説明

ゴム補強用コードおよびその製造方法

【課題】優れた機械強度と均一な品質との両立を図ったゴム補強用コードおよびその製造方法を提供する。
【解決手段】溶液中のレゾルシン/ホルムアルデヒド総量のモル比、レゾルシンおよびホルムアルデヒド総量とゴムラテックス固形分の総量との比、RFL接着剤液の総固形分量に対するアルカリ金属水酸化物の固形分の質量%、総固形分量に対する添加されたNH水溶液のNHOHベースの質量%、総固形分濃度%を全て所定の範囲とし、かつ、この溶液中のラテックス成分を構成するゴムを所定のゴムラテックスとするRFL接着剤液を用いて接着剤処理され、ゴム中に埋め込まれて加硫された後の強度が8.0g/d以上であるゴム補強用コードである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はゴム補強用コード(以下、単に「コード」とも称す)およびその製造方法に関し、詳しくは、接着剤処理時および加硫時に強力が低下することなく、繰り返した圧縮歪下での耐疲労性にも優れ、かつ、均一な品質であるゴム補強用コードおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアミド繊維コードは、タイヤを始めとする各種ゴム製品の補強用コード材料の中でも優れた強度、耐久性及び耐熱性を有するため、従来からトラック・バス用、建設車両用、航空機用等の大型タイヤやコンベヤベルト、ホース、空気バネ等のゴム工業製品の補強材として多く使用されてきた。
【0003】
一方、タイヤ軽量化、低燃費化、省資源化、コスト低減、生産性向上等の目的から補強材の積層枚数の低減、コード打ち込み本数の減少、コード太さの細糸化等による補強材量の減少が強く要請されている。このような要請に応えるためには、より高強度の繊維が必要である。
【0004】
例えば、特許文献1、2には、レゾルシン、ホルムアルデヒド、ゴムラテックス、アルカリ金属水酸化物およびアンモニアの添加量を所定の範囲としたレゾルシン−ホルムアルデヒド/ゴムラテックス(RFL)接着剤液が開示されている。また、この接着剤液を用いてポリアミド繊維コードを接着剤処理することにより、接着剤処理時および加硫時に強力が低下することなく、繰り返した圧縮歪下での耐疲労性にも優れたゴム補強用ポリアミドコードが得られることも開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5−186926号公報
【特許文献2】特開平5−279934号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1および2で開示されている接着剤液中には天然ゴム(NR)ラテックスが配合されている。NRラテックスが配合されている接着剤液は優れた機械強度を有するという利点を有している。しかしながら、一方で、均一な品質のゴム補強用コードを得ることが困難であるため、接着剤液のさらなる改良が望まれていた。
【0007】
そこで、本発明の目的は、接着剤処理時および加硫時に強力が低下することなく、繰り返した圧縮歪下での耐疲労性にも優れ、かつ、均一な品質であるゴム補強用コードおよびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解消するために鋭意検討した結果、均一な品質のゴム補強用コードが得難い原因は、NRラテックス配合の接着剤液にはゲル分やゴミ等の不純物が存在しているためであるという知見を得た。そこで、本発明者は得られた知見に基づき、さらに鋭意検討した結果、下記構成とすることにより、上記課題を解消することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明のゴム補強用コードは、レゾルシン−ホルムアルデヒド/ゴムラテックス接着剤液を用いて接着剤処理されゴム中に埋め込まれて加硫された後のゴム補強用コードにおいて、
