説明

cMETおよびAXLの阻害剤並びにErbB阻害剤を使用するガンの治療方法

本発明は、患者におけるガンの治療方法であって、治療上有効な量の(a)式Aの化合物、またはその薬学上許容される塩(R〜R、pおよびqは定義のとおり)、および(b)erbB−1、erbB−2、もしくはerbB−3受容体またはそれらの組み合わせを阻害するerbB阻害剤の患者への投与を含んでなる方法に関する。本発明の方法は、既に開示されている治療法より有効な治療法であるという証拠を示す併用療法を見出し、当分野の必要性に取り組む。

【発明の詳細な説明】
【関連出願の参照】
【0001】
本出願に係る特許請求の範囲は、2008年5月5日に提出した米国仮出願第61/050322号に基づく優先権を享受する。
【発明の背景】
【0002】
技術分野
本発明は、ErbB阻害剤と組み合わせた、cMETおよびAXLを含むマルチキナーゼを標的とする阻害剤によるガンの治療方法に関する。
【0003】
背景技術
一般的に、ガンは、細胞の分裂、分化、およびアポトーシス細胞死を制御する正常なプロセスの脱調節から生じる。アポトーシス(プログラム細胞死)は、胚発生ならびに神経変性疾患、心血管疾患、およびガンなどの種々の疾患の病因において最も重要な役割を果たしている。最も広く研究されている経路の一つは、アポトーシスのキナーゼ調節を含むものだが、細胞表面での成長因子受容体から核への細胞情報伝達であり(Crews and Erikson, Cell, 74:215-17, 1993)、特にerbBファミリーの成長因子受容体からの細胞情報伝達である。
【0004】
erbB−1(EGFRまたはHER1としても知られる)およびerbB−2(HER2としても知られる)は、erbBファミリーのプロテインチロシンキナーゼ膜貫通型成長因子受容体である。プロテインチロシンキナーゼは、細胞の成長および分化の調節に関わる種々のタンパク質の特定のチロシン残基のリン酸化を触媒する(A.F. Wilks, Progress in Growth Factor Research, 1990, 2, 97-111、 S.A. Courtneidge, Dev. Supp.1, 1993, 57-64、J.A. Cooper, Semin. Cell Biol., 1994, 5(6), 377-387、 R.F. Paulson, Semin. Immunol., 1995, 7(4), 267-277、 A.C. Chan, Curr. Opin. Immunol., 1996, 8(3), 394-401)。
【0005】
erbB−3(Her3としても知られる)は、リガンド結合ドメインを有するが、固有のチロシンキナーゼ活性を持たないerbBファミリーの成長因子受容体である。HER3は、その細胞外リガンド(例えばヘレグリン(HRG))の一つにより活性化され、次いで二量化の基質に、次いでHER1、HER2、およびHER4によるリン酸化の基質になる。有糸分裂促進効果または形質転換効果の細胞情報伝達経路の活性化につながるのは、このリン酸化されたHER3である。
【0006】
これらの受容体チロシンキナーゼは、上皮組織、間葉組織、および神経組織に広く発現し、そこで細胞増殖、生存、および分化の調節に役割を果たしている(Sibilia and Wagner, Science, 269: 234 (1995)、 Threadgill et al., Science, 269: 230 (1995))。野生型erbB−2もしくはerbB−1の発現増加または構成的活性化された受容体変異体の発現はインビトロで細胞を形質転換する(Di Fiore et al., 1987、 DiMarco et al., Oncogene, 4: 831 (1989)、 Hudziak et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA., 84:7159 (1987)、 Qian et al., Oncogene, 10:211 (1995))。erbB−1またはerbB−2の発現増加は、乳ガンの一部および他の種々の悪性腫瘍における臨床成績の低さと相関づけられている(Slamon et al., Science, 235: 177 (1987)、 Slamon et al., Science, 244:707 (1989)、 Bacus et al., Am. J. Clin. Path, 102:S13 (1994))。HRGおよび/またはHER3の過剰発現が、胃ガン、卵巣ガン、前立腺ガン、膀胱ガン、および乳ガンを含む多くのガンで報告されており、予後不良に関連づけられている(B.Tanner,J Clin Oncol. 2006, 24(26):4317-23、 M. Hayashi, Clin. Cancer Res. 2008.14(23):7843-9.、 H. Kaya, Eur J Gynaecol Oncol. 2008; 29(4): 350-6;)。
【0007】
erbBを標的とする様式には、モノクローナル抗erbB−2抗体トラスツズマブ、抗erbB−1抗体セツキシマブ、モノクローナル抗ヒトerbB3抗体mab3481(ミネソタ州ミネアポリスR&D Systemsから市販)などの抗erbB3抗体、ならびに小分子チロシンキナーゼ阻害剤(TKI)、例えばerbB−1/erbB−2選択的阻害剤ラパチニブ(lapatinib)、erbB−1選択的阻害剤ゲフィチニブ(gefitinib)およびエルロチニブ(erlotinib)がある。それでもやはり、これらの薬剤は単剤として示す活性が限られている(Moasser, British J. Cancer 97:453, 2007)。したがって、種々のガンの治療のためにerbB阻害の効率を上げる治療を見出すことにより、腫瘍学の分野において好都合となる。
【発明の概要】
【0008】
一つの態様において、本発明は、患者におけるガンの治療方法であって、治療上有効な量の下記(a)および(b)の患者への投与を含んでなる、方法:
(a)式Aの化合物:
【化1】

