説明

p型透明導電膜の製造のための粉末の製造方法

本発明は材料組成物、それらの材料の製造方法、およびp型透明導電膜の物理気相堆積技術におけるターゲットとして使用するためのセラミック体の製造方法に関する。ペレット化された酸化物材料MxSr1-xCu2+a2+b[式中、−0.2≦a≦0.2、−0.2≦b≦0.2、且つ、Mは、Ba、Ra、Mg、Be、Mn、Zn、Pb、Fe、Cu、Co、Ni、Sn、Pd、Cd、Hg、Ca、Ti、V、Crからなる二価の元素の群の1つまたはそれより多くであり、0≦x≦0.2]の製造方法であって、以下の工程 ・ 特定の粒径分布を有し、且つ化学量論組成量Cu2O、Sr(OH)2・8H2Oを含み、の0<x≦0.2の場合、M−水酸化物を含む前駆体混合物を提供する工程、 ・ 前記の前駆体混合物を密接に混合して均質な混合物を得る工程、および ・ 前記の均質な混合物を850℃より高い温度で焼結する工程、を含む方法が開示される。酸化物材料SrCu2+a2+bは、400ppm未満の残留炭素含有率を有し、且つ、それを用いて、少なくとも5.30g/mlの密度を有するターゲットを製造できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は材料組成物、それらの材料の製造方法、およびp型透明導電膜の物理気相堆積技術におけるターゲットとして使用するためのセラミック体の製造方法に関する。
【0002】
過去10年の間に、透明導電性酸化物の開発において著しい進歩があった。ITO、インジウムスズ酸化物は、これまでn型透明導電性酸化物用に得られた中で最も低い抵抗を有し、且つ、〜10-4Ωcmの抵抗率と可視NIRスペクトル範囲に及ぶ80〜90%までの透明度とを併せ持つ。アルミニウムドープされた亜鉛酸化物、ZnO:Alが提案され、且つ、多くの用途においてITOの代替として使用されているが、しかしその性能はITOの性能よりも幾分劣る(抵抗率>10-4Ωcm)。しかしながら、この程度のオーダーの抵抗率を示す全ての透明導電性酸化物は、n型の導電性酸化物である。
【0003】
従って、その優れた特性にもかかわらず、その用途は、透明電極が必要とされる用途、例えば発光素子、フラットパネルディスプレイ、光起電素子、スマートウィンドウ等に制限されているにすぎない。新規の種類の電気光学素子の構成を可能にするために、p型透明導電性酸化物も同様に必要とされる。高品質なp型透明導電性酸化物の利用可能性は、その材料と既存のn型材料とを組み合わせて、p−n接合の形成によって透明な能動素子にすることを可能にし、且つ、透明トランジスタの製造を可能にするであろう。これは、UV光発光ダイオードの形成を可能にする(蛍光体、透明な電子回路、センサ等と組み合わせた場合、例えば新規ディスプレイタイプのためにもたらされる)。過去において、多くの研究者および発明者らによってこの観測がなされ、そして透明導電性p型材料の開発に向けた相当量の研究をもたらした。
【0004】
しかしながら、これまでに識別されているp型透明導電性酸化物は、そのn型の対応物より少なくとも1桁高い抵抗率を有し、典型的には薄膜の形成のために高温が必要である。例は、H.Kawazoe et al., P−type electrical conduction in transparent thin films of CuAlO2, Nature, 389, 939−942 (1997); およびH.Mizoguchi, et.al, Appl. Phys. Lett., 80, 1207−1209 (2002), H.Ohta, et al, Solid−State Electronics, 47, 2261−2267 (2003)内に見出され、両方ともAMO2構造(ここで、Aはカチオンであり、且つMは正イオンであり、例えばCuAlO2)の材料について論じている。
これまでに知られているそれらのp型透明導電性酸化物の性能が不充分であるにもかかわらず、透明p−n接合の形成について多くの研究が既に報告されており、例えば、K.Tonooka, et al, Thin Solid Films, 445, 327, (2003)内のp−nホモ接合(CuInO2)に基づく透明ダイオード、およびH.Hosono, et al, Vacuum, 66, 419 (2002)内のp−nヘテロ接合(p−SrCu22/n−ZnO)を使用した光電子工学素子である。他の材料は、P−ZnRh24/n−ZnO UV−LED、p−NiO/n−ZnO UV検出器、透明酸化物半導体、例えばp−NiO/n−ZnOで構成されるpn−ヘテロ接合ダイオードに基づくUV検出器、およびp−CuAlO2/n−ZnO光電池および透明電子機器である。