前記接着剤液が、レゾルシン/ホルムアルデヒド総量のモル比をR/F、レゾルシンおよびホルムアルデヒドの総質量とゴムラテックス固形分の総質量の比をRF/L、レゾルシン−ホルムアルデヒド/ゴムラテックス接着剤液の総固形分の質量に対するアルカリ金属水酸化物の質量%をS、レゾルシン−ホルムアルデヒド/ゴムラテックス接着剤液の総固形分の質量に対するNH水溶液のNHOHベースの質量%をA、レゾルシン−ホルムアルデヒド/ゴムラテックス接着剤液の総固形分の質量%をCとしたとき、下記(1)〜(6)式、
1/2.3≦R/F≦1/1.1・・・(1)
1/10≦RF/L≦1/4・・・(2)
0.05≦S≦0.8・・・(3)
0≦A≦0.5・・・(4)
0.05≦S+A≦0.8・・・(5)
10≦C≦24・・・(6)
で表される関係式を満足し、かつ、ビニルピリジンラテックスと、スチレンブタジエンゴムラテックスと、アクリロニトリルブタジエンラテックスの各々の固形分質量の全ラテックス固形分質量に対する質量%をそれぞれa、b、cとしたとき、下記(7)〜(9)式、
10≦a≦80・・・(7)
0≦b≦70・・・(8)
20≦c≦60・・・(9)
で表される関係を満足し、前記ゴム補強用コードの強度が8.0g/d以上であることを特徴とするものである。このような接着剤処理を施すことにより、接着剤処理時および加硫時に強力が低下することなく、繰り返した圧縮歪下での耐疲労性にも優れ、かつ、均一な品質であるゴム補強用コードを得ることができる。
【0010】
本発明においては、前記ゴム補強用コードの強度は8.5g/d以上、好適には9.5g/d以上であり、かつ、単糸繊度は1.5〜10デニールの範囲内であることが好ましい。ゴム補強用コードの強度を8.5g/d以上、好適には9.5g/d以上とすることにより、タイヤ軽量化、低燃費化、省資源化、コスト低減、生産性向上等が可能となる。また、単糸繊度を1.5〜10デニールの範囲内とすることにより、接着剤処理時の強力低下を抑えつつ、紡糸時のフィラメントの均一な冷却を十分に確保することができる。また、本発明においては、前記ゴム補強用コードは6,6−ナイロンからなるコードであることが好ましい。
【0011】
また、本発明のゴム補強用コードの製造方法は、ゴム補強用コードにレゾルシン−ホルムアルデヒド/ゴムラテックス接着剤液を用いて接着剤処理した後に、該ゴム補強用コードを乾燥ゾーン、ヒートセットゾーンおよびノルマライジングゾーンに通すゴム補強用コードの製造方法において、
前記接着剤液が、レゾルシン/ホルムアルデヒド総量のモル比をR/F、レゾルシンおよびホルムアルデヒドの総質量とゴムラテックス固形分の総質量の比をRF/L、レゾルシン−ホルムアルデヒド/ゴムラテックス接着剤液の総固形分の質量に対するアルカリ金属水酸化物の質量%をS、レゾルシン−ホルムアルデヒド/ゴムラテックス接着剤液の総固形分の質量に対するNH水溶液のNHOHベースの質量%をA、レゾルシン−ホルムアルデヒド/ゴムラテックス接着剤液の総固形分の質量%をCとしたとき、下記(1)〜(6)式
1/2.3≦R/F≦1/1.1・・・(1)
1/10≦RF/L≦1/4・・・(2)
0.05≦S≦0.8・・・(3)
0≦A≦0.5・・・(4)
0.05≦S+A≦0.8・・・(5)
10≦C≦24・・・(6)
で表される関係式を満足し、かつ、ビニルピリジンラテックスと、スチレンブタジエンゴムラテックスと、アクリロニトリルブタジエンラテックスの各々の固形分質量の全ラテックス固形分質量に対する質量%をそれぞれa、b、cとしたとき、下記(7)〜(9)式、