(式中、
は、C−Cアルキルであり、
は、C−Cアルキルまたは−(CH−N(Rであり、
は、ClまたはFであり、
は、ClまたはFであり、
のそれぞれは、独立して、C−Cアルキルであるか、またはそれらが結合している窒素原子とともに、モルホリノ、ピペリジニル、またはピラジニル基を形成し、
nは、2、3、または4であり、
pは、0または1であり、
qは、0、1、または2である)
またはその薬学上許容される塩、および
(b)erbB−1、erbB−2、もしくはerb−3受容体またはそれらの組み合わせを阻害するerbB阻害剤。
【0009】
本発明の方法は、既に開示されている治療法と比較して、有効な治療法である証拠を示す併用療法を見出し、当分野の必要性に取り組むものである。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は、HGF存在下でのOE−33(cMET+およびHER2+)およびNCI−H1573(cMET+およびHER1+)細胞におけるラパチニブ、化合物I単独、および1:1モル比でのラパチニブと化合物Iとの組み合わせによる細胞成長阻害の用量反応曲線を示す。
【図2】図2(左図)は、N87 HER2+およびcMET過剰発現腫瘍系におけるラパチニブおよび1:1モル比でのラパチニブと化合物Iとの組み合わせの活性に対するHGFの影響を示す。図2(右図)は、ウェスタンブロット分析により測定される、HGF存在下および非存在下でのラパチニブおよび化合物Iの処理によるcMET、HER2、HER3、AKT、およびERKのリン酸化の阻害を示す。
【図3】図3は、HGF存在下でのBT474(ラパチニブおよびトラスツズマブに感受性あり)およびBT474−J4(ラパチニブおよびトラスツズマブに耐性あり)両細胞における、ラパチニブ、化合物I単独、および1:1モル比でのラパチニブと化合物Iとの組み合わせによる細胞成長阻害を示す。
【図4】図4は、HGF存在下でのBT−474およびBT−474−J4両細胞における、ラパチニブ、化合物I単独、および1:1モル比でのラパチニブと化合物Iとの組み合わせによるアポトーシス誘導(DNA断片化およびカスパーゼ3/7活性化)を示す。
【図5】図5は、HGFの存在下でのBT474−J4細胞における種々の濃度での化合物Iとラパチニブとの組み合わせによる細胞成長阻害およびアポトーシス誘導を示す。
【図6】図6は、BT474−J4細胞における、1)ラパチニブ単独によるHER2リン酸化(pHER2)の阻害、2)化合物I単独によるAXLリン酸化(pAXL)の阻害、および3)化合物Iとラパチニブとの組み合わせを使用したpHER2およびpAXLの阻害ならびにAKTのリン酸化(pAKT)、ERK1/2のリン酸化(pERK1/2)、およびサイクリンD1の減少を示す。
【図7】図7は、HGF存在下でBT474およびBT474−J4両細胞における化合物処理の5日後の、トラスツズマブ、化合物I単独、および1:15のモル比でのトラスツズマブと化合物Iとの組み合わせによる細胞成長阻害を示す。
【図8】図8は、HGF存在下でのNCI−H1648(cMET+)およびNCI−H1573(cMET+およびHER1+)肺腫瘍細胞中の、エルロチニブ、化合物I単独、および1:1のモル比でのエルロチニブと化合物Iとの組み合わせによる細胞成長阻害の用量反応曲線を示す。
【図9】図9(左図、細胞成長阻害と表示)は、HRG存在下および非存在下でのMKN45(cMET+およびHER3過剰発現)腫瘍細胞中の、ラパチニブ、化合物I単独、および1:1のモル比でのラパチニブと化合物Iとの組み合わせによる細胞成長阻害の用量反応曲線を示す。図9(右図、ウェスタンブロット分析と表示)は、ウェスタンブロット分析により測定された、HRG存在下および非存在下でのラパチニブおよび化合物Iの処理による、cMET、HER1、HER3、AKT、およびERKのリン酸化の阻害も示す。
【発明の具体的説明】
【0011】
一つの態様において、本発明は、有効量の式Aの化合物およびerbB阻害剤を使用するガンの治療に関するが、式Aの化合物は、下記式:
【化2】

またはその薬学上許容される塩により表され、
上記式において
は、C−Cアルキルであり、
は、C−Cアルキルまたは−(CH−N(Rであり、
は、ClまたはFであり、
は、ClまたはFであり、
のそれぞれは、独立して、C−Cアルキルであるか、またはそれらが結合している窒素原子とともに、モルホリノ、ピペリジニル、またはピラジニル基を形成し、
nは、2、3、または4であり、
pは、0または1であり、
qは、0、1、または2である。
【0012】
他の態様において、nは3である。
【0013】
他の態様において、pは1である。
【0014】
他の態様において、qは0または1である。
【0015】
他の態様において、式Aの化合物は、以下の構造式:
【化3】

またはその薬学上許容される塩により表される。
【0016】
他の態様において、Rはメチルである。
【0017】
他の態様において、RおよびRはそれぞれFである。
【0018】
他の態様において、−(CH−N(Rは以下のとおりである:
【化4】

【0019】
他の態様において、式Aの化合物は、以下の構造により示される式Iの化合物(化合物I)またはその薬学上許容される塩である:
【化5】

【0020】
他の態様において、前記erbB阻害剤は、下記式IIの化合物またはその薬学上許容される塩である:
【化6】

【0021】
他の態様において、前記erb阻害剤は、式IIの化合物のジトシル酸塩(ditosylate salt)またはジトシル酸塩一水和物(ditosylate monohydrate salt)である。
【0022】
他の態様において、前記erbB阻害剤は、下記式IIIの化合物またはその薬学上許容される塩である:
【化7】

【0023】
他の態様において、erbB阻害剤はトラスツズマブ(trastuzumab)(ハーセプチン(Herceptin)という名称で販売)である。
【0024】
他の態様において、erbB阻害剤はセツキシマブ(cetuximab)(アービタックス(Erbitux)という名称で販売)である。
【0025】
他の態様において、erbB阻害剤はモノクローナル抗ヒトerbB3抗体である。
【0026】
他の態様において、erbB阻害剤はゲフィチニブ(イレッサ(Iressa)という名称で販売)である。
【0027】
他の態様において、前記ガンは、胃ガン、肺ガン、食道ガン、頭頸部ガン、皮膚ガン、表皮ガン、卵巣ガン、または乳ガンである。
【0028】
本発明の他の態様において、乳ガンまたは頭頸部ガンに罹患した患者の治療方法であって、前記患者への治療上有効な量の式Iの化合物またはその薬学上許容される塩の投与を含んでなる方法が提供される。
【0029】
本発明の他の態様において、乳ガンまたは頭頸部ガンに罹患した患者の治療方法であって、前記患者への治療上有効な量の式Iの化合物またはその薬学上許容される塩の投与を含んでなる方法が提供される。
【0030】
他の態様において、薬学上許容される賦形剤が、式Aの化合物もしくはその薬学上許容される塩、またはerbB阻害剤、またはその組み合わせに含まれる。
【0031】
本明細書で使用される「有効な量」という用語は、組織、系、動物、またはヒトの所望の生物的または医学的応答を惹起するであろう薬剤または医薬品の量を意味する。さらに、「治療上有効な量」という用語は、そのような量を受け入れなかった対応の被験者に比べ、疾患、障害、もしくは副作用の向上した治療、治癒、予防、もしくは回復または疾患または障害の進行速度の低下をもたらす量を意味する。この用語は、その範囲の中に、正常な生理機能を高めるのに有効な量も含む。複数の化合物を、連続に、実質的に同時に投与できることが理解できよう。
【0032】
本発明の方法は、経口または非経口を含む任意の好適な手段により投与できる。経口投与用に適合された医薬製剤は、カプセルもしくは錠剤などの個別の単位、粉体もしくは顆粒、水性もしくは非水性液体中の溶液もしくは懸濁液または水中油型液体エマルションとして呈することができる。経口投与は、当分野に公知なものなど薬学上許容される賦形剤を含んでよい。
【0033】
非経口投与、特に静脈内投与用に適合された医薬製剤には、酸化防止剤、緩衝剤、静菌剤、および意図される受容者の血液と組成物を等張にする溶質を含むことのある水性および非水性滅菌注射液、ならびに懸濁剤および増粘剤を含むことのある水性および非水性滅菌懸濁液がある。製剤は、例えば密封したアンプルおよびバイアルなどの最小投薬単位容器または多用量容器に呈することができ、使用の直前に例えば注射用水などの滅菌液体担体を添加するだけでよいフリーズドライ(凍結乾燥)状態で貯蔵してもよい。即席の注射液および懸濁液を、滅菌パウダー、顆粒、および錠剤から調製してもよい。
【0034】
本明細書で使用される「erbB阻害剤」は、erbB−1、もしくはerbB−2、もしくはerbB−3、またはその組み合わせを阻害する化合物、モノクローナル抗体、免疫複合体、またはワクチンを意味する。
【0035】
本発明は、化合物ならびにその薬学上許容される塩を含む。「化合物またはその薬学上許容される塩」という場合の「または」という言葉は、化合物もしくはその薬学上許容される塩(二者択一)または化合物およびその薬学上許容される塩(組み合わせ)を意味すると理解される。
【0036】
本明細書で使用される「患者」は、ガンに罹患している哺乳動物、特にヒトである。
【0037】
本明細書で使用される「薬学上許容される」という用語は、健全な医学的判断の範囲内で、過度な毒性、刺激、または他の問題もしくは合併症がなく、ヒトおよび動物の組織との接触に使用するのに好適な化合物、物質、組成物、および剤形を意味する。当業者は、本明細書の本発明の方法の化合物の薬学上許容される塩が調製できることを認識するであろう。このような薬学上許容される塩は、化合物の最終的な単離および精製の間にインサイチュで調製してよいが、それとは別に遊離の酸または遊離の塩基形態の精製された化合物をそれぞれ好適な塩基または酸と反応させて調製してもよい。
【0038】
一般的に、式Aの化合物およびerbB阻害剤の投薬量は、有効でありかつ許容される量である。好ましくは、式Aの化合物、より詳細には化合物Iの量は、約1mgから1000mg/日の範囲であり、erbB阻害剤の量は、好ましくは約1μgから2000mg/日の範囲である。
【0039】
化合物I(N−{3−フルオロ−4−[(6−(メチルオキシ)−7−{[3−(4−モルホリニル)プロピル]オキシ}−4−キノリニル)オキシ]フェニル}−N−(4−フルオロフェニル)−1,1−シクロプロパンジカルボキサミド)は、2005年4月7日に公開された国際公開第2005/030140号に記載のとおり製造できる。実施例25(193ページ)、36(202−203ページ)、42(209ページ)、43(209ページ)、および44(209−210ページ)は化合物Iの調製方法を記載している。式Aの化合物も同様に調製できる。化合物Iの一般的な調製をスキーム1に概説する。
【0040】
スキーム1
【化8】