【0005】
しかしながら、それらのダイオードの性能は、不充分な材料品質、最適ではない抵抗率、およびp型透明導電性酸化物のキャリア濃度、または急峻ではないヘテロ接合界面のせいで不充分であり、それ故に、理想係数1.5以上、V<□4Vに対して順方向電流と逆方向電流との比10〜80、破壊電圧8ボルト未満、増加した直列抵抗、および常に材料のバンドギャップに一致するわけではない立ち上がり電圧をもたらした。それらの素子の透明度は、40%〜80%であった。
【0006】
KawazoeおよびHosonoのグループによる研究(例えばH.Yanagi et al., J. Electroceram., 4, 407 (2000)内)は、Cu(I)を有する酸化物に基づく多くのp型透明導電性酸化物の記載をもたらした。H.Ohta, et al., Electron. Lett. ,36, 984 (2000)内に報告される通り、p−SrCu22およびn−ZnOで構成されるp−nヘテロ接合に基づくUV発光ダイオードが、ヘテロエピタキシャル薄膜成長によってうまく製造された。それらのp−TCO材料の中で、SrCu22(SCOとも称される)は、光電子素子における使用のために最も有望な候補の1つであり、なぜならば、それは主に、エピタキシャル膜が比較的低温で得られ、接合領域における界面反応を防ぐことができるからである。ドープされていない、およびKドープされたSrCu22薄膜の合成、例えばUS6294274号B1内に報告されているものの、SrCu22の光電子特性におけるドーパントの影響は、まだ完全には理解されておらず、且つ、SrCu22膜の導電性は今のところ他のp型TCOのものよりも小さい。
【0007】
上記の多くの報告は、溶液からの薄膜の堆積に関する。薄膜の堆積のための他の慣例の技術は、物理気相堆積の一般名によって包含され、限定されずに、例えばダイオード、およびマグネトロンスパッタリング、反応性スパッタリング、真空蒸着、パルスレーザー堆積(PLD)、レーザーアブレーション、IAD等の技術を含む。それらの技術は、主に固体セラミックまたは金属体、いわゆるターゲットを使用する。かかる技術において使用されるセラミック体またはターゲットが、好ましくは高密度(低多孔性)且つ均質性を有し、並びに好ましくは、薄膜を得るための堆積または製造時間にわたって、優先スパッタおよび濃縮および組成の不均質性を避けるために複合化合物および相がないことが、当該技術分野において公知である。
【0008】
Shengらは、"Oriented growth of p−type transparent conducting Ca−doped SrCu22 thin films by pulsed laser deposition", Semicond. Sci. Technol., 21 , 586−590 (2006)内で、ドープされたSCO膜のパルスレーザー堆積について報告した。PLDターゲットは、Cu2O、SrCO3およびCaCO3の混合物を加熱することによって合成された多結晶性CaドープSrCu22粉末から作製された。初めに、純粋な粉末のCu2O(99.9%)、SrCO3(99.9%)およびCaCO3(99.9%)が、10:9:1の原子比で取られ、且つ、ボールミル内で24時間、完全に混合された。その後、該混合物が900℃で15時間、アルゴン雰囲気中で加熱された。焼結された塊が、再粉砕され、且つ、プレスしてペレットにされ、且つ、そのペレットが900℃で10時間、アルゴン雰囲気中で焼結され、それがPLD用のターゲットとして使用された。この方法は一般に、技術水準のPLD用ターゲットの製造に記載されている。US7087526号B1内には、アセテート前駆体混合物のスピンコーティングによる、p型CaOドープされたSrCu22薄膜の製造方法が開示されている。
【0009】
今までのところ、物理気相堆積技術を使用することによる透明導電膜の製造は、使用されるセラミック体の性質に関する多くの技術的な問題を示している。現在市販の材料は、充分に密ではなく、且つ、均質ではない。問題は、ターゲットの形成における過度に高い温度の使用、およびターゲット中の残留炭素汚染の存在と関連している。それらの問題については下記の比較例内で説明する。
【0010】