10≦a≦80・・・(7)
0≦b≦70・・・(8)
20≦c≦60・・・(9)
で表される関係を満足し、前記ゴム補強用コードの強度が8.0g/d以上であることを特徴とするものである。これにより、接着剤処理時および加硫時に強力が低下することなく、繰り返した圧縮歪下での耐疲労性にも優れ、かつ、均一な品質であるゴム補強用コードを製造することができる。
【0012】
さらに、本発明のタイヤは、本発明のゴム補強用コードを補強材として用いたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、接着剤処理時および加硫時に強力が低下することなく、繰り返した圧縮歪下での耐疲労性にも優れ、かつ、均一な品質であるゴム補強用コードおよびその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明のゴム補強用コードの接着剤処理工程の一例を示す工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の好適な実施の形態について、詳細に説明する。
本発明のゴム補強用コードは、RFL接着剤液を用いて接着剤処理されゴム中に埋め込まれて加硫された後のゴム補強用コードにおいて、
前記接着剤液が、レゾルシン/ホルムアルデヒド総量のモル比をR/F、レゾルシンおよびホルムアルデヒドの総質量とゴムラテックス固形分の総質量の比をRF/L、レゾルシン−ホルムアルデヒド/ゴムラテックス接着剤液の総固形分の質量に対するアルカリ金属水酸化物の質量%をS、レゾルシン−ホルムアルデヒド/ゴムラテックス接着剤液の総固形分の質量に対するNH水溶液のNHOHベースの質量%をA、レゾルシン−ホルムアルデヒド/ゴムラテックス接着剤液の総固形分の質量%をCとしたとき、下記(1)〜(6)式、
1/2.3≦R/F≦1/1.1・・・(1)
1/10≦RF/L≦1/4・・・(2)
0.05≦S≦0.8・・・(3)
0≦A≦0.5・・・(4)
0.05≦S+A≦0.8・・・(5)
10≦C≦24・・・(6)
で表される関係式を満足し、かつ、ビニルピリジンラテックスと、スチレンブタジエンゴムラテックスと、アクリロニトリルブタジエンラテックスの各々の固形分質量の全ラテックス固形分質量に対する質量%をそれぞれa、b、cとしたとき、下記(7)〜(9)式、
10≦a≦80・・・(7)
0≦b≦70・・・(8)
20≦c≦60・・・(9)
で表される関係を満足し、前記ゴム補強用コードの強度が8.0g/d以上であることが肝要である。
【0016】
まず、本発明に係る接着剤液について説明する。
上述の通り、従来の接着剤液にはNRラテックスが配合されており、NRラテックスに由来するゲル分やゴミ等の不純物が存在する。これにより、ゴム補強用コードの品質を均一にすることが困難となる。そこで、NRラテックスに変え、不純物等が少ない合成ゴムラテックス、特には、NBRラテックスを配合することにより、均一な品質のゴム補強用コードを得ることが可能となる。
【0017】
上記(1)式のR/Fの値が1/2.3未満ではホルムアルデヒド量がレゾルシン量に対して多過ぎて、レゾルシン−ホルムアルデヒド間での架橋が進み過ぎ、熱処理後の最終的なレゾルシン−ホルムアルデヒド樹脂の網目が密になり過ぎるため、結果としてRFL接着剤層の硬さが硬くなり過ぎてしまう。一方、R/Fの値が1/1.1を超えると、ホルムアルデヒド量がレゾルシン量に対して少な過ぎて、レゾルシン−ホルムアルデヒド間での架橋が少なく、RFL層の強度が弱くなり、ゴムとの充分な接着が得られず、また、コード表面がベタついて作業性上好ましくない。好ましくは、1/2.0≦R/F≦1/1.3であり、より好ましくは、1/1.8≦R/F≦1/1.5である。
