説明

ZnO膜形成装置および方法

【課題】所望とする量のGaやAlが、均一にドープされた状態にZnO膜が形成できるようにする。
【解決手段】ECRプラズマ源102とターゲット103とからなるECRスパッタ源と、RFマグネトロンプラズマ発生部104とターゲット105とからなるRFマグネトロンスパッタ源とを備え、ターゲット105の表面(スパッタされる面)の法線と基板Wの表面の法線とのなす角度が、60°以上90°未満にされている。ECRプラズマ源102からのプラズマが流れる方向を基板Wの法線方向としており、ターゲット105の表面の法線と、ECRプラズマ源102からのプラズマが流れる方向とのなす角度がθであり、これが60°以上90°未満にされている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガリウム(Ga)およびアルミニウム(Al)が添加された酸化亜鉛(ZnO)の薄膜を形成するZnO膜装置および方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
透明導電膜として広く用いられているITO(Indium Tin Oxide)の代替材料として、ZnOが本命視されている。ZnOからなる透明導電膜の示す抵抗率は、膜の形成技術や形成条件により様々に変化し、結晶中の電子濃度と電子移動度とが、膜の抵抗率を決定する要因となる。このZnO膜中の電子濃度を増大させるために、通常、GaやAlを膜中にドープ(添加)することが行われている。GaやAlをドープすることで、電子濃度が増大し、ZnO膜を低抵抗化することができる。例えば、10-4Ωcm台の抵抗率が、GaをドープしたZnO膜では得られる。
【0003】
ところで、上述したようなGaやAlがドープされたZnO膜の形成は、酸化ガリウム(Ga23)や酸化アルミニウム(Al23)が混合されたZnOの焼結体からなるターゲットを用いたスパッタ法や電子ビーム蒸着法が考えられる(非特許文献1参照)。しかりながら、上記ターゲットを用いる成膜方法では、ターゲット組成の経時的な変化が問題となる。
【0004】
前述したように、GaおよびAlなどのドーパントの濃度は、形成されるZnO膜の抵抗率を決定する主要因であり、また、よく知られているように、酸素濃度は形成されるZnO膜の透明性の大きく係わる。また、酸素濃度は、結晶性やドーパントのドーピング状態にも影響を与えるため、結果として、形成されるZnO膜の抵抗率に深く関わる因子となる。
【0005】
ところが、各元素によってスパッタ効率が異なるため、スパッタを継続すると、スパッタ効率の高い元素(GaやAl)の方がより多くスパッタされ、ターゲットの表面が部分的に減少し、ターゲットの表面に蜂の巣状の凹凸パターンが形成される場合がある。また、スパッタ中においては、イオン衝撃によりターゲットの温度が上昇し、ターゲットより酸素原子だけが脱離するという現象も発生する。これらのことにより、ターゲットの組成は、スパッタを継続するとともにZnが過剰な状態となる。
【0006】
このようなターゲットの経時変化に伴い、形成される膜の抵抗率も変化することになり、また、形成される膜の組成が変化するために、ウエットエッチングに対する溶解速度も大きく変化することになり、ZnO膜を用いた素子の作製に悪影響を与える。
【0007】
上述した問題に対し、ECRスパッタ法とRFマグネトロンスパッタ法との2つのソース(ターゲット)を備えたスパッタ装置を用いる技術がある(特許文献1参照)。例えば、ZnOのターゲットを用いたECRスパッタ法と、例えばGa23のターゲットを用いたRFマグネトロンスパッタ法との2ソースを用いることで、GaがドープされたZnO膜を形成することができる。
【0008】
【特許文献1】特開2005−350706号公報
【非特許文献1】H.Nanto, et al., "Electrical and optical properties of zinc oxide thin films prepared by rfmagnetron sputtering for transparent electrode applications", J. Appl. Phys. Vol.55, No.4, pp.1029-1032, 1984.
【非特許文献2】T. Minami, et al., "PREPATIONS OF ZnO:Al TRANSPARENT CONDUCTING FILMS BY D.C. MAGNETRON SPUTTERING", Thin Solid Films, 193/194, pp.721-729, 1990.
