過したX線ビームを検出するX線検出器と、
前記被検体に対して前記X線ビームを相対的に回転させる回転機構と、
前記X線検出器の出力信号に基づいてCT画像を形成する画像形成部と、
前記CT画像に対する画像処理により、前記被検体中の褐色脂肪をそれ以外の組織から識別する画像処理部と、
を含むことを特徴とするX線CT装置。
【請求項2】
請求項1記載の装置において、
前記画像処理部は、
前記CT画像を構成する画素集合の中から、各画素が有するCT値に基づいて、候補画素群を抽出する第1抽出部と、
前記候補画素群に対して誤認画素除外処理を適用し、これによって褐色脂肪画素群を抽出する第2抽出部と、
を含むことを特徴とするX線CT装置。
【請求項3】
請求項2記載の装置において、
前記第1抽出部は、前記画素集合を構成する各画素ごとに、そのCT値が所定範囲内に入るか否かを判定し、前記所定範囲内にCT値が入る画素を候補画素として特定する、
ことを特徴とするX線CT装置。
【請求項4】
請求項3記載の装置において、
前記所定範囲の上限は筋肉の標準CT値と褐色脂肪の標準CT値との間のCT値として定められ、
前記所定範囲の下限は白色脂肪の標準CT値と褐色脂肪の標準CT値の間のCT値として定められた、
ことを特徴とするX線CT装置。
【請求項5】
請求項2記載の装置において、
前記第2抽出部における誤認画素除外処理には併存判定処理が含まれ、
前記併存判定処理では、注目候補画素の周囲に、第1閾値よりも高いCT値をもった画素が存在し、且つ、第2閾値よりも低いCT値をもった画素が存在する場合に、当該注目候補画素が誤認画素として除外される、
ことを特徴とするX線CT装置。
【請求項6】
請求項2記載の装置において、
前記第2抽出部における誤認画素除外処理には隣接処理が含まれ、
前記隣接処理では、前記CT画像において所定条件を満たす非褐色脂肪画素が特定され、当該非褐色脂肪画素に隣接して隣接候補画素が存在する場合に、当該隣接候補画素が誤認画素として除外される、
ことを特徴とするX線CT装置。
【請求項7】
請求項6記載の装置において、
前記所定条件は、第3閾値よりも高いCT値をもった画素を前記非褐色脂肪画素とする条件であることを特徴とするX線CT装置。
【請求項8】
請求項6記載の装置において、
前記所定条件は、第4閾値よりも低いCT値をもった画素を前記非褐色脂肪画素とする条件であることを特徴とするX線CT装置。
【請求項9】
請求項2記載の装置において、
前記第2抽出部における誤認画素除外処理には収縮膨張処理が含まれ、
前記収縮膨張処理では、前記候補画素群に対して収縮処理が施された後、収縮処理後の候補画素群に対して膨張処理が施される、
ことを特徴とするX線CT装置。
【請求項10】
請求項1記載の装置において、
前記X線発生器の駆動電圧を切り換える電圧切換部を含み、
通常計測モードでは、前記X線発生器の駆動電圧として高電圧が選択され、
褐色脂肪計測モードでは、前記X線発生器の駆動電圧として低電圧が選択される、
ことを特徴とするX線CT装置。
【請求項11】
請求項10記載の装置において、
前記低電圧は30−70kVの範囲内の電圧であることを特徴とするX線CT装置。
【請求項12】
請求項1記載の装置において、
前記X線ビームの回転速度を切り換える回転速度切換部を含み、
通常計測モードでは、前記X線ビームの回転速度として高速が選択され、
褐色脂肪計測モードでは、前記X線ビームの回転速度として低速が選択される、
ことを特徴とするX線CT装置。
【請求項13】
請求項1記載の装置において、
前記被検体は人体以外の動物であることを特徴とするX線CT装置。
【請求項14】
請求項1記載の装置において、
前記被検体は人体であることを特徴とするX線CT装置。
【請求項15】
被検体に対するX線CT計測によって得られたCT画像を処理する画像処理方法において、
前記CT画像を構成する画素集合の中から、各画素が有するCT値に基づいて、褐色脂肪に属する可能性がある候補画素群を抽出する第1抽出工程と、
前記候補画素群に対して、誤認画素除外処理を適用し、これによって褐色脂肪画素群を抽出する第2抽出工程と、
を含むことを特徴とする画像処理方法。
【請求項16】
請求項15記載の装置において、
前記第1抽出工程では、前記画素集合を構成する各画素ごとに、そのCT値が所定範囲内に入るか否かが判定され、前記所定範囲内にCT値が入る画素が候補画素として特定され、