【0018】
また、上記(2)式のRF/Lが1/4を超えると、レゾルシンおよびホルムアルデヒドの総質量がゴムラテックス固形分の総質量に対し多過ぎ、結果としてRFL接着剤層の硬さが硬くなり過ぎてしまう。一方、RF/Lが1/10未満では逆にレゾルシンおよびホルムアルデヒドの総質量がゴムラテックス固形分の総質量に対し少な過ぎて、ゴムとの充分な接着が得られなくなる。好ましくは、1/8≦RF/L≦1/5である。
【0019】
さらに、上記(3)式のSの値が0.8質量%を超えるとホルムアルデヒドとレゾルシンの反応触媒であるアルカリ金属水酸化物の量が多過ぎるため、レゾルシン−ホルムアルデヒド間での架橋が進み過ぎ、熱処理後の最終的なレゾルシン−ホルムアルデヒド樹脂の網目が密過ぎることになる。その結果として、RFL接着剤層の硬さが硬くなり過ぎてしまう。一方、Sの値が0.05質量%未満では、逆にアルカリ金属水酸化物の量が少なすぎて、液がゲル化しやすく安定性が悪化してしまう。アルカリ金属水酸化物としては一般的にはNaOHがよいが、他のアルカリ金属水酸化物、例えばKOH等でもよいし、また、アルカリ土類金属水酸化物でもよい。Sの値としては、好ましくは、0.1≦S≦0.5、より好ましくは、0.1≦S≦0.3である。
【0020】
さらにまた、上記(4)式のAの値は、0≦A≦0.5とする必要がある。NH水溶液を少量添加することにより、ゴムとの接着性がやや向上するが、Aが0.5質量%を超えると、やはりホルムアルデヒドとレゾルシンの架橋反応が進み過ぎて、熱処理後のホルムアルデヒド−レゾルシン樹脂の網目が密となり、結果としてRFL接着剤層の硬さが硬くなり過ぎてしまう。Aの値としては、好ましくは、0≦A≦0.3である。
【0021】
また、上記(5)式のS+Aの値が0.8質量%を超えると、やはりホルムアルデヒドとレゾルシンの架橋反応が進み過ぎて、熱処理後のホルムアルデヒド−レゾルシン樹脂の網目が密となり、結果としてRFL接着剤層の硬さが硬くなり過ぎてしまう。S+Aの値としては、好ましくは、0.1≦S+A≦0.5である。
【0022】
さらに、上記(6)式のCの値が10質量%未満では、接着剤浸漬時にゴムとの接着に必要なだけの十分な接着剤固形分をコードに付着せしめることができない。一方、Cが24質量%を超えると濃度が高過ぎてRFL接着剤液がゲル化し易くなり、不安定になってしまう。Cの値としては、好ましくは、14≦C≦22である。
【0023】
次に、本発明に係る接着剤液中のラテックス成分であるが、上記(7)式のaの値が10質量%未満ではゴムとの充分な接着が得られない。一方、80質量%を超えると接着力の被着ゴム選択性が大きくなり好ましくなく、また、RFL液のコストも高くなり過ぎる。aの値としては、好ましくは、30≦a≦60(質量%)である。
【0024】
また、上記(8)式のbの値は、0≦b≦70である。ラテックス成分としてSBRラテックスを加えると耐熱接着性が向上し、好ましいが、bが70質量%を超えるとゴムとの接着性が低下してしまう。bの値としては、好ましくは、10≦b≦50(質量%)である。
【0025】
さらに、上記(9)式のcの値は、20≦c≦60である。cが20質量%未満では充分な加硫時の強力低下抑制効果が得られず、一方、cが60質量%を超えるとゴムとの充分な接着が得られない。cの値としては、好ましくは、25≦c≦50(質量%)である。
【0026】
上記(1)〜(9)の全ての要件を同時に満足する接着剤液を用いて接着剤処理を施すことにより、接着剤処理時および加硫時にコード強力が低下することなく、繰り返した圧縮歪下での耐疲労性にも優れたゴム補強用コード得ることが可能となる。これは、そのRFL接着剤層が従来のものとくらべて柔軟であり、コードを構成する各繊維フィラメントに対する接着剤層による拘束が少ないのでコード伸長時の各繊維フィラメントの均一な応力分担が達成でき、該コードが本来もっている高強力を発揮できるためであると考えられる。