本発明は、ストロンチウム、銅および酸素を含有するp型透明導電性酸化物の製造、および、上記で挙げられた問題を有さない、物理気相堆積用のそれらの塊の作製のための改善された方法を記載することを目的としている。
【0011】
本発明によれば、ペレット化された酸化物材料MxSr1-xCu2+a2+b [式中、−0.2≦a≦0.2、−0.2≦b≦0.2、且つMは、Ba、Ra、Mg、Be、Mn、Zn、Pb、Fe、Cu、Co、Ni、Sn、Pd、Cd、Hg、Ca、Ti、V、Crからなる二価の元素の1つまたはそれより多くの基である; 0≦x≦0.2]の製造方法であって、以下の工程:
・ 所定の粒径分布を有し、且つ、化学量論組成量のCu2O、Sr(OH)2・8H2Oを含み、且つ、0<x≦0.2の場合、M−水酸化物を含む、前駆体混合物を提供する工程、
・ 前記の前駆体混合物を密接混合して均質な混合物を得る工程、および
・ 前記の均質な混合物を850℃より高い温度で焼結する工程
を含む方法が開示される。
前記の前駆体混合物を密接混合する工程の間、粒径分布を保持することが好ましく、且つ、前駆体混合物を密接混合する工程と、その均質な混合物を焼結する工程との間に、その均質な混合物は好ましくは60℃〜100℃の温度でのか焼工程を経るべきである。密接混合工程を、好ましくはTurbulaミキサー内で実施し、且つ、か焼工程は好ましくは真空乾燥工程である。
【0012】
1つの実施態様において、上記の方法は、さらに、ペレット化された酸化物材料を、950℃より高い温度且つ少なくとも2.5kN/cm2、および好ましくは少なくとも3.5kN/cm2の圧力で熱圧縮サイクルに供することによってターゲットを製造する工程を含む。該熱圧縮サイクルは、好ましくは975〜1025℃の温度で実施される。
【0013】
好ましい実施態様において、x=1±0.2、M=Baであり、且つ、M−水酸化物はBa(OH)2・8H2Oである。
【0014】
本発明は、残留炭素含有率400ppm未満を有する粉末酸化物材料SrCu2+a2+b [式中、−0.2≦a≦0.2、−0.2≦b≦0.2]も包含する。この粉末酸化物材料は、ターゲットの製造のために使用され、その際、ターゲットは少なくとも5.30g/mlの密度を有し、且つ、以下の工程
・ 前記の均質な混合物を850℃より高い温度で焼結し、それによりペレット化された酸化物材料を得る工程、および
・ 前記のペレット化された酸化物材料を、950℃より高い温度、且つ少なくとも2.5kN/cm2、好ましくは少なくとも3.5kN/cm2の圧力での熱圧縮サイクルに供する工程
を含む方法によって得られる。
好ましくは、該ターゲットは少なくとも5.40、さらには5.45g/mlの密度を有する。好ましい実施態様において、該ターゲットはp型透明導電膜のPVD堆積、例えばマグネトロンスパッタリングのために使用される。
【0015】
先行の研究と比較して、製造方法の温度および時間が低減されることが示され、予想外にも粉末の純度および改善された方法で製造された粉末から得られるセラミック体の均質性が大幅に改善されたことも観察された。
【0016】
本発明を以下の図によって説明する:
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】新たに作製されたターゲット断面SEM像の比較
【図2】先行技術と本発明の製造物とのX線回折パターンの比較
【図3a】先行技術の製造物のEDS線分析およびマッピング
【図3b】本発明の製造物のEDS線分析およびマッピング
【図4】Suzuki−Gauckler法について、合成の間のXRDの変化
【図5】Martinson−Ginley法のか焼粉末の粉末回折図
【図6】バルクの相SrCu22、Ca置換SrCu22、および予想される粉末パターン強度のXRDθ/2θスペクトル
【図7】Kudo法のか焼された粉末の粉末回折図、そのピークリスト、およびSrCu22およびCuのピークリスト
【図8】Kudo法および低カーボネート法(Carbonate lean method)の製造物のX線回折パターンの比較
【図9】種々の低カーボネート法についてのX線回折パターンの比較
【0018】
本発明を以下の(対照)実施例によってさらに説明する。
【0019】
対照例1: 技術水準の製造物(CE1)