【0041】
erbB阻害剤の例には、ラパチニブ、エルロチニブ、およびゲフィチニブがある。ラパチニブ、N−(3−クロロ−4−{[(3−フルオロフェニル)メチル]オキシ}フェニル)−6−[5−({[2−(メチルスルホニル)エチル]アミノ}メチル)−2−フラニル]−4−キナゾリンアミン(示されるとおり、下記式IIにより表される)は、カペシタビンと組み合わせてHER2陽性転移性乳ガンの治療に認可されている、強力な経口用の小分子で、erbB−1およびerbB−2(EGFRおよびHER2)チロシンキナーゼの二重阻害剤である。
【0042】
【化9】

【0043】
式(II)の化合物の遊離塩基、HCl塩、およびジトシル酸塩は、1999年7月15日に公開された国際公開第99/35146号、および2002年1月10日に公開された国際公開第02/02552号に開示されている手順に従い調製できる。化合物IIのジトシル酸塩を調製するための一般的なスキームはスキーム2に示されている。
【0044】
スキーム2
【化10】

【0045】
スキーム2において、式(I)の化合物のジトシル酸塩の調製は、4工程で進行する:工程1:示される二環式化合物とアミンとの反応で、示されるインドキナゾリン誘導体を与える、工程2:対応するアルデヒド塩の調製、工程3:キナゾリンジトシル酸塩の調製、および工程4:ジトシル酸塩一水和物の調製。
【0046】
エルロチニブ、N−(3−エチニルフェニル)−6,7−ビス{[2−(メチルオキシ)エチル]オキシ}−4−キナゾリンアミン(商標タルセバで市販)は、示されるとおり、下記式IIIにより表される。
【化11】

【0047】
エルロチニブの遊離塩基およびHCl塩は、例えば米国特許第5,747,498号、実施例20に従い調製できる。
【0048】
ゲフィチニブ、4−キナゾリンアミン,N−(3−クロロ−4−フルオロフェニル)−7−メトキシ−6−[3−4−モルホリノ)プロポキシ]は、示されるとおり、下記式IVにより表される。
【0049】
【化12】