【0027】
なお、酸性触媒前縮合タイプのノボラックRF樹脂を用いる場合、レゾルシンとホルムアルデヒドが直線状に縮合しているので、熱処理後の最終的なRF樹脂のレゾルシンとホルムアルデヒド網目がやや粗になり、RFL接着剤層が比較的柔軟になる傾向があるが、この場合でもやはりレゾルシン、ホルムアルデヒド、ラテックスの量比やアルカリ金属水酸化物量、ラテックス種および分率等の、上記(1)〜(9)の要件を同時に満たさないと、本発明の範囲に入らず、十分に繊維の強度を発揮することができない。
【0028】
ただし、前縮合タイプのノボラックRF樹脂を用いるとコード表面がベタついたり、液の安定性が通常アルカリ触媒のレゾール系と比べてやや劣る等の問題点があるので、通常アルカリ触媒のレゾール系の方が好ましい。
【0029】
本発明においては、RFL接着剤液を用いて接着剤処理されゴム中に埋め込まれて加硫された後のゴム補強用コードとして強度が8.0g/d以上であることもまた重要である。上記ゴム補強用コードの強度が8.0g/d未満では、例えば、当該ゴム補強用コードをタイヤの補強材として用いても、十分な強力を得ることができず、補強材の積層枚数の低減、コード打ち込み本数の減少、コード太さの細糸化等により充分なタイヤ軽量化、低燃費化、省資源化、コスト低減、生産性向上等の目的を達成することができない。好ましくは8.5g/d以上、より好ましくは9.5g/d以上である。
【0030】
なお、ゴム中に埋め込まれて加硫された後のゴム補強用コードとして強度が8.0g/d以上であるコードを得るためには、上記(1)〜(9)の条件を満足するRFL接着剤液にて接着剤処理をおこなうゴム補強用コードとして、接着剤処理前の生コードの強度が8.0g/d以上のコードを用いればよい。
【0031】
本発明においては、ゴム補強用コードの単糸繊度は1.5〜10デニールの範囲であることが好ましく、より好ましくは、3〜8デニールである。1.5デニール未満ではコードを構成するフィラメント本数が多くなり、フィラメント表面積も大き過ぎるため、乾燥熱処理後接着剤層の各繊維フィラメントに対する拘束と不均一応力分担が増大し、接着剤処理時に強力低下し易くなる。一方、10デニールより大きいと、紡糸時のフィラメントの均一冷却が妨げられ、安定して高強度糸を生産する上で好ましくない。
【0032】
本発明のゴム補強用コードの材質としては、ポリアミド繊維が好ましく、6,6−ナイロン、6−ナイロン、4,6−ナイロン、6,10−ナイロンおよびこれらの組み合わせによる共重合体もしくは混合物の脂肪族ポリアミド等を挙げることができるが、特には、6,6−ナイロンが好ましい。なお、その他、ポリエステル繊維、ポリケトン繊維等の有機繊維材であっても使用することができる。
【0033】
次に、本発明のゴム補強用コードの製造方法について説明する。
図1は、ゴム補強用コードの接着剤処理工程の一例を示す工程図である。図示例においては、まず、巻き出し装置1から送り出されたゴム補強用コード2は接着剤液3中に送り出され、浸漬処理された後、乾燥ゾーン4に送られる。乾燥ゾーン4でコードに浸漬した接着剤液が乾燥され、その後、ゴム補強用コード1はヒートセットゾーン5、ノルマライジングゾーン6を経て、冷却され、巻き取り装置7に巻き取られる。
【0034】
本発明のゴム補強用コードの製造方法は、ゴム補強用コード2にRFL接着剤液3を用いて接着剤処理した後に、乾燥ゾーン4、ヒートセットゾーン5およびノルマライジングゾーン6に通すゴム補強用コードの製造方法において、上述の(1)〜(9)式の条件を満足するRFL接着剤液を用いるものである。