前記所定範囲の上限は筋肉と褐色脂肪とを弁別するレベルに設定され、
前記所定範囲の下限は白色脂肪と褐色脂肪とを弁別するレベルに設定された、
ことを特徴とする画像処理方法。
【請求項17】
請求項15記載の方法において、
前記第2抽出部における誤認画素除外処理には併存判定処理が含まれ、
前記併存判定処理では、注目候補画素の周囲に、第1閾値よりも高いCT値をもった画素が存在し、且つ、第2閾値よりも低いCT値をもった画素が存在する場合に、当該注目候補画素が誤認画素として除外される、
ことを特徴とする画像処理方法。
【請求項18】
請求項15記載の方法において、
前記第2抽出部における誤認画素除外処理には隣接処理が含まれ、
前記隣接処理では、前記CT画像において所定条件を満たす非褐色脂肪画素が特定され、当該非褐色脂肪画素に隣接して隣接候補画素が存在する場合に、当該隣接候補画素が誤認画素として除外される、
ことを特徴とする画像処理方法。
【請求項19】
請求項15記載の方法において、
前記第2抽出部における誤認画素除外処理には収縮膨張処理が含まれ、
前記収縮膨張処理では、前記候補画素群に対して収縮処理が施された後、収縮処理後の候補画素群に対して膨張処理が施される、
ことを特徴とする画像処理方法。
【請求項20】
請求項15記載の方法において、
更に、前記抽出された褐色脂肪画素の個数に基づいて褐色脂肪を定量評価する定量評価工程が含まれることを特徴とする画像処理方法。
【請求項21】
請求項20記載の方法において、
前記定量評価によって、褐色脂肪について面積、体積及び重量の内の少なくとも1つが演算されることを特徴とする画像処理方法。
【請求項1】
被検体に対してX線ビームを照射するX線発生器と、
前記被検体を透過したX線ビームを検出するX線検出器と、
前記被検体に対して前記X線ビームを相対的に回転させる回転機構と、
前記X線検出器の出力信号に基づいてCT画像を形成する画像形成部と、
前記CT画像に対する画像処理により、前記被検体中の褐色脂肪をそれ以外の組織から識別する画像処理部と、
を含むことを特徴とするX線CT装置。
【請求項2】
請求項1記載の装置において、
前記画像処理部は、
前記CT画像を構成する画素集合の中から、各画素が有するCT値に基づいて、候補画素群を抽出する第1抽出部と、
前記候補画素群に対して誤認画素除外処理を適用し、これによって褐色脂肪画素群を抽出する第2抽出部と、
を含むことを特徴とするX線CT装置。
【請求項3】
請求項2記載の装置において、
前記第1抽出部は、前記画素集合を構成する各画素ごとに、そのCT値が所定範囲内に入るか否かを判定し、前記所定範囲内にCT値が入る画素を候補画素として特定する、
ことを特徴とするX線CT装置。
【請求項4】
請求項3記載の装置において、
前記所定範囲の上限は筋肉の標準CT値と褐色脂肪の標準CT値との間のCT値として定められ、
前記所定範囲の下限は白色脂肪の標準CT値と褐色脂肪の標準CT値の間のCT値として定められた、
ことを特徴とするX線CT装置。
【請求項5】
請求項2記載の装置において、
前記第2抽出部における誤認画素除外処理には併存判定処理が含まれ、
前記併存判定処理では、注目候補画素の周囲に、第1閾値よりも高いCT値をもった画素が存在し、且つ、第2閾値よりも低いCT値をもった画素が存在する場合に、当該注目候補画素が誤認画素として除外される、
ことを特徴とするX線CT装置。
【請求項6】
請求項2記載の装置において、
前記第2抽出部における誤認画素除外処理には隣接処理が含まれ、
前記隣接処理では、前記CT画像において所定条件を満たす非褐色脂肪画素が特定され、当該非褐色脂肪画素に隣接して隣接候補画素が存在する場合に、当該隣接候補画素が誤認画素として除外される、
ことを特徴とするX線CT装置。
【請求項7】
請求項6記載の装置において、
前記所定条件は、第3閾値よりも高いCT値をもった画素を前記非褐色脂肪画素とする条件であることを特徴とするX線CT装置。
【請求項8】
請求項6記載の装置において、
前記所定条件は、第4閾値よりも低いCT値をもった画素を前記非褐色脂肪画素とする条件であることを特徴とするX線CT装置。
【請求項9】
請求項2記載の装置において、
前記第2抽出部における誤認画素除外処理には収縮膨張処理が含まれ、