【非特許文献3】T.Minami, et al., "Group III Impurity Doped Zinc Oxide Thin Films Prepared by RF Magnetron Sputtering", Japanese Journal of Applied Physics, Vol.24, No.10, pp.L781-L784, 1985.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、RFマグネトロンスパッタ法は、マグネットの配置されているエロージョン領域に対応した膜成分の分布が発生するという問題がある。例えば、ZnOの焼結体からなるターゲットを用いたRFマグネトロンスパッタ法では、図7に示すように、ターゲット701に、磁石702からの磁力線703の領域に対応し、より早くスパッタされて浸食されたエロージョン領域704が形成される。
【0010】
このような状態でスパッタされて生成された高エネルギーイオンおよびスパッタ粒子705は、エロージョン領域704に対応して分布を形成することになり、結果として、基板711のエロージョン対向部712においては、他の領域とは異なる状態の膜が形成される。例えば、基板711とターゲット701とがあまり離れていない場合には、エロージョン対向部712のZnOの抵抗率が、他の領域に比較して2桁程度まで悪くなることが知られている(非特許文献2)。
【0011】
ターゲット表面から放出される酸素の高速陰イオンが、既に形成されているZnO膜の表面に入射すると、格子の原子配列を乱して抵抗率を悪化させるが、これが、エロージョン対向部712において顕著になるためである。例えば、基板711の中央部に形成されたZnO膜の抵抗率が3×10-4Ωcmであるのに対し、エロージョン対向部712におけるZnO膜の抵抗率は10-2Ωcmにまで悪化する。この状態は、Ga23やAl23をターゲットとしたRFマグネトロンスパッタにおいても同様であり、ドープされるGaやAlの濃度が、均一な状態に形成できないことになり、抵抗率が均一な状態に形成できないことになる。このように、基板上の位置により低効率に大きな差があると、実用上は、基板の一部しか素子作製などに用いることができないことになる。
【0012】
また、RFマグネトロンスパッタ法は、ECRスパッタ法に比較してスパッタ成膜速度が速く、所望とするドープ量より多くのドーパントが導入されるという問題もある。
【0013】
本発明は、以上のような問題点を解消するためになされたものであり、所望とする量のGaやAlが、均一にドープされた状態にZnO膜が形成できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明に係るZnO膜形成装置は、ZnOからなる第1ターゲットを備えた電子共鳴サイクロトロンプラズマによる第1スパッタ源と、Ga23又はAl23からなる第2ターゲットを備えたRFマグネトロンプラズマによる第2スパッタ源と、第1スパッタ源からのスパッタ粒子と第2スパッタ源からのスパッタ粒子とが堆積する基板が載置される基板台とを備え、第2ターゲットのスパッタされる面の法線と基板表面の法線とのなす角度が、60°以上90°未満にされているようにしたものである。
【0015】
上記ZnO膜形成装置において、基板台は、基板の中心部を通る法線を軸として基板を回転させる基板回転機能を備えるようにするとよい。また、第1スパッタ源で生成されるプラズマは、基板の法線方向に流れるようにされているとよい。
【0016】
また、本発明に係るZnO膜形成方法は、ZnOからなる第1ターゲットを備えた電子共鳴サイクロトロンプラズマによる第1スパッタと、Ga23又はAl23からなる第2ターゲットを備えたRFマグネトロンプラズマによる第2スパッタとを同時に行って、基板の上にGa又はAlがドープされたZnO膜を形成するZnO膜形成方法であって、第2ターゲットのスパッタされる面の法線と基板表面の法線とのなす角度を、60°以上90°未満にした状態で、第1スパッタ及び第2スパッタを同時に行うようにした方法である。
【0017】
上記ZnO膜形成方法において、第1スパッタ源で生成されるプラズマは、基板の法線方向に流れる状態とするとよい。
【発明の効果】
【0018】