【0050】
ゲフィチニブは、イレッサという商標で市販されているが(アストラゼネカ)、白金系およびドセタキセル化学療法の両方が奏功しなかった後の、局所進行性または転移性の非小細胞肺ガンの患者の治療に単剤療法として指示されるerbB−1阻害剤である。ゲフィチニブの遊離塩基、塩酸塩、および二塩酸塩は、1996年4月23日に出願され、1996年10月31日に国際公開第96/33980号として公開された国際出願第GB96/00961号の手順に従い調製できる。
【実施例】
【0051】
方法
細胞系および培養
ヒト乳ガン細胞系、BT474、HCC1954、およびMDA−MB−468、頭頸部扁平上皮ガン系、SCC15、Detroit 562、およびSCC12、胃ガン細胞系、SNU−5、HS746T、AGS、SNU−16、およびN87、肺ガン細胞系、NCI−H1993、NCI−H1573、NCI−H441、NCI−H2342、NCI−H1648、HOP−92、NCI−H596、NCI−H69、NCI−H2170、およびA549、表皮ガン細胞系、A431、ならびに結腸ガン細胞系、HT29、SW48、およびKM12は、アメリカン・タイプ・カルチャ−・コレクション(ATCC)から購入した。食道ガン細胞系OE33は、ヨ−ロピアン・コレクション・オブ・セル・カルチャーズ(ECACC)(英国)から購入した。乳ガン細胞系JIMT−1および胃ガン細胞系MKN−45は、Deutsche Sammlung von MiKroorganismen und Zellkulturen GmbH(ドイツ国)から購入した。ヒト乳ガン細胞系、KPL−4は、J Kurebayashi教授のご厚意により譲り受けた(川崎医科大学、倉敷、日本)。LL1−BT474−J4(BT474−J4)乳ガン細胞クローンは、3μMまでの上昇する濃度のラパチニブに曝露させたBT474(HER2+乳ガン細胞、ラパチニブに対して高感受性)の単細胞クローニングにより開発した。LICR−LON−HN5頭頸部ガン細胞系(HN5)は、英国サリーのインスティチュート・オブ・キャンサー・リサーチから贈られた。HN5Cl2は、上昇する濃度のラパチニブへの曝露の後HN5の単細胞クローニングにより開発した。
【0052】
BT474、HCC1954、MDA−MB−468、SCC15、Detroit 562、SCC12、SNU−5、HS746T、AGS、NCI−N87、A−431、NCI−H1993、NCI−H441、HOP−92、NCI−H596、NCI−H69、NCI−H2170、A549、JIMT−1、MKN−45、OE−33、SNU−16、SW48、KM12、およびHT29系を、10%ウシ胎児血清(FBS)を含むRPMI 1640培地中で、37℃で95%空気5%COの加湿されたインキュベーター中で培養した。NCI−H1573およびNCI−H1648の両方は、50:50のダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)/F12、インスリントランスフェリンセレニウムXサプリメント、50nMヒドロコルチゾン、1ng/mLのEGF、0.01mMのエタノールアミン、0.01mMのホスホリルエタノールアミン、100pMのトリヨードチロニン、0.5%(w/v)BSA(2mg/mL)、2L−グルタミン、0.5mMのピルビン酸ナトリウムを含むACL−4無血清培地で培養した。NCI−H2342は、0.005mg/mLのインスリン、0.01mg/mLのトランスフェリン、30nMの亜セレン酸ナトリウム(最終濃度)、10nMのヒドロコルチゾン(最終濃度)、10nMのβエストラジオール(最終濃度)、10nMのHEPES(最終濃度)、追加の2mMのL−グルタミン(最終濃度4.5mMにするため)、および5%ウシ胎児血清(最終濃度)を含む、ATCC処方DMEM:F12培地(カタログ番号、30−2006)で培養した。BT474−J4は、10%FBSおよび1μMラパチニブを含むRPMI 1640で培養した。KPL−4およびHN5は、5%FBSを含むDMEMで培養した。HN5 Cl2は、5%FBSおよび1μMのラパチニブを含むDMEMで培養した。
【0053】
細胞成長阻害アッセイおよびデータ分析
細胞成長阻害は、CellTiter−Glo細胞生存率アッセイにより測定した。細胞を、以下の播種密度で、細胞成長速度によって1000または2000細胞/ウェルで、10%FBSを含むそれぞれの培地で96ウェル組織培養プレートに播種した。BT474−J4およびHN5Cl2は、PBSで洗浄し、それぞれの培地にラパチニブなしに播種した。播種のおよそ24時間後、細胞を化合物に曝露させた。すなわち、10種の2倍ずつ変わる連続希釈率(最終化合物濃度、10、5、2.5、1.25、0.63、0.31、0.16、0.08、0.04、0.02μMの範囲)の化合物または1:1の一定のモル対モル比もしくは示されたとおりの2種の薬剤の組み合わせにより細胞を処理した。細胞を、5%または10%のFBSを含む培地中で、cMET活性化のリガンドである2ng/mLのHGFの存在下または非存在下で、3日間または示されるとおり、化合物とともにインキュベートした。Cell Titer Glo (Promega)を加え、20分間インキュベートし、次いで、発光シグナルをSpectraMax M5プレートを使用し積分時間0.5秒で測定し、ATPレベルを測定した。細胞成長は、ビヒクル(DMSO)処理対照ウェルと比較して計算した。対照細胞成長の50%を阻害する化合物の濃度(IC50)を、以下の4パラメータカーブフィッティング式を利用して外挿した:
y=(A+(B−A)/(1+10(x−c)d
上記式において、Aは最小応答(ymin)であり、Bは最大応答(ymax)であり、cは、曲線の変曲点(EC50)であり、dはヒル係数であり、xはlog10化合物濃度(モル/L)である。
【0054】
併用効果は、併用指数(CI)値およびエクセス・オーバー・ハイエスト・シングル・エージェント(Excess Over Highest Single Agent)(EOHSA)統計分析により評価した。
【0055】
CI値は、外挿されたIC50値ならびにChouおよびTalalayにより誘導された相互非排他的な式により計算した:
CI=D/IC50(a)+D/IC50(b)+(D×D)/(IC50(a)×IC50(b)
上記式において、IC50(a)は阻害剤AのIC50であり、IC50(b)は阻害剤BのIC50であり、Dは細胞成長の50%を阻害する阻害剤Bと組み合わせた阻害剤Aの濃度であり、Dは細胞成長の50%を阻害する阻害剤Aと組み合わせた阻害剤Bの濃度である。一般的に、0.9から1.10のCI値は、2種の薬剤の併用の相加作用を示している。0.9未満のCIは相乗作用を示し(数が小さいほどより強い相乗作用を示す)、1.10を超えるCIは拮抗作用を示す。
【0056】
エクセス・オーバー・ハイエスト・シングル・エージェント(EOHSA)は、成分の単独療法に比べた併用における統計的に有意な向上として定義されている。例えば、化合物AおよびBがそれぞれ濃度qおよびrで組み合わされる場合、組み合わせAq+Brの平均応答はAqまたはBrのみの平均応答より著しく良いであろう。統計的には、二つの比較、Aq+Br対AqおよびAq+Br対Brのp値の最大値は、適切なカットオフ、p≦0.05より低くなければならない。EOHSAは、薬剤併用を評価する通常の手法であり、併用薬剤認可のFDA基準である(21 CRF 300.50)。例と議論に関して、Borisyら(2003)またはHungら(1993)を参照されたい。交互作用付きの2要因分散分析を利用し(モデルタームは、薬剤Aの用量、薬剤Bの用量、および薬剤AおよびBの用量間の交互作用)、次いで、各併用群と対応する単独療法の間の線形の対比により分析を実施した。分析は、SAS(バージョン8、SAS Institute提供、ケーリー、ノースカロライナ州(N.C.))を利用して実施した。各用量でのEOHSAを、適切なANOVA対比から、併用と各単独療法との間の平均阻害(%)の差の最小値として計算した。阻害%エンドポイントに対して比較が多くあるので、多重比較のためにp値の調整を実施した。パワーを向上するためにHommelの手順を実施すると同時に、連続棄却法を利用してファミリーワイズエラー率(Familywise Error Rate)(FWE)を維持した。この調整を利用して、相乗作用と拮抗作用の両方のp値を計算した。EOHSA法を利用すると、相乗は、併用における効果(または応答)が、p≦0.05で最高の単剤のみより有意に高いことを意味する。相加は、併用の効果が、最高の単剤のみと有意に変わらない(p>0.05)ことを意味し、拮抗作用は、併用の効果が、p≦0.05で最高の単剤のみより有意に低いことを意味する。
【0057】
細胞アポトーシスアッセイ−細胞死ELISAPlus(DNA断片を測定)およびCaspase−Glo 3/7アッセイ
細胞アポトーシスを、アポトーシスの証明であるDNA断片を測定する細胞死ELISA法並びに細胞中のアポトーシスの実行酵素の一つである、カスパーゼ3/7の活性を検出するCaspase−Glo 3/7アッセイの両方により測定した。
【0058】
Cell Death ELISAPlusキット(Roche、マンハイム、ドイツ国)を製造業者の説明に従い、使用した。細胞を、ウェルあたり10,000で96ウェルプレートに播種した。24時間後、細胞に薬剤を与え、5%CO中、37℃で、10%FBSを含むRPMI1640中でさらに48時間成長させた。対照細胞および処理細胞の細胞質分画を、ストレプトアビジンにコートされた96ウェルプレートに移し、ビオチン化マウス抗ヒストン抗体およびペルオキシダーゼ結合マウス抗DNA抗体とともに室温で2時間インキュベートした。吸光度は、Spectra Max Geminiマイクロプレートリーダー(Molecular Devices、サニーベール、カリフォルニア州(CA))を使用し、405〜490nmで測定した。
【0059】
Caspase−Glo 3/7アッセイ(Promega)は、カスパーゼ−3および−7活性を測定する均一発光アッセイである。細胞を、ウェルあたり5,000で96ウェルプレートに播種した。24時間後、細胞に薬剤を与え、5%CO中で37℃で、10%FBSを含むRPMI1640中でさらに24時間成長させた。製造業者の説明に従い、カスパーゼ活性、ルシフェラーゼ活性、および細胞溶解に最適化された試薬中で、テトラペプチドシーケンスDEVDを含む発光用カスパーゼ−3/7基質を加えて、カスパーゼ3/7活性を検出した。
【0060】
ウェスタンブロット分析
細胞を、ウェルあたり250,000から500,000で6ウェルプレートに播種した(Falconマルチウェル、Becton Dickinson、フランクリンレイクス、ニュージャージー州(NJ))。翌日、10%FBSを含む成長培地中で、細胞を化合物で処理した。処理後、細胞を冷PBSで洗浄し、プロテアーゼ阻害剤(Complete Protease Inhibitor Tablets, Boehringer Mannheim、インディアナポリス、インディアナ州(IN))を含む細胞溶解緩衝液(40mmol/LのTris−HCl(pH7.4)、10%のグリセロール、50mmol/Lのβ−グリセロホスフェート、5mmol/LのEGTA、2mmol/LのEDTA、0.35mmol/Lのバナジン酸塩、10mmol/LのNaF、および0.3%のTriton X−100)を使用し、培養皿中で溶解した。対照および処理された細胞溶解物からの、BioRadのDC(洗剤適合)プロテインアッセイを利用して測定されたタンパク質サンプル(50μg)を、4%から12%グラジエントNuPAGEゲル(Novex, Inc.、サンディエゴ、カリフォルニア州)に添加し、還元条件下で電気泳動にかけ、ニトロセルロースメンブレン(0.45μm、Bio-Rad Laboratories)に移した。メンブレンブロットをPBSですすぎ、Odyssey Blocking緩衝液中、室温で1時間ブロックした。ブロッキング緩衝液プラス0.1%Tween中で、特異的タンパク質に対する抗体でブロットをプローブし、室温で2時間インキュベートした。メンブレンを洗浄し、ブロッキング緩衝液プラス0.1%Tween中で、IRDye 680またはIRDye 800二次抗体とともに室温で1時間インキュベートした。Odyssey Infrared Imaging System(LI-COR Biosciences、リンカーン、ネブラスカ州)によりメンブレンを現像した。
【0061】
ウェスタンブロット分析(図6)に利用した条件は以下のとおりであった:細胞を、ラパチニブ(1μM)単独、化合物I単独(1μM)、または化合物I(1μM)と組み合わせたラパチニブ(1μM)により4時間処理した。細胞溶解物(総タンパク質50μg)または抗ホスホチロシン抗体により免疫沈降したタンパク質をSDS−PAGEゲルに添加した。特異的タンパク質に対する抗体をウェスタンブロット分析に利用した。
【0062】
ウェスタンブロット分析(図2の右図および図9の右図)に利用した条件は以下のとおりであった:細胞を、ラパチニブ(1μM)単独、化合物I単独(0.1μM)、または化合物I(0.1μM)と組み合わせたラパチニブ(1μM)により、示されるとおりHGFまたはHRGの存在下または非存在下で、2時間処理した。細胞溶解物(総タンパク質50μg)または抗MET抗体または抗HER3抗体により免疫沈降したタンパク質をSDS−PAGEゲルに添加した。特異的タンパク質に対する抗体をウェスタンブロット分析に利用した。
【0063】
化合物I細胞成長阻害
化合物Iは、cMET、RON、AXL、VEGFR 1/2、TIE2、PDGFRβ、cKIT、およびFLT3を標的とする、強力なマルチキナーゼ阻害剤である。CellTiter−Glo細胞生存率アッセイにより、乳腺腫瘍(BT474、HCC1954、KPL−4、JIMT−1、MDA−MB−468、およびBT474−J4)、頭頸部腫瘍(SCC15、HN5、Detriot 562、SCC12、およびHN5Cl2)、胃腫瘍(SNU−5、MKN−45、HS746T、AGS、SNU−16、およびNCI−N87)、肺腫瘍(NCI−H1993、NCI−H1573、NCI−H441、NCI−H2342、NCI−H1648、HOP−92、NCI−H596、NCI−H69、NCI−H2170、A549)、食道腫瘍(OE−33)、皮膚腫瘍(A431)、および結腸腫瘍(HT29、SW48、およびKM12)細胞系で、細胞成長阻害を測定した。
【0064】
肝細胞増殖因子(HGF)は、cMET活性化のリガンドである。それは、細胞増殖の刺激、運動性、および形態発生を含むいくつかの生物活性を持つサイトカインである。HGFは不活性な前駆体として分泌され、プラスミノーゲン活性化因子などの分泌されるプロテアーゼにより活性なヘテロ二量体形態に変換される。インビトロ細胞培養条件では、腫瘍細胞系のほとんどは、活性形態のHGFを発現しない。ヒトHGFの活性形態を培地に加えると、傍分泌cMET活性化系を与える。ヒト血清のHGFレベルは、健常なヒトで約0.2ng/mL(J. Immunol. Methods 2000; 244: 163-173)であると報告され、肝転移乳ガン患者では2ng/mLに上昇した(Tumor Biol 2007;28:36-44)。したがって、細胞成長阻害およびアポトーシスアッセイのために、5%または10%FBSを含む培地にHGFを2ng/mLで添加した。
【0065】
表の略語
以下は、表に使用される略語の説明である。
N=2は、実験が独立して2回繰り返されることを意味する。アスタリスクで示される以外、分析は全て二連で実施した。
IC50は、4パラメータカーブフィッティング式を利用して外挿された対照細胞成長の50%を阻害する化合物濃度を意味し、μMはマイクロモルパーリットルを意味する。
HER増幅+は、細胞系中で遺伝子HER1(HER1+)またはHER2(HER2+)が増幅されることを示す。「なし」は、HER1もHER2も細胞系中で増幅されないことを意味する。
>10は、試験した最高濃度(10μM)までIC50が得られなかったことを意味する。
HER3−過剰は、Affymetrixマイクロアレイ分析により測定してHER3 RNAの過剰発現レベル(MAS 5強度>300)を意味する。
HER3−過剰は、Affymetrixマイクロアレイ分析により測定してHER3 RNAの過剰発現レベル(MAS 5強度<100)を意味する。cMET+は、SNP−CHIPにより測定してMET DNAが5コピー以上であるcMET遺伝子増幅を意味する。
cMET+(<5)は、SNP−CHIPにより測定してMET DNAが5コピー未満であるcMET遺伝子増幅を意味する。
cMET−過剰は、Affymetrixマイクロアレイ分析により測定してcMET RNAの過剰発現レベル(MAS 5強度>300)を意味する。
cMET−低は、Affymetrixマイクロアレイ分析により測定してcMET RNAの低発現レベル(MAS 5強度<300)を意味する。
cMET−突然変異は、cMET遺伝子中の点突然変異、欠失、挿入、またはミスセンス突然変異を意味する。
−HGFは、HGFを加えなかったことを意味する。
+HGFは、2ng/mLのHGFを、5%または10%のFBSを含む培地に加えたことを意味する。
−HRGは、HRGを加えなかったことを意味する。
+HRGは、10ng/mLのHRGを、10%のFBSを含む培地に加えたことを意味する。
NAは、薬剤単独の絶対的なIC50値が測定できなかったので、該当なしである。
【0066】
化合物Iの細胞成長阻害効果
腫瘍細胞系における化合物I単独の成長阻害効果を表1にまとめる。表1に示すとおり、この化合物は、cMET+かつHER非増幅(HER+=no)腫瘍系、MKN−45、SNU−5、HS746T、およびNCI−H1993の細胞成長を阻害するのに非常に強力であり、100nM未満のIC50値を示す。cMET増幅肺腫瘍細胞系であるNCI H1648は、HGFの存在下で化合物Iに対して感受性がより高く、この系のHGF−cMET活性化依存的細胞成長を示唆している。
【0067】
表1 腫瘍細胞系における化合物I単独による細胞成長阻害のIC50値(μM)
【表1】