ストロンチウム銅酸化物(SCO)薄膜をパルスレーザー堆積(PLD)によって作製するためのターゲットは、STMC (Sputtering Target Manufacturing Company、ウェスターヴィル、オハイオ、米国)から市販である。アルキメデスの原理を使用したそれらのターゲットの分析により、密度(3.90±0.10)g/mol (標準偏差(s.d.); n=3)が示される。図1の左の部分(対照例1)に示される通り、新たに割られた表面の断面SEM像で、材料は多孔性が高いことが理解でき、それは比較的低密度のターゲットをみちびく。
【0020】
図2の下の部分(対照例1)に示される通り、X線回折パターン調査によって、該ターゲットが主に銅ストロンチウム酸化物Cu3Sr1.755.13 [00−039−0489]および銅酸化物CuO [01−080−1268]からなり、微量の炭素およびごく微量のターゲット化合物Cu2SrO2 [00−038−1178]を有することが測定される。(角括弧[ ]内の数字は、JCPDS−lntemational Centre for Diffraction Data(登録商標)のコレクションを示す)。
【0021】
ラインスキャンおよびマッピングモードでのX線組成微量分析(エネルギー分散分光計)によるさらなる分析を、研磨された断面上で行う。図3(対照例1)で明確になる通り、この分析はターゲット試料の多孔性、並びに材料の非常に不均質な性質を立証する。市場において適切なターゲットを見つけることが全般的に難しいので、文献内に記載される多くのターゲット製造方法が試験された。
【0022】
対照例2: 文献内に記載される製造方法
a) Suzuki−Gauckler法
Suzuki,Ryosuke 0.; Bohac, Petr; Gauckler, Ludwig J., Thermodynamics and phase equilibria in the strontium−copper−oxygen system, Journal of the American Ceramic Society (1992), 75(10), 2833−42内に記載される製造方法は、多金属酸化物を作製するための古典的なセラミックの経路("混合−振盪、およびベーク")を使用している。この手順のための出発材料は、200メッシュに篩われたCuOおよびSrCO3(それぞれ380.0gおよび357.0g)である。従って、出発材料は75□mよりも小さい粉末の混合物からなり、さらにTurbula混合により均質化されている。
【0023】
従って、以下の手順に従う:
工程1: 空気中、950℃で200時間、か焼する
工程2: か焼された粉末を、リングミル内で、全ての粉末が200メッシュのふるい(<75μm)を通過するまでミリングする
工程3: 粉末をペレットへと冷間圧縮する
工程4: ペレットをアルゴン中、900℃で16時間、焼結する
工程5: 焼結されたペレットを、リングミル内で、全ての粉末が200メッシュのふるい(<75μm)を通過するまでミリングする(分析)
工程6: 粉末をペレットへと冷間圧縮する
工程7: ペレットをアルゴン中、900℃で18時間、焼結する
工程8: 焼結されたペレットを、リングミル内で、全ての粉末が200メッシュのふるい(<75μm)を通過するまでミリングする(分析)
工程9: 粉末をペレットへと冷間圧縮する
工程10: ペレットをアルゴン中、900℃で17時間、焼結する
工程11: 焼結されたペレットを、リングミル内で、全ての粉末が200メッシュのふるい(<75μm)を通過するまでミリングする(分析)
工程12: 粉末をペレットへと冷間圧縮する
工程13: ペレットをアルゴン中、900℃で66時間、焼結する
工程14: ペレットを窒素中(100l/時間)、775℃で4時間、焼結する。
【0024】
生じるペレットは4.59〜5.00g/mlの密度(アルキメデスの方法)を示す。第一のか焼(工程1)の後、工程11の後、および工程の最後(工程14)で、粉末試料をX線回折分析に供した。図4の結果(下のライン:工程1後、中央のライン: 工程11後、上のライン:工程の最後)は、この方法のプロセスの間に実質的な変化が起きることを示している。(各試料のピークは、最大ピークに対して正規化されており、且つ、y軸上で任意にシフトされている)。しかし、300時間(またはほぼ2週間)を超える全プロセスの後でさえも、この方法では所望の製造物が産出されないことも明らかである。最終的な回折図は、多くのSrCuO2相の存在を、ターゲット化合物SrCu22からの寄与、およびさらにはCu2O、CuOおよびSr14Cu2441からのより少ない程度の寄与と共に示す。