【0035】
接着剤処理するにあたり、上記RFL接着剤液に浸漬する際のコード張力Tが0.3g/d以上では、該コード内部に接着剤液が充分含浸せず、上撚交差面でのフィラメント接触摩耗疲労に劣る。Tは、好ましくは0.2g/d以下、さらに好ましくは0.1g/d以下である。
【0036】
上述の接着剤液による処理の後、ゴム補強用コードを、既知の最適条件下で乾燥ゾーン、ヒートセットゾーンおよびノルマライジングゾーンに通すことができる。例えば、乾燥ゾーンの処理温度を150〜180℃とし、処理時間を30〜120秒とする。また、ヒートセットゾーンおよびノルマライジングゾーンでは、共に処理温度を240〜250℃、処理時間を30〜120秒、またコード張力を0.05〜1.20g/dとする。
【0037】
その後、得られたコードは、従来から用いられている手法にてゴム中に埋設することができる。例えば、カレンダーを用いてゴム中にコードを埋設する手法等があげられる。このようにして得られたゴム−コード複合体を、例えば、タイヤのプライ、ベルト等に適用して加熱成型し、本発明のゴム補強用コードを得ることができる。
【0038】
なお、ゴム中に埋め込まれて加硫された後のゴム補強用コードとして、強度を8.0g/d以上確保するためには、上述の通り、接着剤処理前の生コードの強度が8.0g/d以上のコードを用いればよい。
【実施例】
【0039】
以下、本発明を実施例を用いてより詳細に説明する。
(実施例1〜6および比較例1〜6)
<ポリアミド原糸>
試験に供する原糸として、(A)高強度6,6−ナイロン1890d、単糸繊度6d、原糸強度10.2g/dのもの、(B)超高強度6,6−ナイロン1890d、単糸繊度4d、原糸強度12.2g/dのもの、および(C)超高強度6−ナイロン1260d、単糸繊度3d、原糸強度13.0g/dのものそれぞれ計3種を用いた。原糸(A)、(B)については、撚り構造1890d/2で撚数32回/10cmとし、(C)については、撚り構造1260d/2で撚数39回/10cmとした。
【0040】
実施例1〜6および比較例1〜6におけるRFL接着剤液の調製法としては、まず軟水にレゾルシンを溶解させた後、NaOH水溶液を添加し、次いでホルマリンを添加し、室温下で6時間放置熟成させ、次いでNH水溶液を加える配合の場合はNH水溶液を加えた後、ラテックスを加え、更に室温下で24時間放置熟成させた後に接着剤処理に用いた。ラテックス成分として、実施例1〜6はNBRラテックスを、比較例1〜6にはNRラテックスを用いた。なお、RFL接着剤液の配合の詳細は表1および2に示す。
【0041】
本実施例における接着剤処理は、図1に示す工程に従いおこなった。まず、巻き出し装置1から送り出されたゴム補強用コード2は接着剤液3中に送り出され、接着剤処理される。その後、乾燥ゾーン4に送られ、ヒートセットゾーン5、ノルマライジングゾーン6を経て、冷却され、巻き取り装置7に巻き取られる。乾燥ゾーン、ヒートセットゾーン、ノルマライジングゾーンの各ゾーンにおいて、コードにかける温度、露出時間、張力は6,6−ナイロン繊維についてはそれぞれ130℃×120秒×0.8g/d、235℃×40秒×0.8g/d、230℃×40秒×0.5g/dとし、6−ナイロン繊維についてはそれぞれ130℃×120秒×0.8g/d、200℃×40秒×0.8g/d、195℃×40秒×0.5g/dとした。
【0042】
なお、各物性値の測定法は、次の通りである。
<破断強力、強度>
原糸、生コード、接着剤処理コード、加硫後コードともに全てJIS L1017に従い、島津製作所製オートグラフにて引張り試験をおこない、破断時の強力(kg)を求めた。また、強度(g/d)算出は次式に従い算出した。このときのコードデニールは、原糸についてはJIS L 1017の正量繊度を用いた。