【0068】
表1の結果は、cMET遺伝子増幅のある腫瘍細胞が、増幅のためにcMETに高度に依存していることを示している。表1がさらに示すとおり、化合物Iは、膜近傍領域でのcMET突然変異を持つcMET増幅が5コピー未満の細胞系(HOP−92:cMET−T1010I、H69:cMET−R988CおよびH596:cMET−エクソン14インフレーム欠失)またはそれぞれcMET−過剰もしくはcMET−低と呼ばれる多量もしくは少量のcMET RNAを発現するcMET非増殖腫瘍細胞系における細胞成長阻害で0.04から約5μMのIC50値を示す。これらの結果は、化合物Iが腫瘍細胞中で複数の腫瘍形成性キナーゼを阻害するという観察と一致する。
【0069】
cMETおよびHER増幅を持つ細胞系に対する、ラパチニブと組み合わせた化合物Iの細胞成長阻害効果
表2に示されるとおり、ラパチニブ単独は、低いcMETおよびHER2+であるBT474乳腺腫瘍細胞系で0.12および0.11の(それぞれHGFのある場合とない場合)平均IC50を示したが、化合物I単独は、4.97μM(HGFあり)および4.90μM(HGFなし)の平均IC50を示した。この結果は驚くべきものではない。ラパチニブは、化合物Iとは違い、増幅erbB−2(HER増幅+)の強力な阻害剤であると知られているからだ。組み合わせると、ラパチニブおよび化合物Iは、BT474乳腺腫瘍細胞系で、HGFがない場合の0.95のCIに基づく相加作用またはHGFがある場合の0.71のCIに基づく相乗作用を示し、より高い濃度で細胞成長阻害を促進した(図3)。
【0070】
それと比較し、ラパチニブおよび化合物Iの組み合わせによる、同時増幅cMETおよびHER2を持つ食道腫瘍細胞株(食道 OE33)での細胞成長阻害の効果は顕著であり、予想外の効果である。表2および図1が示すとおり、OE33は、ラパチニブに対する耐性を示し(HGFがない場合IC50=6.5μM、HGFがある場合10μM超)、化合物I単独には中程度感受性があった(HGFがない場合IC50=0.42μM、HGFがある場合0.40μM)。しかし、ラパチニブと化合物Iの組み合わせは、HGFがあってもなくてもOE33食道腫瘍細胞の細胞成長阻害の強い相乗作用(CIおよびEOHSAの両方に基づく)を示した。同様に、表2および図1に示されるとおり、cMETおよびEGFR同時増幅を持つ肺腫瘍細胞系であるNCI−H1573は、別々に投与される場合に、ラパチニブには耐性があり、化合物Iには中程度に感受性がある。しかし、これら2種の阻害剤の組み合わせは効力を向上させ(IC50値を下げ)、細胞成長阻害活性を高めた(EOHSAに基づく相乗作用)。理論に拘束されるわけではないが、これらの結果は、cMETとHERとが相互作用(「クロストーク」)でき、HER阻害剤またはcMET阻害剤単独により与えられる細胞成長阻害を逃れることができるが、ラパチニブと化合物Iとの組み合わせがcMETおよびHER同時増幅腫瘍細胞における耐性を克服することを示唆している。
【0071】
表2 cMETとHER1またはHER2遺伝子の両方の同時増幅を持つ腫瘍細胞系に対する化合物Iとラパチニブとの組み合わせの細胞成長阻害効果
【表2】