以上説明したように、本発明では、ZnOからなる第1ターゲットを備えた電子共鳴サイクロトロンプラズマによる第1スパッタと、Ga23又はAl23からなる第2ターゲットを備えたRFマグネトロンプラズマによる第2スパッタとを同時に行うなかで、第2ターゲットのスパッタされる面の法線と基板表面の法線とのなす角度を、60°以上90°未満にするようにした。この結果、本発明によると、所望とする量のGaやAlが、均一にドープされた状態にZnO膜が形成できるようになるという優れた効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について図を参照して説明する。図1は、本発明の実施の形態におけるZnO膜形成装置の構成例を示す構成図である。この装置は、図示しないターボ分子ポンプなどの真空排気装置が連通した真空処理室101と、真空処理室101の内部に設けられたECRプラズマ源102と、ECRプラズマ源102より生成されたECRプラズマによるスパッタを行うためのZnOの焼結体からなるターゲット103とを備える。ECRプラズマ源102とターゲット103とによりECRスパッタ源(第1スパッタ源)が構成されていることになる。ECRプラズマ源102を動作させ、アルゴンガスを用いてECRプラズマを生成し、円筒型のターゲット103にRFを印加することでZnおよびO原子がスパッタされ、これらが下流に位置する基板Wの表面に付着する。基板Wは、基板台110の上に載置されている。
【0020】
なお、ターゲット103は、円筒型に限らず、ECRプラズマ源102から生成されるプラズマ流の周囲を取り巻く位置に配置され、スパッタされる面がプラズマ流の進行方向に平行な状態とされた形状となっていればよい。例えば、ターゲット103は、多角形状に成形されていてもよい。また、ターゲット103は、複数の板から構成されていてもよい。
【0021】
また、本実施の形態におけるZnO膜形成装置は、RFマグネトロンプラズマ発生部104と、RFマグネトロンプラズマ発生部104により生成されたプラズマによりスパッタを行うためのGa23の焼結体からなるターゲット105とを備え、これらが、導入部106により真空処理室101に接続されている。RFマグネトロンプラズマ発生部104とターゲット105とにより、RFマグネトロンスパッタ源(第2スパッタ源)が構成されている。RFマグネトロンプラズマ発生部104によりアルゴンガスのプラズマを生成し、円板状のターゲット105にRFを印加することで、ターゲット105のGaおよびO原子がスパッタされ(RFマグネトロンスパッタ)、これらが下流に位置する基板Wの表面に付着する。
【0022】
これらの構成により、ターゲット103よりスパッタされて飛び出た粒子と、ターゲット105よりスパッタされて飛び出た粒子とが、真空処理室101の内部に配置された処理対象の基板Wの膜形成面に堆積することが可能となる。また、真空処理室101には、酸素などの酸化ガスを導入するガス導入口107を備えている。なお、図1では、アルゴンなどのスパッタガスの導入については省略している。また、上述では、Ga23の焼結体からなるターゲット105を用いるようにしたが、Al23の焼結体からなるターゲット105を用いても、同様である。後述するように、Ga23の焼結体からなるターゲット105を用いることで、GaドープZnO膜が形成可能であり、これと同様に、Al23の焼結体からなるターゲット105を用いることで、AlドープZnO膜が形成できる。
【0023】
上述したように構成されたZnO膜形成装置において、本実施の形態では、ターゲット105の表面(スパッタされる面)の法線と基板Wの表面の法線とのなす角度が、60°以上90°未満にされている。図1において、角度θが、60°以上90°未満にされている。本実施の形態では、ECRプラズマ源102からのプラズマが流れる方向を基板Wの法線方向としており、ターゲット105の表面の法線と、ECRプラズマ源102からのプラズマが流れる方向とのなす角度がθであり、これが60°以上90°未満にされている。なお、本実施の形態では、円筒形状のターゲット103を用いており、ターゲット103の中空部の中心を通る線が、ECRプラズマ源102からのプラズマが流れる方向となっている。
【0024】
ターゲット105の表面の法線と基板Wの表面の法線とのなす角度が60°より小さいと、ターゲット105(RFマグネトロンスパッタ源)からのGaの堆積(導入)速度(量)が大きくなり過ぎる。例えば、上記角度を60°未満とした範囲では、Gaの導入速度が速くなりすぎてGaのドーピング量が多くなりすぎてしまう。これに対し、RFスパッタの出力を10W程度まで低下させることが考えられるが、このような低出力では、プラズマを生成させるための放電が不安定になる。また、上記角度を60°未満とした範囲では、RFマグネトロンスパッタにおけるターゲットのエロージョンによる不均一性がより顕著となる。このため、上記角度は60°以上とする。
【0025】