前記収縮膨張処理では、前記候補画素群に対して収縮処理が施された後、収縮処理後の候補画素群に対して膨張処理が施される、
ことを特徴とするX線CT装置。
【請求項10】
請求項1記載の装置において、
前記X線発生器の駆動電圧を切り換える電圧切換部を含み、
通常計測モードでは、前記X線発生器の駆動電圧として高電圧が選択され、
褐色脂肪計測モードでは、前記X線発生器の駆動電圧として低電圧が選択される、
ことを特徴とするX線CT装置。
【請求項11】
請求項10記載の装置において、
前記低電圧は30−70kVの範囲内の電圧であることを特徴とするX線CT装置。
【請求項12】
請求項1記載の装置において、
前記X線ビームの回転速度を切り換える回転速度切換部を含み、
通常計測モードでは、前記X線ビームの回転速度として高速が選択され、
褐色脂肪計測モードでは、前記X線ビームの回転速度として低速が選択される、
ことを特徴とするX線CT装置。
【請求項13】
請求項1記載の装置において、
前記被検体は人体以外の動物であることを特徴とするX線CT装置。
【請求項14】
請求項1記載の装置において、
前記被検体は人体であることを特徴とするX線CT装置。
【請求項15】
被検体に対するX線CT計測によって得られたCT画像を処理する画像処理方法において、
前記CT画像を構成する画素集合の中から、各画素が有するCT値に基づいて、褐色脂肪に属する可能性がある候補画素群を抽出する第1抽出工程と、
前記候補画素群に対して、誤認画素除外処理を適用し、これによって褐色脂肪画素群を抽出する第2抽出工程と、
を含むことを特徴とする画像処理方法。
【請求項16】
請求項15記載の装置において、
前記第1抽出工程では、前記画素集合を構成する各画素ごとに、そのCT値が所定範囲内に入るか否かが判定され、前記所定範囲内にCT値が入る画素が候補画素として特定され、
前記所定範囲の上限は筋肉と褐色脂肪とを弁別するレベルに設定され、
前記所定範囲の下限は白色脂肪と褐色脂肪とを弁別するレベルに設定された、
ことを特徴とする画像処理方法。
【請求項17】
請求項15記載の方法において、
前記第2抽出部における誤認画素除外処理には併存判定処理が含まれ、
前記併存判定処理では、注目候補画素の周囲に、第1閾値よりも高いCT値をもった画素が存在し、且つ、第2閾値よりも低いCT値をもった画素が存在する場合に、当該注目候補画素が誤認画素として除外される、
ことを特徴とする画像処理方法。
【請求項18】
請求項15記載の方法において、
前記第2抽出部における誤認画素除外処理には隣接処理が含まれ、
前記隣接処理では、前記CT画像において所定条件を満たす非褐色脂肪画素が特定され、当該非褐色脂肪画素に隣接して隣接候補画素が存在する場合に、当該隣接候補画素が誤認画素として除外される、
ことを特徴とする画像処理方法。
【請求項19】
請求項15記載の方法において、
前記第2抽出部における誤認画素除外処理には収縮膨張処理が含まれ、
前記収縮膨張処理では、前記候補画素群に対して収縮処理が施された後、収縮処理後の候補画素群に対して膨張処理が施される、
ことを特徴とする画像処理方法。
【請求項20】
請求項15記載の方法において、
更に、前記抽出された褐色脂肪画素の個数に基づいて褐色脂肪を定量評価する定量評価工程が含まれることを特徴とする画像処理方法。
【請求項21】
請求項20記載の方法において、
前記定量評価によって、褐色脂肪について面積、体積及び重量の内の少なくとも1つが演算されることを特徴とする画像処理方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【公開番号】特開2007−68844(P2007−68844A)
【公開日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−261003(P2005−261003)
【出願日】平成17年9月8日(2005.9.8)
【出願人】(502183212)アロカシステムエンジニアリング株式会社 (7)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年9月8日(2005.9.8)
【出願人】(502183212)アロカシステムエンジニアリング株式会社 (7)
【Fターム(参考)】
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