強度=破断強力/正量繊度
加硫後のゴム中のコードについては、採取したコードからフィラメントを10本抜き取り、光学顕微鏡でフィラメント各1本ずつのコード径を求め、その平均フィラメント径から断面を真円形とみなして、フィラメント断面積を求めた。これと、断面観察して数えた総フィラメント本数とから単位長さ当りの体積を求め、これをポリアミド繊維の密度ρ(6,6−ナイロン、6−ナイロンの場合ρ=1.14)を用いて単位長さあたりの重量(デニール)に変換し、推定デニール数を求め、次式に従い強度を算出した。
強度=破断強力/推定デニール
【0043】
<接着力>
接着剤処理コードを下記の表3に示す未加硫配合ゴム組成物に埋め込み、153℃×20分にて加硫し、得られた加硫物からコードを掘り起こし、300mm/分の速度にて引張って加硫物から剥離し、コード1本あたりの剥離抗力を求めて、これを接着力(kg/本)とした。
【0044】
<加硫後ゴム中強力>
接着剤処理コードを下記表3の未加硫配合ゴム組成物中に埋め込み、コード両端を固定して153℃×40分間、定長状態にて加硫した。その後、定長状態のまま自然放冷後に加硫サンプルを取り出し、コード引き剥がし時のケバ立ちを避ける為、ゴムが周囲に付いたままのコードをハサミで切り出して、表面ゴムをでき得る限りそぎ落とした。かかるコードを表面ゴムが付いたままの状態で上記の方法で破断強力を測定した。
【0045】
<疲労テスト後強力保持率>
接着剤処理コードを、1890d/2は50本/5cm、1260d/2は60本/5cmの打ち込み数で並べて、前述の接着テストに用いたものと同じ未加硫配合ゴムの0.4mmシートを両側から張り合わせ、5cm幅×60cm長さのゴムトッピングシートを作製した。このようなトッピングシート2枚の間に厚さ3mmの未加硫配合ゴムシートを挟み、さらにこの上下面にサンプル全体の厚さが15mmになるように未加硫配合ゴムシートを張り合わせ、コード両端を固定して定長下で145℃×40分、20kg/cmの加圧下に加硫し、耐屈曲疲労性テスト用サンプルを作製した。次に、このサンプルを直径60mmのプーリーに掛け、両端より150kgの荷重を掛けて、120℃の雰囲気温度下で毎時5000回の繰り返し屈曲を加えた。100万回屈曲後に取り外し、2層のポリアミド繊維コード層のうち、プーリーに接する側(繰り返し圧縮歪を受ける側)のコードを取り出し、その破断強力を測定し、その値の屈曲テスト前の新品の強力に対する保持率(%)でコードの耐疲労性を表わした。
【0046】
【表1】

※:前縮合タイプのノボラックRF樹脂(保土谷化学(株)製:アドハーRF43%)レゾルシンとホルムアルデヒドが1:1で反応しているものとして計算。
【0047】
【表2】

【0048】
【表3】

【0049】
上記表1、2より、各実施例においては、接着剤処理時および加硫時に強力が低下することなく、繰り返した圧縮歪下での耐疲労性にも優れ、かつ、均一な品質であるゴム補強用コードが得られていることがわかる。
【符号の説明】
【0050】
1 巻き出し装置
2 ゴム補強用コード
3 接着剤液
4 乾燥ゾーン
5 ヒートセットゾーン
6 ノルマライジングゾーン
7 巻き取り装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レゾルシン−ホルムアルデヒド/ゴムラテックス接着剤液を用いて接着剤処理されゴム中に埋め込まれて加硫された後のゴム補強用コードにおいて、