一方、上記角度が90°を超えると、ターゲット105が基板Wの膜形成面から見込めなくなり、ターゲット105からの粒子がほとんど到達しなくなる。このため、上記角度は90°未満とする。実際には、上記角度が80°を越えると、ターゲット105から見込める基板Wの表面の領域(幅)が狭くなりすぎる。従って、ターゲット105の表面の法線と基板Wの表面の法線とのなす角度は、60°〜80°の範囲とするとよりよい。
【0026】
なお、基板Wの表面に平行な平面方向において、基板Wは、ターゲット105からのスパッタ粒子が到達する領域(範囲)内に入る位置に配置する。また、基板台110に、基板Wをこの中心部を通る法線を軸として回転させる基板回転機能を備え、この機能により基板Wを回転させることで、基板Wの面内における膜厚と各組成の均一性を確保することができる。
【0027】
また、ECRプラズマ源102からのプラズマが流れる方向を基板Wの法線方向としており、この状態が、ECRスパッタ源によるZnO膜の堆積速度を最大とする。ECRプラズマ源102からのプラズマが流れる方向に対し、基板Wの法線方向をずらすほど、ECRプラズマ流(スパッタ粒子)の単位面積あたりの密度が低下し、堆積速度(成膜速度)が低下する。ECRプラズマ源102からのプラズマが流れる方向に対し、基板Wの法線方向をあまりずらすと、ZnO膜の堆積速度が低下しすぎ、相対的にGaのドープ量が多くなり、所望とするGa(Al)ドープ量が得られない場合がある。従って、ECRプラズマ源102からのプラズマが流れる方向に対する基板Wの法線方向の角度は、あまり大きくしない方がよい。
【0028】
次に、上述した本実施の形態におけるZnO膜形成装置を用いたZnO膜形成方法について簡単に説明する。まず、図2(a)に示すように、透明なガラスから構成された基板201を用意し、用意した基板201を、上述したZnO膜形成装置に搬入する。
【0029】
次に、ECRプラズマ源102にECR(Electron Cyclotron Resonance:電子サイクロトロン共鳴)プラズマが生成された状態とする。例えば、まず、ZnO膜形成装置の内部を10-4〜10-5Pa台の高真空状態の圧力に減圧する。スパッタによるZnO膜の形成では、形成する膜の低抵抗化を考慮し、酸素を導入しない状態とした方がよく、このためには、上述したような高真空状態とする環境が重要となる。
【0030】
次に、圧力が10-4〜10-5Pa台に設定されているZnO膜形成装置の内部に、例えば希ガスであるアルゴン(Ar)ガスを流量8sccm程度で導入し、ZnO膜形成装置の内部圧力を10-3〜10-2Pa程度にする。この状態で、ECRプラズマ源102に、2.45GHzのマイクロ波(500W程度)と0.0875Tの磁場とを供給して電子サイクロトロン共鳴条件とすることで、プラズマ生成室内にArのプラズマ(ECRプラズマ)が生成された状態が得られる。磁場の供給は、電磁石に電流14Aを流すことで行う。なお、sccmは流量の単位あり、0℃・1気圧の流体が1分間に1cm3流れることを示す。また、T(テスラ)は、磁束密度の単位であり、1T=10000ガウスである。
【0031】
上述したことにより生成されたECRプラズマは、ECRプラズマ源102の磁気コイルの発散磁場により、プラズマ生成室から、これに連通する処理室の側に放出される。この状態で、ECRプラズマ源102のECRプラズマが供給される出口に配置されたターゲット103に、例えば13.56MHz・500Wの高周波電力(ターゲットバイアス)が供給(印加)された状態とする。このことにより、生成されているECRプラズマにより発生した粒子(Arイオン)が、ZnO焼結体のターゲット103に衝突してスパッタリング現象が起こり、ZnO焼結体ターゲットを構成している粒子が飛び出す状態となる。
【0032】
また、同時に、RFマグネトロンプラズマ発生部104において、ターゲット105にRFパワー20Wを印加し、マグネトロンスパッタ源(ターゲット105)においてRFプラズマが生成されてスパッタリングが発生する状態とする。ここで、一般には、RFマグネトロンスパッタにおける動作圧力は、1Pa台であり、圧力が10-3〜10-2Pa程度とされた状態では、安定した放電をさせることができない。しかしながら、本装置においては、マグネトロンスパッタ源の領域に連通した領域においてECRプラズマが生成されており、この一部がターゲット105の近く(マグネトロンスパッタ源の領域)に浸入してくる状態となっている。このため、マグネトロンスパッタとしては低い圧力状態とされているマグネトロンスパッタ源においても、プラズマが供給されている状態となり、RFパワー20Wでも、放電(プラズマ)を安定して継続させることができる。