【0025】
b) 改良Martinson−Ginley法
この方法は、水性前駆体からの薄膜の直接堆積を使用する (A.Martinson, Synthesis of single phase SrCu22 from liquid precursors, DOE Energy Research Undergraduate Laboratory Fellowship Report, National Renewable energy Laboratory, Golden, Co (2002)参照)。この方法はターゲットの化合物の薄膜の直接堆積のために開発されたので、それをさらなる加工のための粉末を得るために改良し、且つ物理気相堆積用のターゲットとして使用できる固体に変換した。
【0026】
元の手順はギ酸銅(copper formiate)(Cu(CH2OO)2・4H2O)および酢酸ストロンチウム(Sr(CH3COO)2)の、Cu:Sr比2:1を正確に有する溶液から出発する。この溶液をエアブラシ技術により基材に適用する。基材を180℃に加熱する。堆積膜を有する基材をその後、4時間、775℃、2.0×10-5Torrの酸素雰囲気中でアニールする。アニール時間の最後に、基材を室温に冷却する(650℃で酸素フローを停止する)。
【0027】
改良された方法においては、粉末を作製するための原料は、Martinson−Ginleyの経路と同じであるが、手順を以下の通りに改良する:
・ 溶液を180℃で噴霧乾燥させる
・ 4時間、775℃、窒素中でアニールを行う
・ 窒素中で室温に冷却する。
【0028】
ギ酸銅(4水)(Aldrich、97%)および酢酸ストロンチウム(Aldrich)、それぞれ1140.0gおよび500.1gを、3.92lの脱イオン水中に溶解する。この溶液を、噴霧器(SL24−50/M−02/B、ストレート流路を有する [493−1889−019])を装備したNiroの研究室規模用噴霧乾燥機(S80)内で噴霧乾燥させる。
【0029】
噴霧乾燥された粉末を、管状炉内で775℃に加熱し、窒素雰囲気下、775℃で4時間保持する。石英のるつぼを約3/4、前駆体粉末で満たす。か焼の間、かなりの体積膨張が観察される。
【0030】
図5のXRDの図から、純粋なSrCu22(上)、Ca置換されたSrCu22(中)、および予想される粉末パターン強度(下)のXRDスペクトルを表す図6と比較すると(JCPDS 38−1178−International Centre for Diffraction Data(登録商標)から得られた)、か焼後の材料が純粋相ではなく、且つ、生成物の混合物であることが明らかである。
【0031】
製造の観点から、均質な溶液の作製、噴霧乾燥および得られる粉末のか焼の順序を、しばしば、直接噴霧燃焼または噴霧熱分解技術によって置き換えることができる。この方法は上記と同一の前駆体溶液から出発するが、180℃の噴霧乾燥工程の代わりに580℃の噴霧燃焼が使用される点で異なる。生じる粉末をさらに775℃でb)の通り、アニールする。
【0032】
それらの条件下で形成される主な相がストロンチアナイト(SrCO3)、黒銅鉱(CuO)、酸化銅(I)(Cu2O)および銅であることが観察された。説明できない銅の損失も観察される。
【0033】
この方法は正しい組成物を産出しないと結論付けざるを得ない。炭素含有ストロンチアナイトから出発する材料において、後者は最終生成物として現れることが示される。この炭酸ストロンチウムは、分解温度1070℃を有する非常に安定な化合物である。酸化雰囲気中で、約800℃のより低い分解温度が観察されることがある一方、CO2雰囲気中では約1220℃での分解が報告されている。ターゲット化合物の製造について、非酸化性の環境が要求されるので(Cu(I)のCu(II)状態への酸化を避けるため)、形成されるいかなるカーボネートの分解温度も1050℃より上であろう。
【0034】
c) Kudo法