前記接着剤液が、レゾルシン/ホルムアルデヒド総量のモル比をR/F、レゾルシンおよびホルムアルデヒドの総質量とゴムラテックス固形分の総質量の比をRF/L、レゾルシン−ホルムアルデヒド/ゴムラテックス接着剤液の総固形分の質量に対するアルカリ金属水酸化物の質量%をS、レゾルシン−ホルムアルデヒド/ゴムラテックス接着剤液の総固形分の質量に対するNH水溶液のNHOHベースの質量%をA、レゾルシン−ホルムアルデヒド/ゴムラテックス接着剤液の総固形分の質量%をCとしたとき、下記(1)〜(6)式、
1/2.3≦R/F≦1/1.1・・・(1)
1/10≦RF/L≦1/4・・・(2)
0.05≦S≦0.8・・・(3)
0≦A≦0.5・・・(4)
0.05≦S+A≦0.8・・・(5)
10≦C≦24・・・(6)
で表される関係式を満足し、かつ、ビニルピリジンラテックスと、スチレンブタジエンゴムラテックスと、アクリロニトリルブタジエンラテックスの各々の固形分質量の全ラテックス固形分質量に対する質量%をそれぞれa、b、cとしたとき、下記(7)〜(9)式、
10≦a≦80・・・(7)
0≦b≦70・・・(8)
20≦c≦60・・・(9)
で表される関係を満足し、前記ゴム補強用コードの強度が8.0g/d以上であることを特徴とするゴム補強用コード。
【請求項2】
前記ゴム補強用コードの強度が8.5g/d以上であり、かつ、単糸繊度が1.5〜10デニールの範囲内である請求項1記載のゴム補強用コード。
【請求項3】
前記ゴム補強用コードの強度が9.5g/d以上である請求項2記載のゴム補強用コード。
【請求項4】
前記ゴム補強用コードが6,6−ナイロンからなるコードである請求項1〜3のうちいずれか一項記載のゴム補強用コード。
【請求項5】
ゴム補強用コードにレゾルシン−ホルムアルデヒド/ゴムラテックス接着剤液を用いて接着剤処理した後に、該ゴム補強用コードを乾燥ゾーン、ヒートセットゾーンおよびノルマライジングゾーンに通すゴム補強用コードの製造方法において、
前記接着剤液が、レゾルシン/ホルムアルデヒド総量のモル比をR/F、レゾルシンおよびホルムアルデヒドの総質量とゴムラテックス固形分の総質量の比をRF/L、レゾルシン−ホルムアルデヒド/ゴムラテックス接着剤液の総固形分の質量に対するアルカリ金属水酸化物の質量%をS、レゾルシン−ホルムアルデヒド/ゴムラテックス接着剤液の総固形分の質量に対するNH水溶液のNHOHベースの質量%をA、レゾルシン−ホルムアルデヒド/ゴムラテックス接着剤液の総固形分の質量%をCとしたとき、下記(1)〜(6)式
1/2.3≦R/F≦1/1.1・・・(1)
1/10≦RF/L≦1/4・・・(2)
0.05≦S≦0.8・・・(3)
0≦A≦0.5・・・(4)
0.05≦S+A≦0.8・・・(5)
10≦C≦24・・・(6)
で表される関係式を満足し、かつ、ビニルピリジンラテックスと、スチレンブタジエンゴムラテックスと、アクリロニトリルブタジエンラテックスの各々の固形分質量の全ラテックス固形分質量に対する質量%をそれぞれa、b、cとしたとき、下記(7)〜(9)式、
10≦a≦80・・・(7)
0≦b≦70・・・(8)
20≦c≦60・・・(9)
で表される関係を満足し、前記ゴム補強用コードの強度が8.0g/d以上であることを特徴とするゴム補強用コードの製造方法。
【請求項6】
請求項1〜4のうちいずれか一項記載のゴム補強用コードを補強材として用いたことを特徴とするタイヤ。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2010−280998(P2010−280998A)
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−133273(P2009−133273)
【出願日】平成21年6月2日(2009.6.2)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】