【0033】
上述したことにより生成されたマグネトロンスパッタ源におけるプラズマで、20WのRFパワーが印加されているターゲット103がスパッタされ、Ga23の焼結体からなるターゲット105を構成している粒子(Ga原子,O原子)が飛び出す状態となる。
【0034】
以上のようにして、プラズマを生成してスパッタ状態とし、ターゲット103およびターゲット105でスパッタされている粒子が基板Wの上に堆積する状態とすることにより、図2(b)に示すように、基板201の上に、GaがドープされたZnO膜202が形成された状態が得られる。
【0035】
例えば、ECRプラズマ源102におけるマイクロ波のパワーを500W、ターゲット103へのRFパワーを500Wとし、また、ECRプラズマ源102からのプラズマの流れる方向が基板Wの法線方向となるように、基板Wの面をECRプラズマ源102(ターゲット103)の方に向け、加えて、ターゲット105の表面の法線と基板Wの表面の法線とのなす角度θを70°程度とすれば、ターゲット105に印加するRFパワーが20〜30Wの範囲で、抵抗率が最小になる最適なドーピング量のGaがドープされたZnO膜202が形成できる。なお、アルゴンガスの代わりにキセノンガスを用いてもよいことは言うまでもない。
【0036】
以上に説明した本実施の形態のZnO膜形成装置を用いたZnO膜の形成によれば、成膜対象の基板表面に対して60°以上の角度の方向に、RFマグネトロンスパッタ源が配置されているようにしたので、GaやAlなどのドーピング元素の取り込み速度を落とし、加えて、形成しているZnO膜に対する損傷を抑制した状態が実現できる。また、ZnO膜自体は、ECRスパッタ源で成膜するため、元々低損傷である。また、本実施の形態によれば、スパッタ速度が異なる材料を、異なるターゲットでスパッタするようにしたので、各々個別にスパッタ条件を制御することが可能であり、組成(ドーピング量)を容易に制御することが可能となる。このことは、ターゲットの経時変化に対応して最適な組成を得ることができるという利点も有している。
【0037】
なお、一般には、RFマグネトロンスパッタにおいては、ターゲットに印加するパワーを10〜100W程度とした状態で動作させるのが標準的である。従って、上述したターゲット105に印加するRFパワーが20〜30Wの範囲は、RFマグネトロンスパッタにおいては、下限に近い調整範囲である。しかしながら、RFマグネトロンスパッタにおけるスパッタ速度は、ECRスパッタによるスパッタ速度に比較して非常に大きい。このため、ターゲット105に印加するRFパワーは、20〜30W程度に抑えないと、形成されるZnO膜202へのGaのドーピング濃度が多くなり過ぎ、抵抗率が最小となる最適なドーピング量が得られない。また、Alをドープする場合は、ターゲット105に、Al23の焼結体を用いることになる。この代わりに金属Alを用いると、ECRスパッタに比較してスパッタ速度が数10倍となってしまい、ターゲット105に印加するRFパワーの調節では、所望とする少ないドーピング量が得られなくなる。
【0038】
次に、実際に形成したGaドープZnO膜の特性調査の結果について説明する。まず、膜を形成するガラス基板の表面の法線に対し、RFマグネトロンスパッタ源のGa23焼結体よりなるターゲット105の表面の法線のなす角度は、65°とする。また、ECRプラズマ源102からのプラズマが流れる方向に対し、ガラス基板の法線が、ターゲット105の側に10°傾いた状態とする。従って、この場合、ターゲット105の表面の法線と、ECRプラズマ源102からのプラズマが流れる方向とのなす角度が75°である。
【0039】
また、ECRプラズマ源102におけるマイクロ波パワーは500W、ZnO焼結体からなるターゲット103に印加するRFパワーは500W、ターゲット105へ印加するパワーは20Wの条件とする。また、真空処理室101へのアルゴンガスの供給量は8sccmとし、アルゴンガスを供給した状態で、真空処理室101の内部圧力が、10-4〜10-5Pa程度とする。
【0040】
上述した条件で、ターゲット103およびターゲット105からのスパッタにより、52mm×76mmの長方形状のガラス基板の上に、成膜時間90分でGaがドープされたZnO膜を形成する。
【0041】
上述したようにして形成したガラス基板上のZnO膜について、図3(a)に示すように、横4×縦6=24に領域を分割し、各領域の成膜速度,Ga濃度,およびシート抵抗を測定する。なお、図3(a),図3(b),図3(c),図3(d)において、「上」および「下」は、図1の紙面の上下に対応し、ガラス基板の「上」が、ターゲット105の側に配置されいる。