先の方法からの、炭酸ストロンチウムの安定性における観察をKudoの研究、Kudo,A.; Yanagi,H.; Hosono,H.; Kawazoe,H, A new p−type conductive oxide with wide band gap, SrCu22, Materials Research Society Symposium Proceedings (1998), 526 (Advances in Laser Ablation of Materials), 299−304、およびKudo,Atsushi; Yanagi,Hiroshi; Ueda,Kazushige; Hosono,Hideo; Kawazoe,Hiroshi; Yano,Yoshihiko, Fabrication of transparent p−n heteroj unction thin−film diodes based entirely on oxide semiconductors, Applied Physics Letters (1999), 75(18), 2851−2853によって示唆された方法を使用して評価できる。
【0035】
この方法の出発材料として、Cu2OおよびSrCO3を使用し、それらを化学量論組成比の2:1のCu:Sr比で混合する。その原料を密接混合し、且つ、120□mのふるいが取り付けられたRetsch ZM100ミル内でミリングする。該混合物を40時間、950℃で窒素フロー(240l/時間)中に置く。窒素下で焼結された物体を冷却した後、その製造物を再度粉砕し、且つ、800kg/cm2での冷間等方加工プレスによって、プレスしてペレットにする。得られるペレットを10時間、窒素下、850℃で焼結する。
【0036】
粉末の化学分析は、(質量パーセントの点で)得られる製造物が(35.23±0.07)質量%のSrと、(51.19±0.06)質量%のCuとを含有することを示す。残留炭素汚染は0.043〜0.059質量%のCに達する。X線粉末回折により、この方法において、か焼粉末の粉末回折図、そのピークリスト(下図、上のライン)、およびSrCu22[00−038−1178](下図、中央のライン)およびCu[01−070−3039](下図、下のライン)のピークリストをもたらす図7に示される通り、金属銅の不純物の少ない正確な材料相が得られることがわかる。
【0037】
粉末を冷間圧縮し、そして無圧力焼結するが、しかし、密度の大幅な改善はなく、非常にもろいことが判明する。得られるペレットは研磨の間に壊れる。結果として、圧縮法がホットプレスに変更される。以下の熱サイクルを、本方法によって得られる粉末の圧縮のために使用する(30mmグラファイトダイ、ホウ素窒化物被覆)。
【0038】
1. 20kNで冷間圧縮する
2. 最小負荷(4kN)、50℃/分で加熱する
3. 900℃で4kNから10kNへ負荷を増加する
4. 975℃で10kNから20kNへ負荷を増加する
5. 975℃で30分間停止する
6. 自然対流によって冷却する。
【0039】
得られるターゲットの密度は5.33±0.10g/mlである。
【0040】
実施例3: 本発明の"低カーボネート"法による実施例
上記のKudo法からの最終製造品の炭素汚染は、出発材料としてカーボネートを使用し、且つ完全な熱分解について使用された温度が低い方であることを考慮すれば比較的低いのだが、材料中の不純物に基づく炭素量をさらに低減するための試みを行った。従って、Kudo法と類似しているがしかし反応物としてSr(OH)2・8H2Oを用いる方法が開発されている。この方法は、"低カーボネート法"として示される。工業において(例えばSolvay SA)、Sr(OH)2・8H2OはSr水酸化物の最も一般的な形態であることが知られている。Kudo法と低カーボネート法との両方の工程を並行して行い、同一の条件下で試料を調製および分析する。
【0041】
図8において、両方の方法についてのX線回折パターンをまとめる(Kudo法:上、低カーボネート法:下)。両方の材料はSrCuO2として同定される(明らかに、いくつかの微量の不純物が存在する(例えばKudo法の場合の銅))。
【0042】
最終製造物の炭素含有率は、それぞれKudo法および低カーボネート法について0.072%および0.034%である。本発明による製造物中の炭素汚染の存在は、使用されたカーボネート前駆体から由来するよりも、大気からの二酸化炭素の水酸化ストロンチウム原料による吸着を示しているかもしれない。
ターゲットの開発に有利であるとみなされる、より高い密度をもたらす条件のための圧縮工程を探索するために、充分な材料が製造される。方法2−cの圧縮工程を、制御パラメータ、例えば温度、圧力および保持時間を変化させた適合された方法で使用し、以下の表の結果が得られる。
【0043】
【表1】

【0044】
圧力は直径3cm(表面:7.07cm2)を有するターゲット上に及ぼされた力として表され、20kNは2.83kN/cm2に、25kNは3.54kN/cm2に相当することに留意。