【0072】
cMET増幅、突然変異、または過剰発現のある腫瘍細胞系に対する、ラパチニブと組み合わせた化合物Iの細胞成長阻害効果
表3に示されるとおり、ラパチニブと化合物Iとの組み合わせは、cMET増幅、突然変異、または過剰発現の乳腺腫瘍、肺腫瘍、胃腫瘍、頭頸部腫瘍、卵巣腫瘍、および皮膚腫瘍細胞においてCI<0.9で相乗作用を示した。EOHSA分析は、HGFのない場合のN87およびHGFのある場合とない場合のH1993以外の全ケースで相乗作用を確認した。これらの例外のそれぞれでは、ラパチニブまたは化合物Iの単剤それ自体に非常に活性があり、併用効果は相加的である。
【0073】
驚くべきことに、表3に示されるとおり、HGFは、HER1/HER2増幅およびcMET過剰発現腫瘍細胞(HER2+:N87、H2170、およびHCC1954;HER1+:SCC15、HN5、およびA431)においてラパチニブによる細胞成長阻害の効力を低下させた。さらに、ラパチニブを化合物Iと組み合わせるとHGF効果を克服するだけでなく、HGFのある場合とない場合で、特に細胞系H2170、HCC1954、SCC15、HN5、およびA431において感受性を高めた。対照的に、HGFは、cMET RNAの低発現またはタンパク質発現を持つ二種のHER2増幅乳腺腫瘍細胞系であるBT474(表2)およびKPL−4(表3)におけるラパチニブ活性を低下させなかった。
【0074】
HGF効果は、図2でN87に示されている。図2(左図、細胞成長阻害と表示)は、HGFの非存在下で、N87が、ラパチニブ単独(IC50=0.05μM)または化合物Iとのモル(モル比1:1)の組み合わせに対して、非常に感受性が高いことを示す。対照的に、HGFの存在下で、N87はラパチニブに非感受性(IC50=4.80μM)であるが、ラパチニブと化合物Iとの組み合わせには非常に感受性がある(IC50=0.05μM)。図2(右図、ウェスタンブロット分析と表示)も、ラパチニブと化合物Iとの組み合わせが、HER2、HER3、およびcMETのリン酸化を阻害し、pAKTおよびpERKの細胞信号伝達を低減することを示し、HGFの存在下および非存在下の両方での細胞成長阻害と一致している。
【0075】
表3および図2は、HGFがcMETを活性化するという主張を支持する以前に見出されたものと一致する。上記の結果は、HGF媒介cMET活性化がHERと相互作用を持ち、HER阻害剤による成長阻害を低減させることをさらに示唆している。これらの結果は、化合物Iをラパチニブと併用すると、cMET過剰発現およびHER増幅の腫瘍細胞においてより効果的な療法を提供できることを示している。
【0076】
表3 cMET増幅、突然変異、または過剰発現のある腫瘍細胞系に対する、化合物Iとラパチニブの組み合わせの細胞成長阻害効果
【表3】