【0042】
上述した測定において、まず、前述したように、ECRプラズマ源102からのプラズマが流れる方向に対し、ガラス基板の法線が、ターゲット105の側に10°傾いているので、ガラス基板の「上」に行くほど、ターゲット103より離れているので、図3(b)に示すように、成膜速度は「上」に行くほど小さくなっている。
【0043】
次に、ガラス基板上のZnO膜におけるGa濃度は、図3(c)に示すように、ガラス基板の「上」に行くほど高い濃度となっている。ガラス基板の「上」に行くほど、ターゲット105に近く、ターゲット105より飛散するスパッタ粒子の空間的広がりが、ガラス基板の「上」に行くほど小さい。このため、ガラス基板の「上」に行くほど、ターゲット105からのスパッタ粒子であるGaの堆積速度は大きくなるが、この傾向に、上述したGa濃度の結果は一致している。
【0044】
また、ガラス基板上のZnO膜におけるシート抵抗は、図3(d)に示すように、途中までは、ガラス基板の「下」に行くほど低下し、中央より下の領域で、最も低い値をとり、ガラス基板の「下」側では、再び上昇している。例えば、図3(d)のシート抵抗13.6(Ω/□)の領域では、図3(b)に示すように成膜速度が3.7(nm/min)であり、成膜時間が90分であるので、13.6(Ω/□)×3.7×10-7(cm/min)×90(min)=4.5×10-4(Ωcm)となる。このように、ガラス基板の中央部よりやや「下」の側のGa濃度がほぼ5%となっている箇所で、抵抗率4.5×10-4Ωcmが得られている。この測定結果は、Ga23が混合されたZnOの焼結体からなるターゲットを用いたRFマグネトロンスパッタ法で、基板をターゲット表面に対して垂直に配置することで形成したGaドープZnO膜の抵抗値よりより値である。
【0045】
また、上述したことにより形成したガラス基板上のGaドープZnO膜の透過率を測定すると、図4に示すように、可視領域においては、平均90%程度の低下率が得られている。
【0046】
なお、上述した基板とGa23焼結体ターゲットとの角度、基板とECRスパッタ源からのプラズマ流との角度、および各プラズマ源の条件などの成膜条件を最適化することで、最小の抵抗値として3.1×10-4ΩcmのGaドープZnO膜が形成できる。これは、スパッタ法で形成されるGaドープZnO膜の抵抗値としては、最も小さい値である。
【0047】
ところで、よく知られているように、ECRプラズマを用いたECRスパッタ法は、低損傷に膜を形成することができる成膜方法である。この理由の第1として、プラズマの生成が、基板表面より離れた位置で行われることがある。理由の第2として、生成されたプラズマ流の周囲に配置された、例えば円筒形状のターゲットが用いられるため、ターゲットをスパッタする高エネルギー粒子の出射方向は、基板の方向には向かず、高エネルギー粒子が基板に入射することが抑制されるようになることがある。
【0048】
一方、RFマグネトロンスパッタ法で形成したZnO膜は、c軸方向へ強く配向し、これを断面TEM(透過型電子線顕微鏡)で観察すると、はっきりとした柱状構造の結晶観察される。また、このZnO膜のX線回折パタンには、(002)ピークが強く観察されることが知られている。
【0049】
これに対し、ECRスパッタ法では、上述したように膜に対して損傷が抑制された状態が得られるが、形成したZnO膜の結晶性はそれほど高くはない。ECRスパッタ法で形成したZnO膜のX線回折パタンは、図5に示すように、2θ=34°に(002)ピークが見られるものの、2θ=20−40°にブロードに重畳するガラス基板からの散乱ピークも相当な強度で見られるため、両者の強度の比較からみて、ZnO膜における(002)ピーク強度は、相対的にそれほど大きくないことが判断される。
【0050】
X線件出器をθ=34°に固定して試料基板を回転させて測定したロッキングカーブは、図6に示すように、回転角ω=17°を中心とする強度分布ではなく、ω=6°から強度が徐々に減少する傾向を示している。このことは、ZnO膜を形成した基板表面の法線方向に、c軸が配向しているわけではないことを示している。
【0051】
しかしながら、ZnO膜の電気的特性は、ZnO膜の結晶性だけで決定されるものではない。例えば、RFマグネトロンスパッタで形成されたZnO膜のように、c軸配向した柱状構造となっている場合、各結晶粒の内部の結晶性は良好であるが、これを横断する方向の電子の移動に関しては、結晶粒界における散乱(粒界散乱)の影響が大きいことが考えられる。
【0052】