【0045】
結論として、密度に良い影響を有する高められた圧力および温度でより高い密度を得ることができ、且つ、保持時間の延長はわずかに悪影響を有することを述べることができる。しかしながら、分解を避けるために、温度および保持時間をあまりに多く増加させないように注意するべきである。
【0046】
対照例1におけるターゲットと比較して、本発明によるターゲットは、はるかにより純粋相であり、実際にターゲット化合物が存在し、且つ、出発材料に関連する微量の他の不純物のみが存在する。これは図2において示される: 上の部分:本発明による材料(低カーボネート)、下の部分:対照例の材料。
【0047】
図1の右の部分(実施例3)に示される通り、新たに割られた表面の断面SEM像で、材料は対照例1の材料よりも非常に低い多孔性であることが理解できる。元素の酸素(上右)、銅(下左)、およびストロンチウム(下右)、X線組成微量分析(エネルギー分散分光計)を比較すると(図3参照(実施例3対対照例1))、本発明のターゲットの組成の均質性がはるかにより均一であり、従ってスパッタ膜において、アブレーション/エロージョン深さに対する組成(Sr/Cu比)のばらつきが少ないことが予想されることが特筆される(優先的なアブレーション/エロージョンまたはスパッタがないという仮定で)。
【0048】
Retsch ZM100内での原料のミリング工程の間に観察できる通り、Sr(OH)2・8H2Oの使用のおかげで、結晶水の放出が粉末混合物を粘性のペーストに変え、Retsch ZM100遠心ミル工程は好ましくはTurbulaミキサー内、1時間の完全な機械混合によって置き換えられ、次に80℃で真空乾燥する。両方の材料が同一且つ所望のX線回折図を示し(図9参照:上:Retschミルを使用; 下:Turbulaミキサーを使用)、元の手順を用いて得られた粉末中でいくらかのより顕著なCu2Oの痕跡を示すことに留意。Sr(OH)2・8H2Oのミリングを使用する方法に固有の機械的な問題にもかかわらず、両方の材料は同一で且つターゲット製造のために適していることが結論付けることができる。
【0049】
得られた緑色の粉末をホットプレス条件下で試験する。適切な混合および真空乾燥工程の使用は、ペーストの形成を回避し、且つ、窒素下、950℃で40時間のホットプレス工程、およびRetsch ZM100ミル内での二次ミリング(および80□m上でのふるい)の後、元の手順(「一次」Retsch遠心ミリング工程を用いる)の33.3%に対し、19.6%の質量減少が観察された。該プレスサイクルは、黒から灰色への色の変化をもたらす。
【0050】
「元の手順」の粉末について、色の変化は酸化または改質が起きたことを示している。残っている材料の分析により、焼結材料中に少量の初期生成物(即ち水酸化ストロンチウム)が見られることがわかり、恐らく、ホットプレスサイクルの間にさらなる意図しない反応が含まれる。
Turbulaによる混合後、ホットプレスサイクル前の真空乾燥工程を省略すると、圧縮および冷却後、全てのターゲットが粉末へと崩壊していることが判明する。これは、ミリング(Retsch)またはミリング(Turbula)のいずれか、および真空乾燥を用いた低カーボネート法で形成されたターゲットについては当てはまらない。製造を拡大するための好ましい方法は、ミル内部でのペースト形成を、追加的な混合/乾燥工程という犠牲を払ってでも避けるべきである。
【0051】
実施例4: ターゲットBaSrCu22の製造
実施例3と類似し、ターゲット製造方法を以下の通りに要約できる:
Cu2O、Sr(OH)2・8H2OおよびBa(OH)2・8H2Oを秤量する→
Turbulaミキサーを使用して成分を混合する→
真空下、80〜90℃で4日間、成分を乾燥させる→
Retsch ZM100遠心分離ミル内で混合および80μmにミリングする→
炉内、窒素下、950℃で40時間の間、反応させる→
Retsch ZM100遠心分離ミル内で混合および250μmにミリングする→
Retsch ZM100遠心分離ミル内で混合および80μmにミリングする→
梱包および封入する→
圧縮、冷間プレスを適用する→
加熱および975℃で保持する→
冷却する→
粉砕および研磨する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペレット化された酸化物材料MxSr1-xCu2+a2+b