*タンパク質発現に基づく
【0077】
ラパチニブ耐性HER+腫瘍細胞系に対する化合物Iおよびラパチニブの併用効果
BT474−J4、JIMT1、およびHN5Cl2は、ラパチニブ耐性HER2+またはHER1+細胞系である。JIMT−1は、ラパチニブまたはトラスツズマブに対する耐性が受け継がれた株であり、トラスツズマブに反応しなかった患者から誘導した。BT474−J4およびHN5Cl2は両方とも、ラパチニブ獲得耐性クローンである。表4が示すとおり、化合物Iとラパチニブの組み合わせは、3種のラパチニブ耐性腫瘍細胞系の全てで細胞成長阻害の相乗作用を示す(EOHSA分析による)。さらに、図3に示されるとおり、化合物Iは、耐性BT474−J4細胞におけるラパチニブ感受性を回復させ、BT474(ラパチニブに感受性あり)と、BT474−J4(ラパチニブおよびトラスツズマブに耐性)との両細胞におけるラパチニブ活性を増加させた。化合物Iと、ラパチニブ併用との相乗作用を、細胞成長阻害だけでなく、図4に示されるとおりアポトーシス誘発においても検出した。図4が示すとおり、化合物Iとラパチニブを併用すると、BT474とBT474−J4細胞の両方で、アポトーシスの証明であるDNA断片およびカスパーゼ3/7活性化の両方が増加した。しかし、別々に投与すると、高濃度の化合物Iまたはラパチニブは、ラパチニブ感受性細胞であるBT474だけにアポトーシスを誘発する。
【0078】
表4 ラパチニブ耐性HER+腫瘍細胞系に対する、ラパチニブと組み合わせた化合物Iの細胞成長阻害効果
【表4】

【0079】
ラパチニブ濃度を1μMに固定して、細胞系BT474−J4における化合物Iの用量反応を測定した。図5Aが示すとおり、化合物IのIC50は、ラパチニブ濃度1μMで0.11μMであることが分かった。ラパチニブなしでは、化合物IのIC50は3μMであり、ラパチニブ自体は1.0μMで最小効果(<50%阻害)を示した。さらに、図5Bに示されるとおり、同じ投薬条件下で、化合物Iとラパチニブとを組み合わせた場合、アポトーシス誘発も検出した。
【0080】
BT474−J4細胞における化合物IのAXL阻害によるラパチニブ感受性の回復
ウェスタンブロット分析(図6に示される)により測定され定量的RT−PCRにより確認されたとおり、AXLが予想外にもBT474−J4に高度に発現されリン酸化されているが、BT474細胞には発現されていないことを見出した。AXLは、いくつかのガンに過剰発現されていることが報告されているが、それらのガンには、結腸ガン(Craven et al., Int J Cancer 1995;60:791-7)、肺ガン(Shieh et al., Neoplasia 2005;7:1058-64)、食道ガン(Nemoto et al., Pathobiology. 1997;65(4):195-203)、甲状腺ガン(Ito et al., Thyroid 1999, 9(6):563-7)、卵巣ガン(Sun et al, Oncology 2004; 66:450-7)、胃ガン(Wu et al, Anticancer Res. 2002; 22(2B):1071-8)、および乳ガン(Berclaz et al., Ann Oncol 2001;12:819-24)があり、予後不良と関連づけられている。組織培養中のAXLの過剰発現はガン化を起こす。したがって、本発明の組み合わせは、これらのAXL過剰発現腫瘍のいずれの治療にも有用である。
【0081】
図6がさらに示すとおり、ラパチニブ単独は、BT474およびBT474−J4の両細胞でHER2のリン酸化を阻害する。しかし、ラパチニブは、BT474−J4細胞ではなくBT474のみで、AKTおよびERKのリン酸化の下流信号伝達を阻害し、サイクリンD1のレベルを低下させる。他方で、化合物I単独は、BT474−J4細胞において、AXLのリン酸化を阻害するが、AKTのリン酸化の下流信号伝達を阻害しない。驚くべきことに、化合物Iと、ラパチニブとの組み合わせは、BT474−J4細胞において、HER2、AXL、AKT、およびERKのリン酸化を実質的に阻害し、サイクリンD1のレベルを低下させる。上記の細胞信号伝達阻害効果は、BT474−J4での細胞成長阻害およびアポトーシス誘発において、化合物Iとラパチニブとの組み合わせに検出される強い相乗作用と非常に良好に相関している。これらの結果は、表5および図7に示される結果と合わせて、1)AXL過剰発現がラパチニブまたはトラスツズマブに対する耐性機構を与えること、および2)化合物Iとラパチニブまたはトラスツズマブとの組み合わせがこれらの腫瘍細胞における耐性を克服することの証拠を与える。
【0082】
HER2+腫瘍細胞系に対する、化合物Iとトラスツズマブとの組み合わせの効果
トラスツズマブは、HER2受容体の細胞外セグメントに結合しHER2信号伝達を阻害するヒト化モノクローナル抗体である。図7に示されるとおり、トラスツズマブ単独は、処理の5日後にBT474細胞において40%(HGFない場合)および35%(HGFある場合)の細胞成長阻害を示すが、BT474−J4、OE−33、およびN87細胞では著しい阻害は示さなかった。表5に示されるとおり、化合物Iと、トラスツズマブとの組み合わせは、より低いIC50値またはEOHSA分析を利用する相乗作用により示されるとおり、4種のHER2増幅細胞系の全てで細胞成長阻害を増加させた。その結果は、HER2増幅腫瘍細胞系において、化合物IをHER2阻害剤と組み合わせる利益をさらに示している。
【0083】
表5 HER2+腫瘍細胞系に対する、化合物Iおよびトラスツズマブの細胞成長阻害効果
【表5】