これに対し、ECRスパッタ法により形成したZnO膜は、同じ横方向(基板平面方向)への結晶間のつながりがなだらかなため、全体としての電子の移動度も、上述したZnO膜に遜色ない状態となる。例えば、GaやAlなどをドープしないノンドープのZnO膜をECRスパッタ法で作製すると、最も低い抵抗率として2×10-3Ωcmが達成される。
【0053】
このように、低損傷で、ある程度低い抵抗率が得られるECRスパッタ法によるZnO膜の形成に、RFマグネトロンスパッタ法によりGa23ターゲットをスパッタして得られるスパッタ粒子を、形成されているZnO膜の表面に対して斜め方向より入射させることで、RFマグネトロンスパッタによる高エネルギー粒子の入射を抑制し、ZnO膜に与える損傷を抑えた状態で、GaがドープされたZnO膜を形成することができる。Al23ターゲットを用いてAlをドープする場合も同様である。また、これらドーパントのドーピング濃度は、数原子%程度であれば十分であり、RFマグネトロンスパッタにおけるターゲットに印加するパワーは小さくてよい。この観点からも、成膜しているZnO膜に対するイオン衝撃を抑制できることになる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明の実施の形態におけるZnO膜形成装置の構成例を示す構成図である。
【図2】本実施の形態におけるZnO膜形成装置を用いたZnO膜形成方法を説明する工程図である。
【図3】実際に形成したGaドープZnO膜の特性調査の結果について説明する説明図である。
【図4】実際に形成したGaドープZnO膜の透過率を示す特性図である。
【図5】ECRスパッタ法で形成したZnO膜のX線回折パタンを示す特性図である。
【図6】X線件出器をθ=34°に固定し、ECRスパッタ法で形成したZnO膜が形成されている試料基板を回転させて測定したロッキングカーブを示す特性図である。
【図7】nOの焼結体からなるターゲットを用いたRFマグネトロンスパッタ法を説明するための構成図である。
【符号の説明】
【0055】
101…真空処理室、102…ECRプラズマ源、103…ターゲット、104…RFマグネトロンプラズマ発生部、105…ターゲット、106…導入部、107…ガス導入口、110…基板台、201…基板、202…ZnO膜。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ZnOからなる第1ターゲットを備えた電子共鳴サイクロトロンプラズマによる第1スパッタ源と、
Ga23又はAl23からなる第2ターゲットを備えたRFマグネトロンプラズマによる第2スパッタ源と、
前記第1スパッタ源からのスパッタ粒子と前記第2スパッタ源からのスパッタ粒子とが堆積する基板が載置される基板台と
を備え、
前記第2ターゲットのスパッタされる面の法線と前記基板の表面の法線とのなす角度が、60°以上90°未満にされている
ことを特徴とするZnO膜形成装置。
【請求項2】
請求項1記載のZnO膜形成装置において、
前記基板台は、前記基板の中心部を通る法線を軸として前記基板を回転させる基板回転機能を備える
ことを特徴とするZnO膜形成装置。
【請求項3】
請求項1又は2記載の膜形成装置において、
前記第1スパッタ源で生成されるプラズマは、前記基板の法線方向に流れるようにされている
ことを特徴とするZnO膜形成装置。
【請求項4】
ZnOからなる第1ターゲットを備えた電子共鳴サイクロトロンプラズマによる第1スパッタと、
Ga23又はAl23からなる第2ターゲットを備えたRFマグネトロンプラズマによる第2スパッタとを同時に行って、
基板の上にGa又はAlがドープされたZnO膜を形成するZnO膜形成方法であって、
前記第2ターゲットのスパッタされる面の法線と前記基板の表面の法線とのなす角度を、60°以上90°未満にした状態で、前記第1スパッタ及び前記第2スパッタを同時に行う
ことを特徴とするZnO膜形成方法。
【請求項5】
請求項4記載のZnO膜形成方法において、
前記第1スパッタ源で生成されるプラズマは、前記基板の法線方向に流れる状態とする
ことを特徴とするZnO膜形成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−144232(P2009−144232A)
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−325949(P2007−325949)
【出願日】平成19年12月18日(2007.12.18)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】