[式中、−0.2≦a≦0.2、−0.2≦b≦0.2、且つ、Mは、Ba、Ra、Mg、Be、Mn、Zn、Pb、Fe、Cu、Co、Ni、Sn、Pd、Cd、Hg、Ca、Ti、V、Crからなる二価の元素の群の1つまたはそれより多くのいずれかであり、0≦x≦0.2]
の製造方法であって、
・ 特定の粒径分布を有し、且つ化学量論組成量のCu2O、Sr(OH)2・8H2Oを含み、且つ0<x≦0.2の場合、M−水酸化物を含む、前駆体混合物を提供する工程
・ 前記前駆体混合物を密接混合して均質な混合物を得る工程、および
・ 前記均質な混合物を850℃より高い温度で焼結する工程
を含む方法。
【請求項2】
前記前駆体混合物を密接混合する工程の間、所定の粒径分布が保たれ、且つ、前記前駆体混合物を密接混合する工程と、前記均質な混合物を焼結する工程との間に、前記均質な混合物が、60℃〜100℃の温度でのか焼工程を経ることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記密接混合の工程が、Turbulaミキサー内で実施されることを特徴とする、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記か焼工程が、真空乾燥工程であることを特徴とする、請求項2または3に記載の方法。
【請求項5】
さらに、前記ペレット化された酸化物材料を、950℃より高い温度且つ少なくとも2.5kN/cm2、および好ましくは少なくとも3.5kN/cm2の圧力での熱圧縮サイクルに供することによってターゲットを製造する工程を含む、請求項1から4までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記熱圧縮サイクルが、975〜1025℃の温度で実施されることを特徴とする、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
0<x≦0.2、M=Ba、且つM−水酸化物がBa(OH)2・8H2Oである、請求項1から6までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
残留炭素含有率が400ppm未満であり、且つ、請求項1から7までのいずれか1項に記載の方法によって得られることを特徴とする、粉末酸化物材料SrCu2+a2+b [式中、−0.2≦a≦0.2、−0.2≦b≦0.2]。
【請求項9】
請求項8に記載の粉末酸化物材料を、ターゲットの製造のために用いる使用であって、前記ターゲットは少なくとも5.30g/mlの密度を有し、且つ、以下の工程
・ 請求項1に記載の均質な混合物を850℃より高い温度で焼結し、それによりペレット化された酸化物材料を得る工程、および
・ 前記ペレット化された酸化物材料を、950℃より高い温度、且つ少なくとも2.5kN/cm2、好ましくは少なくとも3.5kN/cm2の圧力での熱圧縮サイクルに供する工程
を含む方法によって得られるターゲットの製造のために用いる使用。
【請求項10】
前記ターゲットが、少なくとも5.40、好ましくは5.45g/mlの密度を有する、請求項9に記載の使用。
【請求項11】
p型透明導電膜のPVD堆積用のターゲットを製造するための、請求項9または10に記載の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3a】
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【図3b】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2012−510952(P2012−510952A)
【公表日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−539927(P2011−539927)
【出願日】平成21年11月30日(2009.11.30)
【国際出願番号】PCT/EP2009/008509
【国際公開番号】WO2010/066359
【国際公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【出願人】(509126003)ユミコア ソシエテ アノニム (23)
【氏名又は名称原語表記】Umicore S.A.
【住所又は居所原語表記】Rue du Marais 31, B−1000 Brussels, Belgium
【Fターム(参考)】