**トラスツズマブは、処理5日後にBT474において細胞成長を最大で35−40%阻害した。
【0084】
腫瘍細胞系に対する化合物Iおよびエルロチニブの効果
エルロチニブはEGFR阻害剤であり、高濃度で細胞培養中のHER2も阻害する。エルロチニブ単独は、試験した腫瘍細胞系のほとんどにおいてあまり活性がなかった。化合物Iと、エルロチニブとの組み合わせは、表6に列記される肺、頭頸部、乳、卵巣、胃、および表皮の腫瘍細胞系において、CI<0.9として示されEOHSA分析により確認されるとおり細胞成長阻害の相乗作用を示した。
【0085】
とりわけ、図8に示されるとおり、NCI−H1648肺腫瘍細胞系はエルロチニブに耐性があり(IC50>10μM)、化合物Iに中程度に感受性があるが(HGFがない場合IC50=0.96μM、HGFがある場合0.40μM)、エルロチニブと、化合物Iとの組み合わせに感受性が高いことが見いだされた。同様に、cMETおよびEGFRの同時増幅を持つ肺腫瘍細胞系、NCI−H1537は、エルロチニブに耐性があり、化合物Iには中程度に感受性があるが、この二つの化合物の組み合わせに対して感受性が高まることが見出された。これらの結果は、エルロチニブを式Iの化合物と組み合わせれば、これらの腫瘍細胞により効果的な治療を与えられるであろうことを示唆する。
【0086】
表6 乳、結腸、胃、頭頸部、肺、卵巣、および皮膚の腫瘍細胞系に対する、化合物Iとエルロチニブとの組み合わせの細胞成長阻害効果
【表6】

N=1、実験を1回行った。
【0087】
HER3過剰発現腫瘍細胞系に対する、化合物Iとラパチニブまたは抗HER3抗体との併用効果
MKN45細胞は、cMET+であり、過剰発現レベルのHER3を有する。表7および図9に示されるとおり、HRGは、MKN45腫瘍細胞において、細胞成長を阻害し(IC50値は、HRG非存在下の20nMからHRG存在下での450nMに上昇した)、HER3のリン酸化を阻害する化合物Iの感受性を低減した。予想外であることに、ラパチニブは、MKN45細胞中、HRG存在下において化合物Iと組み合わされる場合、化合物Iの感受性を回復させ、CI=0.12およびEOHSA分析に示されるとおり、細胞成長阻害の強い相乗作用を示した。対照として、MET+およびHER3の低い発現を持つHS746T胃腫瘍細胞は、HRGの存在下でも化合物Iに対して感受性を持ったままであった。上記の結果は、化合物Iをラパチニブと組み合わせると、MET+およびHER3過剰発現腫瘍細胞において有利であることを示している。さらに、化合物Iを、抗HER3抗体(モノクローナル抗ヒトerbB3抗体mab3481、ミネソタ州ミネアポリスのR&D Systemsから市販)と組み合わせると、MKN45細胞において化合物Iの感受性を高め、細胞成長阻害に対して相乗作用(EOHSA)を示した(表8)。
【0088】
表7 MET+およびHER3過剰発現腫瘍細胞系における、ラパチニブと組み合わせた化合物Iの細胞成長阻害効果
【表7】

【0089】
表8 HER3過剰発現MKN−45腫瘍細胞系における、抗HER3抗体と組み合わせた化合物Iの細胞成長阻害効果
【表8】

【0090】
腫瘍細胞系に対する、化合物Iおよびゲフィチニブの効果
ゲフィチニブは選択的HER1阻害剤である。ゲフィチニブ単独は、試験された二つの肺腫瘍細胞系にあまり活性がなく、SCC15頭頸部腫瘍系に中程度の活性を示す。化合物Iと、ゲフィチニブとの組み合わせは、表9に列記された肺腫瘍および頭頸部腫瘍細胞系において、CI<0.9および/またはEOHSAにより示されるとおり、細胞成長阻害の相乗作用を示した。
【0091】
表9 肺腫瘍および頭頸部腫瘍細胞系に対する、1:1の一定モル比での化合物Iとゲフィチニブとの組み合わせの細胞成長阻害効果
【表9】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者におけるガンの治療方法であって、治療上有効な量の下記(a)および(b)の患者への投与を含んでなる、方法:
(a)式Aの化合物:
【化1】

(式中、
は、C−Cアルキルであり、
は、C−Cアルキルまたは−(CH−N(Rであり、
は、ClまたはFであり、
は、ClまたはFであり、
のそれぞれは、独立して、C−Cアルキルであるか、またはそれらが結合している窒素原子とともに、モルホリノ、ピペリジニル、またはピラジニル基を形成し、
nは、2、3、または4であり、
pは、0または1であり、
qは、0、1、または2である)
またはその薬学上許容される塩、
(b)erbB−1、erbB−2、もしくはerbB−3受容体またはそれらの組み合わせを阻害するerbB阻害剤。
【請求項2】
qが0または1であり、Rがメチルである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
式Aの化合物が下記式Iの化合物:
【化2】

またはその薬学上許容される塩により表されるものである、請求項1または2のいずれか一項に記載の方法。
【請求項4】
前記erbB阻害剤が下記式IIの化合物:
【化3】

またはその薬学上許容される塩である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記erb阻害剤が、式IIの化合物のジトシル酸塩またはジトシル酸塩一水和物である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記erbB阻害剤が、下記式IIIの化合物:
【化4】

またはその薬学上許容される塩である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記erbB阻害剤が下記式IVの化合物である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【化5】

【請求項8】
前記erbB阻害剤がトラスツズマブである、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記erbB阻害剤がセツキシマブである、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記erbB阻害剤がモノクローナル抗ヒトerbB3抗体である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記ガンが、胃ガン、肺ガン、食道ガン、頭頸部ガン、皮膚ガン、表皮ガン、卵巣ガン、または乳ガンである、請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
乳ガンまたは頭頸部ガンに罹患した患者の治療方法であって、治療上有効な量の下記式Iの化合物:
【化6】

またはその薬学上許容される塩の患者への投与を含んでなる、方法。
【請求項13】
乳ガンに罹患した患者の治療方法である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
頭頸部ガンに罹患した患者の治療方法である、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
薬学上許容される賦形剤が、式Aの化合物もしくはその薬学上許容される塩、またはerbB阻害剤、またはその組み合わせに含まれる、請求項1〜14のいずれか一項に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2011−519941(P2011−519941A)
【公表日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−508584(P2011−508584)
【出願日】平成21年5月5日(2009.5.5)
【国際出願番号】PCT/US2009/042768
【国際公開番号】WO2009/137429
【国際公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【出願人】(591002957)グラクソスミスクライン・リミテッド・ライアビリティ・カンパニー (341)
【氏名又は名称原語表記】GlaxoSmithKline LLC
【Fターム(参考)】